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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1124168
審判番号 不服2003-16247  
総通号数 71 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1999-12-07 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-08-22 
確定日 2005-10-07 
事件の表示 平成10年特許願第153768号「温泉源泉の性質を付与した浴用剤」拒絶査定不服審判事件〔平成11年12月 7日出願公開、特開平11-335263〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
1.手続の経緯・本願発明

本願は、平成10年5月19日の出願であって、その請求項1〜4に係る発明は、平成14年4月12日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1〜4に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明は次のとおりである。
(以下、「本願発明」という。)

「浴用剤成分としてORP(酸化還元電位)を下げる物質を浴用剤に新たに加えるか、または浴用剤成分の1つまたは複数を前記ORPを下げる物質と代替して得られた浴用剤を混ぜた浴用水のORPが、平衡ORP(ORP=0.84‐0.047pH)より低く、ORP=0.80‐0.047pH以下の還元性を有することを特徴とする温泉源泉の性質を付与した浴用剤。」

2.引用刊行物の記載事項

これに対し、原査定の拒絶の理由に引用され、本出願前に頒布された刊行物である引用文献2には、次の事項が記載されている(摘示した各記載事項を、以下「記載(a)」などという)。

<引用文献2:特開昭63-146811号公報>

(a)「アスコルビン酸またはそのエステルもしくはそれらの水溶性塩ならびに、チオ硫酸または亜二チオン酸の水溶性塩、L-システイン塩酸塩、グルタチオンおよび没食子酸エステルのうち少なくとも一種の還元剤を配合せしめてなる浴用剤。」
(特許請求の範囲第1項)

(b)「一般に浴用剤の色素として使用されているアゾ系の黄色4号・・・等は、大部分が水道水中の遊離残留塩素によって酸化分解し褪色する欠点を有しており、従来、これら色素の安定化剤としてアスコルビン酸が用いられている。・・・アスコルビン酸自身が水道水中の遊離残留塩素によってその殆ど全部が、速やかに分解されデヒドロアスコルビン酸に酸化されるという問題を有していた。
本発明者らは、浴湯中でアスコルビン酸を安定に保つことができるアスコルビン酸配合浴用剤を提供すべく研究の結果、公知の還元剤の中でも特異的にチオ硫酸又は亜二チオン酸の水溶性塩、L-システイン塩酸塩、グルタチオンあるいは没食子酸エステルの添加により浴湯中のアスコルビン酸さらに色素も安定に保たれることを見出し、本発明を完成した。」
(1頁右下欄4行〜2頁左上欄5行)

(c)「本発明の浴用剤を浴湯中に溶解せしめる場合、その使用量は、浴湯中のアスコルビン酸濃度が10〜500ppmになるように溶解すればよい。」
(3頁左下欄4〜6行)

(d)「実施例1.(発泡錠)
硫酸ナトリウム25部、炭酸水素ナトリウム50部、コハク酸4部、アスコルビン酸17部、チオ硫酸ナトリウム3部、森林調香料1部及び0.5部の色素(黄色202-1号)をV型混合機(徳寿製作所製)で充分に混合し、これを単発式製錠機(菊水製作所製)で、直径4.5cm、厚さ1.2cm、重量30gの錠剤に成型し本発明の浴用剤を得た。」
(4頁3〜10行)

以上の記載によれば、引用文献2には、色素の酸化分解を防止し安定化剤として働くアスコルビン酸、及びアスコルビン酸を安定化するための他の還元剤を配合した浴用剤が記載され(記載(a)、(b))、アスコルビン酸及びチオ硫酸ナトリウムを所定量配合した浴用剤発泡錠の製造例が記載されている(記載(d))。


3.対比・判断

本願発明と引用文献2に記載された実施例1の浴用剤の発明を対比すると、後者のアスコルビン酸は、本願明細書の段落【0015】にORPを下げる物質として記載されているものであるから前者のORPを下げる物質に相当し、後者のチオ硫酸ナトリウムは、還元性且つ水溶性であって同段落に記載のORPを下げる物質の条件に合致するから、やはり前者のORPを下げる物質に相当し、また前者において還元剤を浴用剤に対して新たに加えたり成分の1つまたは複数と代替したりすることは、要するに還元剤を浴用剤に配合することを意味するから、両者は、ORPを下げる物質(還元剤)を配合した浴用剤である点で一致し、前者が浴用剤を混ぜた浴用水のORPが平衡ORP(ORP=0.84‐0.047pH)より低く、ORP=0.80‐0.047pH以下の還元性を有し、温泉源泉の性質を付与した浴用剤であるとしているのに対し、後者が浴用剤を混ぜた浴用水のORPとpHの関係及び温泉源泉の性質の付与について特段言及していない点において、一応相違する。

そこで、上記相違点について以下に検討する。

本願実施例1によれば、硫酸ナトリウム及び炭酸水素ナトリウム等からなる浴用剤30gにORPを下げる物質としてアスコルビン酸、亜硫酸ナトリウム又はカテキンを2g加えたものを、200Lの水道水(40℃)に投入したところ、図5に示すようにORP=0.80‐0.047pH以下の浴用水となったことが記載されている。

一方、引用文献2の実施例1では、浴用剤30g(100重量部)中にORPを下げる物質であるアスコルビン酸とチオ硫酸ナトリウムを合計20重量部すなわち6g配合した浴用剤発泡錠を製造しているところ、これをどのように使用したかについて同文献に記載はないものの、通常の家庭用浴槽の容量である200Lの浴用水(水道水が通常使用される)中に1錠(30g)投入して使用したと解するのが自然である(この場合、アスコルビン酸濃度は25.5ppmになり、記載(c)とも矛盾しない)。また、引用文献2の浴用剤主成分は硫酸ナトリウム及び炭酸水素ナトリウムであり、本願実施例1と同じである(記載(d))。

そうすると、引用文献2に記載の浴用剤を、上記のように水道水中に投入して使用した場合には、浴用剤中の主成分も還元剤成分も本願実施例と共通であり、また同じ200Lの水道水中に添加される還元剤の量(6g)も本願実施例(2g)より多いことからみて、水道水のORPを本願実施例よりも大きく低下させる作用を奏するというべきであるから、引用文献2に記載の浴用剤を混ぜた浴用水のORPは、本願実施例と同様に、平衡ORPより低く且つORP=0.80‐0.047pH以下の還元性領域に入るということができ、結果として本願と同様に浴用水(水道水)に温泉源泉の性質が付与されるものと認められる。

ところで請求人は、浴槽水を還元系にする認識や、還元系は温泉源泉の本質であるという理解はこれまで全くなかったのであり、本発明者が提案している平衡ORP以下にするための浴用剤の量は還元剤の種類や適用する浴槽水の水質によっても異なるから、浴用剤の量を決めるためにはORP-pH関係に基づき測定し、検討しない限り意味を持たないことになり、それ故、本願発明は新規性を備えると主張する。

確かに、本願明細書に記載された温泉源泉と還元系に関する知見それ自体は新しいものであり、本願と同じ目的で浴槽水を還元系にしようとする意図は引用文献2にはない。

しかしながら、上記のとおり、引用文献2(実施例1)の浴用剤は、その通常の使用態様において色素の安定化効果と同時に本願発明の浴用剤と同一の作用を奏するものであるから、両者の差異は、アスコルビン酸とチオ硫酸ナトリウムについてORPを下げる作用と温泉源泉の性質を付与する作用を認識したか否か、すなわち浴用剤を特定するにあたり、上記作用を明記したか否かの表現上の差異にすぎず、両者は浴用剤の発明として区別できるとはいえない。

したがって、上記相違点は形式的なものに過ぎず、本願発明は引用文献2に記載された発明と同一である。


4.むすび

以上のとおり、本願発明は、引用文献2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-07-28 
結審通知日 2005-08-02 
審決日 2005-08-17 
出願番号 特願平10-153768
審決分類 P 1 8・ 113- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山口 昭則福井 悟  
特許庁審判長 森田 ひとみ
特許庁審判官 横尾 俊一
中野 孝一
発明の名称 温泉源泉の性質を付与した浴用剤  
代理人 後田 春紀  

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