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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1129966
審判番号 不服2003-4569  
総通号数 75 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1997-02-14 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-03-20 
確定日 2006-01-19 
事件の表示 平成7年特許願第212542号「化合物半導体薄膜積層構造の形成方法及び高電子移動度トランジスタの作製方法」拒絶査定不服審判事件〔平成9年2月14日出願公開、特開平9-45625〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成7年7月28日の出願であって、その請求項1〜14に係る発明は、平成14年8月21日付手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜14に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】バッファ層、チャネル層、スペーサ層及び電子供給層が順次積層されて成る化合物半導体薄膜積層構造を、有機金属気相成長法にて基板上に形成する方法であって、
スペーサ層の成長速度を0.01乃至0.2nm/秒とすることを特徴とする化合物半導体薄膜積層構造の形成方法。」

2.引用刊行物及びその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された本願の出願前に国内において頒布された刊行物である特開平7-94430号公報(以下、「刊行物」という。)には、以下の事項が記載されている。
(1a)「【請求項5】第1の化合物半導体層及び該第1の化合物半導体層のバンドギャップよりも広いバンドギャップを有する第2の化合物半導体層から成りそして選択ドーピングヘテロ構造を有する化合物半導体薄膜積層構造を、有機金属気相成長法(MOCVD法)による化合物半導体のエピタキシャル成長によって基板上に成長させる方法であって、
第1の化合物半導体層をエピタキシャル成長させた後、第2の化合物半導体層を形成するための原料の一部の供給を中断して、一定期間の間、第2の化合物半導体層のエピタキシャル成長を停止させることを特徴とする化合物半導体薄膜積層構造の形成方法。
【請求項8】前記第1の化合物半導体層はチャネル層を構成し、前記第2の化合物半導体層は下からスペーサ層及び電子供給層を構成することを特徴とする請求項5に記載の化合物半導体薄膜積層構造の形成方法。」(特許請求の範囲)
(1b)「【0001】【産業上の利用分野】・・・。本発明は又、化合物半導体薄膜積層構造の形成方法、特に、HEMT等の高周波超低雑音増幅素子などの作製に適用し得る、例えば選択ドーピングヘテロ構造等を有する化合物半導体薄膜積層構造のエピタキシャル成長方法に関する。」
【従来の技術】として、「【0004】一方、半導体素子としての高周波増幅素子、特に、高周波超低雑音増幅素子として、HEMT(High Electron Mobility Transistor)の開発が進められている。HEMTを作製するためには、選択ドーピングヘテロ構造を有する化合物半導体薄膜積層構造を形成することが必要とされる。HEMTを構成する化合物半導体薄膜積層構造は、エピタキシャル成長層に対する基板の影響を極力抑制するためのバッファ層(緩衝層とも呼ばれる)、2次元電子の走行するチャネル層(能動層とも呼ばれ、バッファ層の材料と同一の場合もある)、及び不純物が選択的にドーピングされた電子供給層から成る。場合によっては、チャネル層と電子供給層との間の不純物の移動を抑制するためのスペーサ層が、チャネル層と電子供給層との間に形成されており、更には、電子供給層と電極との間のコンタクトを取るためのキャップ層が形成されている。
【0005】現在、既に衛星放送用に利用されているHEMTはAlGaAs/GaAs系のものであるが、この場合、バッファ層とチャネル層はGaAsから構成され、スペーサ層と電子供給層はAlGaAsから構成されている。」
(1c)「【0007】従来の技術として、MOCVD法によって、例えばIII-V族化合物半導体の規則的多層結晶層をエピタキシャル成長させる場合を例にとり、以下、説明する。
【0008】MOCVD法においては、・・・。III-V族化合物半導体の成長においては、III族元素原料として有機金属が使用される場合が多い。また、V族元素原料として水素希釈されたアルシン(AsH3)に代表されるような水素化物が一般に使用される。
【0009】・・・。エピタキシャル成長に必要とされる原料の切り替えは、これらの原料ガスの切り替えによって行うことができる。
【0010】ところで、急峻な界面(この概念については後述する)を形成するためには、原料ガスの高速切り替えが必要とされる。例えば、今、仮に結晶層の成長速度を0.1nm/秒、原料ガス流速を1m/秒とすれば、例えば原料ガスが10cmの加熱領域を進むために、0.1秒を要する。また、この場合、GaAsが1原子層成長するのには約2.83秒必要なので、GaAsを1原子層成長させるために要する時間の約1/30の時間で原料ガスを切り替えることができる。このことから、充分速やかな原料ガス切り替えが行われていることが判る。
【0011】このような条件で、反応器内の加熱されたサセプタ上に保持された化合物半導体基板上に原料ガスを供給することにより、化合物半導体層のエピタキシャル成長が可能となる。・・・・・」
(1d)「【0012】【発明が解決しようとする課題】上述した従来の化合物半導体層のエピタキシャル成長方法において、・・・、あるいは又、選択ドーピングヘテロ構造を有する化合物半導体薄膜積層構造を形成する場合、結晶層厚の均一性は勿論のこと、界面の急峻性は半導体素子の特性を決定する重要なパラメータである。ここで層厚の均一性に関連する結晶層表面の平坦性(ラフネス,roughness)と、界面の急峻性(アブラプトネス,abruptness)について詳細に説明する。
【0013】先ず、始めに急峻性について説明する。化合物半導体の半導体素子への応用を考える上で、異種半導体接合(ヘテロ接合)は重要な概念である。異種半導体には、GaAsとInP等の組み合わせの他に、GaAsとAlyGa1-yAs若しくはGa1-xInxAs等の組成の一部が異なる組み合わせも含まれる。このような異種半導体接合(ヘテロ接合)には必ずヘテロ界面が存在する。
【0014】異種半導体接合をエピタキシャル成長法で連続的に形成したとき、そのヘテロ界面が充分設計通りに形成されているかを評価する指針の1つに、急峻性と言う概念がある。つまり、異種半導体接合が原子レベルでどの程度実現されているかという概念である。ヘテロ界面において単原子層オーダーで異種の半導体層に変わっていれば、充分に急峻な界面が形成されている。即ち、急峻性が優れていると言える。・・・・
【0016】急峻性とは異なるもう1つの概念として平坦性がある。この平坦性は、単純にミクロな結晶層厚の均一性と考えてよい。平坦性が劣化する原因としては、結晶欠陥や異物付着による異常成長、成長しつつある結晶表面上で原料が充分にマイグレーションできず液滴(ドロップレット)状に近い状態になっているため成長しつつある結晶表面が凹凸になってしまう等の種々の原因が挙げられる。・・・・」

3.対比・判断
刊行物には、摘記(1b)の【0004】によれば、従来の技術として、HEMTを構成する化合物半導体薄膜積層構造は、エピタキシャル成長層に対する基板の影響を極力抑制するためのバッファ層(緩衝層とも呼ばれる)、2次元電子の走行するチャネル層(能動層とも呼ばれ、バッファ層の材料と同一の場合もある)、及び不純物が選択的にドーピングされた電子供給層から成り、場合によっては、チャネル層と電子供給層との間の不純物の移動を抑制するためのスペーサ層が、チャネル層と電子供給層との間に形成されていることが記載されている。そうすると、上記刊行物の記載(1a)〜(1d)を総合すると、刊行物には、「バッファ層、チャネル層、スペーサ層及び電子供給層を順次積層した化合物半導体薄膜を、有機金属気相成長法により基板上に形成する化合物半導体薄膜積層構造の形成方法」に関する発明が記載されているといえる。
そこで、本願発明1と刊行物に記載の発明とを対比すると、両者は、「バッファ層、チャネル層、スペーサ層及び電子供給層が順次積層されて成る化合物半導体薄膜積層構造を、有機金属気相成長法にて基板上に形成する化合物半導体薄膜積層構造の形成方法」の点で一致するものの、次の点で相違する。
相違点:本願発明1は、スペーサ層の成長速度を0.01乃至0.2nm/秒とするのに対し、刊行物に記載の発明はスペーサ層の成長速度については不明である点。

そこで、上記相違点について検討する。刊行物には、選択ドーピングヘテロ構造を有する化合物半導体薄膜積層構造を形成する場合、結晶層厚の均一性は勿論のこと、界面の急峻性は半導体素子の特性を決定する重要なパラメータであること(摘記(1d)【0012】)が記載され、このことは、結晶層厚の均一性、急峻な界面が形成されることが要求されていることを意味している。
さらに、刊行物には、「急峻な界面を形成するためには、原料ガスの高速切り替えが必要とされる。例えば、今、仮に結晶層の成長速度を0.1nm/秒・・・とすれば、・・・。また、この場合、GaAsが1原子層成長するのには約2.83秒必要なので、GaAsを1原子層成長させるために要する時間の約1/30の時間で原料ガスを切り替えることができる。」(摘記(1c)【0010】)と記載され、このことは、急峻な界面を形成するために、GaAsを成長速度を0.1nm/秒で結晶成長させることを意味している。
そして、化合物半導体薄膜積層構造(例えば、HEMT)におけるスペーサ層をGaAsにより形成することは周知の技術であるから(必要ならば、特開平7-22614号公報、特開平6-163599号公報、特開平5-235053号公報参照)、刊行物の上記した記載は、GaAsをスペーサ層とした場合には、成長速度を0.1nm/秒で結晶成長させることを示していることになる。
そうすると、一般的に結晶成長において成長速度を遅くすることにより結晶性が良好となることは技術常識でもあり、刊行物に記載の発明において、化合物半導体薄膜積層構造の接合部であるヘテロ界面の急峻性を向上させることも当然に必要なことであるから、上記スペーサ層の成長速度を0.1nm/秒程度とすることは当業者ならば容易に想到し得るものである(成長速度0.1nm/秒は、本願発明1のスペーサ層の成長速度0.01乃至0.2nm/秒の範囲に含まれる。)。
そして、本願発明1の、スペーサ層の結晶性が良好となり、スペーサ層の特性の安定化、均一化が図れるとの作用効果も、刊行物及び周知の技術から予測される程度のものであって格別のものではない。

したがって、本願発明1は、刊行物に記載された発明及び周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、請求項2〜14に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-11-16 
結審通知日 2005-11-22 
審決日 2005-12-06 
出願番号 特願平7-212542
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 加藤 浩一  
特許庁審判長 城所 宏
特許庁審判官 市川 裕司
岡 和久
発明の名称 化合物半導体薄膜積層構造の形成方法及び高電子移動度トランジスタの作製方法  
代理人 山本 孝久  

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