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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01N
管理番号 1125437
審判番号 不服2002-19506  
総通号数 72 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1994-02-10 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-10-07 
確定日 2005-10-26 
事件の表示 平成 5年特許願第109139号「インシュリン依存性糖尿病の診断用免疫試薬パネル」拒絶査定不服審判事件〔平成 6年 2月10日出願公開、特開平 6- 34629〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.本願発明
本願は、平成5年5月11日(パリ条約による優先権主張、1992年5月13日、米国)の出願であって、その請求項1ないし13に係る発明は、平成14年3月15日付けの手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし13に記載されたとおりのものと認められ、請求項1および8に係る発明は次のとおりである。(以下、それぞれ「本願発明1」および「本願発明8」という。)

「【請求項1】インシュリン依存性糖尿病診断のための抗体の検出方法であって、患者から得た血液試料を自己抗原エピトープを含む免疫試薬と接触させる工程、及び上記エピトープに患者の血液試料中に存在する抗体を結合させる工程を含み、該免疫試薬が、GAD及びICA512のエピトープを含むことを特徴とする、検出方法。」
「【請求項8】免疫試薬が、ICA12のエピトープも含む、請求項1記載の方法。」

2.引用刊行物の記載
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1:Diabetes 41(2)、183-186(1992)は、「IDDM-特異的ヒト自己抗原のクローニングおよび発現」と題する論文であって、次の事項が記載されている。
(a)膵島細胞自己抗体とインシュリン依存性糖尿病について、
「膵島細胞自己抗体(ICAs)とインシュリン-依存性糖尿病(IDDM;pre-IDDMも同様)の相関は、IDDMに対して高リスクの人々を同定できる可能性を示す。ICAに対する広範囲の試験は、感度の良い迅速な依存性のイムノアッセイのアビディティに依存するだろう。それは、おそらく精製された抗原に基づくものであろう。いくつかの自己抗原が特徴づけられてきた。その中に、インシュリン(1,2)、糖脂質(3,4)、グルタミン酸デカルボキシラーゼ(GAD;5-8)、52,000-Mタンパク質(9)、そしてモノクローナル抗体1A2(10)で特徴づけられるラットインスリノーマ(RIN)抗原が含まれる。免疫蛍光によるICAsの従来の検出方法は、技術的要請を必要とし、多数の試料に対しては実用的でない。GADに対して現在用いられている免疫沈降アッセイもまた、技術的複雑性によって苦労させられる。精製された抗原調製に基づく自動化されたGADアッセイは、pre-IDDM、疾患工程の免疫学的特徴付け、そして遅延-開始糖尿病の代謝成分から自己免疫を区別するためのスクリーニングを可能にするだろう。」(183頁左欄13行〜右欄2行)

(b)新しい抗原ICA12とICA512について、
「我々は、IDDM血清と特異的に反応するタンパク質抗原を同定するために、分子生物学的アプローチを採用した。この記事は、ヒト膵島cDNA発現ライブラリーから2つの自己抗原、ICA12、ICA512のクローニングを記述するものあり、そしてこれらの新しい抗原が新たにIDDMと診断された患者からの血清と反応するが、非糖尿病コントロール物質からの血清とは非反応性であることを記述する。」(183頁右欄3行〜9行)

(c)さらに、cDNAライブラリーの作成方法、スクリーニングに用いられる血清、スクリーニング方法並びに抗原タンパク質の発現について記載する183頁右欄10行〜184頁右欄20行の「研究計画および方法」の項の記載に続いて、184頁右欄21行〜185頁左欄下から4行の「結果」の項には、図1[糖尿病血清(左側)および非糖尿病血清(右側)と反応している膵島細胞抗体クローン12(ICA12)のウエスタン-ブロットストリップ]、および図2[糖尿病血清(レーン3〜6)および非糖尿病血清(レーン2と7〜9)との膵島細胞抗体クローン512(ICA512)の免疫沈降物]を含む記載とともに、表1について次のように記載されている。
「表1は、両方の抗原を用いて試験された糖尿病血清および非糖尿病血清のパネルとICA12およびICA512の反応性データを示す。血清D1-6は、ICA12ウエスタンブロット研究において用いられたICA+グループからのものであるが、D7-12は、免疫蛍光法によって特徴づけられておらず、新たに診断された糖尿病血清をより代表するものでなければならない。1つの血清は、ICA12と反応したが、ICA512とは反応しなかった。他方、いくつかの血清はICA512と反応したが、ICA12と反応しなかった。2つの抗原は、糖尿病血清の異なるセットと反応し、互いにICAの診断において補うことができた。この研究において使用したパネルは小さなもので、いくつかの糖尿病血清の予備決定されたICA陽性でゆがめられたけれど、1)ICA12とICA512は両方とも糖尿病血清と特異的に反応し、そして2)それらは異なるエピトープを代表し、ICA抗原パネルの一部として有用であると思われる。」(185頁左欄下から19行〜4行)
そして、表1は「膵島細胞抗体(ICA)クローンICA12およびICA512と糖尿病血清(D1〜12)との反応性」を示すものであって、「反応性は、ICA12に対するウエスタンブロットとICA512に対する免疫沈降によって試験された。同じ方法で試験された13の非糖尿病血清は、ICA12およびICA512に対して陰性であった。」という説明が付けられている(185頁右欄上部)。

(d)ディスカッションの項として、
「我々は、糖尿病血清と特異的に反応する抗原を同定するために、分子生物学的アプローチを用いた。2つの新規なクローン化された抗原が、ここに紹介されているICA12とICA512である。これらは、糖尿病血清と反応するが、非糖尿病血清とは反応しないようである。その2つの抗原の感度および特異性の正確な調査は、選別されていない糖尿病血清と、年齢および性別の一致した非糖尿病血清の大規模なサンプリングを待たなければならない。ICA12とICA512は、新たに診断された糖尿病血清を用いてクローン化されてきた。pre-IDDM用試験として使用するためには、断定的値が転換者、すなわち続いて糖尿病になる人達の血清を用いて試験されなければならないし、同様にIDDMにならない親族のグループの血清を用いても試験されなければならない。最良の断定的ICA試験は、1または2の抗原から成るものではなく、抗原のパネルからなるものであるようである。このパネルは、この記事に述べられた組み換え抗原やGAD、1A2抗原、その他を含むことができる。
多数の糖尿病血清および非糖尿病血清に加えて、他の自己免疫血清も、ICA12あるいはICA512が糖尿病の特異的マーカーであるかどうか、あるいはそれらが一般的な自己免疫条件を反映しているかどうかという問題に手をつけるためには試験されなければならない。この目的で、自己免疫甲状腺炎あるいは全身性エリトマトーデスのような状況の患者からの血清が調べられなければならない。
精製された組み換え抗原は、半自動化あるいは完全自動化アッセイ装置に受け入れられる。簡単な定量ICA試験が、ICAに対する臨床検査とIDDMの免疫学的経路の特徴付けを普及させ、IDDM治療に対する決定的な診断補助手段を提供するはずである。」(185頁左欄下から2行〜右欄28行)

3.対比・判断
(1)刊行物1記載の発明
刊行物1に記載された2つの新規なクローン化された抗原、ICA12とICA512は、自己抗原、すなわち自己抗原エピトープを含む免疫試薬であり(前記記載(b)参照)、患者から得た血清とそれらの抗原を接触させ、該血清とそれらの抗原が免疫反応したか、すなわち抗原中のエピトープに血清中に存在する抗体が結合したか、どうかを試験して、インシュリン-依存性糖尿病(IDDM)の診断のための抗体の検出を行えることが刊行物1に記載されている(前記記載(c)、(d)参照)。
そして、刊行物1は、本願明細書において2つの新規な抗原、ICA12とICA512を紹介する段落【0017】に記載された本願の発明者らの論文に他ならず、刊行物1に記載された抗原、ICA12とICA512が、本願発明における「ICA12のエピトープを含む免疫試薬」と「ICA512のエピトープを含む免疫試薬」に該当することは明らかである。
そうすると、刊行物1には、次の発明が記載されているものと認められる。

「インシュリン依存性糖尿病診断のための抗体の検出方法であって、患者から得た血液試料を自己抗原エピトープを含む免疫試薬と接触させる工程、及び上記エピトープに患者の血液試料中に存在する抗体を結合させる工程を含み、該免疫試薬が、ICA12及びICA512のエピトープを含む検出方法。」

(2)本願発明1について
(2.1)本願発明1と刊行物1記載の発明との対比
そこで、本願発明1と刊行物1に記載された発明とを対比すると、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。

(一致点)
「インシュリン依存性糖尿病診断のための抗体の検出方法であって、患者から得た血液試料を自己抗原エピトープを含む免疫試薬と接触させる工程、及び上記エピトープに患者の血液試料中に存在する抗体を結合させる工程を含み、該免疫試薬が、ICA512のエピトープを含む検出方法。」

(相違点)
免疫試薬として、本願発明1では、ICA512とともにGADのエピトープを含む免疫試薬を用いるのに対し、刊行物1に記載された発明では、ICA512とともにICA12のエピトープを含む免疫試薬を用いることが記載されているものの、ICA512とともにGADのエピトープを含む免疫試薬を使用することは記載されていない点。

(2.2)検討
上記相違点について検討する。
GADは、刊行物1の冒頭にもインシュリン依存性糖尿病診断のための抗体の検出に有効な既知の自己抗原として挙げられているものである(前記記載(a)参照)。
そして、刊行物1には、ICA12とICA512の両方の抗原を用いて試験された糖尿病血清および非糖尿病血清のパネルとの反応性データを示す表1についての前記記載(c)中の「1つの血清は、ICA12と反応したが、ICA512とは反応しなかった。他方、いくつかの血清はICA512と反応したが、ICA12と反応しなかった。2つの抗原は、糖尿病血清の異なるセットと反応し、互いにICAの診断において補うことができた。この研究において使用したパネルは小さなもので、いくつかの糖尿病血清の予備決定されたICA陽性でゆがめられたけれど、1)ICA12とICA512は両方とも糖尿病血清と特異的に反応し、そして2)それらは異なるエピトープを代表し、ICA抗原パネルの一部として有用であると思われる。」(185頁左欄下から13行〜4行)という記載にも教示されているように、異なるエピトープを含む免疫試薬のパネルの使用が、血清試料中の抗体と抗原(免疫試薬)との免疫反応による抗体の検出を利用した診断において互いに補完し合い有効であることが教示され、さらに、刊行物1の前記記載(d)には、「最良の断定的ICA試験は、1または2の抗原から成るものではなく、抗原のパネルからなるものであるようである。このパネルは、この記事に述べられた組み換え抗原やGAD、1A2抗原、その他を含むことができる。」(185頁右欄11行〜15行)と、ICA12やICA512と組合せて使用する抗原(免疫試薬)として、GADが挙げられている。
また、刊行物1の185頁の表1の結果をみても、ICA12に比べてICA512の方が糖尿病患者の血液試料中の抗体との反応性が良好であることから、インシュリン依存性糖尿病診断のための抗体の検出に用いる異なる自己抗原エピトープを含む免疫試薬として複数の抗原の組合せを使用する際に、ICA512とICA12の組合せに代えて、ICA512と従来より公知のGADとの組合せを用いてみることは、当業者であれば容易に想到し得るものである。
またそれによる効果についても、複数の抗原の組合せが良好な結果を与えることが明らかであることを考慮すると、予測された範囲内のものにすぎない。

(3)本願発明8について
(3.1)本願発明8と刊行物1記載の発明との対比
本願発明8は、「免疫試薬が、ICA12のエピトープも含む、請求項1記載の方法。」であるから、本願発明8と刊行物1に記載された発明とを対比すると、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。

(一致点)
「インシュリン依存性糖尿病診断のための抗体の検出方法であって、患者から得た血液試料を自己抗原エピトープを含む免疫試薬と接触させる工程、及び上記エピトープに患者の血液試料中に存在する抗体を結合させる工程を含み、該免疫試薬が、ICA512及びICA12のエピトープを含む検出方法。」

(相違点)
免疫試薬として、本願発明8では、ICA512及びICA12とともにGADのエピトープを含む免疫試薬を用いるのに対し、刊行物1に記載された発明では、ICA512及びICA12に加えてさらにGADのエピトープを含む免疫試薬を使用することは記載されていない点。

(3.2)検討
上記相違点について検討する。
刊行物1には、GADがインシュリン依存性糖尿病診断のための抗体の検出に有効な自己抗原として既知のものであることが記載され、また、異なるエピトープを含む免疫試薬のパネルの使用が、血清試料中の抗体と抗原(免疫試薬)との免疫反応による抗体の検出を利用した診断において互いに補完し合い有効であることが教示され、さらに、「最良の断定的ICA試験は、1または2の抗原から成るものではなく、抗原のパネルからなるものであるようである。このパネルは、この記事に述べられた組み換え抗原やGAD、1A2抗原、その他を含むことができる。」との記載がある(前記記載(d)参照)ことは、上記(2.2)のとおりである。
そうすると、インシュリン依存性糖尿病診断のための抗体の検出に用いる異なる自己抗原エピトープを含む免疫試薬として、刊行物1に記載されたICA512及びICA12のエピトープを含む抗原に加えて、さらにGADのエピトープを含む抗原を使用して、ICA512とICA12とともにGADのエピトープを含む免疫試薬を用いてみることは、当業者であれば容易に想到し得るものである。
またそれによる効果についても、複数の抗原の組合せが良好な結果を与えることが明らかであることを考慮すると、予測された範囲内のものにすぎない。

(4)なお、請求人が指摘する刊行物1記載の発明における実験のサンプル数の少なさや、表1の血清が反応頻度を高めるために予備選択されたものである旨の記載は、刊行物1の結果およびディスカッションの項の記載全体からみれば、免疫試薬としての抗原パネルにICA512あるいはICA512及びICA12の使用を断念させるほどのものではなく、特にディスカッションの項のそれら新規抗原を含む抗原パネルの使用と最良の断定的ICA試験とについての記載は、ICA512及び/又はICA12とGADを含む他の自己抗原とを組合せた免疫試薬の開発を動機付けるものであることは明らかである。

4.むすび
したがって、本願発明1および本願発明8は、本願出願の優先権主張日前外国において頒布された上記刊行物1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-05-25 
結審通知日 2005-05-31 
審決日 2005-06-13 
出願番号 特願平5-109139
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高橋 麻紀亀田 宏之山村 祥子  
特許庁審判長 鐘尾 みや子
特許庁審判官 櫻井 仁
秋月 美紀子
発明の名称 インシュリン依存性糖尿病の診断用免疫試薬パネル  
代理人 津国 肇  

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