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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06F |
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管理番号 | 1125239 |
審判番号 | 不服2002-9195 |
総通号数 | 72 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1999-05-11 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2002-05-23 |
確定日 | 2005-10-21 |
事件の表示 | 平成 9年特許願第307907号「人工知能システム」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 5月11日出願公開、特開平11-126197〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯・本願発明 本願は、平成9年10月21日の出願であって、平成13年10月22日付けで拒絶理由通知がなされ、これに対し、平成14年1月31日に手続補正がなされたが、同年4月11日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年5月23日に審判請求がなされたものであり、その請求項1に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおり次のものと認める。(以下、「本願発明」という。) 「人の意識作用のモデルが少なくとも記憶媒体と比較器とを組み合わせた各種モジュールにより構築されており、前記各種モジュールを用いて全体として推論・判断又は学習を行う構成となっていることを特徴とする人工知能システム。」 2.引用発明 (2-1)これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願日前である昭和57年に頒布された刊行物である、開原、外2名著、”専門家の知識を収集し利用者の相談に応じるエキスパート・システム”、日経エレクトロニクス、日経マグローヒル社、1982年9月27日号(通巻第300号)、第219-234頁(以下「引用文献1」という。)には、次の事項が記載されている。 (ア)「要点 エキスパート・システムは,専門家の知識を収集して,利用者の相談を,対話しながら解決していくシステムである。これにはコンピュータ上で知識をどう表現するかや,推論のやり方、対話の方法の問題がある。またどのような分野にも適用できる汎用推論システムが有効で,このために推論エンジン,知識ベース,知識ベースを編集するエディタを切り離したシステムを構成する。東京大学医学部附属病院が開発した汎用推論システムMECS-AIは,知識ベースの知識を幾つかのモジュールに分けることで人間の推論形式に近づけようとし,またシステムとの対話による知識獲得,時間経過を含む推論,関連データや文献の豊富な提示ができる。」 (第219頁中段部) (イ)「図1 エキスパート・システムの位置づけ。エキスパート・システムは専門家と利用者の間に介在して,専門家の知識を獲得し,これを利用者に伝える。利用者からみたときに専門家と同じように必要な知識を与えてくれるシステムが理想である。」 (第219頁右下部) (ウ)専門家と利用者との間にハードウェアであるコンピュータ(システム)が介在した様子。(第219頁右下部の図1) (エ)「図2 小児の先天性疾患を診断するエキスパート・システムの使用例。利用者はシステムの問いに順々に答える。(a)では,氏名(TODAI TARO),月日(SEP-27),性別(MALE),年齢(3歳)を答える。質問内容がわからなければ’?’を入力して説明を求めることができる。(b)では,システムが選んで出す質問に答える。まずSEP-27での全般的な身体の状態を選択肢から選ぶ。’N’は,No(そのような状態がないこと)を示す。答えに疑問があるとシステムが確認を求めてくることもある。(c)では,システムが病名の仮説を立て,その仮説について検証する。質問形式が(a),(b)の部分と違うこと注意されたい。’Y’はYes(その状態にあること)を示す。否定されると,次の仮説を立てて検証する。結論が出ると,(d)のように,それまでに得たデータをまとめて出力し,(e)のように結論を出す。右側の数字は確実性を表す数字で,0.0から1.0までの値(1.0が最も確実性がある値)をとる。その後,必要があれば,参考資料,文献などを提示する(f)」 (第220頁左下部) (オ)「エキスパートは持っている「知識」を効率良く「運用する」 コンピュータ上にエキスパート・システムを構築するに当たって,まず専門家(エキスパート)自身の推論過程を研究する必要がある。一般にエキスパートと呼ばれるレベルの人間は,非常にわずかなデータから仮説を立て,この仮説に基づいた基礎的な知識を使って効率良く推論していく。 エキスパートが,このような仮説の生成や,その検証を行えるのは,彼らが「知識」を持っており,またそれを効率良く「運用」できるからである。 したがってエキスパート・システムを構成するうえでまず考えなければならないのは,対象とする専門分野でエキスパートが用いている知識を,コンピュータで操作可能な形式にどのように記述するか,また記述した知識をいかにして機械に運用させるかである。 エキスパート・システムで用いる知識表現のモデルは,ゲームや自然言語理解などのような人工知能の他の分野で用いるモデルと共通である。プロダクション・ルール,意味ネットワーク,フレーム,また最近注目を集めている述語論理などがあるが,これらの詳細については,この特集号の「知的システムの基礎となる知識表現と推論方式の動向」(pp.168-181)を参照されたい。」 (第222頁右欄下から7行目-第223頁第14行) (カ)「知識ベースをモジュールに分割し推論の流れを作る MECS-AIの構造を述べる前に,エキスパート・システムに必要な機能をMECS-AIの特徴と関連づけて考察する。 MECS-AIの技術上の特徴は幾つかある。その一つは知識ベースが複数の知識源にモジュール化してあり(図5),知識ベースを適用するときに知識源ごとに制御できるようになっていることである。後で述べるEMYCINのように知識ベース全体が一つの単位になっていると,そのなかのルールを起動するときには,システムは次々と定められた方式に従って自動的にルールを起動することになり,その起動の順序を制御することはとても難しい。人間が推論するときには,通常,大きな推論の流れがあらかじめ存在し,その範囲内でルールに当たる知識を利用していく。MECS-AIは,こうした人間の推論に近づけるために,知識ベールをモジュール化した。モジュール化のもう一つの利点は,入力データの誤りをチェックするためのモジュール,推論が完了した後にそれを確認するためのモジュールといったように,機能ごとに知識を分けられることである。」 (第226頁右欄第9-30行) (キ)「実行結果を蓄積して人間を介さずに知識ベースを更新する 第二の問題は,推論を行った過程と結果を保存しておき,これを用いて知識ベースを更新しようとすることである。すなわち,エキスパート・システムの「学習」の問題といってよい。現在の段階では,人間が間に介在することによって知識の更新が行われているが,人間を介在させずに自動的に知識ベースを更新できれば,それ自身,大変興味のある研究テーマとなる。 現在,この考え方はどのような表現形式の知識にも適用できるわけではないが,ごく限定した領域の知識についての研究はある。たとえば実際にシステムが行なったコンサルテーションの例のなかで,システムの出した結果と,真実の結果が両方ともわかっているものを集めておき,これがある程度たまった段階で,もしシステムの答えに誤りが多ければ,知識ベースを修正する。このとき,知識ベースがある構造を持っていれば,修正の方法は一義的に定まり都合が良い。」 (第232頁右欄第4-18行) 上記(エ)及び(オ)からして、引用文献1に記載の「エキスパート・システム」は、知識ベースの知識と、対話により得られたデータ又は内部のデータとを比較照合して推論を進めている。また、上記(ア)及び技術常識からして、推論は「推論エンジン」により実行されている。さらに、上記(イ)及び(ウ)からして、引用文献1に記載の「エキスパート・システム」がハードウェア上で実装されていることは自明である。よって、引用文献1に記載の「エキスパート・システム」において、「推論エンジン」は実質的に「比較器」を有したものである。 上記(ア)及び(カ)からして、引用文献1に記載の「エキスパート・システム」は、人間の推論に近づけるために、知識ベースが複数の知識源にモジュール化され、推論エンジンが、複数の知識源を制御することにより全体として推論を行うように構築又は構成されていることがわかる。 上記(キ)からして、引用文献1に記載の「エキスパート・システム」が、学習を行うようにも構成されている。 よって、上記(ア)乃至(キ)からして、引用文献1には次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されている。 「人間の推論に近づけるために、複数の知識源にモジュール化された知識ベースと、比較器を有する推論エンジンとにより構築されており、前記複数のモジュール及び推論エンジンを用いて全体として推論または学習を行うように構成されていることを特徴とするエキスパート・システム。」 (2-2)原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願日前である平成4年に頒布された刊行物である特開平4-77827号公報(以下「引用文献2」という。)には、次の事項が記載されている。 (ク)「第1図に示すエージェント1を複数配置してプロダクションシステムを構成する。第2図はそのハードウェア構成を示したもので、1組のCPU30と主記憶装置40が1つのエージェントに対応し、CPU30が第1図のインタプリタ12、通信機構11、通信先決定機構13の機能を受け持ち、主記憶装置40がプロダクションメモリ14、ワーキングメモリ15、システム知識メモリ16に用いられる。」 (第3頁右上欄第7-15行) (ケ)「インタプリタ12は、従来のプロダクションシステムが有する制御部121、条件判定部123、競合解決部124、実行部125の他に、他エージェントからのメッセージを受付けるメッセージ処理部122を有している。メッセージ処理部122では、通信機構11からのデータメッセージを基にWM15を更新すると共に、通信機構11からの同期依頼/解除メッセージを解釈し、該インタプリタ12の各部に通知する。条件判定部123では、PM14とWM15を照合して実行可能なルールを検出し、インスタンシエーションを生成する。」 (第3頁左下欄第15行-右下欄第6行) よって、上記(ク)及び(ケ)からして、引用文献2には次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されている。 少なくとも、ワーキングメモリ(WM)とプロダクションメモリ(PM)と、前記ワーキングメモリ(WM)と前記プロダクションメモリ(PM)とを照合する条件判定部とを組み合わせた複数のエージェントにより構築されており、前記複数のエージェントを用いて全体として推論を行う構成となっていることを特徴とするプロダクションシステム。 3.本願発明と引用発明との対比 本願発明と引用発明1とを対比すると、引用発明1の「エキスパート・システム」は、本願発明の「人工知能システム」に対応している。 本願発明において、「モデル」とは、通常、型、模型、雛型といった意味があるが、引用発明1において、「複数の知識源」と「推論エンジン」は、人間の推論に近づけるように記述及び構築されたものであるから、人間の推論の型、すなわち、「モデル」である。そして、本願発明において、「意識」とは、通常、認識し、思考する心の働きを意味するものであって、かつ、引用発明1において、人間が行う推論は、他の状況や事実を認識し、自身の知識に基づいて思考し、行動することに他ならないから、「人間の意識作用」といえる。つまり、引用発明1の「複数の知識源」と「推論エンジン」は、「人の意識作用のモデル」を構築している点で本願発明の「各種モジュール」と共通している。 また、本願発明の「記憶媒体」は、各種モジュールのそれぞれが有したものであるから、本願発明は複数の「記憶媒体」を有しており、かつ、該「記憶媒体」には、「推論・判断または学習」を行うための知識が記憶されていることは自明であるから、本願発明の「記憶媒体」は、引用発明1の、「知識ベース」をモジュール化した「知識源」に相当する。よって、本願発明と引用発明1とは、複数の記憶媒体を有している点で共通している。 また、本願発明と引用発明1とは、「比較器」を有している点でも一致している。 さらに、「推論」と「判断」は実質的に同義であるから、引用発明の「推論または学習」は、本願発明の「推論・判断または学習」に対応している。 よって、両者は、 人の意識作用のモデルが複数の記憶媒体と比較器とにより構築されており、前記複数の記憶媒体と比較器を用いて全体として推論・判断または学習を行う構成となっている人工知能システム。 の点で一致し、以下の点で相違している。 [相違点] 「記憶媒体」と「比較器」の構成に関し、本願発明は、「各種モジュール」つまり複数の「モジュール」により構築されており、かつ、各「モジュール」が、「記憶媒体と比較器とを組み合わせた」ものであるのに対し、引用発明1は、複数の記憶媒体とは別に、比較器を有している点。 4.当審の判断 上記相違点について、検討するに、 引用発明2のように、少なくともワーキングメモリ(WM)とプロダクションメモリ(PM)(本願発明の「記憶媒体」に相当)と、条件照合部(本願発明の「比較器」に相当)を組み合わせた複数のエージェント(本願発明の「各種モジュール」に相当)により構築されたプロダクションシステム(本願発明の「人工知能システム」に相当)は周知であるから、引用発明1において、複数の記憶媒体と比較器とからなる構成に替えて、記憶媒体と比較器とを組み合わせた各種モジュールからなる構成を採用することは、当業者が容易に想到し得たものである。 なお、平成14年9月5日付けの手続補正により補正された請求の理由において、請求人は、「人の意識作用のモデルが利用されている点で、従来の演算型コンピュータとは全く異なる斬新なアーキテクチャを有しており、人の曖昧な知的な活動に近い働きを実現することが可能になり、ひいては本来の人工知能に近い機能を発揮することが可能になります。」と主張しているが、本願の特許請求の範囲の記載において、「記憶媒体」にどのようなデータが格納されているのか、及び、「記憶媒体」と「比較器」をどのように用いて「各種モジュール」がどのように「推論・判断又は学習」を行うのかについて何ら具体的に特定されておらず、その結果、「人の意識作用」をどのようなレベルでどのようにモデル化しているのかについても何ら具体的に特定されていないから、本願発明は、上記各引用発明の範囲内にとどまるものである。つまり、請求人が主張する「従来の演算型コンピュータとは全く異なる斬新なアーキテクチャを有し」、「人の曖昧な知的な活動に近い働きを実現することが可能」、及び「本来の人工知能に近い機能を発揮することが可能」は、いずれも特許請求の範囲の記載に基づかないものであるので採用しない。 よって、本願発明の作用効果は、引用発明及び周知技術から当業者が容易に予測できる範囲内のものである。 5.むすび したがって、本願発明は、引用発明1及び引用発明2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2005-08-08 |
結審通知日 | 2005-08-16 |
審決日 | 2005-08-31 |
出願番号 | 特願平9-307907 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(G06F)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 久保 光宏 |
特許庁審判長 |
吉岡 浩 |
特許庁審判官 |
林 毅 彦田 克文 |
発明の名称 | 人工知能システム |
代理人 | 大西 正夫 |
代理人 | 大西 孝治 |