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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  A45C
管理番号 1133753
審判番号 無効2004-35141  
総通号数 77 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2001-04-03 
種別 無効の審決 
審判請求日 2004-03-16 
確定日 2006-04-06 
事件の表示 上記当事者間の特許第3418141号発明「アルミ製2段型弁当箱」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3418141号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3418141号に係る発明は、平成11年9月17日に特許出願され、平成15年4月11日に特許権の設定登録がされたものであって、その後の平成16年3月16日に株式会社オーエスケーより本件の特許請求の範囲の請求項1に係る特許について特許無効の審判が請求され、これに対して被請求人より平成16年6月4日に審判請求答弁書が提出され、その後の平成16年8月31日に第1回口頭審理が行われ、平成17年2月25日付けで当審による職権審理結果通知書が通知され、これに対して被請求人より平成17年3月25日付の意見書が提出されたものである。

2.請求項1に係る発明について
本件の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、特許明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものと認める。
(本件発明)
「上下に重ね合わされる二つの容器と、重ね合わせた容器の上から被される蓋を備え、上段の容器をプラスチック製とし、下段の容器と蓋をアルミ製にした2段型の弁当箱であって、上段の容器は、底部から適宜の高さ離れた外周に、2段重ねの使用状態において下段の容器の上縁に掛止されるフランジ部を突出させるとともに、前記蓋とは別に、該容器の上縁に嵌着する密封蓋を備え、前記蓋は、使用状態に2段に重ねた下段の容器の上部を外周から嵌合する深さを具え、弁当箱の使用後には、前記密封蓋を被せた上段の容器の上から空になった下段の容器を逆さにして被せるとともに、この上下の容器を仰向けにした上記蓋の中に収容できるように構成したことを特徴とするアルミ製2段型弁当箱。」

3.審判請求人の主張
審判請求人は、本件発明は、甲第2号証〜甲第9号証により立証するところの公然知られた発明及び公然実施された発明と同一である、又は、当該発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第1項第1号ないし第2号、又は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるから、本件発明の特許は、特許法123条第1項第2号に該当し、無効にすべきものであると主張する。

(証拠)
甲第1号証:特許第3418141号公報
甲第2号証:株式会社イモタニのカタログ(写し)
甲第3号証:株式会社イモタニの弁当箱(商品名:パクパクランチボックス、品番:PC-400)の構造を説明する説明書(原本)
甲第4号証:株式会社イモタニの弁当箱のパクパクランチボックスに対する証明願(原本)
甲第5号証:ニッスイ工業株式会社のカタログ(写し)
甲第6号証:ニッスイ工業株式会社の弁当箱(品番:CB-52W)の構造を説明する説明書(原本)
甲第7号証:テイネン工業株式会社のカタログ(写し)
甲第8号証:テイネン工業株式会社のカタログ(写し)
甲第9号証:家庭日用品新聞(第1639号 平成7年11月11日発行)(写し)
甲第10号証:テイネン工業株式会社の弁当箱(品番:DB-5H)の構造を説明する説明書(原本)

4.被請求人の主張
被請求人は、平成16年6月4日付答弁書において、「本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め」(答弁の趣旨)て、次のように主張する。
(イ)株式会社イモタニのプラスチック製2段型弁当箱(甲第2号証〜甲第4号証)は、本件発明の「下段の容器と蓋をアルミ製にした」構成を備えていない点で相違し、本件発明と同一の発明とはいえない。
(ロ)ニッスイ工業株式会社のプラスチック製2段型弁当箱(甲第5号証〜甲第6号証)は、本件発明の「下段の容器と蓋をアルミ製にした」構成を備えていない点で相違し、本件発明と同一の発明とはいえない。
(ハ)テイネン工業株式会社のアルミ製2段型弁当箱(甲第7号証〜甲第10号証)は、本件発明の「弁当箱の使用後には密封蓋を被せた上段の容器の上から空になった下段の容器を逆さにして被せる」という収納方式が採用できないものである点で相違し、本件発明と同一の発明とはいえない。
(ニ)また、本件発明は、甲第2号証〜甲第10号証に示された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

なお、被請求人は、平成16年8月24日付口頭審理陳述要領書により、次の証拠を提出している。
(証拠)
乙第1号証の1〜6、8〜10:被請求人製の本件特許発明の実施品の写真
乙第2号証の1〜10:テイネン製「タウンスポーツ」の写真
乙第3号証の1〜7:スケーター製アルミ製2段型弁当箱の写真
乙第4号証:試験結果報告書

5.当審による職権審理結果通知書の無効理由の概要
本件発明は、特許第2612813号公報に記載された発明並びに従来より周知の技術に基いて当業者が容易に発明できたものであるといえるので、本件発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

6.刊行物記載事項等について
(1)刊行物1記載事項について
本件発明の特許出願日前に頒布された刊行物である特許第2612813号公報(以下、「刊行物1」という。)には、図面の図1〜図5とともに、次の事項が記載されている。
(イ)(発明の詳細な説明における【産業上の利用分野】の項)
「本発明は、弁当容器に関し、特に複数の容器を多段に積み重ねて使用する多段式弁当容器に関するものである。」(公報第1頁第2欄の段落【0001】参照)
(ロ)(発明の詳細な説明における【課題を解決するための手段】の項)
「本発明は、以上のような実状及び経緯に基づいてなされたもので、その解決しようとするところは、従来の弁当容器の使用上の不便さである。 そして、本発明の目的とするところは、使い終った場合の容積を小さくすることができて持ち運びを簡単にすることができるとともに、より簡単な構造のものにすることによって壊れにくく、洗浄を容易に行うことができて、しかも多段に積み重ねることのできる多段式弁当容器を提供することにある。」(公報第2頁第4欄の段落【0008】〜【0009】参照)
(ハ)(同上【課題を解決するための手段】の項)
「以上の課題を解決するために、本発明の採った手段は、実施例において使用する符号を付して説明すると、「主容器10と、中蓋36が嵌合される少なくとも一つの中容器30・20と、主容器10に外嵌合される蓋体40とを備えた多段式弁当容器100であって、これら主容器10・中容器20・30及び蓋体40の側壁11・21・31・41をその各底面から垂直に立ち上がるものとするとともに、主容器10及び中容器20・30の外形をこの順に小さくして、中容器20・30の下部外周に、主容器10あるいは他の中容器20の側壁上端面上に係合する係合部24・34を、その下部に嵌合底部25・35を残した状態で設けるとともに、この嵌合底部25・35の外側角部の形状を、下側容器上に嵌合し易くするための略円弧状とし、この嵌合底部25・35の内側になる中容器20・30の下面に糸尻23・33を設け、さらに、中蓋36が嵌合される中容器30について、嵌合底部35の直上であって側壁31と係合部34とによって形成されるコーナー部に、中蓋36の外縁部36aの厚さ程度の厚さを有する離隔段部37を形成して、この離隔段部37と中蓋36の外縁部36aとにより、中容器30を他の中容器20または主容器10内に収納したとき、側壁21または11との間に離隔空間38を形成するようにしたことを特徴とする多段式弁当容器100」である。」(公報第2頁第4欄〜第3頁第5欄の段落【0010】参照)
(ニ)(発明の詳細な説明における【作用】の項)
「食事が終れば、多段式弁当容器100を構成している各容器等は、図3に示すように、互いに収納し合うことにより、図面で示した実施例では約1/3の容積のものとなるのである。これは、主容器10の側壁11、第一中容器20の側壁21、第二中容器30の側壁31、及び蓋体40の側壁41をそれぞれの底面から垂直に立ち上がるものとしてあるから行えるのであり、前述したような積み上げも行えるのである。しかも、第一中容器20の係合部24及び第二中容器30の係合部34は、それぞれ主容器10の側壁11また第一中容器20の側壁21から突出しない同径のものとしてあるから、それぞれの収納及び蓋体40の嵌合が可能となっているのである。…(中略)… この多段式弁当容器100は、図3のようにして持ち帰った後に洗滌を行わなければならないが、前述した通り、各容器及び蓋体には何等突出するものがないだけでなく、これらは仕切板を必要としないので有していないから、その洗滌は容易に行えるのである。」(公報第4頁第7欄の段落【0018】〜【0019】参照)
(ホ)(同上【作用】の項)
「なお、以上の作用は、実施例に示した多段式弁当容器100のように、三つの収納部を構成する場合だけではなく、中容器の数を減らしたり、あるいは増加したりする場合も言えるものである。換言すれば、例えば中容器の数を増加させた多段式弁当容器100を一個の製品としておくことにより、中容器の数を適宣選定することによって、当該多段式弁当容器100の収納時における全容積の増減を、前述した作用を損なうことなく行えるのである。」(公報第4頁第8欄の段落【0023】参照)
(ヘ)(発明の詳細な説明における【実施例】の項)
「なお、この実施例の多段式弁当容器100においては、最上段に位置することになる第二中容器30の側壁31の開口部を、これに嵌合される中蓋36によって覆蓋するようにしているが、この中蓋36に代えて蓋体40の内面にパッキングを設けて実施してもよいものである。 蓋体40は、各容器を積み上げた状態の多段式弁当容器100全体を上方から覆蓋するものであるとともに、図3に示したように、各容器内に他の容器を収納して全体の容積を小さくした多段式弁当容器100の全体を覆蓋するものでもあるから、その側壁41の外形は主容器10の側壁11に対して外側から嵌合できる、つまり外嵌合できるものとしたものである。 なお、本実施例の多段式弁当容器100においては、その主容器10、第一中容器20、第二中容器30及び蓋体40を硬質合成樹脂により一体的に形成するとともに、第二中容器30の側壁31に嵌合される中蓋36を軟質合成樹脂によって一体的に形成したものである。」(公報第5頁第10欄の段落【0030】〜【0032】参照)

上記記載事項(イ)〜(ヘ)、並びに図面に示された内容を総合すると、刊行物1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。
(引用発明)
「主容器10と、中蓋36が嵌合される一つの中容器と、主容器10に外嵌合される蓋体40とを備えた、主容器10と一つの中容器とを2段に積み重ねて使用する合成樹脂製の多段式弁当容器100であって、
これら主容器10、中容器及び蓋体40の側壁をその各底面から垂直に立ち上がるものとするとともに、主容器10及び中容器の外形をこの順に小さくして、
中容器の下部外周に、主容器10の側壁上端面上に係合する係合部を、その下部に嵌合底部を残した状態で設けるとともに、
上記中容器の係合部は主容器10の側壁から突出しない同径のものとし、中容器を主容器10内へ収納する際も、主容器10への蓋体40による外嵌合が可能となっている多段式弁当容器。」

7.対比・判断
本件発明と引用発明とを対比すると、その作用ないし構造からみて、引用発明における「主容器10」及び「中容器」は、本件発明の「下段の容器」及び「上段の容器」にそれぞれ相当するといえるから、引用発明における「主容器10と、中蓋36が嵌合される一つの中容器と、主容器10に外嵌合される蓋体40とを備えた」「主容器10と一つの中容器とを2段に積み重ねて使用する」「多段式弁当容器100」は本件発明の「上下に重ね合わされる二つの容器と、重ね合わせた容器の上から被される蓋を備え」た「2段型弁当箱」に、引用発明における「中容器の下部外周に」「その下部に嵌合底部を残した状態で設け」られた「主容器10の側壁上端面上に係合する係合部」は本件発明の「上段の容器」に突出された「底部から適宜の高さ離れた外周に、2段重ねの使用状態において下段の容器の上縁に掛止される」「フランジ部」に、引用発明における「中容器」に嵌合される「中蓋36」は本件発明の「上段の容器」の「上縁に嵌着する」「密封蓋」に、それぞれ相当するといえる。
(なお、被請求人は、第1回口頭審理(平成16年8月24日付口頭審理陳述要領書の第9頁参照)において、本件発明の「密封蓋」に相当するものは、上記刊行物1には開示されていない旨主張するが、上記6.(1)の(ヘ)に示したように、刊行物1には「なお、この実施例の多段式弁当容器100においては、最上段に位置することになる第二中容器30の側壁31の開口部を、これに嵌合される中蓋36によって覆蓋するようにしているが、この中蓋36に代えて蓋体40の内面にパッキングを設けて実施してもよい」ことが記載されていることから、引用発明における「中蓋36」の「嵌合」による密封の程度は「パッキング」に依るのと同等程度である、いいかえれば、気密・水密などが期待できる程度の密封であると解するのが相当であるので、上記のとおり判断した。)
また、引用発明における「主容器10及び中容器の外形をこの順に小さくし」て「上記中容器の係合部は主容器10の側壁から突出しない同径のものとし、中容器を主容器10内へ収納する際も、主容器10への蓋体40による外嵌合が可能となっている」構成と、本件発明の「弁当箱の使用後に」「上段の容器」に「空になった下段の容器を」被せて、「この上下の容器を」「蓋の中に収容できる」構成とは、共に、「弁当箱の使用後に」「上段の容器」を「空になった下段の容器」内に収容し、「この上下の容器を」「蓋の中に収容できる」構成である点で共通するといえる。

してみると、両者は、「上下に重ね合わされる二つの容器と、重ね合わせた容器の上から被される蓋を備えた2段型の弁当箱であって、上段の容器は、底部から適宜の高さ離れた外周に、2段重ねの使用状態において下段の容器の上縁に掛止されるフランジ部を突出させるとともに、前記蓋とは別に、該容器の上縁に嵌着する密封蓋を備え、弁当箱の使用後には、前記密封蓋を被せた上段の容器を空になった下段の容器内に収容し、この上下の容器を上記蓋の中に収容できるように構成した2段型弁当箱。」である点(以下、「一致点」という。)で一致し、次の点で相違するということができる。

(相違点1)2段型弁当箱を構成する素材に関して、本件発明が「上段の容器をプラスチック製とし、下段の容器と蓋をアルミ製にした」のに対して、引用発明は、全て合成樹脂としている点。
(相違点2)蓋の嵌合深さに関して、本件発明が、「蓋は、使用状態に2段に重ねた下段の容器の上部を外周から嵌合する深さを具え」ているのに対して、引用発明は、このような嵌合深さを備えているかが明らかでない点。
(相違点3)弁当箱の使用後の収容態様に関して、本件発明が「弁当箱の使用後には、前記密封蓋を被せた上段の容器の上から空になった下段の容器を逆さにして被せるとともに、この上下の容器を仰向けにした上記蓋の中に収容できるように構成し」ているのに対して、引用発明は、このような仰向けにした蓋の中に収容できるという構成を備えているかが明らかでない点。
なお、上記相違点2及び3に係る本件発明の構成につき、請求人及び被請求人の両者ともに、引用発明との相違点であるという明確な主張はないものの、いずれも、本件発明の構成として特許請求の範囲に記載された事項であることから、一応の相違点として記載した。)

(相違点の検討)
そこで、上記の相違点につき検討する。
(相違点1について)
ところで、平成16年8月31日の第1回口頭審理によって、次の事項が確認された(第1回口頭審理調書の「確認事項」の項参照)。
(確認事項1)「請求人が各事件において証拠として提出したカタログ等に掲載されたテイネン工業株式会社製の「メンズアルミ(2段L)DB-5H」は、そのカタログ等の発行時期から本件特許出願前に販売されていたものと推認できる。」
(確認事項2)「第2事件及び第3事件において証拠として提出されたテイネン工業株式会社製の「メンズアルミ(2段L)DB-5H」は、少なくとも、「二段型弁当箱において、下段容器と蓋とをアルミ製とし、上段容器をプラスチック製とした構成」を備えている。」
(注:上記「各事件」である「第1事件」、「第2事件」、「第3事件」は、それぞれ、平成16年8月31日の第1回口頭審理時に併合された、「無効2004-第35074号」事件、「無効2004-第35056号」事件、「無効2004-第35141号」事件(本無効審判事件)である。)
そして、同じ型式番号を付与された製品の備える構成は、特段の事情等がない限り、その製品の製造ないし販売時期に拘わらず、通常は同じであるものと推認するのが相当であるから、同上確認事項2における「二段型弁当箱において、下段容器と蓋とをアルミ製とし、上段容器をプラスチック製とした構成」と同じ構成を備えた製品が、本件特許出願日前に、テイネン工業株式会社製の「メンズアルミ(2段L)DB-5H」として販売されていたことが推認できる。
また、上記と同様な理由から、第1事件の審判請求人が、平成16年8月2日付弁駁書で提出した甲第8号証、甲第9号証のカタログ(「1998 SKATER’S CATALOGUE」)及び甲第10号証(商品名「サンタバーバラポロ」、品番「POS.305771」のアルミ2段弁当箱)によっても、上記確認事項2と同じ素材の構成を備えた他の製品が本件特許出願日前に販売されていたことが推認できる(第1事件の審判請求人の平成16年8月16日付口頭審理陳述要領書の第3〜4頁参照)。
そうすると、2段型弁当箱において、その下段容器と蓋とをアルミ製とし、上段容器をプラスチック製のものと構成することは、本件特許出願日前に当業者において周知の技術であったということができる。
してみると、相違点1係る本件発明の構成は、引用発明の容器素材として、2段型弁当箱において従来より周知の技術であった素材の組合せを単に適用することにより、当業者が容易に想到し得た設計上の変更であるといわざるを得ない。

(相違点2について)
上記6.(1)の(へ)に記載したように、刊行物1には「蓋体40は、各容器を積み上げた状態の多段式弁当容器100全体を上方から覆蓋するものである」との記載があるとともに、その図面の図2を見ると、蓋体40の下端の位置が、「第二中容器30」に対して下段に位置する「第一中容器20」の上端の位置よりも下方の位置に位置するように図示されている、いいかえれば、蓋体40が、使用状態に多段に重ねた下段側の容器である「第一中容器20」の上部を外周から覆う程度の深さを具えるように位置させたことが図示されている。
そして、引用発明は、「中容器の係合部は主容器10の側壁から突出しない同径のものとし、中容器を主容器10内へ収納する際も、主容器10への蓋体40による外嵌合が可能となっている」構成を備えていることから、引用発明において、その蓋体40の深さを、中容器を主容器10の上へ使用状態に2段に重ねた際に、当該中容器のみならず主容器の上部までをも外周から覆う程度の深さとなるように設定することを妨げる要因は何ら存在しないということができる。
してみると、相違点2に係る本件発明の構成は、引用発明における蓋体40の深さを、単に刊行物1の図2に示されたのと同様のものと設定することにより、当業者が適宜採用し得た設計的事項であるといえる。

(相違点3について)
ところで、上記対比における一致点として示したように、引用発明と本件発明とが2段型弁当箱として「上段の容器は、底部から適宜の高さ離れた外周に、2段重ねの使用状態において下段の容器の上縁に掛止されるフランジ部を突出させるとともに、前記蓋とは別に、該容器の上縁に嵌着する密封蓋を備え」ているという同じ収容構造を備えていることは明らかである。
さらに、上記相違点2につき適宜採用し得たと説示したところの蓋体の構成を採用した引用発明と本件発明とは、蓋体をも含めた2段型弁当箱の2段重ねの使用状態及び使用後の双方の収容構造に関しても、同じ構成を備えているということができる。
そうすると、2段型弁当箱として、その使用状態及び使用後の双方の収容構造につき同じ収容構造ないし構成を備えているといえる両者の「物」としての使用可能な収容態様に差異があるということができない。
してみると、相違点3に係る本件発明の構成は、相違点2につき適宜採用し得たと説示したところの蓋体の構成を採用した引用発明が実質的に備えるものであるといえるから、上記相違点2で説示したとおり、当業者が適宜採用し得た設計的事項であるといわざるを得ない。

なお、被請求人は、第1回口頭審理(平成16年8月24日付口頭審理陳述要領書の第6頁参照)において、本件発明は、上段の容器をプラスチック製としたことにより電子レンジ内で使用可能な合成樹脂材料の選択が可能になる等の格別な効果がある旨を主張する。
しかしながら、上記相違点1で説示したところの容易に想到し得た構成によっても、その合成樹脂材料の適宜選択が可能となる等の効果は得られるのであるから、このことにより本件発明(本件発明の実施品という具体的な商品ではなく、特許請求の範囲に記載された構成を備える発明)が格別な効果を有するということはできない。
また、被請求人は、平成17年3月25日付意見書において、刊行物1に記載された事項からは「蓋体40の内面のパッキング」とは如何なる性質の如何なる形状のものであるのかが全く不明であるから、刊行物1に記載の「中蓋36」が「気密・水密などが期待できる程度の密封である」と推論・認定した点が誤りである旨を主張する。
しかしながら、「パッキング」という用語は、「管の接目などに気密・水密などの目的で入れる材料」(広辞苑参照)を意味するものとして一般的に知られているから、上述したところの刊行物1に記載された「蓋体40の内面にパッキングを設けて実施してもよい」とは、蓋体40の内面にパッキングを設けることにより気密・水密などが期待できる程度の密封を施すことを意味すると理解した点に誤りがあるとはいえない。また仮に、引用発明における「中蓋36」が本件発明の「密封蓋」とは「気密・水密などが期待できる程度の密封である」か否かにおいて相違するとしても、当該相違点は、刊行物1の蓋体40の内面にパッキングを設けることにより気密・水密がなどが期待できる程度の密封を施すという示唆に基づき、当業者が容易に想到し得た設計的事項であるといわざるを得ない。
したがって、被請求人の上記主張も採用することができない。

そして、本件発明が奏する作用効果も引用発明並びに従来より周知の技術から当業者が予測し得る範囲のものであって、格別なものということができない。

以上のことから、本件発明は、引用発明並びに従来より周知の技術に基いて当業者が容易に発明できたものであるといえる。

8.むすび
したがって、本件発明の特許は、他の理由及び証拠を検討するまでもなく、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものといえるから、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-06-14 
結審通知日 2005-06-20 
審決日 2005-07-01 
出願番号 特願平11-263956
審決分類 P 1 113・ 121- Z (A45C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 冨岡 和人  
特許庁審判長 大元 修二
特許庁審判官 北川 清伸
和泉 等
登録日 2003-04-11 
登録番号 特許第3418141号(P3418141)
発明の名称 アルミ製2段型弁当箱  
代理人 大西 正夫  
代理人 大西 孝治  
代理人 加藤 幸則  

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