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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01S
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01S
管理番号 1125856
異議申立番号 異議2003-73001  
総通号数 72 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2000-12-15 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-12-09 
確定日 2005-08-31 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3414680号「III-V族窒化物半導体レーザ」の請求項1ないし20に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3414680号の請求項1、2、5ないし11、13、14、17、18に係る特許を取り消す。 同請求項15、16、19、20に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第3414680号の請求項1〜20に係る発明についての出願(出願日:平成11年10月25日、優先権主張 平成11年3月26日)は、平成15年4月4日に設定登録され、その後、その特許について、特許異議申立人 越智 俊博 より特許異議の申立がなされ、当審において取消理由を通知したところ、その指定期間内である平成16年8月2日に訂正請求がなされたものである。

2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
特許権者が求めている訂正の内容は、以下のとおりである。
[訂正事項a]
(a-1)特許請求の範囲の請求項1に記載された「その際」を、「前記外殻層、前記第1の隣接クラッド層、前記活性層領域および前記第2の隣接クラッド層はC面を主面としてC軸方向に積層され、かつ、前記第1の隣接クラッド層および前記第2の隣接クラッド層が層面内で歪みを有し、」と訂正する。
(a-2)これに伴い、明細書の段落【0020】に記載された「であって、」を「であって、前記外殻層は、主要構成元素としてAl、Ga、Nを含んでなるIII族窒化物系材料により構成される層であり、前記外殻層、前記第1の隣接クラッド層、前記活性層領域および前記第2の隣接クラッド層はC面を主面としてC軸方向に積層され、かつ、前記第1の隣接クラッド層および前記第2の隣接クラッド層が層面内で歪みを有し、」と訂正する。

[訂正事項b]
(b-1)特許請求の範囲の請求項3の記載を削除する。
(b-2)これに伴い、明細書の段落【0024】の記載を削除する。

[訂正事項c]
(c-1)特許請求の範囲の請求項4の記載を削除する。
(c-2)これに伴い、明細書の段落【0027】の記載を削除する。

[訂正事項d]
(d-1)特許請求の範囲の請求項5に記載された「その際」を、「前記外殻層、前記第1の隣接クラッド層、前記活性層領域および前記第2の隣接クラッド層はC面を主面としてC軸方向に積層され、かつ、前記第1の隣接クラッド層および前記第2の隣接クラッド層が層面内で歪みを有し、」と訂正する。
(d-2)これに伴い、明細書の段落【0030】に記載された「であって、」を「であって、前記外殻層は、主要構成元素としてAl、Ga、Nを含んでなるIII族窒化物系材料により構成される層であり、前記外殻層、前記第1の隣接クラッド層、前記活性層領域および前記第2の隣接クラッド層はC面を主面としてC軸方向に積層され、かつ、前記第1の隣接クラッド層および前記第2の隣接クラッド層が層面内で歪みを有し、」と訂正する。

[訂正事項e]
(e-1)特許請求の範囲の請求項12の記載を削除する。
(e-2)これに伴い、明細書の段落【0047】の記載を削除する。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
[訂正事項aについて]
訂正事項(a-1)は、「外殻層、第1の隣接クラッド層、活性層領域および第2の隣接クラッド層をこの順で積層してなる構造」をより下位の概念へ限定する訂正であって、特許請求の範囲の減縮を目的としたものである。
また、訂正事項(a-2)は、上記訂正事項(a-1)の訂正に伴い、訂正後の請求項1との整合をとるために必要となった訂正であって、明りょうでない記載の釈明を目的としたものである。

[訂正事項bについて]
特許請求の範囲の請求項3を削除する訂正(訂正事項(b-1))は、特許請求の範囲の減縮を目的としたものである。
また訂正事項(b-2)は、上記訂正事項(b-1)の訂正に伴い削除された請求項1との整合をとるために必要となった訂正であって、明りょうでない記載の釈明を目的としたものである。

[訂正事項cについて]
特許請求の範囲の請求項4を削除する訂正(訂正事項(c-1))は、特許請求の範囲の減縮を目的としたものである。
また訂正事項(c-2)は、上記訂正事項(c-1)の訂正に伴い削除された請求項1との整合をとるために必要となった訂正であって、明りょうでない記載の釈明を目的としたものである。

[訂正事項dについて]
訂正事項(d-1)は、「外殻層、第1の隣接クラッド層、活性層領域および第2の隣接クラッド層をこの順で積層してなる構造」をより下位の概念へ限定する訂正であって、特許請求の範囲の減縮を目的としたものである。
また訂正事項(d-2)は、上記訂正事項(d-1)の訂正に伴い、訂正後の請求項5との整合をとるために必要となった訂正であって、明りょうでない記載の釈明を目的としたものである。

[訂正事項eについて]
特許請求の範囲の請求項12を削除する訂正(訂正事項(e-1))は、特許請求の範囲の減縮を目的としたものである。
また訂正事項(e-2)は、上記訂正事項(e-1)の訂正に伴い削除された請求項12との整合をとるために必要となった訂正であって、明りょうでない記載の釈明を目的としたものである。

さらに、これらの訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであって、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(3)むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第2項、及び同条第3項で準用する特許法第126条第2項及び同条第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.特許異議の申立て理由及び取消理由の概要
(1)特許異議申立人 越智 俊博は、下記の甲第1〜5号証を提出し、
イ)請求項1〜4に係る発明の特許は、甲第1〜3号証に記載された発明に基づき、また、請求項5〜20に係る発明の特許は、甲第1〜5号証に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、
ロ)また、請求項5〜20に係る発明の特許は、甲第1又は3号証に記載された発明と同一であるから特許法第29条第1項第3号の規定に該当するものに対してなされたものであるから、請求項1〜20に係る発明の特許は、特許法第113条第2項の規定により取り消すべきであり、
ハ)さらに、請求項1〜4に係る発明の特許は、その特許請求の範囲の請求項1〜4の記載が不備であり、特許法第36条第4項又は第6項の規定に違反してなされたものであるから、
特許法第113条第4項の規定により取消すべきである旨主張する。

甲第1号証:特開平10-256661号公報
甲第2号証:特開平10-135576号公報
甲第3号証:特開平10-308558号公報
甲第4号証:特開平11-68256号公報
甲第5号証:特開平10-335750号公報

(2)当審は、
[取消理由1]
請求項1〜20に係る発明の特許は、特許請求の範囲の請求項1〜20の記載が不備であるから、特許法第36条第4項又は第6項の規定に違反してなされたものであり、
[取消理由2]
また、請求項1〜18に係る発明の特許は、下記の刊行物1〜3に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、
取消すべきである旨通知した。

刊行物1:特開平10-135576号公報(甲第2号証)
刊行物2:特開平10-256661号公報(甲第1号証)
刊行物3:特開平10-308558号公報(甲第3号証)

4.本件発明
上記2.で訂正を認めたから、本件の請求項1,2,5〜11,13〜20に係る発明(以下、「本件発明1,2,5〜11,13〜20」という。)は、平成16年8月2日付全文訂正明細書(以下、「訂正明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1,2,5〜11,13〜20に記載されたとおりの次のものである。

「【請求項1】 外殻層、第1の隣接クラッド層、活性層領域および第2の隣接クラッド層をこの順で積層してなる構造を有し、前記活性層領域はIII族窒化物系材料により構成されてなるIII族窒化物半導体レーザであって、
前記外殻層は、主要構成元素としてAl、Ga、Nを含んでなるIII族窒化物系材料により構成される層であり、
前記外殻層、前記第1の隣接クラッド層、前記活性層領域および前記第2の隣接クラッド層はC面を主面としてC軸方向に積層され、かつ、前記第1の隣接クラッド層および前記第2の隣接クラッド層が層面内で歪みを有し、
前記第1の隣接クラッド層の層面内歪量をε1、層厚をd1μmと、
前記第2の隣接クラッド層の層面内歪量をε2、層厚をd2μmとしたとき、
-0.0048μm≦ε1・d1+ε2・d2≦0.0048μmを満たすように、
前記第1の隣接クラッド層の層面内歪量ε1と層厚d1、および第2の隣接クラッド層の層面内歪量ε2と層厚d2の組み合わせが選択され、
前記外殻層の層厚と、前記第1の隣接クラッド層の層厚d1および第2の隣接クラッド層の層厚d2との合計は、少なくとも10μm以上に選択されていることを特徴とするIII族窒化物半導体レーザ。
【請求項2】 前記外殻層に対して、
-0.0024μm≦ε1・d1+ε2・d2≦0.0024μmを満たすように、
前記第1の隣接クラッド層の層面内歪量ε1と層厚d1、および第2の隣接クラッド層の層面内歪量ε2と層厚d2の組み合わせが選択されていることを特徴とする請求項1に記載のIII族窒化物半導体レーザ。
【請求項3】 削除。
【請求項4】 削除。
【請求項5】 外殻層、第1の隣接クラッド層、活性層領域および第2の隣接クラッド層をこの順で積層してなる構造を有し、前記活性層領域はIII族窒化物系材料により構成されてなるIII族窒化物半導体レーザであって、
前記外殻層は、主要構成元素としてAl、Ga、Nを含んでなるIII族窒化物系材料により構成される層であり、
前記外殻層、前記第1の隣接クラッド層、前記活性層領域および前記第2の隣接クラッド層はC面を主面としてC軸方向に積層され、かつ、前記第1の隣接クラッド層および前記第2の隣接クラッド層が層面内で歪みを有し、
前記外殻層の層内平均Al組成比をy、
前記第1の隣接クラッド層の層面平均Al組成比をx1、層厚をd1μm、
前記第2の隣接クラッド層の層面平均Al組成比をx2、層厚をd2μmとしたとき、
-0.2μm≦(x1-y)・d1+(x2-y)・d2≦0.2μmを満たすように、
前記第1の隣接クラッド層の層面平均Al組成比x1と層厚d1、および第2の隣接クラッド層の層面平均Al組成比x2と層厚d2の組み合わせが選択され、
前記外殻層の層厚と、前記第1の隣接クラッド層の層厚d1および第2の隣接クラッド層の層厚d2との合計は、少なくとも10μm以上に選択されていることを特徴とするIII族窒化物半導体レーザ。
【請求項6】 前記外殻層に対して、
-0.1μm≦(x1-y)・d1+(x2-y)・d2≦0.1μmを満たすように、
前記第1の隣接クラッド層の層面内歪量ε1と層厚d1、および第2の隣接クラッド層の層面内歪量ε2と層厚d2の組み合わせが選択されていることを特徴とする請求項5に記載のIII族窒化物半導体レーザ。
【請求項7】 前記外殻層の層厚は、少なくとも10μm以上に選択されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体レーザ。
【請求項8】 前記外殻層の層厚と、前記第1の隣接クラッド層の層厚d1および第2の隣接クラッド層の層厚d2との合計は、50μm以上に選択されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体レーザ。
【請求項9】 レーザ発振光のしみだし光が、前記外殻層において、前記活性層領域における発光強度のピーク値の10-6倍以下に減衰していることを特徴とする請求項1〜8いずれか一項に記載のIII族窒化物半導体レーザ。
【請求項10】 前記外殻層は、10μm以上の厚みを有するAlGaN基板であることを特徴とする請求項9に記載のIII族窒化物半導体レーザ。
【請求項11】 レーザ発振光に対する前記外殻層の層内平均屈折率が、レーザ導波モードの等価屈折率よりも小さいことを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体レーザ。
【請求項12】 削除。
【請求項13】 第1の隣接クラッド層の層厚が、1μm以上であることを特徴とする請求項1〜12のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体レーザ。
【請求項14】 第1の隣接クラッド層の層内平均Al組成比が、0.05以上であることを特徴とする請求項1〜13のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体レーザ。
【請求項15】 前記外殻層のAl組成比が、前記第2の隣接クラッド層のAl組成比よりも大きいことを特徴とする請求項1〜14のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体レーザ。
【請求項16】 前記外殻層のAl組成比が、前記第1の隣接クラッド層のAl組成比よりも大きいことを特徴とする請求項15に記載のIII族窒化物半導体レーザ。
【請求項17】 前記活性層領域は、Inを含む発光層と光ガイド層とを有してなることを特徴とする請求項1〜16のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体レーザ。
【請求項18】 レーザ発振光のレーザ層構造層厚方向の遠視野像において、スパイク状パターンのピーク強度が、前記遠視野像の最大ピーク強度の0.1倍以下であることを特徴とする請求項1〜17のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体レーザ。
【請求項19】 前記第1の隣接クラッド層および第2の隣接クラッド層のうち、
一方がp型クラッド層であり、他方がn型クラッド層であって、
前記p型クラッド層は、前記n型クラッド層よりも低いAl組成比を有することを特徴とする請求項1〜18のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体レーザ。
【請求項20】 第1の隣接クラッド層がn型クラッド層であり、
第2のクラッド層がp型クラッド層であることを特徴とする請求項19に記載のIII族窒化物半導体レーザ。」

なお、上記請求の範囲には、削除された請求項を形式的に引用する請求項が記載されているが、実質的に引用するものでないことは明らかである。

5.当審の判断
5-1.取消理由1及び特許異議申立人の無効理由ハ)について
本件発明1において、a)-0.0048μm≦ε1・d1+ε2・d2≦0.0048μmなる関係が、どのようにして導出されたのか、b)また、上記数値範囲の臨界的な意義が如何なるものであるのか(本件発明2における-0.0024μm≦ε1・d1+ε2・d2≦0.0024μmなる関係、本件発明5における-0.2μm≦(x1-y)・d1+(x2-y)・d2≦0.2μmなる関係、及び本件発明6の-0.1μm≦(x1-y)・d1+(x2-y)・d2≦0.1μmなる関係、およびこれらを引用する本件発明7〜20についても同様)、上記事項に関係する訂正明細書の記載を列挙すると以下のとおりである。

(i)「【0049】・・・発明者は、結晶成長直後、およびデバイスプロセス後にクラックが生じない層構造条件について実験を行なった。結晶成長直後のクラック発生が少ない条件としては、GaNを基板とし、n、pクラッド層がAlGaN混晶である場合は、nクラッド層層厚d1、pクラッド層層厚d2、nクラッド層Al組成比x1、pクラッド層Al組成比x2を用いて-0.1μm≦(x1-y)・d1+(x2-y)・d2≦0.1μmの関係を満たす場合であることを見出した。・・・この条件は、図22のAl組成比と歪の関係が、ほぼ歪量=0.0242×Al組成比の関係になっているため、nクラッド層歪量ε1、pクラッド層歪量ε2を用いて-0.0024μm≦ε1・d1+ε2・d2≦0.0024μmの条件、と言い換えることができる。歪量は引張歪の時に正、圧縮歪の時に負である。
(ii)「【0050】 さらに、Al組成0.03のAlGaN基板を用いて同様な実験を行なった。その結果、クラック発生の少ない条件は基板のAl組成yをもちいて、-0.2μm≦(x1-y)・d1+(x2-y)・d2≦0.2μmの関係を満たす場合であることを見出した。図1には、AlxGa1-xNクラッド層とAlyGa1-yN基板とのAl組成比差(x-y)とクラッド層での歪量εの関係を示す。基板は無歪である。上記のAl組成と層厚に関する条件は、図1の関係を用いると、nクラッド層歪量ε1、pクラッド層歪量ε2を用いて-0.0048μm≦ε1・d1+ε2・d2≦0.0048μmの条件、と言い換えることができる。この条件は、GaN基板の場合よりも広い。この理由については以下のように推測している。クラッド層にクラックが発生する場合は基板にもクラックが伝播する。従って、基板の結晶結合が強くなればクラックの伝播が抑制され、クラック発生が抑制されると考えられる。Al-Nの結晶結合はGa-Nの結合よりも強いため、GaNよりAlGaNの平均的結晶結合は強いと考えられる。以上の理由により、AlGaN基板とすることによりクラック発生の臨界条件が広くなったものと思われるが、詳細は不明である。」

そこで、上記(i)、(ii)の記載に基づき本件発明1,2,5〜11,13〜20の記載が上記a)、b)の点で不備であるか以下に検討する。
上記(i)、(ii)には、層構造の条件を見出した実験の詳細が記載されていないが、上記(i)、(ii)の記載内容及び技術常識からみて、上記条件式が、基板をGaNとしたとき、及びAl組成0.03のAlGaNにしたときの2例について、n型、p型AlGaNクラッド層のAl組成比x1、x2、同層厚d1、d2を違えたものを複数成膜し、そのクラック発生度合いを比較検討した結果見出されたものであろうことは容易に推測可能であり、また、歪量とAl組成比との換算率から、Al組成比に換えてクラッド層歪量を用いた関係式を得たことも十分理解できるところである。
また、上記関係式を検討しても、歪0を中心値としたある幅の範囲が、クラック発生が少ない許容範囲であることを示しており、このことは当該技術分野における常識的な思想にすぎないから、当該関係式を導入する過程の開示が十分ではないとしても理解可能であり、その意味内容が不明瞭であるとはいえない。
したがって、本件発明1,2,5〜11,13〜20は、特許法第36条第4項又は第6項の規定に違反して特許されたものとはいえない。

5-2.取消理由2及び特許異議申立人の無効理由イ)、ロ)について
5-2-1.刊行物1〜5に記載された発明
刊行物1(特開平10-135576号公報)には、以下の事項が記載されている。
(ア)「【0053】 第1例
まず、図2(a) に示すように、(1-100)面を主面とするn型GaN (1-100)基板11上に、TMGa(トリメチルガリウム)を10〜100μmol/分、例えば、45μmol/分、TMA1(トリメチルアルミニウム)を10〜100μmol/分、例えば、45μmol/分、アンモニア(NH3)を0.02〜0.2mol/分、例えば、0.1mol/分、Si2H6を0.0001〜0.002μmol/分、例えば、0.0007μmol/分、及び、キャリアガスとしての水素を300〜3000sccm、例えば、1000sccm流し、成長圧力を70〜760Torr、例えば、100Torrとし、成長温度を850〜1100℃、例えば、950℃とした状態で、100〜5000nm、好適には2000nmのn型Al0.1Ga0.9Nクラッド層12を成長させる。
【0054】 引き続いて、TMGaを10〜100μmol/分、例えば、45μmol/分、アンモニアを0.02〜0.2mol /分、例えば、0.1mol/分、Si2H6を0.0001〜0.002μmol/分、例えば、0.0007μmol/分、及び、キャリアガスとしての水素を300〜3000sccm、例えば、1000sccmを流し、成長圧力を70〜760Torr、例えば、100Torrとし、成長温度を800〜1050℃、例えば、930℃とした状態で、厚さ50〜500nm、好適には100nmのn型GaN 光ガイド層13を成長させる。
【0055】 引き続いて、TMGaを2.5〜25μmol/分、例えば、10μmol/分、TMIn(トリメチルインジウム)を25〜250μmol/分、例えば、100μmol/分、アンモニアを0.02〜0.2mol/分、例えば、0.1mol/分、及び、キャリアガスとしての窒素を300〜3000sccm、例えば、1000sccmを流し、成長圧力を70〜760Torr、例えば、100Torr とし、成長温度を550〜800℃、例えば、650℃とした状態で、厚さ1〜20nm、好適には3nmのGa0.9In0.1N活性層14を成長させる。
【0056】 引き続いて、TMGaを10〜100μmol/分、例えば、45μmol/分、アンモニアを0.02〜0.2mol/分、例えば、0.1mol/分、ビスシクロベンタジエニルマグネシウムを0.01〜0.5μmol/分、例えば、0.05μmol/分、及び、キャリアガスとしての水素を300〜3000sccm、例えば、1000sccmを流し、成長圧力を70〜760Torr、例えば、100Torrとし、成長温度を800〜1050℃、例えば、930℃とした状態で、厚さ50〜500nm、好適には100nmのp型GaN 光ガイド層15を成長させる。
【0057】 引き続いて、TMGaを10〜100μmol/分、例えば、45μmol/分、TMAlを10〜100μmol/分、例えば、45μmol/分、アンモニアを0.02〜0.2mol/分、例えば、0.1mol/分、ビスシクロペンタジエニルマグネシウムを0.01〜0.5μmol/分、例えば、0.05μmol/分、及び、キャリアガスとしての水素を300〜3000sccm、例えば、1000sccm流し、成長圧力を70〜760Torr、例えば、100Torr とし、成長温度を850〜1100℃、例えば、950℃とした状態で、100〜2000nm、好適には500nmのp型Al0.1Ga0.9Nクラッド層16を成長させる。」
(イ)「【0065】 第2例
次に、図4を参照して本実施形態の第2例を説明する。
まず、図4(a) に示すように、(1-100)面を主面とするn型GaN (1-100)基板21上に、TMGaを2.5〜25μmol/分、例えば、10μmol/分、TMAlを30〜300μmol/分、例えば、150μmol/分、TMInを250〜2500μmol/分、例えば、1000μmol/分、アンモニアを0.02〜0.2mol/分、例えば、0.1mol/分、Si2H6を0.0001〜0.002μmol/分、例えば、0.0007μmol/分、及び、キャリアガスとしての窒素を300〜3000sccm、例えば、1000sccm流し、成長圧力を70〜760Torr、例えば、100Torrとし、成長温度を550〜900℃、例えば、700℃とした状態で、100〜5000nm、好適には2000nmのn型Al0.4Ga0.3In0.3Nクラッド層22を成長させる。
【0066】 引き続いて、TMGaを5〜50μmol/分、例えば、20μmol/分、TMAlを10〜100μmol/分、例えば、50μmol/分、TMInを150〜1500μmol/分、例えば、660μmol/分、アンモニアを0.02〜0.2mol/分、例えば、0.1mol/分、Si2H6を0.0001〜0.002μmol/分、例えば、0.0007μmol/分、及び、キャリアガスとしての窒素を300〜3000sccm、例えば、1000sccmを流し、成長圧力を70〜760Torr、例えば、100Torrとし、成長温度を550〜900℃、例えば、700℃とした状態で、厚さ50〜500nm、好適には100nmのn型Al0.15Ga0.65In0.2N光ガイド層23を成長させる。
【0067】 引き続いて、TMGaを2.5〜25μmol/分、例えば、10μmmol/分、TMInを25〜250μmol/分、例えば、100μmol/分、アンモニアを0.02〜0.2mol/分、例えば、0.1mol/分、及び、キャリアガスとしての窒素を300〜3000sccm、例えば、1000sccmを流し、成長圧力を70〜760Torr、例えば、100Torrとし、成長温度を550〜900℃、例えば、700℃とした状態で、厚さ1〜20nm、好適には3nmのGa0.9In0.1N活性層24を成長させる。
【0068】 引き続いて、TMGaを5〜50μmol/分、例えば、20μmol/分、TMAlを10〜100μmol/分、例えば、50μmol/分、TMInを150〜1500μmol/分、例えば、660μmol/分、アンモニアを0.02〜0.2mol/分、例えば、0.1mol/分、ビスシクロペンタジエニルマグネシウムを0.01〜0.5μmol/分、例えば、0.05μmol/分、及び、キャリアガスとしての窒素を300〜3000sccm、例えば、1000sccmを流し、成長圧力を70〜760Torr、例えば、100Torrとし、成長温度を550〜900℃、例えば、700℃とした状態で、厚さ50〜500nm、好適には100nmのp型Al0.15Ga0.65In0.2N光ガイド層25を成長させる。
【0069】 引き続いて、TMGaを2.5〜25μmol/分、例えば、10μmol/分、TMAlを30〜300μmol/分、例えば、150μmol/分、TMInを250〜2500μmol/分、例えば、1000μmol/分、アンモニアを0.02〜0.2mol/分、例えば、0.1mol/分、ビスシクロペンタジエニルマグネシウムを0.01〜0.5μmol/分、例えば、0.05μmol/分、及び、キャリアガスとしての窒素を300〜3000sccm、例えば、1000sccm流し、成長圧力を70〜760Torr、例えば、100Torrとし、成長温度を550〜900℃、例えば、700℃とした状態で、100〜2000nm、好適には500nmのp型Al0.4Ga0.3In0.3Nクラッド層26を成長させる。」
(ウ)「【0075】 第3例
次に、図5を参照して、本実施形態の第3の例について説明するが、製造条件は第1例と全く同じであるので、構造について説明する。
図5に斜視図を示す素子は所謂TS型半導体レーザであり、基板として(0001)面を主面とするGaN 基板の段差部に(11-21)面からなる(11-21)小面32を設けたn型GaN(0001)基板31を用いたものである。このn型GaN(0001)基板31の上に、第一の例と全く同ようにn型Al0.1Ga0.9Nクラッド層12、n型GaN光ガイド層13、Ga0.9In0.1N 活性層14、p型GaN 光ガイド層15、及び、p型Al0.1Ga0.9Nクラッド層16を順次成長させる。」
(エ)「【0078】 第4例
上記の第1〜第3の例においては基板として2元化合物基板を用いて説明しているが、Al0.1Ga0.9N或いはAl0.4Ga0.3In0.3N等の混晶基板を用いても良い。その場合には、その上に形成されるAl0.1Ga0.9Nクラッド層又はAl0.4Ga0.3In0.3N クラッド層との格子整合が完全に取れるので、成長層の結晶性を損なうことがない。」

刊行物2(特開平10-256661号公報)には、以下の事項が記載されている。
(オ)「【0032】[実施例1]
1)厚さ300μm、2インチφのサファイア(C面)よりなる基板1の上に
2)GaNよりなるバッファ層2を200オングストローム
3)Siドープn型GaNよりなるコンタクト層3を6μm
4)Siドープn型In0.1Ga0.9Nよりなるクラック防止層4を500オングストローム
5)Siドープn型Al0.2Ga0.8Nよりなるn型クラッド層5を0.5μm
6)SiドープGaNよりなる光ガイド層6を0.2μm
7)アンドープIn0.2Ga0.8Nよりなる井戸層を25オングストロームと、アンドープIn0.01Ga0.95Nよりなる障壁層を50オングストロームと3ペア積層して最後に井戸層を積層した活性層7(活性層総厚、250オングストローム)
8)Mgドープp型Al0.1Ga0.9Nよりなるp型キャップ層8を300オングストローム、
9)MgドープGaNよりなる光ガイド層9を0.2μm
10)Mgドープp型Al0.2Ga0.8Nよりなるp型クラッド層10を0.5μm
11)Mgドープp型GaNよりなるp型コンタクト層11を0.2μm
の膜厚で順に積層する。(窒化物半導体層総膜厚7.725μm、バッファ層を含む)
【0033】1) 基板1は前記したように、サファイアC面の他、R面、A面を主面とするサファイア、その他、スピネル(MgAl2O4)のような絶縁性の基板を用いることができる。
【0034】2) バッファ層2も前記したようにAlN、GaN、AlGaN等を900℃以下の温度で成長させ、膜厚10オングストローム〜0.5μm以下、さらに好ましくは20オングストローム〜0.2μm以下の膜厚で成長できる。
【0035】3) n型コンタクト層3は、バッファ層の次に成長させるn型窒化物半導体層に相当する。このn型コンタクト層はInXAlYGa1-X-YN(0≦X、0≦Y、X+Y≦1)、さらに好ましくはY値が0.5以下のAlYGa1-YNで構成することが好ましく、その中でもSi若しくはGeをドープしたGaNで構成することにより、キャリア濃度の高いn型層が得られ、またn電極と好ましいオーミック接触が得られる。この層は前記したように6μm以上で成長させ、さらに好ましくは7μm以上の膜厚が望ましく、例えば20μm以下の膜厚で成長させる。
【0036】4) クラック防止層4はInを含むn型の窒化物半導体、好ましくはInGaNで成長させることにより、次に成長させるAlを含むn型クラッド層を厚膜で成長させることが可能となり、非常に好ましい。LDの場合は、光閉じ込め層となる層を、好ましくは0.1μm以上の膜厚で成長させる必要がある。従来ではGaN、AlGaN層の上に直接、厚膜のAlGaNを成長させると、後から成長させたAlGaNにクラックが入るので素子作製が困難であったが、このクラック防止層が、次に成長させるAlを含むn型クラッド層にクラックが入るのを防止することができる。クラック防止層は100オングストローム以上、0.5μm以下の膜厚で成長させることが好ましい。100オングストロームよりも薄いと前記のようにクラック防止として作用しにくく、0.5μmよりも厚いと、結晶自体が黒変する傾向にある。なお、このクラック防止層は成長方法、成長装置等の条件によっては省略することもできるがLDを作製する場合には成長させる方が望ましい。このクラック防止層はn型コンタクト層内に成長させても良い。
【0037】5) n型クラッド層5はキャリア閉じ込め層、及び光閉じ込め層として作用し、Alを含む窒化物半導体、好ましくはAlGaNを成長させることが望ましく、100オングストローム以上、2μm以下、さらに好ましくは500オングストローム以上、1μm以下で成長させることにより、結晶性の良いキャリア閉じ込め層が形成できる。
【0038】6) 光ガイド層6は、活性層の光ガイド層として作用し、GaN、InGaNを成長させることが望ましく、通常100オングストローム〜5μm、さらに好ましくは200オングストローム〜1μmの膜厚で成長させることが望ましい。また実施例1ではSiをドープしたが、この光ガイド層はアンドープでも良い。
【0039】7) 活性層7は膜厚70オングストローム以下のInを含む窒化物半導体よりなる井戸層と、膜厚150オングストローム以下の井戸層よりもバンドギャップエネルギーが大きい窒化物半導体よりなる障壁層とを積層した多重量子井戸構造とするとレーザ発振しやすい。
【0040】8) キャップ層8はp型不純物をドープしたが、膜厚が薄いため、n型不純物をドープしてキャリアが補償されたi型としても良く、最も好ましくはp型又はアンドープである。
キャップ層の膜厚は0.1μm以下、さらに好ましくは500オングストローム以下、最も好ましくは300オングストローム以下に調整する。0.1μmより厚い膜厚で成長させると、キャップ層中にクラックが入りやすくなり、結晶性の良い窒化物半導体層が成長しにくいからである。またキャリアがこのエネルギーバリアをトンネル効果により通過できなくなる。Alの組成比が大きいAlGaN程薄く形成するとLD素子は発振しやすくなる。例えば、Y値が0.2以上のAlYGa1-YNであれば500オングストローム以下に調整することが望ましい。キャップ層8の膜厚の下限は特に限定しないが、10オングストローム以上の膜厚で形成することが望ましい。
【0041】9) 光ガイド層9は、前記6)の光ガイド層と同じくGaN、InGaNで成長させることが望ましい。また、この層はp型クラッド層を成長させる際のバッファ層としても作用し、100オングストローム〜5μm、さらに好ましくは200オングストローム〜1μmの膜厚で成長させることにより、好ましい光ガイド層として作用する。またこの光ガイド層はアンドープでもよい。
【0042】10) p型クラッド層10はn型クラッド層と同じく、キャリア閉じ込め層、及び光閉じ込め層として作用し、Alを含む窒化物半導体、好ましくはAlGaNを成長させることが望ましく、100オングストローム以上、2μm以下、さらに好ましくは500オングストローム以上、1μm以下で成長させることにより、結晶性の良いキャリア閉じ込め層が形成できる。さらに前記のようにこの層をAlを含む窒化物半導体層とすることにより、p型コンタクト層と、p電極との接触抵抗差ができるので好ましい。」

刊行物3(特開平10-308558号公報)には、以下の事項が記載されている。
(カ)「【0013】 次に第1の反射鏡30を形成した異種基板1上に、SiドープGaNよりなる第1の窒化物半導体層2を成長させる。第1の窒化物半導体層2の組成はInXAlYGa1-X-YN(0≦X、0≦Y、X+Y≦1)であれば、どのような組成でも良いが、好ましくはアンドープ(undope)若しくはn型不純物ドープGaNとする。GaNはクラックの少ない窒化物半導体を厚膜で成長させることができる。またGaNにSi、Ge、S、Se等の4族元素よりなるn型不純物をドープすることもできる。n型不純物は、好ましい範囲の導電性を制御して、GaNの結晶性を維持するために、1×1017/cm3〜5×1021/cm3の範囲でドープすることが望ましい。
【0014】 第1の反射鏡30の表面には窒化物半導体が成長しにくいため、第1の窒化物半導体層2の膜厚は第1の反射鏡30上部にまで、窒化物半導体の回り込みにより成長できれば特に限定するものではない。図1に示すように、最終的なレーザ素子構造として異種基板1を素子内に残す場合には、膜厚は特に限定しない。一方、図2、図3に示すように異種基板1を除去したレーザ素子を作製する場合には、第1の窒化物半導体層2が基板となるため、100μm以上、さらに好ましくは150μm以上の膜厚で成長させることが望ましい。第1の窒化物半導体層成長後、その第1の窒化物半導体層の表面を研磨して鏡面状にすることが望ましい。
【0015】 次に、第1の窒化物半導体層2の上に活性層を有する窒化物半導体層3〜7を順次積層成長させる。バッファ層3はAlを含む窒化物半導体よりなるn側クラッド層4にクラックを入りにくくする作用があり、n型GaN、n型InGaNを成長させることが望ましい。InGaNであれば100オングストローム以上、0.5μm以下の膜厚で成長させることが好ましい。100オングストロームよりも薄いとクラック防止として作用しにくく、0.5μmよりも厚いと、結晶自体が黒変する傾向にある。またGaNであれば100オングストローム以上、10μm以下で成長させることが望ましい。なおこのバッファ層3は窒化物半導体単結晶よりなる層であり、従来窒化物半導体を基板上に成長させる前に900℃以下の低温で成長され、多結晶を含む低温成長バッファ層とは区別する。
【0016】 n側クラッド層4は、Alを含む窒化物半導体を有し、好ましくは互いに組成の異なる膜厚100オングストローム以下の窒化物半導体が積層された超格子構造とすることが望ましい。この層は例えばSiを5×1018/cm3ドープしたn型Al0.2Ga0.8Nよりなる第1の層、20オングストロームと、アンドープ(undope)のGaNよりなる第2の層、20オングストロームとを交互に100層積層してなる総膜厚0.4μmの超格子構造とできる。超格子構造とすると結晶性の良いキャリア閉じ込め層が形成できる。
【0017】 活性層5はInGaNを少なくとも一方の層に含む多重量子井戸構造とする。例えば、アンドープIn0.2Ga0.8Nよりなる井戸層、25オングストロームと、アンドープIn0.01Ga0.95Nよりなる障壁層、50オングストロームを交互に積層してなる総膜厚175オングストロームの多重量子井戸構造(MQW)の活性層45を成長させる。
【0018】 p側クラッド層6はn側クラッド層4と同じく、Alを含む窒化物半導体を有し、好ましくは互いに組成の異なる膜厚100オングストローム以下の窒化物半導体が積層された超格子構造とすることが望ましい。この層は例えばMgを1××1020/cm3ドープしたp型Al0.2Ga0.8Nよりなる第1の層、20オングストロームと、アンドープ(undope)のGaNよりなる第2の層、20オングストロームとを交互に100層積層してなる総膜厚0.4μmの超格子構造とする。超格子構造とすると結晶性の良いキャリア閉じ込め層が形成できる。」

甲第4号証(特開平11-68256号公報、以下、「刊行物4」という。)には、以下の事項が記載されている。
(キ)「【0004】 【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、共振面から出射されるレーザ光は、そのファーフィールドパターンが十分に良好な単一のスポットとして得られにくい。その原因として活性層で発生した光の一部がクラッド層を通過し、クラッド層と基板との間に積層されている屈折率が中間の値を示す材料、例えばGaNからなるn側窒化物半導体層(n側層)で導波され、n側層端面から放射される。
ちなみに窒化物半導体レーザ素子を構成する窒化物半導体層の屈折率は、大きい方から順に、活性層、中間層(GaN等)、クラッド層、基板(サファイア、スピネル等)である。つまり、クラッド層と基板の間に比較的屈折率の大きい中間層があると散乱した光は中間層で導波され、また、サファイア基板面で反射され、n側層端面から放射される。・・・。」
(ク)「【0005】 光がクラッド層を通過しないようにするには、クラッド層の屈折率を更に小さくすることが考えられるが、クラッド層物質の物性の点から屈折率の調整には限界がある。また、クラッド層を厚く積層すれば、クラッド層を通過する光がクラッド層内で減衰し不要な光が出射されなくなるが、クラッド層は厚く積層されるとクラックが入り易く、厚く積層させることができない。
このように活性層内の光を十分に閉じ込めることができなければ、ファーフィールドパターンを十分に良好な単一モードとすることができず、レーザビーム径を小さくすることを必要とするDVD光源や、単一モードの光を必要とする光通信分野への適用を十分満足させることができない。」

甲第5号証(特開平10-335750号公報、以下、「刊行物5」という。)には、以下の事項が記載されている。
(ケ)「【0014】 この発明において、窒化物系III-V族化合物半導体層は、Ga、Al、InおよびBからなる群より選ばれた少なくとも一種類のIII族元素と、少なくともNを含み、場合によってさらにAsまたはPを含むV族元素とからなる。この窒化物系III-V族化合物半導体層の具体例を挙げると、GaN層、AlGaN層、GaInN層、AlGaInN層などである。」
(コ)「【0021】 図1はこの発明の第1の実施形態によるGaN系半導体レーザを示す。図1に示すように、この第1の実施形態によるGaN系半導体レーザにおいては、{01-10}面(M面)を主面とするアンドープのGaN基板1上に、n型GaNコンタクト層2、n型AlxGa1-xNクラッド層3、例えば低不純物濃度またはアンドープのn型のGa1-yInyNからなる活性層4、p型AlzGa1-zNクラッド層5およびp型GaNコンタクト層6が順次積層されている。これらの窒化物系III-V族化合物半導体層は{01-10}面方位を有する。ここで、n型AlxGa1-xNクラッド層3のAl組成比xは0≦x≦1、p型AlzGa1-zNクラッド層5のAl組成比zは0≦z≦1、活性層4を構成するGa1-yInyNのIn組成比yは0≦y≦1である。n型GaNコンタクト層2およびn型AlxGa1-xNクラッド層3にはn型不純物として例えばSiがドープされている。また、p型AlzGa1-zNクラッド層5およびp型GaNコンタクト層6にはp型不純物として例えばMgがドープされている。各層の厚さの一例を挙げると、n型GaNコンタクト層2は3μm、n型AlxGa1-xNクラッド層3は0.5μm、活性層4は0.05μm、p型AlzGa1-zNクラッド層5は0.5μm、p型GaNコンタクト層6は1μmである。」

5-2-2.対比・判断
(1)本件発明1について
そこで、本件発明1と刊行物1に記載された事項とを以下に対比する。
a)刊行物1には、Al0.1Ga0.9N混晶基板を用いて(上記(エ)参照)、その上にn型Al0.1Ga0.9Nクラッド層12、n型GaN 光ガイド層13、Ga0.9In0.1N活性層14、p型GaN 光ガイド層15、及びp型Al0.1Ga0.9Nクラッド層16(以上、上記(ア)参照)を積層形成することが記載されている。
これらの積層構造からみて、上記構成要素の「Al0.1Ga0.9N混晶基板」、「n型Al0.1Ga0.9Nクラッド層12」、「n型GaN 光ガイド層13、Ga0.9In0.1N活性層14、p型GaN 光ガイド層15」、「p型Al0.1Ga0.9Nクラッド層16」は、本件発明1の「主要構成元素としてAl、Ga、Nを含んでなるIII族窒化物系材料により構成される外殻層」、「第1の隣接クラッド層」、「III族窒化物系材料により構成されてなる活性層領域」、「第2の隣接クラッド」に各々相当することは明らかである。
b)また、刊行物1に記載のものが、III族窒化物半導体レーザであることも上記積層構造からみて明らかである。

したがって両者は、
「外殻層、第1の隣接クラッド層、活性層領域および第2の隣接クラッド層をこの順で積層してなる構造を有し、前記活性層領域はIII族窒化物系材料により構成されてなるIII族窒化物半導体レーザであって、前記外殻層は、主要構成元素としてAl、Ga、Nを含んでなるIII族窒化物系材料により構成される層であるIII族窒化物半導体レーザ。」
である点で一致し、次の点で相違している。

[相違点1]本件発明1の各層が、「前記外殻層、前記第1の隣接クラッド層、前記活性層領域および前記第2の隣接クラッド層はC面を主面としてC軸方向に積層され」ているのに対し、刊行物1に記載のものの主面は(1-100)面などであって、C面ではない点。

[相違点2]本件発明1のクラッド層は、「前記第1の隣接クラッド層および前記第2の隣接クラッド層が層面内で歪みを有し、前記第1の隣接クラッド層の層面内歪量をε1、層厚をd1μmと、前記第2の隣接クラッド層の層面内歪量をε2、層厚をd2μmとしたとき、-0.0048μm≦ε1・d1+ε2・d2≦0.0048μmを満たすように、前記第1の隣接クラッド層の層面内歪量ε1と層厚d1、および第2の隣接クラッド層の層面内歪量ε2と層厚d2の組み合わせが選択され」ているのに対し、刊行物1に記載のクラッド層(n型Al0.1Ga0.9Nクラッド層12及びp型Al0.1Ga0.9Nクラッド層16)は、当該クラッド層が積層されるAl0.1Ga0.9N混晶基板とは、そのAl組成比が一致していることから、当該クラッド層の層面内歪みは理論上0であると解される点。

[相違点3]本件発明1の「前記外殻層の層厚と、前記第1の隣接クラッド層の層厚d1および第2の隣接クラッド層の層厚d2との合計は、少なくとも10μm以上に選択されている」のに対し、刊行物1にはAl0.1Ga0.9N混晶基板の厚みが記載されていないため、クラッド層を含めた合計膜厚も不明である点。

そこで、上記相違点について検討する。
[相違点1について]
刊行物1に記載のものは(1-100)面などを主面とした半導体レーザに関するが、上記(ウ)に「基板として(0001)面を主面とするGaN 基板の段差部に(11-21)面からなる(11-21)小面32を設けたn型GaN(0001)基板31を用いたものである。このn型GaN(0001)基板31の上に、第一の例と全く同ようにn型Al0.1Ga0.9Nクラッド層12、n型GaN光ガイド層13、Ga0.9In0.1N 活性層14、p型GaN 光ガイド層15、及び、p型Al0.1Ga0.9Nクラッド層16を順次成長させる。」と記載されているように、刊行物1に記載された一部の実施例においては、(0001)面、すなわちC面を主面とする基板上(基板全面がC面ではないが)に、上記a)のような積層構造を形成したものが開示されている(上記(ウ)において、基板はGaN を用いているが、上記(エ)に記載されているようにAl0.1Ga0.9N混晶基板を用いてもよいことは勿論である。)のであるから、当該積層構造をC面を主面とする基板上に形成することに特段の技術的な困難性や阻害要因があるとはいえない。
しかも、上記刊行物2の(オ)にもC面を主面として結晶成長させた半導体レーザが記載されているように、C面を主面として結晶成長させることは、この種のIII族窒化物半導体レーザにおいて周知の事項にすぎず、何ら格別な技術的事項とはいえないものである。
したがって、上記相違点1は、刊行物1、2に記載の事項及び周知技術に基づき当業者が容易に想到し得たことである。

[相違点2について]
相違点2における本件発明1の構成の趣旨は、第1,第2の隣接クラッド層と外殻層との格子不整合に伴う上記クラッド層の層面内歪みを一定範囲内(-0.0048μm≦ε1・d1+ε2・d2≦0.0048μm)とすることによりクラックの発生を防止せんとすることにあり、係る一定範囲内において意図的に歪みが0の構成を除外したものであると解される。
しかしながら、クラックの発生が最も少ないと考えられるのは、クラッド層と外殻層の格子不整合が存在しない層構成、すなわちクラッド層と外殻層とを構成するIII族窒化物系材料の組成が完全に一致した層構成(本件発明1が除外した層構成)であって、刊行物1に開示された層構成が、まさにそうした層構成であることは明らかである。
そこで、相違点2の上記構成を考察するに、相違点2の上記数値範囲の中心点は歪みが0の0μmであり、かかる中心点から±0.0048μmの範囲内であれば、クラックの発生が少なく許容される範囲であることを示したものと解されるが、数値の絶対値が如何ほどであるかはともかく、歪0を中心としてかかる許容範囲が存在するであろうことは、当業者が容易に予測し得る技術事項であって、むしろ基板上に別途成膜した層を完全に基板に対し無歪みで形成することの方がより一層困難であるというべきである。
したがって、基板とクラッド層両者の組成を設計上は一致させた刊行物1に記載されたような層構成であっても、製造上の都合などで発生する若干の歪みを許容することは容易に予想されることであり、ましてや、刊行物1に記載されたような歪0の層構成を基礎とすれば、本件発明1のような組成がやや異なる若干の歪みを有する層構成を形成する程度のことに特段の困難性があるとはいえないから、相違点2の上記構成は、刊行物1に記載された事項から当業者が容易に想到し得たことである。

[相違点3について]
訂正明細書の【0035】には、ハンドリングや機械強度などのレーザ結晶加工上の要請から、基板の厚みは50μm以上とする旨記載されており、このことは本件発明1のみならず、この種の半導体レーザ全般に該当する必須の要件であるといえるから、上記刊行物1に記載のものの基板も同様な厚みを有するものと容易に推認することができる。
仮にそうでないとしても、上記刊行物2には、上記(オ)の段落【0035】に、本件の外殻に相当するnコンタクト層が、6〜20μmの膜厚であること、さらに、上記刊行物3には、上記(カ)の段落【0014】に、本件の外殻に相当する基板が100μm以上、好ましくは150μm以上の膜厚であることが記載されているから、これらを参酌することによっても、上記刊行物1に記載された基板の膜厚を、本件発明1の所望の厚さ(10μm以上)とすることが当業者にとって容易になし得たことであるといえる。
以上のとおり、本件発明1は、刊行物1〜3に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。

(2)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の構成要件のうち「-0.0048μm≦ε1・d1+ε2・d2≦0.0048μmを満たすように」とあるのを、より許容範囲を狭めて「-0.0024μm≦ε1・d1+ε2・d2≦0.0024μmを満たすように、」と限定したものである。
そこで上記限定事項について検討すると、上記事項は、既に上記5-2-2.(1)の[相違点2について]で検討済み(ただし、0.0048μmを0.0024μmと読み替える。)であって、上記と同様の理由で当業者が容易に想到し得たことという外はない。
よって、本件発明2は、刊行物1〜3に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。

(3)本件発明5について
本件発明5は、本件発明1の構成要件のうち、
「前記第1の隣接クラッド層の層面内歪量をε1、層厚をd1μmと、前記第2の隣接クラッド層の層面内歪量をε2、層厚をd2μmとしたとき、-0.0048μm≦ε1・d1+ε2・d2≦0.0048μmを満たすように、前記第1の隣接クラッド層の層面内歪量ε1と層厚d1、および第2の隣接クラッド層の層面内歪量ε2と層厚d2の組み合わせが選択され、」とあるのを、
「前記外殻層の層内平均Al組成比をy、前記第1の隣接クラッド層の層面平均Al組成比をx1、層厚をd1μm、前記第2の隣接クラッド層の層面平均Al組成比をx2、層厚をd2μmとしたとき、-0.2μm≦(x1-y)・d1+(x2-y)・d2≦0.2μmを満たすように、前記第1の隣接クラッド層の層面平均Al組成比x1と層厚d1、および第2の隣接クラッド層の層面平均Al組成比x2と層厚d2の組み合わせが選択され、」と変更したものである。
上記変更点について検討すると、訂正明細書の段落【0050】には、
「【0050】 さらに、Al組成0.03のAlGaN基板を用いて同様な実験を行なった。その結果、クラック発生の少ない条件は基板のAl組成yをもちいて、-0.2μm≦(x1-y)・d1+(x2-y)・d2≦0.2μmの関係を満たす場合であることを見出した。図1には、AlxGa1-xNクラッド層とAlyGa1-yN基板とのAl組成比差(x-y)とクラッド層での歪量εの関係を示す。基板は無歪である。上記のAl組成と層厚に関する条件は、図1の関係を用いると、nクラッド層歪量ε1、pクラッド層歪量ε2を用いて-0.0048μm≦ε1・d1+ε2・d2≦0.0048μmの条件、と言い換えることができる。・・・。」なる事項が記載され、これに照らせば歪量-0.0048μm≦ε1・d1+ε2・d2≦0.0048μmと-0.2μm≦(x1-y)・d1+(x2-y)・d2≦0.2μmとは等しいことが明らかであるから、結局、本件発明1と本件発明5とは歪量についての表現振りを違えただけの、実質的に同一の発明である。
してみると、本件発明1については、上記5-2-2.(1)で既に検討したところであるから、本件発明5も本件発明1と同様の理由で、上記刊行物1〜3に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであって、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるということができる。

(4)本件発明6について
本件発明6は、本件発明5の構成要件のうち「-0.2μm≦(x1-y)・d1+(x2-y)・d2≦0.2μmを満たすように」とあるのを、より許容範囲を狭めて「-0.1μm≦(x1-y)・d1+(x2-y)・d2≦0.1μmを満たすように、」と限定したものである。
本件発明6の数値範囲は、本件発明5における数値範囲±0.2μmを、その半分の±0.1μmに狭めたものであるから、本件発明1と本件発明2との対比(±0.0048μmからその半分の±0.0024μmに狭めた)から直ちに理解できるように、本件発明6は、本件発明2と歪量についての表現振りを違えただけの、実質的に同一の発明である。
したがって、本件発明6は本件発明2と同様の理由で、刊行物1〜3に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。

(5)本件発明7及び8について
本件発明7は、本件発明1,2,5,6についてさらに「外殻層の層厚は、少なくとも10μm以上」との限定を付したものである。
また、本件発明8は、本件発明1,2,5〜7についてさらに「 前記外殻層の層厚と、前記第1の隣接クラッド層の層厚d1および第2の隣接クラッド層の層厚d2との合計は、50μm以上」との限定を付したものである。
そこで、上記付加事項について検討するに、
上記5-2-2.(1)[相違点3について]で、検討したように刊行物1に記載されたAl0.1Ga0.9N混晶基板の厚みは50μm以上であると容易に推認することができること、仮にそうでないとしても、上記刊行物3には、上記(カ)の段落【0014】に、本件の外殻に相当する基板が100μm以上、好ましくは150μm以上の膜厚であることが記載されているから、これを参酌することによっても、上記刊行物1に記載された基板の膜厚を、本件発明7,8の所望の厚さ(10μm以上ないしは第1の隣接クラッド層及び第2の隣接クラッド層の層厚との総和が50μm以上)とすることも当業者にとって容易であるといえることからみて、本件発明7及び8は、刊行物1〜3に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。

(6)本件発明9,13及び14について
本件発明9は、本件発明1,2,5〜8についてさらに「レーザ発振光のしみだし光が、前記外殻層において、前記活性層領域における発光強度のピーク値の10-6倍以下に減衰していること」との限定を付したものである。
また、本件発明13及び14は、各々本件発明1,2,5〜11、本件発明1,2,5〜11,13についてさらに「第1の隣接クラッド層の層厚が、1μm以上」、「第1の隣接クラッド層の層内平均Al組成比が、0.05以上」との限定を付したものである。
そこで、上記付加事項について検討するに、
本件発明9において上記事項を実現するための具体的手段は、訂正明細書の段落【0033】の記載によれば、第1の隣接クラッド層のAl組成比を0.05以上(本件発明14の特定事項でもある)、同層厚を1μm以上とした点(本件発明13の特定事項でもある)にあることは明らかであるところ、上記刊行物1には「100〜5000nm、好適には2000nmのn型Al0.1Ga0.9Nクラッド層12を成長させる。」と記載されているから、上記刊行物1に記載のものが、十分これら本件発明9,13及び14を満足することは明らかである。
したがって、本件発明9,13及び14は、刊行物1〜3に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。

(7)本件発明10について
本件発明10は、本件発明9についてさらに「外殻層は、10μm以上の厚みを有するAlGaN基板である」との限定を付したものである。
「外殻層は、10μm以上の厚みを有するAlGaN基板である」ことは、上記5-2-2.(1)[相違点3について]及び(5)で述べたとおりであり、したがって、本件発明10は、刊行物1〜3に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。

(8)本件発明11,17及び18について
本件発明11は、本件発明1,2,5〜10についてさらに「レーザ発振光に対する前記外殻層の層内平均屈折率が、レーザ導波モードの等価屈折率よりも小さいこと」との限定を付したものである。
また、本件発明17は、本件発明1,2,5〜11,13〜16についてさらに「活性層領域は、Inを含む発光層と光ガイド層とを有してなること」との限定を付したものである。
さらに、本件発明18は、本件発明1,2,5〜11,13〜17について「 レーザ発振光のレーザ層構造層厚方向の遠視野像において、スパイク状パターンのピーク強度が、前記遠視野像の最大ピーク強度の0.1倍以下であること」との限定を付したものである。
そこで、上記付加事項について検討するに、
刊行物1に記載された半導体レーザの層構成は、上記5-2-2.(1)a)で述べたように「Al0.1Ga0.9N混晶基板を用いて、その上にn型Al0.1Ga0.9Nクラッド層12、n型GaN 光ガイド層13、Ga0.9In0.1N活性層14、p型GaN 光ガイド層15、及びp型Al0.1Ga0.9Nクラッド層16を積層形成」したものであり、外殻(混晶基板)は、Al組成比が0.1のAlGaNであり、活性層は、それより屈折率の大きなGa0.9In0.1N発光層とGaN光ガイド層からなるから、かかる構成の層構造が、本件発明11における「レーザ発振光に対する前記外殻層の層内平均屈折率が、レーザ導波モードの等価屈折率よりも小さいこと」及び本件発明17における「活性層領域は、Inを含む発光層と光ガイド層とを有してなる」を満足することは明らかである。
さらに、本件発明18における「 レーザ発振光のレーザ層構造層厚方向の遠視野像において、スパイク状パターンのピーク強度が、前記遠視野像の最大ピーク強度の0.1倍以下であること」を実現するための具体的手段は、訂正明細書の段落【0057】などに記載されているように、レーザ発振光に対する前記外殻層の層内平均屈折率nsが、レーザ導波モードの等価屈折率neffよりも小さいこと、であるから、刊行物1に記載された半導体レーザの上記層構成が、これを満足することは明らかである。
したがって、本件発明11,17及び18は、刊行物1〜3に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。

(9)本件発明15及び16について
上記刊行物2の段落【0035】に、nコンタクト層(本件発明の外殻に相当)は、Al組成比が〜0.5のAlGaNで構成することが好ましい旨記載されており、この場合n型、p型両クラッド層のAl組成比は0.2である(上記刊行物2の段落【0032】)から、上記刊行物2に記載のものが、実質的に、外殻層のAl組成比が、両クラッド層のAl組成比よりも大きい場合も含むことは明らかである。
しかしながら上記刊行物2には、クラッド層の層面内歪に関し具体的な記載がないから、本件発明1及び5などにおいて規定した層面内歪の範囲内に収まるように、外殻層及び両クラッド層のAl組成比の大小のみならず膜厚まで含め検討した本件発明15及び16が、上記刊行物2に記載されたものから容易に想到し得たということはできない。
また、他の刊行物1,3〜5にもこれに関連する記載は見いだせない。

(10)本件発明19及び20について
上記刊行物5の上記(コ)の段落【0021】には、n型クラッド層及びp型クラッド層のAl組成比について「n型AlxGa1-xNクラッド層3のAl組成比xは0≦x≦1、p型AlzGa1-zNクラッド層5のAl組成比zは0≦z≦1」と記載されている。
これによれば、本件発明19の「p型クラッド層は、前記n型クラッド層よりも低いAl組成比を有すること」なるn型クラッド層及びp型クラッド層の組み合せも可能性がないとはいえないが、これは単に可能性を否定しないというにすぎず、具体的な組成比の大小を選択することがこれにより示唆されるとはいえないから、本件発明19が、上記刊行物5に記載されたものから容易に想到し得たということはできない。
また、本件発明20は、本件発明19を引用する発明であるから、上記と同様の理由で、刊行物5に記載されたものから容易に想到し得たということはできない。
さらに、他の刊行物1〜4にもこれに関連する記載は見いだせない。

6.むすび
以上のとおりであるから、請求項1,2,5〜11,13,14,17,18に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
また、請求項15,16,19,20にかかる発明の特許は、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、その特許を取り消すことはできない。さらに、他にその特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
III-V族窒化物半導体レーザ
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】外殻層、第1の隣接クラッド層、活性層領域および第2の隣接クラッド層をこの順で積層してなる構造を有し、前記活性層領域はIII族窒化物系材料により構成されてなるIII族窒化物半導体レーザであって、
前記外殻層は、主要構成元素としてAl、Ga、Nを含んでなるIII族窒化物系材料により構成される層であり、
前記外殻層、前記第1の隣接クラッド層、前記活性層領域および前記第2の隣接クラッド層はC面を主面としてC軸方向に積層され、かつ、前記第1の隣接クラッド層および前記第2の隣接クラッド層が層面内で歪みを有し、
前記第1の隣接クラッド層の層面内歪量をε1、層厚をd1μmと、
前記第2の隣接クラッド層の層面内歪量をε2、層厚をd2μmとしたとき、
-0.0048μm≦ε1・d1+ε2・d2≦0.0048μmを満たすように、
前記第1の隣接クラッド層の層面内歪量ε1と層厚d1、および第2の隣接クラッド層の層面内歪量ε2と層厚d2の組み合わせが選択され、
前記外殻層の層厚と、前記第1の隣接クラッド層の層厚d1および第2の隣接クラッド層の層厚d2との合計は、少なくとも10μm以上に選択されていることを特徴とするIII族窒化物半導体レーザ。
【請求項2】前記外殻層に対して、
-0.0024μm≦ε1・d1+ε2・d2≦0.0024μmを満たすように、
前記第1の隣接クラッド層の層面内歪量ε1と層厚d1、および第2の隣接クラッド層の層面内歪量ε2と層厚d2の組み合わせが選択されていることを特徴とする請求項1に記載のIII族窒化物半導体レーザ。
【請求項3】
【請求項4】
【請求項5】外殻層、第1の隣接クラッド層、活性層領域および第2の隣接クラッド層をこの順で積層してなる構造を有し、前記活性層領域はIII族窒化物系材料により構成されてなるIII族窒化物半導体レーザであって、
前記外殻層は、主要構成元素としてAl、Ga、Nを含んでなるIII族窒化物系材料により構成される層であり、
前記外殻層、前記第1の隣接クラッド層、前記活性層領域および前記第2の隣接クラッド層はC面を主面としてC軸方向に積層され、かつ、前記第1の隣接クラッド層および前記第2の隣接クラッド層が層面内で歪みを有し、
前記外殻層の層内平均Al組成比をy、
前記第1の隣接クラッド層の層面平均Al組成比をx1、層厚をd1μm、
前記第2の隣接クラッド層の層面平均Al組成比をx2、層厚をd2μmとしたとき、
-0.2μm≦(x1-y)・d1+(x2-y)・d2≦0.2μmを満たすように、
前記第1の隣接クラッド層の層面平均Al組成比x1と層厚d1、および第2の隣接クラッド層の層面平均Al組成比x2と層厚d2の組み合わせが選択され、
前記外殻層の層厚と、前記第1の隣接クラッド層の層厚d1および第2の隣接クラッド層の層厚d2との合計は、少なくとも10μm以上に選択されていることを特徴とするIII族窒化物半導体レーザ。
【請求項6】前記外殻層に対して、
-0.1μm≦(x1-y)・d1+(x2-y)・d2≦0.1μmを満たすように、
前記第1の隣接クラッド層の層面内歪量ε1と層厚d1、および第2の隣接クラッド層の層面内歪量ε2と層厚d2の組み合わせが選択されていることを特徴とする請求項5に記載のIII族窒化物半導体レーザ。
【請求項7】前記外殻層の層厚は、少なくとも10μm以上に選択されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体レーザ。
【請求項8】前記外殻層の層厚と、前記第1の隣接クラッド層の層厚d1および第2の隣接クラッド層の層厚d2との合計は、50μm以上に選択されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体レーザ。
【請求項9】レーザ発振光のしみだし光が、前記外殻層において、前記活性層領域における発光強度のピーク値の10-6倍以下に減衰していることを特徴とする請求項1〜8いずれか一項に記載のIII族窒化物半導体レーザ。
【請求項10】前記外殻層は、10μm以上の厚みを有するAlGaN基板であることを特徴とする請求項9に記載のIII族窒化物半導体レーザ。
【請求項11】レーザ発振光に対する前記外殻層の層内平均屈折率が、レーザ導波モードの等価屈折率よりも小さいことを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体レーザ。
【請求項12】
【請求項13】第1の隣接クラッド層の層厚が、1μm以上であることを特徴とする請求項1〜12のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体レーザ。
【請求項14】第1の隣接クラッド層の層内平均Al組成比が、0.05以上であることを特徴とする請求項1〜13のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体レーザ。
【請求項15】前記外殻層のAl組成比が、前記第2の隣接クラッド層のAl組成比よりも大きいことを特徴とする請求項1〜14のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体レーザ。
【請求項16】前記外殻層のAl組成比が、前記第1の隣接クラッド層のAl組成比よりも大きいことを特徴とする請求項15に記載のIII族窒化物半導体レーザ。
【請求項17】前記活性層領域は、Inを含む発光層と光ガイド層とを有してなることを特徴とする請求項1〜16のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体レーザ。
【請求項18】レーザ発振光のレーザ層構造層厚方向の遠視野像において、スパイク状パターンのピーク強度が、前記遠視野像の最大ピーク強度の0.1倍以下であることを特徴とする請求項1〜17のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体レーザ。
【請求項19】前記第1の隣接クラッド層および第2の隣接クラッド層のうち、
一方がp型クラッド層であり、他方がn型クラッド層であって、
前記p型クラッド層は、前記n型クラッド層よりも低いAl組成比を有することを特徴とする請求項1〜18のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体レーザ。
【請求項20】第1の隣接クラッド層がn型クラッド層であり、
第2のクラッド層がp型クラッド層であることを特徴とする請求項19に記載のIII族窒化物半導体レーザ。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、III-V族窒化物半導体レーザの構造に関し、素子歩留まり及び信頼性に優れ、光ディスク用途等に適した良好な基本横モードに整形されたレーザ光を放出できるIII-V族窒化物半導体レーザ構造を提供するものである。
【0002】
【従来の技術】一般式InxAlyGa1-x-yN(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦x+y≦1)で表される半導体を含むIII-V族窒化物半導体は緑から紫外にかけての発光ダイオード、半導体レーザへの応用が期待されている。III-V族窒化物半導体の成長の為の基板としては、サファイア基板が広く用いられてきたが、サファイア基板上に成長したIII-V族窒化物半導体は、結晶転位密度が大きく、特に半導体レーザのように動作電流密度の大きい素子では素子信頼性に問題があることがわかってきた。近年、数十μm以上の厚さの低転位GaN基板の作製が可能になり、信頼性に優れた半導体レーザの作製のためにはこれが必須であると認識されるようになってきた。
【0003】図20は、従来技術によるGaN基板上III-V族窒化物半導体レーザの第1の例の概略断面図である(従来例1:例えば、S.Nakamura他、Applied Physics Letters73NO.6,832ページから834ページ、1998年)。図20に於いて、このIII-V窒化物半導体レーザの層構造は、(0001)面(以下、C面)を表面とする厚さ100μmのGaN基板201上に、厚さ3μmのn型GaNコンタクト層202、厚さ0.1μmのn型In0.1Ga0.9Nクラック防止層203、厚さ1.2μmのn型Al0.14Ga0.86N/GaN超格子クラッド層204、厚さ0.1μmのn型GaN光ガイド層205、厚さ4nmのIn0.2Ga0.8N量子井戸層と厚さ10nmのIn0.02Ga0.98N障壁層からなる2周期の多重量子井戸構造活性層206、厚さ20nmのp型Al0.2Ga0.8Nキャップ層207、厚さ0.1μmのp型GaN光ガイド層208、厚さ0.6μmのp型Al0.14Ga0.86N/GaN超格子クラッド層209、厚さ0.05μmのp型GaNコンタクト層210、Ni/Auの2層金属からなるp電極211、Ti/Alの2層金属からなるn電極212が形成されている。図20において、p型クラッド層209とp型コンタクト層210はエッチングによって幅3μm程度のストライプ状のリッジ構造213に加工され、リッジの頂部を除いて形成されたSiO2膜214によって電流をリッジ部分のみに狭窄している。また、この場合のGaN基板201は絶縁体なので、エッチングによって段差215を形成し、n型コンタクト層202を露出した後にn電極212を形成している。図20に示された従来のIII-V窒化物半導体レーザの半導体層は全てC面を表面とする六方晶である。p型Al0.2Ga0.8Nキャップ層207は、活性層206を構成するInGaNのp型層成長中の蒸発防止と、電子がp型層へオーバーフローするのを抑制するために設けられている。
【0004】図21は、従来技術によるGaN基板上III-V族窒化物半導体レーザの第2の例の概略断面図である(従来例2:例えば、S.Nakamura他、Applied Physics Letters72NO.2,211ページから213ページ、1998年)。図21に於いて、このIII-V窒化物半導体レーザの層構造は、C面を表面とするサファイア基板220上の厚さ2μmのGaN層221と、該GaN層221上にストライプ状に形成されたSiO2マスク222と、厚さ10μmのGaN層223とからなるGaN基板、厚さ3μmのn型GaNコンタクト層224、厚さ0.1μmのn型In0.1Ga0.9Nクラック防止層225、厚さ1.2μmのn型Al0.14Ga0.86N/GaN超格子クラッド層226、厚さ0.1μmのn型GaN光ガイド層227、厚さ3.5nmのIn0.2Ga0.8N量子井戸層と厚さ10.5nmのIn0.02Ga0.98N障壁層からなる4周期の多重量子井戸構造活性層228、厚さ20nmのp型Al0.2Ga0.8Nキャップ層229、厚さ0.1μmのp型GaN光ガイド層230、厚さ0.6μmのp型Al0.14Ga0.86N/GaN超格子クラッド層231、厚さ0.05μmのp型GaNコンタクト層232、Ni/Auの2層金属からなるp電極233、Ti/Alの2層金属からなるn電極234が形成されている。図21において、p型クラッド層231とp型コンタクト層232はエッチングによって幅3μm程度のストライプ状のリッジ構造235に加工され、リッジの頂部を除いて形成されたSiO2膜236によって電流をリッジ部分のみに狭窄している。また、この場合のGaN基板は絶縁体なので、エッチングによって段差237を形成し、n型コンタクト層224を露出した後にn電極234を形成している。図21に示された従来のIII-V窒化物半導体レーザの半導体層は全てC面を表面とする六方晶である。従来例1と従来例2の半導体レーザ構造の違いは、主にGaN基板の層構造の違いである。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】図20及び21に示された従来例1、2のIII-V窒化物半導体レーザは、基板に低転位のGaN基板を用いているためにレーザ結晶の転位が少なく、サファイア基板を用いた場合よりもレーザの信頼性に優れている。また、エッチングにより形成された、幅3μmのリッジ構造によって電流狭窄を行なっているために発振しきい値電流が小さくなっている。更に、リッジ部分とそれ以外の部分で実効的な活性層の屈折率差ができるので、図20及び21のレーザ構造断面内での光導波ができ、基本モードの楕円形のレーザ光が放射される。レーザ光の放射パターンが基本モードであることは、光ディスク用光源などの用途では、レンズによる集光で小さいスポットが得られるため重要である。
【0006】しかしながら、図20及び21に示された従来例1、2のIII-V窒化物半導体レーザは、以下のような課題を有していた。
【0007】第一の課題は、半導体レーザの製造過程で結晶欠陥やクラックが発生しやすいことである。
【0008】基板に用いるGaNとクラッド層に用いるAlGaNには大きい格子定数差があり、クラッド層には大きい歪が生じる。クラッド層における歪はC面内歪であり、クラッド層のC面内格子定数がGaN基板のC面内格子定数と一致するように結晶が形成されるために生じるが、このときのクラッド層内平均歪量εは、超格子クラッド層と同じ層内平均Al組成比を持つ歪のないAlGaN層のC面内格子定数aと、GaN基板のC面内格子定数aGaNとを用いて、
ε=(aGaN-a)/a
と表わされる。εが正の時は引張り歪、負のときは圧縮歪になる。GaN基板上に形成されたAlGaN層においては、AlGaN層のAl組成比増大と共にεが増大し、Al組成比とC面内歪量εの間に図22に示すような関係がある。例えば、Al0.07Ga0.93Nクラッド層ではεが0.0017(0.17%)程度の引張歪が生じる。従来例1のn型及びp型超格子クラッド層での基板面内平均歪量は、層内平均Al組成比がAl0.07Ga0.93Nと等しいのでこれと同様である。このような比較的大きい歪の結果、クラックが発生しやすくなっている。このクラック発生は、クラッド層での歪量と層厚の積がほぼ一定値を超えると急激に増加する。活性層でのキャリアおよび光の閉込の為には、ある程度以上のクラッド層平均Al組成比および層厚は必要であり、従来例1の半導体レーザ層構造は、この要請とクラック抑制の要請のぎりぎりの妥協点となっている。活性層でのキャリアおよび光の閉込を更に改善するためにクラッド層を厚くする、または平均Al組成比を増大していくと、結晶欠陥が増大して活性層の発光効率が低下する。また、レーザ結晶全体にクラックが発生しやすくなり、素子歩留まりが極端に低下する。また、結晶欠陥及びクラックの発生しやすいレーザ結晶を用いた素子では、素子寿命低下の問題もある。更に、クラック発生の臨界条件に近い層構造において、結晶形成直後にクラックが少ない場合でも、エッチング、劈開、素子分離、ワイヤーボンディングなどのデバイスプロセスにおいてクラックが新たに発生しやすいため、最終的な素子歩留まりは低くなる。ちなみに、従来例2のようにサファイア基板を有する構造では、従来例1と同様なクラッド層歪によるクラック発生の問題に加えて、サファイアとAlGaNとの間の熱膨張係数差が大きいため、結晶成長後の冷却中の熱膨張差によるクラック発生の問題も大きい。
【0009】従来例1、2では、結晶欠陥及びクラックの抑制の為に、歪緩和層としてInGaNクラック防止層203を用い、クラッド層にAlGaN混晶を用いる代わりに歪に強い超格子クラッド層204、209を用いているが、クラック発生を抑制して素子歩留まりを高くするためには十分でない。また、導波モードの活性層への光閉込を改善するために超格子クラッド層を厚膜化したり、超格子クラッド層の平均Al組成比を大きくすると結晶欠陥及びクラックが発生しやすくなり、活性層発光効率及び素子歩留まりが極端に低下する。
【0010】従来技術における第二の課題は、基板にレーザ光が漏れて、レーザ光の層厚方向放射パターン内にスパイク状のパターンが発生することである(例えば、S.Nakamura他、Applied Physics Letters73NO.6,832ページから834ページ、1998年)。図23に、従来例1に相当する半導体レーザ層構造における、屈折率の層厚方向での分布を示す。屈折率はレーザ光波長での屈折率を意味し、レーザ光波長は400nmとした。超格子クラッド層は平均組成比のAlGaN混晶で置き換え、活性層の屈折率は量子井戸層とバリア層の層厚による加重平均の値を示した。図23には、破線でレーザ光の導波モードの等価屈折率neffを示した。等価屈折率は、各層の屈折率をレーザ光導波モードの電界強度分布で加重平均したものである。
【0011】図24には、図23における屈折率を求めるために使った、AlxGa1-xNのAl組成比xと屈折率の関係を示す。Al組成比xの増加と共に屈折率は減少する。図23に示したように、GaN基板の屈折率は導波モードの等価屈折率neffより大きくなるため、GaN基板にレーザ光が漏れてしまう。
【0012】図25には、図23の層構造の半導体レーザ内部の層厚方向の電界強度分布(以下、近視野像)をGaN基板表面付近の領域のみ示した。電界強度は活性層での最大電界強度で規格化してある。図25の近視野像においては、GaN基板に電界が分布し、基板裏面までほぼフラットな電界強度分布になっている。この時のGaN基板内での電界強度は、活性層での最大電界強度の10の5乗分の1程度になっている。
【0013】図26にはレーザ素子の遠方でのレーザ光放射パターン(以下、遠視野像)を示す。遠視野角の0度は、スパイクを除いたレーザ遠視野像のピーク強度位置とした。図26の遠視野像においては、スパイク状のパターンが遠視野角21度付近に見られる。遠視野平面内では、このようなスパイク状のパターンはスポット光として観測される。このようなスポット光は、例えば光ディスク用レーザとして用いた場合にディスクトラック制御のエラー発生を引き起こし、実用上大きな問題がある。また、GaN基板への光の漏れの為に活性層への光閉込が低下する。
【0014】一方、活性層への光閉込を改善するために、n型GaNコンタクト層202、224をn型AlGaNコンタクト層で置き換えた層構造が示されている(特開平10-41581号公報)。特開平10-41581号公報には、サファイア基板上に、低温成長薄膜GaNバッファ層を介してn型AlGaNコンタクト層を形成した半導体レーザの実施例が記載されている。この発明では、低温成長薄膜GaNバッファ層上に、従来のようにn型GaNコンタクト層を形成せずに、直接n型AlGaNコンタクト層を形成するのが特徴であると述べられている。このようなn型AlGaNコンタクト層のAl組成比を充分大きく(例えばAl組成比0.07以上)、かつ層厚を厚く(例えば2μm以上)すれば、活性層への光閉込は改善され、上記のようなスパイク状のレーザ放射パターンは抑制される。しかしながら、われわれの実験によれば、低温成長薄膜バッファ層上に、直接Al組成比の大きいn型AlGaNコンタクト層を形成した場合は、n型AlGaNコンタクト層およびこの上に形成される活性層などの半導体層に多くの結晶欠陥が導入され、活性層の発光効率が極端に低下することが見出された。このような傾向は、n型AlGaNコンタクト層のAl組成比を大きくするほど、また層厚を大きくするほど顕著になり、活性層への光閉込を改善するために必要なAl組成比及び層厚(Al組成比0.07以上、かつ層厚2μm以上)のn型AlGaNコンタクト層を形成した場合は、n型GaNコンタクト層を用いた場合に比べて発光効率は数分の1から1/100に低下した。これは、AlGaN層の格子定数がAl組成比増大と共に小さくなり、格子歪が増大して結晶に欠陥が導入されるものと推察される。このような傾向は、従来例1及び2のように、低温成長薄膜バッファ層を用いずにGaN基板を用いた場合でも同様であった。更に、特にGaN基板を用いた場合は、レーザ結晶全体に多くのクラックが発生し、素子歩留まりが極端に低下した。
【0015】上記の課題に加えて、従来例2のようにサファイア基板を用いた場合においては、レーザ結晶に反りが生じるという課題があった。III-V窒化物半導体層とサファイア基板とは格子定数や結晶構造あるいは熱膨張係数などの点で異なっており、これはサファイアに限らず、炭化珪素あるいはMgAl2O4などの基板材料を有するレーザ結晶でも同様である。ウェーハの反りが深刻な場合、レーザストライプ形成時のリソグラフィ、ウエハ整形、ミラー形成の為の劈開等の工程において問題が生じ、素子歩留まり低下の原因になる。また、サファイア基板は絶縁体であるため、電極を基板裏面に形成することができず、従来例2のようにエッチングによってコンタクト層を露出してn電極を形成する必要がある。
【0016】一方、従来例1の半導体レーザでは、単体GaNを基板としている為、上記のような異種材料基板を用いることによる問題点はなく、GaN基板をn型とすればn電極を基板裏面に形成することも可能である。しかしながら、前述のように、半導体レーザのクラッド層となるAlを含んだIII-V窒化物半導体、例えばAlGaNとGaN基板との間には比較的大きい格子定数差が存在し、結晶欠陥及びクラックが発生しやすく、素子特性、素子寿命及び素子歩留まりを極端に低下させる。このような状況は、特開平10-41581号公報のようにAlGaNからなるn型コンタクト層を挿入した場合には更に悪化することになる。
【0017】以上のように、従来技術によるIII-V窒化物半導体レーザは、第一に、結晶欠陥の増大とクラック発生により素子特性が悪化し、素子歩留まり低下および信頼性が低下するという課題を有していた。第二に、基板への光の漏れにより活性層光閉込率が低下し、スパイク状遠視野パターンが発生するという課題を有していた。
【0018】そこで本発明の目的は、結晶欠陥及びクラック発生の問題が小さく素子信頼性及び歩留まりに優れ、良好な基本横モードに整形されたレーザ光を放出でき、閾値電流及び電圧が低いIII-V族窒化物半導体レーザ構造を提供することである。
【0019】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記した第一の課題と第二の課題を同時に解決するためには、レーザを構成する各層のいかなる特性に着目し、かかる特性をどのように制御すれば良いか、種々の検討を行い、本発明に到達したものである。半導体レーザの光閉じ込め率を向上させるためには、たとえば、クラッド層の屈折率を下げる(クラッド層のAl組成比を増加させる)、あるいは、クラッド層の厚みを増す、といった方法が有効であるが、このようにすると、通常はクラック耐性が低下することとなる。このため、従来技術においてはクラック耐性を良好に維持しつつ光閉じ込め率を向上させることが困難であった。そこで本発明は、クラック発生を防止できる条件を特定のパラメータを用いて明確にしている。したがって、この条件を満たす範囲内において半導体レーザを構成するクラッド層や外殻層の層厚、組成を自由に設定し、光閉じ込めに有利なレーザ構造を実現することが可能となる。これにより、結晶欠陥やクラックの発生を防止しつつ、良好な光閉じ込め率を有する半導体レーザを得ることができる。以下、本発明の構成および作用について説明する。
【0020】本発明によれば、第1の隣接クラッド層、活性層領域および第2の隣接クラッド層がこの順で積層した構造を有し、活性層領域はIII-V族窒化物系材料により構成されたIII-V族窒化物半導体レーザであって、前記外殻層は、主要構成元素としてAl、Ga、Nを含んでなるIII族窒化物系材料により構成される層であり、前記外殻層、前記第1の隣接クラッド層、前記活性層領域および前記第2の隣接クラッド層はC面を主面としてC軸方向に積層され、かつ、前記第1の隣接クラッド層および前記第2の隣接クラッド層が層面内で歪みを有し、第1の隣接クラッド層の層厚をd1μm、第2の隣接クラッド層の層厚をd2μm、第1の隣接クラッド層の層面内歪量をε1、第2の隣接クラッド層の層面内歪量をε2としたときに、-0.0048μm≦ε1・d1+ε2・d2≦0.0048μmを満たすことを特徴とするIII-V族窒化物半導体レーザが提供される。
【0021】ここでクラッド層には、AlN、GaN、InN、BNの2元窒化物のいずれか、或いはこれら2元窒化物の2つ以上の組み合わせからなる混晶を用いることができる。
【0022】この半導体レーザは、結晶成長時における結晶欠陥やクラックの発生を有効に防止されるので、素子信頼性および歩留まりに優れている。
【0023】この半導体レーザにおいて、さらに、-0.0024μm≦ε1・d1+ε2・d2≦0.0024μmを満たすこととすれば、結晶成長時のみならず劈開工程やワイヤボンディング工程等のデバイス形成プロセスにおいても、結晶欠陥やクラックの発生を有効に防止されるため、素子信頼性および歩留まりの点で顕著な改善効果が得られる。なお、上記のε1・d1+ε2・d2の範囲を満たした上でε1・d1+およびε2・d2の絶対値を、それぞれ0.0024以下とすれば、結晶欠陥やクラックの発生をさらに有効に防止することができる。
【0024】
【0025】ここでクラッド層には、AlN、GaN、InN、BNの2元窒化物のいずれか、或いはこれら2元窒化物の2つ以上の組み合わせからなる混晶を用いることができる。
【0026】この半導体レーザは、結晶欠陥やクラックの発生を有効に防止されるので、素子信頼性および歩留まりに優れている。
【0027】
【0028】なお、「格子定数不整合に起因する面内歪量」とは、クラッド層と、基板との間の格子定数不整合によって生じる面内歪み量であって、実質的にクラッド層および基板との格子定数の差のみによってその大きさが決定する。
【0029】以上述べた半導体レーザにおいて、第1の隣接クラッド層は、活性層領域側と反対側の面において、Alを含むIII-V族窒化物系材料により構成された外殻層と接している構成とすることもできる。
【0030】また本発明によれば、外殻層、第1の隣接クラッド層、活性層領域および第2の隣接クラッド層がこの順で積層した構造を有し、活性層領域はIII-V族窒化物系材料により構成され、外殻層はAlを含むIII-V族窒化物系材料により構成されたIII-V族窒化物半導体レーザであって、前記外殻層は、主要構成元素としてAl、Ga、Nを含んでなるIII族窒化物系材料により構成される層であり、前記外殻層、前記第1の隣接クラッド層、前記活性層領域および前記第2の隣接クラッド層はC面を主面としてC軸方向に積層され、かつ、前記第1の隣接クラッド層および前記第2の隣接クラッド層が層面内で歪みを有し、第1の隣接クラッド層の層厚をd1μm、第2の隣接クラッド層の層厚をd2μmとし、第1の隣接クラッド層、第2の隣接クラッド層および外殻層の各層内平均Al組成比を、それぞれ、x1、x2、yとしたときに、
-0.2μm≦(x1-y)・d1+(x2-y)・d2≦0.2μm
を満たすことを特徴とするIII-V族窒化物半導体レーザが提供される。
【0031】この半導体レーザは、結晶欠陥やクラックの発生を有効に防止されるので、素子信頼性および歩留まりに優れている。
【0032】この半導体レーザにおいて、さらに、
-0.1μm≦(x1-y)・d1+(x2-y)・d2≦0.1μm
を満たすこととすれば、結晶成長時のみならず劈開工程やワイヤボンディング工程等のデバイス形成プロセスにおいても、結晶欠陥やクラックの発生を有効に防止されるため、素子信頼性および歩留まりの点で顕著な改善効果が得られる。なお、(x1-y)・d1および(x2-y)・d2の絶対値を、これらの和に関する上記範囲を満たした上でそれぞれ0.1μm以下とすれば、結晶欠陥やクラックの発生をさらに有効に防止することができる。
【0033】本発明の半導体レーザにおいて、さらに、外殻層において、活性層領域における発光強度のピーク値の10-6倍以下に減衰している構成とすることが好ましい。このようにすれば、結晶欠陥およびクラック発生を抑制しつつ、外殻層への光の漏れを防止することができるため、高い活性層光閉込率と低い閾値電流及び閾値電圧を両立することができる。なお、上記のように、外殻層において活性層領域における発光強度の10-6倍以下に減衰する構成を実現するための具体的手段は、たとえば発光波長390〜430nmの半導体レーザでは、第1の隣接クラッド層のAl組成比を好ましくは0.05以上、より好ましくは0.07以上、最も好ましくは0.1以上とすることが有効である。また、第1の隣接クラッド層の厚みを好ましくは1μm以上、より好ましくは2μm以上とすることも有効である。
【0034】発光波長がこれと異なる場合は、Al組成および層厚の好ましい値は異なってくる。
【0035】本発明において、外殻層は、たとえばレーザ素子を形成するための基板に該当するものである。外殻層の厚みは、ハンドリングや機械強度などのレーザ結晶加工上の要請から、好ましくは10μm以上、さらに好ましくは50μm以上とする。なお、クラッド層の厚みが充分に大きければ外殻層の厚みは必ずしも大きい必要はない。外殻層と全クラッド層の合計層厚を、好ましくは10μm以上、さらに好ましくは50μm以上とすればよい。
【0036】本発明において、外殻層は、AlGaNからなる層、すなわち、主要構成元素としてAl、GaおよびNを有する層であることが好ましく、さらに、10μm以上の厚みを有するAlGaN基板であることがより好ましい。このようにすれば、クラックおよび結晶欠陥の発生、基板の反りの問題を解消するとともに、高い光閉じ込め率を実現するのに有利なレーザ構造が得られる。
【0037】この場合には、外殻層には格子定数を変えないドーピング程度の量、即ち原子組成比で0.1%程度以下の量でAl,Ga,N以外の原子、例えばInなどを含んでいても良い。
【0038】外殻層をAlGaNからなる層とする場合、厚膜、低転位、かつクラックフリーで層形成を行うことが重要となる。このような層形成は従来困難であったが、近年、サファイアなどの基板上に厚膜かつ低転位のGaN層をクラックフリーで形成できるエピタキシャル成長技術が示されている(例えば、A.Usui,Material Research Society Symposium Proceeding vol.482,233ページから244ページ、1998年)。また、このような低転位GaN結晶からサファイア等の基板を除去することにより、厚膜かつ低転位のGaN層をクラックフリーで得ることができる。この技術を応用して、サファイアなどの基板上に厚膜かつ低転位のAlを含んだIII-V窒化物半導体層をクラックフリーで形成することができる。更に、サファイア等の基板を除去することにより、厚膜かつ低転位のAlを含んだIII-V窒化物半導体層をクラックフリーかつ残留歪の小さい状態で得ることができる。本発明は、このような状況のもとに考案されたものである。
【0039】本発明において、レーザ発振光に対する外殻層の層内平均屈折率が、レーザ導波モードの等価屈折率よりも小さい構成とすることが好ましい。このようにすれば結晶欠陥およびクラック発生を抑制しつつ、外殻層への光の漏れを防止できる。
【0040】本発明において、外殻層と第1のクラッド層との間に、GaN層をさらに有する構成とすることもできる。このようなGaN層は、活性層への光閉込に問題のない程度に層厚が小さいことが好ましい。たとえば、0.1μm以下であればよい。このようにすれば、外殻層を形成する結晶成長工程と、クラッド層および活性層を形成する結晶成長工程が連続していない場合に、前者の結晶成長工程で外殻層表面をGaNでカバーしておき、Alを含む半導体層表面の酸化を防止して、後者の結晶成長工程での成長開始界面を清浄に保つことができる。
【0041】本発明において、第1の隣接クラッド層の層厚を1μm以上とすれば、結晶欠陥およびクラック発生を抑制しつつ、良好な光閉じ込め率を実現できる。また、第1の隣接クラッド層の層内平均Al組成比を0.05以上とすれば、結晶欠陥およびクラック発生を抑制しつつ、良好な光閉じ込め率を実現できる。これらの効果は、特に、たとえば、光ディスク用途に用いる発光波長390〜430nmの半導体レーザにおいて顕著となる。
【0042】本発明において、外殻層のAl組成比が、第2の隣接クラッド層のAl組成比よりも大きい構成とすることもできる。このようにすれば、第2の隣接クラッド層に圧縮歪がかかることになり、結晶欠陥やクラックの発生がより効果的に防止される。引張歪よりも圧縮歪の方が同じ歪量でもクラック発生が少ないからである。ここで、第2の隣接クラッド層をp型クラッド層とした場合、pコンタクトの信頼性向上に効果がある。pクラッド層でのクラック発生は、pコンタクト劣化を引き起こしやすいためである。また、このような構成の半導体レーザにおいて、外殻層のAl組成比が、第1の隣接クラッド層のAl組成比よりも大きい構成としてもよい。このようにすれば、第1および第2の隣接クラッド層に圧縮歪がかかることになり、一層効果的に結晶欠陥やクラックの発生を防止することができる。
【0043】本発明における活性層領域の構造は特に制限がないが、たとえば、Inを含む発光層と光ガイド層とを有してなる構造とすることができる。このようにすれば光ディスク用途で重要な波長帯390から430nmでの半導体レーザが得られる。
【0044】本発明において、レーザ発振光のレーザ層構造層厚方向の遠視野像において、スパイク状パターンのピーク強度が、遠視野像の最大ピーク強度の0.1倍以下である構成とすることが好ましい。このようにすれば、結晶欠陥およびクラック発生を抑制しつつ、良好な光閉じ込め率を実現できる。これにより、たとえば光ディスク用途に用いた場合、ディスクトラック制御のエラー発生を低減できるという効果が得られる。なお、光ディスク用途に用いる場合、レーザの発光波長は、390〜430nm程度とする。ここで、スパイク状パターンとは、レーザ発振光のレーザ層構造層厚方向の遠視野像において、活性層領域以外からの発光に由来する発光パターンをいう。スパイク状パターンのピーク強度とは、スパイク状パターンの現れた領域の発光強度から本来のレーザ発振光の発光強度を差し引いたものの絶対値をいう。たとえば図27においては、hで示される強度が本発明におけるスパイク状パターンのピーク強度に相当する。上記のようにスパイク状パターンのピーク強度を、本来のレーザ発振光の遠視野像の最大ピーク強度の0.1倍以下とすることが好ましいが、スパイク状パターンが実質的に現れないようにすることがより好ましい。このようにすれば光閉じ込め率を一層向上でき、特に光ディスク用途に用いた場合におけるディスクトラック制御エラーの低減効果がより顕著となる。
【0045】本発明において、活性層領域および第1、第2の隣接クラッド層は、たとえば、GaN、InN、AlN、InGaN混晶、AlGaN混晶、InAlGaN混晶、GaN/AlGaN超格子、またはInAlGaN/InAlGaN超格子のいずれかより選択されたIII-V族窒化物半導体材料の単一膜又は多層膜からなる構成とすることができる。
【0046】本発明において、第1および第2の隣接クラッド層のうち一方がp型クラッド層であり他方がn型クラッド層であって、p型クラッド層は、n型クラッド層よりも低いAl組成比を有する構成とすることができる。このようにすれば、結晶欠陥およびクラック発生を抑制しつつ、素子抵抗を低くすることができる。p型AlGaN層は、Al組成が大きいほど抵抗が高くなる傾向があるためである。ここで、第1の隣接クラッド層がn型クラッド層とし、第2のクラッド層がp型クラッド層とすれば、光閉じ込め率も良好な値に維持される。
【0047】
【0048】本発明において、第1のクラッド層の下部に外殻層を設けず、第1のクラッド層が基板の役割、あるいは外殻層が第1クラッドの役割を兼ねる構成とすることもできる。この場合、第1のクラッド層あるいは外殻層の厚みは、好ましくは10μm以上、より好ましくは50μm以上とする。このようにすればクラッド層に生じる歪みをより小さくすることができ、結晶欠陥やクラックの発生をより一層効果的に防止することができる。また、成膜プロセスを簡略化できるという利点も得られる。一方、第1のクラッド層の下部に基板の役割を果たす外殻層を設けた場合、製造上の制約が少なくなる場合がある。たとえばこれらの層をAlGaNにより構成する場合、第1のクラッド層に対しては、光閉じ込め率を高くするため、Al組成比を大きくすることが望まれる。一方、外殻層に対しては、前述のようにクラッド層よりAl組成を大きくしてクラッド層に圧縮歪をかける構成が可能になる。また、逆にクラッド層よりAl組成を小さくして、外殻層形成の安定性を増すことも可能である。このように、クラッド層と基板として機能する外殻層とは、求められる性質が異なるため、それぞれ異なる組成とし、異なるプロセスで形成する方が有利な場合もある。
【0049】
【発明の実施の形態】III-V族窒化物半導体レーザでは、通常、活性領域はInGaNなどのバンドギャップの小さいIII-V族窒化物半導体からなる発光層とこれよりバンドギャップの大きいIII-V族窒化物半導体からなる光ガイド層とから構成され、クラッド層はキャリアと光を発光層に閉じ込めるためにAlGaN混晶、GaN/AlGaN超格子等の光ガイド層よりバンドギャップが大きくかつ屈折率の小さいIII-V族窒化物半導体が用いられる。以下の説明では、活性領域がInGaN多層膜からなる発光層とGaNからなる光ガイド層で構成され、クラッド層がAlGaN混晶で構成されており、これらIII-V族窒化物半導体層が全てC面を主面とする六方晶である場合について説明する。クラッド層にGaN/AlGaN超格子を用いた場合は、超格子の平均組成比のAlGaN混晶と同様に考えることができる。本発明のIII-V族窒化物半導体レーザでは、面内格子定数がクラッド層に近いIII-V族窒化物半導体とクラッド層とを用いてレーザ層構造の大部分を形成する。そのため、レーザ層構造全体の歪は低減され、クラック発生は大きく低減できる。発明者は、結晶成長直後、およびデバイスプロセス後にクラックが生じない層構造条件について実験を行なった。結晶成長直後のクラック発生が少ない条件としては、GaNを基板とし、n、pクラッド層がAlGaN混晶である場合は、nクラッド層層厚d1、pクラッド層層厚d2、nクラッド層Al組成比x1、pクラッド層Al組成比x2を用いて-0.1μm≦x1・d1+x2・d2≦0.1μmの関係を満たす場合であることを見出した。層厚はμm単位であり、n、pクラッドが基板に対してどちら側にあるかは本質的ではない。この条件は、図22のAl組成比と歪の関係が、ほぼ歪量=0.0242×Al組成比の関係になっているため、nクラッド層歪量ε1、pクラッド層歪量ε2を用いて-0.0024μm≦ε1・d1+ε2・d2≦0.0024μmの条件、と言い換えることができる。歪量は引張歪の時に正、圧縮歪の時に負である。
【0050】さらに、Al組成0.03のAlGaN基板を用いて同様な実験を行なった。その結果、クラック発生の少ない条件は基板のAl組成yをもちいて、-0.2μm≦(x1-y)・d1+(x2-y)・d2≦0.2μmの関係を満たす場合であることを見出した。図1には、AlxGa1-xNクラッド層とAlyGa1-yN基板とのAl組成比差(x-y)とクラッド層での歪量εの関係を示す。基板は無歪である。上記のAl組成と層厚に関する条件は、図1の関係を用いると、nクラッド層歪量ε1、pクラッド層歪量ε2を用いて-0.0048μm≦ε1・d1+ε2・d2≦0.0048μmの条件、と言い換えることができる。この条件は、GaN基板の場合よりも広い。この理由については以下のように推測している。クラッド層にクラックが発生する場合は基板にもクラックが伝播する。従って、基板の結晶結合が強くなればクラックの伝播が抑制され、クラック発生が抑制されると考えられる。Al-Nの結晶結合はGa-Nの結合よりも強いため、GaNよりAlGaNの平均的結晶結合は強いと考えられる。以上の理由により、AlGaN基板とすることによりクラック発生の臨界条件が広くなったものと思われるが、詳細は不明である。
【0051】以上のような関係を満たせば、結晶成長直後のクラック発生を効果的に防止できるが、より高水準の品質の半導体レーザを得るためには、更に、結晶成長後のデバイスプロセス時のクラック発生を有効に防止することが重要となる。結晶成長後のデバイスプロセス時のクラック発生が起きにくい条件は、前述の条件よりも厳しく、-0.1μm≦(x1-y)・d1+(x2-y)・d2≦0.1μm、または-0.0024μm≦ε1・d1+ε2・d2≦0.0024μmであった。以下に、結晶成長直後にクラック発生が起きにくい条件をクラック抑制条件1、結晶成長直後のみならずデバイスプロセス時のクラック発生が起きにくい条件をクラック抑制条件2と呼ぶ。なお、以上のクラック抑制条件の範囲内でも、クラッド層に若干圧縮歪がかかる場合の方が、引張歪がかかる場合よりもクラック発生が少ない傾向にある。クラック抑制条件1を満たすようにクラッド層とAlGaN基板(以下、外殻層)のAl組成差とクラッド層層厚の関係、またはクラッド層での歪量とクラッド層層厚の関係を調整すれば結晶成長直後のクラック発生は減少する。さらに、クラック抑制条件2を満たすようにクラッド層と外殻層のAl組成差とクラッド層層厚の関係、またはクラッド層での歪量とクラッド層層厚の関係を調整すれば結晶成長直後のみならずデバイスプロセス時のクラック発生は減少する。
【0052】上記したように本発明によれば、クラック発生を防止できる範囲がパラメータ等によって明確にされており、この条件を満たす範囲内でクラッド層および外殻層の厚みや組成を自由に設定することが可能となる。光閉じ込め率を向上させるためには、クラッド層の屈折率を下げる(クラッド層のAl組成比を増加させる)、あるいは、クラッド層の厚みを増す、等の方法が有効であるが、本発明においては、上記条件を満たす範囲内でクラッド層の屈折率を可能な限り下げることができ、また、クラッド層の厚みを可能な限り上げることができる。したがって、クラック耐性を良好に維持しつつ光閉じ込め率を効果的に向上させることができる。以下、本発明による活性層への光閉込の改善について述べる。
【0053】後述する実施例1では、外殻層のAl組成比を0.07、層厚を80μmとし、nおよびpクラッド層の組成比はこれと同じとしている。このためクラッド層での歪量は0となっており、優れた耐クラック特性が得られる。また、各クラッド層のAl組成比を高くしているため、光閉じ込め率も良好であり、活性層の下部層構造への光放射は有効に抑制される。
【0054】図2に、実施例1のレーザ層構造の屈折率の層厚方向での分布を示す。屈折率はレーザ光波長での屈折率を意味し、レーザ光波長は400nmとした。活性層の屈折率は量子井戸層とバリア層の層厚による加重平均の値として示した。図2中、破線でレーザ光の導波モードの等価屈折率neffを示した。外殻層の屈折率は導波モードの等価屈折率neffより小さくなり、これにより、活性層の下部層構造への光放射はほぼ完全に抑制される。
【0055】図3には、本発明の実施例1による半導体レーザの近視野像を、外殻層とこれに接するクラッド層との界面付近の領域のみを示した。電界強度は、活性層での最大電界強度で規格化してある。図3の近視野像においては、下部クラッド層とこれに接するクラッド層との界面付近で電界強度は指数関数的に減少して、活性層から2μm離れると殆ど電界分布がなくなる。この位置での電界強度は、活性層での最大電界強度の10-6倍以下になっている。
【0056】図4にはレーザ光のレーザ結晶層厚方向遠視野像を示す。遠視野角の0度は、スパイクのないレーザ遠視野像のピーク強度位置とした。図4の遠視野像においては、図26の従来例の遠視野像と異なり、スパイク状のパターンはまったく見られない。なお、導波モードの等価屈折率neffと、外殻層の屈折率nsの差は、図26に示したようなスパイク状のパターンが現れる遠視野角Θにより知ることが出来る。従来例のようにneff<nsであればスパイク状パターンが観測され、次のような関係が成り立つ。
【0057】
【数1】

neffとnsの差が大きくなるとΘは大きくなっていく。また、本発明の実施例1のようにneff>nsであればスパイク状パターンが観測されない。以上の効果に加えて、本発明の実施例1では、レーザ光の活性層下部層構造への漏れが小さいため、活性層への光閉込率は従来例に比べて大きくなり、半導体レーザの閾値が低減できる。
【0058】また、外殻層のAl組成比をn、pクラッド層のAl組成比を等しくしたまま大きくしていくと、クラッド層での歪量を0としてクラック抑制条件を満たしつつ、活性層での光閉込率を増大することができ、半導体レーザの発振しきい値を低下させることができる。この適用例が実施例2,3(後述)である。この場合も、スパイクの発生しない条件であるneff>nsの条件は満たされている。
【0059】なお、本発明においては外殻層とこれに接するクラッド層、その他のクラッド層の各Al組成比は必ずしも一致させる必要はなく、クラック抑制条件の範囲内でこれらのAl組成比は異なっていてもよい。これに加えて、外殻層での屈折率がレーザ導波光の等価屈折率より小さいように設定しておけば、遠視野像におけるスパイク状パターンは完全に抑制できる。本発明の実施例4から6(後述)の層構造は以上の条件を満たしている。
【0060】また、neff<nsとなる場合でも、外殻層とクラッド層の組成比差が小さい場合は前記クラック抑制条件の範囲内でnクラッド層を厚くできるため、nクラッド層内で光が十分に減衰し、外殻層での電界強度は活性層での最大電界強度の10-6倍以下に低減でき、スパイクは殆ど見られず、光ディスク用途では問題にならない。この適用例が実施例7(後述)である。
【0061】また、外殻層と下部クラッド層との間にGaN等の他のIII-V族窒化物半導体層が挿入されていてもよく、このようなIII-V族窒化物半導体層の層厚が十分に薄ければ、クラックの抑制効果、光閉込改善の効果は同様である。このようなIII-V族窒化物半導体層の層厚は、0.5μm以下、望ましくは0.2μm以下、更に望ましくは0.1μm以下であれば活性層への光閉込に影響が小さい。さらに、外殻層の更に下部にGaN等の他のIII-V族窒化物半導体層が挿入されていてもよく、外殻層の層厚が十分に厚く外殻層表面付近での残留歪が十分に小さければ、クラック抑制条件は他の実施例と同様に満たされる。この適用例が実施例8(後述)である。また、外殻層が導電型であり、かつ外殻層のバンドギャップが十分に大きい場合はこれに接するクラッド層を省略することもできる。
【0062】以上のように本発明により、クラック抑制条件を満たしつつ、活性層への光閉込が改善されてレーザの発振閾値を低減でき、従来例において問題であったレーザ構造層厚方向の遠視野像におけるスパイク状パターンは完全に或いは光ディスク用途に問題にならない程度に抑制される。従って、光ディスク用レーザとして用いた場合にディスクトラック制御のエラー発生がなく、このような用途に適した放射パターンが得られる。
【0063】次に、本発明によるレーザ素子抵抗低減効果について述べる。n型クラッド層のAl組成比とp型クラッド層のAl組成比をほぼ同様に大きくしていくと、活性層への光閉込は向上するが、p型クラッド層の抵抗率はAl組成比の増大と共に大きくなる傾向があり、素子抵抗が増大してしまう。
【0064】そこで、n型クラッド層のAl組成比は大きくしても、p型クラッド層のAl組成比をこれよりも低く保っておけば、p型クラッド層の抵抗率は上昇せず、素子抵抗を低く保つことができる。この場合、p型クラッド層/活性層/n型クラッド層/外殻層の配置になっている方が、n型クラッド層/活性層/p型クラッド層/外殻層の配置になっているよりも、活性層への光閉込に関しては優れている。層厚方向のレーザ光分布はnクラッド層よりも屈折率の相対的に大きいpクラッド層へ押しやられるため、後者の場合は活性層での光閉込は大きく低下してしまうが、前者の場合は結晶表面での反射により押し戻されるため、活性層での光閉込がそれほど低下しない。この適用例が本発明の実施例4(後述)である。
【0065】更に、本発明の実施例4の場合は、外殻層組成比をこれに接するnクラッド層と等しくしている為、Al組成比の小さいp型クラッド層面内に圧縮歪がかかり、p型クラッド層のバンドギャップは歪のない場合よりも大きくなる。この結果、pクラッド層の屈折率が歪のない場合よりも小さくなって活性層への光閉込を歪がない場合よりも大きくすることができる。
【0066】この場合、p型クラッド層にAlを含まないp型GaNを用いてもよく、p型GaN層の層厚を小さくしておけば活性層への光閉込は低下しない。この適用例が本発明の実施例5(後述)である。なお、このような層構造においても、クラック抑制条件を満たすことができる。
【0067】なお、レーザ素子抵抗を低減するだけの目的であれば、外殻層はGaN又はAl組成比の小さいAlGaNでもよく、n型クラッド層のAl組成比よりもp型クラッド層のAl組成比を低くしてp型クラッド層の層厚を十分小さくすれば、従来例に比べて活性層への光閉込はさほど低下せずに素子抵抗を低減できる。この場合は、p型クラッド層には必ずしも歪がかからないため、歪によるp型クラッド層の屈折率低下及びこれによる光閉込改善効果は必ずしも生じない。
【0068】
【実施例】以下、本発明について実施例に基づき図面を参照して詳しく説明する。なお、各実施例に示した半導体レーザは、いずれも発光波長が390〜430nmである。また、基板上の各半導体層は公知の成膜方法により形成される。
【0069】なお、各実施例中で用いたパラメータの意味は以下のとおりである。
d1:下部クラッド層(基板側のクラッド層)の層厚(μm)
d2:上部クラッド層(基板から遠い側のクラッド層)の層厚(μm)
ε1:下部クラッド層の層面内歪量
ε2:上部クラッド層の層面内歪量
x1:下部クラッド層の層内平均Al組成比
x2:上部クラッド層の層内平均Al組成比
y:外殻層(基板)の層内平均Al組成比
(実施例1)図5は、本発明に係るIII-V窒化物半導体レーザの第1の例の概略断面図である。図5に於いて、このIII-V窒化物半導体レーザの層構造は、C面を表面とする厚さ80μmのn型Al0.07Ga0.93N層1上に、厚さ0.5μmのn型Al0.07Ga0.93Nクラッド層2、厚さ0.1μmのn型GaN光ガイド層3、厚さ4nmのIn0.2Ga0.8N量子井戸層と厚さ10nmのIn0.02Ga0.98N障壁層からなる2周期の多重量子井戸構造活性層4、厚さ20nmのp型Al0.2Ga0.8Nキャップ層5、厚さ0.1μmのp型GaN光ガイド層6、厚さ0.6μmのp型Al0.07Ga0.93Nクラッド層7、厚さ0.05μmのp型GaNコンタクト層8、Ni/Auの2層金属からなるp電極9、Ti/Alの2層金属からなるn電極10が形成されている。図5において、p型クラッド層7とp型コンタクト層8はエッチングによって幅3μm程度のストライプ状のリッジ構造11に加工され、リッジの頂部を除いて形成されたSiO2膜12によって電流をリッジ部分のみに狭窄している。また、この場合のAlGaN層1はn型なので、裏面にn電極10を形成している。この場合、n型Al0.07Ga0.93N層1が外殻層(基板)に相当する。この層構造の場合、クラック抑制条件式(x1-y)・d1+(x2-y)・d2、およびε1・d1+ε2・d2はともに0となり、クラック抑制条件2であるそれぞれ絶対値が0.1μm以下、0.0024μm以下、を満たしている。その結果、デバイスプロセス後もクラックは発生しない。図4にはレーザ光のレーザ結晶層厚方向遠視野像を示す。スパイク状パターンは見られない。近視野像(図3)においては、レーザ発振光の外殻層へのしみだし光は、前記活性層領域での発光強度の10-6倍以下に減衰している。
【0070】(実施例2)図6は、本発明に係るIII-V窒化物半導体レーザの第2の例の概略断面図である。図6に於いて、このIII-V窒化物半導体レーザの層構造は、C面を表面とする厚さ80μmのn型Al0.15Ga0.85N層21上に、厚さ0.5μmのn型Al0.15Ga0.85Nクラッド層22、厚さ0.1μmのn型GaN光ガイド層23、厚さ4nmのIn0.2Ga0.8N量子井戸層と厚さ10nmのIn0.02Ga0.98N障壁層からなる2周期の多重量子井戸構造活性層24、厚さ20nmのp型Al0.2Ga0.8Nキャップ層25、厚さ0.1μmのp型GaN光ガイド層26、厚さ0.6μmのp型Al0.15Ga0.85Nクラッド層27、厚さ0.05μmのp型GaNコンタクト層28、Ni/Auの2層金属からなるp電極29、Ti/Alの2層金属からなるn電極30が形成されている。図6において、p型クラッド層27とp型コンタクト層28はエッチングによって幅3μm程度のストライプ状のリッジ構造31に加工され、リッジの頂部を除いて形成されたSiO2膜32によって電流をリッジ部分のみに狭窄している。また、この場合のAlGaN層21はn型なので、裏面にn電極30を形成している。この場合、n型Al0.15Ga0.85N層21が外殻層(基板)に相当する。この層構造の場合、クラック抑制条件式(x1-y)・d1+(x2-y)・d2、およびε1・d1+ε2・d2はともに0となり、クラック抑制条件2であるそれぞれ絶対値が0.1μm以下、0.0024μm以下、を満たしている。その結果、デバイスプロセス後もクラックは発生しない。図7にはレーザ光のレーザ結晶層厚方向遠視野像を示す。スパイク状パターンは見られない。近視野像においては、レーザ発振光の外殻層へのしみだし光は、前記活性層領域での発光強度の10-6倍以下に減衰している。
【0071】(実施例3)図8は、本発明に係るIII-V窒化物半導体レーザの第3の例の概略断面図である。図8に於いて、このIII-V窒化物半導体レーザの層構造は、C面を表面とする厚さ80μmのn型Al0.2Ga0.8N層41上に、厚さ0.5μmのn型Al0.2Ga0.8Nクラッド層42、厚さ0.1μmのn型GaN光ガイド層43、厚さ4nmのIn0.2Ga0.8N量子井戸層と厚さ10nmのIn0.02Ga0.98N障壁層からなる2周期の多重量子井戸構造活性層44、厚さ20nmのp型Al0.2Ga0.8Nキャップ層45、厚さ0.1μmのp型GaN光ガイド層46、厚さ0.6μmのp型Al0.15Ga0.85Nクラッド層47、厚さ0.05μmのp型GaNコンタクト層48、Ni/Auの2層金属からなるp電極49、Ti/Alの2層金属からなるn電極50が形成されている。図8において、p型クラッド層47とp型コンタクト層48はエッチングによって幅3μm程度のストライプ状のリッジ構造51に加工され、リッジの頂部を除いて形成されたSiO2膜52によって電流をリッジ部分のみに狭窄している。また、この場合のAlGaN層41はn型なので、裏面にn電極50を形成している。この場合、n型Al0.2Ga0.8N層41が外殻層(基板)に相当する。この層構造の場合、クラック抑制条件式(x1-y)・d1+(x2-y)・d2、およびε1・d1+ε2・d2はともに0となり、クラック抑制条件2であるそれぞれ絶対値が0.1μm以下、0.0024μm以下、を満たしている。その結果、デバイスプロセス後もクラックは発生しない。図9にはレーザ光のレーザ結晶層厚方向遠視野像を示す。スパイク状パターンは見られない。近視野像においては、レーザ発振光の外殻層へのしみだし光は、前記活性層領域での発光強度の10-6倍以下に減衰している。
【0072】(実施例4)図10は、本発明に係るIII-V窒化物半導体レーザの第4の例の概略断面図である。図10に於いて、このIII-V窒化物半導体レーザの層構造は、C面を表面とする厚さ80μmのn型Al0.1Ga0.9N層61上に、厚さ0.5μmのn型Al0.1Ga0.9Nクラッド層62、厚さ0.1μmのn型GaN光ガイド層63、厚さ4nmのIn0.2Ga0.8N量子井戸層と厚さ10nmのIn0.02Ga0.98N障壁層からなる2周期の多重量子井戸構造活性層64、厚さ20nmのp型Al0.2Ga0.8Nキャップ層65、厚さ0.1μmのp型GaN光ガイド層66、厚さ0.6μmのp型Al0.07Ga0.93Nクラッド層67、厚さ0.05μmのp型GaNコンタクト層68、Ni/Auの2層金属からなるp電極69、Ti/Alの2層金属からなるn電極70が形成されている。図10において、p型クラッド層67とp型コンタクト層68はエッチングによって幅3μm程度のストライプ状のリッジ構造71に加工され、リッジの頂部を除いて形成されたSiO2膜72によって電流をリッジ部分のみに狭窄している。また、この場合のAlGaN層61はn型なので、裏面にn電極70を形成している。この場合、n型Al0.1Ga0.9N層61が外殻層(基板)に相当する。この層構造の場合、クラック抑制条件式(x1-y)・d1+(x2-y)・d2=-0.018μm、ε1・d1+ε2・d2=-0.0004μmとなり、クラック抑制条件2であるそれぞれ絶対値が0.1μm以下、0.0024μm以下、を満たしている。その結果、デバイスプロセス後もクラックは発生しない。図11にはレーザ光のレーザ結晶層厚方向遠視野像を示す。スパイク状パターンは見られない。近視野像においては、レーザ発振光の外殻層へのしみだし光は、前記活性層領域での発光強度の10-6倍以下に減衰している。
【0073】(実施例5)図12は、本発明に係るIII-V窒化物半導体レーザの第5の例の概略断面図である。図12に於いて、このIII-V窒化物半導体レーザの層構造は、C面を表面とする厚さ80μmのn型Al0.07Ga0.93N層81上に、厚さ0.5μmのn型Al0.07Ga0.93Nクラッド層82、厚さ0.1μmのn型GaN光ガイド層83、厚さ4nmのIn0.2Ga0.8N量子井戸層と厚さ10nmのIn0.02Ga0.98N障壁層からなる2周期の多重量子井戸構造活性層84、厚さ20nmのp型Al0.2Ga0.8Nキャップ層85、厚さ0.1μmのp型GaN光ガイド層86、厚さ0.1μmのp型GaNクラッド層88、Ni/Auの2層金属からなるp電極89、Ti/Alの2層金属からなるn電極90が形成されている。図12において、p型GaN層88はエッチングによって幅3μm程度のストライプ状のリッジ構造91に加工され、リッジ部を除いて形成されたSiO2膜92によって電流をリッジ部分のみに狭窄している。また、この場合のAlGaN層81はn型なので、裏面にn電極90を形成している。この場合、n型Al0.07Ga0.93N層81が外殻層(基板)に相当する。この層構造の場合、クラック抑制条件式(x1-y)・d1+(x2-y)・d2=-0.007μm、ε1・d1+ε2・d2=-0.0002μmとなり、クラック抑制条件2であるそれぞれ絶対値が0.1μm以下、0.0024μm以下、を満たしている。その結果、デバイスプロセス後もクラックは発生しない。図13にはレーザ光のレーザ結晶層厚方向遠視野像を示す。スパイク状パターンは見られない。近視野像においては、レーザ発振光の外殻層へのしみだし光は、前記活性層領域での発光強度の10-6倍以下に減衰している。
【0074】(実施例6)図14は、本発明に係るIII-V窒化物半導体レーザの第6の例の概略断面図である。図14に於いて、このIII-V窒化物半導体レーザの層構造は、C面を表面とする厚さ80μmのn型Al0.05Ga0.95N層101上に、厚さ0.5μmのn型Al0.07Ga0.93Nクラッド層102、厚さ0.1μmのn型GaN光ガイド層103、厚さ4nmのIn0.2Ga0.8N量子井戸層と厚さ10nmのIn0.02Ga0.98N障壁層からなる2周期の多重量子井戸構造活性層104、厚さ20nmのp型Al0.2Ga0.8Nキャップ層105、厚さ0.1μmのp型GaN光ガイド層106、厚さ0.6μmのp型Al0.07Ga0.93Nクラッド層107、厚さ0.05μmのp型GaNコンタクト層108、Ni/Auの2層金属からなるp電極109、Ti/Alの2層金属からなるn電極110が形成されている。図14において、p型クラッド層107とp型コンタクト層108はエッチングによって幅3μm程度のストライプ状のリッジ構造111に加工され、リッジの頂部を除いて形成されたSiO2膜112によって電流をリッジ部分のみに狭窄している。また、この場合のAlGaN層101はn型なので、裏面にn電極110を形成している。この場合、n型Al0.05Ga0.95N層101が外殻層(基板)に相当する。この層構造の場合、クラック抑制条件式(x1-y)・d1+(x2-y)・d2=0.022μm、ε1・d1+ε2・d2=0.0005μmとなり、クラック抑制条件2であるそれぞれ絶対値が0.1μm以下、0.0024μm以下、を満たしている。その結果、デバイスプロセス後もクラックは発生しない。図15にはレーザ光のレーザ結晶層厚方向遠視野像を示す。スパイク状パターンは見られない。近視野像においては、レーザ発振光の外殻層へのしみだし光は、前記活性層領域での発光強度の10-6倍以下に減衰している。
【0075】(実施例7)図16は、本発明に係るIII-V窒化物半導体レーザの第7の例の概略断面図である。図16に於いて、このIII-V窒化物半導体レーザの層構造は、C面を表面とする厚さ80μmのn型Al0.03Ga0.97N層121上に、厚さ1.4μmのn型Al0.07Ga0.93Nクラッド層122、厚さ0.1μmのn型GaN光ガイド層123、厚さ4nmのIn0.2Ga0.8N量子井戸層と厚さ10nmのIn0.02Ga0.98N障壁層からなる2周期の多重量子井戸構造活性層124、厚さ20nmのp型Al0.2Ga0.8Nキャップ層125、厚さ0.1μmのp型GaN光ガイド層126、厚さ0.6μmのp型Al0.07Ga0.93Nクラッド層127、厚さ0.05μmのp型GaNコンタクト層128、Ni/Auの2層金属からなるp電極129、Ti/Alの2層金属からなるn電極130が形成されている。図16において、p型クラッド層127とp型コンタクト層128はエッチングによって幅3μm程度のストライプ状のリッジ構造131に加工され、リッジの頂部を除いて形成されたSiO2膜132によって電流をリッジ部分のみに狭窄している。また、この場合のAlGaN層121はn型なので、裏面にn電極130を形成している。この場合、n型Al0.03Ga0.97層121が外殻層(基板)に相当する。この層構造の場合、クラック抑制条件式(x1-y)・d1+(x2-y)・d2=0.08μm、ε1・d1+ε2・d2=0.0019μmとなり、クラック抑制条件2であるそれぞれ絶対値が0.1μm以下、0.0024μm以下、を満たしている。その結果、デバイスプロセス後もクラックは発生しない。図17にはレーザ光のレーザ結晶層厚方向遠視野像を示す。スパイク状パターンは弱く見られるが、この程度であれば光ディスク用途には問題がない。近視野像においては、レーザ発振光の外殻層へのしみだし光は、前記活性層領域での発光強度の10-6倍以下に減衰している。
【0076】(実施例8)図18は、本発明に係るIII-V窒化物半導体レーザの第7の例の概略断面図である。図18に於いて、このIII-V窒化物半導体レーザの層構造は、C面を表面とする厚さ1μmのn型GaN層141、厚さ20μmのn型Al0.07Ga0.97N層142、厚さ0.1μmのn型GaN層143上に、厚さ1μmのn型Al0.07Ga0.93Nクラッド層144、厚さ0.1μmのn型GaN光ガイド層145、厚さ4nmのIn0.2Ga0.8N量子井戸層と厚さ100のIn0.02Ga0.98N障壁層からなる2周期の多重量子井戸構造活性層146、厚さ20nmのp型Al0.2Ga0.8Nキャップ層127、厚さ0.1μmのp型GaN光ガイド層148、厚さ0.6μmのp型Al0.07Ga0.93Nクラッド層149、厚さ0.05μmのp型GaNコンタクト層150、Ni/Auの2層金属からなるp電極151、Ti/Alの2層金属からなるn電極152が形成されている。図18において、p型クラッド層149とp型コンタクト層150はエッチングによって幅3μm程度のストライプ状のリッジ構造153に加工され、リッジの頂部を除いて形成されたSiO2膜154によって電流をリッジ部分のみに狭窄している。また、この場合のGaN層141はn型なので、裏面にn電極152を形成している。この場合、n型Al0.07Ga0.93層142が外殻層(基板)に相当する。この層構造の場合、クラック抑制条件式(x1-y)・d1+(x2-y)・d2=0μm、ε1・d1+ε2・d2=0μmとなり、n型GaN層143の寄与を加えてもクラック抑制条件2であるそれぞれ絶対値が0.1μm以下、0.0024μm以下、を満たしている。その結果、デバイスプロセス後もクラックは発生しない。図19にはレーザ光のレーザ結晶層厚方向遠視野像を示す。外殻層が20μmと充分厚く、n型GaN層143が0.1μmと薄いために、n型GaN層141およびn型GaN層143の光閉込への影響は小さく、スパイク状パターンはみられない。近視野像においては、レーザ発振光の外殻層へのしみだし光は、前記活性層領域での発光強度の10-6倍以下に減衰している。
【0077】また、本実施例では、外殻層とクラッド層との間に、厚さ0.1μmのn型GaN層143を介在させているため、外殻層を形成する結晶成長工程と、クラッド層および活性層を形成する結晶成長工程が連続していない場合に、前者の結晶成長工程で外殻層表面をGaNでカバーしておき、Alを含む半導体層表面の酸化を防止して、後者の結晶成長工程での成長開始界面を清浄に保つことができる。
【0078】以上述べた実施例では、AlGaN混晶をクラッド層の下部層構造及びクラッド層に用いた例を示したが、GaN/AlGaN超格子、In、B等を含むIII-V窒化物半導体混晶及び超格子構造を用いてもよい。また、以上の説明では、活性領域がInGaN多層膜からなる発光層とGaNからなる光ガイド層で構成されるとしたが、発光層がInを含まない、或いはAlを含む場合でも同様である。光ガイド層についても、InあるいはAlを含んでいても本発明の実施には何ら支障はない。
【0079】更に、本発明の実施例では活性層下部層構造の導電型をn型としたが、非導電型としてもよく、この場合は従来例のようにして表面側にp、n電極を形成すればよいまた、外殻層の導電型をp型としてもよく、この場合はクラッド層の導電型は活性層より外殻層側がp型、活性層より表面側がn型となる。また、本発明の実施例においては、電流狭窄と水平横モード制御のための構造は従来例と同様のリッジ構造としたが、埋込ヘテロ構造その他の電流狭窄/水平横モード制御構造を用いても、本発明の実施には何ら支障はない。また、本発明の実施例では、結晶構造は六方晶で結晶表面の面方位は(0001)面としたが、六方晶で(11-20)面、(1-101)面その他の面方位であっても、更に立方晶等の他の結晶構造であっても本発明の実施には支障はない。
【0080】(実施例9)本実施例のIII-V窒化物半導体レーザの層構造は、C面を表面とする厚さ80μmのn型Al0.03Ga0.97N層161上に、厚さ2μmのn型Al0.1Ga0.9Nクラッド層162、厚さ0.1μmのn型GaN光ガイド層163、厚さ4nmのIn0.2Ga0.8N量子井戸層と厚さ10nmのIn0.02Ga0.98N障壁層からなる2周期の多重量子井戸構造活性層164、厚さ20nmのp型Al0.2Ga0.8Nキャップ層165、厚さ0.1μmのp型GaN光ガイド層166、厚さ0.6μmのp型Al0.1Ga0.9Nクラッド層167、厚さ0.05μmのp型GaNコンタクト層168、Ni/Auの2層金属からなるp電極169、Ti/Alの2層金属からなるn電極170が形成されている。p型クラッド層167とp型コンタクト層168はエッチングによって幅3μm程度のストライプ状のリッジ構造171に加工され、リッジの頂部を除いて形成されたSiO2膜172によって電流をリッジ部分のみに狭窄している。また、この場合のAlGaN層161はn型なので、裏面にn電極173を形成している。この場合、n型Al0.03Ga0.97層161が外殻層(基板)に相当する。この層構造の場合、ε1・d1+ε2・d2=0.0044μmとなり、クラック抑制条件1である絶対値が0.0048μm以下、を満たしている。その結果、結晶成長直後はクラックがみられない。デバイスプロセス後は若干のクラックは発生するが、50%以上の歩留まりで半導体レーザチップが得られる。レーザ光のレーザ結晶層厚方向遠視野像においては、n型クラッド層162のAl組成が0.1と比較的大きく、かつ層厚が2μmと大きいため、スパイク状パターンはみられない。近視野像においては、レーザ発振光の外殻層へのしみだし光は、前記活性層領域での発光強度の10-6倍以下に減衰している。
【0081】
【発明の効果】以上のように、本発明の実施により、クラックの発生を抑制し、半導体レーザの素子歩留まりを飛躍的に向上することができ、更に結晶欠陥の発生を抑制してレーザ素子の信頼性を向上することができる。これに加えて、活性層下部層構造への放射光を十分に抑制して、遠視野像のスパイクを抑制することができる。その為、光ディスク用レーザとして用いた場合にディスクトラック制御のエラー発生がなく、このような用途に適した放射パターンが得られる。また、クラック発生を抑制してクラッド層の屈折率を小さく、或いは層厚を大きくできるため、活性層への光閉込を増大させて半導体レーザの発振閾値を低減することができる。更に、p型クラッド層のバンドギャップをn型クラッド層に比べて小さく設定することにより、半導体レーザの素子抵抗を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】AlxGa1-xNクラッド層と下部AlyGa1-yN層とのAl組成比差(x-y)と、クラッド層での歪量εの関係を示す図である。
【図2】本発明の実施例1の半導体レーザ層構造における、屈折率の層厚方向での分布を示す図である。
【図3】本発明の実施例1の半導体レーザ内部の層厚方向の電界強度分布(近視野像)を示す図である。
【図4】本発明の実施例1の半導体レーザの遠方でのレーザ光放射パターン(遠視野像)を示す図である。
【図5】本発明の実施例1のIII-V窒化物半導体レーザの概略断面図である。
【図6】本発明の実施例2のIII-V窒化物半導体レーザの概略断面図である。
【図7】本発明の実施例2の半導体レーザの遠方でのレーザ光放射パターン(遠視野像)を示す図である。
【図8】本発明の実施例3のIII-V窒化物半導体レーザの概略断面図である。
【図9】本発明の実施例3の半導体レーザの遠方でのレーザ光放射パターン(遠視野像)を示す図である。
【図10】本発明の実施例4のIII-V窒化物半導体レーザの概略断面図である。
【図11】本発明の実施例4の半導体レーザの遠方でのレーザ光放射パターン(遠視野像)を示す図である。
【図12】本発明の実施例5のIII-V窒化物半導体レーザの概略断面図である。
【図13】本発明の実施例5の半導体レーザの遠方でのレーザ光放射パターン(遠視野像)を示す図である。
【図14】本発明の実施例6のIII-V窒化物半導体レーザの概略断面図である。
【図15】本発明の実施例6の半導体レーザの遠方でのレーザ光放射パターン(遠視野像)を示す図である。
【図16】本発明の実施例7のIII-V窒化物半導体レーザの概略断面図である。
【図17】本発明の実施例7の半導体レーザの遠方でのレーザ光放射パターン(遠視野像)を示す図である。
【図18】本発明の実施例8のIII-V窒化物半導体レーザの概略断面図である。
【図19】本発明の実施例8の半導体レーザの遠方でのレーザ光放射パターン(遠視野像)を示す図である。
【図20】従来例1の構造によるIII-V窒化物半導体レーザの概略断面図である。
【図21】従来例2の構造によるIII-V窒化物半導体レーザの概略断面図である。
【図22】GaN基板上に形成されたAlGaN層のAl組成比とAlGaN層の面内歪量の関係を示す図である。
【図23】従来例1に相当する半導体レーザ層構造における、屈折率の層厚方向での分布を示す図である。
【図24】AlxGa1-xNのAl組成比xと、波長400nmにおける屈折率の関係を示す図である。
【図25】従来例1に相当する半導体レーザ内部の層厚方向の電界強度分布(近視野像)を示す図である。
【図26】従来例1に相当する半導体レーザの遠方でのレーザ光放射パターン(遠視野像)を示す図である。
【図27】スパイク状パターンのピーク強度の定義を説明するための図である。
【符号の説明】
1,81,101,142 (0001)面n型Al0.07Ga0.93N層
2,82,102,122、144 n型Al0.07Ga0.93Nクラッド層
3,23,43,63,83,103,123、145,163,205,227 n型GaN光ガイド層
4,24,44,64,84,104,124,146,164,206,228 多重量子井戸構造活性層
5,25,45,65,85,105,125,147,165,207,229 p型Al0.2Ga0.8Nキャップ層
6,26,46,66,86,106,126,148,166,208,230 p型GaN光ガイド層
7,67,107,127,149 p型Al0.07Ga0.93Nクラッド層
8,28,48,68,88,108,128,150,168,210,232 p型GaNコンタクト層
9,29,49,69,89,109,129,151,169,211,233 ニッケルおよび金からなるp電極
10,30,50,70,90,110,130,152,170,212,234 チタンおよびアルミニウムからなるn電極
11,31,51,71,91,111,131,153,171,213,235 リッジ
12,32,52,72,92,112,132,154,172,214,236 SiO2膜
21 (0001)面n型Al0.15Ga0.85N層
22 n型Al0.15Ga0.85Nクラッド層
27 p型Al0.15Ga0.85Nクラッド層
41 (0001)面n型Al0.2Ga0.8N層
42 n型Al0.2Ga0.8Nクラッド層
47 p型Al0.2Ga0.8Nクラッド層
61,161 (0001)面n型Al0.1Ga0.9N層
62,162 n型Al0.1Ga0.9Nクラッド層
101 (0001)面n型Al0.05Ga0.95N層
121 (0001)面n型Al0.03Ga0.97N層
141 n型GaNコンタクト層
143 n型GaN層
167 p型Al0.1Ga0.9Nクラッド層
201 GaN基板
202,224 n型GaNコンタクト層
203,225 n型In0.1Ga0.9Nクラック防止層
204,226 n型In0.1Ga0.9N/GaN超格子クラッド層
209,231 p型Al0.14Ga0.86N/GaN超格子クラッド層
215,237 段差
220 (0001)面サファイア基板
221 GaN層
222 SiO2マスク
223 GaN層
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-07-07 
出願番号 特願平11-302447
審決分類 P 1 651・ 537- ZD (H01S)
P 1 651・ 121- ZD (H01S)
最終処分 一部取消  
前審関与審査官 近藤 幸浩  
特許庁審判長 向後 晋一
特許庁審判官 吉田 英一
稲積 義登
登録日 2003-04-04 
登録番号 特許第3414680号(P3414680)
権利者 日本電気株式会社
発明の名称 III-V族窒化物半導体レーザ  
代理人 机 昌彦  
代理人 谷澤 靖久  
代理人 机 昌彦  
代理人 谷澤 靖久  
代理人 河合 信明  
代理人 河合 信明  

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