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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  H04M
管理番号 1122726
審判番号 無効2004-80201  
総通号数 70 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1998-06-19 
種別 無効の審決 
審判請求日 2004-10-22 
確定日 2005-09-09 
事件の表示 上記当事者間の特許第2997709号発明「電話の通話制御方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第2997709号に係る発明についての出願は、昭和61年1月13日に出願した特願昭61-6163号の一部を平成9年5月7日(パリ条約による優先権主張1985年1月13日、1985年11月10日、イスラエル国)に新たな特許出願としたものであって、平成9年6月6日付け及び平成11年7月5日付で手続補正がなされ、平成11年11月5日にその発明についての特許の設定登録がなされ、平成16年10月22日に本件無効審判の請求がなされた。

2.本件発明
本件発明は、特許明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1、10、17、24に記載された以下のとおりのものである。なお、説明の都合上、(a)〜(i)は特許請求の範囲に記載にしたがい、「特殊な交換部(A)を利用し、次のステップを含む電話の通話制御方法であって、」は(0)と分節してある。
「【請求項1】
(0)特殊な交換部(A)を利用し、次のステップを含む電話の通話制御方法であって、
(a)この特殊な交換部(A)において所定の預託金額に対し特殊コードを予め割り当て、これら預託金額及び特殊コードの複数組合わせを記憶し、
(b)前記特殊コードは、対応する預託金額の支払いを条件として使用可能とされ、
(c)発呼者の電話(81)から、入力された特殊コードと被呼者の電話番号を発呼時に送信し、
(d)前記特殊コード及び被呼者の電話番号を特殊な交換部(A)が受信し、
(e)この受信された特殊コードが、記憶された特殊コードの一つと一致して使用可能であるかを確認し、
(f)前記受信された特殊コードの預託金額の残高と、発呼者の電話(81)を被呼者の電話に接続するために必要な最小費用とを比較し、
(g)前記預託金額の残高が必要な費用より多い時に、発呼者の電話(81)を被呼者の電話に接続し、
(h)前記預託金額の残高が、発呼者と被呼者との通話接続を継続するのに必要な費用より少なくなった場合には、発呼者と被呼者の通話接続を遮断するように、発呼者の電話(81)が被呼者の電話と接続を開始してから遮断されるまで通話費用をモニターする、
電話の通話制御方法。」(以下、「本件発明1」という。)
・・・【請求項2】〜【請求項9】は省略・・・
「【請求項10】
(0)特殊な交換部(A)を利用し、次のステップを含む電話の通話制御方法であって、
(a)この特殊な交換部(A)において所定の預託金額に対し特殊コードを予め割り当て、これら預託金額及び特殊コードの複数組合わせを記憶し、
(b)前記特殊コードは、対応する預託金額の支払いを条件として使用可能とされ、
(c)発呼者の電話(81)から、入力された特殊コードと被呼者の電話番号を発呼時に送信し、
(d)前記特殊コード及び被呼者の電話番号を特殊な交換部(A)が受信し、
(e)この送信された特殊コードが、記憶された特殊コードの一つと一致して使用可能であるかを確認し、
(f)前記送信された特殊コードの預託金額の残高と、発呼者の電話(81)を被呼者の電話に接続するために必要な最小費用とを比較し、
(g)前記預託金額の残高が必要な費用より多い時に、発呼者の電話(81)を被呼者の電話に接続し、
(h)前記預託金額の残高が、発呼者と被呼者との通話接続を継続するのに必要な費用より少なくなった場合には、発呼者と被呼者の通話接続を遮断するように、発呼者の電話(81)が被呼者の電話と接続を開始してから遮断されるまで通話費用をモニターし、
(i)前記特殊な交換部(A)が、使用可能な預託金額の残高を発呼者に報知する、
電話の通話制御方法。」(以下、「本件発明2」という。)
・・・【請求項11】〜【請求項16】は省略・・・
「【請求項17】
(0)特殊な交換部(A)を利用し、次のステップを含む電話の通話制御方法であって、
(a)この特殊な交換部(A)において所定の預託金額に対し特殊コードを予め割り当て、これら預託金額及び特殊コードの複数組合わせを記憶し、
(b)前記特殊コードは、対応する預託金額の支払いを条件として使用可能とされ、
(c)発呼者の電話(81)から、入力された特殊コードと被呼者の電話番号を発呼時に送信し、
(d)前記特殊コード及び被呼者の電話番号を特殊な交換部(A)が受信し、
(e)この送信された特殊コードが、記憶された特殊コードの一つと一致して使用可能であるかを確認し、
(f)前記送信された特殊コードの預託金額の残高と、発呼者の電話(81)を被呼者の電話に接続するために必要な最小費用とを比較し、
(g)前記預託金額の残高が必要な費用より多い時に、発呼者の電話(81)を被呼者の電話に接続し、
(h)前記預託金額の残高が、発呼者と被呼者との通話接続を継続するのに必要な費用より少なくなった場合には、発呼者と被呼者の通話接続を遮断するように、発呼者の電話(81)が被呼者の電話と接続を開始してから遮断されるまで通話費用をモニターし、
(i)前記特殊な交換部(A)が、送信された被呼者の電話番号に基いて使用可能な預託金額の残高を使用可能な通話時間に変え、この使用可能な通話残り時間を発呼者に報知する、
電話の通話制御方法。」(以下、「本件発明3」という。)
・・・【請求項18】〜【請求項23】は省略・・・
「【請求項24】
(0)特殊な交換部(A)を利用し、次のステップを含む電話の通話制御方法であって、
(a)この特殊な交換部(A)において所定の預託金額に対し特殊コードを予め割り当て、これら預託金額及び特殊コードの複数組合わせを記憶し、
(b)前記特殊コードは、対応する預託金額の支払いを条件として使用可能とされ、
(c)発呼者の電話(81)から、入力された特殊コードと被呼者の電話番号を発呼時に送信し、
(d)前記特殊コード及び被呼者の電話番号を特殊な交換部(A)が受信し、
(e)この送信された特殊コードが、記憶された特殊コードの一つと一致して使用可能であるかを確認し、
(f)前記送信された特殊コードの預託金額の残高と、発呼者の電話(81)を被呼者の電話に接続するために必要な最小費用とを比較し、
(g)前記預託金額の残高が必要な費用より多い時に、発呼者の電話(81)を被呼者の電話に接続し、
(h)前記預託金額の残高が、発呼者と被呼者との通話接続を継続するのに必要な費用より少なくなった場合には、発呼者と被呼者の通話接続を遮断するように、発呼者の電話(81)が被呼者の電話と接続を開始してから遮断されるまで通話費用をモニターし、
(i)通話費用を預託金額から差し引く、
電話の通話制御方法。」(以下、「本件発明4」という。)
・・・【請求項25】〜【請求項33】は省略。

3.請求人の主張
請求人は、「特許第2997709号の請求項1、10、17、24に係る発明についての登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、証拠方法として以下の甲第1号証乃至甲第11号証を提出し、本件発明1〜4は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証に記載された発明、及び甲第3号証の1〜甲第11号証に示された周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、特許法第123条第1項第1号の規定により無効とすべきである、旨主張している。

甲第1号証 :特開昭56-20371号公報
甲第2号証 :特開昭58-3367号公報
甲第3号証の1 :日本経済新聞 昭和57年(1982年)12月23日付夕刊
甲第3号証の2 :日本経済新聞 昭和59年(1984年)9月8日付朝刊
甲第4号証 :電気通信施設、昭和58年(1983年)1月号、社団法人 電気通信協会、昭和58年1月15日発行
甲第5号証 :Direct Dialing of Credit Card Calls
甲第6号証 :特開昭55-125738号公報
甲第7号証 :特開昭56-72568号公報
甲第8号証 :特開昭57-23358号公報
甲第9号証 :特開昭57-140062号公報
甲第10号証 :特開昭58-165473号公報
甲第11号証 :特開昭58-223952号公報

4.各甲号証記載の事項
請求人が提出した各甲号証には、以下の事項が記載されている。
甲第1号証:
a.「電話交換記録を自動的に記録するダイヤル信号記録回路と通話度数記録回路をかかる特定多数の発信者が共用する共通機器として自動電話交換網内の発信側交換局に設け・・・自動式クレジット通話方式」(特許請求の範囲(1)の第3〜9行)
b.「ある加入電話以外の電話から発する通話の料金をその加入電話に課金するサービスを契約している該加入電話の加入者(以下契約加入者という)の、該サービス呼の接続可否を判断するのに必要な諸データを蓄積するデータファイルを備えるデータセンタ」(特許請求の範囲(2)の第3〜8行)
c.「通信処理装置は発信者が会話形式により入力するダイヤル信号を受けてデータセンタとの協同動作によって通話接続の可否を制御」(特許請求の範囲(2 )の第12〜14行)
d.「課金に必要な電話交換記録は特殊課金トランクに付帯するダイヤル信号記録回路と通話度数記録回路に収集記録し、」(特許請求の範囲(2)の第14〜17行)
e.「通信処理装置はこの記録をデータセンタに転送し、その通話の料金を該契約加入者に課金する」(特許請求の範囲(2)の第17、18行)
f.「契約加入者が予じめ登録する短縮番号を集中記憶する短縮番号集中記憶装置をデータセンタとオンラインリアルタイムで結び、クレジット通話を行なうに際しての通話先の番号に加入者番号の代りに、その短縮番号を用いることにより、ダイヤル操作の簡便化と第三者の悪用防止の強化をはかり、併せて通話先を契約加入者が指定する特定通話先に限定する」(特許請求の範囲(3)の第17〜24行)
g.「マル3(なお、甲第1号証原文においては、マル3は丸数字の3で記載されている。以下同様である。)登録番号 ・・・・・・ 利用契約に基づいて契約加入者に交付される契約カードの番号」(第3頁左上欄第4、5行)
h.「マル7通信センタ・・・・・・ 特殊課金トランクと通信処理装置及びそれらの関連機器等のクレジット通話の交換に固有且つ直接関与する設備を設置している発信側交換局」(第3頁右上欄第3〜7行)
i.「マル8データセンタ・・・・・・管轄区域内にある契約加入者の登録番号、暗証番号、登録番号の有効無効表示データ等、クレジット通話サービス呼の接続可否判定に必要なすべてのデータを登録する照合ファイルと、該契約加入者へのクレジット通話課金情報を蓄積する課金ファイルを備え、通信処理装置とデータ通信網により結ばれて通話接続可否の判定と課金情報収集を司どる事務センタ」(第3頁右上欄第11行〜左下欄第2行)
j.「契約発信者がクレジット通話をしようとする場合は、押ボタンダイヤル式の発信電話機1から先ず特番例えば“#XYZW”をダイヤルする」(第3頁左下欄第3〜5行)
k.「契約発信者に登録番号の入力を促がす。契約発信者が発信電話機1から登録番号を入力する」(第3頁右下欄第7〜9行)
l.「データセンタ8はその照合ファイルを検索して通信処理装置7から転送されてきた登録番号を検証し、それが正当且つ有効なものであれば通信処理装置7に登録番号整合信号と照合ファイルから読出した該登録番号対応の暗証番号を送り返して復旧する。」(第3頁右下欄第18行〜第4頁左上欄第3行)
m.「通信処理装置7は、・・・契約発信者に暗証番号の入力を促がし、その入力を受信して先にデータセンタ8から受信している暗証番号とのつき合せを行なう。」(第4頁左上欄第4〜8行)
n.「通信処理装置7は再びそのアナウンス機能によって契約発信者に被呼者番号(全国番号)の入力を促がし、それを受信一時記憶し以下の3つの動作を行って・・・発信電話機1と着信加入者11との間の通話路を完成させる。」(第4頁左上欄第9行〜第18行)
o.「最も経済的に通話を接続し課金情報を記録し」(第5頁左上欄第3〜4行)
p.図1及び図2(押ボタンダイヤル式の発信電話機とこれに接続される市外発信交換機、この市外発信交換機に接続される市外中継交換機、市外中継交換機に接続される特殊課金トランク、特殊課金トランクに接続される通信処理装置、通信処理装置に接続されるデータバンク等のブロック図が記載されている。)
q.「我が国における加入者ダイヤル発信通話に関する従来の課金方式は、所謂K方式により単位課金時間ごとに発信加入者の加入者度数計を歩進積算せしめ、通話料金はすべて発信加入者に課する発信者課金の方法を採用している。したがって電話利用者が自宅の加入電話以外から電話を掛けようとすると、多量の硬貨を用意して公衆電話を利用するか、或いは他人の電話を借りて料金をその場で貸主に支払うかの何れによるしかなく、何れにしても現金の持合せが不可欠である。・・・電気通信サービスの料金に対してもクレジット払いが可能な全自動式のクレジット通話方式という新しい電話利用形態・課金方法を実現させることは、将に時代の要請というべきであろう。」(第2頁右上欄第3行〜左下欄第12行)

甲第2号証:
イ.「主制御部3はキーコードが与えられ、また記憶演算部7から残額が0でない旨の信号が与えられてインターフェース4に通話回路オンの信号を与え電話機1の通話回線を接続する。」(第4頁左上欄第6〜9行)
ロ.「カードの記録内容一杯まで通話が行われた場合は、記憶演算部7からの残額=0の信号に基き主制御部3がインターフェース4を介して電話機1に対し通話回線オフの信号を与え、通話を停止させる。」(第4頁右下欄第19行〜第5頁左上欄第3行)
ハ.「公衆電話機においては従来、コインを使用して通話料金を徴収するようにしている。しかし、コインは現在のところ10円、50円、100円の3種のものが使用可能であるが、遠距離通話を低額コインで行うには多量のコインを必要とし使用者にとって不便である。また、このコインは集金しなければならないから、集金要員を必要とする等の不具合もある。本発明は上述の点に鑑みてなされたもので、磁気カードにより与えられる金額情報と電話機から与えられる通話料金情報とを比較し、この比較結果に応じて電話機の通話制御を行うと共に金額的演算を行って磁気カードの記録内容を書き換えて返却するような磁気カード式公衆電話機を提供するものである。」(第1頁右欄第15行〜第2頁左上欄第10行)

甲第3号証の1:
日本電信電話公社による「カード公衆電話」の第一号が昭和57年(1982年)12月23日午前、東京銀座の数寄屋橋公園に登場したことを伝える記事である。

甲第3号証の2:
日本電信電話公社が設置した「カード公衆電話」に使用する「テレホンカード」の販売枚数が300万枚を突破したことを伝える記事である。

甲第4号証:
昭和57年(1982年)12月23日から日本電信電話公社により実用化が開始された磁気カード式公衆電話機の概要に関する事項が記載されている。
また、
α.「カードを挿入すると通話が可能なカードの残り度数が表示され、ダイヤル通話が可能となる。通話時間に応じてカードの残り度数は逐次減算される。」(第88頁右欄第8〜11行)と記載されている。

甲第5〜11号証:
任意の電話機から電話をかけ第三者の加入電話機に課金する自動クレジット通話方式が記載されている。

5.対比
甲第1号証についての記載事項nにおける「被呼者」は「着信加入者」であり、同記載事項eにおいて課金される「契約加入者」は「発信者」であり、電話が被呼者に接続されるまでを発呼時といことができるからから、甲第1号証についての上記摘記事項によれば、同号証には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「市外中継交換機、この市外中継交換機に接続された通信処理装置とデータセンタとを有し、データセンタは照合ファイルを有している公衆電気通信システムを利用し、次のステップを含む電話の通話制御方法であって、
データセンタにおいて、登録番号に対して暗証番号を予め割り当て、暗証番号を記憶し、
発信者の電話から、入力された暗証番号と被呼者の電話番号を発呼時に送信し、
前記暗証番号及び被呼者の電話番号を、市外中継交換機、通信処理装置で受信し、
この受信された暗証番号と記憶された暗証番号の1つとつき合わせを行って、発信者の電話と被呼者の電話との通話路を完成させ、課金に必要な通話度数記録をデータセンタに転送し、その通話の料金を発信者に課金する電話の通話制御方法。」

5-1本件発明1について
引用発明中の「暗証番号」は特殊コードであり、この「暗証番号」は「契約加入者」の「暗証番号」を「照合ファイル」に「登録」しており、「発信者」は発呼者であり、「つき合せを行」なうことは一致して使用可能であるかを確認することで、「通話路を完成させ」ることは接続することであり、「自動式クレジット通話方式」は通話制御をしており、「市外中継交換機」及び「市外中継交換機に接続された通信処理装置とデータセンタ」は、その通話制御方式によって、通常の交換に比べて特殊な交換を行っているから、特殊な交換部ということができるから、
本件発明1と引用発明とは、
「特殊な交換部を利用し、次のステップを含む電話の通話制御利用方法であって、
特殊な交換部において、特殊コードを予め割り当て、特殊コードを記憶し、
発呼者の電話から、入力された特殊コードと被呼者の電話番号を発呼時に送信し、
前記特殊コード及び被呼者の電話番号を特殊な交換部が受信し、
この受信された特殊コードが、記憶された特殊コードの1つと一致して使用可能であるかを確認し、発呼者の電話を被呼者の電話に接続する電話の通話制御方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点]
・相違点1
本件発明1では、「所定の預託金額に対し」特殊コードを予め割り当て、「これら預託金額及び」特殊コードの複数組合せを記憶し(a)、「前記特殊コードは、対応する預託金額の支払いを条件として使用可能とされ」(b)としているのに対し、引用発明では、特殊コードとの組合せで通話費用の記憶はされているが、通話費用の課金方式が後払い方式であるために、預託金額が記憶されておらず、特殊コードの使用が預託金額の支払いを条件とされていない点において相違する。

・相違点2
本件発明1が、「(f)前記受信された特殊コードの預託金額の残高と、発呼者の電話(81)を被呼者の電話に接続するために必要な最小費用とを比較し」、「(g)前記預託金額の残高が必要な費用より多い時に、発呼者の電話(81)を被呼者の電話に接続し」としているのに対して、引用発明では、通話費用の課金方式が後払い方式であるために、被呼者の電話に接続するために残額と必要な最小費用とを比較するようなステップを有しない点において相違する。

・相違点3
本件発明1が、「(h)前記預託金額の残高が、発呼者と被呼者との通話接続を継続するのに必要な費用より少なくなった場合には、発呼者と被呼者の通話接続を遮断するように、発呼者の電話(81)が被呼者の電話と接続を開始してから遮断されるまで通話費用をモニターする」としているのに対し、引用発明においては、通話費用の課金方式が後払い方式であるために、この条件によって通話の遮断をするものでない点において相違する。

5-2本件発明2について
本件発明2と引用発明とを比較すると、
その構成上の一致点及び相違点は、相違点としての以下の一点を除けば、本件発明1と引用発明の場合と同様である。
[相違点]
本件発明2中の「(i)前記特殊な交換部(A)が、使用可能な預託金額の残高を発呼者に報知する」の構成が、引用発明中にない点で相違する。

5-3本件発明3について
同様に、本件発明3と引用発明についても、
一致点及び相違点に関しては、相違点としての以下の一点を除けば、本件発明1と引用発明の場合と同様である。
[相違点]
本件発明3中の「(i)前記特殊な交換部(A)が、送信された被呼者の電話番号に基いて使用可能な預託金額の残高を使用可能な通話時間に変え、この使用可能な通話残り時間を発呼者に報知する」の構成が、引用発明中にない点で相違する。

5-4本件発明4について
同様に、本件発明4と引用発明についても、
一致点及び相違点に関しては、相違点としての以下の点を除けば、本件発明1と引用発明の場合と同様である。
[相違点]
本件発明4中の「(i)通話費用を預託金額から差し引く」の構成が、引用発明中にない点で相違する。

6.当審の判断
6-1本件発明1について
・相違点1について
請求人は、審判請求書第12頁第5行〜第13頁第2行において、「前払い方式の最もポピュラーな例であるテレホンカードを用いた通話システムが1982年頃から日本電信電話公社により実用化され(甲第3号証および甲第4号証参照)、周知の前払い課金方式が存在していたから少なくとも、本件発明の優先日である1985年当時には、キャッシュレス通話の課金方式として前払い方式のアイデアは当業者に周知であった。従って、キャッシュレス通話の課金方式として前払い方式が周知である以上、同じくキャッシュレス通話の技術を記載した引用発明における後払い方式を前払い方式にすることは当業者が容易に発想できたことである。
後払い方式は電話加入権者等、電話会社にとって通話料金の後払いが担保されている者との契約において適用可能であるのに対し、前払い方式はそのような担保がない場合の課金方式であるが、前述のとおり本件優先日当時前払い方式が実用化されていたのであるから、引用発明に前払い方式を適用することは当業者が容易に発想し得たことである。そして、以下に述べるように、本件発明1と引用発明の「相違点1」は、前払い方式を適用するというアイデア自体から導かれる内容であって、前払い方式を適用するに当っての技術的課題を解決するような技術事項を含むものではない。
本件発明1と引用発明の前記「相違点1」は、後払い方式を採用する引用発明において特殊コードに対応して記憶するのが通話料金であるのに対し、本件発明1は預託金額であり、特殊コードは預託金額の支払いを条件として使用可能となることである。しかし、課金の方式を後払いとした場合と前払いとした場合のシステム上の処理の違いについて考えてみると、後払い方式では、通話料金を順次加算する処理を行うのに対し、前払い方式では預託金額が支払われた後、預託金額から通話料金を差し引く処理となることは明らかである。従って、「相違点1」は、前払い方式のアイデアが周知である以上、これを引用発明に適用する場合に、当業者にとって容易に想到される事項である。」との主張しているから、引用発明で採用されている、いわゆる後払い方式を、テレホンカードを用いた前払い方式の知見によって、前払い方式に変更することが容易になし得るかについて、まず検討する。
上記摘記した記載事項q等で明らかなように、甲第1号証刊行物には、引用発明をなすにいった前提となる従来技術及びその問題点が記載されている。それによれば、一般加入者電話への課金は、通話に使用した料金が、加入者電話ごとに、電話運営企業体で集中管理され、一定期間後、使用料金を積算して、その加入者電話(の所有者)に請求・徴収するようになっているため、加入者電話の所有者以外の者が、前記加入者電話から電話した場合には、電話をした者自身に課金できず、加入者電話(の所有者)に課金されて、不便であるから、それを解消するために、引用発明をなすにいたった、というものである。そのため、引用発明では、「加入者電話の所有者以外の者が、その加入者電話から電話した場合」でも、電話をした者自身の加入者電話に課金できるように、上記「5.対比」冒頭で認定したように、工夫されており、あくまで、「通話に使用した料金が、加入者電話ごとに、電話運営企業体で集中管理され、一定期間後、使用料金を積算して、その加入者電話(の所有者)に請求・徴収する」課金システムを前提としての改良発明であって、そのような基本的な課金システム構成の上に、成り立っている。
一方、甲第3号証の1、甲第3号証の2、甲第4号証に示されるテレホンカードは、これら各甲号証で例示するまでもない周知技術といえるものであり、甲第2号証刊行物にも同様のものが開示されている。通常、この様なテレホンカードは、予め使用者が一定額で購入しておき、通話に使用するものであり、購入額にみあった金額まで通話に使用できるようになっている。その意味では、一種の前払い方式の課金システムということはできる。
しかし、テレホンカードにおける前払い方式は、あくまで、公衆電話機における、コイン・現金の使用の不便さを解消することにその目的があり、前払いの前提となる課金システムは、テレホンカードと公衆電話機の範囲に止まっており、通話に使用した料金を電話運営企業体で集中管理する課金システムにまで及んでいない。このことは、甲第2号証刊行物に関して摘記した記載事項ハにも記載されているように、当業者における一般的認識ということができる。
してみると、引用発明の前提となる課金システムと周知のテレホンカードの前提となる課金システムは、明らかに異質な課金システムであって、引用発明とこの周知技術の立脚する課金システム自体が根本的に異なっているのであるから、周知技術の利用といっても、そこには大きな阻害事由が存在するといわざるを得ず、「前払い」「後払い」という単なる表現上の関連性のみによって、あるいは、通話に対しての課金システムであるという漠然とした共通性にのみよって、引用発明に、テレホンカード課金システムでの前払い方式を適用することを容易に発想できたとすることはできない。したがって、この点について実質的に言及していない請求人の上記主張を認めることはできない。
したがって、「相違点1」に係る本件発明の構成を容易に想到しうる事項とすることはできない。

・相違点2について
請求人は、審判請求書第13頁第3〜15行において、「「相違点2」については、これらは当初明細書に記載のない事項であり、従って本件発明の進歩性の判断において、考慮されるべきではない。しかし、前払い方式を採用した甲第2号証にはこれらの相違点に相当する記載があるので、以下これを指摘する。
すなわち、「相違点2」については、甲第2号証に、記載事項イの記載がある。
したがって、この記載によれば、本件発明1の「(f)前記受信された特殊コードの預託金額の残高と、発呼者の電話(81)を被呼者の電話に接続するために必要な最小費用とを比較し、」、「(g)前記預託金額の残高が必要な費用より多い時に、発呼者の電話(81)を被呼者の電話に接続し、」に当業者であれば容易に想到し得る。」との主張している。
そこで、まず、「これらは当初明細書に記載のない事項であり、従って本件発明の進歩性の判断において考慮されるべきではない」との主張点について検討する。
そもそも発明の進歩性とは、当業者が、特許出願時における技術水準に基づいて容易に考えだすことができないような程度をいうのであるから、その判断の基準になるものは、特許出願時の技術水準であって、その発明に係る当初明細書ではない。また、明細書それ自体は特許請求の範囲に係る発明を開示するためのもであって、技術水準の開示を目的として記載されたものではない。したがって、本件当初明細書に直接的な記載がないということをもって、直ちに当該構成による進歩性は否定できないから、この「考慮されるべきではない」との主張は採用できない。
次に、甲第2号証には、請求人が主張するように、「・相違点2」に類似した構成である記載事項イが開示されているが、甲第2号証はテレホンカード課金システムに係るもので、引用発明の前提となる課金システムとは、明らかに異質な課金システムであるから、上記「・相違点1について」と同様の趣旨で、引用発明に、甲第2号証にある記載事項イを、容易に適用できたとすることはできない。

・相違点3について
請求人は、審判請求書第13頁第16〜26行において、「記載事項ロは、通話中の残額を逐次モニターし、残額が通話を継続するのに必要な費用よりも少なくなったときに、通話回線オフの信号を与えて、通話回線を遮断することを示している。
したがって、この記載は、「(h)前記預託金額の残高が、発呼者と被呼者との通話接続を継続するのに必要な費用より少なくなった場合には、発呼者と被呼者の通話接続を遮断するように、発呼者の電話(81)が被呼者の電話と接続を開始してから遮断されるまで通話費用をモニターする」に対応する。」との主張している。
しかし、甲第2号証には、請求人が主張するように、「・相違点3」に類似した構成である記載事項ロが開示されているものの、甲第2号証はテレホンカード課金システムに係るもので、引用発明の前提となる課金システムとは、明らかに異質な課金システムであるから、上記「・相違点1について」と同様の趣旨で、引用発明に、甲第2号証にある記載事項ロを、容易に適用できたとすることはできない。

また、弁駁書と同時に提出された甲第5〜11号証に記載された周知技術は、本質的に、引用発明と大同小異のもであるから、これらの甲各号証をもってしても、本件発明1を容易になしえたものということはできない。
したがって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証に記載された発明、及び甲第3号証の1〜甲第11号証に示された周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものとすることはできない。

次に、本件発明2〜4について検討する。
上記「6-1本件発明1について」に記載したように、本件発明1〜4の共通の構成である(0)〜(h)の構成が当業者に容易に発明できないから、上記「5-2本件発明2について」〜「5-4本件発明4について」の「[相違点]」に記載した事項についてはあえて検討するまでもなく、本件発明2〜4が容易に発明できないことは明らかであるが、一応検討しておく。

6-2本件発明2について
請求人は、審判請求書第13頁第28行〜第14頁第6行において、「本件発明2は、本件発明1に対して、「(i)前記特殊な交換部(A)が、使用可能な預託金額の残高を発呼者に報知する」という構成要素を付加して構成されている。
しかし、係る構成要素は、甲第4号証について摘記した記載事項αにあるように、本件優先日においては、周知の事項である。」との主張している。
しかし、甲第4号証には、「・相違点3」に類似した構成である記載事項αが開示されているものの、甲第4号証はテレホンカード課金システムに係るもので、引用発明の前提となる課金システムとは、明らかに異質な課金システムであるから、上記「・相違点1について」と同様の趣旨で、引用発明に、甲第4号証にある記載事項αを、容易に適用できたとすることはできない。

6-3本件発明3について
請求人は、審判請求書第14頁第7〜14頁行において、「本件発明3は、本件発明1に対して、「(i)前記特殊な交換部(A)が、送信された被呼者の電話番号に基いて使用可能な預託金額の残高を使用可能な通話時間に変え、この使用可能な通話残り時間を発呼者に報知する」という構成要素を付加して構成されている。
しかし、電話番号はそもそも地域ごとに割り当てられているものであるから、電話番号から通話に必要な料金を特定し、預託金額の残高から使用可能な通話時間を求めることは容易である。」との主張をしている。
しかし、「電話番号から通話に必要な料金を特定し、預託金額の残高から使用可能な通話時間を求めることは容易である」としても、「発呼者に報知する」点は検討されておらず、たとえ、甲第4号証の記載事項αを斟酌するにしても、上記「6-2本件発明2について」で検討したように、引用発明に、甲第4号証の記載事項αを、容易に適用できたとすることはできない以上、請求人の主張は、採用できない。

6-4本件発明4について
請求人は、審判請求書第14頁第15〜19行において、「本件発明4は、本件発明1に対して、「(i)通話費用を預託金額から差し引く」という構成要素を付加して構成されている。
しかし、上記構成要素は、引用発明に周知の前払い方式を適用した場合に当然なされる処理である。」との主張している。
確かに、「(i)通話費用を預託金額から差し引く」という構成自体は、本件発明1の構成を採用すれば、ほとんど自明の事項ということができる。しかし、繰り返しになるが、本件発明1〜4の共通の構成である(0)〜(h)の構成が当業者に容易に発明できない以上、当業者が容易に発明できたものとすることはできない。

7.むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件請求項1、10、17、24に係る発明の特許を無効とすることができない。 審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-07-08 
結審通知日 2005-07-13 
審決日 2005-07-29 
出願番号 特願平9-117138
審決分類 P 1 113・ 121- Y (H04M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉見 信明松野 高尚  
特許庁審判長 山本 春樹
特許庁審判官 長島 孝志
望月 章俊
登録日 1999-11-05 
登録番号 特許第2997709号(P2997709)
発明の名称 電話の通話制御方法  
代理人 大貫 敏史  
代理人 加藤 清志  
代理人 青山 正和  
代理人 稲葉 良幸  
代理人 高橋 詔男  
代理人 森▲崎▼ 博之  
代理人 尾崎 英男  
代理人 飯塚 暁夫  
代理人 根本 浩  

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