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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A01G
管理番号 1136004
審判番号 不服2002-17849  
総通号数 78 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2001-07-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-09-17 
確定日 2006-05-31 
事件の表示 特願2000- 17976「エリンギ栽培用人工培地及びその人工培地を使用したエリンギ栽培方法」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 7月31日出願公開、特開2001-204248、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成12年1月25日の出願であって、平成14年8月9日付で拒絶査定がされ、これに対し、平成14年9月17日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、当審において平成18年3月13日付で拒絶理由を通知したところ、平成18年4月20日付の意見書と共に明細書を補正する同日付の手続補正書が提出されたものである。

2.本願発明について
本願の請求項1ないし4に係る発明(以下、「本願発明1」ないし「本願発明4」等という。)は、平成18年4月20日付の手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
有機質の培養基に対しビートパルプを8:1〜2:3(重量比)の割合で混合するとともに、前記ビートパルプに対し、大豆粕、大豆粉、コーングルテンフィード、ポテトプロテイン、綿実粕、ナタネ粕、ラッカセイ粕、酒粕、乾燥ビール酵母の何れか1又は複数の一般成分組成中の粗タンパク含有量が30%以上を占めるタンパク質素材を略3:1(重量比)の割合で添加し、且つ米ぬか、フスマ、グレインソルガム若しくはマイロの何れか1又は複数のその他のエリンギ栽培に必要な素材を適量添加し、全体の水分量を67%以上としてなるエリンギ栽培用人工培地。
【請求項2】
培養基がコーンコブである請求項1に記載のエリンギ栽培用人工培地。
【請求項3】
前記ビートパルプに対し、大豆粕、大豆粉、コーングルテンフィード、ポテトプロテイン、綿実粕、ナタネ粕、ラッカセイ粕、酒粕、乾燥ビール酵母の何れか1又は複数の一般成分組成中の粗タンパク含有量が30%以上を占めるタンパク質素材を略3:1(重量比)の割合で添加し、且つ米ぬか、フスマ、グレインソルガム若しくはマイロの何れか1又は複数のその他のエリンギ栽培に必要な素材を適量添加し、全体の水分量を67%以上としてなるエリンギ栽培用人工培地を、瓶若しくは袋等の栽培容器に充填後、殺菌し、種菌を接種し、培養工程、発生工程及び生育工程を経て収穫することを特徴としてなるエリンギ栽培方法。
【請求項4】
培養基がコーンコブである請求項3に記載のエリンギ栽培方法。」

3.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された特開平5-23049号公報(以下、「引用例」という。)には、「きのこの人工栽培方法」に関して、以下の記載がある。
(イ)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 コーンコブ粉砕物に吸水性膨潤物質と栄養剤を加えて粒状物にしたことを特徴とするきのこ人工栽培用培養基材。
【請求項2】 コーンコブ粉砕物に吸水性膨潤物質と栄養剤を加えて粒状物にし、この粒状物を用いて培養基を作り、きのこを培養することを特徴とするきのこの人工栽培方法。
【請求項3】 培養基が、粒状培養基材に水を60〜65重量%含浸させ、容器内で圧縮して作った培養基である請求項2に記載のきのこの人工栽培方法。」
(ロ)「【0003】【発明が解決しようとする課題】 … しかしながら、工場生産規模の大型造粒機により造粒を行う場合は、コーンコブと栄養剤の配合のみでは粒状が大変に硬くなるために吸水した際の膨潤性が悪くなる結果、培養容器当りの培地使用量が多くなりコスト高になる。更にまた、通気等の培地性状が必ずしも良いとはいえず、培養容器への培地詰込み重量が増加するため、作業時の労力も増加するといった問題点を有している。したがって本発明の目的は、上記現状にかんがみ、きのこの増収効果を有するコーンコブを培養基として用いるために大型の造粒機を使用して粒状化する際の問題点を解決し、汎用性のある大量生産可能な、きのこ人工栽培用培養基材及びこれを用いることによるきのこの人工栽培方法を提供することにある。」
(ハ)「【0004】【課題を解決するための手段】本発明を概説すれば、本発明の第1の発明はきのこ人工栽培用培養基材に関する発明であって、コーンコブ粉砕物に吸水性膨潤物質と栄養剤を加えて粒状物にしたことを特徴とする。また、本発明の第2の発明はきのこの人工栽培方法に関する発明であって、コーンコブ粉砕物に吸水性膨潤物質と栄養剤を加えて粒状物にし、この粒状物を用いて培養基を作り、きのこを培養することを特徴とする。」
(ニ)「【0007】本発明で前記コーンコブ粉砕物に加える吸水性膨潤物質としては … ビートパルプ … 等従来より吸水性膨潤物質として使用されているものを使用できる。これらは、それぞれ単独で用いてもよく、あるいは2種以上を混合して用いてもよい。前記コーンコブ粉砕物と吸水性膨潤物質の混合割合は、コーンコブ粉砕物の重量に対して1:0.01〜10で好ましくは1:0.08〜1である。しかし、この混合割合は任意に選択でき、これに限定されるものではない。」
(ホ)「【0008】本発明で前記コーンコブ粉砕物に加える栄養剤としては、米糠、ふすま、大麦粉砕物、大豆皮、とうもろこし糠、麦糠、おから等従来よりきのこ栽培に使用されているものを使用できる。これらは、それぞれ単独で用いてもよく、あるいは2種以上を混合して用いてもよい。前記コーンコブ粉砕物と栄養剤の混合割合は、コーンコブ粉砕物の重量に対して1:0.1〜10で好ましくは1:0.4〜4である。しかし、この混合割合は任意に選択でき、これに限定されるものではない。」
(ヘ)「【0011】上述した本発明によるきのこ人工栽培用培養基材を用いてきのこ人工栽培用培養基を造るに当っては、これに水を水分含有率60〜65重量%になるように加えてかくはんし、これを例えば広口ポリプロピレン製ビンや箱等の栽培容器に入れて圧力を加えて圧縮する。 … 」
(ト)「【0016】実施例3 コーンコブ粉砕物〔金商又一株式会社販売〕とビートパルプを乾物重量比で10:1になるように混合し、更にフスマと麦糠を前記混合物乾重に対して8:5:1となるように混合して粉砕機にかけ、この粉砕物を6メッシュでふるい分けして、6メッシュ以下のものを回収した。これに蒸気を15重量%になるように吹込み、造粒機(CPM社製150馬力JPMフローティングダイ型)を用いて直径6mmで長さ20〜30mmの粒状物を作り、造粒時の余熱で自然乾燥し、水分含量8%とした。形成された培養基材は粉塵を発生することはなかった。次に上述した培養基材をシロタモギタケの栽培に使用した。培養基材1000gに、水道水を水分含量が63重量%になるように加えて十分にかくはんした。このとき培養基材は破壊されて均質な混合物となった。粉塵の発生はなかった。前記の混合物の適量を、ポリプロピレン製850ml広口ビン(65g)に、全自動詰込機(協栄鉄工株式会社製EI8516D型)にて圧詰めして培養基を形成した。この時のビンを含めた重量は600gで、きのこの生育に最適な密度の培地が得られた。更に、ビン口中央部より下方に向いて直径1cmの穴を底まであけ、キャップで打栓したものを120℃、90分間高圧蒸気滅菌した。この培養基を冷却した後、シロタモギタケの固体種菌10gを接種し、暗所にて温度25℃、湿度50〜60%の条件下で32日間培養を行い、培養菌糸体を作った。この培養菌糸体を更に同条件下にて53日間培養を続けて熟成した後、キャップを取除いて培養基の上から1cmの深さに菌糸層をかき取り、水道水20mlを加えて吸水させた。4時間放置後に余剰の水を傾斜させて廃棄し、温度15℃、湿度95%、照度20ルクスの条件下で11日間培養して子実体原基を発生させ、更に照度を200ルクスに上げて13日間培養して成熟子実体を得た。成熟子実体の収量は196gで、形態もよく、発生のそろった高品質のシロタモギタケが得られた。」
上記(イ)〜(ト)の記載を総合すると、引用例には、
「培養基としてのコーンコブとビートパルプを乾物重量比で10:1になるように混合し、更にフスマと麦糠を前記混合物乾重に対して8:5:1となるように混合して粉砕機にかけ、この粉砕物を6メッシュでふるい分けして、6メッシュ以下のものを回収し、これに蒸気を15重量%になるように吹込み、造粒機を用いて直径6mmで長さ20〜30mmの粒状物を作り、造粒時の余熱で自然乾燥し、水分含量8%とすることで形成された培養基材1000gに、水道水を水分含量が63重量%になるように加えて十分にかくはんしたシロタモギタケの栽培に使用する培養基材」(以下、「引用発明」という。)が開示されていると認めることができる。

4.当審の判断
(1)本願発明1と引用発明とを対比すると、引用発明の「培養基としてのコーンコブ」及び「シロタモギタケの栽培に使用する培養基材」は、本願発明1の「有機質の培養基」及び「キノコ栽培用人工培地」に、それぞれ相当する。また、引用発明の「フスマ」と「米糖」は、栄養剤として用いられているが、タンパク質素材であることが明らかであり、同時に、これらの素材は、キノコ栽培に必要な素材ということもできる。さらに、本願発明1と引用発明は、全体の水分量が調整される点において、共通する。
そうすると、両者は、
「有機質の培養基に対しビートパルプを混合するとともに、前記ビートパルプに対し、タンパク質素材を添加し、且つその他のキノコ栽培に必要な素材を適量添加し、全体の水分量が調整されたキノコ栽培用人工培地」である点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点1]
本願発明1は、有機質の培養基に対しビートパルプを8:1〜2:3(重量比)の割合で混合するのに対して、引用発明は、有機質の培養基に対しビートパルプを10:1になるように混合する点。

[相違点2]
本願発明1は、ビートパルプに対し、大豆粕、大豆粉、コーングルテンフィード、ポテトプロテイン、綿実粕、ナタネ粕、ラッカセイ粕、酒粕、乾燥ビール酵母の何れか1又は複数の一般成分組成中の粗タンパク含有量が30%以上を占めるタンパク質素材を10:1〜10:7(重量比)の割合で添加するのに対して、引用発明は、タンパク質素材としてのフスマと麦糠の粗タンパク含有量に関して明らかでないと共に、添加する割合も不明である点。

[相違点3]
本願発明1は、全体の水分量を67%以上とするのに対して、引用発明は、63重量%とする点。

上記各相違点について検討する。
[相違点1]について
引用例には、コーンコブ粉砕物(有機質の培養基)と吸水性膨潤物質(ビートパルプ)の混合割合が、コーンコブ粉砕物の重量に対して1:0.01〜10で好ましくは1:0.08〜1であることについて、及び、この混合割合が任意に選択できることについて記載されている(上記「2.」(2)(ニ)参照)。ここで、ビートパルプの重量/有機質の培養基の重量がとり得る数値範囲について、より詳細に検討してみると、本願発明1では、0.125〜1.5という範囲をとるのに対して、引用例には、好ましい範囲が0.08〜1という範囲であると示されており、両者が大きく異なるものではないし、本願発明1の範囲の上限や下限に関して特別な臨界的意義があるのものでもない。これらのことを総合勘案してみるに、有機質の培養基に対しビートパルプの混合割合をどの程度に設定するかということは、当業者が適宜決定することのできる設計事項というべきものである。
したがって、引用発明において、有機質の培養基に対しビートパルプを8:1〜2:3(重量比)の割合で混合することは、当業者にとって容易になし得る事項である。

[相違点2]について
キノコ栽培用人工培地において、大豆粕、綿実粕等のタンパク質素材を添加材として用いること自体は、特開平11-220947号公報、特開平10-146131号公報、特開平2-255016号公報に見られるように本願出願前に知られた事項である。
しかしながら、当該事項は、添加材として大豆粕、綿実粕等が用いられるということに止まり、ビートパルプに対し、これらの添加材を10:1〜10:7(重量比)の割合で添加することについて、また、そのことによる技術的意義については、引用例に記載されていないし、本願出願前に知られた事項であるともいえない。
そして、平成18年4月20日付の意見書の内容も鑑みるに、本願発明1は、相違点2に係る構成を備えることにより、「適度な水分を保持しつつ、空間を埋めてしまう栄養剤の量を増加させることなく、エリンギの成長に充分な栄養量が確保でき、しかも粉状の栄養素材が空隙を埋めることなく適度に隙間に入り込んで、物理的に良好な培地状況が形成される」という作用効果を奏するものといえる。

[相違点3]について
キノコの収量を高めるために、培養容器底部に余剰水を滞留させることなく、培養基の水分含有量を67%以上より高く設定することは、特開平5-130811号公報や、特開平10-174519号公報に見られるように周知技術といえる。そうしてみると、引用発明においても、栽培容器中の下部に水が溜まる等の弊害が発生しない範囲で水分量を高めようとすることは、当業者が抱く自然な発想であり、余剰水が発生しないような水分量の可及的な範囲を実際に求めることも、当業者であれば、実験等を行うことによって、適宜になし得るものである。
したがって、引用発明において、水分量を63重量%から、更に高めて、67重量%以上とすること自体、換言すれば、空間を埋めてしまう栄養剤の量を増加させるという問題を考慮することなく、単に、水分量を高めることについては、当業者にとって容易になし得る事項である。

以上のとおり、本願発明1は、相違点2に係る構成を備えることにより、本願特有の作用効果を奏するものであるから、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)本願発明2は本願発明1を限定したものである。また、本願発明3はエリンギ栽培方法に関する発明であるが、本願発明1と実質的に同様の技術的内容を栽培方法として特定したものであるし、本願発明4は当該本願発明3を限定したものである。そうすると、本願発明2ないし4は、本願発明1について述べた理由と同様の理由により、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

5.むすび
以上のとおり、本願については、原査定の拒絶の理由によっては、拒絶をすることができない。
また、他に拒絶をする理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2006-05-10 
出願番号 特願2000-17976(P2000-17976)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (A01G)
最終処分 成立  
前審関与審査官 吉田 佳代子  
特許庁審判長 大元 修二
特許庁審判官 西田 秀彦
柴田 和雄
発明の名称 エリンギ栽培用人工培地及びその人工培地を使用したエリンギ栽培方法  
代理人 田中 雅雄  

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