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審決分類 審判 全部無効 特120条の4、2項訂正請求(平成8年1月1日以降)  F25B
審判 全部無効 2項進歩性  F25B
審判 全部無効 3項(134条5項)特許請求の範囲の実質的拡張  F25B
管理番号 1136737
審判番号 無効2004-80117  
総通号数 79 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1996-02-20 
種別 無効の審決 
審判請求日 2004-07-30 
確定日 2006-03-22 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3466726号「クーラーの運転方法及びクーラーのレトロフィット方法」の特許無効審判事件についてされた平成17年 6月28日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消の判決(平成17年(行ケ)第10617号平成17年10月14日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第3466726号の請求項に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯

本件特許第3466726号に係る発明は、平成6年8月2日に出願され、平成15年8月29日に設定登録されたものであり、これに対して、請求人山内典之により平成16年7月30日付けで、無効審判の請求がなされ、平成16年10月12日付けで被請求人大栗頼之より答弁書が提出され、その後、平成17年3月8日付け(差出日平成17年3月7日)で請求人より弁駁書が提出された。
当審において平成17年4月4日付け(平成17年4月7日発送)で意見書の提出期間を30日とした無効理由が通知され、被請求人より平成17年5月6日付けで意見書が提出され、訂正の請求の期限後の平成17年5月27日付けで被請求人より上申書に添付して訂正明細書が提出され、当審は、本件特許第3466726号の請求項1及び2に係る発明について特許を無効とする審決を平成17年6月28日に行った。
被請求人は、それを不服として、平成17年(行ケ)第10617号として知的財産高等裁判所に訴え、さらに、被請求人は、平成17年10月5日付けで本件特許の特許請求の範囲の減縮等を目的とする訂正審判を請求したので、知的財産高等裁判所は特許法第181条第2項の規定により、本件を審判官に差し戻すため、決定をもって、平成17年6月28日にした審決を取り消した。
それにより、特許法第134条の3第5項の規定により、無効審判の「訂正の請求」とみなされる訂正審判の請求書(訂正2005-39179号)に添付された特許請求の範囲、明細書を援用した訂正の請求がなされ、請求人より、訂正請求に対して意見を述べた弁駁書が提出された。

第2 訂正について

1.上申書に添付した訂正明細書についての当審の判断
平成17年5月27日付上申書に提出物件として提出された訂正明細書は、指定期間経過後に提出されたものであり、特許法第134条の2の規定により訂正を請求し、訂正明細書を提出したものではないので、かかる訂正は、認めることはできない。

2.訂正審判請求書(訂正2005-39179号)の訂正内容
被請求人が求めている訂正は、平成17年10月5日付け訂正審判の請求書(訂正2005-39179号)に記載されたとおりの、以下のものである。
訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1、第6行目「追加コンデンサーの入りの」の後ろであって「温度より出のガス温度・・・」の前に、『新代替冷媒ガス(HFC134a)の』を加入する。
訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1、第7行目「出のガス温度を1℃以上低くして」の後ろであって「運転すること、」の前に、『前記ガスを泡のない完全に液化した状態として』を加入する。
訂正事項3
特許請求の範囲の請求項2、第6行目「入りの」の後ろであって「温度より出のガス温度・・・」の前に、『新代替冷媒ガス(HFC134a)の』を加入する。
訂正事項4
特許請求の範囲の請求項2、第7行目「追加コンデンサーを追設する」の後ろであって「工程と、」の前に、『ことにより前記ガスを泡のない完全に液化した状態とする』を加入する。
訂正事項5
特許請求の範囲の請求項2の第8行目、「冷媒ガス」を『新代替冷媒ガス(HFC134a)』に訂正する。
訂正事項6
特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明との整合を図るため、明瞭でない記載の釈明を目的として、発明の詳細な説明の段落番号【0006】 の第7行目及び8行目に「追加コンデンサーの入りの温度より出のガス温度を1℃以上低くして運転すること」とあるのを、『追加コンデンサーの入りの新代替冷媒ガス(HFC134a)の温度より出のガス温度を1℃以上低くして前記ガスを泡のない完全に液化した状態として運転すること』に訂正する。
訂正事項7
特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明との整合を図るため、明瞭でない記載の釈明を目的として、発明の詳細な説明の段落番号【0007】 の第7行目及び8行目に「入りの温度より出のガス温度を1℃以上低くする」とあるのを、『入りの新代替冷媒ガス(HFC134a)の温度より出のガス温度を1℃以上低くする』に訂正する。
訂正事項8
特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明との整合を図るため、明瞭でない記載の釈明を目的として、発明の詳細な説明の段落番号【0007】 の第8行目及び9行目に「追加コンデンサーを追設する工程と、」とあるのを、『追加コンデンサーを追設することにより前記ガスを泡のない完全に液化した状態とする工程と、』に訂正する。
訂正事項9
特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明との整合を図るため、明瞭でない記載の釈明を目的として、発明の詳細な説明の段落番号【0007】 の第9行目に「冷媒ガス」とあるのを、 『新代替冷媒ガス(HFC134a)』に訂正する。

3.訂正に対して請求人がした主張と、それに対する当審の判断
(1)請求人の主張(平成17年12月12日付弁駁書)
請求人はR-134aとHFC-134aが同一の化学物質である事実を立証するために
甲第6号証として、「フロン類の種類」(http://www.pref.akita.jp/kankyoho/taiki/furon/syurui.htm)を提出して、概略以下の主張をした。

ア.冷媒ガスを「新代替冷媒ガス(HFC134a)」に限定しても「HFC134a」に関する発明が刊行物1及び2に記載されているから特許法第29条第2項に該当し、平成6年改正前の特許法第126条第3項により訂正は許されない。

イ.運転時のガスの状態を「ガスを泡のない完全に液化した状態とした状態」は発明の作用効果を追記したものだから特許請求の範囲の減縮に該当せず、平成6年改正前の特許法第126条第1項に違反しており訂正は許されない。

ウ.仮に、「ガスを泡のない完全に液化した状態とした状態」が「特許請求の範囲の減縮」であるとすれば、本件発明には、「特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項」が記載されておらず、平成6年改正前の特許法第36条第5項第2号に違反し、同法第126条第3項に違反しており訂正は許されない。

(2)当審の判断は次のとおりである。
上記ア.及びウ.の主張については、特許法第134条の2第5項で同法126条第5項(平成6年改正前の特許法第126条第3項に相当する。)中「第1項ただし書第1号又は第2号」とあるのは「特許無効の審判の請求がされていない請求項に係る第1項ただし書第1号又は第2号」と読み替えて準用しているので、無効が請求された請求項1及び2に平成6年改正前の特許法第126条第3項を適用することはできない。

上記イ.の主張については、冷媒の状態が発明の構成に欠くことのできない事項であって、その状態を限定したものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的としたものであり、平成6年改正前の特許法第126条第1項に違反しているとは認められない。

4.訂正の目的の適否、新規事項の有無、および特許請求の範囲の拡張・変更の存否についての当審の判断
(1)訂正事項1、3について
訂正事項1、3は、特許明細書の特許請求の範囲請求項1、2に記載された構成である「ガス」を、願書に添付した明細書の詳細な説明第【0001】段落に記載された、「・・・・冷媒ガスとして特定フロンCFC、代替フロンHCFCを使用して運転されている現用クーラーの冷媒ガスを、・・・・新代替冷媒ガスHFC134aに切り替え・・・・・冷媒ガスを新代替冷媒ガスHFC134aによる運転を可能とするクーラーの運転方法及びクーラーのレトロフィット方法に関する。」に基づき「新代替冷媒ガス(HFC134a)」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮に該当し、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではなく、新規事項を追加するものでもない。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、特許明細書の特許請求の範囲請求項1に記載された構成である「ガス」の状態について、願書に添付した明細書の詳細な説明第【0005】段落に記載された、「・・・・また、新代替冷媒ガスHFC134aを泡のない完全に液化した状態とする・・・・」に基づき「前記ガスを泡のない完全に液化した状態として」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮に該当し、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではなく、新規事項を追加するものでもない。

(3)訂正事項4について
訂正事項4は、特許明細書の特許請求の範囲請求項2に記載された構成である「ガス」の状態について、願書に添付した明細書の詳細な説明第【0009】段落に記載された、「・・・・追加したコンデンサー出のガス温度が1℃以上低くなると、放熱が充分となり、泡のない完全に液化した状態が・・・・」に基づき「前記ガスを泡のない完全に液化した状態として」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮に該当し、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではなく、新規事項を追加するものでもない。

(4)訂正事項5について
訂正事項5は、特許明細書の特許請求の範囲請求項2に記載された構成である「冷媒ガス」を、願書に添付した明細書の詳細な説明第【0001】段落に記載された、「・・・・冷媒ガスとして特定フロンCFC、代替フロンHCFCを使用して運転されている現用クーラーの冷媒ガスを、・・・・新代替冷媒ガスHFC134aに切り替え・・・・・冷媒ガスを新代替冷媒ガスHFC134aによる運転を可能とするクーラーの運転方法及びクーラーのレトロフィット方法に関する。」に基づき「新代替冷媒ガス(HFC134a)」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮に該当し、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではなく、新規事項を追加するものでもない。

(5)訂正事項6ないし9について
訂正事項6ないし9については、請求項1、2の訂正にともない、当該訂正後の請求項1、2に記載された記載事項との整合を図るため、その記載内容を特許明細書に記載された事項により明りょうとするものであるから、この訂正は、明りょうでない記載を釈明するものであり、新規事項を追加するものでもない。

(6)むすび
被請求人が請求した訂正は、無効審判の請求がなされていない請求項に係るものではなく、しかも、上記訂正は、特許請求の範囲の減縮、明りょうでない記載の釈明を目的とし、いずれも、願書に添付した明細書又は図面に記載されている事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
以上のとおりであるから、上記訂正は、平成6年改正前特許法第134条第2項ただし書きに適合し、特許法第134条の2第5項において準用する平成6年改正前第126条第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

第3 請求人の求めた審判

1.請求人の求めた審判の概要は、以下のとおりである。
(1)証拠
請求人は本件特許に係る出願前に頒布された刊行物に記載された発明を立証するために甲第1号証として、特開平3-84395号公報を提出し、
甲第1号証に記載された技術を補足説明するために、
甲第2号証として、機械工学全書19(審判請求書の8.証拠方法には「機械工学全集」と記載されているが、「機械工学全書」の誤記と認める。) 冷凍工学(1982年7月1日第1刷発行)を提出し、
当業者の技術常識を立証するために、
甲第3号証として、図解 空調技術用語辞典(1989年8月30日初版1刷発行)を提出し、
被請求人の出願時の認識を立証するために、
甲第4号証として、面接記録(平成14年10月10日)を提出し、
カークーラーにおけるコンデンサーの構成について立証するために、
甲第5号証として、DEBONAIR整備解説書(印刷発行1992年10月)を提出し、
平成17年12月12日付弁駁書の証拠方法において、
「R-134a(CH2FCF2)」とは、「新代替冷媒ガス(HFC134a)」と同一の化学物質であることを立証するために、
甲第6号証として、「フロン類の種類」(http://www.pref.akita.jp/kankyoho/taiki/furon/syurui.htm)を提出し、
平成17年12月16日付弁駁書の証拠方法において、
冷媒の性状による流動状態の傾向は、液相流においては層流、気相流においては乱流、気液二層流においては乱流の状態である事実を立証するために、
甲第7号証として機械工学便覧(昭和43年1月15日発行)p.8-6,8-7,8-26,8-27,8-548-55,11-34,11-3511-86,11-87を提出して、概略以下の主張をした。

(2)無効理由1
特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本件発明1」という。)と請求項2に係る発明(以下「本件発明2」という。)は、その発明に属する技術の分野における通常の知識を有するものが容易にその実施をすることができる程度に、その発明の構成が記載されていないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

(3)無効理由2
本件発明1及び本件発明2は、その構成要件の内に本件発明の作用効果を奏さない構成を含むから、本件発明は「産業上利用することができる発明」とはいえず、特許法第29条第1項柱書きに反する。

(4)無効理由3
本件発明1及び本件発明2は、いずれもその出願前に日本国内において頒布された刊行物である甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない。

(5)無効理由4
本件発明1及び本件発明2は、いずれもその出願前に日本国内で頒布された刊行物である甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することがきたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(6)無効理由5(平成17年12月16日付弁駁書に記載された理由)
被請求人の訂正請求が認められた場合、訂正後の本件発明1及び本件発明2は、当審が無効理由で引用した刊行物1、2に記載された発明と周知技術1ないし3に基づいて当業者が容易に発明することがきたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

2.被請求人の主張概要(請求人の主張に対して)
被請求人は、上記請求人主張の無効理由1〜4は、いずれも本件発明1及び本件発明2を無効とする理由にはならない旨、主張した。

第4 当審が通知した無効理由について

1.無効理由の概要
当審における平成17年4月4日付けの無効理由通知書に記載された無効の理由は、要するに、本件発明1及び本件発明2は、本件出願前において頒布された特開平5-5578号公報(以下「刊行物1」という。)、特開平6-58637号公報(以下「刊行物2」という。)、特公昭42-7090号公報(以下「刊行物3」という。)、実願平4-27038号(実開平5-78611号)のCD-ROM(以下「刊行物4」という。)、実願昭53-49388号(実開昭54-152440号)のマイクロフィルム(以下「刊行物5」という。)、特開昭60-104441号公報(以下「刊行物6」という。)、特開平6-174341号公報(以下「刊行物7」という。)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。

2.被請求人の主張(当審が通知した無効理由に対して)に対する当審の判断
被請求人が平成17年5月6日付意見書で述べた主張は、平成17年5月27日付けで上申書に添付した訂正明細書に基づくものであって、上記第2 1.に記載したように訂正は認めることができないものであるから採用できない。
そして、平成17年5月27日付上申書に添付した訂正明細書と、特許法第134条の5第5項の規定により、無効審判の「訂正の請求」とみなされる平成17年10月5日付訂正審判請求書(訂正2005-39179号)に添付された特許請求の範囲、明細書を比較すると、訂正の内容が相違しているので、被請求人が前記意見書で述べた主張は、採用できない。

3.本件特許に係る発明
本件発明は、上記第2で訂正が認められた(無効審判の「訂正の請求」とみなされた。)訂正審判の請求書(訂正2005-39179号)に添付された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された、次のとおりのものである。

【請求項1】 コンプレッサー、コンデンサー、膨張弁(膨張弁の代わりに使用されているキャピラルチューブを含む)、蒸発器を有する現用クーラーのコンデンサーと膨張弁(膨張弁の代わりに使用されているキャピラルチューブを含む)の間に、追加コンデンサーを追設し、追加コンデンサーの入りの新代替冷媒ガス(HFC134a)の温度より出のガス温度を1℃以上低くして前記ガスを泡のない完全に液化した状態として運転すること、を特徴とするクーラーの運転方法。(以下「本件発明1」という。)

【請求項2】 コンプレッサー、コンデンサー、膨張弁(膨張弁の代わりに使用されているキャピラルチューブを含む)、蒸発器を有する現用クーラーから現用の冷媒ガスを抜き取る工程と、コンデンサーと膨張弁(膨張弁の代わりに使用されているキャピラルチューブを含む)の間に、入りの新代替冷媒ガス(HFC134a)の温度より出のガス温度を1℃以上低くする放熱能力を有する追加コンデンサーを追設することにより前記ガスを泡のない完全に液化した状態とする工程と、新代替冷媒ガス(HFC134a)を注入する工程を有すること、を特徴とするクーラーのレトロフィット方法。(以下「本件発明2」という。)

4.引用刊行物及びその記載事項
(1)刊行物1には、特に以下の記載がある。
ア.「・・・・自動車用空気調和装置においても、従来から使用されているフロン系冷媒の一種であるCCl2F2(以下R-12)という冷媒を廃止し、オゾン層を破壊する虞の少ないCH2FCF2(以下R-134a)という冷媒に変更する傾向にある。【発明が解決しようとする課題】ところが、R-134aという冷媒は、R-12と種々の熱的特性が異なることから、R-134aを用いて所望の冷房性能を得ようとすれば、冷房サイクルを構成するコンプレッサ、コンデンサ、温度膨脹弁、エバポレータという各構成要素を全て新規なものに交換しなければならない。・・・・次善の策として、冷房サイクルの各構成要素をR-12のものを流用し、コンプレッサの潤滑油あるいはシール剤のゴムの材質等を変更する方法がある。この方法によれば、一応冷房運転を行なうことができるものの、[1]エバポレータの冷力の悪化、[2]低負荷時における温度膨脹弁のハンチング、[3]コンプレッサにおける消費動力の増大等という自動車用空気調和装置における基本的性能に悪影響が生じることになり、余り好ましいものではなく、・・・・図4に示すように、一般に冷房サイクルは、コンプレッサ2、コンデンサ3、エバポレータ4を導管により連通し、さらに冷房サイクルを構成する要素として温度膨脹弁1も組込まれている。・・・・」(第【0002】段落〜第【0004】段落、なお、上記[1]、[2]、[3]は、原文ではそれぞれ丸数字である。)

イ.「本発明は、・・・・冷房サイクルの各構成要素をR-12のものを流用しつつ、R-12をR-134aに置換するときに、温度膨脹弁を交換するのみで、エバポレータの冷力の悪化を防止し、成績係数の悪化を抑制でき、低負荷時でも温度膨脹弁がハンチングを起すこともない、生産設備的にも製品コスト的にも優れた自動車用空気調和装置を提供することを目的とする。【課題を解決するための手段】・・・・本発明は、・・・・この冷房サイクル中を流れる冷媒を前記R-12からR-134aに交換してなる自動車用空気調和装置において、前記コンプレッサ、コンデンサ、エバポレータはR-12用のものを流用し、前記温度膨張弁を、コンデンサからの冷媒が流通する弁開口部の口径と、この弁開口部の開度を調節する弁体の大きさがR-12のものよりも小さくし、同一弁開度時の冷媒流量をR-12の74%程度としたものに置換するようにしたことを特徴とする自動車用空気調和装置である。」(第【0009】段落、第【0010】段落)
また、特に図4の冷房サイクルの構成を参照されたい。

以上の記載及び図面を参照すると、刊行物1には、以下の発明が記載されている。

ウ.「自動車用空気調和装置(本件発明1の「クーラー」に相当する。)において、従来からのフロン系冷媒であるR-12をオゾン層を破壊する虞の少ない冷媒であるR-134aに変更すること、そして、かかる変更の際には、冷房性能を維持するために冷房サイクルの各構成要素を変更する必要があること。」

(2)刊行物2には、特に以下の記載がある。
ア.「・・・・R134a等の代替冷媒を用いることが推奨されている。しかし、R12に代えてR134aを用いると、冷凍装置の冷凍能力が低下する。これに対処するため、冷凍サイクルを構成する圧縮機、凝縮器等の各機器の容量を大きくすることが考慮されたが、・・・・」(第【0003】段落)

以上の記載及び図面を参照すると、刊行物2には、以下の発明が記載されている。

イ.「冷凍装置において、R-12をR-134aに変更すると、冷凍能力が低下するので、冷凍サイクルの凝縮器(本件発明1の「コンデンサ」に相当する。)等の各機器の容量を大きくすること。」

(3)刊行物3には、特に以下の記載がある。
ア.「・・・・電動機駆動のファンによって冷却される補助コンデンサを具備させ,該コンデンサを従来のコンデンサに対して直列に挿入して,機関のアイドリング時および市内低速走行時においても充分な冷却効果を得ることができるようにすることを目的とするもので,以下本発明を添付図面に示す実施例につき説明すると,1は圧縮機,2は主のコンデンサ,3は補助コンデンサ,4は膨張弁,5はエバポレータであって,これらは直列に接続されている。そして,補助コンデンサ3が電動機6によって駆動されるファンによって冷却されている。なお,電動機6の一端は接地され他端は冷房回路の冷媒の圧力が上昇したとき閉成するスイッチ8を経て蓄電池9に接続されている。上記構成における作用を説明すると,アイドリング時及び市内低速走行時の如く機関回転数が低く,従ってコンデンサ2を通過する風量が少いときは,該コンデンサ2の放熱が充分でなく,一方エバポレータ5における吸熱量は殆ど一定値を保つため,冷房回路の冷媒の圧力が上昇する。この時,スイッチ8が閉じ,蓄電池9から電動機6に電流が流れて,該電動機6がファン7を駆動する。ファン7の回転によつてかなりの風量の風が補助コンデンサ3に送られ,該コンデンサ3を通過する冷媒が放熱され,したがって該冷媒の圧力が低下する。」(第1頁左欄第17行〜右欄第21行)

以上の記載及び図面を参照すると、刊行物3には、以下の発明が記載されている。

イ.「自動車用冷房装置において、主のコンデンサ2と膨張弁4の間に補助コンデンサ3を直列に挿入してコンデンサの冷却効果を高める技術。」

(4)刊行物4には、特に以下の記載がある。
ア.「・・・・冷却能力を向上させるため、図4に示すように、大型化したメインコンデンサ5とそれより小さいサブコンデンサ6を連結管7で連結し、空気の当たる面積を拡大させてそれを自動車の前部に配設したりしていた。・・・・」(第【0005】段落)
また、特に図4を参照されたい。

以上の記載及び図面を参照すると、刊行物4には、以下の発明が記載されている。

イ.「自動車のエアコンのコンデンサ装置において、メインコンデンサ5にサブコンデンサ6を直列に連結して、冷却能力を向上させる技術。」

(5)刊行物5には、特に以下の記載がある。
ア.「・・・・従来の車輌用ガス圧縮式冷却装置について・・・・4はコンデンサ、5はリキドタンク、6はエクスパンションバルブ、7はエバポレータ、8はコムプレッサであって、コンデンサ4ないしコムプレッサ8は一連の配管9によって直列に連結されており、・・・・エバポレータ7内で車室内高温空気より熱を奪って車室内を冷却する・・・・」(明細書第1頁第18行〜第2頁第10行)

イ.「・・・・主コンデンサおよび補助コンデンサの組合せにより車速全域に亘って良好な放熱能力を得ることができるから極めて有益である。・・・・図面において20は主コンデンサ、21は冷却ファン、22は専用モータであって、主コンデンサ20はラジェータ3に前方から流入する空気通路を阻害しないように該空気通路と別に車体骨格12、ヘッドランプ23などの各部隙間を利用し形成された空気通路に設けられており、該空気通路に冷却ファン21によって吸込まれ、前方から流入する空気によって冷却されるようになっている。また、25は主コンデンサ20に配管9を介して直列に連結された補助コンデンサであって、該補助コンデンサはラジエータ3に前方から流入する空気通路に設けられ該空気通路に流入する空気によって冷却されるようになっている・・・・コムプレッサ8により圧縮されて高圧高温となった冷媒気体は次に主コンデンサ20および補助コンデンサ25に流入し凝縮点まで冷却されて高圧常温の液体となってリキドタンク5に戻されるようになっている・・・・」(明細書第5頁第5行〜第6頁第9行)

ウ.「・・・・本考案は主コンデンサ20および補助コンデンサ25の両者を組合せることによって車速全域に亘って良好な放熱能力を得ることができた・・・・」(明細書第7頁第1行〜第4行)
また、特に第4図を参照されたい。

以上の記載及び図面を参照すると、刊行物5には、以下の発明が記載されている。

エ.「車室内を冷却する車輌用ガス圧縮式冷却装置において、主コンデンサ20とエクスパンションバルブ6との間に補助コンデンサ25を直列に連結して、良好な放熱能力を得る技術。」
なお、車室内を冷却する車輌用ガス圧縮式冷却装置とは、自動車用冷房装置又はエアコンであると認められる。

(6)刊行物6には、特に以下の記載がある。
ア.「次に、エアコン若しくはクーラーの冷媒用ガス交換について説明すると、エアコン等に備えられているコンプレッサーの低圧側と高圧側とにそれぞれ低圧コネクター18aと高圧コネクター18bとを接続し、操作盤45上の「エアコン」と書かれた釦を押せば、弁26と27及び20が開いて前記コンプレッサー内の冷媒のフロンガスは真空槽7へ抜き取られる。このようにして圧力センサ25で計測されるコンプレッサー内の圧力が一定以上の低圧となったならば、制御装置46の信号により弁20と27とが閉じ、弁32が開いて容器31から秤33で計測されながらフロンガス(液体)が約200g程度コンプレッサー内に充填される。充填後に弁32,26が閉じ、スピーカー43から「3分間エンジン(エアコン)を駆動して下さい」とのメッセージが流れ、これに従えばエアコンの冷却サイクル各部のガスが移動し、他部の古いフロンガスがコンプレッサー内に入る。よって、同様に弁26,27,20を開いて抜き取りを行い新たなフロンガスは200g程度充填してエンジンをかける。このような動作を数回繰返し、最後のフロンガスの充填と400g程度と多めに行い、フロンガスの全充填量は秤33で計測されて表示器44に表示されプリンター42で発行される伝票に印字される。」(第4頁左上欄第1行〜右上欄第6行)

以上の記載及び図面を参照すると、刊行物6には、以下の発明が記載されている。

イ.「自動車用サービス装置において、クーラーの冷媒ガスの交換についての説明で、コンプレッサー内の冷媒のフロンガスを真空槽7へ抜き取った後に、容器31からフロンガスを充填し、エアコンを運転する操作を数回繰り返し、最後に規定量のフロンガスを充填する技術。」

(7)刊行物7には、特に以下の記載がある。
ア.「【産業上の利用分野】本発明は冷凍機油除去装置及び冷媒交換方法に関し、とくにカーアコンなどの冷凍サイクルで冷媒の種類を交換する場合における冷凍機油除去装置及び冷媒交換方法に関する。【従来の技術】カーエアコンなどの冷媒として用いられている特定フロン(CFC12)は、オゾン層を破壊するものとしてその使用が全廃され、代替フロンを用いることとなった。このため、特定フロン用エアコンを代替フロンが利用できるようにすることが必要となる。ところで、冷媒を特定フロンから代替フロンに交換するに際しては、回路内から旧冷媒を回収し、かつ、回路内を洗浄しておく必要がある。【発明が解決しようとする課題】しかしながら、従来の空調機器回路のコンプレッサの出口に設けられているオイルセパレータは、冷凍機油と冷媒と互いに分離し、該冷凍機油をコンプレッサに環流せしめるものであり、油を回路から回収するためのものではなかった。このため、従来の空調機器の冷凍サイクルにおいて、冷凍機油を回収するには、別途抜き取り作業を必要とし、また、洗浄剤をもって回路内を洗浄しなければならない問題がある。そこで、本発明の技術的課題は、上記欠点に鑑み、冷凍サイクルの回路内の洗浄を必要とせず、従来の特定フロンを代替フロンに交換することができる冷凍機油除去装置及び冷媒交換方法を提供することである。」(第【0001】段落〜第【0005】段落)

イ.「また、本発明によれば、前記いずれかの冷凍機油除去装置を用いて、前記排出口から前記分離された冷凍機油を排出した後、前記冷凍サイクル中の前記冷媒を抜去し、新たな冷凍機油を充填し、新たな冷媒を充填することを特徴とする冷媒交換方法が得られる。」(第【0009】段落)

ウ.「次に、本実施例の冷凍機油回収及び冷媒交換方法について説明する。まず、冷凍機油の回収に先立ち、真空引きを行う。次に、付加流路P2の流路を開く。そして空調機のスイッチを入れて運転状態にする。圧縮機1からオイルセパレータ9に付加流路P2を介して冷凍油と冷媒が送り込まれる。ここで、オイルセパレータ9は、冷媒と冷凍機油と分離して、冷凍機油を取出口90から流出せしめ、冷媒を抜き取ることができる。この作業が終了すると、付加流路P2を遮断して、オイルセパレータ9を取り除き、通常の運転時と同様な流通状態に戻す。その後、コンプレッサに、新しい冷媒用のオイルを入れて、真空引きによって新たな冷媒を充填する。」(第【0014】段落、第【0015】段落)

以上の記載及び図面を参照すると、刊行物7には、以下の発明が記載されている。

エ.「カーエアコンなどの冷凍サイクルの冷媒の種類を交換する場合の冷凍機油除去装置及び冷媒交換方法において、特定フロンを使用した冷媒回路を真空引き後にオイルセパレータ9から冷凍機油を流出し、冷媒を抜き取った後に、コンプレッサに新しい冷媒用のオイルを入れ、真空引によって新たな冷媒(代替フロン)を充填する技術。」

5.周知技術を立証するために引用する周知例と周知例に記載された事項
「HFC134a」と「R-134a」が同一の化学物質の名称であることを立証するために

(1)周知例1として、特開平4-284185号公報には、特に以下の記載がある。
「・・・・オゾン破壊に対する影響の少ない水素を2個含むハロゲン化炭素化合物である1、1、1、2テトラフルオロエタン(以下HFC134aと称する)への変更が検討されている。」(第【0003】段落)

(2)周知例2として、特開平5-187355号公報には、特に以下の記載がある。
「・・・しかし、CFC12は地球のオゾン層を破壊すると云う昨今の地球環境問題により、塩素を含まない1,1,1,2-テトラフルオロエタン(以下、HFC134aと云う)に置き換えられようとしている。」(第【0002】段落)

(3)周知例3として、特開平5-5098号公報には、特に以下の記載がある。
「・・・・このCFC12の代替品として、オゾン層を破壊することのない1,1,1,2-テトラフルオロエタン(HFC134a)が開発されている。」(第【0002】段落)

(4)周知例4として、特開平5-32986号公報には、特に以下の記載がある。
「・・・・新しい冷媒として塩素を含有しないハイドロフルオロカーボンR-32やR-125、さらにはそれらと1,1-ジフルオロエタン(以下、R-152aと略す)、1,1,1,2-テトラフルオロエタン(以下、R-134aと略す)などとの混合冷媒などが提案されている。・・・・」(第【0004】段落)

(5)周知例5として、特開平5-223407号公報には、特に以下の記載がある。
「空調及び冷却工業に於てCFC配合物R-12に対する代替物として好適であると認識されたHFC配合物は1、1、1、2-テトラフルオロエタン、一般には”R-134a”と称されるものであった。」(第【0007】段落)

(6)周知例6として、特開平5-295386号公報には、特に以下の記載がある。
「・・・・オゾン層破壊のない新しいタイプの冷媒として1,1,1,2-テトラフルオロエタン(以下R-134aと呼ぶ)、1,1-ジフルオロエタン(以下R-152aと呼ぶ)のように塩素を構成成分としないフロン冷媒が検討されている。・・・・」(第【0003】段落)

代替冷媒についての周知技術を立証するために
(7)周知例7として、社団法人日本冷凍協会冷凍空調便覧刊行委員会編「冷凍空調便覧(第1巻)基礎編」,改訂第5版,社団法人日本冷凍協会,平成5年6月25日,p.86〜p.89には、特に以下の記載がある。

ア.「3・1・5代替冷媒の選定と熱物性」(第86頁右欄第21行)

イ.「これらの代替物質の候補のうち,冷媒・作動流体としての最有力候補はHFC-134aとHCFC-123である。わが国の化審法では、前者は新規化学物質,後者は既存化学物質であるが、・・・」(第88頁左欄第16行〜第19行)

凝縮器の機能としての周知技術を立証するために
(8)周知例8として、社団法人日本冷凍協会冷凍空調便覧刊行委員会編「冷凍空調便覧(第2巻)機器編」,改訂第5版,社団法人日本冷凍協会,平成5年6月25日,p.77には、特に以下の記載がある。

「2.1.1凝縮器の機能 凝縮器は圧縮機によって高温高圧にされた冷媒蒸気を冷却液化させる熱交換器で,冷凍サイクルにおいて高圧側で冷凍サイクル内の熱を外部に放出する役目をする。
凝縮器内での冷媒は,圧縮機からの高温高圧の過熱蒸気が,冷却の進行とともに過熱蒸気から飽和蒸気,飽和液および過冷却液と変化する。」(第77頁左欄第3行〜第10行)

6.本件発明1について
(1)本件発明1と刊行物1に記載された発明の対比・一致点・相違点
本件発明1と刊行物1に記載された発明とを対比すると、後者の「コンプレッサ2」、「コンデンサ3」及び「エバポレータ4」は、それぞれ前者の「コンプレッサー」、「コンデンサー」及び「蒸発器」に相当し、後者の「温度膨張弁」は温度により膨張弁の開度を変更する機能を有する膨張弁であって、膨張弁に相違ないので、前者の「膨張弁(膨張弁の代わりに使用されているキャピラルチューブを含む)」に相当する。
そうすると、本件発明と刊行物1に記載された発明との一致点及び相違点は、次のとおりのものと認められる。

[一致点]
「コンプレッサー、コンデンサー、膨張弁(膨張弁の代わりに使用されているキャピラルチューブを含む)、蒸発器を有する現用クーラー。」

[相違点A]
クーラーの運転方法において、本件発明1は、「現用クーラーのコンデンサーと膨張弁(膨張弁の代わりに使用されているキャピラルチューブを含む)の間に、追加コンデンサーを追設し、追加コンデンサーの入りの新代替冷媒ガス(HFC134a)の温度より出のガス温度を1℃以上低くして前記ガスを泡のない完全に液化した状態として運転すること、を特徴とするクーラーの運転方法。」であるのに対し、刊行物1記載の発明は、かかる運転方法でない点。

(2)相違点Aについての検討
刊行物1には、上記4.(1)ウ.に記載したとおり、自動車用空気調和装置(本件発明1の「クーラー」に相当する。)において、従来からのフロン系冷媒であるR-12をオゾン層を破壊する虞の少ない冷媒であるR-134aに変更すること、そして、かかる変更の際には、冷房性能を維持するために冷房サイクルの各構成要素を変更する必要があることが記載されている。

刊行物2には、上記4.(2)イ.に記載したとおり、冷凍装置において、R-12をR-134aに変更すると、冷凍能力が低下するので、冷凍サイクルの凝縮器(本件発明1の「コンデンサ」に相当する。)等の各機器の容量を大きくすることが記載されている。そして、冷凍装置は、R-12やR-134aを冷媒とする冷却サイクルを用いる点で、自動車用空気調和装置と共通する。

刊行物3〜5についての上記4.(3)イ.、4.(4)イ.、4.(5)エ.に記載した認定事実によれば、自動車用冷房装置(本件発明の「クーラー」に相当する。)において、主コンデンサと膨張弁の間に追加のコンデンサを追設すること」は、従来周知の技術であると認められる。(以下、「周知技術1」という。)

周知例1〜3には、「1,1,1,2-テトラフルオロエタン」を「HFC134a」と称する旨の記載があり、周知例4〜6には、「1,1,1,2-テトラフルオロエタン」を「R-134a」と称する旨の記載がある。そうしてみると、「HFC134a」と「R-134a」はどちらも「1,1,1,2-テトラフルオロエタン」を略していう名称として周知であり、「HFC134a」と「R-134a」は同じ化学物質(1,1,1,2-テトラフルオロエタン)の異なる名称にすぎないものと認められる。
そして、周知例7には、代替冷媒として2種類の化学物質が候補としてとりあげられ、それらの内でHFC-134aは新規の化学物質である旨の記載があるので、周知例7が発行された当時においてHFC-134aは新規の代替冷媒であったことが認められる。
したがって、「「1,1,1,2-テトラフルオロエタン」は、「HFC134a」又は「R-134a」と称され、代替冷媒のうちで、新規の代替冷媒であった」ことは従来周知の技術的事項であると認められる。(以下、「周知技術2」という。)

周知例8には、「凝縮器内での冷媒は,圧縮機からの高温高圧の過熱蒸気が,冷却の進行とともに過熱蒸気から飽和蒸気,飽和液および過冷却液と変化する。」と記載されており、換言すれば、凝縮器内で、冷媒は最終的に過冷却液となっている旨が記載されている。 そして、過冷却液とは、冷媒が完全に液体となっていることを意味するので、冷媒が凝縮器から出る際は、液体の中に泡の無い完全に液化した状態であるものと認められる。(以下、「周知技術3」という。)

以上によれば、刊行物1記載の発明において、従来からのR-12をR-134aに変更する際に、冷却能力を維持するためにコンデンサを大きくすることが必要とされることは、刊行物2記載の技術的事項に基づいて当業者には明らかであるし、その具体的手段として、コンデンサと膨張弁の間に追加のコンデンサを追設することは、周知技術1の適用にすぎない。また、冷媒の名称を刊行物1記載のR-134aから、HFC134aに変更し、複数ある代替冷媒の内で新しく開発されたHFC134aを新代替冷媒と称することは、周知技術2により当業者であれば容易にできたというべきである。
そして、追加コンデンサーの入りの新代替冷媒ガス(HFC134a)の温度より出のガス温度を1℃以上低くして運転することは、1℃以上低くする点に作用効果上の臨界的な意義があるものとは認められないので、当業者が追加コンデンサーを設けて運転する際に容易に設定できた設定値にすぎないし、冷媒が、コンデンサ(「凝縮器」に相当する。)を出る際には過冷却となっており、過冷却の冷媒の中は泡の無い完全に液化した状態であることは周知技術3から明らかであるので、「ガスを泡のない完全に液化した状態として運転する」ことも、当業者であれば容易にできたというべきである。
したがって、相違点Aに係る本件発明1の構成は、刊行物1及び2記載の各発明並びに周知技術1〜3に基づいて当業者が容易に想到できたというべきである。

7.本件発明2について
(1)本件発明2と刊行物1に記載された発明の対比・一致点・相違点
本件発明2と刊行物1に記載された発明とを対比すると、後者の「コンプレッサ2」、「コンデンサ3」及び「エバポレータ4」は、それぞれ前者の「コンプレッサー」、「コンデンサー」及び「蒸発器」に相当し、後者の「温度膨張弁」は温度により膨張弁の開度を変更する機能を有する膨張弁であって、膨張弁に相違ないので、前者の「膨張弁(膨張弁の代わりに使用されているキャピラルチューブを含む)」に相当する。
そして、刊行物1には、自動車用空気調和装置(本件発明1の「クーラー」に相当する。)において、具体的な方法は本件発明2と相違するが、冷媒をR-12からR-134aに変更するレトロフィット方法が記載されている。
そうすると、本件発明2と刊行物1に記載された発明との一致点及び相違点は、次のとおりのものと認められる。

[一致点]
「コンプレッサー、コンデンサー、膨張弁(膨張弁の代わりに使用されているキャピラルチューブを含む)、蒸発器を有する現用クーラーのレトロフィット方法」

[相違点B]
本件発明2のレトロフィット方法が「コンデンサーと膨張弁(膨張弁の代わりに使用されているキャピラルチューブを含む)の間に、入りの新代替冷媒ガス(HFC134a)の温度より出のガス温度を1℃以上低くする放熱能力を有する追加コンデンサーを追設することにより前記ガスを泡のない完全に液化した状態とする」ことであるが、刊行物1に記載された発明のレトロフィット方法は、かかる方法ではない点。

[相違点C]
本件発明2は、追加のコンデンサーを追設する工程について、「現用クーラーから現用の冷媒ガスを抜き取る工程と、コンデンサーと膨張弁(膨張弁の代わりに使用されているキャピラルチューブを含む)の間に、入りのガス温度より出のガス温度を1℃以上低くする放熱能力を有する追加コンデンサーを追設することにより前記ガスを泡のない完全に液化した状態とする工程と、新代替冷媒ガス(HFC134a)を注入する工程」としたものであるのに対し、刊行物1記載の発明には、かかる工程がない点。

(2)相違点Bについての検討
コンデンサーと膨張弁(膨張弁の代わりに使用されているキャピラルチューブを含む)の間に、追加コンデンサーを追設することの容易性、及び、冷媒の名称を刊行物1記載のR-134aから、HFC134aに変更し、HFC134aを新代替冷媒ということの容易性は上記6.(2)で検討したとおりである。
そして、追加コンデンサーの放熱能力を「入りの新代替冷媒ガス(HFC134a)の温度より出のガス温度を1℃以上低くする放熱能力を有する」ものとすることは、かかる構成に限定したことに作用効果上の臨界的な意義があるものとは認められないので、当業者が追加コンデンサーを追設する際の単なる設計的事項にすぎないものというべきである。
さらに、追設コンデンサーを設けることにより、コンデンサー(凝縮器)の能力が十分なものとなれば、冷媒が凝縮器から出る際には、冷媒は過冷却の液体となり、かかる冷媒の中は、泡の無い完全に液化した状態となることも周知の技術的事項(周知技術3)であるから、追加コンデンサーを追設する工程において、追加コンデンサーを追設することにより冷媒を泡のない完全に液化した状態とするように、冷媒の状態を限定することは、当業者が容易にできたというべきである。
したがって、相違点Bに係る本件発明2の構成は、刊行物1及び2記載の各発明並びに周知技術1、2に基づいて当業者が容易に想到できたというべきである。

(3)相違点Cについての検討
刊行物6には、上記4.(6)イ.に記載したとおり、自動車用サービス装置において、クーラーの冷媒ガスの交換についての説明で、コンプレッサー内の冷媒のフロンガスを真空槽7へ抜き取った後に、容器31からフロンガスを充填し、エアコンを運転する操作を数回繰り返し、最後に規定量のフロンガスを充填する技術が記載されている。

刊行物7には、上記4.(7)エ.に記載したとおり、カーエアコンなどの冷凍サイクルの冷媒の種類を交換する場合の冷凍機油除去装置及び冷媒交換方法において、特定フロンを使用した冷媒回路を真空引き後にオイルセパレータ9から冷凍機油を流出し、冷媒を抜き取った後に、コンプレッサに新しい冷媒用のオイルを入れ、真空引によって新たな冷媒(代替フロン)を充填する技術が記載されている。

刊行物6、7についての上記認定事実によれば、クーラーの冷媒ガスを交換する工程として、現用の冷媒ガスを抜き取る工程の後に新たな冷媒を充填(「充填」は本件発明2の「注入」に相当する。)することは、従来より普通に行われている作業工程であり周知技術であると認められる。(以下、「周知技術4」という。)

そうすると、刊行物1記載の発明において、冷媒をR-12からR-134aに変更する方法として、現用クーラーの冷媒回路に「コンデンサーと膨張弁の間に、入りのガス温度より出のガス温度を1℃以上低くする放熱能力を有する追加コンデンサーを追設する」には、冷媒を交換するための周知の作業工程において、冷媒回路に冷媒の無くなっている現用冷媒を抜き取る作業工程の後に追設コンデンサーを追設する作業工程を挿入し、その後に新しい冷媒ガスを注入する工程を設ければよいことは、当業者であれば自明の技術的事項にすぎないといわざるをえない。
そして、「追加コンデンサーを追設することによりガスを泡のない完全に液化した状態とする」ことの容易性については、上記7.(2)で、「R-134a」を新代替冷媒(HFC134a)と称することの容易性については上記6.(2)で検討したとおりである。
したがって、相違点Cに係る本件発明2の構成は、刊行物1及び2記載の各発明並びに周知技術1〜4に基づいて当業者が容易に想到できたというべきである。

8.本件発明1及び本件発明2の効果について
本件発明1及び本件発明2の効果は、刊行物1に記載された発明に刊行物2記載された発明と周知技術1〜4を適用したことによる効果として、当業者が予測し得た範囲内のものである。

9.まとめ
以上説示のとおり、本件発明1及び本件発明2は、上記刊行物1、2に記載された各発明並びに周知技術1〜4に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。

第5 むすび

したがって、本件発明1及び本件発明2は、審判請求人が主張した無効理由1〜4と弁駁書で主張した無効理由5についての判断をするまでもなく、本件特許出願前に日本国内において頒布された刊行物1、2に記載された各発明並びに周知技術1〜4に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、本件発明1及び本件発明2の特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
クーラーの運転方法及びクーラーのレトロフィット方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】コンプレッサー、コンデンサー、膨張弁(膨張弁の代わりに使用されているキャピラルチューブを含む)、蒸発器を有する現用クーラーのコンデンサーと膨張弁(膨張弁の代わりに使用されているキャピラルチューブを含む)の間に、追加コンデンサーを追設し、追加コンデンサーの入りの新代替冷媒ガス(HFC134a)の温度より出のガス温度を1℃以上低くして前記ガスを泡のない完全に液化した状態として運転すること、を特徴とするクーラーの運転方法。
【請求項2】コンプレッサー、コンデンサー、膨張弁(膨張弁の代わりに使用されているキャピラルチューブを含む)、蒸発器を有する現用クーラーから現用の冷媒ガスを抜き取る工程と、コンデンサーと膨張弁(膨張弁の代わりに使用されているキャピラルチューブを含む)の間に、入りの新代替冷媒ガス(HFC134a)の温度より出のガス温度を1℃以上低くする放熱能力を有する追加コンデンサーを追設することにより前記ガスを泡のない完全に液化した状態とする工程と、新代替冷媒ガス(HFC134a)を注入する工程を有すること、を特徴とするクーラーのレトロフィット方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、冷媒ガスとして特定フロンCFC、代替フロンHCFCを使用して運転されている現用クーラーの冷媒ガスを、オゾン層に影響を与えない新代替冷媒ガスHFC134aに切り換え、新代替冷媒ガスHFC134aによる運転を可能とするクーラーの運転方法及びクーラーのレトロフィット方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、新代替冷媒ガスHFC134aでは、現用クーラーのコンプレッサー及び蒸発器を大型のものと交換し、潤滑油も新代替冷媒ガスHFC134aと相溶性のあるポリエーテル系(ポリアルキレングリコール)、エステル系、ポリカーボネート系等の合成油系のものと交換しなければ運転できない、とされていた。その理由として、新代替冷媒ガスHFC134aは従来の鉱物油系の潤滑油との相溶性が少ないためクーラーの運転中に冷媒ガスとオイルが分離する、といわれており、又、新代替冷媒ガスHFC134aは、運転圧力が低く、そのため膨張弁、キャピラルチューブの細管をガスが通過しにくく、蒸発器へ充分な冷媒ガスが供給されないからである、などといわれていた。
【0003】
さらに、特定フロンCFC、代替フロンHCFCを新代替冷媒ガスHFC134aと交換した場合、例え運転できたとしても冷房能力が10〜30%程度低下し、いわゆるクーラーが効かない状態になる、といわれていた。その理由は、新代替冷媒ガスHFC134aは、分子量が小さく重量当りの吸熱、放熱能力が少ないので冷房能力のこの程度の低下は避けられない、というのである。
【0004】
出願人は、冷媒ガスとしてフロンガスを使用するクーラーの冷房能力等を向上する手段として、コンデンサーや蒸発器を追加したり、特定の運転条件としたりすることを提案したが、その実験中、要所に液面計を取り付け、冷媒ガスの状態を観察したところ、冷媒ガスが完全に液化した状態、すなわち液面計を通して泡の見えない状態とすることによって、10〜30%程度の冷房能力が向上することを発見し、冷媒ガスが完全に液化した状態となる運転条件とするためのコンプレッサー、コンデンサー、膨張弁、蒸発器の能力、これらの部分に出入りするガス圧力、ガス温度、水温、風温等との関連を探索し、一定の成果が得られたものについては既に特許出願を済ませている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、新代替冷媒ガスHFC134aを完全に液化させることによって、冷媒ガスとオイルの融合をよくし、蒸発器でのオイルの分離をなくし、また、新代替冷媒ガスHFC134aを泡のない完全に液化した状態とすることによって、膨張弁、キャピラルチューブ等の細径部でのガスの流れをよくし、これによって運転圧力が低くても多量の冷媒ガスを蒸発器に送って蒸発させることができ、その結果冷房能力を低下させずに特定フロンCFC、代替フロンHCFCを新代替冷媒ガスHFC134aに切り換えてクーラーの運転を可能とする、クーラーの運転方法及びクーラーのレトロフィット(RETROFIT=補修、改装、改造などといわれている。)方法の提供を目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
請求項1記載の発明は、クーラーの運転方法であって、コンプレッサー、コンデンサー、膨張弁(膨張弁の代わりに使用されているキャピラルチューブを含む)、蒸発器を有する現用クーラーのコンデンサーと膨張弁(膨張弁の代わりに使用されているキャピラルチューブを含む)の間に、追加コンデンサーを追設し、追加コンデンサーの入りの新代替冷媒ガス(HFC134a)の温度より出のガス温度を1℃以上低くして前記ガスを泡のない完全に液化した状態として運転すること、を特徴とするものである。
【0007】
請求項2記載の発明は、クーラーのレトロフィット方法であって、コンプレッサー、コンデンサー、膨張弁(膨張弁の代わりに使用されているキャピラルチューブを含む)、蒸発器を有する現用クーラーから現用の冷媒ガスを抜き取る工程と、コンデンサーと膨張弁(膨張弁の代わりに使用されているキャピラルチューブを含む)の間に、入りの新代替冷媒ガス(HFC134a)の温度より出のガス温度を1℃以上低くする放熱能力を有する追加コンデンサーを追設することにより前記ガスを泡のない完全に液化した状態とする工程と、新代替冷媒ガス(HFC134a)を注入する工程を有すること、を特徴とする。
【0008】
【作用】
本発明は、上記のように現用クーラーからフロンガスCFC12、HCFC22等の冷媒ガスを抜き取り、既設の空冷又は水冷のコンデンサーとは別の空冷又は水冷のコンデンサーを追設し、ガスパイプを付け替えたり新設したりして、回路を完結し、新代替冷媒ガスHFC134aを注入して運転する。冷媒ガス注入の際、冷媒ガスの全量を一時に注入しないで、1/4〜1/2程度を注入してガス洩れのないことを確かめた上、全量を注入し、さらにガス洩れのないことを確認の上運転を開始することは勿論である。
【0009】
このようにレトロフィットし、新代替冷媒ガス134aを使用してクーラーを運転するのであるが、既設のコンデンサーだけでは若干の放熱カロリーが残っているようであって、液面計で冷媒ガスの状態を観察すると、時には甚だしく、時には稀にではあるが泡が見られる。この状態の冷媒ガスを追加したコンデンサーに送って放熱し、追加したコンデンサー入りのガス温度より、追加したコンデンサー出のガス温度が1°C以上低くなると、放熱が充分となり、泡のない完全液化した状態が液面計で視認されるようになる。この温度差は、機器によって異なっているが、最低で1°C、好ましくは2〜5°Cであるが場合によっては、例えばコンプレッサーとコンデンサーの間に追加コンデンサーを挿入した場合には10°Cを超えることもあった。
【0010】
このように冷媒ガスを完全液化すると、新代替冷媒ガスHFC134aとオイルの融合がよくなるようで、クーラー運転中にガスとオイルの分離が起きないことが認められた。この理由は詳らかではないが、新代替冷媒ガス134aと従来使用していた鉱油系の潤滑油とは充分馴染み、いわゆるオイル分離によるとされているコンプレッサーの過熱はなく、正常に運転を継続することができた。
【0011】
また、特定フロンCFC、代替フロンHCFC等を新代替冷媒ガスHFC134aに変換してもクーラーの冷房能力は、変換前と同等、条件によっては20%程度向上することが判明した。この理由も詳らかではないが、新代替冷媒ガスHFC134aを完全液化すると泡がなくなり、その結果運転圧力が低くても膨張弁、キャピラルチューブ等の細径部をガスがよく通過し、蒸発器へも多量のガスを送ることができることになって、分子量が小さく重量当りの吸熱、放熱量の少ない新代替冷媒ガスHFC134aに入れ替えても、クーラーの冷房効率が低下しないのであろうと思料される。
【0012】
なお、現用クーラーに追加コンデンサーを追設し、現在使用されているHCFC22等の現用冷媒ガスでクーラーを運転した場合、現用冷媒ガスも泡のない完全液化した状態となり、したがって、蒸発器に多量のガスを送ることができることになり、冷房能力が10〜20%程度増加することが認められた。
【0013】
いずれの場合も、追加した空冷、水冷のコンデンサーは、現用クーラーのケース内に収納しても、別のケースに収納してもよく、追加するコンデンサーは機器の配置上の都合等により、コンプレッサーと既設のコンデンサーの間に追加することも可能である。
【0014】
【実施例】
以下、図面に示す実施例に基づいて、さらに詳細に説明する。
【0015】
図1に示すものは、空冷コンデンサーを使用している現用クーラーに空冷コンデンサー追設した第1実施例であって、コンプレッサー1、空冷コンデンサー2A、膨張弁(小型の機器にあっては、膨張弁に代えてキャピラルチューブを使用することが多い)3を高圧ガスパイプ5でつなぎ、膨張弁3、蒸発器4、コンプレッサー1を低圧ガスパイプ6でつないで現用されているクーラーから、空冷コンデンサー2Aと膨張弁3とをつなぐ高圧ガスパイプ5を取り外し、空冷コンデンサー2Bを追設し、ガスパイプ7でこれらをつなぎ、空冷コンデンサー2Aを出た冷媒ガスを空冷コンデンサー2Bに送って大気と熱交換し、ガスパイプ7で膨張弁3に送るものである。この場合、追加空冷コンデンサー2Bの能力は、追加空冷コンデンサー2B入りのガス温度より、追加コンデンサー2B出のガス温度を1°C以上低くできるものとする。従って、追加空冷コンデンサー2Bを出たガス温度は空冷コンデンサー2A出のガス温度より低くなっている。なお、ガスパイプ7として取り外した高圧ガスパイプ5を転用したり、高圧ガスパイプ5が長い場合等にはこれを2分してガスパイプ7、7として使用できることは、当然である。
【0016】
図2に示すものは、空冷コンデンサーを使用している現用クーラーに水冷コンデンサー追設した第2実施例であって、コンプレッサー1、空冷コンデンサー2A、膨張弁3を高圧ガスパイプ5でつなぎ、膨張弁3、蒸発器4、コンプレッサー1を低圧ガスパイプ6でつないだ現用クーラーから、空冷コンデンサー2Aと膨張弁3とをつなぐ高圧ガスパイプ5を取り去り、追加水冷コンデンサー2C2を設置して空冷コンデンサー2Aとつなぎ、追加水冷コンデンサー2C2を出たガス回路はガスパイプ7で膨張弁3とつなぐ。8は、ラジエーター等の水温放熱器であって、水ポンプ9を介した水パイプ10で、追加水冷コンデンサー2C2と水温放熱器8とを図示のように往復に結び、追加水冷コンデンサー2C2と水温放熱器8間を冷却水が循環するようにする。このように追加水冷コンデンサー2C2用の冷却水を循環使用すると、実質的には空冷コンデンサーとなるが空冷コンデンサーを追加したものより好結果が得られた。この実施例の場合も、空冷コンデンサー2Aで大気と熱交換した冷媒ガスは、追加水冷コンデンサー2C2に送られ、その冷却水と熱交換して放熱し膨張弁3に送られることになる。この場合、追加水冷コンデンサー2C2入りのガス温度より、追加水冷コンデンサー2C2出のガス温度を1°C以上低くする。従って、追加水冷コンデンサー2C2出のガス温度は、空冷コンデンサー2B出のガス温度より低くなっている。空冷コンデンサー2Bのあとに、追加水冷コンデンサー2C2を設置し、ラジエーター8と追加水冷コンデンサー2C2を、水ポンプ9を介した水パイプ10で往復に結び、冷却水を循環させて追加水冷コンデンサー2C2で吸熱し、ラジエーター8で放熱した。空冷コンデンサー2Bは送風ファンを回転させて大気と熱交換した。冷媒ガスを新代替冷媒ガスHFC134aと交換してクーラーを運転を行なったところ、追加水冷コンデンサー2C2の放熱量は現用コンデンサーのほぼ30%のものとしたところ、液面計より見た冷媒ガスは泡もなく完全液化しており、冷房能力もHCFC22の冷媒ガス使用時と大差はなく、クーラーは正常に運転を継続することができた。
【0017】
図3に示すものは、水冷コンデンサーを使用している現用クーラーに水冷コンデンサーを追設した第3の実施例であって、コンプレッサー1、水冷コンデンサー2C1、膨張弁3を高圧ガスパイプ5でつなぎ、膨張弁3、蒸発器4、コンプレッサー1を低圧ガスパイプ6でつないだ現用クーラーから、水冷コンデンサー2C1と膨張弁3とをつなぐ高圧ガスパイプ5を取り去り、追加水冷コンデンサー2C2を追加して水冷コンデンサー2C1とつなぎ、追加水冷コンデンサー2C2を出たガス回路はガスパイプ7で膨張弁3とつなぐ。この場合、追加水冷コンデンサー2C2の放熱水回路は図示のように、水冷コンデンサー2C1と共通にしてもよく、又別回路にしてもよい。いずれの場合も追加水冷コンデンサー2C2入りのガス温度より、追加水冷コンデンサー2C2出のガス温度を1°C以上低くする。したがって追加水冷コンデンサー2C2を出たガス温度は水冷コンデンサー2C1出のガス温度より低くなっている。現在、フロンガスHCFC22で運転されている水冷コンデンサーを使用している8HPの通常クーラーの改造前の測定では、既設の水冷コンデンサーでの放熱量1時間当たり、16,000Kcalであり、当然クーラーは正常に運転されていたものである。現用のフロンガスを抜き取り、既設の水冷コンデンサー2C1のあとに、追加水冷コンデンサー2C2を設置し、この追加水冷コンデンサー2C2の放熱はラジエーター8で行った。冷媒ガスを新代替冷媒ガスHFC134aと交換し、クーラーを運転し、水冷コンデンサー2C1、追加水冷コンデンサー2C2の双方を作動させて測定したところ、水冷コンデンサー2C1の放熱量は1時間当り10,500Kcal、追加水冷コンデンサー2C2の放熱量は1時間当り5,000Kcalであり、全体として若干の減少がみられたが、冷房能力は大差なく、レトロフィットしたクーラーは、正常に運転を継続することができた。
【0018】
図4に示すものは、水冷コンデンサーを使用している現用クーラーに空冷コンデンサー追設した第4の実施例であって、コンプレッサー1、水冷コンデンサー2C1、膨張弁3を高圧ガスパイプ5でつなぎ、膨張弁3、蒸発器4、コンプレッサー1を低圧ガスパイプ6でつないだ現用クーラーから、水冷コンデンサー2C1と膨張弁3とをつなぐ高圧ガスパイプ5を取り去り、追加空冷コンデンサー2Bを追加して水冷コンデンサー2C1とつなぎ、空冷コンデンサー2Bを出たガス回路は、ガスパイプ7で膨張弁3とつなぐ。コンプレッサー1から吐出された冷媒ガスは、水冷コンデンサー2C1で冷却水と熱交換したのち、追加空冷コンデンサー2Bに送られて大気と熱交換し、完全液化して膨張弁3に送られて減圧し、蒸発器4に送られる。この場合、追加空冷コンデンサー2B入りのガス温度より、追加空冷コンデンサー2B出のガス温度を1°C以上低くする。従って、追加空冷コンデンサー2B出のガス温度は水冷コンデンサー2C1出のガス温度より低くなっている。
【0019】
以上のように、現在使用されているクーラーの水冷コンデンサー2C1のあとに、水冷コンデンサー2C2を追加した場合も、空冷コンデンサー2Aのあとに水冷コンデンサー2C2を追加した何れの場合も、追加コンデンサーで冷媒ガスの放熱カロリーをすべて放熱し、放熱能力の若干の余裕を追加コンデンサーに与えた時は、現在使用されているクーラーをレトロフィットすることにより、新代替冷媒ガスHFC134aで現用クーラーの運転は可能となる。
【0020】
なお、追加コンデンサーは、空冷コンデンサーより水冷コンデンサーの方が泡のない完全液化した状態になりやすいようである。冷却水源のない車両用、移動用のクーラーの場合は、水冷コンデンサーを使用し、この水冷コンデンサーの冷却水をラジエーター等の放熱器で放熱する。このようにすると実質的には空冷とということになるが、この方が容積的にも効率的にも好適であったが、この理由も詳らかではない。したがって、追加コンデンサーとして水冷コンデンサーにラジエーター等の放熱器を配して大気と熱交換させる形式の追加コンデンサーをレトロフィットすることによって、特定フロンCFC12、代替フロンHCFC22等の冷媒ガスを使用している自動車、鉄道車両、コンテナ等の冷房も新代替冷媒ガス134aへの変換ができ、現在使用されているオゾン層への影響が懸念される特定フロンCFC、代替フロンHCFC等の使用を廃止することが可能となる。
【0021】
図5に示すものは、現在JRで標準形式として使用されているクーラーに、本発明によるレトロフィットを施した第5実施例であって、JR西日本、鷹取工場で行われた報告書に基づき説明する。なお、図面として、同報告書添付のものを流用したので、他の図面と配置及び描法が異なっている。
【0022】
報告書には次の通り記載されている。
目的
1 資料AB6289 AU75BH(三菱製)
2 試験内容(1)現状の冷房能力(吸い込み、吐きだし温度)の確認
(2)機器追加による冷房能力(吸込み、吐出し温度)の確認
(3)冷媒の変更による冷房能力(吸込み、吐出し温度)の確認〔第2凝縮器(本発明の追加コンデンサーに相当する。以下同じ)のみ取り付けの場合を含む〕
(4)冷媒の変更及び機器追加による運転状況の確認
3 機器回路 図5に示す通り。
4 追加する機器
(1)第2凝縮器(水冷)30リットル(500×500×120)冷媒管(3/8インチ)全長約20メートル
(2)ラジエーター(冷却ファン2個付)カルソニックE15-A/T用
(3)水ポンプ エバラ25LPD6.25S出力250W
(4)膨張弁
(5)第2蒸発器(本発明の追加蒸発器に相当する。以下同じ)
▲1▼1/2インチ銅管を配管中心間距離220mmで巻いたもの 全長約10m
5 使用する冷媒
(1)R22
(2)R134a
6 測定機器及び方法
データレコーダー:横河ハイブリッドレコーダーHR2300
熱電対:タイプT及びK
データ採取点:▲1▼蒸発器吸込み風温
:▲2▼蒸発器吐出し風温
:▲3▼凝縮器出口風温
:▲4▼コンプレッサー出口温度
:▲5▼コンプレッサー入口温度
:▲6▼キャピラリ入口温度
:▲7▼第2凝縮器水温
:▲8▼ラジエーター風温
:▲9▼外気温
結論
1.改良前の状態で吸込み、吐出し温度の差は、約9°Cであった。
2.第2凝縮器を追加することで、AU75BH型クーラーを新冷媒(R134a)で運転することができた。またこの時、使用電力量は20%程度下がった。
3.従来の冷媒(R22)のままで第2凝縮器を追加した場合、13%程度の性能向上が確認できた。(一時的に最高30%の向上があった)
4.新冷媒で第2凝縮器に加え、第2蒸発器、膨張弁を追加することで、ない時と比較して最高20%の性能向上があった。
(付記)
1.従来、新ガス(R134a)ではコンプレッサー、および蒸発器を大型のものと交換しなければ、運転できないとされてきたが、今回の実験で第2凝縮器を追加するだけで運転は可能であった。
2.新ガス(R134a)はオイル馴染みが悪く、オイル分離によるコンプレッサーの加熱が懸念されたが、コンプレッサーの出口温度で70°Cを下回っており現状と大差なかった。
3.新ガス(R134a)は、本来の性能が出るまで2時間程度必要であった。
4.今回の実験で新ガス(R134a)を利用して述べ13時間の運転を行なった。
【0023】
測定結果として、表1、表2が添付されている。
【0024】
【表1】

【0025】
【表2】

【0026】
この報告書の結論2.にあるように、第2凝縮器(追加コンデンサー)を追加し新代替冷媒ガス134aで運転した場合、使用電力量が20%程度下がったことは、新しい知見であって、予期しなかったところである。しかも表1によれば、蒸発器の吸込み風温と吐出し風温の温度差は平均1.2°C増加しており、冷房能力の向上が見られる。この報告書には第2凝縮器(追加コンデンサー)について、「第2凝縮器(水冷)」と記載さているが、「追加する機器」の項に記載されている(1)、(2)、(3)を図2のように配管し、冷却水を水ポンプ9で循環させ、ラジエーターで放熱したもので、実質的には空冷となる。なお、この試験において、潤滑油は従来使用していたメーカー指定のもの(鉱物油系のものである)を使用した。
【0027】
図6に示すものは、水冷コンデンサーを使用している現用クーラーに水冷コンデンサー追設し、さらにガス温度を感知して弁が開閉する追加膨張弁3aと、低圧ガスパイプ6に感温筒13とを追加し、感温筒が感知した温度を伝えるパイプ14と低圧ガスパイプ内の圧力を追加した膨張弁3aに伝えるガスパイプ15を設けた第6の実施例であって、クーラー能力は2HP、新代替冷媒ガスHFC134aは2Kgを使用した。測定個所、測定対象及び測定値は表3の通りである。
【0028】
【表3】

【0029】
表3に示す通り大気温のかなり低いときであるが、新代替冷媒ガスHFC134aを使用したクーラーは正常に作動しているのである。
【0030】
図7に示すものは、空冷コンデンサーを使用している現用クーラーに水タンク型熱交換器2Cを追設し、さらにガス温度を感知して弁が開閉する追加膨張弁3aと、低圧ガスパイプ6に感温筒13とを追加し、感温筒が感知した温度を伝えるパイプ14と低圧ガスパイプ内の圧力を追加した膨張弁3aに伝えるガスパイプ15を設けた第7実施例である。図示のように、空冷コンデンサー2Bのあとに、水タンク2Cを設置し、2C内にガスパイプ10を取り付け、コンプレッサー1、空冷コンデンサー2B、水タンク内ガスパイプ10、膨張弁3を高圧ガスパイプ7で結び、膨張弁3、蒸発器4、コンプレッサー1を低圧ガスパイプ6で結ぶ。水タンク2Cに水を入れてクーラーを運転すると、空冷コンデンサーだけでは放熱が不充分で、放熱カロリーの残っている冷媒ガスは、水タンク2C内のガスパイプ10に入り、水タンク2C内の水と熱交換して放熱する。このときも放熱カロリーすべてなくなる迄ガスパイプ10を延ばし、そのあとにもガスパイプに余裕を持たせるのである。放熱カロリーがすべてなくなると、水タンク2Cを出たガス温度は、2C内の水温と同温になり、更にガスパイプを延長すると、2C内の最後に接した水温よりガス温度は1°C以上低くなる。しかしこの時水タンク2Cを出たあとのガスパイプが縦方向にある時は、液化したガスが充満してガスパイプ内に隙間ができないので、ガス温度は水温より低くならないときがある。この水タンク2C内の水温度はガスの放熱により、当然上昇する。水温が上昇すると2Cの水タンクに大気を送って冷却するか、図7にあるように、追加膨張弁3Aを出たガスパイプ7から分岐した水タンク2C内を通る低圧ガスパイプ11を設け、水タンク2C内で冷媒ガスを蒸発させて水温を下げるようにする。この冷媒ガスの流量を調節する必要があるときは、バルブ12を設ける。この水タンク2C内の水温は大気温度プラス10°C以内とするとクーラーの運転状態はよくなる。この実施例のものは、空冷コンデンサー2Aのあとに、水タンク2Cを設置したもので、新代替冷媒ガスHFC134aは2Kg使用した。測定個所、測定対象及び測定値は表4の通りである。
【0031】
【表4】

【0032】
表4に示す状態で連続運転しているが何ら異常はなく、屋外、屋内等で正常に作動しており、屋外でのクーラーの運転状態を測定した大分県工業試験場の試験書も交付されている。
【0033】
図8に示すものは、空冷コンデンサーを使用している現用クーラーに空冷コンデンサー追設した第8の実施例であって、空冷スポットクーラーをレトロフィットしたものである。図示のようにコンプレッサー1、空冷コンデンサー2A、膨張弁3A、蒸発器4Aよりなるクーラーに、空冷コンデンサー2Aのあとに、空冷コンデンサー2Bを追加し、空冷コンデンサー2Bにつないだガスパイプ5Aを分岐してガスパイプ5Bを付け、ガスパイプ5Bに追加膨張弁3B、ガスパイプ6B、追加蒸発器4Bとつなぎ、追加蒸発器4Bとガスパイプ6Aをガスパイプ6Bでつないで蒸発器4A、4Bを出たガスは合流してコンプレッサー1に戻るようにしたものである。追加空冷コンデンサー2Bは2Aの約30%の能力である。追加蒸発器4Bも4Aの約30%の能力である。蒸発器4Aを出た大気が追加蒸発器4Bを通って熱交換するようにしたのである。膨張弁3Bを作動させて蒸発器を4A、4B共に作動させた状態を表5に、蒸発器4Aだけを作動させた状態を表6に示す。
【0034】
【表5】

【0035】
【表6】

【0036】
表5、表6に示す通り、新代替冷媒ガスHFC134aを使用して、クーラーは正常に作動している。追加した空冷コンデンサー2Bでのガス下降温度、表5、3.6°C、表6、3.2°Cが重要である。この放熱によって冷却能力を増大させると共に、冷媒ガスは完全液化してオイルの分離をなくし、泡がなくなり、膨張弁、キヤピラルチューブ等の細径部でのガスの流量も増大するのである。その結果、運転圧力の低いHFC134aの冷媒ガスを使用しても、クーラーの運転が可能となる。また、膨張弁3B、蒸発器4Bを追加することにより、蒸発器での吸込、吹出し大気温度差も1.5°C拡がり、蒸発器4Bを追加した効果も表われている。
【0037】
図9に示す実施例は、図8に示す600Wスポットクーラーに、水タンク型熱交換器を追加した第9実施例である。図8に示すクーラーの追加空冷コンデンサー2Bと並列に、水タンク型熱交換器2Cを設置し、切り換え弁16を設け、空冷コンデンサー2B、水タンク型熱交換器2Cの何れかを作動させるようにする。水タンク型熱交換器2Cは内部に2分のガスパイプ15mを巻き、水量は2.5lとした。コンプレッサー1から吐出された冷媒ガスが空冷コンデンサー2A、追加コンデンサー2Bを通り、ガスパイプ5Aを分離してガスパイプ5A、ガスパイプ5Bとし、ガスパイプ5Aに膨張弁3A、蒸発器4Aとつなぎ、ガスパイプ5Bに追加膨張弁3B、追加蒸発器4Bとつないで、蒸発器4A、4B共に作動させた状態を表7に示す。
【0038】
【表7】

【0039】
追加空冷コンデンサー2Bを作動させず、空冷コンデンサー2Aのあとに水タンク型熱交換器2Cを作動させて、蒸発器4A、4B共に作動させた状態を表8に示す。
【0040】
【表8】

【0041】
表7、表8を比較すると、表7の場合より表8の場合は大気温度が2°C低いが、ガス高圧は4.4KgCm2高く、コンプレッサーよりの吐出ガス温度も、3.7°C高くなっている。空冷コンデンサー2Aでのガス温度の下降も多く、その分水タンク型熱交換器2Cでのガス温度の下降が少なくなっている。したがって、水タンク型熱交換器2C内の水温により、任意に圧力を高くすることが出来ることになる。これによって、運転圧力が低い新代替冷媒ガスHFC134aを使用しても、必要に応じて圧力を高くし、クーラーを運転することができることになる。
【0042】
上記いずれの実施例の場合も、潤滑油は従来使用していた鉱物油系のものを使用したが、各測定値に示す通りコンプレッサーの過熱は見られなかった。この理由も詳らかでないが、新代替冷媒ガス134aを完全液化した泡のない状態で運転することによって、鉱物系の潤滑油と馴染み、或いは共存して運転されているように解される。従って、エステル系の潤滑油を使用した場合に必要なパッキングの材質の変更、含水によるスラリー発生に対する考慮等の必要がなく、適正容量の追加コンデンサーを設置するだけで、現用クーラーのレトロフィットができるのである。
【0043】
従って、家庭用クーラー等の電動機とコンプレッサーが一体となっているクーラーも、潤滑油の変更による絶縁の低下等のおそれがないので、実施例6、7の示すところにより、新代替冷媒ガス134aへの転換を行うことができることになる。
【0044】
追加コンデンサー又は水タンク型熱交換器等の放熱器によるガス温度の低下は、表3〜表8の測定値に示すように1.1°C〜3.6°Cである。一般に、コンデンサーの放熱量は、クーラーのように蒸発温度の高いときは、冷凍量の1.2倍に取れば充分である、とされているが、上記それぞれの実施例の測定値から新代替冷媒ガス134aを使用する場合は、この程度の余裕では不充分で、さらに10〜30%の追加を必要とするようである。この場合の目安として、液面計によるガス状態の目視が有効であるが、レトロフィットには液面計の挿入、撤去の作業を要することになるので、液面計にる目視に代えて追加コンデンサー又は水タンク型熱交換器等の放熱器によるガス温度の低下を目安として採用することにしたものである。その温度差は、上述の実施例のデータよりして、1°C以上であるが、この温度差は大きくするためには追加コンデンサー又は水タンク型熱交換器の放熱量を大きくする必要があるので、1〜5°C程度が望ましい。
【0045】
また、蒸発器を追加することも冷房能力の増加に有効であるが、図5及び図8に示す実施例の測定値に見られるように、コンデンサーの追加ほどの大きな効果はなく、図5の実施例の報告書に見られるように追加コンデンサー(第2凝縮器)を追加することだけで、現用クーラーの新代替冷媒ガス134aによる運転が可能となる場合がある。さらに、図5の実施例のようにキャピラルチューブを膨張弁の代わりに使用している機種にあっては、膨張弁を追加することで冷房能力の向上が見られ、さらに第2蒸発器(追加蒸発器)を追加することで、これらがない時と比較して最高20%程度のの性能向上が認められた。
【0046】
以上に述べた実施例の計測結果から、すべてのクーラーに実施して性能を低下させず、正常に運転できる、と速断することはできないであろうが、特定メーカーの特定機種については、適切なレトロフィットが行え、かつ潤滑油も従来のもの(鉱物油系のものにかぎらず)で運転でき、最適化が行えることを示唆するものである。
【0047】
【発明の効果】
本発明によって現用クーラーをレトロフィットし、本発明の運転方法を採ることにより、現用のフロンガスを抜き取り、新代替冷媒ガス134aと入れ換えてクーラーの使用継続が可能となるので、オゾン層に影響を及ぼすことなしに現用クーラーによる冷房が出来ることになり、地球環境を守ることに繋がる。しかも、理由は詳らかでないが、新代替冷媒ガス134aを完全液化すると従来使用されていた鉱物油系の潤滑油との馴染みがよく、冷房能力が低下することなく、むしろ最適化することによっては20%程度の冷房能力の向上が期待できる効果も得られた。
【0048】
さらに、鉱物油系の潤滑油を使用して冷房能力を低下させることなく運転できるので、コンプレッサーが電動機と一体となっている家庭用クーラー、自動販売機、ショーケース等にも冷媒ガスの含水による絶縁低下やパッキングの劣化等のおそれなく、本発明を実施することができるものである。この場合、電動機等に損傷を与えない合成油系の潤滑油を使用できることは勿論であり、又、自動車用クーラー等をレトロフィットする場合にも、必要に応じて、合成油系、あるいはエステル系等の潤滑油をしようすることができることも当然である。さらに、新代替冷媒ガス134aを含有する混合ガスを使用する場合も同様である。
【図面の簡単な説明】
【図1】
空冷コンデンサーに追加空冷コンデンサーを追設した、第1実施例の略図である。
【図2】
空冷コンデンサーに追加水冷コンデンサーを追設した、第2実施例の略図である。
【図3】
水冷コンデンサーに追加水冷コンデンサーを追設した、第3実施例の略図である。
【図4】
水冷コンデンサーに追加空冷コンデンサーを追設した、第4実施例の略図である。
【図5】
車両用クーラーに本発明を実施した第5実施例の略図である。
【図6】
水冷セパレート型クーラーに本発明を実施した第6実施例の略図である。
【図7】
空冷クーラーに本発明を実施した第7実施例の略図である。
【図8】
スポット型クーラーに本発明を実施した第8実施例の略図である。
【図9】
スポット型クーラーに本発明を実施した第9実施例の略図である。
【符号の説明】
1・・・・・コンプレッサー
2A・・・・通常空冷コンデンサー
2B・・・・追加空冷コンデンサー
2C・・・・水タンク型熱交換器
2C1・・・通常水冷コンデンサー
2C2・・・追加水冷コンデンサー
3・・・・・膨張弁
3A・・・・通常膨張弁
3B・・・・追加膨張弁
4・・・・・蒸発器
4A・・・・通常蒸発器
4B・・・・追加蒸発器
5・・・・・高圧ガスパイプ
5A・・・・通常高圧ガスパイプ
5B・・・・追加高圧ガスパイプ
6・・・・・低圧ガスパイプ
6A・・・・通常低圧ガスパイプ
6A・・・・追加低圧ガスパイプ
7・・・・・追加コンデンサーと膨張弁をつなぐガスパイプ
8・・・・・水温放熱器
9・・・・・水ポンプ
10・・・・水パイプ
11・・・・水タンク2C内を通る低圧ガスパイプ
12・・・・水タンク2C内を通る蒸発ガスを調節するバルブ
13・・・・感温筒
14・・・・感温筒お温度を膨張弁3’に伝えるパイプ
15・・・・低圧ガスパイプ内の圧力を膨張弁3’に伝えるガスパイプ
16・・・・切り換え弁
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2006-01-24 
結審通知日 2005-06-14 
審決日 2006-02-08 
出願番号 特願平6-213134
審決分類 P 1 113・ 854- ZA (F25B)
P 1 113・ 832- ZA (F25B)
P 1 113・ 121- ZA (F25B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 荘司 英史  
特許庁審判長 小椋 正幸
特許庁審判官 長浜 義憲
佐野 遵
岡本 昌直
東 勝之
登録日 2003-08-29 
登録番号 特許第3466726号(P3466726)
発明の名称 クーラーの運転方法及びクーラーのレトロフィット方法  
代理人 三好 秀和  
代理人 井上 裕史  
代理人 村林 隆一  
代理人 三好 秀和  

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