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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G01N
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G01N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G01N
管理番号 1137246
審判番号 不服2001-6315  
総通号数 79 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2000-03-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2001-04-20 
確定日 2006-06-09 
事件の表示 平成11年特許願162937号「密封包装物の検査方法」拒絶査定に対する審判事件〔(平成11年6月9日、特開2000-088788)、請求項の数(4)〕についてされた平成15年12月19日付け審決に対し、東京高等裁判所において審決取消の判決〔平成16年(行ケ)第53号、平成16年11月17日判決言渡し〕があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 [1]手続の経緯

出 願 ;平成11年6月9日
拒絶理由通知;平成11年12月15日(特29条2項)
拒絶査定 ;平成13年3月16日(特29条2項)
審判請求 ;平成13年4月20日
審 決 ;平成15年12月19日
出 訴 ;平成16年2月10日
判 決 ;平成16年11月17日
拒絶理由通知;平成17年2月4日(特36条4項、6項)
意見書・手続補正書;平成17年4月8日

[2]判決の判示の概要
「6 被告は,補正発明の充電方法では,電気絶縁性被膜2を微少の電流が流れなければ内容物1に充電されるはずがないと主張するが,内容物1は電気絶縁性被膜2を介して電極4に接触ないし近接配置され,帯電されるにすぎない。電気絶縁性被膜2を介して電流が流れることは通常考えられないし,内容物1に充電するためには,高圧電源の一方の極から内容物を通って他方の極に戻る回路が形成される必要があるが,そのような構成は,請求項にも発明の詳細な説明にも記載されていない。また,電極4を密封包装物の側面部に近接させるだけでも帯電させることができるのであるから,被告の主張は理由がない。
もっとも,内容物1がアースに対してわずかな静電容量を有し,内容物1とアースとの間に,「人体コンデンサー」と同様なコンデンサが形成されることも考えられる。しかし,内容物1とアースとの間の静電容量は,内容物1と電極4との間に形成される静電容量と比べるとはるかに小さいものと考えられ,このコンデンサによる影響は考慮する必要がないものと解される。」(15頁)

[3]特許法第36条第4項および第6項違反
(1)当審において平成17年2月4日付けで通知した拒絶の理由の概要は、「請求項1ないし4に係る発明は明確でなく、また、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1ないし4に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないから、この出願は、特許法第36条第4項および第6項第2号に規定する要件を満たしていない。」というものであり、指摘した不備な点は次のとおりである。

「1.請求項1には、「導電性を有する流動物乃至粉体又は食品等の内容物1を電気絶縁性被膜2で被包した密封包装物3のピンホールを検査するための方法であって、該密封包装物3の側面部31に高圧電源6の電圧出力端子からの単一の電極4を接触乃至近接せしめて該密封包装物3内の内容物1に帯電せしめ」と記載され、発明の詳細な説明にも同様の記載があるが、電気絶縁性被膜で被包した内容物に単一の電極を接触乃至近接せしめて内容物1に帯電するとは、どのようなことか不明である。周知技術である単一電極による充電との違いを明確に説明されたい。

1-1 この点に関し、請求人は審判請求書において、「本願発明においては高圧電源の電圧出力端子からの単一の電極を被検密封包装物の側面部に接触乃至近接せしめて閉回路を形成することなく該密封包装物内の内容物に帯電せしめる点に大きな意味があり、・・・」と主張し、また、平成16年(行ケ)53号審決取消訴訟(以下、「訴訟」という。)の手続きにおいて概略次の主張をした。
(1)本願発明は強電界による物質の原子のイオン化による帯電である。電気絶縁性被膜を微小の電流が流れることにより内容物が充電するものではない。
(2)本願発明では、密封包装物(従って内容物)が接地から浮いているし、電気絶縁性被膜(塩化ビニリデンフィルム、ナイロンとポリプロピレンの複合フィルム等)があるから、電気絶縁性被膜を微小の電流が流れることはない。

しかしながら、強電界により魚肉ソーセージなどの固体や生理食塩水などの液体が単一極性の電荷(マイナスのみ、又は、プラスのみ)にイオン化するとか、単一極性の電荷を蓄えられるとの技術常識はなく、刊行物あるいは公的な実験成績証明書をもって説明されたい。

なお、請求人は訴訟において、「強電界の領域での帯電は、高圧送電線に止まる雀の例でも理解することができる」と主張し、「読んで納得!図解で理解!電気のしくみ」や「電気・電子 なぜなぜおもしろ読本」なる刊行物の写しを提出したが、次の理由からそれらの刊行物は採用することができない。
そこには、強電界による物質の原子のイオン化ついて記載されていない。また、送電線に止まった雀やカラスに単一極性の電荷(マイナスのみ、又は、プラスのみ)を蓄えられることについて記載されていない。
むしろ、送電線に止まった雀やカラスには電荷が蓄えられていないと考えるべきで、仮に電荷が蓄えられてしまうと、雀やカラスが大地に降りた際に蓄えられた電荷が大地に流れて雀やカラスは感電してしまうであろう。
さらに、送電線に止まった雀の脚は電気絶縁性(塩化ビニリデンフィルム、ナイロンとポリプロピレンの複合フィルム等の電気絶縁性)と言えないから(このことは人体の皮膚と同様である)、「電気絶縁性被膜で被包した内容物に単一の電極を接触乃至近接せしめて内容物に帯電する」ことの説明にはならない。

1-2 密封包装物(従って内容物)が接地から浮いており、電気絶縁性被膜(塩化ビニリデンフィルム、ナイロンとポリプロピレンの複合フィルム等)を微小の電流(変位電流も含む)が流れることはないとすれば、接地から浮いている密封包装物(従って内容物)に発生するという単一極性の電荷がどこからもたらされたのか不明である。(電荷保存則に反する。)

2.絶縁物と言えども高電圧がかかると微小の導電電流が流れ、また、高電圧でなくても絶縁物には変位電流も流れるところ、本願の請求項1乃至4にも発明の詳細な説明にも密封包装物(従って内容物)を浮かせるための把持機構や支持機構が記載されておらず、当業者は閉回路を形成することなく、内容物への充電電流を流すことなく、どのように密封包装物(従って内容物)を浮かせることができるか容易に理解することも実施することもできない。

3.上記のように請求人は訴訟において、「電気絶縁性被膜(塩化ビニリデンフィルム、ナイロンとポリプロピレンの複合フィルム等)があるから、電気絶縁性被膜を微小の電流が流れることはない。」と主張したが、本願明細書には「ピンホールがない場合は、内容物1は帯電するが、静電気と同じく少しづつ放電して帯電はなくなる。」(【0009】の最後)と記載されており、帯電時には微小の電流も流さずに、検査終了後には少しづつ放電して帯電はなくなるような電気絶縁性被膜をどのように設定するのか不明である。

4.請求項1には、「被検部3aからの放電電流を検知して密封包装物3のピンホールを検出する」とあるが、「単一の電極4」が接触乃至近接している状態で検知する場合と、外した状態で検知する場合とでは、それぞれ原理が異なり、この電流は、どちらの状態で検知した電流か不明である。

5.段落番号【0008】に、「これにより、密封包装物3の側面部31に高圧電源6の電圧出力端子からの電極4を接触乃至近接せしめるとき該密封包装物3内の導電性を有する内容物1は、電極4にかかる高電圧(0.6kv〜30kv)のマイナス又はプラスの電位により帯電してマイナス(-)イオン又はプラス(+)イオンが発生する。」と記載され、図1にはマイナス(-)イオンのみが内容物全体に発生したように図示されているが、この「マイナス(-)イオン又はプラス(+)イオン」がどのように発生したのか不明であり、当業者は容易にこのことを実施することができない。
すなわち、閉回路がなく変位電流が流れず、あるいは、密封包装物3の側面部31を電荷が移動しないのであれば、マイナス(-)イオン又はプラス(+)イオンを発生させるための電荷はどこから供給されるのかが不明である。もし内容物の外部から電荷が供給されずに内容物にマイナス(-)イオン又はプラス(+)イオンが発生するというならば、電荷保存の法則に反している。

6.段落番号【0012】に、「また、高圧電源6として交流高圧電源を使用することも可能で、この交流高圧電源6の電圧出力端子からの電極4には放電電流検知装置でプラス(+),マイナス(-)交互に帯電する内容物電荷からのピンホールを通した放電を検知できるように、密封包装物3の側面部31を接触させて載置できる支持電極を使用することが望ましい。」と記載されているが、この場合の放電の検知は、支持電極が接触している状態で検知しているのか、外された状態で検知されているのか、もし、接触している状態で検知するのであれば、拒絶査定時に拒絶の理由として引用された特開昭59-125035号公報および特開平10-300727号公報との違いを明確にされたい。また、電極を外した状態で検知するのであれば、どのように検知されるのか不明である。

7.段落番号【0013】に、「前記高圧電源として交流高圧電源を使用すると、直流高圧電源を使用した場合に比べて検査が繰り返し可能な利点がある。これは、直流を使用して内容物に帯電した電荷がピンホールを通し数回放電する場合、内容物によって何度かすると放電しにくくなるが交流ではそのようなことはない。」と記載されているか、なぜそのようなことが起こるのか、不明である。(「内容物によって何度かすると放電しにくくなる」とは、帯電によって内容物が変質するということか?)

8.同段落に、「交流では製品は帯電がプラス(+)、マイナス(-)交互に繰り返されたため帯電したまま残らないという利点がある。」と記載されているが、例えば最初にプラス(+)の電荷が発生したとして、与える高電圧の極性を変えてもプラス(+)の電荷が消滅するはずはないからプラス(+)の電荷の行方が不明である。」

(2)請求人は、当審の拒絶理由通知に対し、平成17年4月8日付けで意見書と手続補正書を提出し、特許請求の範囲の請求項1ないし3を次のように補正するとともに発明の詳細な説明の記載も補正した。(以下、補正された請求項1ないし3に記載された方法および対応して発明の詳細な説明に記載された方法を「本件方法1」、「本件方法2」、「本件方法3」という。)

「【請求項1】
導電性を有する流動物乃至粉体又は食品等の内容物1を電気絶縁性被膜2で被包した密封包装物3のピンホールを検査するための方法であって、該密封包装物3の側面部31に高圧電源6の出力端子からの単一の電極4を接触乃至近接せしめて高電圧のかかった該電極4による電界により該密封包装物3内の内容物1に電気絶縁性被膜2を介して帯電せしめ、次いで、該密封包装物3の被検部3aに密接乃至近接対面せしめた電極5を接地せしめ、被検部3aにピンホールがあるとき該ピンホールを介してイオンの電荷を放電せしめ、 被検部3aからの放電電流を検知して密封包装物3のピンホールを検出することを特徴とする密封包装物の検査方法。

【請求項2】
高圧電源6が直流高圧電源であって、高圧電源6の電圧出力端子からの単一の電極4は導電子であり、該導電子4により密封包装物3内の内容物1に帯電せしめた後、導電子4の接触乃至近接を解除せしめることを特徴とする請求項1記載の密封包装物の検査方法。
【請求項3】
高圧電源6が交流高圧電源であって、高圧電源6の電圧出力端子からの単一の電極4である密封包装物3の側面部31の支持電極4により密封包装物3を支持して放電電流を検知することを特徴とする請求項1記載の密封包装物の検査方法。」

(3)以下、説示するように上記補正によっても、依然、当審拒絶理由通知で指摘した記載不備は解消されておらず、また、「電気絶縁性被膜2を介して帯電せしめ」という当初明細書に記載されていない補正(請求項1、【0007】)により、さらに特許請求の範囲の記載と本件発明の詳細な説明の記載を不明りょうなものとしたから、この出願は特許法第36条第4項および第6項に規定する要件を満たしていない。

(3-1)当審拒絶理由の理由1について
(a)請求人は、「・・・単一の電極4を接触乃至近接せしめて高電圧のかかった該電極4による電界により該密封包装物3内の内容物1に電気絶縁性被膜2を介して帯電せしめ、」と補正して、「内容物1に帯電する」ということを明確にした。」と主張(意見書1頁B.(1))するが、請求人が補正の根拠とする【0008】には、「電気絶縁性被膜2を介して帯電」なる記載はなく、「電気絶縁性被膜2を介して電流が流れることは通常考えられないし」(判決の判示)、請求人は、「強電界による」と説明するのであるから電気絶縁性被膜の存在は問題とならず、「介して」という、電流(導電電流および変位電流)が流れるかのような用語を追加することは、かえって、電気絶縁性被膜を電流(導電電流および変位電流)が流れる従来技術との相違をあいまいにするものである。

(b)請求人は、当審拒絶理由の指摘を受けて、訴訟で主張・立証した高電圧による帯電についての説明を割愛し、新たに、「社団法人電気学会発行の「電気学会大学講座 物性論」第18頁の「3.原子のイオン化電圧の周期性」の写し(甲第1号証)を提出し、『中性原子に電界を与えたり,その他の方法で大きなエネルギーを与えたりすると,原子は一つあるいは,それ以上の最外殻電子を失って,正に帯電したイオンになる。』との記載を基に、「強電界による帯電(この場合、「電界を与えたり」と正の電界を意味するものにより単一極性の電荷のプラスのみの電荷によるイオン化)を示すものが記載されている。」と主張する(意見書2頁1-4.)。
しかしながら、上記記載は、電気絶縁性被膜で被包した導電性を有する流動物乃至粉体又は食品等の側面部に高電圧のかかった単一の電極を接触乃至近接せしめたことを説明するものではない。また、「強電界による帯電」との記載もない。

なお、本件の明細書中に実施例として挙げられた「生理食塩水」の場合で言えば、電解質の電離によってNa+イオンとCl-イオンが生じているが、高圧電源の電圧出力端子からの単一の電極を接触乃至近接させた事により、それらとは別に何かがイオン化するとは常識的に考えることは出来ない。

仮に、強電界によりイオン状態が生じたとしても、電極の接触乃至近接を解除した状態では強電界はないから、イオン状態は保たれず、仮に、イオン状態が電極の接触乃至近接を解除した後も維持されるのだとしても、どの程度の「時間スケール」でイオン状態が保たれるのかが本件明細書には記載されておらず、しかも、そのことが技術常識であったとも認められないから、当業者は「導電子4の接触乃至近接を解除」せしめた後、どの程度の時間経過後に「電極5を接地」せしめて放電電流を検知すればよいかにつき皆目見当がつかず、当業者が本件明細書の記載に基づいて本件方法2を容易に実施できるとは認められない。

(c)請求人は、大阪府立産業技術総合研究所の報告書の写し(甲第2号証)を提出し、この報告書に記載されたデータより高圧をかけた単一電極による帯電が理解できると主張している。
そこで、甲第2号証をみると、第2頁に測定方法として以下のことが記載・図示されている。
「測定方法
まず、図1のように交流高電圧発生装置(KIKUSUITOS5100)にアルミ板を介してピンホール検出用試料を接続した。次に、交流高電圧発生装置でアルミ板に5kVを印加しながらピンホール検出用資料に放電電極を近づけ、放電電流をカレントプローブとオシロスコープを用いて測定した。」

上記記載より、甲第2号証では交流高圧電源を使用しているから、直流高圧電源をかけた場合(本件方法1および本件方法2)について立証しておらず、まして、電極を解除した状態でも電荷が残っていることを立証していない。

さらに、甲第2号証では、交流高圧電源の電圧出力端子からの単一の電極を密封包装物の側面部に接触乃至近接せしめて、この単一電極を接触したままの状態で放電電流を測定できることを説明しているにすぎず、その放電電流が、請求人の主張する本件方法3の「帯電」によるものであると認めるには足りない。

(3-2)当審拒絶理由の理由2について
請求人は、「把持機構では、実施例3,5に示すように・・・図3、図5で示されており、また、実施例4、6に示されるように・・・図4、図6に示されており、何れも把持機構(この場合一対の電極5)により密封包装物を接地から浮かせることができるかを容易に理解し実施することが可能なことを示している。また、支持機構については、段落番号0017の実施例1の説明において・・・プラスチック製支持台により密封包装物を接地から浮かせることが可能なことを示している。」と主張している(意見書3頁2-3.)。
しかしながら、【0016】や【0021】には、金属製の支持部材が使用されることが記載されており、金属製の支持部材について電気的に浮いた状態にできる支持機構は不明であり、また、電気絶縁性被膜で被包した導電性を有する流動物乃至粉体又は食品等に強電界を与えることのできる支持機構も不明であるから、当業者は本件方法1ないし3を容易に実施することができない。

(3-3)当審拒絶理由の理由3について
請求人は、「密封包装物の内容物が帯電した後、内容物内で原子のイオン化されたものが、イオン化されていない原子(すなわち、原子内の陽子の持つプラス(+)の電荷と同じく原子内の電子の持つマイナス(-)の電荷を持つ原子)の電荷部分と逐次中和して少しづつ帯電がなくなるものと考えられ、電気絶縁性被膜の設定とは無関係であって、絶縁性が高ければ該被膜はどのように設定しても良いと考えます。」と主張している(意見書4頁3-2.)。
しかしながら、「逐次中和」なる説明には根拠がない。
しかも、本件明細書の段落番号【0009】の最後の3行には、「また、ピンホールがない場合は、内容物1は帯電するが、静電気と同じく少しずつ放電して帯電はなくなる。」と記載されており、放電とは、【0009】の前段の説明から明らかなように内容物から接地側に電荷が流れ出すことであって、請求人の主張は本件明細書の記載と相違するばかりでなく、矛盾する。

(3-4)当審拒絶理由の理由4について
請求項1に従属する請求項2と請求項3が補正されたことにより、請求項1における内容物1に帯電後の放電電流の検知の場合に、単一の電極4の接触乃至近接を解除せしめるもの(本件方法2)と、接触乃至接近させたもの(本件方法3)の両者が含まれていることとなった。このことは、請求人も自認するところである。(意見書4頁4-2.)
そうすると、後記(3-6)で説示するように、本件方法3(これを含む本件方法1も)については放電電流検知時に閉ループが形成されることが認められ、特開平10-300727号公報の従来技術(図1)で説明されている放電電流が生じるが、その電流を検知していないとする根拠が不明である。

(3-5)当審拒絶理由の理由5について
請求人は、「本願発明において、内容物1に対するマイナス(-)イオン又はプラス(+)イオンが発生するのは、高電圧のかかった電極4による高電界によるものであり、この高電界により電荷に影響を与え、マイナス(-)又はプラス(+)の電荷の一方の電荷が失われて帯電する(より正確に言うと、高電圧の作る高電界がもたらす電磁誘導作用により帯電と同じような状態(分極)になって、局所的にはイオン化と等価な状態になる)現象と考えられます。」と主張している(意見書5頁5-2.)。
しかしながら、請求人の主張には根拠がなく、不明である。(上記(3-1)参照)

本件方法2について再度言うと、仮に、直流高電圧電源の電圧出力端子からの単一電極を被検密封包装物に接触乃至は近接した状態で請求人の言う帯電や分極が起こるとしても、単一電極の接触乃至は近接を解除した状態では帯電や分極を維持しているとは考えられず、また、密封包装物内の内容物が放電電流を提供できる程度の電荷や電位を維持しているとは考えがたいから、本件方法2を実現できる根拠が不明であり、当業者は本件方法2(これを含む本件方法1も)を容易に理解することも実施することもできない。

(3-6)当審拒絶理由の理由6について
本件請求項3と【0012】の記載が補正されたので、本件方法3では支持電極が交流高圧電源から外されていない状態で放電電流を検知することが明らかとなった。このことは請求人も自認(意見書1頁B.(3))するところである。
そして、補正された請求項3、【0012】の記載および【0021】ないし【0024】の記載と図1(B)と図2(B)の対比からも認められることである。
そうすると、拒絶査定時に進歩性なしの拒絶査定の根拠として引用された特開平10-300727号公報の従来技術(図1)で説明されている(下記【0010】の記載参照)、ピンホールが存在した場合の小さなインピ-ダンスによる非常に大きな放電電流が本件方法3においても流れるはずであるから、仮に、請求人の主張する「単一の電極の電界により帯電した密封包装物の内容物の電荷」による放電電流が生じるとしても、それのみを検知することができず、結局、当業者は本件方法3(これを含む本件方法1も)を容易に実施することができない。

(3-7)当審拒絶理由の理由7について
請求人は、「直流の場合には、内容物の原子のイオン化したものが何度か放電すると内容物によって中和するのに時間がかかるのに対し、交流の場合には、プラス(+)、マイナス(-)交互に内容物が帯電するので帯電の極性がその都度変るため、そのようなことがないと考えられます。」と主張(意見書6頁7-2.)するが、
まず、直流の場合での「原子のイオン化」、「放電」、「内容物によって中和」は前述したとおり根拠がなく不明である。
交流の場合についての上記主張は根拠がなく意味不明である。また、前述したところからみても不明である。

(3-8)当審拒絶理由の理由8について
請求人は、「例えば最初にプラス(+)の電荷が発生したとして、与える高電圧の極性がマイナス(-)に変った」とき、与える高電圧の極性がマイナス(-)に変ることにより、プラス(+)の電荷が中和して帯電がなくなり、マイナス(-)の電荷が発生するが、中和の程度によりプラス(+)の電荷はなくなるか、又は消滅せずに発生したマイナス(-)の電荷(を持った原子)間に混在すると考えます。」と主張(意見書6頁8-2.)するが、
中和して帯電がなくなるとか、中和の程度によりプラス(+)の電荷はなくなるとか、消滅せずに発生したマイナス(-)の電荷(を持った原子)間に混在するとか、の説明は根拠がなく意味不明である。


[4]特許法第29条第2項違反
(1)本件方法1ないし本件方法3および本件明細書の記載には上記のとおり不備があるが、「(3-6)当審拒絶理由の理由6について」で示したように、本件方法3では、放電電流検知時に閉ループが形成されることが認められ、進歩性なしの拒絶査定の根拠として引用された特開平10-300727号公報(以下、「刊行物」という。)で説明されている電流も生じるはずであり、その点で、本件方法3と刊行物に記載された発明とを対比・判断することができるので、以下、原査定の理由である特許法第29条第2項について検討する。

(2)本件方法3は、引用している請求項1の記載を読み込むと、
「導電性を有する流動物乃至粉体又は食品等の内容物1を電気絶縁性被膜2で被包した密封包装物3のピンホールを検査するための方法であって、交流高圧電源6の電圧出力端子からの単一の電極4である密封包装物3の側面部31の支持電極4により該密封包装物3を支持して、交流高電圧のかかった該電極4による電界により該密封包装物3内の内容物1に電気絶縁性被膜2を介して帯電せしめ、次いで、該密封包装物3の被検部3aに密接乃至近接対面せしめた電極5を接地せしめ、被検部3aにピンホールがあるとき該ピンホールを介してイオンの電荷を放電せしめ、 被検部3aからの放電電流を検知して密封包装物3のピンホールを検出することを特徴とする密封包装物の検査方法。」
であると認められる。

(3)刊行物には、次の事項が記載されている。
「【0003】
図1は、従来例としてのピンホール検査装置の回路構成を示す概要図である。
【0004】
図中、ピンホール検査の対象物の一例としての食品101は、導電性のある内容物101bを電気絶縁性のある薄い包装材101aで密封したものである。この食品101は、その上部面に先端部の面積が小さい形状の第1電極102aが配置され、下部面には面積の大きい第2電極102bが配置されている。
【0005】
巻線トランス104は、交流電源103から交流電圧を印加されることにより、2次側に交流高電圧を発生し、その交流高電圧を第1電極102aと第2電極102bとに印加する。そこで、第2電極102bとグランド間に電流検出抵抗105(Rd)を直列に接続し、第1電極102aと第2電極102b間に流れる電流を、電流検出抵抗105の両端間に生じた交流電圧とし、その交流電圧を整流回路106により直流電圧に変換する。そして、電圧比較回路107は、整流回路106からの直流電圧を、予め設定した基準電圧と比較することにより判別信号を出力する。ここで、基準電圧には、ピンホールが存在する場合に整流回路106から出力される直流電圧よりは小さく、且つ通常動作時動作時の整流回路106の出力電圧よりは大きな電圧を設定すればよいことは言うまでもない。」

「【0010】また、食品の包装材にピンホールが存在しない場合には、C1のインピーダンスXC1は非常に大きく、回路には微弱な電流しか流れない。一方、ピンホールが第1電極102aの下、或いはその近傍に存在すると、第1電極102aと食品の内容物1aとの間に印加されている電圧Vc1によって、ピンホールを通じて火花放電が発生し、ピンホールが無い時に流れていた電流と比較して非常に大きな放電電流が流れることになる。従って、この電流を検出抵抗105(Rd)で電圧に変換後、整流回路7により直流電圧に変換し、その直流電圧が予め設定されている基準値より大きいか否かを電圧比較回路107にて比較することでピンホールの有無が検出可能となる。」

「【0038】図7は、本発明の第2の実施形態としてのピンホール検査装置の回路構成を示す概要図である。本実施形態の構成において第1の実施形態(図4)と異なるのは、同図に示すように圧電トランス4の出力電流を、図1の場合と同様に第2電極2bとグランド間に電流検出抵抗5(Rd)を直列に接続し、第1電極2aと第2電極2b間に流れる電流を、電流検出抵抗5の両端間に生じた交流電圧とし、その交流電圧を整流回路6により直流電圧に変換していることである。以下、その検出原理について説明する。
【0039】・・・
【0040】・・・(3)式の関係において出力電圧Vの低下が過渡的に遅れることにより、瞬間的に電流I1が増加する。従って、この瞬間的な電流I1の増加を、検出抵抗5及び整流回路6で検出することによってピンホールを検出することができる。
【0041】また、本実施形態においても、包装材1aにピンホールが有る場合は圧電トランス4の出力電圧Vが低下するため、第1電極2aと内容物1b間の印加電圧により放電が生じた場合であってもその放電が長時間継続することは防止でき、包装材1aが融けてしまい内容物1bが漏れ出すのを防止できる。」

(4)対比・判断
ア 本件方法3において、交流高圧電源と単一の電極4(=支持電極)との電気的接続を外すとの限定はないから、密封包装物3の被検部3aに密接乃至近接対面せしめた電極5を接地せしめ、放電電流を検知する際にも接続されていると認められ、そうすると、「次いで」は「電圧がかかった後で」の意味となる。

他方、刊行物に記載された回路でも放電電流検知する際に交流高圧電源と「第1電極」が接続されており、密封包装物を支持する「第2電極」から検出抵抗を通じて接地へ流れる放電電流を検知できるのは、「電圧がかかった後」であることは明らかである。また、2つの電極に高電圧がかかれば電極間に強電界を生じることも明らかである。
そして、【0010】の記載から、包装材にピンホールが第1電極の下、或いは、その近傍に存在するとピンホールを通じて放電電流が流れることが認められる。

したがって、本件方法3と刊行物に記載された発明とは、
「導電性を有する流動物乃至粉体又は食品等の内容物を電気絶縁性被膜で被包した密封包装物のピンホールを検査するための方法であって、単一の電極である密封包装物の側面部の支持電極により該密封包装物を支持し、密封包装物の被検部に密接乃至近接対面せしめた電極により被検部にピンホールがあるとき該ピンホールを介して電荷を放電せしめ、 被検部からの放電電流を検知して密封包装物のピンホールを検出することを特徴とする密封包装物の検査方法。」
である点で一致し、次の点で相違すると認められる。

(相違点1)
本件方法3では、交流高圧電源の出力端子と単一の電極である密封包装物の側面部の支持電極とが接続されており、その電極に交流高電圧がかかった後で、密封包装物の被検部に密接乃至近接対面せしめた電極を接地せしめ、であるのに対し、刊行物に記載された発明では、電気接続では逆の関係、すなわち、交流高圧電源の出力端子と密封包装物の被検部に密接乃至近接対面せしめた電極(第1電極)とが接続されており、単一の電極である密封包装物の側面部の支持電極が接地されている点。

(相違点2)
本件方法3では、「交流高電圧のかかった電極による電界により密封包装物内の内容物に電気絶縁性被膜を介して帯電せしめ」、「該ピンホールを介してイオンの電荷を放電せしめ」との記載がなされているのに対し、刊行物には、そのような「帯電」とか「イオンの電荷」とかの記載がない点。

イ 相違点1について
刊行物に記載・図示された、交流高圧電源の出力端子と密封包装物の被検部に密接乃至近接対面せしめた電極(第1電極)とが接続されており、単一の電極である密封包装物の側面部の支持電極が接地されている回路は、交流電気回路的な観点からみて逆の関係(支持電極と交流高圧電源の出力端子とが接続され、被検部に密接乃至近接対面せしめた電極が接地されている回路)と等価であることは当業者にとって明らかであるから、単一の電極である密封包装物の側面部の支持電極と交流高圧電源の出力端子とを接続することに困難はなく、その際には、密接乃至近接対面せしめた電極(第1電極)は接地されるとともに、ピンホールの検知のために包装材表面の別の箇所に移動されるから、次の検知箇所において、「支持電極に交流高電圧がかかった後で、密封包装物の被検部に密接乃至近接対面せしめた電極を接地せしめ」となることは当業者が容易に理解でき、相違点1に係る本件方法3の構成を得ることは当業者にとって容易なことである。
また、密接乃至近接対面せしめた電極の移動を考えない場合でも、ピンホールを通じた放電電流の検知ができるのは交流高電圧がかかった後であることは明らかであるから、放電電流検知のための密接乃至近接対面せしめた電極の接地を放電電流の検知が可能となる時期(交流高電圧がかかった後)に限定することは当業者が容易になしうることである。

ウ 相違点2について
特許法第36条第4項および第6項違反での検討のとおり、「交流高電圧のかかった電極による電界により密封包装物内の内容物に電気絶縁性被膜を介して帯電せしめ」、「該ピンホールを介してイオンの電荷を放電せしめ」との記載には、技術常識上不明な点があるが、本件方法3でも刊行物に記載された発明においても、一方の電極が接地されている放電電流を検知する段階において、交流高圧電源→一方の電極→電気絶縁性被膜→密封包装物→他方の電極→検知装置→接地→交流高圧電源という閉回路が成立していることで変わりがなく、2つの電極に高電圧がかかれば電極間に強電界を生じて密封包装物に影響を及ぼすことでも変わりはないから、両者に起こっている現象に変わりはなく、相違点1に係る本件方法3の構成を当業者が容易に得ることができると、強電界による「帯電」や「イオン」を当業者が意識する、しないに拘わらず、自ずと相違点2も容易にできてしまうことである。

エ したがって、本件方法3は、刊行物に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。

[5]結論
以上のとおり、本件請求項1ないし4に係る発明は明確ではなく、また、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1ないし4に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないから、特許法第36条第4項及び第6項に規定する要件を満たしていない。
さらに、本件請求項3に係る発明は、刊行物に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるので、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-06-20 
結審通知日 2003-12-08 
審決日 2005-07-13 
出願番号 特願平11-162937
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (G01N)
P 1 8・ 537- WZ (G01N)
P 1 8・ 121- WZ (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 俊光  
特許庁審判長 渡部 利行
特許庁審判官 菊井 広行
長井 真一
水垣 親房
福島 浩司
発明の名称 密封包装物の検査方法  
代理人 藤田 邦彦  
代理人 福田 進  

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