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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01J
管理番号 1133450
審判番号 不服2003-6985  
総通号数 77 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1997-10-03 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-04-24 
確定日 2006-03-23 
事件の表示 平成8年特許願第71924号「熱型赤外線検知装置」拒絶査定不服審判事件〔平成9年10月3日出願公開、特開平9-257584〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 [1]本件発明
本件は、平成8年3月27日の出願であって、平成14年8月23日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1から4には次のとおり記載されている。

【請求項1】 基板と、
該基板上のサーモパイルと、
該サーモパイルの温接点近傍を該基板から熱的に分離する熱分離領域と、
該サーモパイルの温接点近傍に設けられた入射赤外線吸収領域と、
該サーモパイルの冷接点近傍に設けられた冷接点温度制御手段と、
該サーモパイルに発生した逆起電力を基に冷接点温度制御手段が発生する熱量を制御する制御手段と、を有し、
前記温接点と前記入射赤外線吸収領域との間の熱抵抗が、該温接点と前記冷接点温度制御手段との間の熱抵抗よりも小さく、且つ、前記冷接点と前記入射赤外線吸収領域との間の熱抵抗が、該冷接点と前記冷接点温度制御手段との間の熱抵抗よりも大きいこと
を特徴とする熱型赤外線検知装置。
【請求項2】 前記冷接点温度制御手段はジュール熱を発生することを特徴とする請求項1に記載の熱型赤外線検知装置。
【請求項3】 前記冷接点温度制御手段はペルチェ効果を利用したものであることを特徴とする請求項1に記載の熱型赤外線検知装置。
【請求項4】 前記冷接点近傍は基板と熱分離されていることを特徴とする請求項1に記載の熱型赤外線検知装置。

上記請求項1の「該サーモパイルに発生した逆起電力を基に・・・制御手段」なる記載(補正された【0010】にも同様の記載がある。)は意味不明であるが、補正前の請求項1と【0010】には「該サーモパイルに発生した熱起電力を基に・・・制御手段」と記載されており、しかも、【0013】等には「熱起電力によって動作をコントロールされる冷接点温度制御手段22」との記載があるから、「逆起電力」は誤記であって正しくは「熱起電力」であると認める。以下、この請求項1に係る発明を「本件発明」という。

[2]原査定の拒絶の理由に引用された刊行物に記載された事項
刊行物1;米国特許第4904090号明細書(1990)
刊行物1の2欄9から64行の記載と図1によれば、刊行物1には、ハウジング1内に空洞を有する支持構造体3と、その空洞を覆う酸化膜6と、支持構造体上面の周囲の酸化膜上に設けられた冷接点14と支持構造体上面の中央の酸化膜上に設けられた温接点15とを有するサーモパイルと、そのサーモパイルの温接点を覆う黒吸収部16と、支持構造体3の下面とヘッダー13を介して接触したペルチエ素子18とからなる熱型赤外線検知装置が記載されていることが認められる。
そして、刊行物1の2欄65行から3欄21行には、上記のサーモパイルの温接点と冷接点の温度差に起因して発生した熱起電力を基にペルチェ素子に与える電力をフィードバック制御して壁21の温度T2とハウジング1内部の温度T1が等しくなるように制御することが記載されていて、ペルチェ素子に与える電力はサーモパイルの温接点と冷接点の温度差に起因して発生した熱起電力を基にしているから、ハウジング1内部の温度=冷接点の温度=T1であって、サーモパイルの冷接点に熱量を与える冷接点温度制御手段(支持構造体3の下面とヘッダー13を介して接触したペルチエ素子)とサーモパイルに発生した熱起電力を基に冷接点温度制御手段が発生する熱量を制御する制御手段を有していると認めることができる。

刊行物2;実願昭60-198077号(実開昭62-106129号)のマイクロフィルム
「サーモパイルの冷接点を冷却可能に、電子冷却素子の吸熱部をサーモパイルの冷接点に近接させて配設してなる電子冷却素子を組み込んだサーモパイル素子」(実用新案登録請求の範囲)

[3]対比・判断
(1)刊行物1に記載された発明と本件発明とを対比すると、前者の「支持構造体と酸化膜」、「空洞」、「黒吸収部」は、後者の「基板」、「サーモパイルの温接点近傍を該基板から熱的に分離する熱分離領域」、「サーモパイルの温接点近傍に設けられた入射赤外線吸収領域」に相当するから、本件発明と刊行物1に記載された発明とは、
「基板と、
該基板上のサーモパイルと、
該サーモパイルの温接点近傍を該基板から熱的に分離する熱分離領域と、
該サーモパイルの温接点近傍に設けられた入射赤外線吸収領域と、
該サーモパイルの冷接点に熱量を与える冷接点温度制御手段と、
該サーモパイルに発生した熱起電力を基に冷接点温度制御手段が発生する熱量を制御する制御手段と、
を有する熱型赤外線検知装置。」
で一致し、次の点で相違する。
相違点1;
本件発明では、「サーモパイルの冷接点近傍に設けられた冷接点温度制御手段」であるのに対し、刊行物1に記載された発明では、「支持構造体3の下面とヘッダー13を介して接触したペルチエ素子」である点。

相違点2;
本件発明においては、「前記温接点と前記入射赤外線吸収領域との間の熱抵抗が、該温接点と前記冷接点温度制御手段との間の熱抵抗よりも小さく、且つ、前記冷接点と前記入射赤外線吸収領域との間の熱抵抗が、該冷接点と前記冷接点温度制御手段との間の熱抵抗よりも大きいことを特徴とする」と記載されているのに対し、刊行物1にはそのような記載がされていない点。

(2)相違点1について検討するに、
刊行物1に記載された発明はサーモパイルの冷接点温度T1が温接点温度T2になるように「冷接点温度制御手段」と「サーモパイルに発生した熱起電力を基に冷接点温度制御手段が発生する熱量を制御する制御手段」とを設けているところ、サーモパイル素子の熱起電力を大とする目的で冷接点を冷却するために冷接点温度制御手段(電子冷却素子)を冷接点近傍に設けることが周知技術であり(刊行物2の記載と図示参照)、また、サーモパイルの冷接点を加熱する場合についても冷接点温度制御手段を冷接点近傍に設けることは周知技術(例えば、特開平7-181082号公報の【0015】から【0017】の記載参照)であって、これらの周知技術がサーモパイルの冷接点温度を温接点温度になるように制御する目的で使用されるものではないとしても、サーモパイルの冷接点の近傍に冷接点温度制御手段を設けて冷接点に熱量を与える技術として刊行物1に記載された発明の冷接点温度制御制御手段と同様の技術であるから、刊行物1の発明の冷接点温度制御手段として利用することに困難はなく、これらの周知技術を利用して相違点1に係る本件発明の構成を得ることは当業者が容易になし得たことである。

(3)相違点2について検討するに、
刊行物1に記載されたようなサーモパイルを利用した熱型赤外線検知装置においては、「温接点と入射赤外線吸収領域との間の熱抵抗が、温接点と冷接点温度制御手段との間の熱抵抗よりも小さい」ことは技術常識であり(原査定の拒絶理由で指摘された特開平4-6424号公報の記載および上記特開平7-181082号公報の【0024】の記載参照)、また、相違点1に係る本件発明の構成を当業者が容易に得ることができた以上、「且つ、冷接点と入射赤外線吸収領域との間の熱抵抗が、冷接点と冷接点温度制御手段との間の熱抵抗よりも大きい」ことは自ずと得られることである。
すなわち、熱型赤外線検知装置において温接点と冷接点間の熱抵抗が大きいことは技術常識である(上記特開平4-6424号公報の記載および上記特開平7-181082号公報の【0024】の記載参照)から冷接点と入射赤外線吸収領域との間の熱抵抗は大きく、冷接点の近傍に冷接点温度制御手段を設けると両者の距離は短いから当然に冷接点と冷接点温度制御手段との間の熱抵抗は小さくなる(上記特開平7-181082号公報【0022】の記載参照)からである。

(4)そして、本件明細書に記載された本件発明の作用効果は、刊行物1、刊行物2、周知技術例に記載された事項から当業者が容易に予測しうるものであって格別のものとは認められない。

[4]むすび
以上の検討によれば、本件の請求項1に係る発明は、その出願前に国内で頒布された刊行物1に記載された発明および周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、他の請求項に係る発明についての検討・判断を示すまでもなく、この出願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-01-19 
結審通知日 2006-01-24 
審決日 2006-02-07 
出願番号 特願平8-71924
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 ▲高▼場 正光安田 明央  
特許庁審判長 渡部 利行
特許庁審判官 櫻井 仁
水垣 親房
発明の名称 熱型赤外線検知装置  
代理人 三好 秀和  

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