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審決分類 審判 査定不服 特36 条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1120983
審判番号 不服2003-23296  
総通号数 69 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1993-04-20 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-12-01 
確定日 2005-08-10 
事件の表示 平成 4年特許願第 87185号「アフタ性潰瘍および他の粘膜皮膚障害治療剤用ベヒクル」拒絶査定不服審判事件〔平成 5年 4月20日出願公開、特開平 5- 97706〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
1.手続の経緯・本願発明

本願は、平成4年4月8日(パリ条約による優先権主張 1991年4月9日(US)アメリカ合衆国)の出願であって、その請求項1〜2に係る発明は、平成16年1月5日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1〜2に記載されたとおりのものと認められるところ、その請求項1に記載された発明は次のとおりである(以下、「本願発明」という)。

「処置剤とペーストベヒクルとからなるアフタ性潰瘍および他の粘膜皮膚障
害治療剤に用いるペーストベヒクルであって、
27〜48重量%の鉱油と12〜20重量%のゼラチンと12〜20重量%のペクチンと3〜12重量%のペトロレータムと10〜20重量%の架橋ナトリウムカルボキシメチルセルロースと8〜10重量%のCMCナトリウム(7HF)と8〜10重量%のCMCナトリウム(7MF)と3〜7重量%のマイクロクリスタリンワックスと3〜10重量%のグリセリンモノステアリン酸エステルと2〜5重量%のポリエチレンと1〜15重量%のキサンタンガムと0.1〜3重量%の二酸化チタンと0.5〜3重量%のベンジルアルコールとを含むアフタ性潰瘍および他の粘膜皮膚障害治療剤用のペーストベヒクル。」


2.原査定の拒絶理由

原査定の拒絶の理由は、(上記補正前の)本願発明はアムレクサノックス等を有効成分とするアフタ性潰瘍等の治療剤に関する医薬用途発明であるところ、本願明細書には、アムレクサノックスを配合したトローチの製剤例が記載されるにとどまり、アムレクサノックス等がアフタ性潰瘍等の治療効果を奏することが確認できる薬理試験のデータ又はこれと同視しうる記載が何ら見当たらず、本願明細書の発明の詳細な説明には、(上記補正前の)本願発明を当業者が容易に実施することができる程度にその目的、構成及び効果が記載されていないから、この出願は、明細書の記載が特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないというものである。

具体的には、本願明細書にアムレクサノックスを配合した製剤例として記載されているのは、「トローチ」のみであり(段落【0022】)、一方、患者に投与して薬理効果を確認した唯一の試験例である実施例5において投与している物は「付着性ペーストまたはベヒクル付着性ペーストによる5%の処置剤」であって、該「処置剤」が上記「トローチ」と同じ物かは不明であり、また、本願明細書の「処置剤」は「アムレクサノックス」(段落【0014】)のみならず、「媒介物放出阻止剤、5-リポキシゲナーゼ阻止剤、ロイコトリエン拮抗剤、PAF拮抗剤」(段落【0012】)をも包含することを考慮すれば、実施例5に記載の「処置剤」がアムレクサノックスであるとは特定できず、結局、実施例5の薬理試験で投与している成分がアムレクサノックスであると認めるに足る根拠が示されているとは言えない。


3.審判請求人の主張

これに対して審判請求人は、平成16年4月1日付けの手続補正書により補正された審判請求書において、以下のような主張をしている。

<審判請求書における主張の概要>
平成16年1月5日付け手続補正書により、発明の対象を、アムレクサノックスを有効成分とするアフタ性潰瘍等の治療剤から、これらの治療剤に用いるペーストベヒクル等に変更する補正を行ったところ、本願明細書には、発明の目的として、口腔内における特定部位に指先で施しうる或いは口腔粘膜と接触させるべく容易に処方しうる投与形態物におけるアフタ性潰瘍等の処置法を提供すること(段落【0009】)や、より大きい効果につき種々の放出速度で組成物としてアフタ性潰瘍等を処置する方法を提供すること(段落【0010】)が記載され、該処置法に用いる投与形態物(治療剤)においては、有効成分である処置剤の放出速度を制御できるベヒクルが重要である旨も示唆されている(段落【0016】参照)。本願発明はこのようなベヒクルを提供するものであり、その具体的形態として、段落【0018】以下に口腔ペースト等が記載されている。そして、本願発明のベヒクルを処置剤と組み合わせて配合した治療剤は、アフタ性潰瘍を治癒し、処置剤の放出速度が大きい場合に問題となるような副作用が生じることがないという顕著な効果を奏する(段落【0040】、【0042】参照)。したがって、原査定の対象となった治療剤の発明とは異なり、治療剤用ペーストベヒクルに係る本願発明は、本願明細書にその組成、製造法などを含め、発明の目的、構成及び効果について、当業者が容易に実施できる程度に記載されている。

また、審判請求人は、当審の平成17年3月2日付けのFAXによる審尋に対する平成17年3月14日付けの回答書において、本願発明の目的、構成、効果に関連して以下のように述べている。

<審尋に対する回答書における主張の概要(目的、構成、効果について)>
本願発明は特定の「処置剤」とともに用いる特定組成の「ベヒクル」に関するものであり、該処置剤がもたらすアフタ性潰瘍等の疾患の治癒を有効に機能させるためには、処置剤が疾患部位に接触し保持される必要がある。このような機能・作用を付与するため本願発明の「ベヒクル」は用いられ、例えば投与形態が口腔ペーストの場合には、(1)ペーストは所望量の処置剤が放出されるまで粘膜に付着していること、(2)ペーストはその塗布部位から移動してはならないこと((3)〜(6)は省略)という特性を有していなければならない(本願明細書段落【0018】参照)。本願の実施例1及び2には、処置剤とともに口腔内に適用するのに適したペーストベヒクル自体の組成が記載されており、これらのペーストベヒクルが上記(1)〜(6)の特性を全て満たし、口腔ペースト用のベヒクルとして有用であったことが記載されている。すなわち、本願明細書には、ベヒクル自体の構成のみならず目的、効果も記載されている。


4.当審の判断

そこで、本願明細書の記載が特許法第36条第4項に規定する要件を満足するかについて、以下に検討する。

本願明細書の段落【0016】には、薬剤(処置剤)の投与形態及び放出速度に関して、以下のように記載されている。
「口腔粘膜に・・・薬物を供給するのに適した投与形態物はペースト・・・およびデンタルフロスを包含する。これら投与形態物は全て使用するのに便利であるが、たとえばペースト・・・およびゲルのような或る種のものは口腔内の特定部位に指先で施しうる比較的容易さのため或いはこれらを容易に口腔粘膜と接触させるべく処方しうる容易さのため一層有利であると考えられる。
全ゆる投与形態物のための重要な物理的特性は投与形態物からの処置剤の放出速度である。たとえばニトログリセリンを含有する錠剤は、・・・急速性を得るよう処方されることが知られている。しかしながら、この特徴は全ての薬剤につき望ましいとは言えない。局部的作用方式または口腔粘膜を介する比較的低い吸収速度を持った薬剤を目的とする薬剤の場合、投与物態物から薬剤をゆっくり放出させることも望ましい。このような緩徐の放出速度は薬剤の嚥下を最小化させると共に薬理学的もしくは毒物学的副作用の発生を低下させ或いは除去する。・・・本出願の主題である処置剤の場合、両種類の放出速度を与えるべく両種類を処方するよう確立される。」

また、同段落【0018】には、口腔ペーストの満たすべき特性に関して、以下のように記載されている。
「口腔内に使用するためのペーストの主たる規準は次の通りである:(1)ペーストは所望量の処置剤が放出されるまで粘膜に付着すべきである;(2)ペーストはその塗布部位から移動してはならない;((3)〜(6)は省略)」

これらの記載によれば、本願明細書には、ペースト状の投与形態物(ペースト状治療剤に相当)は、口腔内の特定部位に指先で容易に施したり、容易に口腔粘膜と接触させるように処方したりできるため有利であること、ペースト状治療剤を口腔粘膜に使用する際には、薬剤(処置剤に相当)の放出速度を制御するように処方すべきこと(すなわち処置剤の急速な放出と緩徐な放出の両種類の放出速度を与えるように処方すべきこと)、及び、ペースト状治療剤は所望量の処置剤が放出されるまで口腔粘膜に付着すべきであって塗布部位から移動してはならないことが、記載されていると認められる。

ところで、本願発明は、処置剤とペーストベヒクルとからなる「アフタ性潰瘍及び他の粘膜皮膚障害」の治療剤に用いるための特定組成のペーストベヒクルに関する発明であり(上記1.参照)、該「処置剤」は、「媒介物放出阻止剤、5-リポキシゲナーゼ阻止剤、ロイコトリエン拮抗剤、PAF拮抗剤」(本願明細書段落【0012】)及び「アムレクサノックス、並びにその同族体および類似物」(同段落【0014】)という物質群から選ばれた特定物質を意味している(当審の平成17年3月2日付けのFAXによる審尋に対する平成17年3月14日付けの回答書も併せて参照)。

つまり、本願発明に係るペーストベヒクルは、上記処置剤である特定の物質を使用した「アフタ性潰瘍および他の粘膜皮膚障害治療剤用」のペーストベヒクルであるから、必然的に、本願発明の作用効果は、上記特定物質を使用して上記特定疾病の治療を行うという医薬用途と一体不可分であり、本願発明は特定の医薬用途と切り離してその作用効果を論ずることはできない。

そして、一般に、ある物質をある疾病の治療に用いる医薬用途発明においては、物質名や化学構造だけから作用効果の有無や程度を予測することは困難であり、明細書に有効量、投与方法、製剤化手段等がある程度(一般的に)記載されている場合であっても、それだけでは当業者は当該物質が実際にその用途に使用できるか否かを知ることができないから、明細書に薬理データ又はそれと同視しうる記載をしてその用途を裏付ける必要がある。

そうすると、たとえ、本願発明のペーストベヒクルが満たすべき一般的な特性については、上記段落【0016】及び【0018】に記載されたペースト状治療剤に期待される望ましい特性に沿ったものであることを当業者が一応理解できるとしても、特定組成のペーストベヒクルが特定の医薬と共に用いられて所期の作用効果を奏するか否かを評価又は理解するためには、まず上記特定の医薬に係る物質が特定疾病の治療に実際に効果があったことが前提となるのは当然であり、具体的には、「媒介物放出阻止剤」、「5-リポキシゲナーゼ阻止剤」、「ロイコトリエン拮抗剤」、「PAF拮抗剤」及び「アムレクサノックス(類似物)」という物質群から選ばれた特定物質が、「アフタ性潰瘍または他の粘膜皮膚障害」という特定疾病の治療に関して実際に効果があることを裏付ける記載が明細書中にあることが条件となる。

そして、本願明細書には、上記のような効果を裏付ける記載、すなわち薬理データ又はそれと同視しうる記載は何ら見当たらない。なるほど実施例5には、「本発明の付着性ペーストによる5%処置剤」(ペーストベヒクルを処置剤と組み合わせて配合したペースト状治療剤であると認められる)を患者に投与した結果、アフタ性潰瘍の改善効果があったこと、及び、副作用がなかったことを確認した旨が記載されている(段落【0034】〜【0042】)ものの、この「処置剤」が具体的に何なのか全く記載されておらず、物質の種類が特定できない(上記物質群のうち、どれを使用したのか判然としない)以上、この実施例5の記載を薬理データ又はそれと同視しうる記載とみることはできない。

さらに、本願明細書の他の記載を精査しても、上記特定物質に係る「処置剤」がアフタ性潰瘍等の治療に有効であったことを薬理データ又はそれと同視すべき程度の具体性をもって記載した箇所は見当たらない。

そうすると、上記特定物質が上記特定疾病の治療に効果があることを本願明細書の記載をもって裏付けられない以上、本願発明のペーストベヒクルが、上記特定の医薬と共に用いられて所期の作用効果を奏するか否かを評価又は理解することはできず、本願明細書に接した当業者は、特定医薬用途向けペーストベヒクルに係る本願発明の作用効果を評価又は理解することができないと言わざるを得ない。


5.むすび

以上のとおりであるから、本願明細書には、当業者が容易に本願発明を実施することができる程度に発明の目的、構成及び効果が発明の詳細な説明に記載されていない。

したがって、本願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-03-15 
結審通知日 2005-03-17 
審決日 2005-03-29 
出願番号 特願平4-87185
審決分類 P 1 8・ 531- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 上條 のぶよ  
特許庁審判長 竹林 則幸
特許庁審判官 中野 孝一
深津 弘
発明の名称 アフタ性潰瘍および他の粘膜皮膚障害治療剤用ベヒクル  
代理人 三好 秀和  
代理人 三好 保男  

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