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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08L
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C08L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08L
管理番号 1121168
異議申立番号 異議2003-71665  
総通号数 69 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1997-01-14 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-07-04 
確定日 2005-07-25 
異議申立件数
事件の表示 特許第3362089号「プロピレン樹脂組成物」の請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3362089号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 1.手続きの経緯
特許第3362089号の請求項1〜4に係る発明は、平成7年7月5日に出願され、平成14年10月18日にその発明について特許権の設定がなされ、その後、その特許について、特許異議申立人 岩田茂子(以下、「特許異議申立人A」という。)及び特許異議申立人 近藤 武(以下、「特許異議申立人B」という。)より特許異議申立てがなされ、取消の理由が通知され、その指定期間内である平成16年3月12日に特許異議意見書が提出されたものである。
2.本件発明
本件請求項1〜4に係る発明(以下、「本件発明1」〜「本件発明4」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1〜4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】 下記(A)〜(C)各成分の合計量が100重量部となる様に配合されてなることを特徴とする、プロピレン樹脂組成物。
(A)o-ジクロルベンゼンによる分別において50℃で溶出する成分として表されるエチレン・プロピレンランダム共重合部分を5〜30重量%含有し、メルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が20〜200g/10分であるプロピレン・エチレンブロック共重合体 ・・・50超過〜80重量部
(B)メルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が0.1〜20g/10分、密度が0.869〜0.872g/cm3かつ共重合コモノマーが炭素数8以上のα-オレフィンであるエチレン・α-オレフィン共重合体 ・・・・・15〜37重量部
(C)平均アスペクト比が4以上の無機フィラー ・・・・5〜13未満重量部
【請求項2】 (B)成分が、エチレン3連鎖分率60%以上かつα-オレフィンコモノマー含量10〜17モル%の共重合体である、請求項1に記載のプロピレン樹脂組成物。
【請求項3】 (B)成分が、メタロセン触媒によって重合された共重合体である、請求項1又は請求項2に記載のプロピレン樹脂組成物。
【請求項4】 プロピレン樹脂組成物が、下記の物性を有する組成物である、請求項1に記載のプロピレン樹脂組成物。
メルトフローレート:10超過〜80g/10分未満
曲げ弾性率 :11,000超過〜20,000kg/cm2IZOD衝撃強度 :5ckg・cm/cm2超過
ロックウェル硬度 :50超過〜80未満」
3.特許異議申立についての判断
3-1 特許異議申立人の主張
特許異議申立人Aは、甲第1〜7号証を提出し、次のように主張する。
(1)本件請求項1〜4に係る発明は、甲第1〜6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから特許法第29条第2項の規定に違反する。
(2)本件請求項1〜4に係る発明は、本出願の日前の特許出願であって、本出願後に出願公開がされた特願平8-98355号(特開平9-143337号公報である甲第7号証参照)の願書に最初に添付された明細書に記載された発明と同一であるから、特許法第29条の2の規定に違反する。
(3)本件請求項1〜4についてした手続補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものではないから、特許法第17条の2第3項の規定に違反する。
特許異議申立人Bは、甲第1〜3号証及び参考文献1〜4を提出し、次のように主張する。
(1)本件請求項1〜4に係る発明は、甲第1号証に記載された発明又は甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当するか又は特許法第29条第2項の規定に違反する。
(2)本件請求項1〜4に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反する。
(3)本件請求項1〜4に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反する。
(4)本件特許明細書の記載は不備であるから、本件特許は特許法第36条第4項に規定する用件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。
3-2.判断
3-2-1.取消理由
当審において、平成15年12月19日付で通知した取消理由は、
「(1)本件請求項1〜4に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記刊行物1〜6に記載された発明に基づいて、または、下記刊行物1〜8に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に発明することができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。
(2)本件特許明細書の記載は不備なので、その特許は特許法第36条第4項に規定する用件を満たしていない出願に対してされたものである。」というものであり、引用された刊行物等は次のとおりである。
〈刊行物等〉
刊行物1:特開平6-248156号公報(特許異議申立人Aの甲1号証)
刊行物2:国際公開第94/06859号パンフレット(特許異議申立人Aの甲2号証)
刊行物3:特開平7-145298号公報(特許異議申立人Aの甲3号証)
刊行物4:特開平6-192506号公報(特許異議申立人Aの甲4号証)
刊行物5:特開平6-248155号公報(特許異議申立人Aの第5号証)
刊行物6:特開平7-157628号公報(特許異議申立人Aの甲6号証)
刊行物7:特開平6-192500号公報(特許異議申立人Bの甲1号証)
刊行物8:特開平5-331348号公報(特許異議申立人Bの甲3号証)
参考資料9:JOURNAL OF POLYMER SCIENCE VOL.51.PAGES387-398(1961年)(特許異議申立人Bの参考文献1)
参考資料10:「高分子改質技術 配合・加工」、後藤邦夫他2名編、株式会社化学工業社、昭和47年10月1日、第102〜106頁(特許異議申立人Bの参考文献2)
参考資料11:「日本ゴム協会誌」第60巻、第1号、1987年、第38〜44頁(特許異議申立人Bの参考文献3)
参考資料12:JIS K7210(特許異議申立人Bの参考文献4)
3-2-2.刊行物1〜8の記載内容
刊行物1:
(1-1)「下記に示す成分(A)及び成分(B)からなることを特徴とするプロピレン系樹脂組成物。
成分(A)
下記の重合体部(a)及び重合体部(b)から構成され、全体のMFRが5〜200g/10分であるプロピレン・α-オレフィンブロック共重合体 50〜97重量%
重合体部(a):MFRが20〜200g/10分で、密度が0.9070/cm3以上のプロピレン単独重合体部 80〜95重量%
重合体部(b):プロピレン以外のα-オレフィン含量が20〜50重量%で、MFRが0.01〜1g/10分のα-オレフィン・プロピレンランダム共重合体部 20〜5重量%
成分B:
メタロセン触媒を用い、スラリー法により製造された下記に示す(a’)〜(c’)の性状を有するエチレンと炭素数4〜18のα-オレフィンとの共重合体 50〜3重量%
(a’)MFRが0.01〜20g/10分
(b’)密度(D)が0.913g/cm3以下
(c’)α-オレフィン含量が10〜90重量%。」(【請求項1】)
(1-2)「本発明の目的は、ポリプロピレン樹脂の耐衝撃性の問題点を改善し、耐衝撃性が格段に優れたポリプロピレン樹脂組成物を提供することにある。」(段落【0003】)
(1-3)「このようなプロピレン・αーオレフィンブロック共重合体の製造方法については、・・・・、プロピレンを単独重合することによって得られるプロピレン単独重合体と、プロピレンと、α-オレフィン、好ましくは炭素数2又は、4〜12のα-オレフィン、特に好ましくはエチレン、とをランダム共重合することによって得られるプロピレン・α-オレフィンランダム共重合体で、少なくとも二段階で共重合させることによって得られるプロピレン・α-オレフィンブロック共重合体である。」(段落【0006】)
(1-4)「割合 本発明のプロピレン系樹脂組成物を構成する成分(A)のプロピレン・α-オレフィンブロック共重合体中のα-オレフィン・プロピレンランダム共重合体部[重合体部(b)]の割合は、成分(A)中に20〜5重量%、好ましくは15〜7重量%を占めていることが重要である。該α-オレフィンプロピレンランダム共重合体部(b)の割合が上記範囲よりも少なすぎると衝撃強度が不足となり、多すぎると剛性が不足となる。」(段落【0008】)
(1-5)「割合 上記プロピレン単独重合体部[重合体部(a)]とα-オレフィン・プロピレンランダム共重合体部[重合体部(b)]とからなるプロピレン・α-オレフィンブロック共重合体[成分(A)]の本発明のプロピレン系樹脂組成物中に占める割合は、50〜97重量%、好ましくは70〜93重量%を占めていることが重要である。該プロピレン・α-オレフィンブロック共重合体のプロピレン系樹脂組成物中に占める割合が上記範囲よりも少なすぎると低温衝撃強度が不足となり、多すぎると剛性不足で実用上使用が困難となる。」(段落【0009】)
(1-6)「MFR また、これらプロピレン・α-オレフィンブロック共重合体[成分(A)]全体のMFRは、5〜200g/10分、好ましくは7〜150g/10分、特に好ましくは10〜100g/10分であることが重要である。該プロピレン・α-オレフィンブロック共重合体[成分(A)]のMFRが上記範囲よりも低すぎると成形性(特に射出成形)が困難となる。また、MFRが上記範囲よりも高すぎると耐衝撃強度が低下する。」
(段落【0009】)
(1-7)「(c)MFR 本発明において用いられるエチレン・α-オレフィン共重合体のMFRは、0.01〜20g/10分、好ましくは0.01〜10g/10分、更に好ましくは0.01〜5g/10分、最も好ましくは0.01〜2g/10分である。上記MFRが低すぎるとプロピレン重合体への分散不良が起こり易くなる。また、MFRが高すぎると充分な衝撃強度が得られ難くなる。」(段落【0023】)
(1-8)「(d)密度 本発明において用いられるエチレン・α-オレフィン共重合体の密度は、0.913g/cm3以下、好ましくは0.853〜0.900g/cm3、更に好ましくは0.853〜0.890g/cm3、特に好ましくは0.853〜0.880g/cm3、最も好ましくは0.853〜0.870g/cm3の値を示すものである。密度が高すぎると十分な耐衝撃性が得られ難くなる。」(段落【0024】)
(1-9)「本発明のプロピレン系樹脂組成物には、一般に樹脂組成物の製造方法において用いられている補助添加成分、例えば、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、中和剤、着色剤、滑剤、帯電防止剤等を添加することができる。また、炭酸カルシウム、カオリン、タルク、マイカ、中空ガラス球、酸化チタン、シリカ、カーボンブラック、アスベスト、ガラス繊維、チタン酸カリウム繊維等の充填剤、本発明において用いられる上記成分(B) 以外のオレフィン系共重合体、・・・、ポリブタジエン等の樹脂やゴム等をブレンドすることもできる。」(段落【0025】)
刊行物2:
(2-1)「この線状エチレン/α-オレフィンポリマーは、典型的に、α-オレフィンが少なくとも1種のC5-C20α-オレフィン(例えば1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテンなど)であるエチレン/α-オレフィンのインターポリマーであり、好適には、このα-オレフィン類の少なくとも一つが1-オクテンであるエチレン/α-オレフィンのインターポリマーである。最も好適には、このエチレン/α-オレフィンのインターポリマーは、エチレンとC5-C20α-オレフィンとのコポリマー、特にエチレン/1-オクテンのコポリマーである。」(第6頁第27〜33行)
(2-2)「本発明で用いるのに適した線状もしくは実質的に線状であるエチレン/α-オレフィンポリマー類もしくはコポリマー類が示す密度(ASTM D-792に従って測定)は、一般に約0.85g/cm3 から約0.91g/cm3、好適には約0.86g/cm3から約0.9g/cm3、特に約0.865g/cm3から約0.89g/cm3である。」(第8頁第25〜30行)
(2-3)「本発明で用いるための線状もしくは実質的に線状のエチレン/α-オレフィンポリマー類の分子量はASTM D-1238、条件190℃/2.16kg(以前には「条件E」として知られ、また、I2 としても知られる)に従ってメルトインデックスを用いて都合よく示される。・・・本明細書で有効な線状もしくは実質的に線状であるエチレン/α-オレフィンポリマー類に関するメルトインデックスは一般に約0.01グラム/10分から約100g/10分である。」(第9頁第3〜13行)
(2-4)「最もしばしば用いられるポリオレフィンポリマーは、ポリエチレン(・・・)またはポリプロピレンである。一般に少なくとも1種のポリプロピレンが本明細書に開示された組成物においてよりしばしば有用である。他の型のポリプロピレン(例えばシンジオタクチックまたはアタクチック)のポリプロピレンも用いることができるが、ポリプロピレンは一般にアイソタクチック型のポリプロピレンホモポリマーである。しかしながら、本明細書で開示するTPO配合物ではまた、ポリプロピレン衝撃コポリマー類(例えばエチレンとプロピレンとを反応させる二次共重合段階を用いたコポリマー類)及びランダムコポリマー類(また、反応槽改質されており、通常、プロピレンと共重合したエチレンを1.5-7%含んでいる)も使用可能である。」(第15頁第1〜9行)
(2-5)「本明細書で有効なポリプロピレンに関するメルトフローレートは一般に約0.1グラム/10分(g/10分)から約100g/10分である。」(第15頁第19〜21行)
(2-6)「A)熱可塑性ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、スチレン系、エンジニアリング熱可塑性プラスチックおよびポリオレフィンから選択された熱可塑性プラスチック、およびB)少なくとも1種の、実質的に線状であるエチレン/α-オレフィンポリマー、ここで、この実質的に線状であるエチレン/α-オレフィンポリマーは、a)メルトフロー比I10/I2が≧5.63であり、b)方程式:Mw/Mn≦(I10/I2)-4.63で定義される分子量分布を有し、かつc)表面メルトフラクチャーが起こり始める時の臨界せん断速度が、ほぼ同じI2とMw/Mnを有する線状エチレン/α-オレフィンポリマーの表面メルトフラクチャーが起こり始める時の臨界せん断速度より、少なくとも50%大きい、ことを特徴とする、を含んでいる、良好な低温衝撃性能を示す熱可塑性オレフィン系ポリマー組成物。」(請求項1、第45頁第1〜15行)
刊行物3:
(3-1)「下記成分A、成分Bおよび成分Cを含有する無機充填剤含有樹脂組成物。
成分A:エチレン単位含量が1〜15重量%、及びメルトフローレートが10〜100g/10分の結晶性プロピレン/エチレンブロック共重合体50〜80重量%
成分B:炭素数6〜18のαオレフィン含量が25〜70重量%、メルトフローレートが0.01〜7g/10分、密度0.850〜0.890g/cm3であるエチレン・αオレフィン共重合体5〜20重量%
成分C:平均粒径が0.1〜5μのタルク10〜30重量%」(【請求項1】)
(3-2)「本発明の目的は、耐低温衝撃性と剛性のバランスに優れ、且つ射出成形体に適した組成物、具体的には自動車用インストルメントパネルを製造するのに好適な樹脂組成物を提供することにある。」(段落【0004】)
(3-3)「本発明で用いられる結晶性プロピレン/エチレンブロック共重合体成分Aは、エチレン単位含量が1〜15重量%、好ましくは2〜10重量%、及びメルトフローレートが10〜100g/10分のものである。メルトフローレートが10g/10分未満では成形性が劣り、100g/10分を超えると耐衝撃性が劣る。」(段落【0006】)
(3-4)「本発明に用いられるエチレンと炭素数6〜18のαオレフィンとの共重合体成分Bは、αオレフィン含量が25〜70重量%、好ましくは30〜65重量%、密度が0.850〜0.890g/cm3、好ましくは0.855〜0.880g/cm3、メルトフローレートが0.01〜7g/10分好ましくは0.1〜5g/10分のものである。」(段落【0007】)
(3-5)「前記αオレフィンとしては、C6〜C18、好ましくはC6〜C10のαオレフィンであり、具体的には例えば、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン等が挙げられる。」(段落【0008】)
(3-5)「本発明の組成物を構成する、結晶性プロピレン・エチレンブロック共重合体成分A、エチレン・αオレフィン共重合体成分B及びタルク成分Cの配合割合は、成分Aが50〜80重量%、好ましくは60〜75重量%、成分Bが5〜20重量%未満、好ましくは7〜15重量%、成分Cが10〜30重量%、好ましくは15〜25重量%である。成分Aが50重量%未満の場合は剛性が劣り、80重量%を超える場合は耐衝撃性が劣る。成分Bが5重量%未満の場合は衝撃強度の改良効果が劣り、20重量%以上の場合は剛性が劣る。成分Cが10重量%未満の場合は、剛性の改良効果が劣り、30重量%以上の場合は脆くなり耐衝撃性が低下する。」(段落【0010】)
刊行物4:
(4-1)「(A)ポリプロピレン;95〜55重量部と、
(B-2)1-オクテンから誘導される構成単位が8〜20モル%であり、デカリン極限粘度[η]が1.5〜3.5dl/gであり、DSC法により主ピークとして測定される融点が80℃以下であり、ガラス転移温度(Tg)が-50℃以下であり、X線回折法によって測定される結晶化度が20%未満であり、かつ13C-NMR法により求められるランダム性パラメータ(B値)が1.0〜1.4であるエチレン・1-オクテンランダム共重合体;5〜45重量部とからなることを特徴とするポリプロピレン組成物。」(【請求項3】)
(4-2)「本発明は、剛性、耐熱性に優れるとともに耐衝撃性特に低温における耐衝撃性にも優れたポリプロピレン組成物を提供することを目的としている。」(段落【0009】)
(4-3)「(A)ポリプロピレン 本発明で用いられる(A)ポリプロピレンとしては、プロピレンの単独重合体またはプロピレン以外のオレフィンから誘導される構成単位を10モル%以下の量で含有するプロピレン・αオレフィン共重合体が挙げられる。」(段落【0014】)
(4-4)「プロピレンとこれらオレフィンとの共重合体は、ランダム共重合体であってもブロック共重合体であってもよい。」(段落【0016】)
(4-5)「本発明で用いられる(A)ポリプロピレンは、ASTM-D1238に準拠して、230℃、2160g加重下で測定されるメルトフローレート(MFR)が、0.1〜200g/10分、好ましくは、0.3〜100g/10分である。」(段落【0017】)
(4-6)「本発明で用いられる(B-2)エチレン・1-オクテンランダム共重合体は、1-オクテンから誘導される構成単位を8〜20モル%、好ましくは10〜15モル%の量で含有している。」(段落【0036】)
(4-7)「本発明に係るポリプロピレン組成物は、必要に応じて無機充填剤を含有していてもよい。無機充填剤は、組成物中に好ましくは5〜20重量%の量で含有される。」(段落【0050】)
刊行物5:
(5-1)「下記の成分(a)〜(d)からなることを特徴とするプロピレン系樹脂組成物。
成分(a):結晶性ポリプロピレン部(A単位部)とエチレン・プロピレンランダム共重合体部(B単位部)とを含有するプロピレン・エチレンブロック共重合体であって、該A単位部はブロック共重合体中の80〜95重量%を占め、その密度が0.9070g/cm3 以上であり、かつ、MFRが25〜300g/10分、Mw/Mnが8以上並びにダイスウエル比が1.7以上のプロピレン・エチレンブロック共重合体:45〜93重量%
成分(b):ムーニー粘度ML1+4(100℃)が10〜100、エチレン含量が40〜85重量%、かつMw/Mnが5以上のエチレン系ゴム: 2〜35重量%
成分(c):実質的に全体の長さが15μm以下で、平均粒径が1.5〜6μmで、かつアスペクト比が5以上のタルク、平均粒径が8〜100μmで、平均アスペクト比が10以上のマイカ、あるいは、平均直径が6μm以下で、平均アスペクト比が5以上の繊維状フィラーから選ばれた少なくとも1種のフィラー: 5〜30重量%
成分(d):MFR(230℃、2.16kg)が5g/10分以上のスチレン・共役ジエン共重合体又はその水添物であるスチレン系ゴム: 0〜20重量%」(【請求項1】)
(5-2)「本発明は、良好な成形性、特にフローマークを発生し難く、良好な成形外観を有し、高度な機械的強度バランスを備えているポリプロピレン系樹脂組成物に関するものである。」(段落【0001】)
(5-3)「本発明のプロピレン系樹脂組成物において用いられる成分(a)のプロピレン・エチレンブロック共重合体としては、・・・、また、上記B単位部はプロピレンとエチレンとのランダム共重合によって得られるものであり、このランダム共重合部は該ブロック共重合体中の5〜15重量%、好ましくは5〜10重量%の割合を占めており、そのエチレン含量が20〜60重量%、好ましくは25〜50重量%を示すものである。」(段落【0006】)
(5-4)「本発明のプロピレン系樹脂組成物において用いられる上記成分(b)のエチレン系ゴムは、・・・エチレン系ゴムである。具体的には、例えば、非晶性エチレン・プロピレン二元共重合体(EPM)、非晶性エチレン・プロピレン・ジエン三元共重合体(EPDM)、非晶性エチレン・ブテン二元共重合体(EBM)及び非晶性エチレン・プロピレン・ブテン三元共重合体(EPBM)が挙げられる。」(段落【0012】)
(5-5)「 (c)フィラー成分[成分(c)]
物性 本発明のプロピレン系樹脂組成物において用いられる上記成分(c)のフィラー成分は、全体の長さが実質的に15μm以下、平均粒径が1.5〜6μmかつアスペクト比が5以上のタルク、平均粒径が8〜100μmかつ平均アスペクト比が10以上のマイカ及び平均直径が6μm以下、好ましくは0.2〜5μm、特に好ましくは3〜5μmで、かつ平均アスペクト比が5以上、好ましくは10以上の繊維状フィラーから選ばれた少なくとも1種のものである。・・・
タルク 更に、上記タルクの長さや、平均アスペクト比が上記範囲外であったり、平均粒径が上記範囲を超えたタルクを用いると、成形品外観や機械的強度バランスが劣るものとなる。また、平均粒径が上記範囲より小さいタルクを用いると、プロピレン系樹脂組成物中に分散させることが困難となり、かえって、成形品外観や機械的強度バランスが悪化するので好ましくない。・・・
マイカ 平均アスペクト比や平均粒径が上記範囲外のマイカを用いると、成形品外観や機械的強度バランスが低下するので好ましくない。・・・
繊維状フィラー 平均直径が上記数値を超える繊維状フィラーを使用すると、成形品の外観や高温時の寸法安定性が劣り、平均アスペクト比が上記数値未満のものは機械的強度バランスが劣り、それぞれ実用性がないものとなる。」(段落【0014】〜【0017】)
刊行物6:
(6-1)「下記の成分(a)〜(c)からなることを特徴とするプロピレン系樹脂組成物。
成分(a):結晶性ポリプロピレン部(A単位部)とエチレン・プロピレンランダム共重合体部(B単位部)とを含有するプロピレン・エチレンブロック共重合体: 100重量部
成分(b):エチレン・プロピレン二元共重合ゴム(EPM)又はエチレン・プロピレン・ジエン三元共重合ゴム(EPDM)60〜99重量%と、エチレン・ブテン二元共重合ゴム(EBM)40〜1重量%とを、予め混練して一体化せしめたゴム成分: 2〜80重量部
成分(c):平均アスペクト比が2以上フィラー: 2〜80重量部」(【請求項1】)
(6-2)「本発明は、良好な成形性、良好な成形品外観(特にウエルドが目立ち難く、フローマークを発生し難い)、及び、高度な機械的強度バランスを備えた成形用のフィラー含有ポリプロピレン系樹脂組成物に関するものである。」(段落【0001】)
(6-3)「 (c)フィラー成分[成分(c)]
(a)構造
本発明のフィラー含有プロピレン系樹脂組成物において用いられる成分(c)のフィラー成分は、平均アスペクト比が2以上、好ましくは3以上、特に好ましくは5以上の少なくとも1種である。該平均アスペクト比が上記範囲未満のものは、機械的強度バランスが不良で不適当である。特に好ましいフィラー成分の具体例としては、長さが実質的に15μm以下、平均粒径が1.5〜6μmかつアスペクト比が5以上のタルク、或いは、平均粒径が8〜100μmかつ平均アスペクト比が10以上のマイカ及び平均直径が6μm以下で、かつ平均アスペクト比が5以上の繊維状フィラー等を挙げることができ、これらの中でも特にタルクを使用することが好ましい。これらフィラー例の長さや平均アスペクト比や平均粒径は、成形品外観や機械的強度バランス及びプロピレン系樹脂組成物中への分散の容易さの点から選ばれたものである。」(段落【0016】)
刊行物7:
(7-1)「下記の成分(A) および(B) を含んでなることを特徴とする、プロピレン系樹脂組成物。
成分(A) : MFRが5〜200g/10分のプロピレン系重合体50〜97重量%、
成分(B) : 下記 (a)〜(d) の性状を有するエチレン・α-オレフィン(ただし、α-オレフィンの炭素数は4〜18である)共重合体50〜3重量%
(a) 密度が0.913g/cm3 以下、
(b) MFRが0.01〜20g/10分、
(c) α-オレフィン含量が10〜60重量%、
(d) ASTM D747による曲げ剛性が2,000kg/cm2 以下。」(【請求項1】)
(7-2)「本発明は、常温耐衝撃性及び低温耐衝撃性が改良され、また、剛性と耐衝撃性の物性バランスの良好な、自動車内外装部品、電気機器外装部品等に有用な射出成形用プロピレン系樹脂組成物に関するものである。」(段落【0001】)
(7-3)「本発明に用いるプロピレン系重合体は、K.Fujimoto, T.Nishi ahd R.Kado, olym.J., Vol.3,448-462 (1972)に記載の方法で求めた結晶成分(I)、拘束された非晶成分(II)及び拘束されていない非晶成分(III )のそれぞれの比率が、(I)/(II)が重量比で1.5〜4、好ましくは2〜3.5で、かつ(III)が3〜30重量%、好ましくは5〜20重量%、である。・・・(III )が上記範囲より小さいと、耐衝撃性が劣り好ましくなく、上記範囲を越えると、製品表面に傷が付き易くなり、製品の価値を低下させる原因となるので好ましくない。」(段落【0007】)
(7-4)「本発明に用いられるエチレン・α-オレフィン共重合体の密度は、0.913g/cm3 以下、好ましくは0.853〜0.900g/cm3 、更に好ましくは0.853〜0.890g/cm3 、特には0.853〜0.880g/cm3 の値を示すものである。現在の工業的技術では0.850g/cm3 の値より低い密度の製品を製造することは困難ではあるが、これの値以下でも本発明の効果を奏することができるものと推定する。上記密度が高すぎると十分な衝撃強度が得られないので好ましくない。」(段落【0009】)
(7-5)「本発明のプロピレン系樹脂組成物において、用いられる成分(B) のエチレン・α-オレフィン共重合体を構成する単量体として、エチレンと共重合される炭素数4〜18のα-オレフィンとしては、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-ヘプテン、4-メチル-ペンテン-1、4-メチル-ヘキセン-1、4,4-ジメチルペンテン-1、1-オクタデセン等を挙げることができる。これらの中で好ましくは炭素数6〜12の、特に好ましくは炭素数6〜10のα-オレフィンである。」(段落【0011】)
(7-6)「本発明のプロピレン系樹脂組成物には、一般に樹脂組成物の製造方法において用いられている補助添加成分、例えば、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、中和剤、着色剤、滑剤、帯電防止剤等を添加することができる。また、炭酸カルシウム、カオリン、タルク、マイカ、中空ガラス球、酸化チタン、シリカ、カーボンブラック、アスベスト、ガラス繊維、チタン酸カリウム繊維等の充填剤、本発明において用いられる上記成分(B) 以外のオレフィン系共重合体、・・・、ポリブタジエン等の樹脂やゴム等をブレンドすることもできる。」(段落【0014】)
刊行物8
(8-1)「(a) プロピレン-エチレンブロック共重合体50〜80重量%と、(b) エチレン・α-オレフィン (ただしエチレンは含まず) 共重合体ゴム20〜40重量%と、(c) 無機フィラー20重量%以下とを含有する組成物であって、前記(a) 成分及び(b) 成分中の常温パラ-キシレン可溶分における数平均分子量が4×104 以上で、重量平均分子量が20×104 以上であることを特徴とする塗装性に優れたポリオレフィン組成物。」(【請求項1】)
(8-2)「したがって、本発明の目的は、成形性に優れるとともに、耐衝撃性、機械的強度、剛性等のバランスが良好で、高温高圧洗浄等の厳しい条件下での塗膜の剥離強度の良好な塗装性に優れたポリオレフィン組成物を提供することである。」(段落【0008】)
(8-3)「上記プロピレン-エチレンブロック共重合体全体におけるエチレンの含有量は、2〜10重量%が好ましい。また(1)結晶性のプロピレンホモポリマー部分と、(2)プロピレン-エチレンランダム共重合部分と、(3)結晶性のエチレンホモポリマー部分との含有量については(1)+(2)+(3)の合計を100 重量%として、プロピレンホモポリマー部分が85〜95重量%、プロピレン-エチレンランダム共重合部分が5 〜15重量%、及びエチレンホモポリマー部分が5重量%以下であるのが好ましい。上記範囲外では、物性のバランスが悪化する。」(なお、丸数字は、括弧付きの数字に書き換えてある。段落【0019】)
(8-4)「上記多段重合プロピレン-エチレンブロック共重合体のメルトフローレート(MFR、230 ℃、2.16kg荷重) は15〜120 g/10 分が好ましい。MFRの値が15g/10 分未満では得られる組成物の成形性、特に射出成形性が低下し、また120 g/10 分を超えると機械的強度が低下するため好ましくない。」(段落【0020】)
(8-5)「 (b) エチレン・α-オレフィン共重合体ゴムは、エチレンとエチレン以外のα-オレフィンとの共重合体ゴムであり、例えばエチレン-プロピレン共重合体ゴム(EPR) 、及びこれにジエン化合物を共重合したエチレン-プロピレン-ジエン共重合体ゴム(EPDM) 、エチレン-ブテン共重合体ゴム(EBR) 等が挙げられる。」(段落【0021】)
(8-6)「 (c) 無機フィラーは、樹脂等の充填材、強化材として一般に用いられている。ものであり、例えばタルク、マイカ、繊維結晶性ケイ酸カルシウム、炭酸カルシウム等が挙げられる。これらのうちでは特にタルクが好ましい。上記無機フィラーの平均粒径は15μm以下のものを用いるのが好ましい。なお、針状あるいは繊維状物の場合、繊維径が1〜100 μmで、アスペクト比が3〜30のものが好ましい。」(段落【0028】)

3-2-3.取消理由(1)についての判断
取消理由(1)は、実質的に下記3種類((1)-1〜(1)-3)の理由に区分されるので、それぞれについて対比・判断する。
(1)-1:本件発明1〜4は、刊行物1に記載された発明を主として、刊行物1,3〜6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものである。
(1)-2:本件発明1〜4は、刊行物2に記載された発明を主として、刊行物1〜6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものである。
(1)-3:本件発明1〜4は、刊行物7に記載された発明を主として、刊行物1〜8に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものである。
(1)本件発明1について
(1)-1 刊行物1に記載された発明を主とした対比・判断
刊行物1には、成分(A)エチレン・プロピレンランダム共重合部分を20〜5重量%含有し、MFRが、10〜100g/10分であるプロピレン・エチレンブロック共重合体50〜97重量%、成分(B)MFRが0.01〜20g/10分で、密度が0.913g/cm3以下、特に好ましくは0.853〜0.880g/cm3、最も好ましくは0.853〜0.870g/cm3のエチレンと炭素数4〜18のα-オレフィンとの共重合体50〜3重量%からなるプロピレン系樹脂組成物が記載されており(摘示記載(1-1)、(1-3)、(1-4)、(1-6))、炭酸カルシウム、カオリン、タルク、マイカ、中空ガラス球、酸化チタン、シリカ、カーボンブラック、アスベスト、ガラス繊維、チタン酸カリウム繊維等の充填剤を用いることができることも記載されている(摘示記載(1-9))。
そして、刊行物1の段落【0028】には、MFR(メルトフローレート)は、本件発明1と同様にJIS K7210に準拠して測定したことが記載されているから、刊行物1におけるMFRは230℃、2.16kg荷重で測定されたものと認められ、したがって、本件発明1と刊行物1に記載された発明とは、エチレン・プロピレンランダム共重合体部分を20〜5重量%含有し、メルトフローレートが20〜100g/10分(230℃、2.16kg荷重)であるプロピレン・エチレンブロック共重合体を成分(A)として含み、メルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が0.1〜20g/10分で、密度が0.869〜0.872g/cm3の密度がエチレンと炭素数8〜18のα-オレフィンとの共重合体を成分(B)として含む、プロピレン樹脂組成物である点で重複一致する。
しかしながら、本件発明1と刊行物1に記載された発明とは、次の点で相違する。
本件発明1においては、成分(C)として、特定のアスペクト比を有する無機フィラーを特定量用いることを必須要件としているのに対し、刊行物1に記載された発明においては通常用い得る充填剤が単に例示されているだけであって、充填剤である無機フィラーのアスペクト比及び配合量が記載されていない点で相違する。
そこで、この相違点について検討する。
刊行物3には、無機充填剤含有樹脂組成物、刊行物4には剛性、耐熱性に優れるとともに耐衝撃性特に低温における耐衝撃性にも優れた、ポリプロピレン及び特定のエチレン・1-オクテンランダム共重合体からなるポリプロピレン組成物が記載されており、刊行物3には、無機充填剤が10〜30重量%含まれることが記載されており、刊行物4には5〜20重量%の無機フィラーを含んでもよいことが記載されている。しかしながら、刊行物3及び4にはアスペクト比についての記載はなく、無機フィラーを添加する樹脂組成物は、刊行物1に記載された特定のエチレン・プロピレンランダム共重合体部分を有する成分(A)及び成分(B)とは異なるものである。また、刊行物5及び6には、アスペクト比が5以上又は2以上のアスペクト比の無機フィラーを含有するプロピレン系樹脂組成物が記載されている。しかしながら、これらのプロピレン系樹脂組成物は、刊行物1に記載された特定のエチレン・プロピレンランダム共重合体部分を有する成分(A)及び成分(B)とは異なるものである。
ところで、本件明細書の段落【0002】にも記載されているように、結晶性ポリプロピレンの耐衝撃性を改良するために、ゴム成分を配合し、それによる剛性の低下を補うために無機フィラーを併用することが従来行われていたように、無機フィラーの有無やその量によって、剛性が変化することは本出願前周知であるから、無機フィラーの存在が必須ではなく、その使用量もアスペクト比についても何等記載がなく、得られたポリプロピレン樹脂組成物の曲げ強度、IZOD衝撃強度(23℃)の記載もない刊行物1に記載された発明において、刊行物3〜6に記載された刊行物1とは異なる樹脂組成物において用いられている成分(C)の量及びアスペクト比の無機フィラーを、本件発明1の目的・効果である曲げ弾性率及び耐衝撃性がバランス良く改善するものとして添加することに技術的困難性があるもといえる。
そして、本件発明1は、この相違点を含む特定の構成を採用することにより、剛性、耐衝撃性のバランスが改良され、射出成形性が良好で、特に自動車用外装材などに好適であるとの格別顕著な効果を奏するものである。
したがって、本件発明1は、刊行物1、3〜6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものもいうことができない。
(1)-2.刊行物2に記載された発明を主とした対比・判断
刊行物2には、190℃/2.16kgで測定したメルトインデックス(メルトフローレート)が約0.1グラム/10分から約100g/10分のポリプロピレン衝撃コポリマー類(例えばエチレンとプロピレンとを反応させる二次共重合段階を用いたコポリマー類)及びランダムコポリマー類(また、反応槽改質されており、通常、プロピレンと共重合したエチレンを1.5-7%含んでいる)と、密度約0.85g/cm3 から約0.91g/cm3、好適には約0.86g/cm3から約0.9g/cm3、特に0.865g/cm3から約0.89g/cm3 で、メルトインデックス約0.01グラム/10分から約100g/10分である、エチレンとC5-C20α-オレフィンとのコポリマー、特にエチレン/1-オクテンのコポリマーとの組成物が記載されている(摘示記載(2-1)〜(2-6))。
本件発明1と刊行物2に記載された発明とを対比すると、両者は、プロピレン・エチレンコポリマーとエチレン・1-オクテン共重合体を含む熱可塑性オレフィン系ポリマー組成物である点で一致するものの、本件発明1における成分(A)であるプロピレン・エチレンブロック共重合体は、そのエチレン・プロピレンランダム共重合体部分が5〜30重量%であり、メルトフローレートが20〜200g/10分(230℃、2.16kg荷重)のものであるのに対し、刊行物2に記載のものでは、メルトフローレートは約0.1〜約100g/10分(190℃、2.16kg荷重)であるが、どのような構造のプロピレン・エチレンコポリマーであるか不明である点(相違点1)、及び本件発明1においては、成分(C)として、特定のアスペクト比を有する無機フィラーを特定量用いることを必須要件としているのに対し、刊行物2に記載された発明においては充填剤について記載がない点(相違点2)で相違する。
そこで、相違点1について検討すると、実施例及び比較例を参照すると、本件発明1においては、成分(A)は、エチレンプロピレンブロック重合体であって、そのエチレン・プロピレンランダム共重合部分が特定量含まれ、且つ特定のメルトフローレートの場合に本件発明1の物性のポリプロピレン組成物が得られるのであって、そのような記載のない刊行物2に記載された発明から、当業者が、本件発明1において規定するプロピレン・エチレンブロック共重合体を想到することは容易になし得るものではない。
また、相違点2は、上記(1)-1に記載した相違点に対する理由のとおり、刊行物1,3〜6に記載された発明を組み合わせても容易に想到しうるものではない。
したがって、本件発明1は、刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得るものということはできないし、刊行物1〜6に記載された発明から当業者が容易になし得るものということもできない。。
(1)-3 刊行物7に記載された発明を主とした対比・判断
刊行物7には、MFRが5〜200g/10分のプロピレン系重合体50〜97重量%と、 密度が0.913g/cm3 以下、MFRが0.01〜20g/10分、α-オレフィン含量が10〜60重量%、ASTM D747による曲げ剛性が2,000kg/cm2 以下の性状を有するエチレン・α-オレフィン(ただし、α-オレフィンの炭素数は4〜18である)共重合体50〜3重量%とを含むプロピレン系樹脂組成物が記載されている(摘示記載(7-1)〜(7-5))。
また、刊行物7のプロピレン系樹脂組成物には、一般に樹脂組成物の製造方法において用いられている補助添加成分、例えば、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、中和剤、着色剤、滑剤、帯電防止剤等を添加することができる。また、炭酸カルシウム、カオリン、タルク、マイカ、中空ガラス球、酸化チタン、シリカ、カーボンブラック、アスベスト、ガラス繊維、チタン酸カリウム繊維等の充填剤、本発明において用いられる上記成分(B) 以外のオレフィン系共重合体、・・・、ポリブタジエン等の樹脂やゴム等をブレンドすることもできる(摘示記載(7-6))ことが記載されている。
そして、刊行物7には、プロピレン系重合体が「拘束されていない非晶成分が3〜30重量%である」と記載され、この「拘束されていない非晶成分」が、本件発明1の「o-ジクロルベンゼンによる分別において50℃で溶出する成分として表されるエチレン・プロピレンランダム共重合部分」と参考資料9を参酌すると、ほぼ一致する蓋然性が高いものといえる。
そこで、本件発明1と刊行物7に記載された発明とを対比すると、両者はo-ジクロルベンゼンによる分別において50℃で溶出する成分として表されるエチレン・プロピレンランダム共重合部分を5〜30重量%含有し、メルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が20〜200g/10分であるプロピレン・エチレンブロック共重合体50〜80重量部と、メルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が0.1〜20g/10分、密度が0.869〜0.872g/cm3かつ共重合コモノマーが炭素数8以上のα-オレフィンであるエチレン・α-オレフィン共重合体15〜37重量部であるプロピレン樹脂組成物である点で重複一致する。
しかしながら、本件発明1と刊行物1に記載された発明とは、次の点で相違する。
本件発明1においては、成分(C)として、特定のアスペクト比を有する無機フィラーを特定量用いることを必須要件としているのに対し、刊行物1に記載された発明においては通常用い得る充填剤が単に例示されているだけであって、充填剤である無機フィラーのアスペクト比及び配合量が記載されていない点で相違する。
そこで、この相違点について検討すると、上記(1)-1及び(1)-2に記載した相違点に対する理由のとおり、刊行物1〜6に記載された発明を組み合わせても容易に想到しうるものではない。
さらに、刊行物8には、アスベクト比の限定された繊維形状物の無機フィラーを充填剤として開示されてはいるが、量の限定を示唆する記載はなく、また、この無機フィラーを添加する系も本件発明1とは異なる樹脂組成物であることから、上記(1)-1に記載した理由と同様に、刊行物8に記載された発明を組み合わせても当業者が容易に想到しうるものとはいえない。
したがって、本件発明1は、刊行物7に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得るものということはできないし、刊行物1〜8に記載された発明から当業者が容易になし得るものということはできない。
(2)本件発明2〜4について
本件発明2〜4は、本件発明1をさらに限定するものであるから、本件発明1と同様の理由により、刊行物1〜8に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることができない。
3-2-3.取消理由(2)についての判断
取消理由(2)の概要は次の通りである。
(a)請求項2の構成要件である「エチレン3連鎖分率60%以上」が技術的に不明であり、請求項2に係る発明は、実施可能要件を満たしていない。
(b)請求項4の構成要件である「メルトフローレート:10超過〜80g/10分未満」は、メルトフローレートの測定するダイの内径と無機フィラーの大きさの関係で、正確な測定値が得られない場合があるから、請求項4に係る発明は、実施可能要件を満たしていない。また、請求項4の構成要件である「メルトフローレート」「曲げ弾性率」「IZOD衝撃強度」「ロックウエル硬度」の限定は、単に好ましい範囲が記載されているのみで、その制御法の記載がなく、記載が具体的且つ十分に記載されていない。
(c)特許明細書には、成分(A)及び(B)の製造方法は一切記載されておらず、これらの成分のo-ジクロルベンゼンによる分別において50℃で溶出する成分として表されるエチレン・プロピレンランダム共重合部分、メルトフローレート及び密度の制御法も記載されていないので、当業者が本件特許発明を実施するためには、具体的且つ十分記載されていない。
また、「以下」及び「以上」という用語、及び「メタロセン触媒」という用語によって発明の外延が不明確であり、この境界を知るためには実験を行い試作と評価を繰り返す必要があり、当業者にとって過度の試行錯誤となる。
そこでこれらの記載不備について検討する。
(a)エチレン3連鎖分率については、明細書段落【0025】に測定方法とその文献が明記されており、その参考資料11を参酌すればn=5までのエチレン0連鎖、1連鎖、2連鎖に対応するものの確認方法が開示されているのであるから、その他がエチレン3連鎖以上となることは自明であるから、その分率の割合は確認できるものであり、実施が可能でないとはいえない。
(b)メルトフローレートの測定はJIS規格にもあるように周知慣用手段であり、その際無機充填剤の粒径との関係を考慮して測定することは技術常識であり、実施可能要件を満たしていないとはいえない。また、「メルトフローレート」「曲げ弾性率」「IZOD衝撃強度」「ロックウエル硬度」は通常の測定方法で当業者が容易に数値を明らかにできるものであるし、具体的に実施例でそれに該当するものが製造されていることから、不十分な記載とはいえない。
(c)成分(A)については、明細書段落【0008】、段落【0009】、成分(B)については、明細書段落【0012】および段落【0013】に記載され、その組成物についても明細書段落【0022】に記載され、組成物の物性に関しては、「表4」等に記載されており、これらの記載と高分子分野の技術常識を基にすれば、記載不十分とまではいえない。
また、本件で用いている「以下」及び「以上」という用語は、その限定のある数値に技術的特徴があるもので、もう一方の限定のない部分は通常は、技術常識的範囲として理解できるものであり、もう一方の限定がないとの理由だけで、本件特許請求の範囲や特許明細書の記載を不明確とするとの根拠とはならない。
さらに、「メタロセン触媒」という用語は、当技術分野で使用されているもので、格別不明確なものとはいえない。
したがって、本件特許明細書に記載不備はない。
3-2-4.取消理由で採用した以外の特許異議申立理由についての判断
上記、取消理由で採用した以外の特許異議申立理由は次のとおりです。
(a)特許異議申立人Aの(2)
(b)特許異議申立人Aの(3)
そこで、これらについて検討する。
(a)について
特願平8-98355号(特開平9-143337号公報である甲第7号証参照)の願書に最初に添付された明細書には、本件発明1の樹脂組成物の成分(A)及び(C)と一致する組成物は記載されてはいるが、本件発明1の樹脂組成物の成分(B)であるエチレン・1-オクテンランダム恭重合は記載されているものの、本件発明1で(B)として密度が0.869〜0.872g/cm3 、メルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が0.1〜20g/10分と特定しているのに対し、甲第7号証では密度が0.869〜0.872g/cm3 、メルトフローレートの記載はない点で相違しており、本件発明1と甲第7号証に記載された発明が同一のものとはいえない。
尚、特許異議申立人Aは、甲第7号証の出願当初明細書の記載、特に比較例や実施例の記載から成分(B)として、本件発明1の密度と重複・一致するものが実質上記載されていること、効果からみて、本件発明1の密度の限定に格別の意味はないことを理由に、また、メルトフローレートについては、甲第7号証の実施例、比較例に組成物全体のメルトフローレートの開示があり、そこから推察すると実質的な相違はないとの理由で、両発明の同一性を主張している。
しかしながら、密度もメルトフローレートもいずれも推測に基づくものであり、甲第7号証に具体例として、本件発明1と一致するものがあるという立証もないので、この主張は採用できない。
尚、本件発明2〜4は、本件発明1をさらに限定するものであるから、本件発明1と同様の理由により、甲第7号証に記載された発明が同一のものとはいえない。
(b)について
特許異議申立人Aは、審査過程で提出された補正書に基づく成分(B)の密度の限定の補正は、補正後の密度の(B)成分を使用した場合と補正後の密度の範囲外の補正前の密度の(B)成分を使用した場合との組成物に効果上の差異がなく、この限定する補正は、本件特許明細書に「直接的」な記載の根拠はあるものの「一義的」な根拠がなく、新規事項の追加に該当するものと考えられる、旨の主張をしている。
しかしながら、特許異議申立人Aも認めるように、この補正は先行技術である甲第7号証に記載された発明との同一性を避けるために限定したものであり、その限定する根拠も本件の願書に最初に添付した明細書に記載されており、限定したことによる技術的意味が十分でないとの理由のみでは新規事項に該当するものでもなく、特許異議申立人Aの主張は採用できない。
4.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立の理由及び証拠によっては、本件発明1〜4についての特許を取り消すことができない。
また、他に本件発明1〜4についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2005-07-06 
出願番号 特願平7-169588
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C08L)
P 1 651・ 536- Y (C08L)
P 1 651・ 537- Y (C08L)
P 1 651・ 113- Y (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 中島 庸子  
特許庁審判長 井出 隆一
特許庁審判官 石井 あき子
船岡 嘉彦
登録日 2002-10-18 
登録番号 特許第3362089号(P3362089)
権利者 三菱化学株式会社
発明の名称 プロピレン樹脂組成物  
代理人 柿澤 紀世雄  

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