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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1120962
審判番号 不服2002-14749  
総通号数 69 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1994-08-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-08-05 
確定日 2005-07-26 
事件の表示 平成 4年特許願第512039号「リポソーム型プロスタグランジン製剤」拒絶査定不服審判事件〔平成 4年11月12日国際公開、WO92/19243、平成 6年 8月25日国内公表、特表平 6-507417〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、1992年5月7日(パリ条約による優先権主張1991年5月7日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成14年4月23日付けで拒絶査定され、これに対し平成14年8月5日に拒絶査定に対する審判請求がされたものである。

2.本願発明について
本願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、特許請求の範囲の請求項1に記載された、以下のとおりのものである。
「【請求項1】哺乳動物の細胞活性化/接着症候群を治療するために製造された、リポソームと結合したプロスタグランジンを含む組成物。」

(1)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例1、2及び4には以下の事項が記載されている。

引用例1(特開昭60-208917号公報)
(ア)「(1)PGE1様プロスタグランジンおよび医薬上許容される担体または希釈剤からなることを特徴とするヒトにおけるARDSまたは多生体器官不全の治療または予防用医薬組成物。
・・・
(3)該プロスタグランジンがPGE2またはPGI2、その塩、エステル、アミドまたはその安定化誘導体である前記第(1)項の医薬組成物。
・・・
(6)障害性敗血症またはショックから生じた多器官不全の進行を抑制するに有効な量のPGE1様プロスタグランジンおよび医薬上許容される担体または希釈剤からなることを特徴とする該多器官不全の進行しやすいヒトまたは進行しているヒトの致死確率減少用医薬組成物。」(特許請求の範囲)
(イ)「本発明の医薬投与形のプロスタグランジンは、式[I]のPGE1様化合物については、約1〜100ng/kg/分の速度で、PGI2、その塩、エステル、アミドおよび安定化類似体については、0.1〜10ng/kg/分の速度で、各々、約2〜14日間、患者が危険な状態から脱するか、またはもはや、器官不全により脅かされなくなるまで患者に全身的に、好ましくは、静脈内に投与される。好ましい速度は、各々、約7日以上の期間にわたって、各々、20〜30ng/kg/分および2〜5ng/kg/分である。」(公報第13頁右下欄、第14行〜第14頁左上欄、第4行)
(ウ)「実施例
PGE1による激しい胸疾患の治療法
PGE1 2.5mgを含有するプロスチン・ヴィ・アール・ペディアトリック(商標)の5mlアンプル1本をD5Wまたは生理食塩水1lに混合して静脈用溶液を製造する。この溶液またはPGE1を含まずに担体だけを含む対照溶液を予測無作為二重盲検プラセボ対照法によりARDSにかかっている41人の患者に投与する。PGE1または対照溶液を、まず、5ng/kg/分の用量で、ついで、30ng/kg/分の速度に達するまで30分毎に5ng/kg/分づつ増加させる。この投与を7日間または患者が危険な状態を脱するまで続ける。注入中断後30日した生存率を以下に示す。
処置 患者数 生存率(%)
PGE1 21 71.4
対照 20 35.0」(公報第15頁左下欄、下から3行〜同頁右下欄、下から6行)

引用例2(特開昭62-167728号公報)
(エ)「1.ヒトにおける血管形成における機能不全を減じる方法であって、血管形成が行われる心筋動脈中に細胞保護、抗血栓効果及び抗血漿板効果並びに抗痙攣効果を与える薬理学的量の動脈内プロスタグランジン化合物を導入することを含み、動脈中に導入されるプロスタグランジン化合物の量がその様な動脈により、正常な状態及び発作時に生成されるプロスタグランジンの量よりも実質的に多いことを特徴とする方法。
・・・
5.ヒトにおける血管形成過程における機能不全を減じるために有効な、及び、ボーラス投与のために適した組成物であって、適当な量において、細胞保護、抗血栓効果及び抗血漿板効果並びに抗痙攣効果を与えるプロスタグランジン化合物、及び該プロスタグランジン化合物を変化せしめず、又その有効性を制御せずそして血管を拡張させるのに十分な速度でプロスタグランジンを放出するプロスタグランジンのための担体を含んでなり、該プロスタグランジン化合物が該担体により担持され、そして12ナノグラム〜200ナノグラムの範囲でのプロスタグランジンE-1の投与によりもたらされる効果にほぼ同等の効果をもたらすのに必要な量で存在することを特徴とする組成物。」(特許請求の範囲)
(オ)「プロスタグランジン化合物は、血管形成後、例えば9〜15時間の選択された時間に亘って投与され得る。この静脈投与が前記冠動脈内投与と組合わされた場合、極めて有効な結果をもたらすことが見出された。滴下により投与される溶液中のプロスタグランジンの量は、プロスタグランジンE-1についてkg体重当り毎分約17ナノグラム〜約100ナノグラムの範囲にあるべきである。好ましくは、プロスタグランジンE-1は、kg重当り毎分約15〜約40ナノグラムの範囲、更に好ましくは体重kg当り毎分約20ナノグラム投与される。」(公報第10頁左上欄、第1〜12行)
(カ)「血管形成に関連した再狭窄の問題は心臓医を長期間に亘り悩ませてきたものの1つである。更に、再狭窄の原因について殆ど知られていない。にも拘わらず、プロスタグランジン化合物をここに記載した範囲で投与した場合に極めて実質的な再狭窄の減少があることが観察された。」(公報第15頁右下欄、第1〜6行)

引用例4(特開平3-95118号公報)
(キ)「薄膜脂質に正荷電脂質が組み込まれてなることを特徴とするプロスタグランジン含有脂肪小体製剤。」(特許請求の範囲)
(ク)「PGは、血管拡張、末梢循環改善、降圧、高脂肪分解、ナトリウム利尿など種々多彩な生理作用を有することから、医薬品への適用がなされている。この有用なPG類を医薬品として適用する際には、生体内で容易に不活性物質へ代謝されることと、病巣選択性が問題となる。
そのため、一般にPG類製剤は頻回投与が必要となり、患者の苦痛を増すばかりでなく目的以外の組織に対する作用が副作用となる恐れがあり、これら問題点の解決の手段としてPG類を脂肪小体に含有させた製剤が作られている。」(公報第1頁左下欄、下から7行〜同頁右下欄、第4行)
(ケ)「しかし、脂肪小体含有製剤においても、製剤としての安定性が悪く、一旦、脂肪小体に含有させたPG類が遊離してくるという問題点がある。」(公報第1頁右下欄、第6〜8行)
(コ)「本発明の目的は、PG類を脂肪小体に含有させた製剤において、PG類の遊離が抑制された脂肪小体製剤を提供することにある。」(公報第1頁右下欄、第10〜12行)
(サ)「実験例
・・・・・
トリチウム標識PGE1含有リポソームの調製
・・・・・
第2表
リポソーム EPC OAm PGE1
AU1 0.375ml - 15μl
(100μmol) (100μg)
AU2 0.375ml - 15μl
(100μmol) (100μg)
AU3 0.338ml 0.132ml 15μl
(90μmol) (20μmol) (100μg)
AU4 0.300ml 0.264ml 15μl
(80μmol) (40μmol) (100μg)
・・・・・
中性溶媒中での安定性試験
・・・・・
以上の結果から、pH7.4でのリポソームからのPGE1の遊離を防ぐためには、・・・リポソームの膜脂質に正電荷脂質を加えることが有効であることが分かる。」
(なお、EPCはフォスファチジルコリンを、OAmはオレイルアミンをそれぞれ表わす。)(公報第3頁左下欄、下から5行〜第5頁左上欄、下から2行)
(シ)「以上の結果から、pH7.4でのリポソームからのPGE1の遊離を防ぐためには、リボソームの多重層化は効果がなく、リポソームの膜脂質に正電荷脂質を加えることが有効であることが分かる。」(公報第5頁左上欄、下から5行〜下から2行)
(ス)「従って、本発明によれば安定性に優れたPG含有脂肪小体を製剤として提供することができる。」(公報第5頁左下欄、第9〜10行)

(2)対比・判断
引用例1には、PGE1様プロスタグランジンを含有する、ARDSおよびそれに関連する多器官不全の治療または予防用医薬組成物が記載され、引用例2には、プロスタグランジンE-1(PGE1と同義)などのプロスタグランジン化合物を含有した、ヒトにおける血管形成における機能不全を減じるための組成物が記載されている。
本願発明における「哺乳動物の細胞活性化/接着症候群」とは、成人呼吸窮迫症候群(ARDS)や血管形成後の再狭窄を含むものである(本願公開公報第4頁左下欄)から、本願発明と引用例1及び2に記載された発明とは、「哺乳動物の細胞活性化/接着症候群を治療するために製造された、プロスタグランジンを含む組成物」である点で一致し、一方、前者においてはプロスタグランジンがリポソームと結合したものであるのに対して、後者においては、このような限定がなされていない点で相違する。
上記一致点に関し、請求人は引用例1及び2には、(i)プロスタグランジンを細胞活性化/接着症候群の治療のために投与したとき、プロスタグランジンが遊離又は非結合状態の場合には、有効でないこと、また(ii)炎症促進効果を有し、これがプロスタグランジンの抗炎症活性を打ち負かし、細胞活性化/接着症候群の治療には有効でないことについては、記載がない、と主張する。
そして、(i)の根拠として、本願明細書及び図面の記載、とくに第7図に示された結果及び参考資料1(Bone et al.,”Clinical Investigations in Critical Care:Randomized Double-Blind,Multicenter study of Prostaglandin E1 in Patients with the Adult Respiratory Distress Syndrome”, CHEST 96(1):114-119(1989))の記載に言及するが、まず、本願の第7図に示された結果は、マウスに対するものであるのに対して、引用例1及び2はいずれも実際の患者(複数)に投与して有効であることを確認しているのであるから、第7図の結果が引用例1及び2において示された有効性を否定する根拠とはなりえず、参考資料1の記載も、投与順序等において引用例1及び2に記載された投与治験と相違するものであり、ある投与順序等において、有効でないとしても、そのことが、引用例1及び2に記載された有効性を否定するものではない。また(ii)も、内毒素血症のラットモデルについてのものであり、実際に患者(複数)に投与して確認された引用例1及びの有効性を否定するものではない。
したがって、引用例1及び2は、プロスタグランジンを遊離又は非結合状態で投与した場合に、細胞活性化/接着症候群の治療に有効であることを示すものである。
次に上記相違点について以下に検討する。
引用例4には、「PGは、血管拡張、末梢循環改善、降圧、高脂肪分解、ナトリウム利尿など種々多彩な生理作用を有することから、医薬品への適用がなされている。この有用なPG類を医薬品として適用する際には、生体内で容易に不活性物質へ代謝されることと、病巣選択性が問題となる。
そのため、一般にPG類製剤は頻回投与が必要となり、患者の苦痛を増すばかりでなく目的以外の組織に対する作用が副作用となる恐れがあり、これら問題点の解決の手段としてPG類を脂肪小体に含有させた製剤が作られている。」(上記(ク))と記載されており、この記載から、医薬品として適用する際のPG類共通の欠点として、生体内で容易に不活性物質へ代謝されることと、病巣選択性が問題となること、そしてその解決の手段としてPG類を脂肪小体に含有させた製剤とすることが知られていたことがわかる。
そして、引用例4の実験例では、PGE1を含有したリポソームが記載(上記サ)されている。
そうすると、引用例1及び2により、細胞活性化/接着症候群の治療に有効であることが知られているプロスタグランジン類の効果をより高めるために、プロスタグランジン類を引用例4に記載されているように脂肪小体に含有させることは、当業者が容易に想到し得ることといわざるをえない。
請求人は、審判請求書において、引用例4は、「プロスタグランジン含有脂肪小体製剤」を用いた治療としての作用効果については全く記載されていないと主張するが、引用例4の上記記載(ク)は、引用例4の請求項に係る発明(引用例4に係る発明自体は、その脂肪小体の安定性を改善するために、薄膜脂質に正電荷脂質を組み込むことを特徴とするものである)の前提として、従来から、PG類を脂肪小体に含有させることが行われていたことを記載するものであり、脂肪小体に含有されたプロスタグランジン、すなわちリポソームと結合したプロスタグランジンが遊離のプロスタグランジンと比較して、よりその本来の治療効果を奏することを開示しているということができる。
請求人はまた、引用例4のプロスタグランジン含有脂質小体製剤はその薄膜脂質に正電荷物脂質が組み込まれているが、本願発明のリポソームには正電荷脂質が含まれることはなくその点でも相違するとも主張するが、上記したように、引用例4の請求項に係る発明は、リポソームと結合したPG類の製剤について、その安定性をより改善しようとするものであり、引用例4の実験例では、第2表として、正電荷脂質を含むものと含まないものがいずれも製造され、その安定性の比較がされている(上記(サ))。
したがって、請求人の主張はいずれも妥当でないものである。
そして、本願発明の奏する効果についても、引用例4に、プロスタグランジン類をリポソームと結合させることは、遊離のプロスタグランジン類が生体内で容易に不活性物質へ代謝されることを抑え、病巣選択性を改善する手段として知られ、またそのような製剤が作られていたことが記載されているのであるから、遊離のプロスタグランジン類と比較して、リポソームと結合したプロスタグランジン類が少量で有効であることは当業者が容易に想到し得ることにすぎず、格別顕著な効果ということもできない。
以上のとおりであるから、本願発明は、引用例1,2及び4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1,2及び4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-01-19 
結審通知日 2005-02-08 
審決日 2005-02-23 
出願番号 特願平4-512039
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 八原 由美子  
特許庁審判長 竹林 則幸
特許庁審判官 亀田 宏之
深津 弘
発明の名称 リポソーム型プロスタグランジン製剤  
代理人 大多和 明敏  
代理人 大多和 曉子  

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