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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  F16K
管理番号 1117970
異議申立番号 異議2002-72594  
総通号数 67 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2000-07-14 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-10-22 
確定日 2005-06-15 
異議申立件数
事件の表示 特許第3276936号「流量コントロールバルブ」の請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3276936号の請求項1ないし4に係る特許を取り消す。 
理由 【1】手続の経緯・本件発明
本件特許第3276936号に係る出願は、平成10年12月25日の出願であって、平成14年2月8日に設定登録(請求項の数;9)されたものであり、その請求項1〜4に係る発明は、その明細書の特許請求の範囲の請求項1〜4に記載された事項によって特定される次のとおりのものと認める(以下、請求項1に係る発明を「本件発明」という。)。
「【請求項1】 一側に被制御流体の流入部(12)を有し弁座(16)を介して他側に被制御流体の流出部(15)が形成されたチャンバ(20)を有するボディ本体(11)と、前記弁座を開閉する弁部(41)と前記流入部側に配された第一ダイヤフラム部(50)と前記流出部側に配された第二ダイヤフラム部(60)とを有する弁機構体(40)とからなり、
前記各ダイヤフラム部は、それらの外周部が前記ボディ本体に固定されて前記チャンバ内に取り付けられていて、該チャンバを第一ダイヤフラム部外側の第一加圧室(21)、前記第一ダイヤフラム部及び第二ダイヤフラム部に囲まれ前記流入部及び弁座ならびに流出部を有する弁室(25)、及び第二ダイヤフラム部外側の第二加圧室(30)に区分しており、前記第一加圧室及び第二加圧室に設けられた第一加圧手段(M1)及び第二加圧手段(M2)によって前記第一ダイヤフラム部及び第二ダイヤフラム部を常時弁室方向に一定圧力を加えるようにしてなる流量コントロールバルブ(10)において、
前記弁機構体(40)の第一ダイヤフラム部(50)に弁部(41)を有する第一部材(51)を一体に設けるとともに、前記第二ダイヤフラム部(60)には前記第一部材と分離自在に遊嵌結合された第二部材(61)を一体に設けたことを特徴とする流量コントロールバルブ。
【請求項2】 請求項1において、前記弁機構体の第一部材と第二部材の結合部が円台錐形状の凸部(52)と凹部(62)によって形成されている流量コントロールバルブ。
【請求項3】 請求項1または2において、前記第一加圧室の加圧手段がバネ(S1)よりなる流量コントロールバルブ。
【請求項4】 請求項1ないし3のいずれかにおいて、前記第二加圧室の加圧手段が加圧気体(A1)よりなる流量コントロールバルブ。」

【2】引用例の発明
これに対して、当審における平成15年2月24日付けで通知した取消の理由に引用した本件特許の出願前である平成6年10月21日に日本国内において頒布された特開平6-295209号公報(以下、「刊行物」という。)には、流体コントロールバルブに関して、図1〜図6とともに次のような記載がある。
A)「【0011】図1ないし図3に示す実施例のコントロールバルブ10は、弁体11と、その弁体が収容されるバルブ本体31とからなる。弁体11は、図1及び図2に示されるように、ロッド部12とダイヤフラム22からなる。ロッド部12は、上端13側が下端14側よりも大径となった縦断面形状がほぼ「T」字形からなる筒状のもので、上下2つの半体15,16が螺合により一体に組み合わされてなる。ロッド部12の下端14側には、流量制御部17(図2及び図3に示す)が環状突出形状に形成されている。」
B)「【0012】ダイヤフラム22は前記ロッド部12の上端部にロッド部12と一体に形成されたものである。このダイヤフラム22はロッド部12の上端部外周に鍔状に突出して、その外周縁23が厚肉となっている。」
C)「【0013】バルブ本体31は、第1ブロック32と第2ブロック42間に第3ブロック52を挟んだ3層構造の円筒状からなり、・・・(途中省略)・・・第1ブロック32及び第2ブロック42内には、加圧気体流入路33,43と加圧室34,44が形成されている。加圧気体流入路33,43は一端がバルブ本体外面で開口し、他端が加圧室34,44に通じている。」
D)「【0014】第3ブロック52は、バルブ本体31の中間部を構成するもので、中央には内部を貫通する弁室53が形成されている。弁室53は、中間部が細くなってほぼ「エ」字形の縦断面形状をした貫通穴からなるもので、ロッド部12の外径より大となっている。弁室53両端の内径は、第1ブロック32の加圧室34内径とほぼ等しくされ、また第1ブロック32との合わせ面には弁室53外周に凹溝55が形成されている。
【0015】前記凹溝55にダイヤフラム22の外周縁23が嵌着されて弁体11が弁室53内に収容され、その後各ブロック32,42,52が組み合わされて一体にされる。バルブ本体31内に収容された弁体11のロッド部12外周面と、弁室53内壁面間には被制御流体通路56が形成される。その被制御流体通路56において、前記弁体ロッド部12の流量制御部17に対向する弁室内壁面54(図3に示す)との間が流量制御通路部58になる。また、被制御流体通路56は、ロッド部12の小径端部側において被制御流体流入口59に通じ、他方ロッド部12の大径側端部において被制御流体流出口60に通じている。」
E)「【0016】このようにしてなるコントロールバルブ10は、流量及び圧力を制御したい気体あるいは液体からなる被制御流体の供給源に、パイプを介して被制御流体流入口59が接続され、その被制御流体流入口59から内部に被制御流体が送り込まれる。また、加圧気体流入路33,43からは、一定圧力に加圧された気体、たとえば圧縮空気が吹き込まれる。この加圧気体の圧力は、被制御流体の2次側流量及び圧力等により定められる。」
F)「【0018】そして、被制御流体の1次側流量あるいは圧力が変動した場合には次のように作動する。まず流量あるいは1次圧力が増大した場合について説明する。その場合には、初めに被制御流体流出口60から流出する流量および2次圧力が増大する。
【0019】しかし、それと同時に前記ロッド部12端部の大径側端部に内側から加わる圧力も増大するため、その内圧がロッド部の大径側端部外側にある加圧室34の圧力に打ち勝ってロッド部12が大径側端部方向に押される。そして鎖線のようにダイヤフラム22が変形してロッド部12が大径側端部方向へスライドし、それにより流量制御通路部58が狭くなって被制御流体通路56を流れる流量が減少する。その結果、2次側の被制御流体流出口60から流出する流量が減少して2次圧力が低下し、2次側の流量及び圧力変動が抑えられる。
【0020】一方、1次側流量及び圧力が減少した場合には、被制御流体流出口60から流出する流量及び2次圧力が一旦減少する。しかし、それと同時に前記ロッド部12端部の大径側端部に内側から加わる圧力が低下して加圧室34の圧力よりも低下するため、ロッド部12が小径側端部方向に押されてスライドする。それにより流量制御通路部58が広くなって被制御流体通路56を流れる流量が増大する。その結果、2次側の被制御流体流出口60から流出する流量が増大して2次圧力が増大し、2次側の流量及び圧力変動が抑えられる。」
G)「【0021】図4ないし図6に他の実施例を示す。この実施例のコントロールバルブ70は、弁体71がロッド部72の大径側端部に第1のダイヤフラム74、小径側端部に第2のダイヤフラム76を有するものである。図中78はバルブ本体、79,80は加圧室、81は弁室、82は流量制御部、83は流量制御通路部、84は被制御流体通路、85,86は加圧気体流入路、87は被制御流体流入口、88は被制御流体流出口である。この実施例においては、弁室81と加圧室79,80とは、第1ダイヤフラム74,第2ダイヤフラム76により仕切られている。」

上記A)、C)〜E)の記載と図1,図3とからみて、上記刊行物の図1ないし図3に記載されたコントロールバルブ10(以下、「第1実施例のもの」という。)は、加圧室34の形成された第1ブロック32と、加圧室44の形成された第2ブロック42の間に、流入口59、流出口60、弁室53の形成された第3ブロック52を挟むことにより内部に一つのチャンバが形成されたバルブ本体31と、螺合により結合された上下の半体15,16で構成されるロッド部12と上側の半体15に一体形成され流出口60側に配されたダイヤフラム22とを有する弁体11とからなる流量コントロールバルブであって、下側の半体16には流量制御部17が設けられ、これに対向する弁室内壁面54との間に流量制御通路部58が形成されており、下側の半体16の下端には加圧室44の加圧面が形成されているものと認める。そして上記F)の記載から、弁室53のロッド部大径側の部分と加圧室34との圧力差によってダイヤフラム22が変形し、ロッド部12がスライドして流量制御部17が弁室内壁面54に接近離間し、これにより流量制御通路部58が拡縮して2次側の流量及び圧力変動を抑えるようにしているものと認められるから、上記流量制御部17は弁部として、弁室内壁面54は弁座として機能しているものと認める。
したがってこれらの記載からみて、バルブ本体31は、一側に被制御流体の流入口59を有し弁座として機能する弁室内壁面54を介して他側に被制御流体の流出口60が形成されたチャンバを有するとともに、弁体11は弁室内壁面54に接近離間する弁部として機能する流量制御部17と流出口60側に配されたダイヤフラム22とを有しているものと認める。
また、上記B)、D)の記載からみて、ダイヤフラム22は外周縁23がバルブ本体11の凹溝55に嵌着固定されてバルブ本体11のチャンバ内に取り付けられているものと認められ、上記E)の記載から、加圧室34,44には加圧気体流入路33,43から一定圧力に加圧された気体がそれぞれ吹き込まれ、ダイヤフラム22及び半体16下端の加圧面を常時弁室方向に一定圧力で加圧しているものと認められる。
また、上記刊行物の図4ないし図6に記載されたコントロールバルブ70(以下、「第2実施例のもの」という。)は、上記G)の記載と図4、図6とからみて、第1実施例の流量コントロールバルブにおいて、ロッド部の下側の半体の下端に形成されていた加圧面を、該半体と一体の第2ダイヤフラム76(両者は図6からみて明らかに一体である。)として構成し、さらに、ダイヤフラム22と呼んでいた上側の半体と一体の部分を第1ダイヤフラム74と呼び直したものであって、これらのダイヤフラムによって、チャンバを第2ダイヤフラム76外側の加圧室80、第2ダイヤフラム76及び第1ダイヤフラム74に囲まれ前記口87及び流量制御部82に対向する弁室内壁面ならびに流出口60を有する弁室81、及び第1ダイヤフラム74外側の加圧室79に区分しているものと認める。
そして第2実施例のものは、これ以外の部分については第1実施例のものと構成上の差異が認められないから、第2実施例のものの他の部分、例えば流量制御部82やこれに対向する弁室内壁面、ダイヤフラム等の作動形態、取付構造は、第1実施例のものの対応する部分の作動形態、取付構造と差異がないものと認める。
したがって、上記刊行物の第2実施例のものは、一側に被制御流体の流入口87を有し、流量制御部82に対向する弁室内壁面を介して他側に被制御流体の流出口88が形成されたチャンバを有するバルブ本体78と、螺合により結合された上下の半体からなり下側の半体が該弁室内壁面に接近離間する流量制御部82を有するロッド部72、下側の半体と一体で流入口87側に配された第2ダイヤフラム76、上側の半体と一体で流出口60側に配された第1ダイヤフラム74とを有する弁体71とからなり、各ダイヤフラムはバルブ本体11に固定されてチャンバ内に取り付けられ、加圧室79,80にそれぞれ送り込まれた加圧気体によってダイヤフラム74,76を常時弁室方向に一定圧力を加えるようにしているものと認められる。
したがって、上記刊行物には、
「一側に被制御流体の流入口87を有し流量制御部82に対向する弁室内壁面を介して他側に被制御流体の流出口88が形成されたチャンバを有するバルブ本体78と、前記弁室内壁面に接近離間する流量制御部82と前記流入口87側に配された第2ダイヤフラム76と前記流出口60側に配された第1ダイヤフラム74とを有する弁体71とからなり、
前記各ダイヤフラムは、それらの外周部が前記バルブ本体78に固定されて前記チャンバ内に取り付けられていて、該チャンバを第2ダイヤフラム76外側の加圧室80、前記第2ダイヤフラム76及び第1ダイヤフラム74に囲まれ前記流入口87及び流量制御部82に対向する弁室内壁面ならびに流出口60を有する弁室81、及び第1ダイヤフラム74外側の加圧室79に区分しており、前記加圧室80及び加圧室79に設けられた第一の加圧気体及び第二の加圧気体によって前記第2ダイヤフラム76及び第1ダイヤフラム74を常時弁室81方向に一定圧力を加えるようにしてなる流量コントロールバルブ70において、
前記弁体71の第2ダイヤフラム76に流量制御部82を有するロッド部72の下側の半体を一体に設けるとともに、前記第1ダイヤフラム74には前記ロッド部72の下側の半体と螺合により結合されたロッド部72の上側の半体を一体に設けた流量コントロールバルブ。」の発明(以下、「刊行物に記載された発明」という。)が記載されているものと認める。

【3】本件発明と刊行物に記載された発明との対比
本件発明と刊行物に記載された発明とを対比すれば、刊行物に記載された発明の「流入口87」、「流量制御部82に対向する弁室内壁面」、「流出口88」、「バルブ本体78」、「流量制御部82」、「第2ダイヤフラム76」、「第1ダイヤフラム74」、「弁体71」、「加圧室80」、「弁室81」、「加圧室79」、「第一の加圧気体」、「第二の加圧気体」、「流量コントロールバルブ70」、「ロッド部72の下側の半体」、「ロッド部72の上側の半体」は、それぞれ本件発明の「流入部(12)」、「弁座(16)」、「流出部(15)」、「ボディ本体(11)」、「弁部(41)」、「第一ダイヤフラム部(50)」、「第二ダイヤフラム部(60)」、「弁機構体(40)」、「第一加圧室(21)」、「弁室(25)」、「第二加圧室(30)」、「第一加圧手段(M1)」、「第二加圧手段(M2)」、「流量コントロールバルブ(10)」、「第一部材(51)」、「第二部材(61)」に対応している。
したがって本件発明は、刊行物に記載された発明と、
「一側に被制御流体の流入部を有し弁座を介して他側に被制御流体の流出部が形成されたチャンバを有するボディ本体と、弁部と前記流入部側に配された第一ダイヤフラム部と前記流出部側に配された第二ダイヤフラム部とを有する弁機構体とからなり、
前記各ダイヤフラム部は、それらの外周部が前記ボディ本体に固定されて前記チャンバ内に取り付けられていて、該チャンバを第一ダイヤフラム部外側の第一加圧室、前記第一ダイヤフラム部及び第二ダイヤフラム部に囲まれ前記流入部及び弁座ならびに流出部を有する弁室、及び第二ダイヤフラム部外側の第二加圧室に区分しており、前記第一加圧室及び第二加圧室に設けられた第一加圧手段及び第二加圧手段によって前記第一ダイヤフラム部及び第二ダイヤフラム部を常時弁室方向に一定圧力を加えるようにしてなる流量コントロールバルブにおいて、
前記弁機構体の第一ダイヤフラム部に弁部を有する第一部材を一体に設けるとともに、前記第二ダイヤフラム部には第二部材を一体に設けた流量コントロールバルブ。」
である点で一致し、以下の相違点で相違している。
<相違点>
(1)本件発明の弁部は弁座を開閉できるものであるのに対し、刊行物に記載された発明の流量制御部82は弁室内壁面に接近離間するものの、弁室内壁面を開閉できるものであるかどうかについては言及がない点。
(2)本件発明では、第二ダイヤフラム部と一体の第二部材が、弁部を有する第一部材と分離自在に遊嵌結合されているのに対し、刊行物に記載された発明では、第1ダイヤフラム74と一体のロッド部72の上側の半体が、流量制御部82を有する下側の半体と螺合により結合されており、分離自在に遊嵌結合されていない点。

【4】相違点の検討
1.相違点(1)に関して
刊行物に記載された発明のような流量コントロールバルブが、二次側の流体の圧力変動に対しても二次側のダイヤフラムが変形して流量制御通路部が拡縮し、これにより二次側の流体の流量及び圧力変動を抑えるように機能すること、及び、このような流量コントロールバルブが、二次側の流体の圧力如何によっては弁座を閉じることができることは当業者において自明であり(この点については、本件の特許明細書の段落【0006】に「・・・この先行技術(日本特許第2671183号)においては、・・・流出部112側の背圧により弁機構体120の弁部121が移動して弁座113を閉じる場合には、・・・」と記載されているように、本件出願人である特許権者も自ら認めるところである。)、さらに、このような二次側の流体の圧力変動に対してそれを抑えるように機能するバルブにおいて、弁座を開閉できるようにしておくことは周知技術(例えば、特開平9-230942号公報(甲第1号証)の段落【0022】,【0030】、特公平5-46441号公報(甲第7号証)の第2頁右欄36〜37行参照。)である。してみれば、刊行物に記載された発明で、弁部である流量制御部によって、弁座である弁室内壁面を開閉できるようにしておくことは、上記周知技術から当業者が容易に行うことができたものである。
2.相違点(2)に関して
刊行物に記載された発明のような、二次側の流体の圧力変動に対応して二次側のダイヤフラムが変形して流量制御通路部が拡縮し、これにより二次側の流体の流量及び圧力変動を抑えるように機能するバルブにおいて、二次側のダイヤフラムを弁部を有する部材と分離自在に遊嵌結合しておくことは周知技術(たとえば前記特開平9-230942号公報の段落【0022】,【0030】、特公平5-46441号公報の第1図,第3図、辻茂著「空気圧工学」(昭和48年8月30日発行、朝倉書店)(甲第4号証)の第164頁、特に図7.19)であって、このようにしておけば二次側のダイヤフラムの変形に対して弁部が過剰な負荷や摩擦力を受けることがなく、したがって、弁部や弁座に破損や塵の発生を招くこともなくなることは当業者が容易に想到しうるところである。
してみれば、刊行物に記載された発明で、二次側のダイヤフラム(第1ダイヤフラム74)と一体の部材であるロッド部72の上側の半体を、弁部(流量制御部)を有する部材であるロッド部72の下側の半体と分離自在に遊嵌結合して、これにより、二次側のダイヤフラムの変形に対して弁部が過剰な負荷や摩擦力を受けないようにして、弁部や弁座に破損や塵の発生を生じないようにすることは、上記周知技術から当業者が容易に行うことができたものである。
なお、特許権者は、平成15年5月6日付けの意見書で、本件特許発明の課題は、弁部と弁座間における劣化や損傷あるいは微細な塵の発生を防止して、超純水や薬液等に高い適用性を有する、高度にクリーンな流量コントロールバルブを提供するという全く新たな課題を提示し、これを実現するものである、と主張し、さらに、引用例はこのような本件発明の課題を有していない、とも主張しているが、本件特許明細書の全記載によれば、本件発明は超純水や薬液等への適用に限定されるものでなく、また、本件特許公報【0006】、【0008】の記載を参酌すれば、本件発明の課題とするものも、先行技術である特許第2671183号(上記刊行物の特許番号)において生ずる、第二ダイヤフラム部に大きな背圧が加わった場合に弁機構体に大きな負荷がかかり、第一ダイヤフラム部と第二ダイヤフラム部の固着部に劣化や損傷を生じるとともに、弁機構体の弁部とボディ本体の弁座の間に大きな摩擦力が働き、それらの破損や塵の発生を招くという問題に対処することにあると認められ、またそれは、刊行物に記載された発明に内在する課題ということができるから、このような課題を解決できることが当業者において容易に想到しうる上記周知技術(二次側の流体の圧力変動に対応して二次側のダイヤフラムが変形して流量制御通路部が拡縮し、これにより二次側の流体の流量及び圧力変動を抑えるように機能するバルブにおいて、二次側のダイヤフラムを弁部を有する部材と分離自在に遊嵌結合しておく技術;甲第1,7,4号証は、その単なる例示である。)を、刊行物に記載された発明に適用することは当業者が容易に行うことができたものというべきである。
そして、本件発明の作用効果は、上述のとおり、上記刊行物に記載された発明と上記各周知技術から予測しうる程度のものであるから、本件発明は、上記刊行物に記載された発明に上記各周知技術を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものである。

【5】請求項2の発明に関して
請求項2の発明は、請求項1の発明において、弁機構体の第一部材と第二部材の結合部を円台錐形状の凸部と凹部によって形成したものであるが、二次側のダイヤフラムを弁部を有する部材と分離自在に遊嵌結合しておく場合において、その結合部を円錐形状の凸部と凹部によって形成することは周知技術として引用した前記特公平5-46441号公報の第1図,第3図、辻茂著「空気圧工学」の図7.19にもみられるように、これまた従来周知の技術手段であって、円錐形状の凸部を円台錐形状の凸部に変更する如きは当業者が適宜行いうる単なる設計事項である。してみれば、請求項2の発明は刊行物に記載された発明に前記各周知技術と上記周知技術を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものである。

【6】請求項3の発明に関して
請求項3の発明は、請求項1または2の発明において、第一加圧室の加圧手段をバネとしたものであるが、一次側の加圧室の加圧手段をバネとすることは周知技術として引用した前記特開平9-230942号公報の図1、特公平5-46441号公報の第1図,第3図、辻茂著「空気圧工学」の図7.18にもみられるように、これまた従来周知の技術手段である。してみれば、請求項3の発明は刊行物に記載された発明に前記各周知技術と上記周知技術を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものである。

【7】請求項4の発明に関して
請求項4の発明は、請求項1ないし3のいずれかの発明において、第二加圧室の加圧手段を加圧気体としたものであるが、二次側のダイヤフラムを加圧する加圧手段を加圧気体とすることは上記引用例でも行われているから、請求項4の発明は刊行物に記載された発明に前記各周知技術とを適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものである。

【8】むすび
以上詳述したとおり、本件の請求項1〜4に係る発明は、上記刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件の請求項1〜4に係る発明についての特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、本件の請求項1〜4に係る発明についての特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2003-05-27 
出願番号 特願平10-370486
審決分類 P 1 652・ 121- Z (F16K)
最終処分 取消  
前審関与審査官 渡邉 洋  
特許庁審判長 八日市谷 正朗
特許庁審判官 尾崎 和寛
ぬで島 慎二
登録日 2002-02-08 
登録番号 特許第3276936号(P3276936)
権利者 アドバンス電気工業株式会社
発明の名称 流量コントロールバルブ  
代理人 宮寺 利幸  
代理人 千葉 剛宏  
代理人 後藤 憲秋  

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