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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C08F 審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備 C08F 審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 C08F |
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管理番号 | 1134369 |
異議申立番号 | 異議2003-73134 |
総通号数 | 77 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1994-07-12 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2003-12-17 |
確定日 | 2006-03-07 |
異議申立件数 | 2 |
事件の表示 | 特許第3457030号「射出成形による剛性および透明性の高い成形品製造用のポリオレフィン成形材料」の請求項1ないし6に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第3457030号の請求項1ないし6に係る特許を取り消す。 |
理由 |
1.手続きの経緯 本件特許第3457030号の発明は、1992年9月11日にドイツ国にした特許出願に基づく優先権を主張して、平成5年9月13日に特願平5-227220号として出願され、平成15年8月1日に特許権の設定登録がなされ、その後、日本ポリプロ株式会社(以下、「特許異議申立人A」という。)及び三井化学株式会社(以下、「特許異議申立人B」という。)より特許異議の申立てがなされ、取消理由が通知され、その指定期間内である平成17年5月26日付けで意見書が提出されたものである。 2.本件発明 本件請求項1〜6に係る発明(以下、「本件発明1」〜「本件発明6」という。)は、本件特許明細書(以下、「本件明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】少なくとも3個の炭素原子を有するオレフィンから誘導されるポリオレフィンから本質的に成るポリオレフィン射出成形用材料であって、前記オレフィンは、式、Ra -CH=CH-Rb (式中、Ra およびRb は同じでも異なっていてもよく、水素または直鎖もしくは分枝鎖C1 -C15アルキルであるか、あるいはRa およびRb はこれらに結合する原子と一緒になって環を形成する)で表され、融点が130-160℃であり;1mm厚の射出成形シートの透明度が>30%であり; 前記ポリオレフィンは、10重量%以下のエチレンまたは上で定義した通りの第2のオレフィンをコモノマーとして含有していてもよく; 分子量Mwが>80,000g/molであり; 多分散度Mw/Mnが1.8-3.5であり; 粘度指数が>70cm3 /gであり; アイソタクチックブロック長さが30-100であり; そしてエーテル抽出性物質含有率が2重量%未満である、前記射出成形用材料。 【請求項2】分子量Mwが>100,000g/molであり; 多分散度Mw/Mnが2.0-3.0であり; 粘度指数が>100cm3 /gであり;そして融点が140-160℃である、請求項1のポリオレフィン射出成形用材料。 【請求項3】10重量%以下の上で定義した通りの第2オレフィンまたは10重量%以下のエチレンを含有する、請求項1または2のポリオレフィン射出成形用材料。 【請求項4】ポリオレフィンがポリプロピレンである、請求項1ないし3のいずれかのポリオレフィン射出成形用材料。 【請求項5】さらに、成核剤、安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、金属不活性化剤、遊離基除去剤、充填材および強化材、相溶化剤、可塑剤、潤滑剤、乳化剤、顔料、蛍光増白剤、防炎加工剤、静電防止剤または発泡剤を含有する、請求項1ないし4のいずれかのポリオレフィン射出成形用材料。 【請求項6】用いる成核剤が微粉砕したタルク、安息香酸ナトリウム又はソルビトール誘導体である、請求項5の射出成形用材料。」 3.特許異議申立てについての判断 3-1.特許異議申立人の主張 (i)特許異議申立人Aは、甲第1〜5号証を提出して、以下の理由により本件請求項1〜6に係る発明についての特許は取り消されるべきである旨主張している。 (1)本件の請求項1〜6に係る発明は、本件の出願前に頒布された甲第1〜5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反し、特許を受けることができない。 (2)本件特許明細書の記載には不備があり、請求項1〜6に係る発明の特許は、特許法第36条第4項又は第5項に規定する要件を満たしていない特許出願についてされたものである。 (ii)特許異議申立人Bは、甲第1及び2号証を提出して、以下の理由により本件請求項1〜6に係る発明についての特許は取り消されるべきである旨主張している。 (1)本件の請求項1〜6に係る発明は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反し、特許を受けることができない。 (2)本件特許明細書の記載には不備があり、請求項1〜6に係る発明の特許は、特許法第36条第4項又は第5項に規定する要件を満たしていない特許出願についてされたものである。 3-2.合議体の判断 3-2-1.取消理由 当審において通知した取消理由及び引用した刊行物は以下のとおりである。 (1)本件の請求項1〜6に係る発明は、刊行物1〜4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反し、特許を受けることができない。 (2)本件特許明細書の記載には不備があり、請求項1〜6に係る発明の特許は、特許法第36条第4項、第5項第2号及び第6項に規定する要件を満たしていない特許出願についてされたものである。 <刊行物> 刊行物1:カナダ国特許出願公開第2055216号明細書(特許異議申立人Aが提出した甲第1号証、特許異議申立人Bが提出した甲第1号証) 刊行物2:欧州特許出願公開第0485820A2号明細書(特許異議申立人Aが提出した甲第2号証) 刊行物3:特開平1-275608号公報(同甲第3号証) 刊行物4:特開平1-165639号公報(同甲第5号証) <刊行物1及び4の記載事項> 刊行物1 (1-1)「式 Ra -CH=CH-Rb (式中、Ra およびRb は互いに同じでも異なっていてもよく、水素原子または炭素原子数1〜14の炭化水素基であるかまたはRa およびRb はそれらが結合する原子と一緒に環を形成し得る。)で表されるオレフィンを溶液状態で、懸濁状態でまたは気相で-60〜200℃の温度、0.5〜100barの圧力のもとで遷移金属化合物としてのメタロセンと式II-中略-で表される線状の種類および/または式III-中略-で表される環状の種類のアルミノキサンとより成る触媒の存在下に重合または共重合することによってオレフィンポリマーを製造する方法において、メタロセンが式I-中略-で表される化合物であることを特徴とする、上記方法。」(特許請求の範囲の請求項1) (1-2)「アイソタクチック-ポリプロピレンは、エチレンビス-(4,5,6,7-テトラヒドロ-1-インデニル)-ジルコニウム-ジクロライドとアルミノキサンとによって懸濁重合で製造できる(ヨーロッパ特許出願公開第185,918号明細書参照)。このポリマーは狭い分子量分布を有しており、これはある用途、例えば高性能射出成形にとって有利である。」(第1頁27〜33行) (1-3)「以下の実施例にて本発明を更に詳細に説明する。 VN=粘度数(cm3 /g) Mw =重量平均分子量〔g/mol〕;分子量はゲルパーミエーション・クロマトグラフィーを用いて測定する。 Mw /Mn =分子量分散性;分子量はゲルパーミエーション・クロマトグラフィーを用いて測定する。 m.p.=DSCで測定した融点(20℃/分の加熱-/冷却速度) II=13C-NMR-分光分析法で測定したアイソタクチック指数(II=mm +1/2mr)BD=ポリマー嵩密度(g/cm3 ) MFI(230/5)=メルトフローインデックス(DIN53,735に従って測定;g/10分)」(第14頁20〜30行) (1-4)「実施例1 乾燥した24dm3 反応器を窒素でフラッシュ洗浄し、12dm3 の液状プロピレンで満たす。 次に、35cm3 のメチルアルミノキサン-トルエン溶液(52mmolのAlに相当する、平均オリゴマー度n=17)を添加し、この混合物を30℃で15分攪拌する。 これと同時に、6.9mg(0.015mmol)のrac-エチレン(2-Me-1-インデニル)2 -ジルコニウム-ジクロライドを、13.5cm3 のメチルアルミノキサン-トルエン溶液(=20mmolのAl)に溶解しそして15分間放置することによって予備活性化する。 次いでこの溶液を反応器に導入しそして重合系を供給熱(10℃/分)によって70℃に加熱しそして重合系を冷却によって1時間、70℃に維持する。過剰のガス状モノマーを逃がすことによって重合を中止する。1.56kgのポリプロピレンが得られる。従ってメタロセンの活性は226kg(PP)/g (メタロセン)×時(h)である。 VN=67cm3 /g、Mw=58,900g/mol、Mw/Mn=2.0、II=95.9% 、BD=350g /cm3 。」(第20頁9〜29行) (1-5)「実施例6 実施例1の手順に従うが、2.4mg(0.0052mmol)のrac-ジメチルシリル(2-メチル-1-インデニル)2 -ジルコニウム-ジクロライドを使用する。重合温度は50℃でそして重合時間は3時間である。メタロセン活性は89kg(PP)/g (メタロセン)×時である。 VN=259cm3 /g、Mw=342,500g/mol、Mw/Mn=2.1、II=96.8% 、MFI(230/5)=8.1g /10分、m.p.=150℃。」(第22頁21〜29行) (1-6)「実施例22 乾燥した150dm3 反応器を窒素でフラッシュ洗浄し、そして、芳香族化合物が除かれておりそして100〜120℃の沸点範囲を有している80dm3 のガソリン留分を20℃で導入する。その後に、容器の気体空間を2barのプロピレンの圧入および放圧によって、フラッシュ洗浄で用いた窒素を除く。その際この操作を5回実施する。 50リットルの液状プロピレンの導入後に、64cm3 のメチルアルミノキサンのトルエン溶液(=100mmolのAlに相当する、凝固点降下法で測定した分子量 990g/mol)を添加しそして反応器内容物を30℃に加熱する。 水素を配量供給することによって、反応器の気体空間の水素含有量0.3%を達成し、次いで全重合の間、更に配量供給することによって維持する(ガスクロマトグラフィーを介してオンライン監視する)。 24.3mgのrac-ジメチルシリル(2-メチル-1-インデニル)2 -ジルコニウム-ジクロライド(0.05mmol)を、32mlのメチルアルミノキサンのトルエン溶液(50mmolのAlに相当する)に溶解しそして15分後にこの溶液を反応器に導入する。 反応器を冷却することによって30℃の重合温度に維持しそして、2barのCO2 の添加によって重合を中止しそして生じたポリマーを加圧フィルターによって懸濁媒体から分離する。生成物を80℃/200barで24時間乾燥する。10.5kgのポリマー粉末が得られる。これは18.0kg(PP)/g (メタロセン)×時のメタロセン活性に相当する。 VN=256cm3 /g、Mw=340,500g/mol、Mw/Mn=2.2、II=97.3% 、MFI(230/5)=5.5g /10分、m.p.=156℃。」(第29頁23行〜第30頁24行) (1-7)「実施例36 乾燥した24dm3 反応器を窒素でフラッシュ洗浄し、そして2.4dm3 (標準状態:S.T.P.)の水素および12dm3 の液状プロピレンを導入する。 次に、トルエンに溶解した35cm3 のメチルアルミノキサン溶液(52mmolのAlに相当する、平均オリゴマー度p=17)を添加する。 これと同時に、8.5mg(0.02mmol)のrac-ジメチルシリル(2-メチル-1-インデニル)2 -ジルコニウム-ジクロライドを、トルエンにメチルアルミノキサンを溶解した13.5cm3 の溶液(20mmolのAl)に溶解しそして5分間放置することによって予備活性化する。 次いでこの溶液を反応器に導入する。重合を50g のエチレンの連続的添加下に55℃で1時間実施する。 メタロセン活性は134kg(C2 /C3 -コポリマー)/g (メタロセン)×時である。 このコポリマーのエチレン含有量は4.3%である。 VN=289cm3 /g、Mw=402,000g/mol、Mw/Mn=2.0、MFI(230/5)=7.0g /10分。 エチレンは、独立した単位として実質的に組入れられている(13C-NMR、平均ブロック長さC2 <1.2)。」(第35頁1〜22行) (1-8)「実施例37 乾燥した150dm3 反応器を実施例22に記載した様に調整しそしてプロピレンおよび触媒を充填する。 重合は最初の段階では50℃で10時間実施する。 次の段階で、1kgのエチレンを最初に迅速に添加しそして更に2kgのエチレンを4時間に亘って連続的に配量供給する。 21.5kgのブロック-コポリマー粉末が得られる。 VN=326cm3 /g、Mw=407,000g/mol、Mw/Mn=3.1、MFI(230/5)=4.9g /10分。 このブロックコポリマーは12.5%のエチレンを含有している。 分別にてコポリマー中のエチレン/プロピレン-ゴムの含有量が24%であることが判った。このコポリマーの機械的性質は以下の通りである:鋼球押込硬度(DIN 53,456、プレス成形したシート、140℃で3時間熱処理、132N):60Nmm-2、切り欠き衝撃強度(akv 、DIN53,453に従って射出成形した試験体) 23℃で破壊なし、0℃で39.6mJmm-2、-40℃で20.1mJmm-2。 この生成物は異常な硬度/衝撃強度-関係が卓越しており、構造部材、例えば自動車構成部品(例えばバンパー)に使用できる。この自動車構成部品の分野では、特に低温において、高い衝撃強度と共に高い強靱性が要求されている。」(第35頁23行〜第36頁21行) 刊行物4 (4-1)「イオウ含有置換基を有するジベンジリデンソルビトールからなる、ポリオレフィン用の酸化防止・透明化添加剤」(特許請求の範囲1) (4-2)「近年、プレート、シート、フィルム等のような用途が開発されてきており、これらの用途においては透明性が極めて望ましい特性とされている。射出成形によって製造されるある種のプラスチック製品(例えば、シリンジ等)にとっても、透明性はかなり重要な特性である。 一般に、透明性はポリオレフィンプラスチック固有の性質でなく、ポリオレフィンプラスチックには非晶質の部分が存在することから、いくぶん不透明のものが多い。しかしながら、殆どのポリオレフィン類はある程度の結晶化度を有し、一般には半結晶質であるとされている。高い透明度は結晶の大きさに関係していると思われる。結晶が大きいと透明度が低下し(これは光の回折と散乱によるものと考えられている)、良好な透明度を有するポリオレフィン類の殆どは、主として微結晶質となっている。 成核剤と呼ばれている種々のポリオレフィン用添加剤(多くの部位において結晶化を促進する)が開示されている。ハマダらによる米国特許第4,016,118号明細書は、約0.1〜0.7%のジベンジリデンソルビトールを含有したポリオレフィン類における透明性の改良と耐成形収縮性の改良について説明している。」(第2頁左上欄4行〜同頁右上欄7行) 3-2-2.特許法第29条第2項違反について (1)本件発明1 刊行物1には、その特許請求の範囲に「式 Ra -CH=CH-Rb (式中、Ra およびRb は互いに同じでも異なっていてもよく、水素原子または炭素原子数1〜14の炭化水素基であるかまたはRa およびRb はそれらが結合する原子と一緒に環を形成し得る。)で表されるオレフィンを溶液状態で、懸濁状態でまたは気相で-60〜200℃の温度、0.5〜100barの圧力のもとで遷移金属化合物としてのメタロセンと式II-中略-で表される線状の種類および/または式III-中略-で表される環状の種類のアルミノキサンとより成る触媒の存在下に重合または共重合することによってオレフィンポリマーを製造する方法において、メタロセンが式I-中略-で表される化合物であることを特徴とする、上記方法」(摘示記載(1-1))が記載されており、刊行物1の実施例1及び6には、それぞれ、「乾燥した24dm3 反応器を窒素でフラッシュ洗浄し、12dm3 の液状プロピレンで満たす。次に、35cm3 のメチルアルミノキサン-トルエン溶液(52mmolのAlに相当する、平均オリゴマー度n=17)を添加し、この混合物を30℃で15分攪拌する。これと同時に、6.9mg(0.015mmol)のrac-エチレン(2-Me-1-インデニル)2 -ジルコニウム-ジクロライドを、13.5cm3 のメチルアルミノキサン-トルエン溶液(=20mmolのAl)に溶解しそして15分間放置することによって予備活性化する。次いでこの溶液を反応器に導入しそして重合系を供給熱(10℃/分)によって70℃に加熱しそして重合系を冷却によって1時間、70℃に維持する。過剰のガス状モノマーを逃がすことによって重合を中止する。 」(摘示記載(1-4))及び「実施例1の手順に従うが、2.4mg(0.0052mmol)のrac-ジメチルシリル(2-メチル-1-インデニル)2 -ジルコニウム-ジクロライドを使用する。重合温度は50℃でそして重合時間は3時間である。メタロセン活性は89kg(PP)/g (メタロセン)×時である。 VN=259cm3 /g、Mw=342,500g/mol、Mw/Mn=2.1、II=96.8% 、MFI(230/5)=8.1g /10分、m.p.=150℃」(摘示記載(1-5))と記載されている。 この実施例6の方法で得られたポリプロピレン(以下、「引用ポリプロピレン」という。)と、本件発明1から「前記ポリオレフィンは、10重量%以下のエチレンまたは上で定義した通りの第2のオレフィンをコモノマーとして含有していてもよく」という任意付加的構成を除いたものとを対比すると、本件発明1における、「少なくとも3個の炭素原子を有するオレフィンから誘導されるポリオレフィンから本質的に成るポリオレフィンであって、前記オレフィンは、式、Ra -CH=CH-Rb (式中、Ra およびRb は同じでも異なっていてもよく、水素または直鎖もしくは分枝鎖C1 -C15アルキルであるか、あるいはRa およびRb はこれらに結合する原子と一緒になって環を形成する)で表されるポリオレフィン」において、Raがメチル基でRbが水素の場合にはこのポリオレフィンはポリプロピレンとなるから、本件発明1と引用ポリプロピレンとはともにこのようなポリオレフィンである点で一致しており、本件発明1において「融点が130-160℃」、「分子量Mwが>80,000g/mol」及び「多分散度Mw/Mnが1.8-3.5」と規定された各物性値範囲について、引用ポリプロピレンはそのいずれをも満たすものである。 そして、本件発明1の以下の構成について、引用ポリプロピレンもこれらを備えていることが刊行物1には明示されていない点で、本件発明1と引用ポリプロピレンとの間には相違が認められる。 (あ)「1mm厚の射出成形シートの透明度が>30%」である点、 (い)「アイソタクチックブロック長さが30-100」である点、 (う)「粘度指数が>70cm3 /g」である点、 (え)「エーテル抽出性物質含有率が2重量%未満」である点、及び、 (お)「射出成形用材料」である点 そこで、これらの相違点について以下に検討する。 (i)(あ)、(い)、(う)及び(え)の点について 本件明細書の実施例16には次のように記載されている。 「乾燥24dm3 反応器を窒素でフラッシュし、12dm3 の液体プロピレンを装填した。 次に、メチルアルミノキサン溶液のトルエン溶液35cm3 (52mmolのAlに相当する、平均オリゴマー化度n=17)を加え、バッチを30℃で15分間撹拌した。 平行して、2.4mg(0.005mmol)のrac-ジメチルシリルビス(2-メチル-1-インデニル)ジルコニウムジクロリドをメチルアルミノキサンのトルエン溶液13.5cm3 (20mmolのAl)に溶解し、15分間放置することによって予備活性化した。 次いで、溶液を反応器に導入し、熱の供給により50℃に加熱し、そして重合装置を冷却することによって50℃に3時間保った。重合は過剰の単量体を気体として除くことによって停止した。粉末を80℃/200mbarで24時間乾燥した。メタロセン活性は89kgのPP/メタロセンのg×時間であった。 VI=259cm3 /g;Mw=342,500g/mol;Mw/Mn=2.1; II=96.8%;MFI(230/5)=8.1g/10分;融点150℃。」(段落【0045】〜【0049】) この実施例16と刊行物1の実施例6(実施例1を引用)とを対比すると、両者は共に、 (a)乾燥24dm3 反応器を窒素でフラッシュし、12dm3 の液体プロピレンを装填し、 (b)次いで、メチルアルミノキサン溶液のトルエン溶液35cm3 (52mmolのAlに相当する、平均オリゴマー化度n=17)を加え、バッチを30℃で15分間撹拌し、 (c)平行して、2.4mg(0.005mmol)のrac-ジメチルシリルビス(2-メチル-1-インデニル)ジルコニウムジクロリドをメチルアルミノキサンのトルエン溶液13.5cm3 (20mmolのAl)に溶解し、15分間放置することによって予備活性化し、 (d)次いで、溶液を反応器に導入し、重合温度50℃で3時間重合させ、過剰の単量体を気体として除くことによって重合を停止する、 という各工程によりポリプロピレンを製造するものであり、その原料及び製法は全く同一というほかはない。 そうすると、これら2つの実施例で得られるポリプロピレンもまた同一のものと解するのが相当であり、そのことは、これらのプロピレンがいずれも、メタロセン活性=89kg(PP)/g(メタロセン)×時間;Mw=342,500g/mol;Mw/Mn=2.1;II=96.8%;MFI(230/5)=8.1g/10分及び融点150℃という同一の物性値を有する点からも裏付けられている。 このように、本件明細書の実施例16で得られるポリプロピレンと引用ポリプロピレンとが同一である以上、これらのポリプロピレンは他の物性についても同じ値を示すものというべきであり、また、本件明細書の実施例16で得られるポリプロピレンは本件発明1の要件を当然に備えているべきものであるから、本件発明1における (あ)「1mm厚の射出成形シートの透明度が>30%」である点、 (い)「アイソタクチックブロック長さが30-100」である点、 (う)「粘度指数が>70cm3 /g」である点、及び、 (え)「エーテル抽出性物質含有率が2重量%未満」である点 については、本件明細書の実施例16で得られるポリプロピレン及び引用ポリプロピレンのいずれもが、これらを満たすものというべきである。 なお、(う)の点について、本件明細書には、実施例16で得られたポリプロピレンが「VI=259cm3 /g」であると記載され、この「VI」について「VI:粘度指数、毛細粘度計中でデカヒドロナフタレンの0.1%濃度溶液として135℃にて測定」(段落【0017】)と説明されており、一方、刊行物1には、引用ポリプロピレンが「VN=259cm3 /g」であることが記載され、「VN」について「VN=粘度数(cm3 /g)」(摘示記載(1-3))と定義されているが、これら「VI」及び「VN」はいずれも粘度に関する指標であり、単位が共通しており、しかも上記のように同一と判断されるポリプロピレンについて同一の数値で表されるところからみて、同じ物性値を意味するものと解されるので、刊行物1には、引用ポリプロピレンが本件発明における「粘度指数(VI)が>70cm3 /g」という要件を満たすことが直接記載されているものということもできる。 (ii)(お)の点について 刊行物1には、従来技術について、「アイソタクチック-ポリプロピレンは、エチレンビス-(4,5,6,7-テトラヒドロ-1-インデニル)-ジルコニウム-ジクロライドとアルミノキサンとによって懸濁重合で製造できる(ヨーロッパ特許出願公開第185,918号明細書参照)。このポリマーは狭い分子量分布を有しており、これはある用途、例えば高性能射出成形にとって有利である。」(摘示記載(1-2))と記載され、アイソタクチック-ポリプロピレンが射出成形に供されることが記載されている。 また、刊行物1の実施例37(実施例22を引用)には、rac-ジメチルシリル(2-メチル-1-インデニル)2 -ジルコニウム-ジクロライドをメチルアルミノキサンのトルエン溶液に溶解した溶液を反応器に導入し、プロピレンおよびエチレンを重合させて得られたブロック-コポリマーについて、鋼球押込硬度(DIN 53,456、プレス成形したシート、140℃で3時間熱処理、132N)及び切り欠き衝撃強度(akv 、DIN53,453に従って射出成形した試験体)を測定したこと(摘示記載(1-7))が記載されており、射出成形した試験体を用いることが示されている。 そして、特許異議申立人Bが甲第2号証として提出した「プラスチック事典」(1992年3月1日、朝倉書店発行)に「(2)射出成形物 PPは流動性がよく、射出成形しやすい」(第359頁)と記載されているように、PP(ポリプロピレン)が射出成形用材料になることは一般的な技術常識に属する事項にすぎない。 そうすると、メタロセン触媒を用いて製造される刊行物1に記載された引用ポリプロピレンについて、射出成形に供することは当業者が容易に想到し得たものという外はない。 そして、本件明細書の記載からみても、本件発明1が成形手段として射出成形を採用した点により、特に予測を超える作用効果を奏し得たものとも認められない。 よって、本件発明1は刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明し得たものである。 (2)本件発明2 本件発明2は本件発明1において「分子量Mwが>100,000g/molであり;多分散度Mw/Mnが2.0-3.0であり;粘度指数が>100cm3 /gであり;そして融点が140-160℃である」との限定を付したものであるが、引用ポリプロピレンはこれらのいずれの物性値をも満たすものである。 そして、上記のとおり本件発明1が刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである以上、本件発明2も本件発明1と同様の理由により、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (3)本件発明3 本件発明3は本件発明1又は2において「10重量%以下の上で定義した通りの第2オレフィンまたは10重量%以下のエチレンを含有する」との限定を付したものである。 しかしながら、刊行物1の実施例36には、 「乾燥した24dm3 反応器を窒素でフラッシュ洗浄し、そして2.4dm3 (標準状態:S.T.P.)の水素および12dm3 の液状プロピレンを導入する。次に、トルエンに溶解した35cm3 のメチルアルミノキサン溶液(52mmolのAlに相当する、平均オリゴマー度p=17)を添加する。これと同時に、8.5mg(0.02mmol)のrac-ジメチルシリル(2-メチル-1-インデニル)2 -ジルコニウム-ジクロライドを、トルエンにメチルアルミノキサンを溶解した13.5cm3 の溶液(20mmolのAl)に溶解しそして5分間放置することによって予備活性化する。次いでこの溶液を反応器に導入する。重合を50gのエチレンの連続的添加下に55℃で1時間実施する。メタロセン活性は134kg(C2 /C3 -コポリマー)/g (メタロセン)×時である。このコポリマーのエチレン含有量は4.3%である。VN=289cm3 /g、Mw=402,000g/mol、Mw/Mn=2.0、MFI(230/5)=7.0g /10分。エチレンは、独立した単位として実質的に組入れられている(13C-NMR、平均ブロック長さC2 <1.2)」(摘示記載(1-8))と記載されており、10重量%以下のエチレンを含有するコポリマーを製造すること、及び得られたコポリマーがVN(本件発明1の「粘度指数」に相当)、Mw及びMw/Mnにおいて本件発明1及び2の範囲を満たしていることが示されている。 そうすると、同じく刊行物1に係る発明の実施例から得られる引用ポリプロピレンにおいて、その重合工程中に「10重量%以下」の範囲に含まれるごく微量のエチレンを含ませる程度のことは当業者が容易に想到し得たものというべきであり、それにより、諸物性値が本件発明1で規定する範囲から逸脱するに到るものとは解されない。 そして、上記のとおり本件発明1及び2が刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである以上、本件発明3も本件発明1又は2と同様の理由により、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (4)本件発明4 本件発明4は本件発明1〜3において「ポリオレフィンがポリプロピレンである」との限定を付したものであるが、引用ポリプロピレン自体がポリプロピレンである。 そして、上記のとおり本件発明1〜3が刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである以上、本件発明4も本件発明1〜3と同様の理由により、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (5)本件発明5 本件発明5は本件発明1〜4において「さらに、成核剤、安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、金属不活性化剤、遊離基除去剤、充填材および強化材、相溶化剤、可塑剤、潤滑剤、乳化剤、顔料、蛍光増白剤、防炎加工剤、静電防止剤または発泡剤を含有する」との限定を付したものである。 しかしながら、このような安定剤等の各種添加剤をポリプロピレンに配合することは、上記「プラスチック事典」に、「(7)耐老化性 ・・・(i)熱劣化 ・・・この劣化を抑制するために、・・・すぐれた安定剤処方が開発され、実用化されている。・・・(iii) 耐候性 PPの耐候劣化は紫外線励起による酸化劣化が主である。したがって耐候性を向上するためには、紫外線吸収剤と熱劣化防止剤との併用は必須である」(第358〜359頁)と記載されているように、当技術分野において周知のことである。 よって、この限定事項の付加については当業者が周知技術に基づいて容易になし得たものであり、上記のとおり本件発明1〜4が刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである以上、本件発明5も、刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (6)本件発明6 本件発明6は本件発明5において「用いる成核剤が微粉砕したタルク、安息香酸ナトリウム又はソルビトール誘導体である」との限定を付したものである。 しかしながら、刊行物4には、「イオウ含有置換基を有するベンジリデンソルビトールからなる、ポリオレフィン用の酸化防止・透明化添加剤」(摘示記載(4-1))及び「成核剤と呼ばれている種々のポリオレフィン用添加剤(多くの部位において結晶化を促進する)が開示されている。ハマダらによる米国特許第4,16,118号明細書は、約0.1〜0.7%のジベンジリデンソルビトールを含有したポリオレフィン類における透明性の改良と耐成形収縮性の改良について説明している」(摘示記載(4-2))と記載されており、このようにジベンジリデンソルビトール(註:ソルビトールの誘導体)を成核剤としてポリオレフィンに添加する技術を引用ポリプロピレンに適用する点に、特に困難性は見出せない。 そして、上記のとおり本件発明5が刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである以上、本件発明6は、刊行物1及び4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (7)まとめ したがって、本件発明1〜6は、本件優先権主張日前に頒布された刊行物1に記載された発明又は刊行物1と4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 3-2-3.特許法第36条第4項、第5項第2号及び第6項違反について 取消理由で指摘した本件特許明細書の記載不備は、(1)特許異議申立人Aが提出した特許異議申立書の「D.本件特許明細書が特許法第36条第4項又は第5項に規定する要件を満たしていないとの理由について」の項、及び、(2)特許異議申立人Bが提出した特許異議申立書の「(4-3-2)特許法第36条第4項および同条第5項第2号」の項にそれぞれ記載された以下の点である。 (1)特許請求の範囲には、シートの透明度、ポリオレフィン中のエチレン重量%、ポリオレフィン中の第2のオレフィン重量%、分子量、粘度指数、エーテル抽出性物質含有率について単に上限あるいは下限が示されているのみであり、それぞれの数値を限定する範囲が不明確である。またその他のパラメータについても、明細書中に下限値あるいは上限値の限定理由についての説明がなく、数値限定範囲の内と外で効果上の差があることが示されていない。 (2)特許請求の範囲に記載された、「1mm厚の射出成形シートの透明度が>30%」、「アイソタクチックブロック長さが30-100」及び「エーテル抽出性物質含有率が2重量%未満」という点について、明細書中にはその定義や測定方法、測定条件が記載されておらず、また、これらの物性値を満たすポリオレフィンを得るにはどうすればよいのか不明であり、更には、ポリプロピレン以外にどのようなポリオレフィンが実施可能であるのか不明である。 これに対して、特許権者は意見書中で、「本件特許の請求項に規定する範囲に入るすべての物理的パラメータを有するポリオレフィンは、射出成形のために用いるのに適切である。上述の物理的パラメータ、そのパラメータを決定する方法の規定、ならびに先行技術の組成物に関してポリオレフィン組成物のさらなる有利な特性、特に臭いがなく黄色に着色することがないという特性を示すために実施例中で言及されている更なるパラメータの規定も、本件明細書の【0016】から【0018】に明確に記載されている。特に整列透明度(透明度)は、80mm×80mm×1mm射出成形シートを通過した可視領域の光の量として規定される。」(第3頁第27行〜第9頁第2行)と述べているが、本件明細書の記載からは、すべてのパラメータの限定範囲にわたって発明の効果が生ずるものと認めることができず、また、特許権者が指摘する明細書の記載箇所をみても、上記(2)に挙げた各物性を測定する手段、測定条件等については依然として不明であるといわざるを得ない。 そして、本件明細書は訂正されておらず、上記の記載不備についての取消理由は妥当なものであって、撤回すべき理由を発見しない。 したがって、本件明細書の特許請求の範囲には特許を受けようとする発明の構成に欠くことのできない事項が記載されておらず、また、発明の詳細な説明には、当業者が容易に実施できる程度に発明の構成が記載されていないものというほかはない。 4.むすび 以上のとおりであるから、本件発明1〜6は、特許法第29条第2項の規定に違反し、特許を受けることができない。又、本件特許出願は、特許法第36条第4項、第5項第2項及び第6項に規定する要件を満たしていない。 したがって、本件発明1〜6についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認める。 よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2005-10-19 |
出願番号 | 特願平5-227220 |
審決分類 |
P
1
651・
534-
Z
(C08F)
P 1 651・ 531- Z (C08F) P 1 651・ 121- Z (C08F) |
最終処分 | 取消 |
前審関与審査官 | 吉宗 亜弓、宮坂 初男 |
特許庁審判長 |
井出 隆一 |
特許庁審判官 |
船岡 嘉彦 佐野 整博 |
登録日 | 2003-08-01 |
登録番号 | 特許第3457030号(P3457030) |
権利者 | バーゼル・ポリオレフィン・ゲーエムベーハー |
発明の名称 | 射出成形による剛性および透明性の高い成形品製造用のポリオレフィン成形材料 |
代理人 | 千葉 昭男 |
代理人 | 三輪 昭次 |
代理人 | 結田 純次 |
代理人 | 高木 千嘉 |
代理人 | 富田 博行 |
代理人 | 牧村 浩次 |
代理人 | 社本 一夫 |
代理人 | 沖本 一暁 |
代理人 | 小林 泰 |
代理人 | 増井 忠弐 |
代理人 | 鈴木 俊一郎 |