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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04L
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 H04L
管理番号 1129881
審判番号 不服2002-10371  
総通号数 75 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1999-09-14 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-06-10 
確定日 2006-01-18 
事件の表示 平成10年特許願第539305号「セキュリティモジュールにおいて秘密情報を記憶し使用するための方法及び関連するセキュリティモジュール」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 9月17日国際公開、WO98/40853、平成11年 9月14日国内公表、特表平11-510678〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成10年3月12日(パリ条約による優先権主張1997年3月13日、仏国)を国際出願日とする出願であって、平成13年5月21日付けで拒絶理由通知がなされたが応答がなく平成14年3月1日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年6月10日に審判請求がなされ、同年7月9日に手続補正がなされたものである。

2.平成14年7月9日付け手続補正書についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成14年7月9日付け手続補正を却下する。

[理由]
(1)補正後の請求項1に記載された発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、次のとおりに補正された。

「情報処理手段(9)と情報記憶手段(10、14)とを含む、単一チップ上のモノリシック形態のセキュリティモジュール(8)における秘密情報ISjの記憶のための方法であって、
前記セキュリティモジュールによって供給される現行バージョンCPi(ai+1)の一時暗号化保護キーCPiと、関連の復号アルゴリズムと共に前記記憶手段内に記憶されている暗号化アルゴリズムとを使用して、前記セキュリティモジュールによって秘密情報ISjを暗号化するステップと、
キー識別情報CPidといくつかのバージョンの中から復号キーの前記現行バージョンCPid(ai+1)を定義する更新インデックス(ai+1)とを含む、前記一時暗号化保護キーCPiの前記現行バージョンCPi(ai+1)に関連づけられた現行バージョンCPid(ai+1)の一時復号保護キーCPidを定義する識別データに関連づけられた秘密暗号化情報【数1】 『バーISj(ai+1)』を、前記セキュリティモジュールによって前記モジュールの不揮発性メモリ(10)に記憶させるステップと、
現行バージョンCPid(ai+1)の前記一時復号保護キーCPidが前記不揮発性メモリ(10)にまだ記憶されていない場合、前記セキュリティモジュールによって前記バージョンを記憶させるステップとを含むことを特徴とする方法。」(注:『バーISj(ai+1)』は、「ISj(ai+1)」の上にバー「 ̄」が付されたもの。)

上記補正後の請求項1は、補正前の請求項1に対応したものであって、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である、「セキュリティモジュール」を「単一チップ上のモノリシック形態のセキュリティモジュール」に限定するものであるから、特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的としたものに該当する。

そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に適合するか)について以下検討する。

(2)原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由の概要は、上記拒絶理由通知に記載された以下のとおりである。
「この出願は、次の理由によって拒絶をすべきものである。これについて意見があれば、この通知書の発送の日から3か月以内に意見書を提出して下さい。

理 由
…(省略)…

B.この出願は、明細書の記載が下記の点で、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。

(a)本願明細書第2〜3頁及び本願の請求項1には「現行バージョンCPid(ai+1)の前記一時保護キーCPidが前記不揮発性メモリにまだ記憶されていない場合、前記セキュリティモジュールによって前記バージョンを記憶させるステップ」なるものが記載されているが、「前記バージョン」が何を指すものか不明であると共に、この記載が発明の詳細な説明に記載された他の何れの事項と対応するものか不明である。
したがって、本願の発明の詳細な説明には、請求項1に係る発明は当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載がなされておらず、請求項1は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されたものではない。
…(省略)…」

(3)特許法第36条第6項第1号及び第2号違反について
以下、本願補正発明が、明確であるかどうか、及び、発明の詳細な説明に記載されたものであるかどうかについて検討する。

まず、本願補正発明では、「一時暗号化保護キーCPi」と「一時復号化保護キーCPid」とを含んでいるが、「一時復号化保護キー」について、明細書の第10頁第2行-第11頁第10行(以下、「記載部分」という。)に以下のとおりに記載されている。

「本発明は、いくつかの一時暗号化保護キーCP1、...CPi、...CPnといくつかのそれらに関連づけられた復号保護キーCPd1、...CPdi、...CPdnを使用。使用する暗号化アルゴリズムによって、一時復号保護キーは一時暗号化保護キーと同じとすることも異なるものとすることもできる。従って、暗号化アルゴリズムとして、典型的には、秘密キーが一時暗号化保護キーCP1、...CPi、...CPnのうちの一つに対応する、DES(データ暗号化標準)アルゴリズムなどの対称秘密キーアルゴリズムを使用する。このタイプのアルゴリズムでは、暗号化アルゴリズムの逆である復号アルゴリズムを使用し、暗号化及び復号のために秘密キーを任意に使用する。言い換えると、復号操作は暗号化キーと同じ復号キーを使用する。
それほど有利でない実施形態では、RSA(発明人のRivest、Shamir、及びAdlemanから)などの公開キー非対称アルゴリズムを用い、公開暗号化キーと、暗号キーとは異なる秘密復号キーとを使用する。この場合、セキュリティモジュールには、その二つのキー、又は二つの連続するバージョンを使用してそれらを再構成するパラメータが記憶される。
以下の各図の説明では、秘密キーを持つ非対称アルゴリズムを使用して、一時復号保護キーがCPd1、...CPi、...CPnが一時暗号化キーCP1、...CPi、...CPnと同じ一つのキーとなるようにする。このため、CPd1、...CPdi、...CPdnという表記は使用せず、CP1、...CPi、...CPnに置き換え、従って暗号化と復号のどちらを扱うかを明記せずに単に「一時保護キー」と呼ぶ。」

ここで、明細書の第11頁第3行に記載の「非対称アルゴリズム」(上記記載部分のうちの下線部)は、請求人が、請求の理由において述べているように、「対称アルゴリズム」の誤記であることは明らかである。
そして、上記記載部分は、要するに、本願は、DESなどの「対称アルゴリズム」と、RSAなどの「非対称アルゴリズム」の両者が使用可能であり、「対称アルゴリズム」の場合、一時暗号化保護キーと一時復号保護キーは同じものが使用され、「非対称アルゴリズム」の場合、両キーは異なるものが使用されるが、具体的な実施例としては、「対称アルゴリズム」を使用したものを用いることを示している。
一方、本願補正発明は、その記載からして、「一時暗号化保護キー」とは異なる「一時復号保護キー」を用いているから、「非対称アルゴリズム」を使用していることを前提としている。そして、本願補正発明の「現行バージョンCPid(ai+1)の前記一時復号保護キーCPidが前記不揮発性メモリ(10)にまだ記憶されていない場合、前記セキュリティモジュールによって前記バージョンを記憶させるステップ」は、秘密暗号化情報『バーISj(ai+1)』を記憶させた後に、現行バージョンCPid(ai+1)の一時復号保護キーが「まだ記憶されていない場合」があることを示し、同時に、”既に記憶されている場合”があることを示唆するものである。
しかしながら、上記記載部分には、「一時復号保護キー」の生成と記憶について具体的に記載されていないから、現行バージョンCPid(ai+1)の「一時復号保護キー」が、どのような場合に「まだ記憶されていない場合」となり、どのような場合に”既に記憶されている場合”となるのか、及び、「まだ記憶されていない場合」において、どのようにして、「一時復号保護キー」を生成するのか不明である。なお、「対称アルゴリズム」の場合は、「一時暗号化保護キー」と「一時復号保護キー」は同じ「一時保護キー」であるから、現行バージョンの「一時保護キー」により秘密暗号化情報が生成された後には、「一時復号保護キー」も生成及び記憶されているに等しい状態であるから、「まだ記憶されていない場合」と”既に記憶されている場合”の2つの場合が生じることはあり得ない。よって、「対称アルゴリズム」を使用した場合における「一時保護キー」の生成と記憶に係る構成が明確であることをもって、「非対称アルゴリズム」を使用した場合における「一時復号保護キー」の生成と記憶に係る構成も明確であるとはいえない。本願明細書又は図面のうち、上記記載部分以外の部分を参照しても、「一時復号保護キー」の生成と記憶について具体的に記載されているとはいえない。
したがって、本願補正発明の「現行バージョンCPid(ai+1)の前記一時復号保護キーCPidが前記不揮発性メモリ(10)にまだ記憶されていない場合、前記セキュリティモジュールによって前記バージョンを記憶させるステップ」は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。
また、本願補正発明の「現行バージョンCPid(ai+1)の前記一時復号保護キーCPidが前記不揮発性メモリ(10)にまだ記憶されていない場合、前記セキュリティモジュールによって前記バージョンを記憶させるステップ」は、現行バージョンCPid(ai+1)の「一時復号保護キー」が、どのような場合に「まだ記憶されていない場合」となり、どのような場合に”既に記憶されている場合”となるのか、及び、「まだ記憶されていない場合」において、どのようにして、「一時復号保護キー」を生成するのか不明であるから、本願補正発明も不明確である。

なお、明細書の第3頁第3行-第4頁第3行には、本願補正発明と同様の記載があるが、明細書の第3頁第3行-第5頁第13行は、特許請求の範囲と同じ文言を繰り返しているにすぎないから、当該記載をもって、本願補正発明が、発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえない。

また、請求人は、請求の理由において、以下のように主張している。

「しかしながら、非対称アルゴリズムが使用される場合、一時復号化キーCPdiは一時暗号化キーCPiと異なり、現行バージョンCPidの一時復号化保護キーCPidがまだ不揮発性メモリに保管されていない場合、このバージョンをセキュリティモジュールに保管させる必要があることは当業者には明らかなことである。
また、非対称アルゴリズムを用いた場合に、セキュリティモジュールに公開暗号化キーと、暗号キーとは異なる秘密復号キーの二つのキー、又は二つの連続するバージョンを使用してそれらを再構成するパラメータが記憶されることは明細書第10頁第15行〜第11頁第2行にも記載されている。
そうしてみると、明細書第3頁末行〜第4頁第3行の「現行バージョンCPid(ai+1)の前記一時復号保護キーCPidが前記不揮発性メモリ(10)にまだ記憶されていない場合、前記セキュリティモジュールによって前記バージョンを記憶させるステップ」との記載は当業者にとってすでに十分に明確な記載であり、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されていないとは言い得ない。」

しかしながら、そもそも、「非対称アルゴリズム」を使用したときにおける「一時復号保護キー」の生成と記憶に係る構成は、明細書及び図面には何ら具体的に記載されていないから、当業者にとっては技術常識に従って種々の態様が想定可能である。例えば、「非対称アルゴリズム」の性質上、「一時暗号化保護キー」と「一時復号保護キー」は組として管理されるべきであること、及び、「対称アルゴリズム」を使用するときには、「一時保護キー」を使用することによって、「一時暗号化保護キー」と「一時復号保護キー」とが実質的に同時に生成及び記憶されることに等しいことを考慮すれば、秘密暗号化情報の生成に使用する「一時暗号保護キー」と対応する「一時復号保護キー」とを同時的に生成し、同時的に記憶することの方が当業者にとって容易に想定できる態様であって、本願補正発明のように、現行バージョンの「秘密暗号化情報」が生成及び記憶された時に、「一時復号保護キー」が、まだ記憶されていない場合と既に記憶されている場合の2つの場合があることが当業者にとって自明な態様とは到底言えない。
よって、出願人の主張は、技術常識を参酌したとしても採用することはできない。

したがって、本願補正発明は、特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていないので特許を受けることができない。

(4)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成15年改正前特許法第17条の2第5項で準用する特許法第126条第4項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項で読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について、
(1)本願発明
平成14年7月9日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、出願当初の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。

「情報処理手段(9)と情報記憶手段(10、14)とを含むセキュリティモジュール(8)における秘密情報ISjの記憶のための方法であって、
前記セキュリティモジュールによって供給される現行バージョンCPi(ai+1)の一時暗号化保護キーCPiと、関連の復号アルゴリズムと共に前記記憶手段内に記憶されている暗号化アルゴリズムとを使用して、前記セキュリティモジュールによって秘密情報ISjを暗号化するステップと、
キー識別情報CPidといくつかのバージョンの中から復号キーの前記現行バージョンCPid(ai+1)を定義する更新インデックス(ai+1)とを含む、前記一時暗号化保護キーCPiの前記現行バージョンCPi(ai+1)に関連づけられた現行バージョンCPid(ai+1)の一時復号保護キーCPidを定義する識別データに関連づけられた秘密暗号化情報【数1】 『バーISj(ai+1)』を、前記セキュリティモジュールによって前記モジュールの不揮発性メモリ(10)に記憶させるステップと、
現行バージョンCPid(ai+1)の前記一時復号保護キーCPidが前記不揮発性メモリ(10)にまだ記憶されていない場合、前記セキュリティモジュールによって前記バージョンを記憶させるステップとを含むことを特徴とする方法。」(注:『バーISj(ai+1)』は、「ISj(ai+1)」の上にバー「 ̄」が付されたもの。)」

(2)引用例
原査定の拒絶の理由の概要は、前記「2.(2)」に記載したとおりである。

(3)判断
本願発明は、前記2.で検討した本願補正発明から、「セキュリティモジュール」の限定事項である「単一チップ上のモノリシック形態の」の構成を省いたものである。当該限定事項は、「セキュリティモジュール」のハードウェアとしての構成について限定したものであって、「一時復号保護キー」とは無関係である。また、本願発明は、「現行バージョンCPid(ai+1)の前記一時復号保護キーCPidが前記不揮発性メモリ(10)にまだ記憶されていない場合、前記セキュリティモジュールによって前記バージョンを記憶させるステップ」を含んでいる。
そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに「一時復号保護キー」とは無関係な構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「2.(3)」に記載したとおり、発明の詳細な説明に記載されたものではなく、かつ、不明確なものであるから、本願発明も、同様の理由により、発明の詳細な説明に記載されたものではなく、かつ、不明確なものである。

(4)むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第36条第6項第1号及び第2号の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-08-16 
結審通知日 2005-08-23 
審決日 2005-09-05 
出願番号 特願平10-539305
審決分類 P 1 8・ 537- Z (H04L)
P 1 8・ 575- Z (H04L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中里 裕正  
特許庁審判長 吉岡 浩
特許庁審判官 彦田 克文
林 毅
発明の名称 セキュリティモジュールにおいて秘密情報を記憶し使用するための方法及び関連するセキュリティモジュール  
代理人 川口 義雄  
代理人 大崎 勝真  
代理人 小野 誠  
代理人 坪倉 道明  

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