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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01J
管理番号 1125687
審判番号 不服2002-23512  
総通号数 72 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1998-08-07 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-12-05 
確定日 2005-11-04 
事件の表示 平成 9年特許願第 8249号「高圧金属蒸気放電ランプ」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 8月 7日出願公開、特開平10-208693〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続きの経緯・本願発明
本願は、平成9年1月21日の出願であって、平成14年12月18日付けの手続補正書によって補正された明細書並びに図面の記載からみて、その請求項1及び2に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。

【請求項1】両端に電極を有し内部に金属ハロゲン化物および緩衝ガスが封入された発光管を具備し、前記発光管のランプ電力をW(W)、ランプに流れる初期電流ピーク値をA(A)とした場合、80≦W/A≦90の範囲を満足することを特徴とする高圧金属蒸気放電ランプ。


2.引用刊行物記載の発明
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前である平成8年4月30日に頒布された特開平8-111206号公報(以下「引用刊行物1」という。)には、次の事項が第1図とともに記載されている。

(1-1)「【0003】メタルハライドランプは、高温での金属蒸気中の放電により金属の発光スペクトルを利用したものである。そのため、金属が蒸気になるまで、すなわち発光管がある程度の高温に達するまでは定格の光量を得ることができない。一般に、点灯開始から定格の光量に達するまでに数分を要する。
【0004】メタルハライドランプの使用用途が広がるにつれて、光出力の立ち上がりの向上を望む声が強まっている。
【0005】光出力の立ち上がりを速めるため、従来から、メタルハライドランプをチョーク式安定器と組み合わせて点灯することが知られている。この場合、始動時の電流は安定時の電流に比べ2倍程度にしかならない。また、同じく光出力の立ち上がりを速めるため、チョーク式安定器の代わりに、始動時の電流制御機能を持った電子点灯回路を用い、始動時に安定点灯時の数倍の電流を流し、発光管を急激に暖める方法が用いられている。」

(1-2)「【0012】図1に示すように本発明の一実施例である定格電力35W自動車前照灯用メタルハライドランプの発光管1は、内部に一対の電極7を有する発光部2と、この発光部2の両端に連設され、かつ電極7が接続された導入箔3を封着した封着部4とからなる。発光管1は、石英からなり、内径2.7mmの発光部2を有する。発光部2の内部には、水銀と、金属ハロゲン化物としてScI3,NaI、さらに始動用ガスとしてキセノンが封入されている。封着部4には、導入箔3、たとえばモリブデン箔に接続された電極棒5と、この電極棒5に固着されたコイル6とからなる電極7が封着されている。電極棒5の先端面はコイル6の先端面より突出している。
【0013】また、本実施例のメタルハライドランプの、安定時のランプ電圧は85V、ランプ電流Irは0.41Aであり、安定時の光束は3000ルーメンである。」

(1-3)「【0017】まず、上記したそれぞれの試作ランプに、始動時のランプ電流Isを安定時のランプ電流Irの2倍〜10倍流して、始動時の光出力立ち上がりを確認したところ、2倍以下では、光出力立ち上がりは従来のチョーク式安定器で点灯した場合と変わらず、一方8倍を越えると過負荷のため短時間で発光管石英の内面に失透が確認された。したがって、始動時のランプ電流Isは、安定時のランプ電流Irに対して3倍〜8倍の範囲、すなわち、Is/Irは3〜8が好ましいことが確認できた。」

この記載事項によると、ランプ電流Ir=0.41Aであるから、始動時のランプ電流Isは、その3〜8倍の範囲、しなわち、1.23≦Is≦3.28が好ましく、その結果、定格電力とIsとの比は、10.67≦35/Is≦28.46となる。したがって、引用刊行物1には、

「両端に電極7(電極に相当。)を有し内部に金属ハロゲン化物(金属ハロゲン化物に相当。)およびキセノン(緩衝ガスに相当。)が封入された発光管1(発光管に相当。)を具備し、前記発光管1(発光管に相当。)の定格電力(ランプ電力に相当。)を35(Wに相当。)(W)、始動時のランプ電流Is(ランプに流れる初期電流ピーク値に相当。)をIs=安定時のランプ電流Ir0.41の3倍から8倍(Aに相当。)(A)とした場合、10.67≦35/Is≦28.46の範囲(80≦W/A≦90の範囲に対応。)を満足することを特徴とする自動車前照灯用メタルハライドランプ(高圧金属蒸気放電ランプに相当。)。」(以下、「引用刊行物1に記載の発明」という。)

が記載されていると認められる。


3.対比・判断
本願発明と引用刊行物1に記載の発明とを対比すると、両者は、

【一致点】
「両端に電極を有し内部に金属ハロゲン化物および緩衝ガスが封入された発光管を具備し、前記発光管のランプ電力をW(W)、ランプに流れる初期電流ピーク値をA(A)とした場合、W/Aが所定の範囲を満足することを特徴とする高圧金属蒸気放電ランプ。」
で一致し、

【相違点】
本願発明では、W/Aの範囲が、80≦W/A≦90であるのに対して、
引用刊行物1に記載の発明では、35/Is(W/Aに相当。)の範囲が、10.67≦35/Is≦28.46である点

で相違する。

そこで、上記【相違点】について検討する。
実願昭55-164794号(実開昭57-87499号)の願書に最初に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルムには、次の事項が図面とともに記載されている。

(2-1)「第1図は従来の低始動形高効率ランプの基本的な点灯回路を示したもので、1は交流電源、2は水銀ランプ用誘導性安定器、3は外管、4は発光管である。このような点灯回路における始動時の電流の変化は第3図曲線Aのようになる。即ち、始動時2〜3分はランプ電流が大きく、発光管4の温度上昇が飽和平衡に達すると、それ以降は一定のランプ電流ILになる。始動時のランプ電流IL’はILを100%としたとき約180%である。このようにIL’が大きいため点滅頻度を上げると電極に担持させた電子放射物質のスパッターが多くなり発光管4の内壁に付着して光束の減衰が著しく早くなる。この種のランプは実際に使用される場合少くとも12時間に一回ぐらいの割合いで点滅が繰り返されるので、この始動時の電流大による電極の損耗は光束維持率に悪影響を与える。
したがって、本発明の目的は始動時のランプ電流を減少させた放電灯点灯装置を提供することにある。」(明細書第1頁19行〜第2頁第18行)

(2-2)「さて、第2図に示した本考案による点灯装置ではフィラメント抵抗5によってランプ電流が抑制されるため始動時のランプ電流IL”は第3図曲線Bの如く、低い値におさえることができる(このランプ電流ILはフィラメント抵抗5の抵抗値のとり方で任意にかえることができる。)。例えば、IL”=ILにすれば点滅の影響はほとんどなくなる。
実施例
メタルハライドランプ1000Wについて説明すると、第3図における電流値はIL=8.3A、IL’=13.7A、IL’/IL=165%が従来のランプで、タングステン、フィラメント抵抗5を第2図のように入れIL”=10A(120%)及び8.3A(100%)のランプを作って比較した。結果は次の表に示す通りフィラメント抵抗5を挿入し、IL”を低くしたものは光束の劣化が少ないことが確認された。

IL IL’又は IL’又は 1000h当り
IL” IL”/IL の光束劣化率
従来のランプ 8.3 13.7A 165% 10%
改良したランプ(a) 8.3 10.0A 120% 5%
〃 (b) 8.3 8.3A 100% 1% 」
(明細書第3頁9行〜第4頁第10行)

(2-3)「以上述べた如く、本考案によって始動時のランプ電流を通常のランプ電流程度まで低下させることが可能な放電灯点灯装置を得ることが可能となる。その結果、本考案による点灯装置を用いた高効率ランプはその光束維持率を大幅に改良することができるようになった。」(明細書第5頁第1行〜同第6行)

これらの記載事項によると、この文献には、
「始動時のランプ電流を通常のランプ電流程度まで低下させる、具体的には、IL’又はIL”/ILを100%程度とすることによって、光束維持率を大幅に改良する。」という技術思想が記載されており、この技術思想は本願出願前に周知であると認められる。
そうすると、光束維持率を大幅に改良するために、引用刊行物1に記載の発明における、Isを安定時のランプ電流Ir=0.41A程度とすることは当業者が容易に想到しうることであり、この場合、引用刊行物1に記載の発明における、35/Is(W/Aに相当。)の値は、35/0.41=85程度となる。
したがって、引用刊行物1に記載の発明における、35/Is(W/Aに相当。)の範囲を、80≦35/Is≦90とすることは、引用刊行物1に記載の発明に上記周知の技術思想を適用し、光束維持率や安定時間を考慮することによって当業者が容易に決定し得ることである。

そして、本願発明によってもたらされる効果は、引用刊行物1に記載の発明、及び、周知の技術思想から当業者であれば予測できる程度のものであって、格別のものとは言えない。


4.むすび
したがって、本願発明は、引用刊行物1に記載の発明、及び、周知の技術思想に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、本願発明が特許を受けることができないものであるから、その余の請求項2に係る発明について検討するもでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-08-30 
結審通知日 2005-09-06 
審決日 2005-09-20 
出願番号 特願平9-8249
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 向後 晋一  
特許庁審判長 杉野 裕幸
特許庁審判官 山川 雅也
下中 義之
発明の名称 高圧金属蒸気放電ランプ  
代理人 内藤 浩樹  
代理人 岩橋 文雄  
代理人 永野 大介  

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