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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  A45D
審判 一部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A45D
審判 一部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  A45D
管理番号 1132004
審判番号 無効2004-80126  
総通号数 76 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2001-02-06 
種別 無効の審決 
審判請求日 2004-08-20 
確定日 2006-03-02 
事件の表示 上記当事者間の特許第3306047号発明「頭髪処理促進装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯・本件発明
本件特許第3306047号(平成8年10月11日に出願された特願平8-270228号の分割出願、平成14年5月10日設定登録。)の請求項1ないし4に係る発明は、明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に記載された発明(以下、「本件発明」という。)は次のとおりである。
「被施術者の頭髪に赤外線または遠赤外線を照射して頭髪処理を促進する頭髪処理促進装置において、
半円形状を有し、赤外線または遠赤外線を放射するヒータを有する発熱装置と、
該発熱装置を該発熱装置の半円形状の弦に相当する直線を回動の軸として、往復回動させる駆動手段とを備えた、ことを特徴とする頭髪処理促進装置。」

2.請求人の主張
これに対して、請求人は、甲第1号証ないし甲第11号証を提出すると共に、本件発明の特許は次の理由により無効とすべきである旨主張している。(1)本件発明は、甲第1号証、甲第3号証、甲第4号証、甲第5号証及び甲第6号証に記載された発明に基いて、又は、甲第2号証、甲第3号証、甲第4号証、甲第5号証及び甲第6号証に記載された発明に基いて、又は、甲第1号証、甲第2号証、甲第3号証、甲第4号証、甲第5号証及び甲第6号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである(以下、「無効理由1」という。)。
(2)本件特許明細書は、その記載に不備があり、特許法第36条第4項又は同条第6項第2号に規定する要件を満たしていないものであるから、本件発明の特許は、上記いずれかの規定に違反してなされたものである(以下、「無効理由2」という。)。
(3)本件特許出願に係る明細書又は図面は、分割出願における原出願の出願当初の明細書又は図面に記載した事項の範囲内でないものを含んでおり、本件特許出願は、原出願の一部を新たな特許出願とするものではなく特許法第44条第1項に違反してなされたものであることから、出願日は遡及しない。そして、現実の出願日(平成12年7月4日)を基準として特許要件を判断する場合には、本件発明は、甲第7号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである(以下、「無効理由3」という。)。
(証拠方法)
甲第1号証:実願平4-17927号(実開平5-63404号)の
CD-ROM
甲第2号証:特公平7-28770号公報
甲第3号証:実願平3-82076号(実開平5-35004号)の
CD-ROM
甲第4号証:特公平6-67326号公報
甲第5号証:特開平8-56741号公報
甲第6号証:実公平6-8803号公報
甲第7号証:特開平10-113218号公報
甲第8号証:手続補正書(方式)[受付日]平成14.01.28
甲第9号証:判決文(東京高裁 平成14年(行ケ)第321号 実用
新案権行政訴訟事件)
甲第10号証:訴状(平成15年12月22日 大阪地裁民事部宛)
甲第11号証:原告準備書面(1)(平成15年(ワ)第13703号
特許権侵害差止等請求事件)

3.被請求人の主張
一方、被請求人は、乙第1号証ないし乙第3号証を提出すると共に、次の理由により本件審判請求には理由がない旨主張している。
(1)本件発明の構成である「発熱装置の半円形状の弦に相当する直線を回動の軸として、往復回動させる駆動手段」については、甲第1号証ないし甲第6号証のいずれにも開示がなく、本件発明は進歩性を有する。
(2)本件発明の特許は、特許法第36条第4項、同第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものではない。
(3)「発熱装置3の半円形状の両端部を結ぶ直線10」は原出願の明細書に記載した範囲に含まれているものであり、本件特許出願は分割出願の要件を充足する。
(証拠方法)
乙第1号証:特開2002-125745号公報
乙第2号証:特開2002-125746号公報
乙第3号証:広辞苑第5版 第850頁

4.無効理由1について
(1)甲第1号証ないし甲第6号証に記載の発明
(1-1)甲第1号証には、「回転式ヘア・ドライヤ」に関し、図1〜5と共に以下の事項が記載されている。
・「前記ヒーター(7)は遠赤外線発生発熱体(17)からなり、前記送風管(2)の湾曲内側部分に取付けられると共に、その後背部に通風口付き反射ミラー(18)を備えた請求項1記載の回転式ヘア・ドライヤ。」(【請求項4】)
・「本考案は、洗髪後やパーマネント・ウエーブ液塗布後などに、髪を乾燥させるヘア・ドライヤ関するものである。」(段落【0001】)
・「【考案が解決しようとする課題】
これには、次のような欠点があった。
(イ)釜式のものにあっては、頭部全体を覆い視界を妨げるため束縛感があるという問題点があった。
(ロ)複数遠赤外線灯式のものにあっては、解放感はあるものの、灯が固定式なため髪全体に均一に照射することが難しいと共に、装置が煩雑不恰好でスマート性に欠けるという問題点があった。
(ハ)円環体すりこぎ運動式のものにあっては、熱線は髪全体に均一に照射できるものの、これに送風が伴わないため、髪全体の均一な乾燥が難しいという問題点があった。」(段落【0003】)
・「【作用】
(イ)装置が被験者の視界を妨げることがなく、束縛感から開放される。
(ロ)遠赤外線と温風とが、送風管の低速回転により、髪全体にわたってむらなく当てられるので均一且つ短時間での乾燥ができる。
(ハ)シンプルでスマートなデザインが適用できる。」(段落【0005】)
・「(ロ)第2の実施例においては、送風器(6)で送り出された空気は反射ミラー(18)に穿たれた送風口(19)からヒーター(17)の近傍を経て温風となって放出される。この時、ヒーター(17)として遠赤外線を効率よく放射するヒーターを用いたり、図示のような樋状の凹面鏡からなる反射ミラー(18)をヒーター(17)の後背部に配置すれば髪の乾燥効果を一層向上させることができる。」(段落【0006】)
・「【考案の効果】
(イ)被験者の視界を妨げず、束縛感を与えない。
(ロ)均一且つ短時間での髪の乾燥ができる。
(ハ)シンプルでスマートなデザインが適用できる。」(段落【0007】)
また、図4には、ヒーター17を長手方向にわたって略90度湾曲した略四半円形状の送風管2の内側部分に沿って取り付け、送風管2を該送風管2の中央位置と略四半円形に基づく円の中心点を通る直線(図4におけるA-A線)を回動の軸として、回動させる駆動手段(モータ5、ベルト24)を備えた回転式ヘア・ドライヤが示されている。
これらの記載事項及び図示内容を総合すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。
「被施術者の頭髪に遠赤外線を照射する回転式ヘア・ドライヤにおいて、略四半円形状を有し、遠赤外線を放射するヒーター17を有する送風管2と、送風管2を該送風管2の中央位置と略四半円形に基づく円の中心点を通る直線を回動の軸として、回動させる駆動手段を備えた回転式ヘア・ドライヤ。」

(1-2)甲第2号証には、「毛髪処理促進装置」に関し、第1〜7図と共に以下の事項が記載されている。
・「本体ケース側に駆動手段を設け、該駆動手段からの回転軸の端部に、回転体を取付け、リング状、或いは半円形の形状等の曲線に形成され、赤外線を放射するヒータと、該ヒータを支持すると共に、ヒータから放射された赤外線を反射する反射器とからなる単一の赤外線放射部を有し、前記回転体には、赤外線放射部の放射面が回転軸の軸線に対して一定の傾きを有して、該単一の赤外線放射部の一端を取付け、前記単一の赤外線放射部の放射面が回転体を頂部とする円錐面軌跡を描き、その円錐面軌跡は被照射体の頂部、両側部、後部に沿って移動することを特徴とする毛髪処理促進装置。」(【請求項1】)
・「本発明は、従来の赤外線照射による毛髪処理促進装置の前述の問題点を解消するために、ヒータを曲線に形成した頭髪との距離を略一定化して赤外線照射の均一化を図ると共に、ヒータを回転体の周りに回転させ、1つのヒータで広い面積への赤外線照射を可能にし、毛髪処理促進装置のコンパクト化を図ることを第1の目的とする。」(3欄24〜29行)
・「本発明の毛髪処理促進装置は、駆動手段によって回転体を回転させることにより、その回転中心を中心としてヒータ及びその反射器を回転させ、赤外線の照射面積を拡大する。
そして、ヒータを曲線化することによって頭髪との距離を均一化し、一様に赤外線を照射するようにするものである。」(4欄3〜9行)
・「なお、前記したモータ3の回転を各歯車4,5,7を介して減速し、中空軸6に減速伝達したものを示したが、この減速手段としては歯車結合に限定されるものではなく、ウォームギア減速やベルト減速も応用できると共に、回転も一方向に限定されず、往復回転であっても良い。」(4欄36〜40行)
・「このヒータ14は石英ガラス、セラミック等の細長管の中に、ニクロム線等の加熱線16が収容されていて、回転側給電器11に接続されている。
この加熱線16に通電し、これを加熱することで石英ガラス、セラミックの細長管を赤熱し、赤外線、遠赤外線を放射させ、更にこの赤外線を反射器15で反射させ、反射器15とは反対の面に向って集中的に照射するようになっている。」(5欄7〜14行)
・「すると、モータ3の回転は前述のように中空軸6に減速して伝達され、従ってヒータ14、反射器15は中空軸6を中心として偏心回転運動を行うので、第1図の実線の位置から仮想線の位置を通って実線の位置に戻るように回動する。」(5欄34〜38行)
・「又、このようにヒータ14が回動しながら赤外線を照射するので、ヒータ14が或る位置では影になって赤外線を照射されなかった頭髪の部分でも、ヒータ14の移動によって照射されるようになり、ムラなく赤外線を照射することができる。」(6欄2〜6行)
・「このように、ヒータ14、反射器15の回動で、その面積よりも広い範囲に赤外線を照射できるため、従来よりもこれ等の大きさを減じ、コンパクト化が可能となる。」(6欄18〜20行)
・「第4図、第5図の他の実施例で、この実施例は前実施例のヒータ14、反射器15がリング状に形成されていたのを、半円形の形状としたもので、その他は前実施例と異る所はなく、前実施例と同様な作用効果を生ずるものである。なお、図示していないが、更に他の実施例として、ヒータ14および反射器15を複数個に分割したものを使用し、この分割したものを連接してリング状としても良い。」(6欄25〜32行)
・「更に、本体ケース2には、被施術者の後頭部を接触させて、その頭部の位置を一定化させる頭部位置固定バー25が設けられているもので、その他の点については、第1の実施例と異なる処はない。」(6欄43〜46行)
・「本発明は、叙上のように、ヒータ及び反射器は、回転体の回動により被照射体(被施術者の頭部)の頂部,後部,両側部に沿うように順次偏心回転運動、或いは往復回転運動等の回転動作をさせることにより、ヒータや反射器の大きさに比して広い面積に赤外線を照射できるものである。
従って、毛髪処理促進装置をコンパクト化することが可能となり、狭い理美容院にも設置することができる。
そして、ヒータ及び反射器を曲線状に形成したので、球形に近い形状の頭髪との距離を均一に近づけることも可能で、赤外線による頭髪の温度上昇が一様となり、一部が過熱されることによる苦痛を緩和し、短時間に毛髪処理の促進ができる。
更に、ヒータが回転することによって照射角が変り、影になっていた部分にも赤外線を照射できるため、その照射のムラがなくなる等の効果を有するものである。」(7欄23行〜8欄8行)
また、第4図、第5図には、ヒータ14を長手方向にわたって略90度湾曲した略四半円形状の反射器15に沿って取り付け、反射器15を該反射器15の長手方向一方端近傍と略四半円形に基づく円の中心点を通る直線を回動の軸として、長手方向一方端近傍を頂部とする半球面に沿って回動させる駆動手段(モータ3、歯車4,5,7)を備えた毛髪処理促進装置が示されている。
これらの記載事項及び図示内容を総合すると、甲第2号証には、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されているものと認められる。
「被施術者の頭髪に赤外線を照射して毛髪処理を促進する毛髪処理促進装置において、略四半円形状を有し、赤外線を放射するヒータ14を有する反射器15と、該反射器15を該反射器15の長手方向一方端近傍と略四半円形に基づく円の中心点を通る直線を回動の軸として、長手方向一方端近傍を頂部とする半球面に沿って往復回動させる駆動手段とを備えた毛髪処理促進装置。」

(1-3)甲第3号証には、「毛髪処理促進装置」に関し、図1〜11と共に以下の事項が記載されている。
・「さらに、回転腕1は、回転基体12の全周回転による一方、回転、往復回転による往復運動とすることもでき、往復運動とする時は回転給電器9を省略してもよい。」(段落【0021】)
・「一般に被施術者は、毛髪処理に際しては椅子に腰掛けるのが普通であるが、その姿勢は前傾、後傾等であり、本を読む、眠る等のその時の状態によって頭の角度も変化する。」(段落【0024】)
・「これに対し、本体カバー2を傾けることによって、頭の中心線の延長上に、円錐面の中心を一致させることができる。
そのため、頭の中心線を中心として回転腕11が回転するので、頭髪から回転腕11までの距離の均一化を図ることができ、被施術者の姿勢や頭の角度に対しての対応が可能となる。」(段落【0025】)
・「また、本体カバー2には前各実施例と同様に回転給電器9の固定側が、回転軸7にはその回転側が取付けられ、本体カバー2側に接続されている電源からの電流を、回転側から導出することができるようになっている。
さらに、スリップ円盤38には、その回転位置を検出するための円盤41が取付けられ、この円盤41には図9に示すような内周のスリット41aと外周のスリット41bとが形成され、かつ、この円盤41を挟んでスリット41a,41bを検出するためのフォトセンサ42が本体カバー2に設けられている。そして、フォトセンサ42よりの出力によって回転軸7と連動する回転腕11の回動位置を検出できるようになっている。」(段落【0029】)
・「すなわち、円盤41のスリット41a,41bは回転腕11が床面に対して垂直状態(図5参照)を基準位置とすると、この基準位置を検出するための基準スリット41a1 ,41b1 とが形成されると共に、回転腕11の回動限界位置を検出するための、前記基準スリット41a1 から左右方向略115度の位置と、部11の回動限界位置を検出するための、前記基準スリット41b1 から略100度の位置に反転スリット41a2 ,41b2 が夫々形成されている。」(段落【0030】)
・「このように構成した回転腕11の位置検出手段により、回転腕11の回動角度設定スイッチ(図示せず)を操作し330度の往復回動にセットすると、フォトセンサ42は初期状態において内周スリット41aの基準スリット41a1 を検出しているので、この位置からモータ4を回転させて右あるいは左方向に回転腕11を回動させる。」(段落【0031】)
・「そして、回転腕11が回動してフォトセンサ42が反転スリット41a2 を検出すると、モータ4を反転させて回転腕11を反対方向に、他の反転スリット41a2 を検出するまで回動させる。これにより、回転腕11は300度の角度で往復回動するものである。この往復回動状態において、タイマによる設定時間になり、または、停止スイッチを操作すると、回転腕11がどの位置にあってもフォトセンサ42が基準スリット41a1 を検出するまでモータ4への通電を行い、フォトセンサ42が基準スリット41a1 を検出すると、モータ4への通電を遮断して回転腕11を垂直状態で停止させる。」(段落【0032】)
・「また、回転腕11の回動角度設定を200度にセットすると、フォトセンサ42は外周スリット41b1 を検出しているので、この基準位置からフォトセンサ42が反転スリット41b2 を検出するまでモータ4を左右方向の何れかに回動させ、フォトセンサ42が他の反転スリット41b2 を検出すると反転して回転腕11を200度の角度で往復回動するものである。また、この往復回動状態においてタイマによる設定時間になり、または、停止スイッチを操作した場合には、前記したと同様な動作によって回転腕11が垂直状態となった時にモータ4への通電は遮断されるものである。」(段落【0033】)
・「なお、外周スリット41bの基準スリット41b1 および反転スリット41b2 を複数のスリットとしたものを示したが、これは、1つのスリットであると何らかの原因で、該スリットの検出ができなかった場合にも反転および停止を確実にできるようにしたものであり、また、内周スリット41aを検出する場合にも外周スリット41aを読み込むことによって、内周スリット41aの読み込みの補助を行っているものである。」(段落【0034】)
・「また、回転腕を回転させる回転手段を可傾手段によって傾けることにより、被施術者の姿勢や頭の角度の変化に対して、回転腕の回転する円錐面の中心を、頭の中心と一致させることができるからその姿勢や頭の角度に対応して温熱風を吹き付けることができる。従って、ヘアスタイル、被施術者の姿勢や頭の角度が個々に違っていても、頭髪への温熱風の吹き付けを均一化して行うことができ、毛髪の乾燥や処理を短時間に、かつ、均等に行うことができるものである。」(段落【0042】)
また、図1には、直線形状のヒータ14を有する回転腕11と、回転腕11の端部に設けられた回転軸7を回動の軸として、該端部を頂部とする円錐の側面に沿って回転腕11を回動させる駆動手段(モータ4、プーリ5、ベルト6、プーリ8)を備えた毛髪処理促進装置が示されている。
これらの記載事項及び図示内容を総合すると、甲第3号証には、次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されているものと認められる。
「被施術者の頭髪に温風を吹き付ける毛髪処理促進装置において、直線形状のヒータ14を有する回転腕11と、該回転腕11を該回転腕11の端部に設けられた回転軸7を回動の軸として、該回転腕11の端部を頂部とする円錐の側面に沿って往復回動させる駆動手段とを備えた毛髪処理促進装置。」

(1-4)甲第4号証には、「毛髪処理促進装置」に関し、第1〜4図と共に以下の事項が記載されている。
・「支杆の一端により略頭部の高さに位置される本体カバーには、駆動手段及び駆動手段により駆動される回転軸が配置され、該回転軸の軸端は本体カバーの外側に突き出され、該回転軸の軸端には、円錐状の回転により頭部全域を覆いうる長さを有する単一の細長の回転腕の一端を取付け、自由端である前記回転腕の他端が前記回転軸の頭部側への軸線方向に対して近接する角度に支持され、前記回転腕には、頭髪と対向する側に略全長にわたり吹出口を形成すると共に、回転腕の吹出口に向って送風する送風手段を備え、該送風手段による送風経路中には、ヒータを備えたことを特徴とする毛髪処理促進装置。」(【請求項1】)
・「且つ、腕部11は、円錐面上を一方向に又は往復に移動するため、頭部の全周面に吹きつけることゝなり、頭部全周の毛髪の乾燥、処理促進が均等に行われることゝなる。」(5欄8〜11行)
また、第1図には、直線形状のヒータ14を有する腕部11と、腕部11の端部に設けられた回転軸7を回動の軸として、該端部を頂部とする円錐の側面に沿って回動させる駆動手段(モータ4、プーリ5、ベルト6、プーリ8)を備えた毛髪処理促進装置が示されている。
これらの記載事項及び図示内容を総合すると、甲第4号証には、次の発明(以下、「甲4発明」という。)が記載されているものと認められる。
「被施術者の頭髪に温風を吹き付ける毛髪処理促進装置において、直線形状のヒータ14を有する腕部11と、該腕部11を該腕部11の端部に設けられた回転軸7を回動の軸として、該腕部11の端部を頂部とする円錐の側面に沿って往復回動させる駆動手段とを備えた毛髪処理促進装置。」

(1-5)甲第5号証には、「頭髪乾燥機」に関し、図1〜3と共に以下の事項が記載されている。
・「ケーシング内に配設したエアー送給ファンにより送給され、ヒータにより加温されたエアーをエアー噴出孔から噴出させるエアー噴出ダクトを、乾燥すべき頭髪の周囲に略等角度間隔で複数配置するとともに、該複数のエアー噴出ダクトの上端部を前記ケーシングに支持した回動軸に連結し、該回動軸を前記ケーシング内に配設した電動モータにより駆動されるレバークランク機構により駆動して前記エアー噴出ダクトを所定角度揺動させるようにした頭髪乾燥機において、
前記レバークランク機構のレバーとクランクとの連接棒内にショックアブソーバを内蔵したことを特徴とする頭髪乾燥機。」(【請求項1】)
・「電動モータ6の回転によりレバークランク機構5が作動して、回動軸3が所定角度の正逆回転する。」(段落【0011】)
また、第1図、第2図には、略L字形状のヒータ30を有するエアー噴出ダクト23と、該エアー噴出ダクト23の端部に設けられた回転軸3を回動の軸として、該端部近傍を頂部とする円錐台の上面及び側面に沿って複数のエアー噴出ダクト23を所定角度揺動させる駆動手段(レバークランク機構5、モータ6)とを備えた頭髪乾燥機が示されている。
これらの記載事項及び図示内容を総合すると、甲第5号証には、次の発明(以下、「甲5発明」という。)が記載されているものと認められる。
「略L字形状のヒータ30を有するエアー噴出ダクト23と、該エアー噴出ダクト23の端部に設けられた回転軸3を回動の軸として、該エアー噴出ダクト23の端部近傍を頂部とする円錐台の上面及び側面に沿ってエアー噴出ダクト23を所定角度揺動させる駆動手段とを備えた頭髪乾燥機。」

(1-6)甲第6号証には、「ヘアードライヤー装置」に関し、第1〜6図と共に以下の事項が記載されている。
・「後部に吸気口と前部に送風口を形成した円形状のカバーと、当該のカバーの内部に設けた加熱装置と、上記カバーの内部に設けた送風装置と、上記カバーを、支持腕を介して回転可能に支持する回転駆動部と、当該回転駆動部を揺動する揺動機構部と、当該揺動機構部を支持するフレーム体とから成るヘアードライヤー装置において、
上記加熱装置は、上記カバー内部の前方寄りに取り付けた支持板(45)と、当該支持板(45)の前方に、支持部材を介して取り付けた反射板(48)と、当該反射板(48)の前部に取り付けたセラミックヒーター(47)とから構成し、
上記送風装置は、上記支持板(45)の中央部に、回転軸を上記カバーの吸気口方向に向けて取り付けたモーター(44)と、当該モーター(44)の回転軸に軸着したファン(46)とから構成し、
上記揺動機構部は、ブラケット(8),(9)を介して上記フレーム体の上部に固定した保護カバー(20)と、当該保護カバー(20)の前部内部に、横方向に固定した横軸(21)と、当該横軸(21)の両端側に、左右二箇所の舌片(23)を介して上下方向に回動可能に軸着したブラケット(22)と、当該ブラケット(22)の前面の上下二箇所に突設した舌片(24)と、上記ブラケット(22)の後面下部に突設した突片(25)と、当該突片(25)に一端を軸着し、中間部にユニバーサルジョイント(28)を介装すると共に他端部は上記保護カバー(20)の後部外部に突出し、その先端に傾斜調節ノブ(26)を軸着したスクリューシャフト(27)と、上記ブラケット(22)の上下二箇所から突設した舌片(24)の内側に、軸部材を介して上下の両端片を左右方向に回動可能に軸着した連結ブラケット(29)と、当該連結ブラケット(29)の前部から前方へ筒状に形成した軸受スリーブ(30)と、当該軸受スリーブ(30)の内径部に回転可能に貫入した回転軸(31)と、上記連結ブラケット(29)の内側に突出した上記回転軸(31)の後端側に接続すると共に背部にはブラケット(22)の横軸(21)が当接する傾斜カム(32)と、上記保護カバー(20)の前部から上記軸受スリーブ(30)の外形部に被着したフレキシブルカバー(33)とから構成し、
上記回転駆動部は、上記揺動機構部の回転軸(31)の先端に接続した回転枠(36)と、上記軸受スリーブ(30)の先端に固定した環状のローラー支持枠(34)と、上記回転枠(36)の上部に取り付けたギヤードモータ(37)と、当該ギヤードモータ(37)に接続した駆動軸(38)と、当該駆動軸(38)の下端部に、ナット(41)を介して取り付けたブラケット(11)と、上記駆動軸(38)の中間部に斜めに軸着した円盤カム(39)と、当該円盤カム(39)の外周部に形成した案内溝(40)と、上記ローラー支持枠(34)の内径部の左・右の2点にそれぞれ設け、上記円盤カム(39)の案内溝(40)に摺接するローラー(35)と、回転駆動部に被着したカバーと、
から構成したことを特徴とするヘアードライヤー装置。」(【請求項1】)
・「一方、回転駆動部のギヤードモータ(37)に電源が供給されると、ギヤードモータ(37)に接続された駆動軸(38)も回転を開始して、駆動軸(38)の中間部に斜めに軸着した円盤カム(39)と駆動軸(38)の下端部に取り付けたブラケット(11)も回転して、ブラケット(11)に取り付けた支持腕が回動することになる。この時、円盤カム(39)が回転すると、円盤カム(39)の外周部に形成した案内溝(40)にはローラー(35)が摺接されているので、ローラー支持枠(34)が円盤カム(39)の傾斜に応じて左右に回動しようとするが、ローラー支持枠(34)は揺動機構部の軸受スリーブ(30)の先端に固定されているため、ローラー支持枠(34)に加わる力は反作用力となって回転軸(31)を正逆方向に回転させることになり、回転軸(31)の先端に接続した回転枠(36)を左右に回動する。この作用により回転駆動部全体が首振り運動を行なうことになる。」(5欄30〜44行)
・「他方、揺動機構部の回転軸(31)は、その後端側に傾斜カム(32)が形成され、更にその背部には横軸(21)が当接されている。そのため、回転軸が左右に回動すると、傾斜カム(32)の背部と横軸(21)との接触面で発生する横方向に発生した反作用力が連結ブラケット(29)に加わり、この力が、軸部材を介してに連結ブラケット(29)を左右方向に回動させる。この作用により軸受スリーブ(30)は左右の横方向に回動することになる。」(5欄45行〜6欄2行)
・「一方、円盤カム39が回転を開始すると、円盤カム39は案内溝40にローラー支持枠34のローラー35を摺動させって回転するため、円盤カム39の傾斜度に応じて、ローラー支持枠34を第3図のWに示した範囲で上・下方向に動かそうとする力が発生する。ところが、ローラー支持枠34は軸受スリーブ30に固定されているため、ローラー支持枠34を回転しようとする力は回転軸31に反力となって作用することになり、この結果、円盤カム39の傾斜度に応じて回転軸31が正逆方向に反復回転し、回転軸31の先端に取り付けられた回転枠36も正逆方向に反復回転する。この作用により回転駆動部Tが首振り運動を行なうことになる。」(8欄37〜48行)
・「他方、回転軸31の後端の傾斜カム32の背部には横軸21が当接しているため、回転軸31が回転すると、傾斜カム32の背部と横軸21との当接点で発生する反力が横方向に分岐してその反作用が連結ブラケット29に働く。これにより連結ブラケット29は、ブラケット22との軸部材の軸線Zを中心に左右に回動することになる。この作用により、軸受スリーブ30が左右に回動して、その先端の回転駆動部が揺動することになる。」(8欄48行〜9欄6行)
また、第1図、第3図、第4図及び第5図には、ヒーター47を有するドライヤー部Uを備える支持腕12と、駆動軸38を軸心として支持腕12を回転させる回転駆動部T(モータ37)を備えるヘアードライヤー装置であって、揺動機構部Sを備えており、駆動軸38を揺動させるようにした構成が示されている。
これらの記載事項及び図示内容を総合すると、甲第6号証には、次の発明(以下、「甲6発明」という。)が記載されているものと認められる。
「ヒーター47を有するドライヤー部Uを備える支持腕12と、駆動軸38を軸心として該支持腕12を回転させる回転駆動部Tを備えるヘアードライヤー装置であって、揺動機構部Sを備えており、駆動軸38を揺動させるヘアードライヤー装置。」

(2)対比・判断
本件発明と甲1発明とを比較すると、後者における「遠赤外線を照射する回転式ヘア・ドライヤ」、「遠赤外線を放射するヒーター17を有する送風管2」がその作用・機能からみて前者における「赤外線または遠赤外線を照射して頭髪処理を促進する頭髪処理促進装置」、「赤外線または遠赤外線を放射するヒータを有する発熱装置」に、それぞれ相当する。
したがって、両者は、
「被施術者の頭髪に赤外線または遠赤外線を照射して頭髪処理を促進する頭髪処理促進装置において、赤外線または遠赤外線を放射するヒータを有する発熱装置と、該発熱装置の駆動手段とを備えた、頭髪処理促進装置」
である点で一致するものの、
「発熱装置」の形状及び「駆動手段」に関し、本件発明が「発熱装置の半円形状の弦に相当する直線を回動の軸として、往復回動させる」構成としているのに対し、甲1発明は、「送風管2(発熱装置)の中央位置と略四半円形に基づく円の中心点を通る直線を回動の軸として、回動させる」構成とされている点で相違する。
さらにいえば、本件発明が、発熱装置の両端部の2カ所を結ぶ「弦に相当する直線を回動の軸」とする回動方式(以下、この回動方式を「弦回動方式」という。)を採用しているため、半円形状の発熱装置の描く往復回動軌跡は、地球に例えれば2本の経線で囲まれる球面領域を呈するのに対し、甲1発明は、発熱装置の1カ所のみの部位である「中央位置と略四半円形に基づく円の中心点を通る直線を回動の軸」とする回動方式(以下、この回動方式を「中心回動方式」という。)を採用しているため、略四半円形状の発熱装置の描く回動軌跡は、発熱装置と回動の軸との交点を頂部とする球状回転体の一部の表面領域、即ち、地球に例えれば1本の緯線で区切られる球面領域を呈する点で、赤外線(遠赤外線)を照射する領域の形状及び形成態様が両者の間で基本的に相違しているといえる。
次に、上記の相違点につき甲2発明ないし甲6発明を検討する。
確かに、甲2発明の毛髪処理促進装置(頭髪処理促進装置)は、「駆動手段」に関し「往復回動させる」ものではあるが、反射器15(発熱装置)の長手方向一方端近傍と略四半円形に基づく円の中心点を通る直線を回動の軸として回動させているため、甲2発明の回動方式は「中心回動方式」に属するものというべきであり、略四半円形状の発熱装置の描く往復回動軌跡は、発熱装置と回動の軸との交点を頂部とする半球状回転体の一部の表面領域、即ち、地球に例えれば1本の緯線と2本の経線で囲まれる球面領域を呈することとなる点で、赤外線(遠赤外線)を照射する領域の形状及び形成態様が本件発明とは基本的に相違するものといえる。
なお、甲第2号証には、第4図、第5図の実施例に対する反射器15(発熱装置)の形状について「半円形の形状」とする記載がみられるが、仮に半円形状の発熱装置を用いたとしても、第4図、第5図の実施例のような「中心回動方式」で往復回動する限り、本件発明との相違は略四半円形状の発熱装置を用いた場合のものと同様である。
次に、甲3発明及び甲4発明の毛髪処理促進装置(頭髪処理促進装置)は、「駆動手段」に関し「往復回動させる」ものではあるが、回転腕11又は腕部11(発熱装置)をそれらの端部の一方に設けられた回転軸7を回動の軸として回動させているため、甲3発明及び甲4発明の回動方式はいずれも「中心回動方式」の範疇に属するものというべきであり、直線形状の発熱装置の描く往復回動軌跡は、発熱装置と回動の軸との交点を頂部とする円錐状回転体の一部の表面領域、即ち、円錐の側面に沿った所定角度の領域を呈するところから、赤外線(遠赤外線)を照射する領域の形状及び形成態様が本件発明とは全く異なるものといえる。
次に、甲5発明の頭髪乾燥機(頭髪処理促進装置)は、「駆動手段」に関し「所定角度揺動(往復回動)させる」ものではあるが、エアー噴出ダクト23(発熱装置)の端部の一方に設けられた回転軸3を回動の軸として、回動させるところから、甲5発明の回動方式は「中心回動方式」の範疇に属するものというべきであり、略L字形状の発熱装置の描く往復回動軌跡は、発熱装置と回動の軸との交点近傍を頂部とする円錐台状回転体の一部の表面領域、即ち、円錐台上面及び側面に沿った所定角度の領域を呈するところから、赤外線(遠赤外線)を照射する領域の形状及び形成態様が本件発明とは全く異なるものといえる。
次に、甲6発明のヘアードライヤー装置(頭髪処理促進装置)は、単にドライヤー部U(発熱装置)を回転及び揺動させる構成を開示しているにすぎず、「弦回動方式」とは無関係のものであり、本件発明の発熱装置の回動軌跡を開示するものではない。
さらに、甲第1号証ないし甲第6号証には、上記弦回動方式を示唆する記載も見あたらず、また、上記弦回動方式が、頭髪処理促進装置の分野において周知技術であるとも認められない。
そうすると、上記各甲発明を如何に組み合わせても、上記弦回動方式に想到することはできず、結果、本件発明となり得ないことは明らかである。
そして、本件発明は半円形状の発熱装置を上記弦回動方式で往復回動することにより、「発熱装置部分の動作軌道範囲を小さくでき、施術者の作業性の向上を図ることができる効果があり、また、上記発熱装置からの熱を、無駄なく被施術者の頭髪の加熱に用いて、頭髪処理の促進を効率良く行うことができる」(段落【0015】)という明細書に記載の効果を奏するものである。
したがって、本件発明が、甲1及び甲3ないし甲6発明に基いて、又は、甲2ないし甲6発明に基いて、又は、甲1ないし甲6発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
よって、無効理由1には理由がない。

なお、請求人は、『甲第3号証、甲第4号証、甲第5号証および甲第6号証の記載によれば、発熱装置の回動軸を「発熱装置の半円形状の弦に相当する直線」とするか、「発熱装置の半円形状の円周方向中央位置(頂点位置)から半円の径方向中心に向かう直線」とするかは、単なる設計事項に過ぎないものである。』(審判請求書37頁27行〜38頁1行)と主張しているが、甲1ないし6号証のいずれにも「弦回動方式」が開示されておらず、また、「弦回動方式」が頭髪処理促進装置の分野において周知技術であるとも認められず、さらに、既に述べたように「弦回動方式」と「中心回動方式」とでは回動軸の相違に基づく赤外線(遠赤外線)照射領域の形成態様が基本的に異なるため、「中心回動方式」を「弦回動方式」に替えることが単なる設計的事項であるとは到底いえない。
また、請求人は、平成17年2月1日に実施された口頭審理において、半円形状の発熱装置を弦回動方式で180°の範囲の往復回動をさせた場合と、略四半円形状の発熱装置を中心回動方式で360°の範囲の往復回動をさせた場合とでは、赤外線(遠赤外線)照射領域が同一になる旨主張している。確かに、上記の特殊な条件の下では、該照射領域の形状は最終的に半球面という同一の形状となり、また、半円形状の発熱装置を弦回動方式で90°の範囲の往復回動をさせた場合と、略四半円形状の発熱装置を中心回動方式で180°の範囲の往復回動をさせた場合とでは該照射領域が最終的に四半球面という同一の形状にはなるが、上記の各特殊な条件の場合においてさえも、発熱装置が移動することにより形成される照射領域の時々刻々の形状変化でみれば、弦回動方式と中心回動方式とでは照射態様に差異が生じていることは明らかであるから、両者の間で照射領域の形成態様が基本的に異なる点に変わりはない。
さらに、請求人は、『本件特許発明は、公知技術よりも技術的に劣るものであり、産業の発達に寄与するものではないことから、特許法第29条第2項の規定に違反するものである。』(審判請求書38頁3〜5行)と主張しているが、本件発明が、半円形状の発熱装置を弦回動方式で往復回動することにより、上述したような優れた効果を奏する以上、産業の発達に寄与するものではないとは到底いえず、また、特許法第29条第2項の規定に違反する理由にもならない。

5.無効理由2について
請求人は、本件明細書の記載不備として以下のように主張している。
(1)『本件特許発明は、ヒータがいかなる形状であるか理解できず、発明が明確ではないことから、本件特許発明に係る出願は、特許法第36条第6項第2号の要件に違反するものである。』(審判請求書41頁24〜26行)
(2)『本件特許発明は、特許請求の範囲には「反射板」が記載されておらず、また、赤外線(遠赤外線)の放射方向について特定する記載が無いことから、発熱装置がいかなる方向に赤外線(遠赤外線)を放射するかを特定することができず、その構成が明確ではない。つまり、本件特許発明は、特許法第36条第6項第2号の要件を充たしていない。』(同書43頁3〜7行)
(3)『本件明細書における発明の詳細な説明には、任意の形状を採りうるヒータを備えると共に反射板を備えない本件特許発明が「(効果2)発熱装置からの熱を、無駄なく被施術者の頭髪の加熱に用いて、頭部に均等にムラなく、頭髪処理の促進を効率良く行うことができる効果」を、どのようにして奏するのかが記載されていない。つまり、本件明細書は、発明の詳細な説明における記載が、いわゆる当業者が本件特許発明を実施することができる程度に明確に記載されたものではなく、特許法第36条第4項の要件を充たしていない。』(同書43頁8〜14行)
(4)『本件特許発明は、特許請求の範囲の記載に基づいて発熱装置の往復回動範囲を特定することができず、発熱装置の動作軌跡範囲がいかなる形状となるのか特定することができないことから、本件特許発明に係る特許請求の範囲に記載の発明は明確ではない。つまり、本件特許発明に係る出願は、特許法第36条第6項第2号の要件に違反するものである。』(同書44頁23〜27行)
(5)『本件明細書における発明の詳細な説明には、発熱装置の往復回動範囲が特定できない構成の頭髪処理促進装置が、「(効果1)発熱装置部分の動作軌道範囲を半球状の小さなものとできるので、施術者の作業性の向上を図ることができる効果」や、「(効果2)発熱装置からの熱を、無駄なく被施術者の頭髪の加熱に用いて、頭部に均等にムラなく、頭髪処理の促進を効率良く行うことができる効果」を、どのようにして発揮するのかが記載されていない。つまり、本件明細書は、発明の詳細な説明における記載が、いわゆる当業者が本件特許発明を実施することができる程度に明確に記載されたものではなく、特許法第36条第4項の規定を充たしていない。』(同書45頁4〜12行)
(6)『本件特許発明における発熱装置の往復回動範囲に関しては、特許請求の範囲の記載に基づき解釈するにあたり明細書の発明の詳細な説明を参酌した場合であっても、参酌し得る限度においては、「右頭部から左頭部までの所定の駆動角度範囲」、あるいは「前頭部から後頭部までの所定の駆動角度範囲」に限定して解釈することはできない。
したがって、本件特許発明は、発滅装置(注:「発熱装置」の誤記と認められる。)の往復回動範囲がいかなる範囲であるか理解できず、発明が明確ではなく、本件特許発明に係る出願は、特許法第36条第6項第2号の要件に違反するものである。』(同書46頁25行〜47頁3行)
(7)『本件明細書における発明の詳細な説明には、発減装置(注:「発熱装置」の誤記と認められる。)の往復回動範囲が特定されていない本件特許発明が「(効果3)発熱装置が被施術者の視界に入らないので、発熱装置(ヒータ等)が視界に入ることによる被施術者の恐怖感をなくすことができる効果」を、どのようにして奏するのかが記載されていない。つまり、本件明細書は、発明の詳細な説明における記載が、いわゆる当業者が本件特許発明を実施することができる程度に明確に記載されたものではなく、特許法第36条第4項の規定を充たしていない。』(同書47頁4〜10行)
(8)『請求項1に係る本件特許発明が「発熱装置が被施術者の視界に入らない」ことについては、特許権者が特許庁に提出した手続補正書(方式)(甲第8号証)の記載からは理解することができず、また、本件明細書における発明の詳細な説明にも、請求項1に係る本件特許発明が「発熱装置が被施術者の視界に入らない」ことについて記載がない。
このため、本件請求項1に記載された本件特許発明は明確ではなく、また、本件明細書における発明の詳細な説明には、いわゆる当業者が本件特許発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではなく、特許法第36条第4項に規定する要件を充たしていない。』(同書48頁21〜29行)
(9)『本件特許発明に係る特許請求の範囲には、本件特許発明が「頭部全体をカバーして熱照射すること」と「発熱装置を被施術者の視界に入らないようにすること」とを両立するための構成要件が特定されておらず、特許請求の範囲に記載された発明が明確ではない。つまり、本件特許発明は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を充たしていない。』(同書50頁7〜11行)
(10)『本件特許発明に係る本件明細書には、本件特許発明が「頭部全体をカバーして熱照射すること」と「発熱装置を被施術者の視界に入らないようにすること」とを、如何にして両立しているのかが記載されておらず、本件特許発明を実施できる程度に明確且つ十分に発明が記載されていない。つまり、本件特許発明に係る明細書は、特許法第36条第4項に規定する要件を充たしていない。』(同書50頁12〜16行)
(11)『本件特許発明に係る本件明細書には、半球状ではない毛髪存在領域に対して、本件特許発明が「頭部全体をカバーして熱照射すること」と「発熱装置を被施術者の視界に入らないようにすること」とを、如何にして両立しているのかが記載されておらず、本件特許発明を実施できる程度に明確且つ十分に発明が記載されていない。つまり、本件特許発明に係る明細書は、特許法第36条第4項に規定する要件を充たしていない。』(同書50頁26行〜51頁2行)

そこで、上記(1)ないし(11)で主張されている内容について以下検討する。
a)上記(1)について
本件発明にあっては、発熱装置が半円形状であり、これを弦回動方式で回動することによって、赤外線(遠赤外線)を被施術者の頭髪に照射する頭髪処理促進装置であること、及び、「半円形状を有し、赤外線または遠赤外線を放射するヒータを有する発熱装置」との記載からして、ヒータは発熱装置における赤外線(遠赤外線)の放射源として、半円形状をなすものであると解される。

b)上記(2)について
本件発明は、「被施術者の頭髪に赤外線または遠赤外線を照射して頭髪処理を促進する頭髪処理促進装置」に関するものである以上、少なくとも赤外線(遠赤外線)の照射方向が被施術者の頭部に向いていること、即ち、半円形状の発熱装置の円の中心に向いていることは自明である。

c)上記(3)について
本件発明におけるヒータの形状及び赤外線(遠赤外線)の照射方向については、上記a)及びb)で述べたとおりであるから、不明確であるとはいえず、発明の効果との関係も明確である。

d)上記(4)及び(6)について
本件発明における発熱装置については、「往復回動」し得ることが重要な構成であり、「往復回動範囲」は使用に際し任意に選定し得るものと解される。そして、半円形状の発熱装置による往復回動軌跡は、2本の経線で囲まれる球面領域として明確に把握できるものである。したがって、「往復回動範囲」までを特定しなければならないとする合理的な理由は認めることができない。

e)上記(5)について
発熱装置の往復回動範囲については、上記d)で述べたとおりである。したがって、本件発明の構成と効果との関係も不明確とはいえない。

f)上記(7)ないし(11)について
「発熱装置が被施術者の視界に入らない」という効果は、本件請求項2及び請求項3に係る発明の効果であり(本件特許明細書の段落【0015】【発明の効果】参照)、本件発明に対するものとはなっていないのであるから、これを本件発明の効果であるとする請求人の主張には理由がない。

したがって、上記(1)ないし(11)で主張されている内容は、いずれも認められるものではなく、本件特許は、特許法第36条第4項又は同条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものとはいえない。
よって、無効理由2には理由がない。

6.無効理由3について
無効理由3に関し、請求人は次のように主張している。
『本件特許発明に係る明細書は、段落番号[0009]、[0011]、[0012]において、原出願における出願当初の明細書では「ヒータ4の半円形状の弦に相当する直線」と記載されているところを、「ヒータ4の半円形状の弦に相当する直線(発熱装置3の半円形状の両端部を結ぶ直線)」のように下線部分を追記している。
この追記した事項は、原出願における出願当初の明細書または図面に記載した事項の範囲には含まれないことから、本件特許発明に係る出願は、特許法第44条第1項に規定する特許出願の分割における分割要件を充たしていない出願である。このため、本件特許発明に係る出願の出願日は、原出願の出願日まで遡及せず、現実の出願日を基準として、進歩性などの特許要件を判断するべきである。』(審判請求書51頁18〜27行)
そこで、請求人の上記主張を検討する。
原出願の明細書には、実施の形態1に関する段落【0010】に、「発熱装置3を、ヒータ4の半円形状の弦に相当する直線10を回動の軸として往復回動させる」(甲第7号証3欄41〜42行)、「発熱装置(ヒーター等)」(同3欄4行)と記載されると共に、段落【0011】には、「発熱装置3を半円形状の弦に相当する直線10を回動の軸として回動させる」(同4欄16〜17行)と記載され、段落【0013】には、「上記実施の形態1による頭髪処理促進装置では、半円形状のヒータを備えた発熱装置の両端に支持軸を設け、この2本の支持軸を2本のアームを持つ本体支持枠の両端で,発熱装置が半円形状の弦に相当する直線を回動の軸として回動可能な状態に支持し」(同4欄26〜30行)と記載されている。
これらの記載によれば、「発熱装置3の半円形状の両端部を結ぶ直線」は「ヒータ4の半円形状の弦に相当する直線」と実質的に同等のものとして、原出願の明細書に記載されていたというべきであるから、上記の追記した事項を根拠に、本件出願が出願の分割要件を充たしていないとすることはできない。
よって、請求人の主張する無効理由3は、その前提において誤ったものというべきであり、認めることはできない。

7.むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び提出した証拠方法によっては本件発明についての特許を無効にすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定を適用する。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2005-02-09 
出願番号 特願2000-201926(P2000-201926)
審決分類 P 1 123・ 536- Y (A45D)
P 1 123・ 537- Y (A45D)
P 1 123・ 121- Y (A45D)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 田中 秀夫
特許庁審判官 内藤 真徳
西村 泰英
登録日 2002-05-10 
登録番号 特許第3306047号(P3306047)
発明の名称 頭髪処理促進装置  
代理人 後藤 秀継  
代理人 布施 裕  
代理人 大野 潤  
代理人 鮫島 武信  
代理人 足立 勉  

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