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審決分類 審判 全部無効 特123条1項8号訂正、訂正請求の適否  H02P
審判 全部無効 4項(5項) 請求の範囲の記載不備  H02P
管理番号 1120475
審判番号 無効2004-80257  
総通号数 69 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1986-03-06 
種別 無効の審決 
審判請求日 2004-12-15 
確定日 2005-05-02 
事件の表示 上記当事者間の特許第1982420号発明「直流電動機の速度制御装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1. 手続の経緯
本件特許第1982420号については、昭和59年8月10日に特許出願(特願昭59-168510号)がされ、平成6年12月12日に出願公告(特公平6-101952号)がされた後、平成7年10月25日に特許権の設定の登録がなされた 。
その後、平成10年11月13日に、特許権の設定の登録時の明細書について、特許請求の範囲の減縮を目的として請求項1を訂正するとともに、それと整合させるために明りょうでない記載の釈明を目的として発明の詳細な説明の一部を訂正することを求める訂正審判(平成10年審判第39076号。以下「本件訂正審判」という。)が請求され、訂正を認容する平成11年4月21日付けの審決が平成11年5月26日に確定した。さらに、平成14年10月24日、平成16年3月19日に、誤記の訂正を目的として訂正を求める訂正審判が請求され、いずれの訂正も認容するとした審決が確定している。
本件特許に対して、平成16年12月15日付けで松下電工株式会社より、特許無効審判の請求がなされた。そして、当該審判請求に対して、審判被請求人は、平成17年3月8日付けで答弁書を提出した。

第2. 本件訂正審判に係る訂正
本件訂正審判に係る訂正事項(以下「本件訂正」という。)は以下のとおりである。下線部分はいずれも訂正によって追加されたものである。
(1) 訂正事項1 (請求項1の訂正)
「直流電源の両端に接続された直流電動機及び半導体スイッチング素子の直列回路と、抵抗を介して前記スイッチング素子と並列に接続され、スイッチング素子のオフ時に直流電動機、抵抗を介して充電され、スイッチング素子のオン時に抵抗、スイッチング素子を介して放電するコンデンサと、スイッチング素子のオフ時にコンデンサの端子電圧が第1基準電圧より大きくなった時に前記スイッチング素子をオンさせると共にスイッチング素子のオン後直ちにコンデンサの端子電圧を第1基準電圧より小さい第2基準電圧と比較するように動作し、スイッチング素子のオン時にコンデンサの端子電圧が前記第2基準電圧より小さくなった時に前記スイッチング素子をオフさせると共にスイッチング素子のオフ後直ちにコンデンサの端子電圧を第1基準電圧と比較するように動作する比較制御手段とを備え、前記スイッチング素子のオン・オフデューティを制御して直流電動機を一定速度で回転させるようにしたことを特徴とする直流電動機の速度制御装置。」

(2) 訂正事項2(詳細な説明の〔実施例〕の末尾に追加)
「またコンパレータ6は、FET3をオフさせた後直ちにコンデンサ13の端子電圧をオフ時基準電圧VOFFと比較するように動作すると共にFET3をオンさせた後は直ちにコンデンサ13の端子電圧をオン時基準電圧VONと比較するようになるので、常に帰還制御が行われるようになり、直流電源1を100%活用できるようになって、高速回転領域及び重負荷領域での使用が可能となる。」

(3) 訂正事項3(〔発明の効果〕の訂正)
「以上のように本発明によれば、速度発電機やブリッジ回路を必要とせず、簡単な構成で直流電動機の速度を一定に制御できる制御装置を提供することが可能となる。また帰還制御が常に行われるようになるので、電源を100%活用できるようになり、高速回転領域及び重負荷領域での使用が可能となる。」

第3. 審判請求人の主張する無効理由の概要
審判請求人は、本件「特許第1982420号に係る発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする」との審決を求め、その理由として、次の3点を挙げている。
(1) 無効理由1
本件訂正は、周知でない新たな構成を付加したものであって、発明に新たな別の課題、作用効果を付加するものであり、訂正の前後において発明の技術的思想を異にするものであるから、実質上特許請求の範囲を変更するものであり、平成5年改正の特許法第126条第2項の規定に違反する。
本件特許は、同法第123条第1項第7号に該当し無効とすべきものである。
(2) 無効理由2
本件訂正は、その訂正前の明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものではないから、平成5年改正の特許法第126条第1項ただし書の規定に違反してされたものであり、本件特許は、同法第123条第1項第7号に該当し無効とすべきものである。
(3) 無効理由3
本件特許の特許請求の範囲には、比較制御手段における必須の構成である2つの基準電圧の切換動作につき記載されておらず、本件特許発明の構成に欠くことができない事項のみを記載したものではないので、本件特許は、平成5年改正の特許法第36条第5項(昭和62年改正前の特許法第36条第4項)に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第123条第1項第4号(同法第123条第1項第3号)に該当し無効とすべきものである。

第4 審判被請求人の主張の概要
審判被請求人は、本件訂正は、実質上特許請求の範囲を変更するものでなく、また、訂正前の明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、さらに、本件特許の特許請求の範囲には、本件特許発明の構成に欠くことができない事項が記載されていると主張する。

第5 無効理由に対する判断
(1) 無効理由1について
(ア) まず、「周知でない新たな構成を付加したものであるから、実質上特許請求の範囲を変更するものである」との点について検討する。
確かに、訂正前の特許発明が公知技術に包含され、かつ訂正によって、これに周知でない新たな構成が単に付加されただけであるような場合には、訂正前における発明の目的とするところが、全く異なる新たな目的にとって代わられることもあり得る。このような場合には、訂正の前後において発明の技術的思想が全く異なるものとなり、たとえ訂正前の明細書又は図面に記載された事項の範囲内での訂正であったとしても、第三者利益を害する虞もあることから、このような訂正は、実質上特許請求の範囲を変更するものとして認められるべきではない。
しかし、本来、訂正審判制度における特許請求の範囲の減縮は、主に無効審判請求に対する特許権者の防御手段としてその存在意義を有するものであるから、周知でない新たな構成が付加されたことをもって一律に訂正を認めないこととすれば、そのときには、防御手段としての訂正審判の存在意義は殆どなきに等しいものとなる。
訂正によって新たに生じることとなった効果が、訂正前の発明の効果に沿うものないしはその延長上に存在するもの、言い換えれば、訂正前の発明の効果が目指したところとその方向性において一致するものであるようなときには、その訂正は実質上特許請求の範囲を変更するものではないとされるべきである。

(イ) また、審判請求人は、「発明に新たな別の課題、作用効果を付加するものであり、実質上特許請求の範囲を変更するものである」とも主張する。
課題に関する明細書の記載自体には、訂正の前後において変更がないので、その主張の根拠は、具体的効果としての、「帰還制御が常に行われるようになるので、電源を100%活用できるようになり、高速回転領域及び重負荷領域での使用が可能となる。」との本件訂正による効果等の追加に関するものと考えられる。本件特許発明の訂正前の課題ないしは効果は、「速度発電機やブリッジ回路を必要とせず、簡単な構成で直流電動機の速度を一定に制御できる制御装置を提供すること」であった。本件訂正によって、効果については、訂正後において異なるものが付加されたとすることもできる。

(ウ) しかしながら、本件訂正は、訂正前における構成要件としての「比較制御手段」が、「スイッチング素子のオフ時にコンデンサの端子電圧が第1基準電圧より大きくなった時に前記スイッチング素子をオンさせると共にスイッチング素子のオン時にコンデンサの端子電圧が前記第2基準電圧より小さくなった時に前記スイッチング素子をオフさせる」というものであったものを、訂正によって、「スイッチング素子のオン時に抵抗、スイッチング素子を介して放電するコンデンサと、スイッチング素子のオフ時にコンデンサの端子電圧が第1基準電圧より大きくなった時に前記スイッチング素子をオンさせると共にスイッチング素子のオン後直ちにコンデンサの端子電圧を第1基準電圧より小さい第2基準電圧と比較するように動作し、スイッチング素子のオン時にコンデンサの端子電圧が前記第2基準電圧より小さくなった時に前記スイッチング素子をオフさせると共にスイッチング素子のオフ後直ちにコンデンサの端子電圧を第1基準電圧と比較するように動作する」としたものである。
ここに、訂正前においては、「比較制御手段」による、コンデンサの端子電圧と「第1基準電圧」及び「第2基準電圧」との比較動作が、いつの時点から行われるものであるのか明確には規定されていなかったのである。これに対して、本件訂正によって、それが、「スイッチング素子のオン後直ちに・・・比較するように動作し」、「スイッチング素子のオフ後直ちに・・・比較するように動作する」と、その比較動作の開始時期が明確に示されることとされたのである。これによって、訂正前の発明のものにおいて、もともと行われていた「帰還制御」が、本件訂正によって「常に」行われるものであるということが明確化されたのである。
(エ) 本件訂正は、本件特許発明の特許請求の範囲の「比較制御手段」に関する構成要件が元々有していた機能をより具体的にかつ明確にしたことに主眼があるものとされる。「帰還制御が常に行われるようになるので、電源を100%活用できるようになり、高速回転領域及び重負荷領域での使用が可能となる。」との訂正により追加された効果は、本件訂正事項1による、スイッチング素子のオン時、オフ時に「直ちに・・・比較するように動作」するとの本件訂正に係る「比較制御手段」に関する構成から必然的に生じる自明の効果であって、訂正前の「速度発電機やブリッジ回路を必要とせず、簡単な構成で直流電動機の速度を一定に制御できる制御装置を提供すること」の内の「速度を一定に制御できる」とする効果をより具体的に記述したものであるから、本件訂正によって追加された効果は全て、訂正前の効果に沿うものないしはその延長上に存在するものであって、訂正前の発明の効果が目指したところとその方向性において一致するものである。
このように、本件訂正は、「比較制御手段」の有する機能をより具体的にかつ明確にしたものであって、周知でない新たな構成を付加したものであるとしても、訂正後の発明の効果については、訂正前の発明の効果が目指したところとその方向性において一致するものである。課題についても、これは作用効果と表裏一体の関係にあることから、効果において述べた同様である。
したがって、本件訂正は、実質上特許請求の範囲を変更するものではない。

(2) 無効理由2について
(ア) 審判請求人は、本件訂正は、訂正前の明細書及び図面に記載した事項の範囲内においてなされたものではないと主張するので検討する。
ところで、訂正前の明細書及び図面には、特に特許公告公報第2頁第4欄第8行〜第26行に次の記載がある。
「コンパレータ6は、コンデンサ13の端子電圧Vが可変抵抗7の摺動端子上の端子電圧Vより大きくなったときに夫々理論値1及び理論値0の出力VOを発生し、理論値1の出力でFET3及びトランジスタ11をオンさせ、理論値0の出力でFET3及びトランジスタ11をオフさせる。
前記基準電圧Vは、FET3のオフ時すなわちトランジスタ11のオフ時にVOFF=・・・となり、FET3のオン時すなわちトランジスタ11のオン時にVON=・・・(<VOFF)となる。ここで、Rは固定抵抗8の抵抗値、Raは可変抵抗7の摺動端子と固定抵抗8側端子間の抵抗値、Rbは可変抵抗7の摺動端子と直流電源1側端子間の抵抗値、Eは直流電源1の出力電圧、Vceはトランジスタ11のオン時のコレクタ-エミッタ間電圧である。従って、基準電圧Vは、トランジスタ11のオフ時すなわちFET3のオフ時にVOFFと大きくなり、トランジスタ11のオン時すなわちFET3のオン時にVONと小さくなり、コンパレータ6はヒステリシス特性を有するようになる。」

(イ) ここで、本件特許発明における「スイッチング素子」、「第1基準電圧」、「第2基準電圧」とは、上記記載における「FET3」、「VOFF」、「VON」に対応するものであるから、本件訂正前の明細書の特に前記の記載及び図面の記載から次のことが明らかである。
・トランジスタ11のオンオフは、スイッチング素子のオンオフと同期している。
・第2基準電圧は、第1基準電圧より小さい。
・スイッチング素子のオフ時、すなわちトランジスタ11のオフ時に、基準電圧は第2基準電圧から第1基準電圧となる。
・スイッチング素子のオン時、すなわちトランジスタ11のオン時に、基準電圧は第1基準電圧から第2基準電圧となる。
・コンパレータ6による、基準電圧との比較は、図面からも明らかなとおり、常に行われる。

(ウ) そうすると、これらのことから、特許請求の範囲に付加された構成である訂正事項1は、全て本件訂正前の明細書又は図面に記載されていたものということができる。また、訂正事項2,3については、訂正事項1として付加された構成から必然的に生じる自明な作用効果である。
したがって、本件訂正は訂正前の明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものである。

(3) 無効理由3について
(ア) 審判請求人の主張は、本件特許の特許請求の範囲には、比較制御手段における必須の構成である2つの基準電圧の切換動作について記載がないというものである。
確かに、この2つの基準電圧の切換動作には、トランジスタ11のオンオフ動作が必要である。そして、本件特許発明の実施例において、コンパレータ6からの出力である理論値によって自動的にオンオフが切り替わるスイッチング素子とは異なり、トランジスタ11は、そのオンオフ動作が自動的に行われるものではない。
このことから、トランジスタ11について、オンオフ動作を行うための手段である切換手段の存在が必要であるようにも考えられる。

(イ) しかし、本件特許の特許請求の範囲には、比較制御手段の機能として、「・・・スイッチング素子のオン後直ちに・・・第1基準電圧より小さい第2基準電圧と比較する・・・、・・・スイッチング素子のオフ後直ちに・・・第1基準電圧と比較する・・・」とあるように、この比較制御手段は、スイッチング素子のオン、オフにあわせて、第2基準電圧から第1基準電圧へ、またその逆へと、比較される基準電圧が変化する機能を有しているということができる。即ち、この比較制御手段には、その有する機能として、切換動作が含まれているとすることができるのであって、この機能をさらに具体的に、かつ明確させるまでの必要性はない。

(ウ) ところで、審判請求人は、「本件特許発明の特徴は、モータの速度制御においてヒステリシスコンパレータを用いた点にある。」、「1個のコンパレータで比較制御動作を実現するためには、・・・2つの基準電圧(VON、VOFF)の切換動作が発明の課題解決に不可欠の構成となる。」などと無効理由となるべきとする根拠を具体的に挙げているので、この点について検討する。
本件特許発明においては、比較制御手段が果たすべき役割が機能として特許請求の範囲に記載されている。本件特許発明の場合、ヒステリシスコンパレータは比較制御手段のひとつの具体的手段であって、ヒステリシスコンパレータをもって規定しなければ、発明の作用効果を奏することができないというものではない。ヒステリシスコンパレータが有する具体的機能の内、本件特許発明が必要不可欠とするものを機能として記載しているのであるから、その限りにおいて、特許請求の範囲における記載要件は満たすということができる。また、2つの基準電圧の切換動作についても、これを積極的に付加しなくとも、前述のとおり、比較制御手段において機能として取り込まれているのであるから、それ以上の記載は要求されない。

(エ) 本件特許の特許請求の範囲において、ヒステリシスコンパレータを規定する必要はなく、また、基準電圧の切換動作に関する構成を付加しなければならないものでもないので、そこには、発明の構成に欠くことができない事項が記載されているということができる。

第6 むすび
以上のとおりであるから、審判請求人の主張する理由によっては、本件特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、審判請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-03-14 
結審通知日 2005-03-16 
審決日 2005-03-28 
出願番号 特願昭59-168510
審決分類 P 1 113・ 831- Y (H02P)
P 1 113・ 532- Y (H02P)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小川 謙  
特許庁審判長 高木 進
特許庁審判官 城戸 博兒
三友 英二
登録日 1995-10-25 
登録番号 特許第1982420号(P1982420)
発明の名称 直流電動機の速度制御装置  
代理人 井坂 光明  
代理人 三好 秀和  
代理人 岩崎 幸邦  
代理人 勝 治人  
代理人 小西 恵  
代理人 井沢 博  
代理人 ▲高▼橋 俊一  

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