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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B32B
管理番号 1123970
審判番号 不服2005-7128  
総通号数 71 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2005-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-04-21 
確定日 2005-09-30 
事件の表示 特願2003-350353「金属蒸着層を設けたヘアライン加工フィルム」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 4月28日出願公開、特開2005-111865〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成15年10月9日の出願であって、その請求項1〜3に係る発明は、平成16年2月10日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1〜3に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める(以下、それぞれ「本願発明1」〜「本願発明3」という。)。
「【請求項1】
その表面に極細の線が無数に入れられた態様を有する、いわゆるヘアライン加工をその表面に直接施された、ヘアラインフィルムとも称されるプラスチックフィルムを基材フィルムとし、
該基材フィルムのヘアライン加工が施された表面に対してプラズマ放電処理を行い、 前記プラズマ放電処理を施した面、即ちプラズマ放電処理済ヘアライン加工面に直接金属蒸着層を積層したこと、
を特徴とする、金属蒸着層を設けたヘアライン加工フィルム。
【請求項2】
請求項1に記載の金属蒸着層を設けたヘアライン加工フィルムにおいて、
前記プラズマ放電処理は、放電ガスを酸素ガスとした直流グロー放電であること、
を特徴とする、金属蒸着層を設けたヘアライン加工フィルム。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の金属蒸着層を設けたヘアライン加工フィルムにおいて、
前記プラズマ放電処理におけるプラズマ放電強度が50W/m2以上5000W/m2以下であること、
を特徴とする、金属蒸着層を設けたヘアライン加工フィルム。」

2.引用刊行物記載の発明
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された特開平2-150344号公報(以下、「引用刊行物1」という。)には、次の事項が記載されている。
(1-1)「(1)支持体フイルムと接着層と熱可塑性樹脂層と金属蒸着層とがこの記載の順序に積層され、上記熱可塑性樹脂層にはヘアライン調凹凸形状が施されていることを特徴とする金属光沢プラスチックフイルム。

(4)支持体フイルムと接着層と熱可塑性樹脂層とがこの記載の順序に積層された基材フィルムを、ヘアライン調凹凸形状を有する加熱押型にて押圧し、熱可塑性樹脂層にヘアライン調凹凸形状を転写し、しかる後にその表面に金属蒸着層を形成することを特徴とする金属光沢プラスチックフイルムの製造方法。」(特許請求の範囲(1)、(4))
(1-2)「支持体フイルム1は…。接着層2は…。接着層2上に形成する熱可塑性樹脂層3は…。尚、上記熱可塑性樹脂層3の表面は、後に形成するアンダーコート層や金属蒸着層に対する接着性を向上させる為にコロナ放電処理(例えば、ぬれ張力38dyne/cm程度)を施しておくのが好ましい。」(2頁左下欄19行〜3頁左上欄12行)
(1-3)「蒸着に際しては、樹脂層3の種類や表面状態によって前処理を施すことが好ましい場合があり、例えば、合成樹脂3がキャストポリプロピレンである場合には、コロナ処理の他に塩素化ポリプロピレン樹脂等によりアンダーコートを施すことによって蒸着層に対する接着性と金属光沢を向上させることが出来る。これらの前処理は型付けの前でも後でもよいが、型付け後に行うことによって、型付け時に生じた樹脂層3の表面の荒れを無くし、一層優れた深み、立体感及び高級感のある目的物とすることが出来る。」(3頁右下欄11行〜4頁左上欄1行)
(1-4)「実施例1
印刷包装材料用として普通に使用されている二軸延伸ポリエステルフィルム(厚み16μm)の表面に、…ウレタン系反応型接着剤を…塗布し、その表面にキャストポリプロピレンフイルム(蒸着用FGタイプ、厚み25μm、二村化学(株)製)をドライラミネートし、更にキャストポリプロピレンフイルムの表面をコロナ放電処理して基材フイルムとした。
次に…連続式エンボス機を用い、…押圧型付けを行い、続けて冷却ロール間を通して巻き取った。…
次に形成した凹凸形状面に真空蒸着方法によりアルミニウムを800Åの厚みに蒸着した。…この金属光沢フイルムは深み、立体感及び高級感に優れた白銀色の立縞模様を有する美麗な金属光沢を有していた。」(4頁右上欄4行〜左下欄12行)
上記摘示事項から、引用刊行物1には、「支持体フィルムと接着層と熱可塑性樹脂層とからなる積層フィルムを基材フィルムとし、該基材フィルムの熱可塑性樹脂層にヘアライン調凹凸形状を施し、そのヘアライン調凹凸形状が施された表面に対して、金属蒸着層との接着性向上の為にコロナ放電処理を行い、そのコロナ放電処理を施した面に直接金属蒸着層が積層された金属蒸着層を設けたヘアライン加工フィルム」の発明(以下、「引用刊行物1記載発明」という。)が記載されていると認められる。
また、原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された特開2003-226767号公報(以下、「引用刊行物2」という。)、特開平4-212842号公報(以下、「引用刊行物3」という。)には、以下の事項が記載されている。
(引用刊行物2)
(2-1)「【請求項5】 シクロオレフィン系フィルムの片面若しくは両面に対してプラズマ放電処理を施すプラズマ処理工程と、
前記プラズマ処理工程を終えたシクロオレフィン系フィルムのプラズマ処理面に対して直接金属蒸着層を設ける蒸着工程と、
を備えたことを特徴とする、金属蒸着フィルムの製造方法。
【請求項6】 請求項5に記載の金属蒸着フィルムの製造方法において、
前記プラズマ放電処理は、放電ガスを酸素ガスとした直流グロー放電であること、
を特徴とする、金属蒸着フィルムの製造方法。
【請求項7】 請求項5又は請求項6に記載の金属蒸着フィルムの製造方法において、
前記プラズマ放電の強度が50W・min/m2以上1500W・min/m2であること、
を特徴とする、金属蒸着フィルムの製造方法。」(特許請求の範囲)
(2-2)「 この低吸水性等に優れたシクロオレフィン系フィルムの表面にアルミニウム等の金属を蒸着させて金属蒸着層を設けるには、従来は、大気中での放電を利用して表面改質を行うコロナ放電処理や、同じく真空中での放電を利用して表面改質を行うグロー放電処理を最初にフィルム表面に対して行うことによりフィルム表面を易接着化し、次いで上記の処理が済んだフィルム表面に対して金属蒸着層を設けることが行われている。
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上述したようなコロナ放電処理やグロー放電処理によってシクロオレフィン系フィルムの表面改質を行った後に、その表面に金属蒸着層を設けようとしても、シクロオレフィン系フィルム表面と金属蒸着層との間には必ずしも所望する充分な密着力は生じなかった。シクロオレフィン系フィルムであれば、その構造上極性基が存在しておらず、そのため、コロナ放電やグロー放電処理を行っても密着力の向上はなかなか容易には実現できなかった。」(段落0003,0004)
(2-3)「【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため、本願発明の請求項1に記載の発明は、シクロオレフィン系フィルムの片面若しくは両面に対して、プラズマ放電処理を施したことを特徴とする。
本願発明の請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の表面処理済フィルムにおいて、前記プラズマ放電処理は、放電ガスを酸素ガスとした直流グロー放電であること、を特徴とする。
本願発明の請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の表面処理済フィルムにおいて、前記プラズマ放電の強度が50W・min/m2以上1500W・min/m2以下であること、を特徴とする。
本願発明の請求項4に記載の発明は、請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の表面処理済フィルムのプラズマ処理を施した面に直接金属蒸着層を設けたことを特徴とする。
本願発明の請求項5に記載の発明は、シクロオレフィン系フィルムの片面若しくは両面に対してプラズマ放電処理を施すプラズマ処理工程と、前記プラズマ処理工程を終えたシクロオレフィン系フィルムのプラズマ処理面に対して直接金属蒸着層を設ける蒸着工程と、を備えたことを特徴とする。
本願発明の請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の金属蒸着フィルムの製造方法において、前記プラズマ放電処理は、放電ガスを酸素ガスとした直流グロー放電であること、を特徴とする。
本願発明の請求項7に記載の発明は、請求項5又は請求項6に記載の金属蒸着フィルムの製造方法において、前記プラズマ放電の強度が50W・min/m2以上1500W・min/m2であること、を特徴とする。」(段落0008〜0014)
(引用刊行物3)
(3-1)「【請求項1】 少なくとも一方の面が平均粗さ(Ra)で5.0nm以下の平滑化処理された高分子基材の該平滑化処理された面上に、金属又は金属化合物からなる薄膜を形成してなる蒸着フィルム。
【請求項2】 少なくとも一方の面が10-5〜10-2Torrの真空下で50W/m2/分以上の放電処理された高分子基材の、該放電処理された面上に金属又は金属化合物からなる薄膜を真空蒸着してなる蒸着フィルム。」
(3-2)「本発明においては高分子基材の少なくとも一方の面は平均粗さRaの値が5.0nm以下の範囲で平滑化処理されていることが必要であり、この平滑化処理としてはアルゴン、キセノン等の不活性ガス、または酸素、窒素、二酸化炭素、一酸化炭素等の単体ガスあるいはこれらの混合ガスから得られる低温プラズマ空間に基材を一定条件下で曝すことで達成できる。特に二酸化炭素/窒素混合ガス系を用いることが有効である。
プラズマを発生させる手段としては、10-5〜10-2Torrの真空下で、任意の電極形状を有する放電空間に、直流、交流または高周波等のエネルギーを印加して得られるグロー放電が利用でき、各々の最適条件は電極形状、供給電源の種類、真空度、フィルム走行速度などのパラメーターにより適宜決定できる。本発明の平滑化処理は、金属又は金属化合物の薄膜を形成する直前に真空下で連続的に行なうことが望ましいが、事前に別工程で、例えば前述の任意のガスを用いて、10-2〜102Torrの真空下で公知の手段により行なうこともできる。印加エネルギーとしては50W/m2/分以上が好ましい。」(段落0008,0009)

3.対比
本願発明2と引用刊行物1記載発明を比較すると、基材フィルム上にヘアライン加工が施されている点、ヘアライン加工が施された表面に対して放電処理を行う点及び両方の処理が施されたその処理面に金属蒸着層が直接積層されているヘアライン加工フィルムである点で一致し、ヘアライン加工フィルムの基材フィルムについて、本願発明2では引用する請求項1が「プラスチックフィルム」と規定されており、該フィルムとして積層フィルムは明示されていないのに対し、引用刊行物1発明では支持体フィルムと接着層と熱可塑性樹脂層とからなる積層フィルムである点(以下、「相違点1」という。)、金属蒸着層との接着性向上の為の放電処理が本願発明2ではプラズマ放電処理であり、該放電処理が放電ガスを酸素ガスとした直流グロー放電であるのに対し、引用刊行物1記載発明ではコロナ放電処理である点(以下、「相違点2」という。)で相違する。
また、本願発明3と引用刊行物1記載発明を比較すると、上記一致点及び相違点1は上記で述べた本願発明2の場合と同様であり、金属蒸着層との接着性向上の為の放電処理が本願発明3ではプラズマ放電処理であって、プラズマ放電強度が50W/m2以上5000W/m2以下である点(相違点3)で、コロナ放電処理である引用刊行物1記載発明と相違する。

4.当審の判断
(本願発明2について)
上記相違点1及び2について、以下に検討する。
(1)相違点1について
出願人は、審判請求書において、本願発明における基材フィルムであるプラスチックフィルムは、積層フィルムではなく、単層のプラスチックフィルムである旨主張する。
しかし、本願発明における基材フィルムであるプラスチックフィルムが単層のフィルムを意味するものとしても、ヘアライン加工フィルムの基材フィルムとして、単層のフィルムは通常用いられるものであり(例えば、引用刊行物1の中で従来技術として記載されている特開昭51-19068も単層フィルムである。)、相違点2に係る放電処理の作用、効果が積層フィルムと単層フィルムとで大きく異なるものとも認められないから、引用刊行物1記載発明における積層フィルム基材をフィルムの使用目的等に応じて、単層フィルムのプラスチックフィルムに換えることは、当業者が適宜なし得る程度のことである。
(2)相違点2について
引用刊行物2には、フィルムと金属蒸着層との接着性を改善する為に、従来のコロナ放電処理に換えてプラズマ放電処理を行うことが記載され、該プラズマ処理として放電ガスを酸素ガスとした直流グロー放電が記載されており(摘示事項(2-1)〜(2-3))、引用刊行物3にも金属蒸着層との密着性改善の為に、酸素ガスから得られる低温プラズマによる処理を行うこと及び該プラズマ発生手段としての直流グロー放電処理が記載されている(摘示事項(3-2))。
したがって、引用刊行物1記載発明におけるコロナ放電処理を、接着性改善効果のより優れたプラズマ放電処理に換えることは、引用刊行物2,引用刊行物3に記載された事項を考慮すれば当業者が容易に想到し得ることであり、その際、放電ガスを酸素ガスとすること、プラズマ発生手段を直流グロー放電とすることも引用刊行物2及び引用刊行物3に記載されており、それらの放電ガス及びプラズマ発生手段を採用することも当業者にとって容易である。
そして、本願発明2において、上記相違点1及び2に係る事項を採用することによる接着性改善等の効果も、格別顕著なものとは認められない。

(本願発明3について)
(1)相違点1について
上記本願発明2についての相違点1の場合と同様である。
(2)相違点3について
引用刊行物1記載発明におけるコロナ放電処理を、接着性改善効果のより優れたプラズマ放電処理に換えることは、相違点2について述べたとおりの理由により、当業者が容易に想到し得ることである。
そして、その際のプラズマ放電強度については、引用刊行物2にプラズマ放電の強度が50W・min/m2以上1500W・min/m2以下であること(摘示事項(2-1))又は引用刊行物3に50W/m2/分以上であること(摘示事項(3-1))が記載されており、引用刊行物2及び3のプラズマ処理の目的が、いずれも本願発明3と同様に、基材フィルム層と金属蒸着層との接着性改善であることを考慮すれば、少なくとも引用刊行物2に記載された、プラズマ放電の強度が50W/m2以上1500W/m2以下の範囲を採用することは、当業者にとって容易である。
なお、本願発明3では、プラズマ放電強度の単位時間が規定されていないが、引用刊行物2及び3の記載から判断して、本願発明3においてもプラズマ放電強度は引用刊行物2及び3と同一単位時間あたりの値と認める。
そして、本願発明3において、上記相違点1及び3に係る事項を採用することによる接着性改善等の効果も、格別顕著なものとは認められない。

5.むすび
以上のとおり、本願発明2及び3は、引用刊行物1〜3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-07-12 
結審通知日 2005-07-19 
審決日 2005-08-08 
出願番号 特願2003-350353(P2003-350353)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B32B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 健史細井 龍史  
特許庁審判長 松井 佳章
特許庁審判官 野村 康秀
石井 淑久
発明の名称 金属蒸着層を設けたヘアライン加工フィルム  

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