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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
無効200580026 審決 特許
無効200480238 審決 特許
無効2007800043 審決 特許
無効2007800191 審決 特許
審判199935756 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  F16D
審判 全部無効 2項進歩性  F16D
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  F16D
管理番号 1128536
審判番号 無効2005-80025  
総通号数 74 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2002-03-22 
種別 無効の審決 
審判請求日 2005-01-25 
確定日 2006-01-04 
事件の表示 上記当事者間の特許第3509726号発明「湿式遠心クラッチ用クラッチウエイト及びその製造方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3509726号の請求項1乃至3に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1、本件手続の経緯
本件無効審判請求に係る特許第3509726号は、平成12年9月6日に出願され、平成14年3月22日に出願公開され、平成16年1月9日に特許権の設定の登録がなされ、平成16年3月22日に特許掲載公報が発行されたものである。
これに対して、平成17年1月25日に請求人・若園英彦より無効審判の請求がなされ、同年7月26日に第一回口頭審理が名古屋市中区栄1-18-8、愛知県青年会館特許庁審判廷で実施され、同年8月17日付で被請求人には無効理由が、請求人には職権審理結果が夫々通知され、同年9月21日に被請求人より意見書の提出があったものである。

2、本件特許発明
本件特許の請求項1乃至3に係る特許発明(以下、それぞれ「特許発明1」〜「特許発明3」という。)は、特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1乃至3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「 【請求項1】 金属材料から成るウエイト部材(14)に、クラッチアウタ(6)の内周に摩擦係合し得る摩擦材(15)が接着されて成る湿式遠心クラッチ用クラッチウエイトにおいて、
前記ウエイト部材(14)が焼結合金により形成されており、
そのウエイト部材(14)は、焼結直後の該ウエイト部材(14)内に生じている空孔(22…)に潤滑油が吸入されてクラッチ特性が変化するのを防止するために、該ウエイト部材(14)を形成している焼結材に、前記空孔(22…)をなくす錆を焼結後のスチーム処理で生じさせてあることを特徴とする、湿式遠心クラッチ用クラッチウエイト。
【請求項2】 鉄系の焼結合金から成るウエイト部材(14)の密度が6g/cm3以上に設定されることを特徴とする、請求項1記載の湿式遠心クラッチ用クラッチウエイト。
【請求項3】 上記請求項1または2記載の湿式遠心クラッチ用クラッチウエイトを製造するにあたり、
焼結材による焼結がなされた前記ウエイト部材(14)にスチーム処理を施し、そのスチーム処理後に、前記ウエイト部材(14)の、摩擦材(15)を接着させる接合面にサンドブラスト処理を施すことを特徴とする、湿式遠心クラッチ用クラッチウエイトの製造方法。」

ここで、特許発明3に着目してみれば、このものは特許発明1又は2の引用形式で記載されているから、特許発明3は特許発明1を引用する内容の特許発明、即ち、「金属材料から成るウエイト部材(14)に、クラッチアウタ(6)の内周に摩擦係合し得る摩擦材(15)が接着されて成る湿式遠心クラッチ用クラッチウエイトにおいて、
前記ウエイト部材(14)が焼結合金により形成されており、
そのウエイト部材(14)は、焼結直後の該ウエイト部材(14)内に生じている空孔(22…)に潤滑油が吸入されてクラッチ特性が変化するのを防止するために、該ウエイト部材(14)を形成している焼結材に、前記空孔(22…)をなくす錆を焼結後のスチーム処理で生じさせてあることを特徴とする、湿式遠心クラッチ用クラッチウエイトを製造するにあたり、
焼結材による焼結がなされた前記ウエイト部材(14)にスチーム処理を施し、そのスチーム処理後に、前記ウエイト部材(14)の、摩擦材(15)を接着させる接合面にサンドブラスト処理を施すことを特徴とする、湿式遠心クラッチ用クラッチウエイトの製造方法。」なる特許発明(以下、「特定特許発明」という。)を包含していることが明らかである。

3、請求人の主張
これに対し、請求人は甲第1号証刊行物(実願昭61-154198号(実開昭63-59227号)のマイクロフィルム)、甲第2号証刊行物(特公平5-59164号公報)、甲第3号証刊行物(特開昭61-195904号公報)、参考文献(「生産用語辞典」、昭和60年12月24日、発行所 トヨタ自動車株式会社・トヨタ技術会)を呈示して、本件特許発明1〜3は甲第1〜3号証刊行物及び参考文献に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許発明1〜3に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきであると主張している。
また、本件特許明細書の記載に関し、発明の詳細な説明の記載は本件特許発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとは言えないので、特許法第36条第4項第1号、第6項に規定する要件を満たしていないから、本件特許発明は特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものであると主張してもいる。

4、被請求人の主張
一方、被請求人は、平成17年4月18日付無効審判答弁書及び平成17年7月26日の口頭審理において、甲第1〜3号証刊行物及び参考文献の存在の如何に拘わらず、本件特許発明に対する特許は特許法第29条第2項の規定に違反しないものであることは明白であるから、請求人の主張のような無効理由は存在しないし、発明の詳細な説明の記載についても、当業者が発明を実施することができる程度に記載されているから、特許法第36条第4項第1号、第6項に規定する要件を満たすものであって、請求人が主張するような無効理由も存在しない、と主張している。

5、無効理由通知
当審は請求人より呈示された刊行物と請求人被請求人双方の主張を検討すると共に、職権審理を行った結果、被請求人に対し無効理由を通知することとした。
その無効理由通知の概要は以下の如くである。
本件特許発明1〜3は、引用文献1(特開平8-42604号公報)、引用文献2(実願平4-63876号(実開平6-20927号)のCD-ROM)、引用文献3(特開昭61-195904号公報(請求人の提出に係る甲第3号証刊行物))、引用文献4(特開平9-4652号公報)、引用文献5(特開2000-205153号公報)、引用文献6(特表平10-513250号公報)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違背して特許されたものであって、同法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきものである。

6、引用文献の記載内容
(イ)引用文献1には次の記載が認められる。
「【産業上の利用分野】本発明は、例えば、携帯式作業機械や原動機付自転車などに用いる小型エンジンに内装する遠心クラッチに関する。」(第2頁左欄第33行〜35行)
「本発明は、上記事情に基づき成されたもので、簡潔な構造で、耐久性が大きく、製造が容易で、低価格の遠心クラッチを提供することを目的としたものである。」(第2頁右欄第39行〜第41行)
「図示省略の始動装置でエンジンを始動した後、スロットルを開いて回転速度を上げると、クラッチシュー33が遠心力によってコイルばね35の力に抗してクラッチボス32のアーム32aに沿って外方に広がり、ライニング34がクラッチドラム31の内周面に押当てられ、摩擦力によってクランク軸24の回転トルクをクラッチドラム31に伝達する。」(第3頁右欄第46行〜第4頁左欄第2行)
「33及び34は、それぞれ3個のクラッチシュー及びこのクラッチシュー33の外周面に固着された摩擦係数の大きいライニング」(第3頁右欄第11行〜第13行)
「クラッチシュー33は、焼結合金で作られ、半径方向に走る角溝33aと、クランク軸24に直角でクラッチシュー33の重心を含む面内にコイルばね35を収めるための円弧状の溝33bと、また、左右の側面に突出する突出部33c及び33dを有し、角溝33aをクラッチボス32のアーム32aに摺動自在に嵌合させ、溝33bに嵌めたコイルばね35によってクラッチボス32の軸心方向に付勢されている。」(第3頁右欄第22行〜第29行)
「クラッチボス32のアーム32aとクラッチシュー33の角溝33aが嵌合する摺動面には、アーム32aに設けた油孔32cを通って潤滑油が容易に進入し、両者の摺動を円滑にする。」(第4頁左欄第20行〜第23行)
以上の記載を基に、明細書及び図面を参照して纏めると、引用文献1には、「金属材料から成るクラッチシュー33に、クラッチドラム31の内周に摩擦係合し得るライニング34が固着されて成る湿式遠心クラッチ用クラッチシューにおいて、前記クラッチシュー33が焼結合金により形成されている、湿式の遠心クラッチ用クラッチシューの製造方法」なる発明が実質的に記載されているとすることができる。
(ロ)引用文献2には次の記載が認められる。
「【0009】
【考案が解決しようとする課題】
このように、従来の遠心クラッチでは、クラッチシュー23に確実な遠心力が働くよう、クラッチシュー23に適切な質量を与えることを目的として、クラッチシュー23を金属などの比重の大きい材質により形成し、その周縁面に摩擦を得るためのレジンモールドなどの摩擦係数の大きい材質のライニング24を接着するようにしている。
【0010】
また、クラッチシュー23を回転数に応じて円滑に放射方向に移動させるために、環状にされたコイルスプリング26が挿入される各クラッチシュー23の凹溝25は、クラッチシュー23が質量の大きい金属製であることから、通常クラッチシュー23の両側面に形成されるが、この工程は後加工が必要である。
【0011】
以上のように、ライニング24の接着工程や、凹溝25を形成する工程が必要であり、製造工程が多かった。」(第5頁第14行〜第28行)
(ハ)引用文献3には次の記載が認められる。
「〔従来の技術〕
一般に、焼結合金部材は、溶製材と異なり多孔質でできているので、焼結合金部材に素地のまま、メツキを施すと、メツキ液が穴ないし空隙部に浸入してしまい、このため、浸入したメツキ液を除去することは極めて困難であるばかりでなく、メツキ後に残つたメツキ液中の残留薬品によつて腐食が起こり、そこからメツキ層が剥離するという欠点があつた。
したがつて、従来は、このような焼結合金部材、特に鉄系焼結合金部材にメツキを施す場合には、何らかの方法で、封孔する必要があり、例えば、樹脂、水ガラスなどを含浸させる方法、シヨツトピ-ニングなどによつて表面の目つぶしを行う方法、更にはスチ-ム処理等によつて封孔処理を行ない、得られた表面にメツキを施していた。」(第1頁右欄第1行〜第16行)
「〔問題点を解決するための手段〕
そこで、本発明者等は、上述のような封孔処理に伴う問題点を解決すべく鋭意研究を進めた結果、従来から防錆処理として利用されていたスチ-ム処理法に着目し、このスチ-ム処理法により、焼結合金部材の表面に酸化物被膜を形成させ、その後、該表面に形成された酸化物被膜をドライホ-ニングによつて除去すれば、該表面には、金属地肌が露出するとともに、孔隙部は酸化物(鉄系焼結合金部材の場合はFe3O4 )で封孔されたままとなり、したがつて、このような焼結合金部材表面に通常の方法でメツキを施すと、金属地肌にメツキが強力に付着結合して高いメツキ付着力が得られ、さらにこの方法によると、焼結合金部材の狭隘部においても高いメツキ付着力をもつてメツキ層を形成できることを見出した。」(第2頁右上欄第4行〜第19行)
(ニ)引用文献4には次の記載が認められる。
「【0008】
【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するために本発明が採用する手段は、Fe系焼結合金からなるシンクロナイザーリングにおいて、少なくとも回転する相手部材との同期摺動および相手部材からの離脱を行う内周面に水蒸気処理またはブラスト処理と水蒸気処理を施したことにある。」(第3頁左欄第1行〜第7行)
「【0014】
【実施例】次に、実施例を示して本発明を具体的に説明する。
実施例1
原料粉末として、いずれも粒度が150メッシュ以下である黒鉛粉末、Cu粉末、Fe-W粉末およびFe粉末(低合金鋼粉)を用意し、これらの原料粉末を黒鉛粉末0.9(wt%)、Cu粉末10(wt%)、Fe-W粉末10(wt%)、Fe粉末残部の配合にて通常の条件で混合して混合粉末とした。次いで、この混合粉末を圧力5ton/cm2 の条件で圧粉体にプレズ成形した。その後、この圧粉体をアンモニア分解ガス中、1000〜1200℃の範囲内の温度で80分間保持して焼結することにより、実質的に配合組成と同一の成分をもった焼結体を得た。この焼結体から表面処理の異なる4種類の比較例1、比較例2、実施例1、実施例2の試験片を作成した。比較例1は無処理のもの、比較例2はブラスト処理をしたもの、実施例1は550℃、30分間の水蒸気処理をしたもの、実施例2は550℃、30分間の水蒸気処理とブラスト処理をしたものである。各試験片について、図2に示すような円筒-円筒平面接触式滑り摩擦式滑り摩擦試験機を使用して下記の条件で摩擦係数を測定した。」(第3頁右欄第8行〜第30行)
(ホ)引用文献5には次の記載が認められる。
「【0023】図3に、本実施例に係わるオルダムリング6の製作法を示す。図3(a)は、エンドミル23によりキー18を切削加工している状況を示す。本実施例では工具としてエンドミルを用いているが、工具として砥石を用いる研削(図示せず)であってもよい。
【0024】(b)は、スチーム処理を施した後の状態を模式的に示している。表面にはスチーム層と称する四三酸化鉄(Fe3O4)の結晶24が析出し、最表面は突起24aが発生して凹凸な面になっている。
【0025】(c)は、砥粒を用いた仕上げの例として、バレル研磨をしている状況を示している。本研磨法は、回転する筒型のバレル25内に砥粒26を入れ、砥粒26を流動状態にしてバレル25内にあるオルダムリング6を研磨する。
【0026】(d)は、(c)に示したバレル研磨が終了した後の状態を模式的に示している。図示のように、上記(b)に示した表面の突起24aが除去され、スチーム層24は平滑な状態となっている。このように、表面が平滑になることで精密な寸法測定が可能となり、また、表面の突起により摺動相手を損傷することがなくなる。
【0027】なお、図3(c)では、砥粒を用いる仕上げの一例としてバレル研磨砥粒をあげたが、ブラシ研磨、ショットブラストなどの仕上げであってもよい。オルダムリング6の表面の改質は、本実施例では比較的に容易なスチーム処理で対処できるので、鋳鉄製の旋回スクロール3およびフレーム7と同種の鉄系焼結合金のオルダムリング6の既成部品を使用して対処できる利点がある。」(第4頁左欄第27行〜同右欄第4行)
(ヘ)引用文献6には次の記載が認められる。
「密度0.2458ポンド/立方インチの焼結ニッケル鋼鉄合金を使用すると、シュー部材26の重量は1.275ポンドである。」(第14頁末行〜第15頁第2行)

7、対比
ここで、特定特許発明と引用文献1に記載される発明とを比較する。
ところで、引用文献1に記載される発明を、「特定特許発明」の用語にしたがって整理すると、前者の「クラッチシュー33」は後者の「ウェイト部材」に相当し、以下「クラッチドラム31」は「クラッチアウタ」に、「ライニング34」は「摩擦材」に、「湿式の」は「湿式」に、夫々相当又は対応するから、結局、引用文献1には「金属材料から成るウエイト部材に、クラッチアウタの内周に摩擦係合し得る摩擦材が固着されて成る湿式遠心クラッチ用クラッチウエイトにおいて、前記ウエイト部材が焼結合金により形成されている、湿式遠心クラッチ用クラッチウエイトの製造方法」なる発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているとするのが相当であるから、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。
一致点:湿式遠心クラッチ用クラッチウエイトに関し、「金属材料から成るウエイト部材に、クラッチアウタの内周に摩擦係合し得る摩擦材が固着されて成る湿式遠心クラッチ用クラッチウエイトにおいて、前記ウエイト部材が焼結合金により形成されている、湿式遠心クラッチ用クラッチウエイトの製造方法」
相違点1:
ウエイト部材に対する摩擦材の取付に関し、前者は「接着されて成る」のに対し、後者は「固着されて成る」点。
相違点2:
焼結合金製のウエイト部材に関し、前者は「焼結直後の該ウエイト部材(14)内に生じている空孔(22…)に潤滑油が吸入されてクラッチ特性が変化するのを防止するために、該ウエイト部材(14)を形成している焼結材に、前記空孔(22…)をなくす錆を焼結後のスチーム処理で生じさせてある」のに対し、後者は「かかる処理を施しているか否か不明である」点。
相違点3:
処理に関し、前者は「焼結材による焼結がなされた前記ウエイト部材(14)にスチーム処理を施し、そのスチーム処理後に、前記ウエイト部材(14)の、摩擦材(15)を接着させる接合面にサンドブラスト処理を施す」のに対し、後者は「かかる処理を施して成るか否か不明な」点。

8、判断
相違点1であるが、ウエイト部材に摩擦材を固着することは遠心クラッチの分野における常套手段であって、その固着手段として接着を選定することについて見ても、例えば引用文献2にも記載されるように文献公知の手段に過ぎない。
そして、それが仮令遠心クラッチのウエイトが焼結合金から成っているからといって、排除されるものではないことも自明であるから、かかる相違点に係る構成の採用は当業者が適宜選定しうる設計事項の域を出ない。
相違点2であるが、前者の構成である「焼結直後の該ウエイト部材(14)内に生じている空孔(22…)に潤滑油が吸入されてクラッチ特性が変化するのを防止するために、該ウエイト部材(14)を形成している焼結材に、前記空孔(22…)をなくす錆を焼結後のスチーム処理で生じさせてある」の内、「焼結直後の該ウエイト部材(14)内に生じている空孔(22…)に潤滑油が吸入されてクラッチ特性が変化するのを防止するために、」なる構成は、後段の「前記空孔(22…)をなくす錆を焼結後のスチーム処理で生じさせてある」なる構成の目的を述べて構成としたものであるから、後段の構成のみでも充分に相違点2に係る構成を表すものと見ることができる。
そこで検討するに、引用文献3には「一般に、焼結合金部材は、溶製材と異なり多孔質でできているので、焼結合金部材に素地のまま、メツキを施すと、メツキ液が穴ないし空隙部に浸入してしまい、このため、浸入したメツキ液を除去することは極めて困難であるばかりでなく、メツキ後に残つたメツキ液中の残留薬品によつて腐食が起こり、そこからメツキ層が剥離するという欠点があつた。
したがつて、従来は、このような焼結合金部材、特に鉄系焼結合金部材にメツキを施す場合には、何らかの方法で、封孔する必要があり、例えば、樹脂、水ガラスなどを含浸させる方法、シヨツトピ-ニングなどによつて表面の目つぶしを行う方法、更にはスチ-ム処理等によつて封孔処理を行ない、得られた表面にメツキを施していた。」と記載されている。相違点1の検討でも触れたように、焼結合金製のウエイトに摩擦材を接着させようとした場合には、ウエイトの接着表面が空孔を有する状態では接着効果が大幅に低下することは自明で(必要であれば、特開昭56-55249号公報も併せ参照されたい。)、かかる接着面を何らかの手段で封孔しようとすることは接着の際の技術常識である。
そうしてみると、相違点2に係る構成を採ること、即ち、焼結合金の表面を封孔する技術として知られた引用文献3に記載されるスチーム処理を採ることに格別の困難性が伴ったとすることはできない。
そして、ウエイトにスチーム処理を施すに際し、接着表面のみに限ってスチーム処理を施こさなければならないと見ることは不自然であるから、ウエイトの接着表面以外の部分もスチーム処理を受ける蓋然性がはなはだ高いとすべきであって、焼結合金製のウエイトに摩擦材を接着するものにおいて、ウエイトの接着面にスチーム処理を施し、それから派生してウエイトのその他の面にもスチーム処理を施す程度のことは、当業者が容易になし得る技術的事項であるとするのが相当である。
次に、相違点3につき検討する。
引用文献3にはスチーム処理のみならずドライホーニング処理を施す点が記載されている。特定特許発明は、「焼結材による焼結がなされた前記ウエイト部材(14)にスチーム処理を施し、そのスチーム処理後に、前記ウエイト部材(14)の、摩擦材(15)を接着させる接合面にサンドブラスト処理を施す」ものであるが、ここに言うサンドブラスト処理は、引用文献3に記載されたドライホーニング処理と同等の処理と見ることができると共に、かかる用語を用いた焼結合金製機械要素の処理は、引用文献4のクラッチ部品としてのシンクロナイザーリングや、引用文献5のオルダム継手のオルダムリングにも用いられているから、少なくとも処理それ自体として見た時に特徴的な処理を適用していると認めることはできない。
そうしてみると、特定特許発明の相違点3にかかる構成も、引用文献3又は引用文献4及び5に記載される技術的事項に基づいて当業者が容易になし得たものである。
以上、特定特許発明は引用文献1、2及び3又は引用文献1〜3及び引用文献4又は5に記載される発明又は技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認める。
特定特許発明は特許発明1を全て引用する形式で記載されている。
そうすると、特許発明1にその他の要件をも付加してなる特定特許発明が上記のとおり進歩性がないとされているから、特許発明1が進歩性を有しないことは明らかである。
特許発明2は特許発明1を引用する形式で記載されており、特許発明1に「鉄系の焼結合金から成るウエイト部材(14)の密度が6g/cm3以上に設定される」なる構成を付加してなるものである。
特許発明1が進歩性を有しないことは上記のとおりであるところ、特許発明2において限定されたウエイトの密度について見ても、引用文献6の記載内容からかかる密度が6.8g/cm3であることを知ることができるから、かかる数値限定についても格別のものを見いだすことができない。
なお、被請求人は意見書において、「ウェイト部材が潤滑油中に浸漬されても、該空孔に潤滑油が吸入されてウェイト部材が重量変化することでクラッチ特性が変化するのを防止することができ、これにより、クラッチ性能の安定化を図り、クラッチウェイトの耐油性を向上することができ、しかもクラッチケース内の貯留潤滑油量が、ウェイト部材への潤滑油吸入で減少することが回避されるから、その油量減少に因るクラッチの耐熱性、耐久性の低下を未然に防止できる。」という効果の主張をする。
しかし、かかる効果もさることながら、遠心クラッチにおいては湿式乾式に拘わらず焼結合金製ウエイト部材に摩擦材を取付けることが常套的に行われており、かかる取付けを接着で行うことも知られている以上、焼結合金の接着面に空孔を残したままで接着作業をすることなど到底考えられず、何らかの封孔を施すであろうことは明白であって、その封孔にスチーム処理で臨むことが知られていれば、スチーム処理の性格からして焼結合金製ウェイト部材の接着面のみならずそれ以外の箇所をも同時に封孔してしまう蓋然性がはなはだ高い訳であること既述のとおりであるから、接着面の封孔から派生してそれ以外の箇所をも封孔することは当業者にとって容易になし得る事項であり、上記効果の主張は、かかる構成の採用に付随した効果の追認に相当する。
よって、被請求人の主張に首肯することができない。

9、むすび
したがって、特許発明1乃至3は引用文献1、2及び3又は引用文献1〜3及び引用文献4又は5並びに引用文献6に記載された発明又は技術的事項に基づいて当業者が容易に発明することできたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違背して特許されたものであって、同法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定において準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-10-28 
結審通知日 2005-11-02 
審決日 2005-11-15 
出願番号 特願2000-274980(P2000-274980)
審決分類 P 1 113・ 536- Z (F16D)
P 1 113・ 537- Z (F16D)
P 1 113・ 121- Z (F16D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 鳥居 稔  
特許庁審判長 船越 巧子
特許庁審判官 亀丸 広司
町田 隆志
登録日 2004-01-09 
登録番号 特許第3509726号(P3509726)
発明の名称 湿式遠心クラッチ用クラッチウエイト及びその製造方法  
代理人 落合 健  
代理人 仁木 一明  
代理人 樋口 武尚  

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