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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01F
管理番号 1125751
異議申立番号 異議2003-72360  
総通号数 72 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2001-04-20 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-09-24 
確定日 2005-08-08 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3389170号「NiMnZn系フェライト」の請求項1ないし5に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3389170号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第3389170号の請求項1ないし5に係る発明についての特許出願は、平成11年10月12日になされ、平成15年1月17日にその特許の設定登録がなされ、その後、異議申立人JFEケミカル株式会社より請求項1ないし5に係る発明について特許異議申立がなされ、平成16年9月8日付けで取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成16年11月16日に訂正請求書及び意見書が提出されたものである。

第2 訂正の適否についての判断
1.訂正事項について
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の「【請求項1】NiMnZn系フェライトにおいて、その主成分が以下の通りである主成分範囲にあり、
Fe2 O3 =53〜59mol%、
MnO =22〜41mol%、
ZnO = 4〜12mol%、
NiO = 2〜 7mol%、
かつ上記NiMnZn系フェライトの副成分が以下の副成分範囲内にあり、
SiO2 :0.005 〜0.03wt%
CaO :0.008 〜0.17wt%
P :0.0004〜0.01wt%
さらに、以下の添加物を以下の所定の範囲内で1種または2種以上を添加することを特徴とするNiMnZn系フェライト。
Nb2 O5 :0.005〜0.03wt%
Ta2 O5 :0.01 〜0.08wt%
V2 O5 :0.01 〜0.1 wt%
ZrO2 :0.005〜0.03wt%
Bi2 O3 :0.005〜0.04wt%
MoO3 :0.005〜0.04wt%」を
「【請求項1】NiMnZn系フェライトにおいて、その主成分が以下の通りである主成分範囲にあり、
Fe2 O3 =53〜59mol%、
MnO =22〜41mol%、
ZnO = 4〜12mol%、
NiO = 2〜 7mol%、
かつ上記NiMnZn系フェライトの副成分が以下の副成分範囲内にあり、
SiO2 :0.005 〜0.03wt%
CaO :0.008 〜0.17wt%
P :0.0004〜0.01wt%
さらに、以下の添加物を以下の所定の範囲内で1種または2種以上を添加するものであり、
Nb2 O5 :0.005〜0.03wt%
Ta2 O5 :0.01 〜0.08wt%
V2 O5 :0.01 〜0.1 wt%
ZrO2 :0.005〜0.03wt%
Bi2 O3 :0.005〜0.04wt%
MoO3 :0.005〜0.04wt%
また、焼結体の平均結晶粒径が6μm〜25μmであることを特徴とするNiMnZn系フェライト。」と訂正する。
(2)訂正事項2
請求項2を削除する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の「【請求項3】請求項2に記載されたNiMnZn系フェライトにおいて、
焼結体の飽和磁束密度Bs(100℃)が440mT以上であることを特徴とするNiMnZn系フェライト。」を
「【請求項2】請求項1に記載されたNiMnZn系フェライトにおいて、
焼結体の飽和磁束密度Bs(100℃)が440mT以上であることを特徴とするNiMnZn系フェライト。」と訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の「【請求項4】請求項3に記載されたNiMnZn系フェライトにおいて、
B-Hループにおける飽和磁束密度Bs(150℃)と保磁力Hc(150℃)における関係が下記の条件を満たすことを特徴とするNiMnZn系フェライト。
R=(Bs-300)2 /Hc ただしR≧400」を
「【請求項3】請求項2に記載されたNiMnZn系フェライトにおいて、
B-Hループにおける飽和磁束密度Bs(150℃)と保磁力Hc(150℃)における関係が下記の条件を満たすことを特徴とするNiMnZn系フェライト。
R=(Bs-300)2 /Hc ただしR≧400」と訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の「【請求項5】請求項1〜4のいずれかに記載されたNiMnZn系フェライトを使用することを特徴とするトランス又はチョークコイル。」を
「【請求項4】請求項1〜3のいずれかに記載されたNiMnZn系フェライトを使用することを特徴とするトランス又はチョークコイル。」と訂正すること。
2.訂正事項の内容
(1)訂正事項1
訂正事項1は、「SiO2 :0.005 〜0.03wt%
CaO :0.008 〜0.17wt%
P :0.0004〜0.01wt%
さらに、以下の添加物を以下の所定の範囲内で1種または2種以上を添加すること」を、
「SiO2 :0.005 〜0.03wt%
CaO :0.008 〜0.17wt%
P :0.0004〜0.01wt%
さらに、以下の添加物を以下の所定の範囲内で1種または2種以上を添加するものであり、」と訂正すること(訂正事項1-1)と、
「を特徴とするNiMnZn系フェライト。
Nb2 O5 :0.005〜0.03wt%
Ta2 O5 :0.01 〜0.08wt%
V2 O5 :0.01 〜0.1 wt%
ZrO2 :0.005〜0.03wt%
Bi2 O3 :0.005〜0.04wt%
MoO3 :0.005〜0.04wt%」を、
「Nb2 O5 :0.005〜0.03wt%
Ta2 O5 :0.01 〜0.08wt%
V2 O5 :0.01 〜0.1 wt%
ZrO2 :0.005〜0.03wt%
Bi2 O3 :0.005〜0.04wt%
MoO3 :0.005〜0.04wt%
また、焼結体の平均結晶粒径が6μm〜25μmであることを特徴とするNiMnZn系フェライト。」と訂正すること(訂正事項1-2)に区分できる。
(2)訂正事項2
請求項2を削除する。
(3)訂正事項3
「【請求項3】請求項2に記載されたNiMnZn系フェライト」を、
「【請求項2】請求項1に記載されたNiMnZn系フェライト」と訂正するものである。
(4)訂正事項4
「【請求項4】請求項3に記載されたNiMnZn系フェライト」を、
「【請求項3】請求項2に記載されたNiMnZn系フェライト」と訂正するものである。
(5)訂正事項5
「【請求項5】請求項1〜4のいずれかに記載されたNiMnZn系フェライトを使用すること」を、
「【請求項4】請求項1〜3のいずれかに記載されたNiMnZn系フェライトを使用すること」に訂正するものである。
3.訂正の目的の適否、拡張・変更の有無について
(1)訂正事項1
訂正事項1-1について
訂正事項1-1は、訂正前の請求項1に、訂正事項1-2についての訂正をするために、実質的に、「を添付すること」を「を添加するものであり、」と訂正するものであるので、明りょうでない記載の釈明に該当する。
訂正事項1-2について
訂正事項1-2は、実質的には、「を特徴とするNiMnZn系フェライト。」の記載個所を
「Nb2 O5 :0.005〜0.03wt%
Ta2 O5 :0.01 〜0.08wt%
V2 O5 :0.01 〜0.1 wt%
ZrO2 :0.005〜0.03wt%
Bi2 O3 :0.005〜0.04wt%
MoO3 :0.005〜0.04wt%」の前から、請求項1の末尾に移動する(訂正事項1-2-1)とともに、
「また、焼結体の平均結晶粒径が6μm〜25μmであること」を「を特徴とするNiMnZn系フェライト。」の前に挿入すること(訂正事項1-2-2)であって、
訂正事項1-2-1は、訂正事項1-2-2を訂正前の請求項1に追加するために、「を特徴とするNiMnZn系フェライト。」の記載個所を変更するものであり、明りょうでない記載の釈明に該当し、訂正事項1-2-2は、実質的には、訂正前の、請求項1を引用する請求項である請求項2に記載される「焼結体の平均結晶粒径が6μm〜25μmであること」を訂正後の請求項1に記載するものであって、訂正前の請求項1に記載される「フェライト」焼結体の平均結晶粒径を限定するものであり、特許請求の範囲の減縮に該当する。
(2)訂正事項2
請求項を削除する訂正は、特許請求の範囲の減縮に該当する。
(3)訂正事項3
訂正事項3は、訂正前の請求項2の削除に伴う、請求項の項番の繰上と、請求項で引用する請求項の項番の繰上であって、明りょうでない記載の釈明に該当する。
(4)訂正事項4
訂正事項4は、訂正前の請求項2の削除に伴う、請求項の項番の繰上と、請求項で引用する請求項の項番の繰上であって、明りょうでない記載の釈明に該当する。
(5)訂正事項5
訂正事項5は、訂正前の請求項2の削除に伴う、請求項の項番の繰上と、請求項で引用する請求項の項番の繰上であって、明りょうでない記載の釈明に該当する。

また、訂正事項1ないし訂正事項5は、いずれも願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

4.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項において準用する特許法第126条第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

第3 特許異議申立について
1.特許異議申立の概要
特許異議申立人JFEケミカル株式会社は、本件の請求項1ないし5に係る発明は、以下の甲第1号証ないし甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、本件の請求項1ないし5に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反するものであって、同法113条第2号の規定により取り消されるべきものであると主張している。
甲第1号証:特開平10- 64715号公報
甲第2号証:特開平10-270229号公報
甲第3号証:特開平 7-176420号公報
甲第4号証:特開平 5- 36515号公報

2.取消理由通知の概要
平成16年9月8日付けの取消理由通知の内容は以下のとおりである。
「1)本件特許の請求項1〜5に係る発明は、その出願前日本国内において頒布された下記の刊行物1〜4に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件請求項1〜5に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。


刊行物1,特開平10- 64715号公報(甲第1号証)
刊行物2,特開平10-270229号公報(甲第2号証)
刊行物3,特開平 7-176420号公報(甲第3号証)
刊行物4,特開平 5- 36515号公報(甲第4号証)

本件請求項1〜5に係る発明は、特許異議申立人が提出した特許異議申立書の「4.申立の理由」記載の理由により、刊行物1〜4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 」

3.特許異議申立人JFEケミカル株式会社が提出した甲第1号証ないし甲第4号証(以下、「刊行物1」ないし「刊行物4」という。)に記載された事項

(1)刊行物1.特開平10-64715号公報(特許異議申立人JFEケミカル株式会社が提出した甲第1号証)
刊行物1には、以下の事項が記載されている。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】Fe2O3 :53〜57 mol%、
ZnO:4〜11 mol%および
NiO:0.5 〜4 mol%を含み、
残部実質的にMnOの組成になる基本成分中に、
SiO2:0.0050〜0.0500wt%および
CaO:0.0200〜0.2000wt%を含有し、さらにTa2O5, ZrO2, Nb2O5, V2O5, TiO2およびHfO2のうちから選ばれるいずれか1種または2種以上の添加成分を下記範囲で含むことを特徴とする低損失フェライト磁心材料。

Ta2O5 :0.0050〜0.1000wt%
ZrO2 :0.0100〜0.1500wt%
Nb2O5 :0.0050〜0.0500wt%
V2O5 :0.0050〜0.0500wt%
TiO2 :0.0500〜0.3000wt%
HfO2 :0.0050〜0.0500wt%
【請求項2】 80℃における飽和磁束密度が450mT 以上であることを特徴とする請求項1に記載の低損失フェライト磁心材料。」(特許請求の範囲請求項1及び請求項2)
「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、低損失フェライト磁心材料の関し、特に、スイッチング電源などの電源トランス等に供して好適な、高い飽和磁束密度を有する低損失フェライト磁心材料について提案する。」(0001段落)
「この軟質磁性材料には、保磁力が小さく透磁率が高いこと、飽和磁束密度が大きいこと、低損失であることなどの多くの特性が要求される。」(0002段落)
(2)刊行物2.特開平10-270229号公報(特許異議申立人JFEケミカル株式会社が提出した甲第2号証)
刊行物2には、以下の事項が記載されている。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 NiO: 1.0〜10 mol%、 Fe2O3:55〜68 mol%を含み、残部が実質的にMnOからなることを特徴とするMn-Niフェライト材料。
【請求項2】 NiO: 1.0〜10 mol%、 Fe2O3:55〜68 mol%、ZnO:8 mol%以下を含み、残部が実質的にMnOからなることを特徴とするMn-Niフェライト材料。
【請求項3】 NiO: 1.0〜10 mol%、 Fe2O3:55〜68 mol%を含み、残部が実質的にMnOの組成となる基本成分中に、SiO2:0.02〜0.10wt%およびCaO:0.03〜0.30wt%を含有することを特徴とするMn-Niフェライト材料。
【請求項4】 NiO: 1.0〜10 mol%、 Fe2O3:55〜68 mol%、ZnO:8 mol%以下を含み、残部が実質的にMnOの組成となる基本成分中に、SiO2:0.02〜0.10wt%およびCaO:0.03〜0.30wt%を含有することを特徴とするMn-Niフェライト材料。」(特許請求の範囲請求項1ないし4)
「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、Mn-Niフェライト材料に関し、とくに、電源用トランス等の磁心に用いられる、高周波数域で損失の少ないMn-Niフェライト系材料について提案する。」(0001段落)
「かかる軟質磁性材料には、保磁力が小さく透磁率が高いこと、飽和磁束密度が大きいこと、低損失であること、など多くの特性が要求される。」(0002段落)
「同様に結晶粒界に析出して粒界抵抗を高めるZr,Ta,Hf,Mo,Nb,V,Ti等の酸化物を添加することが知られており、これらの添加成分は渦電流損失の低減に寄与する。」(0018段落)
(3)刊行物3.特開平7-176420号公報(特許異議申立人JFEケミカル株式会社が提出した甲第3号証)
刊行物3には、表1,表2及び表3とともに以下の事項が記載されている。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 0.005重量%以下のリンを含有するMn-Znフェライト。」(特許請求の範囲請求項1)
「【0011】次いで、表1の各酸化鉄を用い、これに高純度酸化マンガンや高純度酸化亜鉛等を調合して、Fe2O3:MnO:ZnOがモル比で、53:24.5:22.5になるよう通常の方法で配合し、成形後、1350℃で焼成し、外径:25mm、内径:15mm、厚さ:5mmのリング状のテストピースを作成し、JIS C2561に沿って、1KHz、25℃における交流初透磁率μiacと相対損失係数tanδ/μiacを測定した。表2に各テストピースの配合粉の成分、すなわちフェライト組成と磁気特性を示した。表2のテストピースのNo.は、使用した表1の酸化鉄のNo.に対応する。
【0012】表2のNo.1〜No.8、No.14,15は、22〜44ppmのPを含有する酸化鉄を使用したテストピースであるが、No.9〜No.13の一般フェライト用酸化鉄を使用したテストピースと比べて磁気特性はμiac9000以上、特に9300以上と非常に優れている。とくに表2のNo.1〜No.5、No.14,15はPが22〜30ppmで、その磁気特性は良好である。しかし、結晶精製法によるP含有量のきわめて少ない酸化鉄を使用した2ppm以下とP量が0に近いテストピースNo.16の磁性特性は低下している。
【0013】実施例2
高周波電源用のフェライトコアとしてのパワーロス値を評価した。すなわち、実施例1と同じ原料を用い、Fe2O3:MnO:ZnOがモル比で53.5:35:11.5になるよう配合し、成形後、1350℃で焼成し、外径:25mm、内径:15mm、厚さ:5mmのリング状のテストピースを作成し、測定用巻線を一次、二次共5回巻線して、波形記憶装置(B-Hアナライザ)を用いてコア損失を測定した。表3に各テストピースの配合粉の成分(フェライト組成)と磁気特性とを示した。表3のテストピースのNo.は、使用した表1の酸化鉄のNo.に対応する。
【0014】 Pの含有量が0.005重量%以下のテストピースは100KHz、200mT、100℃のコア損失は400mW/cm3以下の値を示しており、Pの含有量が0.005重量%より大きいものや、0に近いものに比べ高性能であることは明らかである。」(0010〜0014段落)
また、表1には、「一般フェライト用市販品」として、酸化鉄中の不純物含有量として、「Mn(%)」、「SiO2(ppm)」を含むと共に、「P(ppm)」がそれぞれ、150,90,64,160及び155である試料No9,10,11,12及び13が記載されており、表2及び表3には、表1の各試料の「磁気特性((μiac)、(tanδ/μiac))」及び「コア損失((*P25mW/cm3)、(*P100mW/cm3))」が記載されている。
(4)刊行物4,特開平5-36515号公報(特許異議申立人JFEケミカル株式会社が提出した甲第4号証)
刊行物4には、表1とともに以下の事項が記載されている。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 主成分がMnZnフェライトよりなる多結晶焼結体からなる磁性体材料であって、前記多結晶焼結体を構成する結晶粒子の平均直径が10μm以下であり、かつこの結晶粒子の表面が、結晶粒子内部よりも高電気抵抗の薄膜結晶粒界層でほぼ覆われて、全体の電気抵抗を10Ω・cm以上にしたことを特徴とする磁性体材料。」(特許請求の範囲請求項1)
「【0018】
【実施例】発明者らは、MnZn系フェライトにおいて、その組成・微細構造・電磁気特性等と高周波における損失の関係を検討し、高周波において低損失なフェライトを得るためには、好ましくは4000G程度以上の高い飽和磁速密度と、好ましくは800以上、より好ましくは2000程度の比初透磁率とともに、10Ω・cm程度以上の高い電気抵抗率と10μm以下の微細な結晶構造が必要である事をつきとめ、これを本発明の特定の2層構造により実現したものである。
【0019】以下実施例によってより詳細に本発明を説明する。
実施例1
出発原料に純度99.9%以上のα-Fe2 O3 、MnCO3 、ZnOの各粉末を用いた。これらの粉末を、組成比がFe2 O3 -52mol%、MnO-36mol%、ZnO-12mol%となり、合計重量が300gとなるようにそれぞれ秤量し、ボールミルにて水を加えて湿式で16時間混合粉砕し、乾燥させた。この混合粉末を1000℃で2時間空気中で仮焼した後、再度ボールミルにて16時間、湿式で混合粉砕して乾燥させ、仮焼粉末とした。同様の方法で、仮焼温度を1000〜1300℃まで変化させた仮焼粉末を合成した。また、仮焼後NiO,CuO,MnO,ZnO,CaO,SiO2 を種々の量添加して混合粉砕した粉末も用意した。
【0020】これらの粉末を500kg/cm2 の圧力で一軸金型成形し、この成形体を1100〜1300℃で2時間、N2 -1vol %O2 雰囲気下で焼成(昇温・降温)し、焼結体を得た。得られた焼結体の焼結密度・平均結晶粒径を測定した。また焼結体より、外径20mm、内径14mm、高さ2mmのリング状試料を切り出し、1MHzにおける磁気・電気特性を測定した。また損失の測定は、1MHz,50mTにて行なった。その結果を(表1)に示した。」(0019及び0020段落)

4.本件発明
上記第2 4.のとおり、訂正請求は容認されたので、本件発明はその訂正請求書の特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されたとおりのものであると認められるところ、その請求項1ないし請求項4に係る発明は、以下のとおりのものである。(以下、請求項1に係る発明を「本件発明」という。)

「【請求項1】NiMnZn系フェライトにおいて、その主成分が以下の通りである主成分範囲にあり、
Fe2 O3 =53〜59mol%、
MnO =22〜41mol%、
ZnO = 4〜12mol%、
NiO = 2〜 7mol%、
かつ上記NiMnZn系フェライトの副成分が以下の副成分範囲内にあり、
SiO2 :0.005 〜0.03wt%
CaO :0.008 〜0.17wt%
P :0.0004〜0.01wt%
さらに、以下の添加物を以下の所定の範囲内で1種または2種以上を添加するものであり、
Nb2 O5 :0.005〜0.03wt%
Ta2 O5 :0.01 〜0.08wt%
V2 O5 :0.01 〜0.1 wt%
ZrO2 :0.005〜0.03wt%
Bi2 O3 :0.005〜0.04wt%
MoO3 :0.005〜0.04wt%
また、焼結体の平均結晶粒径が6μm〜25μmであることを特徴とするNiMnZn系フェライト。
【請求項2】請求項1に記載されたNiMnZn系フェライトにおいて、
焼結体の飽和磁束密度Bs(100℃)が440mT以上であることを特徴とするNiMnZn系フェライト。
【請求項3】請求項2に記載されたNiMnZn系フェライトにおいて、
B-Hループにおける飽和磁束密度Bs(150℃)と保磁力Hc(150℃)における関係が下記の条件を満たすことを特徴とするNiMnZn系フェライト。
R=(Bs-300)2 /Hc ただしR≧400
【請求項4】請求項1〜3のいずれかに記載されたNiMnZn系フェライトを使用することを特徴とするトランス又はチョークコイル。」

5.対比・判断
本件発明について
本件発明と刊行物1に記載された発明又は刊行物2に記載された発明と比較検討すると刊行物1に記載された発明又は刊行物2に記載された発明は、少なくとも以下の点を備えていない。
相違点1
「NiMnZn系フェライトの副成分が以下の副成分範囲内にあ」る点。「SiO2 :0.005 〜0.03wt%
CaO :0.008 〜0.17wt%
P :0.0004〜0.01wt%」
相違点2
副成分としてSiO2、CaO及びPを含んだNiMnZn系フェライトの「焼結体の平均結晶粒径が6μm〜25μmである」点。

上記相違点について以下に検討する。
相違点1について
仮に、刊行物3に一般フェライト用市販品にPが64〜160ppm含有されていることが記載されているとしても、全ての市販品にPが本件発明に記載される程度(0.0004%〜0.01wt%)含有されているか否か明らかでない。
また、刊行物3の、表1には、「一般フェライト用市販品」として、酸化鉄中の不純物含有量として、Mnが0.18〜0.26(%)、SiO2が60〜105ppm含まれると共に、「P(ppm)」がそれぞれ、150,90,64,160及び155である試料No9,10,11,12及び13が記載されているものの、試料番号No9,10,11,12及び13の「一般フェライト用市販品」は、表2においては、Fe2O3を約70.5%、MnOを約14.5%、ZnOを約15.2%、SiO2を110〜129ppm、Pを52〜117ppm含む組成となっており、表3においては、Fe2O3を約71.5%、MnOを約20.7%、ZnOを約7.8%、SiO2を125〜133ppm、Pを52〜117ppm含む組成となっているものの、本件発明のように、NiO(本件発明では、2〜7mol%)、CaO(本件発明では、0.008〜0.17wt%)を含有しておらず、さらに、Fe2O3(本件発明では、53〜59mol%)、MnO(本件発明では、22〜41mol%)についても、表1に記載される上記試料のFe2O3及びMnOの組成範囲と一致していないので、本件発明における、Fe2O3、MnO、ZnO、NiO、SiO2、CaOをそれぞれの特許請求の範囲請求項1に記載される範囲の組成を含むNiMnZn系フェライトが、刊行物3に記載される組成範囲のPを必ず含有するものとは認められない。
したがって、刊行物1ないし2に記載される「フェライト」材料において、本件発明に記載された組成範囲のPが含まれているか否か明確でない。

相違点2について
刊行物4に「主成分がMnZnフェライトよりなる多結晶焼結体からなる磁性体材料であって、前記多結晶焼結体を構成する結晶粒子の平均直径が10μm以下であり、かつこの結晶粒子の表面が、結晶粒子内部よりも高電気抵抗の薄膜結晶粒界層でほぼ覆われて、全体の電気抵抗を10Ω・cm以上にしたことを特徴とする磁性体材料。」(特許請求の範囲請求項1)と記載され、MnZnフェライトの副成分として、SiO2、CaO及びPが従来周知であったとしても、上記「MnZnフェライトよりなる多結晶焼結体からなる磁性体材料」の「多結晶焼結体を構成する結晶粒子の平均直径が10μm以下」ではあるが、上記従来周知の副成分を添加しても、「多結晶焼結体を構成する結晶粒子の平均直径が10μm以下」となるか否か明らかではなく、さらに、従来周知の副成分を添加した場合に、刊行物4に記載される課題が解決されるか否か明らかではないので、上記副成分をNiMnZn系フェライトに添加することが従来周知であることをもって、刊行物1又は刊行物2に記載された成分で構成された「フェライト磁心材料」において、刊行物4に示されるように、「前記多結晶焼結体を構成する結晶粒子の平均直径が10μm以下」となるようにすることが当業者にとり容易であったとはいえない。
さらに、「前記多結晶焼結体を構成する結晶粒子の平均直径が10μm以下」の数値範囲が、仮に、「NiMnZn系フェライト」の「焼結体の平均結晶粒径が6μm〜25μmである」との数値範囲に含まれるとしても、刊行物1又は刊行物2に記載されるフェライト材料において、「前記多結晶焼結体を構成する結晶粒子の平均直径が10μm以下」とすることにより、直流重畳特性を改善できることが容易に予測できたもの、言い換えると、本件の課題を解決されることが予測できたものであるとも言えない。
したがって、本件発明の如く、「「NiMnZn系フェライトの副成分が以下の副成分範囲内にあ」る点。「SiO2 :0.005 〜0.03wt% CaO :0.008 〜0.17wt% P :0.0004〜0.01wt%」」及び、「副成分としてSiO2、CaO及びPを含んだNiMnZn系フェライトの「焼結体の平均結晶粒径が6μm〜25μmである」」との構成を備えたものとすることは、刊行物1ないし4に記載された発明をどのように組み合わせても、当業者が容易に発明をすることができたものとは言えない。

本件特許の特許請求の範囲請求項2ないし4に係る発明について
本件発明(請求項1に係る発明)が刊行物1ないし4に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものではないので、本件特許の請求項1を引用する本件特許の請求項2ないし4に係る発明についても、刊行物1ないし4に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものとは言えない。

また、本件発明は、本件特許の「(1):NiMnZn系フェライトにおいて、その主成分がFe2 O3 =53〜59mol%、MnO=22〜41mol%、ZnO=4〜12mol%、NiO=2〜7mol%の通りである主成分範囲にあり、かつ上記NiMnZn系フェライトの副成分がSiO2 :0.005〜0.03wt%、CaO:0.008〜0.17wt%、P:0.0004〜0.01wt%の副成分範囲内にあるもの」なる構成により、「飽和磁束密度Bsが440mT以上で直流重畳特性が優れ、広温度域で使用することができる。」(0060段落参照)とともに、「NiMnZn系フェライトにおいて、焼結体の平均結晶粒径が6μm〜25μmである」との構成により、「保磁力Hcの小さく、飽和磁束密度Bsが440mT以上であり、低電力損失のものを得ることができる。」(0063段落参照)という本件特有の作用効果を奏するものである。

6.特許異議申立についての判断のむすび
以上のとおりであるから、特許異議申立の理由及び取消理由によっては、本件請求項1ないし請求項4に係る発明についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし請求項4に係る発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
NiMnZn系フェライト
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】NiMnZn系フェライトにおいて、その主成分が以下の通りである主成分範囲にあり、
Fe2O3=53〜59mol%、
MnO=22〜41mol%、
ZnO=4〜12mol%、
NiO=2〜7mol%、
かつ上記NiMnZn系フェライトの副成分が以下の副成分範囲内にあり、
SiO2:0.005〜0.03wt%
CaO:0.008〜0.17wt%
P:0.0004〜0.01wt%
さらに、以下の添加物を以下の所定の範囲内で1種または2種以上を添加するものであり、
Nb2O5:0.005〜0.03wt%
Ta2O5:0.01〜0.08wt%
V2O5:0.01〜0.1wt%
ZrO2:0.005〜0.03wt%
Bi2O3:0.005〜0.04wt%
MoO3:0.005〜0.04wt%
また、焼結体の平均結晶粒径が6μm〜25μmであることを特徴とするNiMnZn系フェライト。
【請求項2】請求項1に記載されたNiMnZn系フェライトにおいて、
焼結体の飽和磁束密度Bs(100℃)が440mT以上であることを特徴とするNiMnZn系フェライト。
【請求項3】請求項2に記載されたNiMnZn系フェライトにおいて、
B-Hループにおける飽和磁束密度Bs(150℃)と保磁力Hc(150℃)における関係が下記の条件を満たすことを特徴とするNiMnZn系フェライト。
R=(Bs-300)2/Hc ただしR≧400
【請求項4】請求項1〜3のいずれかに記載されたNiMnZn系フェライトを使用することを特徴とするトランス又はチョークコイル。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、広温度域において使用されるトランス及びチョークコイル用のコアに用いることができるNiMnZn系フェライト及びそれを使用したトランス及びチョークコイルに関する。
【0002】
【従来の技術】Mn-Zn系フェライトは、その他のフェライト材料及び軟磁性金属材料に比べ、数十kHzから数百kHzの周波数帯域で使用されるスイッチング電源トランス用コアとして使用した場合の電力損失が小さく、また、飽和磁束密度が比較的大きいため、トランス及びチョークコイル用のコアとして主要な材料となっている。
【0003】
しかし、近年、電子機器の小型化、高出力化に伴い、また、自動車用の部品のように使用環境温度の高い条件下(少なくとも100℃、好ましくは150℃まで)での使用要求も高まり、従来のフェライト材料では飽和磁束密度Bs、特に高温域での飽和磁束密度Bsが不十分であった。
【0004】
そこで、特公昭63-59241号公報、特公昭63-59242号公報等においては、Mn-Zn系フェライトに一部Ni、Mg、Liフェライトのうち少なくとも一種を置換し、150℃以上の使用環境で低電力損失で、かつ磁気的安定性の高いフェライト材料について開示されているが、高温での飽和磁束密度Bs特性が不十分であった。
【0005】
また、特開平2-83218号公報においては、NiMnZn系フェライトによって、高温下、高磁界中において磁気特性の安定化が高く、飽和磁束密度Bsが高く、かつ低電力損失であるフェライト材料が開示されているが、高温での飽和磁束密度Bs特性が不十分であった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】上記従来のものには次のような課題があった。
【0007】
(1):トランス及びチョークコイル用のフェライト材料として使用する場合、通常、可能性のある最も高い温度条件の特性で設計を行うが、上記いずれの従来例においても高温度域における飽和磁束密度Bsが十分でなかった。
【0008】
(2):トランス及びチョークコイル用のフェライト材料として使用する場合、飽和磁束密度Bsと保磁力Hcの関係において、飽和磁束密度Bsが高く、保磁力Hcの小さい材料では、B-Hループの初磁化曲線の立ち上がり方が、飽和状態に近い磁束密度まで急峻に立ち上がり、結果的に直流重畳特性が良好な(飽和磁束密度近辺まで直流を重畳してもインダクタンスLの低下が見られない)ものが得られるが、保磁力Hcの大きいものは初磁化曲線の前半は急峻に立ち上がるものの、中盤にかけて傾きが緩やかになり、飽和状態に近い磁束密度近辺においては非常に傾きの小さい曲線となる。そのため、直流重畳特性を評価すると、磁束密度が飽和する前にインダクタンスの低下が生じてしまい、Bs特性が高いにもかかわらずその特性を活かすことができず、結果として良好な直流重畳特性が得られないものである。
【0009】
上記いずれの従来例においても飽和磁束密度Bsと保磁力Hcの関係において、飽和磁束密度Bsが高く保磁力Hcが小さくなるような特性が得られず、良好な直流重畳特性が得られないものであった。
【0010】
従って本発明は、直流重畳特性の優れ、電力損失が室温から150℃程度において低電力損失であるNiMnZn系フェライトを得ることを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】本発明は、上記課題を解決するため次のように構成した。
【0012】
(1):NiMnZn系フェライトにおいて、その主成分がFe2O3=53〜59mol%、MnO=22〜41mol%、ZnO=4〜12mol%、NiO=2〜7mol%の通りである主成分範囲にあり、かつ上記NiMnZn系フェライトの副成分がSiO2:0.005〜0.03wt%、CaO:0.008〜0.17wt%、P:0.0004〜0.01wt%の副成分範囲内にあり、さらに、添加物をNb2O5:0.005〜0.03wt%、Ta2O5:0.01〜0.08wt%、V2O5:0.01〜0.1wt%、ZrO2:0.005〜0.03wt%、Bi2O3:0.005〜0.04wt%、MoO3:0.005〜0.04wt%の所定の範囲内で1種または2種以上を添加するものとする。
【0013】
【0014】
【0015】
(2):前記(1)のNiMnZn系フェライトにおいて、焼結体の平均結晶粒径が6μm〜25μmであるものとする。
【0016】
(3):前記(2)のNiMnZn系フェライトにおいて、焼結体の飽和磁束密度Bs(100℃)が440mT以上であるものとする。
【0017】
(4):前記(3)のNiMnZn系フェライトにおいて、B-Hループにおける飽和磁束密度Bs(150℃)と保磁力Hc(150℃)における関係がR=(Bs-300)2/Hc(ただしR≧400)の条件を満たすものとする。
【0018】
(5):前記(1)〜(4)のNiMnZn系フェライトを使用するトランス又はチョークコイルとする。
【0019】
このような構成により次のような作用を奏する。
【0020】
NiMnZn系フェライトにおいて、その主成分がFe2O3=53〜59mol%、MnO=22〜41mol%、ZnO=4〜12mol%、NiO=2〜7mol%の通りである主成分範囲にあり、かつ上記NiMnZn系フェライトの副成分がSiO2:0.005〜0.03wt%、CaO:0.008〜0.17wt%、P:0.0004〜0.01wt%の副成分範囲内にあるものとする。このため、飽和磁束密度Bsが440mT以上で直流重畳特性が優れ、広温度帯域で使用することができる。
【0021】
また、NiMnZn系フェライトにおいて、その主成分がFe2O3=53〜59mol%、MnO=22〜39mol%、ZnO=4〜12mol%、NiO=4〜7mol%の通りである主成分範囲にあり、かつ上記NiMnZn系フェライトの副成分がSiO2:0.005〜0.03wt%、CaO:0.008〜0.17wt%、P:0.0004〜0.01wt%の副成分範囲内にあるものとする。このため、飽和磁束密度Bsの特性がより向上し、直流重畳特性が優れ、広温度帯域で使用することができる。
【0022】
さらに、前記NiMnZn系フェライトにおいて、さらに添加物をNb2O5:0.005〜0.03wt%、Ta2O5:0.01〜0.08wt%、V2O5:0.01〜0.1wt%、ZrO2:0.005〜0.03wt%、Bi2O3:0.005〜0.04wt%、MoO3:0.005〜0.04wt%の所定の範囲内で1種または2種以上を添加するものとする。このため、飽和磁束密度Bsが450mT以上であり直流重畳特性がさらに優れ、低電力損失のものを得ることができる。
【0023】
また、前記NiMnZn系フェライトにおいて、焼結体の平均結晶粒径が6μm〜25μmであるものとする。このため、保磁力Hcの小さく、飽和磁束密度Bsが440mT以上であり、低電力損失のものを得ることができる。
【0024】
さらに、焼結体の飽和磁束密度Bs(100℃)が440mT以上であるものとする。このため、直流重畳特性が優れたものを得ることができる。
【0025】
また、B-Hループにおける飽和磁束密度Bs(150℃)と保磁力Hc(150℃)における関係がR=(Bs-300)2/Hc(ただしR≧400)の条件を満たすものとする。このため、Rの値(R≧400)を指標として直流重畳特性が優れたものを得ることができる。
【0026】
さらに、前記NiMnZn系フェライトを使用するトランス又はチョークコイルとする。このため、直流重畳特性が優れ、広温度帯域において使用できるトランス又はチョークコイルを作製することができる。
【0027】
【発明の実施の形態】本発明の実施の形態を表1、表2及び図1〜図3に基づき説明する。
【0028】
(1):本発明の要点
本発明は、NiMnZn系フェライトの主成分をキュリー温度が高く、B-Hループの保磁力(Hc)の小さくなる主成分範囲に制御し、かつ焼結過程において結晶粒の構造に影響を及ぼすP、及び副成分であるSiO2、CaOを所定の含有量に制御することによって、なおかつ焼結体の平均結晶粒径を所定の範囲に制御することによって、焼結体の密度が高く、保磁力(Hc)の小さい特性で飽和磁束密度Bs(100℃)が440mT以上である直流重畳特性の優れたNiMnZn系フェライトを得るものである。また、電力損失における温度特性の極小値を示す温度が100℃程度から150℃程度にある主成分範囲に制御することによって、かつ焼結体の平均結晶粒径を所定の範囲に制御することによって電力損失が室温から150℃程度において低電力損失であるNiMnZn系フェライトを得るものである。
【0029】
また、本発明は、上記の発明に対して、さらに所定の添加物を所定の含有量に制御することによって、より焼結体の密度が高く、保磁力(Hc)の小さい特性で飽和磁束密度Bs(100℃)が450mT以上であり直流重畳特性がさらに優れ、より低電力損失であるNiMnZn系フェライトを得るものである。
【0030】
(2):実施例による説明
表1はマンガン系フェライト材料(主成分、副成分、添加物)とその焼結体の平均結晶粒径と電磁気特性及びR値である。なお、表1において、比較は比較例、実施は実施例をそれぞれ示している。
【0031】
表1の主成分、副成分、添加物となるように各成分を秤量、混合、仮焼、粉砕、バインダーを加え顆粒とし、トロイダル状のサンプルを成型した。そのサンプルを、300℃/hrで昇温し、1210〜1400℃で焼成した。安定温度以降は200℃/hrで室温まで冷却したが、安定から室温までの雰囲気はフェライトの平衡酸素分圧に従い設定した。
【0032】
それらのサンプルの飽和磁束密度Bs(100℃、150℃)、保磁力Hc(150℃)、40kHz-200mTにおける電力損失(室温RT、100℃、150℃)をそれぞれ測定した。また、それらのサンプルにおける平均結晶粒径を測定した。
【0033】
そして、本サンプルにおける直流重畳特性の指標となる特性値(R)をB-Hループより算出する計算式を以下に考案して算出した。それらの結果を表1に示す。
【0034】
R=(Bs-300)2/Hc・・・・・・▲1▼
なお、▲1▼式におけるBs:(mT)at150℃、Hc:(A/m)at150℃とする。
【0035】
【表1】

【0036】
・直流重畳特性の説明
▲1▼式は、直流重畳特性の指標となる値である、Rの大きいほど直流重畳特性は良好となることがわかった。現在一般的に使用されるMnZn系フェライトにおける150℃のBs特性は、高いもので約300mTであり、▲1▼式における(Bs-300)2の項は、本発明におけるNiMnZn系フェライトのBs特性との差を二乗した項である。また残りの/Hcについては直流重畳特性における電流値に対するインダクタンス特性の直線的な伸びを表すための項である。
【0037】
本発明において、さまざまな形を持つB-Hループ特性のサンプルと直流重畳特性の関係を調査した結果、飽和磁束密度Bsが高いサンプルで、保磁力Hcの小さいものはB-Hループの初磁化曲線の立ち上がり方が、飽和状態に近い磁束密度まで急峻に立ち上がり、結果的に直流重畳特性が良好なものが得られるが、保磁力Hcの大きいものは初磁化曲線の前半は急峻に立ち上がるものの、中盤にかけて傾きが緩やかになり、飽和状態に近い磁束密度近辺では非常に傾きの小さい曲線となる。
【0038】
そのため、直流重畳特性を評価すると、磁束密度が飽和する前にインダクタンスの低下が生じてしまい、Bs特性が高いにもかかわらずその特性を活かすことができず、結果として良好な直流重畳特性が得られない。
【0039】
・実施例1と比較例4の説明
以下の表2は実施例1と比較例4の材料について100℃の飽和磁束密度Bsと保磁力Hcの特性を示す。
【0040】
【表2】

【0041】
図1は直流重畳特性の説明図である。図1において、表2の材料を用いて作製したトランスの直流重畳特性を示している。これにより、実施例1と比較例4の材料とも飽和磁束密度Bs特性は同等であるが、保磁力Hcの大きい比較例4の材料は、インダクタンスLが低下し始める直流電流値I.d.c.が小さく、直流電流が重畳される前のインダクタンスLの値が10%低下する直流電流値は約1.4(A)である。一方、保磁力Hcの小さい実施例1の材料は、インダクタンスLの値が10%低下する直流電流値は約1.75(A)と比較例4の材料より直流重畳特性が伸びていることがわかる。
【0042】
これらのデータにより直流重畳特性は、飽和磁束密度Bs特性のみに依存せず、飽和磁束密度Bsと保磁力Hcの関係が重要であり、特に広温度帯域で使用される材料は、▲1▼式のRの値が大きいことが必要であることがわかった。
【0043】
・Rの値と直流重畳特性の関係の説明
図2はRの値と直流重畳特性の関係の説明図である。図2において、表1における比較例1と実施例1、3、8の材料を用いて作製したトランスの100℃における直流重畳特性を示したものである。これによりRの値が31、425、780、1130と大きくなるに従い直流重畳特性が向上することがわかる。従来のフェライトでは、Rの値が400以上の値を達成することは困難であり、Rの値が400以上のものを本発明とする。
【0044】
・平均結晶粒径の説明
平均結晶粒径は、サンプルのフェライト焼結体を鏡面研磨後、フッ酸によりエッチングし、研磨面を500倍程度で光学顕微鏡により撮影した写真に基づき調べる。まず、上記のようにして得られた写真上に粒子が100個程度入る例えば200μm×200μmの正方形の区画をとり、この区画中に存在する結晶粒子の数を算定する。ただし、区画の境界に存在する結晶粒子は、1/2個として数える。この数をnとし、下記式により平均結晶粒径dを算出する。
【0045】
【数1】

【0046】
実施例1〜19に示すように主成分が所定の範囲内にあり、かつ副成分が所定の範囲内に存在し、なおかつ焼結体の平均結晶粒径が6〜25μmのものはRが400以上で電力損失が室温から150℃において電力損失Pcvが500kW/m3以下であり、飽和磁束密度Bs(100℃)が440mT以上に制御されている。
【0047】
しかし、比較例5のように焼結体の平均結晶粒径が6μmの範囲より小さいものは保磁力Hcが大きくなり飽和磁束密度Bs(100℃)が440mT以下となる。また、比較例6のように焼結体の平均結晶粒径が25μmの範囲より大きいものはRが400以下で低電力損失である特性が得られない。平均結晶粒径が25μmの範囲より大きいものは、焼成条件によっては異常粒成長を生じることなく粒成長をさせることは可能で、Rを比較的良好な値に制御することが可能であるが、使用周波数帯における電力損失の増大や、焼成コストを考慮すると本発明の平均結晶粒径の範囲が好ましいものである。
【0048】
・比較例11、12のように主成分におけるFe2O3成分が59mol%以上、NiO成分が7mol%以上と所定の範囲より多く含まれる領域においてはB-Hループがパーミンバー型となりその傾向が顕著で、飽和磁束密度Bs(100℃)が高いにもかかわらず保磁力Hcが大きくなることによってRが400以下となる。また、それに伴い電力損失も急増する。Fe2O3成分が53mol%未満では所定の飽和磁束密度Bsが得られない。また、NiO成分は、0〜2mol%では比較例1、2に示すように飽和磁束密度Bs(100℃)の向上に対する添加効果が少なく、所望の特性が得られない。そのため、NiO成分は2mol%以上が必要となる。実際には4mol%以上が好ましく、飽和磁束密度Bs(100℃)の特性向上が顕著でRの値も大きくなる。そして、4〜6mol%においてRの値が最大となりそれ以上の領域においては低下する。
【0049】
・比較例4のようにZnO成分が4mol%の範囲より少ない領域では、飽和磁束密度Bs(100℃)が高いにもかかわらず保磁力Hcが大きくなりやはりRの値は低下し、良好な直流重畳特性が得られず、かつ低電力損失である特性が得られない。比較例3のようにZnO成分が12mol%の範囲より多い領域では、キュリー温度が低下することによって飽和磁束密度Bs(100℃)が十分に得られない。
【0050】
・また、主成分が所定の範囲内にあるものでも、比較例7〜10のように、副成分の含有量が所定の範囲を外れるNiMnZn系フェライトは、焼成過程において粒成長の不足や異常粒成長が生じ十分な焼結体の密度が得られず、飽和磁束密度Bs、Rの値が低下し、電力損失も急増する。
【0051】
SiO2が0.005wt%及びCaOが0.008wt%の範囲よりも少ないと電気抵抗が下がり電力損失が大きくなる。また、SiO2が0.03wt%及びCaOが0.17wt%の範囲を超えると焼成時の異常粒成長により所望の飽和磁束密度Bs及び低電力損失が得られない。
【0052】
特に、Pの副成分は、少量で焼結体の密度に影響を及ぼし、Pは0.0004wt%〜0.01wt%の範囲が本発明である。比較例9のようにPの含有量が0.01wt%より多い領域では焼結過程で異常粒成長を生じ十分な焼結体の密度が得られず、その結果所定の飽和磁束密度Bs、Rの値が得られない。また、比較例10のようにPの含有量が0.0004wt%より少ない領域では焼結性が不十分でやはり所定の飽和磁束密度Bs、Rの値が得られない。
【0053】
・それに対して主成分、副成分が所定の範囲内にあるNiMnZn系フェライトにおいて、実施例8〜19のように添加物としてNb2O5:0.005〜0.03wt%、Ta2O5:0.01〜0.08wt%、V2O5:0.01〜0.1 wt%、ZrO2:0.005〜0.03wt%、Bi2O3:0.005〜0.04wt%、MoO3:0.005〜0.04wt%の所定の範囲で1種または2種以上を添加し、かつ焼結体の平均結晶粒径が6〜25μmの範囲に制御されたものは、これらの添加物を添加しないものと比べ、相対密度のより高い焼結体が得られ、結果としてより保磁力Hcが小さくかつ飽和磁束密度Bsが高くR値のより大きい特性が得られる。また、特に、Nb2O5、Ta2O5の添加物は、電力損失の低減にも効果的である。
【0054】
これらの添加物の水準が所定の範囲より少ない領域では、その添加効果が明確ではなく、また所定の範囲より多い領域では、焼結過程において異常粒成長を生じ、所望の飽和磁束密度Bs(100℃)、並びに低電力損失は得られない。
【0055】
(3):トランス及びチョークコイルの説明
図3はトランス及びチョークコイルの説明図である。図3(a)はEE型の外観斜視図、図3(b)はEE型の断面図、図3(c)はEI型の外観斜視図である。
【0056】
図3(a)、図3(b)において、トランス及びチョークコイルは、一対のE型フェライトコア1を対接して磁心を構成し、中央磁脚2にコイル4が巻かれたボビン3が嵌合されるものである。なお、中央磁脚2間のギャップGは、インダクタンスを調整するためのもので、無くてもかまわないものである。
【0057】
図3(c)において、E型フェライトコア11とI型フェライトコア12を対接して磁心を構成し、E型フェライトコア11の中央磁脚101にコイル14が巻装されている。
【0058】
このような構成のトランス及びチョークコイルのコアに本願のNiMnZn系フェライトを用いることで、広温度域において使用することができるトランス及びチョークコイルを製作することができる。
【0059】
【発明の効果】本発明により下記の効果を奏することができる。
【0060】
(1):NiMnZn系フェライトにおいて、その主成分がFe2O3=53〜59mol%、MnO=22〜41mol%、ZnO=4〜12mol%、NiO=2〜7mol%の通りである主成分範囲にあり、かつ上記NiMnZn系フェライトの副成分がSiO2:0.005〜0.03wt%、CaO:0.008〜0.17wt%、P:0.0004〜0.01wt%の副成分範囲内にあるものとするため、飽和磁束密度Bsが440mT以上で直流重畳特性が優れ、広温度域で使用することができる。
【0061】
(2):NiMnZn系フェライトにおいて、その主成分がFe2O3=53〜59mol%、MnO=22〜39mol%、ZnO=4〜12mol%、NiO=4〜7mol%の通りである主成分範囲にあり、かつ上記NiMnZn系フェライトの副成分がSiO2:0.005〜0.03wt%、CaO:0.008〜0.17wt%、P:0.0004〜0.01wt%の副成分範囲内にあるものとすると、飽和磁束密度Bsの特性がより向上し、直流重畳特性が優れ、広温度帯域で使用することができる。
【0062】
(3):NiMnZn系フェライトにおいて、さらに添加物をNb2O5:0.005〜0.03wt%、Ta2O5:0.01〜0.08wt%、V2O5:0.01〜0.1wt%、ZrO2:0.005〜0.03wt%、Bi2O3:0.005〜0.04wt%、MoO3:0.005〜0.04wt%の所定の範囲内で1種または2種以上を添加するため、飽和磁束密度Bsが450mT以上であり直流重畳特性がさらに優れ、低電力損失のものを得ることができる。
【0063】
(4):NiMnZn系フェライトにおいて、焼結体の平均結晶粒径が6μm〜25μmであるものとするため、保磁力Hcの小さく、飽和磁束密度Bsが440mT以上であり、低電力損失のものを得ることができる。
【0064】
(5):焼結体の飽和磁束密度Bs(100℃)が440mT以上であるものとするため、直流重畳特性が優れたものを得ることができる。
【0065】
(6):B-Hループにおける飽和磁束密度Bs(150℃)と保磁力Hc(150℃)における関係がR=(Bs-300)2/Hc(ただしR≧400)の条件を満たすものとするため、Rの値(R≧400)を指標として直流重畳特性が優れたものを得ることができる。
【0066】
(7):前記のNiMnZn系フェライトを使用するトランス又はチョークコイルとするため、直流重畳特性が優れ、広温度域において使用できるトランス又はチョークコイルを作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】直流重畳特性の説明図である。
【図2】Rの値と直流重畳特性の関係の説明図である。
【図3】トランス及びチョークコイルの説明図である。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-07-21 
出願番号 特願平11-289283
審決分類 P 1 651・ 121- YA (H01F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 江畠 博  
特許庁審判長 河合 章
特許庁審判官 橋本 武
今井 淳一
登録日 2003-01-17 
登録番号 特許第3389170号(P3389170)
権利者 TDK株式会社
発明の名称 NiMnZn系フェライト  
代理人 山谷 晧榮  
代理人 平岡 憲一  
代理人 山谷 晧榮  
代理人 三和 晴子  
代理人 今村 辰夫  
代理人 今村 辰夫  
代理人 平岡 憲一  
代理人 渡辺 望稔  

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