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審決分類 審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  C08L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08L
審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  C08L
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
管理番号 1134316
異議申立番号 異議2003-70396  
総通号数 77 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-06-06 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-02-10 
確定日 2006-01-17 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3313485号「無機充填剤含有樹脂組成物」の請求項1,2に係る特許に対する特許異議の申立てについて,次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3313485号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第3313485号の請求項1ないし2に係る発明は,平成5年11月24日に出願され,平成14年5月31日にその特許権の設定登録がなされたが,異議申立人 近藤 武(以下,「申立人」という。)より,請求項1ないし2に係る特許に対して特許異議の申立てがなされ,平成16年5月20日付けで取消理由通知がなされ,指定期間内である平成16年7月30日に特許異議意見書の提出および訂正請求がなされ,平成17年10月4日付けで再度の取消理由通知がなされ,平成17年10月12日付けで先の訂正請求が取り下げられるとともに新たな訂正請求がなされたものである。

2.訂正の適否についての判断
2.1 訂正事項
(a)【請求項1】の「成分B:炭素数6〜18の」を「成分B:炭素数6の」と,「エチレン・αオレフィン共重合体」を「エチレン・αオレフィン共重合体であって、メタロセン触媒を使用して製造したもの」と訂正する。
(b)段落【0005】の「成分B:炭素数6〜18の」を「成分B:炭素数6の」と,「エチレン・αオレフィン共重合体」を「エチレン・αオレフィン共重合体であって、メタロセン触媒を使用して製造したもの」と訂正する。
(c)段落【0007】の「本発明に用いられるエチレンと炭素数6〜18のαオレフィンとの共重合体成分Bは、」を「本発明に用いられるエチレンと炭素数6のαオレフィンとの共重合体成分Bはメタロセン触媒を使用して製造したものであり、」と訂正する。
(d)段落【0008】の「前記αオレフィンとしては、C6〜C18、好ましくはC6〜C10のαオレフィンであり、」を「前記αオレフィンとしては、C6のαオレフィンであり、」と訂正する。
(e)段落【0017】の「【数1】


を「【数1】


と訂正する。

2.2 訂正の目的の適否,新規事項の有無および拡張・変更の存否
訂正事項(a)は,請求項1における成分Bに関して,αオレフィンの炭素数を6に限定し,かつ,エチレン・αオレフィン共重合体をメタロセン触媒を使用して製造したものに限定するものであって,特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。
また,訂正事項(b)〜(d)は,訂正事項(a)に対応して,特許明細書の記載の整合性をとるためのものであって,いずれも,明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。
また,訂正事項(e)は,式(1)について,その算出過程から誤記であることが明らかな箇所を訂正するためのものであって,誤記の訂正を目的とする訂正に該当する。
そして,訂正事項(a)〜(e)のいずれも,特許明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり,かつ,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。

2.3 まとめ
以上のとおりであるから,前記訂正は,特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる,特許法第120条の4第3項で準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書,第2項及び第3項の規定に適合するので,当該訂正を認める。

3.特許異議の申立てについての判断
3.1 申立ての理由の概要
申立人は,甲第1号証ないし甲第6号証を提示して,訂正前の請求項1に係る発明は甲第1号証に記載された発明であって特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができず,また,訂正前の請求項1ないし2に係る発明は甲第1号証ないし甲第6号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,本件特許は取り消されるべきものである旨主張している。

3.2 当審取消理由の概要
当審が通知した取消理由の概要は次のとおりである。
(1)特許法第29条第2項
訂正前の請求項1ないし2に係る発明は,刊行物1ないし5(甲第1号証,甲第3号証〜甲第6号証)に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものである(平成16年5月20日付け通知)。

(2)特許法第36条第4項又は第5項及び第6項
(2-1)訂正前の請求項1ないし2に係る発明は,作用効果が格別であるか否か確認できず,また,樹脂組成物の成分A,B,Cの配合比によっては100重量%とならない場合がある(平成16年5月20日付け通知)。
(2-2)訂正前の請求項1に係る発明は,樹脂組成物の成分Aの配合比が不明瞭であり,また,成分Bの「炭素数6〜18のαオレフィン」のうち,具体的に記載されている1-ヘキセン以外のαオレフィンについて不明である(平成17年10月4日付け通知)。

3.3 訂正後の本件発明
訂正後の請求項1ないし2に係る発明(以下,各々「本件発明1」ないし「本件発明2」という。)は,その特許請求の範囲の請求項1ないし2に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】下記の成分A、成分Bおよび成分Cを含有する無機充填材含有樹脂組成物。
成分A:エチレン単位含量が1〜15重量%、及びメルトフローレートが10〜100g/10分の結晶性プロピレン・エチレンブロック共重合体50〜80重量%、
成分B:炭素数6のαオレフィン含量が25〜70重量%、密度0.850〜0.890g/cm3であるエチレン・αオレフィン共重合体であって、メタロセン触媒を使用して製造したもの5〜20重量%未満、
成分C:平均粒径が0.1〜5μのタルク10〜30重量%。
【請求項2】前記成分Bのエチレン・αオレフィン共重合体が、炭素数5個以上のメチレン平均連鎖長を7〜23個有する構造を有するものである、請求項1に記載のプロピレン系樹脂組成物。」

3.4 各刊行物・甲各号証に記載された発明
刊行物1(甲第1号証:特開昭64-150号公報)の特許請求の範囲第1項,4頁左下欄1〜3行および5頁左上欄16行〜右上欄4行等には, (A)エチレン単位含量が10ないし30モル%およびメルトフローレートが10ないし30g/10分の結晶性プロピレン・エチレンブロック共重合体(A成分)60ないし85重量部,(B)エチレン単位含量が60ないし85モル%,メルトフローレートが0.1ないし5.0g/10分およびX線による結晶化度が15%以下の非晶性エチレン・α-オレフィンランダム共重合体成分(B成分)5ないし20重量部,ならびに(C)平均粒径が0.1ないし5μのタルクまたは炭酸カルシウム成分(C成分)8ないし15重量部,からなる,樹脂組成物について記載され,B成分に関して,α-オレフィンとしては1-ヘキセン,4-メチル-1-ペンテン等が挙げられること,および,B成分は,通常バナジウム化合物と有機アルミニウム化合物の組合せ触媒を用いて製造されることが記載されている。
なお,甲第1号証には,「後記実施例および比較例において使用した非晶性エチレン・α-オレフィンランダム共重合体成分(B成分)を第2表に示す。第2表のB1およびB2は本発明のB成分の範囲内であるが,B3は本発明のB成分の範囲外である。」と記載されている(5頁左下欄18行〜右下欄2行)が,6頁右上欄第2表には,B成分を説明するものとしてエチレン単位含有モル%,メルトフローレートg/10分および結晶化度%が記載されるのみであり,具体的なα-オレフィンの種類は明らかでない。
刊行物2(甲第3号証:日本ゴム協会誌,第60巻第1号(1987),38〜45頁)には,「13C-NMRによるエチレン・α-オレフィン系ゴム中のエチレン長連鎖に関する研究」の説明がなされ,第3級炭素を起点にして,これと直結するメチレン基単位-(CH2)n-におけるnが7以上のメチレン基の長連鎖の平均値を“ブロックメチレン平均連鎖長(BMAL)”と定義していること,その計算手法,および,エチレン・4-メチルペンテン-1-ゴム(EMPM)を種々のチーグラー触媒で合成し,各々について13C-NMRで分析し,計算値よりシグナルの帰属を決定した結果等について記載されている。
刊行物3(甲第4号証:特開昭61-243842号公報)の特許請求の範囲,2頁左下欄下8行〜右下欄5行,4頁左上欄下7〜1行,同頁右上欄下3行〜左下欄13行および同頁右下欄下8〜3行等には,(a)プロピレン重合体,及び(b)密度が0.870ないし0.905g/cm3であるエチレンと少割合の炭素数4ないし10のα-オレフィンとの共重合体とからなることを特徴とするポリプロピレン組成物が記載され,(a)成分としてはエチレンとのブロック共重合体で結晶性のものを選択しうること,(b)成分中のα-オレフィンとして1-ヘキセン,4-メチル-1-ペンテンを選択しうること,(b)成分は例えば,チタン触媒成分(A),有機アルミニウム化合物触媒成分(B)及びハロゲン化合物触媒成分(C)から形成される触媒を用いて製造されること,および,任意成分として無機充填剤を配合しうることが記載されている。
刊行物4(甲第5号証:後藤邦夫 外2名 編集「高分子改質技術 配合・加工」,株式会社化学工業社発行,昭和47年10月1日,102〜106頁)には,ポリプロピレン(PP)に配合する添加剤,補強材料について記載されている。
刊行物5(甲第6号証:PLASTICS AGE ENCYCLOPEDIA 進歩編 編集委員会 編集,「PLASTICS AGE ENCYCLOPEDIA 進歩編 1992」,株式会社プラスチックス・エージ発行,1991年10月15日,153〜162頁)には,PP/EPR/タルク複合材料は,高剛性,高衝撃強さ,高寸法精度,塗装性の高度の要求性能を実現したこと,および,PP複合材料におけるフィラー粒径とデュポン衝撃強さとの関係について記載されている。
また,甲第2号証(Proceedings of the Second International Business Forum on Specialty Polyolefins SPO '92, SCHOTLAND business research, inc.発行,53〜70頁)の55頁5〜11行,同頁下5行〜56頁2行,57頁25〜26行,60頁1〜3行及び62頁図1等には,超低密度ポリエチレン(VLDPE)の製造プロセスの説明がなされ,VLDPEに包含されるULDPEは通常,密度が0.90g/cm3以下であって,コモノマー含量は,図1に示すように,15〜30重量%まで達すること,ULDPEは低圧の溶液重合で製造され,この製造方法ではオクテン-1などのコモノマーが使用されること,最も広く使用されているコモノマーは,ブテン-1とオクテン-1であるが,プロピレン,4-メチルペンテン-1,ヘキセン-1およびその他のαオレフィンも,市場の要求がある場合には使用されること等が記載されている。

3.5 対比・判断
(1)特許法第29条第2項
本件発明1と,刊行物1に記載された発明とを比較すると,両者は本件発明1における成分Aおよび成分Cにおいて一致するものの,成分Bに関しては,本件発明1が,エチレンと炭素数6のαオレフィンとの共重合体をメタロセン触媒を使用して製造したものであるのに対して,刊行物1に記載された発明は,そのような特定がない点で相違する。
そこで,前記相違点について検討するに,刊行物2ないし5のいずれも,エチレンと炭素数6のαオレフィンとの共重合体を,メタロセン触媒を使用して製造することについては,記載も示唆もされていない。
また,甲第2号証には,低圧の溶液重合法において,場合によりコモノマーとして4-メチルペンテン-1やヘキセン-1も使用されることは記載されているが,メタロセン触媒の適用については記載されていない。なお,同証56頁下3〜1行にメタロセン型触媒の使用可能性が記載されているが,当該記載は,高圧オートクレーブ法での説明に係るものである。しかも,同証には,高圧法や気相法ではコモノマーの選択について制限があり,触媒も工夫しなければならない旨が記載されている(20頁5〜10行)ことからみて,メタロセン触媒の適用と,炭素数6のαオレフィンの使用とを両立させる開示は見い出せない。よって,甲第2号証をもってしても,メタロセン触媒を用いて製造したエチレンと炭素数6のαオレフィンとからなる共重合体なるものが示唆されているものとすることはできない。
そうすると,刊行物1ないし5,および,甲第2号証に記載された発明のいずれも,本件発明1に係る前記特定事項を欠くものである。
したがって,本件発明1,および,それを更に技術的に特定した本件発明2は,いずれも,刊行物1ないし5,および,甲第2号証に記載された発明でないのは勿論のこと,これら各発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
そして,本件発明1ないし2は,前記のように,炭素数6のαオレフィン含量が特定されたエチレン・αオレフィン共重合体であって,メタロセン触媒を使用して製造したものを樹脂組成物の構成成分として採用することにより,耐低温衝撃性と剛性のバランスに優れるという,特許明細書に記載されるとおりの顕著な効果を奏するものであり,しかも,当該効果は刊行物1ないし5,および,甲第2号証からは予測できないものである。

(2)特許法第36条第4項又は第5項及び第6項
前記3.2(2)の(2-1)(2-2)とも,平成17年10月12日付け訂正請求により,すべて解消された。よって,本件特許明細書に所論の記載不備はない。

4.むすび
以上のとおりであるから,申立人による申立ての理由,証拠方法及び当審が通知した取消理由によっては,本件発明1ないし2に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に本件発明1ないし2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
無機充填剤含有樹脂組成物
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】下記の成分A、成分Bおよび成分Cを含有する無機充填材含有樹脂組成物。
成分A:エチレン単位含量が1〜15重量%、及びメルトフローレートが10〜100g/10分の結晶性プロピレン・エチレンブロック共重合体50〜80重量%、
成分B:炭素数6のαオレフィン含量が25〜70重量%、密度0.850〜0.890g/cm3であるエチレン・αオレフィン共重合体であって、メタロセン触媒を使用して製造したもの5〜20重量%未満、
成分C:平均粒径が0.1〜5μのタルク10〜30重量%。
【請求項2】前記成分Bのエチレン・αオレフィン共重合体が、炭素数5個以上のメチレン平均連鎖長を7〜23個有する構造を有するものである、請求項1に記載のプロピレン系樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は結晶性プロピレン・エチレンブロック共重合体、エチレン・αオレフィン共重合体およびタルクにより構成され、耐低温衝撃性、剛性のバランス優れ、例えば自動車用インストルメントパネル等の射出成形品を製造するのに好適な特定の樹脂組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】結晶性ポリプロピレンは、剛性、耐熱性、光沢などの点で優れた特性を有するが、耐衝撃性、塗装性に乏しく、剛性、耐熱性、耐衝撃性及び塗装性が同時に要求される用途には利用することができないという欠点を有している。このような欠点を改良するために、結晶性ポリプロピレンに非晶性エチレン・プロピレン共重合体などのゴム成分を混合する方法が提案されている。そして、これらゴム状物質の添加による剛性の低下を改良するために、タルクなどの無機充填剤を添加混合することも提案されている。例えば、特公昭60-3420号公報には、エチレン含有量5〜10重量%、ポリプロピレン成分の沸点n-ヘプタン不溶分97重量%以上、常温パラキシレン可溶分の固有粘度(デカリン、135℃)3〜4、メルトフローインデックス2〜10の結晶性プロピレン・エチレンブロック共重合体55〜65重量%、固有粘度(デカリン、135℃)2.0〜3.5、ムーニー粘度ML1+4(100℃)40〜100の無定形エチレン・プロピレン共重合体30〜35重量%、及び平均粒子径0.5〜5μのタルク5〜15重量%よりなるバンパー用ポリプロピレン組成物が開示されている。
【0003】また、特公昭63-42929号公報、特公平4-28749号公報に開示されたポリプロピレン組成物は、無定性エチレン・プロピレン共重合体の代わりにエチレン・αオレフィン共重合体をポリプロピレンの衝撃改良剤として用いるが、耐低温衝撃性と剛性のバランスの点で必ずしも満足のいくものではなかった。また、特開平4-159345号公報では、メルトフローレートが4〜50g/10分、密度が0.910g/cm3以下、示差走査熱量計(DSC)による最高融解ピーク温度が100℃以上であり、且つDSCによる100℃以上の融解熱量が10ジール/g以上であるエチレン・αオレフィン共重合体の最高融解ピーク温度が100℃以上と高いため、耐衝撃性の点で必ずしも満足のいくものではなかった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、耐低温衝撃性と剛性のバランスに優れ、且つ射出成形体に適した組成物、具体的には自動車用インストルメントパネルを製造するのに好適な樹脂組成物を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】かかる状況に鑑み、本発明者は耐低温衝撃性と剛性とのバランスに優れる樹脂組成物を得るために種々検討した結果、特定の結晶性プロピレン・エチレンブロック共重合体、エチレン・αオレフィン共重合体及び無機充填剤からなる樹脂組成物が発明の目的を達成することを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は下記の成分A、成分Bおよび成分Cを含有するプロピレン系樹脂組成物である。
成分A:エチレン単位含量が1〜15重量%、及びメルトフローレートが10〜100g/10分の結晶性プロピレン・エチレンブロック共重合体50〜80重量%、
成分B:炭素数6のαオレフィン含量が25〜70重量%、密度0.850〜0.890g/cm3であるエチレン・αオレフィン共重合体であって、メタロセン触媒を使用して製造したもの5〜20重量%未満、
成分C:平均粒径が0.1〜5μのタルク10〜30重量%。
【0006】[発明の具体的な説明]
1.組成物構成成分
成分A
本発明で用いられる結晶性プロピレン・エチレンブロック共重合体成分Aは、エチレン単位含量が1〜15重量%、好ましくは2〜10重量%、及びメルトフローレートが10〜100g/10分のものである。メルトフローレートが10g/10分未満では成形性が劣り、100g/10分を越えると耐衝撃性が劣る。該共重合体成分Aの製造には、高立体規則性触媒が用いられる。該触媒の代表的な製造法は、四塩化チタンを有機アルミニウム化合物で還元し、更に各種の電子供与体及び電子受容体で処理して得た三塩化チタン組成物と、有機アルミニウム化合物及び芳香族カルボン酸エステルとを組合せる方法(特開昭56-100806号公報、特開昭56-120712号公報、特開昭58-104907号公報)、及びハロゲン化マグネシウムに四塩化チタンと各種の電子供与体を接触させる担持型触媒の方法(特開昭57-63310号公報、特開昭63-43915号公報、特開昭63-83116号公報)等、公知の方法が用いられる。得られるポリマーはいわゆる非ポリマーブレンドタイプの共重合体である。共重合体成分Aは、別々に重合された2種以上のプロピレン・エチレンブロック共重合体の混合物であってもよい。
【0007】成分B
本発明に用いられるエチレンと炭素数6のαオレフィンとの共重合体成分Bはメタロセン触媒を使用して製造したものであり、αオレフィン含量が25〜70重量%、好ましくは30〜65重量%、密度が0.850〜0.890g/cm3、好ましくは0.855〜0.880g/cm3のものである。αオレフィン含量が25重量%以下の場合は耐衝撃改良効果が少なく、70重量%を越えると溶融流動性が悪く成形性に劣る。エチレン・αオレフィン共重合体の13C-NMRより求めた、炭素数が5個以上の連鎖中のメチレン平均連鎖長は好ましくは7〜23個、好ましくは9〜18個である。7個未満ではベタつき易くなり23個を越えるともろくなる。
【0008】前記αオレフィンとしては、C6のαオレフィンであり、具体的には例えば、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン等が挙げられる。共重合体成分Bは小量のジエン成分として、例えば、ジシクロペンタジエン、エチリデンノルボルネン、1,4-ヘキサジエン、1,9-デカジエン、エチリデンノルボルネン、ビニルノルボルネン等が共重合されてもよい。前記エチレン・αオレフィン共重合体を製造するための触媒としては、ハロゲン化チタン等のようなチタン化合物及び/又はバナジウム化合物と、アルキルアルミニウム-マグネシウム錯体、アルキルアルコキシアルミニウム-マグネシウム錯体等のような有機アルミニウム-マグネシウム錯体や、アルキルアルミニウムあるいはアルキルアルミニウムクロリド等の第I〜III族の有機金属化合物との組み合わせによる、いわゆるチーグラー型触媒、若しくは、WO-91/04257号公報等に示されるようなメタロセン触媒を使用することができるが、本発明により特定した密度範囲を維持し、且つベタつきの低分子量成分を低減化するには、メタロセン触媒を用いることが好ましい。重合方法は、気相流動床法、溶液法、スラリー法、あるいは圧力200kg/cm2、温度180℃以上の高圧イオン重合法等の製造プロセスを適用してエチレンとαオレフィンを共重合することにより得られるものであり、本発明により特定した範囲の密度およびMFRを得るには、高圧イオン重合により製造することが好ましい。
【0009】成分C
本発明に用いるタルク成分Cは、通常無機充填剤として市販されているものであり、平均粒子径が0.1〜5μ、好ましくは0.3〜4μのものである。平均粒子径が5μを越えると機械強度が低下する場合があり、一方0.1μ未満のものは混練時に分散不良を起こす場合がある。タルク成分Cは、未処理であってもよいが、結晶性プロピレン・エチレンブロック共重合体(成分A)との親和性を向上させるために、有機チタネート系シランカップリング剤、シラン系カップリング剤、カルボン酸変性ポリオレフィン等で処理あるいはそれらと併用してもよい。
【0010】2.プロピレン系樹脂組成物
(1)各成分の配合割合
本発明の組成物を構成する、結晶性プロピレン・エチレンブロック共重合体成分A、エチレン・αオレフィン共重合体成分B及びタルク成分Cの配合割合は、成分Aが50〜80重量%、好ましくは60〜75重量%、成分Bが5〜20重量%未満、好ましくは7〜15重量%、成分Cが10〜30重量%、好ましくは15〜25重量%である。成分Aが50重量%未満の場合は剛性が劣り、80重量%を越える場合は耐衝撃性が劣る。成分Bが5重量%未満の場合は衝撃強度の改良効果が劣り、20重量%以上の場合は剛性が劣る。成分Cが10重量%未満の場合は、剛性の改良効果が劣り、30重量%以上の場合は脆くなり耐衝撃が低下する。
【0011】(2)組成物の調製
本発明の組成物は、結晶性プロピレン・エチレンブロック共重合体成分A、エチレン・αオレフィン共重合体成分B及びタルク成分Cを前記の範囲内で例えば、ヘンシェルミキサー、V-ブレンダー、リボンブレンダー、タンブラーブレンダー等で混合後、単軸押出機、多軸押出機、ニーダー、バンバリーミキサー等の混練機により混練することにより各成分が均一に分散した高品質の自動車バンパー等に好適な樹脂組成物が得られる。
【0012】本発明の組成物には、その混合の任意の段階で、スチレン・ブタジエンゴム、イソプレンゴム等の他樹脂、酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、核剤、帯電防止剤、難燃剤、顔料、染料、あるいはタルクの他に他の無機または有機の充填剤、補強剤等の各種充填剤を本発明の目的を損なわない範囲で配合することができる。本発明の無機充填剤含有樹脂組成物は、耐低温衝撃性と剛性のバランスに優れ、且つ射出成形に適しているので、自動車用インストルメントパネルを製造するのに適した樹脂組成物である。
【0013】
【実施例】以下の実施例において用いた評価方法は次のとおりである。
(メルトフローレート)成形体試片につき、JIS K7210に準拠して測定した。
(密度)成形体試片につき、JIS K7112に準拠して測定した。
(曲げ特性)成形体試片につき、JIS K7203に準拠し、室温23℃で測定した。
(アイゾット衝撃試験-切削ノッチ付き)成形体試片につき、JIS K7110に準拠して-30℃で測定した。
【0014】(αオレフィン含有量)Macromolecules(1982年)15,353-360頁及び同1402-1406頁に記載されている13C-NMRによる測定方法に準拠して測定した。
装置:JEOL-GSX270
溶媒:O-ジクロロベンゼン(70)/ds-ベンゼン(30)
測定濃度:10(wt/v)%
温度:130℃
スペクトル巾:11000Hz
データポイント:16μs(60°)
パルス間隔:4s
積算回数:3000回
【0015】(炭素数が5個以上のメチレン平均連鎖長)炭素数が5個以上のメチレン平均連鎖長は、13C-NMRのシグナルの面積強度を用いて計算した。具体的な手法としては、13C-NMRを用いて測定したエチレン・プロピレン共重合体、エチレン・ブテン共重合体及びエチレン・ヘキセン共重合体のシグナルを各々、Macromorecules(1991年)24,4813頁、Macromorecules(1977年)10,536頁及びPoly.Bull.(1991年)26,325頁に従って帰属した。コモノマーの頭-頭結合、尾-尾結合を示すLindeman-Adamsの経験式に従って帰属した。炭素数が5以上のメチレン平均連鎖長は、13C-NMRのシグナルの面積を用いて、日本ゴム協会誌第60巻第1号(1987年)38頁の記載に従って計算した。
【0016】具体的には以下のとおりである。メチレン平均連鎖長ni+は長さi以上のメチレン連鎖の平均の長さであり、式(1)で計算される。
【0017】
【数1】

【0018】ここでSjは長さjのメチレン連鎖数を示す13C-NMR信号強度であり、以下の式(2)〜(7)で計算される。
S1=k[01010]+k[11010] (2)
S2={k[01001]+k[11001]}/2 (3)
S3=k[10001] (4)
S4=k[?100001]/2(?=0または1) (5)
S5=k[1000001] (6)
S6+=k[1000000]/2 (7)
右辺の[]は中に示した連鎖の分率を示している。連鎖は1がメチン炭素、0がメチレン炭素を表わしており、下線は連鎖中心炭素を示す。kは13C-NMR信号強度に変換するための係数である。右辺の各連鎖強度はエチレン/αオレフィン共重合体のαオレフィン種によりそれぞれ以下の式で計算できる。またk[CH2]は全メチレン信号の強度であり、各αオレフィン種により以下の式で計算できる。以下、右辺のTと添え字で示したものは次に示す信号の積分強度である。
【0019】αオレフィンがプロピレンの場合
k[CH2]=TA+TC+TD+TF3+TF4+TF5+TH+TI
k[01010]=TA
k[11010]=存在せず
k[01001]=TD
k[11001]=存在せず
k[10001]=TI
k[?100001]=TH2
k[1000001]=TF3
k[1000000]=TF4
TA;45.5〜48.0ppmの信号の積分強度
TC;37.2〜39.2ppmの信号の積分強度
TD;34.6〜36.2ppmの信号の積分強度
TF3;30.8ppmの信号の積分強度
TF4;30.4ppmの信号の積分強度
TF5;30.0ppmの信号の積分強度
TH;27.2〜28.2ppmの信号の積分強度
TH2;28.0ppmの信号の積分強度
TI;24.6〜25.2ppmの信号の積分強度
【0020】αオレフィンがブテンの場合
k[CH2]=-TA1+TB+TC+TD+TE
k[01010]=TA2/2+2TA1-TB
k[11010]=存在せず
k[01001]=TB2
k[11001]=存在せず
k[10001]=TE
k[?100001]=TD1
k[1000001]=TC1
k[1000000]=TC2
TA1;38.9〜41.0ppmの信号の積分強度
TA2;37.0〜38.0ppmの信号の積分強度
TB1;33.8〜35.2ppmの信号の積分強度
TB2;31.1〜31.8ppmの信号の積分強度
TC1;31.0ppmの信号の積分強度
TC2;30.5ppmの信号の積分強度
TC3;30.0ppmの信号の積分強度
TD1;27.8ppmの信号の積分強度
TD2;26.4〜27.7ppmの信号の積分強度
TE;24.3〜25.0ppmの信号の積分強度
【0021】αオレフィンがヘキセンの場合
k[CH2]=TA+TD1+TD2+TD3+TD4+2TE+3TF
k[01010]=TA
k[11010]=存在せず
k[01001]=TD1
k[11001]=存在せず
k[10001]=TF
k[?100001]=TE1
k[1000001]=TD2
k[1000000]=TD3
TA;40.0〜42.0ppmの信号の積分強度
TD1;31.2〜32.4ppmの信号の積分強度
TD2;31.0ppmの信号の積分強度
TD3;30.5ppmの信号の積分強度
TD4;30.0ppmの信号の積分強度
TE;26.8〜28.0ppmの信号の積分強度
TE1;27.8ppmの信号の積分強度
TF;24.0〜24.8ppmの信号の積分強度
【0022】実施例1
成分Bの製造:触媒の調製は、WO-91/04525号公報に記載された方法で実施した。メチルアルモキサンと、錯体Me2Si(C5Me4H)(NCl2H23)TiCl2をトルエンに溶解し、触媒溶液を調製し、以下の方法で重合を行った。1.51の撹拌式オートクレーブ型連続反応器に、エチレンと1-ヘキセンの組成が62%になるように供給した。反応器内の圧力を1300kg/cm2に保ち180℃で反応を行った。反応後MFRが0.7g/10分、密度が0.873g/cm2、ポリマーの中の1-ヘキセン含量33重量%の共重合体(成分B)を得た。
【0023】組成物の調製
MFR30g/10分、エチレン単位含量10重量%の結晶性プロピレン・エチレンブロック共重合体(成分A)を65重量%、上記で得られた共重合体(成分B)を15重量%、平均粒子径3.8μのタルク(成分C)20重量%を配合し、川田製作所製スーパーミキサーで5分間混合した後、神戸製鋼所製FCM2軸混練機にて210℃にて混練造粒して組成物を得た。このあと、型締圧力100トンの射出成形機にて成形温度220℃で各種試験片を作成し、前述の測定法に従って性能を評価した。結果は表1に示す通りである。
【0024】実施例2〜5
実施例1で用いたものと同じ結晶性プロピレン・エチレンブロック共重合体(成分A)を65重量%、及びタルク20重量%と、実施例1で用いたエチレン・αオレフィン共重合体の重合条件を若干変更して得られた、表1に示す各共重合体(成分B)15重量%を用い、実施例1と同様に成形し評価した。結果は表1に示す通りである。
【0025】比較例1
実施例1で用いたものと同じ結晶性プロピレン・エチレンブロック共重合体を85重量%及びおよびタルク15重量%を用い実施例1と同様に成形し評価した。結果は表2に示す通りである。
【0026】比較例2
実施例1で用いたものと同じ結晶性プロピレン・エチレンブロック共重合体を65重量%及びタルク20重量%と、実施例1で用いたエチレン・αオレフィン共重合体の重合条件を若干変更して得られたMFR1.0g/10分、密度0.910g/cm2、1-ヘキセン含量12重量%の共重合体15重量%を用い、実施例1と同様に成形し評価した。結果は表2に示す通りである。
【0027】比較例3
実施例1で用いたものと同じ結晶性プロピレン・エチレンブロック共重合体を65重量%及びタルク20重量%と、実施例1で用いたエチレン・αオレフィン共重合体の重合条件を若干変更して得られたMFR2.0g/10分、密度0.895g/cm2、1-ヘキセン含量20重量%の共重合体15重量%を用い、実施例1と同様に成形し評価した。結果は表2に示す通りである。
【0028】比較例4
実施例1で用いたものと同じ結晶性プロピレン・エチレンブロック共重合体を65重量%及びタルク20重量%と、実施例1で用いたエチレン・αオレフィン共重合体の重合条件を若干変更して得られたMFR2.5g/10分、密度0.866g/cm2、1-ブテン含量37重量%の共重合体15重量%を用い、実施例1と同様に成形し評価した。結果は表2に示す通りである。
【0029】比較例5〜7
実施例1で用いたものと同じ結晶性プロピレン・エチレンブロック共重合体を65重量%及びタルク20重量%と、バナジウム触媒を用いて製造されたエチレン・αオレフィン共重合体15重量%を用い、実施例1と同様に成形し評価した。結果は表2に示す通りである。
【0030】比較例8
MFR200g/10分、エチレン単位含量10重量%の結晶性プロピレン・エチレンブロック共重合体を65重量%、実施例1で用いたエチレン・αオレフィン共重合体15重量%、タルク20重量%を用い実施例1と同様に成形し評価した。結果は表2に示す通りである。
【0031】
【表1】

【0032】
【表2】

【0033】
【発明の効果】本発明の無機充填剤含有樹脂組成物は、耐低温衝撃性と剛性のバランスに優れ、且つ射出成形に適しているので、例えば自動車用インストルメントパネルに好適な材料として有用なものである。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-12-20 
出願番号 特願平5-293370
審決分類 P 1 651・ 534- YA (C08L)
P 1 651・ 121- YA (C08L)
P 1 651・ 113- YA (C08L)
P 1 651・ 531- YA (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 中島 庸子  
特許庁審判長 宮坂 初男
特許庁審判官 石井 あき子
平塚 政宏
登録日 2002-05-31 
登録番号 特許第3313485号(P3313485)
権利者 三菱化学株式会社
発明の名称 無機充填剤含有樹脂組成物  
代理人 柿澤 紀世雄  
代理人 柿澤 紀世雄  

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