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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C07D
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C07D
審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  C07D
審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  C07D
管理番号 1117839
異議申立番号 異議2002-70922  
総通号数 67 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2000-09-05 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-04-09 
確定日 2005-04-04 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3217380号「N―置換2―シアノピロリジン」の請求項1ないし5に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3217380号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3217380号の発明については、平成9年11月5日に出願され、平成13年8月3日にその特許権の設定登録がなされ、その後、上坂陽子及び佐伯憲生より特許異議の申し立てがなされ、当審により取り消し理由通知がなされ、その指定期間内である平成16年1月5日に訂正請求がなされたものである。

2.訂正の適否についての判断
ア.訂正の内容
特許権者が求めている訂正の内容は、以下のとおりである。
訂正事項a.
本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1を削除する。
訂正事項b.
本件特許明細書の特許請求の範囲の「【請求項2】」を「【請求項1】」と訂正する。
訂正事項c.
本件特許明細書の特許請求の範囲の「【請求項3】」を「【請求項2】」と訂正するとともに、「請求項2」を「請求項1」と訂正する。
訂正事項d.
本件特許明細書の特許請求の範囲の「【請求項4】」を「【請求項3】」と訂正するとともに、「請求項2」を「請求項1」と訂正する。
訂正事項e.
本件特許明細書の特許請求の範囲の「【請求項5】」を「【請求項4】」と訂正する。

イ.訂正の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記の訂正事項a.は、請求項1を削除するものであるから、特許請求の範囲を減縮することを目的とした明細書の訂正に該当し、また、訂正事項b.〜d.は、上記訂正事項a.による請求項1の削除に合わせて特許明細書の記載を整合させるものであるから、不明瞭な記載の釈明を目的とする訂正に該当する。
そして、上記の訂正事項は、特許明細書に記載された事項の範囲内のものであって、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。

ウ.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正請求は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項で準用する第126条第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.特許異議の申立てについて
ア.本件発明
特許第3217380号の請求項1〜4に係る発明は、訂正明細書に記載された次のとおりのものである(以下、それぞれ、「本件訂正発明1」などという。)。
「【請求項1】遊離形または酸付加塩形の式I:
(式略)
[式中、
Rは:
a)R1R1aN(CH2)m-
式中、R1は、所望により(C1-4)アルキル、(C1-4)アルコキシ、ハロゲン、トリフルオロメチル、シアノまたはニトロで一置換または独立して二置換されていてもよいピリジニルまたはピリミジニル部分;または所望により(C1-4)アルキル、(C1-4)アルコキシまたはハロゲンで一置換または独立して二置換されていてもよいフェニル;
R1aは水素または(C1-8)アルキル;そして
mは2または3;
b)所望により1位を(C1-3)ヒドロキシアルキルで一置換されていてもよい(C3-12)シクロアルキル;
c)R2(CH2)n-
式中、R2は所望により(C1-4)アルキル、(C1-4)アルコキシ、ハロゲン、または所望によりフェニル環をヒドロキシメチルで一置換されていてもよいフェニルチオで一置換または独立して二置換または独立して三置換されていてもよいフェニル;または(C1-8)アルキル;所望により(C1-8)アルキルで一置換または多置換されていてもよい[3.1.1]二環式炭素環部分;所望により(C1-4)アルキル、(C1-4)アルコキシまたはハロゲンで一置換または独立して二置換されていてもよいピリジ二ルまたはナフチル部分;シクロへキセン;またはアダマンチル;そして
nは1から3;または
R2は所望により(C1-4)アルキル、(C1-4)アルコキシまたはハロゲンで一または独立して二置換されていてもよいフェノキシ;そして
nは2または3;
d)(R3)2CH(CH2)2-
式中、各R3は、独立して所望により(C1-4)アルキル、(C1-4)アルコキシまたはハロゲンで一置換または独立して二置換されていてもよいフェニル;
e)R4(CH2)p-
式中、R4は2-オキソピロリジニルまたは(C2-4)アルコキシ、そしてpは2から4;
f)所望により1位を(C1-3)ヒドロキシアルキルで一置換されていてもよいイソプロピル;
g)R5 式中、R5はインダニル;所望によりベンジルで置換されていてもよいピロリジニルまたはピペリジニル部分;所望により(C1-8)アルキルで一置換または多置換されていてもよい[2.2.1]-または[3.1.1]二環式炭素環部分;アダマンチル;または所望によりヒドロキシ、ヒドロキシメチルまたはフェニル(当該フェニルは所望により、(C1-4)アルキル、(C1-4)アルコキシまたはハロゲンで一置換または独立して二置換されていてもよい)で一置換または独立して多置換されていてもよい(C1-8)アルキル]
の化合物。
【請求項2】RがRp[Rpは
a)R1pNH(CH2)2-
式中、R1pは、所望によりハロゲン、トリフルオロメチル、シアノまたはニトロで一置換または独立して二置換されていてもよいピリジニルまたはピリミジニル部分;
b)所望により1位を(C1-3)ヒドロキシアルキルで一置換されていてもよい(C3-7)シクロアルキル;
c)R2p(CH2)2-
式中、R2pは所望によりハロゲンまたは(C1-3)アルコキシで一置換または独立して二置換または独立して三置換されていてもよいフェニル;
d)(R3p)2CH(CH2)2-
式中、各R3pは、独立して所望によりハロゲンまたは(C1-3)アルコキシで一置換されていてもよいフェニル;
e)R4(CH2)3-
式中、R4は2-オキソピロリジニルまたは(C2-4)アルコキシ;
f)所望により1位を(C1-3)ヒドロキシアルキルで一置換されていてもよいイソプロピル]
である、遊離形または酸付加塩形の請求項1記載の化合物(化合物Ip)。
【請求項3】Rが2-[(5-シアノピリジン-2-イル)アミノ]エチルである、すなわち1-[2-[(5-シアノピリジン-2-イル)アミノ]-エチルアミノ]アセチル-2-シアノ-(S)ピロリジンである、遊離形または酸付加塩形の請求項1記載の化合物。
【請求項4】遊離形または薬学的に許容される塩形の請求項1記載の化合物を、少なくとも一つの薬学的に許容される担体または希釈剤と共に含む、医薬組成物。」

イ.申立の理由の概要
特許異議申立人上坂陽子(以下、「申立人A」という。)は、証拠として甲第1号証(Archives of Biochemistry and Biophysics、第323巻、第1号、第148〜154頁(1995年10月20日発行))及び甲第2号証(国際公開WO95/15309号パンフレット)を提出し、訂正前の本件請求項1及び5に係る発明は、甲第1及び2号証に記載された発明と同一であるか、またはこれらに記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項または第2項の規定により特許を受けることができず(主張A-1)、また、訂正前の本件請求項1及び5に係る特許は、その明細書が特許法第36条第6項第2号及び同条第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきである(主張A-2)と主張する。
また、特許異議申立人佐伯憲生(以下、「申立人B」という。)は、甲第1号証(国際公開WO95/15309号パンフレット、申立人Aの甲第2号証と同じ)、甲第2号証(Pauly, et al., Regulatory Peptides, 64(1996),p148)、甲第3号証(Jingrong Li,et al., Arch.Biochem. Biophys.,323(1995),pp148-154))及び甲第4号証(Jingrong Li, et al., J.Neurochem.,323(5)(1996),pp2105-2112))を提出し、訂正前の本件請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号の規定に該当し特許を受けることができず(主張B-1)、訂正前の本件請求項1及び5に係る発明は甲第4号証に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号の規定に該当し特許を受けることができず(主張B-2)、また、訂正前の本件請求項1及び5に係る発明は、甲第3号証又は甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反し、特許を受けることができず(主張B-3)、訂正前の本件請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反し、特許を受けることができず(主張B-4)、訂正前の本件請求項2及び3に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反し、特許を受けることができず(主張B-5)、訂正前の本件請求項5に係る発明は、甲第1及び2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反し、特許を受けることができず(主張B-6)、また、訂正前の本件請求項1及び5に係る特許は、その明細書が特許法第36条第4項又は同条第5項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきである(主張B-7)と主張する。

ウ.申立人が提出した甲各号証記載の発明
申立人Aが提出した甲第1号証は、ジペプチジルペプチダーゼIV(DPP-IVとも称される)の阻害剤に関する文献であり、具体的な化合物として、N-(N’-Fmocフェニルアラニル)-2-シアノピロリジン(第150頁右欄下から22行)及びN-(N’-Fmocアラニル)-シアノピロリジン(第151頁左欄第47行)が記載されている(ここで、「Fmoc」は、「9-フルオレニルメチルオキシカルボニル」の略称)。
また、申立人Aが提出した甲第2号証は、ジペプチジルペプチダーゼIV(=DPP-IV)のインヒビターに関するものであり、その第4頁1〜2行に「本発明者は、科学的に安定な(t1/2>24時間)、DP-IV(=DPP-IV)の、良く効く競合的インヒビター(10-6〜10-10の範囲のKi値を持つ)を開示する。」と記載され、さらに具体的な化合物として、No.11〜13には、N-イソロイシル-2-シアノピロリジン、N-リジル-2-シアノピロリジン(リジル基側鎖のZ基による保護基)、及びN-プロリル-2-シアノピロリジンが、また、No.16には、N-αーシクロペンチルグリシル-2-シアノピロリジンが記載されている。
申立人Bが提出した甲第1号証は、申立人Bが提出した甲第1号証と同一のものであり、甲第2号証は、ジペプチジルペプチダーゼ(DPP-IV)阻害剤によりインシュリンの分泌応答が高まり、血液中のグルコースのクリアランスが早くなり、損なわれた耐糖能を示す病態(例えば、糖尿病など)における有効な治療剤となることについての発明が記載されている。
また、同じく申立人Bが提出した甲第3号証は、アミノアシルピロリジン-2-ニトリル類が活性で安定なジペプチジルペプチダーゼIV阻害剤であることが記載され、第148頁左欄の要約の項、第6〜16行には、「プロリンのカルボキシル基をニトリル基置換したアミノアシルピロリジン-2-ニトリル類を、ジペプチジルペップチダーゼIVの阻害剤として合成した。すべての化合物は、ラットの腎臓の酵素の均一な調整物を、サブマイクロモルの範囲よりも低いKi値を有する程度に十分に阻害する。ニトリルは活性サイトのセリンと反応してイミデート付加物を形成すると考えられる。これらの化合物は室温で72時間又は37℃で20時間インキュベートしても安定であった。」と記載され、具体的には、N-Fmoc-Phe-Pyrr-2-CN(第150頁右欄の(b)項)、N-Fmoc-Arg(PMC)-Pyrr-2-CN(第151頁左欄第7〜16行)、及びN-Fmoc-Ala-Pyrr-2-CN(第151頁左欄第47〜53行)が記載されている。
さらに、同じく申立人Bが提出した甲第4号証には、「簡単な2ステップ合成法により調整されたFmoc-アミノアシルピロリジンー2-ニトリル類は、ウサギ脳の酵素(訳注:プロリルオリゴペプチダーゼ)の酵素活性を非競争的に阻害した。最も重要な阻害剤は、Fmoc-プロリルーピロリジンー2-ニトリル及びFmoc-アラニルーピロリジンー2-ニトリルであり、それぞれのKi値は5nMであった。これらの化合物は細胞浸透性であり、安定であった。これらの化合物は関連する酵素であるジペプチジルペプチダーゼIV・・・を阻害しなかった。」と記載(第2105頁左欄の要約の項、第10〜17行)されている。

エ.対比・判断
エー1.申立人Aの主張について
(主張A-1)
主張A-1は、訂正前の請求項1及び5に係る発明についてのものであるところ、請求項1及び請求項5において請求項1を引用する部分はいずれも上記訂正により特許請求の範囲から削除されたので、その対象のないものとなり、その主張は妥当でない。
(主張A-2)
主張A-2は、訂正前の請求項1及び5に係る発明についての記載不備をいうものであるところ、請求項1及び請求項5において請求項1を引用する部分はいずれも上記訂正により特許請求の範囲から削除されたので、その対象のないものとなり、その主張は妥当でない。
エー2.申立人Bの主張について
(主張B-1)
主張B-1は、訂正前の請求項1に係る発明についてのものであるところ、該発明は上記訂正により特許請求の範囲から削除されたので、その対象のないものとなり、その主張は妥当でない。
(主張B-2)
主張B-2は、訂正前の請求項1及び5に係る発明についてのものであるところ、請求項1及び請求項5において請求項1を引用する部分は上記訂正により特許請求の範囲から削除されたので、その対象のないものとなり、その主張は妥当でない。
(主張B-3)
主張B-3は、訂正前の請求項1及び5に係る発明についてのものであるところ、請求項1及び請求項5において請求項1を引用する部分は上記訂正により特許請求の範囲から削除されたので、その対象のないものとなり、その主張は妥当でない。
(主張B-4)
主張B-4は、訂正前の請求項1に係る発明についてのものであるところ、該発明は上記訂正により特許請求の範囲から削除されたので、その対象のないものとなり、その主張は妥当でない。
(主張B-5)
訂正前の請求項2及び3に係る発明は、それぞれ、本件訂正発明1及び2に相当する。
本件訂正発明1及び2に係る化合物と、甲第1号証に記載された化合物とを対比すると、αーアミノ酸でピロリジンのNが置換された(ピロリジンの)N-置換-2-シアノピロリジン誘導体である点で一致し、一方、前者においては、アミノ酸残基のαー炭素原子が置換されていないのに対して、後者においては該αー炭素原子が置換されていることを必須とするものである点で相違する。
そこでこの相違点について検討すると、甲第1号証には、多数の化合物が具体的に記載されているが、いずれもアミノ酸残基のαー炭素原子が各種の置換基で置換されたもののみであり、しかも、それらを包含する化合物を表す一般式の定義においても、対応するαーアミノ酸由来部分が「環状脂肪族側鎖(例えばC4〜C10、単環又は二環)」(甲第1号証、第5頁下から8〜7行)で置換されており、これらの記載から見て、DPP-IV阻害剤として機能するためには、該αー炭素原子が置換基を有することが必須の条件として記載されているといえるから、この置換基を有しない、しかもグリシン由来部分のNが特定の基で置換されている化合物が、同様にDPP-IV阻害活性を示すことを当業者が容易に想到することはできないといわざるをえない。
したがって、申立人Bの主張(B-5)は妥当でない。
(主張B-6)
主張B-6は、訂正前の請求項1及び5に係る発明についてのものであるところ、請求項1及び請求項5において請求項1を引用する部分は上記訂正により特許請求の範囲から削除されたので、その対象のないものとなり、その主張は妥当でない。
(主張B-7)
主張B-7は、訂正前の請求項1及び5に係る発明についての記載不備をいうものであるところ、請求項1及び請求項5において請求項1を引用する部分はいずれも上記訂正により特許請求の範囲から削除されたので、その対象のないものとなり、その主張は妥当でない。
したがって、申立人A及びBの主張はいずれも妥当でない。

オ.むすび
したがって、本件訂正発明1〜4についての特許は、特許異議申立ての理由及び証拠によっては取り消すことができない。
また、他に本件発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
N-置換2-シアノピロリジン
【発明の詳細な説明】
分野
本発明は、N-置換2-シアノピロリジンに関する。より具体的に、新規N-グリシル-2-シアノピロリジン誘導体を提供する。
背景
ジペプチジルペプチダーゼ-IV(DPP-IV)は、好ましくは、最後から2番目の位置にプロリン残基を含むペプチド鎖から、N-末端ジペプチドを開裂するセリンプロテアーゼである。DPP-IVの哺乳類器官におはる生物学的役割はまた完全には確立されていないが、ニューロペプチド代謝、T-細胞活性化、癌細胞の内皮への結合およびHIVのリンパ細胞への侵入に重要な役割を担うと考えられている。DPP-IVはグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)の不活性化を担う。より具体的に、DPP-IVはGLP-1のアミノ末端His-Alaジペプチドを開裂し、GLP-1レセプターアンタゴニストを産生し、それによりGLP-1の生理学的反応を短くする。DPP-IV開裂に関する半減期がGLP-1の循環からの排泄の半減期よりかなり短いため、GLP-1生理活性の有意な上昇(5から10倍)がDPP-IV阻害により予測される。GLP-1は膵臓インシュリン分泌の主要な刺激剤であり、グルコース排泄に直接有利な作用を有し、DPP-IV阻害は非インシュリン依存的糖尿病(NIDDM)の治療に魅力的な試みを提示する。
多くのDPP-IV阻害剤が記載されているが、全て効果、安定性または毒性に関する限界がある。従って、DPP-IV阻害により介在される疾病の処置に有用であり、上記の限界がない新規DPP-IV阻害剤の必要性が非常にある。
本発明の要約
本発明は、DPP-IVにより介在される疾病の処置にDPP-IV阻害剤として有効な新規N-(N’-置換グリシル)-2-シアノピロリジンを提供する。対応する医薬組成物、その製造法、処置を必要とする患者に有効量のそれを投与することを含むDPP-IVの阻害法、医薬として使用する化合物、DPP-IVにより介在される疾病の処置用医薬の製造法におけるその使用にも関する。
詳細な説明
本発明は、以後、簡単に“本発明の化合物”と呼ぶN-(N’-置換グリシル)-2-シアノピロリジンに関する;より具体的に、遊離形または酸付加塩形の式I:

〔式中、
Rは:
a)R1R1aN(CH2)m-
式中、R1は、所望により(C1-4)アルキル、(C1-4)アルコキシ、ハロゲン、トリフルオロメチル、シアノまたはニトロで一置換または独立して二置換されているピリジニルまたはピリミジニル部分;または所望により(C1-4)アルキル、(C1-4)アルコキシまたはハロゲンで一または独立して二置換されていてもよいフェニル;
R1aは水素または(C1-8)アルキル;そして
mは2または3;
b)所望により1位を(C1-3)ヒドロキシアルキルで一置換されていてもよい(C3-12)シクロアルキル;
c)R2(CH2)n-
式中、R2は所望により(C1-4)アルキル、(C1-4)アルコキシ、ハロゲン、または所望によりフェニル環をヒドロキシメチルで一置換されていてもよいフェニルチオで一置換または独立して二置換または独立して三置換されていてもよいフェニル;または(C1-8)アルキル;所望により(C1-8)アルキルで一置換または多置換されていてもよい[3.1.1]二環式炭素環部分;所望により(C1-4)アルキル、(C1-4)アルコキシまたはハロゲンで一置換または独立して二置換されていてもよいピリジニルまたはナフチル部分;シクロヘキセン;またはアダマンチル;そして
nは1から3;または
R2は所望により(C1-4)アルキル、(C1-4)アルコキシまたはハロゲンで一または独立して二置換されていてもよいフェノキシ;そして
nは2または3;
d)(R3)2CH(CH2)2-
式中、各R3は、独立して所望により(C1-4)アルキル、(C1-4)アルコキシまたはハロゲンで一または独立して二置換されていてもよいフェニル;
e)R4(CH2)p-
式中、R4は2-オキソピロリジニルまたは(C2-4)アルコキシ、そしてpは2から4;
f)所望により1位を(C1-3)ヒドロキシアルキルで置換されていてもよいイソプロピル;
g)R5
式中、R5はインダニル;所望によりベンジルで置換されていてもよいピロリジニルまたはピペリジニル部分;所望により(C1-8)アルキルで一または多置換されていてもよい[2.2.1]-または[3.1.1]二環式炭素環部分;アダマンチル;または所望によりヒドロキシ、ヒドロキシメチルまたはフェニル(所望により、(C1-4)アルキル、(C1-4)アルコキシまたはハロゲンで一または独立して二置換されていてもよい)で一または多置換されていてもよい(C1-8)アルキル〕
の化合物に関する。
式Iの化合物は、遊離形または酸付加塩の形で存在できる。塩形は遊離化合物から既知の方法で回収し得、逆もそうである。酸付加塩は、例えば、薬学的に許容される有機または無機酸のそれである。好ましい酸付加塩は塩酸塩であるが、メタンスルホン酸、硫酸、リン酸、クエン酸、乳酸および酢酸の塩も使用し得る。
本発明の化合物は、光学活性異性体またはジアステレオ異性体の形で存在し得、クロマトグラフィーのような慣用法で分離および回収できる。
“アルキル”および“アルコキシ”は、直鎖または分枝鎖であり、後者の例はイソプロピルおよびtert-ブチルである。
Rは好ましくは上記のa)、b)またはe)である。R1は好ましくは上記で定義のように所望により置換されていてもよいピリジニルまたはピリミジニル部分である。R1aは好ましくは水素である。R2は好ましくは上記で定義のように所望により置換されていてもよいフェニルである。R3は好ましくは非置換フェニルである。R4は好ましくは上記で定義のアルコキシである。R5は好ましくは上記で定義のように所望により置換されていてもよいアルキルである。mは好ましくは2である。nは好ましくは1または2、特に2である。pは好ましくは2または3、特に3である。
ピリジニルは好ましくはピリジン-2-イルである;好ましくは、非置換であるか、好ましくは5位を一置換されている。ピリミジニルは好ましくはピリミジン-2-イルである。これは好ましくは非置換であるか、好ましくは4位を一置換されている。ピリジニルおよびピリミジニルの置換基として好ましいのは、ハロゲン、シアノおよびニトロ、特に塩素である。
置換されている場合、フェニルは好ましくは一置換である;これは好ましくはハロゲン、好ましくは塩素またはメトキシで置換される。これは好ましくは、2-、4-および/または5-位、特に4-位を置換される。
(C3-12)シクロアルキルは好ましくはシクロペンチルまたはシクロヘキシルである。置換されている場合、これは好ましくはヒドロキシメチルで置換される。(C1-4)アルコキシは好ましくは1または2炭素原子のもの、特にメトキシである。(C2-4)アルコキシは好ましくは3炭素原子のもの、特にイソプロポキシである。ハロゲンはフッ素、塩素、臭素またはヨウ素、好ましくはフッ素、塩素または臭素、特に塩素である。(C1-8)アルキルは好ましくは1から6、好ましくは1から4または3から5、特に2または3炭素原子のもの、またはメチルである。(C1-4)アルキルは好ましくはメチルまたはエチル、特にメチルである。(C1-3)ヒドロキシアルキルは好ましくはヒドロキシメチルである。
上記で定義のように所望により置換されていてもよい[3.1.1]二環式炭素環部分は、所望により6位をメチルで二置換されていてもよいビシクロ[3.1.1]ヘプト-2-イル、または所望により一つのメチルで2位および二つのメチル基で6位を三置換されていてもよいビシクロ[3.1.1]ヘプト-3-イルである。上記で定義のように所望により置換されていてもよい[2.2.1]二環式炭素環は、好ましくはビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-イルである。
ナフチルは好ましくは1-ナフチルである。シクロヘキセンは好ましくはシクロヘキシ-1-エン-1-イルである。アダマンチルは好ましくは1-または2-アダマンチルである。
上記で定義のように所望により置換されていてもよいピロリジニルまたはピペリジニル部分は、好ましくはピロリジン-3-イルまたはピペリジン-4-イルである。置換されている場合、好ましくはN-置換である。
本発明の化合物の好ましいグループは、遊離形または酸付加塩形の、式中、RがR’〔R’は:
-R1’NH(CH2)2-、ここでR1’は所望によりハロゲン、トリフルオロメチル、シアノまたはニトロで一または独立して二置換されていてもよいピリジニル;または非置換ピリジニル;
-所望により、1位を(C1-3)ヒドロキシアルキルで一置換されていてもよい(C3-7)シクロアルキル;
-R4’(CH2)3-、ここでR4’は(C2-4)アルコキシ;または
-R5、ここでR5は上記で定義の通り〕
である式Iの化合物(化合物Ia)である。
より好ましくは、遊離形または酸付加塩形の、式中、RがR″〔R″は:
-R1″NH(CH2)2-、ここでR1″はハロゲン、トリフルオロメチル、シアノまたはニトロで一または独立して二置換されてるピリジニル;
-1位を(C1-3)ヒドロキシアルキルで一置換されている(C4-6)シクロアルキル;
-R4’(CH2)3-、ここでR4’は上記で定義の通り;または
-R5’、ここでR5’は所望により(C1-8)アルキルで一または多置換されていてもよい[2.2.1]-または[3.1.1]二環式炭素環部分;またはアダマンチル〕である式Iの化合物(化合物Ib)である。
より更に好ましくは、遊離形または酸付加塩形の、式中、RがR″’〔R″’は:
-R1R″NH(CH2)2-、ここでR1″は上記で定義の通り;
-1位をヒドロキシメチルで一置換されている(C4-6)シクロアルキル;
-R4’(CH2)3-、ここでR4’は上記で定義の通り;または
-R5″、ここでR5″はアダマンチル〕
である式Iの化合物(化合物Ic)である。
本発明の化合物の更なるグループは、遊離形または酸付加塩形の化合物Ipであり、式中RはRp
〔a)R1pNH(CH2)2-
式中、R1pは、所望によりハロゲン、トリフルオロメチル、シアノまたはニトロで一置換または独立して二置換されているピリジニルまたはピリミジニル部分;
b)所望により1位を(C1-3)ヒドロキシアルキルで一置換されていてもよい(C3-7)シクロアルキル;
c)R2p(CH2)2-
式中、R2pは所望によりハロゲンまたは(C1-3)アルコキシで一または独立して二置換または独立して三置換されていてもよいフェニル;
d)(R3p)2CH(CH2)2-
式中、各R3pは、独立して所望によりハロゲンまたは(C1-3)アルコキシで一置換されていてもよいフェニル;
e)R4(CH2)3-
式中、R4は上記で定義の通り;
f)所望により1位を(C1-3)ヒドロキシアルキルで置換されていてもよいイソプロピル〕
である。
本発明の化合物の更なるグループは、遊離形または酸付加塩形の化合物Isであり、式中RはRs
〔a)R1sR1as(CH2)ms-
式中、R1sは所望により塩素、トリフルオロメチル、シアノまたはニトロで一置換または独立して二置換されているピリジニル部分;所望により塩素またはトリフルオロメチルで一置換されているピリミジニル部分;またはフェニル;
R1asは水素またはメチル;そして
msは2または3;
b)所望により1位をヒドロキシメチルで一置換されていてもよい(C3-12)シクロアルキル;
c)R2s(CH2)ns-
式中、R2sは所望によりハロゲン、1または2炭素原子のアルコキシまたはフェニル環をヒドロキシメチルで一置換されたフェニルチオで一または独立して二置換または独立して三置換されていてもよいフェニル;(C1-6)アルキル;6,6-ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト-2-イル;ピリジニル;ナフチル;シクロヘキセン;またはアダマンチル;そしてnsは1から3;または
R2sはフェノキシ;そしてnsは2;
d)(3,3-ジフェニル)プロピル;
e)R4s(CH2)ps-
式中、R4sは2-オキソピロリジン-1-イルまたはイソプロピルそしてpsは2または3;
f)所望により1位をヒドロキシメチルで一置換されていてもよいイソプロポキシ;
g)R5s
式中、R5sはインダニル;所望によりベンジルでN-置換されていてもよいピロリジニルまたはピペリジニル;ビシクロ[2.2.1]-ヘプト-2-イル;2,6,6-トリメチルビシクロ-[3.1.1]ヘプト-3-イル;アダマンチル;または所望によりヒドロキシ、ヒドロキシメチルまたはフェニルで一または独立して二置換されていてもよい(C1-8)アルキル〕
である。
本発明の化合物は、反応性(2-シアノピロリジノ)カルボニルメチレン化合物と適当な置換アミンの結合を含む方法により製造し得る;より具体的に、式Iの製造のために、式II

〔式中、Xは反応性基〕
の化合物と式III
NH2R III
〔式中、Rは上記で定義の通り〕
の化合物を反応させ、得られる遊離形または酸付加塩形の式Iの化合物を回収することを含む。
Xは好ましくは臭素、塩素またはヨウ素のようなハロゲンである。
本発明の方法は、慣用法で行い得る。
式IIの化合物は、好ましくは少なくとも3当量の式IIIの1級アミンと反応させる。反応は、簡便には不活性、有機溶媒、好ましくはテトラヒドロフランのような環状エーテルの存在下で行う。温度は好ましくは約0°から約35℃、好ましくは約0°から約25℃の間である。
本発明の化合物は、慣用法、例えば、クロマトグラフィーにより、反応混合物から単離し、精製し得る。
出発物質も慣用法で製造し得る。
式IIの化合物は、例えば、以下の2段階反応スキーム:

により製造し得る。
ステップ1は式IVのピロリジンと僅かにモル過剰のブロモアセチルブロミドまたはクロロアセチルクロリドのようなハロアセチルハライドおよびトリエチルアミンならびに触媒量のジメチルアミノピリジン(DMAP)との反応を含む。本反応は、簡便には不活性、有機溶媒、好ましくは塩化メチレンのような塩素化、脂肪族炭化水素の存在下、約0°から約25℃、好ましくは約0°から約15℃の範囲の温度で行う。
ステップ2はステップ1で製造した式Vの化合物の、少なくとも2当量のトリフルオロ酢酸無水物(TFAA)による脱水に関する。脱水は、好ましくはテトラヒドロフランのような不活性、有機溶媒または塩化メチレンのような塩素化、脂肪族炭化水素存在下、約0°から約25℃、好ましくは約0°から約15℃の間の温度で行う。
その製造が本明細書に具体的に記載されていない限り、出発物質として使用する化合物は既知であるか、または既知の化合物から既知の方法で、または既知の方法と類似のまたは実施例に記載の方法と類似の方法で製造し得る。
以下の実施例は本発明を説明する。全ての温度は摂氏である。
実施例1:1-[2-[5-クロロピリジン-2-イル)アミノ]エチルアミノ]アセチル-2-シアノ-(S)-ピロリジン
500mlフラスコに、2-[(5-クロロピリジン-2-イル)アミノ]エチルアミン16.6gおよびテトラヒドロフラン100mlを入れ、混合物を氷浴で冷却する。冷却した混合物に、テトラヒドロフラン30mlに溶解した(2-シアノピロリジノ)カルボニルメチレン-(S)-ブロミド7.0gを添加する。得られる混合物を2時間0°で攪拌し、溶媒を回転蒸発(rotovaping)により除去し、混合物を酢酸エチルと水に分配する。生産物を次いで酢酸エチル相に抽出し、水相を次いで2回酢酸エチルで洗浄する。合わせた有機相を連続して水および食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥させて濃縮して所望の遊離塩基化合物を粗形で得る。粗形を次いで塩化メチレン中の5%メタノールを溶出液として用いたシリカゲルで精製し、薄茶色油状物として遊離塩基形の表題化合物を得る。
遊離塩基を乾燥テトラヒドロフラン30mlに溶解した後、塩化水素ガスを溶液に5秒通し、あわ立たせる。形成した灰白色沈殿を濾過し、乾燥テトラヒドロフランで洗浄し、溶媒を高真空ポンピングで除去して二塩酸付加塩形の表題化合物を得る(灰白色固体;m.p.265°-267°;NMR:下記表の下部の*参照)
出発物質は下記のように得る:
a)(S)-2-カルバモイルピロリジン22.37g、トリエチルアミン30.1mlおよびジメチルアミノピリジン(DMAP)30.0mgを塩化メチレン200mlに溶解し、次いで本溶液を、塩化メチレン192ml中のブロモアセチルブロミド18.8mlの氷冷溶液に、60分にわたり硫酸カルシウム乾燥管下で滴下する。得られる溶液を2時間、氷水温度で硫酸カルシウム乾燥管下で攪拌し、次いで酢酸エチル3.5リットルに注ぐ。得られる沈殿を濾過し、酢酸エチルで洗浄し、濾液を濃縮して、(2-カルバモイルピロリジノ)-カルボニルメチレン-(S)-ブロミド(硬黄色タフィー)を得る。
b)上記a)で製造したブロミド化合物50.0gを塩化メチレン300mlに溶解し、溶液を氷水浴中、硫酸カルシウム乾燥管下で冷却する。冷却溶液を次いでトリフルオロ酢酸無水物60.2mlに2分にわたり注ぎ、得られる溶液を氷水温度で、硫酸カルシウム乾燥管下で4時間攪拌し、塩化メチレンと飽和水性重炭酸ナトリウムの間で分配する。生産物を塩化メチレン相に抽出し、水相を二回塩化メチレンで洗浄する。合わせた有機相を連続して水および食塩水で洗浄し、次いで硫酸ナトリウムで乾燥させる。溶液を濾過し、溶媒を回転蒸発および高真空ポンピングで除去し、(2-シアノピロリジノ)カルボニルメチレン-(S)-ブロミド(暗黄色固体)を得る。







以後、簡単に“本発明の薬剤”と呼ぶ遊離形または薬学的に許容される酸付加塩形の本発明の化合物、特に遊離形または薬学的に許容される酸付加塩形の式Iの化合物は、薬理学的活性を有する。それらは、従って、医薬としての使用が示される。
特に、それらはDPP-IVを阻害する。この活性は、試験化合物の、ヒト結腸癌細胞抽出物由来のDPP-IVを阻害する能力を試験する、Caco-2 DPP-IVアッセイを用いて証明し得る。ヒト結腸癌細胞系Caco-2は、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC HTB37)から得ることができる。細胞がDPP-IV発現を誘導するための分化は、Reisher et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA90(1993)5757-5761に記載のように達成される。細胞抽出物は、10mM トリス-HCl、0.15MNaCl、0.04t.i.u.(トリプシン阻害剤単位)アプロチニン、0.5%非イオン性界面活性剤P40、pH 8.0に溶解した細胞から製造し、35000gで30分、4℃で遠心して、細胞残骸を除く。アッセイを、可溶性Caco-2タンパク質20μgを添加し、マイクロタイタープレートウェルでアッセイ緩衝液(25mM トリス-HCl pH7.4、140mM NaCl、10mM KCl、1%ウシ血清アルブミン)で最終量125μlとなるように希釈する。反応を1mM基質(H-アラニン-プロリン-pNA;pNAはp-ニトロアニリン)25μlを添加して開始する。反応を室温で10分行い、その後25%氷酢酸19μl量を添加して反応を停止させる。試験化合物は、典型的に、30μl添加物として添加し、アッセイ緩衝液用量を95μlに減少させる。遊離p-ニトロアニリンの標準曲線を、アッセイ緩衝液中、遊離pNAの0-500μM溶液を使用して作る。作った曲線は直線であり、基質消費の補間法に使用する(開裂した基質nmol当たりの触媒的活性/分)。終点を、Molecular Devices UV Maxマイクロタイタープレートリーダーで405nmで吸光度を測定して決定する。IC50として示される試験化合物のDPP-IV阻害剤としての効果を、8-点、用量-反応曲線から、4-パラメーターロジスティック関数を使用して計算する。
上記試験において、約10nMから約900nMのIC50値が本発明の薬剤で得られ、例えば、実施例3の薬剤では22nMである。
DPP-IV阻害は、Kubota et al.,Clin.Exp.Immunol.89(1992)192-197に記載のアッセイの変法を使用したヒトおよびラット血漿中のDPP-IV活性における試験化合物の効果の測定によりまた証明し得る。簡単に、血漿5μlを96ウェル平底マイクロタイタープレート(Falcon)に入れ、続いてインキュベーション緩衝液(25mM HEPES、140mM NaCl、1%RIA-グレートBSA、pH7.8)中の80mM MgCl2 5μlを添加する。室温で5分インキュベーション後、反応を、0.1mM基質(H-グリシン-プロリン-AMC;AMCは7-アミノ-4-メチルクマリン)含有インキュベーション緩衝液10μlの添加により開始する。プレートをアルミホイルで覆い(または暗い中に置き)、室温で20分インキュベートする。20分反応後、蛍光をCytoFluor2350蛍光計(励起380nm;放出460nm;感受性セッティング4)を使用して測定する。試験化合物は、典型的に2μl添加物として添加し、アッセイ緩衝液容量を13μlに減少する。遊離AMCの蛍光-濃度曲線を、アッセイ緩衝液中の0-50μM溶液を使用して作る。作った曲線は直線であり、基質消費の補間法に使用する(開裂した基質nmol当たりの触媒的活性/分)。先のアッセイのように、IC50として示される試験化合物のDPP-IV阻害剤としての効果を、8-点、用量-反応曲線から、4-パラメーターロジスティック関数を使用して計算する。
上記試験において、ヒト血漿で約7nMから約2000nM、ラット血漿で約3nMから約400nMのIC50値が本発明の薬剤で得られ、例えば、実施例3の薬剤では、それぞれヒトで7nM、ラット血漿で6nMである。
DPP-IVを阻害するその能力の観点から、本発明の薬剤は、DPP-IVにより介在される疾病への使用が示される。本明細書に記載の化合物は、非インシュリン依存性糖尿病、関節炎、肥満およびカルシトニン-骨粗鬆症のような骨粗鬆症の処置に有用であることが予期される。本発明の薬剤は、経口グルコース負荷に対して初期インシュリン応答が改善され、従って、非インシュリン依存性糖尿病および更に減少したグルコース耐性(IGT)の状態の処置への使用が特に示される。
本発明の薬剤が経口グルコース負荷に対する初期インシュリン応答を改善できる能力は、例えば、以下の方法に従って、インシュリン耐性ラットで測定し得る:
2-3週間高脂肪餌(飽和脂肪=57%カロリー)を与えている雄Sprague-Dawleyラットを、試験の日に約2時間絶食させ、8-10群に分け、経口でカルボキシメチルセルロース(CMC)中の10μmol/kgの試験化合物を投与する。1g/kgの経口グルコース丸薬を、試験化合物の30分後、直接試験動物の胃に投与する。慢性頸静脈カテーテルから、種々の時点で得た血液サンプルを血清グルコースおよび免疫反応性インシュリン(IRI)濃度および血清DPP-IV活性について分析する。血清インシュリンレベルは、Linco Research(St.Louis,MO,USA)由来の特異的抗-ラットインシュリン抗体を使用して、二重抗体放射免疫アッセイ(RIA)法によりアッセイする。RIAは0.5μU/mlの低い検出限界を、5%より小さいアッセイ内および間変化で有する。データはコントロール動物の平均のからの増加%として示す。
経口投与で、各試験化合物は、初期インシュリン応答を増加し、これはインシュリン耐性試験動物のグルコース耐性の改善をもたらすことが判明した。以下の結果が得られた:

DPP-IV阻害により介在される状態の処置に使用する本発明の薬剤の厳密な投与量は、宿主、処置する病気の性質および感受性、投与形態および用いる具体的な化合物などのいくつかの因子に依存する。しかしながら、一般的に、DPP-IV阻害により介在される病気は、本発明の薬剤を、約0.002mg/kgから約5mg/kg、好ましくは約0.02mg/kgから約2.5mg/kg体重の一日量で、ほとんどの大型霊長類において、約0.1mgから約250mg、好ましくは約1mgから100mgの一日量で、経腸、例えば、経口で、または非経腸、例えば、静脈内で、好ましくは経口で投与した時、有効に処置される。典型的経口投与単位は約0.01mg/kgから約0.75mg/kg、一日1から3回である。通常、より少ない投与量が最初に投与され、治療の監視下で、宿主に対して最適な投与量となるまで徐々に増加させる。投与量の上限は、副作用により決められ、処置する宿主の試験により測定できる。
本発明の薬剤は、1個またはそれ以上の薬理学的に許容される担体および、所望により1個またはそれ以上の慣用の薬学的添加剤と組み合わせ得、錠剤、カプセル、キャプレッツ等の形で、経腸、例えば、経口または、滅菌注射可能溶液または懸濁液の形で、非経口、例えば、静脈内投与する。経腸および非経腸組成物は、慣用の手段で製造し得る。
本発明の薬剤は、DPP-IVにより介在される病気の処置に有効である一定量の活性物質を含む経腸および非経腸医薬組成物に調剤し得、このような組成物は単位投与形態であり、このような組成物は薬学的に許容される担体を含む。
例えば、式Iである本発明の薬剤は、鏡像異性的に純粋な(S)形(例えば、>98%、好ましくは>99%純粋)で、または他のエナンチオマーと共に、例えば、ラセミ形で投与し得る。上記投与範囲は、式Iの化合物に基づく(Rエナンチオマーの量を除く)。
本発明は、従って、また薬剤として使用する、遊離形または薬学的に許容される酸付加塩の形の、特に上記の式Iの化合物である本発明の薬剤も含む。更に、遊離形または薬学的に許容される酸付加塩の形の、特に上記の式Iの化合物である本発明の薬剤を、少なくとも一つの薬学的に許容される担体または希釈剤と共に含む、医薬組成物も含む。更に、本発明の薬剤と、薬学的に許容される担体または希釈剤を混合する方法を含む、DPP-IVを阻害するためのまたはDPP-IVにより介在される疾病を処置するための、医薬の製造における、遊離形または薬学的に許容される酸付加塩の形の、特に上記の式Iの化合物である本発明の薬剤の使用も含む。更に、処置を必要とする患者に、治療的に有効量の遊離形または薬学的に許容される酸付加塩の形の、特に上記の式Iの化合物である本発明の薬剤を投与することを含む、DPP-IVを阻害する方法、またはDPP-IVにより介在される疾病を処置する方法も提供する。
実施例1、3、5、8および12の薬剤は、本発明の好ましい薬剤であり、特に、好ましくは塩酸塩の形の実施例1、3、5および12のもの、特に実施例3の薬剤、即ち、好ましくは、二塩酸付加塩の形の1-[2-[(5-シアノピリジン-2-イル)アミノ]-エチルアミノ]アセチル-2-シアノ-(S)-ピロリジンである。塩酸塩形において、Caco-2DPP-IVアッセイで、それぞれ36、22、26、8および279nMのIC50値を有し、上記の変形Kubotaアッセイでは、それぞれヒトおよびラット血漿DPP-IVで、それぞれ27および22nM(実施例1);7および6nM(実施例3);37および18nM(実施例5);12および11nM(実施例8);および95および38nM(実施例12)のIC50値を有する。従って、上記使用において、実施例1、3、5、8および12の化合物は、大型哺乳類、例えばヒトで、メトフォルミンで慣用的に用いられるのと同様の投与量で同様の投与形態で投与し得る。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】遊離形または酸付加塩形の式I:

〔式中、
Rは:
a)R1R1aN(CH2)m-
式中、R1は、所望により(C1-4)アルキル、(C1-4)アルコキシ、ハロゲン、トリフルオロメチル、シアノまたはニトロで一置換または独立して二置換されていてもよいピリジニルまたはピリミジニル部分;または所望により(C1-4)アルキル、(C1-4)アルコキシまたはハロゲンで一置換または独立して二置換されていてもよいフェニル;
R1aは水素または(C1-8)アルキル;そして
mは2または3;
b)所望により1位を(C1-3)ヒドロキシアルキルで一置換されていてもよい(C3-12)シクロアルキル;
c)R2(CH2)n-
式中、R2は所望により(C1-4)アルキル、(C1-4)アルコキシ、ハロゲン、または所望によりフェニル環をヒドロキシメチルで一置換されていてもよいフェニルチオで一置換または独立して二置換または独立して三置換されていてもよいフェニル;または(C1-8)アルキル;所望により(C1-8)アルキルで一置換または多置換されていてもよい[3.1.1]二環式炭素環部分;所望により(C1-4)アルキル、(C1-4)アルコキシまたはハロゲンで一置換または独立して二置換されていてもよいピリジニルまたはナフチル部分;シクロヘキセン;またはアダマンチル;そして
nは1から3;または
R2は所望により(C1-4)アルキル、(C1-4)アルコキシまたはハロゲンで一または独立して二置換されていてもよいフェノキシ;そして
nは2または3;
d)(R3)2CH(CH2)2-
式中、各R3は、独立して所望により(C1-4)アルキル、(C1-4)アルコキシまたはハロゲンで一置換または独立して二置換されていてもよいフェニル;
e)R4(CH2)p-
式中、R4は2-オキソピロリジニルまたは(C2-4)アルコキシ、そしてpは2から4;
f)所望により1位を(C1-3)ヒドロキシアルキルで一置換されていてもよいイソプロピル;
g)R5
式中、R5はインダニル;所望によりベンジルで置換されていてもよいピロリジニルまたはピペリジニル部分;所望により(C1-8)アルキルで一置換または多置換されていてもよい[2.2.1]-または[3.1.1]二環式炭素環部分;アダマンチル;または所望によりヒドロキシ、ヒドロキシメチルまたはフェニル(当該フェニルは所望により、(C1-4)アルキル、(C1-4)アルコキシまたはハロゲンで一置換または独立して二置換されていてもよい)で一置換または独立して多置換されていてもよい(C1-8)アルキル〕
の化合物。
【請求項2】RがRp
〔Rpは
a)R1pNH(CH2)2-
式中、R1pは、所望によりハロゲン、トリフルオロメチル、シアノまたはニトロで一置換または独立して二置換されていてもよいピリジニルまたはピリミジニル部分;
b)所望により1位を(C1-3)ヒドロキシアルキルで一置換されていてもよい(C3-7)シクロアルキル;
c)R2p(CH2)2-
式中、R2pは所望によりハロゲンまたは(C1-3)アルコキシで一置換または独立して二置換または独立して三置換されていてもよいフェニル;
d)(R3p)2CH(CH2)2-
式中、各R3pは、独立して所望によりハロゲンまたは(C1-3)アルコキシで一置換されていてもよいフェニル;
e)R4(CH2)3-
式中、R4は2-オキソピロリジニルまたは(C2-4)アルコキシ;
f)所望により1位を(C1-3)ヒドロキシアルキルで一置換されていてもよいイソプロピル〕
である、遊離形または酸付加塩形の請求項1記載の化合物(化合物Ip)。
【請求項3】Rが2-[(5-シアノピリジン-2-イル)アミノ]-エチルである、すなわち1-[2-[(5-シアノピリジン-2-イル)アミノ]-エチルアミノ]アセチル-2-シアノ-(S)ピロリジンである、遊離形または酸付加塩形の請求項1記載の化合物。
【請求項4】遊離形または薬学的に許容される塩形の請求項1記載の化合物を、少なくとも一つの薬学的に許容される担体または希釈剤と共に含む、医薬組成物。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-03-15 
出願番号 特願平10-521061
審決分類 P 1 651・ 534- YA (C07D)
P 1 651・ 113- YA (C07D)
P 1 651・ 531- YA (C07D)
P 1 651・ 121- YA (C07D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 内藤 伸一  
特許庁審判長 竹林 則幸
特許庁審判官 亀田 宏之
深津 弘
登録日 2001-08-03 
登録番号 特許第3217380号(P3217380)
権利者 ノバルティス アクチエンゲゼルシャフト
発明の名称 N―置換2―シアノピロリジン  
代理人 青山 葆  
代理人 岩崎 光隆  
代理人 小島 一晃  
代理人 青山 葆  
代理人 岩崎 光隆  
代理人 小島 一晃  

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