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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  B60C
管理番号 1132541
異議申立番号 異議2002-71612  
総通号数 76 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2002-03-08 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-07-01 
確定日 2005-11-21 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3253952号「車両・タイヤ性能のシミュレーション方法」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3253952号の請求項1ないし2に係る特許を取り消す。 
理由 1.手続の経緯
特許第3253952号の請求項1及び2に係る発明は、平成12年6月14日に出願した特願2000-178948号の一部として平成13年6月12日に新たに特許出願され、平成13年11月22日に設定の登録がなされ、その後、本件請求項1及び2に係る特許発明について、特許異議申立人株式会社ブリヂストン(以下「申立人」という。)により、平成14年6月28日付けで特許異議の申立てがなされ、平成17年6月7日付けで取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成17年8月9日に訂正請求がなされたものである。

2.訂正の適否について
(1)訂正の内容
上記訂正請求は、本件特許の特許明細書を訂正請求書に添付された明細書のとおりに訂正しようとするものであって、その訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は次のとおりである。
ア.訂正事項a
(ア-1)特許請求の範囲の請求項1について、「モデル化されてなり」を「モデル化されてなり、しかも前記車体本体モデルには、エンジンを剛体要素でモデル化したエンジンモデルを可撓要素を介して支持させ、かつ」と訂正する。
(ア-2)特許請求の範囲の請求項1について、「評価される」を「評価されるとともに、 前記レーンチェンジシミュレーションは、舵角0の初期走行時、舵角を入力した直後、レーンチェンジ中及び舵角を0に戻した時の各状態の車両モデルを視覚化して示すステップをさらに含む」と訂正する。

イ.訂正事項b
訂正事項aに伴い、明細書の段落【0006】の末尾の「モデル化することができる。」を「モデル化することができる。しかも、前記車体本体モデルには、エンジンを剛体要素でモデル化したエンジンモデルを可撓要素を介して支持させる。」と訂正し、段落【0013】の末尾の「好適にシミュレーションすることができる。」を「好適にシミュレーションすることができる。そして、前記レーンチェンジシミュレーションは、舵角0の初期走行時、舵角を入力した直後、レーンチェンジ中及び舵角を0に戻した時の各状態の車両モデルを視覚化して示すステップをさらに含む」と訂正する。

ウ.訂正事項c
特許請求の範囲の請求項3について、「モデル化されてなり」を「モデル化されてなり、しかも前記車体本体モデルには、エンジンを剛体要素でモデル化したエンジンモデルを可撓要素を介して支持させ、かつ」と訂正する。

エ.訂正事項d
明細書の段落【0008】の「路面モデルとしてはは、例えば」を「路面モデルとしては、例えば」と訂正する。

オ.訂正事項e
明細書の段落【0063】の「あるいはオーバーステア傾向なといった」を「あるいはオーバーステア傾向といった」と訂正する。

カ.訂正事項f
明細書の段落【0064】の「図18」を「図19」と訂正する。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、および拡張・変更の存否
ア.訂正事項aについて
(ア-1)「モデル化されてなり」を「モデル化されてなり、しかも、前記車体本体モデルには、エンジンを剛体要素でモデル化したエンジンモデルを可撓要素を介して支持させ、かつ」とする訂正は、車体本体モデルに、エンジンを剛体要素でモデル化したエンジンモデルを可撓要素を介して支持させることを付加して減縮しようとするものであって、特許請求の範囲の減縮を目的にするものである。
そして、車体本体モデルに、エンジンを剛体要素でモデル化したエンジンモデルを可撓要素を介して支持させることは、願書に最初に添付された明細書の段落【0026】に記載されており、願書に最初に添付された明細書及び図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であって、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものとは認められない。

(ア-2)「評価される」を「評価されるとともに、前記レーンチェンジシミュレーションは、舵角0の初期走行時、舵角を入力した直後、レーンチェンジ中及び舵角を0に戻した時の各状態の車両モデルを視覚化して示すステップをさらに含む」とする訂正は、前記レーンチェンジシミュレーションに、舵角0の初期走行時、舵角を入力した直後、レーンチェンジ中及び舵角を0に戻した時の各状態の車両モデルを視覚化して示すステップをさら付加して減縮しようとするものであって、特許請求の範囲の減縮を目的にするものである。
そして、レーンチェンジシミュレーションに、舵角0の初期走行時、舵角を入力した直後、レーンチェンジ中及び舵角を0に戻した時の各状態の車両モデルを視覚化して示すステップをさらに付加することは、願書に最初に添付された明細書の段落【0065】に記載されており、願書に最初に添付された明細書及び図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であって、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものとは認められない。

(ア-3)まとめ
以上のとおり、訂正事項aは、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に最初に添付された明細書及び図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であって、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものとは認められない。

イ.訂正事項bについて
訂正事項bは、訂正された請求項1と発明の詳細な説明との整合性をとるためのものであるので、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであって、願書に最初に添付された明細書及び図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であって、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものとは認められない。

ウ.訂正事項cについて
訂正事項cは、車体本体モデルに、エンジンを剛体要素でモデル化したエンジンモデルを可撓要素を介して支持させることを付加するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的にするものである。
そして、車体本体モデルに、エンジンを剛体要素でモデル化したエンジンモデルを可撓要素を介して支持させることを付加することは、願書に最初に添付された明細書の段落【0026】に記載されており、訂正事項cは、願書に最初に添付された明細書及び図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であって、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものとは認められない。

エ.訂正事項dについて
明細書の段落【0008】の「としてはは」「としては」の誤記であると認められるので、訂正事項dは、誤記の訂正を目的とするものであって、願書に最初に添付された明細書及び図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であって、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものとは認められない。

オ.訂正事項eについて
明細書の段落【0063】の「オーバーステア傾向なといった」は「オーバーステア傾向といった」の誤記と認められるので、訂正事項eは、誤記の訂正を目的とするものであって、願書に最初に添付された明細書及び図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であって、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものとは認められない。

カ.訂正事項fについて
明細書の段落【0064】の記載からみて、同段落の「図18」は「図19」の誤記と認められるので、訂正事項fは、誤記の訂正を目的とするものであって、願書に最初に添付された明細書及び図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であって、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものとは認められない。

(3)まとめ
したがって、本件訂正は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項において準用する同法第126条第2項から第3項の規定に適合するので、本件訂正を認める。

3.特許異議の申立について
(1)本件発明
前述のように、本件訂正は適法なものであるので、請求項1及び2に係る発明(以下「本件発明1及び本件発明2」という。)は、特許請求の範囲に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
(請求項1)
「トレッドパターンとプライとを含めてタイヤを有限個の要素にモデル化したタイヤモデルを作成するタイヤモデル作成ステップと、
車両から車輪とサスペンション部材とを除いた車体本体を剛体モデルでモデル化した車体本体モデルとサスペンション部材を有限個の要素でモデル化したサスペンションモデルとからなる車体モデルを作成する車体モデル作成ステップと、
前記車体モデルのサスペンションモデルに前記タイヤモデルを装着して車両モデルを作成する車両モデル作成ステップと、
設定された境界条件に基づいて、前記車両モデルを、剛表面でかつ平坦しかも前記タイヤモデルとの間に摩擦係数が定義された剛体要素でモデル化された路面モデル上で走行させる走行シミュレーションを行ない車両走行特性又はタイヤ特性を取得するシミュレーションステップとを含むとともに、
前記サスペンション部材は、アーム、スプリング、ショックアブソーバ、トーションビーム、スタビライザー、リンクロッド及びゴムブッシュを含んでなり、かつ前記アーム及び前記リンクロッドは剛体ビーム要素に、前記スプリング、前記ショックアブソーバ及び前記ゴムブッシュは線形若しくは非線形のバネ要素に、前記トーションビーム及び前記スタビライザーはねじれのビーム要素にそれぞれモデル化されてなり、
しかも前記車体本体モデルには、エンジンを剛体要素でモデル化したエンジンモデルを可撓要素を介して支持させ、かつ
前記車両モデル作成ステップは、0Gの重力条件で車両モデルを作成するステップと、そのタイヤモデルに内圧条件を設定するステップと、前記タイヤモデルに内圧条件を設定した後に車両モデルを1Gの重力条件に設定しタイヤモデルに車体モデルの荷重を負荷するステップとを含むとともに、
前記タイヤモデルと前記路面モデルとは互いに接触の可能性が定義され、前記シミュレーションステップの中で両者が互いに接触しているかどうかが判定される一方、
前記シミュレーションステップは、初期速度vの並進成分の速度が定義された前記車体モデルと、この初期速度vの並進成分の速度と回転成分の速度とが定義されたタイヤモデルとからなる初期速度v(≠0)を有する車両モデルが用いられ、
しかも前記走行シミュレーションが、走行中の車両モデルに舵角を与え走行車線を横方向に移動させるとともに舵角を元に戻すことによりレーンチェンジ状態をシミュレーションするレーンチェンジシミュレーションからなり、かつ前記車両走行特性が、このレーンチェンジシミュレーションから得られる車両モデルの挙動又は車両モデルの舵角を戻したときの収れん性により評価されるとともに、
前記レーンチェンジシミュレーションは、舵角0の初期走行時、舵角を入力した直後、レーンチェンジ中及び舵角を0に戻した時の各状態の車両モデルを視覚化して示すステップをさらに含むことを特徴とする車両・タイヤ性能の走行シミュレーション方法。」

(請求項2)
「トレッドパターンとプライとを含めてタイヤを有限個の要素にモデル化したタイヤモデルを作成するタイヤモデル作成ステップと、
車両から車輪とサスペンション部材とを除いた車体本体を剛体モデルでモデル化した車体本体モデルとサスペンション部材を有限個の要素でモデル化したサスペンションモデルとからなる車体モデルを作成する車体モデル作成ステップと、
前記車体モデルのサスペンションモデルに前記タイヤモデルを装着して車両モデルを作成する車両モデル作成ステップと、
設定された境界条件に基づいて前記車両モデルを、剛表面でかつ凹凸部を有ししかもタイヤモデルとの間に摩擦係数が定義された剛体要素でモデル化された路面モデル上で走行させる走行シミュレーションを行ない車両走行特性又はタイヤ特性を取得するシミュレーションステップとを含むとともに、
前記サスペンション部材は、アーム、スプリング、ショックアブソーバ、トーションビーム、スタビライザー、リンクロッド及びゴムブッシュを含んでなり、かつ前記アーム及び前記リンクロッドは剛体ビーム要素に、前記スプリング、前記ショックアブソーバ及び前記ゴムブッシュは線形若しくは非線形のバネ要素に、前記トーションビーム及び前記スタビライザーはねじれのビーム要素にそれぞれモデル化されてなり、
しかも前記車体本体モデルには、エンジンを剛体要素でモデル化したエンジンモデルを可撓要素を介して支持させ、かつ
前記車両モデル作成ステップは、0Gの重力条件で車両モデルを作成するステップと、そのタイヤモデルに内圧条件を設定するステップと、前記タイヤモデルに内圧条件を設定した後に車両モデルを1Gの重力条件に設定しタイヤモデルに車体モデルの荷重を負荷するステップとを含むとともに、
前記タイヤモデルと前記路面モデルとは互いに接触の可能性が定義され、前記シミュレーションステップの中で両者が互いに接触しているかどうかが判定される一方、
前記シミュレーションステップは、初期速度vの並進成分の速度が定義された前記車体モデルとこの初期速度vの並進成分の速度と回転成分の速度とが定義されたタイヤモデルとからなる初期速度v(≠0)を有する車両モデルが用いられ、
しかも前記車両走行特性が10Hz以下の車体振動特性を含むことを特徴とする車両・タイヤ性能シミュレーション方法。」

(2)申立人の主張する特許異議申立ての理由
訂正前の請求項1及び2は、以下に示す理由で取り消されるべきである旨を主張している。
請求項1に係る発明は、刊行物1に記載された発明及び周知技術(例えば刊行物3参照)に基づいて、又は刊行物1及び刊行物2に記載された発明、及び周知技術に基づいて、請求項2に係る発明は、刊行物1及び刊行物2に記載された発明、及び周知技術に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、請求項1及び2に係る発明は、特許法第113条第1項第2号の規定により取り消されるべきものである。



刊行物1:岩崎直明、白石正貴、吉永寛 著、
「タイヤ-車両運動シミュレーション」
LS-DYNA Users Conference 2000
講演論文集、株式会社日本総合研究所、2000年10月3日
(甲第1号証)
刊行物2:米国特許第5880362号明細書(甲第2号証)
刊行物3:「自動車技術ハンドブック」<第3分冊>試験・評価編、
社団法人自動車技術会、p.111-121、
p.137-153,1991年6月1日(甲第3号証)

(3)国内優先権の主張について
刊行物1の発行日が、優先権の基礎となる先の出願の出願日よりも後であり、本願の出願日よりも前であるので、本願の請求項1及び2に記載された発明について、優先権の主張ができるかどうかについて検討する。
本願の請求項1及び2に係る発明を特定する事項である、車両モデル及び路面モデルの特定の作成方法並びにレーンチェンジシミュレーション及び10Hz以下の車体振動特性の取得に関する事項が、優先権の基礎となる先の出願の明細書及び図面に記載されていないので、請求項1及び2に係る発明については、優先権を主張することはできない。
したがって、刊行物1は、本願の出願日前に日本国内において頒布された刊行物に該当すると認める。

(4)刊行物の摘記事項
ア.刊行物1について
刊行物1には、図面とともに、以下の事項が記載されている。
(a)「タイヤ設計因子を直接評価できるタイヤモデルと、簡易的ながら旋回中のタイヤの姿勢角を再現できるサスペンションを備えた車体モデルの組合せにより、実用的に計算を実施できる車両全体のFEMモデルの作成を試みた。」(第1頁第25行-同頁第25行)

(b)「3.タイヤの性能とそのシミュレーション
タイヤが持つ機能の内、車両全体の性能に大きく影響するものとしては、次のようなものがあると考えられる。
(1)荷重支持機能 ・・・・ 耐久機能
(2)制駆動力伝達機能 ・・・・ 各種路面でのトラクション、
ブレーキング性能
ハイドロプレーニング性能
(3)緩衝機能 ・・・・ 乗り心地性能
(4)進路保持機能 ・・・・ 各種路面でのコーナリング性能、
轍走行性能
この他、振動・ノイズ性能、耐摩耗性能、転がり性能など多くの性能がタイヤに要求される。」(第2頁第12行-同頁第20行)

(c)「精度よくコーナリング特性を求められるタイヤのモデルと、コーナリング中のタイヤの姿勢角を再現できるサスペンションを持った車両モデルの組合せによるFEM解析が効果的だと考えられる。」(第3頁第14行-同頁第16行)

(d)「5.タイヤモデル
設計因子を表現できるモデルとして、弊社で使用しているタイヤの単体特性のシミュレーション用モデルに近いモデル(以下、オリジナルモデルFig.3)を検討した。」(第3頁第20行-同第22行)

(e)「タイヤがスリップ角のついた状態で転動するシミュレーションを行い、」(第5頁第2行)

(f)「・車両モデル:ボディー部は、剛体ビーム要素のネットワークで構成され、変形は考慮していない。また、サスペンション部分については、アーム等の部材は主に剛体ビームで構成され、ブッシュ部分ジョイントによる拘束を定義することで、可動範囲を制限している。ストラットに関しては、離散要素のスプリング及びダンパーを使用している。この様に、ほとんどの部材が剛体ビームで構成されているが、スタビライザー及びトーションビームは弾性体ビーム要素を用いて、ねじれに対する剛性を設定した。
・タイヤと車体の接続:タイヤの軸を剛体ビーム要素でモデル化し、ホイールに設定したエクストラ節点とジョイント拘束で接続した。」(第6頁第3行-同頁第10行)

(g)「8.境界条件
解析に際しては、以下の様な境界条件を与えて計算を行った。
・解析開始時点に、車体、タイヤの全ての節点に、旋回させる予定の速度を初速として与える。
・タイヤに内圧を負荷する。
・リジットウォールの移動・重力の負荷による縦加重を負荷する。(1g=1100kg)
・タイヤロッドの操作により、舵角を付ける。(車体に対する切れ角=8度)
・フロント車軸へ駆動力を負荷する。
9.車両運動シミュレーション結果
定常円旋回状態中の、車両の旋回半径を求めた結果を以下に示す。」(第7頁第1行-同頁第9行)

(h)「今回の車両モデルに含まれる、タイヤFEMモデルは、内部構造に関する設計パラメータをそのままモデル化している為、今回開発した手法により、タイヤ開発においてタイヤ設計パラメータと実車特性の関係を直接的にシミュレーションで求める事が可能となる事を示している。」(第8頁第9行-同頁第11行)

イ.刊行物2について
刊行物2には、図面とともに、以下の事項が記載されている。
(a)「A full vehicle model, including tires, wheels, suspension,
body, seats, engine, transmission and other components can consume
several days of simulation computations.」
(第3欄第52行-同欄第55行)
((仮訳)タイヤ、ホイール、サスペンション、車体、シート、エンジン、トランスミッション、及び他の部品を含んだ自動車の全体モデルは、シミュレーションの計算に数週間が費やされる。)

(b)「The next modelling step comprises creation 15 of the
computer model of the test roadway. Motor vehicle proving grounds
have evolved to incorporate a variety of topological configurations,
all of which may be created for use in the present inventive
methodology. These configurations, known as road profiles, may
include a pothole track to simulate a vertical loading conditions,
a body twist track to simulate torsional loading conditions, a
forward panic braking surface to simulate longitudinal loading
conditions, a FIG. 8 or cornering track, which simulates maximum
lateral loading conditions, a washboard surface which simulates a
high frequency/low amplitude loading condition, and a chatter strip
track, which simulates a high frequency/low amplitude vertical
loading condition. These road profiles are designed to create harsh
road conditions which make it possible to simulate the day to day
conditions encountered by a wide variety of motorists, and to
facilitate repetitive testing of vehicle durability and handling in
a relatively short period of time.
Again, using finite element modelling techniques, one or more
computer models of the road surface is created 15. In the preferred
embodiment, the road surface is modelled as a strictly rigid and
non-deformable surface. After the creation of each of the
above-described models, each computer model of a road surface
may be stored in computer memory or computer storage device.
The road models are preferably constructed using drawings of
proving ground surfaces and produce a cross-section of the road
surface using CAD data in 3-dimensions. The model is then
"positioned" 18 on the simulated roadway.
Thereafter, utilizing a simulation engine in the form of dynamic
analysis software, such as LS/DYNA3D (commercially available
from Livermore Software Technology Corporation), dynamic
non-linear real-time simulation 20 of the vehicle is performed.
This initial simulation constitutes a validation step to confirm
validity of the suspension/tire model.
Initial velocity parameters of a full vehicle model are programmed
into the vehicle model using the finite element modelling software.
A pre-determined friction parameter between the tire model and
the road surface model is input into the LS/DYNA3D program.
The operator of the LS/DYNA3D program can select a duration of
simulation for stand alone analysis. Further, the system operator
may start and stop the simulation manually during the simulation
process.
It is important to note that an initial time must be provided
for the tire models to "settle". Initially, the tire models are
placed between the road model surface so that there is no
vehicle weight applied to the tire model. At the beginning of
the simulation, the tires are compressed as the vehicle model
"falls" onto the road as shown in FIG. 1, flow chart operation 24.
Therefore, a certain amount of time is required to permit the tires
to "settle" and reach their normalized compression. The model is
initially positioned behind any intended obstacle thereby giving
the tire models time to settle by the time the first obstacle model
is encountered.」
(第4欄第11行-同欄67行)
((仮訳)次のモデリングステップには、コンピュータモデルのテスト車道の作成が含まれている(ステップ15)。自動車両性能試験場は進化して、多様な地形構成を取り込むようになっており、その構成のすべては本発明の方法論で用いるように作成できる。これらの地形構成は、道路プロファイルとも呼ばれ、垂直負荷条件をシミュレートする路面窪み走路、ねじれ負荷条件をシミュレートする車体ねじり走路、縦方向負荷条件をシミュレートする前方パニックブレーキ表面、最大の横方向負荷条件をシミュレートする8の字又はコーナリング走路、高振動/低振幅の垂直負荷条件をシミュレートするワッシュボード表面、高振動/低振幅の垂直負荷条件をシミュレートするびびりストリップ走路などがある。これらの道路プロファイルは、幅広い自動車愛好家が日々遭遇する条件のシミュレートを可能にする過酷な道路条件を作成し、そして、比較的短期間のうちに車両の耐久性とハンドリングの反復テストを容易に実施できるように設計されている。
ここでも、有限要素モデリング技術を用いて、道路表面の1つ以上のコンピュータモデルが作成される(ステップ15)。この好ましい実施形態では、道路表面は、厳密に硬質で、変形不能な表面としてモデリングされる。上記の各モデルを作成した後、道路表面の各コンピュータモデルをコンピュータメモリ又はコンピュータ記憶デバイスに格納できる。道路モデルは、試験場表面の図面を用いて構成することが好ましく、3次元のCADデータを用いて道路表面の断面図が作成される。このモデルは、それから、模擬車道として「配置される。」(ステップ18)
その後、LS/DYNA3D(Livemore Software Technologies Corporationから市販)のような、動態解析ソフトウェア形式のシミュレーションエンジンを用いて、車両の動的非線形リアルタイムシミュレーションが実行される。(ステップ20)。この初期シミュレーションは、サスペンション/タイヤ・モデルの妥当性を確認する妥当性検証ステップを構成する。
車両のフルモデルの初速パラメータは、有限要素モデリングソフトウェアを用いて、車両モデルに設定される。タイヤモデルと道路表面モデル間の所定の摩擦パラメータは、LS/DYNA3Dプログラムに入力される。LS/DYNA3Dのプログラムの操作者は、スタンドアロン解析のためのシミュレーション機関を選択できる。さらに、システム操作者は、シミュレーションプロセス中に手動でシミュレーションを開始及び停止できる。
タイヤモデルには「落ち着く」ための初期時間を用意する必要があることに、注意しておくことが大切である。初めに、車両重量がタイヤモデルにかからないように、タイヤモデルは道路モデル表面の間に置かれる。シミュレーションの始まりでは、図1のフローチャートのステップ24でしめされているように車両モデルを道路に「落とす(接地させる)」ので、タイヤが圧縮される。したがって、タイヤが「落ち着く」ことができ、その正規の圧縮(率)に達するまでに特定の時間が必要になる。タイヤモデルは初めに意図した障害物の後方に置かれるので、最初の障害物モデルに遭遇するときまで、タイヤモデルが落ち着くための時間が提供される。」

ウ.刊行物3について
刊行物3には、図面とともに、以下の事項が記載されている。
(a)「5.3. 4レーンチェンジ試験」(第116頁右欄第7行)

(b)「ハンドル角からは修正度合いや滑らかさ、ヨーレイド及び横加速度からは操舵に対する遅れや車線変更後のオーバシュートと収斂性をみる。」(第117頁左欄第19行-同頁同欄第21行)

(c)「スラローム試験もレーンチェンジ試験と同様に」(第117頁左欄第第32行)

(d)「自動車における振動現象は、ばね上振動のような数Hzの低周波のものから、歯車騒音のように数kHzの高周波まで広範囲に及んでおり、」(第137頁右欄第6行-同頁同欄第9行)

(e)「6.3車両振動乗り心地試験」(第143頁第13行)

(f)「以下に、乗り心地における人間の感覚とその周波数、関連部品の特性を示す。
(1)1〜2Hzの振動(ボディーのピッチング,バウンシング振動) 高速道路の大きなうねりを走行する際や路面の凹凸などを乗り越した後に、ばね上が連続的にフワフワする現象で、車体の重量、ホイールスペース、トレッド等の寸法諸元、サスペンションのばね定数、ショックアブソーバの減衰力やフリクション、スタビライザのばね定数などが関連している。
(2)2〜20Hzの振動 連続的な凹凸がある路面を走行する際や比較的大きな段差を乗り越すときに、突き上げられるようなショックやブルブルとした微振動を感ずる現象で、シート、ばね下の重量、サスペンションのばね定数のほか、エンジンマウント、車体剛性なども関連する。」(第146頁右欄最終行-第147頁左欄第14行)

4.請求項1に係る発明の進歩性について
(1)刊行物1に記載された発明
刊行物1には、リンクロッドについて明記されていないが、自動車は当然にリンクロッドなどの部品を含んでいることは明らかであり、それらの部品の特性からみて、剛性ビーム要素でモデル化していることは明らかである。
また、上記刊行物1の摘記事項(g)の記載事項からみて、内圧を負荷する前は、リジッドウォールの移動・重力の負荷による縦重量の負荷がないので、当然、重力条件は0Gであることは明らかである。
また、同じく摘記事項(g)の記載事項からみて、内圧を負荷した後に、リジッドウォールの移動・重力の負荷により1Gの重力条件を設定してタイヤモデルに車両モデルの縦荷重を負荷していることは明らかである。
したがって、刊行物1には、0Gの重力条件で車両モデルを作成するステップと、タイヤモデルに内圧条件を設定するステップと、タイヤモデルに内圧条件を設定した後に、車両モデルを1Gの重力条件に設定し、タイヤモデルに車体モデルの荷重を負荷するステップとが記載されていると認められる。
さらに、上記摘記事項(g)及び第14図からみて、刊行物1には、円旋回中のシミュレーションが記載されており、円旋回のシミュレーションを行う際には、当然、車体の並進方向の初期速度やタイヤの並進方向や旋回のための回転方向の速度を定義が必要であることは明らかであるので、シミュレーションステップは、初期速度vの並進成分の速度が定義された車体モデルと、この初期速度vの並進成分の速度と回転成分の速度とが定義されたタイヤモデルとからなる初期速度vを有する車体モデルを用いることが示唆されていると認められる。
以上の点を考慮すると、刊行物1には、
『トレッド、カーカス、ベルト、バンドを含めてタイヤを有限個の要素にモデル化したタイヤモデルを作成し、
車両から車輪とサスペンション部材とを除いた車体本体を剛体モデルでモデル化した車体本体モデルとサスペンション部材を有限個の要素でモデル化したサスペンションモデルとからなる車体モデルを作成し、
前記車体モデルのサスペンションモデルに前記タイヤモデルを装着して車両モデルを作成し、
設定された境界条件に基づいて、前記車両モデルを走行させる走行シミュレーションを行ない車両走行特性又はタイヤ特性を取得するとともに、
前記サスペンション部材は、アーム、スプリング、ショックアブソーバ、トーションビーム、スタビライザー、リンクロッド及びゴムブッシュを含んでなり、かつ前記アーム及び前記リンクロッドは剛体ビーム要素に、前記スプリング、前記ショックアブソーバ及び前記ゴムブッシュは線形若しくは非線形のバネ要素に、前記トーションビーム及び前記スタビライザーはねじれのビーム要素にそれぞれモデル化されてなり、
前記車両モデルをする時に、0Gの重力条件で車両モデルを作成し、そのタイヤモデルに内圧条件を設定し、前記タイヤモデルに内圧条件を設定した後に車両モデルを1Gの重力条件に設定しタイヤモデルに車体モデルの荷重を負荷するとともに、
走行シミュレーションを行う時には、初期速度vの並進成分の速度が定義された前記車体モデルと、この初期速度vの並進成分の速度と回転成分の速度とが定義されたタイヤモデルとからなる初期速度v(≠0)を有する車両モデルが用いられ、車両走行特性として、コーナリング性能が評価される車両・タイヤ性能の走行シミュレーション方法』との発明(以下「刊行物1発明」という。)が記載されている。

(2)対比
本件発明1と刊行物1発明とを比較すると、刊行物発明の「トレッド」、「カーカス、ベルト、バンド」は本件発明1の「トレッドパターン」、「プライ」に相当するので、両者は
「トレッドパターンとプライとを含めてタイヤを有限個の要素にモデル化したタイヤモデルを作成するタイヤモデル作成ステップと、
車両から車輪とサスペンション部材とを除いた車体本体を剛体モデルでモデル化した車体本体モデルとサスペンション部材を有限個の要素でモデル化したサスペンションモデルとからなる車体モデルを作成する車体モデル作成ステップと、
前記車体モデルのサスペンションモデルに前記タイヤモデルを装着して車両モデルを作成する車両モデル作成ステップと、
設定された境界条件に基づいて、前記車両モデルを走行させる走行シミュレーションを行ない車両走行特性又はタイヤ特性を取得するシミュレーションステップとを含むとともに、
前記サスペンション部材は、アーム、スプリング、ショックアブソーバ、トーションビーム、スタビライザー、リンクロッド及びゴムブッシュを含んでなり、かつ前記アーム及び前記リンクロッドは剛体ビーム要素に、前記スプリング、前記ショックアブソーバ及び前記ゴムブッシュは線形若しくは非線形のバネ要素に、前記トーションビーム及び前記スタビライザーはねじれのビーム要素にそれぞれモデル化されてなり、
前記車両モデル作成ステップは、0Gの重力条件で車両モデルを作成するステップと、そのタイヤモデルに内圧条件を設定するステップと、前記タイヤモデルに内圧条件を設定した後に車両モデルを1Gの重力条件に設定しタイヤモデルに車体モデルの荷重を負荷するステップとを含むとともに、
前記シミュレーションステップは、初期速度vの並進成分の速度が定義された前記車体モデルと、この初期速度vの並進成分の速度と回転成分の速度とが定義されたタイヤモデルとからなる初期速度v(≠0)を有する車両モデルが用いられる車両・タイヤ性能の走行シミュレーション方法」
で一致し、以下の点で相違する。
(相違点1)
本件発明1では、車両モデルを、剛表面でかつ平坦しかもタイヤモデルとの間に摩擦係数が定義された剛体要素でモデル化された路面モデル上で走行させて走行シミュレーションを行うのに対し、刊行物1発明では、走行シミュレーションを行っているが、車両モデルを、剛表面でかつ平坦しかもタイヤモデルとの間に摩擦係数が定義された剛体要素でモデル化された路面モデル上で走行させていることは明記されていない点。
(相違点2)
本件発明1では、タイヤモデルと路面モデルとは互いに接触の可能性が定義され、前記シミュレーションステップの中で両者が互いに接触しているかどうかが判定されるのに対し、刊行物1発明では、路面モデルを考慮してシミュレーションを行うことの示唆はあるが、前記タイヤモデルと前記路面モデルとは互いに接触の可能性が定義され、前記シミュレーションステップの中で両者が互いに接触しているかどうかが判定されることは明記されていない点。
(相違点3)
本件発明1では、前記走行シミュレーションが、走行中の車両モデルに舵角を与え走行車線を横方向に移動させるとともに舵角を元に戻すことによりレーンチェンジ状態をシミュレーションするレーンチェンジシミュレーションからなり、かつ前記車両走行特性が、このレーンチェンジシミュレーションから得られる車両モデルの挙動又は車両モデルの舵角を戻したときの収れん性により評価されるとともにレーンチェンジシミュレーションは、舵角0の初期走行時、舵角を入力した直後、レーンチェンジ中及び舵角を0に戻した時の各状態の車両モデルを視覚化して示すのに対し、刊行物1発明では、走行特性としてコーナリング特性を評価するシミュレーションについては記載されているが、レーンチェンジシミュレーションに関するそのような事項が明記されていない点。
(相違点4)
本件発明1では、前記車体本体モデルには、エンジンを剛体要素でモデル化したエンジンモデルを可撓要素を介して支持させているのに対し、刊行物1発明では、そのような事項が明記されていない点。

(3)判断
(相違点1について)
車両モデルを、剛表面でかつ平坦しかもタイヤモデルとの間に摩擦係数が定義された剛体要素でモデル化された路面モデル上で走行させて走行シミュレーションを行うことは刊行物2に記載されて公知であるので、刊行物1発明において、剛表面でかつ平坦しかもタイヤモデルとの間に摩擦係数が定義された剛体要素でモデル化された路面モデル上で走行させて走行シミュレーションを行うことは当業者が容易に考えられる事項である。
よって、上記相違点1に係る本件発明1の構成は当業者が容易に考えられることである。
(相違点2について)
刊行物2に記載された事項では、車両のシミュレーションにおいて、タイヤモデルと路面モデルとの間との間の摩擦パラメータを入力することからみて、タイヤモデルと路面モデルとが互いに接触の可能性が定義されていると認められ、また、タイヤモデルと路面モデルとが接触していないと、摩擦パラメータを入力する意味がないので、当然、タイヤモデルと路面モデルとが互いに接触しているかどうかを判定することは当然に行っていると認められる。
そして、車両のシミュレーションにおいて、タイヤモデルと路面モデルとは互いに接触の可能性が定義され、前記シミュレーションステップの中で両者が互いに接触しているかどうかが判定されることは刊行物2に記載されて公知であるので、刊行物1発明において、タイヤモデルと路面モデルとは互いに接触の可能性が定義され、前記シミュレーションステップの中で両者が互いに接触しているかどうかが判定されることは当業者が容易に考えられる事項である。
よって、上記相違点2に係る本件発明1の構成は当業者が容易に考えられることである。
(相違点3について)
走行中の車両に舵角を与え走行車線を横方向に移動させるとともに舵角を元に戻すことによりレーンチェンジ状態にするレーンチェンジ試験は、スラローム試験と同様に走行試験の1つであることは刊行物3に示されるように周知な事項であり、また、レーンチェンジ試験において、車両の挙動又は舵角を戻したときの収れん性により車両走行特性を評価することは刊行物3に記載されているように周知の事項であり、さらに、シミュレーションの結果を視覚化して表示することは一般的に行われている周知な事項であるので、刊行物1発明において、前記走行シミュレーションが、走行中の車両モデルに舵角を与え走行車線を横方向に移動させるとともに舵角を元に戻すことによりレーンチェンジ状態をシミュレーションするレーンチェンジシミュレーションからなり、かつ前記車両走行特性が、このレーンチェンジシミュレーションから得られる車両モデルの挙動又は車両モデルの舵角を戻したときの収れん性により評価されるとともに、レーンチェンジシミュレーションが、舵角0の初期走行時、舵角を入力した直後、レーンチェンジ中及び舵角を0に戻した時の各状態の車両モデルを視覚化して示すことは当業者が容易に考えられる事項である。
よって、上記相違点3に係る本件発明1の構成は当業者が容易に考えられることである。
(相違点4について)
車体を構成するエンジンをモデル化して解析対象とすることは刊行物2の摘記事項(a)でも示されているように周知の事項であるので、刊行物1発明において、エンジンやその支持部材をモデル化して解析対象とすることは当業者が容易に考えられる事項であり、その際に、エンジン及び支持部材の特性を考慮して、エンジンを剛体要素でモデル化し、その支持部材を可撓要素でモデル化することは当業者が当然に推考する事項である。
よって、上記相違点4に係る本件発明1の構成は当業者が容易に考えられることである。

したがって、請求項1に係る発明は、上記刊行物1-3記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)結論
よって、請求項1に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

5.請求項2に係る発明の進歩性の判断
(1)対比
本件発明2と刊行物1発明を比較すると、両者は、
「トレッドパターンとプライとを含めてタイヤを有限個の要素にモデル化したタイヤモデルを作成するタイヤモデル作成ステップと、
車両から車輪とサスペンション部材とを除いた車体本体を剛体モデルでモデル化した車体本体モデルとサスペンション部材を有限個の要素でモデル化したサスペンションモデルとからなる車体モデルを作成する車体モデル作成ステップと、
前記車体モデルのサスペンションモデルに前記タイヤモデルを装着して車両モデルを作成する車両モデル作成ステップと、
設定された境界条件に基づいて前記車両モデルを、剛表面でしかもタイヤモデルとの間に摩擦係数が定義された剛体要素でモデル化された路面モデル上で走行させる走行シミュレーションを行ない車両走行特性又はタイヤ特性を取得するシミュレーションステップとを含むとともに、
前記サスペンション部材は、アーム、スプリング、ショックアブソーバ、トーションビーム、スタビライザー、リンクロッド及びゴムブッシュを含んでなり、かつ前記アーム及び前記リンクロッドは剛体ビーム要素に、前記スプリング、前記ショックアブソーバ及び前記ゴムブッシュは線形若しくは非線形のバネ要素に、前記トーションビーム及び前記スタビライザーはねじれのビーム要素にそれぞれモデル化されてなり、
しかも前記車体本体モデルには、エンジンを剛体要素でモデル化したエンジンモデルを可撓要素を介して支持させ、かつ
前記車両モデル作成ステップは、0Gの重力条件で車両モデルを作成するステップと、そのタイヤモデルに内圧条件を設定するステップと、前記タイヤモデルに内圧条件を設定した後に車両モデルを1Gの重力条件に設定しタイヤモデルに車体モデルの荷重を負荷するステップとを含むとともに、
前記シミュレーションステップは、初期速度vの並進成分の速度が定義された前記車体モデルとこの初期速度vの並進成分の速度と回転成分の速度とが定義されたタイヤモデルとからなる初期速度v(≠0)を有する車両モデルが用いられる車両・タイヤ性能シミュレーション方法。」
の点で一致し、上記相違点2及び4に加えて以下の相違点で相違する。
(相違点5)
本件発明2では、車両モデルを、剛表面でかつ凹凸部を有ししかもタイヤモデルとの間に摩擦係数が定義された剛体要素でモデル化された路面モデル上で走行させて走行シミュレーションを行うのに対し、刊行物1発明では、走行シミュレーションを行っているが、車両モデルを、剛表面でかつ凹凸部を有ししかもタイヤモデルとの間に摩擦係数が定義された剛体要素でモデル化された路面モデル上で走行させていることは明記されていない点。
(相違点6)
本件発明2では、車両走行特性が10Hz以下の車体振動特性を含むのに対し、刊行物1発明では、車両特性が10Hz以下の車体振動特性を含むかどうかは明記されていない点。

(2)判断
(相違点5について)
刊行物2には、さらに、路面モデルとして、垂直負荷条件をシミュレートする路面窪み走路を用いていることが記載されており、当然、その路面には凹凸部を有していると認められるので、車両モデルを、剛表面でかつ凹凸部を有ししかもタイヤモデルとの間に摩擦係数が定義された剛体要素でモデル化された路面モデル上で走行させて走行シミュレーションを行うことは刊行物2に記載されて公知の事項である。
そして、刊行物1発明において、刊行物2に記載されているように、剛表面でかつ凹凸部を有ししかもタイヤモデルとの間に摩擦係数が定義された剛体要素でモデル化された路面モデル上で走行させて走行シミュレーションを行うことは当業者が容易に考えられる事項である。
よって、上記相違点5に係る本件発明2の構成は当業者が容易に考えられる事項である。
(相違点6について)
車両走行特性が10Hz以下の振動特性を含むことは刊行物3に記載されているように周知事項であるので、刊行物1発明において、車両走行特性に10Hz以下の振動特性を含めることは当業者が容易に考えられる事項である。
よって、上記相違点6に係る本件発明2の構成は当業者が容易に考えられることである。

したがって、請求項2に係る発明は、上記刊行物1-3記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)結論
よって、請求項2に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

6.むすび
以上のとおりであるから、本件発明1及び本件発明2は、その出願日前に頒布された刊行物1-3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1及び2の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、訂正明細書の請求項1及び2に係る特許は、特許法第113条第1項第2号に該当し、取り消されるべきものである。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
車両・タイヤ性能のシミュレーション方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッドパターンとプライとを含めてタイヤを有限個の要素にモデル化したタイヤモデルを作成するタイヤモデル作成ステップと、
車両から車輪とサスペンション部材とを除いた車体本体を剛体モデルでモデル化した車体本体モデルとサスペンション部材を有限個の要素でモデル化したサスペンションモデルとからなる車体モデルを作成する車体モデル作成ステップと、
前記車体モデルのサスペンションモデルに前記タイヤモデルを装着して車両モデルを作成する車両モデル作成ステップと、
設定された境界条件に基づいて、前記車両モデルを、剛表面でかつ平坦しかも前記タイヤモデルとの間に摩擦係数が定義された剛体要素でモデル化された路面モデル上で走行させる走行シミュレーションを行ない車両走行特性又はタイヤ特性を取得するシミュレーションステップとを含むとともに、
前記サスペンション部材は、アーム、スプリング、ショックアブソーバ、トーションビーム、スタビライザー、リンクロッド及びゴムブッシュを含んでなり、かつ前記アーム及び前記リンクロッドは剛体ビーム要素に、前記スプリング、前記ショックアブソーバ及び前記ゴムブッシュは線形若しくは非線形のバネ要素に、前記トーションビーム及び前記スタビライザーはねじれのビーム要素にそれぞれモデル化されてなり、
しかも前記車体本体モデルには、エンジンを剛体要素でモデル化したエンジンモデルを可撓要素を介して支持させ、かつ
前記車両モデル作成ステップは、0Gの重力条件で車両モデルを作成するステップと、そのタイヤモデルに内圧条件を設定するステップと、前記タイヤモデルに内圧条件を設定した後に車両モデルを1Gの重力条件に設定しタイヤモデルに車体モデルの荷重を負荷するステップとを含むとともに、
前記タイヤモデルと前記路面モデルとは互いに接触の可能性が定義され、前記シミュレーションステップの中で両者が互いに接触しているかどうかが判定される一方、
前記シミュレーションステップは、初期速度vの並進成分の速度が定義された前記車体モデルと、この初期速度vの並進成分の速度と回転成分の速度とが定義されたタイヤモデルとからなる初期速度v(≠0)を有する車両モデルが用いられ、
しかも前記走行シミュレーションが、走行中の車両モデルに舵角を与え走行車線を横方向に移動させるとともに舵角を元に戻すことによりレーンチェンジ状態をシミュレーションするレーンチェンジシミュレーションからなり、かつ前記車両走行特性が、このレーンチェンジシミュレーションから得られる車両モデルの挙動又は車両モデルの舵角を戻したときの収れん性により評価されるとともに、
前記レーンチェンジシミュレーションは、舵角0の初期走行時、舵角を入力した直後、レーンチェンジ中及び舵角を0に戻した時の各状態の車両モデルを視覚化して示すステップをさらに含むことを特徴とする車両・タイヤ性能の走行シミュレーション方法。
【請求項2】
トレッドパターンとプライとを含めてタイヤを有限個の要素にモデル化したタイヤモデルを作成するタイヤモデル作成ステップと、
車両から車輪とサスペンション部材とを除いた車体本体を剛体モデルでモデル化した車体本体モデルとサスペンション部材を有限個の要素でモデル化したサスペンションモデルとからなる車体モデルを作成する車体モデル作成ステップと、 前記車体モデルのサスペンションモデルに前記タイヤモデルを装着して車両モデルを作成する車両モデル作成ステップと、
設定された境界条件に基づいて前記車両モデルを、剛表面でかつ凹凸部を有ししかもタイヤモデルとの間に摩擦係数が定義された剛体要素でモデル化された路面モデル上で走行させる走行シミュレーションを行ない車両走行特性又はタイヤ特性を取得するシミュレーションステップとを含むとともに、
前記サスペンション部材は、アーム、スプリング、ショックアブソーバ、トーションビーム、スタビライザー、リンクロッド及びゴムブッシュを含んでなり、かつ前記アーム及び前記リンクロッドは剛体ビーム要素に、前記スプリング、前記ショックアブソーバ及び前記ゴムブッシュは線形若しくは非線形のバネ要素に、前記トーションビーム及び前記スタビライザーはねじれのビーム要素にそれぞれモデル化されてなり、
しかも前記車体本体モデルには、エンジンを剛体要素でモデル化したエンジンモデルを可撓要素を介して支持させ、かつ
前記車両モデル作成ステップは、0Gの重力条件で車両モデルを作成するステップと、そのタイヤモデルに内圧条件を設定するステップと、前記タイヤモデルに内圧条件を設定した後に車両モデルを1Gの重力条件に設定しタイヤモデルに車体モデルの荷重を負荷するステップとを含むとともに、
前記タイヤモデルと前記路面モデルとは互いに接触の可能性が定義され、前記シミュレーションステップの中で両者が互いに接触しているかどうかが判定される一方、
前記シミュレーションステップは、初期速度vの並進成分の速度が定義された前記車体モデルとこの初期速度vの並進成分の速度と回転成分の速度とが定義されたタイヤモデルとからなる初期速度v(≠0)を有する車両モデルが用いられ、
しかも前記車両走行特性が10Hz以下の車体振動特性を含むことを特徴とする車両・タイヤ性能シミュレーション方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、車両に適したタイヤを効率良く開発するのに役立つ車両・タイヤ性能シミュレーション方法に関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】
従来、特定の車両に適したタイヤを開発する場合、実際にタイヤを試作し、これを前記車両に装着するとともに、実際に車両を走行させて官能あるいは計測等の種々の評価がなされている。また試作されたタイヤは、例えば実験室などにおいてドラム試験機を用いてコーナリング特性などが調べられ、その結果からさらに試作モデルに改良を加えて、再び車両モデルに装着して実車評価を繰り返すことが行われていた。
【0003】
しかしながら、従来の開発手法では、先ず実車評価を行うため実際にタイヤの試作が必要となる他、実車試験に用いる車両、該車両の走行場所や必要な計測機器、計測者、テストドライバーなどを必要とするなど、多くの手間と労力さらには時間が必要となる。
【0004】
本発明は、このような問題点に鑑み案出なされたもので、タイヤ、車両の車体本体、サスペンション部材などを有限要素法にて取扱可能な要素でモデル化した車両モデルを作成し、これをコンピュータ等を用いて仮想走行させて車両走行特性、又はタイヤ特性をシミュレーションすることにより、前記車両に適したタイヤを短期間でかつ効率よく開発しうる車両・タイヤ性能のシミュレーション方法を提供することを目的としている。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明は、プライを含めてタイヤを有限個の要素にモデル化したタイヤモデルを作成するタイヤモデル作成ステップと、サスペンション部材を含めて車体を有限個の要素にモデル化した車体モデルを作成する車体モデル作成ステップと、前記車体モデルの前記サスペンション部材がモデル化されたサスペンションモデルに前記タイヤモデルを装着して車両モデルを作成する車両モデル作成ステップと、設定された境界条件に基づいて前記車両モデルの走行シミュレーションを行ない車両走行特性又はタイヤ特性を取得するシミュレーションステップとを含むことを特徴とする車両・タイヤ性能のシミュレーション方法である。
【0006】
また前記車両走行特性は、アンダーステアー又はオーバーステアの程度、ステアリング時の車両応答早さ、ロールの程度の少なくとも1つを含むことができる。また前記サスペンション部材は、アーム、スプリング、ショックアブソーバ、トーションビーム、スタビライザー、リンクロッド、及びゴムブッシュを含んでなり、前記アーム及び前記リンクロッドは剛体ビーム要素に、前記スプリング、前記ジョックアブソーバ及び前記ゴムブッシュは線形若しくは非線形のバネ要素に、前記トーションビーム及び前記スタビライザーはねじれのビーム要素にそれぞれモデル化することができる。しかも、前記車体本体モデルには、エンジンを剛体要素でモデル化したエンジンモデルを可撓要素を介して支持させる。
【0007】
また他の前記車両走行特性としては、例えば10Hz以下の車体振動特性が挙げられる。この場合、前記車体モデルを変形しない剛体モデルで設定することが望ましい。また、さらに他の車両走行特性としては、10Hzよりも大かつ100Hz以下の車体振動特性を含むことができる。この場合、前記サスペンションモデルを除く車体モデルの振動モードを、評価しようとする車体の振動モードと実質的に一致させることが好適である。
【0008】
前記走行シミュレーションは、前記車両モデルを、路面を要素でモデル化した路面モデル上で転動させることによって行うことができる。路面モデルとしては、例えば剛体要素と、その上に設定されかつ水を要素でモデル化した水要素とからなる。この場合、前記車両走行特性としてウエット走行特性を好適にシミュレーションすることができる。また路面モデルは、剛体要素と、その上に設定されかつ雪を要素でモデル化した雪要素とを用いることができる。この場合、車両走行特性として雪上走行特性を好適にシミュレーションすることができる。
【0009】
また路面モデルは、剛体要素と、その上に設定されかつ泥を要素でモデル化した泥要素とで設定することができる。この場合、車両走行特性として泥濘地走行特性を好適にシミュレーションすることができる。さらに路面モデルは、剛体要素と、その上に設定されかつ砂を要素でモデル化した砂要素とで設定することができる。この場合、車両走行特性として砂地走行特性を好適にシミュレーションすることができる。なお路面モデルは、平坦であっても良いが、凹凸部を含むこともできる。この場合、前記車両走行特性として乗り心地特性を好適にシミュレーションすることができる。
【0010】
また車両モデル作成ステップは、0Gの重力条件で車両モデルを作成するステップと、そのタイヤモデルに内圧条件を設定するステップと、前記タイヤモデルに内圧条件を設定した後に車両モデルを1Gの重力条件に設定しタイヤモデルに車体モデルの荷重を負荷するステップとを含むことが望ましい。
【0011】
また前記シミュレーションステップは、初期速度v(≠0)を有する車両モデルを用いることができる。この場合、前記車体モデルには、前記初期速度vの並進成分の速度が定義されるとともに、前記タイヤモデルには、前記初期速度vの並進成分の速度と回転成分の速度とが定義される。
【0012】
また前記走行シミュレーションとしては、タイヤモデルの舵角を一定として定常円旋回させる定常円旋回シミュレーションを含むことができる。この場合、車両走行特性として、この定常円旋回シミュレーションから得られる車両モデルの旋回半径の大きさ又は車両モデルのロール角度により評価されるステアリング特性を好適にシミュレーションすることができる。
【0013】
また走行シミュレーションとしては、レーンチェンジ状態をシミュレーションするレーンチェンジシミュレーションを含むことができる。この場合、車両走行特性として、このレーンチェンジシミュレーションから得られる車両モデルの挙動又は車両モデルの舵角を戻したときの収れん性により評価されるレーンチェンジ特性を好適にシミュレーションすることができる。そして、前記レーンチェンジシミュレーションは、舵角0の初期走行時、舵角を入力した直後、レーンチェンジ中及び舵角を0に戻した時の各状態の車両モデルを視覚化して示すステップを含む。
【0014】
また走行シミュレーションとしては、タイヤモデルに一定のトルクを与えて車両モデルの速度変化を観察する駆動シミュレーションを含むことができる。この場合、前記車両走行特性として駆動力特性を好適にシミュレーションすることができる。
【0015】
また走行シミュレーションとしては、タイヤモデルに一定の制動力を与えて車両モデルの速度変化を観察する制動シミュレーションを含むことができる。この場合、前記車両走行特性として制動力特性を好適にシミュレーションすることができる。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下本発明の実施の一形態を図面に基づき説明する。
図1には本実施形態の車両・タイヤ性能のシミュレーション方法の処理手順のフローチャートを例示している。図の如く本シミュレーション方法では、プライを含めてタイヤを有限個の要素にモデル化したタイヤモデルを作成するタイヤモデル作成ステップS1と、サスペンション部材を含めて車体を有限個の要素にモデル化した車体モデルを作成する車体モデル作成ステップS2と、前記車体モデルの前記サスペンション部材がモデル化されたサスペンションモデルに前記タイヤモデルを装着して車両モデルを作成する車両モデル作成ステップS3と、設定された境界条件に基づいて前記車両モデルの走行シミュレーションを行ない車両走行特性又はタイヤ特性に関する情報を取得するシミュレーションステップS4、S5とを含んでいる。以下、順に説明する。
【0017】
先ずタイヤモデル作成ステップS1を説明する。
本実施形態では、例えば図2に示すような構造を有する乗用車用ラジアルタイヤ(以下、単に「タイヤ」ということがある。)Tをモデル化するものを例示する。タイヤTは、トレッド部12からサイドウォール部13を経てビード部14のビードコア15の回りで折り返されかつコードをタイヤ周方向に対して略90度で傾けたカーカスプライ16aからなるカーカス16と、このカーカス16のタイヤ半径方向外側かつトレッド部12の内方に配されるベルト層17とを具える。
【0018】
前記ベルト層17は、本例ではタイヤ周方向に対して小角度で並列された内、外2枚のベルトプライ17A、17Bが前記コードを交差する向きに積層して構成されている。前記カーカスプライ16aは、例えばポリエステルなどの有機繊維コードを、またベルトプライ17A、17Bはスチールコードを、それぞれシート状のトッピングゴムにより被覆されて構成されている。なお前記ベルト層17の外側には、有機繊維コードをタイヤ周方向に実質的に平行に配列したバンド層19が配されている。
【0019】
またタイヤTは、トレッドゴム12G、サイドウォールゴム13G、ビードゴム14Gなどで覆われる。前記トレッドゴム12Gは、本例では前記バンド層19の外側に配されている。また、トレッド部12の外表面には、例えばタイヤ周方向にのびる縦溝G1と、この縦溝G1に交わる向きにのびる横溝G2などにより所定のトレッドパターンが形成されている。
【0020】
タイヤモデル2は、図3に示すように、前記カーカスプライ16A、ベルトプライ17A、17B、バンド層19を含むプライFを含めてタイヤTを有限個の要素にモデル化したものである。即ち、コンピュータによって数値解析が可能な解析モデルとして定義される。タイヤモデル2を構成する前記要素2a、2b…には、いずれもコンピュータで処理可能な要素が用いられる。具体的には、2次元要素では四辺形要素、3次元要素としては、4面体ソリッド要素、5面体ソリッド要素、6面体ソリッド要素などが挙げられる。
【0021】
また「プライを含めて有限個の要素にモデル化する」とは、プライのコード材、トッピングゴムを、それぞれに対応した要素にモデル化することである。例えばベルト層17については、図4に示すようなベルト層モデル5にモデル化することを言う。すなわちベルトコードcについては四辺形膜要素5a、5bにモデル化し、またベルトコードcを被覆しているトッピングゴムtについては前記四辺形膜要素を覆う六面体ソリッド要素5c、5d、5eでモデル化し、これらを厚さ方向に順番に積層した複合シェル要素とする。また前記ベルトコードcをモデル化した前記四辺形膜要素5a、5bの材料定義は、その厚さを例えばコードcの直径に設定し、ベルトコードcの配列方向とこれと直交する方向とにおいて剛性の異なる直交異方性材料とする。また各方向の剛性は均質化しているものとして取り扱うことが望ましい。なおカーカスプライ16aについも同様にモデル化される。
【0022】
またプライFのトッピングゴムtを表す六面体ソリッド要素5c、5d、5eは、他のゴム部材と同様に超粘弾性材料として定義して取り扱うことができる。このように、プライFについては、コード材、トッピングゴムそれぞれについて材質の特性に応じてモデル化しているため、実際の製品に非常に近い状態をシミュレーションでき精度の高い開発に役立つ。なお各ゴム部材、プライF、ビードコア5を有限要素にモデル化する際には、各ゴム部、コードの複素弾性率、ビードコアの弾性率などに基づき材料特性、剛性が定義される。
【0023】
また本例のタイヤモデル2は、例えば多数の四面体、五面体又は六面体要素、さらにはこれらの組み合わせを用いることにより、前記縦溝G1、横溝G2を含むトレッドパターンを忠実にモデル化している。しかし、開発の主眼がゴム材料やカーカス16のプロファイルといった内部構造に関する場合、タイヤモデル2のトレッドパターンを省略したプレーンなトレッド面とすることができる。この場合、タイヤモデル2の要素総数を減じてコンピュータでの計算時間を短縮するのに役立つ。このようにタイヤモデル2は、評価したいタイヤの設計因子を表現できる有限要素モデルであれば種々、態様を変形しうる。また、このようなタイヤモデル2の作成は、予め基本となる数パターンをタイヤモデルデータベース(図1参照)に蓄えておくこともでき、そこから選択することでも良い。
【0024】
次に前記車体モデル作成ステップS2を説明する。
車体モデル作成ステップS2は、サスペンション部材を含めて評価しようとする車体を有限個の要素にモデル化した車体モデルを作成する。即ち、解析対象の車体が、コンピュータによって数値解析可能な解析モデルとして定義される。図5に示すように、本例の車体モデル6は、車体本体モデル6Aと、サスペンションモデル6Bとを含む。
【0025】
前記車体本体モデル6Aは、車両から車輪とサスペンション部材とを除いた部分を有限個の要素でモデル化して構成される。また車体本体モデル6Aは、本例では、下部フレーム6A1や外装部材6A2といった基本的な骨格部分を含むが、車両の運動性能に実質的に関与しない例えば内装部材やその他細部についてはモデル化せずに省略している。
【0026】
前記車体本体モデル6Aは、本例では外力が加えられても変形しない剛体要素でモデル化したものを示す。但し、車体本体モデル6Aは、実際の車体に使用される材料に近い変形特性、振動特性等を定義しても良い。この場合、より精度の高い解析が可能である。さらに車体本体モデル6Aは、例えばエンジンを剛体要素でモデル化したエンジンモデル(図示省略)を可撓要素(例えばゴムブッシュ)を介して支持させることもできる。この場合、エンジンモデルは支持された可撓要素の変形によって動くため、車両の走行中の乗り心地などをさらに精度良くシミュレーションすることも可能になる。
【0027】
前記サスペンションモデル6Bは、前輪用のサスペンションモデル6Bfと、後輪用のサスペンションモデル6Brとを含む。前輪用のサスペンションモデル6Bfは、詳細は図示しないがステアリング可能にモデル化される。これにより、車体本体モデル6Aに取り付けられたタイヤモデル2は、所定の舵角(スリップ角)に舵取りされる。
【0028】
図6には、一例として後輪用のサスペンション部材Aをモデル化する略図を示している。後輪用のサスペンション部材Aは、概略、一端部が車体本体に枢着されかつ他端部に車輪を装着する可回転のハブ25を具える一対のトレーリングアーム26と、前記一対のトレーリングアーム26、26間を継ぐトーションビーム27と、ショックアブソーバー30にコイルスプリング31を装着した緩衝器32とを含むものを例示する。また緩衝器32の上下は、それぞれダンパマウントアッパーブュシュb1、ダンパマウントロアブュシュb2を介して車体本体もしくはトレーリングアームに取り付けられる。また車体本体に固着されるトレーリングアームにもトレーリングアームブュシュb3が設けられる。
【0029】
そして、このサスペンション部材Aは、前記ハブ25をモデル化したハブモデル35と、前記トレーリングアームをモデル化したトレーリングアームモデル36と、前記トーションビームをモデル化したトーションビームモデル37と、前記緩衝器32をモデル化した緩衝器モデル42と、前記ブッシュb1〜b3をモデル化したブッシュモデル44とを含んで後輪用のサスペンションモデル6Brとしてモデル化される。
【0030】
サスペンションモデル6Bについては、その機械的な運動を表現できるようにモデル化される。すなわち、前記緩衝器モデル42及びブッシュモデル44は、線形若しくは非線形のバネ要素が用いられ、その軸方向に伸縮可能に定義される。またハブモデル35、トレーリングアームモデル36は、それぞれ外力が加えられても形状が変化しない剛体要素として定義される。前記トーションビームモデル37は、ねじれが作用した際に微小のねじれ角を生じるとともに、そのねじれ角に応じた反力が生じ得るようねじれのビーム要素にモデル化される。なお、力が加わり部材が弾性変形することによって、サスペンションの性能が変化する場合があるため、例えば前記ハブモデル35やトレーリングアームモデル36についても、変形を考慮した要素(大きさ、断面特性(面積、断面2次モーメントなど)、弾性率が定義される要素)として取り扱うことにより、操縦安定性や乗り心地性能などのシミュレーション精度が向上する。なおブッシュについては、軸方向と半径方向とのそれぞれのバネ定数、減衰特性を定義したバネダンバーモデルを用いるのが望ましい。これにより、ブッシュの変形を考慮したシミュレーションができ、操縦安定性や乗り心地性能などの予測精度が向上する。
【0031】
またサスペンションモデル6Bの各構成要素ないしその結合(節点)については、その動作状態に基づいて図7に示すようにモデル化される。即ち、移動不能に固定されたものとして取り扱う剛結合(図7(A))、軸方向に移動可能なスライド結合(同図(B))、回転できかつ多軸に周りに揺動可能なジョイント結合(同図(C))、1軸に関して揺動可能な回転ジョイント結合(同図(D))などが定義される。なお詳細は図示していないが、リンクロッド、スタビライザーなども必要により、適宜要素としてモデル化される。
【0032】
さらに車体モデル6は、その重量、重心位置の座標、慣性モーメントが定義される。またサスペンションモデル6Bには、車体本体モデル6Aへの取り付け位置の座標、各バネ要素のスプリングバネ定数、ダンパー減衰定数、各ビーム要素についての曲げ剛性、ねじれ剛性、リンク重量、重心位置の座標、慣性モーメントなどが夫々定義される。車体の各部での変形や応力をより詳細に検討するためには、車体全部または検討したい一部をビーム、シェル、ソリッドなどの有限要素でモデル化することもできる。これらの要素は、弾性率とその形状から、変形(歪)と応力が計算できる。例えば、ビーム要素の場合は、長さ、断面特性(面積、断面2次モーメントなど)、弾性率が定義され、引張りや曲げの変形や応力が計算できる。
【0033】
なお本例ではタイヤモデル作成ステップS1を車体モデル作成ステップS2よりも先に行っているが、逆に車体モデル作成ステップをタイヤモデル作成ステップよりも先に行うことでも良く、さらにはこれらを並列して行うこともできる。
【0034】
次に車両モデル作成ステップを説明する。
車両モデル作成ステップS3は、前記車体モデル6の前記サスペンションモデル6Bに前記タイヤモデル2を装着して車両モデルを作成する。タイヤモデル2は、リムを例えば剛体要素にてモデル化したリムモデル(図示省略)を介して前記サスペンションモデル6Bに装着される。これにより、図8に示す如く、車両モデル9を作成できる。
【0035】
ところで、車両の走行性能は、タイヤの接地形状や接地圧の分布などによって大きく左右されることは良く知られている。従って、精度の良い車両・タイヤ性能のシミュレーションを行うためには、前記タイヤモデル2の正確な接地形状、接地圧分布、たわみ形状などを得ることが前提となる。そこで、本実施形態では、前記車両モデル作成ステップS3では、図9に示すように、0G(Gは標準重力加速度と等しく9.80665m/s2を示す。)の重力条件の車両モデル9aを準備するステップS31と、そのタイヤモデル2に内圧条件を設定するステップS32と、前記タイヤモデル2に内圧条件を設定した後に実質的に1Gの重力条件に設定しタイヤモデル2に車体モデル6の荷重を負荷するステップS33とを含むものが示される。
【0036】
タイヤモデル2に内圧条件を設定するとは、タイヤモデル2に内圧条件を設定して膨張変形シミュレーションを行うことを意味する。具体的には、例えばタイヤモデル2のビード部分をリム巾に等しく強制的に変位させかつ拘束しリム組み状態をシミュレーションするとともに、その後、タイヤモデル2の内腔面に内圧に応じた等分布荷重を負荷することにより行うことができる。そしてタイヤモデル2は、前記等分布荷重に基づき所定の膨張変形が計算されシミュレーションが行われる。
【0037】
このように車体モデル6の自重が作用しない無重力状態でのタイヤモデル2に内圧条件を設定することにより、タイヤモデル2をより実物に近い均一な自然膨張変形状態をシミュレーションしうる。これにより、タイヤに内圧が負荷されたときの形状や内部張力などを正確に表現(シミュレーション)することができる。
【0038】
そして、タイヤモデル2に内圧条件が設定された後に車両モデル9を1Gの重力状態とすることで、車体モデル6の自重がサスペンションモデル6Bを介してタイヤモデル2に負荷される。内圧条件が既に設定されているタイヤモデル2は、車体モデル6の自重と内圧との関係によって撓み変形し、1Gの初期状態が設定される。これにより、タイヤモデル2の正確な接地形状、接地圧分布、たわみ形状などを得ることができる。またこれにより車体モデル6も1Gの初期状態へと設定される(図10(A)参照)。
【0039】
タイヤモデル2、車体モデル6をともに1Gの重力条件で別々に設定し、これらを結合することも考えられる。しかし、この方法では、結合に際して、タイヤモデル2と車体モデル6との力の釣り合いが正確にとれないことがあり、その場合には車両モデル9に振動が生じる不具合が考えられる。この方法では、結合初期状態においてタイヤたわみ荷重、サスペンション変形荷重、車両重量が釣り合っている保証がない。なぜなら、各々の1Gの重力状態は設定された荷重で求められたものであり、真の荷重ではないからである(例えば設定時に前輪右荷重は550kgfだとしても、実際にはタイヤ変形、サスペンション変形で車体に傾きが生じて555kgfになる様な場合がある。)。この様な場合、結合初期のアンバランスにより振動が発生するので、この振動を収めて荷重が釣り合った状態で、評価シミュレーションを行う必要がある。
【0040】
また、先にタイヤモデル2に荷重を負荷し、その後にタイヤモデル2に内圧を設定した場合には、内圧が0のタイヤに荷重を負荷することとなり、タイヤモデル2が大きく変形してしまい、そのサイドウォール部の折れ曲がり変形を考慮した計算が必要になるため好ましくない。またサイドウォール部の大きな折れ曲がり変形を表現できる要素が必要となり、実用性に欠けるものとなる。
【0041】
0Gの車両モデル9を作成する方法は特に限定されない。従って、設定初期の段階から、0Gの車両モデル9を一からモデル化する方法や、例えば図10(A)に示すように、先に1Gの重力条件で車両モデル9を設定し、そこから1Gの重力分の荷重を除荷することにより図10(B)のように、擬似的に0Gの重力条件での車両モデル9を作成する方法が可能である。即ち、後者の場合、1Gの重力条件での各部の初期応力を計算し、1Gの重力条件の車両モデル9からこの初期応力が0となるよう荷重を除荷するシミュレーションを行う。これより、図10(A)、(B)の対比から明らかなように、例えばサスペンションモデル6Bは、その機械的な拘束が許す範囲で伸び、0G(無重力状態)のサスペンションジオメトリーも設定できる。
【0042】
また1Gの重力条件では、例えばサスペンションには1Gに基づく車体モデル6Aの重量が負荷され、前記コイルスプリング31、ブッシュなどには初期状態で応力と歪が既に生じている。本実施形態では、上記のステップS31、S32を行うことにより、1Gの初期状態で生じているサスペンションの応力、歪を車両モデル9に取り入れ再現できる。有限要素法を用いた数値解析は、車体モデル6、タイヤモデル2に荷重を負荷し、各部に生じる応力、歪に基づいて計算が行われる。従って、1G状態を基準とした車体モデル6では、サスペンションに生じている1Gの重力分の歪、応力が計算上無視されてしまうためシミュレーション精度を低下させるおそれがある。本実施形態では、モデル化作業をそれほど複雑化することなくとりわけサスペンションモデル6Bでの計算誤差を防止し、より精度の高い車両・タイヤ性能のシミュレーション結果を得ることも可能となる。
【0043】
サスペンションモデルの荷重負荷状態は、例えば緩衝器モデル42の変位だけに依存させることも、またブッシュ等の変形まで考慮に入れることもできる。後者の場合、1G状態車両モデルの車軸センターに各輪の荷重を抜く方向に荷重負荷して、0G状態のサスペンションジオメトリーを計算できる。このように計算された0Gの重力条件のジオメトリーでの車両モデルについて、内部応力を0として、自重負荷を行う。
【0044】
本シミュレーション方法を行う装置としては、例えば図11に示すようなコンピュータ10が使用される。コンピュータ10は、演算処理装置であるCPUと、このCPUの処理手順などが予め記憶されるROMと、CPUの作業用メモリであるRAMと、入出力ポートと、これらを結ぶデータバスとを含んで構成されている。前記入出力ポートには、本例では所定の情報を入力、設定するためのキーボード、マウス等の入力手段Iと、入力結果やシミュレーション結果を表示しうるディスプレイ、プリンタなどの出力手段Oと、磁気ディスク、光磁気ディスクなどの外部記憶装置Dとが接続される。また前記外部記憶装置Dには、シミュレーションの処理手順、その他、所定のプログラム、データを記憶しうる。
【0045】
本実施形態では、上記コンピュータ10を用い設定された境界条件に基づいて前記車両モデル9の走行シミュレーションを行う。そして、解析しようとする車両の大凡の走行特性、タイヤ性能に関する情報を取得することができる(ステップS5、S6)。一般にタイヤモデル2を使用したシミュレーション手法は従来から存在する(例えば特開平11-153520号公報など)。このようなシミュレーション方法は、タイヤ単体が主となるタイヤ性能は評価できるが、具体的な車両が持つ特性、すなわち車体剛性、サスペンションの特性などとの適合性については未だ十分な評価ができない。そこで、本発明のように、有限要素法を用いて、車体とタイヤとをそれぞれモデル化して組み合わせて車両モデルを作成し、かつコンピュータ上で走行シミュレーションを行うことで、車両によりきめ細かく適合しうるタイヤの開発、評価を可能としている。同様に車体モデル側においては、車体剛性やサスペンション部材などについて、タイヤの特性を生かした開発を行うのに役立つ。
【0046】
本実施形態の走行シミュレーションでは、設定された所定の境界条件に基づき車両モデル9を路面モデル11上で走行させる。入力される境界条件としては、タイヤモデル2についてのリムサイズ、内圧、速度、舵角などが挙げられる。速度を与えるには、車体モデル6を動かすことや駆動輪を回転させることにより行いうる。また。舵角は、タイヤモデル2をキングピン(図示せず)回りに所定角度回転させることにより再現できる。
【0047】
また車両モデル6を仮想走行させる路面モデル11は、例えば図12(A)に示すように、4角形の剛表面を有する剛体要素Eaからなる平坦な路面モデルや、図12(B)〜(E)に示すように、凹凸部jを含む路面モデルが定義できる。凹凸部jは、車両モデル9の進行方向Xに対して直角にのびる凸部j1、凹部j2又は段差j3(同図(B)、(C))を含む他、車両モデル9の進行方向に沿ってのびるわだち状の凹部j4(同図(D))、さらには図示していないがこれらを組み合わせたものなど種々の態様で定義できる。また凹凸部jは、例えば、路面形状に合わせて剛体要素Eaを連ねて定義できる。
【0048】
車両走行特性として、操縦安定性などを評価する場合には、路面モデル11は平坦なものが望ましく、幾何学的な無限または有限平面としてモデル化する。他方、乗り心地、わだち乗り越し、突起乗り越え特性等を評価する場合には、路面モデル11を凹凸部jを含んでモデル化するのが良い。
【0049】
タイヤモデル2と路面モデル11とは互いに接触の可能性が定義される。時間を追うシミュレーションの中では、両者が互いに接触しているかどうかが常に判定される。また、タイヤモデル2の表面と路面モデル11との間には摩擦係数が定義される。前記接触が生じている場合、この摩擦係数に基づき発生する摩擦力が計算されかつこれをタイヤモデル2に作用させる。なおこの摩擦係数の設定により、例えば凍結路といった氷路面を容易に設定することができる
【0050】
また水が溜まった路面を車両で走行する場合のウエット走行性能(ないしハイドロプレーニング性能)、雪が積もった路面を車両で走行する場合の雪上走行性能、泥濘地を車両で走行する場合の泥濘地走行性能、又は砂地を車両で走行する場合の砂地走行性能を検討する場合は、タイヤと接する水、雪、泥、砂などが流動もしくは変形し、これが走行性能に影響を与えることを考慮する必要がある。このような車両走行特性をシミュレーションする場合、水、雪、泥又は砂を、これらに働く力と、流動もしくは変形とを表現しうる要素でモデル化し、これを前記剛体要素Eaの上に定義する。ウエット走行性能を評価する場合には水要素を、雪上走行特性を評価する場合には雪要素を、泥濘地走行特性を評価する場合には泥要素を、砂地走行性能を評価する場合には砂要素をそれぞれ剛体要素Eaとの上に設定する。
【0051】
水のように流動性が強い対象物質をモデル化する場合、剛体要素Eaの上の空間上に3次元状に格子を設定し、その各格子点で対象物質に働く圧力や速度、密度を計算するオイラー要素を用いる。これにより水要素が定義できる。また、例えば雪、泥のように変形性が強い対象物質をモデル化する場合は、これらを有限の要素に分割し、各々の要素に働く応力や変形、密度変化を計算するラグランジュ要素が用いられる。即ちラグランジュ要素を用いて雪要素、泥要素を定義できる。さらに、砂のように流動性、変形性のどちらが強いとも言えない場合、オイラー要素とラグランジュ要素の両者を混合した要素を用いて砂要素を定義するのが良い。この場合は、まず図13(A)、(B)に示すように、砂が変形したと仮定して先にラグランジュ要素での計算を行い、その後、図13(C)の如く変形した要素をもとの形状にもどす操作(リメッシュ)を行ってオイラー要素の計算を行うことができる。
【0052】
次に車両モデル9の走行シミュレーションは、下記の運動方程式を時間積分する事により行われる。
【0053】
【数1】

【0054】
本シミュレーションを構成する剛体やバネ、タイヤの各要素に対して上記の式が作成され、微小時間ステップを追って積分する事で時々刻々の車両モデル9の状態がシミュレーションされていく。この時の時間ステップは使用されている個々の有限要素を応力波が伝わる時間で最小の時間より小さくなければならず、従って要素の大きさに依存するが、概ね10-5〜10-6sec程度とするのが好ましい。また例えば路面モデルとタイヤモデル2との間の様に接触現象が起こる部分では、接触を考慮する様に定義されている。すなわち、前記微小時間ステップの中で、路面モデル11とタイヤモデル2との接触が検知されると、接触がないものとして路面モデル内に食い込んだタイヤモデル2に該部分を押し戻す反力を与えることにより前記接触を表現しうる。他方、路面モデル11に水要素などの剛体要素以外の要素が存在する場合、タイヤモデルの表面がその境界面として与えられ、その部分の要素が排除される(流体との連成)。このような過程で行われるシミュレーションにより、各部の変形形状、速度、加速度、力(圧力)などが逐次計算され、かつ出力される。このような具体的には計算には、米国リバモア・ソフトウエア・テクノロジー(LSTC)社製のアプリケーションソフト「LS-DYNA」などを用いて行うことができる。
【0055】
また本実施形態では、このシミュレーションステップにおいて、初期速度v(≠0)を有する車両モデルを用いるものが例示される。車両・タイヤ走行シミュレーションで走行状態を計算する場合、速度が0から評価速度まで速度を上昇させていく方法が考えられる。しかしながら、この方法では、加速に要する時間と、その間に車両モデルが移動する距離がいずれも大となり、モデルの規模が大きくなりかつ計算時間も非常に大となる。また、例えば車両モデル9に大きな加速度を与えて計算時間を小とすることも一応考えられるが、大きな加速度を受けて、車両モデル9の要素が潰れてしまい計算が不可能になることもある。
【0056】
本実施形態では、このような不具合を克服するために、車両モデル9全体に対して初期速度v(≠0)を定義している。車体本体モデル6A、サスペンションモデル6Bについては、速度並進成分、即ち車両が進行する方向と平行な速度成分を与える。車両の前後方向をX、幅方向をY、上下方向をZとすると、X方向に初期速度を与えるする。一方、タイヤモデル2(リムモデルを含む)については、速度並進成分と回転成分との合計の速度を定義しかつ与える。
【0057】
この初期速度は、例えば評価速度と同一に設定することが望ましい。評価速度が数段階存在する場合、同じ操作を数段階について行うか、或いは速度を変更して行うことができる。速度が0から設定された初速までの加速度の影響は、例えば車両モデル9に荷物等が積載されており、この荷物等が加速度で移動し車両モデル9の重心位置が変化するといった場合に影響があるが、このような想定は非常に希であり実質的な走行シミュレーションに影響するものではない。このように車両モデル9において、予め初速vを定義することにより、加速中の計算をすることなく、タイヤ車両走行シミュレーションが初期速度の走行状態となり、計算時間の大幅な短縮化が可能となる。
【0058】
図14には、このような車両走行シミュレーションを行った車両モデル9の走行軌跡図を示し、図15には、車両モデル9の重心位置Gが描く軌跡曲線L1、L2を示している。軌跡曲線L1では旋回中に車両モデルが旋回外側に張り出すいわゆるアンダーステアー傾向が大きく、目標とするニュートラルステアーでないことが分かった。このようにシミュレーションの結果、目標を達成できていないと判断される場合(ステップS7でN)、ステップS11のようにタイヤの設計因子を変更し、再度、シミュレーションを行う(ステップS5)。タイヤの設計因子については、例えば前輪のタイヤモデル2のトレッドゴム要素を高いグリップ力を有する要素に定義変更したり、トレッドパターンを改良したり、タイヤの内部構造に改良を加えることなどが挙げられる。そして、再度走行シミュレーションを行うことにより、車両モデル9の重心位置は例えば図11の軌跡曲線L2のように改良され、目標とするニュートラルステアーがほぼ得られることを突き止めることができる。
【0059】
車両走行特性の他の例としては、10Hz以下の車体振動特性が挙げられる。10Hz以下の車体振動特性とは、車両が走行している際に生じる振動数が10Hz以下の比較的大きな揺れに関する性能である。このような大きな周期の揺れは、主としてサスペンションの特性とタイヤ性能とに由来し、車体本体やシャシーに生じる小さな変形等の影響はきわめて少ないことが判明した。従って、このような特性をシミュレーションする場合、前記車体本体モデル6Aを、外力が作用しても変形しない剛体モデルで構成(定義)することが望ましい。剛体モデルは、運動計算が可能な最小限の変数、例えばその質量、重心座標、慣性モーメント等が定義される。このように、車体本体モデル6Aを定義することによって、走行シミュレーションにおいて車体本体モデルの変形計算が無くなるため計算時間を大幅に短縮しうる。
【0060】
車両走行特性のさらに他の例としては、10Hzよりも大かつ100Hz以下の車体振動特性が挙げられる。この振動特性は、車両が走行している際に生じる振動数が10Hzよりも大かつ100Hz以下の微細な車両の揺れに関する性能であり、主に車体が持つ振動モードとタイヤ性能との組み合わせに大きく影響を受ける。このような特性をシミュレーションする場合、車体モデル9の振動モードを、評価しようとする車体の振動モードと実質的に一致させることが望ましい。
【0061】
このように、車体モデル6を評価車両の車体の振動モードをもった振動モデルとして定義する。振動モードは、系に固有の振動形態であり、一連の離散的な振動数と各振動数ごとの特徴ある運動様式をもつ。評価車両の車体の振動モードは、加振実験または有限要素モデルのモード解析により得ることができる。簡易な例では、図16に示すように1本の棒の1次の振動モードがfHzであるとき、この振動は図17に示す1自由度の質量mとバネsとの連結体からなる振動モデルとして定義でき、振動数fを所定の関数で表すことができる。車体モデル6についてもこの例の様に、車体がもつ振動モードと等価な振動モデルに置き換えることによりシミュレーションでの取り扱いを簡易にできる。なお減衰については、実車について加振実験から得られた減衰特性が定義される。この例では、車体モデルの振動特性が加わり、剛体モデルとした場合に比べ、計算時間は大となるが車体の振動変形を考慮した計算ができ、上記振動数の車体の揺れをより精度良くシミュレーションすることができる。
【0062】
また車両走行特性の他の形態として、ステアリング特性を含むことができる。ステアリング特性は、例えば図18に示すように、定常円旋回シミュレーションを行い、このシミュレーションから得られる車両モデル9の旋回半径Rの大きさ、又は車両モデル9のロール角度により評価することができる。定常円旋回シミュレーションは、車両モデル9において、タイヤモデル2の舵角を一定としかつ一定の速度で路面モデル11を走行させることにより行う。
【0063】
このシミュレーションから、車両モデル9の重心点が描く軌跡(円)に関する情報を取得し、車両モデル9の旋回半径Rを調べることができる。ステアリング特性は、この旋回半径Rの大きさによって、アンダーステア傾向、あるいはオーバーステア傾向といったステアリング特性が評価される。また種々のタイヤモデル2を準備し、同一の速度で定常円旋回シミュレーションでの旋回半径を調べることにより、タイヤ性能の比較等を容易に行うことができる。このように、試作前の段階でステアリング特性を予測することにより、タイヤモデル2、サスペンションモデル6Bの開発期間を大幅に短縮するのに役立つ。さらにステアリング特性は、前記旋回半径の他、旋回走行中の車両モデル9のロール角度によっても評価することができる。なおロール角度は、旋回外側への車両モデルの傾き角度をもって表す。
【0064】
また車両走行特性の他の形態として、レーンチェンジ特性を含むことができる。レーンチェンジは、図19に示すように、走行中の車両モデル9に舵角を与え走行車線をF1からF2へ横方向に移動させるとともに、舵角を元に戻す動作をいう。そして、前記走行シミュレーションステップでは、このレーンチェーンジを、車両モデル9、路面モデル11を用いてシミュレーションするレーンチェンジシミュレーションを行う。そして、このレーンチェンジシミュレーションから、車両モデル9の挙動(例えばロール角度の変化、横加速度の変化等)又は車両モデルの舵角を戻したときの収れん性(車両モデルの重心点の軌跡のふらつき等)の情報を取得し、その性能を評価することができる。
【0065】
図20〜図24には、レーンチェンジシミュレーションにおける車両モデルを視覚化して示す。図20では、舵角0の初期走行時の車両モデルを示している。また図21では、舵角を入力した直後の車両モデル9を示す。車両モデルには小さなロールが生じていることが判る。図22には、レーンチェンジ中の車両モデル9を示し、車体モデルが比較的大きくロールしていることが判る。図23には、舵角を0に戻したときの車両モデルの状態を示す。さらに図24にはレーンチェンジを終えて車両モデル9が収束した状態を示す。
【0066】
また図25(A)〜(D)には、このレーンチェンジシミュレーションから取得した種々の情報を示し、(A)は車両モデル9の速度と時間との関係、(B)は車両モデル9の舵角と時間との関係、(C)は車両モデル9のヨー角と時間との関係、(D)はロール角と時間との関係をそれぞれ示している。このような情報をシミュレーションステップから取得することにより、解析対象となる車体、サスペンション及びタイヤを組み合わせた車両の大凡のレーンチェンジ挙動を推察することができる。
【0067】
また車両走行特性の他の形態として、駆動力特性を含むことができる。この場合、走行シミュレーションとして、例えば静止している車両モデル9のタイヤモデルに一定のトルクを与えて路面モデル11上を走行させる駆動力シミュレーションを行う。駆動力は、例えば解析対象となる車両が前輪駆動の場合、2つの前輪の車軸にトルクを与えることで再現できる。このトルクの大きさは、定義したアクセルスロット開度に応じたエンジン回転数とギアレシオから決定できる。また車両には、通常、ディファレンシャルギヤが装着されているため、直進時には、エンジントルクから算出されるトルクの半分を左右の前輪にそれぞれ配分する。例えば、エンジントルクをT、ギアレシオをrとするとき、左右の前輪それぞれには、T・r/2のトルクが与えられる。そして、駆動力シミュレーションから、図26に示すように、種々の車両モデルについて、時間-速度の変化についての情報を取得しこれを用いて各種評価をなしうる。
【0068】
また車両走行特性の他の形態として、制動力特性を含むことができる。この場合、走行シミュレーションとして、例えば走行している車両モデル9のタイヤモデルに一定の制動力を与えて路面モデル11上を制動させる制動力シミュレーションを行う。制動力は、車輪4輪にトルクとして与えられる。このトルクの大きさは、想定したブレーキ力により設定される。そして、この制動力シミュレーションから、図27に示すように、時間-速度の変化についての情報を取得しこれを用いて評価を行う。制動力を一定とした場合でも、車体、サスペンション、タイヤの仕様によって、減速度が種々異なるため、このような制動力シミュレーションを行うことにより、解析対象に適した車体、サスペンション、さらにはタイヤを推測することができる。また前記駆動力シミュレーション、制動力シミュレーションなどにおいて、車両モデルの重心位置の変化なども調べることができ、制動、駆動時の挙動なども容易に評価することができる。
【0069】
このように種々の走行シミュレーションの結果によって目標が達成された場合(ステップS7でY)、評価されたタイヤモデル2に従って実際のタイヤを試作し(ステップS8)、これを実車にて評価することが望ましい(ステップS9)。実車評価によっても、シミュレーションと同様に目標を達成することができた場合(ステップS10でY)、車両に適したタイヤの開発を終了できる。このように、本実施形態の車両・タイヤの走行シミュレーション方法にあっては、シミュレーションにより、目標に達するまでタイヤの設計因子を種々変更し、車両に最適なタイヤを検討することができるため、従来の試作を繰り返していた開発手法に比して大幅に効率化でき、開発期間の短縮に役立ちタイヤの低コスト化なども可能とする。本発明によるシミュレーション方法を用いた場合、新規の車両に適合したタイヤを開発する期間を、従来の標準的な期間に対して約3ケ月短縮することができた。
【0070】
なお実車評価において、タイヤの性能がシミュレーションの結果とは異なり目標に到達し得ていないことが判明した場合(ステップS10でN)、シミュレーションの補正を行う。この補正処理では、モデルと実物とが精度良く対応できていない事が考えられるので、まず.実タイヤ単体の性能(例えばコーナリング性能)と、シミュレーションで得られたタイヤモデル単体の性能とを比較し、両者の相関付けを行う。この際、補正する項目としては、実際のタイヤの仕上がりに応じた設計因子の変更や摩擦係数の設定などであり、これをタイヤモデル側に反映させる。また実タイヤ単体の性能と、シミュレーションで得られたタイヤモデル単体の性能とが整合している場合には、車体モデル6側に不一致があることになる。この場合は、車体モデル6の重量、重心位置、サスペンションバネ定数などを適宜補正し、実測との相関付けを行う。
【0071】
このように、実車評価をシミュレーションの結果にフィードバックさせることにより、次回以降のシミュレーション結果の精度をより高めることができ、ひいてはシミュレーションの信頼性を向上しうる。
【0072】
【発明の効果】
上述したように、本発明の車両・タイヤ性能のシミュレーション方法では、車両とタイヤとを組み合わせたときの適合性をタイヤを実際に試作することなくある程度まで評価することができるため、開発効率を大幅に向上し開発期間の短縮化に役立つ。またタイヤはプライを含めてモデル化しうるため、信頼性の高いシミュレーション結果が得られ高度な解析も可能となる。特にタイヤモデルはプライを含めてモデル化されているため、また車体モデルはサスペンションモデルを含むことにより、より精度の高い解析結果を得ることができる。また請求項1の発明では、レーンチェンジシミュレーションから、例えば車両モデルの速度と時間との関係、車両モデルの舵角と時間との関係、車両モデルのヨー角と時間との関係、ロール角と時間との関係を取得することにより、解析対象となる車体、サスペンション及びタイヤを組み合わせた車両の大凡のレーンチェンジ挙動を推察することができる。同様に請求項2記載の発明のように、車両走行特性として10Hz以下の車体振動特性を評価できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明の実施形態を示すフローチャートである。
【図2】
評価対象のタイヤの一例を示す断面図である。
【図3】
タイヤモデルを例示する斜視図である。
【図4】
タイヤのプライのモデル化を説明する概念図である。
【図5】
車体モデルを例示する斜視図である。
【図6】
サスペンション部材のモデル化を説明する概念図である。
【図7】
(A)〜(D)は、要素の接続部を例示する略図である。
【図8】
車両モデルを例示する斜視図である。
【図9】
車両モデル作成ステップの一例を示すフローチャートである。
【図10】
(A)は1Gの重力条件での車両モデルを視覚化した側面図、(B)は0Gの重力条件での車両モデルを視覚化した側面図である。
【図11】
本発明を実施するコンピュータの概略図である。
【図12】
(A)〜(E)は、路面モデルの一例を示す斜視図である。
【図13】
(A)〜(C)はオイラー要素、ラグランジュ要素を説明する線図である。
【図14】
車両モデルの走行軌跡図である。
【図15】
その略図である。
【図16】
1本の棒の振動の略図である。
【図17】
質量、バネ系のモデル図である。
【図18】
定常円旋回シミュレーションを説明する概念図である。
【図19】
レーンチェンジシミュレーションを説明する概念図である。
【図20】
レーンチェンジシミュレーション中の車両モデルを視覚化した線図である。
【図21】
レーンチェンジシミュレーション中の車両モデルを視覚化した線図である。
【図22】
レーンチェンジシミュレーション中の車両モデルを視覚化した線図である。
【図23】
レーンチェンジシミュレーション中の車両モデルを視覚化した線図である。
【図24】
レーンチェンジシミュレーション中の車両モデルを視覚化した線図である。
【図25】
(A)〜(D)は、レーンチェンジシミュレーションから取得した車両モデル速度、舵角、ヨー角、ロール角を示すグラフである。
【図26】
駆動力シミュレーションにおける時間、速度の関係を示すグラフである。
【図27】
制動力シミュレーションにおける時間、速度の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
2 タイヤモデル
6 車体モデル
6A 車体本体モデル
6B サスペンションモデル
9 車両モデル
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-09-30 
出願番号 特願2001-177588(P2001-177588)
審決分類 P 1 652・ 121- ZA (B60C)
最終処分 取消  
前審関与審査官 野村 康秀  
特許庁審判長 赤穂 隆雄
特許庁審判官 篠原 功一
竹中 辰利
登録日 2001-11-22 
登録番号 特許第3253952号(P3253952)
権利者 住友ゴム工業株式会社
発明の名称 車両・タイヤ性能のシミュレーション方法  
代理人 住友 慎太郎  
代理人 苗村 正  
代理人 加藤 和詳  
代理人 苗村 正  
代理人 中島 淳  
代理人 福田 浩志  
代理人 住友 慎太郎  
代理人 西元 勝一  
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