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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  F21M
管理番号 1130844
異議申立番号 異議2003-70820  
総通号数 75 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2001-02-09 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-03-28 
確定日 2005-11-21 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3330576号「放電管の配光切り替え機構を備えるソケット及び口金」の請求項1ないし5に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3330576号の請求項1ないし4に係る特許を取り消す。 
理由 1 手続の経緯
特許第3330576号の請求項1ないし4に係る特許発明についての出願は、平成11年12月27日(優先権主張 平成11年5月14日)の出願であって、平成14年7月19日に設定登録された。これに対し、平成15年3月28日付けでスタンレー電気株式会社より、同日付けで小林敏樹より特許異議の申立てがなされ、当審により取消理由の通知がなされ、その指定期間内である平成16年3月23日付けで訂正請求がなされたものである。

2 平成16年3月23日付けの訂正請求に係る訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
(訂正事項1)
特許請求の範囲の「【請求項1】口金に対して放電管を装着したソケットをスライド移動させる駆動手段を備えるとともに前記放電管の上側または下側の光源の光を遮蔽するシェードを前記口金に対して固定配置したことを特徴とする放電管の配光切り替え機構を備えるソケット及び口金。」との記載を、
「【請求項1】配光切り替え機構を備える車両用ハロゲンヘッドランプの口金装着部の寸法形状に適合する口金に対して前記車両用ハロゲンヘッドランプのハロゲンランプを放電管に切換可能なように放電管を装着したソケットを3〜10mmスライド移動させる駆動手段を備えるとともにロービーム時に前記放電管の光源の上側または下側の略片半分を囲うように遮蔽しつつ軸方向へ両サイドから突起が延設された形状として前記放電管の上側または下側の光源の光を遮蔽するシェードを前記口金に対して固定配置したことを特徴とする放電管の配光切り替え機構を備えるソケット及び口金。」と訂正する。

(訂正事項2)
特許請求の範囲の【請求項5】を削除する。

(訂正事項3)
段落【0012】「(1)口金に対して放電管を装着したソケットをスライド移動させる駆動手段を備えるとともに前記放電管の上側または下側の光源の光を遮蔽するシェードを前記口金に対して固定配置したことを特徴とする放電管の配光切り替え機構を備えるソケット及び口金を提供することにより上記目的を達成する。」との記載を、
「(1)配光切り替え機構を備える車両用ハロゲンヘッドランプの口金装着部の寸法形状に適合する口金に対して前記車両用ハロゲンヘッドランプのハロゲンランプを放電管に切換可能なように放電管を装着したソケットを3〜10mmスライド移動させる駆動手段を備えるとともにロービーム時に前記放電管の光源の上側または下側の略片半分を囲うように遮蔽しつつ軸方向へ両サイドから突起が延設された形状として前記放電管の上側または下側の光源の光を遮蔽するシェードを前記口金に対して固定配置したことを特徴とする放電管の配光切り替え機構を備えるソケット及び口金を提供することにより上記目的を達成する。」と訂正する。

(訂正事項4)
段落【0012】「(5)また、口金が車両用ハロゲンヘッドランプの口金装着部の寸法形状に適合することを特徴とする上記(1)に記載の放電管の配光切り替え機構を備えるソケット及び口金を提供することにより上記目的を達成する。」との記載を削除する。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
訂正事項1は、請求項1に係る発明の発明特定事項である「口金」を「配光切り替え機構を備える車両用ハロゲンヘッドランプの口金装着部の寸法形状に適合する口金」と、同じく「放電管を装着したソケット」を「車両用ハロゲンヘッドランプのハロゲンランプを放電管に切換可能なように放電管を装着したソケット」と、同じく「スライド移動させる駆動手段」を「3〜10mmスライド移動させる駆動手段」と、同じく「前記放電管の上側または下側の光源の光を遮蔽するシェード」を「ロービーム時に前記放電管の光源の上側または下側の略片半分を囲うように遮蔽しつつ軸方向へ両サイドから突起が延設された形状として前記放電管の上側または下側の光源の光を遮蔽するシェード」と、それぞれ訂正するものである。

まず、「口金」に係る上記訂正は、特許明細書の請求項5、段落【0009】〜【0011】の記載に基づいて、その構成を限定しようとするものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当し、特許明細書に記載された事項の範囲内の訂正である。
次に、「放電管を装着したソケット」に係る上記訂正は、特許明細書の段落【0022】の記載に基づいて、その構成を限定しようとするものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当し、特許明細書に記載された事項の範囲内の訂正である。
また、「スライド移動させる駆動手段」及び「前記放電管の上側または下側の光源の光を遮蔽するシェード」に係る上記訂正は、いずれも特許明細書の段落【0020】の記載に基づいて、その構成を限定しようとするものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当し、特許明細書に記載された事項の範囲内の訂正である。
そして、訂正事項1全体としてみても、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

訂正事項2は、請求項5を削除しようとするものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当し、特許明細書に記載された事項の範囲内の訂正であって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

訂正事項3、4は、訂正事項1、2により訂正された特許請求の範囲と発明の詳細な説明を整合させるものであって、明りょうでない記載の釈明に該当し、特許明細書に記載された事項の範囲内の訂正であって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)むすび
以上のとおりであるから、上記訂正事項1〜4は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項で準用する特許法第126条第2及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3 特許異議の申立てについての判断
(1)本件の請求項1〜4に係る発明
上記2で示したように上記訂正が認められるから、本件の請求項1〜4に係る発明は、上記訂正に係る訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1〜4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。(以下、それぞれ「本件発明1」〜「本件発明4」という。)

【請求項1】「配光切り替え機構を備える車両用ハロゲンヘッドランプの口金装着部の寸法形状に適合する口金に対して前記車両用ハロゲンヘッドランプのハロゲンランプを放電管に切換可能なように放電管を装着したソケットを3〜10mmスライド移動させる駆動手段を備えるとともにロービーム時に前記放電管の光源の上側または下側の略片半分を囲うように遮蔽しつつ軸方向へ両サイドから突起が延設された形状として前記放電管の上側または下側の光源の光を遮蔽するシェードを前記口金に対して固定配置したことを特徴とする放電管の配光切り替え機構を備えるソケット及び口金。」

【請求項2】「駆動手段が遠隔操作手段を備えることを特徴とする請求項1に記載の放電管の配光切り替え機構を備えるソケット及び口金。」

【請求項3】「駆動手段がソレノイドとスプリングの組み合わせからなることを特徴とする請求項1に記載の放電管の配光切り替え機構を備えるソケット及び口金。」

【請求項4】「駆動手段が、モータによって回転駆動される雄ネジとこれに係合して直線運動する雌ネジで構成されるネジ対偶機構からなることを特徴とする請求項1に記載の放電管の配光切り替え機構を備えるソケット及び口金。」

(2)引用刊行物に記載された事項
当審が通知した取消理由に引用した刊行物1(実願昭56-79141号(実開昭57-192603号)のマイクロフィルム)には車両用前照燈に関し、以下の事項が記載されている。

(a-1)「この考案が目的とすることは、上記した従来の前照燈を改良し、フィラメント一個ですれ違いビームと走行ビームとを得ることのできる前照燈を提供することである。」(2頁16〜19行)
(a-2)「図示しない車体の所定位置に取りつけられる前照燈1において、前面レンズ2を備えたリフレクタ3の中心軸A上にはバルブ4が図示左右動可能に設けられている。・・・(中略)・・・前記バルブ4は、略円筒状に形成されるとともに、リフレクタ3の後端部に取外し可能に取着された保持器5内に図示左右動可能に遊挿されている。そして同バルブ4の後端部にはつば6aと磁性体よりなる円板状の吸引板6bとが形成されたガイド棒6が固着されている。また、前記保持器5の内周面には円筒状に形成された電磁石7が固着されており、さらにこれの図示左方にはリング状の係止片5aが同保持器5に一体に形成されている。
8は前記係止片5aとつば6aとの間に介装されたスプリングで、前記バルブ4 を図示右方へ付勢している。
9は前記保持器5に固着されたシェードであってシェード部9aと針金状の支持棒9bとから形成されており、前記焦点F2近傍においてフィラメント4aからの図示上方への光をさえぎるよう構成されている。
上記構成において、すれ違いビーム(ロービーム)時にはスプリング8の付勢力によってつば6aが電磁石7に当接してフィラメント4aは焦点F1、F2のほぼ中間点に位置している。この状態でフィラメント4aを点燈すると第2図に示すように同フィラメント4aからの光線4A、4Bがリフレクタ3の上半体3a及び下半体3bによりそれぞれ反射されることによって下向きの照射4AR、4BRが得られる。」(3頁2行〜4頁17行)
(a-3)「次に、走行ビーム(ハイビーム)が必要な場合には、図示しないライトディマスイッチ等を切換して電磁石7を作動させる。すると吸引板6bが電磁石7に吸引されるとともにバルブ4が図示左方へ移動してそのフィラメント4aは焦点F2に位置する。
このために、この状態でフィラメント4aより照射される光線はリフレクタ3の下半体3bにより反射されて中心軸Aとほぼ平行な光線、すなわち走行ビーム4BR’となる。然し、フィラメント4a位置より短い焦点F1をもつ上半体3aに反射されるべくフィラメント4aより上方に発せられる光線4A’は本例ではシェード9にてさえぎられるよう構成されている。これは上半体3aにて反射される光線4AR’は前記すれ違いビーム時よりも更に下向きの光線となるので、極端に車両前方しか照らすことができず、走行ビーム時の前方視認性の向上には不利になるためである。ただしこのシェード9は必ずしも必要とするものではなく、所望に応じて取りさってもよい。」(5頁5〜6頁4行)

上記記載事項(a-1)〜(a-3)からみて、刊行物1には「フィラメント一個ですれ違いビームと走行ビームとを得ることのできる車両用前照燈の保持器5内に遊挿されたバルブ4を左右動可能とする電磁石7、ガイド棒6、スプリング8を備えるとともに、ハイビーム時にフィラメント4aより上方に発せられる光線をさえぎるシェード9を保持器5に固着したフィラメント一個ですれ違いビームと走行ビームとを得ることのできる車両用前照燈の保持器5」(以下、「引用発明」という。)が記載されているということができる。

(3) 対比・判断
(3-1) 本件発明1について
本件発明1と引用発明とを対比すると、それらの機能ないし作用からみて後者の「フィラメント一個ですれ違いビームと走行ビームとを得ることのできる車両用前照燈」は前者の「配光切り替え機構を備える車両用ヘッドランプ」に相当し、以下同様に後者の「保持器5」は前者の「口金」に、後者の「左右動可能とする電磁石7、ガイド棒6、スプリング8」は前者の「スライド移動させる駆動手段」に、後者の「固着」は前者の「固定配置」に、後者の「フィラメント4a」は前者の「光源」に、後者の「上方に発せられる光線をさえぎるシェード9」は前者の「上側または下側の光源の光を遮蔽するシェード」に、それぞれ相当する。
そして、後者の「バルブ4」と前者のソケットに装着された「放電管」とはいずれも「発光部材」という点で共通するから、後者の「バルブ4を左右動可能とする電磁石7、ガイド棒6、スプリング8」と前者の「放電管を装着したソケット」を「スライド移動させる駆動手段」とは、いずれも「発光部材をスライド移動させる駆動手段」という点で共通する。

以上の検討を踏まえると、両者は「配光切り替え機構を備える車両用ヘッドランプの口金に対して発光部材をスライド移動させる駆動手段を備えるとともに、発光部材の上側または下側の光源の光を遮蔽するシェードを前記口金に対して固定配置した発光部材の配光切り替え機構を備える口金」の発明という点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)口金及び発光部材の構成に関して、本件発明1では「車両用ハロゲンヘッドランプの口金装着部の寸法形状に適合する口金に対して前記車両用ハロゲンヘッドランプのハロゲンランプを放電管に切換可能なように放電管を装着したソケット」であるのに対し、引用発明ではそのような構成でない点。

(相違点2)口金に対する発光部材のスライド移動の距離に関し、本件発明1では「3〜10mm」であるのに対し、引用発明では明らかでない点。

(相違点3)シェードの形状に関し、本件発明1では「ロービーム時に前記放電管の光源の上側または下側の略片半分を囲うように遮蔽しつつ軸方向へ両サイドから突起が延設された形状」するのに対し、引用発明では明らかでない点。

(相違点4)発明の全体的構成に関し、本件発明1では「ソケット及び口金」であるのに対し、引用発明は「口金」である点。

上記相違点1〜4について検討する。
相違点1に関し、車両用ヘッドランプの光源としてハロゲンランプと放電管とが一般的に用いられている状況において、両者の互換性をとる観点から、それら光源をヘッドランプ本体に取りつけるための部材である口金やソケットを、両光源が使用できるように構成することは、本件特許出願前の周知技術(必要があれば、当審が通知した取消理由に引用した刊行物5(特開平7-57504号公報)等を参照。)である。
してみると、引用発明に上記周知技術を適用して、相違点1に係る本件発明1の構成とすることは当業者にとって容易であるし、その効果も当業者が引用発明及び上記周知技術から予測可能なものであって格別のものということはできない。

次に相違点4について検討すると、相違点1についての検討のように、引用発明に上記周知技術を適用した場合には口金のみならずソケットを備えるのであるから、発明の全体的構成としてソケット及び口金ということができることが明らかである。

また、相違点2について検討すると、発光部材を口金に対してどの程度移動させるべきかは、配光の切り替え及びハロゲンランプと放電管との互換性確保の観点から、光源、反射鏡とシェードの位置ないし大きさの関係、ヘッドランプ全体としての配光特性の設定、ハロゲンランプと放電管が規格等により定められた各部寸法の違い等を勘案して、適宜決定すべき設計事項である。
そして、3〜10mmと特定した点にも格別の技術的意義を見出すことはできないし、さらに、上記の勘案を行うためのデータが本件発明1に特段規定されていないにもかかわらず3〜10mmと特定していることに鑑みても、格別の技術的意義があるものとはいえない。

さらに、相違点3について検討すると、この種の車両用ヘッドランプの分野において、シェードの大きさや形状の変更を含む、光源とシェードとの位置関係を変化させることにより所望のタイミングで所望の配光特性を得ることは常とう手段といえる。(例えば、上記記載事項(a-3)におけるシェード9に関する記載、当審が通知した取消理由に引用した刊行物4(実願平3-46228号(実開平5-1101号)のCD-ROM)のシェード4に関する記載、実願平4-84944号(実開平6-43907号)のCD-ROMのシールド4の記載等を参照。)
そして、引用発明において、シェードの形状は明らかではないが、この種の車両用ヘッドランプにおいて採用されるバルブは通常、照射方向に軸線方向を持つ円筒形のものと考えられるから、上記記載事項(a-3)に記載されるように「フィラメント4aより上方に発せられる光線4A’」を効率的に遮るためのシェードの形状は、バルブの外径に沿わせて、上側の略片半分を囲う形状とすることが一般的に採用される態様といえる。
また、グレア等の発生により所望の配光特性が得られない場合にはシェードの形状を適宜変更することも、上記常とう手段を踏まえ、当業者が行う通常の創作能力の範囲内の設計変更といえるし、「軸方向へ両サイドから突起が延設された形状」とした点にも、所望の配光特性を獲得すること以上の格別の技術的意義を見出すことができない。
したがって、引用発明において相違点3に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到できたものといえる。

そして、相違点1〜4を全体としてみても、本件発明1と同じく車両用ヘッドランプの分野に係る引用発明及び周知技術等から、本件発明1の構成を想到することは容易であるし、その効果にも格別のものは見いだせない。

ところで、特許権者は平成16年3月23日付けの意見書において、刊行物1のシェード9はすれ違いビームと走行ビームの切り替え手段としての意義を有しておらず、刊行物1に記載された発明は反射鏡によって配光の切り替えを行うのに対し、本件発明1は反射鏡なしでシェードによって配光の切り替えを行うものであるから、本件発明1は刊行物1に基づいて当業者が容易に発明することができたものでない旨主張するので、この点について付言する。

たしかに、上記記載事項(a-3)を参酌すれば本件発明1のシェード9はハイビーム時の不適切な配光特性を是正するためのものと考えられ、すれ違いビームと走行ビームの切り替え手段としての意義を有していないものといえる。しかしながら、シェードを配光の切り替えのために用いるということは、シェードを不適切な配光特性の是正のために用いているということができ、この点では本件発明1のシェード9と変わるところはない。
そして、本件発明1は、たしかに反射鏡を発明特定事項として備えていないが、発明の実施の形態として記載されている訂正明細書の段落【0019】、【0020】等をみても反射鏡を備えることを前提として記載されていることが明らかであるから、本件発明1は反射鏡を備えない態様のみならず、反射鏡を備えた態様をも含むことは明らかである。
してみると、上記常とう手段に鑑みれば、引用発明のシェードを本件発明1のシェードの如く構成することは当業者が容易に想到できたものといわざるをえない。

(3-2)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の発明特定事項である「駆動手段」の構成を「遠隔操作手段を備える」と限定したものであって、その余の構成は本件発明1と同様である。
そして、「駆動装置が遠隔操作手段を備える」ことは常とう手段(例えば、引用発明の駆動手段に対応する電磁石7、ガイド棒6、スプリング8も、運転席から操作されるものであることは明らかである。さらに必要があれば、当審が通知した取消理由に引用した刊行物4等を参照。)である。
したがって、引用発明及び上記周知技術等から、本件発明2の構成を想到することは容易であるし、その効果にも格別のものは見いだせない。

(3-3)本件発明3について
本件発明3は、本件発明1の発明特定事項である「駆動手段」の構成を「ソレノイドとスプリングの組み合わせからなる」と限定したものであって、その余の構成は本件発明1と同様である。
そして、引用発明の駆動手段に対応する電磁石7、ガイド棒6、スプリング8も、ソレノイドとスプリングの組み合わせからなるものといえることは明らかである。
したがって、本件発明1と同様の理由により、本件発明3も当業者が容易に発明をすることができたものといえる。

(3-4)本件発明4について
本件発明4は、本件発明1の発明特定事項である「駆動手段」の構成を「モータによって回転駆動される雄ネジとこれに係合して直線運動する雌ネジで構成されるネジ対偶機構からなる」と限定したものであって、その余の構成は本件発明1と同様である。
そして、この種の車両用ヘッドランプの分野において「モータによって回転駆動される雄ネジとこれに係合して直線運動する雌ネジで構成されるネジ対偶機構からなる」駆動手段は、本件特許出願前の周知技術(例えば、当審が通知した取消理由に引用した刊行物3(特開平10-228810号公報)等を参照。)であるから、引用発明の駆動手段として当該周知技術を採用して、本件発明4の構成とすることは当業者が容易に想到できたことといえるし、その効果にも格別のものは見いだせない。

(4)むすび
以上のとおりであるから、本件発明1〜4は、引用発明及び周知技術等に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1〜4についての特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、本件発明1〜4についての特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

よって結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
放電管の配光切り替え機構を備えるソケット及び口金
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】配光切り替え機構を備える車両用ハロゲンヘッドランプの口金装着部の寸法形状に適合する口金に対して前記車両用ハロゲンヘッドランプのハロゲンランプを放電管に切換可能なように放電管を装着したソケットを3〜10mmスライド移動させる駆動手段を備えるとともにロービーム時に前記放電管の光源の上側または下側の略片半分を囲うように遮蔽しつつ軸方向へ両サイドから突起が延設された形状として前記放電管の上側または下側の光源の光を遮蔽するシェードを前記口金に対して固定配置したことを特徴とする放電管の配光切り替え機構を備えるソケット及び口金。
【請求項2】駆動手段が遠隔操作手段を備えることを特徴とする請求項1に記載の放電管の配光切り替え機構を備えるソケット及び口金。
【請求項3】駆動手段がソレノイドとスプリングの組み合わせからなることを特徴とする請求項1に記載の放電管の配光切り替え機構を備えるソケット及び口金。
【請求項4】駆動手段が、モータによって回転駆動される雄ネジとこれに係合して直線運動する雌ネジで構成されるネジ対偶機構からなることを特徴とする請求項1に記載の放電管の配光切り替え機構を備えるソケット及び口金。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は前照灯、特に車両用の前照灯として今後使用が拡大すると考えられる放電管(ディスチャージランプ、キセノンアークランプまたは略してHIDとも称される。)の配光切り替え機構を備えるソケット及び口金に関する。
【0002】
【従来の技術】
車両用の前照灯として、消費電力35〜60W、約20ルーメン/ワットの高効率で点光源に近いハロゲンランプ(よう素球)の周りに反射鏡を配設することにより高精度に集光した所謂プロジェクター式前照灯やマルチリフレクター式前照灯が現在主流になっている。
【0003】
上記プロジェクター式前照灯は所謂PE(poiyellipsoid;多楕円体)、及びDE(three dimensional ellipsoid;三次元楕円体)の二種のシステムの規格が設定されており、マルチリフレクター式前照灯はMS(mulch surface)を用いている。
【0004】
上記前照灯に使用されているハロゲンランプは、12Vまたは24Vという低い印加電圧で点灯するので絶縁対策を特段必要とせず、平均寿命は400時間程度である。そして形状的にH-1タイプ、HB-1タイプ、H-4タイプ、HB-4タイプ、HB-5タイプ、H-7タイプ等と称される数種類の仕様が設定され、各々について照明装置側の口金装着部(受金ともいう)及びハロゲンランプ側のつば付き口金の形状・寸法が規格化されている。
【0005】
そして、上記ハロゲンランプを使用した前照灯におけるロービーム/ハイビームの切り替えについては、旧来は2つの専用ハロゲンランプをハイビーム用/ロービーム用に分けた反射鏡の略中心に配設して選択点灯する方式であったが、近年は前記H-4タイプのように1つのハロゲンランプ自身の中にハイビーム用とシェードを被ったロービーム用の2つの光源(フィラメント)を併設して選択点灯されるように構成されている。即ち、ハイビームの場合はハイビーム用の光源のみを点灯し、ロービームの場合はシェードを被ったロービーム用の光源のみを点灯してシェード側の光を遮蔽して反射鏡での反射を変えることで配光制御を実現している。
【0006】
ところで、上記ハロゲンランプを用いた前照灯に代わる次世代の前照灯として放電管の採用が現在検討され、一部では実施段階にある。
【0007】
放電管は点灯印加電圧が約2万Vと高電圧であるものの約100ルーメン±15%/ワットの高効率であって、前述のハロゲンランプよりも約2倍の大きな光束が得られ、且つ車両用としては消費電力が35W程度で済み、寿命も4倍以上なので省エネルギーに最適であって、真に車両用の前照灯として理想的な光源である。
【0008】
本願出願人は先に特開平7-57504号公報にて開示されたように、上記ハロゲンランプを用いたプロジェクター式ヘッドライト照明装置における規格化された口金の形状寸法に適合してそのまま装着可能な高耐圧に適応する車両用の前照灯の放電管用口金を開発した。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
前照灯、特に車両用前照灯等では、ロービーム/ハイビームの切り替えを行えるように構成されなければならないが、現在の放電管では上記H-4タイプのハロゲンランプのようにランプ自身の中に2つの光源を設けるのは構造的に困難である。さりとて前述のハロゲンランプの旧来方式のように別個に2つの放電管を反射鏡の中央近傍に併設するのではスペース的に問題であり、反射鏡の構成も難しい。さらに、コスト的にも割高になる。また、放電管の光源はハロゲンランプの光源よりも小さくそのままハロゲンランプに代えて使用するのでは新たにグレア(眩しさ)防止対策が必要になる。
【0010】
前記特開平7-57504号公報にて開示された車両用の前照灯の放電管用口金は、高耐圧化を図りつつ既存のハロゲンランプを光源とするプロジェクター式ヘッドライト等の照明装置における口金の形状寸法に適合するようにして、直ちに現行のハロゲンランプに代えて放電管を照明装置に採用可能にした点で画期的な発明であるが、ロービーム/ハイビームの切り替えやグレア防止対策は想定していない。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、放電管を光源とする前照灯のロービーム/ハイビームの切り替え及びグレア防止を実現する新規な放電管の配光切り替え機構を備えるソケット及び口金を提供するものである。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明は、
(1)配光切り替え機構を備える車両用ハロゲンヘッドランプの口金装着部の寸法形状に適合する口金に対して前記車両用ハロゲンヘッドランプのハロゲンランプを放電管に切換可能なように放電管を装着したソケットを3〜10mmスライド移動させる駆動手段を備えるとともにロービーム時に前記放電管の光源の上側または下側の略片半分を囲うように遮蔽しつつ軸方向へ両サイドから突起が延設された形状として前記放電管の上側または下側の光源の光を遮蔽するシェードを前記口金に対して固定配置したことを特徴とする放電管の配光切り替え機構を備えるソケット及び口金を提供することにより上記目的を達成する。
(2)また、駆動手段が遠隔操作手段を備えることを特徴とする上記(1)に記載の放電管の配光切り替え機構を備えるソケット及び口金を提供することにより上記目的を達成する。
(3)また、駆動手段がソレノイドとスプリングの組み合わせからなることを特徴とする上記(1)に記載の放電管の配光切り替え機構を備えるソケット及び口金を提供することにより上記目的を達成する。
(4)また、駆動手段が、モータによって回転駆動される雄ネジとこれに係合して直線運動する雌ネジで構成されるネジ対偶機構からなることを特徴とする上記(1)に記載の放電管の配光切り替え機構を備えるソケット及び口金を提供することにより上記目的を達成する。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明に係る実施の形態について図面に基づいて詳細に説明する。なお、本発明に係る放電管の配光切り替え機構を備えるソケット及び口金は主に車両用の前照灯を対象とし、用いられる放電管自身及び反射鏡やレンズ等は公知であり、既存のハロゲンランプのものを踏襲することができるのでその説明は省き、専ら放電管のロービーム/ハイビームの配光切り替えとグレア防止の機構について説明する。
【0014】
図1の(a)は本発明に係る第1の実施の形態の放電管と口金の構造を示すロービーム状態の正面図であり、(b)はそのハイビームの状態の正面図である。
【0015】
図2の(a)は本発明に係る第2の実施の形態の放電管と口金の構造を示すロービーム状態の正面図であり、(b)はそのハイビームの状態の正面図である。
【0016】
本発明の放電管の配光切り替え機構を備えるソケット及び口金は、図示しない反射鏡を略ドーム状に配するとともに放電管(ディスチャージランプまたはキセノンアークランプまたはHIDとも云う。)をその中央部の中心軸上に配置してこれを光源として反射鏡の反射光を前方に配光して前方を照らす所謂ヘッドライト1に用いられ、特にその口金に対して放電管を装着したソケットをスライド移動させる駆動手段を備えるとともに前記放電管の上側または下側の光源の光を遮蔽するシェードを前記口金に対して固定配置した構造である。
【0017】
即ち、図1に示される第1の実施の形態のように、口金1に対して放電管4を前後にスライド移動させる駆動手段Kを備えるとともに前記放電管4の下側(または上側)を遮蔽するシェード7を前記口金1に対して固定配置している構成である。上記シェード7は光を遮蔽する材質であればよく、例えば薄い金属板を打抜成形したものや耐熱性の合成樹脂またはセラミック材が適当である。
【0018】
上記構成では、放電管4はガラス管3及びソケット11(符号12は放電管4の電極に接続された絶縁コード)とともにソケット11に連結されたソレノイド8の可動鉄片9が通電によってソレノイド8の中に吸引されることでスライド移動してシェード7の遮蔽面7aと放電管4の光源5とのロービーム状態(a)であった位置が相対的にずれて遮蔽が開放されてハイビーム状態(b)となるのである。
【0019】
つまり、ソケット11は口金1の裏側にロッド6等で配置固定された駆動手段Kとしてのソレノイド8の可動鉄片9に連結されており、該可動鉄片9はスプリング10で放電管4のある方向へ常に付勢されていて、ソレノイド8に電圧を印加していない非作動状態では、シェード7の遮蔽面7aが放電管4のガラス管3の外周面の光源5の位置に近接して在り、前照灯に配置した状態での放電管4の下側(または上側)への光を一部遮蔽し、その結果、反射鏡によって反射して配光調整された光束はロービームとなり、前記シェード7が光を一部遮蔽するロービーム状態ではグレア防止対策となっている。なお、通常は光源5の下側への光が反射鏡にて反射して前方にハイビームの上側の光束として配光されるので、シェード7は放電管4における光源5の下側に配設される。
【0020】
次に、ハイビームとする場合は、ソレノイド8のコイルに通電して可動鉄片9をスプリング10のバネ応力に抗して引き込み、ソケット11をソレノイド8側へスライド移動させる(このスライド移動量は本実施の形態では3〜10mmが適当である。)。すると放電管4の光源5が遮蔽面7aの位置(図1の(a)の状態)からずれて光源5から反射鏡にて前方へハイビームの配光がなされる(図1の(b)の状態)。
本発明者の試作によれば、単純な形状の遮蔽面を有するシェードで放電管4の光源5の下側のみを遮蔽したのではロービームの際のグレアの影響が多少出てしまうことが判った。これを防止するには図1に示されるように、特にシェード7の遮蔽面7aが光源5の周りのガラス管3の下側または上側何れか略片半分を囲うように遮蔽しつつ軸Z方向へ両サイドから突起7cを延設した形状がグレア防止に一層有効であることが判った。
【0021】
なお、上記実施の形態では放電管4の光源5の上側または下側を遮蔽するシェード7に対する放電管4の位置を軸Z方向に沿って前後に移動させる方式であるが、シェード7に対する放電管4の位置の移動は軸方向の前後移動に限らず上下または左右または斜めへの移動でもよく、要は放電管4の好適な位置の移動を駆動手段Kにて行えばよいのである。移動の仕方や駆動手段に制限は無い。
【0022】
また、上記口金1は放電管専用の規格品であってもよいが、現行の大多数の自動車の前照灯に採用されているハロゲンランプの規格化された口金(例えば本実施例としてH-4タイプ)の形状寸法に適合して現行の自動車に直ちに装着可能な放電管用の口金1及びこれに適合するソケット11を採用することが現状ではコスト上望ましい。
【0023】
次に、本発明における放電管4をスライド移動させる駆動手段について、上記ソレノイド8とスプリング10の構成による駆動手段K以外の他の手段を例示すれば、図2の第2の実施の形態に示されるように、口金1の裏側にロッド6等で配置固定された駆動手段としてのステッピングモータ15によって回転駆動される雄ネジ(ネジ付きロッド)17とこれに係合して直線運動する雌ネジ18で構成されるネジ対偶機構Nによって放電管4の光源5がシェード7の遮蔽面7aによって遮蔽されているロービーム状態(a)から雌ネジ18と連結するソケット11及びガラス管3と放電管4ga軸Zに沿って口金1の裏側(ステッピングモータ15側)へスライド移動して、図2の(b)のように光源5がシェード7の遮蔽から開放されたハイビーム状態に切り替わる構成としてもよい。
【0024】
また、上記図2に示されるネジ対偶機構Nによる駆動手段の実施の形態で、別箇所に固定されたステッピングモータ15に図示しないワイヤで連結されることによって回転駆動される雄ネジ(ネジ付きロッド)17とこれに係合して直線運動する雌ネジ18で構成されることでも実現できる。即ち、ステッピングモータ15をワイヤを媒介とする遠隔操作手段を備える所謂リモコン式である。この構成は装着スペースに余裕が無い車両用として有効であって、本発明に係る放電管を光源とする前照灯における駆動手段の装着性の向上が図られる。なお、遠隔操作手段としてはワイヤを媒介とする手段の他に、油圧や空圧による遠隔操作、更には電波を組み合わせた遠隔操作手段も可能であってその手段に制限は無い。
【0025】
本発明で適用できる駆動手段は図1のソレノイド8とスプリング10の組み合わせによる駆動手段K、図2のステッピングモータ15によって回転駆動されるネジ対偶機構N以外にも考えられる。例えば、電磁石の吸引力によって直接に磁性金属(鉄)を外側に配したソケット11を吸引することでスライド移動させる駆動手段も取り得る。
【0026】
以上、本発明に係る車両用の前照灯における放電管の配光切り替え機構を備えるソケット及び口金は、ロービーム/ハイビームの切り替え機構とグレア防止対策をH-4タイプのハロゲンランプの前照灯への適用を例に詳述したが、その口金のタイプは種々適合しうるものである。また、本発明の放電管の配光切り替え機構を備えるソケット及び口金は車両用に限らず、例えば船舶用でも適用できることは言うまでもない。
【0027】
【発明の効果】
本発明に係る放電管の配光切り替え機構を備えるソケット及び口金は上記のような放電管のロービーム/ハイビームの切り替え機構とグレア防止機構を備えているため、以下に記載する効果を有する。
【0028】
(1)1つの放電管にてロービーム/ハイビームの切り替えが放電管をスライド移動させることで行えるという優れた効果を有する。
【0029】
(2)ハロゲンランプを光源とする現行の車両用の前照灯の照明装置の口金装着部の寸法規格に適合しつつ、ハロゲンランプから放電管への切換を低コストでスムーズに行なうことができるという優れた効果を有する。
【0030】
(3)光源の小さな放電管のグレア防止がシェードによって実現できる。
【0031】
(4)駆動手段が遠隔操作手段を備えているので、装着スペースに余裕が無い車両に対する装着性の向上が図られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
(a)は本発明に係る第1の実施の形態の放電管と口金の構造を示すロービーム状態の正面図であり、(b)はそのハイビームの状態の正面図である。
【図2】
(a)は本発明に係る第2の実施の形態の放電管と口金の構造を示すロービーム状態の正面図であり、(b)はそのハイビームの状態の正面図である。
【符号の説明】
1 口金
3 ガラス管
4 放電管
5 光源
6 ロッド
7 シェード
7a 遮蔽面
7c 突起
8 ソレノイド
9 可動鉄片
10 スプリング
11 ソケット
12 絶縁コード
15 ステッピングモータ
17 雄ネジ
18 雌ネジ
K ソレノイドとスプリングの組み合わせによる駆動手段
N ネジ対偶による駆動手段
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-10-03 
出願番号 特願平11-369180
審決分類 P 1 651・ 121- ZA (F21M)
最終処分 取消  
前審関与審査官 仁木 浩高木 彰  
特許庁審判長 大元 修二
特許庁審判官 北川 清伸
内藤 真徳
登録日 2002-07-19 
登録番号 特許第3330576号(P3330576)
権利者 アサヒライズ株式会社
発明の名称 放電管の配光切り替え機構を備えるソケット及び口金  
代理人 秋元 輝雄  
代理人 羽鳥 亘  
代理人 羽鳥 亘  

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