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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01M
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  H01M
審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  H01M
管理番号 1125748
異議申立番号 異議2003-71797  
総通号数 72 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-06-06 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-07-14 
確定日 2005-07-27 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3366412号「アルカリ電池用セパレータ」の請求項1ないし11に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3366412号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 
理由 1.手続きの経緯
本件特許第3366412号の請求項1〜11に係る発明についての出願は、平成5年12月28日(優先日:平成5年9月28日 日本)に出願され、平成14年11月1日にその特許の設定登録がなされたものである。
これに対し、今川佳余子より特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内の平成16年8月6日に訂正請求がなされ、その後、特許異議申立人に対し審尋がなされ、平成16年10月20日に回答書が提出されたものである。

2.訂正の適否
(2-1)訂正の内容
本件訂正の内容は、本件特許明細書を訂正請求書に添付された訂正明細書のとおり、すなわち訂正事項a〜dに訂正するものである。
(1)訂正事項a:特許請求の範囲
「【請求項1】ポリオレフィン系分割性複合繊維が分割した極細繊維を主体とする、ポリオレフィン系繊維からなる水流絡合不織布のみからなるアルカリ電池用セパレータであり、前記水流絡合不織布が親水化処理されていることを特徴とするアルカリ電池用セパレータ。
【請求項2】水流絡合不織布が、混合された低融点のポリオレフィン系接着繊維で接着されていることを特徴とする請求項1記載のアルカリ電池用セパレータ。
【請求項3】水流絡合不織布にビニルモノマーをグラフト重合して、親水化処理したことを特徴とする請求項1又は請求項2記載のアルカリ電池用セパレータ。
【請求項4】前記水流絡合不織布が、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、又はポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレンコポリマー、エチレン-ブテン-プロピレンコポリマーを組み合わせた、芯鞘型、サイドバイサイド型、偏芯型、菊花状の繊維断面を有する、交互に層状に積層した繊維断面を有する、分割性又は非分割性複合繊維の中から選ばれるポリオレフィン系繊維からなる繊維ウエブに対して、水流絡合処理をして得たものであることを特徴とする、請求項1〜請求項3のいずれかに記載のアルカリ電池用セパレータ。
【請求項5】前記極細繊維は水流絡合処理によって分割性複合繊維が分割して得たものであることを特徴とする、請求項1〜請求項4のいずれかに記載のアルカリ電池用セパレータ。
【請求項6】前記極細繊維の繊度が0.01〜0.4デニールであることを特徴とする、請求項1〜請求項5のいずれかに記載のアルカリ電池用セパレータ。
【請求項7】前記分割性複合繊維がポリエチレン樹脂成分とポリプロピレン樹脂成分とを含んでいることを特徴とする、請求項1〜請求項6のいずれかに記載のアルカリ電池用セパレータ。
【請求項8】前記低融点のポリオレフィン系接着繊維がポリプロピレン樹脂成分とポリエチレン樹脂成分とを含む一部溶融型複合繊維からなることを特徴とする、請求項2〜請求項7のいずれかに記載のアルカリ電池用セパレータ。
【請求項9】前記水流絡合不織布が湿式法により形成した繊維ウエブに対して水流絡合処理をして得たものであることを特徴とする、請求項1〜請求項8のいずれかに記載のアルカリ電池用セパレータ。
【請求項10】前記親水化処理が発煙硫酸によるスルホン化であることを特徴とする、請求項1〜2又は請求項4〜請求項9のいずれかに記載のアルカリ電池用セパレータ。
【請求項11】前記親水化処理がフッ素ガス処理であることを特徴とする、請求項1〜2又は請求項4〜請求項9のいずれかに記載のアルカリ電池用セパレータ。」を、
「【請求項1】ポリエチレン樹脂成分とポリプロピレン樹脂成分とからなるポリオレフィン系分割性複合繊維が分割した極細繊維を50重量%以上含む、ポリオレフィン系繊維からなる水流絡合不織布のみからなるアルカリ電池用セパレータであり、前記水流絡合不織布は混合されたポリプロピレン樹脂成分と低密度ポリエチレン樹脂成分とを含む一部溶融型複合繊維からなるポリオレフィン系接着繊維の低密度ポリエチレン樹脂成分のみで接着されており、かつ親水化処理されていることを特徴とするアルカリ電池用セパレータ。
【請求項2】水流絡合不織布にビニルモノマーをグラフト重合して、親水化処理したことを特徴とする請求項1記載のアルカリ電池用セパレータ。
【請求項3】前記極細繊維は水流絡合処理によって分割性複合繊維が分割して得たものであることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載のアルカリ電池用セパレータ。
【請求項4】前記極細繊維の繊度が0.01〜0.4デニールであることを特徴とする、請求項1〜請求項3のいずれかに記載のアルカリ電池用セパレータ。
【請求項5】前記水流絡合不織布が湿式法により形成した繊維ウエブに対して水流絡合処理をして得たものであることを特徴とする、請求項1〜請求項4のいずれかに記載のアルカリ電池用セパレータ。
【請求項6】前記親水化処理が発煙硫酸によるスルホン化であることを特徴とする、請求項1又は請求項3〜請求項5のいずれかに記載のアルカリ電池用セパレータ。
【請求項7】前記親水化処理がフッ素ガス処理であることを特徴とする、請求項1又は請求項3〜請求項5のいずれかに記載のアルカリ電池用セパレータ。」に訂正する。
(2)訂正事項b:段落【0007】の「本発明のアルカリ電池用セパレータ(以下、単に「セパレータ」ということがある)は、ポリオレフィン系分割性複合繊維が分割した極細繊維を主体とする、ポリオレフィン系繊維からなる水流絡合不織布のみからなるアルカリ電池用セパレータであり、前記水流絡合不織布が親水化処理されたものである。」を、
「本発明のアルカリ電池用セパレータ(以下、単に「セパレータ」ということがある)は、ポリエチレン樹脂成分とポリプロピレン樹脂成分とからなるポリオレフィン系分割性複合繊維が分割した極細繊維を50重量%以上含む、ポリオレフィン系繊維からなる水流絡合不織布のみからなるアルカリ電池用セパレータであり、前記水流絡合不織布は混合されたポリプロピレン樹脂成分と低密度ポリエチレン樹脂成分とを含む一部溶融型複合繊維からなるポリオレフィン系接着繊維の低密度ポリエチレン樹脂成分のみで接着されており、かつ親水化処理されたものである。」に訂正する。
(3)訂正事項c:段落【0008】の「また、水流絡合不織布が、混合された低融点のポリオレフィン系接着繊維で接着されていると、強度的に優れるため、製造上好ましいセパレータである。」を、
「また、水流絡合不織布にビニルモノマーをグラフト重合して、親水化処理したセパレータであると、より優れた保液性、及び繊維強度を有している。」に訂正する。
(4)訂正事項d:段落【0009】の「更に、水流絡合不織布にビニルモノマーをグラフト重合して、親水化処理したセパレータであると、より優れた保液性、及び繊維強度を有している。前記水流絡合不織布が、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、又はポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレンコポリマー、エチレン-ブテン-プロピレンコポリマーを組み合わせた、芯鞘型、サイドバイサイド型、偏芯型、菊花状の繊維断面を有する、交互に層状に積層した繊維断面を有する、分割性又は非分割性複合繊維の中から選ばれるポリオレフィン系繊維からなる繊維ウエブに対して、水流絡合処理をして得たものであることができる。前記極細繊維は水流絡合処理によって分割性複合繊維が分割して得たものであることができる。前記極細繊維の繊度は0.01〜0.4デニールであることができる。前記分割性複合繊維がポリエチレン樹脂成分とポリプロピレン樹脂成分とを含んでいるのが好ましい。前記低融点のポリオレフィン系接着繊維がポリプロピレン樹脂成分とポリエチレン樹脂成分とを含む一部溶融型複合繊維からなるのが好ましい。前記水流絡合不織布が湿式法により形成した繊維ウエブに対して水流絡合処理をして得たものであるのが好ましい。前記親水化処理が発煙硫酸によるスルホン化、又はフッ素ガス処理であることができる。」を、
「更に、前記極細繊維は水流絡合処理によって分割性複合繊維が分割して得たものであることができる。前記極細繊維の繊度は0.01〜0.4デニールであることができる。前記水流絡合不織布が湿式法により形成した繊維ウエブに対して水流絡合処理をして得たものであるのが好ましい。前記親水化処理が発煙硫酸によるスルホン化、又はフッ素ガス処理であることができる。」に訂正する。

(2-2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
(1)上記訂正事項(a)について
請求項1〜7に係る訂正を順に検討するに、請求項1に係る訂正は、訂正前の「ポリオレフィン系分割性複合繊維」を、特許明細書の段落【0034】の「繊維として、図1(c)に示すような、ポリプロピレン成分(図中記号2・・・)とポリエチレン成分(図中記号1・・・)とからなる、菊花状の断面形状を有する、繊度2デニール、繊維長38mmの分割性複合繊維100%をカード機により開繊し」の記載をもとに、「ポリエチレン樹脂成分とポリプロピレン樹脂成分とからなるポリオレフィン系分割性複合繊維」と限定し、訂正前の「主体とする」の記載を明確にするため、段落【0015】の「本発明では、分割性複合繊維から得られる極細繊維を主体とすることにより、保液性が向上しているため、分割性複合繊維を50重量%以上使用することが好ましく」の記載をもとに、「50重量%以上含む」とし、さらに訂正前の「水流絡合不織布」を、特許明細書の段落【0036】の「実施例1と同じ・・・分割性複合繊維80重量%と・・・ポリプロピレン(芯成分)-低密度ポリエチレン(鞘成分)複合接着繊維20重量%とを混綿したこと、及び、水流絡合不織布を得た後に110℃で熱処理して、低密度ポリエチレン成分のみを融着させた」の記載をもとに、「水流絡合不織布は混合されたポリプロピレン樹脂成分と低密度ポリエチレン樹脂成分とを含む一部溶融型複合繊維からなるポリオレフィン系接着繊維の低密度ポリエチレン樹脂成分のみで接着されており」と限定するものであから、特許請求の範囲の減縮及び明りょうでない記載の釈明に該当する。
請求項2〜11に係る訂正は、訂正前の請求項2、4、7、8を削除し、それに伴い、訂正前の請求項3、5、6、9〜11の項番号を順次繰り上げ、それぞれ請求項2、3、4、5〜7とするものであるから、特許請求の範囲の減縮及び明りょうでない記載の釈明に該当する。
以上のとおりであるから、訂正事項(a)は、特許請求の範囲の減縮及び明りょうでない記載の釈明に該当する。そして、この訂正は、特許明細書に記載した事項の範囲内でなされたものであるから新規事項の追加に該当せず、また当該訂正によって実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
(2)上記訂正事項(b)〜(d)について
上記の訂正は、特許請求の範囲が訂正されるのに伴い、これに整合するように、発明の詳細な説明の記載を訂正するものであるから、明りょうでない記載の釈明に該当する。そして、この訂正は、特許明細書に記載した事項の範囲内でなされたものであるから新規事項の追加に該当せず、また当該訂正によって実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。

(2-3)むすび
したがって、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書き、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.本件発明
本件請求項1〜7に係る発明は、上記訂正を認容することができるから、訂正後の請求項1〜7に記載された次のとおりのものである(以下、それぞれ「本件発明1」〜「本件発明7」という)。
「【請求項1】ポリエチレン樹脂成分とポリプロピレン樹脂成分とからなるポリオレフィン系分割性複合繊維が分割した極細繊維を50重量%以上含む、ポリオレフィン系繊維からなる水流絡合不織布のみからなるアルカリ電池用セパレータであり、前記水流絡合不織布は混合されたポリプロピレン樹脂成分と低密度ポリエチレン樹脂成分とを含む一部溶融型複合繊維からなるポリオレフィン系接着繊維の低密度ポリエチレン樹脂成分のみで接着されており、かつ親水化処理されていることを特徴とするアルカリ電池用セパレータ。
【請求項2】水流絡合不織布にビニルモノマーをグラフト重合して、親水化処理したことを特徴とする請求項1記載のアルカリ電池用セパレータ。
【請求項3】前記極細繊維は水流絡合処理によって分割性複合繊維が分割して得たものであることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載のアルカリ電池用セパレータ。
【請求項4】前記極細繊維の繊度が0.01〜0.4デニールであることを特徴とする、請求項1〜請求項3のいずれかに記載のアルカリ電池用セパレータ。
【請求項5】前記水流絡合不織布が湿式法により形成した繊維ウエブに対して水流絡合処理をして得たものであることを特徴とする、請求項1〜請求項4のいずれかに記載のアルカリ電池用セパレータ。
【請求項6】前記親水化処理が発煙硫酸によるスルホン化であることを特徴とする、請求項1又は請求項3〜請求項5のいずれかに記載のアルカリ電池用セパレータ。
【請求項7】前記親水化処理がフッ素ガス処理であることを特徴とする、請求項1又は請求項3〜請求項5のいずれかに記載のアルカリ電池用セパレータ。」

4.特許異議申立てについて
(4-1)特許異議申立ての理由及び取消理由の概要
特許異議申立人は、証拠方法として、甲第1号証〜甲第7号証を提出して、訂正前の請求項1〜11に係る発明に対し、次のとおり主張している。
(1)請求項1、5、6、9及び10に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、当該発明の特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反して特許されたものであり、取り消されるべきである。
(2)請求項2〜4、7、8及び11に係る発明は、甲第1号証〜甲第7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきである。
(3)本件特許明細書は、その特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載が不備であるから、請求項1〜11に係る発明の特許は、特許法第36条第4項及び第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきである。
また、当審において通知した取消理由は、上記申立理由と同趣旨のものである。

(4-2)証拠の記載内容
特許異議申立人が提出した上記甲第1号証〜甲第7号証には、それぞれ次の事項が記載されている。
(a)甲第1号証:特開平5-186911号公報
(a1)「ポリ(4-メチル-ペンテン-1)又は4-メチルペンテン-1と他のα-オレフィンとの共重合体からなるメチルペンテン系ポリマーをA成分とし、融点が130℃以上のポリ(α-オレフィン)をB成分とし、両成分の少なくとも一部分はぞれぞれ繊維表面に存在し、各成分は互いに異なる成分と隣接している複合繊維部と、0.5デニール以下の分割された極細繊維部とを有し、且つ前記A成分の少なくとも一部にスルホン基が導入されているスルホン化極細繊維集合体。」(【請求項1】)
(a2)「【発明が解決しようとする課題】 しかしながら、前記特開昭63-34849号・・・EPC公開第0316916A2号は、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのα-ポリオレフィンを発煙硫酸等でスルホン化処理するものであり、第3級炭素の水素置換反応のため反応効率が悪く製造工程上の問題があった。そのうえスルホン基の導入も効率よく行えず、反応率のコントロ-ルも困難であるという課題があった。」(段落【0003】)
(a3)「メチルペンテン系ポリマーは少なくとも繊維断面で2分割、好ましくは3〜10個に、より好ましくは3〜6個に他のα-ポリオレフィンで区別されているのが都合よく、特に繊維断面で6〜12個の分割可能なものが最も好ましい。・・・(中略)・・・極細繊維組成物としての効果を明確にするため、本発明の組成物を構成する繊維の50%以上が少なくとも2分割以上に分割されているのが好ましく、80%以上分割されているのが望ましい。」(段落【0013】)
(a4)「本発明の組成物は・・・より好ましくは150〜200kg/cm2の圧力水で処理して分割と繊維間絡みを生じさせ一体化させて繊維組成物とした後、スルホン化処理して得られる。・・・上記繊維組成物を構成する繊維表面に露出するメチルペンテン系ポリマーは、スルホン化処理、例えば熱濃硫酸によって、該コポリマー中のメチルペンテン構成単位中の第3級炭素の少なくとも一部にスルホン基が導入され、下記(化1)の構造を少なくとも一部に含むようになり、親水性が付与される。このスルホン基導入反応は次に示す(化1)のように進むものと考えられる。」(段落【0014】)
(a5)「本発明の用いるメチルペンテン系ポリマーは、ポリプロピレンおよびポリブテン-1などの他のα-ポリオレフィンと比べて側鎖が長いため、ポリプロピレンなどでは反応しにくいスルホン化条件でもその側鎖の第3級炭素へスルホン基(-SO3H)の導入が生じやすいと推定される。耐熱性の点で本発明の最も好ましい組み合わせは、メチルペンテンコポリマーの融点が210〜245℃であり、融点163℃のポリプロピレンであり、耐熱アルカリ性と親水性に優れているため、充電式のアルカリ電池セパレ-タとして好都合である。」(段落【0018】)
(a6)「実施例1〜2 メチルフロ-レ-ト50g/10分・・・のメチルペンテンコポリマ-・・・をA成分2(図1)とし、メルトフローレート20g/10分・・・融点163g℃の高結晶性ポリプロピレン(PP)またはメルトフローレート17g/10分・・・融点137℃、密度0.964g/cm3の高密度ポリエチレン(HDPE)をB成分3(図1)とし、A成分とB成分の繊維断面の断面積比が50:50の図1に示す繊維断面(8分割)の分割性複合繊維(1)を複合紡糸した。温度280℃で溶融紡糸し、次に95℃の熱水中で2デニールに延伸し、繊維処理剤を付与後、スタフィングボックスを用いて捲縮を付与し、105℃のコンベア式熱風貫通型乾燥機で乾燥し、51mmに切断してステープル繊維とした。得られたステープル繊維の特性は表1のとおりであった。このステープルをローラーカードを用い目付80g/m2のウェッブした後、160kg/cm2の圧力水で3秒間処理して複合繊維の構成単位をばらばらに分割させ、同時にこれを絡み合わせて不織布とした。これを90℃、92%熱濃硫酸に30分間浸漬し、その後希硫酸浸漬を経て多量の水で水洗後、乾燥して本発明の極細繊維組成物である不織布を得た。」(段落【0019】〜【0021】)

(b)甲第2号証:特開平5-186964号公報
(b1)「ポリ(4-メチルペンテン-1)または4-メチルペンテン-1と他のα-オレフィンとの共重合体からなるメチルペンテン系ポリマーを含む繊維であって、前記メチルペンテン系ポリマーが40%以上繊維表面を形成し、かつ前記メチルペンテン系ポリマーの構成単位中の少なくとも一部にスルホン基が導入されているスルホン化ポリオレフィン繊維が60〜100重量%、及び融点が140℃未満のポリオレフィンを熱接着成分とし、ポリプロピレンを繊維形成成分とする熱接着繊維40〜0重量%を構成成分とし、全体が溶融接着されて一体化しているスルホン化ポリオレフィン繊維集合体。」(【請求項4】)
(b2)「従来、ポリオレフィン繊維は化学的に安定な繊維であり、その用途も不織布などとして広く一般的に用いられている。また不織布に形成する際に、繊維間相互を接着する接着繊維として熱接着性に優れた低融点成分を用いることも一般的である。すなわち、芯成分にポリプロピレンを用い、鞘成分にポリエチレンなどの低融点成分を用いた芯鞘型複合繊維(コンジュゲート繊維)として用いられている。しかしながら、このような複合繊維は一般的に親水性に乏しく、充電式の電池または蓄電池のセパレータ用繊維、またはセメント補強用繊維などの用途に展開することには制限があった。」(段落【0002】)

(c)甲第3号証:特開昭57-141862号公報
(c1)「ポリプロピレン樹脂の繊維表面にポリエチレン樹脂を配置した繊維からなる不織布に酸又は塩基と反応して直接或は間接に塩を形成し得るビニルモノマーをグラフト共重合させたことを特徴とする電池用セパレータ。」(特許請求の範囲)
(c2)「本発明は電池用セパレータに関するもので、ポリプロピレン樹脂繊維表面にポリエチレン樹脂を配置した繊維からなる不織布に酸又は塩基と反応して直接或は間接に塩を形成し得るビニルモノマーをグラフト共重合させて、親水性をもたせることを特徴とする。」(第1頁左下欄第10〜15行)

(d)甲第4号証:特開平5-214653号公報
(d1)「互いに相溶性の異なる2種類以上の成分からなる複合繊維(以下、繊維A)で、少なくとも1本の該繊維Aから2本以上の繊維(以下、繊維B)を発生しうる繊維Aを用いた水流交絡不織布の製造法において、下記の工程からなる水流交絡不織布の製造法。
(1)繊維Aを水中で離解、分散しながら、繊維Bを発生させ、同時に繊維Aから繊維Bが発生しつつある状態の繊維(以下、繊維C)を発生させる工程。
(2)繊維A、繊維B、繊維Cが混在し、均一に分散したスラリーを調製する工程。
(3)(2)で調製したスラリーを用い、湿式抄紙法によりウェブ製造する工程。(4)(3)で製造したウェブを、単層あるいは複数層積層し、支持体上に積載し、高圧柱状水流を噴射し、繊維A、繊維Cより繊維Bを発生させ、繊維Bを相互に3次元的に交絡し、乾燥する工程。」(【請求項1】)
(d2)「本発明の不織布の用途としては、医療・衛生材料用、液体・気体フィルター用、合成皮革・人工皮革用基布、サーフェス材等が考えられる。」(段落【0041】)
(d3)「実施例2 繊度3d、繊維長20mmの、ポリエチレンとポリプロピレンを成分とし、16分割し、平均0.2dの極細繊維(L/D=4000)を発生する剥離分割型複合繊維を用い、パルパーで15分離解した。未分割繊維は全体の5%であった。以下、実施例1と同様の方法で不織布を得た。」(段落【0046】)

(e)甲第5号証:特開平2-304862号公報
(e1)「(1)中央部に繊維軸方向にはしる空洞部を有さず、繊維表面から中心部迄全体にわたってラメラと該ラメラ間をつなぐ多数のフィブリルでかこまれてなる空間が連通してなる細孔を有する、空孔率が30〜80%のポリオレフィン系多孔質繊維を主成分とする不織布より形成された電池用セパレータ。(2)該不織布が、ポリオレフィン系多孔質繊維の融点より低い融点を有する熱溶融繊維を含む不織布で、熱圧着により該低融点溶融繊維が部分的に溶融されて不織布の形態が固定されてなるものである請求項1記載の電池用セパレータ。」(第1頁左下欄第5〜16行)
(e2)「本発明に用いられるポリオレフィン系多孔質繊維としては、結晶化度の高いポリエチレン、ポリプロピレン・・・などのポリオレフィン単体あるいはこれらポリオレフィンと親水性ポリオレフィンとのブレンドからなる多孔質繊維が好ましく用いられる。」(第2頁右下欄第6〜12行)
(e3)「多孔質ポリオレフィン系繊維を用いて不織布を形成するに際して、多孔質ポリオレフィン系繊維を100%使用してもよいが、多孔質ポリオレフィン系繊維の融点より低い融点、好ましくは10℃以上の融点差がある低融点溶融繊維であってかつポリオレフィン系の繊維、例えば低融点ポリエチレン繊維などを、不織布形成時に混織して用い、熱圧着により低融点溶融繊維を少なくとも部分的に溶融させて不織布の形態を固定することが好ましい。」(第3頁右上欄第15行〜左下欄第4行)

(f)甲第6号証:特開平2-276154号公報
(f1)「セパレータ素材としての炭素-炭素結合を有する合成樹脂繊維にフッ素を含むガスを接触反応させることを特徴とする電池用セパレータの製造方法。」(請求項1)
(f2)「炭素-炭素結合を有する合成樹脂繊維とフッ素ガスとを接触反応させると、前記繊維の表面層において、例えば主鎖の-CH2-CH2-のHにフッ素ガスがアタックしHとFとが置換されて主鎖中に部分的に-CF2-が生成するという主反応や・・・という副反応が生じる。この主反応或るいは副反応によって繊維表面における主鎖の主鎖の-CH2-CH2-の正則性が乱れ、その結果、合成樹脂繊維の表面エネルギーが変化する。・・・ここで、上記の主反応或いは副反応による合成樹脂繊維の表面エネルギーの変化は、表面エネルギーが低下するように変化し、その結果、水との接触角が小さくなり、水と濡れ易くなる。又、表面積の増大も、合成樹脂繊維が水と濡れ易くなるのに寄与する。」(第2頁右上欄第19行〜左下欄20行)
(f3)「[実施例1]・・・ポリプロピレン不織布・・・を準備し、この不織布を鉄製の反応容器内に収納し真空排気した後、フッ素ガスを窒素ガスで希釈してなる反応ガスを前記容器内に大気圧になるまで導入して一定時間反応させた。」(第3頁左上欄第2〜8行)

(g)甲第7号証:特開平5-182654号公報
(g1)「【請求項1】目付10g/m2以上のメルトブロー不織布と、短繊維ウェブからなる水流絡合不織布とを熱圧着により積層一体化したことを特徴とする電池用セパレータ。
(中略)
【請求項3】短繊維ウェブが分割繊維によって形成されていることを特徴とする請求項1または2記載の電池用セパレータ。」(【請求項1】〜【請求項3】)
(g2)「請求項3の発明においては、請求項2の短繊維ウェブを構成する短繊維として、分割繊維を使用することによって、更に電解液の保液性を更に向上させたものが提供される。すなわち、水流絡合処理を施すことによって、分割繊維が分割し極細繊維となるため、電解液の保液性が向上する。
分割繊維としては、6-ナイロン/6,6-ナイロン、ポリエチレン/ポリプロピレン、ポリエチレン/ポリエチレンテレフタレート、6-ナイロン/ポリエチレン、6-ナイロン/ポリプロピレンからなるオレンジファイバー等が好適に使用できる。」(段落【0017】〜【0018】)
(g3)「本発明で使用される耐アルカリ性の合成繊維は、いずれも疎水性の大きいものであり、繊維自体の保水性が小さいため、親水処理剤によって表面処理を行うことによって、保水性を高め電解液の含有量を増加させることができる。親水処理剤としては、アニオン系、カチオン系、ノニオン系界面活性剤を使用することができるが、特に耐アルカリ性の良好なノニオン系界面活性剤が好適に用いられる。」(段落【0030】)

(4-3)当審の判断
(4-3-1)申し立て理由(1)及び(2)(新規性進歩性)について
(i)本件発明1について
甲第1号証の上記(a1)には、「ポリ(4-メチル-ペンテン-1)又は4-メチルペンテン-1と他のα-オレフィンとの共重合体からなるメチルペンテン系ポリマーをA成分とし、融点が130℃以上のポリ(α-オレフィン)をB成分」とし、「前記A成分の少なくとも一部にスルホン基が導入されているスルホン化極細繊維集合体」が記載されていると云えるところ、この「極細繊維集合体」は、上記(a5)の記載によると、「アルカリ電池用セパレータ」として好都合なものであるから、甲第1号証には、この「極細繊維集合体」のみからなる「アルカリ電池用セパレータ」が記載されていると云える。また、この「極細繊維集合体」は、上記(a6)の「A成分とB成分の繊維断面の断面積比が50:50の図1に示す繊維断面(8分割)の分割性複合繊維(1)を複合紡糸した。・・・ウェッブした後・・・圧力水で3秒間処理して複合繊維の構成単位をばらばらに分割させ、同時にこれを絡み合わせて不織布とした。」の記載によると、A成分とB成分とからなる分割性複合繊維を水流により複合繊維の構成単位にばらばらに分割し、同時にこれを絡み合わせ不織布し、分割した繊維が極細繊維集合体となるものであるから、「分割性複合繊維が分割した極細繊維を含む水流絡合不織布」であると云えることは明らかである。そして、この「極細繊維」は、上記(a3)の「極細繊維組成物としての効果を明確にするため、本発明の組成物を構成する繊維の50%以上が少なくとも2分割以上に分割されているのが好ましく、80%以上分割されているのが望ましい」の記載によれば、「極細繊維を50%以上含む」と云える。さらに、上記「前記A成分の少なくとも一部にスルホン基が導入されているスルホン化」極細繊維集合体とは、上記(a4)の「メチルペンテン系ポリマーは、スルホン化処理、例えば熱濃硫酸によって、該コポリマー中のメチルペンテン構成単位中の第3級炭素の少なくとも一部にスルホン基が導入され、下記(化1)の構造を少なくとも一部に含むようになり、親水性が付与される。」の記載によれば、「親水化処理されている」極細繊維集合体であると云える。
以上の記載を整理すると、甲第1号証には、「ポリ(4-メチル-ペンテン-1)又は4-メチルペンテン-1と他のα-オレフィンとの共重合体からなるメチルペンテン系ポリマーをA成分とし、融点が130℃以上のポリ(α-オレフィン)をB成分とする分割性複合繊維が分割した極細繊維を50%以上含む水流絡合不織布のみからなるアルカリ電池用セパレータであり、かつ親水化処理されているアルカリ電池用セパレータ」(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると云える。
そこで、本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「A成分」、「B成分」は共に本件発明1の「ポリオレフィン」に含まれるものであり、甲1発明の「50%以上含む」は、本件発明1の「50重量%以上含む」に相当することは明らかであるから、両者は、「ポリオレフィン系分割性複合繊維が分割した極細繊維を50重量%以上含む、ポリオレフィン系繊維からなる水流絡合不織布のみからなるアルカリ電池用セパレータであり、親水化処理されていることを特徴とするアルカリ電池用セパレータ」という点で一致し、次の2点で相違していると云える。
相違点:
(イ)本件発明1は、ポリオレフィン系分割性複合繊維がポリエチレン樹脂成分とポリプロピレン樹脂成分とからなるのに対し、甲1発明は、ポリオレフィン系分割性複合繊維がポリ(4-メチル-ペンテン-1)又は4-メチルペンテン-1と他のα-オレフィンとの共重合体からなるメチルペンテン系ポリマーをA成分とし、融点が130℃以上のポリ(α-オレフィン)をB成分とするものからなる点。
(ロ)本件発明1は、水流絡合不織布が、混合されたポリプロピレン樹脂成分と低密度ポリエチレン樹脂成分とを含む一部溶融型複合繊維からなるポリオレフィン系接着繊維の低密度ポリエチレン樹脂成分のみで接着されているのに対し、甲1発明は、その様な接着がなされていない点。
そこで、まず上記相違点(イ)について検討するに、本件発明1の相違点(イ)に係る構成の技術的な意義は、明細書の段落【0014】の「分割性複合繊維の中でも、ポリエチレン樹脂成分とポリプロピレン樹脂成分とが含まれている繊維は、耐電解液性が優れているのはもちろんのこと、ポリエチレン樹脂成分とポリプロピレン樹脂成分とでは、スルホン化、フッ素処理などによる親水化の難易度が異なる。つまり、相対的にポリエチレン樹脂成分が親水化されやすいのに対して、ポリプロピレン樹脂成分は親水化されにくい。そのため、電解液はポリエチレン樹脂成分側で保液されやすく、ポリプロピレン樹脂成分側では電解液の乏しい状態になり、密閉型二次電池でガスが発生した場合であっても、速やかに他極に透過させることができ、内部圧が上昇して破裂するという危険がないので、好適に使用できる。」の記載によれば、ポリエチレン樹脂成分と、ポリプロピレン樹脂成分との親水化のされやすさの違いに着目して、親水化されやすいポリエチレン側で電解液を保液し、親水化されにくいポリプロピレン側で発生したガスを他極に透過させるというものである。
他方、甲1発明は、上記(a2)の記載によれば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのα-ポリオレフィンのスルホン化処理が、反応効率が悪く製造工程上の問題があり、スルホン基の導入も効率よく行えず、また、反応率のコントロ-ルも困難であるなどの問題を解決したものであるが、その様な問題の下において、なお上記相違点(イ)における本件発明1のようにすることが容易かどうか以下検討する。
甲第2号証は、上記(b1)によると、「スルホン化ポリオレフィン繊維と熱接着繊維を構成成分とし、全体が溶融接着されて一体化しているスルホン化ポリオレフィン繊維集合体」に関するものであるが、この「ポリオレフィン繊維」は、メチルペンテン系ポリマーを含む繊維であるから、上記相違点(イ)に係る「ポリエチレン樹脂成分とポリプロピレン樹脂成分とからなるポリオレフィン系分割性複合繊維」を記載するものではない。
甲第3号証は、上記(c1)によると、「ポリプロピレン樹脂の繊維表面にポリエチレン樹脂を配置した繊維からなる不織布に酸又は塩基と反応して直接或は間接に塩を形成し得るビニルモノマーをグラフト共重合させたことを特徴とする電池用セパレータ」に関するものであるが、この「ポリプロピレン樹脂の繊維表面にポリエチレン樹脂を配置した繊維」は、分割性複合繊維ではないから、上記相違点(イ)に係る「ポリエチレン樹脂成分とポリプロピレン樹脂成分とからなるポリオレフィン系分割性複合繊維」を記載するものではない。
甲第4号証は、上記(d1)によると、「水流交絡不織布の製造法」に関するものであり、上記(d3)の記載によると、不織布を構成する繊維として、ポリエチレンとポリプロピレンの分割型複合繊維が記載されるものの、上記(d2)に記載されるように、この「水流交絡不織布」が用いられるのは、アルカリ電池のセパレータとは関連のない用途であり、ポリエチレンとポリプロピレンの「親水化のされやすさの違い」に関する示唆もないから、たとえ当業者といえども、上記相違点(イ)の技術的意義に記載したように、親水化のされやすさの違いに着目してポリエチレンとポリプロピレンの分割型複合繊維を採用し、これを甲1発明の「メチルペンテン系ポリマーをA成分とし、融点が130℃以上のポリ(α-オレフィン)をB成分とする分割性複合繊維」に代えて用いることは、容易に想到することができるものではない。
そして、甲第4号証には、上記のように「ポリエチレンとポリプロピレンの親水化のされやすさの違い」を示唆する記載は見当たらないのであるから、本件発明1の上記相違点(イ)に係る、親水化されやすいポリエチレン側で電解液を保液し、親水化されにくいポリプロピレン側で発生したガスを他極に透過させるという作用効果も示唆されないことは勿論である。
甲第5号証は、上記(e1)によると、「ポリオレフィン系多孔質繊維を主成分とし、ポリオレフィン系多孔質繊維の融点より低い融点を有する熱溶融繊維を含む不織布で、熱圧着により該低融点溶融繊維が部分的に溶融されて不織布の形態が固定されている電池用セパレータ」に関するものであるが、この「ポリオレフィン系多孔質繊維」は、上記(e2)によると、分割性複合繊維ではないから、上記相違点(イ)に係る「ポリエチレン樹脂成分とポリプロピレン樹脂成分とからなるポリオレフィン系分割性複合繊維」を記載するものではない。
甲第6号証は、上記(f1)によると、「合成樹脂繊維にフッ素を含む反応ガスを接触反応させる電池用セパレータの製造方法」に係るものであるが、「合成樹脂繊維」として例示されているのは、上記(f3)によると、ポリプロピレンであるから、上記相違点(イ)に係る「ポリエチレン樹脂成分とポリプロピレン樹脂成分とからなるポリオレフィン系分割性複合繊維」を記載するものではない。
甲第7号証は、上記(g1)によると「メルトブロー不織布と、短繊維ウェブからなる水流絡合不織布とを熱圧着により積層一体化した電池用セパレータ」に関するものであるところ、この短繊維ウェブは分割繊維により形成され、分割繊維には、上記(g2)によると、「ポリエチレン/ポリプロピレン」が例示されているが、甲第7号証には、ポリエチレンとポリプロピレンの「親水化のされやすさの違い」に関する示唆もないから、たとえ当業者といえども、上記相違点(イ)の技術的意義に記載したように、親水化のされやすさの違いに着目してポリエチレンとポリプロピレンの分割型複合繊維を採用し、これを甲1発明の「メチルペンテン系ポリマーをA成分とし、融点が130℃以上のポリ(α-オレフィン)をB成分とする分割性複合繊維」に代えて用いることは、容易に想到することができるものではない。
そして、甲第7号証には、上記のように「ポリエチレンとポリプロピレンの親水化のされやすさの違い」を示唆する記載は見当たらないのであるから、本件発明1の相違点(イ)に係る、親水化されやすいポリエチレン側で電解液を保液し、親水化されにくいポリプロピレン側で発生したガスを他極に透過させるという作用効果も示唆されないことは勿論である。
してみると、甲第2号証〜甲第7号証を参酌しても、本件発明1の上記相違点(イ)の構成を導き出すことはできないから、本件発明1は、上記相違点(ロ)について検討するまでもなく、甲第1号証に記載された発明ではないし、甲第1号証〜甲第7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものではない。

(ii)本件発明2〜7について
本件発明2〜7は、少なくとも請求項1を引用するものであるから、前記(i)「本件発明1について」の項で記載した同様の理由により、本件発明2〜7も、甲第1号証に記載された発明ではないし、甲第1号証〜甲第7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものでもない。

(4-3-2)申し立て理由(3)(記載不備)について
(1)異議申立人は、訂正前の請求項1の「極細繊維を主体とする」という記載の「主体」とはどの程度の数値範囲をいうのか明らかでないと主張している。
しかしながら、訂正後の請求項1には、「極細繊維を50重量%以上含む」と規定されているのであるから、本件請求項1は、明確でないとは云えず、また、発明の詳細な説明には本件請求項1に係る発明を当業者が実施できる程度に記載がなされていないとは云えない。
したがって、異議申立人の上記主張は、採用することができない。

(2)異議申立人は、訂正前の請求項4には「又は非分割性複合繊維」が記載されているが、「非分割性複合繊維」は圧力水で分割することができないから、請求項4は、明確でないと共に、発明の詳細な説明には請求項4に係る発明を当業者が実施できる程度に記載がなされていないと主張している。
しかしながら、訂正前の請求項4が削除されることにより、「又は非分割性複合繊維」も削除されたのであるから、上記の不備はないものとなった。
したがって、異議申立人の上記主張は、採用することができない。

5.むすび
したがって、特許異議申立の理由及び証拠方法によっては、本件発明1〜7についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1〜7についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
アルカリ電池用セパレータ
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】ポリエチレン樹脂成分とポリプロピレン樹脂成分とからなるポリオレフィン系分割性複合繊維が分割した極細繊維を50重量%以上含む、ポリオレフィン系繊維からなる水流絡合不織布のみからなるアルカリ電池用セパレータであり、前記水流絡合不織布は混合されたポリプロピレン樹脂成分と低密度ポリエチレン樹脂成分とを含む一部溶融型複合繊維からなるポリオレフィン系接着繊維の低密度ポリエチレン樹脂成分のみで接着されており、かつ親水化処理されていることを特徴とするアルカリ電池用セパレータ。
【請求項2】水流絡合不織布にビニルモノマーをグラフト重合して、親水化処理したことを特徴とする請求項1記載のアルカリ電池用セパレータ。
【請求項3】前記極細繊維は水流絡合処理によって分割性複合繊維が分割して得たものであることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載のアルカリ電池用セパレータ。
【請求項4】前記極細繊維の繊度が0.01〜0.4デニールであることを特徴とする、請求項1〜請求項3のいずれかに記載のアルカリ電池用セパレータ。
【請求項5】前記水流絡合不織布が湿式法により形成した繊維ウエブに対して水流絡合処理をして得たものであることを特徴とする、請求項1〜請求項4のいずれかに記載のアルカリ電池用セパレータ。
【請求項6】前記親水化処理が発煙硫酸によるスルホン化であることを特徴とする、請求項1又は請求項3〜請求項5のいずれかに記載のアルカリ電池用セパレータ。
【請求項7】前記親水化処理がフッ素ガス処理であることを特徴とする、請求項1又は請求項3〜請求項5のいずれかに記載のアルカリ電池用セパレータ。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明はアルカリ電池用セパレータに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から、アルカリ電池の正極と負極とを分離して短絡を防止すると共に、電解液を保持して起電反応を円滑に行なわせるために、セパレータが使用されている。
【0003】
例えば特開平3-257755号には、ポリオレフィン重合体成分とエチレン-ビニルアルコール共重合体成分とからなる繊維の断面において、一方の成分が他方の成分の間に介在して2個以上に分割され、これら成分の一部が繊維表面に露出した分割型複合繊維が、各成分毎に分割された極細繊維の不織布からなるセパレータが開示されている。このセパレータはポリオレフィン重合体成分による耐アルカリ性と、エチレン-ビニルアルコール共重合体成分による保液性に優れているというものである。
【0004】
しかしながら、このセパレータのエチレン-ビニルアルコール共重合体成分が電解液で溶解したり、二次電池に使用した場合には、電極から生じるガスによって分解しやすいため、短絡が生じたり、十分な保液性が得られないため、長期間に亘って、円滑に起電反応を行なうことができないなどの問題があった。特に、このセパレータを二次電池用のセパレータとして使用した場合には、充放電毎の極板の膨張によりセパレータが圧縮され、保液性が低下しやすいため、円滑に起電反応を行なうことができないものであった。
【0005】
他方、ポリオレフィン系の繊維を使用したセパレータは、耐アルカリ性に優れているが、電解液の保液性が悪いため、界面活性剤などを使用して保液性を高めたセパレータも知られているが、このセパレータは初期的にはある程度の親水性が得られるものの、長期に亘る保液性、特に、このセパレータを二次電池用のセパレータとして使用した場合には、前述と同様に、セパレータが圧縮されると、保液性が低下し、円滑に起電反応を行なうことができないものであった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記の問題点を解決するためになされたものであり、本発明の目的は短絡が生じにくく、保液性に優れ、長期間に亘って、円滑に起電反応を行なうことのできるアルカリ電池用セパレータを提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明のアルカリ電池用セパレータ(以下、単に「セパレータ」ということがある)は、ポリエチレン樹脂成分とポリプロピレン樹脂成分とからなるポリオレフィン系分割性複合繊維が分割した極細繊維を50重量%以上含む、ポリオレフィン系繊維からなる水流絡合不織布のみからなるアルカリ電池用セパレータであり、前記水流絡合不織布は混合されたポリプロピレン樹脂成分と低密度ポリエチレン樹脂成分とを含む一部溶融型複合繊維からなるポリオレフィン系接着繊維の低密度ポリエチレン樹脂成分のみで接着されており、かつ親水化処理されたものである。
【0008】
また、水流絡合不織布にビニルモノマーをグラフト重合して、親水化処理したセパレータであると、より優れた保液性、及び繊維強度を有している。
【0009】
更に、前記極細繊維は水流絡合処理によって分割性複合繊維が分割して得たものであることができる。前記極細繊維の繊度は0.01〜0.4デニールであることができる。前記水流絡合不織布が湿式法により形成した繊維ウエブに対して水流絡合処理をして得たものであるのが好ましい。前記親水化処理が発煙硫酸によるスルホン化、又はフッ素ガス処理であることができる。
【0010】
【作用】
本発明のセパレータはポリオレフィン系繊維からなるので、耐電解液性及び耐酸化性に優れており、分解して短絡することもない。しかもこのポリオレフィン系繊維は分割性複合繊維が分割した極細繊維を主体としているので、分割性複合繊維の表面積よりも表面積が広くて、繊維の交絡点間距離が短く、不織布の空隙も微小で、キャピラリー効果が作用する。そのため、この極細繊維を主体とする不織布を親水化処理したセパレータは、長期間に亘って保液性に優れたものである。更には、セパレータを水流絡合法により形成しており、繊維の配向方向が略厚さ方向であるため、二次電池用のセパレータとして使用した場合には特に、極板の圧縮に抗することができ、保液性が低下しにくく、長期に亘って安定して使用できるものである。
【0011】
以下、本発明のセパレータの製造方法をもとに説明する。
【0012】
本発明のセパレータに使用できる繊維は耐電解液性及び耐酸化性を有する、ポリオレフィン系繊維である必要がある。ポリオレフィン系繊維として、例えば、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維などの単一成分からなる繊維や、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレンコポリマー、エチレン-ブテン-プロピレンコポリマーなどの樹脂を適宜組み合わせた、芯鞘型、サイドバイサイド型、偏芯型、或いは図1(a)〜(d)に示すような、一成分1を他成分2の間に配した菊花状の繊維断面を有するものや、図1(e)に示すような、一成分1と他成分2とが交互に層状に積層した繊維断面を有する、分割性又は非分割性の複合繊維などがある。なお、これらポリオレフィン系繊維の中でも、分割性複合繊維を主体として使用すると、水流絡合処理と同時に分割し、絡合できるため、製造上好ましいばかりでなく、得られる極細繊維は表面積が広いため電解液に対する親和力が働き、しかも繊維の交絡点間距離が短くて空隙も微小で緻密あるため、キャピラリー効果が生じて、長期間に亘って保液性に優れ、更には物理的にデンドライトによる短絡を防止できるため、この点においても、長期間使用可能なセパレータとなる。
【0013】
この分割性複合繊維を分割して得られる極細繊維は、細ければ細いほどキャピラリー効果を生じやすく、物理的にデンドライトを防止することができるが、あまりにも細すぎると、強度のないセパレータとなるので、極細繊維の繊度としては、0.01〜0.4デニールであるのが好ましい。
【0014】
また、分割性複合繊維の中でも、ポリエチレン樹脂成分とポリプロピレン樹脂成分とが含まれている繊維は、耐電解液性が優れているのはもちろんのこと、ポリエチレン樹脂成分とポリプロピレン樹脂成分とでは、スルホン化、フッ素処理などによる親水化の難易度が異なる。つまり、相対的にポリエチレン樹脂成分が親水化されやすいのに対して、ポリプロピレン樹脂成分は親水化されにくい。そのため、電解液はポリエチレン樹脂成分側で保液されやすく、ポリプロピレン樹脂成分側では電解液の乏しい状態になり、密閉型二次電池でガスが発生した場合であっても、速やかに他極に透過させることができ、内部圧が上昇して破裂するという危険がないので、好適に使用できる。
【0015】
本発明では、分割性複合繊維から得られる極細繊維を主体とすることにより、保液性が向上しているため、分割性複合繊維を50重量%以上使用することが好ましく、より好ましくは70重量%以上、最も好ましくは100重量%使用する。
【0016】
なお、不織布の取り扱い性をより向上させるために、低融点のポリオレフィン系接着繊維を50重量%以下含ませて、寸法安定性を向上させることができる。この低融点のポリオレフィン系接着繊維が50重量%以下であれば、極細繊維量の低下による、保液性の低下という問題は生じないが、より好ましくは30重量%以下である。この低融点のポリオレフィン系接着繊維として、例えば、前述と同様の全溶融型のポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維や、一部溶融型の芯鞘型、サイドバイサイド型、偏芯型の複合繊維がある。また、これら接着繊維が、不織布を構成する他の繊維(大部分は極細繊維)のいずれの樹脂成分の融点よりも低い温度で接着する樹脂成分を有していれば、極細繊維による保液性を損なうことがない。なお、分割性複合繊維から得られる極細繊維を接着繊維として使用することも可能である。
【0017】
これら低融点のポリオレフィン系接着繊維の中でも、一部溶融型複合繊維であれば、溶融しない樹脂成分によって接着繊維の強度が維持されるため、好適に使用することができる。更には、一部溶融型複合繊維の中でも、ポリプロピレン樹脂成分とポリエチレン樹脂成分とを含む繊維は分割性複合繊維と同様に、密閉型二次電池でガスが発生したような場合であっても、速やかに他極に透過させることができ、内部圧が上昇して破裂するという危険がないため、好適に使用することができる。
【0018】
以上のような分割性複合繊維や低融点のポリオレフィン系接着繊維の繊度や繊維長は、特に限定するものではないが、繊度0.5〜9デニール、繊維長5〜60mmのものが好適に使用できる。
【0019】
以上のような繊維から繊維ウエブを形成するが、繊維ウエブの形成方法としては、例えば、カード法、エアレイ法などの乾式法や湿式法を例示できるが、これらの中でも、湿式法は緻密な繊維ウエブを形成でき、物理的にデンドライトを防止できるため、好適に使用できる。
【0020】
なお、カード法により繊維ウエブを形成する場合には、繊維の配向方向を一方向にしたり、クロスレイヤーなどによって繊維が交差するように配向したり、これらを積層することもできる。これらの中でも、繊維が交差するように配向した繊維ウエブを含む繊維ウエブは、後の水流絡合処理する際に、繊維同士が絡合しやすいため、強度的に優れているという特徴がある。
【0021】
また、低融点のポリオレフィン系接着繊維のみの繊維ウエブ層を形成して接着すると、その接着面がフィルム化してしまい、保液性に劣るため、低融点のポリオレフィン系接着繊維も使用する場合は、分割性複合繊維と混合するのが好ましい。
【0022】
以上のようにして得た繊維ウエブに対して、水流絡合処理をする。この水流絡合処理により繊維の配向方向が不織布の略厚さ方向となるため、電池を組み立てる際の、極板間の圧迫の圧力に対して抗することができるのは勿論のこと、二次電池のように極板が膨張する際の圧力に対しても抗することができ、保液性に優れたセパレータとなる。また、本発明のセパレータは絡合する繊維が分割性複合繊維を主体としており、分割して得られる極細繊維が緻密に絡むため、強度的に優れているばかりでなく、薄くすることができ、その薄くなった分だけ活物質を電池内に多く充填することができるため、電池の高容量化が可能になるという特徴も有している。更には、水流絡合処理すると、繊維が絡合するだけでなく、繊維に付着している油剤を洗浄できるため、この油剤による電池性能への悪影響を排除できるだけでなく、後述の親水化処理を効率的に、安定して行なうことができ、長期に亘って保液性に優れたセパレータを得ることが可能になった。
【0023】
このような優れた効果を有する水流絡合処理としては、例えば、ノズル径0.05〜0.3mm、ピッチ0.2〜3mmで一列に配列したノズルプレートや、ノズルを2列以上に配列したノズルプレートを使用し、水圧10〜300kg/cm2の水流で処理する。このような水流絡合処理は1回である必要はなく、必要であれば、2回以上処理することができる。また、水流処理面は繊維ウエブの片面のみである必要はなく、両面を処理しても良い。
【0024】
なお、水流絡合処理する際に、繊維ウエブを置くネットやメッシュなどの支持体が大きな孔を有していると、得られるセパレータも大きな孔を有するものとなり、短絡が生じやすくなるので、50メッシュ以上の目の細かい平織ネットや、孔間距離が0.4mm以下の多孔板を使用するのがより好ましい。
【0025】
水流絡合不織布中に接着繊維を含んでいる場合には、このように水流絡合した後、熱処理などを行ない、接着繊維により接着すれば、寸法安定性を更に向上させることができる。
【0026】
このようにして得られた水流絡合不織布は親水化処理することにより、本発明のセパレータとなる。この親水化処理としては、例えば、スルホン化処理、フッ素処理、或いはビニルモノマーのグラフト重合などがあり、これらの親水化処理は永続的な親水性を付与できるので、長期に亘って保液性に優れたセパレータとなる。
【0027】
スルホン化処理としては、特に限定するものではなく、例えば、発煙硫酸、硫酸、クロム酸、硝酸などで処理すれば良い。これらの中でも、発煙硫酸によるスルホン化処理は、反応性が高く、比較的容易にスルホン化できるため、好適に使用できる。
【0028】
フッ素ガス処理についても、特に限定するものではなく、例えば、不活性ガスで希釈したフッ素ガスに酸素ガス、二酸化炭素ガス、二酸化硫黄ガスなどを添加、混合したガスによって処理すれば良い。なお、水流絡合不織布に二酸化硫黄ガスを予め付着させた後に、フッ素ガスを接触させる方法は、より効率的で、恒久的な親水化処理方法である。
【0029】
ビニルモノマーのグラフト重合としては、ビニルモノマーとして、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、ビニルピリジン、ビニルピロリドン、或いはスチレンを使用することができる。なお、スチレンをグラフト重合した場合には、電解液との親和性をもたせるために、スルホン化する。これらの中でも、アクリル酸は電解液との親和性に優れているため、好適に使用できる。
【0030】
これらビニルモノマーの重合方法は、例えば、ビニルモノマーと重合開始剤を含む溶液中に水流絡合不織布を浸漬、加熱する方法、水流絡合不織布にビニルモノマーを塗布した後、放射線を照射する方法、水流絡合不織布に放射線を照射した後にビニルモノマーと接触させる方法、増感剤を含むビニルモノマー溶液を水流絡合不織布に含浸した後、紫外線を照射する方法などがある。なお、ビニルモノマー溶液と水流絡合不織布とを接触させる前に、紫外線照射、コロナ放電、プラズマ放電などにより、水流絡合不織布表面を処理すると、ビニルモノマー溶液との親和性が高いため、効率的にグラフト重合できるという特長がある。
【0031】
このようにビニルモノマーをグラフト重合した水流絡合不織布は、スルホン化等に比べて、温和な条件下で処理できるため、グラフト重合による繊維強度の劣化の少なく、強度的に優れたものである。
【0032】
このような本発明のセパレータは耐電解液性及び耐酸化性に優れて短絡が生じず、保液性にも優れているため、長期間に亘って、円滑に起電反応を行なうことのできるものである。このセパレータは、例えば、アルカリマンガン電池、水銀電池、酸化銀電池、空気電池などの一次電池、ニッケル-カドミウム電池、銀-亜鉛電池、銀-カドミウム電池、ニッケル-亜鉛電池、ニッケル-水素電池などの二次電池に好適に使用できるものである。
【0033】
以下に、本発明のセパレータの実施例を記載するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0034】
【実施例】
(実施例1)
繊維として、図1(c)に示すような、ポリプロピレン成分(図中記号2、円形状のポリプロピレン成分:0.04デニール、花弁状のポリプロピレン成分:0.12デニール)とポリエチレン成分(図中記号1、0.12デニール)とからなる、菊花状の断面形状を有する、繊度2デニール、繊維長38mmの分割性複合繊維100%をカード機により開繊し、目付13g/m2の一方向性繊維ウエブと、クロスレイヤーにより繊維を交差させた、目付52g/m2の繊維ウエブとを積層した。この積層繊維ウエブを80メッシュの平織ネット上に載置し、ノズル径0.13mm、ピッチ0.6mmのノズルプレートを用いて、水圧130kg/cm2の水流で、両面から2回づつ処理し、水流絡合不織布を得た。
【0035】
次に、この水流絡合不織布を、15重量%発煙硫酸中に2分間浸漬し、スルホン化した。その後、線圧80kg/cmでカレンダー処理して、目付65g/m2、厚さ0.15mmのセパレータを得た。
【0036】
(実施例2)
実施例1と同じ、繊度2デニール、繊維長38mmの分割性複合繊維80重量%と、繊度2デニール、繊維長51mmのポリプロピレン(芯成分)-低密度ポリエチレン(鞘成分)複合接着繊維20重量%とを混綿したこと、及び、水流絡合不織布を得た後に110℃で熱処理して、低密度ポリエチレン成分のみを融着させたこと以外は、実施例1と同様にして目付65g/m2、厚さ0.15mmのスルホン化したセパレータを得た。
【0037】
(実施例3)
実施例1と同様にして得た水流絡合不織布の両面に、前処理として、110ワットの低圧水銀灯を2個づつ使用し、184.9nm及び253.7nm付近の低波長紫外線を、5cmの距離から1分間照射した。次に、この水流絡合不織布に、下記配合からなるアクリル酸モノマー水溶液を含浸した後、脱酸素条件下で、水流絡合不織布の両面に対して、110ワットの低圧水銀灯を2個づつ使用し、184.9nm及び253.7nm付近の低波長紫外線を、5cmの距離から1分間照射して、10重量%のアクリル酸をグラフト重合させた。このグラフト重合により親水化処理した水流絡合不織布を線圧80kg/cmでカレンダー処理して、目付72g/m2、厚さ0.15mmのセパレータを得た。

(アクリル酸モノマー水溶液の配合、重量%)
アクリル酸モノマー ・・・20.0
水 ・・・64.5
ベンゾフェノン ・・・0.5
メトキシエタノール ・・・14.5
ノニオン系界面活性剤 ・・・0.5
【0038】
(実施例4)
実施例2と同様にして得られた、熱処理した水流絡合不織布(スルホン化未処理)を、実施例3と同様にしてアクリル酸モノマーをグラフト重合させた、目付72g/m2、厚さ0.15mmのセパレータを得た。
【0039】
(実施例5)
繊度2デニール、繊維長10mmの、実施例1と同じ分割性複合繊維80重量%と、繊度2デニール、繊維長15mmのポリプロピレン(芯成分)-低密度ポリエチレン(鞘成分)複合接着繊維20重量%とを混合分散させたスラリーを、湿式抄造法により抄紙した後、80メッシュの平織ネット上に載置し、ノズル径0.13mm、ピッチ0.6mmのノズルプレートを用いて、水圧80kg/cm2の水流で、両面から2回づつ処理し、目付65g/m2の水流絡合不織布を得た。その後、この水流絡合不織布を実施例3と同様にして、アクリル酸の重合及びカレンダー処理して、目付72g/m2、厚さ0.15mmのセパレータを得た。
【0040】
(比較例1)
繊度1.5デニール、繊維長51mmのポリプロピレン(芯成分)-ポリエチレン(鞘成分)複合接着繊維25重量%と、繊度0.9デニール、繊維長38mmのポリプロピレン(芯成分)-ポリエチレン(鞘成分)複合接着繊維75重量%とを混綿したこと、及び、水流絡合不織布を得た後に135℃で熱処理して、ポリエチレン成分のみを融着させたこと以外は、実施例1と同様にして目付65g/m2、厚さ0.15mmのスルホン化したセパレータを得た。
【0041】
(比較例2)
図1(c)に示すような、ポリプロピレン成分(図中記号2、円形状のポリプロピレン成分:0.04デニール、花弁状のポリプロピレン成分:0.12デニール)とエチレン-ビニルアルコール共重合体成分(図中記号1、0.12デニール)とからなる、菊花状の断面形状を有する、繊度2デニール、繊維長38mmの分割性複合繊維を100%使用したこと、及び、スルホン化処理していないこと以外は、実施例1と同様にして目付65g/m2、厚さ0.15mmのセパレータを得た。
【0042】
(比較例3)
繊度1.5デニール、繊維長51mmのポリプロピレン(芯成分)-ポリエチレン(鞘成分)のみを使用したこと、及び、水流絡合不織布を得た後に135℃で熱処理して、ポリエチレン成分のみを融着させたこと以外は、実施例1と同様にして得た、目付65g/m2の熱処理した水流絡合不織布を、実施例3と同様にしてアクリル酸モノマーをグラフト重合させた、目付72g/m2、厚さ0.15mmのセパレータを得た。
【0043】
(加圧保液率の測定)
直径30mmに裁断された、実施例1〜5及び比較例1〜3のセパレータを、温度20℃、相対湿度65%の状態下で、水分平衡に至らせた後、重量(W0)を測定した。次に、セパレータ中の空気を水酸化カリウム溶液で置換するように、比重1.3(20℃)の水酸化カリウム溶液中に1時間浸漬し、水酸化カリウム溶液を保持させた。次に、このセパレータを上下3枚づつのろ紙(直径30mm)で挟み、加圧ポンプにより、58kg/cm2の圧力を30秒間作用させた後、セパレータの重量(W1)を測定した。そして、下記の式により、加圧保液率を求めた。なお、この測定は1つのセパレータに対して4回行ない、その平均を加圧保液率とした。また、後述の耐酸化性試験終了後の実施例1〜5及び比較例1〜3のセパレータについても、同様にして加圧保液率を求めた。この結果は表1に示す。

【0044】
【表1】

【0045】
(5%モジュラス強度の測定)
JIS L1096(一般織物試験方法)に準じ、5x20cmに裁断された実施例1〜5及び比較例1〜3のセパレータを、チャック間距離10cm、引張速度300mm/minで、引張強伸度測定機((株)オリエンテック製)により、5%伸張時のモジュラス強度を測定した。なお、この測定は1つのセパレータに対して5回行ない、その平均を5%モジュラスとした。この結果も表1に示す。
【0046】
(耐酸化性試験)
5x5cmに裁断された実施例1〜5及び比較例1〜3のセパレータ3枚を、温度20℃、相対湿度65%の状態に24時間放置した後、3枚のセパレータの重量(W2)を測定した。次に、このセパレータを、5%過マンガン酸カリウム水溶液250ccと、比重1.3の水酸化カリウム水溶液30ccとの混合溶液に浸漬し、1時間煮沸した後に、十分に水洗した。そして、セパレータを希シュウ酸溶液に浸漬して、二酸化マンガンを溶解除去し、十分に水洗し、乾燥させた。その後、温度20℃、相対湿度65%の状態に24時間放置した後、重量(W3)を測定し、下記の式により重量変化率を算出し、これをもとに耐酸化性を判断した。この結果も表1に示す。
【0047】

【0048】
(ぬれ性試験)
実施例1〜5及び比較例1〜3のセパレータを2x180cmに裁断した後、このセパレータを比重1.3の水酸化カリウム水溶液に、0.5cmだけ浸漬して、30分経過後の、吸液高さを測定した。この結果も表1に示す。
【0049】
(平均孔径の測定)
実施例1〜5及び比較例1〜3のセパレータの平均孔径を、孔径分布測定機(コールターエレクトロニクス社製)で測定した。この結果も表1に示す。
【0050】
【発明の効果】
本発明のアルカリ電池用セパレータは、極細繊維を主体とする、ポリオレフィン系樹脂成分のみからなる分割性複合繊維が分割し、絡合した、ポリオレフィン系繊維からなる水流絡合不織布のみからなるアルカリ電池用セパレータであり、前記水流絡合不織布が親水化処理されているため、耐電解液性及び耐酸化性に優れて短絡が生じず、保液性にも優れているため、長期間に亘って、円滑に起電反応を行なうことのできるものである。
【0051】
また、セパレータを構成する他の繊維の、いずれの樹脂成分の融点よりも低い温度で接着できる樹脂成分を有する、低融点のポリオレフィン系接着繊維が混合され、接着されていると、寸法安定性に優れ、引張強度にも優れるため、製造上好ましいセパレータである。
【0052】
なお、セパレータを構成するポリオレフィン系繊維が、ポリプロピレン成分とポリエチレン成分とを含む複合繊維であると、ガス透過性に優れているため、二次電池用のセパレータとして好適に使用することができるものである。
【0053】
更に、ビニルモノマーのグラフト重合による親水化処理したセパレータであると、より保液性に優れ、繊維強度の劣化のないものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】
(a)本発明の分割性複合繊維の模式的な断面図
(b)本発明の他の分割性複合繊維の模式的な断面図
(c)本発明の他の分割性複合繊維の模式的な断面図
(d)本発明の他の分割性複合繊維の模式的な断面図
(e)本発明の他の分割性複合繊維の模式的な断面図
【符号の説明】
1 一成分
2 他成分
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-07-08 
出願番号 特願平5-349685
審決分類 P 1 651・ 531- YA (H01M)
P 1 651・ 121- YA (H01M)
P 1 651・ 113- YA (H01M)
P 1 651・ 534- YA (H01M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 冨士 美香  
特許庁審判長 中村 朝幸
特許庁審判官 原 賢一
綿谷 晶廣
登録日 2002-11-01 
登録番号 特許第3366412号(P3366412)
権利者 日本バイリーン株式会社
発明の名称 アルカリ電池用セパレータ  

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