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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H01M
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01M
管理番号 1123987
審判番号 不服2003-5559  
総通号数 71 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1996-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-04-03 
確定日 2005-09-30 
事件の表示 平成 7年特許願第 74541号「電池電極形成用水系バインダー」拒絶査定不服審判事件〔平成 8年 9月27日出願公開、特開平 8-250123〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成7年3月7日の出願であって、平成15年2月25日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成15年4月3日に拒絶査定に対する審判請求がなされたものである。

2.本願発明について
本願の請求項1に係る発明は、明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「ブタジエン結合含量が40〜98重量%、かつゲル含量が20〜74重量%であるスチレンブタジエン共重合体ラテックスを主成分とすることを特徴とする電池電極形成用水系バインダー。」(以下、この発明を「本願発明」という。)

3.引用例記載の事項
原査定の拒絶の理由に引用した本願の出願日前に頒布された引用例1(特開平5-74461号公報)には、以下の事項が記載されている。
(a)「【請求項1】炭素質材料を負極活物質とする二次電池負極であって、該負極がブタジエン含量が40重量%〜95重量%であり、かつゲル含量が75%〜100%であるスチレン/ブタジエンラテックスを主成分とするバインダーにより負極活物質が結着されていることを特徴する二次電池負極。」(【特許請求の範囲】)
(b)「本発明者らは、水性分散体ラテックスについて種々研究の結果、特定の組織を有するスチレン/ブタジエンラテックスを負極活物質のバインダーとして使用した場合、高温条件下での良好な充電保存性能を有する二次電池が得られることを見いだし、本発明を完成するに至った。」(段落【0009】)
(c)「ゲル含量が75%未満の場合、電極の接着強度および後述する非水系電池に用いられる電解液に対する耐膨潤性に欠けるとともに、高温条件下での充電保存性能が低下する。
何故、本発明のスチレン/ブタジエンラテックスポリマーのゲル含量が高温保存性能に影響を与えるのかは定かではないが、ラテックスポリマーの架橋度合すなわちゲル含量が高温下でのポリマーのフローに影響を与え、フローしにくいポリマーほど高温保存後の放電容量の低下を抑制するものと推察される。」(段落【0014】、【0015】)
(d)「ゲル含量=(トルエン不溶分重量/浸せき前重量)×100(%)
実施例1〜5
市販のニードルコークス(興亜石油社製KOA-SJCoke)を平均粒径10μmに粉砕した。この粉砕物100重量部に対し表1に示した組成で作成したスチレン/ブタジエンラテックス10重量部 (固形分50重量%)、増粘剤としてカルボキシメチルセルロース水溶液(固形分1重量%)100重量部、1/10規定アンモニア水1重量部を加え、混合し、塗工液とした。10μNi箔を基材としてこの塗工液を160g/m2で塗布乾燥し、厚さ150μの負極電極を得た。」(段落【0034】)
(e)表1には「比較例1」として、スチレン47重量%、ブタジエン30重量%、メチルメタクリレート20重量%、イタコン酸3重量%、ゲル含量55重量%のスチレン/ブタジエンが記載されている。
(f)表2には実施例及び比較例を評価する指標として「過電圧V」、100サイクルでの「容量保持率(%)」及び「60℃14日間充電保存後の容量低下率(%)」が記載されている。

4.対比・判断
4-1.新規性について
引用例1の上記(a)には、「負極がブタジエン含量が40重量%〜95重量%であり、かつゲル含量が75%〜100%であるスチレン/ブタジエンラテックスを主成分とするバインダーにより負極活物質が結着されていることを特徴する二次電池負極。」と記載されているから、この「ブタジエン含量が40重量%〜95重量%であり、かつゲル含量が75%〜100%であるスチレン/ブタジエンラテックスを主成分とするバインダー」は、「電池電極形成用バインダー」であることは明らかである。しかも、この「バインダー」は、上記(b)の「本発明者らは、水性分散体ラテックスについて種々研究の結果、特定の組織を有するスチレン/ブタジエンラテックスを負極活物質のバインダーとして使用した場合、高温条件下での良好な充電保存性能を有する二次電池が得られることを見いだし、本発明を完成するに至った。」という記載によれば、水性の「スチレン/ブタジエンラテックス」を主成分とするバインダーである以上「水系バインダー」であるとも云えるから、引用例1には、「ブタジエン含量が40重量%〜95重量%であり、かつゲル含量が75%〜100%であるスチレン/ブタジエンラテックスを主成分とする電池電極形成用水系バインダー」が記載されていると云える。加えて、引用例1の上記(c)、(e)及び(f)の記載に照らせば、ゲル含量が75%〜100%の上記「水系バインダー」とその性能等を比較するためとはいえ、ゲル含量が75%未満の上記「水系バインダー」も、既に開発されていたと云うべきであるから、引用例1には、「ブタジエン含量が40重量%〜95重量%、かつゲル含量が75%未満であるスチレン/ブタジエンラテックスを主成分とする電池電極形成用水系バインダー。」という発明(以下、「引用例1発明」という)も記載されていると云える。
そこで、本願発明と引用例1発明とを対比すると、引用例1発明の「スチレン/ブタジエン」は、本願発明の「スチレンブタジエン共重合体」に相当するし、引用例1発明の「ブタジエン含量」は、スチレンブタジエン共重合体中に結合している本願発明でいう「ブタジエン結合含量」に相当するから、両者は、「ブタジエン結合含量が40〜95重量%、かつゲル含量が20〜74重量%であるスチレンブタジエン共重合体ラテックスを主成分とすることを特徴とする電池電極形成用水系バインダー」である点で一致し、何ら相違するところがない。
してみると、本願発明は、その水系バインダーの性能の優劣はともかくも、引用例1に記載された発明とその特定事項の点で区別することができないから、引用例1に記載された発明であると云う他ない。
4-2.進歩性について
本件発明は、本願明細書の記載からみて、上記引用例1に記載されたゲル含量が75%〜100%の上記「水系バインダー」の改良に係るものであると認められるから、この観点から、「ゲル含量」を「20〜74重量%」と規定した「選択発明」として進歩性を有するか否かについても、以下検討する。
本願発明において、その「ゲル含量」を75%未満のいわゆる「20〜74重量%」に規定した技術的な理由は、本願明細書の段落【0003】の「スチレンブタジエン共重合体ラテックスのポリマーのゲル含量が74重量%を超えると本用途でのポリマーのバインダー性能が不足して接着強度が劣り、これに対応するためにバインダー量を増やすと過電圧が上昇するとの問題があり、高い特性の電池を得ることができない。」という記載によれば、少なくともそのバインダーの接着強度の優劣の点にあると認められるところ、これに対し、引用例1に記載された上記「水系バインダー」がゲル含量75%未満の範囲のものを採用しない技術的な理由も、引用例1の上記(c)の「ゲル含量が75%未満の場合、電極の接着強度および後述する非水系電池に用いられる電解液に対する耐膨潤性に欠けるとともに、高温条件下での充電保存性能が低下する。」という記載によれば、少なくともバインダーの接着強度の優劣の点にあるから、このような共通の接着強度の優劣に関する結果から本願発明が引用例1に記載された内容と相反する結果を導いている点に疑義なしとはしない。もっとも、本願発明が電池の性能に関する接着強度以外の効果をも加味して総合的に判断して引用例1に記載の内容と相反する結果を採用したものであるとしても、引用例1にも、電池の性能を示す「過電圧」、「電流効率(%)」、「容量保持率(%)」、「容量低下率や過電圧の変化」という本願発明と共通する指標のデータが記載されているから、これら指標に関する結果から、引用例1に好ましいとは記載されていない「ゲル含量75%未満の範囲内の上記「水系バインダー」を採用することも、その効果の優劣に係る認識の程度を変更することによって当業者が容易に想到することができたと云うべきである。そして、本願発明の効果を示す指標も、前示のとおり、引用例1に記載された指標と同種又は類似のものであって、その効果の程度も格別顕著であるとはいえないから、本願発明が引用例1に記載の上記「水系バインダー」の「選択発明」であるとも云えない。
してみると、本願発明は、引用例1発明又は引用例1に記載された上記「水系バインダー」に基づいて当業者が容易に発明をすることができたと云うべきである。

5.むすび
したがって、本願請求項1に係る発明は、特許法第29条第1項3号又は同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本願は、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-08-02 
結審通知日 2005-08-03 
審決日 2005-08-16 
出願番号 特願平7-74541
審決分類 P 1 8・ 113- Z (H01M)
P 1 8・ 121- Z (H01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉水 純子冨士 美香  
特許庁審判長 沼沢 幸雄
特許庁審判官 原 賢一
酒井 美知子
発明の名称 電池電極形成用水系バインダー  
代理人 井上 一  
代理人 布施 行夫  
代理人 大渕 美千栄  

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