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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B60K |
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管理番号 | 1132375 |
審判番号 | 不服2003-19760 |
総通号数 | 76 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1999-11-09 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2003-10-09 |
確定日 | 2006-03-09 |
事件の表示 | 平成10年特許願第117982号「車両用覚醒維持装置」拒絶査定不服審判事件〔平成11年11月9日出願公開、特開平11-310054〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本件審判請求に係る特許出願(以下、「本願」という。)は、平成10年4月28日に出願され、平成15年9月9日(発送)に拒絶査定されたところ、同年10月9日に審判請求がなされるとともに、同年11月6日付手続補正書により明細書の補正がなされたものである。 2.本願発明 本願の請求項1ないし4に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるものと認められるところ、そのうち、請求項1に係る発明は以下のとおりである。 「【請求項1】 車両の運転操作状態を検出する運転操作状態検出手段と、 車両内に覚醒用の香りを発生させる香り発生手段と、 車両の車線変更あるいは右左折を検出する進路変更検出手段と、 前記運転操作状態検出手段から検出される運転操作の単調度に基づき運転者の覚醒度の低下または覚醒度の低下を誘発する運転状態を判定すると共に、覚醒度の低下または覚醒度の低下を誘発する運転状態を判定すると前記香り発生手段を作動させる香り呈示処理を実行し、前記香り呈示処理実行中に前記進路変更検出手段により車両の車線変更あるいは右左折を検出すると前記香り呈示処理を中止させる制御手段とを備え、 前記制御手段は、前記進路変更検出手段により車両の車線変更あるいは右左折を検出して前記香り呈示処理を中止させた後、覚醒状態であるが覚醒度の低下を誘発する運転状態を判定すると、前記香りの呈示から所定時間が経過していれば香り呈示処理を実行することを特徴とする車両用覚醒維持装置。」(以下、「本願発明」という。) なお、平成15年11月6日付手続補正書による請求項1についての補正は、平成15年7月14日付手続補正書により補正された請求項1における「覚醒状態であるか覚醒度の低下を誘発する運転状態を判定する」の記載を、「覚醒状態であるが覚醒度の低下を誘発する運転状態を判定する」と補正することで、誤記の訂正をしたものと認められる。 3.引用文献等の記載事項 原審の拒絶査定における引用文献は以下のものである。 引用文献:特開平3-276816号公報 上記引用文献には、「車両用刺激制御装置」に関し、第1図ないし第21図とともに、次の事項が記載されている。 (イ)「この発明は、芳香等の適切な刺激を発生させて居眠り運転を防止するため等に供される車両用刺激制御装置に関する。」(第1頁右下欄第1行〜第3行) (ロ)「そこでこの発明は、運転中に、芳香等の刺激をより適格に供給することができる車両用刺激制御装置の提供を目的とする。」(第2頁左下欄第4行〜第6行) (ハ)「第11図はこの発明の他の実施例に係るブロック図を示すものである。 この実施例は、マイクロコンピュータ1の入力側ポートに、前記手動スイッチ3、オートスイッチ5の他に、運転状況を検出する車速センサ9、ブレーキ作動センサ11および操舵角センサ13が接続されている。これらセンサ9,11,13は車両運転者の身体への影響条件の一つとして運転状況をマイクロコンピュータ1へ入力するために設けられている。 車速センサ9は例えばスピードメータからの信号を取込むことによって車速を検出し、ブレーキ作動センサ11はブレーキスイッチのON,OFF信号を取込むことによりブレーキ作動を検出する。また、操舵角センサ13は例えばステアリングシャフトの回転角を取込むことによって操舵角を検出する。 また、前記入力側ポートには、運転者の身体への影響条件の一つとして前夜の睡眠時間や起床時刻等の生活状況を入力する初期条件入力装置15及び、車室内の温度、気流等の環境状況を入力する環境センサ17が接続されている。環境センサ15は例えば室温計の信号やブロワファンの電圧を取込むものである。 つぎに、上記実施例の作用を第12図に示すフローチャートに基づいて説明する。第3図のフローチャートのステップと同様のステップには同符号を付して重複した説明は省略する。 この実施例では、まず、運転開始前にステップS18で運転者の前夜の睡眠時間及び当日の起床時刻等の初期条件を初期条件入力装置15により入力する。 手動モードにおいて、ステップS19では車速センサ9によって検出される車速信号V、ブレーキ作動センサ11によって検出されるブレーキ信号B、操舵角センサ13によって検出される操舵信号θおよび環境センサ17によって検出される室温等の車室内環境信号TAが入力される。 そして、ステップS20において、前記ステップS18で入力された運転者の生活状況とステップS19で入力された運転状況との信号を考慮して芳香を供給するタイミングと臭気強度とを表わすマップを作成する。 自動モードにおいてはステップS21で車速センサ9、ブレーキ作動センサ11、操舵角センサ13および環境センサ17によって検出される検出信号を入力し、前記ステップS20で作成されたマップによりK回目における芳香を供給する時間Tkを算出する。(ステップS22)。そして、運転経過時間Tが芳香供給時間Tkになれば生活状況、運転状況を考慮した芳香の吹出しが自動的に行われる。」(第4頁右上欄第7行〜右下欄第18行) (ニ)「つぎに、前記ステップS20で作成されるマップについて説明する。以下のマップは、運転者の手動スイッチ3の操作を学習したマップを補足し、変更するものである。 (a) 運転操作の過程に応じて眠気が左右される場合 一定車速で一定時間走行すると眠気を催す場合は、車速センサ9の検出信号とマイクロコンピュータ1に内蔵するタイマとにより、車速の経時変化を記憶し、前述の手動スイッチ3のON操作に基づいて求められた適切な時間間隔で芳香を供給するマップを作成する。例えば、第13図に示すように、一般道路の走行で60km/hの車速が約20分間続くと眠気を催す運転者であれば、それまでの車速から芳香時期を定め、基準の臭気強度で芳香を供給する。 また、高速道路等で長時間におよぶ高速運転が続くときに一定時間を経過すると眠気を催す運転者の場合には、緊張感を高めるために臭気強度を強めて芳香を供給し、その後も一定車速が続くのであれば時間経過に応じて適切な間隔で芳香を供給する。 (b) ハンドル操作が少ない運転、すなわち、操舵角の変化が小さい状態が一定時間続くと眠気を催す場合 操舵角センサ13からの入力信号とタイマとによって、それまでの操舵角の経時変化を記憶し適切な時間に芳香を供給するマップを作成する。例えば第14図に示すように、直線走行が続いて大きな操舵角の変化がない状態が約30分続いたら基準の臭気強度の芳香を供給する。 また、一定時間ブレーキ操作がないときあるいは急ブレーキ操作がないときに緊張感がなくなり眠気を催す場合はブレーキ作動センサ11からの入力信号とタイマとによって、そのときまでのブレーキ作動状況を記憶し、適切な時期に微芳香を供給するマップを作成する。例えば第15図に示すように、ブレーキ操作をしない状態が約20分間続いたときは、緊張感を促すために少量の芳香を供給する。」(第4頁右下欄第19行〜第5頁右上欄第18行) 上記記載事項(イ)〜(ニ)及び第1図〜第21図を参酌すれば、引用文献には、車両内に芳香等の刺激を発生させて居眠り運転を防止、すなわち覚醒するものであって、第11図及び第12図に示された実施例においては、車速センサ、ブレーキ作動センサ及び操舵角センサの運転状況を検出するセンサの検出値等に基づくマップにより、眠気を催すことを妨げる芳香を供給するタイミングを設定するものであり、直線走行が続いてハンドル操作やブレーキ操作が少ない状況等を眠気を催す運転状況として判断し、芳香を供給するものであることから、引用文献には実質的に、 「車両の運転状況を検出する車速センサ、ブレーキ作動センサ及び操舵角センサの運転状況を検出するセンサと、 車両内に覚醒用の芳香を供給する手段と、 前記運転状況を検出するセンサから検出される直線走行が続いてハンドル操作やブレーキ操作が少ない状況等を眠気を催す運転状況として判断すると共に、眠気を催す運転状況を判定すると前記芳香を供給する手段を作動させる芳香を供給する処理を実行する車両用刺激制御装置」(以下、「引用発明」という。) が記載されているものと認められる。 4.対比・判断 (1)発明の対比 本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「運転状況を検出するセンサ」、「芳香を供給する手段」、「直線走行が続いてハンドル操作やブレーキ操作が少ない状況等を眠気を催す運転状況として判断」は、それぞれ、本願発明における「運転操作状態検出手段」、「香り発生手段」、「運転操作の単調度に基づき運転者の覚醒度の低下または覚醒度の低下を誘発する運転状態を判定」に相当し、「眠気を催す運転状況を判定すると前記芳香を供給する手段を作動させる芳香を供給する処理を実行」する構成は、「覚醒度の低下または覚醒度の低下を誘発する運転状態を判定すると前記香り発生手段を作動させる香り呈示処理を実行」する構成に相当するといえる。また、引用発明の「車両用刺激制御装置」は、本願発明の「車両用覚醒維持装置」に相当するものであるから、本願発明と引用発明とは、 「車両の運転操作状態を検出する運転操作状態検出手段と、 車両内に覚醒用の香りを発生させる香り発生手段と、 前記運転操作状態検出手段から検出される運転操作の単調度に基づき運転者の覚醒度の低下または覚醒度の低下を誘発する運転状態を判定すると共に、覚醒度の低下または覚醒度の低下を誘発する運転状態を判定すると前記香り発生手段を作動させる香り呈示処理を実行する車両用覚醒維持装置」 である点で一致し、以下の相違点において相違するものと認められる。 相違点:本願発明では、車両の車線変更あるいは右左折を検出する進路変更検出手段と、香り呈示処理実行中に前記進路変更検出手段により車両の車線変更あるいは右左折を検出すると前記香り呈示処理を中止させる制御手段とを備え、前記制御手段は、前記進路変更検出手段により車両の車線変更あるいは右左折を検出して前記香り呈示処理を中止させた後、覚醒状態であるが覚醒度の低下を誘発する運転状態を判定すると、前記香りの呈示から所定時間が経過していれば香り呈示処理を実行するのに対し、引用発明では、「車両の車線変更あるいは右左折を検出する進路変更検出手段」及び「香り呈示処理実行中に前記進路変更検出手段により車両の車線変更あるいは右左折を検出すると前記香り呈示処理を中止させる制御手段とを備え、前記制御手段は、前記進路変更検出手段により車両の車線変更あるいは右左折を検出して前記香り呈示処理を中止させた後、覚醒状態であるが覚醒度の低下を誘発する運転状態を判定すると、前記香りの呈示から所定時間が経過していれば香り呈示処理を実行」する構成を有さない点。 (2)相違点についての判断 次に、上記相違点について検討すると、前審における平成15年5月6日付拒絶理由通知書に周知例として挙げられた特開平9-39602号公報(以下、「周知例1」という。)及び特開平9-277848号公報(以下、「周知例2」という。)には、運転者の居眠り等を防止すべく、覚醒の低下が検出された際に警告等を行うものにおいて、進路変更を検出する手段により、運転者が車線変更等を行っている場合には当該警告等の処理を中止する構成が記載されている(周知例1の段落【0036】ないし【0038】、周知例2の【請求項6】、段落【0009】及び【0027】を参照。)。 そして、周知例1及び周知例2に記載のものも、引用発明と同じく、運転者の覚醒度が低下することを防止するための技術であることから、引用発明の、運転者の覚醒度の低下または覚醒度の低下を誘発する運転状態を判定した場合に芳香を供給する構成に、当該周知の技術である、進路変更を検出する手段により、運転者が車線変更等を行っている場合に処理を中止する構成を採用することは、この発明の属する分野において通常の知識を有する者が適宜なし得た程度のことと言える。 しかも、引用発明は、運転状況等に応じたマップを用いて芳香を供給するタイミング(時間間隔)を設定するものであるから、この発明の属する分野において通常の知識を有する者なら、上記周知の技術を引用発明に採用すれば、当然に、芳香の供給を中止した後に処理を再開し、「進路変更検出手段により車両の車線変更あるいは右左折を検出して前記香り呈示処理を中止させた後、覚醒状態であるが覚醒度の低下を誘発する運転状態を判定すると、前記香りの呈示から所定時間が経過していれば香り呈示処理を実行」するよう構成するものと認められる。 そして、本願発明の奏する効果についてみても、引用発明及び周知の技術から予測できる程度のものであり、格別のものではない。 したがって、本願発明は、引用発明及び周知の技術に基づき、この発明の属する分野において通常の知識を有する者が容易に想到し得たものである。 5.むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本願の請求項2ないし4に係る発明について検討するまでもなく、この出願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2005-12-28 |
結審通知日 | 2006-01-10 |
審決日 | 2006-01-23 |
出願番号 | 特願平10-117982 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(B60K)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 西本 浩司 |
特許庁審判長 |
鈴木 久雄 |
特許庁審判官 |
柴沼 雅樹 見目 省二 |
発明の名称 | 車両用覚醒維持装置 |
代理人 | 松元 洋 |
代理人 | 光石 忠敬 |
代理人 | 光石 俊郎 |
代理人 | 田中 康幸 |