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審決分類 審判 査定不服 産業上利用性 特許、登録しない。 G06F
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 G06F
審判 査定不服 4項4号特許請求の範囲における明りょうでない記載の釈明 特許、登録しない。 G06F
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 G06F
管理番号 1133528
審判番号 不服2003-13218  
総通号数 77 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2001-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-07-10 
確定日 2006-01-19 
事件の表示 特願2000- 72260「インターネットオークションシステム」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 9月28日出願公開、特開2001-265960〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成12年3月15日の出願であって、平成15年6月5日付で拒絶査定がなされ、これに対し、同年7月10日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年8月11日付で手続補正がなされたものである。

2.平成15年8月11日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成15年8月11日付の手続補正を却下する。
[理由]
(1)補正の内容
本件補正により、請求項1は、
「インターネットを介して相互に接続された計算機からなるセンタ装置と参加者装置とを備え、
センタ装置が、予め決められ記憶部に格納された売切価格値と、参加者装置の入力手段を介して入力されセンタ装置まで送信された付け値とを比較し、上記付け値が上記売切価格値を超えており、且つ、その付け値が唯一の付け値であるときは、該付け値が入力された参加者装置の参加者を落札者として決定するインターネットオークションシステムであって、
センタ装置は、
付け値投入の初期値を表すスタート価格値と、参加者装置の入力手段を介して入力される付け値の上限を表す上限価格値と、商品の売切価格値とを予め記憶部に格納しておく手段と、
一つのサイクル開始からサイクル終了までの数秒から数十秒の第1の所定時間長と、第1の所定時間より短い付け値投入期間たる第2の所定時間長に係るデータを記憶部に格納しておく手段と、
第2の所定時間長を備える付け値投入期間を含む、第1の所定時間長を備えるサイクルを開始し継続して計時するサイクル開始手段と、
上記参加者装置から送信されて入力バッファに一時的に格納され、且つ、送信タイミングが上記付け値投入期間開始時点から上記第2の所定時間長の終了時点までである付け値データにおいて、付け値がスタート価格値と上限価格値との間であるものが存在するか否かを判断する第1の判断手段であって、一組の上記スタート価格値と上記上限価格値とが直近の付け値投入期間に対して対応付けられ計算機たるセンタ装置の固有の記憶部に格納されている第1の判断手段と、
上記第1の判断手段が、付け値がスタート価格値と上限価格値との間である付け値データが存在すると判断した場合、付け値データの少なくとも一つが上記売切価格値を超えているか否か判断する第2の判断手段と、
上記第1の判断手段が、付け値がスタート価格値と上限価格値との間である付け値データが存在すると判断し、且つ、上記第2の判断手段が、付け値データの少なくとも一つが上記売切価格値を超えていると判断した場合、その上記売り切り価格を超えていると判断した付け値データが直近の付け値投入期間における唯一の付け値投入であるか否か判断する第3の判断手段と、
上記第1の判断手段が、付け値がスタート価格値と上限価格値との間である付け値データが存在すると判断したという前提の下で、
上記第2の判断手段が、付け値データが上記売切価格値を超えていないと判断した場合、あるいは、上記第2の判断手段が、付け値データが上記売切価格値を超えていると判断し、且つ、上記第3の判断手段が、直近の付け値投入期間における唯一の付け値投入で無いと判断した場合、送信された付け値データのうち最高の付け値を次のスタート価格値として、その次のスタート価格値をセンタ装置に固有の記憶部に格納し、上記第1の所定期間長の経過後に上記サイクル開始手段、上記第1の判断手段、上記第2の判断手段、及び上記第3の判断手段を再び稼動させ、
それらの再稼動を落札者の決定まで繰り返す、第1の繰り返し手段と、
上記第1の判断手段が、付け値がスタート価格値と上限価格値との間である付け値データが存在すると判断したという前提の下で、
上記第2の判断手段が、付け値データの少なくとも一つが上記売切価格値を超えていると判断し、且つ、上記第3の判断手段が直近の付け値投入期間における付け値投入が唯一であると判断した場合、上記売切価格値を超える付け値データに係る参加者のデータに対し、落札者としての決定を示すデータを付与する第1の決定手段とを備えていることを特徴とするインターネットオークションシステム。」
と補正された
本件補正により、請求項2は、
「インターネットを通じてオークションを実施するシステムであって、
インターネットを通じて接続された計算機からなる参加者装置とセンタ装置とを備えており、
上記センタ装置は、付け値投入の初期値を表すスタート価格値と、参加者装置の入力手段を介して入力される付け値の上限を表す上限価格値と、商品の売切価格値とを予め記憶部に格納しておく手段と、
一つのサイクル開始からサイクル終了までの数秒から数十秒の第1の所定時間長と、第1の所定時間より短い付け値投入期間たる第2の所定時間長に係るデータを記憶部に格納しておく手段と、
第2の所定時間長を備える付け値投入期間を含む、第1の所定時間長を備えるサイクルを開始し継続して計時するサイクル開始手段とを有し、
上記参加者装置は、上記付け値投入期間開始時点のデータ、上記第2の所定時間長データ、スタート価格値データ、及び上限価格値データを上記センタ装置から受けとり、上記付け値投入期間開始時点から始まる付け値投入期間に、その一つの付け値投入期間に対して対応付けられるスタート価格値から上限価格値までの間の付け値を投入するボタンと、上記ボタンから投入された付け値をセンタ装置に送信する第1の送信手段を有し、
上記センタ装置は、
上記付け値投入期間内に上記参加者装置から付け値が送信されたか否かを判断する第4の判断手段と、
上記参加者装置から投入された付け値が、予め決められ記憶部に格納された売切価格値を超えている場合、その上記売切価格を超えていると判断した付け値データが直近の付け値投入期間における唯一の付け値投入であるか否かを判断する第5の判断手段と、
上記参加者装置から投入された付け値が、予め決められ記憶部に格納された売切価格値を超えている場合に、更に、上記第5の判断手段が、その上記売切価格を超えていると判断した付け値データが直近の付け値投入期間における唯一の付け値投入であると判断した場合、上記売切価格値を超える付け値データに係る参加者のデータに対し、落札者としての決定を示すデータを付与する第2の決定手段と、
上記参加者装置から投入された付け値が、予め決められ記憶部に格納された売切価格値を超えていない場合、あるいは、上記参加者装置から投入された付け値が、予め決められ記憶部に格納された売切価格値を超えているが、上記第5の判断手段が、その上記売切価格を超えていると判断した付け値データが直近の付け値投入期間における唯一の付け値投入で無いと判断した場合、上記付け値投入期間における上記参加者装置から送信された付け値データのうち最高の付け値を次のスタート価格値として、その次のスタート価格値をセンタ装置に固有の記憶部に格納し、上記第1の所定期間長の経過後に上記サイクル開始手段、上記参加者装置の第1の送信手段、上記第4の判断手段、及び上記第5の判断手段を再び稼動させ、
それらの再稼動を落札者の決定まで繰り返す、第2の繰り返し手段とを備えたことを特徴とするインターネットオークションシステム。」
と補正された。
本件補正により、請求項3は、
「上記参加者装置は、上記付け値投入期間の直前に、スタート価格及び上限価格に係るデータを受け取り、
上記参加者装置の表示部は、
上記付け値投入期間内に、スタート価格から上限価格までの間で漸増する価格を表示する価格ゲージと、
クリックされることによりそのクリックの時点に上記価格ゲージに表示されている価格を付け値データとして参加者装置に受け付けせしめるボタンとを有することを特徴とする請求項1に記載のインターネットオークションシステム。」
と補正された。
本件補正により、請求項4は、
「上記参加者装置の表示部は、
上記付け値投入期間内に、スタート価格から上限価格までの間で漸増する価格を表示する価格ゲージを有し、
上記ボタンは、クリックされることによりそのクリックの時点に上記価格ゲージに表示されている価格を付け値データとして参加者装置に受け付けせしめるボタンであることを特徴とする請求項2に記載のインターネットオークションシステム。」
と補正された。
本件補正により、請求項5は、
「上記参加者装置の表示部は、最下部から最上部までの長さを有し、且つ、スタート価格値から上限価格値までの間で漸増する価格ゲージの価格に対応して上記付け値投入期間内に上記最下部から最上部まで時間経過に比例して漸増するグラフを表示するタイムゲージを備えていることを特徴とする請求項3に記載のインターネットオークションシステム。」
と補正された。
本件補正により、請求項6は、
「上記参加者装置の表示部は、最下部から最上部までの長さを有し、且つ、スタート価格値から上限価格値までの間で漸増する価格ゲージの価格に対応して上記付け値投入期間内に上記最下部から最上部まで時間経過に比例して漸増するグラフを表示するタイムゲージを備えていることを特徴とする請求項4に記載のインターネットオークションシステム。」
と補正された。
本件補正により、請求項7は、
「上記センタ装置は、
上記第1の判断手段が、付け値がスタート価格値と上限価格値との間である付け値データが存在しないと判断した場合に、上記付け値投入期間が1回目のサイクルのものか否かを判断する第6の判断手段と、
上記第6の判断手段が、上記付け値投入期間が1回目のサイクルのものであると判断した場合、落札者としての決定を示すデータをどの付け値データにも付与せず完了する第1の完了手段とを備えたことを特徴とする請求項1、3又は5のいずれか一に記載のインターネットオークションシステム。」
と補正された。
本件補正により、請求項8は、
「上記センタ装置は、
上記第4の判断手段が、上記付け値投入期間内に上記参加者装置から付け値が送信されなかったと判断した場合に、上記付け値投入期間が1回目のサイクルのものか否かを判断する第7の判断手段と、
上記第7の判断手段が、上記付け値投入期間が1回目のサイクルのものであると判断した場合、落札者としての決定を示すデータをどの付け値データにも付与せず完了する第2の完了手段とを備えたことを特徴とする請求項2、4又は6のいずれか一に記載のインターネットオークションシステム。」
と補正された。
本件補正により、請求項9は、
「上記センタ装置は、
上記第2の判断手段が、付け値データの少なくとも一つが上記売切価格値を超えていると判断した場合、上記売切価格値を超える付け値データが一つか否かを判断する第8の判断手段と、
上記第8の判断手段が上記売切価格値を超える付け値データが複数であると判断した場合、それら複数の付け値データのうち最高の付け値を次のスタート価格値として、その次のスタート価格値をセンタ装置に固有の記憶部に格納し、上記第1の所定期間長の経過後に上記サイクル開始手段、上記第1の判断手段、上記第2の判断手段、及び上記第3の判断手段を再び稼動させる、第3の繰り返し手段と、
上記の次のサイクルにおいて、上記売切価格値を超える複数の付け値データのうち一つに対し、落札者としての決定を示すデータを付与する第3の決定手段とを備えていることを特徴とする請求項1、3、5又は7のいずれか一に記載のインターネットオークションシステム。」
と補正された。
本件補正により、請求項10は、
「上記センタ装置は、
上記参加者装置から投入された付け値が、予め決められ記憶部に格納された売切価格値を超えている場合、上記売切価格値を超える付け値データが一つか否かを判断する第9の判断手段と、
上記第9の判断手段が上記売切価格値を超える付け値データが複数であると判断した場合、それら複数の付け値データのうち最高の付け値を次のスタート価格値として、その次のスタート価格値をセンタ装置に固有の記憶部に格納し、上記第1の所定期間長の経過後に上記サイクル開始手段、上記参加者装置の第1の送信手段、上記第4の判断手段、及び上記第5の判断手段を再び稼動させる、第4の繰り返し手段と、
上記の次のサイクルにおいて、上記売切価格値を超える複数の付け値データのうち一つに対し、落札者としての決定を示すデータを付与する第4の決定手段とを備えていることを特徴とする請求項2、4、6又は8のいずれか一に記載のインターネットオークションシステム。」
と補正された。
本件補正により、請求項11は、
「上記センタ装置は、
上記第2の判断手段が、付け値データが上記売切価格値を超えていないと判断した場合、上記付け値投入期間が予め決められ記憶部に格納されたサイクル数に該当するものか否かを判断する第10の判断手段と、
上記第10の判断手段が、上記付け値投入期間が予め決められ記憶部に格納されたサイクル数に該当するものであると判断した場合、落札者としての決定を示すデータをどの付け値データにも付与せず完了する第3の完了手段と、
上記第10の判断手段が、上記付け値投入期間が予め決められ記憶部に格納されたサイクル数に該当しないものであると判断した場合、上記第1の所定期間長の経過後に上記サイクル開始手段、上記第1の判断手段、上記第2の判断手段、及び上記第3の判断手段を再び稼動させる、第5の繰り返し手段とを備えたことを特徴とする請求項1、3、5、7又は9のいずれか一に記載のインターネットオークションシステム。」
と補正された。
本件補正により、請求項12は、
「上記センタ装置は、
上記参加者装置から投入された付け値が、予め決められ記憶部に格納された売切価格値を超えていない場合、上記付け値投入期間が予め決められたサイクル数に該当するものか否かを判断する第11の判断手段と、
上記第11の判断手段が、上記付け値投入期間が予め決められ記憶部に格納されたサイクル数に該当するものであると判断した場合、落札者としての決定を示すデータをどの付け値データにも付与せず完了する第4の完了手段と、
上記第11の判断手段が、上記付け値投入期間が予め決められ記憶部に格納されたサイクル数に該当しないものであると判断した場合、上記第1の所定期間長の経過後に上記サイクル開始手段、上記参加者装置の第1の送信手段、上記第4の判断手段、及び上記第5の判断手段を再び稼動させる、第6の繰り返し手段とを備えたことを特徴とする請求項2、4、6、8又は10のいずれか一に記載のインターネットオークションシステム。」
と補正された。
本件補正により、請求項13は、
「上記センタ装置は、
上記第8の判断手段が、上記売切価格値を超える付け値データが複数であると判断した場合、それら複数の付け値データのうち最高の付け値を送信した参加者装置に対し、その時点での付け値の最高値を受信した旨を示すメッセージを送信する第2の送信手段を更に有することを特徴とする請求項9又は11のいずれか一に記載のインターネットオークションシステム。」
と補正された。
本件補正により、請求項14は、
「上記センタ装置は、
上記第9の判断手段が、上記売切価格値を超える付け値データが複数であると判断した場合、それら複数の付け値データのうち最高の付け値を送信した参加者装置に対し、その時点での付け値の最高値を受信した旨を示すメッセージを送信する第3の送信手段を更に有し、
その参加者装置が、そのメッセージを表示する第1の表示手段を更に有することを特徴とする請求項10又は12のいずれか一に記載のインターネットオークションシステム。」
と補正された。
本件補正により、請求項15は、
「上記参加者装置が、
オークションの開始前に予め代理投入に係る予定付け値を受け取る第2の入力手段と、その予定付け値をセンタ装置に送信する第4の送信手段を更に有し、
センタ装置が、
上記のオークションの開始前に予め受信した代理投入に係る予定付け値を記憶する第2の記憶手段と、
オークション遂行時の各サイクルに、その予め記憶された代理投入に係る予定付け値を上限とするという条件の下で、上記付け値投入期間内の他の参加者装置からの付け値の最高値に所定の価格値を加えて、上記の代理投入に係る実際の付け値とする代理投入設定手段とを更に有することを特徴とする請求項1から14のいずれか一に記載のインターネットオークションシステム。」
と補正された。
本件補正により、請求項16は、
「計算機からなる査定者装置が、更にインターネットを介してセンタ装置に接続され、
査定者装置は、売切価格値に対する変更データを入力する第3の入力手段と、その売切価格値に対する変更データをセンタ装置に送信する第5の送信手段とを有し、
センタ装置は、上記の売切価格値に対する変更データを受信し記憶部に格納された従前の売切価格値を変更して再び記憶部に格納する変更手段を、更に有することを特徴とする請求項1から15のいずれか一に記載のインターネットオークションシステム。」
と補正された。

(2)本件補正に対する審判請求人の主張の概要
本件補正に対する審判請求人の主張の概要は、平成17年8月12日付の上申書の記載からみて、以下のとおりである。
「1.上申の目的
平成15年12月16日作成の前置報告書には、平成15年8月11日に提出した手続補正書(以下、単に「手続補正書」という。)の請求項1に係る補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した範囲内においてしたものでなく、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであるから、同法第53条第1項の規定により却下すべきものであると述べられている。
具体的に、以下の補正事項(a)〜(e)に係る補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された範囲を逸脱している、というものである。
〔補正事項〕
(a)「付け値投入の初期値・・・予め記憶部に格納しておく手段」
(b)「一つのサイクル開始から・・・データを記憶部に格納しておく手段」
(c)「・・・サイクル開始手段」
(d)「一組の上記スタート価格値と・・・第1の判断手段」
(e)「・・・第3の判断手段」
しかし、この判断は誤りであり、以下に補正事項(a)〜(e)はいずれも願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した範囲内においてしたものであることを説明する。
なお、前置報告書では触れられていないが、補正事項(a)〜(e)は、いずれも明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。

2.補正の根拠の明示
(1)補正事項(a)について
補正事項(a)は、「付け値投入の初期値を表すスタート価格値と、参加者装置の入力
手段を介して入力される付け値の上限を表す上限価格値と、商品の売切価格値とを予め記憶部に格納しておく手段」を請求項1に加えたものである。
そして、補正事項(a)は、出願当初の明細書の以下の記載を根拠とするものである。
・段落【0033】
『オークション対象商品に関係する査定者(又は出品者)により、当該サイクルにおける「上限価格」が予め設定されている。「スタート価格」48も事前(オークション前)にその査定者(出品者)により設定されているが、サイクルが2サイクル目以降であるなら前回サイクルの最高ビッド価格(参加者が投入したビッド価格のうちの最高値)がスタート価格となる。』
・段落【0037】
『「結果通知期間P4」では、センタシステム3において、
・商品が落札されたか、せり取引は「流れ」(不成立)になったか、
・せり取引が継続するか(同一セッションの次サイクルに移行するか)、が決定され所定の複数の端末装置に表示される。せり取引が継続するならば、
・前サイクルの結果と、
・次のサイクルの条件(スタート価格、上限価格、等)が表示される。』
・段落【0066】
『上記の説明では、「売切(希望)価格」は、オークション対象商品に係るセッションが開始される以前に、査定者装置16において査定者又は出品者により予め設定されている。』
・段落【0016】
『参加者装置20と査定者装置16とは、インターネット網8及びオークションセンタ装置6に接続しており、参加者装置20から入力されたデータは、適宜処理されて査定者装置16にて表示されるように構成されており、査定者装置16から入力されたデータは、適宜処理されて参加者装置20にて表示されるように構成されている。』
上記の段落【0016】に記載するように、センタシステムが稼動する(段落【0014】参照)コンピュータであるセンタ装置6は、査定者装置16と接続する。「上限価格」「スタート価格」「売切価格」(上記の段落【0033】【0066】参照)は査定者装置16から設定されるのであり、センタシステムが稼動するセンタ装置6は、端末装置への表示(上記の段落【0037】参照)等のために、それらのデータを収集し格納している。ここで、コンピュータであるセンタ装置6は、一般的なコンピュータとして、CPUなどの演算装置、メモリなどの記憶部、通信インタフェースなどの通信部、データの入力手段、及び出力手段などを備えることは、当業者には明白である。
従って、一般的なコンピュータシステムの開発に携わる当業者が本願の当初の明細書及び図面に接したときには、上記のように収集されたデータは当然にセンタ装置の記憶部に格納されると判断すると考えられる。
従って、請求項1にて「センタ装置」が「付け値投入の初期値を表すスタート価格値と、参加者装置の入力手段を介して入力される付け値の上限を表す上限価格値と、商品の売切価格値とを予め記憶部に格納しておく手段」を備える、と補正することは、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された範囲を逸脱するものではない。

(2)補正事項(b)について
補正事項(b)は、「一つのサイクル開始からサイクル終了までの数秒から数十秒の第1の所定時間長と、第1の所定時間より短い付け値投入期間たる第2の所定時間長に係るデータを記憶部に格納しておく手段」を請求項1に加えたものである。
そして、補正事項(b)は、出願当初の明細書の以下の記載を根拠とするものである。
・段落【0019】
『上記の4つの期間の時間長さは、後でも説明するように主催者装置12から設定できるように構成されているのであるが、本発明に係るインターネットオークションシステム2においては、数秒から数十秒を想定している。従って、1サイクルの時間長さも、数秒から数十秒であり、1セッションは、数十秒から数分(若しくは数十分)の時間長を想定している。』
・段落【0031】
『主催者では、(図4に示される)サイクル実施時には、その監視・管理を行なう。主催者装置12においては、
・オークション状況の表示、
・次のサイクルでの諸条件(ビッド投入時間の長さ、売買判断投入時間の長さ)の検討及び設定、
・(必要であれば)オークションの一時停止、等を行なう。』
・段落【0014】
『主催者装置12においても、インターネット網8に接続している。更に、主催者装置12は、オークションセンタ装置6に対し所定の処理を行うために、インターネット網8を介さない別回線14により、オークションセンタ装置6と、接続している。』
補正事項(b)の「第1の所定時間長」は「一つのサイクル開始からサイクル終了まで」の『1サイクルの時間長』(上記の段落【0019】参照)である。「第2の所定時間長」は付け値投入期間、即ちビッド投入時間(上記の段落【0031】及び図4参照)である。
上記の段落【0014】に記載するように、センタシステムが稼動するコンピュータであるセンタ装置6は、主催者装置12と接続する。更に上記の段落【0019】に記載するように、「第1の所定時間長」「第2の所定時間長」を含む「4つの期間の時間長さ」(図3、図4参照)は主催者装置12から設定されるのであるから、センタシステムが稼動するセンタ装置6は、サイクルの開始(例えば、段落【0022】参照)等のために、それらのデータを収集し格納している。
ここで、一般的なコンピュータシステムの開発に携わる当業者が本願の当初の明細書及び図面に接したときには、上記のように収集されたデータは当然にセンタ装置の記憶部に格納されると判断すると考えられる。従って、請求項1にて「センタ装置」が「一つのサイクル開始からサイクル終了までの数秒から数十秒の第1の所定時間長と、第1の所定時間より短い付け値投入期間たる第2の所定時間長に係るデータを記憶部に格納しておく手段」を備える、と補正することは、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された範囲を逸脱するものではない。

(3)補正事項(c)について
補正事項(c)は、「第2の所定時間長を備える付け値投入期間を含む、第1の所定時間長を備えるサイクルを開始し継続して計時するサイクル開始手段」を請求項1に加えたものである。
そして、補正事項(c)は、出願当初の明細書の以下の記載を根拠とするものである。
・段落【0022】
『センタシステム3において、セッション開始とともに、1つ目のサイクルが始まる。サイクルにおいては、ビッド(Bid;付け値)の受付、それらビッドの投入結果集計及び通知、そのサイクルにおける結果判定及び通知が行なわれる。1つの商品に関するセッションにおいては、その商品が落札されるかせり取引が流れとなるかまで、サイクルが繰り返される。参加者装置20においては、そのサイクルに合わせセンタシステム3からの結果通知を参考にして、ビッドの投入を適宜行なう。』
・段落【0019】
『上記の4つの期間の時間長さは、後でも説明するように主催者装置12から設定できるように構成されているのであるが、本発明に係るインターネットオークションシステム2においては、数秒から数十秒を想定している。従って、1サイクルの時間長さも、数秒から数十秒であり、1セッションは、数十秒から数分(若しくは数十分)の時間長を想定している。』
上記の段落【0019】に記載するように、『第2の所定時間長を備える付け値投入期間を含む、第1の所定時間長』は主催者装置12から設定される。それら所定時間長(第1の所定時間長、第2の所定時間長)がセンタ装置の記憶部に格納されることは、上記の補正事項(b)に関する説明で述べた。
そして、上記の段落【0022】に記載するように、センタ装置に搭載される「センタシステム」が「サイクル」を開始する。センタシステムが第1の所定時間長を有する「サイクル」を「繰り返す」際には、コンピュータであるセンタ装置に通常備わる計時機能によりサイクルに関する計時が行われるということは、当業者が本願の当初の明細書及び図面に接したときに一般的に認識する事項であると言える。
従って、請求項1にて「センタ装置」が「第2の所定時間長を備える付け値投入期間を含む、第1の所定時間長を備えるサイクルを開始し継続して計時するサイクル開始手段」を備える、と補正することは、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された範囲を逸脱するものではない。

(4)補正事項(d)について
補正事項(d)は、「付け値がスタート価格値と上限価格値との間であるものが存在するか否かを判断する第1の判断手段であって、一組の上記スタート価格値と上記上限価格値とが直近の付け値投入期間に対して対応付けられ計算機たるセンタ装置の固有の記憶部に格納されている第1の判断手段」を請求項1に加えたものである。
そして、補正事項(d)は、出願当初の明細書の以下の記載を根拠とするものである。
・段落【0039】
『(図9)ステップS102;先ず当サイクルにおいて、ビッド価格投入があったかが確認される。』
・段落【0033】
『オークション対象商品に関係する査定者(又は出品者)により、当該サイクルにおける「上限価格」が予め設定されている。「スタート価格」48も事前(オークション前)にその査定者(出品者)により設定されているが、サイクルが2サイクル目以降であるなら前回サイクルの最高ビッド価格(参加者が投入したビッド価格のうちの最高値)がスタート価格となる。』
まず、参加者装置から投入される付け値データは、図6(1)に示す画面から投入されるデータであるから、予めサイクルにおけるスタート価格値と上限価格値の間であるように制約されている。従って、上記の段落【0039】に記載されるように、センタ装置が「先ず当サイクルにおいて、ビッド価格投入があったかが確認」するということは、センタ装置が「付け値がスタート価格値と上限価格値との間であるものが存在するか否かを判断する」手段を有するということである。
次に、「スタート価格」及び「上限価格」は上記の段落【0033】に記載するように、サイクルに一つ(一組)決定される。このスタート価格及び上限価格のデータは、センタ装置に格納され(上記の補正事項(a)の説明参照)、参加者装置や主催者装置に送信される(段落【0034】、【0035】、図6(1)、図7参照)。
従って、請求項1にて「センタ装置」が「付け値がスタート価格値と上限価格値との間であるものが存在するか否かを判断する第1の判断手段であって、一組の上記スタート価格値と上記上限価格値とが直近の付け値投入期間に対して対応付けられ計算機たるセンタ装置の固有の記憶部に格納されている第1の判断手段」を備える、と補正することは、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された範囲を逸脱するものではない。

(5)補正事項(e)について
補正事項(e)は、「その上記売り切り価格を超えていると判断した付け値データが直近の付け値投入期間における唯一の付け値投入であるか否か判断する第3の判断手段」を請求項1に加えたものである。
そして、補正事項(e)は、出願当初の明細書及び図面の以下の記載を根拠とするものである。
・段落【0040】
『ステップS104;投入されたビッド価格の内、最高値(最高ビッド価格)が「売切(希望)価格」を超えているか否かが確認される。超えており且つ当サイクルにて投入した参加者が「1人」であれば(ステップS108)、その参加者がその価格で落札したことになりサイクル及びオークション対象商品に係るオークションは終了する(ステップS116)。超えており且つ当サイクルにてビッド投入した参加者が複数いれば(ステップS108)、更に販売価格の上昇の可能性があり得ると判断されて、次のサイクルに移行する(ステップS118)。』
・図9のS104、S108
上記の段落【0040】に記載するように、センタ装置に搭載されるセンタシステムは、『投入されたビッド価格の内、最高値(最高ビッド価格)が売切(希望)価格を超えているか否か』確認し、更に『超えており且つ当サイクルにて投入した参加者が「1人」であ』るか否か確認する。
従って、請求項1にて「センタ装置」が「その上記売り切り価格を超えていると判断した付け値データが直近の付け値投入期間における唯一の付け値投入であるか否か判断する第3の判断手段」を備える、と補正することは、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された範囲を逸脱するものではない。」

(3)新規事項についての判断
請求項1に係る本件補正が願書に最初に添付した明細書及び図面に記載された事項の範囲内においてなされたものであるかについて検討する。
(a)「付け値投入の初期値を表すスタート価格値と、参加者装置の入力手段を介して入力される付け値の上限を表す上限価格値と、商品の売切価格値とを予め記憶部に格納しておく手段」の記載について
審判請求人が上申書で根拠とした段落の記載について検討すると、段落【0033】、【0037】、【0066】、及び【0016】のいずれにも、それらの記載からみて、スタート価格値と上限価格値をセンタ装置内で記憶することが記載されているとは認められない。
以上の点からみて、願書に最初に添付した明細書及び図面には、スタート価格値と上限価格値をセンタ装置内で記憶することが記載されているとは認められない。
よって、コンピュータがメモリなどの記憶部を備えることが、当業者にとって周知な技術であったとしても、スタート価格値と上限価格値とを予めセンタ装置の記憶部に格納することが、願書に最初に添付した明細書又は図面の記載からみて自明であるとは認められない。
したがって、上記(a)の記載に係る本件補正は、願書に最初に添付した明細書及び図面に記載された事項の範囲内においてなされたものとは認められない。

(b)「一つのサイクル開始からサイクル終了までの数秒から数十秒の第1の所定時間長と、第1の所定時間より短い付け値投入期間たる第2の所定時間長に係るデータを記憶部に格納しておく手段」の記載について
審判請求人が上申書で根拠とした段落の記載について検討すると、段落【0019】、【0031】、【0014】及び【0022】のいずれにも、それらの記載からみて、第1の時間長と第2の時間長に係るデータをセンタ装置の記憶部に格納することが記載されているとは認められない。
以上の点からみて、願書に最初に添付した明細書及び図面には、第1の時間長と第2の時間長に係るデータをセンタ装置内で記憶することが記載されているとは認められない。
よって、コンピュータがメモリなどの記憶部を備えることが、当業者にとって周知な技術であったとしても、第1の時間長と第2の時間長に係るデータをセンタ装置の記憶部に格納することが、願書に最初に添付した明細書又は図面の記載からみて自明であるとは認められない。
したがって、上記(b)の記載に係る本件補正は、願書に最初に添付した明細書及び図面に記載された事項の範囲内においてなされたものとは認められない。

(c)「第2の所定時間長を備える付け値投入期間を含む、第1の所定時間長を備えるサイクルを開始し継続して計時するサイクル開始手段」の記載について
審判請求人が上申書で根拠とした段落の記載について検討すると、段落【0022】及び【0019】のいずれにも、それらの記載からみて、センタ装置が継続して計時することが記載されているとは認められない。
以上の点からみて、願書に最初に添付した明細書及び図面には、センタ装置内で第1の所定時間長を備えるサイクルを開始し継続して計時を行うことが明記されているとは認められない。
よって、コンピュータに備えられた計時機能で計時を行うことが当業者にとって周知な技術であったとしても、センタ装置の計時機能により第1の所定時間長を備えるサイクルを開始し継続して計時を行うことが、願書に最初に添付した明細書又は図面の記載からみて自明な事項であるとは認められない。
したがって、上記(c)の記載に係る本件補正は、願書に最初に添付した明細書及び図面に記載された事項の範囲内においてなされたものとは認められない。

(d)「一組の上記スタート価格値と上記上限価格値とが直近の付け値投入期間に対して対応付けられ計算機たるセンタ装置の固有の記憶部に格納されている第1の判断手段」の記載について
審判請求人が上申書で根拠とした段落の記載について検討すると、段落【0039】及び【0033】のいずれにも、それらの記載からみて、一組の上記スタート価格値と上記上限価格値とが直近の付け値投入期間に対して対応付けられて記憶されることが記載されているとは認められない。
以上の点からみて、願書に最初に添付した明細書及び図面には、スタート価格値と上記上限価格値とが直近の付け値投入期間に対して対応付けられてセンタ装置内で記憶されることが明記されているとは認めらない。
よって、コンピュータがメモリなどの記憶部を備えることが、当業者にとって周知な技術であるとしても、スタート価格値と上記上限価格値とが直近の付け値投入期間に対して対応付けられ計算機たるセンタ装置の固有の記憶部に格納されていることが願書に最初に添付した明細書又は図面の記載からみて自明であるとは認められない。
したがって、上記(d)の記載に係る本件補正は、願書に最初に添付した明細書及び図面に記載された事項の範囲内においてなされたものとは認められない。

したがって、上記(a)〜(d)の記載に係る補正は、願書に最初に添付した明細書及び図面に記載された事項の範囲内においてなされたものとは認められないので、他の記載を検討するまでもなく、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものである。

(4)補正の目的について
本件補正の目的が特許法第17条の2第4項に掲げられた目的に該当するかについても検討する。
まず、本件補正が、審判請求人が上申書で主張した明りょうでない記載の釈明に該当するかどうか検討する。
原審の拒絶理由通知や拒絶査定で明りょうでない記載の不備を指摘しておらず、また、上申書には、特許請求の範囲のどのような記載が明りょうでなく、それをどのように補正して釈明したかが記載されておらず、さらに、補正前の特許請求の範囲が明りょうでないとは認められないので、本件補正が、明りょうでない記載の釈明を目的としたものとは認められず、審判請求人の「補正事項(a)〜(e)は、いずれも明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。」との主張を採用することができない。
よって、本件補正の目的は、特許法第17条の2第4項第4号に掲げられた明りょうでない記載の釈明に該当しない。
次に、本件補正の目的が特許法第17条の2第4項第2号に掲げられた特許請求の範囲の減縮に該当するか検討する。
上記(a)に記載された「付け値投入の初期値を表すスタート価格値と、参加者装置の入力手段を介して入力される付け値の上限を表す上限価格値と、商品の売切価格値とを予め記憶部に格納しておく手段」、上記(b)に記載された「一つのサイクル開始からサイクル終了までの数秒から数十秒の第1の所定時間長と、第1の所定時間より短い付け値投入期間たる第2の所定時間長に係るデータを記憶部に格納しておく手段」、及び上記(e)に記載された「その上記売り切り価格を超えていると判断した付け値データが直近の付け値投入期間における唯一の付け値投入であるか否か判断する第3の判断手段」は、本件補正により新たに追加された手段であり、補正前の請求項1に記載された事項を限定的に減縮するものとは認められない。
よって、本件補正の目的は、特許法第17条の2第4項第2号に掲げられた特許請求の範囲の減縮にも該当しない。
そして、本件補正の目的が、特許法第17条の2第4項第1号に掲げられた請求項の削除、同第3号に掲げられた誤記の訂正のいずれにも該当しないことは明らかである。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第4項の規定に違反していると認められる。

(5)まとめ
本件補正は、特許法第17条の2第3項及び同4項の規定に違反しており、特許法第159条第1項で準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明
平成15年8月11日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成15年3月24日付の手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「インターネットを介して相互に接続された計算機からなるセンタ装置と参加者装置とを備え、
センタ装置が、予め決められ記憶部に格納された売切価格値と、参加者装置の入力手段を介して入力されセンタ装置まで送信された付け値とを比較し、上記付け値が上記売切価格値を超えているときは該付け値が入力された参加者装置の参加者を落札者として決定するインターネットオークションシステムであって、
センタ装置は、
数秒から数十秒の所定時間長を有しスタート価格と上限価格とを設定する一つのサイクルを開始させるサイクル開始手段と、
上記参加者装置から送信されて入力バッファに一時的に格納され、且つ送信タイミングが上記一つのサイクルの中に設定される付け値投入期間の期間内である付け値データにおいて、付け値が上記一つのサイクルに対して設定されたスタート価格値と上限価格値との間であるものが、存在するか否かを判断する第1の判断手段と、
上記第1の判断手段が、付け値がスタート価格値と上限価格値との間である付け値データが存在すると判断した場合、付け値データの少なくとも一つが上記売切価格値を超えているか否か判断する第2の判断手段と、
上記第1の判断手段が、付け値がスタート価格値と上限価格値との間である付け値データが存在すると判断し、且つ、上記第2の判断手段が、付け値データが上記売切価格値を超えていないと判断した場合、送信された付け値データのうち最高の付け値を次のスタート価格値とするとともにこのスタート価格値よりも高額の価格を次の上限価格値として設定し、且つ上記一つのサイクルと同一の所定時間長を有する新たなサイクルを開始させる上記サイクル開始手段を動作する、第1の繰り返し手段と、
上記第1の判断手段が、付け値がスタート価格値と上限価格値との間である付け値データが存在すると判断し、且つ、上記第2の判断手段が、付け値データの少なくとも一つが上記売切価格値を超えていると判断した場合、上記売切価格値を超える付け値データに係る参加者のデータに対し、落札者としての決定を示すデータを付与する第1の決定手段とを備えていることを特徴とするインターネットオークションシステム。」

4.原査定の拒絶の理由1の概要
原査定の拒絶の理由1の概要は、以下のとおりである。
『補正後の請求項1の記載は、依然として、ビジネスのやり方を機能的に特定して「手段」として記載したものが列挙されており、特に「サイクル」あるいは「期間」といった時間の取り扱いについての記載は、商取引上のルール(やり方)を希望的に特定するという程度の記載であり、この点において、コンピュータのソフトウェアによる情報処理が、ハードウェア資源を具体的に利用して実現されているという程度に記載されているとはいえない。
すなわち、「数秒から数十秒の所定時間長を有しスタート価格と上限価格とを設定する一つのサイクルを開始させるサイクル開始手段」という記載において、「サイクル」についての記述は、所定時間長を有し、スタート価格と上限価格とを設定しているという商取引上の機能のみが特定されており、該サイクルを「開始させる」手段というものは、商取引上の機能のみが特定されており、それがコンピュータの情報処理としてどのように実現されるのかなんら特定されない。
また、「第1の判断手段」に関する記載における「一つのサイクルの中に設定される付け値投入期間の期間内である」という記載は、付け値が投入される期間という商取引上のルール(やり方)について希望的に特定するのみであり、それがコンピュータの情報処理としてどのように実現されるのかは何ら特定されていない。
また、「第1の繰り返し手段」における「同一の所定時間長を有する新たなサイクルを開始させる」という記載は、それ以前の記載との関係から見ると、商取引における手順が希望的に特定されているという程度のものである。
したがって、補正後の請求項1に記載されたものは依然として、全体として自然法則を利用したものとはいえず、特許法第29条第1項柱書でいう「発明」には該当しない。』

5.当審の判断
そこで、本願発明が、「自然法則を利用した技術的思想の創作」である特許法上の「発明」に該当するかどうかについて検討する。
本願発明のセンタ装置は、実質的にコンピュータであり、その処理の実行にソフトウエアを必要とするところの、いわゆるソフトウエア関連発明である。
そして、こうしたソフトウエアを利用するソフトウエア関連発明が、「自然法則を利用した技術的思想の創作」であるためには、発明はそもそもが一定の技術的課題の解決手段になっていなければならないことから、ソフトウエアによる情報処理によって、技術的課題を解決できるような特有の構成が具体的に提示されている必要があるというべきである。
そこで、本願発明が、特許法第2条で定義される「発明」、すなわち「自然法則を利用した技術的思想の創作」に該当するか否かについて、請求項1に記載された事項を便宜上以下のように分けて検討する。
(ア)「インターネットを介して相互に接続された計算機からなるセンタ装置と参加者装置とを備え、」
(イ)「センタ装置が、予め決められ記憶部に格納された売切価格値と、参加者装置の入力手段を介して入力されセンタ装置まで送信された付け値とを比較し、上記付け値が上記売切価格値を超えているときは該付け値が入力された参加者装置の参加者を落札者として決定するインターネットオークションシステムであって、」
(ウ)『センタ装置は、
(ウ-1)「数秒から数十秒の所定時間長を有しスタート価格と上限価格とを設定する一つのサイクルを開始させるサイクル開始手段と、」
(ウ-2)「上記参加者装置から送信されて入力バッファに一時的に格納され、且つ送信タイミングが上記一つのサイクルの中に設定される付け値投入期間の期間内である付け値データにおいて、付け値が上記一つのサイクルに対して設定されたスタート価格値と上限価格値との間であるものが、存在するか否かを判断する第1の判断手段と、」
(ウ-3)「上記第1の判断手段が、付け値がスタート価格値と上限価格値との間である付け値データが存在すると判断した場合、付け値データの少なくとも一つが上記売切価格値を超えているか否か判断する第2の判断手段と、」
(ウ-4)「上記第1の判断手段が、付け値がスタート価格値と上限価格値との間である付け値データが存在すると判断し、且つ、上記第2の判断手段が、付け値データが上記売切価格値を超えていないと判断した場合、送信された付け値データのうち最高の付け値を次のスタート価格値とするとともにこのスタート価格値よりも高額の価格を次の上限価格値として設定し、且つ上記一つのサイクルと同一の所定時間長を有する新たなサイクルを開始させる上記サイクル開始手段を動作する、第1の繰り返し手段と、」
(ウ-5)「上記第1の判断手段が、付け値がスタート価格値と上限価格値との間である付け値データが存在すると判断し、且つ、上記第2の判断手段が、付け値データの少なくとも一つが上記売切価格値を超えていると判断した場合、上記売切価格値を超える付け値データに係る参加者のデータに対し、落札者としての決定を示すデータを付与する第1の決定手段と」
を備えていることを特徴とするインターネットオークションシステム。』
以下、上記(ア)〜(ウ)の記載について順次検討する。
(a)上記(ア)について
上記(ア)の記載について検討すると、単に、センタ装置と参加者装置の接続関係を規定しているに過ぎないので、ハードウエア資源を利用したソフトウエアによる情報処理によって、技術的課題を解決できるような特有の構成が具体的に提示されているとは認められない。

(b)上記(イ)について
上記(イ)の記載について検討すると、センタ装置の機能を特定したに過ぎないので、ハードウエア資源を利用したソフトウエアによる情報処理によって、技術的課題を解決できるような特有の構成が具体的に提示されているとは認められない。

(c)上記(ウ)について
上記(ウ)の記載について以下に検討する。
(c-1)上記(ウ-1)について
上記(ウ-1)の記載では、センタ装置の機能の概要を特定しているにすぎないので、ハードウエア資源を利用したソフトウエアによる情報処理によって、センタ装置に備えられたハードウエア資源がどのように用いられるか具体的に記載されているとは認められない。

(c-2)上記(ウ-2)について
上記(ウ-2)の記載では、ハードウエア資源として、「参加者装置」及び「入力バッファ」が記載されているが、「参加装置」に関する記載では、付け値データが送信元が参加者装置であることを示しているにすぎず、また、「入力バッファ」に関する記載では、付け値データが一旦入力バッファに格納されるという「入力バッファ」としての通常の使用の仕方を示しているにすぎず、いずれもソフトウエアによる情報処理のために用いられているとは認められない。
また、第1の判断手段に関するその他の記載では、センタ装置の機能の概要を特定しているにすぎないない、
よって、上記(ウ-2)の記載では、第1の判断の処理に、センタ装置に備えられたハードウエア資源がどのように用いられるか具体的に記載されているとは認められない。

(c-3)上記(ウ-3)について
上記(ウ-3)の記載について検討すると、センタ装置の機能の概要を特定したにすぎないので、第2の判断の処理に、センタ装置に備えられたハードウエア資源がどのように用いられるか具体的に記載されているとは認められない。

(c-4)上記(ウ-4)について
上記(ウ-4)の記載について検討すると、センタ装置の機能の概要を特定したにすぎないので、第1の繰り返しの処理に、センタ装置に備えられたハードウエア資源がどのように用いられるか具体的に記載されているとは認められない。

(c-5)上記(ウ-5)について
上記(ウ-5)の記載について検討すると、センタ装置の機能の概要を特定したにすぎないので、第1の決定の処理に、センタ装置に備えられたハードウエア資源がどのように用いられるか具体的に記載されているとは認められない。

以上のとおり、上記(ウ)の記載では、各手段が実行する処理に、センタ装置に備えられたハードウエア資源がどのように用いられるか具体的に記載されているとは認められないので、ハードウエア資源を利用したソフトウエアによる情報処理によって、技術的課題を解決できるような特有の構成が具体的に提示されているとは認められない。

(d)まとめ
以上のとおり、請求項1の記載では、ハードウエア資源を利用したソフトウエアによる情報処理によって、技術的課題を解決できるような特有の構成が具体的に提示されているとは認められないので、本願発明は、人為的に取り決められたオークションの仕方に対して単にコンピュータを用いたものにすぎないと認められる。
したがって、本願発明は、特許法上の「発明」である「自然法則を利用した技術思想の創作」に該当しない。

6.結び
以上のとおり、本願発明は、特許法上の「発明」である「自然法則を利用した技術思想の創作」に該当しないので、特許法第29条第1項柱書の規定により、特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-11-15 
結審通知日 2005-11-22 
審決日 2005-12-08 
出願番号 特願2000-72260(P2000-72260)
審決分類 P 1 8・ 572- Z (G06F)
P 1 8・ 574- Z (G06F)
P 1 8・ 561- Z (G06F)
P 1 8・ 14- Z (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 丹治 彰菅原 浩二  
特許庁審判長 赤穂 隆雄
特許庁審判官 篠原 功一
佐藤 智康
発明の名称 インターネットオークションシステム  
代理人 青山 葆  
代理人 山田 卓二  

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