• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01F
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 H01F
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 H01F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01F
管理番号 1125069
審判番号 不服2003-15641  
総通号数 72 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1996-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-08-12 
確定日 2005-10-17 
事件の表示 平成 7年特許願第 5975号「トランス」拒絶査定不服審判事件〔平成 8年 7月30日出願公開、特開平 8-195319〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成7年1月18日の出願であって、平成15年7月9日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年8月12日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年9月10日付けで手続補正がなされたものである。


第2 平成15年9月10日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成15年9月10日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1ないし2は、以下のとおり補正された。
「【請求項1】
磁心(1)と、前記磁心(1)に外嵌されるボビン(2)と、前記ボビン(2)の外周面に形成される内側巻線(A)と、前記内側巻線(A)の上に直接形成される外側巻線(B)と、前記外側巻線(B)の外側に絶縁テープ(5)を巻回して成る絶縁層とを備えているトランスであって、前記内側巻線(A)を構成する電線と外側巻線(B)を構成する電線のいずれか一方が押出し成形法で形成された複数の絶縁層を有する多層絶縁電線であり、前記内側巻線(A)を構成する電線の外径(d)と前記外側巻線(B)を構成する電線の外径(D)との間では、d≧D、かつ、0.6≦D/d≦1.0の関係が成立していること、または上記関係が交互に成立し複数の巻線を有することを特徴とするトランス。
【請求項2】
磁心(1)と、前記磁心(1)に外嵌されるボビン(2)と、前記ボビン(2)の外周面に形成される内側巻線(A)と、前記内側巻線(A)の上に直接形成される外側巻線(B)と、前記外側巻線(B)の外側に絶縁テープ(5)を巻回して成る絶縁層とを備えているトランスであって、前記内側巻線(A)を構成する電線が押出し成形法で形成された複数の絶縁層を有する多層絶縁電線であり、前記内側巻線(A)を構成する電線の外径(d)と前記外側巻線(B)を構成する電線の外径(D)との間では、d≧D、かつ、0.6≦D/d≦1.0の関係が成立していること、または上記関係が交互に成立し複数の巻線を有することを特徴とするトランス。」

2 本件補正についての検討
2-1 補正事項の整理
補正事項を整理すると以下のとおりである。
(補正事項1)
本件補正前の請求項1の「トランスであって、」を次のように補正する。
「トランスであって、前記内側巻線(A)を構成する電線と外側巻線(B)を構成する電線のいずれか一方が押出し成形法で形成された複数の絶縁層を有する多層絶縁電線であり、」
(補正事項2)
本件補正前の請求項2の
「内側巻線を構成する電線と外側巻線を構成する電線のいずれか一方または両方が押出し成形法で形成された複数の絶縁層を有する多層絶縁電線である請求項1のトランス。」を次のように補正する。
「磁心(1)と、前記磁心(1)に外嵌されるボビン(2)と、前記ボビン(2)の外周面に形成される内側巻線(A)と、前記内側巻線(A)の上に直接形成される外側巻線(B)と、前記外側巻線(B)の外側に絶縁テープ(5)を巻回して成る絶縁層とを備えているトランスであって、前記内側巻線(A)を構成する電線が押出し成形法で形成された複数の絶縁層を有する多層絶縁電線であり、前記内側巻線(A)を構成する電線の外径(d)と前記外側巻線(B)を構成する電線の外径(D)との間では、d≧D、かつ、0.6≦D/d≦1.0の関係が成立していること、または上記関係が交互に成立し複数の巻線を有することを特徴とするトランス。」

2-2 補正の適否についての検討
以下、補正事項1、2について順次検討する。
2-2-1 補正事項1について
補正事項1は、本件補正前の請求項1の「トランスであって、」を、「トランスであって、前記内側巻線(A)を構成する電線と外側巻線(B)を構成する電線のいずれか一方が押出し成形法で形成された複数の絶縁層を有する多層絶縁電線であり、」とするものであり、特許請求の範囲の減縮に該当する。
そして、本願の願書に最初に添付した明細書又は図面には、「この多層絶縁電線は、導体の外周に、所定の樹脂組成物を順次押出被覆して少なくとも3層の絶縁層を形成することによって製造される。」(段落【0015】参照)ことが記載されており、また、「図1で示した構造のスイッチング電源用トランスを、次のような電線を用いて製造した。内側巻線Aを構成する電線aは、外径(d)が0.520mmで、導体6aの直径が0.5mmの3層絶縁電線6である。また外側巻線Bを構成する電線bは、外径(D)が0.312mmで導体の直径が0.29mmの2種ポリウレタン銅線4である。」(段落【0018】参照)、「図3で示した構造のスイッチング電源用トランスを、次のような電線を用いて製造した。内側巻線Aを構成する電線aは、外径(d)が0.324mmで導体の直径が0.3mmの2種ポリウレタン銅線4である。また、外側巻線Bを構成する電線bは、直径0.148mmで導体の直径が0.14mmの3種ポリウレタン銅線を7本撚り合わせたリッツ線の外周に3層の絶縁層を形成した3層絶縁電線6であり、その外径(D)は0.648mmである。」(段落【0019】参照)ことが記載されている。
してみると、補正事項1は、本願の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載されていたものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

2-2-2 補正事項2について
補正事項2は、本件補正前の請求項2の「内側巻線を構成する電線と外側巻線を構成する電線のいずれか一方または両方が押出し成形法で形成された複数の絶縁層を有する多層絶縁電線である」を、「前記内側巻線(A)を構成する電線が押出し成形法で形成された複数の絶縁層を有する多層絶縁電線であり、」とするものであり、「電線のいずれか一方または両方が」を「電線が」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮に該当する。
そして、本願の願書に最初に添付した明細書又は図面には、「図1で示した構造のスイッチング電源用トランスを、次のような電線を用いて製造した。内側巻線Aを構成する電線aは、外径(d)が0.520mmで、導体6aの直径が0.5mmの3層絶縁電線6である。また外側巻線Bを構成する電線bは、外径(D)が0.312mmで導体の直径が0.29mmの2種ポリウレタン銅線4である。」(段落【0018】参照)ことが記載されている。
してみると、補正事項2は、本願の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載されていたものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

2-3 補正の適否についてのむすび
以上のとおり、補正事項1及び2を含む本件補正は、特許法第17条の2第2項で準用する同法第17条第2項の規定に適合しており、また、特許法第17条の2第3項第2号に規定される事項を目的とするものである。

3 本件補正の独立特許要件についての検討
3-1 引用刊行物及び該引用刊行物記載の発明
刊行物1.実願平2-10162号(実開平3-25219号)のマイクロフィルム(原審拒絶理由通知において引用)
刊行物2.特開平6-223634号公報(前置報告書において提示)
刊行物3.実願平1-81282号(実開平3-20421号)のマイクロフィルム(新たな刊行物;平成17年7月13日の応対において提示)

本願出願前に国内において頒布された刊行物1には、
「トランス」(考案の名称)に関して、
「(1) 1次巻線と2次巻線とを層状に巻装したトランスにおいて、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリエステル、ポリエーテル、ポリアセタール、ポリビニルホルマール、ポリウレタン及びエポキシから成る群から選択された絶縁性の被覆材により線状の導体を被覆して少なくとも前記1次巻線又は2次巻線を形成し、コアに巻装したことを特徴とするトランス。
(2) 前記被覆材は複数層から成る請求項(1)に記載のトランス。
(3) 前記1次巻線と2次巻線はボビンの両側に設けられたフランジに隣接して、前記ボビンの巻幅全体に巻装されている請求項(1)に記載のトランス。
(4) 1次巻線と2次巻線とを層状に巻装したトランスにおいて、複数層から成る絶縁性の被覆材により線状の導体を被覆して少なくとも前記1次巻線又は2次巻線を形成し、コアに巻装したことを特徴とするトランス。」(実用新案登録請求の範囲)であり、
「従来のトランスは、第7図に簡略して示すように、1次巻線1と1’、2次巻線2、空洞4を有するボビン3、コア5、バリア6、絶縁紙7とからなり、1次巻線1、1’と2次巻線2はボビン3上に電磁的結合をよくするために層状に重ねて巻装され、1次巻線1、1’と2次巻線2との間には所定の絶縁を確保するため、絶縁紙7が配置されている。」(明細書第2頁第15行〜第3頁第2行)こと、
「IEC(国際電気標準会議規格)380の規定によれば、1次、2次間の絶縁紙による絶縁は、3枚以上の絶縁紙7を1次巻線1、1’と2次巻線2との間に配置し、かつ絶縁紙7のうちの2枚で3,750Vの印加電圧に耐えなければならない。更に、前記の規定に従い、1次巻線1、1’と2次巻線2との沿面空間距離を6mm以上確保しなければならないとされている。」(明細書第4頁第7〜14行)こと、
「本考案によるトランスは、1次巻線と2次巻線とを層状に巻装したトランスにおいて、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリエステル、ポリエーテル、ポリアセタール、ポリビニルホルマール、ポリウレタン及びエポキシから成る群から選択された被覆材により線状の導体を被覆して少なくとも1次巻線又は2次巻線を形成し、コアに巻装する。
被覆材は複数層から成るのが好ましい。また、1次巻線と2次巻線はボビンの両側に設けられたフランジに隣接して、ボビンの巻幅全体に巻回することもできる。」(明細書第5頁第9〜20行)こと、
「少なくともトランスの1次巻線又は2次巻線に被覆された絶縁性の被覆材により1次巻線と2次巻線の絶縁が確保される。1次巻線と2次巻線とを直に重ねてコアに緊密に巻回すことができるので、トランスが小形になる。」(明細書第6頁第2〜6行)こと、
「まず、第2図に示すように、本考案で使用する1次巻線1と、1’と2次巻線2の各々は線状の導体10と、導体10の周囲に設けられる高絶縁性の被覆材11とを有する。被覆材11は導体10に密着する第1層11aと、第1層11aの上に被覆された第2層11bと、第2層11bの上に被覆された第3層11cとを有する。第1層11a〜第3層11cの各々はいずれもポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリエステル、ポリエーテル、ポリアセタール、ポリビニルホルマール、ポリウレタン及びエポキシから成る合成樹脂の群から選択される。このように、絶縁材11を複数層又は多層とすることにより、1つの層に絶縁性の低い部分(絶縁不良)が生じても、他の層により必要なレベルの絶縁性を確実に確保することができる。
第1層11a〜第3層11cは異なる絶縁物質の導体10への蒸着、異なる液状樹脂中への導体10の浸漬若しくは押出し又は接着剤が塗布された絶縁フィルムの巻付け等により製造することができる。接着剤を使用せずに、絶縁フィルムを巻き付けた後、熱融着してもよい。1次巻線1、1’と2次巻線2の各被覆材11の厚みは、巻線の加工の容易性と絶縁性、それに小形化等を考慮し、0.05mm以下とするのが好ましい。第2図において、ポリエステルフィルムを第一層に0.012mm、第2層及び第3層の各々に0.004mm被覆した場合、1次巻線と2次巻線間で8kV以上の電圧に耐えることができる。
なお、第1層11aから第3層11cにかけては、徐々に融点の低い材料を使用するとよい。これは、導体10に通電したときに発生する熱が導体10に接近する程高いためである。
次に、トランスを構成するためには、このようにして形成された1次巻線1、1’及び2次巻線2を第1図に示すようにバリア絶縁紙等を設けずにボビン3の巻幅全体に巻く。その順序は1次巻線1、2次巻線2、1次巻線1’である。1次巻線1、1’及び2次巻線2をボビン3に巻装することにより、巻線の形崩れの防止と巻線の取付け及び巻線の導出が容易となる。1次巻線1、1’及び2次巻線2の巻数が少ない場合は巻線と巻線との間隔をあけ、巻幅いっぱいに均等に巻くとよい。」(明細書第6頁第15行〜第8頁第18行)こと、
「第5図及び第6図は、1次巻線1、1’と2次巻線2の導体径及び巻数をそれぞれ(0.4φ、60回)(0.5φ、36回)(0.8φ、24回)とした場合の本考案と従来による外鉄形のトランスの大きさの実例を示す。第5図(A)及び(B)はそれぞれ本考案によるトランス及び従来のトランスに使用するコアの大きさを示す。また、第6図(A)及び(B)は本考案によるトランス及び従来のトランスの断面を簡略して示した図であり、コイル部分の大きさを示す。図示の寸法の単位はmmである。前記の実施例によれば、本考案のトランスの体積は27.17cm3で、重量は75gであるのに対し、従来のトランスの体積は37.52cm3で、重量は90gであった。したがって、本考案のトランスは従来に比べて体積で約28%減少し、重量で約16%減少した。」(明細書第9頁第3〜18行)こと、
「本考案では、従来1次側回路と2次側回路との絶縁に必要とされた1次巻線と2次巻線の間に施されたバリヤ、絶縁紙、絶縁チューブ等が省略できるので、トランスが小形になり、かつトランスの製作が容易となる。特に、高周波用のトランスにおいてその小形化の効果は極めて顕著である。周波数500KHz〜1MHzの範囲において、従来に比し約1/2〜2/3と小形にできる。また、磁気回路のカップリング性能を格段に向上させることができる。」(明細書第10頁第15行〜第11頁第4行)ことが、第1、2、5〜8図と共に記載されている。
また、第6図(B)と第7図には、一番外側の巻線の外側に絶縁紙を巻回しているものが示されている。また、第1図には、1次巻線1、1’と2次巻線2とが、各層ごとに、7巻づつボビンの一方の鍔から他方の鍔までの間に、巻回している例が示されている。

同じく本願出願前に国内において頒布された刊行物2には、
「多層絶縁電線とその製造方法」(発明の名称)に関して、
「【0002】
【従来の技術】変圧器の構造は、IEC規格(International Electrotechnical Communication Standard) Pub. 950,65,335,601などによって規定されている。すなわち、これらの規格では、巻線において導体を被覆するエナメル皮膜は絶縁層と認定しない、一次巻線と二次巻線の間には少なくとも3層の絶縁層が形成されているかまたは絶縁層の厚みは0.4mm以上であること、一次巻線と二次巻線の縁面距離は、印加電圧によっても異なるが、5mm以上であること、また一次側と二次側に3000Vを印加したときに1分以上耐えること、などが規定されている。
【0003】そのため、現在、主流の座を占めている変圧器では、図1で例示するような断面構造が採用されている。すなわち、フェライトコア1に鍔付きのボビン2が嵌め込まれ、ボビン2の周面両側端に縁面距離を確保するための絶縁バリヤ3が配置された状態でエナメル被覆された一次巻線4が巻回されたのち、この一次巻線4の上に、絶縁テープ5を少なくとも3層巻回し、更にこの絶縁テープ層の上に縁面距離を確保するための絶縁バリヤ3を配置したのち、同じくエナメル被覆された二次巻線6が巻回された構造である。
【0004】ところで、近年、図1に示した断面構造の変圧器に代わり、図2で示したように、絶縁バリヤ3や絶縁テープ層5を含まない構造の変圧器が登場しはじめている。この変圧器は、図1の構造の変圧器に比べて、全体を小型化することができ、また、絶縁テープの巻回作業を省略できるなどの利点を備えている。
【0005】図2で示した変圧器を製造する場合、用いる一次巻線4および二次巻線6では、いずれか一方もしくは両方の導体4a(6a)の外周に少なくとも3層の絶縁層4b(6b),4c(6c),4d(6d)が形成されていること、しかもこれらの各絶縁層の間では互いの層間剥離が可能であることが前記したIEC規格との関係で必要になる。
【0006】このような巻線としては、まず導体の外周に絶縁テープを巻回して1層目の絶縁層を形成し、更にその上に、絶縁テープを巻回して2層目の絶縁層、3層目の絶縁層を順次形成して互いに層間剥離する3層構造の絶縁層を形成したものが知られている(実開平3-106626号公報参照)。また、ポリウレタンによるエナメル被覆がなされた導体の外周にフッ素系樹脂を順次押出被覆して、全体として3層構造の押出被覆層を絶縁層とする巻線が知られている(実開平3-56112号公報)。」こと、
「【0036】
【発明の実施例】
実施例1〜3,比較例1〜7
表1に示した各成分を表示の割合(重量部)で混練して、各押出被覆層用の樹脂混和物を調製した。導体として線径0.6mmの軟銅線を用意し、その外周に、上記樹脂混和物を押出被覆して、表示の厚みで1層目の押出被覆層を形成したのち、2層目の押出被覆層を形成し、更に2層目の外周に上記樹脂混和物を押出被覆して3層絶縁電線を製造した。」ことが、図2と共に記載されている。
また、図2には、一次巻線4および二次巻線6の両方の導体4a、6aの外周に3層の絶縁層4b,4c,4d、6b,6c,6dが形成されており、一次巻線4は3巻であり、二次巻線6は4巻であるものが、ボビンの一方の鍔から他方の鍔までの間に、巻回している例が、示されている。また、図1には、外側の巻線の外側に絶縁テープを巻回しているものが示されている。
以上の記載から、刊行物2には、「フェライトコアと、このフェライトコアに嵌め込まれた鍔付きのボビンと、一次巻線4及び二次巻線6と、この一次巻線4および二次巻線6では、いずれか一方もしくは両方の導体4a(6a)の外周に少なくとも3層の絶縁層4b(6b),4c(6c),4d(6d)が形成されていることと、一次巻線4は3巻であり二次巻線6は4巻であり、ボビンの一方の鍔から他方の鍔までの間に、巻回している変圧器。」が示されており、かつ、「ポリウレタンによるエナメル被覆がなされた導体の外周にフッ素系樹脂を順次押出被覆して、全体として3層構造の押出被覆層を絶縁層とする巻線が知られている。」ことが示されている。

同じく本願出願前に国内において頒布された刊行物3には、
「変成器の絶縁構造」(考案の名称)に関して、
「1次巻線と、2次、3次、・・・n次巻線が同一鉄芯上に巻かれた絶縁変成器において、1次巻線は、導体の周囲に絶縁体を3重以上に被せて絶縁した3重絶縁線を用いて、1次巻線-2次巻線間及び1次巻線-コア間の絶縁を施した変成器の絶縁構造。」(実用新案登録請求の範囲)であり、
「次に第2図(a)(b)により本考案の1実施例について説明する。先づボビン1の上に1次巻線3として、本案による3重絶縁電線9を巻き、その上に直接、2次巻線4としてウレタンエナメル電線を巻いたものである。そして端末絶縁片は全く使用しなくても電線絶縁が3重(第2図bP1〜P3)になっている為、耐圧、絶縁距離等充分満足する。又、引出し線も同上理由でチューブを被せる必要なく、直接外へ引き出す事が出来る。この結果 (1)巻線寸法が減少する為1回り小さい鉄芯を使用出来、全体の寸法が1回り小さく出来る。 (2)絶縁耐圧は従来のウレタンエナメル線使用の構造のものが、約1500Vであるのに対して、テフロン3重絶縁電線を使ったものは6000V以上の耐圧がある。 (3)層間絶縁テープ、端末絶縁物、チューブ等の加工・製造工数が除けるので原価低減となり、実測では約30%の工数減となった。又構造が簡単なので製造工程も簡単になり、品質向上につながり、産業界に及ぼす効果は大きい。」(明細書第3頁第6行〜第4頁第5行)ことが、第2図と共に記載されている。
また、第1図には、一番外側の巻線の外側に絶縁テープを巻回しているものが示されている。

3-2 対比・判断
補正後の請求項1に係る発明と刊行物2に記載の発明とを対比すると、刊行物2に記載の「フェライトコア」は、補正後の請求項1に係る発明の「磁心(1)」に相当し、刊行物2に記載の「フェライトコアに嵌め込まれた鍔付きのボビン」は、補正後の請求項1に係る発明の「前記磁心(1)に外嵌されるボビン(2)」に相当し、刊行物2に記載の「変圧器」は、補正後の請求項1に係る発明の「トランス」に相当する。また、刊行物2の「一次巻線4」と「二次巻線6」は、補正後の請求項1に係る発明の「内側巻線(A)」と「外側巻線(B)」に相当し、刊行物2の「一次巻線4」と「二次巻線6」は、ボビンの外周面に形成されており、また、刊行物2の「一次巻線4」と「二次巻線6」は、絶縁テープ等を介さずに直接接しているので、全体として、補正後の請求項1に係る発明の「前記ボビン(2)の外周面に形成される内側巻線(A)と、前記内側巻線(A)の上に直接形成される外側巻線(B)」に相当する。また、刊行物2に記載の発明は、一次巻線4および二次巻線6では、いずれか一方もしくは両方の導体4a(6a)の外周に少なくとも3層の絶縁層4b(6b),4c(6c),4d(6d)が形成されており、3層の絶縁層は、順次押出被覆して、全体として3層構造の押出被覆層を絶縁層とするものであるから、補正後の請求項1に係る発明の「前記内側巻線(A)を構成する電線と外側巻線(B)を構成する電線のいずれか一方が押出し成形法で形成された複数の絶縁層を有する多層絶縁電線」に相当する。また、刊行物2の一次巻線4は3巻であり、二次巻線6は4巻であり、ボビンの一方の鍔から他方の鍔までの間に、巻回しているのであるから、一次巻線4の外径と二次巻線6の外径との間では、一次巻線4の外径>二次巻線6の外径、かつ、二次巻線6の外径/一次巻線4の外径=0.75であり、「一次巻線4の外径」と「二次巻線6の外径」は、それぞれ補正後の請求項1に係る発明の「内側巻線(A)を構成する電線の外径(d)」と「外側巻線(B)を構成する電線の外径(D)」に相当するので、刊行物2に示される「一次巻線4の外径>二次巻線6の外径、かつ、二次巻線6の外径/一次巻線4の外径=0.75」は、補正後の請求項1に係る発明の「前記内側巻線(A)を構成する電線の外径(d)と前記外側巻線(B)を構成する電線の外径(D)との間では、d≧D、かつ、0.6≦D/d≦1.0の関係が成立していること」の数値の範囲内である。
してみると、補正後の請求項1に係る発明と刊行物2に記載の発明とは、
「磁心(1)と、前記磁心(1)に外嵌されるボビン(2)と、前記ボビン(2)の外周面に形成される内側巻線(A)と、前記内側巻線(A)の上に直接形成される外側巻線(B)とを備えているトランスであって、前記内側巻線(A)を構成する電線と外側巻線(B)を構成する電線のいずれか一方が押出し成形法で形成された複数の絶縁層を有する多層絶縁電線であり、前記内側巻線(A)を構成する電線の外径(d)と前記外側巻線(B)を構成する電線の外径(D)との間では、d>D、かつ、D/d=0.75の関係が成立していることを特徴とするトランス。」の点で一致し、
補正後の請求項1に係る発明では、「前記外側巻線(B)の外側に絶縁テープ(5)を巻回して成る絶縁層」を有しているのに対して、刊行物2に記載のものでは、外側巻線(B)の外側に絶縁テープ(5)を巻回して成る絶縁層を有していない点(以下、「相違点1」という。)、補正後の請求項1に係る発明では、「前記内側巻線(A)を構成する電線の外径(d)と前記外側巻線(B)を構成する電線の外径(D)との間では、d≧D、かつ、0.6≦D/d≦1.0の関係が成立していること、または上記関係が交互に成立し複数の巻線を有する」のに対して、刊行物2に記載のものでは、内側巻線(A)を構成する電線の外径(d)と外側巻線(B)を構成する電線の外径(D)との間では、d>D、かつ、D/d=0.75である点(以下、「相違点2」という。)で相違している。
そこで、上記相違点1、2について検討する。
a.相違点1について
刊行物1の第6図(B)、第7図、刊行物2の図1、刊行物3の第1図には、いずれも、一番外側の巻線の外側に絶縁テープ又は絶縁紙を巻回しているものが示されており、周知と認められる。
そして、このような絶縁テープ又は絶縁紙は、絶縁層を構成するものであるので、刊行物2に記載の発明において、上記の外側巻線の外側に絶縁テープを巻回して成る絶縁層を採用することは、当業者が必要に応じて適宜採用することができた程度のことと認められ、また、採用することに何らの阻害要因もない。
b.相違点2について
刊行物2に記載の発明における、内側巻線(A)を構成する電線の外径(d)と外側巻線(B)を構成する電線の外径(D)との間では、d>D、かつ、D/d=0.75であることは、補正後の請求項1に係る発明の、前記内側巻線(A)を構成する電線の外径(d)と前記外側巻線(B)を構成する電線の外径(D)との間では、d≧D、かつ、0.6≦D/d≦1.0の関係の数値の範囲内であるから、特段に相違するものではなく、補正後の請求項1に係る発明のD/d=0.6の点にも、当業者の予測を越えるような臨界的意義が認められない。
また、補正後の請求項1に係る発明の、「または上記関係が交互に成立し複数の巻線を有すること」部分は、選択的な構成要件であり、ここでの検討では、この構成要件を選択しないので、相違点2の検討に加える必要はないものと認められる。
したがって、補正後の請求項1に係る発明はその出願前に国内において頒布された上記刊行物1〜3に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3-3 独立特許要件についてのむすび
以上のとおり、補正後の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるので、本件補正は、補正後の請求項2に係る発明についての検討をするまでもなく、特許法第17条の2第4項において準用する特許法第126条第3項の規定に違反するものである。

4 まとめ
よって、本件補正は、上記3-3に記載の理由により、特許法第159条第1項で準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。


第3 本願発明について
平成15年9月10日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし2に係る発明は、平成15年6月20日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし2に記載されたとおりのものであるところ、この内、本願の請求項1に係る発明は、以下のとおりのものである。
「【請求項1】 磁心(1)と、前記磁心(1)に外嵌されるボビン(2)と、前記ボビン(2)の外周面に形成される内側巻線(A)と、前記内側巻線(A)の上に直接形成される外側巻線(B)と、前記外側巻線(B)の外側に絶縁テープ(5)を巻回して成る絶縁層とを備えているトランスであって、
前記内側巻線(A)を構成する電線の外径(d)と前記外側巻線(B)を構成する電線の外径(D)との間では、
d≧D、かつ、0.6≦D/d≦1.0
の関係が成立していること、または上記関係が交互に成立し複数の巻線を有することを特徴とするトランス。」

1 引用刊行物記載の発明
原査定の拒絶の理由に引用された本願出願前に国内において頒布された刊行物1(実願平2-10162号(実開平3-25219号)のマイクロフィルム)には、「トランス」(考案の名称)に関して、
「(1) 1次巻線と2次巻線とを層状に巻装したトランスにおいて、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリエステル、ポリエーテル、ポリアセタール、ポリビニルホルマール、ポリウレタン及びエポキシから成る群から選択された絶縁性の被覆材により線状の導体を被覆して少なくとも前記1次巻線又は2次巻線を形成し、コアに巻装したことを特徴とするトランス。
(2) 前記被覆材は複数層から成る請求項(1)に記載のトランス。
(3) 前記1次巻線と2次巻線はボビンの両側に設けられたフランジに隣接して、前記ボビンの巻幅全体に巻装されている請求項(1)に記載のトランス。
(4) 1次巻線と2次巻線とを層状に巻装したトランスにおいて、複数層から成る絶縁性の被覆材により線状の導体を被覆して少なくとも前記1次巻線又は2次巻線を形成し、コアに巻装したことを特徴とするトランス。」(実用新案登録請求の範囲)であり、
「従来のトランスは、第7図に簡略して示すように、1次巻線1と1’、2次巻線2、空洞4を有するボビン3、コア5、バリア6、絶縁紙7とからなり、1次巻線1、1’と2次巻線2はボビン3上で電磁的結合をよくするために層状に重ねて巻装され、1次巻線1、1’と2次巻線2との間には所定の絶縁を確保するため、絶縁紙7が配置されている。」(明細書第2頁第15行〜第3頁第2行)こと、
「IEC(国際電気標準会議規格)380の規定によれば、1次、2次間の絶縁紙による絶縁は、3枚以上の絶縁紙を1次巻線1、1’と2次巻線2との間に配置し、かつ絶縁紙7のうちの2枚で3,750Vの印加電圧に耐えなければならない。更に、前記の規定に従い、1次巻線1、1’と2次巻線2との沿面空間距離を6mm以上確保しなければならないとされている。」(明細書第4頁第7〜14行)こと、
「本考案によるトランスは、1次巻線と2次巻線とを層状に巻装したトランスにおいて、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリエステル、ポリエーテル、ポリアセタール、ポリビニルホルマール、ポリウレタン及びエポキシから成る群から選択された被覆材により線状の導体を被覆して少なくとも1次巻線又は2次巻線を形成し、コアに巻装する。
被覆材は複数層から成るのが好ましい。また、1次巻線と2次巻線はボビンの両側に設けられたフランジに隣接して、ボビンの巻幅全体に巻回することもできる。」(明細書第5頁第9〜20行)こと、
「少なくともトランスの1次巻線又は2次巻線に被覆された絶縁性の被覆材により1次巻線と2次巻線の絶縁が確保される。1次巻線と2次巻線とを直に重ねてコアに緊密に巻回すことができるので、トランスが小形になる。」(明細書第6頁第2〜6行)こと、
「まず、第2図に示すように、本考案で使用する1次巻線1と、1’と2次巻線2の各々は線状の導体10と、導体10の周囲に設けられる高絶縁性の被覆材11とを有する。被覆材11は導体10に密着する第1層11aと、第1層11aの上に被覆された第2層11bと、第2層11bの上に被覆された第3層11cとを有する。第1層11a〜第3層11cの各々はいずれもポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリエステル、ポリエーテル、ポリアセタール、ポリビニルホルマール、ポリウレタン及びエポキシから成る合成樹脂の群から選択される。このように、絶縁材11を複数層又は多層とすることにより、1つの層に絶縁性の低い部分(絶縁不良)が生じても、他の層により必要なレベルの絶縁性を確実に確保することができる。
第1層11a〜第3層11cは異なる絶縁物質の導体10への蒸着、異なる液状樹脂中への導体10の浸漬若しくは押出し又は接着剤が塗布された絶縁フィルムの巻付け等により製造することができる。接着剤を使用せずに、絶縁フィルムを巻き付けた後、熱融着してもよい。1次巻線1、1’と2次巻線2の各被覆材11の厚みは、巻線の加工の容易性と絶縁性、それに小形化等を考慮し、0.05mm以下とするのが好ましい。第2図において、ポリエステルフィルムを第一層に0.012mm、第2層及び第3層の各々に0.004mm被覆した場合、1次巻線と2次巻線間で8kV以上の電圧に耐えることができる。
なお、第1層11aから第3層11cにかけては、徐々に融点の低い材料を使用するとよい。これは、導体10に通電したときに発生する熱が導体10に接近する程高いためである。
次に、トランスを構成するためには、このようにして形成された1次巻線1、1’及び2次巻線2を第1図に示すようにバリア絶縁紙等を設けずにボビン3の巻幅全体に巻く。その順序は1次巻線1、2次巻線2、1次巻線1’である。1次巻線1、1’及び2次巻線2をボビン3に巻装することにより、巻線の形崩れの防止と巻線の取付け及び巻線の導出が容易になる。1次巻線1、1’及び2次巻線2の巻数が少ない場合は巻線と巻線との間隔をあけ、紙幅いっぱいに均等に巻くとよい。」(明細書第6頁第15行〜第8頁第18行)こと、
「第5図及び第6図は、1次巻線1、1’と2次巻線2の導体径及び巻数をそれぞれ(0.4φ、60回)(0.5φ、36回)(0.8φ、24回)とした場合の本考案と従来による外鉄形のトランスの大きさの実例を示す。第5図(A)及び(B)はそれぞれ本考案によるトランス及び従来のトランスに使用するコアの大きさを示す。また、第6図(A)及び(B)は本考案によるトランス及び従来のトランスの断面を簡略して示した図であり、コイル部分の大きさを示す。図示の寸法の単位はmmである。前記の実施例によれば、本考案のトランスの体積は27.17cm3で、重量は75gであるのに対し、従来のトランスの体積は37.52cm3で、重量は90gであった。したがって、本考案のトランスは従来に比べて体積で約28%減少し、重量で約16%減少した。」(明細書第9頁第3〜18行)こと、
「本考案では、従来1次側回路と2次側回路との絶縁に必要とされた1次巻線と2次巻線の間に施されたバリヤ、絶縁紙、絶縁チューブ等が省略できるので、トランスが小形になり、かつトランスの製作が容易となる。特に、高周波用のトランスにおいてその小形化の効果は極めて顕著である。周波数500KHz〜1MHzの範囲において、従来に比し約1/2〜2/3と小形にできる。また、磁気回路のカップリング性能を格段に向上させることができる。」(明細書第10頁第15行〜第11頁第4行)ことが、第1、2、5、6、8図と共に記載されている。
また、第6図(B)と第7図には、一番外側の巻線である1次巻線1’の外側に絶縁紙を巻回しているものが示されている。また、第1図には、1次巻線1、1’と2次巻線2とが、各層ごとに、7巻づつボビンの一方の鍔から他方の鍔までの間に、巻回している例が示されている。
以上の記載から、刊行物1には、「コア5と、空洞4を有するボビン3と、1次巻線1と1’と、2次巻線2とを有し、1次巻線1、1’と2次巻線2とが、各層ごとに、7巻づつボビンの一方の鍔から他方の鍔までの間に、巻回しているトランス。」が示されている。

2 対比・判断
本願の請求項1に係る発明と刊行物1に記載の発明とを対比すると、刊行物1に記載の「コア5」は、本願の請求項1に係る発明の「磁心(1)」に相当し、刊行物1に記載の「空洞4を有するボビン3」は、本願の請求項1に係る発明の「前記磁心(1)に外嵌されるボビン(2)」に相当する。また、刊行物1の「1次巻線1」と「2次巻線2」は、本願の請求項1に係る発明の「内側巻線(A)」と「外側巻線(B)」に相当し、刊行物1の「1次巻線1」と「2次巻線2」は、ボビンの外周面に形成されており、また、刊行物1の「1次巻線1」と「2次巻線2」は、絶縁テープ等を介さずに直接接しているので、全体として、本願の請求項1に係る発明の「前記ボビン(2)の外周面に形成される内側巻線(A)と、前記内側巻線(A)の上に直接形成される外側巻線(B)」に相当する。また、刊行物1の1次巻線1と2次巻線2は、7巻づつボビンの一方の鍔から他方の鍔までの間に、巻回しているのであるから、1次巻線1の外径と2次巻線2の外径は同じであり、1次巻線1の外径=2次巻線2の外径、かつ、2次巻線2の外径/1次巻線1の外径=1.0であり、「1次巻線1の外径」と「2次巻線2の外径」は、それぞれ本願の請求項1に係る発明の「内側巻線(A)を構成する電線の外径(d)」と「外側巻線(B)を構成する電線の外径(D)」に相当するので、刊行物1に示される「1次巻線1の外径=2次巻線2の外径、かつ、2次巻線2の外径/1次巻線1の外径=1.0」は、本願の請求項1に係る発明の「前記内側巻線(A)を構成する電線の外径(d)と前記外側巻線(B)を構成する電線の外径(D)との間では、d≧D、かつ、0.6≦D/d≦1.0の関係が成立していること」の数値の範囲内である。
してみると、本願の請求項1に係る発明と刊行物1に記載の発明とは、
「磁心(1)と、前記磁心(1)に外嵌されるボビン(2)と、前記ボビン(2)の外周面に形成される内側巻線(A)と、前記内側巻線(A)の上に直接形成される外側巻線(B)とを備えているトランスであって、
前記内側巻線(A)を構成する電線の外径(d)と前記外側巻線(B)を構成する電線の外径(D)との間では、
d=D、かつ、D/d=1.0
の関係が成立していることを特徴とするトランス。」の点で一致し、
本願の請求項1に係る発明では、「前記外側巻線(B)の外側に絶縁テープ(5)を巻回して成る絶縁層」を有しているのに対して、刊行物1に記載の発明では、外側巻線(B)の外側に絶縁テープ(5)を巻回して成る絶縁層を有していない点(以下、「相違点3」という。)、本願の請求項1に係る発明では、「前記内側巻線(A)を構成する電線の外径(d)と前記外側巻線(B)を構成する電線の外径(D)との間では、d≧D、かつ、0.6≦D/d≦1.0の関係が成立していること、または上記関係が交互に成立し複数の巻線を有する」のに対して、刊行物1に記載のものでは、内側巻線(A)を構成する電線の外径(d)と外側巻線(B)を構成する電線の外径(D)との間では、d=D、かつ、D/d=1.0である点(以下、「相違点4」という。)で相違している。
そこで、上記相違点3、4について検討する。
a.相違点3について
刊行物1の第6図(B)、第7図には、一番外側の巻線である1次巻線1’の外側に絶縁紙を巻回しているものが示されており周知と認められるが、この絶縁紙を巻回している部分は、2次巻線2の外側でもある。そして、このような絶縁紙は、本願の請求項1に係る発明の「絶縁テープ」に相当するものであって、かつ絶縁層を構成するものであるから、刊行物1に記載の発明において、上記の外側巻線の外側に絶縁テープを巻回して成る絶縁層を採用することは、当業者が必要に応じて適宜採用することができた程度のことと認められ、また、採用することに何らの阻害要因もない。
b.相違点4について
刊行物1に記載の発明における、内側巻線(A)を構成する電線の外径(d)と外側巻線(B)を構成する電線の外径(D)との間では、d=D、かつ、D/d=1.0であることは、本願の請求項1に係る発明の、前記内側巻線(A)を構成する電線の外径(d)と前記外側巻線(B)を構成する電線の外径(D)との間では、d≧D、かつ、0.6≦D/d≦1.0の関係の数値の範囲内であるから、特段に相違するものではなく、本願の請求項1に係る発明のD/d=0.6の点にも、当業者の予測を越えるような臨界的意義が認められない。
また、本願の請求項1に係る発明の、「または上記関係が交互に成立し複数の巻線を有すること」部分は、選択的な構成要件であり、ここでの検討では、この構成要件を選択しないので、相違点2の検討に加える必要はないものと認められる。

4 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、刊行物1に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、本願は、請求項2に係る発明についての検討をするまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-08-22 
結審通知日 2005-08-23 
審決日 2005-09-05 
出願番号 特願平7-5975
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01F)
P 1 8・ 121- Z (H01F)
P 1 8・ 572- Z (H01F)
P 1 8・ 561- Z (H01F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 重田 尚郎  
特許庁審判長 松本 邦夫
特許庁審判官 河本 充雄
瀧内 健夫
発明の名称 トランス  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ