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審決分類 審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  H05K
審判 一部申し立て 2項進歩性  H05K
管理番号 1117850
異議申立番号 異議2003-72636  
総通号数 67 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1993-10-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-10-28 
確定日 2005-03-23 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3401281号「フレキシブル回路の作製方法」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3401281号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3401281号は、平成5年1月22日(パリ条約による優先権主張1992年1月23日)の出願に係り、平成15年2月21日に設定登録(請求項の数;5)されたものであるが、本件特許の請求項1の発明に関して、井上博史より特許異議の申立てがあったので、当審において当該申立ての理由を検討の上、平成16年3月24日付けで特許取消理由(第1回)を通知したところ、期間延長請求書により延長された期間内の平成16年10月6日に特許異議意見書が提出され、さらに、当審より平成17年2月9日付けで特許取消理由(第2回)を通知したところ、その通知書で指定した期間内の平成17年2月23日に訂正請求書が提出されたものである。

2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
本件特許異議申立てに係る訂正請求における訂正の内容は、次のとおりである。
〔訂正事項〕
特許請求の範囲の請求項1の「包含する、方法」の後に、「(但し、該フレキシブル基材はポリマーフィルムがエッチングされる領域上にシード金属層を有しない。)」を加入する。

(2)訂正の目的、新規事項の有無及び特許請求の範囲の実質的拡張・変更の存否
上記訂正事項は、本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1において、フレキシブル基材が、ポリマーフィルムがエッチングされる領域上にシード金属層を有しないことを明確にして特許請求の範囲を減縮するものであって、この訂正事項については、願書に添付した明細書の【0010】等に記載されているから、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。

(3)むすび
したがって、上記訂正は、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、及び同条第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.特許異議の申立てについての判断
(1)申立ての理由の概要
異議申立人は、本件特許発明は、甲第1号証(特開平2-48666号公報)と、甲第2号証(フォトポリマーハンドブック:(株)工業調査会1989年6月初版)とに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許は拒絶の査定をしなければならない出願について受けたことになり、特許を取り消すべきと主張している。

(2)本件特許発明
上記2.で示したとおり、平成17年2月23日付けの訂正請求は認容されるので、本件特許の請求項1に係る発明は、平成17年2月23日付けの訂正請求書に添付された全文訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのもの(以下、「本件発明」という。)と認める。
「【請求項1】 ポリイミド、ポリカーボネート、変性ポリイミドおよびポリエステルからなる群から選択されるポリマーフィルムを50〜120℃の温度で濃厚塩基と接触させる工程を包含する、完全硬化または実質的に完全硬化したポリマーフィルムをエッチングする方法を包含するフレキシブルプリント回路作製方法であって、
該ポリマーフィルムの一部が、ポリマー、追加の架橋性モノマー単位および光開始剤を含有し、該ポリマーが、メタアクリル酸メチルとアクリル酸エチルとアクリル酸とのコポリマー、スチレンと無水マレイン酸イソブチルエステルとのコポリマーから選択され、該モノマー単位が多価アクリル酸エステルである、架橋されたネガティブ水処理可能フォトレジストを有するマスクで保護されており、
下記の工程:
a)ポリイミド、ポリカーボネート、変性ポリイミドおよびポリエステルから選択されるポリマーフィルムを有するフレキシブル基材上に、該レジストを積層する工程、
b)該レジストの少なくとも一部を露光し、それによりその露光部分を架橋させる工程、
c)該レジストを所望の像が得られるまで希薄水溶液で現像する工程、
d)架橋されたレジストで被覆されていないポリマーフィルムの部分を25%〜60%の濃度の濃厚塩基によりエッチングする工程、および
e)該レジストを希薄塩基溶液でポリマーフィルムから剥離する工程、
を包含する、方法(但し、該フレキシブル基材はポリマーフィルムがエッチングされる領域上にシード金属層を有しない。)。」

(3)引用刊行物の記載
当審が通知した第1回、第2回の取消しの理由に引用された刊行物1(特開平2-48666号公報:甲第1号証)には、「充分にまたは少なくとも実質的に充分に、熱的にまたは化学的に硬化された、ポリイミドを取り除くための湿式エツチング法」に関して、以下の記載がある。
(A)「本発明は、充分にまたは少なくとも実質的に充分に、熱的にまたは化学的に硬化された、ポリイミド層のエツチングに関するものである。
特に、本発明は、充分にまたは少なくとも実質的に充分に、熱的にまたは化学的に硬化された、ポリイミドを取り除くための湿式エツチング法に関するものである。
また本発明は、熱的にまたは化学的に硬化されたポリイミド層中の、互に分離されている金属層の間に、選択的な金属の連絡を可能とするためのバイアス(vias)を形成するのに特に適している。さらに、本発明は回路キヤリアとして用いられる、ポリイミドに像を現わすために有用である。
〔従来の技術〕
ポリイミドフイルム中に、開口部またはバイアスを作るために選択的にエツチングすることは、ポリイミドの各種用途に対し重要である。例えば、半導体チツプをパツケージする場合、基体には、しばしば、ポリイミド層が付与される。
多くのこれらの場合に、異つた金属層間に作られるべき電気的な連結を可能とするために、ポリイミド層中にバイアスを形成することが必要である。この相互の連結をできる限り正確なものとするため、必要とするポリイミドパターンの変形をさけ、そして他の湿式処理の薬品の作用を防ぐために、ポリイミドフイルムは充分に硬化されていることが必要である。」(第2頁左上欄9行〜左下欄3行)
(B)「他の用途としては、フレキシブル回路用の誘電体キヤリア、および/または回路キヤリアとしてのものがある。」(第2頁右下欄6〜8行)
(C)「本発明のさらに別の態様によれば、金属化されたポリイミド構成体をエツチングするために以下の手順が用いられる。特に、その両主要面上に金属配線パターンと比較的うすい金属のシード層とを有する、ポリイミド基体の両方の面上にフオトレジストを付与した。後にエツチングされるポリイミドの区域を画定するために、このフオトレジストは露光されそして現像される。ポリイミドが後にエツチングされる所として、画定された区域からシード金属をエツチングし、ついでポリイミドがエツチングされる。つぎに、フオトレジストが取り除かれ、このフオトレジストにより保護されていた、残留しているシード金属がエツチングで取り去られる。」(第3頁右下欄12行〜第4頁左上欄8行)
(D)「本発明によりエツチングすることのできるポリイミドには、未変性のポリイミドと同様にポリエステルイミド、ポリアミド-イミド-エステル、ポリアミド-イミド、ポリシロキサン-イミド、並びにその他の混合ポリイミドなどの変性ポリイミド類も含まれる。」(第4頁左下欄7〜12行)
(E)「次に、別のフオトレジスト・・・が、好ましくラミネーシヨンにより付与される。このフオトレジストは、パターン状にメツキされた銅の間にある、シード金属層を取り除く次の工程のために用いられる。このフオトレジストはパターン化された銅と全く一致するわけではないから、このホトレジストと銅配線との間には自由な材料の区域が存在する。しかし、この銅配線に隣り合うポリイミドの面上には、この段階でまだシード金属が存在しているから、ポリイミドの引き続くエツチング工程において、配線のエツチバツクを防止するためのエツチングバリアとして作用するであろう。このフオトレジスト層はネガ型レジストであることが好ましい。
本発明により用いられるフオトレジストの例には、ネガ型または光硬化性のポリマー組成物が含まれ、・・・欧州特許出願公報第0049504号などで提案されており、これらの開示をここに参考として述べておく。・・・
本発明により用いられるネガ型フオトレジストの実例はポリメチルメタクリレートからのもので、「リストンT-168」と「リストン3515」の商品名のもとにイー・アイ・デユポンデネモアーズ社から商業的に入手できるようなものである。「リストンT-168」はポリメチルメタクリレートと、トリメチロールプロパントリアクリレートからのもののような架橋結合可能なモノマー単位とからのネガ型フオトレジスト材料である。ポリメチルメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、およびトリメチレングリコールジアセテートから、ネガ型レジストを作るための詳細な説明は、米国特許第3,867,153号の実施例1中に見ることができる。「リストン3515」は水性媒質中で現像することのできるネガ型のフオトレジスト材料である。水性の現像可能なネガ型フオトレジストの例は、欧州特許出願公報第0049504号の実施例23中で述べられており、この説明をここに参考として述べておく。ここで述べられている代表的なレジストはメチルメタクリレート、エチルアクリレート、およびアクリル酸のコポリマーからのものと、スチレンと無水マレイン酸イソブチルエステルのコポリマーとである。」(第8頁左上欄1行〜右下欄2行)
(F)「レジストがシード金属の取り除かれた後でだけラミネートされるため、若干の銅の配線が存在するポリイミドに主としてラミネートされる従来方法と異り、特定の順序の工程を採用することによりレジストは銅だけの上に付与される。銅に対するレジストの接着性は著るしく大であり、例えばポリイミドに対するものよりも約10倍も大きいのである。ポリイミドからのレジストの脱ラミネートには問題のあることが認められているが、銅からは何の問題もない。さらに、従来方法の場合レジストがポリイミドから脱ラミネートされるならば、エツチングバリアは破壊され、そしてエツチング剤がポリイミド全体に作用するだろう。本発明の場合、シード金属層がなお存在しているから、このようなことは生じない。
さらに、もしラミネーターにレジストを適切にラミネートし得ないという問題が存在するときは、それはポリイミドのエツチングの前にはつきりと認めることができる。他方、レジストとポリイミドとの間のギヤツプまたはラミネート不良は容易には認められない。」(第8頁右下欄3行〜第9頁左上欄7行)
(G)「レジストはつぎに所望のパターンに露光され、画像が作られ、そしてつぎにネガ型レジストの場合には、適当な液体中で溶解させることにより、未露光部のシード材料を取り除いて現像される。・・・
従来技術と本発明との明確な区別は、工程のこの点でフラツシユエツチングを用いることである。このフラツシユエツチングは、つぎにエツチングされるポリイミドの所からシード金属だけを取り除き、そしてエツチバツクを防ぐために銅配線に隣接するシード金属は残留させるのである。・・・
つづいて、露光されたポリイミドは少なくとも4モル、好ましくは約6.7〜6.8モルの水酸化カリウム溶液を用いてエツチングする。
次いでレジストは適当な溶媒に溶解することにより除去される。」(第9頁左上欄8行〜左下欄6行)
(H)「パネルはいまやカプトンのエツチングをするための準備が整つた。パネルは約2.5分間95℃の水で予備浸漬をした。この後6.7モルの水酸化カリウムのエツチングを95℃で約3.5分間行つた。」(第10頁左下欄14行〜右下欄1行)

これらの記載からみて、上記刊行物1のエツチング法は、ポリイミド、変性ポリイミドのポリマーフィルムを、50〜120℃の温度範囲内である95℃の温度で、濃厚塩基である水酸化カリウムと接触させる工程を包含する、比較的うすい金属のシード層を有する完全硬化または実質的に完全硬化したポリマーフィルムをエッチングする方法であるものと認められ、該ポリマーフィルムのエッチングに用いられるレジスト材料である「リストン3515」は、水性媒質中で現像することのできるネガ型のフオトレジスト材料であって、メチルメタクリレート(メタクリル酸メチル)、エチルアクリレート(アクリル酸エチル)、およびアクリル酸のコポリマー、スチレンと無水マレイン酸イソブチルエステルとのコポリマーから選択されたポリマーからなるレジストであり、架橋結合可能なモノマー単位として、多価アクリル酸エステルであるトリメチロールプロパントリアクリレートを用いているものと認められる。
また、このような露光部分を架橋させるレジストが光開始剤を含有することは当然であり、さらに、このような方法がフレキシブルプリント回路作製方法の一部であることは当然である。
したがって、上記刊行物1には、
「ポリイミド、変性ポリイミド等のポリマーフィルムを95℃の温度で濃厚塩基と接触させる工程を包含する、比較的うすい金属のシード層を有する完全硬化または実質的に完全硬化したポリマーフィルムをエッチングする方法を包含するフレキシブルプリント回路作製方法であって、
該比較的うすい金属のシード層を有するポリマーフィルムの一部が、メタクリル酸メチルとアクリル酸エチルとアクリル酸とのコポリマー、スチレンと無水マレイン酸イソブチルエステルとのコポリマーから選択されたポリマーを含有する、架橋されたネガティブ水処理可能フォトレジストを有するマスクで保護されており、
下記の工程:
a)ポリイミド、変性ポリイミドから選択されるポリマーフィルムを有するフレキシブル基材上に、該レジストを積層する工程、
b)該レジストの少なくとも一部を露光し、それによりその露光部分を架橋させる工程、
c)該レジストを所望の像が得られるまで希薄水溶液で現像する工程、
d)架橋されたレジストで被覆されていない部分のシード金属をフラツシユエツチングによって取り除く工程、
e)架橋されたレジストで被覆されていないポリマーフィルムの部分を約27.3%の濃度の濃厚塩基によりエッチングする工程、および
f)該レジストを適当な溶媒に溶解してポリマーフィルムから剥離する工程、
を包含する、方法。」の発明(以下、「刊行物1の発明」という。)が記載されているものと認める。
また、上記F)には従来方法に関して、「レジストがシード金属の取り除かれた後でだけラミネートされるため、若干の銅の配線が存在するポリイミドに主としてラミネートされる従来方法」が記載されている。

同じく引用された刊行物2(フォトポリマーハンドブック:(株)工業調査会1989年6月初版:甲第2号証)には、ドライフィルムフォトレジストに関して、以下の記載がある。
(I)「2.ドライフィルムフォトレジスト
PWBの回路形成用にサブトラクティブ法,ネガ型,アルカリ現像型のドライフィルムフォトレジスト(DFRと略す)を主体に述べる。」(第285頁13〜15行)
(J)「1)バインダーポリマー:フォトレジストにフィルム形成能を与え,約50%以上を占める。アルカリ現像型はポリマー中に酸基(カルボキシル基)を含有して現像液に溶解できる。たとえばメチルメタクリレートを主成分とした各種(メタ)アクリレート,スチレン,アクリロニトリルなどと(メタ)アクリル酸などの共重合体で,配合量,組成,酸価,分子量によって特性への影響が異なる。
2)光重合性の多官能モノマ-:光開始剤によってラジカル重合し,バインダーポリマーにからみ合って架橋硬化し,現像液に不溶化する(図5.53)。たとえばトリメチロールプロパントリアクリレート(TMP-TA),ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート(PEG-D(M)A)(図5.54),ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート,(ジ)ペンタエリスリトール(トリ〜へキサ)アクリレート、その他エポキシ系,ウレタン系,エステル系,エーテル系,ビスフェノール系,スピラン系などの多官能(メタ)アクリレートがある。・・・
3)光重合開始剤:紫外線照射により開始剤あるいは増感剤の活性ラジカルが発生し,(メタ)アクリロイル基を有する多官能モノマーのラジカル重合反応を起す。」(第293頁12行〜第294頁9行)
(K)「(4)工程
1)研磨:DFRをラミネートする前にその密着性を良くするために銅表面を粗化する。・・・
2)ラミネート:DFRはイエローランプ(紫外線カット)下クリーン室・・・で取り扱う。・・・
3)UV露光:一般に露光機は・・・一方,一般的なネガ型フォトレジスト(光照射部が硬化して現像液に不溶化する)に対して,ポジ型フォトレジスト(光照射部が分解してアルカリ現像液に可溶化する)が高解像度性から望まれている*(図5.58)。しかし感度,密着,強度(硬く脆い),現像性,熱的安定性などがネガ型に比べて劣り改良が期待されている。」(第295頁7行〜第297頁14行)
(L)「5)現像:・・・アルカリ現像型は現像液が1〜2%Na2C03水溶液,硬化レジストの剥離液は2〜5%NaOHまたはKOH水溶液である。」(第297頁19行〜第298頁1行)
(M)「6)銅エッチング:・・・
7)電気パターンメッキ:・・・
8)レジスト剥離:アルカリ現像型の硬化レジストは強アルカリ(アミン系もある)で剥離する。剥離条件は通常NaOH(KOH)濃度2〜5%,温度40〜50℃,スプレー圧力1〜1.5kg/cm2である。」(第300頁9行〜第301頁1行)

これらの記載からみて、上記刊行物2には、
「PWB(プリント配線板)の回路形成用にマスクとして使用される、架橋されたネガティブアルカリ処理可能フォトレジストであって、バインダーポリマー、追加の架橋性モノマー単位および光開始剤を含有し、該バインダーポリマーが、メチルメタクリレート(メタクリル酸メチル)を主成分とした各種(メタ)アクリレート,(メタ)アクリル酸などの共重合体(コポリマー)であり、該モノマー単位が多価アクリル酸エステル等であって、その回路作製方法は、基板の銅表面を粗化してレジストを積層(ラミネート)する工程、該レジストを露光して露光部分を架橋させる工程、該レジストを所望の像が得られるまで希薄水溶液(1〜2%Na2C03水溶液)で現像する工程、架橋されたレジストで被覆されていない銅の部分をエッチングする工程、および、該レジストを希薄塩基溶液(NaOH(KOH)濃度2〜5%)でポリマーフィルムから剥離する工程を包含する、方法。」の発明(以下、「刊行物2の発明」という。)が記載されているものと認める。

(4)対比・判断
そこで、本件発明と刊行物1の発明とを対比すると、両者は、
「ポリイミド、変性ポリイミド等のポリマーフィルムを95℃の温度で濃厚塩基と接触させる工程を包含する、完全硬化または実質的に完全硬化したポリマーフィルムをエッチングする方法を包含するフレキシブルプリント回路作製方法であって、
該ポリマーフィルムの一部が、メタクリル酸メチルとアクリル酸エチルとアクリル酸とのコポリマー、スチレンと無水マレイン酸イソブチルエステルとのコポリマーから選択されたポリマーを含有する、架橋されたネガティブ水処理可能フォトレジストを有するマスクで保護されており、
下記の工程:
a)ポリイミド、変性ポリイミドから選択されるポリマーフィルムを有するフレキシブル基材上に、該レジストを積層する工程、
b)該レジストの少なくとも一部を露光し、それによりその露光部分を架橋させる工程、
c)該レジストを所望の像が得られるまで希薄水溶液で現像する工程、
d)架橋されたレジストで被覆されていないポリマーフィルムの部分を約27.3%の濃度の濃厚塩基によりエッチングする工程、および
e)該レジストを適当な溶媒に溶解してポリマーフィルムから剥離する工程、
を包含する、方法。」で一致するが、以下の相違点(1)、(2)で相違している。
〔相違点〕
(1)本件発明が、エッチングされる領域上に金属のシード層を特に有しないポリマーフィルムをエッチングする方法であって、架橋されたネガティブ水処理可能フォトレジストで被覆されていない部分のシード金属をフラツシユエツチングによって取り除く工程を有しない方法であるのに対し、刊行物1の発明が、金属のシード層を有するポリマーフィルムをエッチングする方法であって、架橋されたネガティブ水処理可能フォトレジストで被覆されていない部分のシード金属をフラツシユエツチングによって取り除く工程を必須のものとする方法である点。
(2)本件発明では、レジストをポリマーフィルムから剥離させるのに希薄塩基溶液を用いているのに対し、刊行物1の発明では、レジストをポリマーフィルムから剥離させるのに適当な溶媒に溶解すると記載されているにすぎない点。

そこで、これらの相違点について検討すれば、刊行物2には、レジストをポリマーフィルムから剥離させるのに希薄塩基溶液を用いる発明が記載されているから、相違点(2)は、刊行物1の発明に刊行物2の発明を適用することにより当業者が容易になし得たものといえるが、相違点(1)の「エッチングされる領域上に金属のシード層を特に有しないポリマーフィルムをエッチングする方法であって、架橋されたネガティブ水処理可能フォトレジストで被覆されていない部分のシード金属をフラツシユエツチングによって取り除く工程を有しない方法」に関しては、刊行物1,2のいずれにも記載されていない(刊行物1には、従来方法に関して、「レジストがシード金属の取り除かれた後でだけラミネートされるため、若干の銅の配線が存在するポリイミドに主としてラミネートされる従来方法」と記載されており、該記載からは、エッチングマスクを直接基材上に積層するポリマーフィルムのエッチング方法が、従来方法として存在していたことは知ることができるが、刊行物1には、この従来方法のエッチングマスクに使用するレジストについては何ら記載されていないから、該記載のみでは、従来方法のレジストとして、ネガティブ水処理可能フォトレジスト(リストン3515)が使用されていたとすることはできない。)。
そして、かかる相違点(1)により、本件発明は「銅マスクの処理工程および必要性を排除すると共に溶剤処理可能レジストの使用を回避する。」という顕著な作用効果を生じるものと認められるから、本件発明は上記刊行物1又は2の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

5.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件発明についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
フレキシブル回路の作製方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 ポリイミド、ポリカーボネート、変性ポリイミドおよびポリエステルからなる群から選択されるポリマーフィルムを50〜120℃の温度で濃厚塩基と接触させる工程を包含する、完全硬化または実質的に完全硬化したポリマーフィルムをエッチングする方法を包含するフレキシブルプリント回路作製方法であって、該ポリマーフィルムの一部が、ポリマー、追加の架橋性モノマー単位および光開始剤を含有し、該ポリマーが、メタアクリル酸メチルとアクリル酸エチルとアクリル酸とのコポリマー、スチレンと無水マレイン酸イソブチルエステルとのコポリマーから選択され、該モノマー単位が多価アクリル酸エステルである、架橋されたネガティブ水処理可能フォトレジストを有するマスクで保護されており、
下記の工程:
a)ポリイミド、ポリカーボネート、変性ポリイミドおよびポリエステルから選択されるポリマーフィルムを有するフレキシブル基材上に、該レジストを積層する工程、
b)該レジストの少なくとも一部を露光し、それによりその露光部分を架橋させる工程、
c)該レジストを所望の像が得られるまで希薄水溶液で現像する工程、
d)架橋されたレジストで被覆されていないポリマーフィルムの部分を25%〜60%の濃度の濃厚塩基によりエッチングする工程、および
e)該レジストを希薄塩基溶液でポリマーフィルムから剥離する工程、
を包含する、方法(但し、該フレキシブル基材はポリマーフィルムがエッチングされる領域上にシード金属層を有しない。)。
【請求項2】 ポリイミド、ポリカーボネート、変性ポリイミドおよびポリエステルからなる群から選択されるポリマーフィルムのエッチングを、架橋されたネガティブ水処理可能フォトレジストをマスクとして使用して、50〜120℃の温度で、ポリマーフィルムの部分を濃厚塩基で溶かすことで行なう、フレキシブルプリント回路作製方法であって、
該フォトレジストが、ポリマー、追加の架橋性モノマー単位および光開始剤を含有し、該ポリマーが、メタアクリル酸メチルとアクリル酸エチルとアクリル酸とのコポリマー、スチレンと無水マレイン酸イソブチルエステルとのコポリマーから選択され、該モノマー単位が多価アクリル酸エステルであり、
下記の工程:
a)該レジストを、銅の薄層と、ポリイミド、ポリカーボネート、変性ポリカーボネートおよびポリエステルから選択されるポリマーフィルムとからなるフレキシブル基材上に積層する工程、
b)該レジストの少なくとも一部を露光し、それによりその露光部分を架橋させる工程、
c)該レジストを所望の像が得られるまで希薄水溶液で現像する工程、
d)回路頂上の薄い銅層を所望の厚さにメッキする工程、
e)架橋されたフォトレジストで被覆されていないポリマーフィルムの部分を約25%〜約50重量%の濃度の濃厚塩基によりエッチングする工程、
f)該レジストを希薄塩基溶液で該ポリマーフィルムから剥離する工程、および
g)薄い銅層をエッチングすることにより回路を得る工程、
を包含する、方法。
【請求項3】 ポリイミド、ポリカーボネート、変性ポリイミドおよびポリエステルからなる群から選択されるポリマーフィルムのエッチングを、架橋されたネガティブ水処理可能フォトレジストをマスクとして使用して、50〜120℃の温度で、ポリマーフィルムの部分を濃厚塩基で溶かすことで行なう、フレキシブルプリント回路作製方法であって、
該フォトレジストが、ポリマー、追加の架橋性モノマー単位および光開始剤を含有し、該ポリマーが、メタアクリル酸メチルとアクリル酸エチルとアクリル酸とのコポリマー、スチレンと無水マレイン酸イソブチルエステルとのコポリマーから選択され、該モノマー単位が多価アクリル酸エステルであって、
下記の工程:
a)該レジストを、銅の厚層と、ポリイミド、ポリカーボネート、変性ポリカーボネートおよびポリエステルから選択されるポリマーフィルムの層とを有するフレキシブル基材上に積層する工程、
b)該レジストの少なくとも一部を露光し、それによりその露光部分を架橋させる工程、
c)該レジストを所望の像が得られるまで希薄水溶液で現像する工程、
d)ポリマーフィルムの露出領域に応じて、厚い銅層をエッチングすることにより回路を得る工程、
e)該銅層の上に該フォトレジストの追加層を積層し、該レジストを投光露光することにより後続のエッチングからポリマーフィルムの露光領域を保護するために該レジストを架橋させる工程、
f)架橋されたレジストで被覆されていないポリマーフィルムの部分を約25%〜約50重量%の濃度の濃厚塩基によりエッチングする工程、
g)該レジストを希薄塩基溶液で該ポリマーフィルムから剥離する工程、
を包含する、方法。
【請求項4】 前記濃厚塩基が水酸化カリウム、水酸化ナトリウムおよび水酸化セシウムからなる群から選択される請求項1〜3いずれかに記載の方法。
【請求項5】 前記濃厚塩基が尿素、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウムおよびこれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種の成員をさらに含有する混合物である請求項4記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、その一部を架橋した水処理可能ネガティブフォトレジストでマスクし、そのマスクされていない部分を濃厚塩基水溶液で溶解することによりポリマーフィルムをエッチングする工程を包含するフレキシブル回路作製のための方法を提供する。
【0002】
【従来の技術】
ポリマーキャリアフィルム上に電子回路を作製する典型的な工程は、裏面を通して他のデバイスに引続き接続させるために、または応用できる場合は前面側と裏面側回路を接続させるためにポリマーフィルムを貫通してエッチングすることである。異なった伝導層の間に電気的接続を行わせるためには、選択的エッチングまたは切削(milling)が必要である。エッチングが望ましくないポリマーフィルムの部分は保護皮膜でマスクされなければならない。マスキング工程は通常の平板印刷法、すなわち露光と現像を用いてエッチング不感性材料を塗布しパターン化する写真平板技術で充分に行われる。
【0003】
溶剤処理可能で非水溶性または水不感性フォトレジストが、次のエッチング工程が水系であるマスキングには理想的である。溶剤処理可能なレジストは溶剤を用いて現像、剥離され、この様な工程中無傷のままであり、従ってレジストで保護されない領域がエッチングされる間、ポリマーフィルムの被覆されたすべての領域を保護する。しかしながら、溶剤処理可能なレジストは環境的および経済的観点からはあまり望ましくなく、水処理可能なレジストが好ましい。
【0004】
しかしながら水処理可能なレジストは希薄塩基を用いて剥離される。従ってそれらはポリマーの塩基水溶液化学エッチングを包含する工程にはマスクとして使用されなかった。
【0005】
米国特許第4,039,371号には、水酸化テトラアルキルアンモニウムおよび酢酸、酒石酸またはシュウ酸を含む、ポリイミド系ポリマーをエッチングするための組成物が開示されている。マスクとして有用であると開示されたレジストはポジティブレジストである。特に述べられているレジストは全て溶剤処理可能であり、スピンコート法で被覆される。
【0006】
米国特許第3,871,930号には、ジメチルスルホキサイドのような非水溶剤中の適当な塩基を含有するエッチング溶液と共用する、市販の溶剤処理可能フォトマスクの使用が開示されている。
【0007】
米国特許第3,395,057号には、エッチングされない領域をマスクするための溶剤処理可能フォトレジストと、銅箔の使用が開示されている。
【0008】
米国特許第4,857,143号には完全に、または実質的に完全に硬化したポリイミド層を、この様な層を少なくとも3モラーの水酸化金属および少なくとも0.5モラーの金属炭酸塩、金属硫酸塩または金属リン酸塩の水溶液と接触させる工程を包含するエッチング工程が開示されている。ポリイミドフィルムに対するエッチングマスクとして銅が使用されることが特に開示されている。
【0009】
架橋された水処理可能フォトレジストをマスクとして用いて熱、濃厚(例えば35%)水酸化カリウムでエッチング工程を行いうることが現在では見いだされている。
【0010】
驚くべきことに、架橋されたフォトレジストは甚だしく膨潤または脱積層することなくマスクされた領域を保護し、ポリマーフィルムの所望の場所のみエッチングが完全に行われる。希薄塩基溶液(例えば5%以下)に晒された場合に水性フォトレジストがフィルムから脱積層することを考慮すると、これは特に驚くべきことである。この方法は、銅マスクの処理工程および必要性を排除すると共に溶剤処理可能レジストの使用を回避する。
【0011】
【発明の要旨】
本発明はポリマーフィルを50℃〜120℃の温度で濃厚塩基と接触させる工程を包含する完全に硬化した、または実質的に完全に硬化したポリマーフィルムのエッチング方法を提供する。その際に、上記ポリマーフィルムの一部は架橋されたネガティブ水処理可能フォトレジストを含むマスクで保護されており、そのフォトレジストはエッチング中に実質的に膨潤せず、ポリマーフィルムから脱積層しない。さらに本発明は、a)フォトレジストをポリマーフィルム上に積層する工程、b)フォトレジストの少なくとも一部を露光し、それによりその露光部分を架橋させる工程、c)フォトレジストを所望の像が得られるまで希薄水溶液で現像する工程、d)架橋されたフォトレジストで被覆されていないポリマーフィルムの部分を50〜120℃の温度で濃厚塩基によりエッチングする工程、およびe)架橋されたフォトレジストを希薄塩基水溶液で該ポリマーフィルムから剥離する工程、を包含する、エッチングマスクとして架橋されたネガティブ水処理可能フォトレジストを使用する、ポリマーフィルムの一部を濃厚塩基水溶液で溶解することにより行われるフレキシブル回路作製方法を提供する。
【0012】
本発明はまた、ポリマーフィルムをエッチングするために使用される濃厚塩基水溶液が35%またはそれより強い水酸化カリウムである好ましい方法を提供する。
【0013】
本明細書で使用される「レジスト」および「フォトレジスト」という用語は同義語であり、互換性である。また「パターン」および「像」という用語も、フォトレジストの露光と現像で形成される形態を意味するために互換的に使用される。
【0014】
【発明の構成】
本発明の方法は、例えばポリ(エチレンテレフタレート)のようなポリエステル、ポリカーボネートおよびポリイミドのようなフィルムを含む、実質的に完全に硬化したポリマーフィルムのエッチングに関する。未変性ポリイミドと共にポリエステルイミド、ポリイミド-イミドエステル、ポリアミド-イミド、ポリシロキサン-イミド、および他の混合イミドのような変性ポリイミドを含むポリイミドが好ましいポリマーフィルムである。特に好ましいものは、式
【0015】
【化1】

【0016】
[式中、nは150〜650の範囲である。E.I.デュポン・デ・ネモアース・アンド・カンパニー(E.I.DuPont de Neumours and Company)(デュポン)からカプトンTM(KaptonTM)(例えば、カプトンTMV、カプトンTMEおよびカプトンTMH)の商品名で市販、および鐘化化学工業(Kaneka Chenical Industries)からアピカルTM(ApicalTM)の商品名で市販されている。]
で示される無水ピロメリト酸と4,4-ジアミノ-ジフェニルエーテルからつくられるポリイミドポリマーである。他の市販されているポリイミド前駆体には、デュポン社からピラリンTM(PyralinTM)の商品名で市販されるものが含まれる。
【0017】
本発明の方法に有用なネガティブフォトレジストには、米国特許第3,469,982号、第3,448,098号、第3,867,153号、および第3,526,504号に開示される様なネガティブ水処理可能重合性光硬化性組成物が含まれる。
【0018】
この様なフォトレジストは少なくとも一つのポリマー、他の架橋性モノマー単位および光開始剤を含む。フォトレジストに使用されるポリマーの例にはメタアクリル酸メチル、アクリル酸エチルおよびアクリル酸のコポリマー、スチレンと無水マレイン酸イソブチルエステルとのコポリマー等が含まれる。架橋性モノマー単位はトリメチロールプロパントリアクリレートのような多価アクリル酸である。
【0019】
本発明により採用される水処理可能ネガティブフォトレジストの例には、デュポン社より商品名「リストン(Riston)」(例えば、リストン4720)で市販されている様なポリメタアクリル酸メチル由来のものである。
【0020】
ヘラクレス(Hercules)から商品名アクアマーTM(AquamerTM)で市販されているもの(例えば、SF120、SF125およびアクアマーTMCF2.0のような「SF」および「CF」シリーズレジスト)、レアロナル(LeaRonal)から「AP850」として市販されるもの、および日立(Hitachi)から「フォテック(Photec)HU350」として市販されるものもまた有用である。
【0021】
有用なエッチング剤は水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、および水酸化セシウムを含むがそれらに限定されない水溶性濃厚塩基である。水酸化リチウム、水酸化アルミニウム、および水酸化カルシウムのような水に対する溶解度の低い塩基は、溶液が有用な濃度に達する前に飽和するため本発明の方法に有用でない。
【0022】
エッチング剤の有用な濃度はその特定の選択、エッチングされるポリマーフィルムの厚さと同時に選ばれたフォトレジストの厚さで変化する。典型的な有用な濃度は25〜60重量%、好ましくは35〜50重量%の範囲である。非常に好ましい実施態様の一つでは、39〜45%の濃度を有する水酸化カリウムが使用される。別の実施態様では水酸化ナトリウムが25〜60重量%で使用される。
【0023】
本発明の方法におけるエッチング工程は、ポリマーフィルムのマスクされていない領域を濃厚塩基エッチング剤と接触させることにより行われる。
【0024】
エッチングの時間はエッチングされるフィルムのタイプと厚さに依存し、典型的には10〜20分である。好ましいエッチング剤、例えば濃厚KOHが使用される場合、50マイクロメーター(2ミル)のポリイミドフィルムに対するエッチング時間は30〜180秒である。エッチング溶液は一般に50℃(122°F)〜120℃(250°Fの温度である。
【0025】
本発明によるフレキシブル回路を作製する方法は、多様な既知のプレエッチングおよびポストエッチング操作と組み合わせて使用されるエッチング工程である。この様な操作の順序は特定の応用に対し必要により変えられる。
【0026】
各工程の典型的な順序は以下に記載されるとおりである。
【0027】
水処理可能フォトレジストは、標準積層技術を用いてポリマーフィルム側面と銅側面とを有する基材の両面上に積層される。典型的には、基材は厚さ1〜5マイクロメーターの銅層を有する25〜125マイクロメーターのフィルム層で構成される。基材はポリイミド層を銅箔上に接着接合する、液状ポリイミドを銅箔上に塗布するのような多様な方法で作製される。
【0028】
フォトレジストの厚さは35〜50マイクロメーターである。フォトレジストは次いで両面をマスクを通して紫外線等に露光し、レジストの露光部を架橋する。次ぎに、0.5〜1.5%炭酸塩溶液のような希薄水溶液で、積層体の両面に所望のパターンが得られるまでレジストを現像する。積層体の銅側面はさらに所望の厚さにメッキ(plate)される。次いで、積層体は架橋されたレジストで被覆されないポリマーフィルムの部分をエッチングする50〜120℃の温度の濃厚塩基浴中に置かれる。これにより最初の銅薄層の特定領域が露出する。次ぎに20〜80℃、好ましくは20〜60℃のアルカリ金属水酸化物の2〜5%溶液中で、レジストを積層体の両面から剥離する。続いてエレクトロケミカルズ社(Electrochemicals,Inc.)から市販されるペルマエッチTM(Perma-etchTM)のようなポリマーフィルムを損傷しないエッチング剤により露光された場所において最初の銅薄層がエッチングされる。
【0029】
別の操作では、標準積層技術を用いて水処理可能フォトレジストがポリマーフィルム面と銅面とを有する基材の両面上に積層される。基材は厚さ12〜40マイクロメーターの銅層を有する厚さ12〜125マイクロメーターのポリマーフィルムで構成される。次いで、フォトレジストは適当なマスクを通して両面が紫外線等に露光され、レジストの露光された部分が架橋される。次に積層体の両面上に所望のパターンが得られるまで像を希薄溶液で現像する。次いで回路を作製するため銅層をエッチングし、従ってポリマー層の部分が露出する。銅側面上の最初のレジストの上に水性フォトレジスト層がさらに積層され、露出したポリマーフィルム表面(銅側面上の)がさらにエッチングされるのを防止するため、放射線源に対する投光露光(flood exposure)により架橋される。次いで、架橋レジストで被覆されないポリマーフィルムの領域(フィルム側面上の)は70〜120℃の温度の濃厚塩基でエッチングされ、次いで希薄塩基溶液でフォトレジストを両面から剥離する。
【0030】
エッチング浴の前または後でフィルムを熱水に浸漬するのような他の工程も含まれる場合もある。後エッチング中和として酸浴もまた使用される。
【0031】
フレキシブル回路、「TAB(テープ自動接着(tape automated bonding))」法用相互接続接合テープ、ミクロフレックス回路のような最終製品を製造するため別の層が追加、加工され得、銅メッキ(plating)が次のハンダ付け工程のようなための金、スズまたはニッケルで通常の方法によりメッキされる。
【0032】
【実施例】
以下の実施例は具体例であることを意味し、特許請求項でのみ表現される本発明の範囲を制約することを意図するものではない。
【0033】
【実施例1】
リストンTM4720の商品名でデュポン社から市販されている厚さ50ミクロンの水性レジストの二つの層を、一面が50ミクロンのカプトンTMHポリイミド、他方の面が銅でなるフレキシブル基材に加熱したゴムローラーで積層した。次いで写真装置を通して積層体の各面を紫外(UV)線で露光し、炭酸ナトリウムの0.75%水溶液で両面を現像し所望の回路の像を得た。積層体の銅側面に銅を厚さ35ミクロンにメッキした。フラットジェットノズル付の四本のスプレーバーを備えたKOHモジュールを有する搬送装置中で43〜47%KOHを用い75〜95℃で3〜7分間、ポリイミド側面をエッチングした。レジストマスクの著しい膨潤も、レジストのポリイミド表面からの剥離もなかった。
【0034】
次いで両面のレジストを3〜4%KOHにより、60℃、1〜2分間で積層体から剥離した。レジストは膨潤し、銅およびポリイミド表面からきれいに剥離した。次いで最初の銅層をエレクトロケミカルズ社から市販されているパーマエッチでエッチングして回路を作製した。
【0035】
【実施例2】
使用した水性フォトレジストをヘラクレス社からアクアマーTMSF-120の商品名で市販されているものとしたこと以外は実施例1と同じ方法で回路を作製した。エッチング後、レジストマスクの著しい膨潤も、レジストのポリイミド表面からの剥離も見られなかった。
【0036】
【実施例3】
使用した水性フォトレジストをレアロナル(Rearonal)社からオルディルTM(OrdylTM)AP850の商品名で市販されているものとしたこと以外は、実施例1と同じ方法で回路を作製した。エッチング後、レジストマスクの著しい膨潤も、レジストのポリイミド表面からの剥離も見られなかった。
【0037】
【実施例4】
ヘラクレス社から「PSD-1720」と名付けられた厚さ50ミクロンの実験用水処理可能レジストを、日本スチール化学社(Nippon Steel Chemical,Inc.)からエクスパネックスTM(ExpanexTM)の商品名で市販されているフレキシブル基材に加熱ゴムローラーで積層した。基材は一方の側面が厚さ25ミクロンのポリイミド、他方の側面が厚さ25ミクロンの銅層であった。積層体の両面を写真装置を通して紫外線に露光し、0.75%の炭酸ナトリウム水溶液で現像して所望の回路像を得た。次いで銅層を塩化鉄(III)でエッチングし銅上に回路を作製した。水処理可能フォトレジストの別の層を次いで銅面上に積層し、今露光したポリイミド領域を次のエッチングから保護するために投光露光した。ポリイミド面上のマスクされていない領域を85〜95℃で15分間、ビーカー中で44%KOHによりエッチングした。レジストマスクの著しい膨潤も、レジストのポリイミド表面からのレジストの剥離も見られなかった。次いで両面のレジストを3〜4%KOHにより60℃、1〜2分間で剥離した。レジストは膨潤し、銅およびポリイミド表面からきれいに脱積層した。
【0038】
【実施例5】
フレキシブル基材がポリイミドと銅層とを接合する接着層を有すること以外は実施例4記載と同じ方法で回路を作製した。
【0039】
【実施例6】
37%KOHを85℃で3分間スプレーしたこと以外は実施例1記載と同じ方法で回路を作製した。エッチング工程中、レジストの膨潤またはポリイミド表面からの剥離の徴候はなかった。
【0040】
【比較例7C】
一方の側面に銅のフラッシュプレートを有する厚さ50ミクロンのカプトンTM層で構成されるフレキシブル基材のポリイミド側面上に、ヘキスト社(Hoechst Gmbh)から市販されているポシティブ水性フォトレジスト「AZ-4903」を被覆した。レジストを濡れ厚さ120〜125ミクロンに塗布し、90℃で30分間乾燥した。次いでレジストを1000mj/cm2のUV放射光に露光し0.2NのKOH中で現像、90℃で30分間焼成した。次いで積層体を43〜45%のKOH中に浸漬した。70%のフォトレジストが溶解し、塩基がポリイミドを侵し始めた。積層体を塩基性浴から取り出し150°Fの水に入れると、フォトレジストは完全に溶解し目に見える回路のパターンは全くなかった。
【0041】
【実施例8〜17】
それぞれの回路を熱KOHに、例えば88〜93℃の浴に90秒間浸漬してエッチングしたこと以外は実施例1記載と同じ方法で回路を作製した。KOHの濃度はそれぞれ35%、38%、41%、44%、46%、49%、51%、54および59%であった。次いでそれぞれのレジストを水で洗浄し、レジストを3〜4%KOHにより室温で剥離した。ついでエッチングされた厚さを測定したが、すべて満足できるものであった。いずれのレジストにも著しい膨潤はなく、エッチング溶液中でいずれのレジストの何のような剥離も見られなかった。
【0042】
【実施例18〜29】
それぞれの回路を熱NaOHを含むビーカー中に浸漬して(すなわち、種々の濃度における88〜93℃の浴中に300秒間)エッチングしたこと以外は実施例1記載と同じ方法で回路を作製した。使用したNaOHの濃度はそれぞれ26%、29%、32%、35%、38%、42%、44%、47%、50%、53%、56%および59%であった。ここでも、いずれのレジストにも著しい膨潤はなく、エッチング溶液中でいずれのレジストの何のような剥離も見られなかった。
【0043】
【実施例30〜32】
それぞれの回路を熱CsOHを含むビーカー中に浸漬して(すなわち、種々の濃度における88〜93℃の浴中に60秒間)エッチングしたこと以外は実施例1記載と同じ方法で回路を作製した。使用したCsOHの濃度はそれぞれ47%、64%および70%であった。ここでも、いずれのレジストにも著しい膨潤はなく、エッチング溶液中でいずれのレジストの何のような剥離も見られなかった。
【0044】
【実施例33C〜34C】
それぞれの回路を熱LiOHを含むビーカー中(すなわち、99〜104℃の浴中)に浸漬したこと以外は実施例1記載と同じ方法で回路を作製した。LiOHの濃度はそれぞれ10%および11%であった。溶液が飽和するためより高い濃度にすることはできなかった。55秒後、レジストは脱色しポリイミド表面から浮き上がった。次いでレジストを取り出し水で洗浄した。ポリイミド表面からレジストの著しいエッチングまたは剥離はなかった。この塩基は、その薬品の熱水に対する低い溶解度のため本発明の方法に有用でないと考えられた。
【0045】
【実施例35C】
実施例1記載と同じ方法で回路を作製した。Ca(OH)2の溶液をビーカー中に調製したが、この薬品の熱水中への低い溶解度のためポリイミドのエッチングに有用ではなかった。
【0046】
【実施例36C】
実施例1記載と同じ方法で回路を作製した。Al(OH)3の溶液をビーカー中に調製したが、この薬品の熱水中への低い溶解度のためポリイミドのエッチングに有用ではなかった。
【0047】
【実施例37〜44】
KOHと尿素の混合物を含むビーカー中に43〜49℃で60〜300秒間浸漬することにより回路をエッチングしたこと以外は実施例1記載と同じ方法で回路を調製した。混合物の様々な濃度、および個々の回路が混合物中に置かれた時間を表1に示す。次いでレジストを水で洗浄し、3〜4%KOHを用い室温で剥離した。エッチング溶液中でレジストの著しい膨潤も、ポリイミド表面からの剥離も見られなかった。
【0048】
【表1】

【0049】
それぞれのエッチングされた厚さを測定したところ、満足すべきものであった。エッチング溶液中でレジストの著しい膨潤も、ポリアミド表面からの剥離も見られなかった。
【0050】
【実施例45〜48】
88〜93℃で300秒間、KOHとK2CO3との混合物を含むビーカー中に浸漬して回路をエッチングしたこと以外は実施例1記載と同様の方法で回路を調製した。混合物の様々な濃度、およびそれぞれの回路が混合物中に置かれた時間を表2に示す。次いでレジストを水で洗浄し、室温で3〜4%KOHにより剥離した。
【0051】
【表2】

【0052】
それぞれのエッチングされた厚さを測定したところ、満足すべきものであった。エッチング溶液中でレジストの著しい膨潤も、ポリアミド表面からのレジストの剥離も見られなかった。
【0053】
【実施例49〜50】
88〜93℃で300秒間、KOHとNa2CO3との混合物を含むビーカー中に浸漬してを回路をエッチングしたこと以外は実施例1記載と同様の方法で回路を調製した。混合物の様々な濃度、およびそれぞれの回路が混合物中に置かれた時間を表3に示す。次いでレジストを水で洗浄し、室温で3〜4%KOHにより剥離した。
【0054】
【表3】

【0055】
それぞれのエッチングされた厚さを測定したところ、満足すべきものであった。エッチング溶液中でレジストの著しい膨潤も、ポリアミド表面からのレジストの剥離も見られなかった。
【0056】
【実施例51】
フレキシブル基材をポリ(エチレンテレフタレート)としたこと以外は実施例1記載と同様な方法で回路を作製した。46%熱KOHのビーカー中(すなわち、88〜93℃の浴)に30分間浸漬して回路をエッチングした。次いでレジストを水で洗浄し、室温で3〜4%KOHにより剥離した。それぞれのエッチングされた厚さを測定したところ、満足すべきものであった。エッチング溶液中でレジストの著しい膨潤も、ポリアミド表面からのレジストの剥離も見られなかった。
【0057】
【実施例52】
フレキシブル基材をモーベイ社(Mobey Corporation)からマークロフォールTM(MarkrofolTM)の商品名で市販されているポリカーボネートフィルムとしたこと以外は実施例1記載と同様の方法で回路を作製した。45%熱KOHのビーカー中(すなわち、88〜93℃の浴)に20分間浸漬して回路をエッチングした。次いでレジストを水で洗浄し、室温で3〜4%KOHにより剥離した。それぞれのエッチングされた厚さを測定したところ、満足すべきものであった。エッチング溶液中でレジストの著しい膨潤も、ポリアミド表面からの剥離も見られなかった。
【0058】
【実施例53】
フォタック(Photac)TMHU350の商品名で日立から市販されている水性フォトレジストを使用したこと以外は、実施例1記載と同じ方法で回路を作製した。エッチング後、レジストマスクの著しい膨潤も、レジストのポリイミド表面からの剥離も見られなかった。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-03-03 
出願番号 特願平5-9070
審決分類 P 1 652・ 113- YA (H05K)
P 1 652・ 121- YA (H05K)
最終処分 維持  
特許庁審判長 神崎 潔
特許庁審判官 ぬで島 慎二
田々井 正吾
登録日 2003-02-21 
登録番号 特許第3401281号(P3401281)
権利者 ミネソタ マイニング アンド マニュファクチャリング カンパニー
発明の名称 フレキシブル回路の作製方法  
代理人 山本 宗雄  
代理人 山本 宗雄  
代理人 青山 葆  
代理人 皆崎 英士  
代理人 青山 葆  
代理人 皆崎 英士  

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