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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41M
管理番号 1135637
審判番号 不服2003-5199  
総通号数 78 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1995-11-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-03-28 
確定日 2006-04-24 
事件の表示 平成 6年特許願第129724号「多数枚複写感熱記録材料及びそれを用いた多数枚複写感熱記録材料」拒絶査定不服審判事件〔平成 7年11月28日出願公開、特開平 7-309068〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成6年5月19日の出願であって、その請求項1ないし4に係る発明は、平成14年7月16日受付の手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲に記載されたとおりのものであり、そのうち請求項3に係る発明は次のとおりのものと認める。
「【請求項3】 密度が1.0g/cm3以上、王研式透気度が5,000秒以上、厚さが37μm以下であると共に、JIS-P8138に基づく不透明度が70%以上の紙支持体表面上に電子供与性染料前駆体と電子受容性化合物を含有する感熱発色層を1.5〜6g/m2設けると共に、裏面に、転写層として、色材を含有するワックス層を設けてなる感熱記録材料の上葉紙と、前記色材を受容し得る支持体を下葉紙として組み合わせてなる多数枚複写感熱記録材料。」(以下、「本件発明」という。)

2.刊行物の記載事項
(1)原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された特開昭58-45091号公報(以下、「刊行物1」という。)には、次の事項が記載されている。
(1a)「1.水分によりしわの発生の多い薄紙の片面に、耐水性塗膜が下びきされた感熱発色層を有し、その反対面に針入度9以下(25℃)の熱溶融性インキ層を有することを特徴とする熱記録用複写紙。
2. 水分によりしわの発生の多い薄紙の厚さが8〜19μで密度が0.7〜1.3g/cm3である特許請求の範囲第1項記載の熱記録用複写紙。」(特許請求の範囲第1項、第2項)、
(1b)「本発明はサーマルフアクシミリなどの熱記録装置で高感度な同時複写の得られる熱記録用複写紙に関する。従来、この種の複写紙として裏面に熱溶融性インキを塗布した感熱紙と普通紙を重ね合わせたものが提案されている。感熱紙上は発色記録普通紙上は熱転写記録となる。」(1頁左下欄18行〜右下欄4行)、
(1c)「本発明において用いられる基材紙(1)は厚さが8〜19μ、なかんずく12〜15μで密度が0.7〜1.3g/cm3、なかんずく1.0〜1.3g/cm3であるのが熱溶融性インキの転写感度や機械的強度からみて好ましい。かかる薄紙は繊維が通常の紙の繊維に比べ著しく短小化されていて、吸湿性が強い。そこで水性塗工で感熱発色層3を塗布するためには耐水性塗膜(2)が必要となる。」(2頁左上欄3行〜7行)、
(1d)「耐水性塗膜(2)は基材紙(1)と感熱層(3)の両方に接着性の良いものが好ましい。かかる性質を具備したものとして、ニトロセルロースアセチルセルロース、エチルセルロース、アセチルブチルセルロース等のセルロース系高分子やロジンエステル等の天然樹脂類は水性の感熱塗液でも濡れ性に支障なく好適に用いられる。」(2頁左上欄13行〜18行)、
(1e)「感熱発色層(3)側から見た熱記録用複写紙の白色度を向上させるためには耐水性塗膜(2)の中にTiO2のような白色顔料を含有させればよい。」(2頁左上欄19行〜右上欄1行)、
(1f)「感熱発色層(3)は一般の感熱紙に使用されるものが使用できるが、更に詳細に説明すると次の様になる。
(A)染色前駆体 クリスタルバイオレツトラクトン、マラカイトグリーンラクトン、3-ジエチルアミノ-7-メチルフルオラン、・・・ベンゾ-β-ナフトスピロピラン、など。
(B)顕色剤 フエノール、パラーtert-ブチルフエノール、・・・3,5-ジ-tert-ブチルサリチル酸など。
(C)増感剤 ステアリン酸アマイド、・・・など。
(D)その他 ポリビニルアルコール、・・・などの接着剤。必要によつては、二酸化チタン、炭酸カルシユーム、カオリン、焼成カオリン、水酸化アルミなどの顔料を加えても良い。
(A)、(B)、(C)、(D)の各群から適当なものを選択して水分散液とし、コーターで塗工し、スーパーカレンダーで塗布面を平滑にすると感熱発色層(3)が得られる。
感熱発色層は染料濃度によつて異なるが通常は5〜10μ位で鮮明な記録が得られる。」(2頁右上欄4行〜右下欄17行)、
(1g)「熱溶融性インキ層(4)としては、融点50〜70℃のワックス型カーボンインキが使われる。」(2頁右下欄18行〜19行)、
(1h)「実施例1 厚さ13μ、密度1.2g/cm2の基材紙に耐水性塗膜としてアセチルブチルセルロースを1μグラビアコーターで塗布した。その上に感熱塗液をエアーナイフコーターで塗布して6μの黒色の感熱発色層を得た。それをスーパーカレンダーにて10kg/cm2の圧力で平滑にし、次に感熱発色層と反対面に黒色の熱溶融性インキを5μホツトメルトコーターで塗布して、熱記録用複写紙を得た。」(3頁右上欄5行〜14行)、
(1i)「上記の実施例及び対照例で得た熱記録用複写紙の特性を確認するために感熱フアクシミリ(松下電子部品(株)製)を使用して、感熱発色面と熱転写面の記録濃度を測定した。・・・なお転写受用紙としてベツク平滑度約600秒の紙を用いた。」(3頁左下欄4行〜13行)。
これらの記載によれば、刊行物1には、次の発明が記載されていると認める。
「密度が0.7〜1.3g/cm3、厚さが8〜19μである紙に耐水性塗層下びきし、その上に染料前駆体と顕色剤を含有する感熱発色層を5〜10μ設けると共に、裏面に、熱溶融性インキ層として、ワックス型カーボンインキ層を設けてなる熱記録複写用紙と、転写受容紙を組み合わせてなる感熱記録材料。」

(2)拒絶理由通知で引用された、本件出願前の刊行物である特開昭58-197085号公報(以下、「刊行物2」という。)には、次の事項が記載されている。
(2a)「一般に坪量の小さい紙は透明性が高く、印刷・コピーなどで画像の裏うつりが実用上問題となる。このため薄葉紙では炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム・・・あるいはポリスチレンを主成分とした有機填料などをパルプスラリーに添加(内添)して抄造したり、サイズプレスやオフマシンコーターで表面塗工して不透明化を行なっていた。感熱用記録紙においても原紙を得る場合上記の様な方法にて行い、感熱層を塗工し製品化するのが一般的である。」(1頁左下欄10行〜20行)、
(2b)実施例、比較例2では、製紙原料に各種填料を添加して原紙を抄造し、これに感熱層形成液を塗工乾燥後、スーパーカレンダーにて20kg/m2処理し感熱記録紙を得たこと、比較例2では、製紙原料に酸化チタンを添加した、JIS P8118により測定される厚味が35.1、ハンター反射率計に寄り測定した不透明度が71.2の原紙を抄造したこと。

3.対比、判断
本件発明と刊行物1記載の発明を対比する。
ア.刊行物1記載の発明における「染料前駆体」、「顕色剤」、「熱溶融性インキ層」、「熱記録複写用紙」、「転写受容紙」は、それぞれ本件発明の「電子供与性染料前駆体」、「電子受容性化合物」、「転写層」、「感熱記録材料の上葉紙」、「下葉紙」に相当する。
イ.刊行物1記載の発明の「ワックス型カーボンインキ層」が、色材を含有するワックス層であり、「転写受容紙」が色材を受容しうる支持体であり、「熱記録複写用紙と、転写受容紙を組み合わせてなる感熱記録材料」が、2枚複写できるものであることは明らかである。
ウ.本件発明の「紙支持体」について、本件明細書の段落【0007】には、「感熱発色層を水系で塗布することが特に作業上及び環境上好ましいので、そのために、ロジン、アルキルケテンダイマー・・・等の内添サイズ剤を用いることが好ましい。・・・また、PVA、デンプン、SBR、スチレン-マレイン酸共重合体等を表面サイズとして使用して塗工しても良い。」と記載され、「紙支持体」には耐水性塗工層を有するものも含まれるから、刊行物1記載の発明における「薄紙に耐水性塗膜が下びきした」ものは、本件発明の「紙支持体」に相当する。そして、密度が1.0〜1.3g/cm3、厚さが8〜19μである薄紙に耐水性塗層下引きした紙支持体は、耐水性塗層が実施例に記載の1μ程度であれば、密度が1.0g/cm3以上、厚さが37μm以下であることは明らかである。
したがって、両者は、
「密度が1.0g/cm3以上、厚さが37μm以下である紙支持体表面上に電子供与性染料前駆体と電子受容性化合物を含有する感熱発色層を設けると共に、裏面に、転写層として、色材を含有するワックス層を設けてなる感熱記録材料の上葉紙と、前記色材を受容し得る支持体を下葉紙として組み合わせてなる多数枚複写感熱記録材料。」である点で一致し、次の点で相違する。
相違点1:本件発明は、紙支持体が、王研式透気度が5,000秒以上、JIS-P8138に基づく不透明度が70%以上のものであるのに対し、刊行物1記載の発明では、王研式透気度、JIS-P8138に基づく不透明度が不明な点。
相違点2:感熱発色層が、本件発明は1.5〜6g/m2設けられているのに対し、刊行物1記載の発明では5〜10μの厚さで設けることが記載されているだけであって、単位面積あたりの塗布量は不明な点。

相違点1について検討する。
まず、王研式透気度についてみると、一般に、樹脂コート層を有する紙は透気度が低くなることが知られており(王研式透気度の数値が大きくなる)、刊行物1記載の発明は紙に耐水性塗膜を下引きしていることから、透気性が低いものとなっていると認められる。
ところで、本件発明において王研式透気度を5,000秒以上とすることについて、本件明細書の段落【0010】には、「透気度が5,000秒より低いと転写層中の色材等が表面に抜け出て、表面の発色層を発色させる。」と記載されているが、実施例、比較例に使用されている支持体はいずれも透気度5,000秒であり、透気度を5,000秒とすることに臨界的意義があることは示されていない。そして、多数枚複写感熱記録材料において、裏面の色材が表面に浸透するのを防ぐことは当然のことであるから、透気度を転写層中の色材等が表面に抜け出ない程度とすることは支持体の設計にあたって考慮すべきことであり、刊行物1記載の発明において、耐水性塗膜を下引きした紙支持体の透気度を王研式透気度で5,000秒以上とすることは実験に基づいて適宜決めうる程度のことである。
次に、不透明度についてみると、刊行物1には感熱記録紙の白色度を向上させるために耐水性塗膜の中にTiO2のような白色顔料を含有させることが記載されている。そして、感熱発色面の白色度低下の問題を解消するために、紙に無機や有機の填料を内添して抄造し、JIS-P8138に基づく不透明度が70%以上のものを得ることは、刊行物2に記載されているように本件出願前周知であり、刊行物1記載の発明において、紙支持体をJIS-P8138に基づく不透明度が70%以上のものとすることは、上記周知技術に基づいて当業者が容易になしうることである。
相違点2についてみると、刊行物1記載の発明における、厚さ5〜10μの感熱発色層は、感熱材料の比重からみて約5〜10g/cm2であり、実施例に記載の感熱層は厚さ5μであるから約5g/cm2と認められ、本件発明の1.5〜6g/m2と重複しており、相違点2は実質的な相違ではない。さらに、本件発明において感熱発色層を1.5〜6g/m2としたのは、感熱発色層の塗設量を少なめにすることによって、上葉紙の熱容量を下げ、下葉紙への転写効率を高めるためと認められるが、上葉紙の熱容量は、紙支持体の厚さによって異なることは明らかであり、1.5〜6g/m2に限定したことに臨界的意義があるということもできない。
そして、本件発明の効果は、全体として、刊行物1に記載された発明及び上記周知技術から予測できる程度のことであって格別のものとは認められない。

4.むすび
以上のとおり、本願の請求項3に係る発明は、刊行物1に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-02-22 
結審通知日 2006-02-24 
審決日 2006-03-07 
出願番号 特願平6-129724
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B41M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 伊藤 裕美  
特許庁審判長 山口 由木
特許庁審判官 岡田 和加子
前田 佳与子
発明の名称 多数枚複写感熱記録材料及びそれを用いた多数枚複写感熱記録材料  
代理人 滝田 清暉  
代理人 下田 昭  

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