• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61M
管理番号 1135806
審判番号 不服2003-4483  
総通号数 78 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1995-08-01 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-03-19 
確定日 2006-05-12 
事件の表示 平成5年特許願第350514号「流体移送装置」拒絶査定不服審判事件〔平成7年8月1日出願公開、特開平7-194695号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成5年12月28日に特許出願されたものであって、その請求項1ないし4に係る発明は、平成14年8月29日付け及び平成15年3月19日受付けの手続補正書により補正された明細書の記載、並びに出願当初の図面(以下「本願明細書等」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載されたとおりのものと認められるところ、請求項1に記載された発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。
「先端にロ-ラを持つ回転子、該回転子の収納容器および該収納容器の内壁と回転子の間に該回転子と接触して配置された流体移送用の弾性チュ-ブを有して構成される腹膜透析用流体移送装置において、前記ロ-ラにより前記チューブを該チューブ内の隙間を全開時の5〜30%に押圧した状態で前記回転子の回転数が30〜70rpmでしごき押圧して前記チュ-ブ内の流体を移送し、かつ、前記ロ-ラを持つ回転子が1個で流体移送中に流体移送を瞬間的に中断することのできるものであることを特徴とする腹膜透析用流体移送装置。」

2.引用文献に記載された発明
(1)引用発明1
これに対して、原審における平成14年6月5日付けの拒絶理由通知において引用文献3として示された実願昭58-139095号(実開昭60-47889号)のマイクロフィルム(以下、「引用例1」という。)には、血液透析等に用いられるローラポンプに関して、次のように記載されている。
(a)「この種のローラポンプは、例えば血液透析用のポンプとして血液を循還給送したり、人体に薬液を連続的に注入したり、あるいは人工心肺装置用のポンプとして用いるなど、特に医療関係の分野に提供されている。」(明細書第2頁第7〜11行参照)
(b)「しかしローラの押圧力、すなわちチューブに対する圧迫量が多すぎると、ポンプの負荷がかかりすぎの状態となり、・・・(中略)・・・また逆に圧迫量が少なすぎると輸送流体の逆流がおこり、ポンプ吐出量は極めて不正確になるという問題が生じる。」(同第2頁第18行〜第3頁第5行参照)
(c)「すなわち第1図、第2図に示されるようにポンプケース10内に半円形状ないしC字形に形成された案内路11を有し、この案内路に沿って可撓性のチューブ12が装着されている。またポンプケースの中心位置を貫通し、軸受14を介してケース10に支持されている回転駆動軸13にはローラホルダ15が固着され、ホルダ上互いに離間する両端部に偏心軸16を介してローラ17が回転自在に支持されている。」(同第3頁第12行〜第4頁第1行参照)
(d)「このような構成において、回転駆動軸13が駆動されると、軸13とともにローラホルダ15が第1図に矢印で示す反時計方向に連続的に回転し、上記ホルダ上に支持された一対のローラ17がチューブ12に係合してチューブを押しつぶすように圧迫し、矢印で示すようにチューブの一端から流入した流体を他端へと吐出するようになっている。そしてこのポンプの吐出量は各ローラ17がチューブ12を押圧する度合に応じて変わるので前記各調整つまみ21を操作し、対応するローラ17を移動させることによって適切な値に調整できるように構成されている。」(同第4頁第13行〜第5頁第5行参照)
(e)第1図、第2図には、「ローラ17を持つローラホルダ15が1個である」ことが明示されている。

上記記載及び図面を総合すると、引用例1には、次のような発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。
「先端に一対のローラ17を持つローラホルダ15、該ローラホルダ15を収納するポンプケース10及び該ポンプケース10の案内路11とローラホルダ15の間に装着された流体搬送用の可撓性チューブ12を有して構成される血液透析等に用いられるローラポンプにおいて、前記ローラ17により前記チューブ12を押しつぶすように圧迫した状態で前記ローラホルダ15の連続的な回転により前記チューブ12の一端から流入した流体を他端へと吐出させ、かつ、前記ローラ17を持つローラホルダ15が1個である、血液透析等に用いられるローラポンプ。」

(2)引用発明2
同じく、引用文献2として示された実願昭61-185896号(実開昭63-174587号)のマイクロフィルム(以下、「引用例2」という。)には、透析液の循環などの液体移送に用いるローラポンプに関して、次のように記載されている。
(a)「ローター40は、ステーター30のチューブ押圧部材34の円筒面33に対向する側に少なくとも1個のローラ41を有し、」(明細書第6頁第8〜10行参照)
(b)「ローラ41やガイド43のローター40への設置数および配置はいかなるものでもよい」(同第6頁第16〜17行参照)
(c)FIG.1、FIG.2には、「ローター40が1個である」ことが明示されている。

上記記載(a)ないし(c)により、ローター40に設置するローラ41の個数が1個でもよいことは明白であるから、引用例2には、次のような発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。
「透析液の循環などの液体移送に用いるローラポンプにおいて、1個のロ-ラ41を持つローター40が1個であるローラポンプ。」

3.対比
そこで、本願発明と引用発明1とを対比すると、その形状や機能等からみて、上記引用発明1における「一対のローラ17」は、本願発明の「ローラ」に、以下同様に、「ローラホルダ15」は「回転子」に、「該ローラホルダ15を収納するポンプケース10」は「該回転子の収納容器」に、「案内路11」は「内壁」に、「流体搬送用」は「流体移送用」に、「可撓性チューブ12」は「弾性チュ-ブ」に、そして、「血液透析等に用いられるローラポンプ」は「透析用流体移送装置」に、それぞれ相当する。
そして、引用発明1における「前記ローラ17により前記チューブ12を押しつぶすように圧迫した状態」と、本願発明における「前記ロ-ラにより前記チューブを該チューブ内の隙間を全開時の5〜30%に押圧した状態」とは、「前記ロ-ラにより前記チューブを押圧した状態」の限りで一致し、また、引用発明1において「前記ローラホルダ15の連続的な回転により前記チューブ12の一端から流入した流体を他端へと吐出」させることと、本願発明において「前記回転子の回転数が30〜70rpmでしごき押圧して前記チュ-ブ内の流体を移送」することとは、「前記回転子の回転でしごき押圧して前記チュ-ブ内の流体を移送」する限りで一致する。

したがって、本願発明と引用発明1との一致点、相違点は次のとおりである。
〈一致点〉
「先端にロ-ラを持つ回転子、該回転子の収納容器及び該収納容器の内壁と回転子の間に配置された流体移送用の弾性チュ-ブを有して構成される透析用流体移送装置において、前記ロ-ラにより前記チューブを押圧した状態で前記回転子の回転でしごき押圧して前記チュ-ブ内の流体を移送し、かつ、前記ロ-ラを持つ回転子が1個である透析用流体移送装置。」
〈相違点1〉
弾性チュ-ブに関して、本願発明においては、回転子と接触して配置されているのに対して、引用発明1においては、可撓性チューブ12がローラホルダ15と接触して配置されているのか否か明確ではない点。
〈相違点2〉
ロ-ラによりチューブを押圧した状態が、本願発明においては、「チューブ内の隙間を全開時の5〜30%」にするものであるのに対して、引用発明1においては、その度合いをどのような範囲とするか特定されていない点。
〈相違点3〉
回転子の回転でしごき押圧してチュ-ブ内の流体を移送するにあたって、本願発明においては、回転子の回転数を30〜70rpmとしているのに対して、引用発明1においては、回転子の回転数が特定されていない点。
〈相違点4〉
本願発明は、「前記ロ-ラを持つ回転子が1個で流体移送中に流体移送を瞬間的に中断することのできるもの」であるのに対して、引用発明1は、そのような構成を備えていない点。
〈相違点5〉
本願発明は腹膜透析用流体移送装置であるのに対して、引用発明1は、血液透析等に用いるものである点。

4.相違点についての検討及び判断
そこで、上記の各相違点について検討する。
(1)相違点1について
回転子にガイドなどを設けて、弾性チューブを回転子と接触して配置することは周知の技術であり、引用発明1において、可撓性チューブ12をローラホルダ15と接触して配置することは、当業者が適宜採用し得る程度の設計的事項というべきである。
したがって、本願発明の相違点1に係る構成は当業者が容易に想到し得ることである。

(2)相違点2及び相違点3について
腹膜透析を行う場合、腹腔内に注入され、排出される透析液の一回量は、一般的に1500〜2000mlといったものであって、注入、排出に際して患者に苦痛等を与えず、しかも、注入、排出に要する時間を可能な限り短縮することは、当業者にとって自明の技術的課題といえる。
そして、引用例1には、ポンプの吐出量、すなわち移送する流量を、チューブ12を押圧する度合を調整することにより適切な値に調整するという課題が示されているのであるから(上記2.(1)、(d)参照)、引用発明1において、チューブの押圧度合に応じた送液効率や、回転子によって押圧されるチューブの内径及び回転子によって押圧されるチューブの長さ等で決まる回転子一回転あたりの移送流量等を総合的に勘案して、チューブの押圧量を全開時の5〜30%に設定すること、また、回転子の回転数を30〜70rpmに設定することは、これらの数値範囲が格別特異なものと解すべき技術的根拠を見いだすこともできず、当業者が設計上適宜選択し得る程度のものというべきである。
したがって、引用発明1において、チューブの押圧量を全開時の5〜30%に設定し、また、回転子の回転数を30〜70rpmに設定し、移送する流量を適切な値に調整するようにして、本願発明の相違点2及び相違点3に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものというべきである。

(3)相違点4について
本願明細書等には、本願の相違点4に係る構成に関連して、次のように記載されている。
(a)「前記のような流体移送動作中に該流体移送を瞬間的に中断することのできる構造のロ-ラを持つ回転子としては、たとえば一個のロ-ラを周縁に持つ円盤状のもの、あるいは端部にロ-ラを持つ1個のロッドを有する回転子が挙げられる。」(段落【0004】)
(b)「ロ-ラ-5がポンプセグメントチュ-ブ3と接触しているとき、即ち図1において線A-A’より右側にロ-ラ-が位置しているときには、ロ-ラ-5はポンプセグメントチュ-ブ3を押圧し、しごいて該チュ-ブ内の液体を送液する。
またロ-ラ-5がポンプセグメントチュ-ブ3と接触していないとき、即ち図1において線A-A’より左側にロ-ラ-が位置しているときには、ロ-ラ-5によるポンプセグメントチュ-ブ3の押圧およびしごきは解除され、ポンプセグメントチュ-ブ3内の送液は瞬間的に停止される。」(段落【0005】)
(c)図1、3に、上記(a)及び(b)の記載に関連して、「1個のロ-ラ-5を持つ回転子4が1個の送液装置6」が示されている。

ところで、引用発明2のローラポンプも、1個のロ-ラ41を持つローター40(本願発明の「回転子」に相当する。)が1個であるから、本願明細書の上記記載(b)にあるように、流体移送中に流体移送を瞬間的に中断できることは明白である。
そして、引用発明1においても、上記4.(1)で述べたように、注入、排出に際して患者に苦痛等を与えず、しかも、注入、排出に要する時間を可能な限り短縮することは当業者にとって自明の技術的課題であり、さらには、ローラーポンプにより生理的に好ましくない過度の圧力がかかるのを防止することは、当業者が考慮すべき当然の課題というべきである。
したがって、引用発明1における回転子の構成に代えて、引用発明2を適用することにより、本願発明の相違点4に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

(4)相違点(5)について
血液透析等など医療関係の分野で用いられるローラポンプは、種々の用途に用いられるものであり、そのようなローラポンプを、専ら腹膜透析に適用する程度のことは、当業者が適宜になし得る得ることである。

(5)相違点についての検討及び判断のむすび
そして、本願発明の構成によってもたらされる明細書に記載の効果も、引用発明1、引用発明2及び前述した周知の技術から当業者であれば予測できる範囲のものであって、格別なものとはいえない。

5.むすび
したがって、本願発明は、その出願前に頒布された刊行物に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-02-27 
結審通知日 2006-03-07 
審決日 2006-03-22 
出願番号 特願平5-350514
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 稲村 正義  
特許庁審判長 石原 正博
特許庁審判官 和泉 等
芦原 康裕
発明の名称 流体移送装置  
代理人 川島 利和  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ