• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 特許請求の範囲の実質的変更  H03B
審判 全部申し立て 2項進歩性  H03B
管理番号 1130873
異議申立番号 異議2003-72805  
総通号数 75 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2000-03-14 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-11-19 
確定日 2005-05-06 
異議申立件数
事件の表示 特許第3406845号「表面実装型水晶発振器」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3406845号の請求項1に係る特許を取り消す。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3406845号「表面実装型水晶発振器 」の発明は、平成10年8月31日に特許出願したものであって、平成15年3月7日にその特許(請求項の数1)の設定登録がなされ、平成15年5月19日に特許公報が発行され、その特許について、池田英治、広瀬圭治より特許異議の申立がなされ、取消理由の通知がなされ、その指定期間内である平成16年7月26日に訂正請求(後日取り下げ)がなされた後、再度取消の理由が通知され、その指定期間内である平成16年10月18日に訂正請求がなされたものである。

2.訂正の適否
訂正の内容は、平成16年10月18日付けの訂正請求書及びそれに添付された訂正明細書の記載からみて、以下のとおりである。

(1)訂正の要旨
本件訂正の要旨は、訂正請求書に記載された請求の趣旨のとおり、特許第3406845号発明の明細書を訂正請求書に添付した全文訂正明細書の通り訂正するものであって、その訂正内容は、特許請求の範囲の請求項1に記載された発明についてその請求項1の構成を限定することにより特許請求の範囲の減縮を行うとともに、発明の詳細な説明について前記減縮に伴う記載との整合を図るものであって、以下のとおりである。

a.特許第3406845号発明の明細書の特許請求の範囲において、請求項1に係る記載を、特許請求の範囲の減縮を目的として、
「複数のセラミック絶縁層を積層して成る多層基板の下面にキャビティー部を形成する枠状脚部を配置した容器体と、前記容器体の上面に形成された水晶振動子用電極パッドに接続されて実装された水晶振動子と、前記キャビティー部に収容され、充填樹脂に被覆されたICチップと前記水晶振動子を気密封止する蓋体とを備えた表面実装型水晶発振器において、前記多層基板には、該多層基板上面に導出して前記水晶振動子用電極パッドに接続する第1のビアホール導体と、前記キャビティー部内に導出する第2のビアホール導体と、前記セラミック絶縁層間に形成され前記第1のビアホール導体と第2のビアホール導体とを接続する内部配線パターンとから成り、且つ前記多層基板の厚み方向に折れ曲がった導電経路が形成されており、該該導電経路によって、前記水晶振動子と前記ICチップとを接続するとともに、前記キャビティー部内で前記ICチップが被さる部位に前記導電経路を介して前記水晶振動子と電気的に接続されるモニタ電極を配したことを特徴とする表面実装型水晶発振器。」
と訂正する。

b.特許第3406845号発明の明細書の【発明の詳細な説明】において、段落番号【0017】を、前記特許請求の範囲の記載との整合を目的として、
「【0017】
【課題を解決するための手段】
本発明の表面実装型水晶発振器は、複数のセラミック絶縁層を積層して成る多層基板の下面にキャビティー部を形成する枠状脚部を配置した容器体と、前記容器体の上面に形成された水晶振動子用電極パッドに接続されて実装された水晶振動子と、前記キャビティー部に収容され、充填樹脂に被覆されたICチップと前記水晶振動子を気密封止する蓋体とを備えた表面実装型水晶発振器において、前記多層基板には、該多層基板上面に導出して前記水晶振動子用電極パッドに接続する第1のビアホール導体と、前記キャビティー部内に導出する第2のビアホール導体と、前記セラミック絶縁層間に形成され前記第1のビアホール導体と第2のビアホール導体とを接続する内部配線パターンとから成り、且つ前記多層基板の厚み方向に折れ曲がった導電経路が形成されており、該導電経路によって、前記水晶振動子と前記ICチップとを接続するとともに、前記キャビティー部内で前記ICチップが被さる部位に前記導電経路を介して前記水晶振動子と電気的に接続されるモニタ電極を配したことを特徴とする表面実装型水晶発振器である。」
と訂正する。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項aは、特許請求の範囲に「前記キャビティー部内で前記ICチップが被さる部位に前記導電経路を介して前記水晶振動子と電気的に接続されるモニタ電極を配した」との事項を新たに付加するものである。
ここで、訂正前の特許請求の範囲に係る発明は、水晶振動子の収容領域内での気密封止性を良好に維持することを目的としたものであり、一方、上記訂正によって付加される事項は、モニタ電極およびその配置に関するものであって、ICチップが被さる部位にモニタ電極を配したことにより、モニタ電極と表面実装型水晶発振器が実装されるプリント配線基板等の実装基板との間に発生し得る浮遊容量を低減する等の課題を解決するものであることから、付加される事項は解決すべき課題の相違する事項のみであって、実質上特許請求の範囲を変更するものと認められる。
この点に関して、当審が通知した訂正拒絶理由通知に対して、特許権者は意見書を提出し、モニタ電極がICチップを被覆する充填樹脂に被覆され、この充填樹脂によりモニタ電極のキャビティー部底面への接合強度が補強され、モニタ電極とキャビティー部底面との密着性を良好に維持することが可能となる効果を掲げ、水晶振動子が収容されている気密領域がキャビティー部側へリークしてしまうのを有効に防止している点で水晶振動子の収容領域内の気密封止性を良好に維持することと関係を有する構成を付加するものであると主張している。
しかしながら、ICチップを被覆する充填樹脂に被覆され、この充填樹脂により接合強度が補強され、キャビティー部底面との密着性を良好に維持することが可能となるという効果は、「モニタ電極」に限らず、ICチップが接続される電極パッド等、キャビティー部内に形成された電極パターンすべてが有する効果にすぎないものである。
一方、上記訂正によって新たに付加される事項は、モニタ電極の配置において、特に「ICチップが被さる部位」に配させることを特徴としている。該「ICチップが被さる部位」は、ICチップが設けられるキャビティー部内に存在することは当然であり、訂正によって付加される事項のうち「キャビティー部内で」との構成は特に技術的意味を有するものではないものと認められる。
キャビティー部内に形成された電極パターンすべてが付随的に有する効果が一致しているとしても、上記訂正によって新たに付加される主要な技術的思想は、モニタ電極を「ICチップが被さる部位」に配したことによって奏される、前記浮遊容量を低減する等、水晶振動子の収容領域内の気密封止性を良好に維持することと関係のない事項に限られるものであって、上記訂正事項aは、実質上特許請求の範囲を変更するものと認められる。

(3)むすび
したがって、上記訂正は、特許法第120条の4第3項で準用する第126条第3項の規定に適合しない。
よって、当該訂正は認められない。

3.特許異議の申立てについての判断
(1)申立理由の概要
異議申立人池田英治は、本件発明についての特許に対して、証拠として甲第1号証(特開平10-65486号公報)、甲第2号証(甲第1号証の図1拡大説明図)、甲第3号証(特開平10-28024号公報)を提出し、本件発明の特許は第29条第2項に違反してなされたものであり、申立人広瀬圭治は本件発明についての特許に対して、証拠として甲第1号証(特開平10-65486号公報)、甲第2号証(特開平8-204452号公報)を提出し、本件発明の特許は第29条第2項に違反してなされたものであり、本件発明についての特許を取り消すべき旨主張している。

(2)本件発明
上記2.に示したとおり、訂正は認められないから、本件特許の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、特許第3406845号明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】複数のセラミック絶縁層を積層して成る多層基板の下面にキャビティー部を形成する枠状脚部を配置した容器体と、前記容器体の上面に形成された水晶振動子用電極パッドに接続されて実装された水晶振動子と、前記キャビティー部に収容され、充填樹脂に被覆されたICチップと前記水晶振動子を気密封止する蓋体とを備えた表面実装型水晶発振器において、前記多層基板は、該多層基板上面に導出して前記水晶振動子用電極パッドに接続する第1のビアホール導体と、前記キャビティー部内に導出する第2のビアホール導体と、前記セラミック絶縁層間に形成され前記第1のビアホール導体と第2のビアホール導体とを接続する内部配線パターンとから成り、且つ前記多層基板の厚み方向に折れ曲がった導電経路が形成されており、該導電経路によって、前記水晶振動子と前記ICチップとが接続されていることを特徴とする表面実装型水晶発振器。」

(3)引用刊行物
当審が通知した取消しの理由に引用した刊行物1(特開平10-28024号公報)には、以下の事項が記載されている。
「図1〜図3において1はセラミック製で長方形状の基板で、この基板1の上面側の長手方向の左右には支持台2が一体に設けられている。そして、これらの支持台2上に水晶製で長方形状の振動子3が、その長手方向を基板1の長手方向と合わせて実装されている。
【0021】また基板1の下面側には凹部4が形成され、この凹部4内には振動子3の温度補償を行う制御素子5が実装されている。
【0022】前記制御素子5と基板1の下面の導電パターン6とはボンディングワイヤ7によって電気的に接続されている。
【0023】そしてその状態において、基板1下面の凹部4内には樹脂8が充填され、この樹脂8によって制御素子5が封入された状態となっている。」(段落0020〜0023、図1〜図3)
「基板1の上面の外周面にはタングステン-ニッケル-金よりなる図1のごとく四角枠状の金属パターン16が設けられ、この金属パターン16上には金-スズよりなる封着体17が設けられている。そして基板1の上面において振動子3を覆った金属製のカバー18の下面開口縁が封着体17上に載置されている。このカバー18の上記封着体17と接する近傍はニッケル-金の膜が設けられており、よってこの部分において400℃程度の溶着による一体化が行われ、これによって基板1上において振動子3のカバー18によるシールドが行われている。」(段落0028、図1)

また、当審が通知した取消しの理由に引用した刊行物2(特開平10-65486号公報)には、以下の事項が記載されている。
「図1から図5において、1は複数のセラミック板を積層した構成の基板で、この基板の下面側には水晶製の振動子2が実装されている。この水晶製の振動子2の外周には、シーム溶接のための金属枠3が設けられ、この金属枠3の下面開口部に金属製のカバー4がシーム溶接され、これにより振動子2は基板1の下面側に気密封止された状態で実装されている。
【0016】また基板1の上面側には図2に示す如く制御素子5が実装され、この制御素子5は、ボンディングワイヤー6、基板1に設けられた導電体7、同じく閉塞導電路7aを介して振動子2と接続されている。即ち、振動子2の温度保障を制御素子5が行うようにした構成である。
【0017】さてこの制御素子5の上面側には図3、図4に示すカバー8が被せられ、これによって制御素子5の封止を行っている。」(段落0015〜0017、図1〜図5)

(4)対比・判断
本件発明と上記刊行物1記載の発明とを対比すると、刊行物1における「制御素子5」は水晶製の振動子の温度補償を行うものであるから、本件発明における「ICチップ」に対応させることができる。
そして、刊行物1において、この制御素子5を収納する「基板1の下面側に形成された凹部4」及び「凹部4外周」は、本件発明において、基板の下面にICチップを収容する「キャビティー部」及び「枠状脚部」にそれぞれ対応させることができる。
また、刊行物1の、「導電パターン13」は実装する水晶製の振動子と電気的接続を行うものと認められるから、本件発明において実装する水晶振動子との電気的接続を行う「水晶振動子用電極パッド」に対応させることができる。
したがって、両者は、「セラミック絶縁基板の下面にキャビティー部を形成する枠状脚部を配置した容器体と、前記容器体の上面に形成された水晶振動子用電極パッドに接続されて実装された水晶振動子と、前記キャビティー部に収容され、充填樹脂に被覆されたICチップと前記水晶振動子を気密封止する蓋体とを備えた表面実装型水晶発振器において、前記基板は、該基板上面に導出して前記水晶振動子用電極パッドに接続する導体と、前記キャビティー部内に導出する導体との間の導電経路が形成されており、該導電経路によって、前記水晶振動子と前記ICチップとが接続されている表面実装型水晶発振器」の点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点)
本件発明は、基板が複数のセラミック絶縁層を積層して成る多層基板であり、該多層基板上面に導出して前記水晶振動子用電極パッドに接続する第1のビアホール導体と、前記キャビティー部内に導出する第2のビアホール導体と、前記セラミック絶縁層間に形成され前記第1のビアホール導体と第2のビアホール導体とを接続する内部配線パターンから成り、且つ前記多層基板の厚み方向に折れ曲がった導電経路が形成されているのに対し、刊行物1に記載される基板1は層間に内部配線パターンを有する多層基板ではなく、貫通する導電路12は折れ曲がっていない点。

前記相違点について検討する。
水晶振動子と、この水晶振動子の制御素子とを基板の異なる側に実装する構成において、この基板として多層基板を用いることは刊行物2に記載されている。
一般に、セラミック絶縁層を用いた多層基板の厚み方向の導電経路には「ビアホール」が用いられるが、広がり方向の導電経路である配線パターンと組み合わせて用いられることが多く、多層基板の厚み方向に折れ曲がった導電経路とすることは普通に行われている。
刊行物2の図1においても、水晶振動子と制御素子とのそれぞれの実装位置に応じて、厚み方向に形成された導電経路は層毎に離れた位置に存在する。そして、これらの導電経路の接続に内部配線パターンを用いることは自明の構成であるから、前記相違点は、刊行物2のごとく、複数のセラミック板を積層した基板を用いた際に、ごく普通に用いられる構成による差異にすぎないものと認められる。
本件発明は、刊行物1に記載された基板を、刊行物2のごとく複数のセラミック板を積層した基板としたものであり、奏する効果も積層基板が当然に有する機能によるものであることから、格別のものと認めることはできない。

(5)まとめ
以上のとおり、本件発明は、刊行物1及び刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。

4.むすび
以上より、本件特許の請求項1に係る発明は、その出願日前に頒布された刊行物1及び刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
よって結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2005-03-18 
出願番号 特願平10-244278
審決分類 P 1 651・ 855- ZB (H03B)
P 1 651・ 121- ZB (H03B)
最終処分 取消  
特許庁審判長 吉村 宅衛
特許庁審判官 和田 志郎
矢島 伸一
登録日 2003-03-07 
登録番号 特許第3406845号(P3406845)
権利者 京セラ株式会社
発明の名称 表面実装型水晶発振器  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ