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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G03B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G03B
管理番号 1130552
審判番号 不服2004-11845  
総通号数 75 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1995-11-10 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-06-10 
確定日 2006-02-09 
事件の表示 平成 6年特許願第110130号「振れ補正装置」拒絶査定不服審判事件〔平成 7年11月10日出願公開、特開平 7-294988〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成6年4月27日の出願であって、平成16年5月7日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成16年6月10日に審判請求がなされるとともに同日付けで手続補正がなされ、その後、当審からの審尋に対して平成17年10月24日付けで回答書が提出されたものである。

2.平成16年6月10日付け手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成16年6月10日付け手続補正を却下する。

[理由]
(1)補正後の請求項1に記載された発明
平成16年6月10日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)により、特許請求の範囲の請求項1は、平成15年6月6日付け手続補正書の特許請求の範囲に記載された請求項2の、
「振動を検知する検知手段の出力信号から、振動による画像の動きを補正する補正手段の目標値を生成する生成手段と、該生成手段によって生成された信号により前記補正手段を駆動する駆動手段と、前記生成手段によって生成された信号を前記駆動手段から切り離すスイッチング手段と、自動焦点制御手段との間で通信を行う通信手段と、該通信手段を介して前記自動焦点制御手段へ前記生成手段により検出される参照情報を伝達する参照手段とを有し、撮影時に前記スイッチング手段が前記生成された信号を前記駆動手段から切り離しても前記生成手段による信号に基づいて振れ周波数を検出することを特徴とする振れ補正装置。」から、次のとおりに補正された。
「撮影機器の振動を検知する検知手段の出力信号から、振動による画像の動きを補正する補正手段の目標値を生成する生成手段と、該生成手段によって生成された信号により前記補正手段を駆動する駆動手段と、前記生成手段によって生成された信号を前記駆動手段から切り離すスイッチング手段と、自動焦点制御手段との間で通信を行う通信手段とを有する振れ補正装置において、
前記スイッチング手段は、前記生成手段の後段に設けられており、前記駆動手段から切り離したか否かに関わらず、前記自動焦点制御手段へ前記生成手段により判断されるパンニング情報を前記通信手段を介して伝達することを特徴とする振れ補正装置。」

(2)目的制限違反
上記補正は、補正前の請求項2に記載された発明の構成に欠くことができない事項である、「通信手段を介して自動焦点制御手段へ前記生成手段により検出される参照情報を伝達する参照手段」を有すること、及び「撮影時にスイッチング手段が生成された信号を駆動手段から切り離しても生成手段による信号に基づいて振れ周波数を検出すること」を、「前記スイッチング手段は、前記生成手段の後段に設けられており、前記駆動手段から切り離したか否かに関わらず、前記自動焦点制御手段へ前記生成手段により判断されるパンニング情報を前記通信手段を介して伝達すること」と補正することを含むものである。
しかしながら、
第一に、補正前の請求項2に記載された「自動焦点制御手段へ・・・参照情報を伝達する参照『手段』」について、補正後の請求項1には、「自動焦点制御手段へ・・・パンニング情報を前記通信手段を介して伝達する」という記載はあるが、もの(『手段』)としての「参照『手段』」に対応する事項の記載がない。
第二に、補正前の請求項2に記載された「生成手段による信号に基づいて振れ周波数を検出する」ことについて、補正後の請求項1にはこれに対応する事項の記載がない。(補正後の請求項1に記載された「生成手段により判断されるパンニング情報を前記通信手段を介して伝達する」ことは、補正前の請求項2に記載された「生成手段による信号に基づいて振れ周波数を検出する」ことを限定するものとはいえない。)
よって、当該補正は、補正前の発明の構成に欠くことができない事項を限定するものとは言えず、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当しない。
また、当該補正が、請求項の削除、誤記の訂正、または明りょうでない記載の釈明の何れにも該当しないことは明らかである。
よって、本件補正は、平成6年改正前特許法第17条の2第3項に違反するものであるから、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

(3)独立特許要件違反
仮に、本件補正が、平成6年改正前特許法第17条の2第3項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するとした場合、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成6年改正前特許法第17条の2第4項において準用する同法第126条第3項の規定に適合するか)について検討する。

(3)-1.刊行物に記載された発明
本願出願日前の平成6年2月10日に頒布された特開平6-38090号公報(以下、「刊行物1」という。)には、下記のア)〜イ)の事項が記載されている。
ア)「【0001】【産業上の利用分野】
この発明は、撮像信号のエッジ成分レベルを用いてフォーカス制御を行うビデオカメラに関するもので、特に、パン、チルト撮影を行ったときにも、合焦位置が狂わないようにしたビデオカメラに係わる。」(【0001】段落)
イ)「【0013】ピッチ角速度センサ13で、カメラのピッチングが検出される。この角各速センサ13の出力が手振れ補正コントローラ15に供給される。ヨー角速度センサ14により、ヨーイングが検出される。このヨー角速度センサ14の出力が手振れ補正コントローラ15に供給される。ピッチ角速度センサ13及びヨー角速度センサ14の出力に応じてモータ5が制御され、光軸可変プリズム2の光軸が制御される。これにより、手振れ補正がなされる。
【0014】また、手振れ補正コントローラ15により、角速度センサ13及び14の出力を用いて、パニング又はチルティングによる撮影かどうかが判断される。パニング又はチルティングによる撮影であると判断されると、手振れ補正コントローラ15からフォーカスコントローラ11に、パン/チルト信号が送出される。手振れ補正コントローラ15からのパン/チルト信号が受信されると、フォーカスコントローラ11は、フォーカス制御をパン又はチルトに応じた動作状態に設定される。このため、パン、チルト撮影を行っている際に、フォーカス制御のための評価値が変化しても、フォーカス状態は乱れは生じない。」(【0013】-【0014】段落)

これらの記載事項から刊行物1には、
「ビデオカメラのピッチング及びヨーイングを検出するピッチ角速度センサ13及びヨー角速度センサ14の出力から、モータ5を制御する手振れ補正コントローラ15と、該手振れ補正コントローラ15によって制御され前記光軸可変プリズム2の光軸を制御するモータ5と、前記手振れ補正コントローラ15からフォーカスコントローラ11に信号を送出する、手振れ補正の装置において、
前記フォーカスコントローラ11へ前記手振れ補正コントローラ15により判断されるパン/チルト信号を送出する、手振れ補正の装置。」
の発明(以下、「引用発明A」という。)が記載されている。

また、同じく本願出願日前の平成6年3月4日に頒布された実願平4-62851号(実開平6-16946号)のCD-ROM(以下、「刊行物2」という。)には、下記ウ)〜エ)の事項が記載されている。
ウ)「【0009】【実施例】(実施例1) 以下、図面などを参照しながら、実施例をあげて、さらに詳しく説明する。
図1は、本考案によるブレ補正装置の実施例の構成を説明する図である。
図1において、1は交換レンズ、2はカメラボディである。交換レンズ1は、
固定レンズ群L1と、光軸方向に移動してフォーカシングをつかさどるレンズ群L2と、光軸に対して直角方向にシフトしてブレの補正を行なうブレ補正レンズ群L3から成る撮影光学系を備えている。
【0010】 ブレ検出手段3は、カメラボディ2又は交換レンズ1の光軸に対する変位量である手ブレ量を検出して、その手ブレ量に基づいたブレ情報を出力する手段であり、例えば、速度センサ又は角速度センサ等によって構成することができる。
レンズ制御手段8は、交換レンズ1内に設けられたCPU又はROMから成る手段であり、例えば、焦点距離等のレンズ情報やブレ補正に関する情報などが格納されている。
電気接点11は、交換レンズ1とカメラボディ2を装着したときに、レンズ制御手段8とカメラ制御手段9を接続する接点である。
【0011】 カメラ制御手段9は、ブレ限界設定手段4と、比較判定手段5と、ブレ補正制御手段6などが含まれており、撮影条件情報7やレンズ制御手段8からの情報などが入力されている。撮影条件情報7は、例えば、設定されたシャッタスピード等の情報である。
ブレ限界設定手段4は、撮影条件情報7と、レンズ制御手段8内のレンズ固有情報とから手ブレの限界量(ブレ限界値)を算出して設定する手段である。ブレ限界値は、シャッタ秒時が遅い場合又は装着された撮影光学系の焦点距離が長い場合に厳しく設定される。
【0012】 比較判定手段5は、ブレ検出手段3とブレ限界設定手段4からの信号を比較して、手ブレ値がブレ限界値を越えているか否かを判定する手段である。
後述するように、ブレの許容値を最小錯乱円δとすると、許容できるブレ角速度ωが逆算される。このとき、比較判定手段5は、ブレ角速度ωとブレ検出手段3からの出力ω1とを比較し、その大小を判定する。
【0013】 ブレ補正制御手段6は、ブレ検出手段3の出力に基づいて、ブレ補正レンズ群L3の移動を制御する手段である。シフト機構10は、ブレ補正制御手段6の出力に従って、ブレ補正レンズ群L3を光軸に対して直角方向にシフトさせる機構である。
ブレ補正モード切り替えスイッチ12は、ブレ補正を行うモードと行わないモードを切り替えるスイッチであり、焦点調節リング13上に設けられている。・・・」(【0009】-【0013】段落)
エ)「【0016】 次に、図3に示すフローチャートを用いて、第1の実施例の動作について説明する。
カメラボディ1のメインスイッチ(不図示)をオンすると、レンズ制御手段8内からのレンズ固有情報が、ブレ限界値設定手段4に読み込まれる(ステップ21:以下S21という)。また、ブレ限界設定手段4には、撮影条件情報7が信号情報として読み込まれる(S22)。
【0017】 ついで、ブレ補正モード切り替えスイッチ12により設定されたモードを識別する(S23)。ブレ補正モード切り替えスイッチ12がオン状態(ブレ補正を行なう)の場合には、ブレ限界設定手段4は、入力されたこれらの信号からブレ限界値を決定し(S24)、比較判定手段5に信号情報を入力する。ブレ限界値は、前述したようにブレ補正を加味して決定される。
ブレ検出手段3は、ブレを検出して(S25)、振動に応じて信号情報を比較判定手段5に入力する。ブレ補正制御手段6は、ブレ検出手段3の信号情報に従って、シフト機構10によりブレ補正レンズ群L3を移動してブレ補正を制御する(S26)。
【0018】 ブレ補正モード切り替えスイッチ12がオフ状態(ブレ補正を行なわない)の場合には、ブレ補正を加味しないブレ限界値が決定され(S24’)、ブレ検出(S25’)が行なわれる。
【0019】 比較判定手段5は、ブレ検出手段3及びブレ限界設定手段4からの信号情報を比較して、ブレが限界値を越えているか否か比較判定する(S27)。ブレが限界値を越えた場合は、警告音等の警告動作が行なわれ(S28)、ステップ29へ進む。ブレが限界値を越えていない場合は、シャッタレリーズスイッチのオンオフを識別し(S29)、オフ状態のときには、上記動作のはじめ(S21)に戻り、それを繰り返す。オン状態のときには、一連の撮影動作が行なわれる(S30)。」(【0016】-【0019】段落)

そして、原査定の拒絶の理由に引用された特開平3-237411号公報(以下、「刊行物3」という。)には、下記オ)〜ケ)の事項が記載されている。
オ)「[従来の技術]
従来から、カメラの像ブレ防止、つまり、像安定のための制御装置が提案されており、これは一般的に、被制御対象であるレンズ系の径方向振動により結像される像の振動を抑圧するフイードバツク系制御機構として構成されている。
たとえば、カメラのブレ振動(通常は撮影光軸に対する傾斜振動)を加速度信号として検出し、この加速度信号を信号処理系により積分して得た変位信号あるいは速度信号に依存して、前記レンズ系を駆動抑圧方向に駆動させるものとして構成される。
このような装置は、一眼レフカメラの場合、交換レンズ側に内蔵されるか、ボデイとレンズ間に入るアダプタの形態をとる。
第6図はこのような従来の信号処理系を含む像ブレ防止装置の制御装置の一例を示したもので、第6図において、1は角加速度計であり、図示されていないカメラの撮影光軸に対する傾きを再加速度信号として検出して出力する。この角加速度信号aは第1の積分器2で速度信号vに積分され、さらに、第2の積分器3で変位信号dに変換される。5はアクチュエータであり、像ブレ防止のために径方向の移動が可能に設けられているカメラの結像系4を前記変位信号dの入力によって径方向に駆動制御させるように動作する。
なお6は前記結像系4の実際の位置変位を検出する位置検知手段としての可変抵抗器であり、この位置検知手段からの信号を前記変位信号dのアクチュエータ5への入力系にフィードバックさせて、結像系4の駆動制御を振動変位に対応させる局部的フィードバックループを構成させている。7は前記積分器3とアクチュエータ5の間に設けられたオペアンプである。」(公報第2頁左上欄11行目〜左下欄4行目)
カ)「[実施例]
以下、図面に基づいて、本発明の実施例を説明する。
第1図は本発明に係わる像ブレ防止装置を示す構成図で、第1図である。
第1図において、第6図と同一構成には第6図と同一の符号を付してその詳細な説明は省略する。本実施例は一眼レフカメラの交換レンズに本発明を応用した例である。第1図において、8は、図示されていないカメラボデイーからのS1オンまたはS1オフ信号を受け取って像ブレ防止装置の起動や停止を行うための像ブレ防止装置用のCPU、9は積分器3からオペアンプ7に入力されるブレ変位信号dをCPU8からの信号によりオンオフすることが可能なアナログ・スイッチであり、アナログ・スイッチ9はオン状態のときにブレ変位信号dをオペアンプ7に入力されるよう接続し、オフ状態のときはブレ変位信号dがオペアンプ7に入力されないよう切り離す。」(公報第3頁右上欄1行目〜最下行)
キ)「ブレ防止動作は電源スイッチ13を操作することによって停止させることもできるのであるが、従来例の問題点において述べたように、再び電源を入れたときに積分器の時定数によってブレ防止動作が安定に動き出すまで時間がかかる。本実施例によれば、スイッチ10a、10bを押している間にブレ防止動作が停止しているときも、像ブレ防止装置の回路系には通電されているために、再びスイッチ10a、10bが離されてブレ防止動作を再開する際もほとんど瞬時に安定した動作が可能である。」(公報第4頁右上欄19行目〜左下欄9行目)
ク)上記「カ)」において「第1図において、第6図と同一構成には第6図と同一の符号を付してその詳細な説明は省略する。」とされている点について、角加速度計1、角加速度信号a、第1の積分器2、速度信号v、第2の積分器3、変位信号d、結像系4、アクチュエータ5、可変抵抗器6、及びオペアンプ7は、図面第1図と第6図とで同一符号・同一構成のものが記載されている。
ケ)図面第1図には、アナログ・スイッチ9を、積分器(2及び)3の後段に設ける構成が記載されている。

(3)-2.対比
本願補正発明と上記引用発明Aとを比較する。
引用発明Aの「ビデオカメラ」、「ピッチ角速度センサ13及びヨー角速度センサ14」、「手振れ補正コントローラ15」、「光軸可変プリズム2」、「モータ5」、「フォーカスコントローラ11」、「手振れ補正の装置」、「パン/チルト信号」は、本願補正発明の「撮影機器」、「検知手段」、「生成手段」、「補正手段」、「駆動手段」、「自動焦点制御手段」、「振れ補正装置」、「パンニング情報」に相当する。
よって、引用発明Aの「ビデオカメラのピッチング及びヨーイングを検出するピッチ角速度センサ13及びヨー角速度センサ14の出力」、及び「該手振れ補正コントローラ15によって制御され前記光軸可変プリズム2の光軸を制御するモータ5」は、本願補正発明の「撮影機器の振動を検知する検知手段の出力信号」、及び「該生成手段によって生成された信号により前記補正手段を駆動する駆動手段」に相当する。また、引用発明Aの「フォーカスコントローラ11へ前記手振れ補正コントローラ15により判断されるパン/チルト信号を送出」することは、本願補正発明の「自動焦点制御手段へ前記生成手段により判断されるパンニング情報を」「伝達」することに相当する。
さらに、引用発明Aの「モータ5を制御する手振れ補正コントローラ15」と、本願補正発明の「振動による画像の動きを補正する補正手段の目標値を生成する生成手段」とは、「振動による画像の動きを補正する制御目標値を生成する生成手段」という上位概念で一致する。
したがって、両者は、
「撮影機器の振動を検知する検知手段の出力信号から、振動による画像の動きを補正する制御目標値を生成する生成手段と、該生成手段によって生成された信号により前記補正手段を駆動する駆動手段を有する振れ補正装置において、
前記自動焦点制御手段へ前記生成手段により判断されるパンニング情報を伝達することを特徴とする振れ補正装置。」
である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点1]
生成手段によって生成される、振動による画像の動きを補正する制御目標値が、本願補正発明では、「補正手段の」目標値であるのに対し、引用発明Aでは、手振れ補正コントローラ15によって、光軸可変プリズム2の光軸を制御するモータ5を制御するものであるものの、『光軸可変プリズム2(の光軸)の目標値』という直接的記載は無い点。

[相違点2]
本願補正発明の振れ補正装置は、「自動焦点制御手段との間で通信を行う通信手段」を有し、自動焦点制御手段への生成手段により判断されるパンニング情報の伝達を「前記通信手段を介して」行っているのに対して、引用発明Aでは、フォーカスコントローラ11(本願補正発明の自動焦点制御手段に相当)への手振れ補正コントローラ15(本願補正発明の生成手段に相当)により判断されるパン/チルト信号(本願補正発明のパンニング情報に相当)の送出は行っているが、「通信手段」という直接的記載が無い点。

[相違点3]
本願補正発明は「前記生成手段によって生成された信号を前記駆動手段から切り離すスイッチング手段」を有しており、
本願補正発明の振れ補正装置は、前記スイッチング手段により前記信号を「切り離したか否かに関わらず」、自動焦点制御手段へ前記生成手段からのパンニング情報を「伝達する」ものであり、
そのために、前記「前記生成手段によって生成された信号を前記駆動手段から切り離すスイッチング手段」は、「前記生成手段の後段に設けられて」いる。
これに対し、引用発明Aではそもそも「スイッチング手段」についての記載がなく、よって、「切り離したか否かに関わらず」パンニング情報が伝達されるのか、また、スイッチング手段を「前記生成手段の後段」に設けるかどうかについての記載も無い点。

(3)-3.判断
上記相違点について検討する。
[相違点1について]
引用発明Aにおいても、手振れ補正コントローラ15が、光軸可変プリズム2の光軸を制御するモータ5を制御している。ということはすなわち、手振れ補正コントローラ15が、振動による画像の動きを補正するための光軸可変プリズム2制御の目標値を生成し、該目標値をモータ5に与えていることは、当業者ならば容易に読み取れる。
したがって、相違点1に係る本願補正発明の構成要件は、刊行物1の記載に基いて当業者が容易に想到できるものである。

[相違点2について]
引用発明Aにおいても、フォーカスコントローラ11へ手振れ補正コントローラ15により判断されるパン/チルト「信号」の「送出」を行っている。このことより、引用発明Aの手振れ補正の装置には上記信号送出を行うための通信手段が存在し、該通信手段を介して上記信号送出が行われていることは、当業者ならば容易に読み取れる。
したがって、相違点2に係る本願補正発明の構成要件は、刊行物1の記載に基いて当業者が容易に想到できるものである。

[相違点3について]
上記「(3)-1.ウ)〜エ)」で摘記したように、刊行物2には、ブレ補正モード切り替えスイッチ12が記載されており、該スイッチ12がオン状態であるかオフ状態であるかに関わらず、ブレ検出手段3はブレを検出し、振動に応じて信号情報をカメラ制御手段9内の比較判定手段5に入力し続ける、手ブレ補正装置が記載されている。すなわち、刊行物2には、振れ補正のスイッチング手段のオンオフに関わらず、情報を伝達し続けるという技術思想が開示されており、この技術思想を、引用発明Aの、自動焦点制御手段へのパンニング情報伝達に適用することは当業者にとって困難なことではない。
そして、本願補正発明においては、スイッチング手段は「生成手段によって生成された信号を前記駆動手段から切り離す」ものであって、その切り離す位置すなわち該スイッチング手段を設ける位置は「生成手段の後段」と限定されているので、この点について検討する。上記「(3)-1.オ)〜ケ)」で摘記したように、刊行物3には、カメラの振れ補正において、積分器(2及び)3によって角加速度計1の出力から変位信号dが生成され、該変位信号dの入力によってアクチュエータ5が結像系を駆動する構成において、積分器(2及び)3の後段にアナログ・スイッチ9を設け、該アナログ・スイッチ9により前記変位信号dを前記アクチュエータ5から切り離す構成が記載されており、これより本願補正発明の上記限定した点は刊行物3の記載に基づいて当業者ならば容易に想到できるものである。
したがって、相違点3に係る本願補正発明の構成要件は、刊行物1乃至3の記載に基いて当業者が容易に想到できるものである。

このように、相違点1乃至3に係る本願補正発明の構成要件は、刊行物1乃至3の記載の発明に基いて当業者が容易に想到し得る程度のものであり、また、それによる作用効果も当業者が予測できる範囲内のものである。
したがって、本願補正発明は、刊行物1乃至3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

なお、平成17年10月24日に提出された回答書において、請求人は、「少なくとも前記生成手段と前記スイッチング手段を内蔵するマイコンと、前記自動焦点制御手段を制御するマイコンは、それぞれ独立しており、」という事項を加えた補正案を提示しているが、カメラにおいては、複数の独立したマイコンを有する構成は、特開平5-5830号公報、特開平5-5930号公報、と特開平5-5932号公報(それぞれ、「AFCPU1」と「メインCPU2」)、並びに特開平4-22933号公報(「メインCPU10」と「表示用CPU11」)及び特開平5-196863号公報(「主CPU5」と「副CPU25」と「副CPU44」)に記載されているように周知である。

(3)-4.むすび
以上のとおり、本件補正は、平成6年改正前特許法第17条の2第4項において読み替えて準用する同法第126条第3項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

(4)
以上のとおり、本件補正は、平成6年改正前特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであり、また仮に本件補正が特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するとしても、同法第17条の2第4項において読み替えて準用する同法第126条第3項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
(1)本願発明
平成16年6月10日付け手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成15年6月6日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。(以下、「本願発明」という。)
「振動を検知する検知手段の出力信号から、振動による画像の動きを補正する補正手段の目標値を生成する生成手段と、該生成手段によって生成された信号により前記補正手段を駆動する駆動手段と、前記生成手段によって生成された信号を前記駆動手段から切り離すスイッチング手段とを有し、撮影時に前記スイッチング手段が前記生成された信号を前記駆動手段から切り離しても前記生成手段による信号に基づいて振れ周波数を検出することを特徴とする振れ補正装置。」

(2)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された、特開平3-237411号公報(上記「2.(3)-1.」の「刊行物3」と同文献であるが、以下、「刊行物I」という。)には、次のあ)〜き)の事項が記載されている。
あ)「[従来の技術]
従来から、カメラの像ブレ防止、つまり、像安定のための制御装置が提案されており、これは一般的に、被制御対象であるレンズ系の径方向振動により結像される像の振動を抑圧するフイードバツク系制御機構として構成されている。
たとえば、カメラのブレ振動(通常は撮影光軸に対する傾斜振動)を加速度信号として検出し、この加速度信号を信号処理系により積分して得た変位信号あるいは速度信号に依存して、前記レンズ系を駆動抑圧方向に駆動させるものとして構成される。
このような装置は、一眼レフカメラの場合、交換レンズ側に内蔵されるか、ボデイとレンズ間に入るアダプタの形態をとる。
第6図はこのような従来の信号処理系を含む像ブレ防止装置の制御装置の一例を示したもので、第6図において、1は角加速度計であり、図示されていないカメラの撮影光軸に対する傾きを再加速度信号として検出して出力する。この角加速度信号aは第1の積分器2で速度信号vに積分され、さらに、第2の積分器3で変位信号dに変換される。5はアクチュエータであり、像ブレ防止のために径方向の移動が可能に設けられているカメラの結像系4を前記変位信号dの入力によって径方向に駆動制御させるように動作する。
なお6は前記結像系4の実際の位置変位を検出する位置検知手段としての可変抵抗器であり、この位置検知手段からの信号を前記変位信号dのアクチュエータ5への入力系にフィードバックさせて、結像系4の駆動制御を振動変位に対応させる局部的フィードバックループを構成させている。7は前記積分器3とアクチュエータ5の間に設けられたオペアンプである。」(公報第2頁左上欄11行目〜左下欄4行目)
い)「[実施例]
以下、図面に基づいて、本発明の実施例を説明する。
第1図は本発明に係わる像ブレ防止装置を示す構成図で、第1図である。
第1図において、第6図と同一構成には第6図と同一の符号を付してその詳細な説明は省略する。本実施例は一眼レフカメラの交換レンズに本発明を応用した例である。第1図において、8は、図示されていないカメラボデイーからのS1オンまたはS1オフ信号を受け取って像ブレ防止装置の起動や停止を行うための像ブレ防止装置用のCPU、9は積分器3からオペアンプ7に入力されるブレ変位信号dをCPU8からの信号によりオンオフすることが可能なアナログ・スイッチであり、アナログ・スイッチ9はオン状態のときにブレ変位信号dをオペアンプ7に入力されるよう接続し、オフ状態のときはブレ変位信号dがオペアンプ7に入力されないよう切り離す。」(公報第3頁右上欄1行目〜最下行)
う)「スイッチ10a、10bは、撮影者がフレーミングを行っている際などに一時的にブレ補正動作を停止させるという目的のために、カメラおよびレンズを手持ちで保持している際に操作しやすい位置に配置する必要がある。」(公報第3頁左下欄14〜18行目)
え)「ブレ防止動作は電源スイッチ13を操作することによって停止させることもできるのであるが、従来例の問題点において述べたように、再び電源を入れたときに積分器の時定数によってブレ防止動作が安定に動き出すまで時間がかかる。本実施例によれば、スイッチ10a、10bを押している間にブレ防止動作が停止しているときも、像ブレ防止装置の回路系には通電されているために、再びスイッチ10a、10bが離されてブレ防止動作を再開する際もほとんど瞬時に安定した動作が可能である。」(公報第4頁右上欄19行目〜左下欄9行目)
お)「以上述べたように、本発明によれば、像ブレ防止装置の作用を一時的に中断した場合の像ブレ動作再開時の立ち上がりを即座に行うことができる。」(公報第5頁右上欄1〜4行目)
か)上記「い)」において「第1図において、第6図と同一構成には第6図と同一の符号を付してその詳細な説明は省略する。」とされている点について、角加速度計1、角加速度信号a、第1の積分器2、速度信号v、第2の積分器3、変位信号d、結像系4、アクチュエータ5、可変抵抗器6、及びオペアンプ7は、図面第1図と第6図とで同一符号・同一構成のものが記載されている。
き)図面第1図には、アナログ・スイッチ9を、積分器(2及び)3の後段に設ける構成が記載されている。

ここで、像ブレ防止装置の作用を一時的に中断した場合の像ブレ防止動作再開時の立ち上がりを即時に行うこと(上記「お)」)や、フレーミング時に像ブレ補正動作を一時的に停止すること(上記「う)」)、という記載からみて、刊行物I記載の、アナログ・スイッチ9によるアクチュエータ5からのブレ変位信号dの切り離しが、撮影時に行われるものであることは明白である。
よって、これらの記載事項によると、刊行物Iには、
「カメラの撮影光軸に対する傾斜振動を検出する角加速度計1の出力信号から、アクチュエータ5に入力するブレ変位信号dを生成する積分器2、3と、該積分器2、3によって生成されたブレ変位信号dにより前記結像系4を駆動するアクチュエータ5と、前記積分器2、3によって生成されたブレ変位信号dを前記アクチュエータ5から切り離すアナログ・スイッチ9とを有し、撮影時に前記アナログ・スイッチ9が前記生成されたブレ変位信号dを前記アクチュエータ5から切り離しても、角加速度計1及び積分器2、3が通電されたままブレ変位信号dを生成し続ける振れ防止装置。」
の発明(以下、「引用発明B」という。)が記載されていると認められる。

(3)対比
本願発明と上記引用発明Bとを比較する。
引用発明Bの「カメラの撮影光軸に対する傾斜振動」、「角加速度計1」、「結像系4」、「積分器2、3」、「アクチュエータ5」、「アナログ・スイッチ9」、及び「振れ防止装置」は、本願発明の「振動」、「検知手段」、「補正手段」、「生成手段」、「駆動手段」、「スイッチング手段」、及び「振れ補正装置」に相当する。
よって、引用発明Bの「カメラの撮影光軸に対する傾斜振動を検出する角加速度計1の出力信号」、「該積分器2、3によって生成されたブレ変位信号dにより前記結像系4を駆動するアクチュエータ5」、及び「前記積分器2、3によって生成されたブレ変位信号dを前記アクチュエータ5から切り離すアナログ・スイッチ9」は、本願発明の「振動を検知する検知手段の出力信号」、「該生成手段によって生成された信号により前記補正手段を駆動する駆動手段」、及び「前記生成手段によって生成された信号を前記駆動手段から切り離すスイッチング手段」に相当する。
また、引用発明Bの「アクチュエータ5に入力するブレ変位信号dを生成する積分器2、3」と、本願発明の「振動による画像の動きを補正する補正手段の目標値を生成する生成手段」こととは、「振動による画像の動きを補正するための値を生成する生成手段」という上位概念で一致する。
さらに、引用発明Bの「撮影時に前記アナログ・スイッチ9が前記生成されたブレ変位信号dを前記アクチュエータ5から切り離しても、角加速度計1及び積分器2、3が通電されたままブレ変位信号dを生成し続ける」ことと、本願発明の「撮影時に前記スイッチング手段が前記生成された信号を前記駆動手段から切り離しても前記生成手段による信号に基づいて振れ周波数を検出する」こととは、「撮影時に前記スイッチング手段が前記生成された信号を前記駆動手段から切り離しても、生成手段は信号を生成している」という上位概念で一致する。
したがって、両者は、
「振動を検知する検知手段の出力信号から、振動による画像の動きを補正するための値を生成する生成手段と、該生成手段によって生成された信号により前記補正手段を駆動する駆動手段と、前記生成手段によって生成された信号を前記駆動手段から切り離すスイッチング手段とを有し、撮影時に前記スイッチング手段が前記生成された信号を前記駆動手段から切り離しても、生成手段は信号を生成していることを特徴とする振れ補正装置。」
である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点a]
生成手段によって生成される、振動による画像の動きを補正するための値が、本願発明では、「補正手段の目標値」であるのに対し、引用発明Bでは、アクチュエータ5に入力するブレ変位信号dであるものの、『結像系4の目標値』という記載は無い点。

[相違点b]
本願発明では、スイッチング手段が生成手段によって生成された信号を前記駆動手段から切り離しても、前記生成手段による信号に基づいて「振れ周波数を検出」するのに対し、引用発明Bでは「振れ周波数を検出」するとの記載がない点。

(4)判断
上記相違点について検討する。
[相違点aについて]
引用発明Bにおいても、アクチュエータ5は、積分器2、3によって生成されたブレ変位信号dに従って結像系4を駆動しているのであり、これより、積分器2、3が、振動による画像の動きを補正するための結像系4の目標値を生成し、該目標値をアクチュエータ5に与えているということは、当業者ならば容易に読み取れる。
したがって、相違点aに係る本願発明の構成要件は、刊行物Iの記載に基いて当業者が容易に想到できるものである。

[相違点bについて]
まず、上記「(2)え)」で摘記したように、刊行物Iには「本実施例によれば、スイッチ10a、10bを押している間にブレ防止動作が停止しているときも、像ブレ防止装置の回路系には通電されているために、再びスイッチ10a、10bが離されてブレ防止動作を再開する際もほとんど瞬時に安定した動作が可能である。」と記載されており、すなわちアナログ・スイッチ9がブレ変位信号dをアクチュエータ5から切り離しても、角加速度計1及び積分器2、3は通電したままでブレ変位信号dの生成は続行している。ここで、刊行物Iには、その生成され続けているブレ変位信号dを、アクチュエータ5以外の他の手段に伝達してそこで利用すること(例えば、上記「2.(3)-1.」で述べた刊行物2記載の発明の如く警告音等により撮影者に知らせること、あるいは、同刊行物1記載の発明の如くフォーカスコントローラ11へ伝達してフォーカス制御を行うこと)、について具体的な言及はない。しかしこの点は、本願発明でも「検出」することまでしか特定されておらず、格別な相違ではない。
次に、本願発明においては、検出する振れに関する物理量は「振れ周波数」であるが、撮影用の振れ補正装置において、「振れ周波数」を検出することは、本願出願前に頒布された刊行物である特開平3-121438号公報及び特開平6-98246号公報に記載されているように、周知技術に過ぎない。
したがって、相違点bに係る本願発明の構成要件は、刊行物Iの記載及び周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得るものである。
このように、相違点a及びbに係る本願発明の構成要件は、刊行物Iの記載の発明及び周知技術に基いて当業者が容易に想到し得る程度のものであり、また、それによる作用効果も当業者が予測できる範囲内のものである。
したがって、本願発明は、刊行物Iに記載の発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

(5)むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物I及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-12-02 
結審通知日 2005-12-06 
審決日 2005-12-22 
出願番号 特願平6-110130
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G03B)
P 1 8・ 575- Z (G03B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 越河 勉川俣 洋史吉川 陽吾  
特許庁審判長 末政 清滋
特許庁審判官 前川 慎喜
江塚 政弘
発明の名称 振れ補正装置  
代理人 近島 一夫  

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