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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  D02G
審判 全部申し立て 特39条先願  D02G
管理番号 1137788
異議申立番号 異議2003-70078  
総通号数 79 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1999-06-08 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-01-14 
確定日 2006-03-20 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3301535号「伸縮回復性に優れた混繊糸及びその織編物」の請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3301535号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3301535号は、平成9年11月14日に出願され、平成14年4月26日にその特許権の設定登録がされたものであって、これに対して東レ株式会社より平成15年1月14日付け特許異議申立書が提出され、平成16年9月15日付け取消理由通知書(以下、「本件取消理由通知書」という。)を発送したところ、同年12月21日付け手続補正書(方式)により補正された同年11月25日付け訂正請求書(以下、「本件請求書」という。)が提出されたが、本件取消理由通知書に示された取消理由を理由に、平成17年2月22日付けで「訂正を認める。特許第3301535号の請求項1及び2に係る特許を取り消す。」との結論の異議の決定がなされたものである。
これに対し、権利者は、この決定を不服として提訴し、知的財産高等裁判所は、これを平成17(行ケ)年第10410号事件として審理し、平成17年12月27日に「特許庁が異議2003-70078号事件について平成17年2月22日にした決定を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との主文の判決を言い渡し、この判決は確定したものである。

2.特許異議の申立ての概要
申立てにおける取消理由の概要は、以下のとおりのものと認める。

A.特許査定時における請求項1〜4に係る発明は、本件出願前に当業者が甲第1〜5号証に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものであるから、これら請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。(以下、「取消理由A」という。)
B.特許査定時における請求項1〜3に係る発明は、甲第6号証の出願に係る発明と同一であるから、これら請求項に係る特許は、特許法第39条第1項の規定に違反してされたものである。(以下、「取消理由B」という。)

甲第1号証:特開平2-307931号公報
甲第2号証:特開平3-828号公報
甲第3号証:特開平9-143827号公報
甲第4号証:特開昭52-5320号公報
甲第5号証:特開平9-195142号公報
甲第6号証:特許第3301534号公報

3.通知された取消理由
本件取消理由通知書に示された取消理由の概要は、「本件請求項1〜4に係る特許は、明細書の記載が不備な、特許法第36条第4項又は第6項の規定に違反した特許出願に対して、特許されたものであるから、取り消されるものである。」というものであって、この取消理由が妥当でないのは、「1」で述べた手続の経緯から明らかである。

4.本件請求書による訂正

4-1.訂正の内容
本件訂正は、以下の訂正事項a〜eからなるものと認める。

訂正事項a;特許請求の範囲の請求項1の記載につき、
「単繊維繊度が5デニール以下のポリエステル繊維と、単繊維繊度が10デニール以下のポリエステル系弾性繊維よりなる混繊糸であり、該ポリエステル繊維と該ポリエステル系弾性繊維の乾熱 160℃での収縮率差 (△SHD)が5%≦△SHD ≦30%であることを特徴とする伸縮回復性に優れた混繊糸。(ここで△SHDは芯糸と鞘糸の両者の乾熱 160℃収縮差(%) を示すものである。)」とあるのを、
「単繊維繊度が5デニール以下のポリエステル繊維と、単繊維繊度が10デニール以下のポリエステル系弾性繊維よりなる混繊糸であり、ポリエステル系弾性繊維がポリプロピレンテレフタレート繊維であり、該ポリエステル繊維と該ポリエステル系弾性繊維の乾熱 160℃での収縮率差 (△SHD)が5%≦△SHD ≦30%であることを特徴とする伸縮回復性に優れた混繊糸。(ここで△SHDは芯糸と鞘糸の両者の乾熱 160℃収縮率差(%) を示すものである。)」と訂正する。

訂正事項b;特許請求の範囲の請求項2及び3を削除する。

訂正事項c;特許請求の範囲の請求項4の記載につき、
「請求項1〜3のいずれかに記載された混繊糸を少なくとも一部として用いて製織もしくは製編した後、染色および仕上げ加工を施してなる織編物であり、織編物表面に前記ポリエステル繊維がループ状に突出するとともに、伸縮回復性に優れていることを特徴とする織編物。」とあるのを、
「請求項1に記載された混繊糸を少なくとも一部として用いて製織もしくは製編した後、染色および仕上げ加工を施してなる織編物であり、織編物表面に前記ポリエステル繊維がループ状に突出するとともに、伸縮回復性に優れていることを特徴とする織編物。」と訂正すると共に、これを請求項2の記載とする。

訂正事項d;明細書の段落【0004】の記載につき、
「・・・(決定注;「・・・」は記載の省略を示す。以下、同様。)。単繊維繊度が5デニール以下のポリエステル繊維と単繊維繊度が10デニール以下のポリエステル系弾性繊維よりなる混繊糸であり、該ポリエステル繊維と該ポリエステル系弾性繊維の乾熱 160℃での収縮率差 (△SHD)が5%≦△SHD ≦30%であることを特徴とする伸縮性混繊糸、(ここで△SHD は芯糸と鞘糸の両者の乾熱160℃収縮差(%) を示すものである。)ポリエステル系弾性繊維が、ポリプロピレンテレフタレート繊維である請求項1記載の伸縮回復性に優れた混繊糸、ポリエステル系弾性繊維が、ポリブチレンテレフタレート繊維である請求項1記載の伸縮回復性に優れた混繊糸、請求項1〜3のいずれかに記載された混繊糸を少なくとも一部として用いて製織もしくは製編した後、染色および仕上げ加工を施してなる織編物であり、織編物表面に前記ポリエステル繊維がループ状に突出するとともに、伸縮回復性に優れていることを特徴とする織編物である。」とあるのを、
「・・・。単繊維繊度が5デニール以下のポリエステル繊維と、単繊維繊度が10デニール以下のポリエステル系弾性繊維よりなる混繊糸であり、ポリエステル系弾性繊維がポリプロピレンテレフタレート繊維であり、該ポリエステル繊維と該ポリエステル系弾性繊維の乾熱 160℃での収縮率差 (△SHD)が5%≦△SHD ≦30%であることを特徴とする伸縮回復性に優れた混繊糸、(ここで△SHD は芯糸と鞘糸の両者の乾熱160℃収縮率差(%) を示すものである。)であり、さらに請求項1に記載された混繊糸を少なくとも一部として用いて製織もしくは製編した後、染色および仕上げ加工を施してなる織編物であり、織編物表面に前記ポリエステル繊維がループ状に突出するとともに、伸縮回復性に優れていることを特徴とする織編物である。」と訂正する。

訂正事項e;明細書の段落【0017】の記載につき、「実施例2・・・」とあるのを「参考例1・・・」と訂正する共に、段落【0021】に記載された【表1】中の「実施例2」を「参考例1」と訂正する。

4-2.適否の判断

4-2-1.訂正事項aについて
本訂正は、訂正前の請求項1に記載されていたポリエステル系弾性繊維につき、訂正前の請求項2に記載の事項を根拠に、これがポリプロピレンテレフタレート繊維であると技術的に限定すると共に、「収縮率差」の誤記であることが明らかな、訂正前の請求項1に記載されていた「収縮差」を正すものであるから、特許請求の範囲の減縮及び誤記の訂正を目的とするものといえ、また、願書に添付した明細書(以下、「訂正前明細書」という。)に記載された事項の範囲内においてしたものといえる。
また、本訂正が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるとする理由は見あたらない。

4-2-2.訂正事項bについて
本訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするもので、また、訂正前明細書に記載された事項の範囲内においてしたものといえるのは明らかである。
また、本訂正が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるとする理由は見あたらない。

4-2-3.訂正事項cについて
本訂正は、訂正事項bと整合を図るもので、明りょうでない記載の釈明を目的とするものといえ、また、訂正前明細書に記載された事項の範囲内においてしたものといえるのは明らかである。
また、本訂正が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるとする理由は見あたらない。

4-2-4.訂正事項d及びeについて
本訂正は、訂正事項a乃至cと整合を図るもので、明りょうでない記載の釈明を目的とするものといえ、また、訂正前明細書に記載された事項の範囲内においてしたものといえるのは明らかである。
また、本訂正が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるとする理由は見あたらない。

4-2-5.まとめ
本件訂正は、特許法120条の4第2項及び同条第3項において準用する同法第126条第2項から第4項までの記載に適合するので、認められるものである。

5.特許異議の申立てについての判断
申立てにおける取消理由の概要は、先に「2」で認定したとおりであるが、本件訂正が、先に「4」で述べたように、認められることから、取消理由A及びBについては、以下のものとして検討する。

a.訂正された請求項1、2に係る発明は、本件出願前に当業者が甲第1〜5号証に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものであるから、これら請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。(以下、「取消理由a」という。)
b.訂正された請求項1に係る発明は、甲第6号証の出願に係る発明と同一であるから、請求項1に係る特許は、特許法第39条第1項の規定に違反してされたものである。(以下、「取消理由b」という。)

甲第1号証:特開平2-307931号公報
甲第2号証:特開平3-828号公報
甲第3号証:特開平9-143827号公報
甲第4号証:特開昭52-5320号公報
甲第5号証:特開平9-195142号公報
甲第6号証:特許第3301534号公報

5-1.本件発明
請求項1、2に係る発明(以下、「本件発明1、2」という。)は、訂正された明細書の請求項1、2に記載のとおりのものと認める(「4-1」の訂正事項a及びcを参照。)。

5-2.取消理由aについて

5-2-1.甲第1〜5号証の記載
甲第1〜5号証には、以下の記載が認められる。

甲第1号証:特開平2-307931号公報
1ア);「2.特許請求の範囲
(1)糸物性が下記範囲を満足するポリエステルマルチフィラメントAと、該ポリエステルマルチフィラメントAとは異なるポリマー成分の熱可塑性合成繊維マルチフィラメントBから構成された複合糸条であって、該複合糸条は交絡度20〜100コ/mで絡合されていることを特徴とする織編物用潜在嵩高性熱可塑性合成繊維複合糸条。
ポリエステルマルチフィラメントA:単糸3デニール以下のマルチフィラメント(複合糸条中の含有率20〜80%〔デニール比率〕)
熱可塑性合成繊維マルチフィラメントB:破断強力が120g以上であるマルチフィラメント(複合糸条中の含有率:80〜20%〔デニール比率〕)
SHW(A)≧0% SHD(A)≦0%
SHW(B)≧0%
SHD(B)-SHD(A)≧5%
SHW:熱水(100℃)収縮率(%)
SHD:乾熱(160℃)収縮率(%)」
1イ);「第1図は、本発明の熱可塑性合成繊維複合糸条を熱処理して糸長差を発現せしめた後のモデル図である。第1図においてAは主として鞘部を構成するポリエステルマルチフィラメントであって、高温熱処理により実質的に伸長している(自発伸長後のマルチフィラメント)。Bは前記Aとは異なるポリマー成分の芯部を構成するマルチフィラメントであって、熱処理により収縮したマルチフィラメントである(熱収縮後のマルチフィラメント)。」(2頁左下欄11〜末行)及び第1図(9頁)
1ウ);「実施例1〜3、比較例1〜7
熱伸長ポリエステルマルチフィラメントとしてポリエチレンテレフタレートを常法で紡糸捲取速度3000m/minで延伸-リラックス後のデニール、DT、DE、SHW、SHDが第1表の物性になる如く、紡糸に吐出両、延伸倍率、リラックス率、リラックス温度、セット時間を変更して得た。また、熱可塑性合成繊維マルチフィラメントはカチオン染料可染ポリエステル(・・・)、常圧カチオン染料可染ポリエステル(・・・)及び6-ナイロンを使用し、第2図の延伸-リラックス機で加工した。ここでエアーノズル7は、ファイバーガイド社製エアージェット「G-1を使用し、目標の交絡度が得られる如くエアー圧、フィードローラー6とデリベリーローラー8の間フィード比を調整した。使用した原糸物性と得られた複合糸条の糸質および該糸条を用いて通常の方法で撚糸後デシンを製織し染色仕上した布帛の風合を判定した。また工程通過性として特に撚糸、捲返し、製織性について判定し、工程通過性、風合の色調の面から見た総合判定を第1表に記載した。」(6頁右下欄2行〜7頁左上欄11行)及び
熱伸長ポリエステルマルチフィラメントの「Den」の欄に、実施例1〜3に対応して「29」、「29」及び「29」と、また、「Fil」の欄に、同様に「18」、「18」及び「18」と記載され、また、熱収縮熱可塑性合成繊維マルチフィラメントの「Den」の欄に、実施例1〜3に対応して「73」、「48」及び「49」と、また、「Fil」の欄に、同様に「24」、「36」及び「34」と記載され、更に、「△SHD」の欄に、実施例1〜3に対応して「13」、「16」及び「10」と記載された第1表(8頁)
なお、上記「Den」、「Fil」及び「△SHD」は、第2表(8頁)欄外の記載及び甲第1号証全体の記載からして、それぞれ、「熱収縮熱可塑性合成繊維マルチフィラメントのトータルデニール」、「熱収縮熱可塑性合成繊維マルチフィラメントのフィラメント数」及び「SHD(B)-SHD(A)」を意味することは明らかである。
1エ);「実施例4,5
実施例4,5は、熱伸長ポリエステルマルチフィラメントとして、それぞれカチオン染料可染ポリエステル、および常圧カチオン染料可染ポリエステルを実施例1〜3と同様に紡糸-延伸-リラックスして、第2表のデニール、DE、SHW、SHDとなるマルチフィラメントとして、また、熱収縮成分として東洋紡(株)製東洋紡エステル(通常のポリエステル)を使用し、実施例1〜3と同様に複合糸条を得て、染色布帛の判定を行った結果を、第2表に示した。」(7頁右上欄下から3行〜左下欄8行)及び
熱伸長ポリエステルマルチフィラメントの「D」の欄に、実施例4及び5に対応して「29」及び「29」と、また、「Fil」の欄に、同様に「18」及び「18」と記載され、また、熱収縮ポリエステルマルチフィラメントの「D」の欄に、実施例4及び5に対応して「30」及び「30」と、また、「Fil」の欄に、同様に「18」及び「18」と記載され、更に、「△SHD」の欄に、実施例4及び5に対応して「22.0」及び「22.0」と記載された第2表(8頁)
なお、上記「D」、「Fil」及び「△SHD」は、第2表(8頁)欄外の記載及び甲第1号証全体の記載からして、それぞれ、「熱収縮ポリエステルマルチフィラメントのトータルデニール」、「熱収縮ポリエステルマルチフィラメントのフィラメント数」及び「SHD(B)-SHD(A)」を意味することは明らかである。

甲第2号証:特開平3-828号公報
2ア);「2.特許請求の範囲
(1)糸物性が下記範囲を満足するマルチフィラメント糸AおよびマルチフィラメントBから構成された複合糸条であって、該複合糸条は交絡度20〜100コ/mで絡合されていることを特徴とする織編物用潜在嵩高性ポリエステル複合糸条。
マルチフィラメントA:単糸3デニール以下のポリエステルマルチフィラメント(複合糸条中の含有率20〜80%〔デニール比率〕)
マルチフィラメントB:極限粘度が0.7以上、破断強度が6g/デニール以上であるポリエステルマルチフィラメント(複合糸条中の含有率80〜20%〔デニール比率〕)
SHW(A)≧0% SHD(A)≦0%
SHW(B)≧0%
SHD(B)-SHD(A)≧5%
SHW:熱水(100℃)収縮率(%)
SHD:乾熱(160℃)収縮率(%)」
2イ);「第1図は本発明のポリエステル複合糸条を熱処理して糸長差を発現せしめた後のモデル図である。第1図においてAは主として鞘部を構成するマルチフィラメントであって、高温熱処理により実質的に伸長している(自発伸長後のマルチフィラメント)。Bは芯部を構成するマルチフィラメントであって、熱処理により収縮したマルチフィラメントである(熱収縮後のマルチフィラメント)。」(2頁左下欄13〜末行)及び第1図(8頁)

甲第3号証:特開平9-143827号公報
3ア);「【特許請求の範囲】
【請求項1】 下記の糸物性を有するポリエステル系マルチフィラメントAとポリエステル系マルチフィラメントBとが、前者:20〜80%、後者80〜20%のデニール比率で複合されると共に、それらが交絡度20〜100個/mで絡合した複合糸からなることを特徴とするポリエステル系マルチフィラメント複合糸。
ポリエステル系マルチフィラメントA:
dpfA :3デニール以上、DEA :50%以上であり、且つSHWA :-3〜5%またはSHDA :-15〜0%、
ポリエステル系マルチフィラメントB:
dpfB :3デニール以上、DTB :3.5g/d以上、DEB :40%以下であり、且つSHWb :5〜60%またはSHDB :10〜80%、
但し、
dpfA およびdpfB は、ポリエステル系マルチフィラメントAおよびBの単繊維デニール、SHWA およびSHWB は、ポリエステル系マルチフィラメントAおよびBの熱水(100℃)収縮率(%)、SHDA およびSHDB は、ポリエステル系マルチフィラメントAおよびBの乾熱(160℃)収縮率(%)、DEA およびDEB は、ポリエステル系マルチフィラメントAおよびBの破断伸度(%)
DTB は、ポリエステル系マルチフィラメントBの破断強度(g/d)を夫々表わす。」
3イ);「【0015】即ち本発明においては、製織もしくは製編後の染色および仕上処理における熱水処理もしくは感熱処理時の熱による収縮率の差によってマルチフィラメントBを大きく収縮させ、収縮率の小さいマルチフィラメントAを織編物の表面にループ状に膨出させ、その結果として、織編物の状態ではたとえば図1に拡大して示す如く、マルチフィラメントBを芯としその周りにマルチフィラメントAがループを形成して鞘状に取り囲んだ状態とするものであり、そのためには、マルチフィラメントAの熱収縮率を相対的に小さく、マルチフィラメントBの熱収縮率Bを相対的に大きくすることが必須となる。反面、製織編前の段階で複合糸とを構成するマルチフィラメントA,Bの熱収縮率に差があり過ぎると、これらフィラメントの複合工程、撚糸セット工程、サイジング工程などでビーミング、ループや弛み等が発生してガイドやコーム等への引っ掛かりが起こって工程通過性を害する。従ってこうした工程通過性の劣化を招くことなく、染色および仕上処理後の織編物に前述の様な特性を与えるための要件として、マルチフィラメントA,Bの収縮率およびその好ましい差を前述の如く規定している。」及び【図1】(10頁)

甲第4号証:特開昭52-5320号公報
4ア);「2.特許請求の範囲
(1)テレフタル酸を主たる酸成分とし、トリメチレングリコールを主たるグリコール成分とするポリエステルから成り、10%伸長時の弾性回復率が90%以上、10%伸長時の仕事回復率が70%以上であることを特徴とするポリエステル繊維。」

甲第5号証:特開平9-195142号公報
5ア);「【特許請求の範囲】
【請求項1】 極限粘度が0.8以上のポリプロピレンテレフタレートを主たる構成成分とするポリエステルからなる糸条を芯糸とし,芯糸の周囲に鞘糸として化学繊維および/または天然繊維からなる糸条を配してなり,芯成分と鞘成分とが重量比で2/8〜8/2であることを特徴とする複合糸。」
5イ);「【0016】前記PPTを主成分とするポリエステルからなる芯糸の周囲に前記した鞘糸を配して本発明の複合糸を得る方法としては,1(決定注;下線数字は丸で囲まれた数字を意味する。以下、同様。)精紡機を用い,鞘糸の中心に芯糸を供給する方法,2仮撚機を用い,鞘糸をオーバーフィードする方法,3一般的なカバリング方法等が挙げられ,本発明の複合糸からなる織編物の用途に応じて適宜選択すればよい。」

5-2-2.本件発明1について

1-1)甲第1号証には、記載1ア)によれば、「糸物性が下記範囲を満足するポリエステルマルチフィラメントAと、該ポリエステルマルチフィラメントAとは異なるポリマー成分の熱可塑性合成繊維マルチフィラメントBから構成された複合糸条であって、該複合糸条は交絡度20〜100コ/mで絡合されている織編物用潜在嵩高性熱可塑性合成繊維複合糸条。 ポリエステルマルチフィラメントA:単糸3デニール以下のマルチフィラメント(複合糸条中の含有率20〜80%〔デニール比率〕) 熱可塑性合成繊維マルチフィラメントB:破断強力が120g以上であるマルチフィラメント(複合糸条中の含有率:80〜20%〔デニール比率〕) SHW(A)≧0% SHD(A)≦0% SHW(B)≧0% SHD(B)-SHD(A)≧5% SHW:熱水(100℃)収縮率(%) SHD:乾熱(160℃)収縮率(%)」についての発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められ、甲1発明が混繊糸であることは明らかである。
そして、甲1発明は、記載1イ)によれば、そのポリエステルマルチフィラメントAは熱処理後に主に鞘部となり、また、熱可塑性合成繊維マルチフィラメントBは熱処理後に主に芯部となり、いわゆる、芯鞘構造の糸になり得るものであることがうかがえ、そして、この芯鞘構造となるは、甲1発明が「SHD(B)-SHD(A)≧5%」と規定されていることからも明らかなように、これらマルチフィラメントの乾熱(160℃)収縮率(%)に差を有していることに起因していることがうかがえる。
また、記載1ウ)及び1エ)には、甲1発明の具体例として実施例1〜5が記載され、これらを見ると、ポリエステルマルチフィラメントAの単糸は、大凡、1.6デニールのものであり、また、熱可塑性合成繊維マルチフィラメントBの単糸は、大凡、1.3〜3.0デニールの範囲にあり、更に、SHD(B)-SHD(A)の値も10〜22.0%の範囲にあることがうかがえ、甲1発明は、これらの範囲にあるものを具体的に内包している発明であると認められる。

1-2)そこで、本件発明1と甲1発明とを対比すると、両者は、以下の点で相違しているものと認める。

混繊糸において、乾熱 160℃での収縮率差 (△SHD)が5%≦△SHD ≦30%である対象は、「本件発明1は、ポリエステル繊維とポリプロピレンテレフタレート繊維であるポリエステル系弾性繊維である」点(以下、「相違点a」という。)。

1-3)次に、相違点aについて検討する。
甲第4及び5号証には、ポリプロピレンテレフタレート繊維についての発明が記載されているので、これら甲号証について見ていくことにする。
まず、甲第5号証には、記載5ア)によれば、「極限粘度が0.8以上のポリプロピレンテレフタレートを主たる構成成分とするポリエステルからなる糸条を芯糸とし,芯糸の周囲に鞘糸として化学繊維および/または天然繊維からなる糸条を配してなり,芯成分と鞘成分とが重量比で2/8〜8/2である複合糸」についての発明(以下、「甲5発明」という。)が記載され、甲5発明は、いわゆる芯鞘構造の糸であると認められる。そこで、更に見てみると、甲第5号証には、記載5イ)が認められ、この記載によれば、この芯鞘構造の形成手段は、精紡機を用いて鞘糸の中心に芯糸を供給する方法や仮撚機を用いて鞘糸をオーバーフィードする方法であることが具体的に記載されている。
そこで、検討すると、甲1発明は、先に「1-1)」で述べたように、いわゆる芯鞘構造の糸になり得るものであるが、その構造は、ポリエステルマルチフィラメントAと熱可塑性合成繊維マルチフィラメントBの乾熱(160℃)収縮率(%)に差を有していることによるもので、甲5発明の芯鞘構造の形成手段とは異なるものであるから、甲第5号証を見ても、甲1発明におけるポリエステルマルチフィラメントA又は熱可塑性合成繊維マルチフィラメントBの、少なくとも一方をポリプロピレンテレフタレート繊維とすることが容易に為し得るとはいえない。
次に、甲第4号証について見てみると、ここには、記載4ア)によれば、「テレフタル酸を主たる酸成分とし、トリメチレングリコールを主たるグリコール成分とするポリエステルから成り、10%伸長時の弾性回復率が90%以上、10%伸長時の仕事回復率が70%以上であるポリエステル繊維」についての発明(以下、「甲4発明」という。)が記載され、甲4発明はポリプロピレンテレフタレート繊維についてのものであると認められるが、甲4発明は、その乾熱(160℃)収縮率(%)についての知見を示すものではないから、甲第4号証を見ても、甲1発明におけるポリエステルマルチフィラメントA又は熱可塑性合成繊維マルチフィラメントBの、少なくとも一方をポリプロピレンテレフタレート繊維とすることが容易に為し得るとはいえない。
したがって、相違点aは、甲第4及び5号証を見ても、容易に為し得るとはいえないし、ポリプロピレンテレフタレート繊維についての発明が記載されていない甲第2及び3号証を見ても同様である。

2-1)甲第2号証には、記載2ア)によれば、「糸物性が下記範囲を満足するマルチフィラメント糸AおよびマルチフィラメントBから構成された複合糸条であって、該複合糸条は交絡度20〜100コ/mで絡合されている織編物用潜在嵩高性ポリエステル複合糸条。 マルチフィラメントA:単糸3デニール以下のポリエステルマルチフィラメント(複合糸条中の含有率20〜80%〔デニール比率〕) マルチフィラメントB:極限粘度が0.7以上、破断強度が6g/デニール以上であるポリエステルマルチフィラメント(複合糸条中の含有率80〜20%〔デニール比率〕) SHW(A)≧0% SHD(A)≦0% SHW(B)≧0% SHD(B)-SHD(A)≧5% SHW:熱水(100℃)収縮率(%) SHD:乾熱(160℃)収縮率(%))」についての発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められ、甲2発明が混繊糸であることは明らかである。
そして、甲2発明において、記載2イ)によれば、マルチフィラメント糸Aは熱処理後に主に鞘部となり、また、マルチフィラメントBは熱処理後に主に芯部となり、芯鞘構造の糸になり得るものであることがうかがえ、そして、この芯鞘構造となるのは、甲2発明が「SHD(B)-SHD(A)≧5%」と規定されていることからも明らかなように、これらマルチフィラメントの乾熱(160℃)収縮率(%)に差を有していることに起因していることがうかがえることは、甲1発明と同様である。

2-2)そこで、本件発明1と甲2発明とを対比すると、両者は、少なくとも、以下の点で相違しているものと認める。

混繊糸において、乾熱 160℃での収縮率差 (△SHD)が5%≦△SHD である対象は、「本件発明1は、ポリエステル繊維とポリプロピレンテレフタレート繊維であるポリエステル系弾性繊維である」点(以下、「相違点b」という。)。

そして、相違点bについて検討すると、これが、甲第1、3〜5号証を見ても、容易に為し得るとはいえないのは、先に「1-3)」で述べた相違点aについての検討と同様である。

3-1)甲第3号証には、記載3ア)によれば、「下記の糸物性を有するポリエステル系マルチフィラメントAとポリエステル系マルチフィラメントBとが、前者:20〜80%、後者80〜20%のデニール比率で複合されると共に、それらが交絡度20〜100個/mで絡合した複合糸からなるポリエステル系マルチフィラメント複合糸。 ポリエステル系マルチフィラメントA:dpfA :3デニール以上、DEA :50%以上であり、且つSHWA :-3〜5%またはSHDA :-15〜0%、ポリエステル系マルチフィラメントB:dpfB :3デニール以上、DTB :3.5g/d以上、DEB :40%以下であり、且つSHWB :5〜60%またはSHDB :10〜80%、但し、dpfA およびdpfB は、ポリエステル系マルチフィラメントAおよびBの単繊維デニール、SHWA およびSHWB は、ポリエステル系マルチフィラメントAおよびBの熱水(100℃)収縮率(%)、SHDA およびSHDB は、ポリエステル系マルチフィラメントAおよびBの乾熱(160℃)収縮率(%)、DEA およびDEB は、ポリエステル系マルチフィラメントAおよびBの破断伸度(%) DTB は、ポリエステル系マルチフィラメントBの破断強度(g/d)を夫々表わす。」についての発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認められ、甲3発明が混繊糸であることは明らかである。
そして、甲3発明は、記載3イ)によれば、ポリエステル系マルチフィラメントAは熱的処理後に主に鞘部となり、また、ポリエステル系マルチフィラメントBは熱的処理後に主に芯部となり、芯鞘構造の糸になり得るものであることがうかがえ、そして、この芯鞘構造となるは、これらマルチフィラメントの熱水(100℃)収縮率(%)或いは乾熱(160℃)収縮率(%)に差を有していることに起因していることがうかがえる。

3-2)そこで、本件発明1と甲3発明とを対比すると両者は、少なくとも、以下の点で相違しているものと認める。

混繊糸において、乾熱 160℃での収縮率差 (△SHD)のある対象は、「本件発明1は、ポリエステル繊維とポリプロピレンテレフタレート繊維であるポリエステル系弾性繊維である」点(以下、「相違点c」という。)。

3-3)次に、相違点cについて検討する。
甲第5号証には、先に「1-3)」で述べたように、甲5発明が記載され、甲5発明は、芯鞘構造の糸であるが、その構造は、甲3発明の芯鞘構造の形成手段と異なるものであることは、これまで述べたことから明らかであって、甲第5号証を見ても、甲3発明におけるポリエステルマルチフィラメントAとポリエステル系マルチフィラメントBの、少なくとも一方をポリプロピレンテレフタレート繊維とすることが容易に為し得るとはいえない。
また、甲第4号証には、先に「1-3)」で述べたように、甲4発明が記載されているが、甲4発明は、その熱水(100℃)収縮率(%)や乾熱(160℃)収縮率(%)についての知見を示すものではないから、甲第4号証を見ても、甲3発明におけるポリエステルマルチフィラメントAとポリエステル系マルチフィラメントBの、少なくとも一方をポリプロピレンテレフタレート繊維とすることが容易に為し得るとはいえない。
したがって、相違点cは、甲第4及び5号証を見ても、容易に為し得るとはいえないし、甲第1及び2号証を見ても同様である。

4-1)以上をまとめると、本件発明1は、本件出願前に当業者が甲第1〜5号証に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。

5-2-3.本件発明2について
本件発明2は、本件発明1を用いた織編物についての発明であって、本件発明1が、「5-2-2.」で述べたように、本件出願前に当業者が甲第1〜5号証に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものといえない以上、本件発明2も容易に発明をすることができたものとはいえない。

5-2-4.まとめ
取消理由aに理由はない。

5-3.取消理由bについて

5-3-1.甲第6号証の出願に係る発明について
甲第6号証の出願、即ち、特願平9-310485号については、平成14年4月26日に特許第3301534号として設定登録がされたものであるが、異議の申立てがなされ、これは異議2003-70077号事件として審理され、平成17年2月22日付けで「訂正を認める。特許第3301534号の請求項に係る特許を取り消す。」との結論の異議の決定がなされ、該決定は確定したものである。
そして、上記特許についての発明(以下、「先願発明」という。)は、訂正された明細書の記載からして、その特許請求の範囲に記載のとおりのものと認める。特許請求の範囲の記載は、以下のとおりである。

「【特許請求の範囲】
【請求項1】 乾熱 160℃での熱収縮率(SHD) が0%以下、単繊維繊度が5デニール以下のポリエステル繊維と乾熱 160℃での熱収縮率(SHD) が30%以下、単繊維繊度が10デニール以下のポリエステル系弾性繊維よりなる混繊糸であり、ポリエステル系弾性繊維がポリプロピレンテレフタレート繊維であり、該ポリエステル繊維と該ポリエステル系弾性繊維の乾熱 160℃での収縮率差 (△SHD)が5%≦△SHD ≦30%であることを特徴とする伸縮回復性に優れた混繊糸。(ここで△SHD は芯糸と鞘糸の両者の乾熱 160℃収縮率差(%) を示すものである。)」

5-3-2.本件発明1について
本件発明1と先願発明とを対比すると、混繊糸を構成するポリエステル繊維につき、先願発明は、乾熱 160℃での熱収縮率(SHD) が0%以下と特定されているのに対し、本件発明1は、このように0%以下と特定されておらず、更に、同じく混繊糸を構成するポリエステル系弾性繊維につき、先願発明は、乾熱 160℃での熱収縮率(SHD) が30%以下と特定されているのに対し、本件発明1は、このように30%以下と特定されていない点で相違し、また、この点が実質的には相違しないとする理由は見当たらない。
してみると、本件発明1と先願発明とに相違点がある以上、両発明が同一であるとはいえないから、本件発明1は、甲第6号証の出願に係る発明と同一であるということはできない。

5-3-3.まとめ
取消理由bに理由はない。

6.むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件特許を取り消すことができない。
また、他に本件特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
伸縮回復性に優れた混繊糸及びその織編物
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】単繊維繊度が5デニール以下のポリエステル繊維と、単繊維繊度が10デニール以下のポリエステル系弾性繊維よりなる混繊糸であり、ポリエステル系弾性繊維がポリプロピレンテレフタレート繊維であり、該ポリエステル繊維と該ポリエステル系弾性繊維の乾熱160℃での収縮率差(△SHD)が5%≦△SHD≦30%であることを特徴とする伸縮回復性に優れた混繊糸。(ここで△SHDは芯糸と鞘糸の両者の乾熱160℃収縮率差(%)を示すものである。)
【請求項2】請求項1に記載された混繊糸を少なくとも一部として用いて製織もしくは製編した後、染色および仕上げ加工を施してなる織編物であり、織編物表面に前記ポリエステル繊維がループ状に突出するとともに、伸縮回復性に優れていることを特徴とする織編物。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はポリエステル系繊維からなる混繊糸であり、織物あるいは編物に加工したのち、通常の染色・仕上げ加工を施すことにより、構成繊維間の熱収縮率の差と構成繊維間の弾性率などの差などが起因し、ふくらみに優れしかも優れた伸縮回復性を有する、新規な風合いを有する織編物である。
【0002】
【従来の技術】従来よりポリエステル繊維を用いた織編物、特に婦人用薄地から中肉、厚地に至る分野で主に異収縮混繊糸を用いた織編物が多数上市されている。これらの商品はその熱収縮差を利用して織編物にふくらみ感、ソフト感を付与し、更にアルカリ減量加工を組み合わせることによって繊維間および組織に空隙を付与するなどいわゆるルーズ化を行い、シルキー風合いを実現させてきた。しかしながら、これらの開示されている手法では風合い、染色性などが単調で、変化に乏しいものとなりがちである。また高熱収縮糸と低熱収縮糸を混繊した公知の混繊糸はほぼ同じ特性や単糸デニールを持ったフィラメントを複合したものであり、そのためそれから得られる織編物は均整で単調な外観とタッチを有するものになっている。また、これらの織編物、特に織物は伸縮性が不足し、それが起因して、縫いにくい、仕立て映えがしないといった縫製上の問題もあった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明は優れた伸縮回復性と新規な風合いを有する混繊糸およびその織編物に関するものであり、さらに詳しくは、染色加工時の湿熱処理及び乾熱処理によって構成繊維間の熱収縮差を発現させ、これが起因しポリエステル織編物特有のヌメリ感を感じさせることなく、適度なふくらみ感(嵩高性)、ソフト感、かつ芯部を構成することになるポリエステル系弾性繊維による優れた伸縮回復性を有する新規風合い織編物に加工し得る混繊糸およびその織編物を提供することを課題とするものである。
【0004】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するための手段、即ち本発明は、以下の構成よりなる。単繊維繊度が5デニール以下のポリエステル繊維と、単繊維繊度が10デニール以下のポリエステル系弾性繊維よりなる混繊糸であり、ポリエステル系弾性繊維がポリプロピレンテレフタレート繊維であり、該ポリエステル繊維と該ポリエステル系弾性繊維の乾熱160℃での収縮率差(△SHD)が5%≦△SHD≦30%であることを特徴とする伸縮回復性に優れた混繊糸、(ここで△SHDは芯糸と鞘糸の両者の乾熱160℃収縮率差(%)を示すものである。)であり、さらに請求項1に記載された混繊糸を少なくとも一部として用いて製織もしくは製編した後、染色および仕上げ加工を施してなる織編物であり、織編物表面に前記ポリエステル繊維がループ状に突出するとともに、伸縮回復性に優れていることを特徴とする織編物である。
【0005】
【発明の実施の形態】本発明の伸縮性混繊糸の構成繊維の一つである乾熱160℃での熱収縮率(SHD)が0%以下、単繊維繊度が5デニール以下のポリエステル繊維を得るに際しては重合体としてエチレンテレフタレート単位を少なくとも85モル%含む固有粘度[η]が、0.45〜0.7cc/gのポリエステルを使用し、溶融紡糸法によってポリエステル繊維を得るのもであるが、15モル%を超過しない範囲でテレフタル酸、フタル酸、イソフタル酸、1、4-ナフタレンジカルボン酸、5-ナトリウムスフホイソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸成分とエチレングリコール、1、3-プロパンジオール、1、4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール等のグリコール成分を組み合わせてなるエステル形成性誘導体をその共重合成分として含むものであっても構わない。また必要に応じて二酸化チタンや硫酸バリウム、カオリナイト、二酸化珪素等の無機微粒子や顔料、その他添加剤を混入させたポリエステルであってもよい。
【0006】使用するポリエステルはエチレンテレフタレート単位を少なくとも85モル%以上含む固有粘度[η]が、0.45〜0.7cc/gのものであることが必要であり、エチレンテレフタレート成分が85モル%未満では溶融紡糸に於ける曳糸性が悪化する他、布はくに加工する際のアルカリ減量によってアルカリ加水分解作用を選択的に強く受けてしまい、脆化の程度が著しく、布はくは実用に耐え得る強力を保持するものにはなり得ない。
【0007】また、本発明の混繊糸のもう一つの構成繊維である単繊維繊度が10デニール以下のポリエステル系弾性繊維は、ポリエステル系弾性糸であることが必要である。好ましくは、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートが好適である。本発明におけるポリプロピレンテレフタレートとは、テレフタル酸を主たるジカルボン酸成分とし、トリメチレングリコールを主たるグリコール成分とするポリエステルであり、トリメチレンテレフタレート単位を主たる繰り返し単位とするものであって、その特性を損なわない範囲でエチレングリコール、ブタンジオール等のグリコール、イソフタル酸、2、6-ナフタレンジカルボン酸等を通常10モル%以下共重合していてもよいものである。また、本発明におけるポリブチレンテレフタレートとは、テレフタル酸を主たる酸成分とし、テトラメチレングリコールを主たるグリコール成分とするポリエステルであり、テトラメチレンテレフタレート単位を主たる繰り返し単位とするものであって、その特性を損なわない範囲でエチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール、イソフタル酸、2、6-ナフタレンジカルボン酸等を通常10モル%以下共重合していてもよいものである。なお、本発明で述べたポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートは、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート中に、その物性を損なわない範囲だ、紫外線吸収剤、酸化防止剤、難燃剤等の改質剤を含んでも良い。
【0008】これらのポリエステル系弾性繊維を本発明の構成糸に用いることで伸縮性を確保することができる。特に、ポリプロピレンテレフタレートは10%〜20%程度の伸長回復時の伸縮回復性に優れるなどの特徴を有するため、好適である。また常圧染色が可能なことで各種の共重合ポリエステルとの組合せが可能となる。該ポリエステル繊維と該ポリエステル系弾性繊維の収縮率差(△SHD)が重要であり、これらの繊維間の熱収縮率差に起因する糸長差がループとなり新規な風合いを創出させる一つの要素である。その際の収縮率差(△SHD)は5%≦△SHD≦30%が良い。△SHDが5%以下ではループの発現が不十分であり、逆に△SHDが30%以上ではふかつきが発生するため好ましくない。該ポリエステル繊維の収縮率(SHD)は、上記の収縮率差を保持しつつ、小さいほうが好ましい。自発伸張する性能を有する繊維はさらに好ましい。
【0009】また、繊維の断面形状も風合い及び外観などに影響を及ぼす。断面形状の例としては、三角形状、中空丸形状、複数の突起を有する形状など、その目的にあったものを選択することが重要である。本発明の伸縮性混繊糸の総デニールについては特に限定されるものではないが一般衣料用途を考慮し大凡30〜300デニールの範囲内でその風合いや用途に応じて適宜選定することができる。また、該ポリエステル繊維と該ポリエステル系弾性繊維の構成比は重量比として、30/70〜70/30より好適には40/60〜60/40が望ましい。
【0010】該ポリエステル繊維の単糸デニールの好適な範囲としては、2デニール〜10デニールであり、該ポリエステル系弾性繊維の単糸デニールの好適な範囲としては、0.3デニール〜5デニールである。勿論これらもなんら限定されるものではなく、風合いや用途等に応じて適宜組み合わせを考慮するとよい。本発明の該ポリエステル繊維の製造方法については、エチレンテレフタレート単位を少なくとも85モル%含むポリエステルを用い、紡糸を行う。例えば、2000〜4000m/minの範囲の紡糸速度で溶融紡糸したポリエステル未延伸糸を延伸する方法が挙げられる。
【0011】本発明の該ポリエステル系弾性繊維、好ましくは、ポリプロピレンテレフタレートあるいはポリブチレンテレフタレート繊維は、ポリプロピレンテレフタレートあるいはポリブチレンテレフタレートを出発原料とし、それを通常設定しうる条件を選んで紡糸、延伸することにより、伸長回復性に優れていて、かつ適度な曲げ剛性も有しており、本発明における糸を構成するフィラメントとして適しているものを容易に製造することができる。
【0012】更に本発明の伸縮回復性に優れた混繊糸はポリエステル繊維とポリエステル系弾性繊維を組み合わせてなるものであるが、該混繊には常温の高圧空気流を使用した公知のエアー交絡ノズルを使用することができる。高圧空気の圧力は処理する糸条の走行速度、エアー交絡ノズルの種類、糸条の総デニール、フィラメント本数等によって適宜選定することが必要となるが大凡2〜6kg/cm2の範囲での使用が望ましい。混繊糸の交絡度は20〜100ヶ/mの範囲が好ましい。
【0013】本発明の伸縮回復性にすぐれた混繊糸はそのまま、あるいは公知の撚糸機を用いて施撚した後、織編物構造物に製織編された後、通常の染色加工を施される。この染色加工工程における乾熱処理、湿熱処理によって鞘部を構成するポリエステル繊維は糸長差が起因し、ふくらみ感に富み、ソフト感を有する新規な風合いを示し、かつポリエステル系弾性繊維の寄与で伸縮回復性に富む織物あるいは編物とすることができる。
【0014】
【実施例】以下、実施例によって本発明を具体的に説明する。勿論、本発明は以下の実施例になんら限定されるものではない。尚、本文中および実施例記載の各物性値は以下の測定方法によるものである。
(a)相対粘度p-クロロフェノールとテトラクロロエタンからなる比で3:1の混合溶媒を用い、30℃で測定した。溶液濃度は0.4g/dlである。
(b)160℃乾熱収縮率SHD(%)試料に1/30(g/d)の荷重を掛け、その長さL3(mm)を測定する。ついでその荷重を取り除き、試料を乾燥機に入れ乾熱160℃で30分間乾燥する。乾燥後冷却し、再度1/30(g/d)の荷重を掛け、その長さL4(mm)を測定する。上記L3,L4を下記式に代入し、乾熱収縮SHDを求める。尚、測定回数5回の平均値をもってその測定値とする。
SHD(%)=(L3-L4)/L3×100
【0015】実施例1
相対粘度が、1.45であるポリエチレンテレフタレートセミダルレジンを使用し通常の溶融紡糸法によって紡糸速度3300m/minで巻き取り未延伸糸110デニール48フィラメントを得た。該未延伸糸を延伸倍率1.6倍の条件で延伸処理を施した。該糸の乾熱収縮率SHDは6%であった。一方、相対粘度が1.39であるポリプロピレンテレフタレートを、通常の溶融紡糸によって、紡糸速度1300m/minで一旦巻き取り、2.8倍に延伸、熱セットして、160℃乾熱収縮率SHD20%の延伸糸75デニール12フィラメントを得た。該ポリエステル延伸糸とポリプロピレンテレフタレート延伸糸をエアー交絡ノズルを使用し、常温の高圧空気流にて混繊交絡処理を施し、混繊糸を得た。該交絡処理された混繊糸の交絡数Diは46ヶ/mであり取り扱い性には支障のないものであった。
【0016】該混繊糸を村田機械社製ダブルツイスターNo310にて撚糸した後、生機密度が経119本/in、緯83本/inのツイル組織に製織した。製織した織物を精錬、リラックス処理した後、液流染色機を使用し減量率として17%のアルカリ減量加工を施した後、引き続き液流染色機を使用し分散染料によって染色加工を施し、通常のファイナルセットを行い、最終的に仕上げ密度が経136本/in、緯95本/inの染色加工布を得た。走査型電子顕微鏡にて該布の表面状態を観察したところ、ポリエステル繊維の微細なループ状形態を多数形成しており、該布の表面は該ループ状形態によってほぼ覆われていることが確認された。該布は適度なふくらみ感(嵩高性)、ソフト感、を有するものとなっていた。また、伸長回復性に優れるものであった。伸長回復性などの特性値を表1に示す。
【0017】参考例1
相対粘度が、1.45であるポリエチレンテレフタレートセミダルレジンを使用し通常の溶融紡糸法によって紡糸速度3300m/minで巻き取り未延伸糸110デニール48フィラメントを得た。該未延伸糸を延伸倍率1.6倍で延伸処理を施した。該処理糸の乾熱収縮率SHDは6%であった。一方、相対粘度が1.56であるポリブチレンテレフタレートを、通常の溶融紡糸によって、紡糸速度1300m/minで一旦巻き取り、2.6倍に延伸、熱セットして、160℃乾熱収縮率SHD19%の延伸糸75デニール12フィラメントを得た。該処理後のポリエステル延伸糸とポリブチレンテレフタレート延伸糸をエアー交絡ノズルを使用し、常温の高圧空気流にて混繊交絡処理を施し、混繊糸を得た。該交絡処理された混繊糸の交絡数Diは47ヶ/mであり取り扱い性には支障のないものであった。
【0018】該混繊糸を村田機械社製ダブルツイスターNo310にて撚糸した後、生機密度が経120本/in、緯84本/inのツイル組織に製織した。製織した布はくを精錬、リラックス処理した後、液流染色機を使用し減量率として15%のアルカリ減量加工を施した後、引き続き液流染色機を使用し分散染料によって染色加工を施し、通常のファイナルセットを行い、最終的に仕上げ密度が経137本/in、緯96本/inの染色加工布を得た。走査型電子顕微鏡にて該布の表面状態を観察したところ、ポリエステル繊維が微細なループ状形態を多数形成しており、該布の表面は該ループ状形態によってほぼ覆われていることが確認された。該布は適度なふくらみ感(嵩高性)、ソフト感、を有するものとなっていた。また、伸長回復性に優れるものであった。伸長回復性などの特性値を表1に示す。
【0019】比較例1
実施例1に記載したポリエステル繊維を実施例1と同じように混繊糸の構成繊維として用い、同時に下記に示すポリエステル繊維を用い混繊糸を得た。相対粘度が、1.45であるポリエチレンテレフタレートセミダルレジンを使用し通常の溶融紡糸法によって紡糸速度1100m/minで一旦巻き取り、3.7倍に延伸することにより、収縮率19%,75デニール12フィラメントの延伸糸を得た。これら2種類の繊維を実施例1と同じエアー交絡ズルを使用し、常温の高圧空気流にて混繊交絡処理を施し、混繊糸を得た。該交絡処理された混繊糸の交絡数Diは51ヶ/mであり取り扱い性には支障のないものであった。
【0020】該混繊糸を村田機械社製ダブルツイスターNo310にて撚糸した後、生機密度が経122本/in、緯85本/inのツイル組織に製織した。製織した布はくを精錬、リラックス処理した後、液流染色機を使用し減量率として20%のアルカリ減量加工を施した後、引き続き液流染色機を使用し分散染料によって染色加工を施し、通常のファイナルセットを行い、最終的に仕上げ密度が経138本/in、緯97本/inの染色加工布を得た。走査型電子顕微鏡にて該布の表面状態を観察したところ、該処理された延伸糸はループ状形態を形成して風合い的にはそこそこであったが、全体的に風合いに面白味がなく、伸縮回復性に欠けるものであった。伸縮回復性などの特性値を表1に示す。
【0021】
【表1】

*1 混繊糸を構成するポリプロピレンテレフタレート繊維の10%伸長時の回復率を示す。
*2,*3 織物の評価結果。測定法は、官能検査により、良好を○、悪いを×とした。評価は8人で実施し、最も多く評価された段階値で示した。
【0022】
【発明の効果】上述のごとく構成された本発明に係わる伸縮回復性に優れた混繊糸は布はく構造物として製織編した後、通常の染色加工を施すことによって、ポリエステル繊維がループ発現することによって微細なループを多数形成し、該ループが布はく構造表面を覆い、好適な、適度のふくらみ感、ソフト感、を有する。また、ポリエステル系弾性繊維によって、伸縮回復性を付与され、これらの特性が相まってスポーツ用などの衣料などの用途に好適な素材となる。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2006-03-01 
出願番号 特願平9-313304
審決分類 P 1 651・ 121- YA (D02G)
P 1 651・ 4- YA (D02G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 佐野 健治  
特許庁審判長 鈴木 由紀夫
特許庁審判官 石井 克彦
鴨野 研一
登録日 2002-04-26 
登録番号 特許第3301535号(P3301535)
権利者 東洋紡績株式会社
発明の名称 伸縮回復性に優れた混繊糸及びその織編物  
代理人 柿澤 紀世雄  
代理人 柿澤 紀世雄  

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