• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J
管理番号 1129674
審判番号 不服2003-7981  
総通号数 75 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2002-02-12 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-05-08 
確定日 2006-01-12 
事件の表示 特願2000-235842「インクジェット記録ヘッドの駆動装置」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 2月12日出願公開、特開2002- 46268〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯・本願発明の認定
本願は平成12年8月3日の出願であって、平成15年3月31日付けで拒絶の査定がされたため、これを不服として同年5月8日付けで本件審判請求がされたものである。
本願については、出願後明細書の補正がされていないから、本願の請求項1及び請求項2に係る発明(以下、順に「本願発明1」及び「本願発明2」という。)は、願書に最初に添付した明細書の特許請求の範囲【請求項1】及び【請求項2】に記載された事項によって特定される次のとおりのものと認める。
本願発明1:「電気機械変換器に駆動電圧を印加して圧力変化を発生させ、
この圧力変化によってノズルからインク滴を吐出させるインクジェット記録ヘッドの駆動装置であって、
予め記憶された台形状の電圧波形データに基づいて前記駆動電圧を制御する制御部と、当該制御部からの制御信号に基づいた駆動電圧を生成し且つ出力する可変電圧源と、当該可変電圧源が出力した駆動電圧の電圧変化前後の各電圧値を計測し且つ前記制御部に出力する駆動電圧計測部とを装備し、
前記制御部は、
入力した前記各電圧値の差を算出する電圧差算出機能と、
この算出した各電圧値の差と前記電圧波形データにおける電圧変化前後の定電圧部分の各電圧値の差とを比較する電圧差比較機能と、
これら各電圧値の差が異なる場合に前記電圧波形データに近づけた電圧波形から成る新たな駆動電圧を生成する為の補正データを生成する補正データ生成機能と、
この補正データを有する制御信号を前記可変電圧源に出力する制御信号出力機能とを備えたことを特徴とするインクジェット記録ヘッドの駆動装置。」
本願発明2:「電気機械変換器に駆動電圧を印加して圧力変化を発生させ、
この圧力変化によってノズルからインク滴を吐出させるインクジェット記録ヘッドの駆動装置であって、
予め記憶された複数段の台形状の電圧波形データに基づいて前記駆動電圧を制御する制御部と、当該制御部からの制御信号に基づいた駆動電圧を生成し且つ出力する可変電圧源と、当該可変電圧源が出力した駆動電圧の電圧変化前後の各電圧値を計測し且つ前記制御部に出力する駆動電圧計測部とを装備し、
前記制御部は、
入力した前記各電圧値の差を算出する電圧差算出機能と、
この算出した各電圧値の差と前記電圧波形データにおける電圧変化前後の定電圧部分の各電圧値の差とを比較する電圧差比較機能と、
これら各電圧値の差が異なる場合に前記電圧波形データに近づけた電圧波形から成る新たな駆動電圧を生成する為の補正データを生成する補正データ生成機能と、
この補正データを有する制御信号を前記可変電圧源に出力する制御信号出力機能とを備えたことを特徴とするインクジェット記録ヘッドの駆動装置。」

第2 当審の判断
1.引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された特開平11-58785号公報(以下「引用例1」という。)には、次のア〜ケの記載又は図示がある。
ア.「圧電素子に電圧を加えて膨張・収縮させることによりインク滴をノズル孔より吐出させるインクジェットヘッドを用いたインクジェット記録装置において、電圧を可変出力させる可変電圧源と、前記可変電圧源の出力電圧のレベルにより電圧波形の傾きを可変出力する電圧波形形成出力部と、前記圧電素子の駆動電圧を計測する駆動電圧計測部と、前記駆動電圧計測部の測定電圧値により前記可変電圧源の電圧値を制御する電圧制御部とを備え、前記圧電素子の駆動電圧が所定の値になるように前記可変電圧源の出力電圧を制御することを特徴とするインクジェット記録装置。」(【請求項1】)
イ.「前記駆動電圧計測部より受け取ったアナログデーターを前記電圧制御部が認識できるデジタルデーターに変換するアナログ-デジタル変換部を備え、前記駆動電圧計測部は前記電圧波形形成出力部より出力される電圧を計測して前記アナログ-デジタル変換部に入力し、前記アナログ-デジタル変換部は前記駆動電圧計測部より受け取ったアナログ電圧値をデジタル電圧値に変換して前記電圧制御部に入力し、前記電圧制御部は前記アナログ-デジタル変換部から受け取った前記デジタル電圧値を前記所定の値と比較することを特徴とする請求項1記載のインクジェット記録装置。」(【請求項2】)
ウ.「前記電圧制御部は、前記圧電素子の駆動電圧を前記所定の値とするために前記可変電圧源に入力すべき最適値と予測される値を初期データーとして持ち、前記初期データーを最初に前記可変電圧源に入力し、前記デジタル電圧値が前記所定の値より大きい場合は前記可変電圧源への入力値を減少させ、前記デジタル電圧値が前記所定の値より小さい場合は前記可変電圧源への入力値を増加させることを特徴とする請求項2記載のインクジェット記録装置。」(【請求項3】)
エ.「本発明の目的は、工場出荷後の装置環境温度の変化に対する調整に関して、圧電素子駆動回路の各素子の定数および圧電素子容量のばらつきに応じて圧電素子駆動電圧波形を調整し、安定した印字品質を得るインクジェット記録装置を提供することにある。」(段落【0006】)
オ.「本発明のインクジェット記録装置は、前記積分回路から出力される電圧のプラス側のピーク値の電圧制御を行うようにしてもよい。」(段落【0014】
カ.「まず、電圧制御部5は可変電圧源1より任意の値が出力されるような値を可変電圧源1に入力する(ステップ1)。・・・次に、電圧制御部5のデーターを受け取った可変電圧源1は、その値に対応した電圧を出力する(ステップ2)。・・・可変電圧源1よりの値を受け取った電圧波形形成出力部2は、その値に応じた電圧波形を形成し出力する(ステップ3)。・・・駆動電圧計測部3は、電圧波形形成出力部2より出力される電圧を計測し、アナログ-デジタル変換部4に出力する(ステップ4)。・・・次に、アナログ-デジタル変換部4は駆動電圧計測部3より受け取った値(アナログデーター)を電圧制御部5が認識できるデジタルデーターに変換する(ステップ5)。・・・次に、電圧制御部5にてアナログ-デジタル変換部4よりのデーターと電圧制御部5にての比較データーとを比較する(ステップ6)。比較した値が同じであれば、現状の電圧制御部5より可変電圧源1に入力しているデーターを真の値とする。・・・アナログ-デジタル変換部4よりのデーターが電圧制御部5にての比較データーよりも大きい場合は、電圧制御部5より可変電圧源1に入力しているデーターを1つ減らし、ステップ2より同じ動作を繰り返す(ステップ8a)。・・・アナログ-デジタル変換部4よりのデーターが電圧制御部5にての比較データーよりも小さい場合は、電圧制御部5より可変電圧源1に入力しているデーターを1つ増やし、ステップ2より同じ動作を繰り返す(ステップ8b)。」(段落【0022】〜【0029】)
キ.「圧電素子駆動電圧は充電信号19の時間長を一定としているので、駆動電圧波形の傾きによりピーク値が決定されることとなる(図5参照)。」(段落【0039】)
ク.「圧電素子駆動電圧が期待する値でなかった場合の制御を図5を参照して説明する。出力された電圧がcvであると、デジタル変換したデーター値εとbvに対応するようなデーターζの関係はε<ζとなるので、電圧制御部5に設定した初期データーαのデーター値を一つ増やし(α+1)、このデーターをデジタル-アナログ変換器10に入力しすると、デジタル-アナログ変換器10より出力される電圧はβv+1となるので定電流生成回路11に流れる電流は、(βv+1)/R1=(γ+1)Aとなる。電流が(γ+1)Aとなると、積分回路12にて形成される圧電素子駆動電圧波形は傾き2となるので、出力される圧電素子駆動電圧はcv+1となる。上記動作を繰り返し、ε=ζとなった時点で圧電素子駆動電圧は設定完了される。」(段落【0042】)
ケ.【図4】には、低電圧側が0V、高電圧側がbVの台形状の駆動電圧波形が図示されている。

同じく引用された特開平8-112894号公報(以下「引用例2」という。)には、次のコ〜セの記載が図示とともにある。
コ.「圧電素子に台形状の電圧波形を印加し、該圧電素子の伸縮力によりインク滴をノズル孔より吐出させるインクジェットヘッドの駆動装置において、
設定電流値を調整可能な可変定電流源と、
前記可定電流源の電流を積分し、前記台形状の電圧波形を出力する台形波出力回路と、
前記台形状の電圧波形の電圧上昇または下降勾配を計測する波形傾き計測部と、
前記波形傾き計測部の計測値により前記可変定電流源の電流値を制御するコントロール部とを備え、
前記可変定電流源の電流値を制御して所定の電圧波形を出力することを特徴とするインクジェットヘッドの駆動装置。」(【請求項1】)
サ.「前記波形傾き計測部は、台形状の電圧波形の電圧上昇または下降勾配の直線性の良好な区間の勾配を計測することを特徴とする請求項1記載のインクジェットヘッドの駆動装置。」(【請求項2】)
シ.「本発明はこの様な問題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、充放電電流値のばらつきを無くし、設定通りの電圧を圧電振動子に印加できる駆動装置を提供することにある。」(段落【0005】)
ス.「図6は、本発明の駆動装置が出力する台形状の電圧波形の一例を示した図である。この例では電圧の立ち上がりが一段、立ち下がりが二段である台形状の電圧波形を想定している。それ以外にも立ち上がりn段、立ち下がりm段などの波形の場合もある。尚、実際には、台形状の電圧波形の立ち上がり及び立ち下がりの開始点や終了点は回路を構成する素子の応答特性などの影響により鈍るため、直線性が良好な部分は図示した下限1〜上限1、上限2〜下限2、上限3〜下限3の部分である。」(段落【0007】)
セ.「波形傾き計測部5は、コントロール部3からの計測開始信号に応答して、上限電圧検出回路6と下限電圧検出回路7の出力信号により出力電圧勾配の直線性が良好な区間を判断して、該区間における電圧勾配を計測する。」(段落【0015】)

2.引用例1記載の発明の認定
記載ク及び【図3】によれば、記載アの「可変電圧源」及び「電圧波形形成出力部」の全体は、定電流生成回路及び積分回路を有しており、「電圧制御部」は定電流生成回路の電流を制御することにより、「前記圧電素子の駆動電圧が所定の値になるように前記可変電圧源の出力電圧を制御する」ものである。
記載アの「可変電圧源」、「電圧波形形成出力部」、「駆動電圧計測部」及び「電圧制御部」をあわせたものは、「インクジェット記録装置の駆動装置」ということができる。
したがって、記載又は図示ア〜ケを含む引用例1の全記載及び図示によれば、引用例1には次の発明が記載されていると認めることができる。
「圧電素子に電圧を加えて膨張・収縮させることによりインク滴をノズル孔より吐出させるインクジェットヘッドを用いたインクジェット記録装置の駆動装置であって、
電圧を可変出力させる可変電圧源と、前記可変電圧源の出力電圧のレベルにより電圧波形の傾きを可変出力する電圧波形形成出力部と、前記圧電素子の駆動電圧を計測する駆動電圧計測部と、前記駆動電圧計測部の測定電圧値により前記可変電圧源の電圧値を制御する電圧制御部とを備え、
前記可変電圧源及び前記電圧波形形成出力部の全体は定電流生成回路及び積分回路を有しており、
前記電圧制御部は、低電圧側が0V、高電圧側が正の所定値となる台形状駆動電圧波形となるように、前記所定値を初期データーとして持ち、前記駆動電圧計測部は高電圧側の電圧を計測し、計測した電圧値と前記所定値とを比較し、比較結果に基づいて前記定電流生成回路の電流値を制御するインクジェット記録装置の駆動装置。」(以下「引用発明1」という。)

3.引用例2記載の発明の認定
引用例2記載の「波形傾き計測部」は、出力電圧勾配の直線性が良好な区間における上限電圧及び下限電圧を計測し、これら各電圧差から波形傾き(実際には、上限電圧から下限電圧又はその逆の経過時間が必要である。)を算出するものである。
したがって、記載コ〜セを含む引用例2の全記載及び図示によれば、引用例2には次の発明が記載されていると認めることができる。
「圧電素子に複数段からなる台形状の電圧波形を印加し、該圧電素子の伸縮力によりインク滴をノズル孔より吐出させるインクジェットヘッドの駆動装置において、
設定電流値を調整可能な可変定電流源と、前記可変定電流源の電流を積分し、前記台形状の電圧波形を出力する台形波出力回路と、前記台形状の電圧波形の出力電圧勾配の直線性が良好な区間における上限電圧及び下限電圧を計測し、これら各電圧差から波形傾きを算出する波形傾き計測部と、前記波形傾き計測部の計測値により前記可変定電流源の電流値を制御するコントロール部とを備え、前記可変定電流源の電流値を制御して所定の電圧波形を出力するインクジェットヘッドの駆動装置。」(以下「引用発明2」という。)

4.本願発明1と引用発明1との一致点及び相違点の認定
以下、本審決では「発明を特定するための事項」という意味で「構成」との用語を用いることがある。
引用発明1の「圧電素子」は本願発明1の「電気機械変換器」に相当する。
引用発明1の「台形状駆動電圧波形」は本願発明1の「台形状の電圧波形データ」に相当し、引用発明1では低電圧側が0Vであり、高電圧側の値(正の所定値)を初期データーとして持っているから、「台形状駆動電圧波形」が予め記憶されているに等しい。
引用発明1の「電圧制御部」は本願発明1の「制御部」に、「可変電圧源」と「電圧波形形成出力部」の全体は本願発明1の「可変電圧源」にそれぞれ相当し、引用発明1では、「可変電圧源」と「電圧波形形成出力部」の全体が、「電圧制御部」からの制御信号に基づいた駆動電圧を生成し且つ出力することが明らかである。
引用発明1の「台形状駆動電圧波形」は、低電圧側が0Vであるから、「駆動電圧計測部」により計測された高電圧側の電圧は、高電圧側と低電圧側の各電圧値の差でもあり、引用発明1において「計測した電圧値と前記所定値とを比較し、比較結果に基づいて前記定電流生成回路の電流値を制御する」以上、引用発明1の「電圧制御部」が本願発明1の「各電圧値の差と前記電圧波形データにおける電圧変化前後の定電圧部分の各電圧値の差とを比較する電圧差比較機能」、「これら各電圧値の差が異なる場合に前記電圧波形データに近づけた電圧波形から成る新たな駆動電圧を生成する為の補正データを生成する補正データ生成機能」及び「この補正データを有する制御信号を前記可変電圧源に出力する制御信号出力機能」との各機能を備えることは明らかである。
したがって、本願発明1と引用発明1とは、
「電気機械変換器に駆動電圧を印加して圧力変化を発生させ、
この圧力変化によってノズルからインク滴を吐出させるインクジェット記録ヘッドの駆動装置であって、
予め記憶された台形状の電圧波形データに基づいて前記駆動電圧を制御する制御部と、当該制御部からの制御信号に基づいた駆動電圧を生成し且つ出力する可変電圧源と、当該可変電圧源が出力した駆動電圧の電圧値を計測し且つ前記制御部に出力する駆動電圧計測部とを装備し、
前記制御部は、
各電圧値の差と前記電圧波形データにおける電圧変化前後の定電圧部分の各電圧値の差とを比較する電圧差比較機能と、
これら各電圧値の差が異なる場合に前記電圧波形データに近づけた電圧波形から成る新たな駆動電圧を生成する為の補正データを生成する補正データ生成機能と、
この補正データを有する制御信号を前記可変電圧源に出力する制御信号出力機能とを備えたインクジェット記録ヘッドの駆動装置。」である点で一致し、次の点で相違する。
〈相違点1〉本願発明1の制御部が「入力した前記各電圧値の差を算出する電圧差算出機能」を備え、その入力のための「駆動電圧の電圧変化前後の各電圧値を計測」しているのに対し、引用発明1の電圧制御部は「電圧差算出機能」に相当する機能を備えず、低電圧側が0Vである台形状駆動電圧波形の高電圧側電圧のみを計測している点。

5.本願発明2と引用発明2との一致点及び相違点の認定
引用発明2の「圧電素子」は本願発明2の「電気機械変換器」に相当する。
引用発明2の「可変定電流源」と「台形波出力回路」を併せたものが本願発明2の「制御部からの制御信号に基づいた駆動電圧を生成し且つ出力する可変電圧源」に相当する。
引用発明2の「波形傾き計測部」のうち、「台形状の電圧波形の直線性が良好な区間における上限電圧及び下限電圧を計測」する機能を司る部分は本願発明2の「駆動電圧計測部」に相当し、残余の部分と「コントロール部」を併せたものが本願発明2の「制御部」に相当する。そして、制御部に相当する引用発明2の構成が、「予め記憶された複数段の台形状の電圧波形データに基づいて前記駆動電圧を制御する」こと、並びに「入力した前記各電圧値の差を算出する電圧差算出機能」、「前記電圧波形データに近づけた電圧波形から成る新たな駆動電圧を生成する為の補正データを生成する補正データ生成機能」及び「この補正データを有する制御信号を前記可変電圧源に出力する制御信号出力機能」を備えることは明らかである。
したがって、本願発明2と引用発明2とは、
「電気機械変換器に駆動電圧を印加して圧力変化を発生させ、
この圧力変化によってノズルからインク滴を吐出させるインクジェット記録ヘッドの駆動装置であって、
予め記憶された複数段の台形状の電圧波形データに基づいて前記駆動電圧を制御する制御部と、当該制御部からの制御信号に基づいた駆動電圧を生成し且つ出力する可変電圧源と、当該可変電圧源が出力した駆動電圧の各電圧値を計測し且つ前記制御部に出力する駆動電圧計測部とを装備し、
前記制御部は、
入力した前記各電圧値の差を算出する電圧差算出機能と、
前記電圧波形データに近づけた電圧波形から成る新たな駆動電圧を生成する為の補正データを生成する補正データ生成機能と、
この補正データを有する制御信号を前記可変電圧源に出力する制御信号出力機能とを備えたインクジェット記録ヘッドの駆動装置。」である点で一致し、次の点で相違する。
〈相違点2〉本願発明2では、駆動電圧計測部が計測する各電圧値を「電圧変化前後の各電圧値」とし、制御部が「算出した各電圧値の差と前記電圧波形データにおける電圧変化前後の定電圧部分の各電圧値の差とを比較する電圧差比較機能」を備え、これら各電圧値の差が異なる場合に補正データを生成するとしているのに対し、引用発明2では、駆動電圧計測部が計測する各電圧値を「出力電圧勾配の電圧波形の直線性が良好な区間における上限電圧及び下限電圧」とし、算出された波形傾きに基づいて(「予め記憶された複数段の台形状の電圧波形データ」の波形傾きと異なる場合に)補正データを生成する点。

6.相違点についての判断及び本願発明1,2の進歩性の判断
(1)相違点1について
本願出願当時、インクジェット記録ヘッドの駆動波形としては、低電圧側及び高電圧側がどちらも0Vではない台形状の電圧波形は周知である(例えば、特開平6-198874号公報、特開平8-156248号公報、特開平10-58676号公報又は特開平11-20203号公報参照。)から、引用発明1の駆動電圧波形を、低電圧側を0Vとせず、低電圧側及び高電圧側がどちらも0Vではない台形状の電圧波形とすることは、上記周知技術を適用しただけであり、何の困難性もないというべきである。
また、引用発明1のように「圧電素子に電圧を加えて膨張・収縮させることによりインク滴をノズル孔より吐出させる」に当たっては、膨張・収縮させる対象となる圧力室の容積をどのように変化させるかが重要であり、圧力室の容積変化が印加電圧の変化に概略比例することは技術常識といえる。そうであれば、引用発明1において、高電圧側の電圧だけを制御対象としている理由は、低電圧側が0Vであり、その値は格別制御するまでもなく信頼性が高いからと解するのが自然である。
ところが、引用発明1に上記周知技術を適用し、低電圧側及び高電圧側がどちらも0Vではない台形状の電圧波形とした場合には、高電圧側だけでなく低電圧側の電圧値も信頼性に乏しくなることは明らかである。ところで、引用発明1では、積分回路に入力する定電流生成回路の電流値を制御しているのであるが、この制御を行えば、低電圧側と高電圧側の電圧差が制御されることは自明であるとともに、前示のとおり圧力室の容積変化が印加電圧の変化に概略比例するのだから、低電圧側及び高電圧側の絶対電圧値そのものはさほど重要ではなく、低電圧側と高電圧側の電圧差が圧力室の容積変化を制御する上で重要であることも明らかである。
そうすると、引用発明1に上記周知技術を適用し、低電圧側及び高電圧側がどちらも0Vではない台形状の電圧波形とした場合には、低電圧側と高電圧側の電圧差を制御対象とすべきことが明らかであるから、高電圧側の電圧だけでなく低電圧側の電圧をも計測すること、すなわち「駆動電圧の電圧変化前後の各電圧値を計測」し、制御部に「入力した前記各電圧値の差を算出する電圧差算出機能」を備えさせることは設計事項というべきである。
したがって、相違点1に係る本願発明1の構成は、引用発明1及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に想到できたというべきである。

(2)相違点2について
引用例2のおよそ3年後に頒布された引用例1には、前記認定のとおりの引用発明1が記載されている。
ところで、引用例1の記載エ及び引用例2の記載シによれば、引用発明1と引用発明2の目的は、「圧電素子駆動回路の各素子の定数および圧電素子容量のばらつきに応じて圧電素子駆動電圧波形を調整し、安定した印字品質を得るインクジェット記録装置を提供すること」(引用発明1)及び「設定通りの電圧を圧電振動子に印加できる駆動装置を提供すること」(引用発明2)にあり、これを本願発明2の用語を用いて表現すると「予め記憶された台形状の電圧波形データ」どおりの電圧波形データで駆動することであり、同一目的といえる。
また、上記目的を達成するに当たり、引用発明1と引用発明2が直接的に制御しているものは、積分すべき電流値であり、この点でも引用発明1と引用発明2は共通している。
ここで、引用発明1は、出力電圧勾配の直線性がよい部分ではなく、出力電圧が一定値となった高電圧側の電圧を計測し、もって高電圧側と低電圧側の電圧差を取得している。
引用発明2が発明された当時には、引用例2の記載スのとおり「台形状の電圧波形の立ち上がり及び立ち下がりの開始点や終了点は回路を構成する素子の応答特性などの影響により鈍る」という状況があったのかもしれないが、そのような問題点は引用発明1にも共通することがらである。それにもかかわらず、引用発明1では、出力電圧勾配の直線性がよい部分ではなく、出力電圧が一定値となったところで電圧の計測しているのであるから、引用発明1が発明された当時には、「回路を構成する素子の応答特性などの影響」が小さくなっているか、それとも出力電圧勾配そのものよりも「電圧変化前後の定電圧部分の各電圧値の差」の方が「安定した印字品質を得る」には重要であるとの認識に至ったと解すべきである。少なくとも、引用例1及び引用例2の両者に接した当業者であれば、安定した印字品質を得るためには、出力電圧勾配そのものを安定させることを優先すべきか、電圧変化前後の定電圧部分の各電圧値の差を安定させることを優先すべきかについては、実験もふくめて熟慮すべきことがらである。そして、本願明細書の「駆動電圧の正確な補正制御を行うことができないので、安定した記録を行うことができないという不都合があった。」(段落【0010】。審決注;従来技術として引用発明2をあげ、その不都合な点を述べた記載である。)との記載に誤りがないとすれば、本願出願当時においては、出力電圧勾配そのものよりも電圧変化前後の定電圧部分の各電圧値の差を安定させる方が、安定した印字品質を得ることを当業者がたやすく認識できる状態であったと理解しなければならない。
そうである以上、引用発明2を出発点として、これに引用発明1を適用し、駆動電圧計測部が計測する各電圧値を「電圧変化前後の各電圧値」に変更するとともに、制御部において「算出した各電圧値の差と前記電圧波形データにおける電圧変化前後の定電圧部分の各電圧値の差とを比較」し、比較結果に基づき、2つの電圧値の差が異なる場合に補正データを生成すること、すなわち相違点2に係る本願発明2の構成を採用することは当業者にとって想到容易といわなければならない。

(3)本願発明1,2の進歩性の判断
相違点1に係る本願発明1の構成を採用すること、及び相違点2に係る本願発明2の構成を採用することは当業者にとって想到容易であり、これら構成を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。
したがって、本願発明1は引用発明1及び周知技術に基づいて、本願発明2は引用発明2及び引用発明1に基づいて、それぞれ当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

第3 むすび
本願発明1及び本願発明2が特許を受けることができない以上、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-11-08 
結審通知日 2005-11-15 
審決日 2005-11-28 
出願番号 特願2000-235842(P2000-235842)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大元 修二後藤 時男  
特許庁審判長 津田 俊明
特許庁審判官 藤井 靖子
藤井 勲
発明の名称 インクジェット記録ヘッドの駆動装置  
代理人 小泉 雅裕  
代理人 中村 智廣  
代理人 成瀬 勝夫  
代理人 鳥野 正司  
代理人 青谷 一雄  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ