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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06F
管理番号 1137669
審判番号 不服2005-24273  
総通号数 79 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2005-07-07 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-12-15 
確定日 2006-06-09 
事件の表示 特願2005-19491「電子通貨送受信端末装置」拒絶査定不服審判事件〔平成17年7月7日出願公開、特開2005-182839〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯、本願の請求項1に係る発明
本願は、平成13年4月27日に出願した特願平2001-131446号の一部を平成17年1月27日に新たな特許出願としたものであって、その請求項1に係る発明は、平成18年1月13日付の手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。
「【請求項1】
電子通貨を発行する電子通貨サーバと通信を行う公衆回線通信手段と、前記公衆回線通信手段を通じて前記電子通貨サーバとの間で電子通貨の取得者の認証処理をパスワードを用いて行う電子通貨取得認証手段と、前記電子通貨取得認証手段によって認証された前記取得者の電子通貨を前記公衆回線通信手段を通じて前記電子通貨サーバから取得する電子通貨取得手段と、前記電子通貨取得手段により取得する電子通貨の金額をあらかじめ設定された上限額以下に制限する取得金額制限手段と、前記電子通貨取得手段によって取得された電子通貨を記憶する電子通貨記憶手段と、当該電子通貨送受信端末装置を識別するための端末識別情報を記憶する端末識別情報保持手段と、電子通貨を支払うべき装置に表示するための前記端末識別情報を無線通信によって前記電子通貨を支払うべき装置に送信し、前記電子通貨記憶手段に記憶された電子通貨を用いて使用者による認証手続き無く前記電子通貨の支払い処理を電子通貨を支払うべき装置に対して無線通信によって行う決済装置通信手段とを備えた電子通貨送受信端末装置。」

2.引用例に記載された発明
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された特開平10-63721号公報(以下「引用例1」という。)には、以下(a)〜(d)の記載がある。
(a)「【特許請求の範囲】【請求項1】各種情報を記憶するとともに補填される金額的価値で取引を行うカードにおいて、上記カードの正当なカード保持者であるか否かを確認する確認手段と、この確認手段で正当なカード保持者であることが確認された際、補填される金額的価値を記憶する第1の記憶手段と、この第1の記憶手段に記憶された金額的価値を用いた1回の取引における金額制限値を記憶する第2の記憶手段と、上記確認手段で正当なカード保持者であることが確認された後、上記第2の記憶手段に記憶された金額制限値内で取引される累積取引額と累積取引回数とを記憶する第3の記憶手段と、この第3の記憶手段に記憶された累積取引額、または累積取引回数が予め定められた制限値を超えた際、または上記第2の記憶手段に記憶されている金額制限値を超える取引金額の際、上記確認手段で正当なカード保持者であるか否かを確認する制御を行う制御手段と、を具備したことを特徴とするカード。」
(b)「【0002】【従来の技術】例えば、プリペイドカードのような購入または与信の付与等によって金額的価値(以下バリュー)が補填されたカードでは、それを使用する人間が正当な持ち主であるかどうかの本人確認が行われない。【0003】上記のカードにバリューを付与する方法として、現金を支払って補填する方法とクレジットカードを使用して補填する方法とが考えられるが、クレジットカードを使用して補填する場合、補填にはクレジットカード発行会社の承認等を必要とする。【0004】しかしながら、本人確認を行わないで使用できるということは、そのカードを第3者が不正に使用することが可能であることを意味する。従ってそのカードに大量のバリューを補填することはリスクが高く、一度に補填できる額を小さくせざるを得ず、補填の回数が増える。」
(c)「【0005】【発明が解決しようとする課題】上記したように、クレジットカードを使用してカードに金額的価値(バリュー)を補填する方法において、本人確認を行わないで使用できるということはそのカードを第3者が不正に使用することが可能であることを意味し、そのカードに大量のバリューを補填することはリスクが高く、一度に補填できる額を小さくせざるを得ず、補填の回数が増え、その都度カード発行会社の承認が必要なため、補填に要する時間とコスト(通信費、手数料等)がかかってしまうという問題があった。【0006】そこで、この発明は、安全に大量の金額的価値をカードに補填することができ、しかも、補填回数を減らして通信コストの削減を図ることのできるカードとカード取引システムとカード補填方法とカード取引方法とを提供することを目的とする。」
(d)「【0015】【発明の実施の形態】以下、この発明の一実施の形態について図面を参照して説明する。図1は、この発明のカード取引システムに係るバリューカードシステムの概略構成を示すものである。このバリューカードシステムには、コンピュータ等で構成される1つのカード発行会社ホスト1に対して複数のバリュー補填用のコンピュータ2、複数の取引用コンピュータ3、複数のICカードCが存在する。【0016】このバリューカードシステムでは、ICカードCをバリュー補填用コンピュータ2に挿入してカード発行会社ホスト1に対してバリューの補填を要求し、バリューの補填されたICカードCを取引用コンピュータ3に挿入することによりオフラインでの取引が行われる。取引のデータは、一度、取引用コンピュータに蓄えられた後、しかるべきタイミングでカード発行会社ホスト1に一括して送られる。」
(e)「【0035】ステップ112で補填要求データを受付けたバリュー補填用コンピュータ2は、ステップ113で本人確認の要求を行い、ステップ114で本人確認データを受付けると、ステップ115で本人確認データの送信を行う。【0036】本人確認データを受付けたICカードCは、ステップ116で本人確認データのチェックを行い、結果を送信する。」
(f)「【0040】ステップ131でカード発行会社ホスト1からバリュー送信を受付けた場合、バリュー補填用コンピュータ2は、ICカードCへバリューを転送する。その後ステップ132でプリンタ24からのレシート出力とカード排出を行って処理を完了する。【0041】ステップ133でバリューを受付けたICカードCは、そのバリューをメモリ50内のバリュー51へ補填する。」
(g)「【0042】ステップ211で取引要求が通知され、ICカードCが挿入された取引用コンピュータ3は、ステップ212で取引金額を算出する。これは要求を受けた取引商品の価格を磁気ディスク38に格納されている商品データをもとに割り出し、合計額を算出する方法でも、キーボード36等の入力装置により入力された金額の合計額を算出する方法でも良い。取引金額算出後、ステップ213のように取引金額をICカードCに送信する。」
(h)「【0052】図6は、取引のうち取引処理を示すタイミングチャートである。ここではICカードC、取引用コンピュータ3、カード発行会社ホスト1が処理を行う。ステップ411でICカードCは、バリューを取引用コンピュータ3へ送信する。つまり、メモリ50内のバリュー51の値を取引額分減算するとともに、減算した値のバリューを送信する。」
(i)「【0055】ステップ421でバリューを受付けた取引用コンピュータ3は、ステップ422で取引処理を行う。つまり、取引用コンピュータ3は、取引データを作成してそれを磁気ディスク38に格納するとともに、対象となる商品の発注等を行う。その後、ステップ423でプリンタ34からレシートを発行し、カード排出を行って取引を完了する。」
上記(a)、(d)〜(i)のカードは、上記(c)のように、上記(b)の従来の金額的価値が補填されるカードの問題点を解決するために、累積取引額、または累積取引回数が予め定められた制限値を超えた際、または金額制限値を超える取引金額の際、正当なカード保持者であるか否かを確認する制御を行うものであるから、上記(b)の従来の金額的価値が補填されるカードにおいて、クレジットカードを利用してクレジット会社の承認を得て金額的価値を補填するのに、具体的態様として上記(a)、(d)〜(f)のように、ICカードで構成すること、金額的価値補填用装置との間でカードの正当なカード保持者であるか否かを確認すること、正当なカード保持者であることが確認された際に金額的価値補填用装置から補填される金額的価値を記憶手段に記憶することは自明のことであり、また、本人確認を行わないで使用するのに、具体的態様として上記(d)、(g)〜(i)のように、金額的価値を取引用装置へ送信することも自明のことである。
したがって、上記(a)〜(i)の記載及び図面の記載から、引用例1には、従来の技術として、
「金額的価値補填用装置と通信を行って金額的価値が補填され、補填された金額的価値で取引を行うICカードであって、
金額的価値補填用装置との間でカード保持者が正当なカード保持者であるか否かを確認し、
正当なカード保持者であることが確認されたとき、金額的価値補填用装置から金額的価値を受け取り、
受け取った金額的価値を補填される金額的価値として記憶手段に記憶し、
取引のとき、本人確認を行わないで、記憶装置に記憶された金額的価値から所定の金額的価値を取引用装置へ支払いとして送信するICカード」
の発明(以下「引用例1に記載された発明」という。)が記載されていると認められ、さらに、
取引のとき本人確認を行わない上記の従来の技術のICカードにおいては、一度に補填できる額を小さくせざるを得ないこと、すなわち、取引のとき本人確認を行わない引用例1に記載された発明においては、金額的価値補填用装置から受け取り、補填される金額的価値として記憶手段に記憶する金額的価値の額を小さくせざるを得ないこと
も記載されていると認められる。

同じく引用された特開2000-306003号公報(以下「引用例2」という。)には、発明の実施の形態の第1の実施形態の第1実施例として、「【0167】(第1実施例)図4は、電子バリュー活用システムの第1の実施形態としての電子バリュー購入システムに関する第1実施例を示すブロック構成図である。本実施例では、固定端末11はユーザ(以下、ユーザBと称す)が所有する自宅のSTBまたはPCであり、サーバ15は電子プリペイドカードを発行するための電子プリペイドカード発行サーバであり、ユーザBが固定端末11およびモバイル端末13を使用する場合を想定している。【0168】まず、ユーザBが固定端末11を用いて電子プリペイドカードをサーバ15に注文すると、サーバ15はこれに応答してユーザBの識別情報(以下、ユーザIDという)および固定端末11のID(以下、端末IDという)を要求する。ユーザBが固定端末11にユーザIDを入力して、該ユーザIDおよび端末IDをサーバ15に送信すると、サーバ15はこれらIDを検証する。サーバ15は、ユーザIDと端末IDとが予め第1のIDテーブル(図示せず)に登録された情報と一致すれば、第1のIDテーブルからユーザBが所有するモバイル端末13の電話番号を得て、該モバイル端末13に支払いを請求する。ユーザBがこれに応答してサーバ15と決済を行った後、サーバ15はモバイル端末13に電子プリペイドカードをダウンロードする。」と記載されている。
上記の記載において、サーバ15は、モバイル端末13の電話番号を得て、モバイル端末13に電子プリペイドカードを発行する代金の支払いを請求し、「ユーザBがこれに応答してサーバ15と決済を行った後、サーバ15はモバイル端末13に電子プリペイドカードをダウンロードする。」のであるから、ユーザBが電子プリペイドカードを発行する代金の支払い請求に応答してモバイル端末13によりサーバ15と決済を行うことは明らかであり、また、サーバ15とモバイル端末13との通信に公衆回線を利用することも明らかである。
したがって、上記の記載及び図面の記載から、引用例2には、
電子プリペイドカード購入システムにおいて、電子プリペイドカードを発行する装置としてサーバを用い、サーバとの決済が行われサーバから電子プリペイドカードがダウンロードされてユーザに利用される装置としてモバイル端末を用い、サーバとモバイル端末との通信に公衆回線を利用すること
が記載されていると認められる。

さらに、引用例2には、発明の実施の形態の第2の実施形態の第3実施例として、「【0234】(第3実施例)図29は、電子バリュー活用システムの第2の実施形態としての電子バリュー使用システムに関する第3実施例を示すブロック構成図である。」、「【0238】また、他の実施例として、固定端末11が特にコンビニ等の店舗に設置されたPOS端末であり、固定端末11cまたはモバイル端末13がサーバ15の公開鍵cを有し、サーバ15がユーザBの公開鍵bを有している場合、固定端末11を介してモバイル端末13とサーバ15との間でやりとりされる通信データをお互いの公開鍵で暗号化しても良い。」、「【0239】このように、本実施例によれば、固定端末11とモバイル端末13間、モバイル端末13と固定端末11c間は赤外線(IrDA)や近距離用無線(Bluetooth)等のローカル無線で通信を行うため、通信コストがかからない。」と記載され、同じく第2の実施形態の第7実施例として、「【0248】(第7実施例)図33は、電子バリュー活用システムの第2の実施形態としての電子バリュー使用システムに関する第7実施例を示すブロック構成図である。本実施例は、固定端末としてコンビニ等の店舗に設置されたPOS端末11dとユーザBが有するモバイル端末13とから構成されている。また、モバイル端末13には電子バリューとしての電子マネーが格納されている。【0249】本実施例では、ユーザBはサービスの対価として電子マネーによる支払いを、モバイル端末13を用いて行った後、レシートとしてPOS端末11dから清算に関する処理結果を受信する。」、「【0250】このように、本実施例によれば、モバイル端末13に正しく処理結果が送信されたかを確認してから、一連の処理を終了するため、より信頼性の高い電子バリュー活用システムを提供することができる。」と記載され、「【0251】以上のように、本実施形態の電子バリュー活用システム(電子バリュー使用システム)によれば、係員等に対して個人情報が記載された請求書やチケット等を提示したりする必要なく、電子バリューを利用した清算処理やサービスの受け取りを通信ネットワークを介して行うことができるため、利便性の高い決済/サービス提供システムを提供することができる。」と記載されている。
上記の第2の実施形態の第7実施例の「固定端末としてコンビニ等の店舗に設置されたPOS端末11dとユーザBが有するモバイル端末13と」の間の通信として、同じく第2の実施形態の第3実施例として記載された「固定端末11とモバイル端末13間は赤外線(IrDA)や近距離用無線(Bluetooth)等のローカル無線で通信を行う」ことは自明のことである。
したがって、上記の記載及び図面の記載から、引用例2には、
電子マネー使用システムにおいて、ユーザが有する電子マネーが格納されたモバイル端末が、電子マネーによる支払いを、コンビニ等の店舗に設置されたPOS端末との間の無線通信によって行うこと
も記載されていると認められる。

同じく引用された特開平11-203374号公報(以下「引用例3」という。)には、「【0003】例えば、商品の購入を行った場合には、電子マネー取扱装置により電子マネーカード中の現金情報にアクセスし、商品の代金に相当する現金情報を購入者の電子マネーカードから購入先の電子マネーカード等に移動して代金の支払いを行なう。電子マネーカードの残金が少なくなった場合には、電子マネー対応ATM、電子マネー対応電話等の電子マネー取扱装置を利用して、銀行の個人口座にアクセスし電子マネーの補充を行なう。また、現段階では、信頼性などの観点から電子マネーカードに多量の電子マネーを保持することを抑止する必要があり、電子マネー補充の際、各国ごとに定められた一定の限度額(以下、公定限度額という)の範囲内での運用を行なうための技術が用いられている。また、電子マネーカードの所有者レベルで個人限度額を区別する技術も、既に知られている。」、「【0010】本発明では、各個人(電子マネーカード所有者)が、限度と考える金額または頻繁に利用する金額(個人限度額)を電子マネーカードに設定しておくことにより、電子マネー補充操作時の操作性を向上させることが可能となり、また、予め個人限度額金額を設定してあるため、電子マネー補充操作時、補充金額を直接入力する必要がなく、入力間違いによる電子マネーの払出しすぎを防止することが可能となる。」と記載されている。
これらの記載及び図面の記載から、引用例3には、
電子マネー補充の際の限度額を電子マネーカードに設定しておくこと
が記載されていると認められる。

同じく引用された特開昭62-243452号公報(以下「引用例4」という。)には、「電話回線のデイジタル化等によって発信者の電話番号情報(以下、ID情報という。)を着信側に送付するサービスが実用化段階に来ており、このサービスを使用して電話機に発信者の電話番号を表示するようにすれば、着信側で発信者を確認して応答するか否かを決定できるため、前記いたずら電話等に対して有効である。」(1頁右下欄15行〜2頁左上欄2行)と記載されている。
この記載及び図面の記載から、引用例4には、
電話回線による通信において、着信側の電話機に発信側の電話機の電話番号を表示し確認できるようにすること
が記載されていると認められる。

同じく引用された特開2000-29960号公報(以下「引用例5」という。)には、「【0004】例えば、通信回線を利用した電子マネーの決済操作時に、…発信者の確認が困難であるといった問題があった。【0005】本発明の目的は、これらの問題点を解決し、電子マネー取引時の、通信相手の正確な情報の記録及び、表示を可能とした電子マネー取引方法を提供する物である。【0006】【課題を解決するための手段】本発明は、電話機能を有する装置と通信回線を接続及び切り離しを行う手段と、電話局から通信回線を通して通知される発信者情報(電話番号、発信者名等)を認識し、格納する手段と、それらの情報等を表示装置にて表示を行う手段と、電子マネーの制御を行う手段と、電子マネー制御装置と通信回線の接続及び切り離しを行う手段と、通信回線を利用し電子マネー決済が出来る手段を備えている。」、「【0012】その後、通信回線から発信者情報を受信すると、モデム部5により復調され、デジタルデータとして制御部4に送られ、制御部4は発信者の情報と認識し、表示部6にその内容を表示すると同時に、電子マネーの取引履歴の情報としてメモリ部7へ格納する。」と記載されている。
これらの記載及び図面の記載から、引用例5には、
通信回線を利用した電子マネー取引において、受信側装置に発信側装置の電話番号を表示し確認できるようにすること
が記載されていると認められる。

3.本願の請求項1に係る発明と引用例1に記載された発明との対比
本願の請求項1に係る発明(以下「前者」という。)と引用例1に記載された発明(以下「後者」という。)とを対比すると、
後者の「金額的価値」は、前者の「電子通貨」に相当し、
後者の「金額的価値補填用装置」は、前者の「電子通貨サーバ」と、「電子通貨発行装置」として共通し、
後者は、「金額的価値補填用装置と通信を行って金額的価値が補填され」るのであるから、そのための「通信手段」を備えることは明らかであり、該「通信手段」は、前者の「公衆回線通信手段」と、「通信手段」として共通し、
後者の「カード保持者」は、前者の「電子通貨の取得者」に相当し、
後者は、「金額的価値補填用装置との間でカード保持者が正当なカード保持者であるか否かを確認」するのであるから、そのための「確認手段」を備えることは明らかであり、該「確認手段」は、前者の「前記公衆回線通信手段を通じて前記電子通貨サーバとの間で電子通貨の取得者の認証処理をパスワードを用いて行う電子通貨取得認証手段」と、「通信手段を通じて電子通貨発行装置との間で電子通貨の取得者の認証処理を行う電子通貨取得認証手段」として共通し、
後者は、「正当なカード保持者であることが確認されたとき、金額的価値補填用装置から金額的価値を受け取」るのであるから、そのための「受け取り手段」を備えることは明らかであり、該「受け取り手段」は、前者の「前記電子通貨取得認証手段によって認証された前記取得者の電子通貨を前記公衆回線通信手段を通じて前記電子通貨サーバから取得する電子通貨取得手段」と、「電子通貨取得認証手段によって認証された取得者の電子通貨を通信手段を通じて電子通貨発行装置から取得する電子通貨取得手段」として共通し、
後者の「記憶手段」は、その機能からみて、前者の「前記電子通貨取得手段によって取得された電子通貨を記憶する電子通貨記憶手段」に相当し、
後者の「取引用装置」は、その機能からみて、前者の「電子通貨を支払うべき装置」に相当し、
後者は、「取引のとき、本人確認を行わないで、記憶装置に記憶された金額的価値から所定の金額的価値を取引用装置へ支払いとして送信する」のであるから、そのための「支払い通信手段」を備えることは明らかであり、該「支払い通信手段」は、前者の「前記電子通貨記憶手段に記憶された電子通貨を用いて使用者による認証手続き無く前記電子通貨の支払い処理を電子通貨を支払うべき装置に対して無線通信によって行う決済装置通信手段」と、「電子通貨記憶手段に記憶された電子通貨を用いて使用者による認証手続き無く電子通貨の支払い処理を電子通貨を支払うべき装置に対して通信によって行う決済装置通信手段」として共通し、
後者の「金額的価値補填用装置と通信を行って金額的価値が補填され、補填された金額的価値で取引を行うICカード」は、前者の「電子通貨送受信端末装置」と、「電子通貨送受信装置」として共通している。
したがって、両者は、
「電子通貨を発行する電子通貨発行装置と通信を行う通信手段と、前記通信手段を通じて前記電子通貨発行装置との間で電子通貨の取得者の認証処理を行う電子通貨取得認証手段と、前記電子通貨取得認証手段によって認証された前記取得者の電子通貨を前記通信手段を通じて前記電子通貨発行装置から取得する電子通貨取得手段と、前記電子通貨取得手段によって取得された電子通貨を記憶する電子通貨記憶手段と、前記電子通貨記憶手段に記憶された電子通貨を用いて使用者による認証手続き無く前記電子通貨の支払い処理を電子通貨を支払うべき装置に対して通信によって行う決済装置通信手段とを備えた電子通貨送受信装置。」
である点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点1]
前者は、電子通貨発行装置、通信手段、電子通貨送受信装置が各々電子通貨発行サーバ、公衆回線通信手段、電子通貨送受信端末装置であるのに対して、後者は、そのようなものではない点。
[相違点2]
前者は、電子通貨の取得者の認証処理をパスワードを用いて行うのに対して、後者は、パスワードを用いて行うのか否か不明である点。
[相違点3]
前者は、電子通貨取得手段により取得する電子通貨の金額をあらかじめ設定された上限額以下に制限する取得金額制限手段を備えるのに対して、後者は、そのような手段を備えていない点。
[相違点4]
前者は、決済装置通信手段の電子通貨を支払うべき装置との通信が無線通信であり、電子通貨送受信端末装置を識別するための端末識別情報を記憶する端末識別情報保持手段を備え、決済装置通信手段が電子通貨を支払うべき装置に表示するための端末識別情報を無線通信によって電子通貨を支払うべき装置に送信するものであるのに対して、後者は、そのようなものではない点。

4.当審の判断
[相違点1]について検討する。
引用例2に、電子通貨(電子プリペイドカード)購入システムにおいて、電子通貨発行装置(電子プリペイドカードを発行する装置)としてサーバを用い、電子通貨送受信装置(サーバとの決済が行われサーバから電子プリペイドカードがダウンロードされてユーザに利用される装置)としてモバイル端末装置を用い、サーバとモバイル端末装置との通信に公衆回線を利用することが記載されているから、後者において、電子通貨発行装置、通信手段、電子通貨送受信装置を各々電子通貨発行サーバ、公衆回線通信手段、電子通貨送受信端末装置とすることは、当業者が容易になし得たことである。
[相違点2]について検討する。
情報処理において、利用者の認証処理をパスワードを用いて行うことが慣用手段であるから、後者において、電子通貨の取得者の認証処理をパスワードを用いて行うようにすることは、当業者が格別に思考することなくなし得たことである。
[相違点3]について検討する。
引用例1に、本人確認を行わない後者において、電子通貨発行装置から取得し電子通貨記憶手段に記憶する電子通貨の額を小さくせざるを得ないことも記載され、引用例3に、電子マネー補充の際の限度額を電子マネーカードに設定しておくことが記載されているから、後者において、電子通貨取得手段により取得する電子通貨の金額をあらかじめ設定された上限額以下に制限する取得金額制限手段を設けるようにすることは、当業者が容易になし得たことである。
[相違点4]について検討する。
引用例2に、電子通貨(電子マネー)使用システムにおいて、電子通貨送受信端末装置(ユーザが有する電子マネーが格納されたモバイル端末)が、電子通貨の支払い処理(電子マネーによる支払い)を、電子通貨を支払うべき装置(コンビニ等の店舗に設置されたPOS端末)との間の無線通信によって行うことが記載されているから、後者において、決済装置通信手段の電子通貨を支払うべき装置との通信を無線通信とすることは、当業者が容易になし得たことである。
そして、引用例4に、電話回線による通信において、着信側の電話機に発信側の電話機の電話番号を表示し確認できるようにすることが記載されており、引用例5に、通信回線を利用した電子マネー取引において、受信側装置に発信側装置の電話番号を表示し確認できるようにすることが記載されており、また、特開平10-232967号公報に、「【0034】<顧客マネーカードによる入金処理>顧客が顧客マネーカード1に充填されている電子マネーを金融機関に開設している預貯金口座に移動する口座入金取引としての電子取引を図6,図7に示す電子取引のフローチャートにより説明する。」、「【0036】顧客マネーカード1がカード挿入返却口15aから挿入されると(S2)、…更にICカードリーダライタ15fによりICチップ33内に記憶されている各情報の読み取りを開始する(S3)。【0037】顧客マネーカード1から顧客情報が正常に読み取られ、ATM4とのセッションが確立されると(S4)、続けてホストコンピュータ6と通信回線5を介して接続され、その送信される顧客情報から預金元帳ファイル7a内の口座情報の検索が開始される(S5)。」、「【0039】顧客マネーカード1とエスクローカード3のMPU3e同志により相互に取引可能な顧客(ICカード)であることが所定のアルゴリズムにより確認されると(S7)、ホストコンピュータ6により記憶装置7内の預金元帳ファイル7aからの顧客口座情報がATM4に返信される。【0040】ATM4の主制御部26の指示により接客部18には図9に示すように顧客氏名や口座番号及び残高情報の表示がなされ、更に顧客マネーカード1内に記憶されている電子マネー残高情報や入金取引限度額などと共に入金金額の入力操作画面が表示される(S8)。【0041】この画面表示を確認し顧客は必要な入金金額を入力する(S9)。」と記載され、その図9に、ATMとのセッションが確立した顧客マネーカードのカード番号を電子マネー残高情報とともに表示するATMにおける表示例が記載されているように、通信において、通信の確立した相手方送信側装置の識別情報を受信側装置に表示し確認できるようにすることが周知の技術的事項であり、この周知の技術的事項が無線通信においても適用できることは自明のことである。
したがって、後者において、決済装置通信手段の電子通貨を支払うべき装置との通信を無線通信とした上で、通信の確立した電子通貨送受信装置の識別情報を電子通貨を支払うべき装置に表示し確認できるようにするようにして、電子通貨送受信端末装置を識別するための端末識別情報を記憶する端末識別情報保持手段を設け、決済装置通信手段を電子通貨を支払うべき装置に表示するための端末識別情報を無線通信によって電子通貨を支払うべき装置に送信するものとすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
審判請求人は、請求の理由において、「本願発明は、どの端末装置と電子通貨を支払うべき装置とが接続し、代金決済処理が行われようとしているのかを、端末装置の使用者等が識別することが可能となり、誤った代金決済の実行を防止することができるという効果を奏するものである。」(審判請求書を補正対象書類とする平成18年1月13日付の手続補正書4頁22〜24行)と主張し、本願明細書の発明の詳細な説明には、「【0030】また、電子通貨送受信端末と代金決済端末装置との間を無線通信によって行う場合、代金決済端末装置に近接して端末が複数存在した場合に、どの端末との間に通信が確立しているかを端末の使用者が確認することができ、誤った代金決済の実行を防止することができる。」と記載されている。
しかしながら、前者すなわち本願の請求項1に係る発明は、「電子通貨を支払うべき装置に表示するための前記端末識別情報を無線によって前記電子通貨を支払うべき装置に送信し、」と特定されたものであり、電子通貨を支払うべき装置に表示される端末識別情報を電子通貨送受信端末装置の使用者が確認することができる構成に限定されたものではない。
なお、仮に、本願の請求項1に係る発明が、電子通貨を支払うべき装置に表示される端末識別情報を電子通貨送受信端末装置の使用者が確認することができる構成に限定されたとしても、例えば、上記の特開平10-232967号公報に記載されているように、利用者所持装置と通信して所定の処理を行う処理装置において、通信の確立した利用者所持装置の識別情報を処理装置に表示し、当該利用者所持装置と通信が確立していることを利用者所持装置を所持する利用者が確認できるようにすることも周知のことであるから、後者において、上記のように限定された構成とすることも、当業者が容易に想到し得たことである。

そして、本願の請求項1に係る発明の効果も、引用例1〜3に記載された発明及び周知の技術的事項の効果から、当業者が容易に予測し得た程度のものである。

5.まとめ
以上のとおりであるので、本願の請求項1に係る発明は、引用例1〜3に記載された発明及び周知の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-03-29 
結審通知日 2006-04-12 
審決日 2006-04-25 
出願番号 特願2005-19491(P2005-19491)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 須田 勝巳伊藤 健太郎  
特許庁審判長 赤穂 隆雄
特許庁審判官 篠原 功一
山本 穂積
発明の名称 電子通貨送受信端末装置  
代理人 市川 利光  
代理人 橋本 公秀  
代理人 高松 猛  

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