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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備 C08L 審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 C08L 審判 全部申し立て 発明同一 C08L |
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管理番号 | 1117848 |
異議申立番号 | 異議2003-71713 |
総通号数 | 67 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2000-03-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2003-07-08 |
確定日 | 2005-04-02 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第3363413号「農業フィルム用樹脂組成物」の請求項1ないし9に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第3363413号の請求項1ないし9に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.手続きの経緯 特許第3363413号に係る発明は、平成5年5月27日に特許出願された特願平5-126101号の一部を分割して特許出願された特願平9-203014号の一部を更に分割して平成11年10月6日に特願平11-285749号として特許出願され、平成14年10月25日に特許権の設定登録がなされ、その後、特許異議申立人 三井化学株式会社(以下、単に「特許異議申立人」という。)より特許異議の申立てがなされ、平成16年4月5日付けで取消理由が通知され、その指定期間である平成16年6月15日に特許異議意見書と訂正請求書が提出されたものである。 2.訂正の適否 2-1.訂正の内容 (a)訂正事項a 請求項1の 「(b)密度が0.925g/cm3以下であり」を 「(b)密度が0.87〜0.915g/cm3であり」と訂正する。 (b)訂正事項b 請求項4の 「請求項1〜3のいずれか一項に農業フィルム用樹脂組成物」を 「請求項1〜3のいずれか一項に記載の農業フィルム用樹脂組成物」と訂正する。 (c)訂正事項c 請求項5の 「成分(B)が、ハイドロタルサイト類である、請求項4に記載の農業フィルム用樹脂組成物」を 「メタロセン触媒を用いて製造された、下記性状a)〜c)を有するエチレン・炭素数6以上のα-オレフィン共重合体85〜99重量%に対して、ハイドロタルサイト類(成分(B))を15〜1重量%を含んでなることを特徴とする農業フィルム用樹脂組成物。 a)メルトフローレート(MFR)が0.01〜10g/10分であり、 b)密度が0.925g/cm3以下であり、 c)温度上昇溶離分別(TREF)によって得られる溶出曲線のピークが1つ以上存在し、主ピークの温度が100℃以下であって、TREFによる50℃における溶出量(Y:共重合体全量に対する重量%)が、以下の1)及び2)の条件を満たす。 1)密度(D)が0.91g/cm3未満であるとき、 Y(重量%)≦-4500D+4105≦100。 2)密度(D)が0.91g/cm3以上であるとき、 Y(重量%)≦10。」と訂正する。 (d)訂正事項d 請求項6の 「成分(B)が、下記一般式(II)で表される化合物又はその焼成物である、請求項4に記載の農業フィルム用樹脂組成物。 一般式(II) M2+1-XAlX(OH)2(An-)X/n・mH2O (式中、M2+はMg、Ca及びZnよりなる群から選ばれた二価金属イオンを示し、そして、x及びmは下記条件を満足するものである。 0<x<0.5、 0≦m≦2」を 「メタロセン触媒を用いて製造された、下記性状a)〜c)を有するエチレン・炭素数6以上のα-オレフィン共重合体85〜99重量%に対して、下記一般式(II)で表される化合物又はその焼成物(成分(B))を15〜1重量%を含んでなることを特徴とする農業フィルム用樹脂組成物。 a)メルトフローレート(MFR)が0.01〜10g/10分であり、 b)密度が0.925g/cm3以下であり、 c)温度上昇溶離分別(TREF)によって得られる溶出曲線のピークが1つ以上存在し、主ピークの温度が100℃以下であって、TREFによる50℃における溶出量(Y:共重合体全量に対する重量%)が、以下の1)及び2)の条件を満たす。 1)密度(D)が0.91g/cm3未満であるとき、 Y(重量%)≦-4500D+4105≦100。 2)密度(D)が0.91g/cm3以上であるとき、 Y(重量%)≦10。 一般式(II) M2+1-XAlX(OH)2(An-)X/n・mH2O (式中、M2+はMg、Ca及びZnよりなる群から選ばれた二価金属イオンを示し、そして、x及びmは下記条件を満足するものである。 0<x<0.5、 0≦m≦2」と訂正する。 2-2.訂正の目的の適否、訂正の範囲の適否及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正事項aは、訂正前の明細書の「本発明において用いられるエチレン・炭素数4以上のα-オレフィン共重合体は、JIS-K7112による密度が0.925g/cm3以下、好ましくは0.87〜0.915g/cm3、特に好ましくは0.88〜0.910g/cm3を示すものである」(段落【0008】)との記載に基づいてα-オレフィン共重合体の密度をより限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的として、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内でしたものである。 訂正事項bは、訂正前の請求項4における「請求項1〜3のいずれか一項に農業フィルム用樹脂組成物」という意味不明の記載について、「いずれか一項に」と「農業フィルム用樹脂組成物」の間に「記載の」を付加することにより、請求項4に係る発明が請求項1〜3の記載事項を引用するものであるという本来の文意を表す記載に改めるものであるから、誤記の訂正を目的として、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内でしたものである。 訂正事項c及びdは、請求項4を引用して記載されていた訂正前の請求項5及び6について、引用形式のままにしておくと訂正事項aによって実質的に訂正された請求項4の内容を反映して結果的に訂正されたこととなるので、独立形式に改めて、このように訂正された請求項となることを避けたものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、また、独立形式にするにあたり、訂正前の請求項4で引用していた請求項1〜3の内、請求項1の要件のみを取り込んだものであるから、特許請求の範囲の減縮をも目的とするものであり、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内でしたものである。 そして、これらの訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。 2-3.むすび 以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号。以下、「平成6年改正法」という。)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年改正法による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。 3.本件発明 上記の結果、訂正後の本件請求項1ないし9に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明9」という。)は、訂正された明細書(以下、「訂正明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 メタロセン触媒を用いて製造された、下記性状a)〜c)を有するエチレン・炭素数6以上のα-オレフィン共重合体を含んでなることを特徴とする農業フィルム用樹脂組成物。 a)メルトフローレート(MFR)が0.01〜10g/10分であり、 b)密度が0.87〜0.915g/cm3であり、 c)温度上昇溶離分別(TREF)によって得られる溶出曲線のピークが1つ以上存在し、主ピークの温度が100℃以下であって、TREFによる50℃における溶出量(Y:共重合体全量に対する重量%)が、以下の1)及び2)の条件を満たす。 1)密度(D)が0.91g/cm3未満であるとき、 Y(重量%)≦-4500D+4105≦100。 2)密度(D)が0.91g/cm3以上であるとき、 Y(重量%)≦10。 【請求項2】 共重合体の性状c)において、TREFによる50℃における溶出量(Y:共重合体全量に対する重量%)が、以下の1)及び2)の条件を満たすものである、請求項1に記載の農業フィルム用樹脂組成物。 1)密度(D)が0.91g/cm3未満であるとき、 Y(重量%)≦-4650D+4238≦100。 2)密度(D)が0.91g/cm3以上であるとき、 Y(重量%)≦7。 【請求項3】 共重合体のゲルパーミェーションクロマトグラフィー(GPC)によって求められるQ値(重量平均分子量/数平均分子量)が3以下である、請求項1または2に記載の農業フィルム用組成物。 【請求項4】 エチレン・炭素数6以上のα-オレフィン共重合体85〜99重量%に対して、SiO2、Al2O3、MgO、CaO、Al(OH)3、Mg(OH)2、Ca(OH)2、及び、ハイドロタルサイト類から選ばれた少なくとも1種の化合物を含有する無機化合物(成分(B))を15〜1重量%さらに含んでなる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の農業フィルム用樹脂組成物。 【請求項5】 メタロセン触媒を用いて製造された、下記性状a)〜c)を有するエチレン・炭素数6以上のα-オレフィン共重合体85〜99重量%に対して、ハイドロタルサイト類(成分(B))を15〜1重量%を含んでなることを特徴とする農業フィルム用樹脂組成物。 a)メルトフローレート(MFR)が0.01〜10g/10分であり、 b)密度が0.925g/cm3以下であり、 c)温度上昇溶離分別(TREF)によって得られる溶出曲線のピークが1つ以上存在し、主ピークの温度が100℃以下であって、TREFによる50℃における溶出量(Y:共重合体全量に対する重量%)が、以下の1)及び2)の条件を満たす。 1)密度(D)が0.91g/cm3未満であるとき、 Y(重量%)≦-4500D+4105≦100。 2)密度(D)が0.91g/cm3以上であるとき、 Y(重量%)≦10。 【請求項6】 メタロセン触媒を用いて製造された、下記性状a)〜c)を有するエチレン・炭素数6以上のα-オレフィン共重合体85〜99重量%に対して、下記一般式(II)で表される化合物又はその焼成物(成分(B))を15〜1重量%を含んでなることを特徴とする農業フィルム用樹脂組成物。 a)メルトフローレート(MFR)が0.01〜10g/10分であり、 b)密度が0.925g/cm3以下であり、 c)温度上昇溶離分別(TREF)によって得られる溶出曲線のピークが1つ以上存在し、主ピークの温度が100℃以下であって、TREFによる50℃における溶出量(Y:共重合体全量に対する重量%)が、以下の1)及び2)の条件を満たす。 1)密度(D)が0.91g/cm3未満であるとき、 Y(重量%)≦-4500D+4105≦100。 2)密度(D)が0.91g/cm3以上であるとき、 Y(重量%)≦10。 一般式(II) M2+1-XAlX(OH)2(An-)X/n・mH2O (式中、M2+はMg、Ca及びZnよりなる群から選ばれた二価金属イオンを示し、そして、x及びmは下記条件を満足するものである。 0<x<0.5、 0≦m≦2 【請求項7】 成分(B)の平均粒径が10μm以下である、請求項4〜6のいずれか一項に記載の農業フィルム用樹脂組成物。 【請求項8】 請求項1〜7のいずれか一項に記載の樹脂組成物に対して、高圧法低密度ポリエチレン(成分(c))をさらに1〜35重量%添加してなる農業フィルム用樹脂組成物。 【請求項9】 農業フィルムとしての樹脂組成物の用途が農業ハウス用である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の樹脂組成物。」 4.特許異議の申立についての判断 4-1.特許異議申立人の主張 特許異議申立人は、甲第1〜第7号証を提出して、次の理由により訂正前の本件請求項1〜9に係る特許は取り消されるべきである旨、主張する。 (1)訂正前の請求項1ないし9に係る発明は、特願平5-83233号(以下、「先願」という。特開平6-9724号公報(甲第1号証)参照。)の願書に最初に添付した明細書または図面(以下、「先願明細書」という。)に記載された発明と同一であり、しかも、請求項1〜9に係る発明の発明者が先願に係る発明の発明者と同一でなく、また本件の出願の時において、本件の出願人が先願の出願人と同一でもないので、本件請求項1〜9に係る発明は、特許法第29条の2の規定に違反し、特許を受けることができない。 (2)訂正前の請求項8に係る発明は、特願平5-68851号(特開平6-65443号公報(甲第7号証)参照。)の願書に最初に添付した明細書に記載された発明と同一であり、しかも、請求項8に係る発明の発明者が特願平5-68851号に係る発明の発明者と同一でなく、また本件の出願の時において、本件の出願人が特願平5-68851号の出願人と同一でもないので、本件請求項8に係る発明は、特許法第29条の2の規定に違反し、特許を受けることができない。 (3)訂正前の本件明細書の記載は不備であるから、本件特許は特許法第36条第4項及び第5項第1号に規定する要件を具備していない出願についてされたものである。(註:特許異議申立人は、特許法第36条第4項及び第6項違反を主張しているが、本件の遡及出願日の時点で適用される特許法の規定に鑑み、(3)のように主張するものと判断した。) 4-2.判断 4-2-1.取消理由 当審において、平成16年4月5日付けで、以下の刊行物等を引用して次の取消理由を通知した。 (1)訂正前の請求項1〜4、7及び9に係る発明は、先願明細書に記載された発明と同一であり、しかも、請求項1〜4、7及び9に係る発明の発明者が先願に係る発明の発明者と同一でなく、また本件の出願の時において、本件の出願人が先願の出願人と同一でもないので、本件請求項1〜4、7及び9に係る発明は、特許法第29条の2の規定に違反し、特許を受けることができない。 (2)訂正前の本件明細書の記載は不備であるから、本件特許は特許法第36条第4項及び第5項第1号に規定する要件を具備していない出願についてされたものである。 <刊行物等> 先願:特願平5-83233号(優先日:平成4年4月16日、日本)[特開平6-9724号公報(特許異議申立人が提出した甲第1号証)参照。] 実験報告書1:三井化学株式会社 マテリアルサイエンス研究所 佐藤康夫 作成の2003年7月1日付け実験報告書(同、甲第2号証) 刊行物1:特開昭56-72035号公報(同、甲第3号証) 刊行物2:特公昭62-41247号公報(同、甲第4号証) 4-2-2.先願明細書、刊行物1及び刊行物2の記載事項 先願明細書 (先-1)「エチレンと、炭素数3〜20のα-オレフィンとの共重合体であって、(i)密度(d)が0.880〜0.950g/cm3 の範囲にあり、(ii)190℃、2.16kg荷重におけるメルトフローレート(MFR)0.01〜200g/10分の範囲にあり、(iii)示差走査型熱量計(DSC)により測定した吸熱曲線における最大ピーク位置の温度(Tm(℃))と、密度とがTm<400d-250 で示される関係を満たし、(iv)室温におけるデカン可溶性成分量率(W)と、密度(d)とが、・・・で示される関係を満たし、(v)溶融重合体の190℃におけるずり応力が・・・で定義される流動性インデックス(FI)(l/秒)と、メルトフローレート(MFR)とが・・・で示される関係を満たし、(vi)190℃における溶融張力(MT)と、メルトフローレート(MFR)とが・・・で示される関係を満たすことを特徴とするエチレン系共重合体。」(【請求項1】) (先-2)「本発明に係るエチレン系共重合体の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比で定義される分子量分布(Mw/Mn)の値は、通常2.0〜6.0である。」(段落【0016】) (先-3)「このような本発明に係るエチレン系共重合体は、例えば、(a)特定のインデニル基またはその置換体から選ばれた2個の基が低級アルキレン基を介して結合した二座配位子を有する周期律表第IVB族の遷移金属の化合物または特定の置換シクロペンタジエニル基を配位子とした周期律表第IVB族の遷移金属の化合物、(b)有機アルミニウムオキシ化合物、(c)担体、必要に応じて(d)有機アルミニウム化合物から形成されるオレフィン重合触媒の存在下に、エチレンと炭素数3〜20のα-オレフィンとを、得られる重合体の密度が0.880〜0.950g/cm3 となるように共重合させることによって製造することができる。」(段落【0026】) (先-4)「本発明のエチレン系共重合体には、本発明の目的を損なわない範囲で、耐候性安定剤、耐熱安定剤、帯電防止剤、スリップ防止剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、滑剤、顔料、染料、核剤、可塑剤、老化防止剤、塩酸吸収剤、酸化防止剤等の添加剤が必要に応じて配合されてもよい。また、本発明の趣旨を逸脱しない限り他の高分子化合物を少量ブレンドすることができる。」(段落【0078】) (先-5)「本発明のエチレン系共重合体は、押出フィルム成形、すなわちインフレーション成形、およびT-ダイ成形により得られるフィルム用途に好適である。また、押出フィルム成形の中では、特にインフレーション成形フィルム用樹脂として好適に用いられる。このようなインフレーション成形フィルムは、・・・農業用資材、輸液バッグ等に使用される。」(段落【0081】〜【0082】) (先-6)「【実施例1】[触媒成分の調整]250℃で10時間乾燥したシリカ7.9kgを121リットルのトルエンで懸濁状にした後、0℃まで冷却した。・・・この系内へビス(1,3-ジメチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリドのトルエン溶液(Zr=28.4mmol/リットル)20リットルを30℃で30分かけて適下(「滴下」の誤記と認められる)し、更に30℃で2時間反応させた。その後、上澄液を除去しヘキサンで2回洗浄することにより、1g当り4.6mgのジルコニウムを含有する固体触媒を得た。[予備重合触媒の調製]16molのトリイソブチルアルミニウムを含有する160リットルのヘキサンに、上記で得られた固体触媒4.3kgを加え35℃で3.5時間エチレンの予備重合を行うことにより、固体触媒1g当り3gのエチレン重合体が予備重合された予備重合触媒を得た。このエチレン重合体の極限粘度[η]は、1.27dl/gであった。[重合]連続式流動床気相重合装置を用い、全圧20kg/cm2-G、重合温度80℃でエチレンと1-ヘキセンとの共重合を行った。・・・得られたポリマーの解析結果の詳細を表1に示すが、密度は0.927g/cm3 であり、MFRは1.0g/10min.であり、不飽和結合の数が炭素数1000個当り0.062個で、かつ重合体1分子当り0.11個であり、DSCで測定した吸熱曲線の最大ピーク温度(Tm)が117.8℃であり、室温におけるデカン可溶部が0.22重量%であった。 【実施例2〜6】実施例1で調製した予備重合触媒を使用して、表1に示す各種α-オレフィンをコモノマーに使用して、実施例1と同様の重合を行った。」(段落【0091】〜【0095】) (先-7) (段落【0105】) 刊行物1 (1-1)「ポリオレフィン系樹脂100重量部に、(A)炭酸カルシウム、(B)無水珪酸、珪酸塩化合物、硫酸カルシウムのうち1種もしくは2種以上(C)水酸化アルミニウムを(A):(B):(C)=10:3〜30:3〜30の割合でかつ(A)+(B)+(C)=5〜25重量部になるように加え混練成形してなる農業用被覆フィルム。」(請求項1) (1-2)「本発明は、植物育成用被覆材として用いられるポリオレフィン系樹脂フィルムの保温性を向上改良したもので、詳しくは日中地温を高め、夜間の冷え込みを防止することにより、植物の生育促進を向上させる農業用被覆フィルムに関するものである。」(第1頁左欄第13〜18行) (1-3)「本発明で使用する(A)、(B)、(C)3成分としては、(A)としては軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、白艶化等で平均粒径が0.15μ前後のものが挙げられ、軽質炭酸カルシウムが好ましい。(B)としては無水珪酸、硫酸カルシウム、及び珪酸化合物例えばタルク、クレー、マイカ等が挙げられ平均粒径が0.5〜5μのものが好ましい。(C)としては水酸化アルミニウムで平均粒径0.1〜10μ、好ましくは0.5〜5μのものである。」(第3頁左上欄第19行〜第2頁右上欄第8行) 刊行物2 (2-1)「透明塩化ビニル樹脂に、波長18〜50μの赤外領域に吸収を示す無機質微粉末を1〜25重量%(混合物基準)添加混練し、厚さ20〜200μのフィルム状に成形してなる保温性を改良した農業用塩化ビニル樹脂フィルム。」(請求項1) (2-2)「本発明においてポリ塩化ビニルに添加する赤外線吸収性の無機質粉末とは、・・・。具体的には、酸化ホウ素、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、フツ化アルミニウム、ホウ酸ナトリウム等のホウ素、アルミニウムを含む酸化物、水酸化物もしくは塩、酸化カルシウム、水酸化リチウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、リン酸リチウム、アルミン酸ソーダ、等のアルカリ金属、アルカリ土類金属を含む酸化物、水酸化物もしくは塩、・・・等がある。」(第2頁第4欄第38行〜第3頁第5欄第14行) (2-3)「赤外線吸収性の物質は、ポリ塩化ビニル樹脂に分散させるため微細に粉末化され、その粒径は50μ以下、好ましくは10μ以下である。」(第3頁第5欄第25〜27行) 4-2-3.特許法第29条の2違反について (i)先願明細書に記載された発明 先願明細書には、エチレンと、炭素数3〜20のα-オレフィンとの共重合体であって、密度が0.880〜0.950g/cm3 の範囲にあり、190℃、2.16kg荷重におけるメルトフローレート(MFR)が0.01〜200g/10分の範囲にあり、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比で定義される分子量分布(Mw/Mn)の値が、2.0〜6.0である共重合体(摘示記載(先-1)、(先-2))が記載されており、このような共重合体の製造にあたり、(a)特定の置換シクロペンタジエニル基を配位子とした周期律表第IVB族の遷移金属の化合物、(b)有機アルミニウムオキシ化合物、(c)担体、必要に応じて(d)有機アルミニウム化合物から形成されるオレフィン重合触媒を用いること(摘示記載(先-3))も記載されている。また、先願明細書には、上記共重合体から得られたインフレーション成形フィルムを農業用資材として用いることも記載されている。(摘示記載(先-5)) (ii)本件発明1について 本件発明1と上記先願明細書に記載された発明(以下、「先願発明」という。)とを対比すると、先願発明において用いる触媒はその組成からみて「メタロセン触媒」と称し得るものである(「化学大辞典9」縮刷版第120〜121頁、「メタロセン」の項、1964年3月15日、縮刷版第1刷、共立出版株式会社発行、参照。)から、両者は、メタロセン触媒を用いて製造された、エチレン・炭素数6以上のα-オレフィン共重合体であって、メルトフローレート(MFR)が0.01〜10g/10分で、密度が0.880〜0.915g/cm3 である前記共重合体を含んでなる農業フィルム用樹脂組成物である点で一致するが、先願発明は、本件発明1における以下(あ)の構成を備えていない点で、これらの発明の間には相違が認められる。 (あ)「c)温度上昇溶離分別(TREF)によって得られる溶出曲線のピークが1つ以上存在し、主ピークの温度が100℃以下であって、TREFによる50℃における溶出量(Y:共重合体全量に対する重量%)が、以下の1)及び2)の条件を満たす。 1)密度(D)が0.91g/cm3未満であるとき、 Y(重量%)≦-4500D+4105≦100。 2)密度(D)が0.91g/cm3以上であるとき、 Y(重量%)≦10。」 この点について検討すると、先願明細書には、「[触媒成分の調整]250℃で10時間乾燥したシリカ7.9kgを121リットルのトルエンで懸濁状にした後、0℃まで冷却した。・・・この系内へビス(1,3-ジメチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリドのトルエン溶液(Zr=28.4mmol/リットル)20リットルを30℃で30分かけて適下(「滴下」の誤記と認められる)し、更に30℃で2時間反応させた。その後、上澄液を除去しヘキサンで2回洗浄することにより、1g当り4.6mgのジルコニウムを含有する固体触媒を得た。[予備重合触媒の調製]16molのトリイソブチルアルミニウムを含有する160リットルのヘキサンに、上記で得られた固体触媒4.3kgを加え35℃で3.5時間エチレンの予備重合を行うことにより、固体触媒1g当り3gのエチレン重合体が予備重合された予備重合触媒を得た。このエチレン重合体の極限粘度[η]は、1.27dl/gであった。[重合]連続式流動床気相重合装置を用い、全圧20kg/cm2-G、重合温度80℃でエチレンと1-ヘキセンとの共重合を行った」との実施例1(摘示記載(先-6))が記載されており、同実施例においてコモノマーとして1-ヘキセンを3.0mol%使用した実施例6も記載されている。(摘示記載(先-6)、(先-7)) 実験報告書1には、先願明細書のこの実施例6を追試したものとする実験報告が記載されており、「密度が0.920g/cm3 であり、TREFによって得られる溶出曲線のピークが1つ存在し、主ピークの温度が77℃であり、50℃における溶出量が1.1重量%であるエチレン・1-ヘキセン共重合体が得られた」との実験結果が示されている。 これらの結果は、TREFによる溶出曲線のピークが1つ存在すること、主ピークの温度が100℃以下であること、及び、密度が0.91g/cm3以上であるときTREFによる50℃における溶出量(Y)がY(重量%)≦10であること、という本件発明1の上記(あ)の要件を満たすものであるが、本件発明1においては、エチレン・炭素数6以上のα-オレフィン共重合体の密度が0.87〜0.915g/cm3 に限定されているため、密度が0.920g/cm3 の共重合体は、本件発明1において用いられる共重合体の範囲外のものである。 そして、先願明細書の実施例及び比較例には密度が0.87〜0.915g/cm3 の範囲内にあるエチレン・α-オレフィン共重合体は記載されておらず、他に、この範囲内の密度を有するエチレン・α-オレフィン共重合体であって、本件発明1の(あ)の構成を満たすものが先願明細書に記載されているものと認めるべき根拠はない。 以上のとおりであるから、本件発明1は、先願明細書に記載された発明と同一であるということはできない。 (ii)本件発明2〜4、7及び9について 本件発明2〜4、7及び9は、本件発明1を直接的又は間接的に引用して、更に技術的限定を付加したものであるが、上記のように本件発明1が先願明細書に記載された発明と同一でない以上、これを引用する本件発明2〜4、7及び9もまた、同様の理由により、先願明細書に記載された発明と同一ではない。 4-2-4.特許法第36条第4項及び第5項第1号違反について 特許異議申立人は、訂正前の本件明細書の記載が次の点で不備である旨主張している。 (i)実施例には、密度が0.91g/cm3 以上であるとき溶出量Yが10重量%以下であるエチレン・α-オレフィン共重合体を含む農業フィルム用樹脂組成物が記載されていない。 (ii)発明の詳細な説明には、エチレン・α-オレフィン共重合体の密度が0.91g/cm3 以上であるときに、溶出量Yを10重量%以下(又は、7重量%以下)と規定した根拠、及び温度上昇溶離分別(TREF)によって得られる溶出量のピークが1つ以上存在し、主ピークが100℃以下であって、TREFによる50℃における溶出量Yが1)及び2)の条件を満たすことによる作用効果、技術的意義が記載されていない。 (iii)発明の詳細な説明の記載によっては、高圧イオン重合法以外の方法で請求項1に規定された性状a)〜c)を有するエチレン・α-オレフィン共重合体を製造する方法、並びに、高圧イオン重合法において、密度が0.91g/cm3 以上であるときに、溶出量Yが10重量%以下となるエチレン・α-オレフィン共重合体の製造条件が不明である。 (iv)請求項1には、「密度が0.91g/cm3 以上であるときに、溶出量Yが10重量%以下のエチレン・α-オレフィン共重合体」という、発明の詳細な説明に記載されていない構成を含んだ発明が記載されている。 (i)についての判断 請求項1及び2においてD(密度)とY(溶出量)を含む不等式で表された範囲は、エチレン・α-オレフィン共重合体の密度(D)と温度上昇溶離分別(TREF)との関係をプロットしたグラフにおいて、農業用フィルムとして有用である連続的な範囲を2本の直線と縦、横軸とで囲まれた範囲として近似的に表現すべく、その直線を表す式に基づいて設定したものということができる。そうすると、密度0.91g/cm3 なる点は、該2直線が交差する点であるというにすぎず、この点を境にしてフィルムの物性が顕著に異なるというものではないから、密度0.91g/cm3以上の実施例がないからといって、特許請求の範囲に記載された発明を当業者が容易に実施することができないということはできない。 (ii)についての判断 上記のように、密度が0.91g/cm3 以上であるときに、溶出量Yを10重量%以下とした理由は、近似式の表現手法によるものということができる。 また、本件訂正明細書には、エチレン・α-オレフィン共重合体の温度上昇溶離分別(TREF)においては、低温段階では、非晶部分、すなわち、ポリマーの持つ短鎖分岐の分岐度の多いものから溶出し、温度が上昇すると共に徐々に分岐度の少ないものが溶出して、最終的に分岐の少ない直鎖状の部分が溶出すること(段落【0009】)が記載されており、溶出量のピーク位置が短鎖分岐をもたらすα-オレフィンの含有量と関連性を有することが示されている。そして、密度とコモノマーの含有量との関係等の技術常識を勘案すれば、発明の詳細な説明の記載からは、当業者が発明を実施し得ない程度に、特許請求の範囲に規定された条件の技術的意義が不明であるとまでいうことはできない。 (iii)についての判断 本件訂正明細書の段落【0012】には、エチレン・炭素4以上のα-オレフィン共重合体の多数の先行技術が例示されており、メタロセン触媒及びそれに関連する先行技術についても、段落【0013】〜【0015】に例示されており、段落【0017】には、先行技術を引用して、共重合方法が説明されており、段落【0029】には密度が0.91g/cm3 未満 であって、請求項1〜3に記載された要件を満たすエチレン・ヘキセン-1共重合体の具体的な製造方法が記載されているのであり、密度と溶出量、密度とコモノマーの含有量の相関関係は技術常識として当業者に認識されている技術事項である。 そうしてみると、その技術常識に基づいて本件訂正明細書に記載された先行技術、実施例などを参酌すれば、密度が0.91g/cm3 未満のもののみならず、密度が0.91g/cm3 以上で、Yが10重量%以下の本件発明1に規定された構成要件を満たすエチレン・α-オレフィン共重合体を得ることは、当業者が容易に実施をすることができるものというべきである。 したがって、本件訂正明細書の発明の詳細な説明には、特許請求の範囲に記載された発明を当業者が容易に実施できる程度に記載されていないということはできない。 (iv)についての判断 (i)〜(III)で述べたとおり、密度0.91g/cm3 なる点を境にしてフィルムの物性が顕著に異なることはなく、密度0.91g/cm3以下の共重合体と同様、密度0.91g/cm3以上の共重合体及びその製法も発明の詳細な説明に実質的に開示されているものというべきであり、密度0.91g/cm3 以上でYが10重量%以下という本件発明1の構成要件を満たすエチレン・α-オレフィン共重合体が発明の詳細な説明に記載されたものではないということはできない。 4-2-5.その他の特許異議の申立理由について 特許異議申立人は、周知技術を示す証拠として甲第5号証及び6号証を提出し、訂正前の請求項5、6及び8に係る発明は、先願明細書に記載された発明と同一である旨主張するが、先願明細書には、単に「本発明のエチレン系共重合体には、本発明の目的を損なわない範囲で、耐候性安定剤、耐熱安定剤、帯電防止剤、スリップ防止剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、滑剤、顔料、染料、核剤、可塑剤、老化防止剤、塩酸吸収剤、酸化防止剤等の添加剤が必要に応じて配合されてもよい。また、本発明の趣旨を逸脱しない限り他の高分子化合物を少量ブレンドすることができる。」(摘示記載(先-4))と記載されているだけで、本件発明5、6及び8におけるハイドロタルサイト類又はその焼成物、更には、高圧法低密度ポリエチレンを添加する点については何ら記載がないので、本件発明5、6及び8が先願明細書に記載された発明と同一であるということはできない。 また、特許異議申立人は、甲第7号証を提出して、訂正前の請求項8に係る発明は、特願平5-68851号(特開平6-65443号)の願書に最初に添付した明細書に記載された発明と同一である旨主張するが、特願平5-68851号の明細書には、エチレンと炭素数3〜20のα-オレフィンとの共重合体と、特定の高圧ラジカル法による低密度ポリエチレンとの組成物が記載されており、この組成物が農業用資材として用いられることも記載されているものの、本件発明8における温度上昇溶離分別による条件(本件発明1における上記(あ)の構成)について何らの記載もなく、また、その実施例及び比較例に示された共重合体が、上記条件を満たすものであるかどうかの立証もされていない。 そうしてみると、本件発明8は、特願平5-68851号の願書に最初に添付した明細書に記載された発明と同一であるということはできない。 5.むすび 以上のとおりであるから、特許異議の申立の理由及び証拠、並びに取消理由によっては、本件発明1〜9についての特許を取り消すことができない。 また、他に本件発明1〜9についての特許を取り消すべき理由を発見しない。 したがって、本件発明1〜9についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認めない。 よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 農業フイルム用樹脂組成物 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 メタロセン触媒を用いて製造された、下記性状a)〜c)を有するエチレン・炭素数6以上のα-オレフィン共重合体を含んでなることを特徴とする農業フィルム用樹脂組成物。 a)メルトフローレート(MFR)が0.01〜10g/10分であり、 b)密度が0.87〜0.915g/cm3であり、 c)温度上昇溶離分別(TREF)によって得られる溶出曲線のピークが1つ以上存在し、主ピークの温度が100℃以下であって、TREFによる50℃における溶出量(Y:共重合体全量に対する重量%)が、以下の1)及び2)の条件を満たす。 1)密度(D)が0.91g/cm3未満であるとき、 Y(重量%)≦-4500D+4105≦100。 2)密度(D)が0.91g/cm3以上であるとき、 Y(重量%)≦10。 【請求項2】 共重合体の性状c)において、TREFによる50℃における溶出量(Y:共重合体全量に対する重量%)が、以下の1)及び2)の条件を満たすものである、請求項1に記載の農業フィルム用樹脂組成物。 1)密度(D)が0.91g/cm3未満であるとき、 Y(重量%)≦-4650D+4238≦100。 2)密度(D)が0.91g/cm3以上であるとき、 Y(重量%)≦7。 【請求項3】 共重合体のゲルパーミェーションクロマトグラフィー(GPC)によって求められるQ値(重量平均分子量/数平均分子量)が3以下である、請求項1または2に記載の農業フィルム用樹脂組成物。 【請求項4】 エチレン・炭素数6以上のα-オレフィン共重合体85〜99重量%に対して、SiO2、Al2O3、MgO、CaO、Al(OH)3、Mg(OH)2、Ca(OH)2、及び、ハイドロタルサイト類から選ばれた少なくとも1種の化合物を含有する無機化合物(成分(B))を15〜1重量%さらに含んでなる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の農業フィルム用樹脂組成物。 【請求項5】 メタロセン触媒を用いて製造された、下記性状a)〜c)を有するエチレン・炭素数6以上のα-オレフィン共重合体85〜99重量%に対して、ハイドロタルサイト類(成分(B))を15〜1重量%を含んでなることを特徴とする農業フィルム用樹脂組成物。 a)メルトフローレート(MFR)が0.01〜10g/10分であり、 b)密度が0.925g/cm3以下であり、 c)温度上昇溶離分別(TREF)によって得られる溶出曲線のピークが1つ以上存在し、主ピークの温度が100℃以下であって、TREFによる50℃における溶出量(Y:共重合体全量に対する重量%)が、以下の1)及び2)の条件を満たす。 1)密度(D)が0.91g/cm3未満であるとき、 Y(重量%)≦-4500D+4105≦100。 2)密度(D)が0.91g/cm3以上であるとき、 Y(重量%)≦10。 【請求項6】 メタロセン触媒を用いて製造された、下記性状a)〜c)を有するエチレン・炭素数6以上のα-オレフィン共重合体85〜99重量%に対して、下記一般式(II)で表わされる化合物又はその焼成物(成分(B))を15〜1重量%を含んでなることを特徴とする農業フィルム用樹脂組成物。 a)メルトフローレート(MFR)が0.01〜10g/10分であり、 b)密度が0.925g/cm3以下であり、 c)温度上昇溶離分別(TREF)によって得られる溶出曲線のピークが1つ以上存在し、主ピークの温度が100℃以下であって、TREFによる50℃における溶出量(Y:共重合体全量に対する重量%)が、以下の1)及び2)の条件を満たす。 1)密度(D)が0.91g/cm3未満であるとき、 Y(重量%)≦-4500D+4105≦100。 2)密度(D)が0.91g/cm3以上であるとき、 Y(重量%)≦10。 一般式(II) M2+1-xAlx(OH)2(An-)x/n・mH2O (式中、M2+はMg、Ca及びZnよりなる群から選ばれた二価金属イオンを示し、そして、x及びmは下記条件を満足するものである。 0<x<0.5、 0≦m≦2) 【請求項7】 成分(B)の平均粒径が10μm以下である、請求項4〜6のいずれか一項に記載の農業フィルム用樹脂組成物。 【請求項8】 請求項1〜7のいずれか一項に記載の樹脂組成物に対して、高圧法低密度ポリエチレン(成分(c))をさらに1〜35重量%添加してなる農業フィルム用樹脂組成物。 【請求項9】 農業フィルムとしての樹脂組成物の用途が農業ハウス用である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の樹脂組成物。』 【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】 本発明は、軽くて、保温性に優れ、透明性、耐引張破れ性、耐衝撃破れ性が良好で、傷付き難い等の優れたフィルム適性を備え、農業用ハウス、農業用カーテン等の用途として最適な農業フィルム用樹脂に関するものである。 【0002】 【従来の技術】 従来から農業用ハウス、農業用カーテン等の温室栽培に用いられる温室用被覆材としては、ポリ塩化ビニルフィルムやエチレン・酢酸ビニル共重合体フィルム等が用いられている。該ポリ塩化ビニルフィルムは、保温性、透明性、強靭性等に優れていることから、近年まで、この種の分野に多用されてきた。しかしながら、この様なポリ塩化ビニルフィルムは、使用中に該フィルム中に含まれている可塑剤がフィルムの表面にブリードしてくるため埃が付着し、経時的に光線透過性が損なわれてきて、ハウス内の温度上昇を妨げるという欠点がある。また、使用後に焼却処理すると有害な塩化水素ガスが発生するため、廃棄処理が困難であった。更に、このポリ塩化ビニル樹脂自体は比重が大きいため、そのフィルムは重く、温室の骨組み上に数10メートルにも渡って展張するのは大変に労力のいる作業である。従って、この様な作業は農業従事者の高齢化に伴って、困難な作業であることから、近年においては軽くて扱い易い材料が要求されるようになった。 【0003】 一方、エチレン・酢酸ビニル共重合体は、一般的なポリオレフィン樹脂と同様に埃が付着し難く、焼却処理しても有害ガスの発生がない点においてはポリ塩化ビニルより優れている。しかしながら、そのフィルムはポリ塩化ビニルフィルム程の透明性を有していないため、光線透過性が低く、また、フィルムの強度が不十分であるため、温室の標準骨組み等の突起部による衝撃、摩擦等によって破れが生じ易く、1年程度経過すると張り替えが必要になり、長期間使用することが困難であった。従って、このような破れ等を防止するために、通常はフィルムの肉厚を厚くする方法が採用されているが、市場での標準的なハウス用フィルム等の厚みは100μm前後であることから、薄肉化の要請があるが、上記力学的性質を満足させるためにはエチレン・酢酸ビニル共重合体では困難なことであった。また、該エチレン・酢酸ビニル共重合体フィルムは、フィルムを展張する際や、夏場や日中にフィルムを捲り上げたりする作業等の際にフィルム同志が擦れたり、温室の骨組み等に擦れるためにフィルムの表面に傷が付き易いという欠点も有していた。更に、保温性を付与するために、種々の無機物質をフィルム中に添加して改善することが、特公昭47-13853号公報(シリカ粉末)、特公平3-50791号公報(マグネシウム化合物)、特公昭62-31744号公報(ハイドロタルサイト)にて知られているが、これらの無機物質を添加すると、フィルムの表面がより一層傷付き易くなり、このようなことも大きな問題点として改善が望まれていた。 【0004】 【発明が解決しようとする課題】 本発明の目的は、かかる問題点を解決し、軽くて、保温性に優れ、透明性、耐引張破れ性、耐衝撃破れ性が良好で、傷付き難く、なおかつ薄肉化が可能な、優れたフィルム適性を備えて、農業用フィルムとしても最適な素材である樹脂組成物を提供することにある。 【0005】 【課題を解決するための手段】 [発明の概要] 本発明者らは、従来の農業用フィルムよりも優れた性能を備え、農業用フィルム素材として最適なエチレン系樹脂組成物を得るために鋭意研究を重ねた結果、特定の性状を有するエチレン・α-オレフィン共重合体と、特定の性状の無機化合物を特定な量比で配合することにより、上記本発明の目的が達成され得ることができるとの知見を得て本発明を完成するに至ったものである。すなわち、本発明の農業フィルム用樹脂組成物は、メタロセン触媒を用いて製造された、下記性状a)〜c)を有するエチレン・炭素数6以上のα-オレフィン共重合体を含んでなることを特徴とするものである。 a) メルトフローレート(MFR)が0.01〜10g/10分であり、 b) 密度が0.925g/cm3以下であり、 c) 温度上昇溶離分別(TREF)によって得られる溶出曲線のピークが1つ以上存在し、主ピークの温度が100℃以下であって、TREFによる50℃における溶出量(Y:共重合体全量に対する重量%)が、以下の1)及び2)の条件を満たす。 1) 密度(D)が0.91g/cm3未満であるとき、 Y(重量%)≦-4500D+4105≦100。 2) 密度(D)が0.91g/cm3以上であるとき、 Y(重量%)≦10。 【0006】 [発明の具体的説明] [I]エチレン系樹脂組成物 (1)構成成分 本発明の農業フィルム用のエチレン系樹脂組成物、すなわち農業フィルム用樹脂組成物は、下記の成分(A)から構成されるものであり、必要により、成分(B)および/または成分(C)をさらに含んでなることにより構成されるものである。 (A)エチレン・炭素数4以上のα-オレフィン共重合体(成分(A)) (a)性 状 上記エチレン系樹脂組成物中の成分(A)のエチレン・炭素数4以上のα-オレフィン共重合体は、以下の▲1▼〜▲3▼の物性を示すもの、特に▲1▼〜▲4▼の物性を示すものであることが好ましい。本発明においては、成分(A)として、そのような物性を有するものを適宜選択して使用することができる。 【0007】 ▲1▼メルトフローレート(MFR) 本発明において用いられるエチレン・炭素数4以上のα-オレフィン共重合体は、JIS-K7210によるMFR(メルトフローレート:Melt Flowrate:溶融流量)が0.01〜10g/10分、好ましくは0.1〜5g/10分、特に好ましくは0.5〜3g/10分の物性を示すものである。該MFRが上記範囲より大であると成形が不安定となる。また、該MFRが上記範囲より小さすぎると成形時の樹脂圧力が大きくなりすぎて、製品の生産量の低下を起こすので実用的でない。 【0008】 ▲2▼密 度 本発明において用いられるエチレン・炭素数4以上のα-オレフィン共重合体は、JIS-K7112による密度が0.925g/cm3以下、好ましくは0.87〜0.915g/cm3、特に好ましくは0.88〜0.910g/cm3を示すものである。該密度が上記範囲より高すぎると透明性が悪化する。また、密度が上記範囲より低すぎると、フイルム表面のベタつきによりブロッキングが生じて実用性に供し得なくなる。 【0009】 ▲3▼温度上昇溶離分別(TREF)によって得られる溶出曲線のピーク 本発明にて用いられるエチレン・炭素数4以上のα-オレフィン共重合体は、温度上昇溶離分別(TREF:Temperature Rising Elution Fractionation)によって得られる溶出曲線のピークが、1つ以上、好ましくは1つ存在し、主ピークの温度が100℃以下、好ましくは85℃以下、特に好ましくは75℃以下、を示すものである。 温度上昇溶離分別による溶出曲線の測定 温度上昇溶離分別(Temperature Rising ElutionFractionation:TREF)による溶出曲線の測定は、「Journal of Applied Polymer Science,Vol26,4217-4231(1981)」に記載されている原理に基づき、以下のようにして行なわれる。先ず、測定の対象とするポリマーを溶媒中で完全に溶解する。その後、冷却して不活性担体表面上に薄いポリマー層を生成させる。かかるポリマー層は結晶しやすいものが内側(不活性担体表面に近い側)に、結晶しにくいものが外側に形成されてなるものである。次に、温度を連続又は段階的に上昇させると、低温度段階では対象のポリマー組成中の非晶部分、すなわちポリマーの持つ短鎖分岐の分岐度の多いものから溶出し、温度が上昇すると共に徐々に分岐度の少ないものが溶出して、最終的に分岐の少ない直鎖状の部分が溶出し、測定は終了するのである。かかる各温度の溶出成分の濃度を検出し、その溶出量と溶出温度によって描かれるグラフによってポリマーの組成分布を見ることができるものである。 【0010】 温度上昇溶離分別(TREF)による50℃における溶出量 本発明にて用いられるエチレン・炭素数4以上のα-オレフィン共重合体の温度上昇溶離分別(TREF)による50℃における溶出量(Y:成分A全量に対する重量%)が以下の1)及び2)の条件を満たすものであることが最適である。 1)成分Aの密度(D)が0.91g/cm3未満であるとき、 Y(重量%)≦-4500D+4105≦100、好ましくはY≦-4650D+4238≦100である。 2)成分Aの密度(D)が0.91g/cm3以上であるとき、 Y(重量%)≦10、好ましくはY≦7である。 【0011】 ▲4▼ Q 値 このようなエチレン・炭素数4以上のα-オレフィン共重合体のゲルパーミェーションクロマトグラフィー(GPC)によって求められるQ値(重量平均分子量/数平均分子量)は4以下、好ましくは3以下、特に好ましくは2.5以下であるのが好適である。Q値が上記値より大きすぎると引張り強度が小さくなる傾向がある。 【0012】 (b)エチレン・炭素数4以上のα-オレフィン共重合体の製造 メタロセン触媒 このようなエチレン・炭素数4以上のα-オレフィン共重合体は、特開昭58-19309号、同59-95292号、同60-35005号、同60-35006号、同60-35007号、同60-35008号、同60-35009号、同61-130341号、特開平3-163088号の各公報、ヨーロッパ特許出願公開第4,204,436号明細書、米国特許第5,055,438号明細書及び国際公開公報WO91/04257号明細書等に記載されているメタロセン触媒、特にはメタロセン/アルモキサン触媒、又は、例えば、国際公開公報WO92/01723号明細書等に開示されているような、メタロセン化合物と以下に述べるメタロセン化合物と反応して安定なアニオンとなる化合物からなる触媒を使用して主成分のエチレンと従成分の炭素数4以上のα-オレフィンとを共重合する方法である。 【0013】 上述の、メタロセン化合物と反応して安定なアニオンとなる化合物とは、カチオンとアニオンのイオン対から形成されるイオン性化合物或いは親電子性化合物であり、メタロセン化合物と反応して安定なイオンとなって重合活性種を形成するものである。このうちイオン性化合物は下記一般式(I)で表されるものである。 一般式(I) [Q]m+ [Y]m- (mは1以上の整数) 上記式中の、Qはイオン性化合物のカチオン成分であり、カルボニウムイオン、トロピリウムカチオン、アンモニウムカチオン、オキソニウムカチオン、スルホニウムカチオン、ホスホニウムカチオン等が挙げられる。更にそれ自身が還元され易い金属の陽イオンや有機金属の陽イオン等も挙げられる。これらのカチオンは特表平1-501950号公報等に開示されているようなプロトンを与えることができるカチオンだけでなくプロトンを与えないカチオンでも良い。これらのカチオンの具体例としては、トリフェニルカルボニウム、ジフェニルカルボニウム、シクロヘプタトリエニウム、インデニウム、トリエチルアンモニウム、トリプロピルアンモニウム、トリブチルアンモニウム、N,N-ジメチルアニリウムジプロピルアンモニウム、ジシクロヘキシルアンモニウム、トリフェニルホスホニウム、トリメチルホスホニウム、トリ(ジメチルフェニル)ホスホニウム、トリ(メチルフェニル)ホスホニウム、トリフェニルスルホニウム、トリフェニルオキソニウム、トリエチルオキソニウム、ピリリウム、また銀イオン、金イオン、白金イオン、銅イオン、パラジウムイオン、水銀イオン、フェロセニウムイオン等が挙げられる。また、Yはイオン性化合物のアニオン成分であり、メタロセン化合物と反応して安定なアニオンとなる成分であって、有機硼素化合物アニオン、有機アルミニウム化合物アニオン、有機ガリウム化合物アニオン、有機燐化合物アニオン、有機砒素化合物アニオン、有機アンチモン化合物アニオン等が挙げられる。 【0014】 具体的には、テトラフェニル硼素、テトラキス(3,4,5-トリフルオロフェニル)硼素、テトラキス(3,5-ジ(トリフルオロメチル)フェニル)硼素、テトラキス(3,5-ジ(t-ブチル)フェニル)硼素、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)硼素、テトラフェニルアルミニウム、テトラキス(3,4,5-トリフルオロフェニル)アルミニウム、テトラキス(3,5-ジ(トリフルオロメチル)フェニル)アルミニウム、テトラキス(3,5-ジ(t-ブチル)フェニル)アルミニウム、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)アルミニウム、テトラフェニルガリウム、テトラキス(3,4,5-トリフルオロフェニル)ガリウム、テトラキス(3,5-ジ(トリフルオロメチル)フェニル)ガリウム、テトラキス(3,5-ジ(t-ブチル)フェニル)ガリウム、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ガリウム、テトラフェニル燐、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)燐、テトラフェニル砒素、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)砒素、テトラフェニルアンチモン、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)アンチモン、デカボレート、ウンデカボレート、カルバドデカボレート、デカクロロデカボレート等が挙げられる。 【0015】 また親電子性化合物としては、ルイス酸化合物として知られるもののうち、メタロセン化合物と反応して安定なアニオンとなって重合活性種を形成するものであり、種々のハロゲン化金属化合物や、固体酸として知られている金属酸化物等が挙げられる。具体的にはハロゲン化マグネシウムやルイス酸性無機化合物等が例示される。 【0016】 α-オレフィン 従成分のα-オレフィンとしては、炭素数4以上のα-オレフィン、例えば、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-ヘプテン、4-メチルペンテン-1、4-メチルヘキセン-1、4,4-ジメチルペンテン-1等が挙げられる。これらα-オレフィンの中で好ましくは炭素数4〜12、特に好ましくは6〜10の1種又は2種以上のα-オレフィン2〜60重量%、好ましくは5〜50重量%と、エチレン40〜98重量%、好ましくは50〜95重量%とを共重合させるのが好ましい。 【0017】 共重合 このエチレン・炭素数4以上のα-オレフィン共重合体の重合方法としては、気相法、スラリー法、溶液法、高圧イオン重合法等を挙げることができる。これらの中では溶液法、高圧イオン重合法が好ましく、本発明の効果が大きく発揮することができる高圧イオン重合法が特に好ましい。なお、この高圧イオン重合法とは、特開昭56-18607号、特開昭58-225106号の各公報に記載されている、圧力が200kg/cm2以上、好ましくは300〜2,000kg/cm2、温度が125℃以上、好ましくは130〜250℃、特に150〜200℃の反応条件下に行なわれるエチレン系重合体の連続的製造法である。 【0018】 (B)無機化合物(成分(B)) 本発明の農業フィルム用樹脂組成物を必要に応じて構成する成分(B)の無機化合物は、Si,Al,Mg,Caから選ばれた少なくとも1つの原子を含有する無機酸化物、無機水酸化物又は無機複合化合物等である。具体的には、SiO2、Al2O3、MgO、CaO、Al(OH)3、Mg(OH)2、Ca(OH)2、また以下の一般式(II)で表わされる化合物やその焼成物でハイドロタルサイト類と称される物質等が挙げられる。 一般式(II) M2+1-xAlx(OH)2(An-)x/n・mH2O (式中、M2+はMg、Ca及びZnよりなる群から選ばれた二価金属イオンを示し、そして、x及びmは下記条件を満足するものである。 0<x<0.5、 0≦m≦2) これらの中でも好ましくはハイドロタルサイト類、特に好ましくは一般式(II)で表わされる化合物の焼成物(通常200〜300℃焼成)である。これらの無機化合物は1つ又は2つ以上を併用することができる。これら無機化合物は、平均粒径が10μm以下、好ましくは5μm以下、特に好ましくは3μm以下であるのが望ましい。平均粒径が大きすぎるとフィルムの透明性が損なわれるので好ましくない。 【0019】 (C)その他の成分(成分(C)) 本発明の農業フィルム用樹脂組成物には、フィルムを成形する際の成形性を良好なものとするために、エチレン重合体、例えば高圧法低密度ポリエチレン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・エチルアクリレート共重合体、エチレン・アクリル酸エステル共重合体等、中でも好ましくは高圧法低密度ポリエチレンを1〜35重量%、好ましくは3〜25重量%、特に好ましくは7〜20重量%添加するのが好ましい。ここで、上記高圧法低密度ポリエチレンは、MFRが0.1〜20g/10分、好ましくは0.5〜10g/10分、特に好ましくは1〜5g/10分であり、密度(D)は0.915〜0.930g/cm3、好ましくは0.918〜0.927g/cm3、特に好ましくは0.919〜0.923g/10分であり、ME(定速押出量:3g/分)が1.3以上、好ましくは1.6以上、特に好ましくは1.8以上であり、溶融張力(Melt Tension:MT)が1.5g以上、好ましくは2.5g以上、特に好ましくは5g以上のものである。この高圧法低密度ポリエチレンは市販品の中から上記性状を有するものを適宜選択して使用することができるが、特に好ましくは反応温度220℃以上、反応圧力1,700kg/cm2以下でオートクレーブ法で製造した高圧法低密度ポリエチレンを使用することが望ましい。更に、本発明の農業フィルム用樹脂組成物中には、一般に樹脂組成物に通常使用される補助添加成分、例えば、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、分散剤、滑剤、アンチブロッキング剤、顔料、着色剤、防曇剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、核剤、中和剤、スリップ剤等の添加剤を配合することができる。 【0020】 (2)配合割合 本発明の農業フィルム用樹脂組成物を構成する上記成分(A)及び成分(B)の配合割合は、該組成物中に、好ましくは成分(A):成分(B)=85重量%:15重量%〜99重量%:1重量%、さらに好ましくは成分(A):成分(B)=90重量%:10重量%〜98重量%:2重量%、特に好ましくは成分(A):成分(B)=92重量%:8重量%〜97重量%:3重量%である。上記農業フィルム用樹脂組成物中の成分(B)の配合割合が多すぎるとフィルムの透明性が低下する。また、成分(B)の配合割合が少なすぎると農業用フィルムとしての保温性のレベルが不足する。 【0021】 (3)ブレンド 本発明の農業フィルム用樹脂組成物は、通常の樹脂組成物の製造方法と同様の方法で、成分Aのエチレン・炭素数4以上のα-オレフィン共重合体と、成分Bの無機化合物とをブレンドすることによって製造することができる。具体的には、成分(B)と少量の成分(A)と、必要であれば更にその他の添加剤とを添加して、二軸混練押出機、バンバリーミキサー、ニーダー等を用いて溶融、混練させた後、ペレット化して成分(B)のマスターバッチを製造し、このペレット化した成分(B)のマスターバッチを多量の成分(A)とヘンシェルミキサー等のブレンダーで良く混合して樹脂組成物を製造するのが普通である。 【0022】 [II] 成形・加工 本発明の農業フィルム用樹脂組成物は、T-ダイ成形、インフレーション成形等によりフィルム状に成形することができる。また、この農業フィルム用樹脂組成物からなるフィルムは単層で使用することが可能であり、また他のポリオレフィン樹脂と積層した多層フィルムとすることもできる。 【0023】 [III] 用 途 このような本発明の農業フィルム用樹脂組成物は、フィルム状に成形することにより、従来のフィルムよりも強度に優れたものとなり、フィルムの薄肉化が可能なため、軽く、なおかつ、保温性に優れ、耐引張り破れ性、耐衝撃破れ性、透明性が良好で、更に傷付き難いので、農業用ハウス、農業用カーテン等の屋外用に用いられる農業用フィルムとしても極めて有用なものである。 【0024】 【実施例】 以下に実施例及び比較例を記載し、本発明を更に具体的に説明する。 [I]物性の測定方法と評価方法実施例及び比較例における物性の測定と評価は、以下に示す方法によって実施した。 (1)物性の測定方法 (a)MFR: JIS-K7210に準拠 (b)密度: JIS-K7112に準拠 【0025】 (c)溶出曲線: 以下に示す測定条件下で温度上昇溶離分別(Temperature Rising Elution Fractionation:TREF)を測定した。 溶出曲線の作成は、先ず、各溶出温度(℃)における溶出物の重量分率を積算し積分溶出量を求める。横軸に溶出温度、縦軸に積分溶出量をプロットし、積分溶出曲線を描く。 この積分溶出曲線を温度で微分し、微分溶出量を求める。次に横軸に溶出温度、縦軸に微分溶出量をプロットし、微分溶出曲線を描く。 この微分溶出曲線の作図は、横軸を溶出温度100℃当たり89.3mm、縦軸を微分量0.1当たり76.5mmで行なった。 機 種 :三菱油化(株)製 CFC T150A 溶 媒 :o-ジクロロベンゼン 流 速 :1ml/分 測定濃度:4mg/ml 注入量 :0.4ml カラム :昭和電工 AD80M/S 3本 冷却速度:1℃/分 【0026】 (d) Q値:以下の測定条件下でGPCにより重量平均分子量と数平均分子量を測定しQ値を求めた。 機 種 :Waters Model 150C GPC 溶 媒 :o-ジクロロベンゼン 流 速 :1ml/分 温 度 :140℃ 測定濃度:2mg/ml 注入量 :20μl カラム :昭和電工 AD80M/S 3本 【0027】 (e)溶融張力(メルトテンション、Melt Tension:MT):東洋精機製キャピログラフ1-Bにて、試験温度190℃、押出速度1cm/分で、押し出された樹脂を引き取る際の引取速度を徐々に速くして行き、樹脂フィラメントが剪断した時の応力とする。 【0028】 (2)評価方法 (a)ヘイズ(HAZE): JIS-K7105に準拠 (b)エレメンドルフ引裂強度: JIS-Z1702に準拠 (c)引張強伸度: JIS-K6781に準拠 (d)打抜衝撃強度: JIS-P8134に準じた装置を用いて測定を行なう。 フィルムの測定部分の厚みを測定し、そのフィルムを試料台に固定し、振り子を振らせ、試料に衝撃を加える。この貫通破壊に要したエネルギー(kg・cm)を目盛り板から読み取り、その値を試料厚み(cm)で除して求められる。 (e)保温性: 成膜したフィルムを、高さ60cm、長さ1.5mのミニハウスに張り付け、午前4時のハウス内の温度及びハウス外部の温度を測定し、その温度差を観察した。これを10日間行ない、その平均値を算出した。 (f)スクラッチ性: 成膜したフィルムを2枚重ね、表面を擦り合わせた後、擦り合わせた表面の傷の多少を目視にて観察する。 傷が少なければ○、多ければ×で表わす。 【0029】 [II] 実験例 実施例1 (1) エチレン・炭素数4以上のα-オレフィン共重合体(成分(A))の製造 (a)触媒の調製 触媒の調製は特開昭61-130314号公報に記載された方法で実施した。すなわち、錯体エチレンビス(4,5,6,7-テトラヒドロインデニル)ジルコニウムジクロライド2.0ミリモルに、東洋ストウファー製メチルアルモキサンを上記錯体に対し1,000モル倍加え、トルエンで10リットルに希釈して触媒溶液を調製した。 (b)重 合 内容積1.5リットルの攪拌式オートクレーブ型連続反応器に、エチレンとヘキセン-1との混合物をヘキセン-1の組成が75重量%となるように供給し、反応器内の圧力を1,000kg/cm3に保ちながら、145℃の温度で反応を行なった。反応終了後、MFRが2g/10分、密度が0.909kg/cm3、Q値が1.9、TREF溶出曲線のピークが1つ、ピーク温度が68℃、50℃における溶出量が4.8重量%であるエチレン・ヘキセン-1共重合体(成分(A))を得た。 【0030】 (2) エチレン系樹脂組成物の製造 先ず、成分(B)の無機物質として、協和化学(株)製ハイドロタルサイト焼成処理品(商品名:DHT-4A-2、平均粒径0.4μm)を、上記エチレン・炭素数4以上のα-オレフィン共重合体(成分(A))に対して30重量%の割合となるように二軸押出機で200℃の成形温度にて造粒して、マスターバッチとした。このマスターバッチと上記エチレン・炭素数4以上のα-オレフィン共重合体(成分(A))を80:20の割合で配合し、40mmφの単軸押出機にて造粒し、ペレットとした。 【0031】 (3)フィルム成形 このペレットを用いて、トミー機械工業(株)製40mmφインフレーション成形機で、成形温度が180℃、スクリュー回転数が70rpmにてインフレーション成形を行ないフィルムを得た。このフィルムについて評価を行なった。評価結果を表1に示す。このフィルムは、従来のフィルムよりも強度に優れており、フィルムの薄肉化が可能で、軽く、保温性に優れ、耐引張り破れ性、耐衝撃破れ性、透明性が良好で、傷付き難いものであった。 【0032】 実施例2 樹脂組成物は実施例と同様の方法で行ない、成形時のフィルムの厚みを変えた以外は実施例1と同様にフィルム成形し、評価した。その結果を表1に示す。 【0033】 実施例3 成分(A)と成分(B)の他に、成分(C)としてMFRが4g/10分、密度が0.92kg/cm3、ME(定速押出量:3g/分で測定)が2.4、溶融張力(Melt Tension)が9.4gである高圧法低密度ポリエチレンを表1のように配合した以外は実施例1と同様にフィルム成形し、評価を行なった。その結果を表1に示す。 【0034】 比較例1 成分Aの代りに、三菱油化(株)製三菱ポリエチEVA X303を使用し、三菱重工(株)製40mmφインフレーション成形機で成形温度がC1/C2/ダイ=120℃/160℃/145℃にてフィルムを成形し、評価した。評価結果を表3に示す。 【0035】 実施例4,5及び比較例2,3 表2及び3に示す物性の成分(A)及び成分(B)を使用した以外は実施例1と同様にフィルム成形し、評価した。その結果を表2及び表3に示す。 【0036】 実施例6及び比較例4 成分(B)の配合割合を変えた以外は実施例1と同様にフィルム成形し、評価した。その結果を表2及び表3に示す。 【0037】 実施例7 実施例1の成分(B)の代りに、無機物質として協和化学(株)製ハイドロタルサイト未焼成処理品(商品名:DHT-4A、平均粒径0.4μm)を使用した以外は実施例1と同様にフィルム成形し、評価した。その結果を表2に示す。 【0038】 実施例8 実施例1の成分(B)の代りに、無機物質として特公昭63-8991号公報に記載の燐珪酸ガラス(平均粒径:3μm、組成:SiO2 50モル%,P2O5 21モル%,Al2O3 7モル%,ZnO 5モル%,B2O3 5モル%,CaO 7モル%,Na2O 5モル%)を使用した以外は実施例1と同様にフィルム成形し、評価した。その結果を表2に示す。 【0039】 比較例5 成分(A)の代わりに、チーグラー触媒を用いて重合されたエチレン・ブテン-1共重合体(日本ポリケム(株)製、ノバテックLLUF240)を使用した以外は、実施例1と同様にフィルム成形し、評価した。その結果を表3に示す。 【0040】 比較例6 実施例1の成分(A)の製造に際して、ヘキセン-1の代わりにブテン-1(炭素数4)を使用し、得られたもの(EXACT3025)を成分(A)として使用した以外は、実施例1と同様にフィルム成形し、評価した。その結果を表3に示す。 【0041】 なお、表3の成分(A)欄において、例えば「C2-C6(M)」とあるのは、成分(A)がエチレン・炭素数6のα-オレフィン共重合体であることを示す。また、「M」とあるのはこの成分(A)がメタロセン触媒を用いて製造されたものであることを示す。成分(A)がチーグラー触媒を用いて製造されたものである場合には、ここは「T」と標記する。 【0042】 【表1】 【0043】 【表2】 【0044】 【表3】 【0045】 【発明の効果】 このような本発明の農業フィルム用樹脂は、フィルムに成形することにより、従来のフィルムよりも強度に優れているので、フィルムの薄肉化が可能なため、軽く、なおかつ、保温性に優れ、耐引張り破れ性、耐衝撃破れ性、透明性が良好で、更に傷付き難いので、農業用ハウス、農業用カーテン等の屋外用に用いられる農業用フィルムの素材としても極めて有用なものである。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2005-03-15 |
出願番号 | 特願平11-285749 |
審決分類 |
P
1
651・
531-
YA
(C08L)
P 1 651・ 534- YA (C08L) P 1 651・ 161- YA (C08L) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 三谷 祥子、藤本 保 |
特許庁審判長 |
井出 隆一 |
特許庁審判官 |
佐野 整博 船岡 嘉彦 |
登録日 | 2002-10-25 |
登録番号 | 特許第3363413号(P3363413) |
権利者 | 三菱化学株式会社 |
発明の名称 | 農業フィルム用樹脂組成物 |
代理人 | 柿澤 紀世雄 |
代理人 | 柿澤 紀世雄 |
代理人 | 牧村 浩次 |
代理人 | 鈴木 俊一郎 |