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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  F16C
管理番号 1133148
審判番号 無効2005-80114  
総通号数 77 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1996-05-21 
種別 無効の審決 
審判請求日 2005-04-12 
確定日 2006-01-16 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3431703号発明「鉄道車両用軸受ユニット」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第3431703号の請求項1〜6に係る特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
(1-1)本件特許第3431703号は、平成6年10月31日の出願に係り、その請求項1〜6に係る発明について平成15年5月23日に特許権の設定登録がされたものである。
(1-2)これに対し、平成17年4月12日付けで光洋精工株式会社より本件無効審判が請求され、請求人は本件特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたと主張し、証拠方法として甲第1〜11号証を提出した。
(1-3)被請求人(本件特許権者であるNTN株式会社)は、平成17年7月11日付けで審判事件答弁書とともに訂正請求書を提出し、訂正を求めた。
(1-4)次いで請求人より平成17年9月5日付けで審判事件弁駁書が提出され、周知技術を示すものとして甲第12〜17号証が提出された。
(1-5)平成17年10月25日に第1回口頭審理を実施し、証拠及び主張の整理を行なった。両当事者より、期日当日付の口頭審理陳述要領書がそれぞれ提出された。

2.訂正の適否
(2-1)訂正の内容
平成17年7月11日付け訂正請求は、訂正請求書に添付した訂正明細書のとおり訂正することを求めるものであって、訂正の要旨は次のとおりである。
なお、下線は、当審において、訂正箇所を示すために附したものである。

(a)訂正事項a
特許請求の範囲の請求項1に、
「【請求項1】 軸受の内輪の幅面に接して油切りまたは後ろ蓋となる付属部品を設けた鉄道車両用軸受ユニットにおいて、前記軸受内輪と付属部品との接触面に潤滑剤を介在させたことを特徴とする鉄道車両用軸受ユニット。」
とある記載を、
「【請求項1】 軸受の内輪の幅面に接して油切りまたは後ろ蓋となる付属部品を設けてなり、鉄道車両の車軸に用いられる鉄道車両用軸受ユニットにおいて、前記軸受内輪と付属部品との接触面に潤滑剤を介在させたことを特徴とする鉄道車両用軸受ユニット。」
と訂正する。
(b)訂正事項b
特許請求の範囲の請求項5に、
「【請求項5】 軸受の内輪の幅面に接して油切りまたは後ろ蓋となる付属部品を設けた鉄道車両用軸受ユニットにおいて、前記付属部品の軸受内輪との接触面を表面硬化層とした鉄道車両用軸受ユニット。」
とある記載を、
「【請求項5】 軸受の内輪の幅面に接して油切りまたは後ろ蓋となる付属部品を設けてなり、鉄道車両の車軸に用いられる鉄道車両用軸受ユニットにおいて、前記付属部品の軸受内輪との接触面を表面硬化層とした鉄道車両用軸受ユニット。」
と訂正する。
(c)訂正事項c
明細書の段落【0005】の記載中、
「この発明の軸受ユニットは、軸受の内輪」
とある記載を、
「この発明の軸受ユニットは、鉄道車両の車軸に用いられるものであり、軸受の内輪」
と訂正する。
(d)訂正事項d
明細書の段落【0016】の記載中、
「また、前記実施例は車軸の支持に用いた場合につき説明したが、鉄道車両における他の箇所、例えば電動機周辺等に用いられる軸受ユニットにこの発明を適用しても良い。」
とある記載を削除する。

(2-2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記各訂正事項について検討するに、上記訂正事項a及びbは、「鉄道車両用軸受ユニット」の用途をさらに限定し、「鉄道車両の車軸に用いられるもの」とするものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、上記訂正事項c及びdは、特許請求の範囲の訂正に係る訂正事項a及びbの訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の欄の記載との整合をとるものであり、明りょうでない記載の釈明に該当する。
そして、願書に最初に添付した明細書には、段落【0001】の「この発明は、鉄道車両の車軸などに用いられる鉄道車両用軸受ユニットに関する。」との記載及び段落【0007】の「この軸受ユニットは鉄道車両の車軸に用いられるものであり」との記載があり、いずれの訂正事項も、願書に最初に添付した明細書及び図面に記載した事項の範囲内においてされたものと認められ、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(2-3)訂正についてのむすび
したがって、平成17年7月11日付けの訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書き及び同条第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.当事者の主張
(3-1)請求人の主張
平成17年10月25日に実施した口頭審理において、請求人の主張及び根拠とする証拠が整理された結果、請求人が主張する無効理由の概要は、請求人提出の平成17年10月25日付け口頭審理陳述要領書に概ね記載された、次のとおりのものとなった。

(a)請求項1に係る発明は、甲第2号証に記載された発明、並びに甲第13号証、甲第16号証及び甲第17号証に示される周知技術から容易に想到できたものである。
(b)請求項2に係る発明は、甲第2号証に記載された発明、並びに甲第13号証、甲第16号証及び甲第17号証に示される周知技術から容易に想到できたものである。
(c)請求項3に係る発明は、甲第2号証に記載された発明、並びに甲第13号証、甲第14号証、甲第16号証及び甲第17号証に示される周知技術から容易に想到できたものである。
(d)請求項4に係る発明は、甲第2号証及び甲第9号証に記載された発明、並びに甲第13号証、甲第16号証及び甲第17号証に示される周知技術から容易に想到できたものである。
(e)請求項5に係る発明は、甲第2号証に記載された発明、並びに甲第16号証及び甲第17号証に示される周知技術から容易に想到できたものである。
(f)請求項6に係る発明は、甲第2号証及び甲第11号証に記載された発明、並びに甲第16号証及び甲第17号証に示される周知技術から容易に想到できたものである。

〔証拠方法〕
甲第1号証:実願平4-1198号(実開平5-58953号)のCD-ROM
甲第2号証:実願平1-116106号(実開平3-55371号)のマイクロフィルム
甲第3号証:特開昭63-76908号公報
甲第4号証:実願昭51-122365号(実開昭53-40147号)のマイクロフィルム
甲第5号証:実願昭50-112283号(実開昭52-26301号)のマイクロフィルム
甲第6号証:実願平4-9771号(実開平5-71444号)のCD-ROM
甲第7号証:実願平4-76765号(実開平6-35653号)のCD-ROM
甲第8号証:実願平4-35604号(実開平5-87326号)のCD-ROM
甲第9号証:特開昭51-46640号公報
甲第10号証:特開平6-109021号公報
甲第11号証:実願平4-36846号(実開平5-89942号)のCD-ROM
甲第12号証:実公昭55-53782号公報
甲第13号証:NSK BEARING JOURNAL 627/S46-3-1/日本精工(株)53〜60頁
甲第14号証:実公昭45-18565号公報
甲第15号証:実願平4-88610号(実開平6-45117号)のCD-ROM
甲第16号証:JIS使い方シリーズ<改訂版>転がり軸受の選び方・使い方
/1982-7-20/日本規格協会 130〜134頁
甲第17号証:軸受の損耗と対策/S49-10-10/第9版/日刊工業新聞社 232〜239頁

ただし、上記(a)〜(f)のように、無効理由の根拠として使用する甲号証は、甲第2号証、甲第9号証、甲第11号証、甲第13号証、甲第14号証、甲第16号証及び甲第17号証である。
なお、甲第1、2、4〜8、11及び15号の各証は上記標記のものが提出されたものとして扱うことが、口頭審理において確認されている。

(3-2)被請求人の主張
被請求人は、訂正明細書を提出し、答弁書及び被請求人提出の平成17年10月25日付け口頭審理陳述要領書及び口頭審理において、本件特許に係る各発明は、甲第1〜17号証の存在によっては、その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできず、特許法第29条第2項に規定する特許要件を具備したものであり、本件特許は無効とされるべきものではない旨主張する。
なお、被請求人は口頭審理において、甲第1〜17号証の成立を認めた。

4.本件特許発明
上記訂正が認められた結果、本件特許の請求項1〜6に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」〜「本件発明6」といい、また、それらを総称して「本件特許発明」ともいう。)は、訂正明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜6に記載された次のとおりのものと認める。

「【請求項1】 軸受の内輪の幅面に接して油切りまたは後ろ蓋となる付属部品を設けてなり、鉄道車両の車軸に用いられる鉄道車両用軸受ユニットにおいて、前記軸受内輪と付属部品との接触面に潤滑剤を介在させたことを特徴とする鉄道車両用軸受ユニット。
【請求項2】 前記軸受内輪および付属部品の両方またはいずれか一方に、これら軸受内輪および付属部品の接触面において潤滑剤収容凹部を設け、この潤滑剤収容凹部に潤滑剤を封入した請求項1記載の鉄道車両用軸受ユニット。
【請求項3】 前記潤滑剤収容凹部が円周方向の溝からなる請求項2記載の鉄道車両用軸受ユニット。
【請求項4】 前記潤滑剤収容凹部が径方向に延びる溝からなり、かつこの溝は円周方向の複数箇所に設けた請求項2記載の鉄道車両用軸受ユニット。
【請求項5】 軸受の内輪の幅面に接して油切りまたは後ろ蓋となる付属部品を設けてなり、鉄道車両の車軸に用いられる鉄道車両用軸受ユニットにおいて、前記付属部品の軸受内輪との接触面を表面硬化層とした鉄道車両用軸受ユニット。
【請求項6】 前記表面硬化層が高周波焼入れ層である請求項5記載の鉄道車両用軸受ユニット。」

5.甲号各証の記載内容
上記無効理由の根拠として挙げられた甲第2号証、甲第9号証、甲第11号証、甲第13号証、甲第14号証、甲第16号証及び甲第17号証には、概略以下の技術的事項が開示されている。

(5-1)甲第2号証
「鉄道車両用軸受装置」に関し、図面とともに次の記載がある。
[2-イ] 「従来、鉄道車両用軸受装置としては、第2図に示すように、軸端部が小径部31aとされ該小径部31aから反軸端部側に向けて中径部31b,大径部31cと順次形成された車軸31と、上記車軸31の小径部31aに装着され、内輪32、外輪33、ころ34を備えた複列ころ軸受35と、上記外輪33に設けられるシール部材36と、上記複列ころ軸受35の内輪32に反軸端部側に隣接するように設けられ、上記車軸31の中径部31bに圧入嵌合し、反内輪側端面37aを大径部31cの段部側面31dに当接し、上記シール部材36が摺接する環状の被摺接部37とを備え、上記被摺接部37と上記シール部材36の摺接にて上記複列ころ軸受35の内,外輪32,33間の軸方向一方を密封するようにしたものがある。」(2頁1〜15行)
[2-ロ] 「上記従来の鉄道車両用軸受装置は、被摺接部37を内輪32と別体に設けているので、振動等により内輪32の端面32aと被摺接部37の内輪側の端面37bとの接触部分が互いにこすり合って金属粉を出し」(2頁17行〜3頁1行)

上記摘記事項及び第2図の記載から、車軸31に装着された内輪32の端面32aと、内輪32の反軸端部側に隣接して設けられた被摺接部の端面37bとが接触していることが看取できるから、甲第2号証には次の発明(以下、「甲2発明」という。)及び技術的事項(以下、「技術的事項a」という。)が記載されているものと認める。

[甲2発明]
車軸31に装着された内輪32に反軸端部側に隣接するように設けられた被摺接部37を備え、内輪端面32aと被摺接部の端面37bとが接触してなる、鉄道車両の車軸に用いられる鉄道車両用軸受装置

[技術的事項a]
従来の鉄道車両の車軸に用いられる鉄道車両用軸受装置においては、振動等により内輪の端面と被摺接部の内輪側の端面との接触部分が互いにこすり合って金属粉を出すという問題があったこと

(5-2)甲第9号証
「ワークロール用コロ軸受」に関し、図面とともに次の記載がある。
[9-イ] 「スラストつば11面と円錐ころ軸受内輪8端面の接触部相互間に潤滑不良が発生」(2頁上段右欄7〜9行)
[9-ロ] 「ころ軸受潤滑方式は従来と同様のオイルミストを使用するが、特に端面形状が第3図、第4図のようにスラストつば11の軸受接触端面表面部にクローム、銅、合金又はPb-Sn合金或は合成樹脂層27を溶着、接着、鋳込み、メッキ等の手法により複層に形成し、円周方向に複数個の油溝12を配設する」(2頁下段左欄7〜13行)

(5-3)甲第11号証
「軸受装置」に関し、図面とともに次の記載がある。
[11-イ]「軸の外周面には両端部を除き高周波焼入れ硬化層を有するから、軸はニードル転動体の転走に対して耐磨耗性を補償し」(段落【0013】参照)

(5-4)甲第13号証
「国鉄のRCT軸受の定期点検の結果について」と題する論文であり、次の記載が認められる。
[13-イ] 図1に、後ぶた(パッキングリング)を備えたRCT軸受の構造が示されている(54頁)。
[13-ロ] 「(2)軸受圧入力(軸受の車軸への圧着力)
軸受の組み込みは最終圧入力が不足すると,後ぶたの車軸フィレットアール部への密着が不十分となり,後ぶた回り,または後ぶたのフレッティング腐蝕が生じ易くなる.この後ぶたのフレッティング防止には車軸フィレットアールと後ぶたの接触位置とその当り巾などにも,検討の余地がある.しかし,これらの関係が十分であってもかならずしも,完全に防止はできないので,AARなどでも研究課題とされており,圧着面に防錆接着剤などを塗るなど苦心している.なお国鉄の場合は,防錆接着剤エポロン#220を塗っている.」(56頁左欄1〜11行)

(5-5)甲第14号証
「圧延機等のベアリングに於けるレース端面クラツク防止装置」に関し、図面とともに次の記載がある。
[14-イ] 「本考案は圧延機端のベアリングに於いて、ベアリングの内輪端面の全周にわたつて接線と平行な且つ、外周に開口しない直線状の密封油溝を断続させて多角形状に配設したもので、これによって圧延機等のベアリング・レース端面の亀裂を防止すると共に、このベアリング・レース端面の潤滑機能を円滑ならしめたものである。
従来、この種圧延機用ベアリングは第3図に示す如く、内輪イの端面に全周に亙つて環状の油溝ロを設けておる。」(1頁1欄20〜29行)
[14-ロ] 「この考案は内輪1の端面の全周で、且つこの内輪1の外径面と内径面との中間部に接線と平行状の直線状油溝3を断続させて多角形状に配設したから、この密封状で且つ直線状油溝内の潤滑油は、内輪の回転による遠心力によつて逃げ場を失い、為にこの密封状の油溝から強制的に拡散され、その結果、必要な摩擦部分に充分な潤滑油を供給することになる。従つて該部の潤滑機能が著しく増大し、ロール軸の肩または押えリング等の相手方機体の損傷を軽減し、摩耗を防ぎ、軸受部の寿命が長くなる。」(1頁2欄17〜27行)

(5-6)甲第16号証
「転がり軸受の選び方・使い方」に関し、「はめあい面の損傷」について次の記載がある。
[16-イ] 「はめあい面にクリープやフレッチングを生ずるが,その損傷の程度をできるだけ少なくするため,はめあい面の潤滑を良くする対策がとられる。すなわち,はめあい面に極圧性のよい潤滑剤をぬるのが一般であり,特殊な表面処理をしたり,内輪のはめあい面に油みぞを設けることもある。」(131頁8〜11行)
[16-ロ] 「はめあい面のフレッチングも,接触する二面間に相対的な微動が繰返されるときに生ずる現象で,接触部にココア色の微粉(酸化鉄)が生じて摩耗する。」(133頁9〜11行)
[16-ハ] 「軸にモーメントが加わると,内輪の側面とこれに接する面との間にフレッチングを生じ,図3.1.5にその例を示す。また,このような軸に幅の広い内輪が取付けられていると,内輪の内径面の両端に近い位置で軸との間でフレッチングを生ずる。このような場合,はなはだしいときは軸のフレッチングによる疲れによってきれつを生じ,軸を折損することがある。これらは本来のはめあい面ではないが,同様な発生条件によってフレッチングを生ずるのである。」(134頁12〜23行)

(5-7)甲第17号証
「腐蝕・壊食・フレッティング摩耗とその対策」に関し、次の記載がある。
[17-イ] 「フレッティング摩耗は接触面が微小振幅の相対往復運動を行なうときの摩耗をいう」(235頁24〜25行)
[17-ロ] 「(3)フレッティング摩耗
概要は前の接触壊食の項でのべたが,接触面に微小振幅の往復運動を伴う場合に,それに基づく繰返し摩擦によって生ずる機械的摩耗であり、一般に摩耗速度が速く,短期間に相当はげしい摩耗を生ずるものが多い.大気中においては原則として酸化を伴い、微細な酸化摩耗粉末を発生するが、真空中や不活性ガス中では酸化を伴わない.」(237頁1〜6行)
[17-ハ] 「軸受としてはフレッティング摩耗は主としてすべり面でなく,はめあい面などで問題となり,すべり面では停止中振動を受ける場合などに問題となる.
その機構からみて対策は,空気中のフレッティングでは,酸化を防止すること(厚い耐食性表面処理)が第1であるが,これだけではフレッティング摩耗の本質である機械的摩耗はむろん防止できない.これを完全に防止することは現在の技術ではきわめて困難であるが,硬質の表面処理などを行なって耐摩耗性のものとすることにより,かなりの程度まで被害を緩和できる.なお接触面の接触圧力を減少することも当然効果がある.
接触2面を潤滑膜によって隔てることができれば最も理想的であるが,現在このような潤滑剤はない.ただ金属面との結合力を強化した最近の活性の高い二流化モリブデンは,相当程度の効果をあげることができ,今後最も希望のもてる対策の一つであると思われる.」(239頁2〜16行)

6.当審の判断
(6-1)本件発明1について
(6-1-1) 本件発明1と上記甲2発明とを対比すると、後者の「鉄道車両用軸受装置」は前者の「鉄道車両用軸受ユニット」に相当し、以下同様に、「車軸31」は「軸受」に、「内輪32」は「内輪」に、「被摺接部37」は「付属部品」に、「内輪端面32a」は「内輪の幅面」に、それぞれ相当し、また、後者の「内輪端面32aと被摺接部の端面37b」は前者の「軸受内輪と付属部品との接触面」に相当する。
そうすると、本件発明1の用語に倣うと、両者の一致点及び相違点は次のとおりとなる。

[一致点]
軸受の内輪の幅面に接して付属部品を設けてなり、鉄道車両の車軸に用いられる鉄道車両用軸受ユニット

[相違点1]
本件発明1における付属部品は、「油切りまたは後ろ蓋となる」ものであるのに対し、甲2発明の被摺接部37の具体的な構成は不明である点

[相違点2]
本件発明1においては、「軸受内輪と付属部品との接触面に潤滑剤を介在させた」ものであるのに対し、甲2発明における内輪端面32aと被摺接部の端面37bとの接触面はそのような構成となっていない点

(6-1-2) そこで上記相違点1について検討するに、例えば甲第13号証に、後ぶたが示されているように(上記摘記事項[13-イ])、鉄道車両用の車軸に用いられる軸受の付属部品として「油切りまたは後ろ蓋となる」ものが特別なものとは認められない。
したがって、甲2発明における「被摺接部」をそのような付属部品で構成することは当業者が必要に応じて適宜採用し得ることとするのが相当であり、上記相違点1に係る本件発明1の構成は当業者が容易に想到し得たものである。

(6-1-3) 次に上記相違点2について検討する。
甲第2号証には、上記(5-2)において技術的事項aとして認定したように、従来の鉄道車両用軸受装置においては、振動等により内輪の端面と被摺接部の内輪側の端面との接触部分が互いにこすり合って金属粉を出すという問題があったことについても記載され、軸受内輪と付属部品との接触面における摩耗防止という課題が公知であったことが開示されている。
ところで、鉄道車両の車軸に用いられる軸受においては後ぶた回りの接触面にフレッティングが生じ易いこと(甲第13号証の上記摘記事項[13-ロ])、転がり軸受において、内輪のはめあい面や、内輪の側面とこれに接する面との間にフレッチングを生じること(甲第16号証の上記摘記事項[16-イ]〜[16-ハ])、軸受のフレッティング摩耗は主としてはめあい面などで問題になること(甲第17号証の上記摘記事項[17-ハ])からみて、内輪の端面における接触面にフレッティング摩耗が生じ易いことは本件特許に係る出願前に周知の技術事項であったことがうかがえる。
そして、そのようなフレッティング摩耗を防止するには、接触面の潤滑をよくすることであり、潤滑剤をぬるのが一般的であること(摘記事項[16-イ])、接触2面を潤滑膜によって隔てることができれば最も理想的であること(摘記事項[17-ロ])などからみて、フレッティング摩耗防止に潤滑剤を用いることが周知の技術的事項であったということができる。
また、フレッティング摩耗は「接触面が微小振幅の相対往復運動を行なうときの摩耗をいう」のであるから(甲第17号証の上記摘記事項[17-イ]、[17-ロ]及び甲第16号証の上記摘記事項[16-ロ]参照)、甲2発明における内輪端面32aと被摺接部の端面37bとの接触部分が互いにこすり合って金属粉を生じる現象がフレッティング摩耗によるものであることは当業者であれば十分認識していたことと解される。
してみると、甲2発明に該周知のフレッティング摩耗防止技術を適用し、フレッティング摩耗を生じ易い面に潤滑剤を介在させるようなことは当業者であれば格別の創意を要しないというべきである。

被請求人は、甲第13号証、甲第16号証や甲第17号証の記載ははめあい面についてのものであり、本件特許発明で問題にしているのははめあい面ではないとし、本件発明1の構成は甲号各証には開示されていない旨主張する。
たしかに、上記甲号各証の記載は、主としてはめあい面について記載されたものではあるが、摘記事項[16-ハ]のように、必ずしもはめあい面とはいえない面のフレッティング摩耗防止技術も開示しているのであり、はめあい面以外の面へのフレッティング摩耗防止には適用できないものとして説明されているものではない。上記甲号各証の記載は特殊な面におけるものではなく、フレッティングが生じ易い面におけるフレッティング摩耗防止技術について説明されているとするのが相当である。
してみると、主としてはめあい面におけるフレッティング摩耗防止技術であっても、甲2発明のような、内輪端面と被摺接部の端面との接触部分におけるフレッティング摩耗を防止することを目的として、該フレッティング摩耗防止技術を適用することは、やはり当業者にとって容易であるとするのが相当である。
しかも、表面の摩耗防止に潤滑剤を用いること自体は、各種分野において汎用されている技術にすぎず、この点は被請求人も認めている。

したがって、上記相違点2に係る本件発明1の構成は甲第13号証、甲第16号証及び甲第17号証に示される如き周知の技術的事項を適用することによって、当業者が容易に想到し得たものである。

(6-1-4) よって、本件発明1は甲第2号証に記載された発明及び技術的事項、並びに甲第13号証、甲第16号証及び甲第17号証に示される如き周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(6-2)本件発明2について
(6-2-1) 本件発明2と上記甲2発明とを対比すると、上記(6-1-1)の本件発明1との一致点と同じ点で一致し、上記相違点1及び2に加え、次の相違点3でも相違する。

[相違点3]
本件発明2においては、「軸受内輪および付属部品の両方またはいずれか一方に、これら軸受内輪および付属部品の接触面において潤滑剤収容凹部を設け、この潤滑剤収容凹部に潤滑剤を封入した」ものであるのに対し、甲2発明はそのような構成を具備していない点

(6-2-2) 相違点1及び2については上記(6-1-2)及び(6-1-3)で検討したとおりであるから、相違点3について検討する。
潤滑剤を供給するに当たり、供給すべき面に潤滑剤収容用の凹部や溝を設けることは各種分野で慣用されていることであり、転がり軸受においても必要に応じて採用されていることにすぎない(甲第16号証の上記摘記事項[16-イ])。
被請求人は、この点についても、甲第16号証記載のものははめあい面に適用されたものであって、本件特許発明のような「軸受内輪と付属部品との接触面」を対象とするものではない旨反論する。
しかしながら、甲第16号証の記載は、直接的にははめあい面に対するものであっても、潤滑剤を供給すべき面に油みぞを設けることが周知の技術的事項であることは十分に示しているものと解される。
そうすると、該潤滑剤供給の周知技術を考慮すれば、フレッティング摩耗防止のための潤滑剤の供給手段として、潤滑剤収容用の凹部を設けること、すなわち、相違点3に係る本件発明2の構成を採用することは、当業者が必要に応じて容易に想到し得たこととするのが相当である。

(6-2-3) よって、本件発明2は、甲第2号証に記載された発明及び技術的事項、並びに甲第13号証、甲第16号証及び甲第17号証に示される如き周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(6-3)本件発明3について
(6-3-1) 本件発明3と上記甲2発明とを対比すると、本件発明2との一致点(すなわち、上記(6-1-1)の本件発明1との一致点)と同じ点で一致し、上記相違点1〜3に加え、次の相違点4でも相違する。

[相違点4]
本件発明3においては、「潤滑剤収容凹部が円周方向の溝からなる」ものであるのに対し、甲2発明はそのような構成を具備していない点

(6-3-2) 相違点1〜3については上記(6-1-2)、(6-1-3)及び(6-2-2)で検討したとおりであるから、相違点4について検討する。
油溝などの潤滑剤収容用の凹部を用いて潤滑剤を供給するに際し、該凹部の形状を環状の溝とすることは従来より採用されていることであり(甲第14号証の上記摘記事項[14-イ])、フレッティング摩耗防止のための潤滑剤の供給手段として適用することは当業者であれば容易に想到し得ることである。
したがって、上記相違点4に係る本件発明3の構成は甲第14号証に示される如き周知の技術的事項を適用することによって、当業者が容易に想到し得たものである。

(6-3-3) よって、本件発明3は、甲第2号証に記載された発明及び技術的事項、並びに甲第13号証、甲第14号証、甲第16号証及び甲第17号証に示される如き周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(6-4)本件発明4について
(6-4-1) 本件発明4と上記甲2発明とを対比すると、本件発明2との一致点(すなわち、上記(6-1-1)の本件発明1との一致点)と同じ点で一致し、上記相違点1〜3に加え、次の相違点5でも相違する。

[相違点5]
本件発明4においては、「潤滑剤収容凹部が径方向に延びる溝からなり、かつこの溝は円周方向の複数箇所に設けた」ものであるのに対し、甲2発明はそのような構成を具備していない点

(6-4-2) 相違点1〜3については上記(6-1-2)、(6-1-3)及び(6-2-2)で検討したとおりであるから、相違点5について検討する。
甲第9号証には、ころ軸受の潤滑剤の供給を、円周方向に複数個の油溝を配設することによって行うものが記載されている(甲第9号証の上記摘記事項[9-ロ])。
そして、甲第9号証に記載の技術が鉄道車両用の車軸に用いられるものではないとしても、甲第9号証記載の潤滑剤供給技術を、鉄道車両の車軸に用いられる鉄道車両用軸受ユニットの、内輪と付属部品との接触面におけるフレッティング摩耗防止のための潤滑剤の供給手段として適用することが当業者にとって格別困難なこととはいえず、該接触面に、円周方向に複数個の油溝、すなわち径方向に延びる溝を複数箇所に設けることは当業者が容易に想到し得ることといわざるを得ない。
したがって、上記相違点5に係る本件発明4の構成は甲第9号証に記載された技術的事項を適用することによって、当業者が容易に想到し得たものである。

(6-4-3) よって、本件発明4は、甲第2号証及び甲第9号証に記載された発明及び技術的事項、並びに甲第13号証、甲第16号証及び甲第17号証に示される如き周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(6-5)本件発明5について
(6-5-1) 本件発明5と上記甲2発明とを対比すると、後者の「鉄道車両用軸受装置」は前者の「鉄道車両用軸受ユニット」に相当し、以下同様に、「車軸31」は「軸受」に、「内輪32」は「内輪」に、「被摺接部37」は「付属部品」に、「内輪端面32a」は「内輪の幅面」に、それぞれ相当し、また、後者の「内輪端面32aと被摺接部の端面37b」は前者の「軸受内輪と付属部品との接触面」に相当する。
そうすると、本件発明5の用語に倣うと、両者の一致点及び相違点は次のとおりとなる。

[一致点]
軸受の内輪の幅面に接して付属部品を設けてなり、鉄道車両の車軸に用いられる鉄道車両用軸受ユニット

[相違点6]
本件発明5における付属部品は、「油切りまたは後ろ蓋となる」ものであるのに対し、甲2発明の被摺接部37の具体的な構成は不明である点

[相違点7]
本件発明5においては、「付属部品の軸受内輪との接触面を表面硬化層とした」ものであるのに対し、甲2発明における内輪端面32aと被摺接部の端面37bとの接触面はそのような構成となっていない点

(6-5-2) 相違点6は上記相違点1と同じものであり、既に上記(6-1-2)で検討したとおりであるから、相違点7について検討する。
上記(6-1-3)で言及したように、転がり軸受の内輪端面にフレッティング摩耗が生じ易いことは本件特許に係る出願前に周知の技術事項であり、甲2発明における内輪端面32aと被摺接部の端面37bとの接触部分が違いにこすり合って金属粉を生じる現象がフレッティング摩耗によるものであることは当業者が十分認識していたことである。
一般に、摩耗防止のために、表面を硬化処理などにより耐磨耗性とすることは各種分野において慣用されていることである。
そして、転がり軸受の内輪端面に生ずるフレッティング摩耗においても、その防止のために、硬質の表面処理を行って耐摩耗性のものとする試みは周知の事項である(甲第16号証の上記摘記事項[16-イ]及び甲第17号証の上記摘記事項[17-ハ])。
してみると、甲2発明においてフレッティング摩耗を生じ易い面に硬質の表面処理を施すようなことは当業者であれば格別の創意を要しないというべきであり、上記相違点7に係る本件発明5の構成は甲第16号証及び甲第17号証に示される如き周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に想到し得たものである。

(6-5-3) したがって、本件発明5は、甲第2号証に記載された発明及び技術的事項、並びに甲第13号証、甲第16号証及び甲第17号証に示される如き周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(6-6)本件発明6について
(6-6-1) 本件発明6と上記甲2発明とを対比すると、上記(6-5-1)の本件発明5との一致点と同じ点で一致し、上記相違点6及び7に加え、次の相違点8でも相違する。

[相違点8]
本件発明6においては、「表面硬化層が高周波焼入れ層である」のに対し、甲2発明はそのような構成を具備していない点

(6-6-2) 相違点6及び7については実質的に上記(6-1-2)及び(6-5-2)で検討したとおりであるから、相違点8について検討する。
甲第11号証には、軸に対するものではあるが、高周波焼入れ硬化層が耐磨耗性を示すことが記載されており(甲第11号証の上記摘記事項[11-イ])、また、高周波焼入れより表面硬化層を形成させることは金属表面の耐摩耗性を付与するための常套手段ともいえる技術にすぎない。
したがって、相違点8に係る本件発明6の構成は甲第11号証に記載された事項あるいは周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に想到し得たことである。

(6-6-3) よって、本件発明6は、甲第2号証及び甲第11号証に記載された発明及び技術的事項、並びに甲第13号証、甲第16号証及び甲第17号証に示される如き周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

7.むすび
以上のとおり、本件特許発明は、甲第2、9及び11号証に記載された発明並びに甲第13、14、16及び17号証に示される如き周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件の請求項1〜6に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項において準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
鉄道車両用軸受ユニット
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】軸受の内輪の幅面に接して油切りまたは後ろ蓋となる付属部品を設けてなり、鉄道車両の車軸に用いられる鉄道車両用軸受ユニットにおいて、前記軸受内輪と付属部品との接触面に潤滑剤を介在させたことを特徴とする鉄道車両用軸受ユニット。
【請求項2】前記軸受内輪および付属部品の両方またはいずれか一方に、これら軸受内輪および付属部品の接触面において潤滑剤収容凹部を設け、この潤滑剤収容凹部に潤滑剤を封入した請求項1記載の鉄道車両用軸受ユニット。
【請求項3】前記潤滑剤収容凹部が円周方向の溝からなる請求項2記載の鉄道車両用軸受ユニット。
【請求項4】前記潤滑剤収容凹部が径方向に延びる溝からなり、かつこの溝は円周方向の複数箇所に設けた請求項2記載の鉄道車両用軸受ユニット。
【請求項5】軸受の内輪の帳面に接して油切りまたは後ろ蓋となる付属部品を設けてなり、鉄道車両の車軸に用いられる鉄道車両用軸受ユニットにおいて、前記付属部品の軸受内輪との接触面を表面硬化層とした鉄道車両用軸受ユニット。
【請求項6】前記表面硬化層が高周波焼入れ層である請求項5記載の鉄道車両用軸受ユニット。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
この発明は、鉄道車両の車軸などに用いられる鉄道車両用軸受ユニットに関する。
【0002】
【従来の技術】
鉄道車両の車軸用軸受では、図5に示すように軸受50の内輪51の両側に各々接して、油切り52および後ろ蓋53が設けられる。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
このような軸受ユニットにおいて、車軸にかかる多大な曲げモーメントのために、軸受内輪51と油切り52との接触面a、および軸受内輪51と後ろ蓋53との接触面bには繰返し応力が発生する。油切り52および後ろ蓋53は、焼ならしを施しただけの炭素鋼であるため、このような繰返し応力により、油切り52および後ろ蓋53の軸受内輪51との接触面a,bが摩耗する。これが進行すると、軸受50の軸方向の精度を損なうばかりか、隙間過大となり、軸受の単寿命を誘発する。車両の構造上、曲げモーメントによる繰返し応力の発生はやむを得ない。
【0004】
この発明の目的は、油切りや後ろ蓋の摩耗の防止が図れる鉄道車両用軸受ユニットを提供することである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
この発明の軸受ユニットは、鉄道車両の車軸に用いられるものであり、軸受の内輪の幅面に接して油切りまたは後ろ蓋となる付属部品を設けた鉄道車両用軸受ユニットに適用される。
請求項1の発明は、この前提構成の軸受ユニットにおいて、前記軸受内輪と付属部品との接触面に潤滑剤を介在させたことを特徴とする。潤滑剤は、グリースであっても、固体潤滑剤であっても良い。
この構成において、軸受内輪および付属部品の両方またはいずれか一方に、これら軸受内輪および付属部品の接触面において潤滑剤収容凹部を設け、この潤滑剤収容凹部に潤滑剤を封入しても良い。
潤滑剤収容凹部は、円周方向の溝からなるものとしても良く、また径方向に延びる溝としても良い。径方向溝とする場合は、円周方向の複数箇所に設ける。
請求項5の発明は、上記前提構成の軸受ユニットにおいて、前記付属部品の軸受内輪との接触面を表面硬化層としたものである。表面硬化層は、例えば高周波焼入れ層とする。
【0006】
【作用】
請求項1の発明では、軸受内輪と付属部品との接触面に潤滑剤を介在させたので、その潤滑作用で摩耗が抑制される。
潤滑剤収容凹部を設けて潤滑剤を封入した場合は、潤滑剤の封入量を多くすることができるので、長期間にわたって潤滑効果が維持される。
請求項5の発明は、付属部品の軸受内輪との接触面を表面硬化層としたため、この場合も、摩耗の抑制効果が期待できる。表面硬化層が高周波焼入れ層である場合は、その硬化処理が容易であり、量産性が良い。
【0007】
【実施例】
この発明の一実施例を図1に基づいて説明する。この軸受ユニットは鉄道車両の車軸に用いられるものであり、軸受1とその内輪4の両側に各々接して設けられた付属部品である油切り2および後ろ蓋3とで構成される。軸受1は、ころ軸受、詳しくは複列の円すいころ軸受からなり、各列のころ6,6に対して設けた分割形の内輪4,4と、一体型の外輪5と、前記ころ6,6と、保持器7と、前記両内輪4,4間に設けられた内輪間座8とで構成される。軸受1の内外輪4,5は軸受鋼製のものであり、油切り2および後ろ蓋3は焼ならしを施した炭素鋼製のものである。
【0008】
油切り2は、車軸に取付けられて外周にオイルシール9を摺接させるものであり、オイルシール9は外輪5に幅方向に突出して取付けられたリング状のシールカバー10の内周に取付けられている。
後ろ蓋3は、車軸に軸受1よりも中央側で取付られて外周にオイルシール11を摺接させるものであり、オイルシール11は外輪5に幅方向に突出して取付けられたリング状のシールカバー12の内周に取付けられている。このシールカバー12および前記油切り2側のシールカバー10は、外輪1を取付けるハウジング(図示せず)に取付けられたものであっても良い。後ろ蓋3には、外径面から内径面および軸受内輪4との接触面に開通する通気路13が設けられ、通気路13の出口に空気抜栓14が設けられている。
【0009】
この鉄道車両用軸受ユニットは、この前提構造の軸受ユニットにおいて、図1(B)にクロスハッチッグで示すように、軸受内輪4と付属部品である油切り2との接触面に潤滑剤15を介在させたものである。なお、同図に示すクロスハッチッグ部分は、理解の容易のために極端に厚く図示してある。付属部品である後ろ蓋3と軸受内輪4との接触面にも同様に潤滑剤15を介在させる。潤滑剤15にはグリースまたは固体潤滑剤が使用される。この潤滑剤15は、軸受ユニットの組立時等において、前記接触面における片方の面だけに塗布しても、両方の面に塗布しても良い。すなわち、潤滑剤15は、軸受内輪4に塗布せずに、油切り2と後ろ蓋3にだけ塗布しても良く、また油切り2や後ろ蓋3には塗布せずに軸受内輪4にのみ塗布しても、さらに軸受内輪4と油切り2および後ろ蓋3の両方に塗布しても良い。
【0010】
この構成の軸受ユニットによると、軸受内輪4と油切り2との接触面、および軸受内輪4と後ろ蓋3との接触面に潤滑剤15を介在させたので、その潤滑作用で油切り2や後ろ蓋3の摩耗が抑制される。そのため、軸受1の軸方向の精度が保たれ、かつ隙間過大による軸受寿命の低下が避けられ、したがって車両の信頼性向上、メンテナンスフリー化につながる。
【0011】
図2はこの発明の他の実施例を示す。この例は、図1の例の軸受ユニットにおいて、軸受内輪4と油切り2の接触面に潤滑剤収容凹部16を設け、この潤滑剤収容凹部16に潤滑剤15を封入したものである。潤滑剤収容凹部16は、油切り2と軸受内輪4とに互いに整合して設けた円周方向の溝16a,16bからなる。潤滑剤15には、前記と同様にグリースまたは固体潤滑剤が使用される。なお、図1の後ろ蓋3と軸受内輪4との接触面にも、図2の例と同様に潤滑剤収容凹部を設ける。
【0012】
このように潤滑剤収容凹部16を設けて潤滑剤15を封入した場合は、潤滑剤15の封入量を多くすることができ、そのため長期間にわたって潤滑効果が維持される。また、この凹部16が閉空間となるので、封入された潤滑剤15が不測に排出されることが防止される。
なお、潤滑剤収容凹部16は、油切り2および軸受内輪4の円周方向の溝16a,16bのいずれか片方のみで形成しても良い。後ろ蓋3側の接触面に潤滑剤収容凹部を設ける場合も同様に、いずれか片方の溝のみでも良い。
【0013】
図3はこの発明のさらに他の実施例を示す。この例は、図1の例の軸受ユニットにおいて、潤滑剤収容凹部17を、油切り2と軸受内輪4の接触面に径方向溝17a,17bによって形成し、潤滑剤収容凹部17内にグリースまたは固体潤滑剤等の潤滑剤15を封入したものである。径方向溝17a,17bは、油切り2と軸受内輪4の外径面から径方向幅の途中までの長さのものとしてある。また、径方向溝17a,17bは、油切り2および軸受内輪4の円周方向の複数箇所に設けてある。なお、図1の後ろ蓋3と軸受内輪4との間にも、図3の例と同様に後ろ蓋3と軸受内輪4とに径方向溝からなる潤滑剤収容凹部を設ける。これらの潤滑剤収容凹部17も、油切り2および軸受内輪4のいずれか一方の径方向溝17a,17bで構成しても良い。後ろ蓋3側に設ける潤滑剤収容凹部も同様である。
このように径方向溝17a,17bからなる潤滑剤収容凹部17を設けて潤滑剤15を充填した場合も、潤滑剤15の封入量を多くすることができ、長期間にわたって潤滑効果が維持される。
【0014】
図4はこの発明のさらに他の実施例を示す。この例は、図1の実施例において、油切り2および後ろ蓋3の軸受内輪4との接触面を表面硬化層2a,3aとしたものである。油切り2および後ろ蓋3は、前記のように焼ならしを施した炭素鋼製のものであり、これに高周波焼入れで表面硬化層2a,3aを形成してある。表面硬化層2a,3aは、高周波焼入れ層の他、浸炭、浸炭窒化、窒化、または火炎焼入れによる硬化層、あるいは物理気相成長法(PVD)や化学気相成長法(CVD)等による薄膜の硬化層であっても良い。
【0015】
このように油切り2および後ろ蓋3に表面硬化層2a,3aを設けた場合も、油切り2および後ろ蓋3の軸受内輪4との接触面における摩耗が防止され、これにより軸受1の隙間過大を無くすことができ、軸受の信頼性を向上させることができる。表面硬化層2a,3aを高周波焼入れで形成する場合、局部的な硬化処理が簡単に製造効率良く行え、硬化処理に伴うコスト増加が少なくて済む。
この表面硬化層2a,3aの形成と、前記各実施例における潤滑剤15の封入構造とを併用しても良い。
【0016】
なお、前記各実施例では油切り2と後ろ蓋3との両方の接触面に潤滑剤15を介在させ、あるいは表面硬化層2a,3aを設けたが、油切り2と後ろ蓋3とのいずれか片方のみに、潤滑剤15の介在、あるいは表面硬化層2a,3aの形成を行っても良い。
【0017】
【発明の効果】
請求項1の発明の鉄道車両用軸受ユニットは、軸受内輪と油切りまたは後ろ蓋となる付属部品との接触面に潤滑剤を介在させたので、その潤滑作用で摩耗が抑制され、これにより軸方向の精度が保たれ、かつ隙間過大による軸受寿命の低下が避けられる。
潤滑剤収容凹部を設けて潤滑剤を封入した場合は、潤滑剤の封入量を多くすることができるので、長期間にわたって潤滑効果が維持され、潤滑による摩耗の抑制効果が得られる。そのため、車両の信頼性向上、メンテナンスフリー化につながる。
潤滑剤収容凹部を円周方向の溝とした場合は、この凹部が閉空間となるので、封入された潤滑剤が不測に排出されることが防止される。また、円周溝であるため、加工も容易で、容量も大きく得ることが簡単である。
潤滑剤収容凹部を径方向溝とした場合は、加工が簡単で、潤滑剤の封入作業も簡単となる。
請求項5の発明の鉄道車両用軸受ユニットは、軸受内輪と油切りまたは後ろ蓋となる付属部品における軸受内輪との接触面を表面硬化層としたため、この場合も、摩耗が抑制され、車両の信頼性向上、メンテナンスフリー化につながる。
表面硬化層が高周波焼入れ層である場合は、その硬化処理が容易であり、量産性が良い。
【図面の簡単な説明】
【図1】
(A)はこの発明の一実施例にかかる軸受ユニットの断面図、(B)はその一部の拡大断面図である。
【図2】
この発明の他の実施例にかかる軸受ユニットの部分断面図である。
【図3】
この発明のさらに他の実施例にかかる軸受ユニットの部分断面図である。
【図4】
この発明のさらに他の実施例にかかる軸受ユニットの断面図である。
【図5】
従来例の断面図である。
【符号の説明】
1…軸受、2…油切り(付属部品)、2a…表面硬化層、3…後ろ蓋(付属部品)、3a…表面硬化層、4…軸受内輪、15…潤滑剤、16,17…潤滑剤収容凹部
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2005-11-18 
結審通知日 2005-11-24 
審決日 2005-12-06 
出願番号 特願平6-292426
審決分類 P 1 113・ 121- ZA (F16C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 ▲高▼辻 将人  
特許庁審判長 船越 巧子
特許庁審判官 平田 信勝
亀丸 広司
登録日 2003-05-23 
登録番号 特許第3431703号(P3431703)
発明の名称 鉄道車両用軸受ユニット  
代理人 川崎 実夫  
代理人 野田 雅士  
代理人 杉本 修司  
代理人 野田 雅士  
代理人 稲岡 耕作  
代理人 杉本 修司  

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