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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1128522
審判番号 不服2002-4665  
総通号数 74 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1993-04-23 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-03-18 
確定日 2006-01-04 
事件の表示 平成 4年特許願第 75745号「集積回路の製造過程におけるバーズビークの軽減方法」拒絶査定不服審判事件〔平成 5年 4月23日出願公開、特開平 5-102133〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本件は、平成4年2月28日(パリ条約優先権、1991年3月4日、米国)に特許出願したものであって、平成13年12月6日付けで拒絶査定がなされ、その後、平成14年3月18日に拒絶査定に対する審判請求がなされたものである。

2.本件発明について
本件の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、特許請求の範囲請求項1に記載されたとおりの以下のものである。

「【請求項1】 シリコン層においてコーナーを有するトレンチが形成され、当該トレンチ内においてフィールド酸化物を形成することによって前記シリコン層と前記フィールド酸化物層間にバーズビークが形成し得る集積回路の製造方法において、
前記コーナーを予め酸化して丸みを付ける工程と、
前記予め酸化されたコーナーをシールする工程と、
前記コーナーがシールされた状態で前記トレンチ内にフィールド酸化物を形成する工程と、
の各工程を含む集積回路の製造過程におけるバーズビークの軽減方法。」

3.引用例
刊行物1
本件優先権主張日前に頒布され、原審の拒絶の理由に引用した特開昭58-135655号公報には、第2図とともに以下の事項が記載されいる。

「半導体装置の製造工程において
(a) シリコン基板の上に薄い酸化膜及び第1のシリコン窒化膜を形成し、 ホトエツチングにより該窒化膜、酸化膜の一部を除去して、素子間分離領 域を形成する工程、
(b) 該素子間分離領域を選択的に酸化する工程、
(c) 該酸化膜をエツチングで除去する工程、
(d) 前記の工程後シリコン基板上面に比較的薄い酸化膜を形成する工程、
(e) 酸化マスクとなる第2のシリコン窒化膜を全面に形成する工程、
(f) 初めにホトエツチングされて残されている第1のシリコン窒化膜パタ ンをマスクとして、後で形成された第2のシリコン窒化膜をエツチングし てバーズビーク部分のシリコン基板側に第2のシリコン窒化膜を選択的に 残す工程、
(g) 該窒化膜をマスクとして選択的にシリコン基板を酸化する工程、
以上の各工程を含み、半導体表面に対する段差および突起が全くない選択酸化膜を形成することを特徴とする半導体装置の製造方法。」(特許請求の範囲)
「本発明は、半導体製造工程中の半導体装置における素子間分離のための選択酸化膜の製造において、選択酸化膜端部領域での選択酸化膜の段差および突起が全くない選択酸化膜の製造方法に関するものである。」(第1頁右下欄第7〜11行)
「第2図(a)〜(f)は本発明の実施例における製造工程を示す。第2図(a)において9はシリコンウエハ(酸化可能な基板)、12はホトレジストである。11はホトレジスト12をマスクにしてエツチングしたCVD窒化膜であり、10はCVD窒化膜をマスクにしてエツチングした熱酸化膜である。第2図(b)において14はシリコンウエハ9を選択酸化したものである。13は、この選択酸化によつて、エツチング(酸化膜に変換)されたシリコンである。シリコンを熱酸化すると、酸化膜はシリコン表面より酸化膜厚の約45%相当下部に形成される。たとえば、最終的に選択酸化膜厚1μmを形成するためにはシリコン13のエツチングに必要な酸化膜厚は約1.2μm(パッドの酸化膜厚10を考慮しない場合)となる。(第3図参照)第2図(c)において15は選択酸化膜14をエツチングにより除去した後に残つた素子領域上の熱酸化膜である。この時現われる選択酸化膜端部領域のシリコン13のスロープは選択酸化膜端部の突起(バーズヘツド)の発生を吸収させるのに相当するスロープとなつている。第2図(d)の16は熱酸化膜であり、17は減圧CVD窒化シリコンである。第2図(e)においては19は反応性イオンエツチング技術でセルフアラインによりCVD窒化シリコンを異方性エツチングしたものである。18はCVD窒化シリコン19をマスクにしてエツチングした熱酸化膜である。この時、第2図(a)の状態がバーズヘツドの発生を吸収させるスロープを覆つた構造で再現している。第2図(f)において20はバーズヘッドが完全にシリコン表面に埋め込まれた選択酸化膜の形状である。熱酸化前にシリコンの酸化によつてもり上がり相当分だけ熱酸化によつてエツチングされているため、熱酸化後に選択酸化によつて発生する突起は全くない。これは、選択酸化膜厚を増加させても同様の結果が得られる。」(第2頁右下欄第3行〜第3頁左上欄第17行)
「さらに本発明によれば次の特有の効果をも有するものである。
・・・
(ロ) 選択酸化特有の形状を選択酸化により半導体基板にスロープを形成し ているので突起および段差を完全に吸収できる。選択酸化膜厚に無関係で ある。
(ハ) 半導体基板のスロープへの選択酸化マスクはセルフアラインで形成し ているのでプロセスが簡単である。」(第3頁左下欄第17行〜同頁右下欄第10行)
よって、刊行物1には、以下の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されている。
「半導体装置の製造工程において、
シリコン基板の上に薄い酸化膜及び第1のシリコン窒化膜を形成し、ホトレジストをマスクとしたエツチングにより前記第1のシリコン窒化膜及び前記薄い酸化膜の一部を除去して、素子間分離領域を形成する工程、
前記素子間分離領域を選択的に酸化し選択酸化膜14を形成する工程、
前記選択酸化膜14と、前記選択酸化膜14に連続する前記薄い酸化膜の一部をエツチングで除去する工程、
前記工程の後、前記工程で前記選択酸化膜14と前記薄い酸化膜の一部を除去した部分のスロープを備えた前記シリコン基板上面に比較的薄い酸化膜を形成する工程、
前記比較的薄い酸化膜表面と前記第1のシリコン窒化膜の全表面に酸化マスクとなる第2のシリコン窒化膜を形成する工程、
前記第1のシリコン窒化膜をマスクとして、前記第2のシリコン窒化膜を異方性エツチングしてバーズビーク部分のシリコン基板側に前記第2のシリコン窒化膜を選択的に残す工程、
前記第2のシリコン窒化膜をマスクとして選択的にシリコン基板を酸化して選択酸化膜20を形成する工程、
以上の各工程を含み、半導体表面に対する段差および突起が全くない選択酸化膜20を形成することを特徴とする半導体装置の製造方法。」

刊行物2
本件優先権主張日前に頒布され、原審の拒絶の理由に引用した特開昭60-74452号公報には、第1図及び第2図とともに以下の事項が記載されいる。
「(1) 半導体基体上に形成された第1の耐酸化性被膜をマスクとして前記半導体基体に第1の開口部を形成する工程と、第2の耐酸化性被膜及び絶縁膜を前記半導体基体上に形成する工程と、異方性エッチングにより前記第1の開口部側面に前記第2の耐酸化性被膜及び絶縁膜を残存させる工程と、前記第1の開口部底部から前記半導体基体をエッチングし第2の開口部を形成する工程と、前記第1,第2の耐酸化性被膜をマスクとして酸化性雰囲気で前記半導体基体を熱処理して、前記第2の開口部に酸化膜を形成する工程とを含むことを特徴とする半導体装置の製造方法。
(2) 酸化物により充たされた第2の開口部が、隣接した第2の開口部と酸化物を介して接続されることを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の半導体装置の製造方法。」(特許請求の範囲第1項及び第2項)
「・・・その一つの実施例を第1図a〜fに示す。第1図aにおいて、1はたとえばp型111シリコン基板、2は熱酸化膜、3は耐酸化性被膜たとえば窒化ケイ素膜(Si3N4膜)である。4は分離領域となる所を選択的に開口しそこからシリコン基板をエッチングした開口部である。このエッチングの方法は異方性の強いドライエッチング法たとえば反応性イオンエッチング(RIE)を用いて行ない、垂直にp型シリコン基板1を所定量エッチングしている。その後、開口部の表面に熱酸化膜5を形成して、それから全面にSi3N4膜6を形成している(第1図b)。
第1図cにおいては、異方性の強いドライエッチング法でSi3N4膜3上に形成されたSi3N4膜6及び開口部4の底面に形成された熱酸化膜5、Si3N4膜6をエッチングして、開口部4の側面にのみ熱酸化膜5、Si3N4膜6を自己整合的に残している。その後、等方的なエッチング法たとえばウエットエッチングを用いてp型シリコン基板1をエッチングして横方向に開口部7を形成する(第1図d)。
第1図eにおいては、p型シリコン基板1を選択酸化して熱酸化膜8,8’を形成している。この熱酸化膜8,8’は島領域(図中aで示す部分)が狭いと完全にくつついて、島領域9の底面を完全に覆うことになる。その後、開口部4を絶縁物たとえばCVDで形成されたSiO2膜10で充てんすることにより島領域9は完全に絶縁物8,8’,10で覆われる(第1図f)。」(第1頁右下欄第11行〜第2頁左上欄第19行)
「実施例の説明
第2図a〜fとともに本発明の一実施例にかかる製造方法を示す。第2図aにおいて、21はp型111シリコン基板、22は熱酸化膜、23はSi3N4膜であり、24は分離領域となる所を選択的に異方性の強いドライエッチング法で開口部である。その後、開口部24の表面に熱酸化膜25を600Å形成し、全面にSi3N4膜26を1200 Å形成する。更に全面に本発明の特徴であるCVD法によるSiO2膜27を2000〜5000Å形成する(第2図b)。第3図cにおいては異方性の強いドライエッチング法にて、Si3N4膜23上に形成されたSi3N4膜26,CVDSiO2膜27及びシリコン基板の開口部24の底面に形成された熱酸化膜25,Si3N4膜26,CVDSiO2膜27をエッチングする。このエッチングで開口部24の側面にのみ、熱酸化膜25,Si3N4膜26,CVDSiO2膜27が自己整合的に残ることになる。
その後、等方的なエッチングたとえばウエットエッチングでシリコン基板1を横方向に0.5〜1.5μmエッチングして開口部28を形成する(第2図d)。第2図eにおいては、選択酸化により酸化膜29と29’がくつつくようにして、島領域30を形成する。この時、Si3N426の内側にはCVDSiO2膜27が2000〜5000Å形成されているので、酸化膜形成時の体積膨張によるSi3N426の上方向への持ち上がりは非常に少なくなり、島領域30の端部において、酸化膜29,29’は上方向へはほとんど形成されない。それ故、島領域30が端部で浅くなることはなく、島領域30の深さの均一性は大幅に改善されることになる。
その後、埋込法によって開口部24にCVDSiO2膜31を充てんする(第2図f)。これで、島領域30は側面及び底面もすべて酸化膜で覆われ、完全に絶縁物で分離され、島領域の深さも端部で浅くなるということもなくなる。
この島領域にバイポーラTrあるいはMOSTrを形成すればデバイスが完成する。」(第2頁左下欄第6行〜第3頁左上欄第5行)

よって、刊行物2には、以下の発明(以下、「刊行物2発明」という。)が記載されている。

「シリコン基体上に形成された第1の耐酸化性被膜をマスクとして反応性イオンエッチングにより前記シリコン基体をエッチングすることにより前記シリコン基体に第1の開口部を形成する工程と、
前記シリコン基体の前記第1の開口部の側面及び底面に熱酸化膜及び第2の耐酸化性被膜を順次形成する工程と、
異方性エッチングにより前記第1の開口部の底面に形成された前記熱酸化膜及び前記第2の耐酸化性被膜をエッチングし、前記第1の開口部の側面に形成された前記熱酸化膜及び前記第2の耐酸化性被膜を残存させる工程と、
前記第1の開口部の側面に残存させた前記熱酸化膜及び前記第2の耐酸化性被膜を残して、前記第1の開口部底部から前記シリコン基体をエッチングし第2の開口部を形成する工程と、
前記第1の耐酸化性被膜及び前記第2の耐酸化性被膜をマスクとして酸化性雰囲気で前記シリコン基体を熱処理して、前記第2の開口部に酸化膜を形成する工程と
を含むことを特徴とする半導体装置の製造方法。」

4.比較・検討
(1)刊行物1との比較・検討
刊行物1発明と、本件発明を比較検討する。
(a)本件発明の「トレンチ」について
刊行物1発明の「半導体装置の製造方法」において、「前記素子間分離領域を選択的に酸化し選択酸化膜14を形成する工程」及び、「前記選択酸化膜14と、前記選択酸化膜14に連続する前記薄い酸化膜の一部をエツチングで除去する工程」により、エッチングで除去された基板には、刊行物1の第2図(c)に記載される如き空洞部(「前記選択酸化膜14と前記薄い酸化膜の一部を除去した部分」)が形成されるが、前記空洞部をどのような技術用語で表現するかについて、刊行物1には何ら記載されていない。
ところで、特開昭63-241949号公報の第1図(a)〜(f)及びその説明(第3頁左下欄第11行〜第4頁左上欄第20行)には、刊行物1の選択酸化膜に相当する、「第1のフィールド酸化膜4」を除去した後基板に形成される空洞部を「溝5」と呼んでおり、また、特開平4-63431号公報(特願平2-174542号)の第1図(A)〜(E)、第2図(A)〜(E)及びその説明(第1頁右下欄第16行〜第3頁右下欄第12行)には、後の工程により分離酸化膜を形成する、シリコン基板にエッチングにより形成された空洞部分を「溝106」、「溝4」と呼んでいることを参照すると、本件出願当時において、シリコン基板にフィールド酸化膜又は分離酸化膜を形成するために形成する空洞部は「溝」と呼ばれていたことが一般的であるといえる。
したがって、刊行物1発明において、「前記選択酸化膜14と前記薄い酸化膜の一部を除去した部分」は「溝」と呼ぶことができる。
ここで、「溝」は「トレンチ」に相当するものと認められる。
よって、刊行物1発明の、「前記選択酸化膜14と前記薄い酸化膜の一部を除去した部分」は、本件発明の、「トレンチ」に相当する。
(b)本件発明の「丸み」について
刊行物1の第2図(c)及び、「第2図(c)において15は選択酸化膜14をエツチングにより除去した後に残つた素子領域上の熱酸化膜である。この時現われる選択酸化膜端部領域のシリコン13のスロープは選択酸化膜端部の突起(バーズヘツド)の発生を吸収させるのに相当するスロープとなつている。」(第2頁右下欄第17行〜第3頁左上欄第2行)、及び「(ロ) 選択酸化特有の形状を選択酸化により半導体基板にスロープを形成しているので突起および段差を完全に吸収できる。選択酸化膜厚に無関係である。」(第3頁右下欄第4〜7行)の記載より、「前記選択酸化膜14と前記薄い酸化膜の一部を除去した部分」に対応するシリコン基板表面に、「前記選択酸化膜14と前記薄い酸化膜の一部を除去した部分」の端部近傍において、スロープが形成されており、「スロープ」を備えたシリコン基板表面に薄い酸化膜を形成する工程、即ち、「前記工程で前記選択酸化膜14と前記薄い酸化膜の一部を除去した部分の前記シリコン基板上面に比較的薄い酸化膜を形成する工程」により、シリコン基板に形成された「スロープ」の表面には酸化膜が形成されることは明らかである。
また、本件発明の「コーナーを有するトレンチ」の「コーナー」は「隅部」又は「端部」を意味するとともに、刊行物1発明の「前記選択酸化膜14と前記薄い酸化膜の一部を除去した部分」に対応するシリコン基板に形成された「スロープ」が「丸み」を備えることは当業者に明らかである。
したがって、刊行物1発明の「前記工程で前記選択酸化膜14と前記薄い酸化膜の一部を除去した部分のスロープを備えた前記シリコン基板上面に比較的薄い酸化膜を形成する工程」は、本件発明の、「前記コーナー」を「酸化して丸みを付ける工程」に相当する。
(c)本件発明の「コーナー」について
次に、刊行物1発明においては、「前記工程で前記選択酸化膜14と前記薄い酸化膜の一部を除去した部分のスロープを備えた前記シリコン基板上面に比較的薄い酸化膜を形成する工程」の後に、「前記比較的薄い酸化膜表面と前記第1のシリコン窒化膜の全表面に酸化マスクとなる第2のシリコン窒化膜を形成する工程」を行っているが、「酸化マスクとなる第2のシリコン窒化膜を形成する工程」における「酸化マスクとなる第2のシリコン窒化膜」は、後の工程として実行する「前記第2のシリコン窒化膜をマスクとして選択的にシリコン基板を酸化して選択酸化膜20を形成する工程」における「酸化マスク」、言い換えると、酸化しない領域を覆うために形成された薄膜、即ち、本件発明の「前記予め酸化されたコーナーをシールする工程」における、酸化しないように耐酸化性被膜で「シール」するための薄膜であることは、当業者に明らかであって、「前記比較的薄い酸化膜表面と前記第1のシリコン窒化膜の全表面に酸化マスクとなる第2のシリコン窒化膜を形成する工程」及び、「前記第1のシリコン窒化膜をマスクとして、前記第2のシリコン窒化膜を異方性エツチングしてバーズビーク部分のシリコン基板側に第2のシリコン窒化膜を選択的に残す工程」により、シリコン基板に形成された「スロープ」を覆う「第2のシリコン窒化膜」を形成することとなる。
したがって、刊行物1発明の、「前記比較的薄い酸化膜表面と前記第1のシリコン窒化膜の全表面に酸化マスクとなる第2のシリコン窒化膜を形成する工程」及び「前記第1のシリコン窒化膜をマスクとして、前記第2のシリコン窒化膜を異方性エツチングしてバーズビーク部分のシリコン基板側に第2のシリコン窒化膜を選択的に残す工程」は、本件発明の、「前記予め酸化されたコーナーをシールする工程」に相当する。
(d)本件発明の「(フィールド)酸化物」について
さらに、刊行物1発明の、「前記第1のシリコン窒化膜をマスクとして、前記第2のシリコン窒化膜を異方性エツチングしてバーズビーク部分のシリコン基板側に第2のシリコン窒化膜を選択的に残す工程」により、シリコン基板の「スロープ」に、「前記第2のシリコン窒化膜をマスクとして選択的にシリコン基板を酸化して選択酸化膜20を形成する工程」は、本件発明の、「前記コーナーがシールされた状態で前記トレンチ内」に「酸化物を形成する工程」に相当することは、当業者に明らかである。

したがって、本件発明と刊行物1発明とは、
「シリコン層においてコーナーを有するトレンチが形成され、当該トレンチ内においてフィールド酸化物を形成する集積回路の製造方法において、
前記コーナーを酸化して丸みを付ける工程と、
前記酸化されたコーナーをシールする工程と、
前記コーナーがシールされた状態で前記トレンチ内に酸化物を形成する工程と、
の各工程を含む集積回路の製造方法。」の点で一致し、以下の各点で相違する。
相違点1
本件発明は、「シリコン層においてコーナーを有するトレンチが形成され、当該トレンチ内においてフィールド酸化物を形成することによって前記シリコン層と前記フィールド酸化物層間にバーズビークが形成し得る集積回路の製造方法」であるのに対して、
刊行物1発明は、上記の構成を備えていない点。
相違点2
本件発明は、「シリコン層においてコーナーを有するトレンチが形成され」るのに対して、
刊行物1発明は、「半導体装置の製造工程において、シリコン基板の上に薄い酸化膜及び第1のシリコン窒化膜を形成し、ホトレジストをマスクとしたエツチングにより前記第1のシリコン窒化膜及び前記薄い酸化膜の一部を除去して、素子間分離領域を形成する工程、前記素子間分離領域を選択的に酸化し選択酸化膜14を形成する工程、前記選択酸化膜14と、前記選択酸化膜14に連続する前記薄い酸化膜の一部をエツチングで除去する工程」を備えている点。
相違点3
本件発明は、「前記コーナーを予め酸化して丸みを付ける工程」を備えているのに対して、
刊行物1発明は、「前記工程の後、前記工程で前記選択酸化膜14と前記薄い酸化膜の一部を除去した部分のスロープを備えた前記シリコン基板上面に比較的薄い酸化膜を形成する工程」を備えている点。
相違点4
本件発明は、「前記予め酸化されたコーナーをシールする工程」を備えているのに対して、
刊行物1発明は、「前記比較的薄い酸化膜表面と前記第1のシリコン窒化膜の全表面に酸化マスクとなる第2のシリコン窒化膜を全面に形成する工程」、及び「前記第1のシリコン窒化膜をマスクとして、前記第2のシリコン窒化膜を異方性エツチングしてバーズビーク部分のシリコン基板側に第2のシリコン窒化膜を選択的に残す工程」を備える点。
相違点5
本件発明は、「前記コーナーがシールされた状態で前記トレンチ内にフィールド酸化物を形成する工程」を備えているのに対して、
刊行物1発明は、「該第2のシリコン窒化膜をマスクとして選択的にシリコン基板を酸化して選択酸化膜20を形成する工程」を備える点。
相違点6
本件発明は、「集積回路の製造過程におけるバーズビークの軽減方法」であるのに対して、
刊行物1発明は、「半導体表面に対する段差および突起が全くない選択酸化膜20を形成することを特徴とする半導体装置の製造方法」である点。

各相違点について、以下で検討する。
相違点1について
本件発明においては、シリコン基板に「コーナーを有するトレンチ」を形成するものであるとともに、前記トレンチ内にフィールド絶縁物を形成し、フィールド絶縁物の形成により、「前記シリコン層と前記フィールド酸化物層間にバーズビークが形成し得る」製造方法であるところ、本件発明の「トレンチ」は、刊行物1発明の「前記選択酸化膜14と前記薄い酸化膜の一部を除去した部分」に相当することは、上記(a)で検討したとおりであり、また、「前記選択酸化膜14と、前記選択酸化膜14に連続する前記薄い酸化膜の一部をエツチングで除去する工程」の後に、「前記選択酸化膜14と前記薄い酸化膜の一部を除去した部分」のシリコン基板表面に形成された「空洞部」の端部は「コーナーを有するトレンチ」の「コーナー」に相当することは、上記(b)で検討したとおりであり、さらに、刊行物1発明においても、「前記第1のシリコン窒化膜をマスクとして、前記第2のシリコン窒化膜を異方性エツチングしてバーズビーク部分のシリコン基板側に第2のシリコン窒化膜を選択的に残す工程」と「前記第2のシリコン窒化膜をマスクとして選択的にシリコン基板を酸化して選択酸化膜20を形成する工程」に記載されるように、「選択酸化膜20」は、本件発明の「フィールド絶縁膜」に相当し、刊行物1発明の「選択酸化膜20」とシリコン基板の間にも「バーズビーク」が形成されることは当業者に明らかであるので、刊行物1発明も、シリコン基板と「選択酸化膜20」間にバーズビークを「形成し得る」製造方法であることは、当業者に明らかである。
よって、この点は、実質的な相違点ではない。
相違点2について
なるほど、本件発明は、「シリコン層においてコーナーを有するトレンチが形成され」るものの、相違点2に記載した、刊行物1発明の上記工程そのものは備えていないが、本件発明においても、「トレンチ」を形成するため、即ち、シリコン基板30にトレンチ39を形成するためには、本件明細書の図1及びその説明に記載されるように(第2段落参照)、シリコン基板上に順次形成したパッド酸化膜33とシリコン窒化物層36をレジストマスク等のマスクを利用して、マスクの形成されていない部分の前記パッド酸化膜及び前記シリコン窒化物層36をエッチング除去し、前記パッド酸化膜及び前記シリコン窒化物層を除去した部分に、素子分離するための領域であるトレンチを形成するのであるから、刊行物1発明の「シリコン基板の上に薄い酸化膜及び第1のシリコン窒化膜を形成し、ホトレジストをマスクとしたエツチングにより前記第1のシリコン窒化膜及び前記薄い酸化膜の一部を除去して、素子間分離領域を形成する工程」は、本件発明においても潜在的に備えている工程であり、また、刊行物1発明において、「前記素子間分離領域を選択的に酸化し選択酸化膜14を形成する工程」及び、「前記選択酸化膜14と、前記選択酸化膜14に連続する前記薄い酸化膜の一部をエツチングで除去する工程」は、「前記選択酸化膜14と前記薄い酸化膜の一部を除去した部分」即ち「空洞部」を形成するための工程であり、一方、本件発明においても、「トレンチ」を形成するためには、トレンチ形成部分に対応するシリコン基板の一部を除去することが必要であって、刊行物1発明でいわゆる「空洞部」を形成するための「工程」に対応しているので、本件発明の「製造方法」は、潜在的又は実質的に、刊行物1発明の「半導体装置の製造工程において、シリコン基板の上に薄い酸化膜及び第1のシリコン窒化膜を形成し、ホトレジストをマスクとしたエツチングにより前記第1のシリコン窒化膜及び前記薄い酸化膜の一部を除去して、素子間分離領域を形成する工程、該素子間分離領域を選択的に酸化し選択酸化膜14を形成する工程、前記選択酸化膜14と、前記選択酸化膜14に連続する前記薄い酸化膜の一部をエツチングで除去する工程」に対応する工程を含むものである。
仮に、そうでないとしても、本件発明は、(A)「前記コーナーを予め酸化して丸みを付ける工程」と、(B)「前記予め酸化されたコーナーをシールする工程」と、(C)「前記コーナーがシールされた状態で前記トレンチ内にフィールド酸化物を形成する工程」とを含む「方法」であるから、刊行物1発明においても、(A)から(C)までの工程を含む「方法」であればよい(なお、刊行物1発明が(A)から(C)までの工程を含む点については、以下の相違点3ないし5において検討する。)のであって、相違点2として指摘した、刊行物1発明の「工程」をも含む発明から本件発明は当業者が容易に発明をすることができたものといえる。
相違点3について
刊行物1発明の「前記工程で前記選択酸化膜14と前記薄い酸化膜の一部を除去した部分のスロープを備えた前記シリコン基板上面に比較的薄い酸化膜を形成する工程」が、本件発明の「前記コーナー」を「酸化して丸みを付ける工程」に相当することは、上記(b)で検討したとおりであって、刊行物1発明の上記工程が、本件発明の「前記コーナーを予め酸化して丸みを付ける工程」、言い換えると、「予め」「前記コーナー」を「酸化して丸みを付ける工程」に相当するか否かについて検討するに、「予め」「酸化して丸みを付ける」とは、後に続く工程である本件発明の「前記予め酸化されたコーナーをシールする工程」の前に、言い換えると、「コーナーをシールする工程」の前に「予め」「酸化して丸みを付ける」ものであり、
また、上記(c)で検討したとおり、刊行物1発明の、「前記比較的薄い酸化膜表面と前記第1のシリコン窒化膜の全表面に酸化マスクとなる第2のシリコン窒化膜を形成する工程」及び「前記第1のシリコン窒化膜をマスクとして、前記第2のシリコン窒化膜を異方性エツチングしてバーズビーク部分のシリコン基板側に第2のシリコン窒化膜を選択的に残す工程」は、本件発明の、「前記予め酸化されたコーナーをシールする工程」に相当しており、
さらに、刊行物1発明においても、「前記比較的薄い酸化膜表面と前記第1のシリコン窒化膜の全表面に酸化マスクとなる第2のシリコン窒化膜を形成する工程」及び「前記第1のシリコン窒化膜をマスクとして、前記第2のシリコン窒化膜を異方性エツチングしてバーズビーク部分のシリコン基板側に第2のシリコン窒化膜を選択的に残す工程」の前に予め行われる、「前記工程で前記選択酸化膜14と前記薄い酸化膜の一部を除去した部分のスロープを備えた前記シリコン基板上面に比較的薄い酸化膜を形成する工程」において、シリコン基板上面の一部である前記「スロープ」には、「比較的薄い酸化膜を形成する工程」において、酸化膜が形成され、酸化膜が形成されることにより、前記シリコン基板上面の表面がよりなだらかになる、言い換えると、丸みが付けられることは当業者に明らかであるので、刊行物1発明の、事後の工程の前に予め行われる、「前記工程で前記選択酸化膜14と前記薄い酸化膜の一部を除去した部分のスロープを備えた前記シリコン基板上面に比較的薄い酸化膜を形成する工程」は、「予め」「前記コーナー」を「酸化して丸みを付ける工程」、言い換えると、本件発明の「前記コーナー」を「予め」「酸化して丸みを付ける工程」に相当するものである。
また、刊行物1発明に「前記工程の後」という構成が付加されているのは、「前記工程で前記選択酸化膜14と前記薄い酸化膜の一部を除去した部分のスロープを備えた前記シリコン基板上面に比較的薄い酸化膜を形成する工程」を、「前記選択酸化膜と、前記選択酸化膜14に連続する前記薄い酸化膜の一部をエツチングで除去する工程」の後に行うことを明示するためであって、刊行物1発明における、他の「工程」との関連性を記載したに過ぎず、一方、本件発明においても、実質的に「コーナーを有するトレンチ」を形成した後に「前記コーナーを予め酸化して丸みを付ける工程」を実施しているのであるので、上記2つの「工程」の順序は自ずから明らかであり、刊行物1発明に「前記工程の後」という構成が、明示的な文言として記載されているとしても、この点は、実質的な相違点とはいえない。
相違点4について
刊行物1発明について検討するに、「前記第1のシリコン窒化膜をマスクとして、前記第2のシリコン窒化膜を異方性エツチングしてバーズビーク部分のシリコン基板側に第2のシリコン窒化膜を選択的に残す工程」においては、「第2のシリコン窒化膜を選択的に残す」ためには、「第2のシリコン窒化膜」を所定の表面に形成することが必要であって、そのための「工程」が「前記比較的薄い酸化膜表面と前記第1のシリコン窒化膜の全表面に酸化マスクとなる第2のシリコン窒化膜を形成する工程」であり、また、「前記第1のシリコン窒化膜をマスクとして、前記第2のシリコン窒化膜を異方性エツチングしてバーズビーク部分のシリコン基板側に第2のシリコン窒化膜を選択的に残す工程」において、「異方性エッチング」によりエッチング除去される部分は、「前記比較的薄い酸化膜表面と前記第1のシリコン窒化膜の全表面に酸化マスクとなる第2のシリコン窒化膜を形成する工程」により形成された「第2のシリコン窒化膜」であって、「第2のシリコン窒化膜を選択的に残す工程」により残された「第2のシリコン窒化膜」は、上記(c)で検討したとおり、「バーズビーク部分のシリコン基板側」即ち、シリコン基板に形成された「スロープ」を含む部分も覆うものであることは明らかである。
よって、この点は実質的な相違点ではない。
相違点5について
刊行物1発明の「選択酸化膜20」は、素子間分離のために形成するものであることが刊行物1に記載されており(第1頁右下欄第7〜11行参照)、一方、本件発明の「フィールド絶縁物」が素子分離のためのものであることは明らかであり、また、「前記第2のシリコン窒化膜をマスク」とすることにより、「前記選択酸化膜14と前記薄い酸化膜の一部を除去した部分」に対応するシリコン基板の「バーズビーク部分のシリコン基板側」は、「前記第2のシリコン窒化膜」にマスクされているから、刊行物1発明の「前記第2のシリコン窒化膜をマスク」とした状態は、本件発明の「前記コーナーがシールされた状態」に対応することは明らかであって、結局、この点は実質的な相違点ではない。
相違点6について
本件発明は、「集積回路の製造過程におけるバーズビークの軽減方法」である、即ち、「バーズビーク」が軽減できるという効果を記載しているようであるが、前記効果が、本件発明の「前記コーナーを予め酸化して丸みを付ける工程」及び「前記コーナーがシールされた状態で前記トレンチ内にフィールド酸化物を形成する工程」によるものとすれば、上記「相違点3について」の検討を参酌すると、刊行物1発明は、本件発明のそれぞれの前記工程に対応する、「前記工程で前記選択酸化膜14と前記薄い酸化膜の一部を除去した部分のスロープを備えた前記シリコン基板上面に比較的薄い酸化膜を形成する工程」及び「前記第2のシリコン窒化膜をマスクとして選択的にシリコン基板を酸化して選択酸化膜20を形成する工程」とを備えており、また、刊行物1に、「この時現われる選択酸化膜端部領域のシリコン13のスロープは選択酸化膜端部の突起(バーズヘツド)の発生を吸収させるのに相当するスロープとなつている。」(第2頁右下欄第19行〜第3頁左上欄第2行)と記載されているように、刊行物1発明も、バーズビークの発生を減少できるという効果を奏するものと認める。
したがって、この点は、実質的な相違点ではない。

よって、本件発明は、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(2)刊行物2との比較
刊行物2発明と本件発明を比較検討する。
(e)本件発明の「トレンチ」について
刊行物2発明の「シリコン基体上に形成された第1の耐酸化性被膜をマスクとして反応性イオンエッチングにより前記シリコン基体をエッチングすることにより前記シリコン基体に第1の開口部を形成する工程」に関し、刊行物2には、「1はたとえばp型111シリコン基板、2は熱酸化膜、3は耐酸化性被膜たとえば窒化ケイ素膜(Si3N4膜)である。4は分離領域となる所を選択的に開口しそこからシリコン基板をエッチングした開口部である。このエッチングの方法は異方性の強いドライエッチング法たとえば反応性イオンエッチング(RIE)を用いて行ない、垂直にp型シリコン基板1を所定量エッチングしている。」(第1頁右下欄第12〜20行参照)と記載され、反応性イオンエッチングを用いて垂直な側面を持つ「開口部」を形成しており、このような垂直な側面を持つ溝状の部分は通常「トレンチ」と呼ばれているから、刊行物2発明の「第1の開口部」は、本件発明の「トレンチ」に相当する。
(f)本件発明の「コーナー」について
本件明細書には、「本発明は図13乃至図15の順序に従って示した通り、トレンチ39の壁面に、丸味付け酸化物40と称する二酸化シリコン層を熱生成する。丸味付け酸化物層40は厚さが約3から150ナノメーターの範囲内にある。」(第15段落参照)及び、「丸味付け酸化物40の厚さが約8から80ナノメーター」に形成されることが記載されており(第16段落参照)、一方、刊行物2には、「第2図aにおいて、21はp型111シリコン基板、22は熱酸化膜、23はSi3N4膜であり、24は分離領域となる所を選択的に異方性の強いドライエッチング法で開口部である。その後、開口部24の表面に熱酸化膜25を600Å形成し、全面にSi3N4膜26を1200 Å形成する。」(第2頁左下欄第8〜14行)と記載され、本件発明の「トレンチ」に相当する、刊行物2発明の「開口部」の表面、即ち、底面及び側面に、熱酸化膜が600Å(=60nm)形成されており、本件発明の実施例のトレンチ壁面に形成された「丸味付け酸化物」の厚さ(約8から80nm)と同等であるから、刊行物2発明においても、開口部のシリコン基体の表面近傍に熱酸化膜を形成することにより、トレンチの開口端部(本件発明の「コーナー」に相当)には、本件発明と同様に「丸み」が形成されると解するのが妥当である。
したがって、刊行物2発明の「前記シリコン基体の前記第1の開口部の側面及び底面に熱酸化膜」を「形成する工程」は、本件発明の「前記コーナー」を「酸化して丸みを付ける工程」に相当する。
(g)本件発明の「シール」について
刊行物2発明の「前記シリコン基体の前記第1の開口部の側面及び底面に熱酸化膜及び第2の耐酸化性被膜を順次形成する工程と、異方性エッチングにより前記第1の開口部の底面に形成された前記熱酸化膜及び前記第2の耐酸化性被膜をエッチングし、前記第1の開口部の側面に形成された前記熱酸化膜及び前記第2の耐酸化性被膜を残存させる工程」により、「前記シリコン基体の前記第1の開口部の側面及び底面」に形成した「熱酸化膜及び第2の耐酸化性被膜」において「前記第1の開口部の側面に形成された前記熱酸化膜及び前記第2の耐酸化性被膜を残存させる」のであるから、上記工程により、「前記シリコン基体の前記第1の開口部の側面」に形成され、開口部のシリコン基体表面付近を覆う「熱酸化膜」は、第2の耐酸化性被膜に覆われていることは明らかであり、結局、刊行物2発明の「異方性エッチングにより前記第1の開口部の底面に形成された前記熱酸化膜及び前記第2の耐酸化性被膜をエッチングし、前記第1の開口部の側面に形成された前記熱酸化膜及び前記第2の耐酸化性被膜を残存させる工程」は、本件発明の「前記予め酸化されたコーナーをシールする工程」に相当する。
(h)本件発明の「フィールド酸化物(層)」について
刊行物2発明の「前記第1の開口部の側面に残存させた前記熱酸化膜及び前記第2の耐酸化性被膜を残して、前記第1の開口部底部から前記シリコン基体をエッチングし第2の開口部を形成する工程と、前記第1の耐酸化性被膜及び前記第2の耐酸化性被膜をマスクとして酸化性雰囲気で前記シリコン基体を熱処理して、前記第2の開口部に酸化膜を形成する工程」において、刊行物2発明の「前記第1の開口部の側面に残存させた前記熱酸化膜及び前記第2の耐酸化性被膜を残し」た状態は、本件発明の「前記コーナーがシールされた状態」に相当することは、上記(g)で検討したとおりであり、また、刊行物2発明の「前記第1の耐酸化性被膜及び前記第2の耐酸化性被膜をマスクとして酸化性雰囲気で前記シリコン基体を熱処理して、前記第2の開口部に酸化膜を形成する工程」において、「前記第1の耐酸化性被膜及び前記第2の耐酸化性被膜をマスクとして酸化性雰囲気」で「酸化膜を形成」しているとともに、「第2の開口部」は「第1の開口部」に連続して形成されているので、刊行物2発明の「前記第1の耐酸化性被膜及び前記第2の耐酸化性被膜をマスクとして酸化性雰囲気で前記シリコン基体を熱処理して、前記第2の開口部に酸化膜を形成する工程」は、本件発明の「前記コーナーがシールされた状態で前記トレンチ内に酸化物を形成する工程」に相当する。
よって、本件発明と刊行物2発明とは、
「シリコン層においてコーナーを有するトレンチが形成された集積回路の製造方法において、
前記コーナーを酸化して丸みを付ける工程と、
前記酸化されたコーナーをシールする工程と、
前記コーナーがシールされた状態で前記トレンチ内に酸化物を形成する工程と、
の各工程を含む集積回路の製造方法。」の点で一致し、以下の各点で相違する。
相違点1
本件発明は、「シリコン層においてコーナーを有するトレンチが形成され、当該トレンチ内においてフィールド酸化物を形成することによって前記シリコン層と前記フィールド酸化物層間にバーズビークが形成し得る集積回路の製造方法」であるのに対して、
刊行物2発明は、上記の構成を備えていない点。
相違点2
本件発明は、「シリコン層においてコーナーを有するトレンチが形成され」ているのに対して、
刊行物2発明は、「シリコン基体上に形成された第1の耐酸化性被膜をマスクとして反応性イオンエッチングにより前記シリコンン基体をエッチングすることにより前記シリコン基体に第1の開口部を形成する工程」を備えている点。
相違点3
本件発明は、「前記コーナーを予め酸化して丸みを付ける工程」を備えるのに対して、
刊行物2発明は、「前記シリコン基体の前記第1の開口部の側面及び底面に熱酸化膜及び第2の耐酸化性被膜を順次形成する工程」を備える点。
相違点4
本件発明は、「前記コーナーがシールされた状態で前記トレンチ内にフィールド酸化物を形成する工程」を備えるのに対して、
刊行物2発明は、「前記第1の開口部の側面に残存させた前記熱酸化膜及び前記第2の耐酸化性被膜を残して、前記第1の開口部底部から前記シリコン基体をエッチングし第2の開口部を形成する工程と、前記第1の耐酸化性被膜及び前記第2の耐酸化性被膜をマスクとして酸化性雰囲気で前記シリコン基体を熱処理して、前記第2の開口部に酸化膜を形成する工程」を備えた点。
相違点5
本件発明は、「集積回路の製造過程におけるバーズビークの軽減方法」であるのに対して、
刊行物2発明は、「半導体装置の製造方法」である点。

以下各相違点について検討する。
相違点1について
本件発明においては、シリコン基板に「コーナーを有するトレンチ」を形成するとともに、前記トレンチ内にフィールド酸化物を形成し、フィールド酸化物の形成により、「前記シリコン層と前記フィールド酸化物層間にバーズビークが形成し得る」製造方法であるところ、刊行物2発明の「第1の開口部」が、本件発明の「トレンチ」に相当することは、上記(e)で検討したとおりであり、刊行物2発明においても、開口部のシリコン基体の表面近傍に熱酸化膜を形成することにより、トレンチの開口端部(本件発明の「コーナー」に相当)に、本件発明と同様に「丸み」が形成されることは上記(f)で検討したとおりである。
また、刊行物2発明の「前記第1の耐酸化性被膜及び前記第2の耐酸化性被膜をマスクとして酸化性雰囲気で前記シリコン基体を熱処理して、前記第2の開口部に酸化膜を形成する工程」において、前記熱処理により、第2の開口部に「酸化膜」が形成されるとともに、前記熱処理により形成された「酸化膜」と連続したものとして、「前記シリコン基体の前記第1の開口部の側面及び底面に熱酸化膜及び第2の耐酸化性被膜を順次形成する工程」で形成された前記「熱酸化膜」の厚みが増すことは、刊行物の第1図(e)及び「第1図eにおいては、p型シリコン基板1を選択酸化して熱酸化膜8,8’を形成している。」(第2頁左上欄第12〜13行)の記載から明らかであって、刊行物2発明の前記「酸化膜」が前記「熱酸化膜」と連続したものとなるか、刊行物2発明の前記「熱酸化膜」が前記「酸化膜」の一部となるかは明らかではないものの、刊行物2発明の前記「熱酸化膜」と前記「酸化膜」とを合わせたものが、本件発明の「フィールド酸化物層」に相当すると解するのが妥当である。
さらに、刊行物2発明の前記「熱酸化膜」と前記「酸化膜」とを合わせたものは、実質的にフィールド酸化物層と同等のものであるので、刊行物2発明においても、前記シリコン基体と、刊行物2発明の前記「熱酸化膜」と前記「酸化膜」とを合わせたものとの間に、「バーズビーク」を形成し得る構造であることは、当業者に明らかである。
よって、この点は、実質的な相違点ではない。
相違点2について
上記(e)で検討したとおり、刊行物2発明の「第1の開口部」は、本件発明の「トレンチ」に相当しており、本件発明は、刊行物2発明の「第1の開口部」を形成する工程に対応する、「トレンチ」を形成する工程を明示的には備えていないものの、本件発明の「集積回路の製造方法」は、「シリコン層においてコーナーを有するトレンチが形成され」ているのであるから、本件発明は、刊行物2発明のように「第1の開口部を形成する工程」そのものを表現上有していないが、本件発明の「集積回路の製造方法」は、「トレンチ」の形成工程を実質的に備えたものである。
よって、この点は実質的な相違点ではない。
相違点3について
刊行物2発明においては、本件発明の「前記コーナー」を「酸化して丸みを付ける工程」に相当する工程に、さらに「第2の耐酸化性被膜」を形成する工程をも備えているものの、「第2の耐酸化性被膜」を形成しておくことは、後の「異方性エッチングにより前記第1の開口部の底面に形成された前記熱酸化膜及び前記第2の耐酸化性被膜をエッチングし、前記第1の開口部の側面に形成された前記熱酸化膜及び前記第2の耐酸化性被膜を残存させる工程」において必須の構成であって、本件発明においても、「前記コーナーを予め酸化して丸みを付ける工程」の後の「前記予め酸化されたコーナーをシールする工程」において、「コーナーをシール」しており、ここで、「コーナーをシール」するとは、「前記コーナーがシールされた状態で前記トレンチ内にフィールド酸化物を形成する工程」を参照すると、「シール」された「シリコン層」の「コーナー」が酸化されないように保護することであり、言い換えると、耐酸化性の被膜で覆うことと同等であることは当業者に明らかであるので、「コーナーをシール」するとは、シリコン層の「コーナー」を耐酸化性の被膜で覆うことを意味している。
ここで、上記(g)で検討したように、刊行物2発明の「異方性エッチングにより前記第1の開口部の底面に形成された前記熱酸化膜及び前記第2の耐酸化性被膜をエッチングし、前記第1の開口部の側面に形成された前記熱酸化膜及び前記第2の耐酸化性被膜を残存させる工程」は、本件発明の「前記予め酸化されたコーナーをシールする工程」に相当しており、刊行物2発明の上記工程を行うためには、その前に行う工程、即ち、「前記シリコン基体の前記第1の開口部の側面及び底面に熱酸化膜及び第2の耐酸化性被膜を順次形成する工程」において、「耐酸化性」の被膜、ここでは、「第2の耐酸化性被膜」を形成することが必要であることは、当業者に明らかである。
したがって、本件発明には、明示的には記載されていないものの、「前記予め酸化されたコーナーをシールする工程」を行う前に、予め「コーナーをシール」するための被膜を形成すること、言い換えると、耐酸化性の被膜で「コーナー」を覆うことが必要であるので、本件発明においても、刊行物2発明の、上記「第2の耐酸化性被膜」を形成する工程に対応する工程を実質的に備えているものと解するのが妥当である。
よって、この点は実質的な相違点ではない。
相違点4について
刊行物2発明においては、「前記第1の開口部の側面に残存させた前記熱酸化膜及び前記第2の耐酸化性被膜を残して、前記第1の開口部底部から前記シリコン基体をエッチングし第2の開口部を形成する工程と、前記第1の耐酸化性被膜及び前記第2の耐酸化性被膜をマスクとして酸化性雰囲気で前記シリコン基体を熱処理して、前記第2の開口部に酸化膜を形成する工程」に関し、熱処理して「酸化膜を形成する工程」において、酸化膜を「第2の開口部」に形成しているところ、シリコン基体のより深い位置に素子分離のための酸化膜を形成するための、第2の開口部を「前記第1の開口部底部から前記シリコン基体をエッチング」して形成しているのであって、素子分離領域における必要な耐電圧が比較的低く、素子分離のための酸化膜をシリコン基体の深い位置に形成する必要がない場合には、第1の開口部底部に更に形成される「第2の開口部」を形成することなく、第1の開口部底部を熱処理して酸化膜を形成すればよいのであって、その場合には、「前記第1の開口部底部から前記シリコン基体をエッチングし第2の開口部を形成する工程」は必要でなく、また、その場合には、「前記第1の耐酸化性被膜及び前記第2の耐酸化性被膜をマスクとして酸化性雰囲気で前記シリコン基体を熱処理して、前記第2の開口部に酸化膜を形成する工程」は、「前記第1の耐酸化性被膜及び前記第2の耐酸化性被膜をマスクとして酸化性雰囲気で前記シリコン基体を熱処理して」、前記第1の開口部に「酸化膜を形成する工程」となる。
さらに、「第1の開口部」の深さは、素子分離領域における必要な耐電圧と関連するものであり、必要な耐電圧がそれほど高くなければ、前記深さは比較的浅くともよく、その場合には、第1の開口部に形成される熱酸化膜により、第1の開口部はほぼ埋まってしまう。
結局、刊行物2発明において、素子分離のために必要な耐電圧が比較的低くともよい場合には、「第2の開口部」は必要でなく、半導体装置に必要とされる特性に応じて、「第2の開口部」の形成工程を、適宜省略することにより、本件発明の如き工程とすることは、当業者が容易になしえたものである。
相違点5について
本件発明は、「集積回路の製造過程におけるバーズビークの軽減方法」である、即ち、「バーズビーク」が軽減できるという効果を記載しているようであるが、前記効果が「前記コーナーを予め酸化して丸みを付ける工程」及び「前記コーナーがシールされた状態で前記トレンチ内にフィールド酸化物を形成する工程」によるものとすれば、上記「相違点3について」の検討を参照すると、刊行物2発明は、本件発明のそれぞれの前記工程に対応する、「前記シリコン基体の前記第1の開口部の側面及び底面に熱酸化膜」を「形成する工程」及び「前記第1の耐酸化性被膜及び前記第2の耐酸化性被膜をマスクとして酸化性雰囲気で前記シリコン基体を熱処理して、前記第2の開口部に酸化膜を形成する工程」という工程を備えており、刊行物2発明も、「バーズビーク」の発生を減少できるという、本件発明と同等な効果を奏するものと認める。
したがって、この点は、実質的な相違点ではない。

よって、本件発明は、刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

なお、審判請求人は、平成14年4月18日付けの審判請求理由補充書の提出時においても特許請求の範囲を補正することができたにもかかわらず、特許請求の範囲についての手続補正をせず、上記審判請求理由補充書において、本件の特許請求の範囲の請求項1に係る発明が原審で引用した引用例1ないし3に記載される発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができる場合には、以下のように補正したい旨記載している。(【請求の理由】第5頁第13行〜第6頁第1行)
「シリコン層においてコーナーを有するトレンチが形成され、当該トレンチ内においてフィールド酸化物を形成することによって前記シリコン層と前記フィールド酸化物層間にバーズビークが形成し得る集積回路の製造方法において、
a)前記コーナーを予め酸化して丸みを付ける工程と、
b)前記丸みを付けたコーナーをシールする工程と、
c)前記丸みを付けたコーナーがシールされた状態で前記トレンチ内にフィールド酸化物を形成する工程と、
d)前記丸みを付けたコーナーを含む前記シリコン層及び前記トレンチ内の前記酸化物を露出させる工程と、
e)前記露出された前記前記丸みを付けたコーナーを含む前記シリコン層上にゲート酸化物を形成する工程と、
の各工程を含む集積回路の製造過程におけるバーズビークの軽減方法」(以下、「補正案」という。)
しかしながら、上記補正案は、実質的には、本件の特許請求の範囲の請求項1に、工程d)及び工程e)を附加したものに過ぎず、半導体集積回路の最も基本的な回路要素であるMOSFETを含む半導体集積回路を形成する工程において、フィールド酸化物(膜)等の素子分離領域を形成した後に、半導体基板表面に形成されているシリコン酸化膜等の薄膜を除去して半導体基板表面を露出するとともに、露出した半導体基板表面に不純物をより少なく含むように、新たにゲート酸化物(膜)を形成することは、半導体装置の製造法において、従来周知であるから、本件の特許請求の範囲の請求項1にさらに、工程d)及び工程e)を備えたものとすることは、当業者が、刊行物1及び刊行物2に記載された発明及び従来周知の技術に基づいて、容易に発明をすることができたものである。
よって、上記補正案によっても、原審の査定を覆すものとはならない。

5.むすび
以上のとおりであるから、本件は、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-07-29 
結審通知日 2005-08-02 
審決日 2005-08-22 
出願番号 特願平4-75745
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 井原 純井原 純  
特許庁審判長 河合 章
特許庁審判官 瀧内 健夫
岡 和久
発明の名称 集積回路の製造過程におけるバーズビークの軽減方法  
代理人 西山 善章  
代理人 西山 善章  
代理人 西山 善章  

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