• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降)  F16H
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  F16H
審判 全部申し立て ただし書き3号明りょうでない記載の釈明  F16H
管理番号 1117917
異議申立番号 異議2000-72353  
総通号数 67 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1993-07-09 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-06-05 
確定日 2001-11-19 
異議申立件数
事件の表示 特許第2988542号「自動変速装置」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第2988542号の請求項1に係る特許を取り消す。 
理由 I.手続の経緯
特許第2988542号の請求項1に係る発明についての出願は、平成3年9月13日に特許出願され、平成11年10月8日にその発明について特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人 アイシン・エィ・ダブリュ株式会社(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがなされ、取消しの理由が通知され、その指定期間内である平成12年11月6日に訂正請求がなされた後、訂正拒絶理由が通知され、その指定期間内である平成13年6月4日に手続補正書が提出されたものである。

II.訂正請求書の補正の適否
(1)補正の内容
特許権者が求めている補正の内容は以下1)乃至6)のとおりである。
1)補正事項A
訂正請求書の「訂正の要旨」の欄に記載した訂正事項(1)(マル付き数字)を下記の通り補正する。
『(1)(マル付き数字)特許請求の範囲の【請求項1】を次のとおり訂正する。
「装置内部に回転体が設けられていると共に、この回転体の外側にはブレーキ機構が設けられ、かつ、この回転体の回転数を検出する回転数センサが設けられている自動変速装置において、前記回転センサは、インプットシャフトの回転数を検出するための回転数センサであり、前記ブレーキ機構は、シリンダ室に軸方向に摺動自在に収容されたピストンと、このピストンに設けられた複数の腕と、この腕により押圧されるクラッチプレートを有する機構であり、前記ブレーキ機構を構成する前記腕にセンサ貫通用穴又は切り欠きを形成し、かつ、このセンサ貫通用穴又は切り欠きを貫通させて前記回転数センサを設置したことを特徴とする自動変速装置。」』
2)補正事項B
訂正請求書の「訂正の要旨」の欄に記載した訂正事項(4)(マル付き数字)を下記の通り補正する。
『(4)本件特許明細書の段落番号【0007】を、次のとおり訂正する。
「【0007】すなわち、本発明の自動変速装置にあっては、装置内部に回転体が設けられていると共に、この回転体の外側にはブレーキ機構が設けられ、かつ、この回転体の回転数を検出する回転数センサが設けられている自動変速装置において、前記回転センサは、インプットシャフトの回転数を検出するための回転数センサであり、前記ブレーキ機構は、シリンダ室に軸方向に摺動自在に収容されたピストンと、このピストンに設けられた複数の腕と、この腕により押圧されるクラッチプレートを有する機構であり、前記ブレーキ機構を構成する前記腕にセンサ貫通用穴又は切り欠きを形成し、かつ、このセンサ貫通用穴又は切り欠きを貫通させて前記回転数センサを設置した構成とした。」
この訂正は、請求項1の訂正に伴い整合性を持たせるためである。』
3)補正事項C
訂正請求書の「訂正の要旨」の欄に記載した訂正事項(6)(マル付き数字)を削除する。
4)補正事項D
訂正請求書の「訂正の要旨」の欄に記載した訂正事項(9)(マル付き数字)を下記の通り補正する。
『(9)本件特許明細書の訂正前の段落番号【0042】(訂正後の段落番号【0040】)を、次のとおり訂正する。
「【発明の効果】以上説明してきたように、本発明の自動変速装置にあっては、ブレーキ機構を構成する腕にセンサ貫通用穴又は切り欠きを形成し、かつ、このセンサ貫通用穴又は切り欠きを貫通させて入力回転を検出する回転数センサを設置した構成としたため、入力回転を検出する回転数センサとブレーキ機構とを軸方向に重ねて配設することができ、これにより、自動変速装置の軸方向寸法を短縮させてコンパクト化を図ることができるという効果が得られる。」
この訂正は、請求項1の訂正に伴う。』
5)補正事項E
訂正請求書の「訂正の要旨」の欄に記載した訂正事項(10)(マル付き数字)を削除する。
6)補正事項F
訂正請求書の「訂正の原因」の欄を次のとおり訂正する。
『上記訂正事項(1)(マル付き数字)については、特許明細書の特許請求の範囲(請求項1)に記載された「回転数センサ」をより下位概念である「インプットシャフトの回転数を検出するための回転数センサ」に限定し、「ブレーキ機構」を、「シリンダ室」に軸方向に摺動自在に収容されたピストンと、このピストンに設けられた複数の腕と、この腕によりお押圧されるクラッチプレートを有する機構」と限定するものである。
当該訂正にうち、「回転数センサ」については、特許明細書の段落番号【0025】の記載に基づき、「ブレーキ機構」については、特許明細書の段落番号【0023】の記載に基づく。
したがって、この訂正は、特許法第120条の4の第2項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、上記訂正事項(1)(マル付き数字)は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上、特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
さらに、訂正後の特許請求の範囲に記載されている事項により特定される請求項1に係る発明は、特許出願の際、独立して特許を受けることができるものである。すなわち、平成12年8月24日付けの取消理由通知で引用された刊行物1には、本件発明における「回転センサは、インプットシャフトの回転数を検出するための回転数センサ」である点、「ブレーキ機構は、シリンダ室に軸方向に摺動自在に収容されたピストンと、このピストンに設けられた複数の腕と、この腕により押圧されるクラッチプレートを有する機構」である点、及び、「ブレーキ機構を構成する前記腕にセンサ貫通用穴又は切り欠きを形成し、かつ、このセンサ貫通用穴又は切り欠きを貫通させて前記回転数センサを設置する」という点についての記載がなく、本件発明と刊行物1に記載された発明とが同一であるとは認められない。
したがって、上記訂正事項(1)(マル付き数字)は、特許法第120条の4第3項で準用する第126条第2項から第4項の規定に適合するものである。』

(2)補正の適否
上記補正事項Aは、訂正請求書の訂正事項aの特許請求の範囲の請求項1の記載において、
1)「前記回転体は、インプットシャフトに結合されているクラッチ機構のクラッチドラムであり」を「前記回転数センサは、インプットシャフトの回転数を検出するための回転数センサであり」に変更し、
2)「前記ピストンは、前記クラッチ機構の一部と軸方向に重ねて配置され、前記クラッチプレートは、前記クラッチ機構よりもトランスミッションケースの中央側の位置において交互に配置された」を削除し、
3)「入力回転を検出する前記回転数センサの先端を前記クラッチドラムの外周に近接して設置した」を「前記回転数センサを設置した」に変更する
ことにより、新たな訂正事項に変更しようとする補正であって、訂正請求書の要旨を変更するものというべきである。
したがって、上記補正は、特許法第120条の4第3項において準用する同法第131条第2項本文の規定に違反するので、当該補正は認められない。

III.訂正の適否
(1)訂正の内容
平成12年11月6日付けの訂正請求書の記載からみて、特許権者が求めている訂正の内容は以下1)乃至10)のとおりである。
1)訂正事項a
本件特許2988542号の願書に添付した明細書又は図面(以下、「特許明細書」という。)の特許請求の範囲の【請求項1】の
「装置内部に回転体が設けられていると共に、この回転体の外側にはブレーキ機構が設けられ、かつ、この回転体の回転数を検出する回転数センサが設けられている自動変速装置において、前記ブレーキ機構を構成する部品の一部にセンサ貫通用穴又は切り欠きを形成し、かつ、このセンサ貫通用穴又は切り欠きを貫通させて前記回転数センサを設置したことを特徴とする自動変速装置。」を、
「装置内部に回転体が設けられていると共に、この回転体の外側にはブレーキ機構が設けられ、かつ、この回転体の回転数を検出する回転数センサが設けられている自動変速装置において、前記回転体は、インプットシャフトに結合されているクラッチ機構のクラッチドラムであり、前記ブレーキ機構は、シリンダ室に軸方向に摺動自在に収容されたピストンと、このピストンに設けられた複数の腕と、この腕により押圧されるクラッチプレートを有し、前記ピストンは、前記クラッチ機構の一部と軸方向に重ねて配置され、前記クラッチプレートは、前記クラッチ機構よりもトランスミッションケースの中央側の位置において交互に配置された機構であり、前記ブレーキ機構を構成する前記腕にセンサ貫通用穴又は切り欠きを形成し、かつ、このセンサ貫通用穴又は切り欠きを貫通させて入力回転を検出する前記回転数センサの先端を前記クラッチドラムの外周に近接して設置したことを特徴とする自動変速装置。」と訂正する。
2)訂正事項b
特許明細書の段落番号【0005】を、
「【0005】本発明は上記のような問題に着目してなされたもので、入力回転を検出する回転数センサを設置するにあたって、自動変速装置の軸方向寸法の短縮化を図ることができる構造を提供することを目的としている。」と訂正する。
3)訂正事項c
特許明細書の段落番号【0006】を、
「【0006】【課題を解決するための手段】
そこで本発明は、ブレーキ機構の腕を貫通させて入力回転を検出する回転数センサを設置して上述の問題を解決することとした。」と訂正する。
4)訂正事項d
特許明細書の段落番号【0007】を、
「【0007】すなわち、本発明の自動変速装置にあっては、装置内部に回転体が設けられていると共に、この回転体の外側にはブレーキ機構が設けられ、かつ、この回転体の回転数を検出する回転数センサが設けられている自動変速装置において、前記回転体は、インプットシャフトに結合されているクラッチ機構のクラッチドラムであり、前記ブレーキ機構は、シリンダ室に軸方向に摺動自在に収容されたピストンと、このピストンに設けられた複数の腕と、この腕により押圧されるクラッチプレートを有し、前記ピストンは、前記クラッチ機構の一部と軸方向に重ねて配置され、前記クラッチプレートは、前記クラッチ機構よりもトランスミッションケースの中央側の位置において交互に配置された機構であり、前記ブレーキ機構を構成する前記腕にセンサ貫通用穴又は切り欠きを形成し、かつ、このセンサ貫通用穴又は切り欠きを貫通させて入力回転を検出する前記回転数センサの先端を前記クラッチドラムの外周に近接して設置した構成とした。」と訂正する。
5)訂正事項e
特許明細書の段落番号【0008】を、
「【0008】【作用】
入力回転を検出する回転数センサがブレーキ機構を構成する腕に形成されたセンサ貫通用穴又は切り欠きを貫通して設置されているため、回転数センサとブレーキ機構とが軸方向に重なって配置されることになり、自動変速装置の軸方向寸法が短くなる。」と訂正する。
6)訂正事項f
特許明細書の段落番号【0025】に記載の「センサ用切欠(センサ貫通穴)5h」を、『センサ用切欠5h(センサ貫通用切り欠き)』と訂正する。
7)訂正事項g
特許明細書の段落番号【0040】を削除する。
8)訂正事項h
特許明細書の段落番号【0041】を削除する。
9)訂正事項i
特許明細書の段落番号【0042】を、
「【発明の効果】
以上説明してきたように、本発明の自動変速装置にあっては、ブレーキ機構を構成する腕にセンサ貫通用穴又は切り欠きを形成し、かつ、このセンサ貫通用穴又は切り欠きを貫通させて入力回転を検出する回転数センサの先端をクラッチドラムの外周に近接して設置した構成としたため、入力回転を検出する回転数センサとブレーキ機構とを軸方向に重ねて配設することができ、これにより、自動変速装置の軸方向寸法を短縮させてコンパクト化を図ることができるという効果が得られる。加えて、ピストンをクラッチ機構の一部と軸方向に重ねて配置させているため、このピストンをクラッチ機構の外周に配置するのに比べて、径方向寸法が小さくなって、装置のコンパクト化を図ることができる。」と訂正する。
10)訂正事項j
特許明細書の【符号の説明】を、
「 L&R/B ロー&リバースブレーキ(ブレーキ機構)
H/C ハイクラッチ(クラッチ機構)
IN インプットシャフト
1 トランスミッションケース
2b シリンダ室
4a ハイクラッチドラム(クラッチドラム)
5a,5b クラッチプレート
5c ピストン
5e 腕
5h センサ用切欠
7 回転数センサ」と訂正する。

(2)訂正の適否についての判断
1.新規事項の追加について
1)訂正事項a、d、i及びjについて
上記訂正事項aは、特許請求の範囲の【請求項1】に「前記回転数センサの先端を前記クラッチドラムの外周に近接して設置した」との記載を追加しようとする訂正事項を含むものであり、また、訂正事項iは、それに対応して、【発明の効果】の欄の記載を「ブレーキ機構を構成する腕にセンサ貫通用穴又は切り欠きを形成し、かつ、このセンサ貫通用穴又は切り欠きを貫通させて入力回転を検出する回転数センサの先端をクラッチドラムの外周に近接して設置した構成としたため、入力回転を検出する回転数センサとブレーキ機構とを軸方向に重ねて配設することができ、これにより、自動変速装置の軸方向寸法を短縮させてコンパクト化を図ることができるという効果が得られる。」と訂正しようとする訂正事項を含むものである。
しかしながら、特許明細書の段落【0025】には、「また、図中7は、インプットシャフトINの回転数を検出するための回転数センサであって、トランスミッションケース1を貫通して設けられていると共に、さらに、前記ピストン5cの腕5eに形成されたセンサ用切欠(センサ貫通用穴)5hを貫通して設けられ、先端が、前記インプットシャフトINにスプライン結合されているハイクラッチH/C のハイクラッチドラム4aに取り付けられたセンサ用板4cに近接されている。なお、このセンサ用板4cは、ハイクラッチドラム4aの外周に凹凸を形成するために取り付けられたもので、櫛の歯状に形成されている。」との記載はあるものの、「回転数センサの先端をクラッチドラムの外周に近接して設置した」点については記載されていない。
訂正事項a及びiにより、「前記回転数センサの先端を前記クラッチドラムの外周に近接して設置した」構成には、(イ)回転数センサの先端をクラッチドラムの外周自体に設けられたマーク等に近接させて検出する、(ロ)回転数センサの先端をクラッチドラムに取付られたセンサ用板に近接させて検出する、等の態様が含まれることになると解されるが、上記(イ)の態様に関しては、上述のように、特許明細書等に記載されておらず、訂正事項a及びiは、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものとは認められない。
また、訂正事項dの「前記回転数センサの先端を前記クラッチドラムの外周に近接して設置した」との記載を追加しようとする訂正事項も、上記理由により、特許明細書等に記載されておらず、訂正事項d、は特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものとは認められない。

上記訂正事項aは、【請求項1】に「クラッチ機構」及び「クラッチドラム」に係る記載を追加しようとする訂正事項を含むものであり、また、訂正事項iは、それに対応して、【発明の効果】の欄に「加えて、ピストンをクラッチ機構の一部と軸方向に重ねて配置させているため、このピストンをクラッチ機構の外周に配置するのに比べて、径方向寸法が小さくなって、装置のコンパクト化を図ることができる。」との記載を追加しようとする訂正事項を含むものである。
特許権者は、「この訂正は、請求項1の訂正に伴い段落番号【0037】に記載された訂正前の実施例効果は本件発明発明の効果となったことによる」(訂正請求書第5頁第16〜17行参照)と主張しているが、特許明細書の段落【0037】には、「加えて、ピストン5cをハイクラッチH/Cの一部と軸方向に重ねて配置させているため、このピストン5cをハイクラッチH/Cの外周に配置するのに比べて、径方向寸法が小さくなって、装置のコンパクト化を図ることができる。」との記載はあるものの、「クラッチ機構」及び「クラッチドラム」に係る記載については特許明細書等に記載されていない。
訂正事項a及びiにより、「クラッチ機構」及び「クラッチドラム」には、(イ)各種のクラッチ機構及びクラッチドラム(ハイクラッチ及びハイクラッチドラムを除く)、(ロ)ハイクラッチ及びハイクラッチドラム、の態様が含まれることになると解されるが、上記(イ)の態様に関しては、上述のように特許明細書等に記載されておらず、訂正事項a及びiは、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものとは認められない。
また、訂正事項d及びjの「クラッチ機構」及び「クラッチドラム」に係る記載を追加しようとする訂正事項も、上記理由により、特許明細書等に記載されておらず、訂正事項d及びjは、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものとは認められない。

2.訂正の目的の適否について
1)訂正事項fについて
上記訂正事項fは、特許明細書の段落番号【0025】に記載の「センサ用切欠(センサ貫通穴)5h」を、『センサ用切欠5h(センサ貫通用切り欠き)』と訂正するものである。
特許権者は、「この訂正は、請求項1において、『センサ貫通用穴又は切り欠き』とし、実施例の場合は、『センサ貫通用切り欠き』が対応することによる」(訂正請求書第4頁第19〜20行参照)と主張しているが、「センサ貫通用穴又は切り欠き」は、特許明細書及び訂正後の明細書の請求項1にそれぞれ記載されている事項であり、特許明細書等の記載からみて、明細書の実施例の記載から「センサ貫通穴」の態様をあえて削除する訂正を行うべき理由を見出すことが出来ない。したがって、上記訂正事項fは明りょうでない記載の釈明に該当しない。また、誤記の訂正にもあたらない。

(3)むすび
以上のとおり、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書の規定に適合しないので、当該訂正は認められない。

IV.特許異議の申立てについての判断
(1)特許異議の申立ての概要
申立人は、甲第1号証(以下、「刊行物1」という。)及びその日本語抄訳(甲第1号証の1)、及び甲第2〜8号証を提出し、請求項1に係る特許発明は、甲第1号証に記載された発明と同一であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、又は、甲第1〜8号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである、と主張している。

(2)本件発明
前述のとおり、本件訂正が認めらないことにより、本件特許2988542号の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】
装置内部に回転体が設けられていると共に、この回転体の外側にはブレーキ機構が設けられ、かつ、この回転体の回転数を検出する回転数センサが設けられている自動変速装置において、前記ブレーキ機構を構成する部品の一部にセンサ貫通用穴又は切り欠きを形成し、かつ、このセンサ貫通用穴又は切り欠きを貫通させて前記回転数センサを設置したことを特徴とする自動変速装置。」

(3)通知した取消しの理由に引用された刊行物に記載された発明
刊行物1:国際公開パンフレットWO89/10281(申立人が甲第1号証として提出)
通知した取消しの理由に引用された刊行物1(甲第1号証)は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であって、刊行物1の記載に対応する申立人の提出した日本語抄訳(甲第1号証の1)の記載を参照すれば、下記の技術的事項が記載されている。
(a)「低速/逆転クラッチ組立体310は、軸方向に間隔をあけた、複数の環状のクラッチプレート466と、軸方向に間隔をあけた、複数の環状のクラッチディスク468と、で構成する。該クラッチプレート466とクラッチディスク468は、アンダードライブクラッチ組立体302のそれらと同様である。該クラッチプレート466は、トランスミッションケース102の内側にてケースクラッチフィンガー439のスプライン470に装着される。クラッチディスク468は、前述したギア組立体500の環状ギア542の外周部のスプライン472に装着される。低速/逆転クラッチ組立体310を適用するため、第4の油圧ピストン474は、環状のピストンハウジング478により形成されている凹部476の中で作動する。該ピストンハウジング478は、トランスミッションケース102の環状の凹み480に配置され、かつボルト481などの適当な固着手段にてトランスミッションケース102に固着されている。第4の油圧ピストン474の滑らかな径には、その外周に形成された、外側シールリング484用の溝482と、その内周に形成された、内側シールリング488用の内側の溝486と、を有している。スプリング404と同様な、ベルビル(皿ばね)様のスプリング490等のスプリング手段が、第4の油圧ピストン474を図に示す非作動状態である元の位置に偏奇又は復帰すべく、第4の油圧ピストン474とギア組立体500との間に配置されている。スナップリング492が、トランスミッションケース102にスプリング490の片端を保持している。」(第29頁第7〜29行参照)
(b)「低速/逆転クラッチ組立体310を適用するため、第4の油圧ピストンハウジング476と第4の油圧ピストン474の間に入る流体からの油圧が、第4の油圧ピストン474を軸方向に動かせ、それによってスプリング490を撓ませる。第4の油圧ピストン474は、低速/逆転クラッチ組立体310のクラッチプレート466とディスク468とを反作用プレート445に対して押付け、そしてそれらの間に摩擦力を生じさせる。該低速/逆転クラッチプレート466は固定状態にある故に、それらがトランスミッションケース102に連結されると、摩擦力は、低速/逆転クラッチディスク468を固定状態に保持し、そして、第2の環状ギア542と第1のプラネットキャリア508とを固定状態に保持する。該低速/逆転クラッチ組立体474(310の誤記)、即ち第4の油圧ピストン474への流体が抜けると、撓まされたスプリング490が、第4の油圧ピストン474へ付勢力を作用し、それにより、図示されている非作動位置に第4の油圧ピストン474を復帰する。」(第36頁第28行〜第37頁第6行参照)
(c)「第2のプラネットキャリア524は、その外周部分の外周部における歯車544を含む。出力回転数センサ546は、トランスミツンヨンケース102の穴548にネジ結合しており、かつ第2のプラネットキャリア524の歯車544の直上に空間をあけて半径方向に配置された先端550を有する。出力回転センサ546は、歯車544の通過を検出又はカウントすることにより、それによって時間に関係して、第2のプラネットキャリア524の回転数(毎分)を検出又はモニターするために用いられる。出力回転数センサ546は、タービンセンサ320と同様のものである。それは、また、他の適当な回転数センサが、トランスミッションコントローラ3010に出力回転数信号に供すべく、トランスミッション100の中や又はその後続部分に用いてもよいことに、注意すべきである。」(第31頁第1〜12行参照)
したがって、上記記載事項(a)〜(c)、明細書及び図面の記載からみて、刊行物1には、下記の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
【引用発明】
トランスミッションケース102内部に歯車544が設けられていると共に、この歯車544の外側には低速/逆転クラッチ組立体310及び第4の油圧ピストン474が設けられ、かつ、この歯車544の回転数を検出する出力回転数センサ546、550が設けられている自動変速装置。

(4)対比・判断
引用発明の「低速/逆転クラッチ組立体310及び第4の油圧ピストン474」は、刊行物1の図1B、図1D、及び上記記載事項(b)等からみて、摩擦クラッチを圧力で押圧作動するものであり、いわゆるブレーキ機構と同等の機能を奏するものであるから、本件発明と引用発明とを対比すると、それぞれの有する機能に照らし、引用発明の「低速/逆転クラッチ組立体310及び第4の油圧ピストン474」は本件発明の「ブレーキ機構」に相当し、また、以下同様に、「トランスミッションケース102」は「装置」、「歯車544」は「回転体」、「出力回転数センサ546、550」は「回転数センサ」に、それぞれ相当するので、両者は、「装置内部に回転体が設けられていると共に、この回転体の外側にはブレーキ機構が設けられ、かつ、この回転体の回転数を検出する回転数センサが設けられている自動変速装置」の点で一致し、本件発明が、「ブレーキ機構を構成する部品の一部にセンサ貫通用穴又は切り欠きを形成し、かつ、このセンサ貫通用穴又は切り欠きを貫通させて前記回転数センサを設置し」ているのに対し、引用発明は、それらの構成を具備しているかどうか明らかでない点で一応相違する。
そこで、上記相違点について検討する。
刊行物1において、出力回転数センサ546及びその先端550に対向して被検出部材となる歯車544が、ブレーキ機構であるクラッチ組立体310と、第4の油圧ピストン474との軸方向中間部に配置されていることは、図1B、図1D及び上記記載事項(a)〜(c)から明らかである。
一方、第4の油圧ピストン474は、上記クラッチ組立体310のプレート466及びディスク468を押圧作動するものであって、その機能上からも当然に、また、図1B、図1Aからも明らかなように、該ピストン474の外周部分がクラッチプレート466に向って略々環状に延びている。上記略々環状に軸方向に延びているピストン474の外周部分(甲立人が甲第1号証の図1B及び図1Aに加入した符号474aを参照)は、上記クラッチ組立体310の作動位置にあっては、その先端が後端クラッチプレート466に接して押圧する。
そして、前記センサの被検出部分となる歯車544は、前述した通り、軸方向においてクラッチ組立体310と第4の油圧ピストン474との間に配置されていると共に、半径方向において前記ピストン474の延出部分474aの内径側に配置されている。従って、該歯車544の外径側にてその先端550を対向配置する必要がある出力回転数センサ546は,前記ピストン474の延出部分474aの一部を切り欠き又は穴をあけて、該切り欠き又は穴を貫通して配置する必要がある。
このことは、刊行物1の図1Bにおける上半部分断面図が、下半部分断面図に存在するピストン474の延出部分474aが存在していないことから明らかである。なお、クラッチ組立体310のプレート466及びディスク468は、上記ピストン474の延出部分474aにより全周に亘って均等に押圧されることが該クラッチ(ブレーキ)の機能上望ましいことは当然であって、上記ピストン474の延出部分474aは、できるだけ全周に近い環状に形成することが望ましいことは設計上の慣用手段であり、このことは、刊行物1の図1Aにおいてピストン延出部分474aが環状に連続して記載されていることからも明らかであり、従ってセンサを貫通すべく上記延出部分に形成した切り欠き又は穴(申立人が甲第1号証の図1B、図1Dに加入した符号474bを参照)はできるだけ周方向の長さが短い方が望ましいことも、当然の帰結である。
また、自動変速装置のブレーキ機構を構成する部品の一部に、他の機能部材を横切らせるための切欠きを設けることが、従来周知の技術手段(例えば、特開昭58-17254号公報に記載された動力伝達用チェーン160のための切欠き等を参照)であること等を勘案すると、刊行物1の図1A、図1B、及び図1D等から、切り欠き又は穴474bは、ピストン474の外周部分に形成される延出部分474aを、センサ先端部550が貫通する位置にあり、センサ貫通穴又は切り欠きが形成されていることが看取できる。
結局、引用発明も、上記相違点に係る本件発明の構成である「ブレーキ機構を構成する部品の一部にセンサ貫通用穴又は切り欠きを形成し、かつ、このセンサ貫通用穴又は切り欠きを貫通させて前記回転数センサを設置し」た構成を具備しており、引用発明は本件発明と同一と認める。

(5)特許異議の申立てのむすび
本件発明は、刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができない。

V.むすび
以上のとおりであるから、本件発明についての特許は、拒絶の査定をしなければならない出願に対してされたものと認める。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2001-10-02 
出願番号 特願平3-234675
審決分類 P 1 651・ 113- ZB (F16H)
P 1 651・ 841- ZB (F16H)
P 1 651・ 853- ZB (F16H)
最終処分 取消  
前審関与審査官 礒部 賢  
特許庁審判長 西川 一
特許庁審判官 秋月 均
常盤 務
登録日 1999-10-08 
登録番号 特許第2988542号(P2988542)
権利者 ジャトコ株式会社
発明の名称 自動変速装置  
代理人 朝倉 悟  
代理人 近島 一夫  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ