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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09J
管理番号 1134062
審判番号 不服2004-6335  
総通号数 77 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2001-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-03-31 
確定日 2006-04-06 
事件の表示 平成11年特許願第261095号「接続材料」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 3月27日出願公開、特開2001- 81438〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成11年9月14日の出願であって、平成16年2月19日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成16年3月31日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、平成16年4月30日付けで手続補正がなされ、当審において、平成17年11月10日付けで審尋を発し、これに対し、平成18年1月13日に回答書の提出がなされたものである。

2.平成16年4月30日付け手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成16年4月30日付け手続補正を却下する。

[理由]
(1)補正の内容
本件補正により、補正前の特許請求の範囲、
「【請求項1】 相対する電極を有する被接続部材を接続する接続材料であって、
熱硬化性樹脂を含有する接着剤成分を含み、
硬化後の30℃における弾性率が0.9〜3GPa、
弾性率測定時のtanδのピーク温度で表されるガラス転移温度が100℃以上、
引張り伸び率が3%以上であり、
接着強度および電気的接続信頼性が高く、
ポリイミド樹脂フィルムを接続する場合でも有効に機械的固着と電気的接続を行うことができ、
高温多湿下において使用しても電気的接続信頼性が低下しない接続材料。
【請求項2】 接着剤成分がガラス転移温度が50℃以下の熱可塑性樹脂および/または平均粒径30〜300nmのエラストマー微粒子を1〜90重量%含有する請求項1記載の接続材料。
【請求項3】 接着剤成分に対し導電性粒子を0〜40容量%含有する請求項1または2記載の接続材料。
【請求項4】 引張り伸び率が6%以上である請求項1ないし3のいずれかに記載の接続材料。」
は、
「【請求項1】 相対する電極を有する被接続部材を接続する接続材料であって、
熱硬化性樹脂と、
ガラス転移温度が50℃以下の熱可塑性樹脂および/またはエラストマー微粒子とを含有する接着剤成分を含み、
硬化後の30℃における弾性率が0.9〜3GPa、
弾性率測定時のtanδのピーク温度で表されるガラス転移温度が100℃以上、
引張り伸び率が3%以上であり、
接着強度および電気的接続信頼性が高く、
ポリイミド樹脂フィルムを接続する場合でも有効に機械的固着と電気的接続を行うことができ、
高温多湿下において使用しても電気的接続信頼性が低下しない接続材料。
【請求項2】 接着剤成分がガラス転移温度が50℃以下の熱可塑性樹脂および/または平均粒径30〜300nmのエラストマー微粒子を1〜90重量%含有する請求項1記載の接続材料。
【請求項3】 接着剤成分に対し導電性粒子を0〜40容量%含有する請求項1または2記載の接続材料。
【請求項4】 引張り伸び率が6%以上である請求項1ないし3のいずれかに記載の接続材料。」
と補正された。

(2)補正の適否
本件補正の適否について検討するに、本件補正は特許法第17条の2第4項第1号に掲げられた請求項の削除を目的とするものではなく、補正前の請求項1に「ガラス転移温度が50℃以下の熱可塑性樹脂および/またはエラストマー微粒子」に係る事項を追加することは、補正前の請求項2に「熱可塑性樹脂および/または平均粒径30〜300nmのエラストマー微粒子」に係る記載があるとしても、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものではないから、特許法第17条の2第4項第2号に掲げられた特許請求の範囲の減縮を目的とするものではなく、同3号に掲げられた誤記の訂正、同4号に掲げられた明りょうでない記載の釈明のいずれをも目的とするものでない。

(3)まとめ
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第4項の規定に違反してなされたものであるから、特許法第159条第1項で読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
(1)本願発明
平成16年4月30日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願請求項1〜4に係る発明は、平成14年12月27日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1〜4に記載された事項により特定されるとおりのものであり、その請求項1に係る発明は次のとおりのものである。
「【請求項1】 相対する電極を有する被接続部材を接続する接続材料であって、
熱硬化性樹脂を含有する接着剤成分を含み、
硬化後の30℃における弾性率が0.9〜3GPa、
弾性率測定時のtanδのピーク温度で表されるガラス転移温度が100℃以上、
引張り伸び率が3%以上であり、
接着強度および電気的接続信頼性が高く、
ポリイミド樹脂フィルムを接続する場合でも有効に機械的固着と電気的接続を行うことができ、
高温多湿下において使用しても電気的接続信頼性が低下しない接続材料。」

(2)引用文献及び記載事項
これに対し、原査定の拒絶理由に引用された本願出願前に頒布された刊行物である国際公開第98/03047号パンフレット(以下、「引用例1」という。)には、次の技術事項が記載されている。

記載事項1-1:第25頁 請求項1及び2
「1.相対峙する回路電極を加熱、加圧によって、加圧方向の電極間を電気的に接続する加熱接着性接着剤において、その接着剤の接着後の40℃における弾性率が100〜2000MPaであることを特徴とする回路接続用フィルム状接着剤。
2.前記接着剤が少なくともエポキシ樹脂と、アクリルゴム及び潜在性硬化剤を含有している請求項1記載の回路接続用フィルム状接着剤。」

記載事項1-2:第6頁第5〜9行
「接着剤に配合されたアクリルゴムは、図1に示したようなゴム成分に起因する誘電正接のピーク温度が40〜60℃付近にあるため、接着剤の低弾性率化を図ることができる。また、接着剤にはフィルム形成性をより容易にするために、フェノキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂等の熱可塑
性樹脂を配合することもできる。」

記載事項1-3:第9頁第3〜6行
「本発明の接着剤は、40℃での弾性率が100〜2000MPaのため、前記信頼性試験において生じる内部応力を吸収できるため、信頼性試験後においても接続部での接続抵抗の増大や接着剤の剥離がなく、接続信頼性が大幅に向上する。」

記載事項1-4:第10頁第5〜11行
「本発明の接着剤を用いて半導体チップを…基板(チップ実装用基板)に実装することができる。このようなチップ実装用基板として、…ポリイミド樹脂、…等の合成樹脂フィルム…が使用される。」

記載事項1-5:第12頁第14行〜第13頁第17行
「実施例1 フェノキシ樹脂(…)50gと、アクリルゴム(…)125gを酢酸エチル400gに溶解し、30%溶液を得た。次いで、マイクロカプセル型潜在性硬化剤を含有する液状エポキシ(…)325gをこの溶液に加え、撹拌し、さらにニッケル粒子(…)を2容量%分散してフィルム塗工用溶液を得た。…この接着フィルムの硬化物の動的粘弾性測定器で測定した40℃の弾性率は、800MPaであった。…本接続後の接続抵抗は、…-55〜125℃の熱衝撃試験1000サイクル処理、PCT試験(121℃、2気圧)200時間、260℃のはんだバス浸漬10秒後においても変化がなく、良好な接続信頼性を示した。」

記載事項1-6:第4頁第2〜3行及び図1
「図1は、実施例1の接着フィルム硬化物の弾性率および誘電正接を示すグラフである。



(3)対比・判断
本願請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)と引用例1に記載された実施例1のものとを比較すると、後者は、相対峙する回路電極を電気的に接続する接着剤において、少なくともエポキシ樹脂と潜在性硬化剤を含有している回路接続用フィルム状接着剤であって(記載事項1-1)、具体的にはマイクロカプセル型潜在性硬化剤を含有する液状エポキシからなる接着フィルムの硬化物であり(記載事項1-5)、その図1に示されるとおりの弾性率(-E’)及び誘電正接(…tanδ)を有し(記載事項1-6)、ゴム成分に起因する誘電正接のピーク温度が40〜60℃付近にあり(記載事項1-2)、チップ実装用基板として、ポリイミド樹脂フィルムが使用される場合もあり(記載事項1-4)、信頼性試験後においても接続部での接続抵抗の増大や接着剤の剥離がなく、接続信頼性が大幅に向上し(記載事項1-3)、-55〜125℃の熱衝撃試験1000サイクル処理、PCT試験(121℃、2気圧)200時間、260℃のはんだバス浸漬10秒後においても変化がなく、良好な接続信頼性を示すものであって(記載事項1-5)、その図1から読み取れるように、接着フィルムの硬化物の動的粘弾性測定器で測定した弾性率(E’)は、30℃において約1200MPa程度であり(記載事項1-6)、誘電正接(tanδ)の2つのピークのうち、50℃付近のピークはアクリルゴム成分に起因するものであり(記載事項1-2)、150℃付近のピークがガラス転移温度に相当するものであって(記載事項1-6)、
後者における
「相対峙する回路電極を電気的に接続する接着剤」、
「エポキシ樹脂と潜在性硬化剤を含有している接着剤」、
「接着剤の剥離がなく、接続信頼性が大幅に向上」、
「ポリイミド樹脂フィルムが使用される」、
「回路電極を電気的に接続」、
「信頼性試験後においても接続信頼性が大幅に向上」及び
「回路接続用フィルム状接着剤」との用語は、
前者における
「相対する電極を有する被接続部材を接続する接続材料」、
「熱硬化性樹脂を含有する接着剤成分」、
「接着強度および電気的接続信頼性が高く」、
「ポリイミド樹脂フィルムを接続する場合」、
「機械的固着と電気的接続を行う」、
「高温多湿下において使用しても電気的接続信頼性が低下しない」及び
「接続材料」との用語に相当するものであるから、
両者は、「相対する電極を有する被接続部材を接続する接続材料であって、熱硬化性樹脂を含有する接着剤成分を含み、硬化後の30℃における弾性率が約1.2GPa、弾性率測定時のtanδのピーク温度で表されるガラス転移温度が約150℃であり、接着強度および電気的接続信頼性が高く、ポリイミド樹脂フィルムを接続する場合でも有効に機械的固着と電気的接続を行うことができ、高温多湿下において使用しても電気的接続信頼性が低下しない接続材料。」である点で一致し、引張り伸び率が、前者においては「3%以上」であるのに対して、後者においては引張り伸び率の数値が不明である点でのみ一応相違している。

そこで、上記相違点について検討するに、
(あ)本願明細書の段落0013には、「前記特性を得るためにTgが50℃以下の熱可塑性樹脂および/または平均粒径30〜300nmのエラストマー微粒子を含有することができる。熱可塑性樹脂としては…室温でゴム弾性を有する樹脂が使用でき、例えばアクリル樹脂」と記載され、本願明細書の段落0030の表1を参酌するに、エラストマーとしてゴム微粒子あるいは熱可塑性樹脂としてアクリル樹脂を含んだ実施例1〜5及び比較例2のものは何れもこれに相当する成分を含まない比較例1及び3のものに比して弾性率が低く及び伸び率が大きいものになっているところ、引用例1に記載された発明は、本願発明の特性を得るための手段とされた弾性を有するアクリル樹脂に相当するアクリルゴムを使用し、このゴム成分によって接着剤の低弾性率化を図って内部応力を吸収するようにしたものであり、
(い)例えば、先の審尋で刊行物Cとして示した特開平10-183073号公報などの公知文献を参酌するに、当該公知文献の実施例ないし比較例として記載されたプリント配線板用の接着フィルムの引張り伸び率は何れも5〜200%の数値範囲になっており、引張り伸び率が3%以上という数値範囲は、電極を有する被接続部材を接続するための接続材料の分野において通常の数値範囲に過ぎないものと解され、
(う)ゴムのような伸縮可能な弾性体は、フックの法則に従い、弾性率が小さければ伸び率も大きくなるので、ゴム成分を配合して接着剤の低弾性率化を図った引用例1の技術において、低弾性率化が図られたということは、すなわち伸び率も大きくなるということであり、
(え)本願明細書の実施例1〜5のものの弾性率が1.8〜2.1GPaで伸び率が3.6〜7.2%、比較例2のものの弾性率が0.8GPaで伸び率が12.1%、であるところ、引用例1に記載される実施例1のものの弾性率は約1.2GPaであるから、
これら(あ)〜(え)の点を勘案すると、引用例1のものの引張り伸び率が3%未満であるとは解し難く、上記相違点については、実質的な差異があるとは認められない。

したがって、本願発明は、引用例1に記載された発明である。

(4)むすび
以上のとおり、本願発明は、本願出願前に頒布された刊行物に記載された発明であるので、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができず、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-02-06 
結審通知日 2006-02-07 
審決日 2006-02-22 
出願番号 特願平11-261095
審決分類 P 1 8・ 113- WZ (C09J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 橋本 栄和  
特許庁審判長 西川 和子
特許庁審判官 天野 宏樹
木村 敏康
発明の名称 接続材料  
代理人 柳原 成  

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