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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C08G
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08G
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08G
審判 全部申し立て 発明同一  C08G
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08G
管理番号 1132556
異議申立番号 異議2003-72602  
総通号数 76 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1996-09-17 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-10-24 
確定日 2005-12-12 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3402006号「 脂肪族ポリエステル共重合体」の請求項1ないし6に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3402006号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 (1)手続の経緯
本件特許3402006号の発明は、平成7年8月30日(優先権主張;平成6年8月31日、平成6年11月11日及び平成7年1月5日;日本)に出願され、平成15年2月28日にその特許権の設定登録がなされ、その後、福田雅彰(以下、「異議申立人A」という。)及び金子しの(以下、「異議申立人B」という。)より特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、それに対して、その指定期間内である平成16年8月2日に、特許異議意見書及び訂正請求書が提出され、その後、異議申立人Aより上申書が提出され、特許権者に対し審尋がなされ、回答書が提出され、さらに、取消理由通知がなされ、それに対して、その指定期間内である平成17年11月15日に、訂正請求書が提出されるとともに、先の訂正請求書が取り下げられたものである。
(2)訂正の適否についての判断
ア、訂正の内容
訂正事項a:特許請求の範囲の訂正
a-1、請求項1の
「下記(I)式で表される脂肪族オキシカルボン酸単位0.02〜30モル%、下記(II)式で表される脂肪族または脂環式ジオール単位(但し、エチレングリコール単位を除く)35〜49.99モル%、および下記(III)式で表される脂肪族ジカルボン酸単位35〜49.99モル%からなり、かつ、数平均分子量が1万〜20万であることを特徴とする脂肪族ポリエステル共重合体。
(I)-O-R1 -CO-(式中、R1 は2価の脂肪族炭化水素基)
(II)-O-R2 -O-(式中、R2 は2価の脂肪族炭化水素基または2価の脂環式炭化水素基)
(III)-OC-R3 -CO-(式中、R3 は直接結合または2価の脂肪族炭化水素基)」を、
「下記(I)式で表される脂肪族オキシカルボン酸単位1.0〜10モル%、1,4-ブタンジオール単位45〜49.5モル%、およびコハク酸単位を含む下記(III)式で表される脂肪族ジカルボン酸単位45〜49.5モル%からなり、かつ、数平均分子量が1万〜20万であることを特徴とする脂肪族ポリエステル共重合体。
(I)-O-R1 -CO-(式中、R1 は2価の脂肪族炭化水素基)
(III)-OC-R3 -CO-(式中、R3 は直接結合または2価の脂肪族炭化水素基)」と訂正する。
a-2、請求項2の
「(II)式で表される脂肪族または脂環式ジオール単位と(III)式で表される脂肪族ジカルボン酸単位のモル%が実質的に等しく、それぞれ45〜49.5モル%であることを特徴とする請求項1記載の脂肪族ポリエステル共重合体。」を、
「1,4-ブタンジオール単位とコハク酸単位を含む(III)式で表される脂肪族ジカルボン酸単位のモル%が実質的に等しく、それぞれ45〜49.5モル%であることを特徴とする請求項1記載の脂肪族ポリエステル共重合体。」と訂正する。
a-3、請求項4の
「(II)式における-R2 -が、-(CH2)n-(nは3〜10の整数)で表される脂肪族炭化水素基または炭素数3〜10の2価の脂環式炭化水素基であり、 (III)式における-R3 -が、-(CH2 )m -(mは0または1〜10の整数)であることを特徴とする、請求項1ないし3のいずれかに記載の脂肪族ポリエステル共重合体。」を、
「 (III)式における-R3 -が、-(CH2 )m -(mは0または1〜10の整数)であることを特徴とする、請求項1ないし3のいずれかに記載の脂肪族ポリエステル共重合体。」と訂正する。
a-4、請求項6の
「(I)式が乳酸単位またはグリコール酸単位、(II)式が1,4-ブタンジオール単位、(III)式がコハク酸単位であることを特徴とする、請求項1ないし5のいずれか に記載の脂肪族ポリエステル共重合体。」を、
「(I)式が乳酸単位またはグリコール酸単位、(III)式がコハク酸単位であることを特徴とする、請求項1ないし5のいずれかに記載の脂肪族ポリエステル共重合体。」と訂正する。
訂正事項b:発明の詳細な説明の訂正
b-1:明細書の段落【0008】を、
「本発明はこのような知見に基づき達成されたもので、本発明に係るポリエステル共重合体は、下記(I)式で表される脂肪族オキシカルボン酸単位1.0〜10モル%、1,4-ブタンジオール単位45〜49.5モル%、およびコハク酸単位を含む下記(III)式で表される脂肪族ジカルボン酸単位45〜49.5モル%からなり、かつ、数平均分子量が1万〜20万であることを特徴とするものである。
(I)-O-R1 -CO-(式中、R1 は2価の脂肪族炭化水素基)
(III)-OC-R3 -CO-(式中、R3 は直接結合または2価の脂肪族炭化水素基)」と訂正する。
ウ、訂正の適否
訂正事項aは、特許請求の範囲に関する訂正であり、訂正a-1には、以下の3点の訂正が認められる。
1)(I)式で表される脂肪族オキシカルボン酸単位の存在量を「1.0〜10モル%」とする訂正
2)(II)式で表される脂肪族または脂環式ジオール単位及びその存在量を、「1,4-ブタンジオール単位45〜49.5モル%」とする訂正
3)(III)式の脂肪族ジカルボン酸単位について、「コハク酸単位を含む」とし、その存在量を、「45〜49.5モル%」する訂正
上記の1)は、明細書の段落【0022】の記載に基づいて、その存在量を限定するものであり、2)は、段落【0015】及び実施例の記載に基づいて1,4-ブタンジオール単位に限定するとともに、その存在量を段落【0022】の記載に基づいて限定するものであり、3)は、段落【0017】及び実施例の記載に基づいてコハク酸を含むとするとともに、その存在量を段落【0022】の記載に基づいて限定するものであるから、いずれの訂正も、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内において、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正と認められる。
訂正a-2〜a-4は、引用する請求項1の訂正に整合をはかるための訂正であり、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内において、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正と認められる。
訂正事項b(b-1)は、発明の詳細な説明の訂正であり、特許請求の範囲の訂正である訂正事項a(a-1〜a-4)に伴い、特許請求の範囲との整合をはかるため、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内において、明りょうでない記載の釈明を目的とするものと認められる。
そして、上記訂正事項a(a-1〜a-4)及び訂正事項b(b-1)は、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
以上のとおりであるから、上記訂正は、平成11年改正前の特許法第120条の4第2項及び同条第3項で準用する特許法第126条第第2項から第4項までの規定に適合するので、当該訂正を認める。
(3)特許異議の申立てについての判断
ア、申立て理由の概要
1)異議申立人Aは、甲第1号証(特願平6-64282号明細書、特開平7-228675号公報参照)、甲第2号証(特願平5-319491号明細書、特開平7-172425号公報参照)、甲第3号証(特開昭60-101118号公報)、甲第4号証(特開平6-16972号公報)、甲第5号証(特開平4-292619号公報)、甲第6号証(「理化学辞典」第4版、株式会社岩波書店、1987年10月12日、第583頁、「重縮合」の項)及び甲第7号証(「生分解性ケミカルスとプラスチック」、株式会社シーエムシー、2000年3月1日、第54頁)を提出し、訂正前の請求項1〜6に係る発明は、その出願の日前の出願であって、その出願後に出願公開された甲第1号証及び甲第2号証の願書に最初に添付した明細書に記載された発明と同一であり、しかも本願の発明者がその出願前の出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人がその出願前の出願に係る上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであり、また、訂正前の請求項1〜6に係る発明は、本件出願前にに国内において頒布されたことの明らかな甲第3〜5号証に記載された発明と同一であるか、あるいは甲第3〜6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号あるいは第2項の規定により特許を受けることができないものであり、さらに、明細書の記載要件を具備しておらず、特許法第36条第4項及び第6項第1号の規定を満たさない出願であるから、訂正前の請求項1〜6に係る発明の特許は、取り消されるべき旨主張している。
2)異議申立人Bは、甲第1号証(特開昭60-101118号公報)、甲第2号証(特開平5-43665号公報)、甲第3号証(特開平7-228675号公報)、甲第4号証(「岩波 生物学辞典」、株式会社岩波書店、1986年9月16日、第935頁、「ドルトン」の項)及び甲第5号証(「Acta Polymerica 34(1983)Heft11/12,p754-761)を提出し、訂正前の請求項1〜6に係る発明は、甲第1及び2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、また、訂正前の請求項1〜6に係る発明は、甲第3号証に記載された発明と同一であるから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであるから、訂正前の請求項1〜6に係る発明の特許は、取り消されるべき旨主張している。
イ、訂正明細書の請求項1〜6に係る発明
訂正明細書の請求項1〜6に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」〜「本件発明6」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1〜6に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。
「【請求項1】 下記(I)式で表される脂肪族オキシカルボン酸単位1.0〜10モル%、1,4-ブタンジオール単位45〜49.5モル%、およびコハク酸単位を含む下記(III)式で表される脂肪族ジカルボン酸単位45〜49.5モル%からなり、かつ、数平均分子量が1万〜20万であることを特徴とする脂肪族ポリエステル共重合体。
(I)-O-R1 -CO-(式中、R1 は2価の脂肪族炭化水素基)
(III)-OC-R3 -CO-(式中、R3 は直接結合または2価の脂肪族炭化水素基)
【請求項2】 1,4-ブタンジオール単位とコハク酸単位を含む(III)式で表される脂肪族ジカルボン酸単位のモル%が実質的に等しく、それぞれ45〜49.5モル%であることを特徴とする請求項1記載の脂肪族ポリエステル共重合体。
【請求項3】 数平均分子量が3万〜20万であることを特徴とする請求項1または2記載の脂肪族ポリエステル共重合体。
【請求項4】 (III)式における-R3 -が、-(CH2 )m -(mは0または1〜10の整数)であることを特徴とする、請求項1ないし3のいずれかに記載の脂肪族ポリエステル共重合体。
【請求項5】 (I)式 で表される脂肪族オキシカルボン酸単位が、下記(IV)式で表されるα-ヒドロキシ脂肪族カルボン酸単位であることを特徴とする、請求項1ないし4のいずれかに記載の脂肪族ポリエステル共重合体。
【化1】

(式中、lは0または1〜10の整数)
【請求項6】 (I)式が乳酸単位またはグリコール酸単位、(III)式がコハク酸単位であることを特徴とする、請求項1ないし5のいずれか に記載の脂肪族ポリエステル共重合体。」
ウ、刊行物等に記載された事項
異議申立人A及びBの提出した各甲号証について、以下、次のとおり略記する。
先願明細書1:特願平6-64282号明細書(特開平7-228675号公報参照)(異議申立人A提出甲第1号証、異議申立人B提出甲第3号証)
先願明細書2:特願平5-319491号明細書(特開平7-172425号公報参照)(異議申立人A提出甲第2号証)
刊行物1:特開昭60-101118号公報(異議申立人A提出甲第3号証、異議申立人B提出甲第1号証)
刊行物2:特開平6-16972号公報(異議申立人A提出甲第4号証)
刊行物3:特開平4-292619号公報(異議申立人A提出甲第5号証)
刊行物4:「理化学辞典」第4版、株式会社岩波書店、1987年10月12日、第583頁、「重縮合」の項(異議申立人A提出甲第6号証)
刊行物5:特開平5-43665号公報(異議申立人B提出甲第2号証)
刊行物6:「岩波 生物学辞典」、株式会社岩波書店、1986年9月16日、第935頁、「ドルトン」の項(異議申立人B提出甲第4号証)
刊行物7:「Acta Polymerica 34(1983)Heft11/12,p754-761(異議申立人B提出甲第5号証)
参考資料1:「生分解性ケミカルスとプラスチック」、株式会社シーエムシー、2000年3月1日、第54頁(異議申立人A提出甲第7号証)
上記先願明細書1及び2、刊行物1〜7及び参考資料1に記載された事項は次のとおりである。
a、先願明細書1
「【請求項1】 反応原料として、(i) 脂肪族多価アルコール類と脂肪族多塩基酸類、または(ii)脂肪族多価アルコール類と脂肪族多塩基酸類とヒドロキシカルボン酸類を使用し、該モノマーを有機溶媒を含む反応混合物中で直接縮合反応することを特徴とする、重量平均分子量が15,000以上である脂肪族ポリエステルの製造方法。」(特許請求の範囲請求項1)
「【請求項10】多価アルコールが脂肪族ジオールである請求項1記載の方法。
【請求項11】脂肪族ジオールが、エチレングリコールまたは1,4-ブタンジオールである請求項10記載の方法。
【請求項12】多塩基酸が脂肪族ジカルボン酸である請求項1記載の方法。
【請求項13】脂肪族ジカルボン酸が、コハク酸またはアジピン酸である請求項12記載の方法。
【請求項14】ヒドロキシカルボン酸類がヒドロキシカルボン酸オリゴマーである請求項1記載の方法。
【請求項15】ヒドロキシカルボン酸が、乳酸である請求項1記載の方法。
【請求項16】請求項1記載の方法で得られた重量平均分子量が15,000以上の脂肪族ポリエステル。」(同請求項10〜16)
「実施例 6
エチレングリコール20.2gとコハク酸38.4gに乳酸7.3gにジフェニルエーテル123gと触媒の金属錫0.66gを加え、125℃/140mmHgで9時間、系外に水を留出しながら加熱攪拌しオリゴマー化した。これにDean Stark trapを取り付け、140℃/15mmHgで3時間共沸脱水反応を行い水分を除去し、その後、Dean Stark trapをはずし、モレキュラーシーブ3A、20gが充填された管を付け、留出した溶媒がモレキュラーシーブ層中を通って反応器に戻るようにした。その後、130℃/13mmHgで33時間反応を行った。その反応マスを720mlのアセトニトリルに溶かし、1NのHCl水溶液300mlに加え0.5Hr攪拌した後、IPA320mlを加えてからメタノール4.5l中に放出し再沈した。ノルマルヘキサン3lで洗浄した後減圧乾燥した。ポリマー中の触媒の錫の含有量は10ppm以下になっていた。収率は69%でコポリマーの重量平均分子量は147,000であった。このポリマーを5NのNaOH水溶液中、100℃で10時間加水分解した結果、エチレングリコール、コハク酸および乳酸が、使用した割合でポリマー中に含まれていることが確認された。
実施例 7
エチレングリコール20.0gとアジピン酸47.1gと乳酸7.2gに金属錫0.228gを加え、140℃/1atmで7.5時間、系外に水を留出しながら加熱攪拌しオリゴマー化した。これにDean Stark trapを取り付け、ジフェニルエーテル98gと金属錫2.366gを加え、150℃/38mmHgで2.5時間共沸脱水反応を行い水分を除去し、その後、DeanStark trapをはずし、モレキュラーシーブ3A、20gが充填された管を取り付け、留出する溶媒がモレキュラーシーブを通って再び系内に戻るようにした。150℃で23時間反応を行った。その反応マスを600mlのクロロホルムに溶かし、6.0lのアセトンに加え再沈した後、減圧下60℃で6時間乾燥しコポリマーを得た。得られたコポリマーの重量平均分子量は98,000であった。
実施例 8
プロピレングリコール24.5gとコハク酸38.1gと乳酸14.4gにジフェニルエーテル260g、金属錫1.163gに加え、130℃/140mmHgで7時間、系外に水を留出しながら加熱攪拌しオリゴマー化した。これに、Dean Stark trapを取り付け、140℃/30mmHgで8時間共沸脱水を行い、その後、モレキュラーシーブ3Aを20g充填した管を付け、留出した溶媒がモレキュラーシーブ層中を通って反応器に戻るようにし、130℃/17mmHgで41Hr攪拌した。その反応マスを600mlのクロロホルムに溶かし、4lのアセトンに加え再沈した後、減圧下60℃で6時間乾燥しポリマーを得た。そのポリマーの重量平均分子量は124,000であった。」(段落【0039】〜【0041】)
b、先願明細書2
「【請求項1】 脂肪族多価アルコール類またはその混合物と、脂肪族多塩基酸類またはその混合物またはそれらのオリゴマー、あるいはさらにヒドロキシカルボン酸類またはその混合物またはそれらのオリゴマーを有機溶剤を含む反応混合物中で直接縮合反応して得られる分子量50,000以上の脂肪族ポリエステルを主成分とする熱可塑性ポリマー組成物からなる耐衝撃性に優れた分解性容器。
【請求項2】 脂肪族多塩基酸類がコハク酸である請求項1記載の分解性複合材料。
【請求項3】 脂肪族多価アルコール類がエチレングリコールまたは1,4-ブタンジオールである請求項1記載の分解性複合材料。
【請求項4】 脂肪族多塩基酸類がコハク酸であり、脂肪族多価アルコール類がエチレングリコールまたは1,4-ブタンジオールである請求項1記載の分解性複合材料。」(特許請求の範囲請求項1〜4)
「製造例4
エチレングリコール20.2gとコハク酸38.5gと乳酸7.3gにジフェニルエーテル123.0g、金属錫0.66gを加え、125℃/140mmHgで9時間、系外に水を流出させながら加熱攪伴しオリゴマー化した。これに、Dean Stark trapを取り付け、140℃/15mmHgで3時間共沸脱水を行い、その後、モレキュラシーブ3A30gを充填した管を付け、流出した溶媒がモレキュラシーブ層中を通って反応器に戻るようにし、130℃/13mmHgで33時間攪伴した。その反応マスを720mlのアセトニトリルに溶かし、1NのHCl水溶液300mlを加え0.5時間攪伴した後、IPA320mlを加えてからメタノール4.5l中に放出し再沈した。ノルマルヘキサン3lで洗浄した後減圧乾燥した。ポリマー中の触媒の錫の含有量は10ppm以下になっていた。このポリマーの重量平均分子量は147,000であった。」(段落【0035】)
c、刊行物1
「1.モノマー副次単位がポリエステル分子中でランダムに配列した生化学的再吸収性ポリエステルであって;
該ポリエステルが、
コハク酸、フマル酸、オキザロ酢酸、L-リンゴ酸、およびD-リンゴ酸から成る群から選ばれたクレブス・サイクルジカルボン酸またはその異性体または酸無水物、
炭素原子数が2,4,6または8個であるジオール、および、
グリコール酸、L-乳酸およびD-乳酸から成る群から選ばれたアルファ-ヒドロキシカルボン酸、
の縮合反応生成物であることを特徴とする、ポリエステル。」(特許請求の範囲第1項)
「重合反応容器中で150℃から170℃へ加熱したコハク酸2,3-ブタンジオールモノエステルの57.0g(0.3M)へ、合計で7.6g(0.1M)の無水のグリコール酸あるいは5.8g(0.05M)のグリコール酸無水物を少量づつ2から3時間にわたつて添加する。」(第7頁右上欄7〜12行)
「例として、非ランダム・コポリエステルは1,4-ブタンジオール(B)、コハク酸(S)およびL-乳酸(L)を使用してつくることができる。まず、モル過剰のL-乳酸(またはその酸無水物)をジオールで以てエステル化する;
………
と書くことができる。ジエステル生成物を単離し、高真空蒸留によって精製し、次いでコハク酸無水物と反応させる;
………
と書くことができる。」(第8頁右上欄3行〜同左下欄3行)
「無水THF中でのゲル透過(または高圧液体)クロマトグラフィによって測定するとき、この方法で以て得られるコポリマーの平均分子量は15,000から22,000ダルトンの範囲にある。」(第10頁右下欄2〜5行)
d、刊行物2
「【請求項1】 (イ) オキシ酸及び/又はその縮合物、 (ロ) ヒドロキシル基を含まない多価カルボン酸及び/又はその酸無水物、及び (ハ) 多価アルコールを反応させて得られる加水分解型ポリエステル樹脂をビヒクル成分とすることを特徴とする防汚塗料組成物。
【請求項2】 (イ) オキシ酸及び/又はその縮合物、 (ロ) ヒドロキシル基を含まない多価カルボン酸及び/又はその酸無水物、及び (ハ) 多価アルコールの合計重量に対し、 (イ) オキシ酸及び/又はその縮合物の割合が10〜90重量%であって、 (イ) オキシ酸及び/又はその縮合物、及び (ハ) 多価アルコール中の総ヒドロキシル基と、 (イ) オキシ酸及び/又はその縮合物、及び (ロ) ヒドロキシル基を含まない多価カルボン酸及び/又はその酸無水物中の総カルボキシル基との当量比が1.0〜1.5であることを特徴とする請求項1記載の加水分解型ポリエステル樹脂を製造する方法。」(特許請求の範囲)
「……本発明で用いる多価アルコールは、ポリエステルの製造に通常用いる多価アルコールから適宜選択して使用することができる。具体的な例を挙げると、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3 -ブタンジオール、1,6 -ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、トリエチレングリコール等のグリコール類、水素化ビスフェノールA、ビスフェノールジヒドロキシプロピルエーテル、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどがある。」(段落【0007】)
e、刊行物3
「【請求項1】繰り返し単位換算で、3-ヒドロキシアルカノエートおよび4-ヒドロキシアルカノエートの少なくとも一方が5〜95モル%含まれ、残部は異なる繰り返し単位をもつ、共重合ポリエステルからなることを特徴とする生分解性共重合ポリエステル。
【請求項2】前記3-ヒドロキシアルカノエートが、3-ヒドロキシプロピオネート、3-ヒドロキシブチレート、3-ヒドロキシバリレートおよび3-ヒドロキシオクタノエートからなる群より選ばれた1以上である請求項1に記載の生分解性共重合ポリエステル。
【請求項3】前記4-ヒドロキシアルカノエートが、4-ヒドロキシブチレートおよび4-ヒドロキシバリレートの少なくとも一方である請求項1または2に記載の生分解性共重合ポリエステル。
【請求項4】前記共重合ポリエステルの3-ヒドロキシアルカノエートおよび4-ヒドロキシアルカノエート以外の構成繰り返し単位が、エチレンアジペート、エチレンアゼレート、エチレンセバケート、テトラメチレンアジペート、テトラメチレンセバケート、ヘキサメチレンセバケート、ε-カプロラクトンおよびβ-プロピオラクトンの少なくとも一方である請求項1〜3のいずれかに記載の生分解性共重合ポリエステル。」(特許請求の範囲請求項1〜4)
「なお、このようにして合成された共重合ポリエステルの数平均分子量は通常、5,000〜1,000,000 程度、好ましくは 8,000〜250,000程度である。」(段落【0040】)
f、刊行物4
第583頁の「重縮合」の項に、「分子量分布は………数平均分子量と重量平均分子量との比は、x→1のとき2に近づく。」と記載されている。
g、刊行物5
「【請求項1】 オキシ酸を脱水重縮合することにより、脂肪族ポリエステルを製造する際に、ゲルマニウム化合物存在下で、不活性ガス気流下または減圧下で加熱脱水することを特徴とする脂肪族ポリエステルの製造方法。」(特許請求の範囲)
h、刊行物6
第935頁の「ドルトン」の項に、「分子の場合,その1個の質量をドルトン単位で表わすと,数値的には分子量に等しい.」と記載されている。
i、刊行物7
第756頁のTable2に、ポリラクチド及びポリカプロラクトンの分子量分布(Mw/Mn)が、1.1〜2.62であることが記載されている。
j、参考資料1
第54頁に、脂肪族ポリエステル「ビオノーレ」の分子量分布として、「分子量分布は縮合重合系の理論値に近く、多分散性の指標である重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比Mw/Mnで約3と比較的狭い。」と記載されている。
エ、対比・判断
a、特許法29条の2違反について
本件発明1と先願明細書1に記載された発明を対比する。
先願明細書1には、脂肪族多価アルコール類と脂肪族多塩基酸類とヒドロキシカルボン酸類を重縮合反応によって、重量平均分子量15,000以上の脂肪族ポリエステルを製造することが記載され、脂肪族多価アルコール類として、1,4-ブタンジオールとすること、脂肪族多塩基酸類として、コハク酸とすること、ヒドロキシカルボン酸類として乳酸とすることが記載され、先願明細書1では、脂肪族ポリエステルの分子量が重量平均分子量で記載されているが、その数平均分子量は本件発明1と重複するものと認められる。
したがって、両者は、(I)式で表される脂肪族オキシカルボン酸単位、1,4-ブタンジオール単位、およびコハク酸単位を含む(III)式で表される脂肪族ジカルボン酸単位からなる脂肪族ポリエステル共重合体である点で一致し、本件発明1では、脂肪族オキシカルボン酸単位1.0〜10モル%、1,4-ブタンジオール単位45〜49.5モル%、およびコハク酸単位を含む下記(III)式で表される脂肪族ジカルボン酸単位45〜49.5モル%とするのに対し、先願明細書1では、そういった量比についての記載がない点で相違するものと認められる。
ただ、先願明細書1では、その実施例において、それらの使用量が記載されており、それらの実施例の中で、多価アルコールとして1,4-ブタンジオールを使用するものではないが、本件発明1に近いと認められる実施例6(エチレングリコール20.2gとコハク酸38.4gに乳酸7.3g)、実施例7(エチレングリコール20.0gとアジピン酸47.1gと乳酸7.2g)及び実施例8(プロピレングリコール24.5gとコハク酸38.1gと乳酸14.4g)の使用量をモル%として計算すると、多価アルコール:脂肪族ジカルボン酸:オキシカルボン酸は、それぞれ、44.5:44.5:11.0、44.5:44.5:11.0及び40.0:40.0:19.9となり、本件発明1で特定する量比とは相違するものである。
同様に、先願明細書2についても、脂肪族オキシカルボン酸単位1.0〜10モル%、1,4-ブタンジオール単位45〜49.5モル%、およびコハク酸単位を含む下記(III)式で表される脂肪族ジカルボン酸単位45〜49.59モル%とすることの記載はなく、その製造例4において、エチレングリコール20.2gとコハク酸38.5gと乳酸7.3gが使用されており、同様にモル%に換算すると、44.5:44.5:11.0となり、本件発明1で特定する量比とは相違している。
したがって、本願発明1は、先願明細書1及び2に記載された発明と同一とすることはできない。
なお、本件発明2〜6も、本件発明1を引用するものであり、本件発明1が先願明細書1及び2に記載された発明と同一とはいえない以上、本件発明2〜6も、同様に、先願明細書1及び2に記載された発明と同一とすることはできない。
b、特許法29条違反について
本件発明1と刊行物1に記載された発明とを対比する。
刊行物1には、生物学的再吸収性ポリエステルとして、コハク酸、1,4-ブタンジオール、及び乳酸からなる脂肪族ポリエステルが例示されているので、両者は、(I)式で表される脂肪族オキシカルボン酸単位、1,4-ブタンジオール単位、およびコハク酸単位を含む(III)式で表される脂肪族ジカルボン酸単位からなる脂肪族ポリエステル共重合体である点で一致し、以下の点で相違するものと認める。
相違点1:本件発明1では、脂肪族オキシカルボン酸単位1.0〜10モル%、1,4-ブタンジオール単位45〜49.5モル%、およびコハク酸単位を含む脂肪族ジカルボン酸単位45〜49.59モル%とするのに対し、刊行物1では、そういった量比についての記載がない点。
相違点2:本件発明1では、数平均分子量が1万〜20万とするのに対し、刊行物1には、コポリマーの平均分子量は15,000から22,000ダルトンと記載されている点。
まず、相違点2について、刊行物1に記載の平均分子量の数値は数平均分子量なのかどうかは明りょうではないとしても、本件発明1で特定する平均分子量の範囲内となる蓋然性が高く、実質的な相違点とはいえない。
次に、相違点1について、刊行物1には、コハク酸2,3-ブタンジオールモノエステル57.0g(0.3M)と7.6g(0.1M)のグリコール酸とを反応させるとの記載があり、これに基づいてモル%を計算すると、脂肪族オキシカルボン酸単位の量は14.3となり、本件発明1と相違し、それ以外には量比についての記載はなく、本件発明1で特定する量比の脂肪族ポリエステル共重合体を示唆する記載も認められない。
刊行物2には、1,4-ブタンジオールについての例示もなく、脂肪族オキシカルボン酸単位を、1.0〜10モル%とすることの示唆も認められない。
刊行物3には、脂肪族ジカルボン酸としてコハク酸を含むとする記載はなく、また、本件発明1で特定する量比を示唆する記載も認められない。
刊行物4〜7及び参考資料1には、本件発明1の脂肪族ポリエステル共重合体の記載もなく、その量比についての示唆も認められない。
そして、本件発明1は、特定の単位の特定の量比の共重合体とすることによって、熱安定性と引張り強度に優れた脂肪族ポリエステルとなるものと認められ、上記刊行物1〜7及び参考資料1からは容易に予測し得ないものと認められる。
したがって、本件発明1は、刊行物1〜7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
本件発明2〜6は、本件発明1を引用し、さらに限定を付す発明であるから、本件発明1と同様の理由により、刊行物1〜7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
c、特許法第36条違反について
異議申立人Aが特許法第36条違反と主張するその理由の概要は以下のとおりと認められる。
c-1、脂肪族オキシカルボン酸の実施例は乳酸と、グリコール酸のみであり、その他のオキシカルボン酸も同様の作用効果を奏するかは不明である。
c-2、実施例1〜8以外の構成単位を有する高分子量脂肪族ポリエステル共重合体については、当業者がその物を製造することができるように記載されていない。
しかしながら、c-1について、オキシカルボン酸としてその最も好ましいといえる代表例が記載されており、すべてのオキシカルボン酸の実施例が記載されなければならないとすることはできないし、c-2についても、すべての構成単位の実施例の記載がなければ製造できないとはいえず、基本的な構成を有する実施例が記載され、さらに、明細書の段落【0020】〜【0022】に一般的な製造方法が記載されており、それらに基づいて、その製造は可能といえ、いずれも、特許法第36条の規定を満たさないとする記載不備があるとまではいえない。
(4)むすび
以上のとおりであるから、本件各特許異議申立人の申立ての理由及び提出した証拠方法によっては、本件特許1〜6を取り消すことができない。
また、他に本件特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
脂肪族ポリエステル共重合体
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】下記(I)式で表される脂肪族オキシカルボン酸単位1.0〜10モル%、1,4-ブタンジオール単位45〜49.5モル%、およびコハク酸単位を含む下記(III)式で表される脂肪族ジカルボン酸単位45〜49.5モル%からなり、かつ、数平均分子量が1万〜20万であることを特徴とする脂肪族ポリエステル共重合体。
(I)-O-R1-CO-(式中、R1は2価の脂肪族炭化水素基)
(III)-OC-R3-CO-(式中、R3は直接結合または2価の脂肪族炭化水素基)
【請求項2】1,4-ブタンジオール単位とコハク酸単位を含む(III)式で表される脂肪族ジカルボン酸単位のモル%が実質的に等しく、それぞれ45〜49.5モル%であることを特徴とする請求項1記載の脂肪族ポリエステル共重合体。
【請求項3】数平均分子量が3万〜20万であることを特徴とする請求項1または2記載の脂肪族ポリエステル共重合体。
【請求項4】(III)式における-R3-が、-(CH2)m-(mは0または1〜10の整数)であることを特徴とする、請求項1ないし3のいずれかに記載のポリエステル共重合体。
【請求項5】(I)式で表される脂肪族オキシカルボン酸単位が、下記(IV)式で表されるα-ヒドロキシ脂肪族カルボン酸単位であることを特徴とする、請求項1ないし4のいずれかに記載の脂肪族ポリエステル共重合体。
【化1】

(式中、lは0または1〜10の整数)
【請求項6】(I)式が乳酸単位またはグリコール酸単位、(III)式がコハク酸単位であることを特徴とする、請求項1ないし5のいずれかに記載の脂肪族ポリエステル共重合体。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、射出成形法、中空成形法および押出成形法などの汎用プラスチック成形法で、目的の成形品に成形可能な高分子量脂肪族ポリエステル共重合体、およびその製造方法に関するものである。更に詳しくは、生分解性を有し、実用上十分な高分子量を有し、熱安定性および引張り強度等にすぐれた脂肪族ポリエステルに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、フィルム、繊維、その他の成形品の成形に用いられていたポリエステルは、その数平均分子量が1万以上の高分子量ポリエステルであった。この高分子量ポリエステルは、テレフタル酸とエチレングリコールまたは1,4-ブタンジオールとから調製された芳香族ポリエステルに限られ、脂肪族ポリエステルは極めて少なかった。脂肪族ポリエステルがそれほど実用化されなかった理由としては、(1)脂肪族ポリエステルの融点が比較的低いこと、(2)脂肪族ポリエステルが通常知られた重縮合反応では数平均分子量で15,000以上にならず、熱分解しやすく、数平均分子量1万程度の分子量では実用上十分な強度が得られなかったこと、などが挙げられる。
【0003】
特開平4-189822号公報、および特開平5-287043号公報などに提案されているように、数平均分子量が5,000以上、望ましくは10,000以上で、末端基が実質的にヒドロキシル基であるポリエステルジオールに、その融点以上の溶融状態において、カップリング剤としてのイソシアナートを添加することにより、高分子量のウレタン結合を含む脂肪族ポリエステルが得られているが、高分子量のウレタン結合を含む脂肪族ポリエステルは、汎用プラスチック成形法で成形する場合、条件によっては着色したり、ミクロゲルが発生したりするなどの問題がある。
【0004】
また、特開平5-310898号公報に提案されているように、グリコール成分と脂肪族ジカルボン酸成分とをエステル化し、生成したポリエステルジオールを触媒の存在下、温度180〜230℃の範囲、および0.005〜0.1mmHgの高真空下で脱グリコール反応を行うことにより、数平均分子量が25,000〜70,000で、末端基に実質的にヒドロキシル基を有する高分子量脂肪族ポリエステルが合成されているが、このような高真空状態を得ることは工業的には困難を伴う。
【0005】
更に、特開平5-43665号公報には、乳酸、グリコール酸等の脂肪族オキシカルボン酸をゲルマニウム化合物の存在下で、不活性ガス気流下または減圧下で加熱脱水重縮合して還元粘度が0.67〜0.89の脂肪族ポリエステルを製造する方法が開示されている。この脂肪族ポリエステルから得られるフィルム、成形品も実用上充分な機械強度を有するものではない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、生分解性を有し、実用上十分な高分子量を有し、熱安定性および引張り強度等にすぐれた、脂肪族ポリエステル共重合体を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記問題を解消し、生分解性を有すると同時に十分に実用に耐え得る脂肪族ポリエステルを提供すべく、鋭意検討を行った結果、ゲルマニウム化合物等の触媒の存在下、脂肪族または脂環式ジオールおよび脂肪族ジカルボン酸またはその誘導体を主成分とし、乳酸、グリコール酸等の脂肪族オキシカルボン酸を特定量共重合させることにより、重合速度の著しい増大が見られ、結果的に鎖延長剤を使用することなしに、極めて容易に、数平均分子量1万以上の高分子量脂肪族ポリエステル共重合体が得られることを見い出し、本発明に到達した。またこの高分子量脂肪族ポリエステル共重合体は、融点が比較的高く、実用上十分な強度を有し、また、オキシカルボン酸成分の導入により、得られるポリエステルの結晶性が低下し、可撓性を有するものである。更には、本発明の高分子量脂肪族ポリエステルは、優れた生分解性を示すものである。
【0008】
本発明はこのような知見に基づき達成されたもので、本発明に係るポリエステル共重合体は、下記(I)式で表される脂肪族オキシカルボン酸単位1.0〜10モル%、1,4-ブタンジオール単位45〜49.5モル%、およびコハク酸単位を含む下記(III)式で表される脂肪族ジカルボン酸単位45〜49.5モル%からなり、かつ、数平均分子量が1万〜20万であることを特徴とするものである。
(I)-O-R1-CO-(式中、R1は2価の脂肪族炭化水素基)
(III)-OC-R3-CO-(式中、R3は直接結合または2価の脂肪族炭化水素基)
【0009】
本発明に係るポリエステル共重合体は、触媒の存在下、重縮合反応により脂肪族または脂環式ジオールおよび脂肪族ジカルボン酸またはその誘導体を反応させて、数平均分子量1万〜20万の脂肪族ポリエステルを製造するに際して、脂肪族オキシカルボン酸を脂肪族カルボン酸またはその誘導体100モルに対し、0.04〜60モル共重合させることにより製造できる。
【0010】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明における上記(I)式の脂肪族オキシカルボン酸単位に相当する脂肪族オキシカルボン酸としては、分子中に1個の水酸基とカルボン酸基を有する脂肪族化合物であれば特に限定されるものではなく、式、HO-R1-COOH、(式中、R1は2価の脂肪族炭化水素基で表わされるものをいう。更には、上記(IV)式の脂肪族オキシカルボン酸単位に相当する式(V)、
【0011】
【化2】

【0012】
(式中、lは0または1〜10、好ましくは0または1〜5の整数である)で示される脂肪族オキシカルボン酸が重合反応性向上効果が認められる点で特に好ましい。
【0013】
脂肪族オキシカルボン酸の具体例としては、乳酸、グリコール酸、2-ヒドロキシ-n-酪酸、2-ヒドロキシカプロン酸、2-ヒドロキシ3,3-ジメチル酪酸、2-ヒドロキシ-3-メチル酪酸、2-ヒドロキシイソカプロン酸、あるいはこれらの混合物が挙げられる。これらに光学異性体が存在する場合には、D体、L体、またはラセミ体のいずれでもよく、形態としては固体、液体、または水溶液であってもよい。これらの中で好ましいのは、乳酸またはグリコール酸であり、特に好ましいのは、使用時の重合速度の増大が特に顕著で、かつ入手の容易な乳酸またはグリコール酸である。形態は、30〜95%の水溶液のものが容易に入手することができるので好ましい。これら脂肪族オキシカルボン酸は単独でも、二種以上の混合物として使用することもできる。
【0014】
上記(II)式の脂肪族または脂環式ジオール単位に相当するジオールとしては、特に限定されないが、式、HO-R2-OHで表される化合物をいう。ここで、式中、R2は、2価の脂肪族炭化水素基または2価の脂環式炭化水素基を有するジオールである。
好ましい2価の脂肪族炭化水素基としては、R2が-(CH2)n-(nは2〜10の整数)で表される脂肪族炭化水素基が挙げられる。中でも特に好ましいのは、nが2〜6の脂肪族炭化水素基である。
好ましい2価の脂環式炭化水素基としては、上記式のR2が炭素数3〜10の脂環式炭化水素基であり、中でも特に好ましいのは4〜6の2価の脂環式炭化水素基である。
【0015】
上記(II)式で表される脂肪族または脂環式ジオールの具体例としては、エチレングリコール、トリメチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノールが好適に挙げられる。得られる共重合体の物性の面から、特に1,4-ブタンジオールであることが好ましい。これらは単独でも、二種以上の混合物として使用することもできる。
【0016】
上記(III)式の脂肪族ジカルボン酸単位に相当する脂肪族ジカルボン酸またはその誘導体としては、式、HOOC-R3-COOH、(式中、R3は直接結合または2価の脂肪族炭化水素基で表され、好ましくは、-(CH2)m-、ただしmは0または1〜10の整数、好ましくは0または1〜6の整数)で表されるもの或いは、それらの炭素数1〜4の低級アルコールエステル、例えばジメチルエステル等、またはそれらの酸無水物をいう。
【0017】
その具体例としては、シュウ酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、およびそれらの低級アルコールエステル、無水コハク酸、無水アジピン酸、等が挙げられる。得られる共重合体の物性の面から、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸またはこれらの無水物、及びこれらの低級アルコールエステルが好ましく、特にはコハク酸、無水コハク酸、またはこれらの混合物が好ましい。これらは単独でも2種以上混合して使用することもできる。
【0018】
本発明の脂肪族または脂環式ジオール、脂肪族ジカルボン酸またはその誘導体および少量の脂肪族オキシカルボン酸とからなる高分子量脂肪族ポリエステルの製造は、公知技術で行うことができる。このポリエステルを製造する際の重合反応は、従来から採用されている適切な条件を設定することができ、特に制限されない。
【0019】
脂肪族または脂環式ジオールの使用量は、脂肪族ジカルボン酸またはその誘導体100モルに対し、実質的に等モルであるが、一般には、エステル化中の留出があることから、1〜20モル%過剰に用いられる。
添加される脂肪族オキシカルボン酸の量は、脂肪族オキシカルボン酸が少なすぎると添加効果が表れず、多すぎると結晶性が失われ成形上好ましくなく、耐熱性、機械的特性などが不十分である。脂肪族オキシカルボン酸の量は、脂肪族ジカルボン酸またはその誘導体100モルに対し好ましくは0.04〜60モル、より好ましくは1.0〜40モル、特に好ましくは2〜20モルである。
【0020】
脂肪族オキシカルボン酸の添加時期・方法は、重縮合反応以前であれば特に限定されず、例えば、(1)あらかじめ触媒を脂肪族オキシカルボン酸溶液に溶解させた状態で添加する方法、(2)原料仕込み時触媒を添加すると同時に添加する方法、などが挙げられる。
本発明の脂肪族ポリエステル共重合体は、好ましくは上記原料を重合触媒の存在下で製造される。触媒としては、ゲルマニウム化合物が好適である。ゲルマニウム化合物としては、特に制限されるものではなく、酸化ゲルマニウム、テトラアルコキシゲルマニウムなどの有機ゲルマニウム化合物、塩化ゲルマニウムなどの無機ゲルマニウム化合物が挙げられる。価格や入手の容易さなどから、酸化ゲルマニウム、テトラエトキシゲルマニウム、テトラブトキシゲルマニウムなどが好ましく、特には、酸化ゲルマニウムが好適である。また、本発明の目的を損なわない限り、他の触媒の併用を妨げない。
【0021】
触媒の使用量は、使用するモノマー量に対して0.001〜3重量%、より好ましくは0.005〜1.5重量%である。触媒の添加時期は、重縮合以前であれば特に限定されないが、原料仕込み時に添加しておいてもよく、減圧開始時に添加してもよい。原料仕込み時に乳酸、グリコール酸等の脂肪族オキシカルボン酸と同時に添加するか、または脂肪族オキシカルボン酸水溶液に触媒を溶解して添加する方法が好ましく、特には、触媒の保存性が良好となる点で脂肪族オキシカルボン酸水溶液に触媒を溶解して添加する方法が好ましい。
【0022】
脂肪族ポリエステル共重合体を製造する際の温度、時間、圧力などの条件は、温度が150〜260℃、好ましくは180〜230℃の範囲で選ぶのがよく、重合時間は2時間以上、好ましくは4〜15時間の範囲で選ぶのがよい。減圧度は10mmHg以下、より好ましくは2mmHg以下で選ぶのがよい。
本発明の脂肪族ポリエステル共重合体の組成比は、(II)式の脂肪族または脂環式ジオール単位と(III)式の脂肪族ジカルボン酸単位のモル比が、実質的に等しいことが必要である。脂肪族または脂環式ジオール単位と脂肪族ジカルボン酸単位とは、各々35〜49.99モル%の範囲、好ましくは40〜49.75モル%、より好ましくは45〜49.5モル%の範囲で選ぶのがよい。また、(I)式の脂肪族オキシカルボン酸単位は0.02〜30モル%の範囲で選ぶのがよい。脂肪族オキシカルボン酸が30モル%を超えると結晶性が失われ、成形上好ましくなく、また0.02モル%未満だと添加効果が現れない。上記範囲で好ましいのは0.5〜20モル%、より好ましくは1.0〜10モル%の範囲である。
【0023】
また、本発明の脂肪族ポリエステル共重合体の数平均分子量は1万〜20万、好ましくは3万〜20万である。
また、本発明の効果を損なわない限り、本発明の脂肪族ポリエステル共重合体に、他の共重合成分を導入することができる。他の共重合成分としては、ヒドロキシ安息香酸等の芳香族オキシカルボン酸類、ビスフェノールA等の芳香族ジオール類、テレフタル酸、イソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、またはトリメチロールプロパン、グリセリンなどの多価アルコール、多価カルボン酸またはその無水物、リンゴ酸などの多価オキシカルボン酸等が挙げられる。
【0024】
以上のように、本発明は、脂肪族または脂環式ジオール単位、脂肪族カルボン酸単位、および脂肪族オキシカルボン酸単位を特定の比率で有し、かつ数平均分子量が1万以上、より好ましくは3万以上である高分子量脂肪族ポリエステル共重合体が、実用上十分な強度と融点を有することに基づいたものである。特には、乳酸等の脂肪族オキシカルボン酸を用いることにより、極めて容易に高分子量化を達成できたものである。
【0025】
本発明に係る高分子量脂肪族ポリエステル共重合体は、射出成形法、中空成形法および押出成形法などの汎用プラスチック成形法などにより、フィルム、ラミネートフィルム、シート、板、延伸シート、モノフィラメント、マルチフィラメント、不織布、フラットヤーン、ステープル、捲縮繊維、筋付きテープ、スプリットヤーン、複合繊維、ブローボトル、発泡体などの成形品に利用可能である。その際、結晶核剤、酸化防止剤、滑剤、着色剤、離型剤、フィラー、他のポリマーなど、必要に応じ添加することができる。
【0026】
さらに、本発明に係る高分子量脂肪族ポリエステル共重合体は、生分解性を有しており、土中のバクテリアによって、2〜12カ月で完全に分解する特性があり、環境衛生上極めて有用なポリマーである。従って、今後、ショッピングバッグ、ゴミ袋、農業用フィルム、化粧品容器、洗剤容器、漂白剤容器、釣り糸、漁網、ロープ、結束材、手術糸、衛生用カバーストック材、保冷箱、クッション材などの用途への使用が期待される。
【0027】
【実施例】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、これら実施例に限定されるものではない。
なお、以下の例における特性値は、次の方法により測定した。
(1)ポリマー組成;1H-NMR法により、得られたスペクトルの面積比により組成を計算した。
(2)数平均分子量(Mn);GPC法によって測定した。サンプルをクロロホルムに溶解し、東ソー社製GPC HLC-8020を用いてポリスチレン換算により測定した。カラムはPLgel-10μ-MIXを使用した。
【0028】
(3)熱的性質;DSC法(昇温速度16℃/minで窒素下で測定)により融点を求めた。
(4)引張り特性;実施例、比較例で得られたポリエステルから、卓上熱プレス法によって厚さ0.30〜0.37mmのフィルム作成し、このフィルムからJIS K7127に準拠して2号ダンベルを作成した。このダンベルにつき、JIS K7127に準拠し、破断伸度と破断強度とを測定した。
(5)生分解性試験:得られたポリエステルから、卓上熱プレス法によって厚さ0.30〜0.37mmのフィルムを作成し、これを2cm×2cmに切断しテストピースを作成した。このテストピースを3ヵ月間土中に埋没させて、目視により生分解性を確認した。
【0029】
[実施例1]
攪拌装置、窒素導入管、加熱装置、温度計、助剤添加口を備えた容量100mlの反応容器に、コハク酸を35.4g、1,4-ブタンジオールを28.4g、酸化ゲルマニウムをあらかじめ1重量%溶解させた90%乳酸水溶液2.9gを仕込んだ。容器内容物を攪拌下、窒素ガスを導入し、窒素ガス雰囲気下180℃に昇温し、この温度で45分間反応させたあと、20mmHgの減圧下で1.75時間反応させた。引き続いて温度を220℃とし、0.5mmHgの減圧下において4時間重合を行った。
得られたポリエステルの1H-NMRによるポリマー組成は、乳酸単位4.6モル%、1,4-ブタンジオール単位47.7モル%、コハク酸単位47.7モル%であり、Mnは58,900、融点は108℃であった。このポリマーを卓上熱プレスでフィルムを作成したところ、強靱なフィルムが得られた。また、生分解性試験の結果、3ヵ月後のフィルムには、多数の虫食い状の穴が見られ、生分解性が確認された。
【0030】
[実施例2]
攪拌装置、窒素導入管、加熱装置、温度計、助剤添加口を備えた容量150mlの反応容器に、コハク酸を59.1g、1,4-ブタンジオールを49.6g、90%L-乳酸水溶液を5.0g、テトラブトキシゲルマニウム180μlを仕込んだ。容器内容物を攪拌下、窒素ガスを導入し、窒素ガス雰囲気下185℃に昇温し、この温度で50分間反応させたあと、20mmHgの減圧下において1.8時間反応させた。引き続いて温度を220℃とし、0.5mmHgの減圧下において2時間重合を行った。
得られたポリエステルの1H-NMRによるポリマー組成は、乳酸単位4.4モル%、1,4-ブタンジオール単位47.8モル%、コハク酸単位47.8モル%であり、Mnは69,000であり、引張り特性は表-1に示した通りであった。また、実施例1と同程度の生分解性が認められた。
【0031】
[実施例3]
攪拌装置、窒素導入管、加熱装置、温度計、助剤添加口を備えた容量300mlの反応容器に、コハク酸を118.1g、1,4-ブタンジオールを99.1g、酸化ゲルマニウムをあらかじめ1重量%溶解させた90%乳酸水溶液6.3gを仕込んだ。容器内容物を攪拌下、窒素ガスを導入し、窒素ガス雰囲気下185℃に昇温し、この温度で0.5時間反応させたあと、内温を220℃に昇温し、この温度で0.5時間反応させた。引き続いて、0.5mmHgの減圧下において4時間重合を行った。
得られたポリエステルの1H-NMRによるポリマー組成は、乳酸単位3.0モル%、1,4-ブタンジオール単位48.5モル%、コハク酸単位48.5モル%であり、Mnは62,500であり、引張り特性は表-1に示した通りであった。また、実施例1と同程度の生分解性が認められた。
【0032】
[実施例4]
実施例3で使用したのと同じ反応容器に、コハク酸を118.1g、1,4-ブタンジオールを99.1g、酸化ゲルマニウムをあらかじめ1重量%溶解させた70%グリコール酸水溶液6.3gを仕込んだ。容器内容物を攪拌下、窒素ガスを導入し、窒素ガス雰囲気下185℃に昇温し、この温度で0.5時間反応させたあと、内温を220℃に昇温し、この温度で0.5時間反応させた。引き続いて、0.5mmHgの減圧下において6時間重合を行った。
得られたポリエステルの1H-NMRによるポリマー組成は、グリコール酸単位2.4モル%、1,4-ブタンジオール単位48.8モル%、コハク酸単位48.8モル%であり、Mnは42,500であった。また、実施例1と同程度の生分解性が認められた。
【0033】
[実施例5]
攪拌装置、窒素導入管、加熱装置、温度計、助剤添加口を備えた容量300mlの反応容器にコハク酸を100.3g、アジピン酸を21.9g、1,4-ブタンジオールを103.1g、酸化ゲルマニウムをあらかじめ1重量%溶解させた90%乳酸水溶液6.3gを仕込んだ。容器内容物を攪拌下、窒素ガスを導入し、窒素ガス雰囲気下185℃に昇温し、0.5時間反応させた後、220℃に昇温し、0.5時間反応した。引き続いて0.5mmHgの減圧下において4時間重合をおこなった。得られたポリエステルのMnは71,000、融点は95℃であり、引張り特性は表1に示した通りであった。また1H-NMRによるポリマー組成は、乳酸単位2.8モル%、1,4-ブタンジオール単位48.9モル%、コハク酸単位40.8モル%、アジピン酸単位7.5モル%であり、生分解性試験の結果、3ヵ月後のフィルムは、ボロボロになっており、生分解性が確認された。
【0034】
[比較例1]
実施例2で使用したのと同じ反応容器に、コハク酸を59.1g、1,4-ブタンジオールを47.3g、酸化ゲルマニウムを0.05gを仕込んだ。容器内容物を攪拌下、窒素ガスを導入し、窒素ガス雰囲気下185℃に昇温し、この温度で50分間反応させたあと、20mmHgの減圧下において2時間反応させた。引き続いて温度を220℃とし、0.5mmHgの減圧下において4時間重合を行った。
得られたポリエステルのMnは1,500であり、引張り特性は表-1に示した通りであった。
【0035】
[比較例2]
攪拌装置、窒素導入管、加熱装置、温度計、助剤添加口を備えた容量300mlの反応容器にコハク酸を118.0g、1,4-ブタンジオールを99.1g、酸化アンチモンをあらかじめ1重量%溶解させた90%乳酸水溶液6.3gを仕込んだ。容器内容物を攪拌下、窒素ガスを導入し、窒素ガス雰囲気下185℃に昇温し、0.5時間反応させた後、220℃に昇温し、0.5時間反応した。引き続いて0.5mmHgの減圧下において4時間重合をおこなった。得られたポリエステルのMnは8,800であった。また1H-NMRによるポリマー組成は、乳酸単位2.9モル%、1,4-ブタンジオール単位48.7モル%、コハク酸単位48.4モル%であった。
【0036】
【表1】

【0037】
以上の実施例および比較例の結果より、次のことが明らかである。
(1)本発明に係る脂肪族オキシカルボン酸単位を有するポリエステル共重合体は、高い分子量を有し(実施例1〜実施例5)、高い引張り特性を発揮している(実施例2〜実施例3)。
(2)これに対して、比較例のポリエステル共重合体は、分子量が小さく、引張り特性も十分ではない(比較例1〜比較例2)。
【0038】
[実施例6]
攪拌装置、窒素導入管、加熱装置、温度計、助剤添加口を備えた容量300mlの反応容器内に、無水コハク酸を100.1g、1,4-ブタンジオール99.1g、酸化ゲルマニウムをあらかじめ1重量%溶解させた90%乳酸水溶液6.3g(無水コハク酸のモル数に対し、6.3モル%)を仕込み、窒素雰囲気中185℃にて0.5時間反応させた後、220℃に昇温し、0.5時間反応した。引き続いて0.5mmHgの減圧下において6時間重合を行った。
【0039】
得られたポリエステルは白色であり、Mnは67,600であった。また融点は108℃であった。また1H-NMRによるポリマー組成は、乳酸単位3.2モル%、コハク酸単位48.4モル%、1,4-ブタンジオール単位48.4モル%であった。得たポリエステルを卓上熱プレス200℃、100kg/cm2で厚さ0.35mmのフィルムを作成したところ、強靱なフィルムが得られた。その引張り強さは、破断強度が320kg/cm2、伸びは330%であった。生分解性試験の結果、3ヵ月後のフィルムには多数の虫食い状の穴が見られ生分解性が確認された。
【0040】
[実施例7]
攪拌装置、窒素導入管、加熱装置、温度計、助剤添加口を備えた容量300mlの反応容器内に、無水コハク酸を100.1g、1,4-ブタンジオールを99.1g、90%乳酸水溶液10.6g(無水コハク酸のモル数に対して、10.6モル%)、テトラブトキシゲルマニウム0.2gを仕込み、窒素雰囲気中185℃にて0.5時間反応させた後、220℃に昇温し、0.5時間反応した。引き続いて0.5mmHgの減圧下において5時間重合を行なった。
【0041】
得たポリエステルは白色であり、Mnが70,000であった。また、融点は103℃であった。また1H-NMRによるポリマー組成は、乳酸単位4.9モル%、コハク酸単位47.6モル%、1,4-ブタンジオール単位47.5モル%であった。得たポリエステルを卓上熱プレスで厚さ0.35mmのフィルムを作成したところ、強靱なフィルムが得られ、その引張り強さは、破断強度が470kg/cm2、伸びは630%であった。また、実施例6と同程度の生分解性が認められた。
【0042】
[実施例8]
攪拌装置、窒素導入管、加熱装置、温度計、助剤添加口を備えた容量300mlの反応容器内に、無水コハク酸を50.1g、コハク酸を59.1g、1,4-ブタンジオールを99.1g、酸化ゲルマニウムをあらかじめ1重量%溶解させた70%グリコール酸水溶液6.3g(無水コハク酸およびコハク酸の合計モル数に対し、11モル%)を仕込み、窒素雰囲気中185℃にて0.5時間反応させた後、220℃に昇温し、0.5時間反応を行った。引き続いて0.5mmHgの減圧下において5時間重合を行った。
【0043】
得たポリエステルは白色であり、Mnが60,000であった。また1H-NMRによるポリマー組成は、グリコール酸単位5.0モル%、コハク酸単位47.5モル%、1,4-ブタンジオール単位47.5モル%であった。得たポリエステルを卓上熱プレスで厚さ0.35mmのフィルムを作成したところ、強靱なフィルムが得られ、その引張り強さは、破断強度が300kg/cm2、伸びは310%であった。また、実施例6と同程度の生分解性が認められた。
【0044】
[比較例3]
攪拌装置、窒素導入管、加熱装置、温度計、助剤添加口を備えた容量300mlの反応容器内に、無水コハク酸を100.1g、1,4-ブタンジオールを99.1gを仕込み窒素雰囲気中185℃にて0.5時間反応させた後、220℃に昇温し、0.5分間反応した。引き続いてテトラブチルチタネート0.06gを添加し、0.5mmHgの減圧下において4時間重合を行なった。
得たポリエステルは灰白色のワックス状であり、Mnは7,500であった。得たポリエステルを卓上熱プレスでフィルムを作成しようとしたが、脆く、フィルムは得られなかった。
【0045】
[比較例4]
数平均分子量が65,100の少量のウレタン結合を含む、1,4-ブタンジオール単位とコハク酸単位からなる脂肪族ポリエステル(昭和高分子社製、ビオノーレ#1010)を卓上熱プレスで厚さ35mmのフィルムを作成し、引張試験を行なったところ、破断強度は330kg/cm2、伸びは280%であった。
【0046】
[比較例5]
攪拌装置、窒素導入管、加熱装置、温度計、助剤添加口を備えた容量200mlの反応容器内に、90%L-乳酸水溶液103.5gおよび酸化ゲルマニウム0.05gを仕込み、窒素雰囲気中180℃にて2時間、常圧で攪拌し、その後、1時間かけて20mmHgまで減圧し、2時間反応させた。続いて1時間かけて昇温を行ない、200℃、2mmHgの条件で8時間重縮合反応させた。
得たポリ乳酸はやや黄色味を帯びているものの透明であり、Mnは28,000であった。得たポリエステルを卓上熱プレスでフィルムを作成しようとしたが、脆く、フィルムは得られなかった。
【0047】
【発明の効果】
本発明は、次のような特別に有利な効果を奏し、その産業上の利用価値は極めて大である。
1.本発明に係る脂肪族ポリエステル共重合体は、実用上十分な高分子量を有し、汎用プラスチック成形法で目的の成形品に成形可能であり、得られたフィルム、成形品、繊維などの成形品は、優れた熱安定性と、優れた引張り強度等の物性を有する。
2.本発明に係る脂肪族ポリエステル共重合体は、優れた生分解性を有する。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-11-24 
出願番号 特願平7-221969
審決分類 P 1 651・ 113- YA (C08G)
P 1 651・ 537- YA (C08G)
P 1 651・ 121- YA (C08G)
P 1 651・ 536- YA (C08G)
P 1 651・ 161- YA (C08G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 森川 聡  
特許庁審判長 井出 隆一
特許庁審判官 藤原 浩子
佐野 整博
登録日 2003-02-28 
登録番号 特許第3402006号(P3402006)
権利者 三菱化学株式会社
発明の名称 脂肪族ポリエステル共重合体  
代理人 柿澤 紀世雄  
代理人 長谷川 曉司  
代理人 長谷川 曉司  
代理人 柿澤 紀世雄  

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