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審決分類 審判 訂正 (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降) 訂正する H01L
審判 訂正 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 訂正する H01L
審判 訂正 特120条の4、2項訂正請求(平成8年1月1日以降) 訂正する H01L
審判 訂正 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 訂正する H01L
審判 訂正 ただし書き2号誤記又は誤訳の訂正 訂正する H01L
審判 訂正 4項(134条6項)独立特許用件 訂正する H01L
管理番号 1126411
審判番号 訂正2005-39132  
総通号数 73 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1999-04-09 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2005-07-25 
確定日 2005-10-11 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3265244号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3265244号に係る明細書を本件審判請求書に添付された訂正明細書のとおり訂正することを認める。 
理由 理 由
I.手続の経緯
本件特許第3265244号の請求項1,2に係る発明は、平成9年9月25日に特許出願され、平成13年12月28日にその発明特許権の設定登録がされ、その後、特許異議の申立て(異議2002-72224号)がなされ、平成17年4月20日付で「訂正を認める。特許第3265244号の請求項1ないし2に係る特許を取り消す。」との取消決定がなされた。
本件請求人は、これを不服として知的財産高等裁判所に当該決定の取消しを求める訴(平成17年(行ケ)10524号)を平成17年6月16日提起し、現在係属中であるところ、平成17年7月25日に本件訂正審判を請求したものである。

II.請求の要旨
本件審判の請求の要旨は、特許第3265244号の願書に添付した明細書を審判請求書に添付した訂正明細書のとおり、すなわち、次の訂正事項a〜hのとおりに訂正することを求めるものである。
1.訂正事項a
請求項1において、「支持部材に半導体素子を接着させる接着剤であって」を「(a)重合可能なエチレン性炭素-炭素二重結合を有する化合物、(b)反応性エラストマ及び(c)熱で硬化して網目状高分子を生成しうる反応性化合物を含有し、支持部材に半導体素子を接着させる接着剤ペーストであって」と訂正する。
2.訂正事項b
請求項1において、「揮発分が10重量%以下」を、「揮発分が5重量%以下」と訂正する。
3.訂正事項c
請求項1において、「ピール接着力が0.3kgf以上」を、「ピール接着力が0.5kgf以上」と訂正する。
4.訂正事項d
請求項1において、「チップ反り変化量が15μm以下」を、「チップ反り変化量が12μm以下」と訂正する。
5.訂正事項e
請求項1において、「である接着剤」を、「である接着剤ペースト」と訂正する。
6.訂正事項f
請求項2において、「接着剤」を「接着剤ペースト」と訂正する。
7.訂正事項g
発明の詳細な説明の【0006】の「本発明は、支持部材に半導体素子を接着させる接着剤であって、(A)揮発分が10重量%以下、(B)250℃におけるピール接着力が0.3kgf以上、及び(C)チップ反り変化量が15μm以下、である接着剤接着剤である。」を「本発明は、(a)重合可能なエチレン性炭素-炭素二重結合を有する化合物、(b)反応性エラストマ及び(c)熱で硬化して網目状高分子を生成しうる反応性化合物を含有し、支持部材に半導体素子を接着させる接着剤ペーストであって支持部材に半導体素子を接着させる接着剤ペーストであって、(A)揮発分が5重量%以下、(B)250℃におけるピール接着力が0.5kgf以上、及び(C)チップ反り変化量が12μm以下、である接着剤ペースト(以下、「接着剤」という。)である。」と訂正する。
8.訂正事項h
発明の詳細な説明の【0023】の【表1】の「チップ反り」を「チップ反り変化量」と訂正する。

III.当審の判断
1.特許法第126条第1項ただし書き,第2項,第3項の要件について
(1)訂正事項aについて
訂正事項aは、特許明細書の特許請求の範囲の請求項1において、接着剤の成分を(a)重合可能なエチレン性炭素-炭素二重結合を有する化合物、(b)反応性エラストマ及び(c)熱で硬化して網目状高分子を生成しうる反応性化合物が含有されていることを特定し、接着剤の形態をペーストに特定するもので、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、このことは、それぞれ【0012】,【0002】に裏付けられている。
(2)訂正事項bについて
訂正事項bは、特許明細書の特許請求の範囲の請求項1において、揮発分の範囲を10重量%以下から5重量%以下に限定するもので、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、このことは、【0011】に裏付けられている。
(3)訂正事項cについて
訂正事項cは、特許明細書の特許請求の範囲の請求項1において、250℃におけるピール接着力の範囲を0.3kgf以上から0.5kgf以上に限定するもので、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、このことは、【0011】に裏付けられている。
(4)訂正事項dについて
訂正事項dは、特許明細書の特許請求の範囲の請求項1において、チップ反り変化量の範囲を15μm以下から12μm以下に限定するもので、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、このことは、【0011】に裏付けられている。
(5)訂正事項e,fについて
訂正事項e,fは、それぞれ特許明細書の特許請求の範囲の請求項1,2において、(1)で述べたように、接着剤の形態をペーストに特定するもので、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、このことは、【0002】に裏付けられている。
(6)訂正事項gについて
訂正事項gは、特許請求の範囲の記載に関する訂正事項a〜fに対応して、発明の詳細な説明の記載を整合させたものであって、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
(7)訂正事項hについて
訂正事項hは、【表1】の「チップ反り」を「チップ反り変化量」と訂正するするものであるが、特許請求の範囲の記載、【0009】の定義の記載、【0016】〜【0022】の「チップ反り変化量の各特性を表1に示す。」との記載から、【表1】の「チップ反り」は、「チップ反り変化量」の誤記であることが明らかである。したがって、訂正事項hは、誤記の訂正を目的とするものである。
(8)訂正事項a〜hは、すべて、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

よって、訂正事項a〜hは、特許法第126条第1項ただし書き、第2項,第3項の要件を満たすものである。

2.特許法第126条第4項の要件(独立特許要件)について
(1)本件訂正明細書の請求項1、2に係る発明
本件訂正明細書の請求項1,2の記載(以下、それぞれ「訂正発明1」,「訂正発明2」という。)は、審判請求書に添付された全文訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1,2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】(a)重合可能なエチレン性炭素-炭素二重結合を有する化合物、(b)反応性エラストマ及び(c)熱で硬化して網目状高分子を生成しうる反応性化合物を含有し、支持部材に半導体素子を接着させる接着剤ペーストであって、(A)揮発分が5重量%以下、(B)250℃におけるピール接着力が0.5kgf以上、及び(C)チップ反り変化量が12μm以下、である接着剤ペースト。
【請求項2】請求項1の接着剤ペーストを用いて半導体素子を支持部材に接着してなる半導体装置。」

(2)引用刊行物に記載された発明
これに対して、先の特許異議の申立てにおいては、本件請求項1に係る発明は、本件の出願前に頒布された刊行物である特開平8-176408号公報(以下、「引用刊行物1」という。)に記載された発明であり、本件請求項2に係る発明は、引用刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとの主張がなされており、引用刊行物1には、次の事項が記載されている。

引用刊行物1:特開平8-176408号公報
(1a)「【請求項1】(A)銀粉、(B)常温で液状のエポキシ樹脂、(C)下記式(1)で示されるビフェノール誘導体、(D)下記式(2)で示されるイミダゾール誘導体を必須成分とする導電性樹脂ペーストであって、かつ全導電性樹脂ペースト中に銀粉(A)を60〜85重量%、式(1)で示されるビフェノール誘導体(C)を0.5〜5重量%、式(2)で示されるイミダゾール誘導体(D)を0.5〜3.0重量%含むことを特徴とする導電性樹脂ペースト。・・・」(【請求項1】)
(1b)「【産業上の利用分野】本発明はIC、LSI等の半導体素子を金属フレーム等に接着する導電性樹脂ペーストに関するものである。」(【0001】)
(1c)「本発明に用いるエポキシ樹脂は、常温で液状のものであり、常温で液状のものでないと銀粉との混練において溶剤を必要とする。溶剤は気泡の原因となり硬化物の接着強度、熱伝導率を低下させてしまうので好ましくない。常温で液状のエポキシ樹脂とは、例えば常温で固形のものでも常温で液状のエポキシ樹脂と混合することで常温で安定して液状を示すものを含む。本発明に用いるエポキシ樹脂としては、ビスフェノールA、ビスフェノールF、フェノールノボラック樹脂、クレゾール型ノボラック樹脂等とエピクロルヒドリンとの反応により得られるポリグリシジルエーテル、・・・」(【0009】)
(1d)「本発明で用いる式(1)のビフェノール誘導体は、融点が高く、又通常のエポキシ樹脂には常温で溶解しないので、導電性樹脂ペースト中に粉末にして分散させるため保存性に優れている。又ビフェニル骨格は内部回転のエネルギーが比較的小さいため得られた硬化物は強靭であり、更に硬化物の自由体積が小さくなるので低吸水化が図れる。・・・」(【0010】)
(1e)「本発明の式(2)のイミダゾール誘導体は、式(1)のビフェノール誘導体単独では硬化性が悪く、インライン硬化対応材としての速硬化性を有していないため併用するものである。・・・」(【0011】)

(1f)「以下実施例を用いて本発明を具体的に説明する。配合割合は重量部で示す。
実施例1〜5
粒径1〜30μmで平均粒径3μmのフレーク状銀粉と、ビスフェノールAとエピクロルヒドリンとの反応により得られるジグリシジルビスフェノールA(エポキシ当量180、常温で液体、以下ビスAエポキシ)、クレジルグリシジルエーテル(エポキシ当量185)、3,3’,5,5’-テトラメチルビフェノール(・・・以下ビフェノールA)、2-メチルイミダゾールアジン(2-メチルイミダゾールとビニルトリアジンの付加物)(・・・以下2MZ-A)、ジシアンジアミド、1,8-ジアザビシクロウンデセンを表1に示す割合で配合し、3本ロールで混練して導電性樹脂ペーストを得た。
この導電性樹脂ペーストを真空チャンバーにて2mmHgで30分間脱泡した後、以下の方法により各種性能を評価した。・・・」(【0013】)
(1g)「実施例6
硬化剤としてp,p’-ビフェノール(・・・以下ビフェノールB)を使用した他は、実施例1〜5と同様にして導電性樹脂ペーストを作製し評価した。・・・」(【0016】)

(3)対比・判断
(3-1)訂正発明1について
上記摘記事項(1a)〜(1g)からみて、引用刊行物1には、「銀粉、ビスフェノールA、ビスフェノールF、フェノールノボラック樹脂、クレゾール型ノボラック樹脂等とエピクロルヒドリンとの反応により得られるポリグリシジルエーテル等の常温で液状のエポキシ樹脂、ビフェノール誘導体、イミダゾール誘導体を必須成分とする半導体素子を金属フレーム等に接着する導電性樹脂ペースト」(以下、「引用刊行物1発明」という。)が記載されているといえる。
訂正発明1と引用刊行物1発明とを対比すると、引用刊行物1発明の「ビスフェノールA、ビスフェノールF、フェノールノボラック樹脂、クレゾール型ノボラック樹脂等とエピクロルヒドリンとの反応により得られるポリグリシジルエーテル等の常温で液状のエポキシ樹脂」,「半導体素子を金属フレーム等に接着する導電性樹脂ペースト」は、訂正発明1の「熱で硬化して網目状高分子を生成しうる反応性化合物」,「支持部材に半導体素子を接着させる接着剤ペースト」に相当しているので、両者は、「熱で硬化して網目状高分子を生成しうる反応性化合物を含有し、支持部材に半導体素子を接着させる接着剤ペーストであって支持部材に半導体素子を接着させる接着剤ペースト」という点で一致しており、以下の点で相違している。

イ.接着剤ペーストの組成に関して、訂正発明1においては、重合可能なエチレン性炭素-炭素二重結合を有する化合物と反応性エラストマとをさらに含有しているのに対し、引用刊行物1発明においては、それらの記載はなく、銀粉、ビフェノール誘導体、イミダゾール誘導体が必須成分となっている点。
ロ.訂正発明1では、接着剤ペーストの特性について、(A)揮発分が5重量%以下、(B)250℃におけるピール接着力が0.5kgf以上、及び(C)チップ反り変化量が12μm以下、であることが特定されているのに対して、引用刊行物1発明においては、(A),(B),(C)の特性について記載のない点。

以下相違点について検討する。
相違点イについて、訂正発明1と引用刊行物1発明は、組成が相違しており、その点が樹脂ペーストの分野において自明であるともいえないので、相違点イは実質的な相違点であり、相違点ロを検討するまでもなく、訂正発明1は、引用刊行物1に記載された発明とはいえない。

また、当業者が容易になし得たかについて、上記相違点についてさらに検討する。
相違点イを含めて、相違点ロについて検討すると、相違点ロの(A),(B),(C)の特性については、異議申立人提出の実験成績証明書で、引用刊行物1に記載された実施例6の導電性樹脂ペーストの(A),(B),(C)の特性が訂正発明1の接着剤ペーストと結果として同一の範囲にあったことが示されているものの、引用刊行物1には、これら各特性の課題認識並びに、(a)重合可能なエチレン性炭素-炭素二重結合を有する化合物、(b)反応性エラストマ及び(c)熱で硬化して網目状高分子を生成しうる反応性化合物を含有した樹脂組成物において、前記(A)〜(C)の特性を前記特定の範囲にすることの記載も示唆もない。
よって、樹脂ペーストとして訂正発明1と異なる組成の引用刊行物1発明から、(A)揮発分が5重量%以下、(B)250℃におけるピール接着力が0.5kgf以上、及び(C)チップ反り変化量12μm以下の接着剤ペーストの構成を当業者が容易に想到することはできない。
そして、訂正発明1は、上記相違点イ及びロの構成によって、銅リードフレームを用いた場合にもリフロークラックを発生しないという顕著な効果を奏している。

したがって、訂正発明1は、引用刊行物1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(3-2)訂正発明2について
訂正発明2は、訂正発明1の接着剤ペーストを用いて半導体素子を支持部材に接着してなる半導体装置であり、(3-1)において、検討したように、訂正発明1の接着剤ペーストが引用刊行物1記載の発明に基いて当業者が容易に発明することができたものではない以上、訂正発明2も、同じ理由で、引用刊行物1記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

なお、先の異議申立における平成16年1月6日付けの取消理由通知で引用された特開平7-238269号公報(以下、「引用刊行物2」という。)には、「末端にカルボキシル基を有するアクリロニトリルブタジエン共重合体とエポキシ基を2個以上有するエポキシ樹脂との反応生成物、フェノール樹脂、アクリル基又はメタクリル基を有する有機化合物及び遊離ラジカル重合開始剤を含有してなる半導体素子を支持部材に接着させるのに用いる接着剤。」が記載されているといえ、訂正発明1と引用刊行物2記載の発明は、「重合可能なエチレン性炭素-炭素二重結合を含有する化合物、熱で硬化して網目状高分子を生成しうる反応性化合物を含有する、支持部材に半導体素子を接着させる接着剤ペースト」という点では一致している。
しかしながら、訂正発明1においては、反応性エラストマが含有成分であるとされ、訂正明細書(【0012】)に、カルボキシル基両末端ブタジエン-アクリロニトリル共重合体が例示されているのに対して、引用刊行物2に記載された発明においては、末端にカルボキシル基を有するアクリロニトリルブタジエン共重合体はエポキシ基を2個以上有するエポキシ樹脂との反応生成物として含有されているので、樹脂ペーストの組成として相違しており、訂正発明1は、引用刊行物2に記載された発明とはいえない。
また、訂正発明1,2は、前記(A),(B),(C)の特性について何ら記載も示唆もない引用刊行物2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明することができたものとすることもできない。

(4)また、訂正発明1,2を、特許出願の際独立して特許を受けることができるものでないとすべき他の理由も発見できない。
したがって、訂正発明1,2は、特許出願の際独立して特許を受けることができない発明でもない。

IV.むすび
以上のとおりであるから、本件審判の請求は、特許法第126条第1項ただし書第1号ないし第3号に掲げる事項を目的とし、かつ、同条第2項ないし第4項の規定に適合する。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
接着剤及び半導体装置
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】(a)重合可能なエチレン性炭素-炭素二重結合を有する化合物、(b)反応性エラストマ及び(c)熱で硬化して網目状高分子を生成しうる反応性化合物を含有し、支持部材に半導体素子を接着させる接着剤ペーストであって、(A)揮発分が5重量%以下、(B)250℃におけるピール接着力が0.5kgf以上、及び(C)チップ反り変化量が12μm以下、である接着剤ペースト。
【請求項2】請求項1の接着剤ペーストを用いて半導体素子を支持部材に接着してなる半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、接着剤及び半導体装置に関し、更に詳しくは、半導体素子を支持部材(特に、銅リードフレーム)に接着してなる半導体装置がリフロー炉を通して基板上に実装されるとき、パッケージクラックが起こらないような接着剤及びその接着剤を用いて製造される信頼性の高い半導体装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
半導体装置を製造する際、半導体素子とリードフレーム(支持部材)の接着方法としては、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂等の有機材料に銀粉等を分散させてペースト状態とし、これを接着剤とする方法が主に用いられている。この方法では、一般に、銀ペーストをディスペンサーやスタンピングマシンを用いてリードフレームに塗布した後、半導体素子を圧着し、加熱硬化して、半導体素子とリードフレームとを接着する。また、リードフレームの材質は、従来、鉄-ニッケルの合金である42アロイが用いられてきた。しかし、リードフレームの熱・電気伝導性、配線基板との密着性等の点から、最近は材質が銅合金である銅リードフレームの使用の割合が大きくなってきている。
【0003】
更に、高密度、高効率実装のため、半導体装置の実装方法は、半導体装置のリードを基板に直接半田付けする表面実装が主流となっている。この表面実装には、基板全体を赤外線などで加熱するリフローソルダリングが用いられ、パッケージは200℃以上の高温に加熱される。この時、パッケージの内部、特に接着剤層中に水分が存在すると、この水分が気化してダイパッドと封止材の間に回り込み、パッケージにクラック(リフロークラック)が発生する。特に銅リードフレームでは、42アロイフレームに比べリフロークラックの発生率が高く、このリフロークラックは半導体装置の信頼性を著しく低下させるため、深刻な問題・技術課題となっている。
【0004】
このような問題に対する解決策の一つとして、半導体装置全体を防湿梱包し、表面実装の直前に開封して使用する方法や、表面実装の直前に前記半導体装置を100℃で24時間乾燥させ、その後実装を行う方法が提案されている。また、接着剤を改良する観点から、例えば、水分吸着剤を含有する接着剤(特開平6-181227号公報)や、エポキシ基を2個以上含有するエポキシ樹脂とシリコーン変性フェノールアラルキル樹脂を含有する接着剤(特開平6-326139号公報)等が提案されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、半導体装置の防湿梱包や乾燥を行う方法は、製造工程が長くなり、手間もかかる。また、特開平6-181227号公報や特開平6-326139号公報に提案されている接着剤を用いる方法では、リフロークラックの発生は支持部材として42アロイリードフレームを用いた場合には低減されるものの、支持部材として銅リードフレームを用いた場合には必ずしも満足できるほど低減されない。本発明の目的は、前記の従来技術の問題を解決し、リフロークラックを発生させない接着剤、特に支持部材に銅リードフレームを用いた場合に好適な接着剤を提供することである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、支持部材として銅リードフレームを用いた場合にも、リフロークラックを発生させない接着剤とその接着剤の有効な特性を種々検討する過程で、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、(a)重合可能なエチレン性炭素-炭素二重結合を有する化合物、(b)反応性エラストマ及び(c)熱で硬化して網目状高分子を生成しうる反応性化合物を含有し、支持部材に半導体素子を接着させる接着剤ペーストであって、(A)揮発分が5重量%以下、(B)250℃におけるピール接着力が0.5kgf以上、及び(C)チップ反り変化量が12μm以下、である接着剤ペースト(以下、「接着剤」という。)である。
【0007】
ここで、接着剤の揮発分、ピール接着力及びチップ反り変化量は、次の方法によって測定する。
接着剤の揮発分の測定:接着剤約1gをアルミカップに移し、秤量して接着剤の重量(M1)を求める。ついで、これを200℃の乾燥機中で2時間加熱し、秤量して接着剤の重量(M2)を求める。
接着剤の揮発分(wt%)=[(M2-M1)/M1]×100
【0008】
ピール接着力の測定:銅リードフレームと8mm×8mmのシリコンチップを、被検接着剤を用いて150℃、1時間、次いで175℃、5時間加熱して接着させ、温度85℃、湿度85%に設定された恒温恒湿機中で24時間吸湿させた後、250℃、20秒加熱時の引き剥がし強さを、プッシュプルゲージを用いて測定する(図1)。
【0009】
チップ反り変化量の測定:銅リードフレームと5mm×13mmのシリコンチップを、被検接着剤を用いて150℃、1時間加熱して接着させ、表面粗さ計を用い直線状に11mmスキャンし、チップのベースラインからの最大高さ(t1)を求める。ついで、これを175℃の乾燥機中で5時間加熱し、表面粗さ計を用い直線状に11mmスキャンし、チップのベースラインからの最大高さ(t2)を求める。t2-t1をチップ反り変化量とする。
【0010】
また、本発明は、半導体素子を上記接着剤を用いて支持部材に接着してなる半導体装置にも関する。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明の接着剤の揮発分は10重量%以下であり、好ましくは5重量%以下である。揮発分が10重量%を越えると、支持部材と半導体装置を接着させた後に接着剤層中にボイドが発生し、リフロークラックの原因となるので好ましくない。本発明の接着剤の250℃におけるピール接着力(以下、ピール接着力という。)は0.3kgf以上であり、好ましくは0.5kgf以上である。ピール接着力が0.3kgf未満では、接着剤と半導体素子、又は接着剤と支持部材に剥離が発生し、リフロークラックの原因となるので好ましくない。本発明の接着剤を用いた場合のチップ反り変化量は15μm以下であり、好ましくは12μm以下である。チップ反り変化量が15μmを越えると、接着剤層の熱応力が大きくなり、耐リフロークラック性を低下させるので好ましくない。
【0012】
前記(A)〜(C)の特性を満たす接着剤としては、例えば、次のような組成の樹脂がある。
(a)重合可能なエチレン性炭素-炭素二重結合を有する化合物(例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチルなどのアクリル酸系モノマー、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチルなどのメタクリル酸系モノマー、スチレン、ビニルトルエンなどのビニル系モノマー等):30〜80重量部、
(b)反応性エラストマ(例えば、カルボキシル基両末端ブタジエン-アクリロニトリル共重合体、エポキシ基両末端ブタジエン-アクリロニトリル共重合体等):0〜60重量部、及び
(c)熱で硬化して網目状高分子を生成しうる反応性化合物(例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ビスマレイミド樹脂、シアナート樹脂等):5〜30重量部。
なお、上記(a)、(b)及び(c)を含む有機材料の合計量は100(重量部)とする。
【0013】
上記組成の接着剤には、前記(A)〜(C)の特性を越えない範囲で、銀粉、シリカ粉、アルミナ粉等の充填材を加えることができる。銀粉はフレーク状、樹枝状、球形、不定形等の銀粉が使用でき、シルベストTCG-1(徳力化学研究所製)、シルフレークAgc-A(福田金属箔粉工業社製)等の市販品が使用できる。銀粉を加える場合の使用量は、上記接着剤100重量部に対して900重量部以下(接着剤全量の90重量%以下)、更に好ましくは567重量部以下(接着剤全量の85重量%以下)である。
【0014】
本発明の接着剤が特に好適に使用できる支持部材は銅リードフレームであるが、42アロイリードフレーム、絶縁基板、配線付き基板等にも使用できる。銅リードフレームとしては、例えば、MF202(三菱電機製)、EFTEC64T(古河電気工業製)等がある。
【0015】
本発明の接着剤を用いた半導体装置は、ディスペンス法、スタンピング法、スクリーン印刷等により銅リードフレーム等の支持部材に本発明の接着剤を塗布し、これに半導体素子を載置し、熱風循環式乾燥機、ヒートブロック等の加熱装置を用いて加熱硬化させて半導体素子と支持部材とを接着させ、リードフレームと半導体素子とを金線等のワイヤで接続し、その後、エポキシ樹脂等の封止材で封止して、製造される。このようにして製造される半導体装置の一例を図2に示す。
【0016】
【実施例】
以下、本発明を実施例により説明する。
(実施例1)
アクリル酸ノニルフェノキシポリプロピレングリコール 30g
スチレン 25g
エポキシ末端ポリブタジエン-アクリロニトリル共重合体(宇部興産製 ETBN1300×40)
25g
クレゾールノボラック型エポキシ(東都化成製 YDCN-702S) 5g
フェノールノボラック(明和化成製 H-1) 5g
2-フェニル-4-メチルイミダゾール 0.2g
ターシャリブチルパーオキシベンゾエート 1.6g
銀粉 210g
を、らいかい機により混合し、接着剤を得た。この接着剤についての揮発分、ピール接着力及びチップ反り変化量の各特性を表1に示す。測定方法は前述した通り。
【0017】
(実施例2)
アクリル酸ラウリル 20g
スチレン 15g
エポキシ末端ポリブタジエン-アクリロニトリル共重合体(宇部興産製 ETBN1300×40)
15g
ビスフェノールA型エポキシ(油化シェルエポキシ製 エピコート1001)
5g
フェノールノボラック(明和化成製 H-1) 5g
2-フェニル-4-メチルイミダゾール 0.2g
ターシャリブチルパーオキシベンゾエート 1.6g
銀粉 210g
を、らいかい機により混合し、接着剤を得た。この接着剤についての揮発分、ピール接着力及びチップ反り変化量の各特性を表1に示す。
【0018】
(実施例3)
アクリル酸イソボニル 20g
スチレン 15g
エポキシ末端ポリブタジエン-アクリロニトリル共重合体(宇部興産製 ETBN1300×40)
15g
ビス(4-シアノフェニル-1-(1-メチルエチリデン))ベンゼン 10g
ターシャリブチルパーオキシベンゾエート 1.6g
ナフテン酸コバルト 0.2g
ノニルフェノール 1.8g
銀粉 210g
を、らいかい機により混合し、接着剤を得た。この接着剤についての揮発分、ピール接着力及びチップ反り変化量の各特性を表1に示す。
【0019】
(実施例4)
メタクリル酸ラウリル 20g
スチレン 15g
エポキシ末端ポリブタジエン-アクリロニトリル共重合体(宇部興産製 ETBN1300×40)
15g
ビスマレイミドジフェニルメタン 10g
ターシャリブチルパーオキシベンゾエート 1.6g
銀粉 210g
を、らいかい機により混合し、接着剤を得た。この接着剤についての揮発分、ピール接着力及びチップ反り変化量の各特性を表1に示す。
【0020】
(比較例1)
クレゾールノボラック型エポキシ(東都化成製 YDCN-702S) 30g
フェノールノボラック(明和化成製 H-1) 10g
2-フェニル-4-メチルイミダゾール 0.2g
銀粉 100g
フェニルグリシジルエーテル 10g
を、らいかい機により混合し、接着剤を得た。この接着剤についての揮発分、ピール接着力及びチップ反り変化量の各特性を表1に示す。
【0021】
(比較例2)
クレゾールノボラック型エポキシ(東都化成製 YDCN-702S) 30g
カルボキシル末端ポリブタジエンーアクリロニトリル共重合体(宇部興産製 CTBN1300×9)
30g
フェノールノボラック(明和化成製 H-1) 5g
2-フェニル-4-メチルイミダゾール 0.2g
銀粉 100g
酢酸ブチルセロソルブ 10g
を、らいかい機により混合し、接着剤を得た。この接着剤についての揮発分、ピール接着力及びチップ反り変化量の各特性を表1に示す。
【0022】
(比較例3)
クレゾールノボラック型エポキシ(東都化成製 YDCN-702S) 30g
カルボキシル末端ポリブタジエン-アクリロニトリル共重合体(宇部興産製 CTBN1300×9)
30g
フェノールノボラック(明和化成製 H-1) 5g
2-フェニル-4メチルイミダゾール 0.2g
銀粉 100g
フェニルグリシジルエーテル 10g
を、らいかい機により混合し、接着剤を得た。この接着剤についての揮発分、ピール接着力及びチップ反り変化量の各特性を表1に示す。
【0023】
【表1】

【0024】
半田リフロークラック評価試験
実施例1〜4および比較例1〜3で各々得られた接着剤を用いて、以下に示すような半田リフロークラック試験を行った。
半田リフロークラック試験方法:銅リードフレームと8mm×10mm×0.3mmのシリコンチップを上記接着剤を用いて150℃、1時間加熱して接着させた後、封止材(日立化成製 CEL-4620)により封止し、半田リフロー試験用パッケージ(QFP、14mm×20mm×1.4mm)を組み立てた。そのパッケージを、温度85℃、湿度85%に設定された恒温恒湿機中で48時間吸湿させた。その後、240℃、10秒のIRリフローを行い、パッケージクラックの発生数を顕微鏡(倍率:15倍)で観察した。試験の結果、実施例1〜4の接着剤を使用したパッケージはクラックの発生が見られなかったが、比較例1〜3の接着剤を使用したパッケージは全数にクラックが発生していた。
【0025】
【表2】

【0026】
【発明の効果】
請求項1の接着剤は、半導体素子と支持部材との接着剤として使用でき、半田リフロー時のリフロークラックの発生は低減される。支持部材としては、銅リードフレームが特に好適である。請求項2の半導体装置は、半田リフロー時のリフロークラックの発生が低減され、信頼性が高い。
【図面の簡単な説明】
【図1】
プッシュプルゲージを用いてピール強度を測定する方法を説明する正面図である。
【図2】
本発明の接着剤を用いた半導体装置の一例の断面図である。
【符号の説明】
1.半導体素子 2.接着剤
3.銅リードフレーム 4.プッシュプルゲージ
5.熱盤
11.半導体素子 12.接着剤
13.リードフレーム 14.ワイヤ
15.封止材
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審決日 2005-09-28 
出願番号 特願平9-259965
審決分類 P 1 41・ 832- Y (H01L)
P 1 41・ 856- Y (H01L)
P 1 41・ 851- Y (H01L)
P 1 41・ 852- Y (H01L)
P 1 41・ 841- Y (H01L)
P 1 41・ 853- Y (H01L)
最終処分 成立  
特許庁審判長 城所 宏
特許庁審判官 池田 正人
北村 明弘
瀬良 聡機
市川 裕司
登録日 2001-12-28 
登録番号 特許第3265244号(P3265244)
発明の名称 接着剤及び半導体装置  
代理人 三好 秀和  
代理人 岩崎 幸邦  
代理人 三好 秀和  
代理人 岩▲崎▼ 幸邦  

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