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審決分類 |
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備 E03F 審判 全部無効 特29条特許要件(新規) E03F 審判 全部無効 2項進歩性 E03F |
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管理番号 | 1119977 |
審判番号 | 無効2004-80215 |
総通号数 | 69 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2002-08-23 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2004-11-04 |
確定日 | 2005-05-30 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第3515961号発明「コンクリートブロックの設置方法及び設置器具」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件特許第3515961号(以下、「本件特許」という。)の出願は、平成13年2月8日に特許出願された特願2001-31807号(以下、「本願特許出願」という。)であって、その請求項1ないし請求項6に係る発明について平成16年1月23日に設定登録され、その後の平成16年11月4日に、前記本件特許の請求項1ないし請求項6に係る発明の特許に対して、本件無効審判請求人安藤建設株式会社及びジオスター株式会社(以下、「請求人」という。)により本件無効審判〔無効2004-80215〕が請求されたものであり、本件無効審判被請求人奥田智一及び藤原孝志(以下、「被請求人」という。)により指定期間内の平成17年1月27日付けの審判事件答弁書及び訂正請求書が提出され、さらに、前記請求人により平成17年3月6日付けの審判事件弁駁書が提出されたものである。 第2 当事者の主張 1.請求人の主張 請求人は、下記の証拠方法を提示して、 「1.特許第3515961号を無効とする、 2.審判費用は被請求人の負担とする、 との審決を求める。」と主張する。 そして、その無効理由の概略は、次のとおりである。 無効理由1:本件の請求項1、請求項3、請求項4及び請求項6に係る各特許発明は、本願特許出願前に頒布された甲第1号証刊行物ないし甲第5号証刊行物に記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定より特許を受けることができないものであるから、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。 無効理由2:本件の請求項2及び請求項5に係る各特許発明は、甲第6号証ないし甲第8号証に記載された技術的内容及び当業者の技術的見地から判断して、技術的妥当性を欠き、発明の目的たる効果を奏することができず、特許法第29条第1項柱書きの「発明」にあたらないものであり、その特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。 無効理由3:仮に、上記「無効理由2」の主張が認められないとしても、本件の請求項2及び請求項5に記載の発明特定事項のうち「水糊」について、発明の詳細な説明には、その組成、具体的材料、具体的商品名等が記載されておらず、かつ、当業者がたとえ甲第6号証ないし甲第8号証に記載された技術的内容及び当業者の技術的知見を得ていたとしても、請求項2及び請求項5に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないものであり、本件特許は、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。 無効理由4:仮に、上記「無効理由2」の主張が認められないとしても、さらに、発明の詳細な説明において、「水糊」の記載が削除、訂正された場合には、「粘着剤」について、発明の詳細な説明には、その組成、具体的材料、具体的商品名等が記載されておらず、かつ、当業者がたとえ甲第6号証ないし甲第8号証に記載された技術的内容及び当業者の技術的知見を得ていたとしても、請求項1及び請求項4に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないことになるから、請求項1及び請求項4に記載された発明特定事項のうち「粘着剤」について、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないことになり、本件特許は、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものとなる。 記 甲第1号証刊行物:特開2000-273938号公報 甲第2号証刊行物:特開昭60-209413号公報 甲第3号証刊行物:特許第2620494号公報 甲第4号証刊行物:特許第2879021号公報 甲第5号証刊行物:特開平6-115651号公報 甲第6号証刊行物:化学大辞典編集委員会編『化学大辞典 6』の第935頁「のり 糊」の項、共立出版株式会社、1993年6月1日発行 甲第7号証刊行物:本山卓彦/永田宏二共著『新素材活用シリーズ 接着剤』の第7〜11頁、第48〜49頁、第68〜69頁、株式会社工業調査会、1988年10月1日発行 甲第8号証刊行物:北崎寧昭・斎藤次雄著『初歩から学ぶ粘着剤』の第16〜17頁、株式会社工業調査会、2001年5月20日発行 2.被請求人の主張 被請求人は、その審判事件答弁書において、「本件無効審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする。との審決を求める。」と主張するとともに、請求人の前記主張に対し、前記審判事件答弁書と同日付けの訂正請求書を提出して「本件明細書を訂正したので、本件特許の請求項2及び請求項5に係る発明の内容がより一層明確になったものと考える。」と主張し、さらに「本特許発明は、甲第1号証から甲第3号証に基づく特許法第29条第2項の規定に該当するものではなく、又、本件発明は甲第6号証から甲第8号証に基づいた特許法第29条柱書の規定に該当しないものではなく、更に本特許発明は特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないものではない。」旨を主張する。 第3 訂正請求の適否についての判断 被請求人は、前述したように、平成17年1月27日付け審判事件答弁書と同日付けの訂正請求書を提出しているので、先ず、この訂正請求の適否について検討する。 1.訂正請求の時期的制限についての検討 本件訂正請求は、平成15年改正特許法第134条第1項の規定に基いて無効審判請求書副本を発送した日である平成16年12月2日から60日の指定された期間内である平成17年1月27日に提出されたものであるから、本件訂正請求は、同法第134条の2第1項本文に規定されている時期的制限を満たすものである。 2.訂正請求の内容 被請求人は、前記訂正請求により、願書に添付した明細書(以下、「特許明細書」という。)を前記訂正請求書に添付した訂正明細書に記載したとおりの次の内容の訂正を請求するものである。 ・[訂正事項a]:特許明細書の特許請求の範囲の請求項2の 「【請求項2】前記粘着剤は水糊であり、前記第1平板及び前記第2平板の各々は鉄板よりなる、請求項1記載のコンクリートブロックの設置方法。」の記載を、 「【請求項2】前記粘着剤は粘着性を有する水糊であり、前記第1平板及び前記第2平板の各々は鉄板よりなる、請求項1記載のコンクリートブロックの設置方法。」と訂正する。 ・[訂正事項b]:特許明細書の特許請求の範囲の請求項5の 「【請求項5】前記粘着剤は水糊であり、前記第1平板及び前記第2平板の各々は鉄板よりなる、請求項4記載の設置器具。」の記載を、 「【請求項5】前記粘着剤は粘着性を有する水糊であり、前記第1平板及び前記第2平板の各々は鉄板よりなる、請求項4記載の設置器具。」と訂正する。 ・[訂正事項c]:特許明細書の段落【0012】の 「請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明の構成において、粘着剤は水糊であり、第1平板及び第2平板の各々は鉄板よりなるものである。」の記載を、 「請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明の構成において、粘着剤は粘着性を有する水糊であり、第1平板及び第2平板の各々は鉄板よりなるものである。」と訂正する。 ・[訂正事項d]:特許明細書の段落【0018】の 「請求項5記載の発明は、請求項4記載の発明の構成において、粘着剤は水糊であり、第1平板及び第2平板の各々は鉄板よりなるものである。」の記載を、 「請求項5記載の発明は、請求項4記載の発明の構成において、粘着剤は粘着性を有する水糊であり、第1平板及び第2平板の各々は鉄板よりなるものである。」と訂正する。 3.訂正請求の目的の適否についての検討 [訂正事項a]の訂正は、請求項2における「粘着剤は水糊であり」の発明特定事項を、「粘着剤は粘着性を有する水糊であり」と限定することを目的とする訂正であるから、平成15年改正特許法第134条の2第1項ただし書第1号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正に該当する。 [訂正事項b]の訂正は、請求項5における「粘着剤は水糊であり」の発明特定事項を、「粘着剤は粘着性を有する水糊であり」と限定することを目的とする訂正であるから、同法第134条の2第1項ただし書第1号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正に該当する。 [訂正事項c]の訂正は、特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0012】の記載を、請求項2における前記[訂正事項a]の訂正に整合させるための訂正であるから、同法第134条の2第1項ただし書第3号の「明りようでない記載の釈明」を目的とする訂正に該当する。 [訂正事項d]の訂正は、特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0018】の記載を、請求項5における前記[訂正事項b]の訂正に整合させるための訂正であるから、同法第134条の2第1項ただし書第3号の「明りようでない記載の釈明」を目的とする訂正に該当する。 したがって、上記[訂正事項a]ないし[訂正事項d]の訂正は、上記のとおり、平成15年改正特許法第134条の2第1項ただし書に掲げるいずれかの事項を目的としているから、同法第134条の2第1項ただし書の規定に適合する。 4.新規事項の存否についての検討 上記[訂正事項a]ないし[訂正事項d]における特許明細書及び特許請求の範囲の訂正は、特許明細書及び特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてした訂正であるから、平成15年改正特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第3項の規定に適合する。 5.実質上変更・拡張の有無についての検討 上記[訂正事項a]ないし[訂正事項d]における特許明細書及び特許請求の範囲の訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないから、平成15年改正特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に適合する。 6.むすび 以上のとおりであり、本件訂正請求は、平成15年改正特許法第134条の2第1項並びに同条第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するので、本件訂正請求を認める。 なお、本件無効審判請求は、その請求の対象が特許明細書の全請求項の請求項1ないし請求項6に係る発明の特許に対して請求されているのであり、平成15年改正特許法第134条の2第5項において読み替えて適用される同法第126条第5項に「この場合において、第126条第5項中『第1項ただし書第1号又は第2号』とあるのは、『特許無効審判の請求がされていない請求項に係る第1項ただし書第1号又は第2号』と読み替えるものとする。」と規定されていることにより、本件の訂正請求の適否の検討においては、平成15年改正特許法第134条の2第5項において読み替えて準用する同法第126条第5項に規定されている、いわゆる「独立特許要件の有無」についての検討を要しないことを、念のために付言しておく。 第4 本件特許の請求項1ないし請求項6に係る発明 特許明細書における特許請求の範囲が、平成17年1月27日付けの訂正請求により訂正されたので、本件特許の請求項1ないし請求項6に係る発明(以下、これらを、請求項の順に「本件発明1」ないし「本件発明6」という。)は、平成17年1月27日付けの訂正請求書に添付した訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし請求項6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】コンクリートブロックの設置方法であって、基礎コンクリート上の所定位置に平面板状の第1平板を設置する工程と、前記第1平板上に粘着剤を形成する工程と、前記粘着剤上に複数の微細球体又は粒状の鋼球よりなる硬球を落下させ、前記硬球を前記粘着剤に保持させる工程と、前記保持された硬球の上に、平面板状の第2平板を設置する工程と、前記第2平板の上にコンクリートブロックを載置し、ほぼ水平方向に移動させる工程とを備えた、コンクリートブロックの設置方法。 【請求項2】前記粘着剤は粘着性を有する水糊であり、前記第1平板及び前記第2平板の各々は鉄板よりなる、請求項1記載のコンクリートブロックの設置方法。 【請求項3】前記コンクリートブロックはプレキャストコンクリートブロックであり、前記移動されたコンクリートブロックの下部と前記基礎コンクリートの上面との間にコンクリート又はモルタルを流し込む工程を更に備えた、請求項1又は請求項2に記載のコンクリートブロックの設置方法。 【請求項4】コンクリートブロックの設置に用いられる設置器具であって、平面板状の第1平板と、前記第1平板上に形成された粘着剤と、前記形成された粘着剤に散布させることによって保持された複数の微細球体又は粒状の鋼球よりなる硬球と、前記保持された硬球の上に設置され、前記第1平板と対向するように位置する平面板状の第2平板とを備えた、設置器具。 【請求項5】前記粘着剤は粘着性を有する水糊であり、前記第1平板及び前記第2平板の各々は鉄板よりなる、請求項4記載の設置器具。 【請求項6】前記第2平板の前記第1平板に対する水平方向の移動を所定範囲に制限する制限手段を更に備えた、請求項5記載の設置器具。」 第5 当審の判断 1.無効理由1について (1)甲号証各刊行物の記載事項 ア.甲第1号証刊行物の記載事項 本件の特許出願前に頒布された甲第1号証刊行物には、「プレキャストコンクリートブロック」に関し、図面の図示とともに次の技術事項が記載されている。 「【0002】【従来の技術】都市部の下水道工事などにおいては、鋼矢板等の山留め壁で支保され、所定の地盤面まで掘削された開削トンネル内の搬入口からプレキャストコンクリート製の単位長さの暗渠ブロック(ボックスカルバート等)を開削トンネル底部の基礎コンクリート上に吊り込み、基礎コンクリート上に敷設された一対のガイドレールに沿って暗渠ブロックをウインチ・ワイヤ方式などによる駆動装置で移送し、据付け位置に順次設置固定して連続した暗渠を構築する横引き工法が採用されている。 【0003】このような横引き工法においては、図6に示すように、ボックスカルバート等のプレキャストコンクリートブロック1の底版1aの下面と、H形鋼等のガイドレール2との間にベアリングボール(鋼球)3や円筒ローラー4を配設し、横引き時の摩擦を低減するようにしたボックスベアリング方式が採用されており、従来のボックスベアリングでは、図6(a)に示すように、ブロック1の底版下面にガイドレール2(H形鋼等)の凹溝2a内に挿入される厚鋼板からなる突起50を突設し、あるいは図6(b)に示すように、ブロック1の底版下面にガイドレール2(鉄道レール状等)の上部が挿入される埋込み金具による切り込み51を設けていた。」 「【0011】ガイドレール2は、H形鋼を基礎コンクリート11内に埋設することにより、ウェブと平行フランジの上部により凹溝2aが形成され、この凹溝2aの底面(ウェブ上面)にベアリングボール(鋼球)3を多数敷き並べる。なお、ガイドレール2は、これに限らず、図6(b)に示すように、鉄道レール形状のレールを使用し、このレールの頭部両サイドにガイドバー(棒鋼や平鋼等)を溶接等で固定して凹溝2aを形成したもの等でもよい。また、転動体はベアリングボールに限らず、円筒ローラー等でもよい。 【0012】突起5は、底面がベアリングボール3等の上に載置され、両側面がガイドレール2の両側壁(フランジ内側面)に当接するため、リップ付きチャンネル材形状の鋼板6で底面と両側面を覆い、必要に応じてレール長手方向の両端面も覆い、突起5のコンクリートが欠損したりしないようにする。また、鋼板6はウェブ6aと左右のフランジ6bと左右の突出片(リップ片)6cから構成され、左右の突出片6cがコンクリート中に差し込まれことで、突起5と鋼板6とを一体化させることができる。さらに、ボックスカルバート1の製作時に外型枠に鋼板6を取付け、必要な配筋をした後にコンクリートを流し込むことにより、鋼板6が突起5の型枠になると共に、突起5および鋼板6がボックスカルバート1-1と一体化する。」 「【0019】(1)開削トンネル10内の底部に施工された基礎コンクリート11上に2本のガイドレール2を敷設し、このガイドレール2の凹溝内にベアリングボール3を多数敷き並べる。 【0020】(2)図5(a)の側面図において、履工板12に形成された搬入口13から単位長さのボックスカルバート1-1をクレーン14を用いてガイドレール2上に順次搬入し、突起5がガイドレール2の凹溝内に位置するようにセットする。 【0021】(3)ウインチ15のワイヤロープ16の先端部をボックスカルバート1-1の底版上面に形成された接続孔に接続し、ウインチ15を作動させてボックスカルバート1-1を所定の据付け位置まで引き込む。」 「【0023】(5)連結されたボックスカルバート1-1はガイドレール2上にベアリングボールを介して支持されているだけであるため、底版のグラウト孔17からボックスカルバート1-1と基礎コンクリート11の隙間にグラウト材18を注入してボックスカルバート1-1を基礎コンクリート11上に固定する。」 また、甲第1号証刊行物の【図1】には上記摘記事項を裏付ける技術事項が図示されており、ボックスカルバートの下面に突出して設けられた突起5を覆うリップ付きチャンネル材形状の鋼板6の底面が、基礎コンクリート11内に埋設して形成されたガイドレール2のH型鋼のウエブ上に敷き並べられた多数のベアリングボール(鋼球)3上に支持される図が図示されている。 そうしてみると、上記甲第1号証刊行物の摘記事項及び添付図面に図示された技術事項を総合すると、甲第1号証刊行物には、「ボックスカルバート等のプレキャストコンクリート製ブロック1を基礎コンクリート11上に吊り込み、据付け位置に順次設置固定する方法において、前記ブロック1の下面に突出して設けられた突起5を覆うリップ付きチャンネル材形状の鋼板6の底面が、基礎コンクリート11内に埋設して形成されたガイドレール2のH型鋼のウエブ上に敷き並べられた多数のベアリングボール(鋼球)3上に支持された状態で、前記ブロック1を一対のガイドレール2に沿って駆動装置で移送し、据付け位置に順次設置固定する横引き工法及び前記横引き工法に用いる装置」の発明(以下、これを「引用発明」という。)の記載が認められる。 イ.甲第2号証刊行物の記載事項 本件の特許出願前に頒布された甲第2号証刊行物には、「旋回移送装置」に関し、図面の図示とともに次の技術事項が記載されている。 「(5)は内部一面に鋼球(6)を収納し、中心部にボス(51)が、また周縁部に縁(52)が設けられた基礎板、(7)は被移送体(1)および移送装置(2)が搭載され、中心部にボス(51)が嵌合するセンターピン(71)およびフック(72)を有する台枠」(2頁左上欄14行〜18行) 「台枠(7)の一部をウインチ(4)により第4図(ロ)の矢印方向に引っ張ることにより被移送体(1)および移送装置(2)は鋼球(6)のころがり、およびセンターピン(71)の作用により旋回する。」(2頁右上欄13行〜16行) ウ.甲第3号証刊行物の記載事項 本件の特許出願前に頒布された甲第3号証刊行物には、「工事用水平可動ジャッキ」に関し、図面の図示とともに次の技術事項が記載されている。 「【特許請求の範囲】【請求項1】上部にねじリングを設けたジャッキ本体と、ねじ部とこのねじ部の上端に固定された皿体とを有しねじ部をジャッキ本体のねじリングに螺着した可動部と、可動部の皿体内にグリースとともに収容された複数の球体と、可動部の皿体を覆うように配置され下面を皿体に設けた球体に当接し水平面内で移動自在とした支持体とを有する工事用水平可動ジャッキ。」 「【発明の詳細な説明】【0001】【産業上の利用分野】本発明は、たとえば階段おどり場のような予め製造された建築部品を型枠工事に先行して取付ける際に、建築部品の高さ方向および水平方向の調整を簡単かつ精度よく行う工事用水平可動ジャッキに関する。」 「【0007】本発明は上記した点に鑑みてなされたもので、構造を簡単にしながら建築部品を水平方向に移動させる際の微調整を可能にした工事用水平可動ジャッキを提供することを目的とする。」 「【0012】上記可動部9は、図2に示すように、皿体8の周縁部に上方に延びるフランジ8aを設けることで皿体8の上面に収容空間8b形成し、この収容空間8bにグリース11とともに複数の球体12,12を収容するようにしている。図2で示す実施例では、皿体8の外径は140ミリメートルであり、球体の直径は12ミリメートルである。そして、この可動部9の皿体8を覆うように支持体13が配置される。この支持体13は、周縁部に下方に延びるフランジ14を有し、下面13aを皿体8に設けた球体12に当接支持することで皿体8に対して水平面内を移動自在に構成されている。この支持体13の水平移動は、支持体13に設けたフランジ14を皿体8に設けたフランジ8aに当接する範囲内で行われる。すなわち、支持体13の移動量は、フランジ14の内径と皿体8の外径の差により決められる。支持体13の皿体8への安定保持を考慮すると、支持体13の外径は皿体8の外径の2倍以内にすることが望ましい。この場合、支持体13が矩形であれば、皿体8も矩形にし、支持体13が円形であれば、皿体8も円形にする。なお、図1で符号15はジャッキ1aのねじ部7に設けた固定板である。」 「【0014】つぎに、各水平可動ジャッキ1に設けた支持体13の高さおよび各ジャッキ1aに設けた固定板15の高さを所定位置にセットする。この場合、階段おどり場2の底面に対して、水平可動ジャッキ1に設けた支持体13は、各ジャッキ1aに設けた固定板15より高い位置とする。水平可動ジャッキ1の支持体13が所定位置にセットされたら、階段おどり場2を通常の方法で水平可動ジャッキ1の支持体13の上に乗せる。これにより、階段おどり場2は水平可動ジャッキ1にのみ支持される。水平可動ジャッキ1の支持体13は、皿体8に設けた球体12に当接支持されているので、支持体13はジャッキ本体6に対して前後左右の方向に移動自在であり、支持体13に支持された階段おどり場2は、前後左右の方向に小さい力で移動できる。」 エ.甲第4号証刊行物の記載事項 本件の特許出願前に頒布された甲第4号証刊行物には、「管渠の布設方法」に関し、上記甲第1号証刊行物に記載の発明の先行技術としての技術事項及び甲第1号証刊行物の図面に類似する「レールの両端部がガイドバー11で規制された状態でベアリングボール12が配列されたレール10」を図示した図面が記載されている。 オ.甲第5号証刊行物の記載事項 本件の特許出願前に頒布された甲第5号証刊行物には、「鋼球式搬送システム」に関し、図面の図示とともに次の技術事項が記載されている。 「【0002】【従来の技術】従来、超重量物を例えば船積みのために組立て工場から水切場まで搬送するのに、図6に示すような、路盤1に敷設された敷板2上に円筒形ローラ3を並べ、搬送台盤10を円筒形ローラ3で支持させながら転動させることで矢印方向に移動させるようにした、ローラ式搬送システムや、図7に示すような、敷板2上に空気源4aにホース4bで連設されたエアーシール4をおき、エアーシール4で搬送台盤10を支持させながら矢印方向に移動させるようにした、空気式搬送システムが提案されている。なおいずれの場合も超重量物は搬送台盤10上に載置される。」 「【0007】【実施例】以下、図面により本発明の一実施例として鋼球式搬送システムについて説明すると、図1は側面図、図2は図1のA-A矢視断面図、図3は図1のB-B矢視断面図、図4はリテーナの平面図、図5は図1のC部を拡大して示す詳細側面図である。なお図1〜5中図6,7と同じ符号はほぼ同一の部材を示している。この実施例の鋼球式搬送システムも、超重量物の搬送に用いられるもので、搬送台盤10を路盤1に敷設された敷板2上に支持させるのに多数の鋼球11が用いられている。鋼球11を転動可能に保持するのに、図4に示すような長方形のリテーナ13が用いられており、リテーナ13の下面に鋼球11の直径よりやや小径の円孔を形成された鋼球サポート16が取付けられていて、リテーナ13を吊り上げても鋼球11がリテーナ13内に保持できるようになっている。 【0008】そして、多数の鋼球11を保持した複数枚のリテーナ13が、その短辺を搬送台盤10の搬送方向に一致させて敷板2上におかれ、前後に隣接して配設された各リテーナ13間が、搬送台盤10の搬送方向と平行に配設された一定長さのリンク12で連結される。符号14は連結ピンを示している。さらに、リテーナ13の下面にリテーナサポート15が取付けられている。このリテーナサポート15は、鋼球11をその中心線上でリテーナ13に形成された鋼球11支持用の穴の内面に接触させるように、リテーナ13の上下位置の調整を行なうもので、これにより、鋼球11をリテーナ13で強制的に押引するとき、鋼球11の中心へ向かう水平分力のみを残し、垂直分力が作用しないようにすることができ、鋼球11の安定した転がり作動を確保することが可能となる。」 (2)本件発明1について ア.対比及び一致点・相違点 本件発明1と引用発明とを対比すると、引用発明の「ボックスカルバート等のプレキャストコンクリート製ブロック1」、「基礎コンクリート11」、「多数のベアリングボール(鋼球)3」、「ブロック1を一対のガイドレール2に沿って駆動装置で移送し、」及び「据付け位置に順次設置固定する横引き工法」が、本件発明1の「コンクリートブロック」、「基礎コンクリート」、「複数の微細球体又は粒状の鋼球よりなる硬球」、「前記第2平板の上にコンクリートブロックを載置し、ほぼ水平方向に移動させる」及び「コンクリートブロックの設置方法」にそれぞれ対応する。 そして、引用発明の「ガイドレール2のH型鋼のウエブ」と、本件発明1の「平面板状の第1平板」とは、ともに基礎コンクリート上の所定位置に設置される「下部支持体」である点において共通している。 また、引用発明の「前記ブロック1の下面に突出して設けられた突起5を覆うリップ付きチャンネル材形状の鋼板6」と、本件発明1の「平面板状の第2平板」とは、ともに複数の微細球体又は粒状の鋼球よりなる硬球上に設置されている「上部支持体」である点において共通している。 そして、引用発明の「ガイドレール2のH型鋼のウエブ上に敷き並べられた多数のベアリングボール(鋼球)3」の構成は、ガイドレール2のH型鋼のウエブ上に多数のベアリングボール(鋼球)3を、粘着剤を介さずに直接的に敷き並べるものではあるが、本件発明1の「前記粘着剤上に複数の微細球体又は粒状の鋼球よりなる硬球を落下させ、前記硬球を前記粘着剤に保持させる工程」の構成に対しては、複数の微細球体又は粒状の鋼球よりなる硬球を粘着剤上に落下させ、前記硬球を前記粘着剤に保持させる点を除き、両者は「複数の微細球体又は粒状の鋼球よりなる硬球を下部支持体上に載置する工程」の点において、部分的に共通する。 そうすると、本件発明1と引用発明の両者は、「コンクリートブロックの設置方法であって、基礎コンクリート上の所定位置に下部支持体を設置する工程と、前記下部支持体上に複数の微細球体又は粒状の鋼球よりなる硬球を載置する工程と、前記載置された硬球の上に、上部支持体を設置する工程と、前記上部支持体の上にコンクリートブロックを載置し、ほぼ水平方向に移動させる工程とを備えた、コンクリートブロックの設置方法」である点で一致し、次の点で両者の構成が相違する。 相違点1:上部支持体が、本件発明1では「硬球の上に設置する平面板状の第2平板」としているのに対して、引用発明では、「前記ブロック1の下面に突出して設けられた突起5を覆うリップ付きチャンネル材形状の鋼板6」である点。 相違点2:下部支持体が、本件発明1では「基礎コンクリート上の所定位置に設置する平面板状の第1平板」であるのに対して、引用発明では、「基礎コンクリート11内に埋設して形成されたガイドレール2のH型鋼のウエブ」である点。 相違点3:本件発明1が、「前記第1平板上に粘着剤を形成する工程」を有するのに対して、引用発明では、そのような工程がない点。 相違点4:複数の微細球体又は粒状の鋼球よりなる硬球を下部支持体上に載置する工程が、本件発明1では「前記粘着剤上に複数の微細球体又は粒状の鋼球よりなる硬球を落下させ、前記硬球を前記粘着剤に保持させる工程」であるのに対して、引用発明では、「基礎コンクリート11内に埋設して形成されたガイドレール2のH型鋼のウエブ上に多数のベアリングボール(鋼球)3を敷き並べる工程」である点。 イ.相違点についての検討 (ア)相違点1について 請求人が提出した甲第5号証には「路盤1に敷設された敷板2上に多数の鋼球11を用いて支持させた搬送台盤10」が記載されている。 そうすると、本件発明1の上記相違点1に係る「硬球の上に設置する平面板状の第2平板」の構成は、当業者が前記甲第5号証に記載の「搬送台盤10」に基いて容易に想到できたことといえるものである。 (イ)相違点2について 請求人が提出した甲第2号証には「内部一面に鋼球(6)を収納し、中心部にボス(51)が、また周縁部に縁(52)が設けられた基礎板(5)」が記載され、同甲第3号証には「周縁部に上方に延びるフランジ8aを設けることで上面に収容空間8b形成した皿体8の該収容空間8bにグリース11とともに複数の球体12,12を収容するようにした皿体8」が記載されており、同甲第4号証には「レールの両端部がガイドバー11で規制された状態でベアリングボール12が配列されたレール10」が記載され、そして、同甲第5号証には「路盤1に敷設された敷板2」が記載されている。 しかしながら、甲第2号証の「基礎板(5)」には中心部にボス(51)が、そして周縁部に縁(52)が設けられ、また甲第3号証の「皿体8」にも周縁部に上方に延びるフランジ8aを設けられ、そして甲第4号証に記載の「レール10」にはガイドバー11が設けられているのであり、いずれも本件発明1の「平面板状の第1平板」のような「平面板状の平板」ということは、いえない。 そしてまた、甲第5号証に記載の「路盤1に敷設された敷板2」は平板状の平板ではあるが、該「敷板2」上には多数の鋼球11を保持した複数枚のリテーナ13がおかれ、前後に隣接して配設された各リテーナ13間がリンク12で連結されるようになっていることから、甲第5号証に記載の「多数の鋼球11」は、敷板2上では複数枚のリテーナ13で拘束されているのであり、それにより路盤1に傾斜がある場合には「多数の鋼球11」が「敷板2」上では自由に転動して散逸してしまうという危惧がまったくないから、甲第5号証に記載の「敷板2」は、本件発明1の「平面板状の第1平板」が抱える「路盤1に傾斜がある場合には『多数の鋼球11』が『敷板2』上では自由に転動して散逸してしまうという危惧の存在」という前提を欠くものである。したがって、甲第5号証に記載の「路盤1に敷設された敷板2」は、本件発明1の「平面板状の第1平板」と同等のものということは、いえない。 以上のように、甲第2号証ないし甲第5号証のいずれにも、本件発明1の上記相違点2に係る構成が記載されているということができず、また、上記相違点2に係る構成が、本件特許出願時の周知慣用技術であるとも、あるいは、本件特許明細書において自明の技術事項であるとも認めることができないから、本件発明1の上記相違点2に係る構成は、当業者が容易になしえたことであるとは、いえない。 (ウ)相違点3について 甲第3号証に「皿体8の周縁部に上方に延びるフランジ8aを設けることで皿体8の上面に収容空間8b形成し、この収容空間8bにグリース11とともに複数の球体12,12を収容するようにしている。」が記載されている。 しかしながら、甲第3号証に記載の発明では、複数の球体12,12が、グリース11とともに、周縁部に上方に延びるフランジ8aを設けることで上面に収容空間8b形成した皿体8の収容空間8bに収容されているのであるから、甲第3号証に記載の発明において、皿体8が傾斜した場合であっても、皿体8の周縁部に上方に延びるフランジ8aが設けてあるから、複数の球体12,12が「皿体8」からこぼれ落ちることはもとより考えられない。 そうすると、前記「グリース11」は、複数の球体12,12が「周縁部に上方に延びるフランジ8aを設けることで上面に収容空間8b形成した皿体8」からこぼれ落ちないようにするために、「グリース11」で複数の球体12,12を皿体8上に保持するためのものということではなく、むしろ、上面に収容空間8b形成した皿体8上で複数の球体12,12が円滑に転動することを許容させるための潤滑剤と考えるのが自然である。換言すれば、甲第3号証に記載の発明では、「グリース11」と「周縁部に上方に延びるフランジ8a」とは、本件発明1の「粘着剤における硬球の保持機能」に関していえば、互いに阻害する関係にあるといえる。 さらにいえば、本件発明1に記載のコンクリートブロックに使用される粘着剤として、甲第3号証に記載の「グリース11」のような油脂性物質を使用することは、コンクリート・モルタルについての技術常識に照らせば、親水性のコンクリート・モルタルに対しては馴染まず、そぐわないことが明らかなことであり、そして、本件発明3におけるように、移動されたコンクリートブロックの下部と前記基礎コンクリートの上面との間にコンクリート又はモルタルを流し込む工程が組み込まれることを前提としているコンクリートブロックの設置工法に使用される本件発明1においては、粘着剤としての甲第3号証に記載の前記「グリース11」の存在は、移動されたコンクリートブロックの下部と前記基礎コンクリートの上面との間に流し込まれるコンクリート又はモルタルに対して、逆に阻害要因となることが明らかであるといえる。 そうしてみると、甲第3号証に記載の「グリース11」は、本件発明1の「前記第1平板上に粘着剤を形成する工程」の「粘着剤」と同等の機能を有するものということができないから、甲第2号証ないし甲第5号証のいずれにも、本件発明1の上記相違点3に係る「前記第1平板上に粘着剤を形成する工程」の構成が記載されているということができず、また、上記相違点3に係る構成が、本件特許出願時の周知慣用技術であるとも、あるいは、本件特許明細書において自明の技術事項であるとも認めることができないから、本件発明1の上記相違点3に係る構成は、当業者が容易に想到できたことであるとは、いえない。 (エ)相違点4について 上記「(ウ)相違点3について」欄において前述したとおり、甲第2号証ないし甲第5号証のいずれにも「粘着剤」についての記載はなく、しかも、本件発明1の上記相違点4に係る「前記粘着剤上に複数の微細球体又は粒状の鋼球よりなる硬球を落下させ、前記硬球を前記粘着剤に保持させる工程」の構成が甲第2号証ないし甲第5号証のいずれかに記載されているということができず、また、上記相違点4に係る構成が、本件特許出願時の周知慣用技術であるとも、あるいは、本件特許明細書において自明の技術事項であるとも認めることができないから、本件発明1の上記相違点4に係る構成は、当業者が容易になしえたことであるとは、いえない。 そして、本件発明1の発明特定事項が奏する訂正明細書に記載の「請求項1記載の発明は、コンクリートブロックは硬球を介した状態で基礎コンクリート上に載置されるので、コンクリートブロックは特殊形状を要求されることなくその水平方向への移動に対する抵抗が軽減する。又、硬球は落下させることによって粘着剤に対して保持されているため、第1平板の水平度に関わらず不用意に移動する虞れがなく安定した設置工事が可能となるとともに、使用状況に応じて硬球の配置密度を自在に調整できる。」の作用効果は、引用発明、甲第2号証刊行物ないし甲第5号証刊行物に記載の公知技術から当業者が予測できる範囲以上のものと認められる。 ウ.まとめ 以上のとおりであり、本件発明1は、引用発明に甲第2号証刊行物ないし甲第5号証刊行物に記載の公知技術を適用したとしても、当業者が容易に本件発明1の構成を得ることができたものということができないから、本件発明1についての特許は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない発明に対してなされたものではない。 (3)本件発明3について ア.対比及び一致点・相違点 本件発明3と引用発明とを対比する前に、本件発明3が、請求項1に係る本件発明1を引用する形式で記載された発明であることを斟酌すると、本件発明3が本件発明1の下位概念の発明であることは明らかである。 そうすると、本件発明1が、前述のとおり、甲第1号証ないし甲第5号証にそれぞれ記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるということができないものである以上、本件発明1の下位概念の発明である本件発明3も、本件発明1と同じ理由で、甲第1号証ないし甲第5号証にそれぞれ記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるということができないというべきものである。 そして、本件発明3の発明特定事項が奏する訂正明細書に記載の「請求項3記載の発明は、請求項1又は請求項2記載の発明の効果に加えて、コンクリートブロックの移動に寄与した第1平板等が流し込まれたコンクリート又はモルタルによって被覆されるので、これらを取除く必要はなく、安定した状態での設置固定が完了する。」の作用効果は、引用発明、甲第2号証刊行物ないし甲第5号証刊行物に記載の公知技術から当業者が予測できる範囲以上のものと認められる。 イ.まとめ 以上のとおりであり、本件発明3は、引用発明に甲第2号証刊行物ないし甲第5号証刊行物に記載の公知技術を適用したとしても、当業者が容易に本件発明3の構成を得ることができたものということができないから、本件発明3についての特許は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない発明に対してなされたものではない。 (4)本件発明4について ア.対比及び一致点・相違点 本件発明4と引用発明とを対比すると、引用発明の「ボックスカルバート等のプレキャストコンクリート製ブロック1」、「多数のベアリングボール(鋼球)3」及び「据付け位置に順次設置固定する横引き工法に用いる装置」が、本件発明4の「コンクリートブロック」、「複数の微細球体又は粒状の鋼球よりなる硬球」及び「コンクリートブロックの設置に用いられる設置器具」にそれぞれ対応する。 そして、引用発明の「ガイドレール2のH型鋼のウエブ」と、本件発明4の「平面板状の第1平板」とは、ともに「下部支持体」である点において共通している。 また、引用発明の「前記ブロック1の下面に突出して設けられた突起5を覆うリップ付きチャンネル材形状の鋼板6」と、本件発明4の「平面板状の第2平板」とは、ともに複数の微細球体又は粒状の鋼球よりなる硬球の上に設置され、下部支持体と対向するように位置する「上部支持体」である点において共通している。 そして、引用発明の「ガイドレール2のH型鋼のウエブ上に敷き並べられた多数のベアリングボール(鋼球)3」の構成は、ガイドレール2のH型鋼のウエブ上に多数のベアリングボール(鋼球)3を、粘着剤を介さずに直接的に敷き並べるものではあるが、本件発明4の「形成された粘着剤に散布させることによって保持された複数の微細球体又は粒状の鋼球よりなる硬球」の構成に対しては、形成された粘着剤に散布させることによって保持された点を除き、両者は「複数の微細球体又は粒状の鋼球よりなる硬球が下部支持体上に載置されている構成」の点において、部分的に共通する。 そうすると、本件発明4と引用発明の両者は、「コンクリートブロックの設置に用いられる設置器具であって、下部支持体と、複数の微細球体又は粒状の鋼球よりなる硬球と、前記硬球の上に設置され、前記下部支持体と対向するように位置する上部支持体とを備えた、設置器具」である点で一致し、次の点で両者の構成が相違する。 相違点5:上部支持体が、本件発明4では「硬球の上に設置され、前記第1平板と対向するように位置する平面板状の第2平板」としているのに対して、引用発明では、「前記ブロック1の下面に突出して設けられた突起5を覆うリップ付きチャンネル材形状の鋼板6」である点。 相違点6:下部支持体が、本件発明4では「平面板状の第1平板」であるのに対して、引用発明では、「基礎コンクリート11内に埋設して形成されたガイドレール2のH型鋼のウエブ」である点。 相違点7:本件発明4が、「前記第1平板上に形成された粘着剤」を有するのに対して、引用発明では、前記粘着剤がない点。 相違点8:複数の微細球体又は粒状の鋼球よりなる硬球が下部支持体上に載置されている構成が、本件発明4では「前記形成された粘着剤に散布させることによって保持された複数の微細球体又は粒状の鋼球よりなる硬球」であるのに対して、引用発明では、「基礎コンクリート11内に埋設して形成されたガイドレール2のH型鋼のウエブ上に敷き並べられた多数のベアリングボール(鋼球)3」である点。 イ.相違点についての検討 (ア)相違点5について 請求人が提出した甲第5号証には「路盤1に敷設された敷板2上に多数の鋼球11を用いて支持させた搬送台盤10」が記載されている。 そうすると、本件発明4の上記相違点5に係る「硬球の上に設置され、前記第1平板と対向するように位置する平面板状の第2平板」の構成は、当業者が前記甲第5号証に記載の「搬送台盤10」に基いて容易に想到できたことといえるものである。 (イ)相違点6について 請求人が提出した甲第2号証には「内部一面に鋼球(6)を収納し、中心部にボス(51)が、また周縁部に縁(52)が設けられた基礎板(5)」が記載され、同甲第3号証には「周縁部に上方に延びるフランジ8aを設けることで上面に収容空間8b形成した皿体8の該収容空間8bにグリース11とともに複数の球体12,12を収容するようにした皿体8」が記載されており、同甲第4号証には「レールの両端部がガイドバー11で規制された状態でベアリングボール12が配列されたレール10」が記載され、そして、同甲第5号証には「路盤1に敷設された敷板2」が記載されている。 しかしながら、甲第2号証の「基礎板(5)」には中心部にボス(51)が、そして周縁部に縁(52)が設けられ、また甲第3号証の「皿体8」にも周縁部に上方に延びるフランジ8aを設けられ、そして甲第4号証に記載の「レール10」にはガイドバー11が設けられているのであり、いずれも本件発明4の「平面板状の第1平板」のような「平面板状の平板」ということは、いえない。 そしてまた、甲第5号証に記載の「路盤1に敷設された敷板2」は平板状の平板ではあるが、該「敷板2」上には多数の鋼球11を保持した複数枚のリテーナ13がおかれ、前後に隣接して配設された各リテーナ13間がリンク12で連結されるようになっていることから、甲第5号証に記載の「多数の鋼球11」は、敷板2上では複数枚のリテーナ13で拘束されているのであり、それにより路盤1に傾斜がある場合には「多数の鋼球11」が「敷板2」上では自由に転動して散逸してしまうという危惧がまったくないから、甲第5号証に記載の「敷板2」は、本件発明4の「平面板状の第1平板」が抱える「路盤1に傾斜がある場合には『多数の鋼球11』が『敷板2』上では自由に転動して散逸してしまうという危惧の存在」という前提を欠くものである。したがって、甲第5号証に記載の「路盤1に敷設された敷板2」は、本件発明4の「平面板状の第1平板」と同等のものということは、いえない。 以上のように、甲第2号証ないし甲第5号証のいずれにも、本件発明4の上記相違点6に係る構成が記載されているということができず、また、上記相違点6に係る構成が、本件特許出願時の周知慣用技術であるとも、あるいは、本件特許明細書において自明の技術事項であるとも認めることができないから、本件発明4の上記相違点6に係る構成は、当業者が容易になしえたことであるとは、いえない。 (ウ)相違点7について 甲第3号証に「皿体8の周縁部に上方に延びるフランジ8aを設けることで皿体8の上面に収容空間8b形成し、この収容空間8bにグリース11とともに複数の球体12,12を収容するようにしている。」が記載されている。 しかしながら、甲第3号証に記載の発明では、複数の球体12,12が、グリース11とともに、周縁部に上方に延びるフランジ8aを設けることで上面に収容空間8b形成した皿体8の収容空間8bに収容されているのであるから、甲第3号証に記載の発明において、皿体8が傾斜した場合であっても、皿体8の周縁部に上方に延びるフランジ8aが設けてあるから、複数の球体12,12が「皿体8」からこぼれ落ちることはもとより考えられない。 そうすると、前記「グリース11」は、複数の球体12,12が「周縁部に上方に延びるフランジ8aを設けることで上面に収容空間8b形成した皿体8」からこぼれ落ちないようにするために、「グリース11」で複数の球体12,12を皿体8上に保持するためのものということではなく、むしろ、上面に収容空間8b形成した皿体8上で複数の球体12,12が円滑に転動することを許容させるための潤滑剤と考えるのが自然である。換言すれば、甲第3号証に記載の発明では、「グリース11」と「周縁部に上方に延びるフランジ8a」とは、本件発明4の「粘着剤における硬球の保持機能」に関していえば、互いに阻害する関係にあるといえる。 さらにいえば、本件発明4に記載のコンクリートブロックに使用される粘着剤として、甲第3号証に記載の「グリース11」のような油脂性物質を使用することは、コンクリート・モルタルについての技術常識に照らせば、親水性のコンクリート・モルタルに対しては馴染まず、そぐわないことが明らかなことであり、そして、本件発明3におけるように、移動されたコンクリートブロックの下部と前記基礎コンクリートの上面との間にコンクリート又はモルタルを流し込む工程が組み込まれることを前提としているコンクリートブロックの設置工法に使用される本件発明4においては、粘着剤としての甲第3号証に記載の前記「グリース11」の存在は、移動されたコンクリートブロックの下部と前記基礎コンクリートの上面との間に流し込まれるコンクリート又はモルタルに対して、逆に阻害要因となることが明らかであるといえる。 したがって、甲第3号証に記載の「グリース11」は、本件発明4の「前記第1平板上に形成された粘着剤」と同等の機能を有するものということができないから、甲第2号証ないし甲第5号証のいずれにも、本件発明4の上記相違点7に係る「前記第1平板上に形成された粘着剤」の構成が記載されているということができず、また、上記相違点7に係る構成が、本件特許出願時の周知慣用技術であるとも、あるいは、本件特許明細書において自明の技術事項であるとも認めることができないから、本件発明4の上記相違点7に係る構成は、当業者が容易に想到できたことであるとは、いえない。 (エ)相違点8について 上記「(ウ)相違点7について」欄において前述したとおり、甲第2号証ないし甲第5号証のいずれにも「粘着剤」についての記載はなく、しかも、本件発明4の上記相違点8に係る「前記形成された粘着剤に散布させることによって保持された複数の微細球体又は粒状の鋼球よりなる硬球」の構成が甲第2号証ないし甲第5号証のいずれかに記載されているということができず、また、上記相違点8に係る構成が、本件特許出願時の周知慣用技術であるとも、あるいは、本件特許明細書において自明の技術事項であるとも認めることができないから、本件発明4の上記相違点8に係る構成は、当業者が容易になしえたことであるとは、いえない。 そして、本件発明4の発明特定事項が奏する訂正明細書に記載の「請求項4記載の発明は、第1平板及び第2平板の各々に対してその面上での移動に対する抵抗が軽減するので、設置すべきコンクリートブロックと基礎コンクリートとの間にそのまま取付けるだけでコンクリートブロックの水平方向への移動が容易となる。又、硬球は散布によって粘着剤に保持されるので、使用状況に応じてその配置密度を自在に調整できる。」の作用効果は、引用発明、甲第2号証刊行物ないし甲第5号証刊行物に記載の公知技術から当業者が予測できる範囲以上のものと認められる。 ウ.まとめ 以上のとおりであり、本件発明4は、引用発明に甲第2号証刊行物ないし甲第5号証刊行物に記載の公知技術を適用したとしても、当業者が容易に本件発明4の構成を得ることができたものということができないから、本件発明4についての特許は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない発明に対してなされたものであるということは、いえない。 (5)本件発明6について ア.対比及び一致点・相違点 本件発明6と引用発明とを対比する前に、本件発明6が、請求項3に係る本件発明3を引用する形式で記載された発明であることを斟酌すると、本件発明6が本件発明3の下位概念の発明であることは明らかである。 そうすると、本件発明3が、前述のとおり、甲第1号証ないし甲第5号証にそれぞれ記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるということができないものである以上、本件発明3の下位概念の発明である本件発明6も、本件発明3と同じ理由で、甲第1号証ないし甲第5号証にそれぞれ記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるということができないというべきものである。 そして、本件発明6の発明特定事項が奏する訂正明細書に記載の「請求項6記載の発明は、請求項5記載の発明の効果に加えて、第1平板及び第2平板同志のずれは一定範囲内になるため、コンクリートブロックの設置状態の正否が判断できるとともに設置状態の安全性が確保できる。」の作用効果は、引用発明、甲第2号証刊行物ないし甲第5号証刊行物に記載の公知技術から当業者が予測できる範囲以上のものと認められる。 イ.まとめ 以上のとおりであり、本件発明6は、引用発明に甲第2号証刊行物ないし甲第5号証刊行物に記載の公知技術を適用したとしても、当業者が容易に本件発明6の構成を得ることができたものということができないから、本件発明6についての特許は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない発明に対してなされたものではない。 2.無効理由2について (1)本件発明2及び本件発明5について 本件訂正明細書の特許請求の範囲に記載された請求項2に係る本件発明2及び請求項5に係る本件発明5は、上記「第4 本件特許の請求項1ないし請求項6に係る発明」欄に前掲したとおりの次のものである。 本件発明2:「【請求項2】前記粘着剤は粘着性を有する水糊であり、前記第1平板及び前記第2平板の各々は鉄板よりなる、請求項1記載のコンクリートブロックの設置方法。」 本件発明5:「【請求項5】前記粘着剤は粘着性を有する水糊であり、前記第1平板及び前記第2平板の各々は鉄板よりなる、請求項4記載の設置器具。」 このように、訂正された請求項2及び請求項5には、それぞれ「前記粘着剤は粘着性を有する水糊であり、」と記載されているのであり、これらは、請求項1及び請求項4に記載の発明特定事項である「粘着剤」が「粘着性を有する水糊」であることを特定するものである。 (2)本件訂正明細書の発明の詳細な説明における「粘着性を有する水糊」の記載について そして、訂正明細書の発明の詳細な説明の段落【0030】には、「ガイドレール21bの水平部材27の上面には水糊等の粘着剤26が形成され、この粘着剤26に例えばサンドブラスト用に用いられているような多数の微細鋼球(直径1〜3mm)又は粒状球体(4〜12mm)23が散布されて配置(100cm2当り3〜100個)されている。尚、この実施の形態ではワイヤ18によって係止されたボックスカルバート16を一定位置に吊り下ろし、これを水平方向に所定の位置まで移動させる。そのため、粘着剤26は水平部材27の上面全面に形成されており、同様に微細鋼球23も粘着剤26の全域にわたってランダムに又は所定間隔で配置されている。微細鋼球23は粘着剤26によって保持されているため、配置後水平部材27の上から他の位置に移動する虞れはない。」が記載されており、また、段落【0037】には、「次に、図5の(2)に示すように、第1平板35の上面に水糊等の粘着性を有する流動体を塗布することによって形成する。この粘着剤36の上に例えばサンドブラスト用に用いられる複数の微細鋼球23をほぼ均一に点在させるように落下させて配置する。これによって図5の(3)に示すように微細鋼球23は粘着剤36によって保持され、第1平板35に対して不用意に移動する虞れはない。そのため、粘着剤36上の当初の分布状態が保持される。」と記載され、そして、段落【0057】にも、「更に、上記の実施の形態では、微細鋼球を保持するための粘着剤として水糊を用いているが、微細鋼球を保持できるものであれば例えば水飴等の粘着性を有する流動体等の他の材料であっても良い。」と記載されている。 そうすると、これらの記載によれば、本件発明1ないし本件発明6の本件特許発明においては、微細鋼球を保持できる粘着性を有する流動体、即ち「粘着剤」として、例えば、水飴等の粘着性を有する流動体や水糊等の粘着性を有する流動体などの種々の材料の中から当業者が適宜必要に応じて取捨選択あるいは採択結合をすることが考えられる中で、本件発明2及び本件発明5では、特に「粘着剤」として「粘着性を有する水糊」を限定することにより特定しただけのことに他ならない。 (3)甲第6号証ないし甲第8号証に記載された技術的内容及び当業者の技術的見地について 一方、甲第7号証及び甲第8号証の「粘着剤」についての説明に照らせば、「粘着剤」が感圧性接着剤(pressure sensitive adhesive)とも表現されるように、「接着剤」の一種である旨が記載されているのであるから、請求人が主張するところの「『接着剤』は『粘着剤』と明確に区別されるものである。」との技術的知見が、あらゆる事象において適用することのできる一般原則であるとは、必ずしもいえることではない。 (4)「粘着性を有する水糊」の技術的妥当性、発明の目的及び発明の効果について そして、本件発明1ないし本件発明6における「粘着剤」の役割は、本件の訂正明細書に記載されているところの、「微細鋼球23は粘着剤26によって保持されているため、配置後水平部材27の上から他の位置に移動する虞れはない。」、「これによって図5の(3)に示すように微細鋼球23は粘着剤36によって保持され、第1平板35に対して不用意に移動する虞れはない。そのため、粘着剤36上の当初の分布状態が保持される。」及び「微細鋼球を保持できるものであれば例えば水飴等の粘着性を有する流動体等の他の材料であっても良い。」の記載から明らかであるように、「微細鋼球23が配置後水平部材27の上から他の位置に移動して第1平板35に対して不用意に移動する虞れをなくすこと」であり、そして粘着剤の形成により、「微細鋼球23は粘着剤26によって保持されているため、配置後水平部材27の上から他の位置に移動する虞れはない」というものである。 したがって、このような本件発明1ないし本件発明6における「粘着剤」の役割を担うものとして、本件発明2及び本件発明5では、「粘着性を有する水糊」と特定したものである。 そして、「水糊」が粘着性を有することは技術常識に照らして明らかなことであり、また、その水糊の粘着性により微細鋼球23が保持され第1平板35に対して不用意に移動する虞れがないことも、十分技術的妥当性があることである。 (5)まとめ 以上のとおりであり、本件発明1ないし本件発明6における「粘着剤」の前記役割を参酌すれば、本件の訂正明細書における本件発明2及び本件発明5の「粘着性を有する水糊」の役割は明確であって、その技術的妥当性も明確であるから、本件発明2及び本件発明5は、特許法第29条柱書にいうところの「産業上利用できる発明」に該当するから、本件発明2及び本件発明5が未完成発明であるとは、いえない。 3.無効理由3について (1)本件訂正明細書の発明の詳細な説明における「粘着性を有する水糊」について 本件訂正明細書の発明の詳細な説明における「粘着性を有する水糊」についての記載は、上記「2.無効理由2について」欄の「(2)本件訂正明細書の発明の詳細な説明における「粘着性を有する水糊」の記載について」の項に前記したとおりである。 (2)本件訂正明細書の発明の詳細な説明における「粘着性を有する水糊」の記載について 本件訂正明細書の発明の詳細な説明の「微細鋼球を保持するための粘着剤として水糊を用いているが、微細鋼球を保持できるものであれば例えば水飴等の粘着性を有する流動体等の他の材料であっても良い。」の記載からみて、本件発明2及び本件発明5における「粘着性を有する水糊」は、少なくとも、「微細鋼球を保持する」目的において「微細鋼球を保持できる」という効果を奏するものでありさえすればよいことは明らかなことである。 そうすると、本件訂正明細書の発明の詳細な説明の記載によれば、本件発明2及び本件発明5における「粘着性を有する水糊」は、文字どおりの「微細鋼球を保持できる程度の粘着性を有する水糊からなる粘着剤」という意義であることが明白である。 そして、本件発明のようなコンクリート・モルタル製品に使用する粘着剤としては、コンクリート・モルタルについての技術常識に照らせば、例えば「グリース」のような油性の粘着剤は親水性のコンクリート・モルタルに対しては馴染まず、そぐわないことが明らかなことであるから、本件発明2及び本件発明5における「粘着性を有する水糊」は、当然に水性の粘着剤を意味することとなることは、本件訂正明細書の発明の詳細な説明の記載から当業者が容易に把握できる技術事項である。 しかして、請求人が主張するように、発明の詳細な説明には「粘着性を有する水糊の組成、具体的材料、具体的商品名等」がすべて記載されるべきものであるということはない。特許法第36条第4項に規定する要件は、明細書の発明の詳細な説明には、発明の技術事項が、少なくとも当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていればよいというものである。 (3)まとめ 上記のとおりであり、本件訂正明細書の発明の詳細な説明における「粘着性を有する水糊」についての記載は、当業者が実施できる程度に発明の詳細な説明に明確かつ十分に記載されているということができるから、本件の請求項2及び請求項5に記載の発明特定事項のうち「水糊」についての本件訂正明細書の発明の詳細な説明が特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないとは、いえない。 4.無効理由4について (1)本件訂正明細書の発明の詳細な説明における「粘着剤」の記載について 「粘着剤」が、「粘着性を有する水糊」の上位概念であるから、本件訂正明細書の発明の詳細な説明における「粘着剤」についての記載は、上記「3.無効理由3について」欄の「(2)本件訂正明細書の発明の詳細な説明における『粘着性を有する水糊』の記載について」の項に前記した事項と同様である。 そうしてみると、「粘着性を有する水糊」について明確かつ十分に記載されていることは、とりもなおさず、前記「粘着性を有する水糊」の上位概念である「粘着剤」についても明確かつ十分に記載されていることに他ならない。 (2)まとめ 上記のとおりであり、本件訂正明細書の発明の詳細な説明における「粘着剤」についての記載は、当業者が実施できる程度に発明の詳細な説明に明確かつ十分に記載されているということができるから、本件の請求項1及び請求項4に記載された発明特定事項のうち「粘着剤」についての本件訂正明細書の発明の詳細な説明が特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないとは、いえない。 第6 審判事件弁駁書における請求人の主張について 請求人は、その審判事件弁駁書において、無効理由1ないし無効理由4に基いて訂正請求を否認する主張を展開しているが、被請求人が請求した訂正請求に対する適否についての判断は、「第3 訂正請求の適否についての判断」欄に前述したとおり、平成15年改正特許法第134条の2の規定の観点から論じられるべきものであるから、平成15年改正特許法第134条の2の規定をはずれて、被請求人が請求した訂正請求に対し無効理由1ないし無効理由4に絡めて論じる請求人の審判事件弁駁書における訂正請求に対する適否についての主張は、もとより採用することができない。 第7 むすび 請求人の主張する無効理由1ないし無効理由4についての当審の判断は、以上のとおりであり、本件発明1ないし本件発明6は、特許法第29条第2項の規定に該当せず、また、同法第29条柱書の規定に該当しないものではなく、そして訂正明細書の発明の詳細な説明の記載は、同法第36条第4項に規定する要件を満たしているから、本件発明1ないし本件発明6に係る本件特許は、同法第123条第1項第2号又は第4号の規定に該当せず、無効とすべきものとすることができない。 審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定において準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 コンクリートブロックの設置方法及び設置器具 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 コンクリートブロックの設置方法であって、 基礎コンクリート上の所定位置に平面板状の第1平板を設置する工程と、 前記第1平板上に粘着剤を形成する工程と、 前記粘着剤上に複数の微細球体又は粒状の鋼球よりなる硬球を落下させ、前記硬球を前記粘着材に保持させる工程と、 前記保持された硬球の上に、平面板状の第2平板を設置する工程と、 前記第2平板の上にコンクリートブロックを載置し、ほぼ水平方向に移動させる工程とを備えた、コンクリートブロックの設置方法。 【請求項2】 前記粘着剤は粘着性を有する水糊であり、 前記第1平板及び前記第2平板の各々は鉄板よりなる、請求項1記載のコンクリートブロックの設置方法。 【請求項3】 前記コンクリートブロックはプレキャストコンクリートブロックであり、 前記移動されたコンクリートブロックの下部と前記基礎コンクリートの上面との間にコンクリート又はモルタルを流し込む工程を更に備えた、請求項1又は請求項2に記載のコンクリートブロックの設置方法。 【請求項4】 コンクリートブロックの設置に用いられる設置器具であって、 平面板状の第1平板と、 前記第1平板上に形成された粘着剤と、 前記形成された粘着剤に散布させることによって保持された複数の微細球体又は粒状の鋼球よりなる硬球と、 前記保持された硬球の上に設置され、前記第1平板と対向するように位置する平面板状の第2平板とを備えた、設置器具。 【請求項5】 前記粘着剤は粘着性を有する水糊であり、 前記第1平板及び前記第2平板の各々は鉄板よりなる、請求項4記載の設置器具。 【請求項6】 前記第2平板の前記第1平板に対する水平方向の移動を所定範囲に制限する制限手段を更に備えた、請求項5記載の設置器具。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】 この発明はコンクリートブロックの設置方法及び設置器具に関し、特に、ボックスカルバート等のプレキャストコンクリートブロックの据付け及び水平移動に関わるコンクリートブロックの設置方法及び設置器具に関するものである。 【0002】 【従来の技術】 図12は特開2000-273938号公報に開示されているコンクリートブロックの設置方法の概略図であり、図13は図12のXIII-XIIIラインの断面図であり、図14は図13の“Y”部分の拡大図である。 【0003】 これらの図を参照して、プレキャストコンクリートブロックの1つである中央が空洞のボックスカルバート61a〜61cが順次基礎コンクリート19上に連結された状態に設置されている。ワイヤ18にて係止されて釣上げられたボックスカルバート61dは、上方からボックスカルバート61cの近くに吊り下ろされる。そして水平方向の矢印に示す方向に引寄せられて、ボックスカルバート61a〜ボックスカルバート61cのように連結状態に移動する。 【0004】 この水平移動時における基礎コンクリート19との摩擦抵抗を低減するために、ボックスカルバート61の下部は特殊形状を有している。すなわち、図14に示されているように、ボックスカルバート61の下面には下方に突出る突起部62が形成され、突起部62の表面には鋼板63が取付けられている。一方、基礎コンクリート19にはI型鋼よりなるガイドレール65が埋め込まれ、その上方面に複数の鋼球66が配置されている。 【0005】 このようにボックスカルバート61及び基礎コンクリート19を形成した状態で、突起部62がガイドレール65上に位置するようにボックスカルバート61を基礎コンクリート19上に設置する。この状態でボックスカルバート61を水平方向に移動させると、鋼球66のベアリング効果によって、水平方向への移動に対する抵抗が軽減され、スムーズにボックスカルバート61同志を連結させることができる。 【0006】 通常ボックスカルバート61は連結状態に引寄せられた後、これらの相互のシールを確保するために更に相互に引寄せる締め固め作業がなされ、これらは一体化することになる。その後ボックスカルバート61の下部と基礎コンクリート19の上面との間に流動性の生コンクリートを流し込むことによって、ボックスカルバート61を基礎コンクリート19に固定する。 【0007】 【発明が解決しようとする課題】 上記のような従来のコンクリートブロックの設置方法であれば、上述のようにボックスカルバート61の下部に突起部62を設けるなどしてボックスカルバート61を特殊形状に仕上げる必要がある。そのため通常のボックスカルバート61に比べてコスト的に不利なものとなる。 【0008】 又、鋼球66を配置するためにガイドレール65を基礎コンクリート19に埋め込む必要があるためその作業に手間が掛り、結果としてコストも増大する。更に、鋼球66はガイドレール65の上面に配置されているため、ガイドレール65の水平度が確保されていなければ、全体的に均一に配置されず、一方向に偏ってしまう虞れもある。そのため、ボックスカルバート61の設置面が水平面ならともかく、傾斜したような面の場合、この工法を採用することは困難である。 【0009】 この発明は上記のような課題を解決するためになされたもので、一般形状のコンクリートブロックにも適用でき、かつその設置面の水平度に影響されないコンクリートブロックの設置方法及び設置器具を提供することを目的とする。 【0010】 【課題を解決するための手段】 上記の目的を達成するために、請求項1記載の発明は、コンクリートブロックの設置方法であって、基礎コンクリート上の所定位置に平面板状の第1平板を設置する工程と、第1平板上に粘着剤を形成する工程と、粘着剤上に複数の微細球体又は粒状の鋼球よりなる硬球を落下させ、硬球を粘着剤に保持させる工程と、保持された硬球の上に平面板状に第2平板を設置する工程と、第2平板の上にコンクリートブロックを載置し、ほぼ水平方向に移動させる工程とを備えたものである。 【0011】 このように構成すると、コンクリートブロックは落下によって粘着材に保持された硬球を介した状態で基礎コンクリート上に載置される。 【0012】 請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明の構成において、粘着剤は粘着性を有する水糊であり、第1平板及び第2平板の各々は鉄板よりなるものである。 【0013】 このように構成すると、硬球の配置状態が安定する。 【0014】 請求項3記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の発明の構成において、コンクリートブロックはプレキャストコンクリートブロックであり、移動されたコンクリートブロックの下部と基礎コンクリートの上面との間にコンクリート又はモルタルを流し込む工程を更に備えたものである。 【0015】 このように構成すると、コンクリートブロックの移動に寄与した第1平板、第2平板及び硬球は流し込まれたコンクリート又はモルタルによって被覆される。 【0016】 請求項4記載の発明は、コンクリートブロックの設置に用いられる設置器具であって、平面板状の第1平板と、第1平板上に形成された粘着剤と、形成された粘着剤に散布させることによって保持された複数の微細球体又は粒状の鋼球よりなる硬球と、保持された硬球の上に設置され、第1平板と対向するように位置する平面板状の第2平板とを備えたものである。 【0017】 このように構成すると、散布によって保持された硬球の働きによって第1平板及び第2平板は各々に対してその面上での移動に対する抵抗が軽減する。 【0018】 請求項5記載の発明は、請求項4記載の発明の構成において、粘着剤は粘着性を有する水糊であり、第1平板及び第2平板の各々は鉄板よりなるものである。 【0019】 このように構成すると、硬球の配置状態が安定する。 【0020】 請求項6記載の発明は、請求項5記載の発明の構成において、第2平板の第1平板に対する水平方向の移動を所定範囲に制限する制限手段を更に備えたものである。 【0021】 このように構成すると、第1平板及び第2平板同志のずれは一定範囲内になる。 【0022】 【発明の効果】 以上説明したように、請求項1記載の発明は、コンクリートブロックは硬球を介した状態で基礎コンクリート上に載置されるので、コンクリートブロックは特殊形状を要求されることなくその水平方向への移動に対する抵抗が軽減する。又、硬球は落下させることによって粘着剤に対して保持されているため、第1平板の水平度に関わらず不用意に移動する虞れがなく安定した設置工事が可能となるとともに、使用状況に応じて硬球の配置密度を自在に調整できる。 【0023】 請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明の効果に加えて、硬球の配置状態が安定するので、低コストでありながら効率的な設置方法となる。 【0024】 請求項3記載の発明は、請求項1又は請求項2記載の発明の効果に加えて、コンクリートブロックの移動に寄与した第1平板等が流し込まれたコンクリート又はモルタルによって被覆されるので、これらを取除く必要はなく、安定した状態での設置固定が完了する。 【0025】 請求項4記載の発明は、第1平板及び第2平板の各々に対してその面上での移動に対する抵抗が軽減するので、設置すべきコンクリートブロックと基礎コンクリートとの間にそのまま取付けるだけでコンクリートブロックの水平方向への移動が容易となる。又、硬球は散布によって粘着材に保持されるので、使用状況に応じてその配置密度を自在に調整できる。 【0026】 請求項5記載の発明は、請求項4記載の発明の効果に加えて、硬球の配置状態が安定するとともに、持ち運びが容易な器具となる。 【0027】 請求項6記載の発明は、請求項5記載の発明の効果に加えて、第1平板及び第2平板同志のずれは一定範囲内になるため、コンクリートブロックの設置状態の正否が判断できるとともに設置状態の安全性が確保できる。 【0028】 【発明の実施の形態】 図1はこの発明の第1の実施の形態によるコンクリートブロックの設置方法を示す概略図であり、図2は図1のII-IIラインの断面図であり、図3は図2の“X”部分の拡大図であり、更に、図4は図3のIV-IVラインの拡大断面図である。 【0029】 これらの図を参照して、基礎コンクリート19の上に一対のガイドレール21a,ガイドレール21bが設置されており、それらの間の上方にプレキャストコンクリートブロックの1つであるボックスカルバート16a〜ボックスカルバート16cが順次据付けられている。尚、ガイドレール21a,ガイドレール21bは基礎コンクリート19内部に埋め込まれ、その水平度が調整されたアンカー25の上に固定されている。したがって、ガイドレール21a,ガイドレール21bの水平度が確保された状態でボックスカルバート16が据付られる状態となっている。 【0030】 ガイドレール21bの水平部材27の上面には水糊等の粘着剤26が形成され、この粘着剤26に例えばサンドブラスト用に用いられているような多数の微細鋼球(直径1〜3mm)又は粒状球体(4〜12mm)23が散布されて配置(100cm2当り3〜100個)されている。尚、この実施の形態ではワイヤ18によって係止されたボックスカルバート16を一定位置に吊り下ろし、これを水平方向に所定の位置まで移動させる。そのため、粘着剤26は水平部材27の上面全面に形成されており、同様に微細鋼球23も粘着剤26の全域にわたってランダムに又は所定間隔で配置されている。微細鋼球23は粘着剤26によって保持されているため、配置後水平部材27の上から他の位置に移動する虞れはない。 【0031】 平板22はボックスカルバート16の下面に対応した所定数だけ準備され、ボックスカルバート16の吊り下ろされる位置であって、微細鋼球23の上方に配置される。この状態でボックスカルバート16は平板22上に吊り下ろされる。このようにしてボックスカルバート16は微細鋼球23を介した状態で水平部材27上に設置されることになる。 【0032】 次に吊り下ろされたボックスカルバート16を図示しないウィンチやワイヤ等を用いて水平方向に移動させる。この時図4に示すようにボックスカルバート16は、平板22とともに微細鋼球23を介して水平部材27に対して移動するため移動に対して生じる抵抗が軽減する。これによってスムーズなボックスカルバート16の移動作業が可能となる。なお、図4の矢印で示す平板22の進行方向に対する下方のコーナー部29は、微細鋼球23を移動時に削りとらないように丸みが形成されている。 【0033】 又、この移動の際にガイドレール21の垂直部材28はガイドの役目を果たし、ボックスカルバート16の安定した水平移動を可能とする。このようにしてボックスカルバート16a〜ボックスカルバート16dは順次引寄せられて連結状態となり、更にこれらの連結部のシールを確保するために締め固めが行われる。この締め固め作業においても微細鋼球23の作用によってボックスカルバート16はスムーズに移動する。 【0034】 ボックスカルバート16a〜ボックスカルバート16dの締め固めが完了すると、その状態でボックスカルバート16a〜ボックスカルバート16dの下部と基礎コンクリート19の上面との間に流動性を有する生コンクリート又はモルタルが流し込まれ、ボックスカルバート16a〜ボックスカルバート16dが基礎コンクリート19に固定されてその据付け作業が終了する。 【0035】 図5はこの発明の第2の実施の形態によるコンクリートブロックの設置方法であって、基礎コンクリート上に形成された土台の上にコンクリートブロックを設置する場合の設置方法について説明した概略工程図である。 【0036】 図を参照して、図5の(1)に示すように、基礎コンクリート19に形成され、その上面の水平度が調整された土台31の上に、鉄板等の平面板状の第1平板35が配置される。尚、土台31は必ずしも形成する必要はなく、第1平板35を直接基礎コンクリート19上に配置しても良い。 【0037】 次に、図5の(2)に示すように、第1平板35の上面に水糊等の粘着性を有する流動体を塗布することによって形成する。この粘着剤36の上に例えばサンドブラスト用に用いられる複数の微細鋼球23をほぼ均一に点在させるように落下させて配置する。これによって図5の(3)に示すように微細鋼球23は粘着剤36によって保持され、第1平板35に対して不用意に移動する虞れはない。そのため、粘着剤36上の当初の分布状態が保持される。 【0038】 次に、図5の(4)に示すように、第1平板35とほぼ同一形状の平面板状の鉄板よりなる第2平板37が、微細鋼球23に被さるように設置される。これによって第1平板35及び第2平板37は微細鋼球23を介してお互いの面上を容易に移動できる状態となる。このように微細鋼球23を第1平板35及び第2平板37で挟んだ状態とし、この上に図5の(5)に示すように設置すべきプレキャストコンクリートブロック39を載置する。 【0039】 このため、プレキャストコンクリートブロック39の水平方向に対する移動によって生じる抵抗は微細鋼球23の作用によって軽減されるので、スムーズな水平方向への移動調整が可能となる。このようにしてプレキャストコンクリートブロック39の設置調整作業が完了する。 【0040】 図6は図5に示したコンクリートブロックの設置方法において、コンクリートブロックの下部に高さ調整金具を用いた場合であって、基礎コンクリート19が傾斜している場合の取付状態の1例を示した図である。 【0041】 図を参照して、この例においては、プレキャストコンクリートブロック39を直接第2平板37上に載置せずに、プレキャストコンクリートブロック39の下面に取付けられた高さ調整金具41を介して第2平板37上に設置している。尚、高さ調整金具41はその中央のナットを回転させることによってその両側に螺合するボルトの突出し長さを変化させる機能を有するものである。又、高さ調整金具41は上下を逆転させて使用しても良く、あるいはナットに螺合する上方のボルトを下方のそれと同一の形状としたものを用いても良い。 【0042】 そこでこの例においては、プレキャストコンクリートブロック39を基礎コンクリート19から所定の高さに調整した後、プレキャストコンクリートブロック39の下面と第2平板37との間隔に合うように高さ調整金具41を調整する。この状態で高さ調整金具41の下方のボルトの頭部が第2平板37上に当接される。 【0043】 プレキャストコンクリートブロック39の基礎コンクリート19に対する高さ調整が終了すると、次に図6の(2)に示すように矢印の方向に所定量移動させる。この場合、プレキャストコンクリートブロック39の下面に取付けられた高さ調整金具41は、第2平板37と一体となって第1平板35に対して矢印の方向に容易に移動する。この場合土台31の上面が傾斜しているが、微細鋼球23は粘着剤36によって保持されているため、この傾斜によって第1平板35に対して移動する虞れはない。したがって微細鋼球23は当初に配置された位置に保持されるため、第2平板37の第1平板35に対する安定した移動を保証する。 【0044】 このようにしてプレキャストコンクリートブロック39の高さ方向及び水平方向の調整及び移動が完了すると、プレキャストコンクリートブロック39の下部と基礎コンクリート19の上面との間に生コンクリート又はモルタルが流し込まれ、プレキャストコンクリートブロック39はその状態で基礎コンクリート19に固定され、据付け作業が完了する。なお、図6の例においても、土台31は必ずしも形成する必要はなく、第1平板35を直接基礎コンクリート19上に配置しても良い。 【0045】 図7はこの発明の第3の実施の形態によるコンクリートブロックの設置器具の概略平面図であり、図8は図7のVIII-VIIIラインの断面図である。 【0046】 これらの図を参照して、この実施の形態による設置器具は、矩形平面板状の第1平板35と、第1平板35の上面に形成された水糊等の粘着剤36と、粘着剤36のほぼ全域に点在するように配置されたサンドブラスト用の複数の微細鋼球23と、微細鋼球23の上に配置され矩形平面板状の第2平板37と、第1平板35の各コーナ部に取付けられた平面視L字状のコーナー片43a〜コーナー片43dとから構成されている。 【0047】 尚、コーナー片43a〜コーナー片43dの第1平板35からの高さHは、微細鋼球23上に取付けられた第2平板37の上面と第1平板35の上面との距離Lより小さく設定されている。又、図7に表われているように、第2平板37の平面視の大きさは、コーナー片43a〜コーナー片43dの内面位置によって規定される矩形形状より所定量小さく設定されている。 【0048】 使用時にあっては図7及び図8に示された状態のものをそのままコンクリートブロックの設置場所に持っていき、基礎コンクリート上の所定の位置に第1平板35を設置する。そして第2平板37の上面に据付けるべきコンクリートブロックの底面が載置するように、図示しないコンクリートブロックを設置する。この場合、コンクリートブロックの下面はコーナー片43a〜コーナー片43dの上面に接することはないため、第2平板37を介して水平方向にコンクリートブロックを容易に移動させることができる。 【0049】 第2平板37は図7に示されているようにその角をコーナー片43a〜コーナー片43dによって囲われているため、その範囲内でのみに移動が制限されている。したがって、第1平板35を所定位置に設置しその上に載置するコンクリートブロックの水平方向の調整代を第2平板37の移動可能な範囲内に設定するようにしておけば、第2平板37の移動状態によってコンクリートブロックの設置状態の正否を確認することが容易となり、有用性が増大する。すなわち、第2平板37がコーナー片43a〜43dのいずれか一つ又は二つに接触した状態でもまだ移動が終了してないような場合には、正しい位置にコンクリートブロックが設置されていないことを意味するため、据付け状態の良否の目安になる。 【0050】 図9はこの発明の第4の実施の形態によるコンクリートブロックの設置器具の概略構造を示す平面図である。 【0051】 図を参照して、この設置器具にあっては第1平板35の4つの角に断面四角の柱形状のコーナー片43a〜コーナー片43dが取付けられており、第2平板37の四隅はコーナー片43a〜コーナー片43dに対応し、かつ所定距離離れた状態となるように切欠部45a〜切欠部45dが形成されている。これによって先の第3の実施の形態による設置器具と同様に、第2平板37は第1平板35に対して水平方向において所定範囲のみ移動することが可能となるように制限されている。 【0052】 図10はこの発明の第5の実施の形態によるコンクリートブロックの設置器具の概略構造を示す平面図であり、図11は図10のXI-XIラインの断面図である。 【0053】 これらの図を参照して、この実施の形態による設置器具は矩形平面板状の鉄板よりなる第1平板35と、第1平板35の中程に所定間隔離れた位置に取付けられた断面円形形状の柱状の突出片48a,突出片48bと、第1平板35の上面に形成された水糊等の粘着剤36と、粘着剤36のほぼ全域に点在するように配置された例えばサンドブラスト用の微細鋼球23と、微細鋼球23の上に被さるように配置された矩形平面板状の鉄板よりなり、突出片48a,突出片48bに対応する位置でかつその断面径より大きな円形状よりなる開口47a,開口47bが形成された第2平板37とから構成されている。 【0054】 突出片48a,突出片48bの第1平板35からの高さは、微細鋼球23上に設置された第2平板37の上面と第1平板35の上面との距離より小さく設定されている。したがって、第2平板37はその上にコンクリートブロックを載置した状態で、第1平板35に対して水平方向に所定範囲のみ移動することが可能なように構成されている。このようにして据付けるべきコンクリートブロックの水平方向の移動を容易としながら、その移動範囲を所定量に制限することが可能となる。 【0055】 尚、上記の実施の形態では、一般形状のコンクリートブロックを対象としているが、従来例で示した特殊形状のコンクリートブロックにも同様に適用できることはいうまでもない。 【0056】 又、上記の実施の形態では、微細鋼球よりなる硬球を用いているが、これに限らずセラミックス、プラスチック等の硬い材料よりなる硬球を同様に用いても良い。 【0057】 更に、上記の実施の形態では、微細鋼球を保持するための粘着材として水糊を用いているが、微細鋼球を保持できるものであれば例えば水飴等の粘着性を有する流動体等の他の材料であっても良い。 【0058】 更に、上記の実施の形態では、鋼球をサンドブラスト用の球体を1例として用いているが、これ以外の鋼球や粒状球体であっても良いことはいうまでもない。 【0059】 更に、上記の実施の形態では、プレキャストコンクリートブロックとしてボックスカルバートに適用しているが、これ以外にアーチカルバートはもとより貯水槽、ガレージ、L型擁壁、水路、側溝、擁壁ブロック等にも同様に適用できることはいうまでもない。 【0060】 更に、上記の実施の形態では、平板は鉄板を用いているが、これに代えて、他の金属板、強化プラスチック板、強化セメントコンクリート材、ゴム板等を用いても良い。 【0061】 更に、上記の実施の形態では、微細鋼球を2枚の平板で挟んでいるが、設置すべきコンクリートブロックの底面の状況やその重量が軽いものによっては、コンクリートブロックを直接微細鋼球の上に載置して上方の平板を用いずに使用することも可能である。この場合、微細鋼球の径は12mm程度とすることが好ましい。そして、上方の平板に相当する板をコンクリートブロックの下面に埋め込むようにすれば、上記の実施の形態と同様の効果を奏する。この場合、コンクリートブロックの下面の外側の角を囲うようにL型鋼を埋め込めば、ガイドレールの垂直部材からのコンクリートブロックの保護効果と共により安定した移動が可能となる。 【0062】 更に、上記の第1の実施の形態では、ガイドレールとして断面L型の鋼材を用いているが、これに代えて、移動方向に延びるように形成した単なる平板を使用しても良い。 【0063】 尚、上記の第2の上記の実施の形態では、その変形例として高さ調整金具を用いているが、この金具を第1の実施の形態で示した断面L型のガイドレールの水平部材の下面に取付けて高さ調整すると共に、水平部材の上面に微細鋼球及び平板を取付けて水平方向の調整をするようにすれば、より使い勝手が向上する。 【図面の簡単な説明】 【図1】 この発明の第1の実施の形態によるコンクリートブロックの設置方法の概略を示した図である。 【図2】 図1のII-IIラインの断面図である。 【図3】 図2の“X”部分の拡大図である。 【図4】 図3のIV-IVラインの拡大断面図である。 【図5】 この発明の第2の実施の形態によるコンクリートブロックの設置方法の概略工程を示した図である。 【図6】 図5に示した工程による設置方法の変形例を示した図である。 【図7】 この発明の第3の実施の形態によるコンクリートブロックの設置器具の概略構造を示した平面図である。 【図8】 図7のVIII-VIIIラインの断面図である。 【図9】 この発明の第4の実施の形態によるコンクリートブロックの設置器具の概略構造を示した平面図である。 【図10】 この発明の第5の実施の形態によるコンクリートブロックの設置器具の概略構造を示した平面図である。 【図11】 図10のXI-XIラインの断面図である。 【図12】 従来のコンクリートブロックの設置方法の概略を示した図である。 【図13】 図12のXIII-XIIIラインの断面図である。 【図14】 図13の“Y”部分の拡大図である。 【符号の説明】 16…ボックスカルバート 19…基礎コンクリート 22…平板 23…微細鋼球 26,36…粘着剤 27…水平部材 35…第1平板 37…第2平板 39…プレキャストコンクリートブロック 尚、各図中同一符号は同一又は相当部分を示す。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
審理終結日 | 2005-03-31 |
結審通知日 | 2005-04-05 |
審決日 | 2005-04-18 |
出願番号 | 特願2001-31807(P2001-31807) |
審決分類 |
P
1
113・
536-
YA
(E03F)
P 1 113・ 1- YA (E03F) P 1 113・ 121- YA (E03F) |
最終処分 | 不成立 |
特許庁審判長 |
木原 裕 |
特許庁審判官 |
▲高▼橋 祐介 佐藤 昭喜 |
登録日 | 2004-01-23 |
登録番号 | 特許第3515961号(P3515961) |
発明の名称 | コンクリートブロックの設置方法及び設置器具 |
代理人 | 葛西 泰二 |
代理人 | 葛西 泰二 |
代理人 | 葛西 泰二 |
代理人 | 砂場 哲郎 |
代理人 | 砂場 哲郎 |