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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
無効200235391 審決 特許
異議199973920 審決 特許
異議199874668 審決 特許
無効200135025 審決 特許
異議200172607 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 無効とする。(申立て全部成立) A63F
審判 全部無効 特36 条4項詳細な説明の記載不備 無効とする。(申立て全部成立) A63F
審判 全部無効 (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降) 無効とする。(申立て全部成立) A63F
審判 全部無効 特123条1項8号訂正、訂正請求の適否 無効とする。(申立て全部成立) A63F
管理番号 1118691
審判番号 無効2002-35443  
総通号数 68 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1990-09-14 
種別 無効の審決 
審判請求日 2002-10-18 
確定日 2005-07-07 
事件の表示 上記当事者間の特許第2574912号スロットマシンの特許無効審判事件について、併合の審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 特許第2574912号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1.手続の経緯
原特許出願(特願昭58-61592号) 昭和58年4月8日
本件分割特許出願(特願平2-16440号)平成2年1月27日
設定登録(特許第2574912号) 平成8年10月24日
異議申立(平成9年異議第72026号) 平成9年4月28日
取消理由通知 平成9年11月6日
特許異議意見書、訂正請求 平成10年1月30日
訂正拒絶理由通知 平成10年7月30日
特許異議意見書、訂正請求書の補正 平成10年10月16日
異議決定(特許維持) 平成11年12月28日
無効審判請求(無効2002-35391) 平成14年9月17日
無効審判請求(無効2002-35443) 平成14年10月18日
答弁書(無効2002-35391) 平成14年12月12日
答弁書(無効2002-35443) 平成15年1月10日
上申書(請求人:無効2002-35391)平成15年5月29日
上申書(請求人:無効2002-35443)平成15年6月3日
併合審理通知書 平成15年6月5日
口頭審理通知書(併合) 平成15年6月5日
ファクシミリ送信状(口頭審理内容通知) 平成15年6月20日
口頭審理陳述要領書(被請求人・併合) 平成15年7月18日
口頭審理陳述要領書(請求人・併合) 平成15年8月6日
口頭審理(併合) 平成15年8月6日
第1回口頭審理調書(併合) 平成15年8月6日
意見書(被請求人・併合) 平成15年9月5日
意見書(請求人・併合) 平成15年9月19日
審理終結通知書 平成15年10月10日

第2.本件発明
特許第2574912号に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、平成10年10月16日付けで補正された訂正明細書の記載によれば、その特許請求の範囲に記載された以下のとおりのものである。
「1.スタート手段の操作により回転される複数のリールを備え、これらのリールが停止したときに表示窓に現れた絵柄の組み合わせで入賞の有無を表示するスロットマシンにおいて、
1ゲームごとに乱数をサンプリングし、サンプリングされた乱数に対応して複数種類の入賞のうちのいずれかを決め、その入賞の種類に応じたリクエスト信号を発生するリクエスト発生手段と、このリクエスト信号に基づいてリクエスト信号に対応した種類の入賞が得られるように前記リールを停止制御するリールストップ制御手段と、リールストップ制御手段によりリールが停止した後にリールの停止位置を読み取り、前記リクエスト信号に対応した種類の入賞が得られたか否かを判定する判定手段と、この判定手段により前記リクエスト信号に対応した種類の入賞が得られないときに当該リクエスト信号を次回のゲームまで保存する手段とを備えたことを特徴とするスロットマシン。」

第3.無効2002-35391に係る当事者の求めた審判
1.請求人の主張
請求人山佐株式会社は、審判請求書において、下記の甲第1号証乃至甲第13号証を提出して、特許第2574912号の特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求めることを請求の趣旨とし、本件発明の特許を無効とすべき理由として、次のように主張する。
A.無効理由1(訂正要件違反)
本件発明の特許明細書について、特許異議申立の審理において平成10年10月16日にした訂正事項a乃至dよりなる訂正は、特許法第120条の4で準用する第126条第2項の規定、並びに、同法第120条の4第2項ただし書き第3号の規定に違反するものであるから、本件発明の特許は、同法123条第1項第8号の規定により無効とすべきである。
B.無効理由2(明細書記載要件違反)
本件発明の特許は、原出願の出願日において施行されている昭和50年改正特許法第36条第4項及び第5項、あるいは、本件分割出願の現実の出願日において施行されている昭和62年改正特許法第36条第3項及び第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第123条第1項第4号の規定により無効とすべきである。
C.無効理由3(分割及び進歩性要件違反)
本件発明の特許は、分割要件不備により出願日の遡及効を得ることができず、本件分割出願の現実の出願日(平成2年1月27日)前に発行された甲第11号証乃至甲第13号証に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきである。

甲第1号証 :平成11年12月28日付け異議決定謄本の写し
甲第2号証 :本件特許の登録原簿の写し
甲第3号証 :平成10年1月30日提出の訂正請求書
甲第4号証 :平成10年10月16日提出の手続補正書
甲第5号証 :平成10年7月30日付けの訂正拒絶理由通知書
甲第6号証 :平成10年10月16日提出の特許異議意見書
甲第7号証 :本件発明の特許公報(特許第2574912号)
甲第8号証 :本件発明の出願当時における「出願の分割」に関する
一般審査基準、〔1〕-16-6〜8
甲第9号証 :昭和53年3月28日の最高裁判所判決の抜粋
(昭和49年(行ツ)第2号)
甲第10号証:平成10年1月30日提出の特許異議意見書
甲第11号証:特開昭59-186580号公報
甲第12号証:特開平1-198584号公報
甲第13号証:特開昭59-40883号公報

2.被請求人の主張
被請求人アルゼ株式会社は、答弁書において、下記の乙第1号証乃至乙第5号証を提出して、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、無効理由は存在しない旨、次のように主張する。
A.無効理由1(訂正要件違反)について
平成10年10月16日にした訂正(訂正請求書の補正)は訂正要件を具備するため、特許法第123条第1項第8号の無効理由は存在しない。
B.無効理由2(明細書記載要件違反)について
本件明細書の発明の詳細な説明及び特許請求の範囲に請求人指摘の記載不備はなく、特許法第123条第1項第4号の無効理由は存在しない。
C.無効理由3(分割及び進歩性要件違反)について
本件発明の特許は、分割要件を具備し、その出願日は原出願日の昭和58年4月8日に遡及するため、この日後に頒布された甲第11号証乃至甲第13号証は何れも進歩性を否定する公知資料たり得ず、特許法第123条第1項第2号の無効理由は存在しない。
また、原出願の当初明細書等を本件分割出願の基準明細書等とする上記主張が成り立たないとしても、原出願の昭和58年6月6日付け手続補正書を本件分割出願の基準明細書等とすれば、本件発明の出願日は、昭和58年6月6日〔平成5年改正前特許法第40条及び第44条〕となり、昭和59年10月23日に公開された原出願の公開公報(甲第11号証:特開昭59-186580号公報)は本件発明の特許性に関する公知文献たりえず、これによって進歩性を阻却されることはない。

乙第1号証:実例でみる特許・実用新案「審査基準の解説」吉嶺桂著、
昭和59年10月30日、発明協会発行、p182〜239
乙第2号証:「審判便覧」特許庁審判部編、改訂第8版、
平成12年9月29日、発明協会発行、
訂正の審判54-01(1〜5)、54-10(1〜12)
乙第3号証:特開平2-232084号公報
乙第4号証:平成7年7月6日付け手続補正書
乙第5号証:平成11年6月23日付け更正決定

第4.無効2002-35391に係る当審の判断
A.無効理由1(訂正要件違反)について
当審は、審判請求書における請求人の主張及び答弁書における被請求人の主張、並びに口頭審理における前記当事者双方の主張を踏まえて、本件発明を構成する「リクエスト信号に対応した種類の入賞が得られないときに当該リクエスト信号を次回のゲームまで保存する手段」について、これを技術的に裏付ける具体的実現手段を示すものとして、平成10年10月16日にした訂正事項dに係る訂正が、本件特許の設定登録時の明細書に記載した事項の範囲内のものであるか否か、以下検討判断するものである。

1.訂正の内容
平成11年12月28日付けの異議決定(甲第1号証)、平成10年1月30日提出の訂正請求書(甲第3号証)及び平成10年10月16日提出の訂正請求書の手続補正書(甲第4号証)によれば、訂正の基準明細書である設定登録時の特許明細書(甲第7号証:本件特許公報)に対してなされた訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は以下のとおりのものである。
(1)訂正事項a
特許明細書第17頁第20行〜第18頁第11行(特許公報第4頁右欄第29〜39行)の「得られるが、ペイアウト率を一定に保つために、リクエストカウンタが利用される。すなわち、前述したヒットリクエストが発生すると、各ヒットリクエストをカウントするリクエストカウンタが「+1」され、RAM上にストアされる。そして、ヒットした際にそのリクエストカウンタは「-1」の減算処理が行われる。また、ヒットしない場合にはそのまま保存され、最終的にリクエストカウンタが「0」になるまでヒットリクエストが発生し、このためペイアウト率は一定に保たれる。これは、第11図に示したフローチャートにより処理される。」を、
「得られる。」と訂正する。
(2)訂正事項b
特許明細書第27頁第10〜14行(特許公報第6頁左欄第47〜50行)の「この場合は、ヒットリクエスト通りの入賞が得られなくなってしまうが、発生されたヒットリクエストは、次回のゲームに待ち越されて利用されることになるから、ペイアウト率に変化はない。」を削除する。
(3)訂正事項c
特許明細書第31頁第1〜6行(特許公報第7頁右欄第9〜14行)の「また、ヒットリクエスト発生時に第2リールの停止処理を行った結果、ヒットリクエスト通りの入賞が得られないことが分かると、第1リールのときと同じように、ハズレ処理に以降するとともに、そのヒットフラグが保持されるようになる。」を削除する。
(4)訂正事項d
特許明細書第34頁第13〜14行(特許公報第7頁右欄第23行)の
「持ち越され、」を、
「持ち越される。すなわち、第25図のフローチャートにおいて、入賞か?の判定でNOの場合は、YESの場合と異なり、ヒットリクエストの減算は行わない。このように、入賞か?の判定でNOの場合はヒットリクエストの減算は行わないという処理により、第14図RAM5の該当エリアにセットしたフラグをそのままとすることにより、リクエスト信号を次回のゲームまで保存する手段を構築している。尚、持ち越しとは、その文言の意味通り、残して次へ送ることをいい、保存とは、同じくその文言の意味通り、そのままの状態を保って失わないことをいい、いずれもヒットリクエストが次回のゲームに用いられる点で同じ意味である。こうして、」と訂正する。

2.訂正の適否の判断
(1)本件発明の概要、及び本件訂正との関係
i.本件発明は、ゲームごとにサンプリングされた乱数に応じて入賞の種類を決め、こうして決められた入賞が得られるように各リールの停止制御を行うスロットマシンにおいて、ストップボタンの操作タイミングが不適当であるためにリールが停止したときに予定した入賞が得られなかった場合でも、設定された入賞確率が低下することなく、ペイアウト率に変動をきたさないようにすることを目的に、本件発明の構成として、リクエスト信号に対応した種類の入賞が得られないときに当該リクエスト信号を次回のゲームまで保存する手段とを備えたことを特徴とするものである。
ii.本件訂正は、明細書の特許請求の範囲の記載はそのままで、本件発明を構成する「リクエスト信号に対応した種類の入賞が得られないときに当該リクエスト信号を次回のゲームまで保存する手段」について、その具体的実現手段に関する明細書の発明の詳細な説明の記載を訂正するものである。

(2)訂正前の明細書に開示される具体的実現手段
i.まず、本件発明を構成する「リクエスト信号に対応した種類の入賞が得られないときに当該リクエスト信号を次回のゲームまで保存する手段」の具体的実現手段について、訂正前の明細書の発明の詳細な説明には、登録時の本件特許公報(甲第7号証)によれば、以下の事項が記載されている。
「〔作用〕サンプリングされた乱数によって入賞を予定したリクエスト信号が発生され、これに基づいてリールの停止制御が開始される。そして、リールの停止制御を行った結果、前記リクエスト信号を満足する入賞が得られない場合には、前記リクエスト信号は次回のゲーム以降に持ち越されるから、そのリクエスト信号を有効に生かすことができるようになる。」(特許公報第2頁右欄第35〜42行)、
「全てのリールが停止したことが確認されると、第5図に示した入賞判定処理,配当メダルの払出し処理が行われる。・・・また入賞判定は、各リールのシンボルマークを前述のようなコード信号として検出し、これらのシンボルマークの組み合わせを後述のROMと照合する。そして、入賞している場合にはリクエスト減算処理を行ったうえで、ホッパーモータを駆動して配当メダルの払出し処理を行う。」(同第3頁左欄第40行〜右欄第6行)、
「RAM52には・・・ヒットリクエストを格納するメダル(審判注;メモリの誤記)・・・等が含まれている。」(同第3頁右欄第19〜24行)、
「ヒットリクエストは、ゲーム開始時にサンプリングされる乱数値と、ROMの入賞テーブルにストアされた入賞を与えるべき数値群との照合の結果発生される。」(同第4頁左欄第11〜14行)、
「さらにRAM5には、大ヒットエリア5a、中ヒットエリア5b、小ヒットエリア5c、ヒットなしのエリア5dが用意されており、ヒットリクエストに応じてこれらのいずれかのエリアにフラグがセットされる。」(同第6頁左欄第8〜12行)、
「こうして第3リールがストップすると、第25図に示したフローチャートによる処理が実行される。すなわち、第3リールの停止により、窓に現れている全てのリールのシンボルマークが確定し、これで第14図に示した各RAMエリアが全てのデータもつことになる。そして、この時点で再度第22図の入賞判定処理が実行される。この判定処理の結果、入賞の場合にはそのゲーム開始時に得られていたヒットリクエストを減算し、メダル支払いのためのホッパーモータがONされる。」(同第7頁左欄第46行〜右欄第4行)、
「また、リールの処理は4コマずれを想定して説明してきたが、このためヒットリクエストに対応したシンボルが4コマずれの範囲内に存在しないこともあり得る。(特に大ヒットシンボルは少ないため、充分であり得る。)このような場合にはヒットリクエストを満足しない結果となってしまい、設定された入賞確率が低下することになり、特に大ヒットでその影響が大きくなる。これを適正化するために、ヒットリクエストが発生されながらも入賞なしとなった場合には、そのヒットリクエストが次回のゲームに持ち越され、再びこのヒットリクエストを用いてリールの停止制御が実行されるから、ペイアウト率が変わることはない。」(同第7頁右欄第14〜25行)、
「そして実際にリールが停止したときに、ヒットエリクエストが満足されないような絵柄の組み合わせになっているときには、そのヒットリクエストが次回以降のゲームに待ち越され、生かされるようになっているから、入賞が発生しにくくなることがなく、ペイアウト率を一定に維持することができ、遊技者に対してもゲームの意欲を失わせるようなことがない。」(同第8頁左欄第7〜14行)。
ii.訂正前の明細書の発明の詳細な説明における前記に摘示した事項及び前記訂正事項a乃至cに係る削除前の記載、並びに、関係する図面第5図、第11図及び第25図によれば、該明細書には、入賞が得られないときに当該リクエスト信号を次回のゲームまで保存する具体的実現手段として、リクエストカウンタを用いる実施例が記載されており、それ以外の実施例は記載されていない。
すなわち、訂正前の明細書には、発生した各ヒットリクエストに応じてフラグがセットされる該当エリアがRAM5に設定されること、及び、該当する各ヒットリクエストをカウントするリクエストカウンタがRAMに設定されることを前提にして、第11図に示されるリクエストカウンタの減算処理においては、ヒットリクエストが発生するとリクエストカウンタに「+1」の加算処理を行い、その後全てのリールが停止したときの入賞判定処理により、入賞が得られたときは当該リクエストカウンタに「-1」の減算処理を行い、入賞が得られないときは当該リクエストカウンタの減算処理を行わずにそのまま保存することが記載されており、また、第5図及び第25図に示されるヒットリクエストの減算処理においては、入賞の場合にはヒットリクエストを減算し、入賞でない場合にはヒットリクエストを減算しないことが記載されているところ、その減算処理の対象については明示的記載がないが、入賞の有無に応じてヒットリクエストを減算するという第11図と同様の処理を行うこと、減算処理とはカウンタの如き多数計数手段に対する処理をいう技術用語であることからしても、第5図及び第25図に示される減算処理は、いずれも、第11図と同様にリクエスト信号を次回のゲームまで保存するためにリクエストカウンタあるいは同機能のカウンタ(以下、「リクエストカウンタ」という。)を対象に行うものというべきである。
iii.そして、訂正前の明細書に記載の、発生した各ヒットリクエストに応じてフラグがセットされるRAM5の該当エリアは、当該ゲームにて発生したヒットリクエストの種類と有無に応じてゲームの展開を制御するためにセットされ、これに基づいてリクエストカウンタの加算処理、及びリクエスト信号に対応した種類の入賞が得られるようにリールの停止制御を行うために利用され、当該ゲームの終了後は、その役目を終えたものとして次回のゲームの前にリセット(クリア)される一時的な記憶手段として機能することに存在意義があることは明らかであるから、リクエストカウンタに対してヒットリクエストの減算処理を行う際に、RAM5の該当エリアにセットしたヒットリクエストのフラグの状態が関係するはずがないものである。
iv.以上のように、訂正前の明細書においては、入賞が得られないときに当該リクエスト信号を次回のゲームまで保存する手段は、リクエストカウンタによって実現されており、RAM5の該当エリアにセットしたヒットリクエストのフラグは、リクエスト信号を次回のゲームまで保存する手段とは無関係な構成である。

(3)訂正後の明細書に開示される具体的実現手段との対比判断
i.本件訂正は、リクエスト信号を次回のゲームまで保存する手段について、訂正前の明細書に係る訂正事項a乃至cの削除により、リクエストカウンタによりリクエスト信号を次回のゲームまで保存する実施例に関する記載と、第1リール及び第2リールの停止処理に伴うヒットリクエストの保存に関する記載を削除するとともに、訂正事項dの加入により、第25図に示されるヒットリクエストの減算処理に関する記載を追加するものであり、これにより、訂正後の明細書には、発生した各ヒットリクエストに応じてフラグがセットされるRAM5の該当エリアの存在を前提にして、第25図に示されるヒットリクエストの減算処理において、入賞が得られない場合はRAM5にセットした前記フラグをそのままとすることにより、リクエスト信号を次回のゲームまで保存する実現手段が開示されているとするものである。
ii.そこで、訂正後の明細書の記載事項である訂正事項dについて検討すると、ヒットリクエストの減算を行わない処理がRAM5の該当エリアにセットしたヒットリクエストのフラグをそのままとすることであるとする訂正は、訂正前の明細書及び第25図を含めた図面において、リクエストカウンタをもってリクエスト信号を次回のゲームまで保存することのみが一貫して記載されていることに反するものであって、しかも、RAM5の該当エリアにセットしたヒットリクエストのフラグは、リクエストカウンタとの関係ではこれに加算処理を行うために存在し、リクエスト信号を次回のゲームまで保存する手段とは無関係な構成であるから、「ヒットリクエスト減算」なる文言をことさら前記フラグと関係付けることは技術的必然性に欠けるものであって、訂正前の明細書及び図面に何ら記載されていない事項であり、また、訂正前の明細書または図面から自明な事項でもない。
iii.しかして、訂正事項dに係る本件訂正は、本件発明を構成する「リクエスト信号に対応した種類の入賞が得られないときに当該リクエスト信号を次回のゲームまで保存する手段」について、訂正前はリクエストカウンタで実現していたものを、訂正後は発生した各ヒットリクエストに応じてRAM5の該当エリアにセットされるフラグで実現するものであるから、特許請求の範囲に記載される本件発明を構成する技術的事項を別異の構成に変更するものであって、特許の設定登録時の明細書に記載した事項の範囲内で訂正するものではない。

3.無効理由1(訂正要件違反)の判断のまとめ
よって、本件訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内でしたものではないから、特許法第120条の4第3項で準用する同法第126条第2項の規定に違反するものであり、本件特許は、同法第123条第1項第8号の規定により無効とすべきものである。

C.無効理由3(分割及び進歩性要件違反)について
当審は、審判請求書における請求人の主張及び答弁書における被請求人の主張、並びに口頭審理における前記当事者双方の主張を踏まえて、本件発明を構成する「リクエスト信号に対応した種類の入賞が得られないときに当該リクエスト信号を次回のゲームまで保存する手段」を技術的に裏付ける具体的実現手段として示される、平成10年10月16日にした訂正事項dに記載されているヒットリクエストの保存に関する技術事項について、原出願の明細書及び図面第25図に記載されているヒットリクエストの減算処理に関する技術事項と対比して、分割出願の要件に適合するか否か検討判断し、しかして、本件出願の出願日を特定した上で、本件発明の進歩性について検討判断するものである。

1.本件発明に係る分割要件の適否の判断
(1)原出願に記載の発明
i.本件発明の原出願である特願昭58-61592号の出願当初の明細書及び図面を示す特開昭59-186580号公報(甲第11号証)には、以下の事項が記載されている。
「スタートレバーの操作により回転駆動される複数のリールと、これらのリールを停止させるリールストップ手段とを有するスロットマシンにおいて、前記リールの回転駆動後に、順次発生される乱数列から一つの乱数を特定するサンプリング手段と、前記特定された乱数が確率テーブル中のいかなる群に属するかを比較照合する手段と、前記比較照合の結果を入賞ランク別のリクエスト信号として出力するリクエスト発生手段と、前記リクエスト信号を評価し、前記リールのストップ位置を設定すると共に、前記リールストップ手段を制御するリールストップ制御手段とを備えたことを特徴とするスロットマシン。」(公開公報第1頁左下欄第6〜18行)、
「すべてのリールが停止した判断が得られるとゲーム終了となり、第5図のフローチャートに従って入賞判定処理、入賞の場合メダルの払い出し処理がなされる。・・・また入賞判定は、各リールのシンボルマークを前述のようなコード信号として、その組み合わせを後述のROMメモリと照合する。そして入賞している場合にはリクエスト減算処理、すなわち予め予定された入賞回数カウンタから-1の減算を行ったうえ、入賞メダル支払いのためのホッパーモータを駆動してメダルを払い出す。」(同第3頁左下欄第18行〜右下欄第16行)、
「また、RAM52にはゲーム開始後にサンプリングされる乱数値を一時的に保存するメモリ、およびヒットリクエストカウンタをストアするメモリあるいは後述するように、回転リールのコードナンバー、シンボルナンバーなどのデータを一時記憶するメモリなどが用意されている。」(同第4頁左上欄第10〜16行)、
「こうして任意時点でのゲーム開始後に特定の乱数値がサンプリングされ、前述の入賞確率テーブルと照合されてヒットリクエストが得られることになるが、さらにペイアウト率を一定にする意味でリクエストカウンタを設けてもよい。すなわち、前述した入賞確率テーブル中の数値それぞれに相当する数値をRAM上にストアしておき、該当したヒットリクエストが発生した際に、その数値に-1の減算処理を行なう。こうして特定のリクエストカウンタが“0”になると、それ以後の該当するヒットリクエストが発生してもこれが無効化され、ペイアウト率は一定に保たれることになる。これは例えば第11図に示したフローチャートにより処理される。」(同第5頁左下欄第14〜右下欄第7行)、
「さらにRAM5には得られたヒットに応じたエリア、すなわち大ヒットエリア5a、中ヒットエリア5b、小ヒットエリア5c、ヒットなしのエリア5dにフラグがセットされる。」(同第7頁左下欄第18〜右下欄第2行)、
「こうして第3リールがストップすると、第25図に示したフローチャートによる処理が実行される。すなわち、第3リールの停止により、窓に現れている全てのリールのシンボルマークが確定し、これで第14図に示した各RAMエリアが全てのデータをもつことになり、この時点で再度第22図の入賞判定処理が実行される。そして入賞の場合にはそのゲーム開始時に得られていたヒットリクエストを減算し、メダル支払いのためのホッパーモータがONされる。」(同第9頁左下欄第9〜18行)、
「また、リールの処理は4コマずれを想定して説明してきたが、このためヒットリクエストに対応したシンボルが4コマずれの範囲内に存在しないこともあり得る。(特に大ヒットシンボルは少ないため、充分あり得る。)このような場合にはヒットリクエストを満足しない結果となってしまい、設定された入賞確率が低下することになり、特に大ヒットでその影響が大きくなる。それを適正化するためには、ヒットリクエストが発生されながらも入賞なしとなった場合には、そのヒットリクエストを次回のゲームまで保存するようにすればよい。」(同第9頁右下欄第10行〜第10頁左上欄第1行)。
ii.これらの記載によれば、原出願の当初明細書及び図面には、第11図に関連して、ペイアウト率を一定に保つことを目的に、RAM上に大ヒットや中ヒット等の入賞の種類に該当する所定の数値のリクエストカウンタを設けておき、該当したヒットリクエストが発生した際にリクエストカウンタの数値に-1の減算処理を行ない、数値が“0”になると、それ以後の該当するヒットリクエストを無効化する発明が開示されるとともに、第5図及び第25図に関連して、ストップ操作等により全てのリールが停止した後の入賞判定処理において、入賞が得られた場合には、ヒットリクエストの減算、すなわち予め予定された入賞回数カウンタの数値に-1の減算処理を行う発明が開示されており、入賞回数カウンタあるいはリクエストカウンタによる発明が、いずれもペイアウト率を一定に保つことを目的に所定数値を越えて発生したヒットリクエストを無効化するものであることは明らかである。なお、第25図には入賞回数カウンタに関する明示的記載がないが、いずれもストップ操作等により全てのリールが停止した後の入賞判定処理として、第5図と同様の入賞回数カウンタが想定されることは技術的に明らかである。
iii.さらに、原出願の当初明細書及び図面には、前記したようなヒットリクエストカウンタあるいは入賞回数カウンタによりペイアウト率を一定に保つ発明に対して追加的な変形態様として、「ヒットリクエストが発生されながらも入賞なしとなった場合には、そのヒットリクエストを次回のゲームまで保存するようにすればよい」(公開公報第9頁右下欄第18行〜第10頁左上欄第1行)と記載されているところ、前記記載以上の説明はなく、しかも、前記変形態様は、それ以前に開示されるヒットリクエストカウンタあるいは入賞回数カウンタによりペイアウト率を一定に保つ技術事項と直接関係するものではなく、前記記載により初めて開示される技術事項である。
iv.ここで、前記2つの技術事項の関係について検討すると、ヒットリクエストカウンタあるいは入賞回数カウンタによりペイアウト率を一定に保つ技術事項は、複数ゲームに亘って得られる入賞回数の上限を規制するために、所定の上限値を設定してそれ以上に発生したヒットリクエストを無効化するものであるのに対して、入賞なしの場合にヒットリクエストを次回のゲームまで保存する手段を設けて設定された入賞確率が低下しないようにする技術事項は、複数ゲームに亘って得られる入賞回数の下限をある程度保証するために、発生したヒットリクエストを次回のゲームまで保存するものであるから、この2つの技術事項の技術的意義は別異のものである。
v.以上によれば、原出願の当初明細書及び図面には、入賞なしの場合にヒットリクエストを次回のゲームまで保存する技術事項自体は、開示されているものと認められる。

(2)本件分割出願に記載の訂正後の本件発明との対比判断
i.本件分割出願に係る訂正後の本件発明は、「リクエスト信号に対応した種類の入賞が得られないときに当該リクエスト信号を次回のゲームまで保存する手段」について、特許の設定登録時の明細書の発明の詳細な説明の欄に記載(特許公報第6頁左欄第8〜12行)される、発生した各ヒットリクエストに応じてRAM5の該当エリアにヒットリクエストのフラグがセットされるという技術事項に関連付けて、訂正事項dをもって、入賞が得られない場合はヒットリクエストの減算は行わないという処理により、RAM5の該当エリアにセットしたヒットリクエストのフラグをそのままとすることにより、リクエスト信号を次回のゲームまで保存する具体的実現手段が第25図に開示されているとするものである。
ii.そこで、前記訂正事項dについて、本件分割出願に係る訂正後の本件発明が原出願に基づく分割要件に適合するか否かについて検討すると、本件分割出願においては、訂正後の本件発明を構成するリクエスト信号を次回のゲームまで保存する手段が第25図に開示されているとするが、前記C.1.(1)にて検討したように、原出願の当初明細書及び第25図には、入賞の場合にはヒットリクエスト減算として、その存在が想定される入賞回数カウンタの減算処理を行い、入賞でない場合にはヒットリクエスト減算を行わないとして入賞回数カウンタの減算処理を行わないようにした技術事項が開示されており、その技術的意義は、入賞回数カウンタに対するヒットリクエストの減算処理によって入賞回数の上限を規制することにあるから、そこには、ヒットリクエストの減算処理として、前記技術的意義を達成するのに不可欠な構成としての入賞回数カウンタを対象に処理することのみが記載されているとみるのが妥当であって、前記訂正事項dに示される如き、設定された入賞確率が低下することなく、ペイアウト率に変動をきたさないようにするという別の技術的意義を達成する構成としての、RAM5の該当エリアにセットしたヒットリクエストのフラグを対象に処理することは何ら記載されていないというべきである。
しかも、原出願の当初明細書においては、図面第25図を含めて入賞回数カウンタ等により入賞回数の上限を規制することでペイアウト率を一定に保つ実施例を一貫して開示した後に、前記実施例とは技術的に異質な、設定された入賞確率が低下しないようにヒットリクエストを次回のゲームまで保存する変形態様があることを記載するものというべきであるから、該変形態様が既に図面第25図に関連する実施例に開示されているとすることは論理的に説明がつかないし、また、図面第25図に関連するヒットリクエスト減算を変形態様の説明と仮定すると、本来の実施例をゲームの流れに沿って開示する明細書の記載において当然あるべき入賞回数カウンタの減算処理に対応する説明が欠落してしまうことになり不合理である。
すなわち、訂正後の本件発明は、原出願の当初明細書及び図面に記載された事項ではない。
iii.また、原出願に開示されるスロットマシンは、発生したリクエスト信号に対応した種類の入賞が得られるようにリールを停止制御するとともに、発生したリクエストに伴う入賞回数を規制するものであるからして、発生したリクエストを当該ゲーム中に参照するためにリクエストの種類と有無を記憶する何らかのリクエスト記憶手段を具備することは自明ともいえるが、該リクエスト記憶手段は、当該ゲーム中においてのみ本来の存在意義があるから、原出願の当初明細書に追加的な変形態様として記載される、ヒットリクエストを次回のゲームまで保存する技術事項に基づいて、訂正事項dに記載されるようにフラグにより次回のゲームまでリクエストを保存するリクエスト保存手段を構築することは、別の課題に基づく新たな技術思想の創作というべきであって、当業者が原出願の当初明細書に基づいて当然理解するものとはいえず、また、次回のゲームまでリクエストを保存するという技術思想が周知の事項であるとする証拠も見あたらない。
iv.したがって、原出願の当初明細書及び図面第25図に記載されているヒットリクエストの減算処理に係る技術事項は、入賞回数カウンタを対象とする処理をいうのであって、本件分割出願に係る訂正事項dに記載されるごとき、RAM5の該当エリアにセットしたヒットリクエストのフラグを対象とする処理をいうのではなく、本件出願に係る訂正後の本件発明は、原出願の当初明細書又は図面に記載された事項に基づくものでないから、本件出願は、前記原出願に基づく適法な分割出願とは認められない。
v.しかも、本件発明に規定される「リクエスト信号に対応した種類の入賞が得られないときに当該リクエスト信号を次回のゲームまで保存する手段」の技術内容(技術的範囲)について検討すると、分割出願である本件発明に係る特許明細書には、前記A.2.(2)i.に摘示したように、「作用」及び「発明の効果」の項にリクエスト信号に基づく入賞が得られないときには当該リクエスト信号が次回以降のゲームに持ち越される旨が記載されているところ、これは、リクエスト信号を入賞が得られるまで次回以降のゲームまで保存することを本件発明の技術的事項とするものである。
一方、原出願の当初明細書の記載によれば、発生したリクエスト信号は、次回のゲームまで保存されるにとどまるものである。
そうすると、本件発明に規定される前記「・・・保存する手段」は、特許明細書の「作用」及び「発明の効果」の項に記載される如き、入賞が得られるまでリクエスト信号を次回以降のゲームまで保存する前記技術的事項を実質的に包含するから、原出願の当初明細書に記載された事項に基づくものにとどまらず、記載された事項の範囲を超える技術内容をも含むものである。

(3)原出願の補正日を本件分割出願日とする被請求人の主張について
i.被請求人は、明細書の補正と要旨変更を規定する平成5年改正前特許法第40条、及び、特許出願の分割を規定する同第44条によれば、原出願の昭和58年6月6日付け手続補正書による補正が発明の要旨を変更する補正ということになると、原出願の出願日は前記手続補正書の提出日に繰り下がることになるところ、訂正事項dにかかる実施形態は前記手続補正書による補正と同一であるから、前記手続補正書を本件分割出願の基準明細書等とすれば、本件出願日は昭和58年6月6日となる旨、主張する。
ii.しかしながら、分割出願が原出願の時にしたものとみなされるためには、分割出願にかかる発明の要旨とする技術的事項のすべてが、原出願の願書に添付した当初明細書又は図面に記載されていることを要するというべきであるから(最高裁判所昭和49年(行ツ)第2号昭和53年3月28日判決、東京高等裁判所昭和63年(行ケ)第19号平成元年2月28日判決参照)、被請求人の前記主張は、特許法第44条の解釈を誤るものであって失当である。
iii.また、原出願に係る特許の出願日は、その当初明細書をもって出願がなされた昭和58年4月8日として現在確定しているとともに、原出願の昭和58年6月6日付け手続補正書による補正事項は、本件分割出願に係る当初明細書及び設定登録時の特許明細書に記載される事項であったが、平成10年1月30日及び平成10年10月16日の訂正請求に係る訂正事項aにより該特許明細書から前記補正事項が削除されたことで、本件分割出願の特許明細書に原出願の当初明細書に記載のない前記補正事項が記載されていることをもって本件出願日が昭和58年6月6日に繰り下がる論拠とする記載が訂正後の特許明細書において既に喪失しているものであり、しかも、分割要件の適否の判断対象である訂正事項dは、訂正事項aによる前記補正事項の削除と並んで、新たに明細書を加入訂正するものであって、その訂正内容は、前記補正事項の内容と同一視できない別異の技術事項である。
iv.よって、被請求人の前記主張は、特許法第44条に規定する分割出願の要件に適合しないものであるとともに、訂正後の本件特許明細書に記載のない技術事項を根拠にするものであるから、いずれにしても失当である。

(4)本件出願の分割要件の適否と出願日の判断のまとめ
以上のとおり、本件発明は、原出願の当初明細書又は図面に記載された事項に基づくものではなく、本件出願は、原出願に基づく適法な分割出願とは認められず、特許法第44条の規定に適合しないから、その出願日は、原出願の出願日に遡及せず、現実の出願日である平成2年1月27日である。

2.本件発明の進歩性要件(特許法第29条第2項適用)に係る判断
前記のように、本件発明に係る出願日は、平成2年1月27日である。
(1)引用発明
i.本件出願の出願前の昭和59年10月23日に公開された刊行物である特開昭59-186580号公報(甲第11号証)には、前記C.1.(1)i.に摘示した事項が記載されている。
ii.前記刊行物における前記摘示の記載及び図面第1乃至26図によれば、該刊行物には、以下の発明(以下、「引用発明」という)が記載されているものと認められる。
「1.スタートレバーの操作により回転される複数のリールを備え、これらのリールが停止したときに表示窓に現れたシンボルマークの組み合わせで入賞の有無を表示するスロットマシンにおいて、
1ゲームごとに乱数をサンプリングし、サンプリングされた乱数に対応して複数種類の入賞のうちのいずれかを決め、その入賞の種類に応じたヒットリクエスト信号を発生するリクエスト発生手段と、このヒットリクエスト信号に基づいてヒットリクエスト信号に対応した種類の入賞が得られるように前記リールを停止制御するリールストップ制御手段と、リールストップ制御手段によりリールが停止した後にリールの停止位置を読み取り、前記ヒットリクエスト信号に対応した種類の入賞が得られたか否かを判定する入賞判定手段と、前記ヒットリクエスト信号に対応した種類の入賞が得られないときに当該ヒットリクエスト信号を次回のゲームまで保存する手段とを備えたスロットマシン。」

(2)本件発明と引用発明との対比
i.本件発明と引用発明とを対比すると、引用発明における、「スタートレバー」、「シンボルマーク」、「ヒットリクエスト信号」は、それぞれ、本件発明における、「スタート手段」、「絵柄」、「リクエスト信号」に相当する。
また、引用発明における「入賞判定手段」は、第22図及び第25図に示される入賞判定処理において、第15図の入賞シンボルテーブルを用いて入賞の有無と種類に応じて、入賞回数の上限を示す所定数値からのヒットリクエストの減算処理と支払いメダル数をセットする処理とを行うために存在する手段であるのに対して、本件発明の「判定手段」は、どのリクエスト信号に対応した種類の入賞が得られたかに応じて、入賞確率が低下しないようにリクエスト信号を次回のゲームまで保存する手段が制御動作を行うために存在する手段であるから、両者は、判定手段からの出力に基づいて制御動作を行う処理手段を異にするものの、いずれも「リクエスト信号に対応した種類の入賞が得られたか否かを判定する判定手段」において一致する。
ii.そうすると、本件発明と引用発明の両者は、以下の点で相違することを除き、その余の点で一致するものと認められる。
相違点.リクエスト信号に対応した種類の入賞が得られないときに当該リクエスト信号を次回のゲームまで保存する手段が、本件発明では、「リクエスト信号に対応した種類の入賞が得られたか否かを判定する判定手段」に基づいて制御されるのに対して、引用発明では、「該判定手段」との制御関係が明らかでない点。

(3)相違点の検討
i.引用発明において、「リクエスト信号に対応した種類の入賞が得られないときに当該リクエスト信号を次回のゲームまで保存する手段」が機能するためには、その前提構成として、既に存在する「リクエスト信号に対応した種類の入賞が得られたか否かを判定する判定手段」と制御関係を構築する必要があることからすれば、該判定手段と前記「・・・保存する手段」との間に制御関係を構築して、前記相違点に係る本件発明のように構成することは、当業者が容易に想到できるものである。
ii.また、「リクエスト信号に対応した種類の入賞が得られたか否かを判定する判定手段により、リクエスト信号に対応した種類の入賞が得られないときに当該リクエスト信号を次回のゲームまで保存する手段」については、甲第12号証〔特開平1-198584号公報〕に開示されているから、引用発明に甲第12号証に記載の発明を適用して、前記相違点にかかる本件発明を構成することは、当業者が容易に想到できるものである。
iii.そして、本件発明の作用効果は、引用発明及び甲第12号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に予測できるものである。

(4)本件発明の進歩性要件の判断のまとめ
以上のとおり、本件発明は、その出願日前に頒布された刊行物である甲第11号証に記載された発明(引用発明)、あるいは甲第11号証に記載された発明(引用発明)と甲第12号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

3.無効理由3(分割及び進歩性要件違反)の判断のまとめ
よって、本件発明は、その出願が分割の要件を満たさないため、出願日が現実の出願日である平成2年1月27日に繰り下がり、その出願日前に頒布された刊行物である甲第11号証及び甲第12号証に記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許は、同法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきものである。

第5.無効2002-35391に係る総括
以上のとおりであるから、本件訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内でしたものではないから、特許法第120条の4第3項で準用する同法第126条第2項の規定に違反するものであり、本件特許は、同法第123条第1項第8号の規定に該当し、また、本件発明は、その出願が分割の要件を満たさないため、出願日が現実の出願日である平成2年1月27日に繰り下がり、その出願日前に頒布された刊行物である甲第11号証及び甲第12号証に記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであって、本件特許は、同法第123条第1項第2号の規定に該当するから、その余の無効理由について判断するまでもなく、無効にすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。

第6.無効2002-35443に係る当事者の求めた審判
1.請求人の主張
請求人サミー株式会社は、審判請求書において、下記の甲第1号証乃至甲第13号証を提出して、特許第2574912号の特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求めることを請求の趣旨とし、本件発明の特許を無効とすべき理由として、次のように主張する。
A.無効理由1(訂正要件違反)
本件発明の特許明細書は、特許法第120条の4第3項で準用する同法第126条第2項の規定に違反する訂正をしたので、本件発明の特許は、同法第123条第1項第8号の規定により無効とすべきである。
B.無効理由2(明細書記載要件違反)
本件発明の特許は、目的、効果達成のための発明の構成に欠くことができない事項の構成が不明であり、原出願の出願日において施行されている昭和50年改正特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、本件発明の特許は、同法第123条第1項第4号の規定により無効とすべきである。
C.無効理由3(分割及び新規性進歩性要件違反)
本件分割出願は、原出願に対して、分割の要件を満たしていないので、出願日が現実の出願日で判断される結果、原出願の公開公報(甲第3号証)記載の事項その他の先行技術(甲第7,11,12,13号証)により、特許法第29条第1項第3号または同条第2項に該当するから、本件発明の特許は、同法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきである。

甲第1号証 :平成10年10月16日提出の全文訂正明細書の写し
甲第2号証 :特許第2574912号原簿
甲第3号証 :特開昭59-186580号公報(原出願の公開公報)
甲第4号証 :原出願の平成2年1月26日提出の意見書
甲第5号証 :原出願の平成5年1月11日提出の特許異議答弁書
甲第6号証 :原出願に対する無効審判請求の審決
甲第7号証 :特開平1-198584号公報
甲第8号証 :平成11年12月28日付け特許異議決定謄本
甲第9号証 :平成10年10月16日提出の手続補正書
甲第10号証:平成10年10月16日提出の特許異議意見書
甲第11号証:特開昭62-127086号公報
甲第12号証:特開昭60-148575号公報
甲第13号証の1:「パチスロ大図鑑2001 回胴式遊技機歴史総覧」 (株)白夜書房2001年5月12日発行、
表紙、第7,18,19、23,32頁、奧付
甲第13号証の2:「パチンコ・パチスロ攻略情報2」、
(株)22世紀社1989年12月15日初版発行、
表紙、第56〜71頁、奧付

2.被請求人の主張
被請求人アルゼ株式会社は、答弁書において、下記の乙第1号証乃至乙第5号証を提出して、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、無効理由は存在しない旨、次のように主張する。
A.無効理由1(訂正要件違反)について
平成10年10月16日にした訂正(訂正請求書の補正)は訂正要件を具備するため、特許法第123条第1項第8号の無効理由は存在しない。
B.無効理由2(明細書記載要件違反)について
本件明細書に請求人指摘の記載不備はなく、特許法第36条第4項に違反するとの同法第123条第1項第4号の無効理由は存在しない。
C.無効理由3(分割及び新規性進歩性要件違反)について
本件発明の特許は分割要件を具備し、出願日は原出願日の昭和58年4月8日に遡及するから、出願日の遡及がないことを前提とする昭和58年4月8日の後に頒布された甲3,7,11,12、13号証は、新規性又は進歩性を否定する公知資料たり得ず、特許法第29条第1項又は第2項に違反するとの同法第123条第1項第2号の無効理由は存在しない。
また、原出願の当初明細書等を本件分割出願の基準明細書等とする上記主張が成り立たないとしても、原出願の昭和58年6月6日付け手続補正書を本件分割出願の基準明細書等とすれば、本件発明の出願日は、昭和58年6月6日〔平成5年改正前特許法第40条及び第44条〕となり、昭和59年10月23日に公開された原出願の公開公報(甲第11号証:特開昭59-186580号公報)は本件発明の特許性に関する公知文献たりえず、これによって進歩性を阻却されることはない。

乙第1号証:実例でみる特許・実用新案「審査基準の解説」吉嶺桂著、
昭和59年10月30日、発明協会発行、p182〜239
乙第2号証:「審判便覧」特許庁審判部編、改訂第8版、
平成12年9月29日、発明協会発行、
訂正の審判54-01(1〜5)、54-10(1〜12)
乙第3号証:特開平2-232084号公報
乙第4号証:平成7年7月6日付け手続補正書
乙第5号証:平成11年6月23日付け更正決定

第7.無効2002-35443に係る当審の判断
C.無効理由3(分割及び新規性進歩性要件違反)について
当審は、併合審理とされた無効2002-35391と同様に、審判請求書における請求人の主張及び答弁書における被請求人の主張、並びに口頭審理における前記当事者双方の主張を踏まえて、本件発明を構成する「リクエスト信号に対応した種類の入賞が得られないときに当該リクエスト信号を次回のゲームまで保存する手段」を技術的に裏付ける具体的実現手段として示される、平成10年10月16日にした訂正事項dに記載されているヒットリクエストの保存に関する技術事項について、原出願の明細書及び図面第25図に記載されているヒットリクエストの減算処理に関する技術事項と対比して、分割出願の要件に適合するか否か検討判断し、しかして、本件出願の出願日を特定した上で、本件発明の新規性又は進歩性について検討判断するものである。

1.本件発明に係る分割要件の適否の判断
(1)原出願に記載の発明
本件発明の原出願である特願昭58-61592号の出願当初の明細書及び図面を示す特開昭59-186580号公報(甲第3号証:併合審理とされた無効2002-35391における甲第11号証)の記載事項については、本審決において併合審理とされた無効2002-35391におけるものと同じであるから、それを援用する。

(2)本件出願の分割要件の適否と出願日の判断
分割要件の適否の判断は、本審決において併合審理とされた無効2002-35391における、(2)本件分割出願に記載の訂正後の本件発明との対比判断と同じであるから、それを援用する。
また、原出願の補正日を本件分割出願日とする被請求人の主張についての判断も、併合審理とされた無効2002-35391におけるものと同じであるから、それを援用する。
よって、本件発明は、原出願の当初明細書又は図面に記載された事項に基づくものではなく、本件出願は、前記原出願に基づく適法な分割出願とは認められず、特許法第44条の規定に適合しないから、その出願日は、原出願の出願日に遡及せず、現実の出願日である平成2年1月27日である。

2.本件発明の進歩性要件(特許法第29条第2項適用)に係る判断
(1)引用発明
本件出願の出願前の昭和59年10月23日に公開された刊行物である特開昭59-186580号公報(甲第3号証:同じく甲第11号証)に基づく引用発明の認定は、併合審理とされた無効2002-35391におけるものと同じであるから、それを援用する。
(2)本件発明の進歩性要件の判断
本件発明と引用発明とを対比して認定した相違点を検討したことによる本件発明の進歩性要件の判断は、併合審理とされた無効2002-35391における、(2)本件発明と引用発明との対比、及び(3)相違点の検討と同じであるから、それを援用する。ここで、併合審理とされた無効2002-35391における相違点の検討にて引用した甲第12号証〔特開平1-198584号公報〕は、本審決の甲第7号証に相当する。
よって、本件発明は、その出願日である平成2年1月27日より前に頒布された刊行物である甲第3号証及び甲第7号証に記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

第8.無効2002-35443に係る総括
以上のとおりであるから、本件発明は、その出願が分割の要件を満たさないため、出願日が現実の出願日である平成2年1月27日に繰り下がり、その出願日前に頒布された刊行物である甲第3号証及び甲第7号証に記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであって、本件特許は、同法第123条第1項第2号の規定に該当するから、その余の無効理由について判断するまでもなく、無効にすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2003-10-10 
結審通知日 2003-10-16 
審決日 2003-11-17 
出願番号 特願平2-16440
審決分類 P 1 112・ 121- Z (A63F)
P 1 112・ 841- Z (A63F)
P 1 112・ 531- Z (A63F)
P 1 112・ 831- Z (A63F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 小暮 与作小泉 順彦神 悦彦  
特許庁審判長 二宮 千久
特許庁審判官 中村 和夫
村山 隆
登録日 1996-10-24 
登録番号 特許第2574912号(P2574912)
発明の名称 スロットマシン  
代理人 振角 正一  
代理人 吉田 正芳  
代理人 梁瀬 右司  
代理人 黒田 博道  
代理人 堀田 誠  
代理人 松本 司  
代理人 岩坪 哲  
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