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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B32B
管理番号 1133757
審判番号 不服2002-10263  
総通号数 77 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1995-11-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-06-07 
確定日 2006-04-18 
事件の表示 平成 6年特許願第105364号「燃料容器および燃料移送パイプ」拒絶査定不服審判事件〔平成 7年11月28日出願公開、特開平 7-308996、請求項の数(10)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 1. 手続きの経緯
本願は、平成6年5月19日の出願であって、平成14年5月2日付けで拒絶の査定がなされ、同年6月7日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされたものである。

2. 本願発明
本願の請求項1〜10に係る発明(以下、それぞれ本願発明1〜10という。)は、平成14年4月11日付け手続補正書で補正された明細書の特許請求の範囲に記載された以下のとおりのものと認める。
「【請求項1】 エチレン-ビニルアルコール共重合体(a)50〜90重量%および6/12-ナイロン共重合体(b)10〜50重量%からなり、かつ6/12-ナイロン共重合体(b)の6-ナイロン成分と12-ナイロン成分共重合の比(重量比)が下記(I)を満足する樹脂組成物層を有する燃料容器。
55/45≦6-ナイロン成分/12-ナイロン成分≦85/15・・・・・(I)
【請求項2】 エチレン-ビニルアルコール共重合体(a)、6/12-ナイロン共重合体(b)および6-ナイロン共重合体(c)からなり、その配合比(重量比)が下記(II)および(III)を満足し、かつ、6/12-ナイロン共重合体(b)の6-ナイロン成分と12-ナイロン成分の共重合比(重量比)が下記(I)を満足する樹脂組成物層を有する燃料容器。
55/45≦6-ナイロン成分/12-ナイロン成分≦85/15・・・・・(I)
10/90≦[(b)+(c)]/(a)≦50/50・・・・・(II)
70/30≦(b)/(c)≦95/5・・・・・(III)
【請求項3】 樹脂組成物層がハイドロタルサイト系化合物を含む請求項1又は2記載の燃料容器。
【請求項4】 燃料が含酸素系有機化合物を含む請求項1〜3のいずれか1つに記載の燃料容器。
【請求項5】 共押出成形法で成形することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の燃料容器の製造方法。
【請求項6】 エチレン-ビニルアルコール共重合体(a)50〜90重量%および6/12-ナイロン共重合体(b)10〜50重量%からなり、かつ6/12-ナイロン共重合体(b)の6-ナイロン成分と12-ナイロン成分共重合の比(重量比)が下記(I)を満足する樹脂組成物層を有する燃料移送パイプ。
55/45≦6-ナイロン成分/12-ナイロン成分≦85/15・・・・・(I)
【請求項7】 エチレン-ビニルアルコール共重合体(a)、6/12-ナイロン共重合体(b)および6-ナイロン共重合体(c)からなり、その配合比(重量比)が下記(II)および(III)を満足し、かつ、6/12-ナイロン共重合体(b)の6-ナイロン成分と12-ナイロン成分の共重合比(重量比)が下記(I)を満足する樹脂組成物層を有する燃料移送パイプ。
55/45≦6-ナイロン成分/12-ナイロン成分≦85/15・・・・・(I)
10/90≦[(b)+(c)]/(a)≦50/50・・・・・(II)
70/30≦(b)/(c)≦95/5・・・・・(III)
【請求項8】 樹脂組成物層がハイドロタルサイト系化合物を含む請求項6又は7記載の燃料移送パイプ。
【請求項9】 燃料が含酸素系有機化合物を含む請求項6〜8のいずれか1つに記載の燃料移送パイプ。
【請求項10】 共押出成形法で成形することを特徴とする請求項6〜9のいずれか1つに記載の燃料移送パイプの製造方法。」

3. 原査定の拒絶理由の概要
原査定の拒絶理由の概要は、以下のとおりである。
「本願発明は、その出願前日本国内において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
刊行物1 : 特開平5-38791号公報
刊行物2 : 特開平05-271497号公報
刊行物3 : 特開平04-304253号公報
刊行物4 : 特開昭62-097840号公報
刊行物5 : 特開平02-086436号公報
刊行物6 : 特開平4-359928号公報
刊行物7 : 特開平4-151087号公報
刊行物8 : 特開平2-300588号公報
刊行物9 : 特開平4-367781号公報
刊行物10: 特開平3-227346号公報 」

4. 引用刊行物の記載事項
(1) 刊行物1
刊行物1には、以下の事項が記載されている。
(1a) 燃料油容器の層構造(【0013】)
「以下、本発明の燃料油容器を具体的に説明する。本発明の燃料油容器は、前記のように、少くとも接着材層を介して、外側にポリエチレン系樹脂を主成分とする主材層及び内側にエチレン-酢酸ビニル共重合体のけん化物層が積層されて成る層構造を有するものである。」
(1b) (1)主材層(【0014】)
「本発明において主材層に主成分として使われるポリエチレン系樹脂としては、エチレン単独重合体及びエチレンと他のα-オレフィンとの共重合体が挙げられる。ここでα-オレフィンは、一般には炭素数が3〜12個(好ましくは3〜8個)のオレフィンである。代表的なα-オレフィンとしては、プロピレン,ブテン-1,ヘキセン-1,オクテン-1,4-メチルペンテン-1などが挙げられる。」
(1c) (2)エチレン-酢酸ビニル共重合体のけん化物層(【0020】)
「使用しうるエチレン-酢酸ビニル共重合体のけん化物(以下、EVOHと略記する)は、例えば、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)をアルカリ等によりけん化することによって製造することができる。EVA中のエチレンの共重合割合は、通常20〜80モル%であり、特に25〜75モル%が好ましい。エチレンの共重合割合が20モル%未満では成形加工性の点で劣り、一方、80モル%を超えると、得られる多層の燃料油容器におけるガソリン,アルコール混合ガソリン等の燃料油に対するバリヤー性の点で不満足である。また、けん化度は、特に規定する訳ではないが、バリヤー性の点から通常90%以上であり、特に、95%以上が好ましい。けん化度が90%未満では、同様に得られる多層の燃料油容器の燃料等に対するバリヤー性が充分ではない。」
(1d) EVOH(【0021】)
「また、EVOHは、1種類で使用してもよく、また、2種類以上併用してもよく、更に、EVOHと相溶性を有するポリアミド樹脂又は熱可塑性ポリビニルアルコールを、燃料油のバリヤー性を著しく損なうことなく、かつ溶融成形が可能であれば、EVOHにブレンドして使用することができる。特に後者の方法は、より高い燃料バリヤー性を得ることができる。」
(1e) ナイロン6のアルコール混合ガソリンバリヤー性(【0005】)
「ポリアミド6(ナイロン6)等のポリアミド樹脂は、燃料油、特にガソリンに対して優れた透過防止性を有する。一方、昨今の燃料事情により既に南米等を中心とし、メチルアルコール,エチルアルコール等のアルコールをガソリンに混合したいわゆるアルコール混合ガソリンが使用されており、この傾向は北米を中心に次第に広まりつつある。ところが、ナイロン6を用いた多層燃料タンクのアルコール混合ガソリンのバリヤー性は、ガソリン単体の場合に比較して一般的に1/4〜1/5程度に低下し、例えば、60リットルの多層燃料タンクでガソリン100%を用いた際の透過量はECE34Annex No.5法による測定で約0.7g/日であるのに対しメチルアルコール15容量%混合のガソリンでは約3g/日とバリヤー性能の低下が認められる。」
(1f) EVOHのアルコール混合ガソリンバリヤー性(【0006】)
「そこで本発明者らは、ナイロン6(以下、PA6と称する)より更にバリヤー性能の良好な材料としてエチレン酢酸ビニル共重合体のけん化物(以下、EVOHと称する)に着目し、種々の検討を重ねた結果、アルコール混合ガソリンバリヤー性が先のPA6より更に優れていることを確認した。」

(2) 刊行物2
刊行物2には、以下の事項が記載されている。
(2a) 組成物(【請求項1】)
「 エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)55〜97重量%とポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂およびポリカーボネート系樹脂から選ばれる少なくとも1種の樹脂(B)45〜3重量%からなり、かつ前記エチレン-ビニルアルコール共重合体の水(10重量%)-フェノール(90重量%)の混合溶媒不溶解率が1%以上である組成物。」
(2b) 産業上の利用分野(【0001】)
「本発明は、組成物、多層体およびそれを用いた食品などの保存性に優れた多層包装体に関し、とりわけ、高度なガスバリアー性と同時に優れた透明性を具備する点で従来例を見ない温水加熱殺菌、レトルト用フィルム包装材料に関する。」
(2c) 発明が解決しようとする課題(【0003】)
「EVOHは現在最高のガスバリアー性を有する熱可塑性樹脂であり、半透明あるいは不透明で厚いPP層を内外層とし、EVOHを中間層とする構成のカップやトレーなどの硬い容器とした場合にガスバリアー性の優れた容器として汎用されているが、フレキシブルな薄手の透明フィルム包材として使用した場合、熱水高温加熱殺菌、レトルト殺菌時、ガスバリアー性が顕著に低下し、またEVOH層の白濁、波状のしわや模様が発生するなど重大な問題点があり、ガスバリアーフィルム包材として外観上、実用に耐えない状況にある。この様なEVOH層のレトルト時の異常は90℃以上の熱水、とりわけ120℃以上の熱水中では、EVOHが吸水膨潤すると同時に溶融流動し不定形状態になるためと推定される。そこで、改善策として、EVOHにポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂あるいはポリカーボネート系樹脂をブレンドする提案(特開平1-308626)がなされ、それなりに改善効果は認められるが、ヒートシール部分、折曲げ部分など局所的に歪みが掛かった部分でブレンド樹脂の再凝集などが生じ、EVOH樹脂層内のデラミによる白化、レトルト後の折曲げによる白化発生など種々の問題があり、さらなる改善が求められている。」
(2d) 課題を解決するための手段(【0004】)
「本発明者らは、レトルト処理によりEVOHのガスバリアー性が顕著に低下し、またEVOH層の白濁、波状のしわや模様および層内デラミ白化、折曲げによる白化などの発生を起こさぬような手段について広範な検討を実施した。その結果、EVOH(A)55〜97重量%およびポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂およびポリカーボネート系樹脂から選ばれる少なくとも1種の樹脂(B)45〜3重量%からなる組成物、または該組成物に架橋剤および/または架橋助剤(C)を配合した組成物からなり、水(10重量%)-フェノール(90重量%)の混合溶媒の不溶解率が1%以上である組成物を用いた場合、レトルト処理によるEVOH層の白濁、波状のしわや模様の発生など外観不良を起こさない上に、EVOH本来の高度なガスバリアー性を備えた透明レトルト用フィルムが得られ、さらに、EVOH層を最外層に使用時、レトルト殺菌処理中に包装同士が接触した場合に生じるEVOH層同士の粘着、融着、外観光沢不良などの問題点をも解決するという、従来のEVOHに対する常識を覆す驚くべき事実を確認し、本発明を完成したものである。」
(2e) ポリアミド系樹脂(PA)(【0012】)
「このうち、ポリアミド系樹脂(PA)としては、ポリカプラミド(ナイロン-6)、ポリ-ω-アミノヘプタン酸(ナイロン-7)、ポリウンデカンアミド(ナイロン11)、ポリラウリンラクタム(ナイロン-12)、ポリエチレンジアミンアジパミド(ナイロン-2,6)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン-4,6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン-6,6)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン-2,10)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン-6,12)、ポリオクタメチレンアジバミド(ナイロン-8,6)、ポリデカノメチレンアジバミド(ナイロン-10,6)、ポリドデカメチレンセバカミド(ナイロン-10,8)、あるいは、カプロラクタム/ラウリンラクタム共重合体(ナイロン-6/12)、カプロラクタム/ω-アミノノナン酸共重合体(ナイロン-6/9)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアミンアジペート共重合体(ナイロン-6/6,6)、ラウリンラクタム/ヘキサメチレンジアミンアジペート共重合体(ナイロン-12/6,6)、ヘキサメチレンジアミンアジペート/ヘキサメチレンジアミンセバケート共重合体(ナイロン-6,6/6,10)、エチレンジアミンアジペート/ヘキサメチレンジアミンアジペート共重合体(ナイロン-2,6/6,6)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアミンアジペート/ヘキサメチレンジアミンセバケート共重合体(ナイロン-6,6/6,10)などが挙げられる。これらのPA類の中で、本発明に最も好適なものとしてはナイロン-6/6,6およびナイロン-が挙げられる。ナイロン-6/12における6成分と12成分の組成は特に制限は無いが12成分が60モル%以下、より好ましくは50モル%以下が好ましい。」
(2f) 実施例1〜10のPA
「6/12ナイロン(6/12=90重量%/10重量%,ENS製グリロンCR-9)」
(2g) 実施例15のPA
「6/12ナイロン(6/12=50/50,ENS製CF6S)」

(3) 刊行物3
刊行物3には、以下の事項が記載されている。
(3a) 樹脂組成物(請求項1)
「エチレンモノマー単位を20〜65モル%含むエチレン-ビニルアルコール共重合樹脂40〜97重量%およびポリアミド系樹脂60〜3重量%よりなり、かつ有機酸の含有量が前記樹脂の合計量に対し0.2〜2重量%である樹脂組成物。」
(3b) 産業上の利用分野(【0001】)
「本発明はエチレン-ビニルアルコール共重合樹脂とポリアミド系樹脂を主剤とする樹脂組成物およびそれを用いた多層構造体および包装体に関する。」
(3c) 問題点(【0003】〜【0005】)
「しかし、かかる組成物は溶融成形を長時間にわたって連続して実施すると、成形物中にゲルが発生したり、押出機のスクリュー、ダイスに劣化樹脂が付着してそれが、成形物表面の荒れを起こしたり、時には劣化樹脂が剥離し成形物に混入する事がある。このため、比較的短時間で、運転を中止し、機械を解体掃除する必要があった。
かかる対策の手段とし、ポリアミド樹脂の分子末端にあるCOOH基をアミド基で封鎖したり、フッ素系含有樹脂を添加したりする方法が提案されてきた。これらはある程度の効果は発揮するものの、目的に対し十分な効果とは言えず、またコスト面でも不利である。本発明は別の有効な手段として、組成物中に酸をある程度以上添加することにより非常に長時間の運転が可能になるものである。
さらに、全く別種ではあるが、上記組成物の応用上の問題点があった。特開平1-253442号公報に示されているように、酸を添加しないエチレン-ビニルアルコール共重合樹脂とポリアミド樹脂とのブレンド系を使用した組成物は、多層フィルムとして120℃のレトルトに耐えうるが、場合によってはレトルト処理装置内が局部的に125〜130℃となる事があり、この場合デラミネーションが発生する問題があった。従って、更なる耐熱水温度の向上が望まれていた。」
(3d) 発明が解決しようとする課題(【0006】〜【0007】)
「通常のエチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(以下EVOHと省略することがある)において、酢酸が高濃度(特に金属塩と複合されていない場合)で含まれる場合は、本発明の目的である長時間の溶融成形性(以下ロングラン性と省略することがある)に対して効果が低いか、逆に悪化させる場合もある。一方、ポリアミド(以下PVAと省略することがある)に対して酸成分は、溶融成形時にアミド結合を分解させる作用がある。
EVOHとPAの組成物に対する酸成分の添加の影響について、上記の知見から、検討前は、むしろ悪影響が予測された。その根拠について述べる。EVOHとPAのゲル化は化学反応に起因すると考えられる。最も疑わしい反応はPAの末端あるいは熱分解時に生成する末端のCOOH基とEVOHのOH基のエステル化反応、あるいはアミド結合とEVOHのOH基のアミド-エステル交換反応により架橋し、ゲル化するものと考えられる。これは組成物中のCOOH基濃度とNH2濃度の溶融時間による変化を測定した際、後者の濃度は増加し、前者の濃度が一定である事より証明できる。
いずれにしても、PAのCOOH基とEVOHのOH基との反応であると考えられる。従って、本発明のように、酸によりPAを分解させる事は、COOH基を増加させることとなり、かえって反応を増し、ロングラン性の悪化を招くと考えられた。」
(3e) 課題を解決するための手段(【0008】〜【0009】)
「本発明者らは、EVOH樹脂とPAの組成物のゲル化挙動、および各種要因の影響について広範に検討した結果、従来の知見の全く逆の効果とも言える。極めて有用な効果を見出だし、本発明に至ったものである。また、後述するが本組成物を用いた多層フィルム、特に、レトルト用多層フィルムでは耐熱水温度も向上している点は注目される。
ゲル化防止のメカニズムは明らかでないが、系統的に酸成分を増加した実験、酸の種類を変えた実験から明らかに有機酸の効果が認められる。」
(3f) PA類(【0012】)
「これらのPA類は一種または二種以上混合した形で使用できる。これらのPA類の中で、本発明に最も好適なものとしてはカプロラクタム/ラウリルラクタム共重合体、すなわちナイロン-6/12を主成分とするものが挙げられる。ナイロン-6/12における6成分と12成分の組成は特に制限はないが12成分が5〜60重量%、より好ましくは5〜50%であるものが好ましい。」
(3g) 実施例1のPA(【0047】)
「PAとしてPA-6/12共重合体[カプロラクタムの単位とラウリルラクタムの単位の重量比が80/20で、融点が196℃、相対粘度が2.5]」

(4) 刊行物4
刊行物4には、以下の事項が記載されている。
(4a) 配向した多層フィルム(請求項1)
「(a)エチレンビニルアルコール共重合体及びポリアミド樹脂のブレンドを含んでなる架橋した核(コア)層:
(b)それぞれ接着剤樹脂を含んでなる2つの架橋した内部層:及び
(c)それぞれ線状低密度ポリエチレン、線状中密度ポリエチレン、及びエチレン酢酸ビニル共重合体を含んでなる2つの架橋した表面層、
を含んでなる配向した多層フィルム。」
(4b) 産業上の利用分野(2頁左下欄13行〜16行)
「本発明は包装用の配向した熱可塑性フィルムに関する。更に詳細には本発明は高酸素遮閉特性を有する共押しされた多層の配向したフィルムに関する。」
(4c) 目的(4頁左上欄9行〜右上欄9行)
「本発明の目的は、広い範囲の水分条件にわたって良好な酸素遮蔽性が特色の共押出しされた熱可塑性多層フィルムを提供することである。
また本発明の目的は、フィルムの遮閉材料中に実質的に空隙のない共押出しされた熱可塑性多層フィルムを提供することである。
本発明の更なる目的は、美的外観を良好な透明性及び他の望ましい光学的性質と共に有する熱可塑性多層フィルムを提供することである。
本発明の他の目的は、優れた靭性と耐摩耗性を有する薄い熱可塑性多層フィルムを提供することである。
本発明の更なる他の目的は、全体的に共押しし且つ配向させて、良好な収縮性と広い範囲の水分条件にわたる良好な遮閉性とを有するフィルムとすることができる共押出しされた熱可塑性多層フィルムを提供することである。」
(4d) ポリアミド(5頁左上欄18行〜右上欄2行)
「「ポリアミド」などは、分子鎖に沿ってアミド結合を有する高分子量重合体に関し、更に特に合成ポリアミド例えば種々のナイロンに関するものである。」
(4e) 実施例1(6頁左上欄1行〜14行)
「 LLDPE[ダウレックス(Dowlex)2045]50%、LMDPE(ダウレックス2037)25%及び約3.6%の酢酸ビニルを有するEVA15%を、酢酸ビニル含量約34重量%のEVAと混練した滑剤及び抗ブロック剤添加物を含有するマスターバッチ濃厚物約10%と共にブレンドすることによって試料フィルムを製造した。この外側ブレンド層を、EVOH[エバル(EVAL)H]90%及びナイロン6/ナイロン12共重合体[グリロン(Grillon) A-6]10%のブレンドを含有する核層及び中間層[ノーケム・プレキサ-(Norchem Plexar)3150]と共に共押出しした。
(4f) ナイロン共重合体(6頁左下欄19行〜右下欄5行)
「エムサー・インダストリーズ(Emser Industries)から入手しうるグリロン(Grillon)CA-6をEVOHと混合した。このグリロンCA-6はナイロン6の約60重量%及びナイロン12の約40%を有するナイロン共重合体である。
(4g) 他のナイロン共重合体(6頁右下欄14行〜17行)
「他の適当なナイロン共重合体は、ナイロン6の20〜30%及びナイロン12の70〜80%を有するグリロンCR-6である。」

(5) 刊行物5
刊行物5には、以下の事項が記載されている。
(5a) 冷媒ガス用ホース(請求項1)
「エチレン含有率20〜60モル%、けん化度90%以上のエチレン-酢酸ビニル共重合体けん化物(A)とポリアミド系樹脂(B)との重量比A/Bが95/5〜30/70である樹脂組成物からなる層を少なくとも一層有する冷媒ガス用ホース。」
(5b) ガスバリアー性を有するホース(1頁右下欄7行〜12行)
「本発明は主として冷凍機、クーラーなどの装置に用いられ、冷媒ガス、たとえば、フロンガスなどが通る配管において、配管に外部曲げ応力がかかり、かつ微少な振動がたえず負荷される部分にも使用可能なガスバリアー性を有するホースに関する。」
(5c) ポリアミド系樹脂(B)(3頁左上欄18行〜右上欄9行)
「本発明のポリアミド系樹脂(B)としては、6ナイロン、6・4ナイロン、6・6ナイロン、6・9ナイロン、6・12ナイロンなどの6ナイロン系樹脂、11ナイロン、12ナイロン及びこれらのエラストマーまた芳香族系ポリアミド、さらには、これらのブレンド物などが使用可能である。ポリアミドとしては、ポリアミド中のCH2基/NHCO基のモル比は5.5以上であることが好適である。該モル比が5.5以上の場合、ガスバリアー性、成形性を改善し、さらに応力存在下での振動によるクラックピンホールの発生を大巾に減少させる効果がある。さらに好適にはCH/NHCO6〜12である。」
(5d) 重量比A/B(3頁右上欄10行〜17行)
「本発明におけるEVOH(A)とポリアミド系樹脂(B)との重量比A/Bは95/5〜30/70である。EVOH(A)が95%以上ではホースの偏心による金具の取り付け不良、EVOH層の厚みムラ、及びホースの外部応力存在下、長期間振動を受けるとクラック、ピンホールが発生する。一方、30以下では、ガスバリアー性が不足する。好適にはA/B = 85/10〜40/60である。」
(5e) 冷媒ガス(4頁右上欄18行〜左下欄3行)
「本発明のホースは冷媒ガス用ホースとして、とくに有用であるが、ここで冷媒ガスとはフロン12(CC12F2)、フロン22(CHClF2)、フロン134A、フロン115(CCl2F2+CClF3)などがあげられるが、このうち、とくにフロン22に対して本発明のホースは著効を示す。」

(6) 刊行物6〜刊行物10
刊行物6〜刊行物10には、合成樹脂にハイドロタルサイトを配合させることが記載されている。

5. 本願発明1と刊行物1に記載された発明との対比・検討
(1) 対比
摘示(1a)〜(1f)から、刊行物1には、「少くとも接着材層を介して、外側にポリエチレン系樹脂を主成分とする主材層及び内側にエチレン-酢酸ビニル共重合体のけん化物層が積層されて成る層構造を有する燃料油容器。」の発明(以下、刊行物1発明という。)が記載されているものと認める。
そこで、本願発明1と、刊行物1発明とを対比する。
刊行物1発明の「燃料油容器」は、本願発明1の「燃料容器」に相当し、刊行物1発明の「燃料油容器」の内側の層の成分である、「エチレン-酢酸ビニル共重合体のけん化物」は、本願発明1の「エチレン-ビニルアルコール共重合体」に相当する。
そして、刊行物1には、上記内側の層の「エチレン-酢酸ビニル共重合体のけん化物層」としては、相溶性を有するポリアミド樹脂をブレンドした層とすることができる旨記載されている(摘示(1d))。

(2) 一致点
そうすると、本願発明1と刊行物1発明とは、次の点で一致する。
「エチレン-ビニルアルコール共重合体(a)およびポリアミド(b)からなる樹脂組成物層を有する燃料容器」である点。

(3) 相違点
そして、本願発明1と刊行物1発明とは、次の点で相違する。
(相違点1)
本願発明1では、(b)成分として、(I)式の共重合比の「6/12-ナイロン共重合体」を使用するのに対し、刊行物1発明では、ポリアミドを使用するものではあるが、そのポリアミドがどのようなポリアミドであるのか規定されていない点。
(相違点2)
本願発明1では、(a)成分と(b)成分との配合比が、(a)50〜90重量%、(b)10〜50重量%であるのに対し、刊行物1発明では配合比が規定されていない点。

(4) 相違点についての検討
そこで、相違点1について検討する。
本願明細書によれば(【0003】参照)、本願発明1は、その目的が、ガソリンのみならず、ガスホールに対しても充分な透過防止性と、さらには、耐衝撃性、耐ストレスクラック性を有する燃料容器又は移送パイプを提供することにある。
これに対し、刊行物1には、エチレン-ビニルアルコール共重合体に、それと相溶性を有するポリアミド樹脂をブレンドすると、より高い燃料バリヤー性を得ることができる旨記載されているが(摘示(1d))、ポリアミドをブレンドした具体例については言及がなく、どのようなポリアミドを使用するのかも例示されていないし、当然のことながら、特定のポリアミド共重合体のブレンドとそのことによる耐衝撃性能、耐ストレスクラック性能向上については、記載も示唆もされていない。
また、刊行物2〜5には、エチレン-ビニルアルコール共重合体にブレンドする成分として6/12-ナイロン共重合体が例示されているものの、刊行物2〜4は食品包装容器などの「ガスバリアー性」改善を目的とするものであり、刊行物5は冷媒ガス用ホースのガスバリアー性等の改善を目的とするものであるから、これらの刊行物には、ブレンド成分の6/12-ナイロン共重合体と燃料容器等に要求されるガスホール等に対する透過防止性能、耐衝撃性能との関係については記載も示唆もされていない。
刊行物6〜10には、ポリアミド樹脂の配合についての言及がない。
そして、本願発明1は、上記の相違点1等の構成により、バリアー性能をはじめとする明細書記載の顕著な効果を奏するものと認められる(本願明細書表1〜表2参照)。
以上のとおり、刊行物2〜6には、6/12-ナイロン共重合体を燃料容器に用いられるポリアミド成分として選択すべき理由が示唆されているとはいえないので、該刊行物に例示されている6/12-ナイロン共重合体を刊行物1発明のポリアミド成分として用いる合理的な理由を見出すことができない。
したがって、相違点(2)を検討するまでもなく、本願発明1は、刊行物1発明及び刊行物2〜10に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

6. 本願発明2〜5について
本願発明2〜5も、刊行物1発明とは少なくとも前記相違点の点で相違している。
そうすると、本願発明2〜5も、本願発明1について前述したのと同様に、刊行物1発明及び刊行物2〜10に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

7. 本願発明6〜10について
本願発明6〜10も、刊行物1発明とは少なくとも前記相違点の点で相違している。
そうすると、本願発明6〜10も、本願発明1について前述したのと同様に、刊行物1発明及び刊行物2〜10に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

8. むすび
したがって、本願請求項1〜10に係る発明は、刊行物1〜10に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認めることはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2006-03-29 
出願番号 特願平6-105364
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B32B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 平井 裕彰  
特許庁審判長 松井 佳章
特許庁審判官 芦原 ゆりか
石井 克彦
発明の名称 燃料容器および燃料移送パイプ  

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